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特許7528917蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20240730BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20240730BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20240730BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20240730BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20240730BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20240730BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H01M4/134
C01B33/02 Z
H01G11/26
H01G11/30
H01G11/86
H01M4/1395
H01M4/38 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021209283
(22)【出願日】2021-12-23
(65)【公開番号】P2023094056
(43)【公開日】2023-07-05
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 秀之
(72)【発明者】
【氏名】松原 賢東
(72)【発明者】
【氏名】門浦 弘明
(72)【発明者】
【氏名】川浦 宏之
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/194794(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109671940(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/84
H01M 10/00 -10/39
H01G 11/00 -11/86
C01B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiとAlとを少なくとも含み、酸素や不可避的不純物を除き、Si及びAlの全体を100at%としたときに、Siを85at%以上99.5at%以下の範囲で含み、空隙を有し板状の一体形状を有する多孔質シリコン材料を電極活物質として有
結着材を含まない、蓄電デバイス用電極。
【請求項2】
前記多孔質シリコン材料は、Si及びAlの全体を100at%としたときにSiを98at%以上の範囲で含む、請求項1に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項3】
空隙率が10体積%以上50体積%以下の範囲である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項4】
前記多孔質シリコン材料の板状体は、その一面に集電体が圧着又は蒸着されている、請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項5】
前記多孔質シリコン材料の板状体は、その厚さが10μm以上50μm以下の範囲である、請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用電極。
【請求項6】
正極活物質を含む正極と、
請求項1~のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用電極である負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【請求項7】
SiとAlとを少なくとも含み、SiとAlとの全体を100at%としたときに、Alを20at%を超え70at%未満の範囲で含み残部をSiとする原料を溶融し急冷凝固させ結着材を含まない板状のシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して酸素や不可避的不純物を除き、Si及びAlの全体を100at%としたときに、Siを85at%以上99.5at%以下の範囲で含む結着材を含まない板状の形状を有する多孔質シリコン材料を蓄電デバイス用電極の一部として得る電極化工程と、
を含む蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項8】
前記前駆体工程では、酸素除去材を含む減圧状態のチャンバー内で冷却ロールに前記原料を溶融した融液を噴射して冷却し前記板状の前駆体を得る、請求項に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体工程では、厚さが10μm以上50μm以下の範囲の板状の前駆体を得る、請求項又はに記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項10】
前記電極化工程では、酸又はアルカリによってAl成分を選択的に除去する、請求項のいずれか1項に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項11】
前記電極化工程では、前記板状の多孔質シリコン材料の少なくとも一面に集電体を圧着又は蒸着する処理を行う、請求項10のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンの負極材料としては、50質量%以上の第1元素であるAlと50質量%以下のSiとを含むシリコン合金を溶解して粒子化する粒子化工程と、シリコン合金中の第1元素を除去して多孔質シリコン粒子を得る多孔化工程と、を含む製造方法より得られる多孔質シリコン粒子が提案されている(例えば、特許文献1など参照)。この多孔質シリコン粒子は、平均粒径が0.1μm以上100μm以下の範囲であり、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、平均空隙率が50体積%以上95体積%以下の範囲であり、酸素を除く元素の比率でSiを85質量% 以上含み、Alを15質量%以下の範囲で含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-123517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の多孔質シリコン粒子では、比較的微細な粒子で空隙率が高く、電極にする際の塗工が困難であった。また、この多孔質シリコン粒子では、導電材や結着材などを要し、エネルギー密度などがより低下するなど、課題があった。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、エネルギー密度をより高めることができる蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、AlとSiとを少なくとも含むシリコン合金を熔融し、板状に急冷したのちAlを含む化合物を除去すると、結着材を用いずに平板状の多孔質シリコン材料を電極にすることができることを見いだし、本開示の蓄電デバイス用電極、蓄電デバイス及び蓄電デバイス用電極の製造方法を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の蓄電デバイス用電極は、
SiとAlとを少なくとも含み空隙を有し板状の一体形状を有する多孔質シリコン材料を電極活物質として有するものである。
【0008】
本開示の蓄電デバイスは、
正極活物質を含む正極と、
上述に記載の蓄電デバイス用電極である負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0009】
本開示の蓄電デバイス用電極の製造方法は、
SiとAlとを少なくとも含み、SiとAlとの全体を100at%としたときに、Alを20at%を超え70at%未満の範囲で含み残部をSiとする原料を溶融し急冷凝固させ板状のシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して板状の形状を有する多孔質シリコン材料を蓄電デバイス用電極の一部として得る電極化工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、Siを含む材料において、エネルギー密度をより高めることができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、本開示の製造方法によれば、シリコンおよびアルミニウム合金からアルミニウムを選択的に溶解して、細孔サイズが小さく、空隙率の大きい多孔質シリコンを生産できる。また、本開示により得られた多孔質シリコン材料は、自立膜であるため、導電材や結着材を添加することなく、そのまま電極として用いることができる。それ故、エネルギー密度の高い電極の提供が可能になる。また、構成シリコンのサイズと混合比率の最適化により、リチウムイオン電池に用いた場合、体積の膨張・収縮が緩和され、サイクル特性が向上するので、性能の高い蓄電デバイスを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図。
図2】Al-Si二元系状態図。
図3】単ロール急冷装置の一例を示す説明図。
図4】実験例3の多孔質シリコン材料の評価結果。
図5】実験例7の多孔質シリコン材料の評価結果。
図6】実験例3の電極の評価結果。
図7】実験例4の電極の評価結果。
図8】集電体を形成した電極の外観写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(蓄電デバイス用電極)
本開示の蓄電デバイス用電極は、SiとAlとを少なくとも含み空隙を有し板状の一体形状を有する多孔質シリコン材料を電極活物質として有するものである。更にまた、蓄電デバイス用電極は、一体物であり、結着材を含まないものとしてもよい。この電極は、電極活物質の電位に対して対極の電位に基づいて正極又は負極のいずれかとなるが、リチウムをキャリアとする場合、負極とすることが好ましい。この電極は、例えば、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などに利用することができる。多孔質シリコン材料は、空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを含み、この骨格状シリコンの内部又は外部にAlが存在するものとしてもよい。
【0013】
多孔質シリコン材料は、水銀圧入法で求めた細孔径の分布範囲が1nm以上500nm以下の範囲であるものとしてもよい。この細孔径は、10nm以上としてもよいし、50nm以上としてもよいし、100nm以上としてもよい。また、この細孔径は、250nm以下が好ましく、200nm以下としてもよいし、150nm以下としてもよい。この多孔質シリコン材料において、水銀圧入法で求めた平均細孔径は、5nm以上500nm以下の範囲としてもよいし、10nm以上250nm以下の範囲としてもよい。
【0014】
多孔質シリコン材料は、空隙率が10体積%以上50体積%以下の範囲であるものとしてもよい。この空隙率は、40体積%以下であることが好ましく、35体積%以下であることがより好ましく、30体積%以下としてもよい。また、空隙率は、15体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましく、25体積%以上としてもよい。この空隙率は、シリコンの体積変化の観点からはより大きいことが好ましく、蓄電デバイスの充放電容量の観点からはより少ないことが好ましい。この空隙率は、水銀ポロシメータで測定した値とする。
【0015】
多孔質シリコン材料は、冷却時に結晶化する初晶シリコンを含む粗粒(マイクロスケール)と、Alとの共晶シリコンを含む微粒(ナノスケール)と、の2種類の組織を含むものとしてもよい。この構造を有すると、充放電時の体積膨張の応力を緩和することができると推察される。粗粒は、例えば、1μm以上5μm以下の範囲の粒状部とすることができる。また、微粒は、例えば、10nm以上100nm以下の範囲の粒状部とすることができる。
【0016】
多孔質シリコン材料は、酸素や不可避的不純物を除き、Si及びAlの全体を100at%としたときに、Siを75at%以上含むことが好ましい。このSiの含有率は、80at%以上がより好ましく、85at%以上が更に好ましく、90at%以上や98at%以上としてもよい。Siの含有率は、充放電容量の観点からはより高いことが好ましく、相対的な骨格補強の観点からはより低いものとしてもよい。Alの含有率は、0.5at%以上15at%以下の範囲が好ましく、12.5at%以下が好ましく、10at%以下がより好ましく、7.5at%以下としてもよい。また、Alの含有率は、1at%以上がより好ましく、2at%以上がより好ましく、2.5at%以上としてもよい。Alの含有率は、骨格の補強を補う観点からはより多いことが好ましく、充放電しない成分であるため、蓄電デバイスの充放電容量の観点からはより少ないことが好ましい。更に、多孔質シリコン材料は、15質量%以下の範囲で第2元素としてのTi、Sn、Ca、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含むものとしてもよい。また、多孔質シリコン材料は、Si,Alの他に、不可避的不純物を含むものとしてもよい。なお、第2元素や不可避的不純物は、より少ないことが好ましい。
【0017】
蓄電デバイス用電極は、多孔質シリコン材料の板状体の厚さが10μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。厚さが10μm以上では、高出力型電池の容量を示すことができる。また、この厚さが50μm以下では、十分な容量を有するものとすることができる。この厚さは、20μm以上40μm以下の範囲がより好ましい。なお、多孔質シリコン材料の厚さは、求められる電池特性に合わせて適宜選択するものとすればよい。
【0018】
この蓄電デバイス用電極は、多孔質シリコン材料の板状体の一面に集電体が圧着又は蒸着されているものとしてもよい。集電体は、例えば、多孔質シリコン材料の表面において、凹凸がある自由面側に形成するものとしてもよい。また、蓄電デバイス用電極は、多孔質シリコン材料の一面に集電体成分を蒸着したのち、集電体箔を圧着して形成するものとしてもよい。集電体は、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、銅、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0019】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した多孔質シリコン材料を有する電極を備えたものである。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものとしてもよい。多孔質シリコン材料は、負極活物質として用いることができる。この蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。正極において、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV25などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(1-x)Ni1/3Co1/3Mn1/32などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、AlやMgなど他の元素を含んでもよい趣旨である。あるいは、正極活物質は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている炭素質材料としてもよい。炭素質材料としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素質材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。
【0020】
蓄電デバイスの正極は、上述した正極活物質を必要に応じて導電材や結着材と溶媒に混合しペースト状にして集電体上に塗布する工程か、正極活物質を必要に応じて導電材や結着材と混合して集電体に圧着する工程により作製することができる。この電極において、正極活物質の含有量は、より多いことが好ましく、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。正極に用いられる集電体などは、上述した蓄電デバイス用電極で例示したものを適宜利用することができる。
【0021】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0022】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0023】
蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0024】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図である。この蓄電デバイス10は、正極12と、負極15と、イオン伝導媒体18とを有する。正極12は、正極活物質13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質16と、集電体17とを有する。負極活物質16は、上述した一体物の板状体である多孔質シリコン材料21であり、空隙23を有する。
【0025】
(全固体リチウムイオン二次電池)
この蓄電デバイスは、全固体リチウムイオン二次電池とすることが好ましい。全固体電池では、電解液による性能の変化をより抑制することができ、更に安全性を高めることができ好ましい。この全固体リチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と、上述した蓄電デバイス用電極である負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する固体電解質と、を備えたものとしてもよい。正極は、上述した蓄電デバイスに示したいずれかを用いることができる。また、負極は、上述した蓄電デバイス用電極を用いることができる。
【0026】
固体電解質は、例えば、LiとLaとZrと少なくとも含むガーネット型酸化物としてもよい。この固体電解質は、基本組成がLi7.0+x-y(La3-x,Ax)(Zr2-y,Ty)O12であるものとしてもよい。但し、AはSr、Caのうち1種以上であり、TはNb、Taのうち1種以上であり、0<x≦1.0、0<y<0.75を満たすものである。あるいは、固体電解質は、基本組成(Li7-3z+x-yz)(La3-xx)(Zr2-yy)O12や、(Li7-3z+x-yz)(La3-xx)(Y2-yy)O12で表されるガーネット型酸化物であるものとしてもよい。但し、式中、元素MはAl,Gaのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、TはNb,Taのうち1以上であり、0≦z≦0.2、0≦x≦0.2、0≦y≦2であるものとしてもよい。この基本組成式において、0.05≦z≦0.1を満たすことがより好ましい。この基本組成式において、0.05≦x≦0.1を満たすことがより好ましい。また、この基本組成式において、0.1≦y≦0.8を満たすことがより好ましい。このような範囲では、イオン伝導度をより好適なものとすることができる。
【0027】
あるいは、固体電解質としては、例えば、一般的な、Li3N、LISICONと呼ばれるLi14Zn(GeO44、硫化物のLi3.25Ge0.250.754、ペロブスカイト型のLa0.5Li0.5TiO3、(La2/3Li3x1/3-2x)TiO3(□:原子空孔)、ガーネット型のLi7La3Zr212、NASICON型と呼ばれるLiTi2(PO43、Li1.30.3Ti1.7(PO34(M=Sc,Al)などが挙げられる。また、ガラスセラミックスである80Li2S・20P25(mol%)組成のガラスから得られたLi7311、さらに硫化物系で高い導電率を持つ物質であるLi10Ge2PS2なども挙げられる。ガラス系無機固体電解質ではLi2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-P25、Li3PO4-Li4SiO4、Li3BO4-Li4SiO4、そしてSiO2、GeO2、B23、P25をガラス系物質としてLi2Oを網目修飾物質とするものなどが挙げられる。また、チオリシコン固体電解質としてLi2S-GeS2系、Li2S-GeS2-ZnS系、Li2S-Ga22系、Li2S-GeS2-Ga23系、Li2S-GeS2-P25系、Li2S-GeS2-SbS5系、Li2S-GeS2-Al23系、Li2S-SiS2系、Li2S-P25系、Li2S-Al23系、LiS-SiS2-Al23系、Li2S-SiS2-P25系などが挙げられる。これらの固体電解質は、板状に形成して正極と負極との間に配置するものとしてもよい。
【0028】
また、全固体リチウムイオン二次電池は、正極、固体電解質及び負極を積層した積層体を積層方向に対して拘束する拘束部材を備えるものとしてもよい。この拘束部材は、例えば、積層体の積層方向の両端側から積層体を挟む1対の板状部と、1対の板状部を連結する棒状部と、棒状部に連結されネジ構造等によって1対の板状部の間隔を調整する調整部とを備えるものとしてもよい。
【0029】
(蓄電デバイス用電極の製造方法)
本開示の蓄電デバイス用電極の製造方法は、上述した蓄電デバイス用電極を作製するものとしてもよい。ここでは、多孔質シリコン材料の各物性などについて、上述した蓄電デバイス用電極と同様であるものとしてその詳細な説明を省略する。本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、前駆体工程と、電極化工程とを含む。前駆体工程では、SiとAlとを少なくとも含み、SiとAlとの全体を100at%としたときに、Alを20at%を超え70at%未満の範囲で含み残部をSiとする原料を溶融し急冷凝固させ板状のシリコン合金の前駆体を得る処理を行う。また、電極化工程では、シリコン合金に含まれるAl成分を除去して板状の形状を有する多孔質シリコン材料を蓄電デバイス用電極の一部として得る処理を行う。まず、原料組成について説明する。
【0030】
図2は、Al-Si二元系状態図である。一般的に、共晶系Si-Al合金の平衡状態図において、液相線が極小となる共晶組成の融液を凝固させるとSi相とAl相とが繊維状(ラメラ状)に相分離した共晶組織が形成される。この時、形成されるラメラ組織のサイズは、冷却速度が速いほど細かくなり、1000K/s以上の冷却速度ではナノサイズの組織が形成される。この共晶組織から、Al元素のみを選択除去することができれば、共晶組織を特徴としたSi元素からなる材料を得ることができる。Si-Al合金の場合、13Si-87Alが共晶組成付近になる。この場合、Alを溶解すると自立膜を得ることが難しいが、50Si-50Al付近で合金を作製すると、共晶SjとAlと合金化しない初晶Siが成長する。この初晶Siが電極がシート状を保つ骨格になる。そして、電気化学反応時には、共晶Siが形成する細孔が電極の膨張・収縮を緩和するように作用する。
【0031】
(前駆体工程)
前駆体工程では、SiとAlとの全体を100at%としたときに、Alを20at%を超え70at%未満の範囲で含み残部をSiとする原料を用いることが好ましい。なお、原料には、不可避的不純物を含むものとしてもよい。不可避的不純物としては、Si、Alのいずれかの精製の際に不可避的に残存する成分であり、例えば、FeやC、Cu、Ni、Pなどが挙げられる。不可避的不純物は、より少ないことが好ましく、例えば、SiとTiとAlとの全体を100at%としたときに、5at%以下が好ましく、2at%以下がより好ましい。Alの配合比は、60at%以下が好ましく、50at%以下がより好ましく、40at%以下としてもよい。また、Alの配合比は、25at%以上が好ましく、30at%以上がより好ましく、40at%以上としてもよい。Alをこのような範囲で含むシリコン合金では、空隙率をより高めると共に、より好適な形状、サイズの空隙を得ることができ好ましい。Alの含有量が多いと、溶融して合金としたあと、急速冷却するとAlの単相が大きく析出するので、多くの空隙を形成させることができる。この冷却速度は、より急冷であることが好ましく、例えば、溶融状態から102℃/s以上108℃/s以下の範囲としてもよい。
【0032】
この工程において、原料を溶解する場合は、Arなど不活性ガス雰囲気中の高周波融解が好ましいが、いかなる融解手法を用いても構わない。前駆体工程では、シリコン合金の溶湯をロール急冷法で冷却し、板状(薄膜状を含む)の前駆体を得るものとしてもよい。ロール急冷法で得られた前駆体は合金組織が微細となるため、溶出処理後に微細な細孔を有する多孔質シリコンを得ることができる。
【0033】
この前駆体工程では、図3に示す単ロール急冷装置を用いるものとしてもよい。この工程では、酸素除去材を含む減圧状態のチャンバー内で冷却ロールに原料を溶融した融液を噴射して冷却し板状の前駆体を得るものとしてもよい。冷却ロールで液体急冷する場合、冷却速度に影響を及ぼすパラメータとして、融液の温度や熱伝導度、ノズル先端の穴径d、ロールとノズル間のギャップサイズg、ロール回転数rなどが挙げられる。ノズル先端の穴径dは、例えば、0.1mm以上5mm以下の範囲とすることができ、0.2mm以上2mm以下の範囲としてもよい。ギャップサイズgは、0.1mm以上5mm以下の範囲とすることができ、0.2mm以上2mm以下の範囲としてもよい。ロール回転数rは、1000rpm以上5000rpm以下の範囲とすることができ、2000rpm以上4000rpm以下の範囲としてもよい。チャンバーは、10-3Pa以下に減圧することが好ましい。また、チャンバー内に不活性ガスを導入することが好ましい。不活性ガスは、例えば、Arが好ましい。内圧は、例えば、30cmHg以上、40cmHg以上としてもよい。また、内圧は、100cmHg以下が好ましい。原料が溶融するまで加熱し、Arガスを噴射してノズル先端から冷却ロールに向けて融液を噴霧して、急冷凝固させた前駆体を得ることができる。
【0034】
前駆体工程では、厚さが10μm以上50μm以下の範囲の板状の前駆体を得るものとしてもよい。この厚さは、20μm以上40μm以下としてもよい。前駆体の厚さは、蓄電デバイスに要求される性能に応じて適宜選択すればよい。前駆体工程では、結着材を含まない板状の前駆体を得るものとしてもよい。
【0035】
この前駆体工程では、AlとSiとに加えTi、Sn、Ca、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含む第2元素を含む原料を用いてもよい。このうち、第2元素としては、Ca、Na及びSrのうち1以上が好ましい。第2元素は、AlやTiの含有量よりも少ないことが好ましく、例えば、シリコン合金の全体に対して。10質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以下の範囲より好ましい。
【0036】
(電極化工程)
電極化工程では、上記作製した板状の前駆体からSi以外の物質を除去する処理を行う。Si以外の物質としては、例えば、Alやその化合物などが挙げられる。この工程では、酸又はアルカリによってAl成分、即ちAl相やその化合物を選択的に除去することが好ましい。用いる酸またはアルカリは、シリコン合金中のシリコン以外の元素及び/又は化合物を溶出し、シリコンが溶出されないものが好ましく、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。この酸又はアルカリは、水溶液とすることが好ましい。酸又はアルカリの濃度は、Alやその化合物を除去できる範囲であれば特に限定されず、例えば、1mol/L以上5mol/L以下の範囲などにすることができる。この除去処理は、例えば、30℃~60℃で加温するものとしてもよい。得られた多孔質シリコン材料は、その後、洗浄および乾燥を行う。
【0037】
電極化工程では、Si以外の物質を85質量%以上100質量%以下の範囲で除去するものとしてもよい。例えば、Alその他の酸素などは、残存しても構わないが、電極活物質として利用する際には、充放電容量の観点からは、より少ない方が好ましい。また、Alなどの成分は、シリコン骨格を補強し、耐久性向上の観点からは、所定量以上含まれることが好ましい。この電極化工程では、Si及びAlの全体を100at%としたときに、Alを0.5at%以上15at%以下の範囲で含有する多孔質シリコン材料を得ることが好ましい。この多孔質シリコン材料において、Alは、1.0at%以上含んでもよいし、2.0at%以上含んでもよい。また、Alは、10at%以下としてもよいし、7.5at%以下の範囲で含有するものとしてもよい。
【0038】
電極化工程では、空隙率が10体積%以上50体積%以下の範囲の多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。この空隙率は、水銀ポロシメータで測定した値とする。この空隙率は、例えば、15体積%以上であることが好ましく、20体積%以上としてもよい。また、空隙率は、例えば、50体積%以下が好ましく、40体積%以下や30体積%以下であるものとしてもよい。空隙率は、より大きいとキャリアイオンの吸蔵時の体積変化に応答しやすく、より小さいと単位体積あたりに存在するSi量が多くなり、好ましい。
【0039】
電極化工程では、板状の多孔質シリコン材料の少なくとも一面に集電体を圧着又は蒸着する処理を行うものとしてもよい。この処理では、板状の多孔質シリコン材料の一面に集電体の成分を蒸着したのち、集電体を圧着するものとしてもよい。集電体は、上記説明したものを適宜利用するものとしてもよい。集電体の厚さは、例えば、1μm以上50μm以下の範囲としてもよい。
【0040】
以上詳述したように、本開示は、Siを含む材料において、エネルギー密度をより高めることができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、本開示の製造方法によれば、シリコンおよびアルミニウム合金からアルミニウムを選択的に溶解して、細孔サイズが小さく、空隙率の大きい多孔質シリコンを生産できる。また、この多孔質シリコン材料は、自立膜であるため、導電材や結着材を添加することなく、そのまま電極として用いることができる。それ故、エネルギー密度の高い電極の提供が可能になる。また、構成シリコンのサイズと混合比率の最適化により、リチウムイオン電池に用いた場合、体積の膨張・収縮が緩和され、サイクル特性が向上するので、性能の高い蓄電デバイスを容易に得ることができる。
【0041】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例
【0042】
以下には、本開示の多孔質シリコンおよび蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例2~5、8~10が本開示の実施例であり、実験例1、6~7が比較例である。
【0043】
(リボン状Al-Siインゴットの作製)
最初に、Al-Siインゴットを作製した。表1にインゴットの組成をまとめた。原料のAl(高純度化学、99.5%粒状)およびSi(高純度化学、99.999%粒状)を、所望の組成(表1)になる様に秤量した(実験例1~7)。アーク溶解炉(日新技研NEV-ACD1)のチャンバー内の銅ハースに秤量した原料をセットした。更に、酸素ゲッターとしてTi塊もセットした。チャンバー内を10-3Pa以下まで真空引きしたあと、40cmHgまでArを導入し、アーク放電でTi塊を溶融して残留酸素を除去したあと、原料を溶かしてAl-Si合金のインゴットを得た。この時、試料の均一性を高めるためインゴットを裏返し再溶解するプロセスを3回以上繰り返した。
【0044】
次に、図3に示す単ロール型の液体急冷装置を用いて、合成したインゴットを急冷凝固処理した。単ロールで液体急冷する場合、冷却速度に影響を及ぼすパラメータとして、融液の温度や熱伝導度、ノズル先端の穴径d、ロールとノズル間のギャップサイズg、ロール回転数rなどが考えられる。融液の温度や熱伝導度は試料に依存したパラメータであるが、残りは装置のセッティングで調節できる。今回は、(1)ノズル先端の穴径d=0.5mm、(2)ギャップサイズg=0.5mm、(3)ロール回転数r=3000rpmに調節した。作製したインゴットを石英製のノズルに入れ、高周波溶解装置に接続した。チャンバー内を10-3Pa以下まで真空引き後、50cmHgまでArガスを導入した。電流値を徐々に上げ、放射温度計で温度を確認しながら試料が溶融するまで加熱し、Arガスを噴射してノズル先端から銅ロールに向けて融液を噴霧して、急冷凝固リボン試料を得た。
【0045】
シリコンはバルクでのサイクル特性は、実験例7を類似データとしてみたときに、電極の膨張により良好とはいえない。一方、スパッタ法などで薄膜(例えば5μm以下)にすると、サイクル特性は比較的良好になることが知られている。しかし、単位面積当たりの容量が小さい事、導電性が低い事(導電材の添加ができない)ことより、実用化には不向きである。つまり、高出力タイプでは薄膜にする代わり高い伝導度が要求される。一般的な電極では、伝導度は低くてもサイクル特性が要求される。現状、高出力型電池の黒鉛負極の厚さは50μm程度である。10倍の容量を持つシリコンでは、その厚さは5μmとなる。この厚さのシリコン電極をスパッタ法で成膜すると、導電性が低く黒鉛の代替にならない。一方、本開示の多孔質シリコン電極では、高級アルコール(フルフリルアルコールなど)を隙間に含侵させ、それを熱分解・重合することで黒鉛化することができる。その結果、導電性の高い電極を得ることができる。多孔質シリコン電極の厚さは、正極と負極との容量比、および電極製造工程時のハンドリングを考慮すると、40μmで十分である。更に、サイクル特性を考慮すると30μm以下がより好ましい膜厚である。本実施例では、全て30μmの膜厚で電極を作製した。
【0046】
(電気化学評価)
試料を1mg秤量し、それを銅集電箔上にのせたものを作用極とした。電解液には1M-LiPF6をエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=3/7(体積比)に溶解したものを用い、ポリエチレン微多孔膜のセパレータを介して対極にはリチウム金属を用いた。得られた試験セルを用い、電流密度1/20C、下限電位50mV、上限電位2Vで充放電を行った。
【0047】
(電極観察)
3000mAh/gのLiを挿入後、電池をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で解体し、シリコン負極をジメチルカーボネート(DMC)で3回洗浄した。それを室温で減圧乾燥して試料を調整した。これを、大気非暴露のホルダーを用いて、SEMへ導入して電極断面を観察した。なお、実験例1に関しては、電池抵抗が大きく、2800mAh/gまでLi挿入してSEM観察を行った。
【0048】
(集電体一体電極の作製)
実験例2~4の酸処理後の多孔質シリコンリボンの一面に集電体としての銅箔を形成した集電体一体電極を作製した。単ロール冷却したAl-Si合金リボンの自由面(凹凸が大きい面、図6では初期電極の下部、図7の初期電極の上部)に20~100nmの厚さの銅をスパッタ法で成膜し、この面を集電体である銅箔へ一軸加圧して圧着した。その状態で、0.5N-HCl水溶液に5時間浸漬して多孔質シリコン電極と銅集電体が一体化した電極を作製した(実験例8~10)。
【0049】
(結果と考察)
図4は、実験例3の多孔質シリコン材料の評価結果であり、図4Aが原料合金のXRDチャートであり、図4Bが酸処理後の多孔質シリコンリボンのXRDチャートであり、図4Cが原料合金のSEM写真であり、図4Dが酸処理後の多孔質シリコンリボンのSEM写真であり、図4Eが酸処理後の多孔質シリコンリボンの表面SEM写真である。図5は、実験例7の多孔質シリコン材料の評価結果であり、図5A~5Eは、図4A~4Eと同様である。図6は、実験例3の電極の評価結果であり、図6Aが充放電曲線、図6Bが初期の断面SEM像、図6Cが3000mAh/gのLi挿入時の断面SEM像である。図7は、実験例4の電極の評価結果であり、図7Aが充放電曲線、図7Bが初期の断面SEM像、図7Cが3000mAh/gのLi挿入時の断面SEM像である。図8は、集電体を形成した電極の外観写真であり、図8Aが実験例9、図8Bが実験例10である。表1に、各試料の仕込み組成、秤量値、単ロール冷却後の合金形状、酸処理後の結晶相と結晶性、酸処理後の形状などをまとめた。また、表1には、充放電評価結果として初回Li挿入容量A(mAh/g)、初回Li脱容量B(mAh/g)、初回充電効率(B/A×100;%)、3000mAh/gのLi挿入時の電極膨張率(体積%)をまとめた。表2には、実験例8~10の多孔質シリコン材料の仕込み組成、初回Li挿入容量A(mAh/g)、初回Li脱容量B(mAh/g)、初回充電効率(B/A×100;%)をまとめた。
【0050】
(形状についての考察)
表1に示すように、仕込み組成がAl70Si30、Al60Si40、Al50Si50、Al40Si60及びAl30Si70の実験例1~5では、冷却後及び酸処理後は、長いリボン状もしくはリボン状の形状を有していた。また、実験例1~5では、高結晶シリコンが検出され、結晶性が高いことがわかった。更に、実験例1~5では、その断面を観察すると、冷却時に結晶化する初晶シリコンを含む粗粒(マイクロスケール)と、Alとの共晶シリコンを含む微粒(ナノスケール)と、の2種類の組織が観察された。一方、Al含有量の少ない実験例6,7では、鱗片状あるいは粉末状であり、形状の保持性が低く、結晶性も低かった。また、実験例6、7では、その断面を観察すると、微粒は見られず、粗粒(マイクロスケール)が連結した形状が認められた。
【0051】
(実験例3: 仕込み元素比Al50Si50)
形状などについて、より具体的に、実験例3について検討した。単ロール冷却後のAl-Si合金は、AlとSiの混合相となり、酸処理後はSi単相になった。格子定数は、5.428Åであり、文献値(5.43Å)に等しかった。また、酸処理後の試料は、リボン状形態から短冊状になった。その理由は、合金内のシリコン含有量が少ないため、シリコン骨格の連結が弱く、アルミ除去後はリボン形状を保持し難くなるためであると推察された。酸処理後の電極は、2種類の組織が観察された。粗粒(マイクロスケール)は冷却時に結晶化する初晶シリコンであり、微粒(ナノスケール)はアルミとの共晶シリコンであった。
【0052】
(実験例7: 仕込み元素比Al10Si90)
単ロール冷却後のAl-Si合金は、AlとSiの混合相となり、酸処理後はSi単相になるが、XRDのピーク強度が低いことから、結晶性が低いものと推察された。Siの格子定数は、5.421Åであり、文献値(5.43Å)より小さく、シリコンサイトにアルミニウムが置換することによりホールが形成されていると推察された。また、同様の理由で結晶性が低いものと推察された。単ロール冷却後は、リボン状ではなくフレーク状になった。その理由は、シリコンが圧延性の低い元素であるためであると推察された。酸処理後の電極は、実験例1~5などと異なり、粗粒(マイクロスケール)が連結した形状が認められた。
【0053】
(電気化学特性についての考察)
表1に示すように、実験例2~7では、初回Li挿入容量が3000mAh/g以上であり、初回Li脱離容量が2500mAh/g以上であり、初回充放電効率も70%以上を示し、いずれも高かった。一方、実験例1では、2800mAh/gがLi挿入限界であり、挿入容量、脱離容量及び初回充放電効率のいずれもが比較的低かった。実験例1では、Al量が多く、抵抗が高いことに起因しているものと視察された。また、電極の膨張率では、実験例1~5が20体積%までの膨張にとどまり、良好であった。一方、実験例6、7では、体積膨張が50体積%以上あり、体積変化が大きかった。実験例1~5では、マイクロスケール粒子とナノスケール粒子とが混在している構造を有し、この構造がLiの吸蔵放出時の体積変化をより抑制するものと推察された。一方、実験例6、7では、実験例1~5とは異なり、初晶シリコン由来のナノスケール粒子が混在しないため、体積膨張が大きいものと推察された。
【0054】
(集電体一体電極についての考察)
表2に示すように、多孔質シリコンリボンの一面に銅集電体を接合しても、電気化学特性に悪影響を与えないことがわかった。また、図8に示すように、実験例2~4では、結着材を必要とせず、柔軟な電極体を作製することができることが明らかとなった。このため、この多孔質シリコンリボンを電極活物質にそのまま利用することにより、結着材などの添加物を含まないエネルギー密度の高い電極を提供することができることがわかった。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
なお、本開示は上述した実験例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本開示は、二次電池の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質、14 集電体、15 負極、16 負極活物質、17 集電体、18 イオン伝導媒体、21 多孔質シリコン材料、23 空隙。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8