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特許7528918減速支援装置、車両、減速支援方法及び、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】減速支援装置、車両、減速支援方法及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20240730BHJP
   B60W 40/107 20120101ALI20240730BHJP
   B60W 40/02 20060101ALI20240730BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240730BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20240730BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/107
B60W40/02
B60T7/12 Z
B60T8/1755 Z
G08G1/16 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021210299
(22)【出願日】2021-12-24
(65)【公開番号】P2023094791
(43)【公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】池澤 佑太
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-033772(JP,A)
【文献】特開2012-148699(JP,A)
【文献】特開2021-135523(JP,A)
【文献】特開2012-162208(JP,A)
【文献】特開2006-285731(JP,A)
【文献】再公表特許第2018/066024(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の車両の前方の減速対象である前記車両の前方に位置する信号機付き交差点の停止線に基づき、前記車両を自動的に減速させる減速制御を実施する減速支援装置であって、
前記車両の前方の物標に係る物標情報を取得するとともに、前記信号機の点灯状態を認識可能に構成された物標情報取得部と、
前記物標情報取得部が物標情報として前記減速対象を取得するよりも前に、前記物標情報取得部により取得される前記減速対象以外の物標情報に基づいて、前記減速対象の推定位置を推定する位置推定部と、
前記物標情報取得部が物標情報として前記減速対象の位置を取得すると、当該取得された位置を前記減速対象の認識位置として認識する位置認識部と、
前記推定位置に基づいて、前記車両を一定又は可変の第1減速度で減速させる第1減速制御を実行するとともに、前記認識位置に基づいて、前記車両を一定又は可変の第2減速度で減速させる第2減速制御を実行する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記減速制御を前記第1減速制御から前記第2減速制御に移行させる際に、前記第1減速度と前記第2減速度とに差がある場合には、前記車両の減速度を前記第1減速度から前記第2減速度に向けて徐々に変化させる徐変処理を実行するとともに、
前記減速制御を前記第1減速制御から前記第2減速制御に移行させる際に、前記物標情報取得部が前記信号機の点灯状態を黄色と認識した場合において、
前記第2減速度の絶対値が前記第1減速度の絶対値よりも大きい場合には、前記物標情報取得部が前記信号機の点灯状態として通行可能であることを示す青色又は矢印と認識した場合に比べ、前記徐変処理の実行中における単位時間当たりの減速度の変化率を小さく設定し、
前記第2減速度の絶対値が前記第1減速度の絶対値よりも小さい場合には、前記物標情報取得部が前記信号機の点灯状態として通行可能であることを示す青色又は矢印と認識した場合に比べ、前記徐変処理の実行中における単位時間当たりの減速度の変化率を大きく設定する
減速支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の減速支援装置であって、
前記制御部は、
単位時間当たりの減速度の変化率が前記第1減速制御及び前記第2減速制御の実行中とは異なる変化率で前記徐変処理を実行する
減速支援装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の減速支援装置であって、
前記制御部は、
前記減速制御を前記第1減速制御から前記第2減速制御に移行させる場合において、前記第1減速度と前記第2減速度との差が大きいときほど、前記徐変処理の実行中における単位時間当たりの減速度の変化率を大きく設定し、前記第1減速度と前記第2減速度との差が小さいときほど、前記徐変処理の実行中における単位時間当たりの減速度の変化率を小さく設定する
減速支援装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の減速支援装置であって、
前記減速対象は、前記車両の前方に位置する交差点の停止線であり、
前記制御部は、
前記車両が前記交差点で右折又は左折すると予測した場合に、前記車両が前記停止線に到達するまでに右折又は左折に適した所定の目標速度まで減速するように前記減速制御を実行する
減速支援装置。
【請求項5】
請求項1からの何れか一項に記載の減速支援装置であって、
前記制御部は、
前記減速制御の実行中に、前記車両が前記認識位置に到達するまでに、前記車両の速度が所定の目標速度まで低下する終了条件が成立するかを判定するとともに、前記終了条件が成立しないと判定した場合には、成立しないと判定した時の前記車両の速度及び、前記位置認識部が認識した前記減速対象の認識位置に基づいて設定される減速度で前記減速制御を継続する
減速支援装置。
【請求項6】
請求項1からの何れか一項に記載の減速支援装置であって、
前記制御部は、
前記第2減速制御の実行中に、前記物標情報取得部が前記減速対象の位置を取得できない状態になった場合には、前記位置認識部が認識している前記認識位置に基づいて前記第2減速制御を継続する
減速支援装置。
【請求項7】
請求項1からの何れか一項に記載の減速支援装置を搭載した車両。
【請求項8】
走行中の車両の前方の減速対象である前記車両の前方に位置する信号機付き交差点の停止線に基づき、前記車両を自動的に減速させる減速制御を実施する減速支援方法であって、
前記車両の前方の物標に係る物標情報として、前記減速対象を取得するよりも前に取得した前記減速対象以外の物標情報に基づいて前記減速対象の推定位置を推定し、
前記物標情報として前記減速対象の位置を取得すると、当該取得した位置を前記減速対象の認識位置として認識し、
前記物標情報として、前記信号機の点灯状態を認識し、
前記推定位置に基づいて、前記車両を一定又は可変の第1減速度で減速させる第1減速制御を実行するとともに、前記認識位置に基づいて、前記車両を一定又は可変の第2減速度で減速させる第2減速制御を実行し、
前記減速制御を前記第1減速制御から前記第2減速制御に移行させる際に、前記第1減速度と前記第2減速度とに差がある場合には、前記車両の減速度を前記第1減速度から前記第2減速度に向けて徐々に変化させる徐変処理を実行するとともに、
前記減速制御を前記第1減速制御から前記第2減速制御に移行させる際に、前記物標情報として前記信号機の点灯状態を黄色と認識した場合において、
前記第2減速度の絶対値が前記第1減速度の絶対値よりも大きい場合には、前記物標情報として前記信号機の点灯状態を通行可能であることを示す青色又は矢印と認識した場合に比べ、前記徐変処理の実行中における単位時間当たりの減速度の変化率を小さく設定し、
前記第2減速度の絶対値が前記第1減速度の絶対値よりも小さい場合には、前記物標情報として前記信号機の点灯状態が通行可能であることを示す青色又は矢印と認識した場合に比べ、前記徐変処理の実行中における単位時間当たりの減速度の変化率を大きく設定する
減速支援方法。
【請求項9】
走行中の車両の前方の減速対象である前記車両の前方に位置する信号機付き交差点の停止線に基づき、前記車両を自動的に減速させる減速制御を実施する減速支援装置のコンピュータに、
前記車両の前方の物標に係る物標情報として、前記減速対象を取得するよりも前に取得した前記減速対象以外の物標情報に基づいて前記減速対象の推定位置を推定し、
前記物標情報として前記減速対象の位置を取得すると、当該取得した位置を前記減速対象の認識位置として認識し、
前記物標情報として、前記信号機の点灯状態を認識し、
前記推定位置に基づいて、前記車両を一定又は可変の第1減速度で減速させる第1減速制御を実行するとともに、前記認識位置に基づいて、前記車両を一定又は可変の第2減速度で減速させる第2減速制御を実行し、
前記減速制御を前記第1減速制御から前記第2減速制御に移行させる際に、前記第1減速度と前記第2減速度とに差がある場合には、前記車両の減速度を前記第1減速度から前記第2減速度に向けて徐々に変化させる徐変処理を実行するとともに、
前記減速制御を前記第1減速制御から前記第2減速制御に移行させる際に、前記物標情報として前記信号機の点灯状態を黄色と認識した場合において、
前記第2減速度の絶対値が前記第1減速度の絶対値よりも大きい場合には、前記物標情報として前記信号機の点灯状態を通行可能であることを示す青色又は矢印と認識した場合に比べ、前記徐変処理の実行中における単位時間当たりの減速度の変化率を小さく設定し、
前記第2減速度の絶対値が前記第1減速度の絶対値よりも小さい場合には、前記物標情報として前記信号機の点灯状態が通行可能であることを示す青色又は矢印と認識した場合に比べ、前記徐変処理の実行中における単位時間当たりの減速度の変化率を大きく設定する処理を実施させる
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、減速支援装置、車両、減速支援方法及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行中の車両の前方に交差点の停止線を検知した際に、ドライバの右折又は左折の意思を確認した場合には、車両が停止線に到達するまでに、車両を右左折に適した目標速度まで自動的に減速させる減速制御を実施する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-143745号公報
【発明の概要】
【0004】
車両前方の交差点の停止線は、車両に搭載されたカメラ等で認識することができる。しかしながら、カメラによる停止線の認識可能距離には限界がある。このため、減速制御を、カメラが停止線を認識したときから開始すると、減速制御がドライバの感覚よりも交差点に近いタイミングで開始されることになり、ドライバに違和感を与える可能性がある。
【0005】
このようなドライバの違和感を低減するには、カメラが停止線を認識するよりも前に、交差点の停止線位置を推定し、推定した停止線位置を目標位置として減速制御を開始することが考えられる。しかしながら、推定した停止線位置に基づいて減速制御を開始した後、カメラが停止線を認識したことにより、目標位置をカメラで認識した停止線位置に切り替えると、これら推定した停止線位置と認識した停止線位置とに差がある場合に、車両の減速度を大きく急変させることになる。車両の減速度が急変すると、車両の挙動が大きく変化し、ドライバビリティの悪化を招くといった課題がある。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものである。即ち、本開示の目的の一つは、減速制御において、ドライバビリティの悪化を効果的に防止することにある。
【0007】
本開示の装置は、
走行中の車両(SV)の前方の減速対象(S1,S2)に基づき、前記車両(SV)を自動的に減速させる減速制御を実施する減速支援装置(1)であって、
前記車両(SV)の前方の物標に係る物標情報を取得する物標情報取得部(30)と、
前記物標情報取得部(30)が物標情報として前記減速対象(S2)を取得するよりも前に、前記物標情報取得部(30)により取得される前記減速対象(S2)以外の物標情報に基づいて、前記減速対象(S1)の推定位置を推定する位置推定部(12)と、
前記物標情報取得部(30)が物標情報として前記減速対象(S2)の位置を取得すると、当該取得された位置を前記減速対象(S2)の認識位置として認識する位置認識部(14)と、
前記推定位置(S1)に基づいて、前記車両(SV)を一定又は可変の第1減速度(G1)で減速させる第1減速制御を実行するとともに、前記認識位置(S2)に基づいて、前記車両(SV)を一定又は可変の第2減速度(G2)で減速させる第2減速制御を実行する制御部(15,16,17)と、を備え、
前記制御部(15,16,17)は、
前記減速制御を前記第1減速制御から前記第2減速制御に移行させる際に、前記第1減速度(G1)と前記第2減速度(G2)とに差がある場合には、前記車両(SV)の減速度を前記第1減速度(G1)から前記第2減速度(G2)に向けて徐々に変化させる徐変処理を実行する。前記制御部(15,16,17)は、単位時間当たりの減速度の変化率が前記第1減速制御及び前記第2減速制御の実行中とは異なる変化率で前記徐変処理を実行してもよい。
【0008】
本開示の方法は、
走行中の車両(SV)の前方の減速対象(S1,S2)に基づき、前記車両(SV)を自動的に減速させる減速制御を実施する減速支援方法であって、
前記車両(SV)の前方の物標に係る物標情報として、前記減速対象(S2)を取得するよりも前に取得した前記減速対象(S2)以外の物標情報に基づいて前記減速対象(S1)の推定位置を推定し、
前記物標情報として前記減速対象(S2)の位置を取得すると、当該取得した位置を前記減速対象(S2)の認識位置として認識し、
前記推定位置(S1)に基づいて、前記車両(SV)を一定又は可変の第1減速度(G1)で減速させる第1減速制御を実行するとともに、前記認識位置(S2)に基づいて、前記車両(SV)を一定又は可変の第2減速度(G2)で減速させる第2減速制御を実行し、
推定した前記減速対象の位置を第1目標位置として前記車両を所定の第1減速度で減速させるとともに、認識した前記減速対象の位置を第2目標位置として前記車両を所定の第2減速度で減速させる減速制御を実行し、
前記減速制御を前記第1減速制御から前記第2減速制御に移行させる際に、前記第1減速度(G1)と前記第2減速度(G2)とに差がある場合には、前記車両(SV)の減速度を前記第1減速度(G1)から前記第2減速度(G2)に向けて徐々に変化させる徐変処理を実行する。
【0009】
本開示のプログラムは、
走行中の車両(SV)の前方の減速対象(S1,S2)に基づき、前記車両(SV)を自動的に減速させる減速制御を実施する減速支援装置(1)のコンピュータ(10)に、
前記車両(SV)の前方の物標に係る物標情報として、前記減速対象(S2)を取得するよりも前に取得した前記減速対象(S2)以外の物標情報に基づいて前記減速対象(S1)の推定位置を推定し、
前記物標情報として前記減速対象(S2)の位置を取得すると、当該取得した位置を前記減速対象(S2)の認識位置として認識し、
前記推定位置(S1)に基づいて、前記車両(SV)を一定又は可変の第1減速度(G1)で減速させる第1減速制御を実行するとともに、前記認識位置(S2)に基づいて、前記車両(SV)を一定又は可変の第2減速度(G2)で減速させる第2減速制御を実行し、
推定した前記減速対象の位置を第1目標位置として前記車両を所定の第1減速度で減速させるとともに、認識した前記減速対象の位置を第2目標位置として前記車両を所定の第2減速度で減速させる減速制御を実行し、
前記減速制御を前記第1減速制御から前記第2減速制御に移行させる際に、前記第1減速度(G1)と前記第2減速度(G2)とに差がある場合には、前記車両(SV)の減速度を前記第1減速度(G1)から前記第2減速度(G2)に向けて徐々に変化させる徐変処理を実行する処理を実施させる。
【0010】
以上の構成によれば、推定した減速対象(S1)の位置と認識した減速対象(S2)の位置とに差があり、第1減速度(G1)と第2減速度(G2)とに差がある場合であっても、車両(SV)の減速度を第1減速度(G1)から第2減速度(G2)に向けて徐々に変化させる徐変処理を実行することで、減速制御中に車両(SV)の減速度が大きく急変することを効果的に防止できるようになる。これにより、車両の挙動変化を抑制することができ、ドライバビリティの悪化を防止することが可能になる。
【0011】
本開示の他の態様において、
前記制御部(16,17)は、
前記減速制御を前記第1減速制御から前記第2減速制御に移行させる場合において、前記第1減速度(G1)と前記第2減速度(G2)との差が大きいときほど、前記徐変処理の実行中における単位時間当たりの減速度の変化率(GS)を大きく設定し、前記第1減速度(G1)と前記第2減速度(G2)との差が小さいときほど、前記徐変処理の実行中における単位時間当たりの減速度の変化率(GS)を小さく設定する。
【0012】
本態様によれば、第1減速度(G1)と第2減速度(G2)との差が大きい場合は、徐変処理の実行中における単位時間当たりの減速度の変化率(GS)を大きくすることで、車両(SV)の減速度を第1減速度(G1)から第2減速度(G2)に早期に近づけることができ、徐変期間が長引くことを効果的に防止できるようになる。また、第1減速度(G1)と第2減速度(G2)との差が小さい場合は、徐変処理の実行中における単位時間当たりの減速度の変化率(GS)を小さくすることで、車両(SV)の躍度が必要以上に大きくなることを効果的に防止できるようになる。
【0013】
本開示の他の態様において、
前記減速対象は、前記車両(SV)の前方に位置する交差点の停止線(S1,S2)であり、
前記制御部(15,16,17)は、
前記車両(SV)が前記交差点で右折又は左折すると予測した場合に、前記車両(SV)が前記停止線(S2)に到達するまでに右折又は左折に適した所定の目標速度(Vt)まで減速するように前記減速制御を実行する。
【0014】
本態様によれば、減速制御の実行中に目標位置の切り替えに伴う車両(SV)の挙動変化を効果的に抑えつつ、車両(SV)を交差点の停止線位置(S2)にて右左折に適した目標速度(Vt)まで確実に減速させることができる。
【0015】
本開示の他の態様において、
前記減速対象は、前記車両(SV)の前方に位置する信号機付き交差点の停止線(S1,S2)であり、
前記物標情報取得部(30)は、前記信号機の点灯状態を認識可能に構成されており、
前記制御部(15,16,17)は、
前記減速制御を前記第1減速制御から前記第2減速制御に移行させる際に、前記物標情報取得部(30)が前記信号機の点灯状態を黄色と認識した場合において、
前記第2減速度(G2)の絶対値が前記第1減速度(G1)の絶対値よりも大きい場合には、前記物標情報取得部(30)が前記信号機の点灯状態として通行可能であることを示す青色又は矢印と認識した場合に比べ、前記徐変処理の実行中における単位時間当たりの減速度の変化率(GS)を小さく設定し、
前記第2減速度(G2)の絶対値が前記第1減速度(G1)の絶対値よりも小さい場合には、前記物標情報取得部(30)が前記信号機の点灯状態として通行可能であることを示す青色又は矢印と認識した場合に比べ、前記徐変処理の実行中における単位時間当たりの減速度の変化率(GS)を大きく設定する。
【0016】
本態様によれば、信号機の点灯色が黄色(Y)であり、車両(SV)を停止線(S2)で停止させることなく右左折させる方が適した状況において、第2減速度(G2)が第1減速度(G1)よりも大きい場合は減速度の増加を遅らせ、第2減速度(G2)が第1減速度(G1)よりも小さい場合は減速度の減少を早めることで、車両(SV)が停止線に到達するまでに大きく減速することを防止できるようになる。これにより、ドライバの円滑な右左折を効果的に支援することが可能になる。また、車両(SV)の急減速に伴う後続車両の追突を防止でき、安全性の向上を図ることも可能になる。
【0017】
本開示の他の態様において、
前記制御部(15,16,17)は、
前記減速制御の実行中に、前記車両(SV)が前記認識位置(S2)に到達するまでに、前記車両(SV)の速度(V)が所定の目標速度(Vt)まで低下する終了条件が成立するかを判定するとともに、前記終了条件が成立しないと判定した場合には、成立しないと判定した時の前記車両(SV)の速度(V)及び、前記位置認識部(14)が認識した前記減速対象の認識位置(S2)に基づいて設定される減速度で前記減速制御を継続する。
【0018】
本態様によれば、減速制御の終了条件が成立しないと判定した場合には、その時の車速(V)及び、減速対象(S2)の位置に基づいて設定される目標減速度で減速制御を継続することで、車両(SV)を減速対象(S2)に到達するまでに目標速度(Vt)まで確実に減速させることが可能になる。
【0019】
本開示の他の態様において、
前記制御部(15,16,17)は、
前記第2減速制御の実行中に、前記物標情報取得部(30)が前記減速対象(S2)の位置を取得できない状態になった場合には、前記位置認識部(14)が認識している前記認識位置(S2)に基づいて前記第2減速制御を継続する。
【0020】
本態様によれば、先行車両等の存在により、物標情報取得部(30)が減速対象(S2)の位置を取得できない状態になったとしても、減速制御を中止又は中断することなく確実に継続させることが可能になる。
【0021】
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態に係る減速支援装置の模式的な全体構成図である。
図2】本実施形態に係る減速度マップの一例を説明する模式図である。
図3】比較例の減速支援制御の一例を説明する模式図である。
図4】比較例の減速支援制御の一例を説明する模式図である。
図5】本実施形態に係る減速支援制御を説明する模式図である。
図6】本実施形態に係る減速支援制御を説明する模式図である。
図7】本実施形態に係る減速支援制御を説明するタイミングチャートである。
図8】本実施形態に係る減速支援制御を説明するタイミングチャートである。
図9】本実施形態に係る減速支援制御のルーチンを説明するフローチャートである。
図10】変形例1に係る勾配設定マップの一例を説明する模式図である。
図11】変形例1に係る減速支援制御を説明する模式図である。
図12】変形例1に係る減速支援制御を説明する模式図である。
図13】変形例2に係る減速支援制御を説明する模式図である。
図14】変形例2に係る減速支援制御を説明する模式図である。
図15】変形例2に係る減速支援制御を説明する模式図である。
図16】変形例2に係る減速支援制御を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本実施形態に係る減速支援装置、車両、減速支援方法及び、プログラムを説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0024】
[全体構成]
図1は、本実施形態に係る減速支援装置1の模式的な全体構成図である。減速支援装置1は、車両SVに搭載されており、ECU10を有する。ECU10は、マイクロコンピュータを主要部として備える。なお、ECUは、Electronic Control Unitの略である。マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM及びインターフェース等を含み、CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。
【0025】
ECU10は、ドライバの運転支援を行う中枢となる制御装置であって、減速支援制御を実施する。減速支援制御は、走行中の車両SVの前方に減速対象としての交差点を検出し、且つ、車両SVのドライバに交差点を右折又は左折する意思がある場合に、車両SVを右左折に適した所定の目標速度Vtまで自動的に減速させる制御である。目標速度Vtは、特に限定されないが、基本的には0(ゼロ)よりも大きな速度であり、車両SVの仕様等に応じて適宜の速度に設定することできる。減速支援制御は、車両SVの走行状態や車両SVの周囲の状況に基づき、ECU10が駆動装置41、制動装置42等の作動を制御することにより行われる。このため、ECU10には、駆動装置41、制動装置42、車両状態取得装置20、物標情報取得装置30等が通信可能に接続されている。
【0026】
駆動装置41は、車両SVの駆動輪に伝達する駆動力を発生させる。駆動装置41としては、例えば、エンジン、電動機が挙げられる。本実施装置において、車両SVは、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)、電気自動車(BEV)、エンジン車の何れであってもよい。制動装置42は、例えば、ディスク式ブレーキ装置であって、車両SVの車輪に制動力を付与する。
【0027】
車両状態取得装置20は、車両SVの状態を取得するセンサ類である。具体的には、車両状態取得装置20は、車速センサ21、アクセルセンサ22、ブレーキセンサ23、ヨーレートセンサ24、方向指示器スイッチ25等を備えている。
【0028】
車速センサ21は、車両SVの走行速度(車速V)を検出し、検出した車速VをECU10に送信する。車速センサ21は、車輪速センサであってもよい。アクセルセンサ22は、ドライバによる不図示のアクセルペダルの操作量を検出し、検出したアクセル操作量をECU10に送信する。ブレーキセンサ23は、ドライバによる不図示のブレーキペダルの操作量を検出し、検出したブレーキ操作量をECU10に送信する。ヨーレートセンサ24は、車両SVのヨーレートを検出し、検出したヨーレート値をECU10に送信する。方向指示器スイッチ25は、ドライバによる不図示の方向指示器レバーの操作方向を検出する。方向指示器スイッチ25は、ドライバが方向指示器レバーを右回りに操作すると、方向指示器レバーが右回りに操作されていることを示す信号をECU10に送信する。また、方向指示器スイッチ25は、ドライバが方向指示器レバーを左回りに操作すると、方向指示器レバーが左回りに操作されていることを示す信号をECU10に送信する。
【0029】
物標情報取得装置30は、車両SVの周囲の物標に関する物標情報を取得するセンサ類である。具体的には、物標情報取得装30は、カメラ31、レーダセンサ32等を備えている。ここで、物標情報としては、例えば、周辺車両、交差点、信号機、標識、道路の白線、停止線、一時停止線、落下物等が挙げられる。物標情報取得装置30によって取得される車両SVの周囲の物標情報はECU10に送信される。
【0030】
カメラ31は、例えば、車両SVのフロントウインドシールドガラスの上部に配設されている。カメラ31は、例えば、ステレオカメラや単眼カメラであり、CMOSやCCD等の撮像素子を有するデジタルカメラを用いることができる。カメラ31は、車両SVの前方を撮像し、撮像した画像データを処理することにより、車両SVの前方の物標情報を取得する。物標情報は、車両SVの前方に検知された物標の種類、車両SVと物標との相対距離、車両SVと物標との相対速度等を表す情報である。物標の種類は、例えば、パターンマッチング等の機械学習によって認識すればよい。
【0031】
レーダセンサ32は、例えば、車両SVの前端部に設けられており、車両SVの前方領域に存在する物標を検知する。レーダセンサ32には、ミリ波レーダ及び、又はライダが含まれる。ミリ波レーダは、ミリ波帯の電波(ミリ波)を放射し、放射範囲内に存在する物標によって反射されたミリ波(反射波)を受信する。ミリ波レーダは、送信したミリ波と受信した反射波との位相差、反射波の減衰レベル及び、ミリ波を送信してから反射波を受信するまでの時間等に基づいて、車両SVと物標との相対距離、車両SVと物標との相対速度等を取得する。ライダは、ミリ波よりも短波長のパルス状のレーザ光を複数の方向に向けて順次走査し、物標により反射される反射光を受光することにより、車両SVの前方に検知された物標の形状、車両SVと物標との相対距離、車両SVと物標との相対速度等を取得する。
【0032】
[減速支援制御]
次に、減速支援制御について説明する。ECU10は、その機能に着目すると、交差点認識部11、停止線推定部12、右左折意思判定部13、停止線認識部14、目標減速度演算部15、減速制御部16、徐変処理部17を一部の機能要素として有する。これら機能要素は、一体のハードウェアであるECU10に含まれるものとして説明するが、これらのいずれか一部をECU10とは別体のECUに設けることもできる。また、ECU10の機能要素の一部は、車両SVと通信可能な外部の情報処理装置等に設けることもできる。
【0033】
交差点認識部11は、物標情報取得装置30により取得される物標情報に基づき、車両SV前方の交差点(前方に複数の交差点が連続する場合は、最も手前の交差点)を認識する。交差点認識部11は、例えば、カメラ31によって撮像された交差点の信号機や標識等の画像データに基づき、パターンマッチング等の機械学習を行うことにより交差点を認識する。なお、交差点認識部11は、その他の画像処理により交差点を認識してもよく、或いは、レーダセンサ32が取得する物標情報に基づいて交差点を認識してもよい。
【0034】
交差点認識部11は、車両SVに対する交差点の相対位置を認識する。交差点認識部11は、カメラ31によって撮像された画像データを画像処理することにより、公知の手法を用いて交差点の相対位置を認識することができる。なお、交差点認識部11は、カメラ31の画像データの画像処理と、レーダセンサ32の検出結果とを組み合わせることにより交差点の相対位置を認識してもよい。或いは、交差点認識部11は、高度道路交通システム(ITS:Intelligent Transport Systems)とのデータ通信に基づいて交差点の位置を認識してもよく、GPS信号から取得される車両SVの現在位置とナビゲーションシステムの地図データとに基づいて交差点の位置を認識してもよい。
【0035】
停止線推定部12は、交差点認識部11が車両SVの前方の交差点を認識すると、認識した交差点の停止線位置を推定する。停止線推定部12は、例えば、交差点認識部11が認識した交差点の位置よりも所定距離dだけ車両SV側の位置を、停止線位置として推定する。ここで、所定距離dは、特に制限されないが、停止線位置が誤って交差点内に位置すると推定されない長さの距離を基準に設定することが好ましい。
【0036】
停止線推定部12は、車両SVが交差点に近づく状況において、車両SVに対する停止線の相対位置を所定周期で推定する。停止線推定部12は、交差点の位置に基づいて最初に推定した停止線位置を初期推定位置とし、以降は初期推定位置に対する車両SVの位置変化量に基づいて停止線の相対位置を所定周期で推定する。車両SVの位置変化量は、例えば、車速センサ21やヨーレートセンサ24の検出結果に基づいたオドメドリにより算出してよく、或いは、GPS信号等から取得される車両SVの軌跡に基づいて算出してもよい。以下では、停止線推定部12により推定される停止線の車両SVに対する相対位置を「推定停止線位置S1」と称する。
【0037】
右左折意思判定部13は、交差点認識部11が車両SV前方の交差点を認識した場合に、ドライバが交差点を右折又は左折する意思(以下、右左折意思)があるか否かを判定する。右左折意思判定部13は、例えば、車両SVと交差点との距離が所定の閾値距離Dv以下となった際に、方向指示器スイッチ25が右操作信号又は左操作信号の何れかの信号を検知した場合に、ドライバに右左折意思があると判定する。
【0038】
ここで、ドライバに右左折意思があることは、後述する減速制御を開始するトリガとなる。減速制御をカメラ31が交差点の停止線を認識した時から開始すると、減速制御がドライバの感覚よりも交差点に近いタイミングで開始され、ドライバに違和感を与えることになる。このため、右左折意思の判定に用いる閾値距離Dvは、カメラ31が交差点の停止線を認識可能となる距離よりも長い距離で設定することが好ましい。
【0039】
なお、右左折意思判定部13は、車両SVと交差点との距離が所定の閾値距離Dv以下となった際に、ドライバがアクセルペダルの踏み込みを解除(アクセルOFF)した場合に、ドライバに右左折意思があると判定してもよい。また、右左折意思判定部13は、車両SVが交差点の右折専用レーン又は左折専用レーンを走行していることを物標情報取得装置30によって取得した場合に、ドライバに右左折意思があると判定してもよい。また、右左折意思判定部13は、ナビゲーションシステムにより設定されたルートが、交差点で右折又は左折するルートに設定されている場合に、ドライバに右左折意思があると判定してもよい。
【0040】
停止線認識部14は、物標情報取得装置30により取得される物標情報に基づき、車両V前方の交差点の停止線(前方に複数の交差点が連続する場合は、最も手前の交差点の停止線)を認識する。停止線認識部14は、例えば、カメラ31により撮像される車両SV前方の画像データに基づき、パターンマッチング等の機械学習を行うことにより、停止線の車両SVに対する相対位置を認識する。停止線認識部14は、その他の画像処理により停止線の位置を認識してもよく、或いは、レーダセンサ32が取得する物標情報に基づいて停止線の位置を認識してもよい。
【0041】
停止線認識部14は、車両SVが交差点に近づく状況において、車両SVに対する停止線の相対位置を所定周期で認識する。停止線認識部14は、物標情報取得装置30が最初に停止線を取得した時に認識した停止線の位置を初期認識位置とし、以降は初期認識位置に対する車両SVの位置変化量に基づいて停止線の相対位置を所定周期で認識する。車両SVの位置変化量は、例えば、車速センサ21やヨーレートセンサ24の検出結果に基づいたオドメドリにより算出してよく、或いは、GPS信号等から取得される車両SVの軌跡に基づいて算出してもよい。このように、最初に認識した停止線の位置を初期認識位置とし、以降は車両SVの位置変化量に基づいて停止線の相対位置を認識することで、例えば、カメラ31が一度取得した停止線を先行車両等の存在により取得できない状態になったとしても、停止線の相対位置を確実に認識できるようになる。以下では、停止線認識部14により認識される停止線の車両SVに対する相対位置を「認識停止線位置S2」と称する。
【0042】
なお、車両SVが交差点に近づく状況において、物標情報取得装置30は、交差点の停止線を取得するよりも前に、交差点の信号機や標識などを先に取得することになる。このため、交差点認識部11が信号機や標識等に基づいて交差点の位置を認識し、停止線推定部12が交差点の位置から推定停止線位置S1を推定した後に、停止線認識部14が物標情報取得装置30の検出結果に基づいて認識停止線位置S2を認識することになる。
【0043】
目標減速度演算部15は、車両SVが交差点の停止線に到達するまでに、車両SVを右折又は左折に適した所定の目標速度Vtまで減速させるのに必要な目標減速度Gを演算する。ここで、目標減速度Gは、例えば、ECU10のROMに予め格納した減速度マップM1(図2参照)に基づいて演算することができる。この減速度マップM1は、例えば、車速Vと停止線位置とに基づいて参照されるマップであって、車速Vが速く、且つ、停止線位置が近いほど、目標減速度G(絶対値)が大きくなるように設定されている。
【0044】
目標減速度演算部15は、右左折意思判定部13がドライバに右左折意思があると判定すると、そのときの車速V及び、推定停止線位置S1に基づいて減速度マップM1を参照することにより、車両SVが推定停止線位置S1に到達するまでに目標速度Vtまで減速するのに必要な目標減速度(以下、第1目標減速度G1と称する)を演算する。
【0045】
また、目標減速度演算部15は、物標情報取得装置30が交差点の停止線を取得し、これに伴い停止線認識部14が認識停止線位置S2を認識すると、そのときの車速V及び、認識停止線位置S2に基づいて減速度マップM1を参照することにより、車両SVが認識停止線位置S2に到達するまでに目標速度Vtまで減速するのに必要な目標減速度(以下、第2目標減速度G2と称する)を演算する。
【0046】
なお、第1目標減速度G1及び、第2目標減速度G2は、減速度マップM1を用いる演算手法に限定されず、目標速度:Vt、初期速度:V、停止線までの距離:Lで表される数式:G=(Vt-V )/2Lに基づいて演算してもよい。また、第1目標減速度G1及び、第2目標減速度G2は、減速度マップM1や数式に基づいて演算した値を保持する一定値としてもよく、或いは、所定の演算周期で減速度マップM1又は数式を参照することにより、所定のプロファイルで変化させる可変値としてもよい。以下では、説明の便宜上、第1目標減速度G1及び、第2目標減速度G2は一定値で設定されるものとする。
【0047】
減速制御部16は、目標減速度演算部15により演算される目標減速度G1,G2で車両SVを減速させる減速制御を実施する。減速制御部16は、右左折意思判定部13がドライバに右左折意思があると判定すると、推定停止線位置S1を目標位置とし、車両SVを第1目標減速度G1で減速させる第1減速制御を実施する。第1減速制御は、車両SVの実際の減速度(以下、実減速度GA)と第1目標減速度G1との偏差に基づき、ブレーキ装置42の作動を制御することにより行われる。実減速度GAは、車速センサ21で検出される車速Vを微分することにより取得してもよく、或いは、車両状態取得装置20が加速度センサを備えていれば、加速度センサにより取得してもよい。
【0048】
減速制御部16は、第1減速制御の実施中に、停止線認識部14が物標情報取得装置30の検出結果に基づき認識停止線位置S2を認識すると、認識停止線位置S2を目標位置とし、車両SVを第2目標減速度G2で減速させる第2減速制御を実施する。第2減速制御も、第1減速制御と同様、車両SVの実減速度GAと第2目標減速度G2との偏差に基づき、ブレーキ装置42の作動を制御することにより行えばよい。なお、第1減速制御及び第2減速制御は、ブレーキ装置42による制動力のみならず、駆動装置41がエンジンの場合はエンジンブレーキ、駆動装置41が電動機の場合は回生ブレーキを併用してもよい。
【0049】
ここで、減速制御部16が、目標減速度を第1目標減速度G1から第2目標減速度G2に切り替えることにより、減速制御を第1減速制御から第2減速制御に移行させる場合、すなわち、減速制御の目標位置を推定停止線位置S1から認識停止線位置S2に切り替える場合を考える。推定停止線位置S1は、物標情報取得装置30の検出結果から推定した停止線の位置であり、認識停止線位置S2は、物標情報取得装置30の検出結果から直接的に認識した停止線の位置である。このため、車両SVの走行状態や、交差点周囲の地形、環境条件等によっては、これら推定停止線位置S1と認識停止線位置S2とに差異が生じる場合がある。推定停止線位置S1と認識停止線位置S2とに差異が生じると、これらに基づいて演算される第1目標減速度G1と第2目標減速度G2との間にも差異が生じることになる。
【0050】
具体的な例を図3,4に基づいて説明する。図3は、認識停止線位置S2が推定停止線位置S1よりも車両SV側にある場合の一例であり、図4は、推定停止線位置S1が認識停止線位置S2よりも車両SV側にある場合の一例である。
【0051】
図3に示す例では、認識停止線位置S2が推定停止線位置S1よりも車両SV側にあるため、認識停止線位置S2に基づいて演算される第2目標減速度G2の絶対値は、推定停止線位置S1に基づいて演算される第1目標減速度G1の絶対値よりも大きくなる。このため、目標減速度を第1目標減速度G1から第2目標減速度G2に瞬時に切り替えると、車両SVの実減速度GA(破線)が急激に低下し、車両SVに負の躍度J(ジャーク、加加速度)が発生することになる。
【0052】
図4に示す例では、推定停止線位置S1が認識停止線位置S2よりも車両SV側にあるため、推定停止線位置S1に基づいて演算される第1目標減速度G1の絶対値は、認識停止線位置S2に基づいて演算される第2目標減速度G2の絶対値よりも大きくなる。このため、目標減速度を第1目標減速度G1から第2目標減速度G2に瞬時に切り替えると、車両SVの実減速度GA(破線)が急激に上昇し、車両SVに正の躍度J(ジャーク、加加速度)が発生することになる。
【0053】
すなわち、図3,4の何れの場合においても、目標位置の推定停止線位置S1から認識停止線位置S2への切り替えに伴い、目標減速度を第1目標減速度G1から第2目標減速度G2に切り替えると、車両SVの挙動を急変させることになり、ドライバビリティの悪化を招くこといった課題がある。
【0054】
本実施形態のECU10は、このような課題を解決すべく、目標位置を推定停止線位置S1から認識停止線位置S2に切り替える際に、目標減速度を第1目標減速度G1から第2目標減速度G2に向けて徐々に変化させる徐変処理を実施する徐変処理部17を備えている。以下、徐変処理の詳細について説明する。
【0055】
[徐変処理]
徐変処理部17は、停止線認識部14が認識停止線位置S2を認識し、且つ、目標減速度演算部15が第2目標減速度G2を演算した時点において、第1目標減速度G1と第2目標減速度G2との差分を計算する。徐変処理部17は、計算した差分(絶対値)が所定の減速度閾値Gv以下の場合、徐変処理を実施しない。一方、徐変処理部17は、計算した差分(絶対値)が所定の減速度閾値Gvを超えている場合、徐変処理を実施する。ここで、減速度閾値Gvは、特に限定されないが、例えば、ドライバに不快感を与えない比較的小さな減速度の変化量を基準に設定すればよい。
【0056】
徐変処理部17は、差分(絶対値)が所定の減速度閾値Gvを超える実行条件が成立すると、徐変処理を実行する。徐変処理部17は、予め設定した単位時間当たりの減速度の変化率(以下、変化勾配GS)に基づき、目標減速度を第1目標減速度G1から第2目標変速度G2に向けて徐々に変化させる。変化勾配GSは、特に制限されないが、例えば、ドライバに不快感を与えない単位時間当たりの減速度の変化率を実験的に求め、該変化率を基準に設定すればよい。また、第1目標減速度G1と第2目標減速度G2を一定値ではなく、所定プロファイルで変化させる可変値とする場合、変化勾配GSは、第1減速制御や第2減速制御の実行中における減速度の変化率(変化傾向)とは異なる値で設定すればよい。
【0057】
図5は、第2目標変速度G2の絶対値が第1目標減速度G1の絶対値よりも大きい場合の徐変処理を説明する図であり、図6は、第2目標変速度G2の絶対値が第1目標減速度G1の絶対値よりも小さい場合の徐変処理を説明する図である。図5及び、図6中の破線は、目標減速度を第1目標減速度G1から第2目標変速度G2に瞬時に切り替えた場合の実減速度GA(比較例)である。
【0058】
図5に示すように、第2目標減速度G2の絶対値が第1目標減速度G1の絶対値よりも大きい場合、徐変処理部17は、予め設定した変化勾配GS(減少勾配)に基づき、時刻t1から時刻t2に亘って目標減速度を第1目標減速度G1から第2目標減速度G2に向けて徐々に減少させる。時刻t1から時刻t2の徐変期間、減速制御部16は、徐変処理により徐々に減少する目標減速度に基づいて減速制御を実行する。このように、時刻t1~t2の期間に亘って、目標減速度の単位時間当たりの減少量に制限をかける徐変処理を行うことで、目標減速度を瞬時に切り替える比較例(破線)に比べ、躍度J(加加速度、ジャーク)を効果的に低減でき、車両SVの挙動変化を確実に抑制できるようになる。
【0059】
図6に示すように、第2目標変速度G2の絶対値が第1目標減速度G1の絶対値よりも小さい場合、徐変処理部17は、予め設定した変化勾配GS(増加勾配)に基づき、時刻t1から時刻t2に亘って目標減速度を第1目標減速度G1から第2目標減速度G2に向けて徐々に増加させる。時刻t1から時刻t2の徐変期間、減速制御部16は、徐変処理により徐々に増加する目標減速度に基づいて減速制御を実行する。このように、時刻t1~t2の期間に亘って、目標減速度の単位時間当たりの増加量に制限をかける徐変処理を行うことで、目標減速度を瞬時に切り替える比較例(破線)に比べ、躍度J(加加速度、ジャーク)を効果的に低減でき、車両SVの挙動変化を確実に抑制できるようになる。
【0060】
次に、図7及び、図8に示すタイミングチャートに基づいて、本開示の減速支援制御の具体的な流れを説明する。
【0061】
図7図8に示す時刻t0~t1では、車両SVは所定の車速で走行している。ここで、車両SVの走行には、アダプティブ・クルーズ・コントロール(Adaptive Cruise Control:ACC)による自動走行、ドライバがアクセル操作をOFFにして走行する惰行走行等が含まれる。時刻t1にて、交差点認識部11が交差点Cを認識すると、停止線推定部12は交差点Cから所定距離dだけ車両SV側の位置を推定停止線位置S1として推定する。
【0062】
時刻t2にて、車両SVと交差点Cとの距離が閾値距離Dv以下となり、右左折意思判定部13がドライバに右左折意思があると判定すると、目標減速度演算部15は、そのときの車速V及び、推定停止線位置S1に基づいて第1目標減速度G1を演算する。また、第1目標減速度G1が演算されると、減速制御部16は、演算された第1目標減速度G1で車両SVを減速させる第1減速制御を開始する。なお、時刻t2~t3において、ドライバによりブレーキペダルが操作された場合、ドライバ要求減速度が第1目標減速度G1よりも大きければ、ECU10はドライバ要求減速度で車両SVを減速させるブレーキオーバーライドを実施する。
【0063】
時刻t3にて、物標情報取得装置30が停止線を取得し、これに伴い停止線認識部14が認識停止線位置S2を認識すると、目標減速度演算部15は、そのときの車速V及び、認識停止線位置S2に基づいて第2目標減速度G2を演算する。また、第2目標減速度G2が演算されると、徐変処理部17は、第1目標減速度G1と第2目標減速度G2との差分(絶対値)が所定の減速度閾値Gvを超えているか否かを判定する。差分が減速度閾値Gvを超えている場合、徐変処理部17は時刻t3から徐変処理を開始する。
【0064】
具体的には、図7に示す例では、車両SVに対して、認識停止線位置S2が推定停止線位置S1よりも近いため、第2目標変速度G2(絶対値)は第1目標減速度G1(絶対値)よりも大きな減速度で演算される。この場合、徐変処理部17は、実行条件が成立した時刻t3から、予め設定した変化勾配GS(減少勾配)に基づき、目標減速度を第1目標減速度G1から第2目標減速度G2に向けて徐々に減少させる徐変処理を実施する。時刻t3から目標減速度が第2目標減速度G2まで減少する時刻t4の期間、減速制御部16は、徐々に減少する目標減速度に基づいて車両SVを減速させる徐変減速制御を実行する。時刻t3から時刻t4までの徐変期間に亘って、単位時間当たりの減速度の減少量を制限する徐変処理を行うことで、車両SVの挙動変化を効果的に抑えられるようになる。
【0065】
一方、図8に示す例では、車両SVに対して、認識停止線S2の位置が推定停止線S1の位置よりも遠いいため、第2目標変速度G2(絶対値)は第1目標減速度G1(絶対値)よりも小さな減速度で演算される。この場合、徐変処理部17は、実行条件が成立した時刻t4から、予め設定した変化勾配GS(増加勾配)に基づき、車両SVの減速度を第1目標減速度G1から第2目標減速度G2に向けて徐々に増加させる徐変処理を実施する。時刻t5にて、減速度が第2目標減速度G2まで増加すると、徐変処理部17は徐変処理を終了する。時刻t3から時刻t4までの徐変期間に亘って、目標減速度の増加量を制限する徐変処理を行うことで、車両SVの挙動変化を効果的に抑えられるようになる。
【0066】
時刻t4にて、徐変終了を終了すると、減速制御部16は、第2目標減速度G2で車両SVを減速させる第2減速制御を開始する。なお、時刻t4~t5において、ドライバによりブレーキペダルが操作された場合、ドライバ要求減速度が第2目標減速度G2よりも大きければ、ECU10はドライバ要求減速度で車両SVを減速させるブレーキオーバーライドを実施する。時刻t5にて、車両SVが認識停止線位置S2に到達し、且つ、車両SVの車速Vが右左折に適した所定の目標速度Vtまで低下すると、ECU10は減速支援制御を終了する。
【0067】
次に、図9に示すフローチャートに基づいて、ECU10による減速支援制御のルーチンを説明する。本ルーチンは、車両SVが走行すると開始される。
【0068】
ステップS100では、ECU10は、物標情報取得装置30により取得される物標情報に基づき、車両SVの前方に交差点を認識したか否かを判定する。交差点を認識した場合(Yes)、ECU10はその処理をステップS105に進める。一方、交差点を認識しない場合(No)、ECU10は本ルーチンを一旦終了(リターン)する。
【0069】
ステップS105では、ECU10は、認識した交差点の位置に基づき、該交差点の停止線を推定する。具体的には、ECU10は、認識した交差点の位置よりも所定距離dだけ車両SV側の位置を、推定停止線位置S1として推定する。推定停止線位置S1を推定すると、ECU10はその処理をステップS110に進める。
【0070】
ステップS110では、車両SVと交差点との距離が所定の閾値距離Dv以下となったか否かを判定する。車両SVと交差点との距離が閾値距離Dv以下になった場合(Yes)、ECU10はその処理をステップS115に進める。一方、車両SVと交差点との距離が閾値距離Dv以下にならない場合(No)、ECU10はその処理をステップS100に戻す。
【0071】
ステップS115では、ECU10は、ドライバに右左折意思があるか否かを判定する。ドライバに右左折意思がある場合(Yes)、ECU10はその処理をステップS120に進める。一方、ドライバに右左折意思がない場合(No)、ECU10は本ルーチンを一旦終了(リターン)する。
【0072】
ステップS120では、ECU10は、ドライバに右左折意思があると判定した時の車速V及び、推定停止線位置S1に基づいて第1目標減速度G1を演算する。次いで、ステップS125では、ECU10は、第1目標減速度G1で車両SVを減速させる第1減速制御を実行する。
【0073】
ステップS130では、ECU10は、物標情報取得装置30が交差点の停止線位置を取得したか否かを判定する。物標情報取得装置30が交差点の停止線位置を取得した場合(Yes)、ECU10はその処理をステップS140に進める。一方、物標情報取得装置30が交差点の停止線位置を取得しない場合(No)、ECU10はその処理をステップS135に進める。
【0074】
ステップS135では、ECU10は、車両SVが推定停止線位置S1に到達するまでに、車両SVの車速Vが目標速度Vtまで低下する減速制御の終了条件が成立するか否かを判定する。終了条件が成立する場合(Yes)、ECU10は本ルーチンを一旦終了(リターン)する。一方、終了条件が成立しない場合(No)、ECU10はその処理をステップS115に戻す。
【0075】
ステップS130からステップS140に進むと、ECU10は、物標情報取得装置30が取得した停止線の位置を認識停止線位置S2として認識する。次いで、ステップS145では、ECU10は、認識停止線位置S2を認識した時の車速V及び、認識停止線位置S2に基づいて第2目標減速度G2を演算する。
【0076】
ステップS150では、ECU10は、第1目標減速度G1と第2目標減速度G2との差分が所定の減速度閾値Gvを超えているか否かを判定する。差分が減速度閾値Gvを超えている場合(Yes)、ECU10はその処理をステップS155に進める。一方、差分が減速度閾値Gvを超えていない場合(No)、ECU10はその処理をステップS170に進める。すなわち、徐変処理を実行することなく、第2減速制御を開始する。
【0077】
ステップS155では、ECU10は、徐変処理を実行する。具体的には、第2目標変速度G2(絶対値)が第1目標減速度G1(絶対値)よりも大きな減速度で設定された場合、ECU10は、予め設定した変化勾配GSに基づき、目標減速度を第1目標減速度G1から第2目標減速度G2に向けて徐々に減少させる徐変処理を実施する(図5参照)。一方、第2目標変速度G2(絶対値)が第1目標減速度G1(絶対値)よりも小さな減速度で設定された場合、ECU10は、予め設定した変化勾配GSに基づき、目標減速度を第1目標減速度G1から第2目標減速度G2に向けて徐々に増加させる徐変処理を実施する(図6参照)。徐変処理により目標減速度が徐々に増加又は減少する間、ECU10は増加又は減少する目標減速度に基づいて車両SVを減速させる。
【0078】
ステップS160では、ECU10は、徐変処理により車両SVの減速度が第2目標減速度G2に一致したか否かを判定する。目標減速度が第2目標減速度G2に一致した場合(Yes)、ECU10は徐変処理を終了し、その処理をステップS170に進める。一方、減速度が第2目標減速度G2に一致しない場合(No)、ECU10はその処理をステップS155に戻す。すなわち、徐変処理を継続する。
【0079】
ステップS170では、ECU10は、第2目標減速度G2で車両SVを減速させる第2減速制御を実行する。次いで、ステップS180では、ECU10は、車両SVが認識停止線位置S2に到達するまでに、車両SVの車速Vが目標速度Vtまで低下する減速制御の終了条件が成立するか否かを判定する。終了条件が成立する場合(Yes)、ECU10は本ルーチンを一旦終了(リターン)する。一方、終了条件が成立しない場合(No)、ECU10はその処理をステップS185に進める。
【0080】
ステップS185では、ECU10は、物標情報取得装置30が停止線の位置を取得できるか否かを判定する。物標情報取得装置30が停止線の位置を取得できる場合(Yes)、ECU10は、その処理をステップS190に進める。ステップS190では、ECU10は、物標情報取得装置30により取得される停止線の位置を新たな認識停止線位置S2とし、その時の車速Vと新たに認識した認識停止線位置S2とに基づいて第2目標減速度G2を再設定する。第2目標減速度G2を再設定したならば、ECU10は、ステップS170の処理に進んで、再設定した目標減速度G2に基づいて第2減速制御を継続する。
【0081】
ステップS185にて、物標情報取得装置30が停止線の位置を取得できない状態になっていると判定した場合(No)、ECU10は、その処理をステップS195に進める。ステップS195では、ECU10は、その時の車速Vと、ステップS140で認識した認識停止線位置S2及び車両SVの位置変化量から演算した現在の停止線の相対位置とに基づいて、新たな第2目標減速度G2を再設定する。第2目標減速度G2を再設定したならば、ECU10は、ステップS170の処理に進んで、再設定した目標減速度G2に基づいて第2減速制御を継続する。すなわち、物標情報取得装置30が先行車両等の存在によって停止線を取得できない状態になった場合には、ステップS140で認識した認識停止線位置S2に基づいて第2減速制御を継続できるように構成されている。これにより、第2減速制御の開始後に物標情報取得装置30が停止線を取得できない状態になったとしても、車両SVを目標速度Vtまで確実に減速させることが可能になる。
【0082】
以降、ECU10は、走行中の車両SVが停止するまで、上述のステップS100~195の処理を繰り返し実行する。
【0083】
以上詳述した本実施形態によれば、ECU10は、物標情報取得装置30が停止線を取得するよりも前に交差点を取得すると、取得した交差点の位置に基づいて推定停止線位置S1を推定し、ドライバに右左折意思がある場合には、車両SVを所定の第1目標減速度G1で減速させる第1減速制御を実行する。これにより、物標情報取得装置30が停止線を取得した時から減速制御を実行する場合に比べ、ドライバの感覚に近いタイミングで減速制御を開始できるようになり、ドライバの違和感を確実に低減することができる。
【0084】
また、ECU10は、第1減速制御を開始した後、物標情報取得装置30が停止線の位置を取得すると、当該取得された停止線の位置を認識停止線位置S2とし、車両SVを所定の第2目標減速度G2で減速させる第2減速制御を実行する。この際、ECU10は、第1目標減速度G1と第2目標減速度G2との差分が所定の減速度閾値Gvを超えている場合には、予め設定した変化勾配GSに基づき、目標減速度を第1目標減速度G1から第2目標減速度G2に向けて徐々に変化させる徐変処理を実施する。これにより、車両SVの減速度が大きく急変することを効果的に防止でき、車両の挙動変化を抑制できるようになり、ドライバビリティの悪化を確実に防止することが可能になる。
【0085】
以上、本実施形態に係る制御装置、車両、制御方法及び、プログラムについて説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0086】
[変形例1]
例えば、徐変処理に用いる変化勾配GSは、一律の値(固定値)に限定されず、徐変処理の実行条件が成立した時の車両SVの実減速度GA(又は、第1目標減速度G1)と第2目標減速度G2との差分に応じた可変値としてもよい。
【0087】
図10は、変形例1で用いる勾配設定マップM2の一例を示す模式図である。勾配設定マップM2は、車両SVの実減速度GA(又は、第1目標減速度G1)と第2目標減速度G2との差分に基づいて参照されるマップであって、ECU10のROMに予め格納されている。勾配設定マップM2において、変化勾配GS(単位時間当たりの減速度の変化率)は、差分が大きくなるほどが大きい値となるように設定されている。徐変処理部17は、徐変処理の実行条件が成立した時の実減速度GA(第1目標減速度G1)と第2目標減速度G2との差分に基づき、勾配設定マップM2を参照することにより、差分に応じた変化勾配GSを設定するとともに、設定した変化勾配GSに基づいて徐変処理を実施する。
【0088】
すなわち、図11に示すように、実減速度GA(図示例では第1目標減速度G1)と第2目標減速度G2との差分が大きい場合、変化勾配GSは比較的大きな値に設定される。一方、図12に示すように、実減速度GA(図示例では第1目標減速度G1)と第2目標減速度G2との差分が小さい場合、変化勾配GSは比較的小さな値に設定される。
【0089】
このように、目標減速度の変化勾配GSを実減速度GA(第1目標減速度G1)と第2目標減速度G2との差分に応じた可変値にすることで、差分が大きい場合は目標減速度が大きな変化勾配GSで第2目標減速G2に向けて徐変されるようになり、変化勾配GSを一律の固定値とした場合(図中破線)に比べ、徐変期間t1~t2が長くなることを効果的に防止できるようになる。また、実減速度GA(第1目標減速度G1)と第2目標減速度G2との差分が小さい場合は、目標減速度が小さな変化勾配GSで第2目標減速G2に向けて徐変されるようになり、変化勾配GSを一律の固定値とした場合(図中破線)に比べ、車両SVの躍度Jが必要以上に大きくなることを効果的に防止できるようになる。
【0090】
[変形例2]
徐変処理に用いる変化勾配GSは、交差点の信号機の点灯色に応じた可変値としてもよい。信号機の点灯色は、カメラ31によって撮像される交差点の信号機の画像データに基づき、パターンマッチング等の機械学習を行うことにより認識すればよい。
【0091】
例えば、図13,14に示すように、徐変処理の実行条件が成立する時刻t1にて、カメラ31が信号機の点灯色を「青色B」又は、右左折を許可する「矢印」であると認識した場合、徐変処理部17は、予め設定した変化勾配GSに基づいて徐変処理を実施する。
【0092】
一方、図15,16に示すように、徐変処理の実行条件が成立する時刻t1にて、カメラ31が信号機の点灯色を「黄色Y」と認識した場合において、(1)車両SVが認識停止線位置S2に到達するまでに安全に停止できない車速Vで走行していると判断した場合、或いは、(2)多数の車両から収集した交差点での右左折タイミングを含むビックデータに基づき、車両SVと停止線との距離及び車速Vが、車両SVを停止線で停止させることなく交差点で右左折させることが可能な状態にあると判断した場合、徐変処理部17は、車両SVが認識停止線位置S2に到達するまでに大きく減速しないよう変化勾配GSを設定する。
【0093】
具体的には、図15に示すように、第2目標減速度G2の絶対値が第1目標減速度G1の絶対値よりも大きい場合、徐変処理部17は、信号機の点灯色が「青色」又は「矢印」の場合(破線参照)に比べ、変化勾配GS(単位時間当たりの減速度の変化率)を小さく設定する。一方、図16に示すように、第2目標減速度G2の絶対値が第1目標減速度G1の絶対値よりも小さい場合、徐変処理部17は、信号機の点灯色が「青色」又は「矢印」の場合(破線参照)に比べ、変化勾配GS(単位時間当たりの減速度の変化率)を大きく設定する。
【0094】
このように、信号機の点灯色が「黄色Y」であり、且つ、車両SVを交差点で停止させることなく右左折させる方が適した状況において、第2目標減速度G2が第1目標減速度G1よりも大きい場合は減速度の増加を遅らせ、第2目標減速度G2が第1目標減速度G1よりも小さい場合は減速度の減少を早めることで、車両SVが停止線に到達するまでに大きく減速することを防止できるようになる。これにより、ドライバの円滑な右左折を効果的に支援することが可能になる。また、車両SVの急減速に伴う後続車両の追突を防止でき、安全性の向上を図ることも可能になる。
【0095】
なお、詳細な図示は省略するが、徐変処理の実行条件が成立する時刻t1にて、カメラ31が信号機の点灯色を「赤色」と認識した場合、減速制御部16は、車両SVが認識停止線S2の位置又は、認識停止線S2よりも手前の位置で停止するように、減速制御を実施すればよい。
【0096】
[その他]
本開示は、ドライバに右左折意思がある場合に減速制御を実行するものとして説明したが、ドライバに右左折意思が無い場合であっても、車両SVの前方に減速対象として一時停止線、信号機のない横断歩道、衝突する可能性が高い先行車両、人、自転車等の障害物を検知した場合に減速制御を実行するように構成してもよい。この場合、目標速度Vtは、例えば0(ゼロ)とすればよい。
【符号の説明】
【0097】
1…減速支援装置,10…ECU,11…交差点認識部,12…停止線推定部,13…右左折意思判定部,14…停止線認識部,15…目標減速度演算部,16…減速制御部,17…徐変処理部,20…車両状態取得装置,30…物標情報取得装置,31…カメラ,32…レーダセンサ,41…駆動装置,42…制動装置,SV…車両
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