(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】細胞塊群の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
C12N 5/074 20100101AFI20240730BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C12N5/074
C12M1/00 D
(21)【出願番号】P 2021527405
(86)(22)【出願日】2020-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2020016284
(87)【国際公開番号】W WO2020255546
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019114888
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】横川 裕紀
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/115865(WO,A1)
【文献】特表2019-502382(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0143913(US,A1)
【文献】 IVASCU, A et al.,Rapid Generation of Single-Tumor Spheroids for High-Throughput Cell Function and Toxicity Analysis,Journal of Biomolecular Screening,2006年,Vol.11, No.8,P.922-932
【文献】綾野 賢,マルチディンプルを用いた新しいヒトiPS細胞集塊大量培養技術,生物工学,2018年,第96巻 第7号,P.384-386
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12M
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェルおよび前記ウェルの底に2個以上形成された凹部を有し、前記凹部の開口部の平面視における面積が1mm
2以下である細胞培養器を用い、培地に分散細胞を懸濁した細胞懸濁液を前記ウェル内に入れる工程
(a)と、
前記細胞培養器を遠心する工程
(b)と、
前記凹部内で前記分散細胞を培養する工程とを有
し、
前記工程(b)において、前記細胞懸濁液中に含まれる前記分散細胞数に対する前記凹部内に入る前記分散細胞数の割合は、50%以上である、細胞塊群の製造方法。
【請求項2】
前記凹部の深さが、100μm~1000μmである請求項1に記載の細胞塊群の製造方法。
【請求項3】
前記凹部の形状が、円柱状又は円錐体状である請求項1または2に記載の細胞塊群の製造方法。
【請求項4】
前記ウェルの底面における凹部の開口部の平面充填率が、5%~99.9%である請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞塊群の製造方法。
【請求項5】
前記ウェル内の凹部の数が、2個~500個である請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞塊群の製造方法。
【請求項6】
前記細胞懸濁液中に含まれる分散細胞の数が、10cell/mL~5,000cell/mLである、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞塊群の製造方法。
【請求項7】
前記培地が、細胞外マトリクスが混和している培地である請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞塊群の製造方法。
【請求項8】
前記凹部の内壁面が、細胞非接着性である請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞塊群の製造方法。
【請求項9】
前記凹部の内壁面が、微細突起構造を有する請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞塊群の製造方法。
【請求項10】
前記凹部の内壁面が、細胞非接着性付与剤によりコーティングされている請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞塊群の製造方法。
【請求項11】
前記分散細胞が、分散した消化管幹細胞を含む請求項1~10のいずれか一項に記載の細胞塊群の製造方法。
【請求項12】
前記遠心の遠心力が、200×g~1000×gである請求項1~11のいずれか一項に記載の細胞塊群の製造方法。
【請求項13】
細胞塊群の製造装置であって、
ウェルおよび前記ウェルの底に2個以上形成された凹部を有し、前記凹部の開口部の平面視における面積が1mm
2以下である細胞培養器が担持される担持部と、
培地に分散細胞を懸濁した細胞懸濁液が貯留される細胞懸濁液容器と、
前記細胞懸濁液を吸入し前記細胞培養器のウェルに吐出するピペットと、
前記ピペットを上下方向および水平方向に移動させるピペット移動機構と
前記細胞培養器を遠心する遠心部と、
前記細胞培養器を収容し、前記分散細胞を培養する培養室と、
前記ピペット移動機構を制御する制御部と、を備える製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞塊群の製造方法および製造装置に関する。本願は、2019年6月20日に日本に出願された特願2019-114888号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
新薬の試験においては、動物又はヒトに対して新薬を投与するin vivo試験を行う前に、培養細胞を用いたin vitro試験が行われている。しかしながら、in vitro試験から得られた結果は、in vivo試験から得られた結果と異なる場合が少なくない。
【0003】
オルガノイドは、生体内の臓器と類似した構造および機能を有している細胞塊である。そのため、オルガノイドを用いたin vitro試験の結果は、in vivo試験から得られた結果に近いと考えられる。つまり、オルガノイドを用いてin vitro試験を行うことにより、疾患の原因の理解、治療法を開発するための研究を促進することができると考えられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、サイズ均一性に優れた細胞塊群の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の実施形態を含む。
[1]ウェルおよび前記ウェルの底に2個以上形成された凹部を有し、前記凹部の開口部の平面視における面積が1mm2以下である細胞培養器を用い、培地に分散細胞を懸濁した細胞懸濁液を前記ウェル内に入れる工程と、前記細胞培養器を遠心し凹部内に分散細胞を入れる工程と、前記凹部内で前記分散細胞を培養する工程とを有する、細胞塊群の製造方法。
[2]前記凹部の深さが、100μm~1000μmである[1]に記載の細胞塊群の製造方法。
[3]前記凹部の形状が、円柱状又は円錐体状である[1]又は[2]に記載の細胞塊群の製造方法。
[4]前記ウェルの底面における凹部の開口部の平面充填率が、5%~99.9%である[1]~[3]のいずれかに記載の細胞塊群の製造方法。
[5]前記ウェル内の凹部の数が、2個~500個である[1]~[4]のいずれかに記載の細胞塊群の製造方法。
[6]前記細胞懸濁液中に含まれる分散細胞の数が、10cell/mL~5,000cell/mLである[1]~[5]に記載の細胞塊群の製造方法。
[7]前記培地が、細胞外マトリクスが混和している培地である[1]~[6]のいずれかに記載の細胞塊群の製造方法。
[8]前記凹部の内壁面が、細胞非接着性である[1]~[7]に記載の細胞塊群の製造方法。
[9]前記凹部の内壁面が、微細突起構造を有する[1]~[8]のいずれかに記載の細胞塊群の製造方法。
[10]前記凹部の内壁面が、細胞非接着性付与剤によりコーティングされている[1]~[9]のいずれかに記載の細胞塊群の製造方法。
[11]前記分散細胞が、分散した消化管幹細胞を含む[1]~[10]のいずれかに記載の細胞塊群の製造方法。
[12]前記遠心の遠心力が、200×g~1000×gである[1]~[11]のいずれかに記載の細胞塊群の製造方法。
[13]細胞塊群の製造装置であって、ウェルおよび前記ウェルの底に2個以上形成された凹部を有し、前記凹部の開口部の平面視における面積が1mm2以下である細胞培養器が担持される担持部と、培地に分散細胞を懸濁した細胞懸濁液が貯留される細胞懸濁液容器と、前記細胞懸濁液を吸入し前記細胞培養器のウェルに吐出するピペットと、前記ピペットを上下方向および水平方向に移動させるピペット移動機構と、前記細胞培養器を遠心する遠心部と、前記細胞培養器を収容し、前記分散細胞を培養する培養室と、前記ピペット移動機構を制御する制御部と、を備える製造装置。
【0007】
本発明は、以下の態様を含むということもできる。
[P1]組織又はオルガノイドを単一細胞にまで分散し、培地に懸濁した細胞を細胞培養用プレートに播種する工程と、前記細胞をインキュベートし、その結果、前記細胞が増殖してオルガノイドを形成する工程と、を含み、前記細胞培養用プレートが、1又は複数のウェルを備え、前記ウェルが底面に複数の凹部を有する、オルガノイドの製造方法。
[P2]前記凹部の表面が細胞非接着性である、[P1]に記載のオルガノイドの製造方法。
[P3]前記凹部の表面に凹凸パターンが形成されている、[P1]又は[P2]に記載のオルガノイドの製造方法。
[P4]前記凹部の表面が重合体によりコーティングされている、[P1]~[P3]のいずれかに記載のオルガノイドの製造方法。
[P5]前記重合体が、親水性繰り返し単位(A)と、吸着性繰り返し単位(B)とを有する共重合体である、[P4]に記載のオルガノイドの製造方法。
[P6]前記吸着性繰り返し単位(B)が、(メタ)アクリレート類および(メタ)アクリルアミド類から選ばれる1種以上から誘導される、[P5]に記載のオルガノイドの製造方法。
[P7]前記培地が細胞外マトリックスを含む、[P1]~[P6]のいずれかに記載のオルガノイドの製造方法。
[P8]前記細胞外マトリックスが培地中に溶解又は分散されている、[P7]に記載のオルガノイドの製造方法。
[P9]前記培地が無血清培地である、[P1]~[P8]のいずれかに記載のオルガノイドの製造方法。
[P10]前記オルガノイドが消化管オルガノイドである、[P1]~[P9]のいずれかに記載のオルガノイドの製造方法。
[P11]前記オルガノイドがマウス由来又はヒト由来である、[P1]~[P10]のいずれかに記載のオルガノイドの製造方法。
[P12]前記細胞を前記凹部に集める凝集工程を更に含む、[P1]~[P11]のいずれかに記載のオルガノイドの製造方法。
[P13]前記凝集工程が、遠心により行われる、[P12]に記載のオルガノイドの製造方法。
[P14]前記遠心が、200~1000×gで1~30分間行われる、[P13]に記載のオルガノイドの製造方法。
[P15]細胞培養用プレートが担持される担持部と、組織又はオルガノイドを単一細胞にまで分散した細胞を懸濁した培地が貯留される細胞懸濁液容器と、前記細胞を前記細胞培養用プレートに播種する播種部と、前記細胞を播種後の前記細胞培養用プレートを収容し、前記細胞を増殖環境に維持する培養室と、を備え、前記細胞培養用プレートが、1又は複数のウェルを備え、前記ウェルが底面に複数の凹部を有する、オルガノイドの製造装置。
[P16]前記凹部の表面が細胞非接着性である、[P15]に記載のオルガノイドの製造装置。
[P17]前記凹部の表面に凹凸パターンが形成されている、[P15]又は[P16]に記載のオルガノイドの製造装置。
[P18]前記凹部の表面が重合体によりコーティングされている、[P15]~[P17]のいずれかに記載のオルガノイドの製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態によれば、サイズ均一性に優れた細胞塊群を製造することができる。本実施形態により、より簡便に、均一な品質を有するオルガノイド等の細胞塊群を製造することが可能になり、新薬試験においてより広くオルガノイドを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図2は、細胞培養器8の部分正断面図である。
【
図3】
図3は、細胞塊群の製造装置100Aの構成を概略的に示す模式図である。
【
図4】
図4は、細胞塊群の製造装置100Bの構成を概略的に示す模式図である。
【
図5】
図5は、細胞塊群を製造する実施例の手順を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
本明細書で例示する各成分、例えば、培地中に含まれる成分や各工程で用いられる成分は、特に言及しない限り、それぞれ1種用いることができ、又は2種以上を併用して用いることができる。
本明細書で、「A~B」等の数値範囲を表す表記は、「A以上、B以下」と同義であり、AおよびBをその数値範囲に含むものとする。
【0011】
本明細書において、細胞が凝集したものを細胞塊という。また、細胞塊の中でも、生体内の臓器と類似した構造を有し、生体内の臓器の機能を部分的に再現したものをオルガノイドという。
【0012】
本明細書において、細胞塊群とは少なくとも2個以上の細胞塊を含む細胞塊の集団を意味する。
【0013】
[細胞塊群の製造方法]
本実施形態の細胞塊群の製造方法は、ウェルおよびウェルの底に2個以上形成された凹部を有し、凹部の開口部の平面視における面積が1mm2以下である細胞培養器を用い、培地に分散細胞を懸濁した細胞懸濁液をウェル内に入れる工程(以下、「工程(a)」ともいう)、細胞培養器を遠心し凹部内に分散細胞を入れる工程(以下、「工程(b)」ともいう)、および凹部内で分散細胞を培養する工程(以下、「工程(c)」ともいう)、を有する。
【0014】
本実施形態では、ウェル内の分散細胞を培地に懸濁した懸濁液を、遠心することで、培地と共に分散細胞を凹部内に入れることができる。このとき培養器内の分散細胞には均一な遠心力が加わるため、各凹部内に入る分散細胞の数をほぼ同じ数にすることができ、また、凹部内で培養することにより、著しく大きい細胞塊が形成されなくなり、その結果、サイズ均一性に優れた細胞塊群を製造することができる。
【0015】
凹部のような狭い空間内に分散細胞を閉じ込めることで、細胞間の距離が短くなり、細胞間のシグナル伝達が効率化して、培養効率が上昇すると推定される。
さらに、凹部のような狭い空間内に細胞を閉じ込めることで、各凹部内の細胞間の距離が一定となり、その結果、サイズの均一性に優れた細胞塊群を製造することができると推定される。
【0016】
〈工程(a)〉
工程(a)では、ウェル及びウェルの底に2個以上形成された凹部を有する細胞培養器を用いて、培地に分散細胞を懸濁した懸濁液をウェル内に入れる。ここで、凹部の平面視における開口部の面積は1mm2以下である。
【0017】
《分散細胞》
分散細胞としては、細胞組織片を分散処理して得られたもの、増殖や分化して得られたオルガノイド等の細胞塊を分散処理して得られたものが挙げられる。細胞組織片としては、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、筋細胞、血管細胞、免疫細胞、上皮細胞、神経細胞、肝細胞、膵臓細胞、小腸細胞、および大腸細胞の組織片等が挙げられる。
【0018】
分散細胞中には、増殖や分化をする幹細胞を含む。また、分散細胞中には、幹細胞以外の細胞を含むことができる。幹細胞としては、ES細胞、およびiPS細胞等の多能性幹細胞、並びに生体内の組織を構成する体性幹細胞等が挙げられる。幹細胞としては、培養維持された幹細胞を用いてもよいし、成体から摘出した組織から得られた初代幹細胞を用いてもよい。
【0019】
分散処理とは、細胞を酵素処理や物理処理等の分散により、100個以下、好ましくは50個以下、さらに好ましくは5個以下の細胞集団に分離させることをいう。分散処理は、細胞集団を細胞分散液処理すること等により行うことができる。
【0020】
細胞分散液としては、例えば、トリプシン、ディスパーゼ、コラゲナーゼ等のタンパク質分解酵素、およびEDTA等のキレート剤が挙げられる。
【0021】
分散処理後、細胞分散液による細胞死を防ぐため、希釈液にて細胞を希釈することができる。希釈液としては、後述の、基礎培地が挙げられる。また、希釈液には、サプリメント、抗菌剤、および緩衝剤を含有することができる。
【0022】
《培地》
培地としては、細胞塊を形成することのできる培地であれば、どのような培地であっても用いることができる。培地のpHは、通常、pH5~pH12である。培地は、通常、基礎培地に、アゴニスト、アンタゴニスト等のシグナル伝達経路を制御する物質、ならびにサプリメント、抗菌剤、および緩衝液等を添加して、混合することにより調製することができる。また、培地としては、細胞外マトリクス(ECM)が混和していることが好ましい。培地にECMが混和することにより、凹部内に分散細胞を良好に導入することができる。
【0023】
基礎培地としては、例えば、DMEM/F12培地、RPMI 1640培地、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM(GMEM)培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、F-12培地、IMDM/F12培地、ハム培地、およびFischer’s培地;並びにこれらの混合培地の培地を挙げることができる。
【0024】
アゴニストとしては、例えば、Wnt3a、Wnt4a、およびR-スポンジン等のWntシグナル伝達経路増強剤、並びにIGF-1、およびIGF-2等のIGFシグナル伝達経路増強剤が挙げられる。
アンタゴニストとしては、CHIR9901、およびKenpaullaone等のGSK-3β阻害剤、A83-01、およびSB-431542等のTGF-βシグナル伝達経路阻害剤、Y-27632、およびH-1152等のRhoキナーゼシグナル伝達経路阻害剤、並びにNoggin、およびドルソモルフィン等のBMPシグナル伝達経路阻害剤が挙げられる。
【0025】
サプリメントとしては、例えば、製品名「B-27無血清サプリメント」(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)等の神経細胞培養用サプリメント、L-グルタミン、L-アラニルL-グルタミン等を含有する、製品名「GlutaMax」(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)等のグルタミン含有サプリメント、「MEM Non-Essential Amino Acids Solution」(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)等のアミノ酸水溶液、2-メルカプトエタノール等が挙げられる。
【0026】
抗菌剤としては、例えば、ペニシリン系抗生物質、セフェム系抗生物質、マクロライド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、ホスホマイシン系抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、およびニューキノロン系抗生物質が挙げられる。
緩衝液としては、例えば、HEPES緩衝液、およびPBS緩衝液等が挙げられる。
【0027】
培地は、細胞外マトリクス(ECM)が混和していることが好ましい。ECMとしては、例えば、基底膜に含まれる成分、細胞間隙に存在する糖タンパク質が挙げられる。基底膜に含まれる成分としては、例えば、IV型コラーゲン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン等が挙げられる。細胞間隙に存在する糖タンパク質としては、コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、フィブロネクチン、ヘパリン硫酸塩等が挙げられる。ECMとして、ECMを含む市販品を用いてもよい。ECMを含む市販品としては、例えば、マトリゲル(登録商標、コーニング社)、ヒト型ラミニン(シグマ社)等が挙げられる。
【0028】
培地中には、通常、0.8%~10%(v/v)のECMを含むことができる。ECMは、培地中に分散又は溶解して用いることができる。
【0029】
《細胞培養器》
図1および
図2に本実施形態の細胞培養器の一例を示す。細胞培養器8は、1又は複数のウェル1を備え、ウェル1は底面2に凹部1aを2個以上有する。細胞培養器の凹部1aの表面は、細胞非接着性を有することが好ましい。また、
図2に図示するように、凹部1aは、表面に微細突起1bを有してもよい。
【0030】
細胞培養器8は、ウェル1の側壁を構成する細胞培養用プレート本体4と、ウェル1の底壁を構成する底面板5と、ウェル1の底面2を構成するウェルプレート用シート6を主に備える。細胞培養用プレート本体4は、複数の貫通孔7を有する厚板状である。ウェルプレート用シート6は、細胞培養用プレート本体4と底面板5との間に積層している。凹部1aはウェルプレート用シート6の表面に形成されている。
【0031】
細胞培養器8の平面視における形状としては、矩形状、円形状等が挙げられる。細胞培養器8の平面視が矩形である場合、その短辺および長辺の長さは、ウェル1の大きさや配設密度、培養に用いる機器等の大きさ等に応じ適宜調整できる。例えば96、384および1536ウェルに関してはANSI/SBS 1-2004~4-2004の規格がある。
【0032】
細胞培養用プレート本体4および底面板5の部材としては、培養する細胞に悪影響を与えず、また培地により変質等しないものが好ましい。そのような部材としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリウレタン、セルロース、再生セルロース、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素含有樹脂、アクリル系樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スチレン系樹脂、アクリル・スチレン系共重合樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン・ビニルアルコール系共重合樹脂、熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系樹脂、およびシリコン樹脂、並びにガラスを含む部材が挙げられる。
【0033】
ウェル1の形状としては、細胞培養器8の底面2に垂直な方向を軸とする角柱状、角錐台状、円柱状、円錐台状、楕円柱状、楕円錐台状等が挙げられる。細胞培養器8の底面2とは、「細胞培養用プレート本体4のうち、細胞培養用プレート本体4とウェルプレート用シート6とが接触して形成されるウェル1の底面」を示す。ウェル1の形状としては、これらの中でも、円柱状および円錐台状が好ましく、円錐台状がより好ましく、底面側が小さく開口側が大きい円錐台状が更に好ましい。すなわち、ウェル1の内径が底面2から開口に向かって漸増することがより好ましい。ウェル1の形状がこのようなものであると、開口が相対的に大きいため、ウェル1内への培地の導入を容易に行うことができる。
【0034】
ウェル1の底面直径D1の下限としては、0.5mmが好ましく、0.8mmがより好ましく、1mmが更に好ましい。底面直径D1の上限としては、10cmが好ましく、5cmがより好ましく、3.5cmが更に好ましい。直径D1が上記下限より大きいと、ウェル1内への培地の導入を容易に行うことができる。底面直径D1が上記上限以下であると、細胞培養に寄与しないスペースが減り、当該細胞培養用プレートを用いて三次元培養を行う際の培養効率を良くすることができる。ウェル1の形状が楕円柱状や楕円錐台状である場合のウェル1の底面直径D1とは、長径および短径の平均値を意味し、ウェル1の断面が矩形である場合のウェル1の底面直径D1とは、長辺および短辺の平均値を意味する。
【0035】
ウェル1の形状が楕円柱状や楕円錐台状である場合、その底面の扁平率としては、0.2以下が好ましく、0.15以下がより好ましい。「扁平率」とは、楕円の長軸半径をa、短軸半径をbとした場合に、(a-b)/aで表される値を意味する。
【0036】
ウェル1の形状が角柱状である場合、その短辺に対する長辺の比としては、1~1.3が好ましく、1~1.2がより好ましい。
【0037】
ウェル1の深さとしては、0.5mm~2cmが好ましく、1mm~1.5cmがより好ましく、1.2mm~1.5cmが更に好ましい。前記範囲内であると、ウェル1内に安定して培地を保持することが容易となる。
【0038】
ウェル1の容積としては、0.1μL~10mLが好ましく、0.5μL~7mLがより好ましく、0.8μL~4mLが更に好ましい。上記容積が上記範囲内であると、ウェル1内への培地の導入が容易になる。
【0039】
ウェル1が複数ある場合、それぞれのウェル1の形状は同じであることが好ましい。
【0040】
各々のウェル1の底面2は、2個以上の凹部1aを有する。それぞれの凹部1aに分散細胞を入れることで、それぞれの凹部1aにつき一つの細胞塊を形成することができ、その結果、均一なサイズの細胞塊群を得ることができる。
【0041】
各々のウェル1の底面2における凹部1aの個数は、2個~500個であることが好ましく、10個~300個であることがより好ましく、50個~200個であることが更に好ましい。底面2における凹部1aの個数が上記下限値以上であることにより、より多くの細胞塊群を培養することができ、上記上限値以下であることにより、凹部1aの製造が容易になる。
【0042】
凹部1aの形状としては、細胞の培養効率の観点から、細胞培養器8の底面2に垂直な方向を軸とする立体形状であることが好ましく、立体形状としては、角柱状、角錐台状、円柱状、円錐台状、楕円柱状、楕円錐台状等が挙げられる。これらの中でも円錐体状、および円柱状が好ましい。
【0043】
凹部1aの平面視における開口部の形状としては、円形、楕円形、および矩形等の多角形が挙げられる。これらの中でも円形が好ましい。凹部1aの平面視における開口部の形状が円形であると、細胞塊の形状をより球に近づけることができる。
【0044】
凹部1aの平面視における開口部の面積としては、通常、10mm2以下、好ましくは0.0001mm2~8mm2、より好ましくは0.01mm2~4mm2である。前記面積は、1mm2以下、0.0001mm2~1mm2、0.01mm2~1mm2であってもよい。前記範囲内であれば、サイズ均一性に優れた細胞塊群を製造することができる。
【0045】
凹部1aの平面視における形状が円形である場合、その直径は、通常、30μm~3000μm、好ましくは100μm~2000μm、より好ましくは150μm~1000μmである。凹部1aの平面視における形状が多角形である場合、一辺の長さは、通常、100μm~1000μm、好ましくは300μm~600μmである。
【0046】
凹部1aの深さは、100μm~1000μmであることが好ましく、300μm~600μmであることがより好ましい。
【0047】
底面2における凹部1aの開口部の平面充填率は、通常、5%~99.9%、好ましくは10%~90%である。底面2における凹部1aの開口部の平面充填率が前記範囲内であると、分散細胞の数が増えても、分散細胞を確実に凹部1aに入れることができるため、細胞塊群のサイズ均一性を向上することができる。
【0048】
凹部1aの深さは、通常、20μm~2000μm、好ましくは50μm~1000μmである。凹部1aの深さが前記範囲内であれば、細胞塊群のサイズ均一性を向上することができる。
【0049】
凹部1aはウェル1の底面2に規則的に配列していることが好ましい。凹部1aが規則的に配列することで、分散細胞が等間隔に配列するため、細胞塊群のサイズの均一性をより向上できる。
【0050】
凹部1aの内壁面は、細胞非接着性であることが好ましい。凹部1aの内壁面を細胞非接着性とする方法としては、例えば、凹部1aの表面に微細突起1bを形成する方法、および凹部1aの表面を細胞非接着性付与剤で表面処理する方法、並びにこれらの組み合わせを上げることができる。
【0051】
微細突起1bは、通常、複数あり、各微細構造突起の形状1bは規則的であることが好ましい。
【0052】
細胞非接着性付与剤には通常親水性の構造を有する重合体が含まれる。このような重合体としては、ポリビニルアルコールや、親水性繰り返し単位(A)と、吸着性繰り返し単位(B)とを有する共重合体が挙げられる。前記共重合体としては、例えば、WO15/119256号公報、WO05/108554号公報、およびWO13/022085号公報に記載の共重合体が挙げられる。
【0053】
《細胞懸濁液》
細胞懸濁液は、培地に分散細胞を懸濁することにより得ることができる。懸濁は、通常、培地と分散細胞を入れたマイクロチューブを振動させることにより行う。細胞懸濁液は、通常、10cell/μL~5,000cell/μL、好ましくは15cell/μL~3,000cell/μL、より好ましくは25cell/μL~1,000cell/μLである。前記範囲内であれば、サイズ均一性に優れ、培養効率に優れた細胞塊群を製造することができる。
【0054】
細胞懸濁液を細胞培養器のウェル内に入れる方法としては、通常、ピペットにより行うことができる。
【0055】
〈工程(b)〉
工程(b)では、細胞培養器を遠心する。遠心することにより、培地および分散細胞を含む細胞懸濁液を凹部内に入れることができる。このとき培養器内の分散細胞に加わる遠心力は一定となることから、各凹部内に入る分散細胞の数をほぼ同じ数にすることができ、また、著しく大きい細胞塊は形成されなくなり、その結果、サイズの均一性に優れた細胞塊群を製造することができる。
【0056】
細胞懸濁液中に含まれる分散細胞数に対する凹部内に入る分散細胞数の割合は、通常、50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは100%である。このように懸濁液中に含まれる分散細胞の大部分が凹部に移動することにより、ウェル中の凹部の外部においては、培地成分が残り、分散細胞数は十分に少なくなるため、培養における培地交換等の操作を容易に行うことができる。
【0057】
細胞培養器の遠心は、ウェルの深さ方向に、好ましくはウェルの開口部から凹部の底部の方向に、より好ましくはウェル開口部から凹部の底部方向への遠心力のベクトルの入射角が0°以上90°未満である方向に、遠心力が加わるように行う。遠心力は、通常、100×g~1,000×g、好ましくは150×g~800×g、より好ましくは200×g~600×gである。遠心時間は、通常、1~30分間である。
【0058】
〈工程(c)〉
工程(c)では、分散細胞を培養する。培養中、ウェル内の培地成分を攪拌してもよい。また、培養中、培地を適宜交換することができる。培養条件は、分散培養する細胞種や培地の種類等により調整する。
【0059】
例えば、分散細胞としてマウス小腸正常細胞を用いて、これをWntシグナル伝達増強剤、TGFβシグナル伝達阻害剤、Rhoキナーゼシグナル伝達経路阻害剤、およびBMPシグナル伝達阻害剤を含有する培地で培養する場合、培養期間は、通常、3日以上、培養中の培地の温度は、通常、30℃~50℃、培養中の培地の二酸化炭素含有割合は、通常、1体積%~15体積%である。
【0060】
[製造装置]
本実施形態の製造装置は、細胞塊群の製造装置であって、ウェル及び前記ウェルの底に2個以上形成された凹部を有し、前記凹部の開口部の平面視における面積が1mm2以下である細胞培養器が担持される担持部と、培地に分散細胞を懸濁した細胞懸濁液が貯留される細胞懸濁液容器と、細胞懸濁液を吸入し細胞培養器のウェルに吐出するピペットと、前記ピペットを上下方向および水平方向に移動させるピペット移動機構と、細胞培養器を遠心する遠心部と、細胞培養器を収容し分散細胞を培養する培養室と、ピペット移動機構を制御する制御部とを備える。以下、上述のウェルを「特定ウェル」という。
【0061】
図3は、本実施形態の製造装置を説明する模式図である。製造装置100Aは、特定ウェル(図示せず)を有する細胞培養器8が担持される担持部10と、培地に分散細胞を懸濁した細胞懸濁液21が貯留される細胞懸濁液容器20と、細胞懸濁液容器20内の細胞懸濁液21を吸入し細胞培養器8の特定ウェルに吐出するピペット40と、担持部10を収容する培養室30と、を備えている。培養室30は、細胞を増殖環境に維持し、細胞培養器8を出し入れするための開閉部(図示せず)を有している。
【0062】
培養室30は、細胞培養器8のウェル内に細菌等がコンタミネーションすることを防止する構造を有している。培養室30は、培養室30内の雰囲気を、培養に適した温度、酸素濃度、二酸化炭素濃度に保つことができる。また、導液管50は、細胞懸濁液容器20と、ピペット40とに接続されている。
【0063】
ピペット40は、細胞懸濁液21を吸入するためのポンプ(図示せず)を備えている。ピペット40は、細胞培養器8に沿って移動できるよう上下方向および水平方向に移動させるピペット移動機構(図示せず)を備えており、細胞懸濁液21を細胞培養器8のウェル内に吐出する。ピペット移動機構は制御部(図示せず)によって制御できる。
【0064】
製造装置は次のように用いることができる。まず、細胞培養器8を担持部10に載置し、細胞懸濁液21を細胞懸濁液容器20に貯留する。細胞懸濁液容器20内の細胞懸濁液21は導液管50を介して導液され、ピペット40により、培養室30内の担持部10に担持された細胞培養器8の特定ウェルに吐出される。細胞懸濁液21が播種された細胞培養9において、培養に適した環境下で、細胞は培養されて増殖または分化し、細胞塊が製造される。
【0065】
図4は、本実施形態の製造装置の変形例を示す。製造装置100Bは、分散細胞を取得する分散処理容器60と、培地が貯留される培地容器70と、排液された培地が貯留される排液容器80とを更に有している。
【0066】
分散処理容器60は、培地と生体組織とを撹拌する撹拌装置61を備えている。分散処理容器60に、生体から摘出した組織等が収容され、これらが撹拌装置61により撹拌されることにより、生体組織は分散して分散細胞となり、培地に分散細胞が懸濁された細胞懸濁液21が取得される。
【0067】
導液管51は、分散処理容器60と、細胞懸濁液容器20とに接続されている。分散処理容器60内の細胞懸濁液21は、導液管51を介して導液され、細胞懸濁液容器20に貯留される。
【0068】
培地容器70には、培地71が貯留される。導液管52は、培地容器70と、ピペット41とに接続されている。培地容器70内の培地71は、導液管52を介して導液され、ピペット41により、培養室30に収容された細胞培養器8の特定ウェルに吐出される。
【0069】
排液容器80には、排液された培地71が貯留される。導液管53は、排液容器80と、吸引部42とに接続されている。細胞培養器8の特定ウェル内の不要な培地71は、吸引部42により吸引され、導液管53を介して導液され、排液容器80に貯留される。
【0070】
細胞の培養中、細胞培養器8の特定ウェル内の不要な培地71は、吸引部42によって吸引されて、導液管53によって導液されて、排液容器80に貯留される。続いて、培地容器70内の培地71は、導液管52によって導液されて、ピペット41によって、細胞培養器8のウェルに分注される。このようにして、細胞培養器8のウェル内の培地71は交換される。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を挙げて本実施形態を詳細に説明するが、本実施形態はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
図5は、実験の概要を示した模式図である。マトリゲルに包埋されて培養された幹細胞又は幹細胞を含む組織細胞片に、分散酵素を接触させて分散細胞を得て、次いで、培地に懸濁させた。得られた懸濁液を、細胞培養用プレートに入れた後、培養しオルガノイドを得た。得られた細胞塊のサイズの均一性を評価した。
【0073】
細胞培養器として、円柱状のウェルを96ウェル有し、各ウェル内に円錐体状の凹部(直径500μm、深さ400μm)を85個有し、凹部の表面に微細突起構造を有する細胞培養容器(以下、「Dimple」)、円柱状のウェルを96ウェル有し、各ウェル内に円柱状の凹部(直径500μm、深さ400μm)を110個持つElplasia(株式会社クラレ製品名、以下、「Elpalasia」)、角錐型のウェルを96ウェル有するSPHERICALPLATE 5D(水戸工業株式会社製品名、以下、「Spherical」)を用いた。
【0074】
細胞非接着性付与剤として、下記式(1)に示す構造単位を有する重合体を1質量%含む水溶液(以下、「Blockmaster」)、LIPIDURE-CM5206(日油(株)製品名、以下、「LIPIDURE」)、およびポリビニルアルコールを1質量%含む水溶液(以下、「PVA」)を用いた。
【0075】
【化1】
[式(1)中、m:nは、重量比で50:50である。]
【0076】
細胞培養器のウェルおよび凹部内の表面の細胞非接着性付与剤による表面処理は以下の方法により行った。
細胞培養器のウェルに細胞非接着性付与剤を200μL入れ、細胞非接着性付与剤をウェルおよび凹部の表面に接触させた後、細胞非接着性付与剤を除去した。ウェル内に表1に示す洗浄液(以下、「洗浄液A」)300μLを入れて、ウェル内を3回洗浄した。
【0077】
【0078】
[参考実験例1]マウス小腸正常細胞の拡大培養
マウス小腸正常細胞(製品名「Mouse Intestinal Organoids」、STEMCELL TECHNOLOGY社製)を、120cell/μLとなるように細胞外マトリクス(製品名「Corningマトリゲル基底膜マトリックス」CORNING社製,Product#354230)に懸濁させ、平底48ウェルプレート(Costar,Product#3548)に25μLのドームを1個/ウェルとなるよう形成した。続いて、48ウェルプレートを37℃、二酸化炭素濃度5%のインキュベーター内に静置し、マトリゲルをゲル化させた。表2に示す組成の培地(以下、「培地A」)を各ウェルに300μLずつ添加し、2~3日毎に合計3回の培地交換を行いながら、7日間培養し、マウス小腸細胞塊を得た。培地交換時には培地Aの組成においてY27632を含有しない培地を用いた。培養後、培地を除去し、マウス小腸正常細胞の拡大培養物(以下、「マウス小腸正常細胞塊」)を得た。
【0079】
【0080】
[実験例1]細胞塊の製造および評価
マイクロチューブに参考実験例1で得たマウス小腸正常細胞塊と酵素(TrypLE Express、Gibco社製)をいれ、ピペッティングにより分散処理を行った。次いで、Advanced DMEM/F12(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製品名)中に、100 U/mlのPenicilin Streptomycin(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製品名)、2mMのGlutaMAX-I(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製品名)および10mMのHEPES(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製品名)を含有する洗浄液(以下、「洗浄液B」)をマイクロチューブに入れ、遠心分離を行った。遠心分離後のマイクロチューブ内の溶液の上澄みを除去し、再度、洗浄液Bを入れて遠心分離を行い、マイクロチューブ内の溶液の上澄みを除去し、分散細胞を得た。
【0081】
次いで、培地A、およびマトリゲル(corning life sciences社製品名)を培地Aに対して5vol%となる量を混合した溶液を用いて、分散細胞を500cel/μLとなるよう懸濁し、細胞懸濁液を得た。
Dimpleのウェル内に洗浄液Aを300μL入れ、ウェル内を3回洗浄した。Dimpleのウェルに細胞懸濁液を200μL入れ、37℃、二酸化炭素濃度5体積%雰囲気のインキュベーター内で3日間培養し、細胞塊群を得た。光学顕微鏡にて各凹部内のオルガノイドのサイズを測定し、細胞塊群のサイズ均一性をL1~L5の5段階にて評価した。5段階評価のうち、L1は細胞塊群のサイズ均一性が最も低いことを示し、L5は細胞塊群のサイズ均一性が最も高いことを示す。評価結果を表3に示す。
【0082】
[実験例2、および実験例5]
実験例1において、表3に示す細胞非接着性付与剤による表面処理を行った細胞培養器を用いた以外は、実験例1と同様の操作にて、細胞塊群を製造し、そのサイズ均一性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0083】
[実験例3]
実験例1と同様の操作にて、細胞懸濁液を得た。細胞懸濁液を表3に示す細胞非接着性付与剤による表面処理を行った細胞培養器に細胞懸濁液を200μL入れ、遠心機(製品名「Allegra X-15R」、BECKMAN COULTER社製)を用いて、400×g、5min、25℃の条件で遠心した。遠心後、37℃、二酸化炭素濃度5体積%のインキュベーター内で3日間培養し、細胞塊群を得た。得られた細胞塊群を実験例1と同様の方法にて、そのサイズ均一性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0084】
[実験例4]
実験例1において、表3に示す細胞培養器を用いた以外は、実験例1と同様の捜査にて、細胞塊群を製造し、そのサイズ均一性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0085】
[実験例6~実験例8]
実験例3において、表3に示す細胞非接着性付与剤による表面処理を行った細胞培養器を用いた以外は、実験例3と同様の操作にて、細胞塊群を製造し、そのサイズ均一性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0086】
[実験例9]
実験例1において、細胞培養器としてSphericalを、洗浄液AとしてD-PBS(-)(富士フィルム和光純薬、以下PBS)を用いた以外は、実験例1と同様の操作にて、細胞塊群を製造し、そのサイズ均一性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0087】
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、サイズ均一性に優れたオルガノイドの製造方法を提供することができる。サイズ均一性に優れたオルガノイドは、大量のオルガノイドを用いて比較検討を行うドラッグスクリーニングに有用に用いることができる。
【符号の説明】
【0089】
1…ウェル、1a…凹部、1b…微細突起、2…底面、3…内周面、4…細胞培養用プレート本体、5…底面板、6…ウェルプレート用シート、7…貫通孔、8…細胞培養器、10…担持部、20…細胞懸濁液容器、21…細胞懸濁液、30…培養室、40,41…ピペット、42…吸引部、50,51,52,53…導液管、60…分散処理容器、61…撹拌装置、70…培地容器、71…培地、80…排液容器、100A…製造装置、100B…製造装置