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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】圧力逃がし弁
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/04 20060101AFI20240730BHJP
   F16K 17/38 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
F17C13/04 301D
F16K17/38 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021214402
(22)【出願日】2021-12-28
(65)【公開番号】P2023097971
(43)【公開日】2023-07-10
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 千明
【審査官】森本 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-056822(JP,A)
【文献】特開2021-028519(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015203248(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0293958(US,A1)
【文献】中国実用新案第214619049(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 13/04
F16K 17/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧タンクに使用される圧力逃がし弁であって、
前記高圧タンクに貯留されている貯留物を、前記高圧タンクの内部から前記高圧タンクの外部に放出可能な放出流路と、
前記放出流路内に配置されており、前記放出流路を閉塞する閉塞位置と、前記放出流路を開放する開放位置との間を移動可能に支持された弁体と、
前記弁体を前記閉塞位置に拘束する第1位置と、前記弁体の前記開放位置への移動を許容する第2位置との間を移動可能に支持されたストッパ部材と、
前記ストッパ部材に接続された複数の感温作動機構と、
を備え、
前記複数の感温作動機構のそれぞれは、基準値以上の温度を感知したときに、前記ストッパ部材を前記第1位置から前記第2位置へ移動させ、
前記ストッパ部材は、前記第1位置と前記第2位置との間を、回動軸を中心に回動可能に支持されており
前記複数の感温作動機構は、第1感温作動機構と、第2感温作動機構と、を備え、
前記第1感温作動機構と前記ストッパ部材との間の接続位置は、前記第2感温作動機構と前記ストッパ部材との間の接続位置に対して、前記回動軸の周りに120度以上の間隔を有して配置されている、
圧力逃がし弁。
【請求項2】
前記複数の感温作動機構のそれぞれは、前記基準値以上の温度で溶融する溶融部材を備える、請求項1に記載の圧力逃がし弁。
【請求項3】
前記複数の感温作動機構のそれぞれは、初期位置と作動位置との間を移動可能であり、前記作動位置に向けて付勢されているシャフト部材をさらに備え、
前記シャフト部材は、前記初期位置から前記作動位置へ移動したときに、前記ストッパ部材を前記第1位置から前記第2位置へ移動させ、
前記溶融部材は、前記シャフト部材を前記初期位置に保持している、請求項2に記載の圧力逃がし弁。
【請求項4】
前記複数の感温作動機構のそれぞれは、前記シャフト部材を前記作動位置に向けて付勢する付勢部材をさらに備える、請求項3に記載の圧力逃がし弁。
【請求項5】
前記ストッパ部材と前記弁体とは、互いに独立した部材で構成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の圧力逃がし弁。
【請求項6】
前記ストッパ部材が前記第1位置と前記第2位置との間で移動する方向は、前記弁体が前記閉塞位置と前記開放位置との間で移動する方向と異なる、請求項5に記載の圧力逃がし弁。
【請求項7】
前記高圧タンクは、車両に搭載されており、前記高圧タンクに対して下側に位置する前記車両の下側プロテクタと、前記高圧タンクに対して上側に位置する前記車両の上側プロテクタと、の間に配置されており、
前記第1感温作動機構は、前記ストッパ部材よりも前記上側プロテクタ側に配置されており、
前記第2感温作動機構は、前記ストッパ部材よりも前記下側プロテクタ側に配置されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の圧力逃がし弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、圧力逃がし弁に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圧力逃がし弁が開示されている。圧力逃がし弁は、高圧タンクに使用される。圧力逃がし弁は、高圧タンクに貯留されている貯留物を、高圧タンクの内部から高圧タンクの外部に放出可能な放出流路と、放出流路内に配置されており、放出流路を閉塞する閉塞位置と放出流路を開放する解放位置との間を移動可能に支持された弁体と、弁体を閉塞位置に拘束する第1位置と弁体の開放位置への移動を許容する第2位置との間を移動可能に支持されたストッパ部材と、基準値以上の温度で溶融する溶融部材と、を備える。溶融部材が溶融すると、ストッパ部材は、第1位置から第2位置に移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-044863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の溶融部材は、例えば火災等により、高圧タンクが高温にさらされた場合に溶融する。上記の圧力逃がし弁では、例えば、圧力逃がし弁に対して第1方向側で高温となった場合には、溶融部材を溶融させることができる一方、圧力逃がし弁に対して第1方向と異なる第2方向側で高温となった場合には、溶融部材を溶融させるのに時間がかかる。圧力逃がし弁に対して第2方向側で高温となった場合にも溶融部材を迅速に溶融させるためには、圧力逃がし弁は、ストッパ部材と溶融部材のセットをさらに備える必要がある。この構成では、圧力逃がし弁の構造が複雑となる。本明細書では、圧力逃がし弁の構造が複雑となることを抑制しつつ、高圧タンクが様々な方向から高温にさらされた場合でも高圧タンク内の貯留物を迅速に放出することができる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する圧力逃がし弁は、高圧タンクに使用される。圧力逃がし弁は、高圧タンクに貯留されている貯留物を、高圧タンクの内部から高圧タンクの外部に放出可能な放出流路と、放出流路内に配置されており、放出流路を閉塞する閉塞位置と、放出流路を開放する開放位置との間を移動可能に支持された弁体と、弁体を閉塞位置に拘束する第1位置と、弁体の開放位置への移動を許容する第2位置との間を移動可能に支持されたストッパ部材と、ストッパ部材に接続された複数の感温作動機構と、を備える。複数の感温作動機構のそれぞれは、基準値以上の温度を感知したときに、ストッパ部材を第1位置から第2位置へ移動させる。
【0006】
上記の構成では、1個のストッパ部材に対して、複数の感温作動機構が接続されている。従って、高圧タンクが高温にさらされた場合に、複数の感温作動機構のいずれかがストッパ部材を第1位置から第2位置へ移動させることにより、弁体を閉塞位置から開放位置に迅速に移動させることができる。これにより、高圧タンクが様々な方向から高温にさらされた場合でも、高圧タンク内の貯留物を放出流路を通して迅速に放出することができる。複数の感温作動機構に対して、1個のストッパ部材が共用されていることから、圧力逃がし弁の構造が複雑となることも抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】車両と水素高圧タンクの圧力逃がし弁の側面図である。
図2】ストッパ部材が第1位置に位置し、弁体24が閉塞位置に位置するときの放出機構近傍の断面図である。
図3】ストッパ部材が第2位置に位置し、弁体24が開放位置に位置するときの放出機構近傍の断面図である。
図4】ストッパ部材が第1位置に位置するときの第1感温作動機構40と第2感温作動機構42の断面図である。
図5】ストッパ部材が第2位置に位置するときの第1感温作動機構40と第2感温作動機構42の断面図である。
【0008】
本技術の一実施形態において、複数の感温作動機構のそれぞれは、基準値以上の温度で溶融する溶融部材を備えてもよい。
【0009】
複数の感温作動機構のそれぞれが、溶融部材ではなく、センサを備える構成では、センサが故障した場合、高圧タンクが高温にさらされても、ストッパ部材を第1位置から第2位置に移動させることができない。上記の構成によれば、高圧タンクが高温にさらされた場合に、溶融部材は溶融する。これにより、ストッパ部材を第1位置から第2位置に確実に移動させることができる。
【0010】
本技術の一実施形態において、複数の感温作動機構のそれぞれは、初期位置と作動位置との間を移動可能であり、作動位置に向けて付勢されているシャフト部材をさらに備えてもよい。シャフト部材は、初期位置から作動位置へ移動したときに、ストッパ部材を第1位置から第2位置へ移動させてもよい。溶融部材は、シャフト部材を初期位置に保持してもよい。
【0011】
上記の構成では、溶融部材は、基準値未満の温度であるときには溶融しないため、溶融部材が溶融していないとき、シャフト部材が初期位置に確実に保持される。このため、温度が基準値未満の温度であるときに、シャフト部材は作動位置に移動しない。ストッパ部材が第1位置から第2位置に移動することを抑制することができる。
【0012】
本技術の一実施形態において、複数の感温作動機構のそれぞれは、シャフト部材を作動位置に向けて付勢する付勢部材をさらに備えてもよい。
【0013】
上記の構成では、簡素な構成により、溶融部材が溶融したときに、シャフト部材を作動位置に迅速に移動させることができる。
【0014】
本技術の一実施形態において、ストッパ部材と弁体とは、互いに独立した部材で構成されていてもよい。
【0015】
ストッパ部材と弁体とが一体部材である場合、一体部材は、放出流路を閉塞するための構成と、放出流路を閉塞する状態から放出流路を開放する状態に切り替えるための構成を両方備える必要がある。これにより、一体部材の構成が複雑となる。上記の構成では、ストッパ部材と弁体との構成が複雑となることを抑制することができる。
【0016】
本技術の一実施形態において、ストッパ部材が第1位置と第2位置との間で移動する方向は、弁体が閉塞位置と開放位置との間で移動する方向と異なってもよい。
【0017】
上記の構成では、圧力逃がし弁が、弁体が閉塞位置と開放位置との間で移動する方向に大型化することを抑制することができる。
【0018】
本技術の一実施形態において、ストッパ部材は、第1位置と第2位置との間を、回動軸を中心に回動可能に支持されていてもよい。
【0019】
上記の構成では、簡素な構成により、ストッパ部材を第1位置から第2位置に移動させることができる。
【0020】
本技術の一実施形態において、複数の感温作動機構は、第1感温作動機構と、第2感温作動機構と、を備えてもよい。第1感温作動機構とストッパ部材との間の接続位置は、第2感温作動機構とストッパ部材との間の接続位置に対して、回動軸の周りに120度以上の間隔を有して配置されていてもよい。
【0021】
第1感温作動機構とストッパ部材との間の接続位置が第2感温作動機構とストッパ部材との間の接続位置に対して、回動軸の周りに120度未満の間隔を有して配置されている構成では、例えば、ストッパ部材に対して第1感温作動機構と反対側で高温となった場合に、第1感温作動機構と第2感温作動機構の両方を作動させるのに時間がかかることがある。上記の構成では、高圧タンクが様々な方向から高温にさらされた場合でも、第1感温作動機構と第2感温作動機構の少なくとも一方を迅速に作動させることができる。
【0022】
本技術の一実施形態において、高圧タンクは、車両に搭載されており、高圧タンクに対して下側に位置する車両の下側プロテクタと、高圧タンクに対して上側に位置する車両の上側プロテクタと、の間に配置されていてもよい。第1感温作動機構は、ストッパ部材よりも上側プロテクタ側に配置されていてもよい。第2感温作動機構は、ストッパ部材よりも下側プロテクタ側に配置されていてもよい。
【0023】
上記の構成では、高圧タンクに対して上側プロテクタ側で高温となった場合と、高圧タンクに対して下側プロテクタ側で高温となった場合の両方のケースにおいて、感温作動機構を迅速に作動させることができる。
【0024】
本技術の一実施形態において、貯留物は、水素であってもよい。
【0025】
高圧タンクに貯蔵されている水素を高温環境下に配置することは危険である。このため、高圧タンクが高温にさらされた場合に、高圧タンクから水素を確実に放出する必要がある。上記の構成では、水素を貯留する高圧タンクが使用される場合であっても、圧力逃がし弁の構造が複雑となることを抑制しつつ、高圧タンクが様々な方向から高温にさらされた場合でも高圧タンク内の水素を放出流路を通して確実に放出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施例)
本実施例では、図1から図5を参照して、圧力逃がし弁10を説明する。図1に示すように、圧力逃がし弁10は、高圧タンク2に使用される。高圧タンク2は、水素を貯留している。高圧タンク2は、例えば、燃料電池に水素を供給する供給源として使用される。高圧タンク2は、電気自動車等の車両100に搭載される。まず、図1を参照して、高圧タンク2が搭載される車両100について説明する。
【0027】
車両100は、下側プロテクタ102と、上側プロテクタ104と、を備える。下側プロテクタ102と上側プロテクタ104は、車両100の下部に位置する。下側プロテクタ102は、上側プロテクタ104よりも、車両100が走行する走行面(図示省略)側に配置されている。以下では、走行面に近づく方向を下方向と呼び、走行面から離れる方向を上方向と呼ぶ。上側プロテクタ104は、下側プロテクタ102よりも上側に、下側プロテクタ102と離れて配置されている。これにより、下側プロテクタ102と上側プロテクタ104との間には、タンク室106が形成されている。タンク室106には、高圧タンク2が配置されている。
【0028】
下側プロテクタ102は、下側プレート部材110と、中間プレート部材112と、上側プレート部材114と、断熱材116と、を備える。下側プレート部材110は、金属材料、例えば、アルミからなる。下側プレート部材110は、下側プレート部材110を貫通する下側開口110aを有する。中間プレート部材112は、下側プレート部材110の上側に部分的に配置されている。中間プレート部材112は、金属材料、例えば、ステンレスからなる。上側プレート部材114は、中間プレート部材112の上側に配置されている。上側プレート部材114と下側プレート部材110との間には、部分的に空気層が形成されている。上側プレート部材114は、上側プレート部材114を貫通する上側開口114aを有する。上下方向に関して、上側開口114aは、下側開口110aと重なり合っている。断熱材116は、上側プレート部材114の上側に部分的に配置されている。断熱材116は、下側プロテクタ102を介した熱の伝達を抑制する。
【0029】
次に、圧力逃がし弁10を説明する。圧力逃がし弁10は、高圧タンク2のバルブユニット4の一部を構成している。圧力逃がし弁10は、高圧タンク2内の水素を高圧タンク2の外部に放出するように構成されている。圧力逃がし弁10は、ベース12と、放出機構14と、を備える。ベース12は、バルブユニット4を構成する構造体であり、放出機構14は、ベース12に対して設けられた可動機構である。
【0030】
図2および図3に示すように、ベース12は、放出流路16と、収容室18と、を備える。高圧タンク2内の水素が高圧タンク2の外部に放出されるときに、水素が放出流路16を通過する。放出流路16は、第1放出流路20と、第2放出流路22と、を備える。第2放出流路22は、第1放出流路20の一端に接続されている。第1放出流路20の一端は、高圧タンク2内の水素が第1放出流路20を流れる方向における第1放出流路20の下流端に等しい。収容室18は、第1放出流路20の下流端に接続されている。
【0031】
放出機構14は、弁体24と、ストッパ部材26と、複数(本実施例では2個)の感温作動機構28と、を備える。弁体24は、第1放出流路20に配置されている。弁体24は、閉塞位置(図2参照)と開放位置(図3参照)との間を直線的に移動可能にベース12に支持されている。弁体24は、高圧タンク2内の水素からの圧力を受けて閉塞位置から開放位置に向けて移動する。図2に示すように、弁体24が閉塞位置に位置するとき、弁体24は、第1放出流路20と第2放出流路22との接続箇所近傍に配置されて、第2放出流路22を第1放出流路20側から塞ぐ。これにより、放出流路16が閉塞している。この状態では、高圧タンク2内の水素は、高圧タンク2の外部に放出されない。図3に示すように、弁体24が開放位置に位置するとき、弁体24は、第1放出流路20と収容室18の両方に跨って配置されて、第2放出流路22を塞がない。これにより、放出流路16が開放している。この状態では、高圧タンク2内の水素は、高圧タンク2の外部に放出される。
【0032】
ストッパ部材26は、弁体24と別体である。ストッパ部材26は、収容室18に配置されている。ストッパ部材26は、第1位置(図2および図4参照)と第2位置(図3および図5参照)との間を移動可能にベース12に支持されている。本実施例では、ストッパ部材26は、第1位置と第2位置との間を、回動軸RXを中心に回動可能にベース12に支持されている。回動軸RXは、弁体24の移動方向に対して平行である。ストッパ部材26は、ストッパ本体32と、第1支持棒34と、第2支持棒36と、を備える。
【0033】
図4および図5に示すように、ストッパ本体32は、切り欠き部32aを有する略半円板形状を有する。なお、図4図5では、ストッパ部材26の形状と位置を理解し易くするために、ストッパ部材26にドットハッチが付されている。また、図4では、第1放出流路20の下流端が破線で図示されている。図4に示すように、ストッパ部材26が第1位置に位置するとき、ストッパ本体32は、第1放出流路20を下流端側から塞いでいる。このとき、図2に示すように、ストッパ本体32は、弁体24を閉塞位置に拘束する。図5に示すように、ストッパ部材26が第2位置に位置するとき、ストッパ本体32の切り欠き部32aが第1放出流路20の下流端と対向する。ストッパ本体32は、第1放出流路20を塞がない。このとき、図3に示すように、ストッパ部材26は、弁体24が開放位置に向かって移動することを許容する。
【0034】
第1支持棒34は、回動軸RXに沿ってストッパ本体32から外側に向かって延びている。図示省略しているが、第2支持棒36も、回動軸RXに沿ってストッパ本体32から外側に向かって延びている。図4に示すように、第1支持棒34は、第2支持棒36に対して、回動軸RXの周りに120度以上の間隔(本実施例では180度の間隔)を有して配置されている。
【0035】
図1に示すように、複数の感温作動機構28は、第1感温作動機構40と、第2感温作動機構42と、を備える。第1感温作動機構40と第2感温作動機構42は、上下方向に間隔を有して配置されている。第1感温作動機構40と第2感温作動機構42は、ベース12の一端に固定されている。第1感温作動機構40は、ストッパ部材26よりも上側プロテクタ104側に配置されている。第2感温作動機構42は、ストッパ部材26よりも下側プロテクタ102側に配置されている。
【0036】
図4および図5に示すように、第1感温作動機構40は、第1ハウジング44と、第1支持部材46と、第1シャフト部材48と、第1溶融部材50と、第1付勢部材52と、を備える。第1ハウジング44は、ベース12の一端に固定されている。第1ハウジング44は、一端に底壁44aを有する略円筒形状を有する。第1ハウジング44の底壁44aには、底壁44aを厚み方向に貫通する貫通孔44bが形成されている。第1支持部材46は、第1ハウジング44の他端の開口を閉塞している。
【0037】
第1シャフト部材48は、略L字形状を有する。第1シャフト部材48は、第1ハウジング44の貫通孔44bに挿入されている。第1シャフト部材48の一部分は、第1ハウジング44の内部に配置されている。第1シャフト部材48の一端は、第1支持棒34に接続されている。第1シャフト部材48は、初期位置(図4参照)と作動位置(図5参照)との間を上下方向に移動可能である。第1シャフト部材48が初期位置から作動位置に向かって移動するとき、第1シャフト部材48は、上側に向かって(即ち上側プロテクタ104に向かって)移動する。図5に示すように、第1シャフト部材48が作動位置に位置するとき、第1シャフト部材48は、第1支持部材46に当接している。
【0038】
図4に示すように、第1溶融部材50は、第1ハウジング44の内部に配置されている。第1溶融部材50は、可溶金属材料、例えば、鉛やスズからなる。第1溶融部材50は、基準値以上の温度、例えば、110度以上の温度で溶融する。第1溶融部材50は、第1支持部材46と第1シャフト部材48の他端との間に配置されている。第1溶融部材50は、第1シャフト部材48の他端に当接することにより、第1シャフト部材48を初期位置に保持している。
【0039】
第1付勢部材52は、第1ハウジング44の内部に配置されている。第1付勢部材52の一端は、第1ハウジング44に当接しており、第1付勢部材52の他端は、第1シャフト部材48に接続されている。第1付勢部材52の内部には、第1シャフト部材48が挿入されている。第1付勢部材52は、例えば、バネ部材である。第1付勢部材52は、第1シャフト部材48を作動位置に向けて付勢する。このため、第1溶融部材50が溶融したとき、第1シャフト部材48は、第1付勢部材52の付勢力を受けて、作動位置に向かって移動する。
【0040】
第2感温作動機構42は、第2ハウジング56と、第2支持部材58と、第2シャフト部材60と、第2溶融部材62と、第2付勢部材64と、を備える。第2ハウジング56と、第2支持部材58と、第2シャフト部材60と、第2溶融部材62と、第2付勢部材64のそれぞれは、第1ハウジング44と、第1支持部材46と、第1シャフト部材48と、第1溶融部材50と、第1付勢部材52のそれぞれと同様の構成を有する。
【0041】
第1感温作動機構40と第2感温作動機構42の位置関係を説明する。第1シャフト部材48の一端が第1支持棒34に接続されており、第2シャフト部材60の一端は、第2支持棒36に接続されている。このため、第1シャフト部材48と第1支持棒34との間の接続位置は、第2シャフト部材60と第2支持棒36との間の接続位置に対して、回動軸RXの周りに120度以上の間隔(本実施例では180度の間隔)を有して配置されている。即ち、第1感温作動機構40は、第2感温作動機構42に対して、回動軸RXの周りに120度以上の間隔(本実施例では180度の間隔)を有して配置されている。
【0042】
次に、高圧タンク2が高温にさらされた場合に高圧タンク2内の水素を高圧タンク2の外部に放出する流れを説明する。まず、上側プロテクタ104が高温となることにより高圧タンク2が高温にさらされた場合に高圧タンク2内の水素を高圧タンク2の外部に放出する流れを説明する。この場合、少なくとも第1感温作動機構40が高温にさらされる。第1感温作動機構40が高温にさらされると、第1溶融部材50は、迅速に基準値以上の温度となり、溶融する。
【0043】
図5に示すように、第1溶融部材50が溶融すると、第1シャフト部材48は、第1付勢部材52の付勢力を受けて、初期位置から作動位置まで上側に向かって移動する。第1シャフト部材48の移動に伴い、ストッパ部材26は、回動軸RX周りを第1位置から第2位置まで回動する。このとき、第1シャフト部材48の移動により、第2シャフト部材60と第2支持棒36との接続が解除される。ストッパ部材26が第2位置まで回動すると、ストッパ本体32の切り欠き部32aが第1放出流路20の下流端と対向する。図3に示すように、弁体24がストッパ部材26と当接しなくなるために、弁体24は、高圧タンク2内の水素からの圧力を受けて、第1放出流路20に沿って(回動軸RXに沿って)閉塞位置から開放位置まで移動する。これにより、第1放出流路20は、第2放出流路22と連通する。高圧タンク2内の水素は、放出流路16を通り、高圧タンク2の外部に放出される。
【0044】
次に、下側プロテクタ102が高温となることにより高圧タンク2が高温にさらされた場合に高圧タンク2内の水素を高圧タンク2の外部に放出する流れを説明する。この場合、少なくとも図4に示す第2感温作動機構42が高温にさらされる。第2感温作動機構42が高温にさらされると、第2溶融部材62は、迅速に基準値以上の温度となり、溶融する。
【0045】
第2溶融部材62が溶融すると、第2シャフト部材60は、第2付勢部材64の付勢力を受けて、初期位置から作動位置まで下側に向かって移動する。第2シャフト部材60の移動に伴い、ストッパ部材26は、回動軸RX周りを第1位置から第2位置まで回動する。このとき、第2シャフト部材60の移動により、第1シャフト部材48と第1支持棒34との接続が解除される。なお、第2感温作動機構42が高温にさらされた場合でのストッパ部材26が回動する方向は、第1感温作動機構40が高温にさらされた場合でのストッパ部材26が回動する方向と同一である。図3に示すように、ストッパ部材26が第2位置まで回動すると、弁体24がストッパ部材26と当接しなくなるため、弁体24は、閉塞位置から開放位置まで移動する。高圧タンク2内の水素は、放出流路16を通り、高圧タンク2の外部に放出される。
【0046】
(効果)
本実施例では、圧力逃がし弁10は、高圧タンク2に使用される。圧力逃がし弁10は、高圧タンク2に貯留されている水素(貯留物の一例)を、高圧タンク2の内部から高圧タンク2の外部に放出可能な放出流路16と、放出流路16内に配置されており、放出流路16を閉塞する閉塞位置と、放出流路16を開放する開放位置との間を移動可能に支持された弁体24と、弁体24を閉塞位置に拘束する第1位置と、弁体24の開放位置への移動を許容する第2位置との間を移動可能に支持されたストッパ部材26と、ストッパ部材26に接続された複数の感温作動機構28と、を備える。複数の感温作動機構28のそれぞれは、基準値以上の温度を感知したときに、ストッパ部材26を第1位置から第2位置へ移動させる。
【0047】
上記の構成では、1個のストッパ部材26に対して複数の感温作動機構28が接続されている。従って、高圧タンク2が高温にさらされた場合に、複数の感温作動機構28のいずれかがストッパ部材26を第1位置から第2位置へ移動させることにより、弁体24を閉塞位置から開放位置に迅速に移動させることができる。これにより、高圧タンク2が様々な方向から高温にさらされた場合でも、高圧タンク2内の水素を放出流路16を通して迅速に放出することができる。複数の感温作動機構28に対して、1個のストッパ部材26が共用されていることから、圧力逃がし弁10の構造が複雑となることも抑制することができる。
【0048】
また、複数の感温作動機構28のそれぞれは、基準値以上の温度で溶融する溶融部材50、62のそれぞれを備える。
【0049】
上記の構成では、複数の感温作動機構28のそれぞれが、溶融部材50、62ではなく、センサを備える構成では、センサが故障した場合、高圧タンク2が高温にさらされても、ストッパ部材26を第1位置から第2位置に移動させることができない。上記の構成によれば、高圧タンク2が高温にさらされた場合に、溶融部材50、62は溶融する。これにより、ストッパ部材26を第1位置から第2位置に確実に移動させることができる。
【0050】
また、複数の感温作動機構28のそれぞれは、初期位置と作動位置との間を移動可能であり、作動位置に向けて付勢されているシャフト部材48、60のそれぞれをさらに備える。シャフト部材48、60のそれぞれは、初期位置から作動位置へ移動したときに、ストッパ部材26を第1位置から第2位置へ移動させる。溶融部材50、62のそれぞれは、シャフト部材48、60のそれぞれを初期位置に保持する。
【0051】
上記の構成では、溶融部材50、62は、基準値未満の温度であるときには溶融しないため、溶融部材50、62が溶融していないとき、シャフト部材48、60が初期位置に確実に保持される。このため、温度が基準値未満の温度であるときに、シャフト部材48、60は作動位置に移動しない。ストッパ部材26が第1位置から第2位置に移動することを抑制することができる。
【0052】
また、複数の感温作動機構28のそれぞれは、シャフト部材48、60を作動位置に向けて付勢する付勢部材52、64のそれぞれをさらに備える。
【0053】
上記の構成では、簡素な構成により、溶融部材50、62が溶融したときに、シャフト部材48、60を作動位置に迅速に移動させることができる。
【0054】
また、ストッパ部材26と弁体24とは、互いに独立した部材で構成されている。
【0055】
ストッパ部材26と弁体24とが一体部材である場合、一体部材は、放出流路16を閉塞するための構成と、放出流路16を閉塞する状態から放出流路16を開放する状態に切り替えるための構成を両方備える必要がある。これにより、一体部材の構成が複雑となる。上記の構成では、ストッパ部材26と弁体24との構成が複雑となることを抑制することができる。
【0056】
また、ストッパ部材26が第1位置と第2位置との間で移動する方向は、弁体24が閉塞位置と開放位置との間で移動する方向と異なる。
【0057】
上記の構成では、圧力逃がし弁10が、弁体24が閉塞位置と開放位置との間で移動する方向に大型化することを抑制することができる。
【0058】
また、ストッパ部材26は、第1位置と第2位置との間を、回動軸RXを中心に回動可能に支持されている。
【0059】
上記の構成では、簡素な構成により、ストッパ部材26を第1位置から第2位置に移動させることができる。
【0060】
また、複数の感温作動機構28は、第1感温作動機構40と、第2感温作動機構42と、を備える。第1感温作動機構40とストッパ部材26との間の接続位置は、第2感温作動機構42とストッパ部材26との間の接続位置に対して、回動軸RXの周りに120度以上の間隔(本実施例では180度の間隔)を有して配置されている。
【0061】
第1感温作動機構40とストッパ部材26との間の接続位置が第2感温作動機構42とストッパ部材26との間の接続位置に対して、回動軸RXの周りに120度未満の間隔を有して配置されている構成では、例えば、ストッパ部材26に対して第1感温作動機構40と反対側で高温となった場合に、第1感温作動機構40と第2感温作動機構42の両方を作動させるのに時間がかかることがある。上記の構成では、高圧タンク2が様々な方向から高温にさらされた場合でも、第1感温作動機構40と第2感温作動機構42の少なくとも一方を迅速に作動させることができる。
【0062】
また、高圧タンク2は、車両100に搭載されており、高圧タンク2に対して下側に位置する車両100の下側プロテクタ102と、高圧タンク2に対して上側に位置する車両100の上側プロテクタ104と、の間に配置されている。第1感温作動機構40は、ストッパ26部材よりも上側プロテクタ104側に配置されている。第2感温作動機構42は、ストッパ部材26よりも下側プロテクタ102側に配置されている。
【0063】
上記の構成では、高圧タンク2に対して上側プロテクタ104側で高温となった場合と、高圧タンク2に対して下側プロテクタ102側で高温となった場合の両方のケースにおいて、感温作動機構28を迅速に作動させることができる。
【0064】
また、水素が高圧タンク2に貯留されている。
【0065】
高圧タンク2に貯蔵されている水素を高温環境下に配置することは危険である。このため、高圧タンク2が高温にさらされた場合に、高圧タンク2から水素を確実に放出する必要がある。上記の構成では、水素を貯留する高圧タンク2が使用される場合であっても、圧力逃がし弁10の構造が複雑となることを抑制しつつ、高圧タンク2が様々な方向から高温にさらされた場合でも高圧タンク2内の水素を放出流路16を通して確実に放出することができる。
【0066】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0067】
変形例では、第1感温作動機構40は、第1溶融部材50に替えて、第1温度センサを備えてもよく、第2感温作動機構42は、第2溶融部材62に替えて、第2温度センサを備えてもよい。第1温度センサが基準値以上の温度を感知すると、第1シャフト部材48は、初期位置から作動位置に向かって移動してもよく、第2温度センサが基準値以上の温度を感知すると、第2シャフト部材60は、初期位置から作動位置に向かって移動してもよい。
【0068】
変形例では、ストッパ部材26は、第1位置と第2位置との間を直線的に移動可能に支持されていてもよい。
【0069】
変形例では、第2感温作動機構42が高温にさらされた場合でのストッパ部材26が回動する方向は、第1感温作動機構40が高温にさらされた場合でのストッパ部材26が回動する方向と反対であってもよい。
【0070】
変形例では、複数の感温作動機構28が備える感温作動機構の個数は、2個に限られず、3個以上であってもよい。複数の感温作動機構28が備える感温作動機構の個数が3個である場合、複数の感温作動機構28は、第3感温作動機構をさらに備えてもよい。この場合、第1感温作動機構40と、第2感温作動機構42と、第3感温作動機構は、回動軸RXの周りに等間隔、即ち、120度の間隔を有して配置されていてもよい。
【0071】
変形例では、高圧タンク2は、水素以外の貯留物、例えば、酸素を貯留してもよい。
【0072】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0073】
2 :高圧タンク
10 :圧力逃がし弁
16 :放出流路
24 :弁体
26 :ストッパ部材
28 :感温作動機構
40 :第1感温作動機構
42 :第2感温作動機構
48 :第1シャフト部材
50 :第1溶融部材
52 :第1付勢部材
60 :第2シャフト部材
62 :第2溶融部材
64 :第2付勢部材
100 :車両
102 :下側プロテクタ
104 :上側プロテクタ
RX :回動軸
図1
図2
図3
図4
図5