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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20240730BHJP
   G02F 1/1343 20060101ALI20240730BHJP
   G02F 1/1368 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
G02F1/1343
G02F1/1368
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021542639
(86)(22)【出願日】2020-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2020028305
(87)【国際公開番号】W WO2021039219
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019153145
(32)【優先日】2019-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】黒田 美彦
(72)【発明者】
【氏名】宮地 弘一
【審査官】小濱 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057209(WO,A1)
【文献】特開2010-008693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
G02F 1/1343
G02F 1/1368
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素が表示領域に配置された液晶表示装置であって、
スリットを有する画素電極が設けられた第1基板と、
前記第1基板に対向するように配置された第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板との間に設けられ、負の誘電率異方性を持つ液晶分子を含有する液晶層と、
前記第1基板に形成された第1配向膜と、
前記第2基板に形成された第2配向膜と、
を備え、
前記第1配向膜及び前記第2配向膜のうち少なくとも一方は光配向膜であり、
前記複数の画素における各画素は、電圧印加時において液晶分子の配向方位が互いに異なる複数の配向領域を有し、
前記スリットは、前記複数の配向領域における各配向領域に配置され、前記画素の各辺に対し斜め方向に延びるように形成された斜めスリット部を有し、
前記斜めスリット部が延びる方向と、電圧無印加時において前記液晶層の厚み方向の中央付近に存在する液晶分子の長軸方向を前記第1基板に投影した方向である液晶投影方向とのなす角度が、30度以上85度以下である、液晶表示装置。
【請求項2】
前記各辺のうち所定の辺と、前記液晶投影方向とのなす角度が、0度以上30度以下である、請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記所定の辺と、前記斜めスリット部が延びる方向とのなす角度が、45度以上85度以下である、請求項2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記第1基板を挟んで前記液晶層側とは反対側に配置された第1偏光板と、
前記第2基板を挟んで前記液晶層側とは反対側に配置された第2偏光板と、
を備え、
平面視して、前記第1偏光板の透過軸と前記第2偏光板の透過軸とは互いに直交し、
前記第1偏光板の透過軸の軸方向を0度、前記第2偏光板の透過軸の軸方向を90度と定義したときに、前記液晶投影方向が、前記複数の配向領域のそれぞれにおいて0度以上30度以下であり、かつ前記斜めスリット部が延びる方向が、前記複数の配向領域のそれぞれにおいて45度以上85度以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
複数の画素が表示領域に配置された液晶表示装置であって、
スリットを有する画素電極が設けられた第1基板と、
前記第1基板に対向するように配置された第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板との間に設けられ、負の誘電率異方性を持つ液晶分子を含有する液晶層と、
前記第1基板に形成された第1配向膜と、
前記第2基板に形成された第2配向膜と、
前記第1基板を挟んで前記液晶層側とは反対側に配置された第1偏光板と、
前記第2基板を挟んで前記液晶層側とは反対側に配置された第2偏光板と、
を備え、
前記第1配向膜及び前記第2配向膜のうち少なくとも一方は光配向膜であり、
前記複数の画素における各画素は、電圧印加時において液晶分子の配向方位が互いに異なる複数の配向領域を有し、
前記スリットは、前記複数の配向領域における各配向領域に配置され、前記画素の各辺に対し斜め方向に延びるように形成された斜めスリット部を有し、
平面視して、前記第1偏光板の透過軸と前記第2偏光板の透過軸とは互いに直交し、
前記第1偏光板の透過軸の軸方向を0度、前記第2偏光板の透過軸の軸方向を90度と定義したときに、電圧無印加時において前記液晶層の厚み方向の中央付近に存在する液晶分子の長軸方向を前記第1基板に投影した方向である液晶投影方向が、前記複数の配向領域のそれぞれにおいて0度以上15度以下であり、かつ前記斜めスリット部が延びる方向が、前記複数の配向領域のそれぞれにおいて45度以上85度以下である、液晶表示装置。
【請求項6】
前記第1偏光板の透過軸の軸方向を0度、前記第2偏光板の透過軸の軸方向を90度と定義したときの前記液晶投影方向が、0度以上20度以下である、請求項に記載の液晶表示装置。
【請求項7】
前記第1偏光板の透過軸の軸方向を0度、前記第2偏光板の透過軸の軸方向を90度と定義したときの前記斜めスリット部が延びる方向が、50度以上75度以下である、請求項4~6のいずれか一項に記載の液晶表示装置。
【請求項8】
前記複数の配向領域の各配向領域において、前記第1配向膜により規定されるプレチルト角及び前記第2配向膜により規定されるプレチルト角のうち、一方が90度未満であり、他方が実質的に90度である、請求項1~7のいずれか一項に記載の液晶表示装置。
【請求項9】
前記複数の配向領域のうち、一部の配向領域は、前記第1配向膜により規定されるプレチルト角が90度未満であって、かつ前記第2配向膜により規定されるプレチルト角が実質的に90度であり、残りの配向領域は、前記第1配向膜により規定されるプレチルト角が実質的に90度であって、かつ前記第2配向膜により規定されるプレチルト角が90度未満である、請求項1~7のいずれか一項に記載の液晶表示装置。
【請求項10】
前記光配向膜は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン及び不飽和結合を有する単量体を用いて得られる重合体よりなる群から選択される少なくとも一種を用いて形成されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の液晶表示装置。
【請求項11】
前記複数の配向領域は、前記各辺のうち所定方向に延びる辺に沿って並べて配置されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の液晶表示装置。
【請求項12】
前記複数の配向領域は、前記各辺のうち第1方向に延びる辺及び前記第1方向と直交する第2方向に延びる辺のそれぞれに沿って複数ずつ並べて配置されている、請求項1~10のいずれか一項に記載の液晶表示装置。
【請求項13】
前記画素電極の電極幅をL、前記スリットの幅をS、前記液晶層の厚さをdとしたとき、L<1.1d、かつS<dである、請求項1~12のいずれか一項に記載の液晶表示装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年8月23日に出願された日本特許出願番号2019-153145号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0003】
液晶ディスプレイ、特に大型テレビ向けの液晶表示パネルは、視野角、透過率、応答時間等が重要な性能指標である。これらの性能指標の値を良好にするための液晶表示モードとして、4D-RTN(4Domain-Reverse Twisted Nematic)モードや、PSA(Polymer Sustained Alignment)モード、IPS(In Plane Switching)モード、FFS(Fringe Field Switching)モード等の各種モードが開発されている(例えば、特許文献1参照)。現在では、これらの液晶表示モード技術を使った大型テレビが量産されている。
【0004】
近年、これまでのハイビジョン(画素数1920×1080)から、より高精細の4K(画素数3840×2160)や8K(画素数7680×4320)が実現されつつある。しかしながら、4Kや8Kの液晶表示パネルでは、配線数やスイッチング素子の増加等に起因してパネル透過率が低下する傾向にある。パネル透過率が低下すると、バックライトの光利用効率が低下するため、消費電力の増大に繋がる。
【0005】
こうした不都合を解消するべく、特許文献2には、光配向膜を用いた4D-RTNの透過率改善を目的として、4D-ECBモード(4Domain-Electrically Controlled Birefringence)を活用した技術が開示されている。特許文献2に記載の液晶表示装置は、一つの画素内に、液晶分子の傾斜方位が互いに異なる4つの配向領域を画素の長手方向に沿って配置し、液晶表示パネルを平面視したときに、これら4つの配向領域のそれぞれにおいて、液晶分子のねじれ角が実質的に0度になるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5184618号公報
【文献】国際公開第2017/057210号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の技術により液晶表示装置の透過率を改善できることが期待されるものの、特許文献2に記載の液晶表示装置は視野角特性に優れているとはいえない。従来にも増して高品位な液晶表示装置を得るために、透過率特性と視野角特性との両立を図ることが求められている。
【0008】
本開示は上記課題に鑑みなされたものであり、透過率特性及び視野角特性に優れた液晶表示装置を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討し、画素電極においてスリットが延びる方向と、液晶分子の配向方位との関係に着目することにより本開示の課題を解決するに至った。具体的には、本開示は以下の手段を採用した。
【0010】
[1] 複数の画素が表示領域に配置された液晶表示装置であって、スリットを有する画素電極が設けられた第1基板と、前記第1基板に対向するように配置された第2基板と、
前記第1基板と前記第2基板との間に設けられ、負の誘電率異方性を持つ液晶分子を含有する液晶層と、前記第1基板に形成された第1配向膜と、前記第2基板に形成された第2配向膜と、を備え、前記第1配向膜及び前記第2配向膜のうち少なくとも一方は光配向膜であり、前記複数の画素における各画素は、電圧印加時において液晶分子の配向方位が互いに異なる複数の配向領域を有し、前記スリットは、前記複数の配向領域における各配向領域に配置され、前記画素の各辺に対し斜め方向に延びるように形成された斜めスリット部を有し、前記斜めスリット部が延びる方向と、電圧無印加時において前記液晶層の厚み方向の中央付近に存在する液晶分子の長軸方向を前記第1基板に投影した方向である液晶投影方向とのなす角度が、15度以上85度以下である、液晶表示装置。
【0011】
[2] 前記各辺のうち所定の辺と、前記液晶投影方向とのなす角度が、0度以上30度以下である、上記[1]の液晶表示装置。
[3] 前記所定の辺と、前記斜めスリット部が延びる方向とのなす角度が、45度以上85度以下である、上記[2]の液晶表示装置。
【0012】
[4] 複数の画素が表示領域に配置された液晶表示装置であって、スリットを有する画素電極が設けられた第1基板と、前記第1基板に対向するように配置された第2基板と、前記第1基板と前記第2基板との間に設けられ、負の誘電率異方性を持つ液晶分子を含有する液晶層と、前記第1基板に形成された第1配向膜と、前記第2基板に形成された第2配向膜と、前記第1基板を挟んで前記液晶層側とは反対側に配置された第1偏光板と、前記第2基板を挟んで前記液晶層側とは反対側に配置された第2偏光板と、を備える。前記第1配向膜及び前記第2配向膜のうち少なくとも一方は光配向膜であり、前記複数の画素における各画素は、電圧印加時において液晶分子の配向方位が互いに異なる複数の配向領域を有し、前記スリットは、前記複数の配向領域における各配向領域に配置され、前記画素の各辺に対し斜め方向に延びるように形成された斜めスリット部を有し、平面視して、前記第1偏光板の透過軸と前記第2偏光板の透過軸とは互いに直交し、前記第1偏光板の透過軸の軸方向を0度、前記第2偏光板の透過軸の軸方向を90度と定義したときに、電圧無印加時において前記液晶層の厚み方向の中央付近に存在する液晶分子の長軸方向を前記第1基板に投影した方向である液晶投影方向が、前記複数の配向領域のそれぞれにおいて0度以上30度以下であり、かつ前記斜めスリット部が延びる方向が、前記複数の配向領域のそれぞれにおいて45度以上85度以下である、液晶表示装置。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、透過率特性及び視野角特性に優れた液晶表示装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、液晶表示装置の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、画素の配置を表す模式図である。
図3図3は、第1実施形態の液晶表示装置が有する画素におけるチルト方位及び配向方位を表す模式図である。
図4図4は、第1実施形態の液晶表示装置が有する画素におけるチルト方位及び配向方位を表す模式図である。
図5図5は、図3の液晶表示装置における電圧-透過率特性を示す図である。
図6図6は、図4の液晶表示装置における電圧-透過率特性を示す図である。
図7図7は、図8の液晶表示装置における電圧-透過率特性を示す図である。
図8図8は、比較例(比較例3)の液晶表示装置が有する画素におけるチルト方位及び配向方位を表す模式図である。
図9図9は、一配向領域における液晶分子のプレチルト角を表す模式図である。
図10図10は、第2実施形態の液晶表示装置が有する画素におけるチルト方位及び配向方位を表す模式図である。
図11図11は、図10の液晶表示装置における電圧-透過率特性を示す図である。
図12図12は、第3実施形態の液晶表示装置が有する画素におけるチルト方位及び配向方位を表す模式図である。
図13図13は、第4実施形態の液晶表示装置が有する画素におけるチルト方位及び配向方位を表す模式図である。
図14図14は、図13の液晶表示装置における電圧-透過率特性を示す図である。
図15図15は、他の実施形態の液晶表示装置が有する画素におけるチルト方位及び配向方位を表す模式図である。
図16図16は、実施例2の液晶表示装置が有する画素におけるチルト方位及び配向方位を表す模式図である。
図17図17は、実施例7の液晶表示装置が有する画素におけるチルト方位及び配向方位を表す模式図である。
図18図18は、実施例8の液晶表示装置が有する画素におけるチルト方位及び配向方位を表す模式図である。
図19図19は、実施例9の液晶表示装置が有する画素におけるチルト方位及び配向方位を表す模式図である。
図20図20は、比較例1及び比較例2の液晶表示装置が有する画素におけるチルト方位及び配向方位を表す模式図である。
図21図21は、比較例4及び比較例5の液晶表示装置が有する画素におけるチルト方位及び配向方位を表す模式図である。
図22図22は、比較例6の液晶表示装置が有する画素におけるチルト方位及び配向方位を表す模式図である。
図23図23は、液晶投影角度-透過率特性を示す図である。
図24図24は、スリット角度-透過率特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下に、第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。なお、以下の説明では便宜上、液晶表示装置の表示領域を正面から見た方向を基準にして上下及び左右を示している。
【0016】
本明細書において、「画素」とは、表示において各色の濃淡(階調)を表現する最小単位であり、カラー表示装置では、例えばR,G及びBのそれぞれの階調を表現する単位に相当する。したがって、「画素」と表現した場合、R画素、G画素及びB画素を組み合わせたカラー表示画素(絵素)ではなく、R画素、G画素及びB画素のそれぞれを指す。つまり、カラー表示装置の場合、1つの画素は、カラーフィルタのいずれかの色に対応している。「プレチルト角」とは、液晶表示装置に対し電圧を印加していない状態(電圧オフの状態)において、配向膜表面と配向膜近傍の液晶分子の長軸方向とがなす角度である。
【0017】
「方位」とは、基板面又は基板面に平行な平面における向きを意味する。ただし、方位は、基板面の法線方向に対する傾斜角を考慮していない。基準について特に説明がない場合、方位は、表示領域の正面から見て画素の下辺に平行であって右方向に延びる方向を基準方位(0度)とし、反時計回りを正の角度として表す。「液晶層の配向方位」とは、液晶層の厚み方向の中央付近に存在する液晶分子(より詳細には、各画素の液晶層における層面内の中央付近であって、かつ液晶層の厚み方向の中央付近に存在する液晶分子)における、画素電極が配置された基板(第1基板)側の長軸端部を始点とし、他方の基板(第2基板)側の長軸端部を終点とする方向を意味する。したがって、「液晶層の厚み方向の中央付近に存在する液晶分子の長軸方向を第1基板に投影した方位」とは、液晶層の厚み方向の中央付近に存在する液晶分子における第1基板側の長軸端部を始点とし、第2基板側の長軸端部を終点とする方向を第1基板に投影した向きを意味する。「チルト方位」とは、電圧オフの状態において、配向膜近傍に存在する液晶分子の当該配向膜側の長軸端部を始点とし、配向膜とは反対側の長軸端部を終点とする方向を意味する。
【0018】
<液晶表示装置>
液晶表示装置10は、薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)型の液晶表示装置であり、その表示領域29に画素30が複数並べて配置されている。液晶表示装置10は、図1に示すように、第1基板11及び第2基板12からなる一対の基板と、第1基板11と第2基板12との間に配置された液晶層13と、を備えている。なお、本実施形態では、TFT型の液晶表示装置に適用する場合について説明するが、他の駆動方式(例えば、パッシブマトリックス方式、プラズマアドレス方式等)に本開示を適用してもよい。
【0019】
第1基板11は、ガラスや樹脂等からなる透明基板14の液晶層13側の表面上に、ITO(Indium Tin Oxide)等の透明導電体からなる画素電極15、スイッチング素子としてのTFT、走査線や信号線等の各種配線が配置されたTFT基板である。画素電極15は、スリットが設けられた電極(スリット電極)である。第2基板12は、ガラスや樹脂等からなる透明基板16の液晶層13側の表面上に、ブラックマトリクス17、カラーフィルタ18、透明導電体からなる対向電極19(共通電極ともいう。)が設けられたCF基板である。対向電極19は、スリットが形成されていない面状電極である。
【0020】
一対の基板11,12には、基板面近傍の液晶分子を基板面(すなわち電極配置面)に対して所定方位に配向させる液晶配向膜が形成されている。液晶配向膜は、電圧オフ時において、液晶分子の長軸方向が基板面に対して垂直方向になるよう液晶分子を配向させる垂直配向膜である。液晶表示装置10は、液晶配向膜として、第1基板11の電極配置面上に形成された第1配向膜22と、第2基板12の電極配置面上に形成された第2配向膜23とを有している。
【0021】
第1基板11及び第2基板12は、第1基板11の電極配置面と、第2基板12の電極配置面とが対向するように、スペーサ24を介して所定の間隙(セルギャップ)を設けて配置されている。なお、図1には、スペーサ24を柱状スペーサとした場合を示したが、ビーズスペーサ等の他の液晶装置用スペーサであってもよい。対向配置された一対の基板11,12は、その周縁部において、シール材25を介して貼り合わされている。第1基板11、第2基板12及びシール材25によって囲まれた空間には液晶組成物が充填されている。これにより、第1基板11と第2基板12との間に液晶層13が形成されている。液晶層13には、負の誘電率異方性を持つ液晶分子が充填されている。液晶層13の厚さ(d)は、例えば1.5~8.0μmであり、好ましくは2.0μm以上である。
【0022】
第1基板11及び第2基板12のそれぞれの外側には偏光板が配置されている。液晶表示装置10は、偏光板として、第1基板11側に設けられた第1偏光板27と、第2基板12側に設けられた第2偏光板28とを備えている。第1偏光板27の透過軸27aと、第2偏光板28の透過軸28aとは、表示領域29の正面から見て互いに直交するように配置されている。また、第1基板11の外縁部には端子領域が設けられている。この端子領域に、液晶を駆動するためのドライバIC等が接続されることにより液晶表示装置10が駆動される。
【0023】
(各画素の配向方位)
図2は、液晶表示装置10の表示領域29を第2基板12側から見た場合の画素30の配置を表す模式図である。図中、符号35の円錐体は、液晶分子を表す。液晶分子35は、円錐体の頂点側が第1基板11側、円錐体の底面側が第2基板12側を表す。図2には便宜上、一部の画素について液晶分子35を示している。
【0024】
画素30は矩形形状であり、上下方向に延びる長辺部30aと、左右方向に延びる短辺部30bとを備えている(図3(a)参照)。図2に示すように、表示領域29には、複数の画素30が上下方向(図2中のY軸方向)及び左右方向(図2中のX軸方向)にマトリクス状に配置されている。本実施形態では、画素30の短手方向とX軸方向とが平行になっており、画素30の長手方向とY軸方向とが平行になっている。また、X軸方向は、第1透過軸27aの軸方向に平行な方向であり、Y軸方向は、第2透過軸28aの軸方向に平行な方向である。
【0025】
各画素30は、電圧オン時の液晶層13の配向方位が互いに異なる複数の領域を有している。これにより、液晶表示装置10の視野角特性を補償している。本実施形態では、各画素30には、電圧オン時の液晶層13の配向方位が互いに異なる4つの配向領域が形成されている。
【0026】
具体的には、各画素30は、複数の配向領域として第1ドメイン31、第2ドメイン32、第3ドメイン33及び第4ドメイン34を有している。これら4つのドメイン31~34は、1画素内に上下方向(すなわち、第2透過軸28aの軸方向に平行な方向)に並べて配置されている。第1~第4ドメイン31~34において、電圧オフ時の液晶層13の配向方位は、α度、180-α度、180+α度、及び-α度(ただし、0≦α≦30度を満たす。)のいずれかとなっている。換言すると、第1透過軸27aの軸方向を0度、第2透過軸28aの軸方向を90度と定義したときに、電圧オフ時の液晶層13の配向方位は、第1~第4ドメイン31~34のそれぞれにおいて、0度以上30度以下の範囲内になっている。なお、第1透過軸27aの軸方向を0度、第2透過軸28aの軸方向を90度と定義した場合の方位は、0度以上90度以下の角度で表される。以下では、第1透過軸27aの軸方向を0度、第2透過軸28aの軸方向を90度と定義した場合において、画素30の短手方向(X軸方向)と、電圧オフ時の液晶層13の配向方位とのなす角度を「液晶投影角度α」ともいう。液晶投影角度αは、画素30の短手方向と電圧オフ時の液晶層13の配向方位とのなす角度のうち小さい方の角度をいう。
【0027】
α=10度である場合について、図3を用いて説明する。図3中、(a)は、第1基板11近傍の液晶分子のチルト方位を示し、(b)は、第2基板12近傍の液晶分子のチルト方位を示し、(c)及び(d)は、電圧オフ時の液晶層13の配向方位を示し、(e)は、電圧オン時の液晶層13の配向方位を示している。なお、図3(a)及び(b)の白抜き矢印はチルト方位を表す。図3(a)及び(b)は、基板上に形成した液晶配向膜を液晶層13側から見た模式図である。図3(c)~(e)は、液晶表示装置10を第2基板12側から平面視した模式図である。図3(d)及び(e)には、第1基板11に設けられた画素電極15を併せて示している。
【0028】
図3の例では、第1基板11近傍の液晶分子のチルト方位は、第1基板11を液晶層13側から見て、第1ドメイン31が-10度(=350度)、第2ドメイン32が10度、第3ドメイン33が190度、第4ドメイン34が170度となる(図3(a)参照)。また、第2基板12近傍の液晶分子のチルト方位は、第2基板12を液晶層13側から見て、第1ドメイン31が10度、第2ドメイン32が-10度(=350度)、第3ドメイン33が170度、第4ドメイン34が190度となる(図3(b)参照)。これら一対の基板11、12の配向膜面が対向するように液晶表示装置10を構築することにより、液晶表示装置10において、電圧オフ時の液晶層13の配向方位は、第1ドメイン31で-10度(=350度)、第2ドメイン32で10度、第3ドメイン33で190度、第4ドメイン34で170度となる(図3(c)及び(d)参照)。
【0029】
(液晶配向膜)
第1配向膜22及び第2配向膜23のうち少なくとも一方は光配向膜であり、本実施形態では、第1配向膜22及び第2配向膜23は共に光配向膜である。第1配向膜22及び第2配向膜23は、光配向性基を有する重合体を含有する重合体組成物(以下、「液晶配向剤」という。)を用いて形成された塗膜に対し、フォトマスク(例えば偏光子)を用いて、偏光放射線を複数回斜め照射することにより形成されている。これにより、一画素内に、電圧オン時において液晶層13の配向方位が互いに異なる複数の領域が形成されている。
【0030】
なお、本明細書において、「光配向膜」とは、光配向性基を有する重合体を用いて形成された塗膜に対して偏光又は無偏光の光照射を行うことにより形成された液晶配向膜をいう。「光配向性基」とは、光照射による光異性化反応、光二量化反応、光分解反応又は光転位反応等によって膜に異方性を付与する官能基である。
【0031】
液晶配向剤の重合体成分は特に限定されないが、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリオルガノシロキサン、及び不飽和結合を有する単量体を用いて得られる重合体(以下、「不飽和単量体系重合体」ともいう。)よりなる群から選択される少なくとも一種の重合体であることが好ましい。不飽和単量体系重合体としては、マレイミド系重合体、(メタ)アクリル系重合体等が挙げられる。なお、マレイミド系重合体とは、マレイミド化合物に由来する構造単位を有する重合体をいう。マレイミド系重合体は、マレイミド化合物に由来する構造単位と、スチレン化合物に由来する構造単位とを有する重合体(スチレン-マレイミド系重合体)が好ましい。
【0032】
光配向性基としては、アゾベンゼン又はその誘導体を基本骨格として含むアゾベンゼン含有基、桂皮酸又はその誘導体(桂皮酸構造)を基本骨格として含む桂皮酸構造含有基、カルコン又はその誘導体を基本骨格として含むカルコン含有基、ベンゾフェノン又はその誘導体を基本骨格として含むベンゾフェノン含有基、フェニルベンゾエート又はその誘導体を基本骨格として含むフェニルベンゾエート含有基、クマリン又はその誘導体を基本骨格として含むクマリン含有基等が挙げられる。これらのうち、光反応性が高い点で、第1配向膜22及び第2配向膜23を形成する際に用いる液晶配向剤は、桂皮酸構造含有基を有する重合体を含有することが好ましい。
【0033】
第1配向膜22により規定されるプレチルト角及び第2配向膜23により規定されるプレチルト角は、液晶分子35の応答遅れを抑制する観点から、少なくとも一方が90度未満であることが好ましい。本実施形態では、第1配向膜22により規定されるプレチルト角及び第2配向膜23により規定されるプレチルト角がいずれも90度未満である。プレチルト角は、好ましくは89.9度以下であり、より好ましくは89.5度以下であり、更に好ましくは89.0度以下である。また、液晶表示装置10のコントラストの低下を抑制する観点から、プレチルト角は、好ましくは81.0度以上であり、より好ましくは83.0度以上であり、さらに好ましくは84.0度以上である。
【0034】
(スリット)
画素電極15には、開口部であるスリット15aが複数設けられている(図3(d)及び(e)参照)。スリット15aは、画素30の各辺(長辺部30a及び短辺部30b)に対して斜め方向に延びる斜めスリットである。スリット15aは、画素領域の面全体に形成されている。これにより、各ドメイン31~34には、スリット15aが延びる方向に平行に延びる複数の線状電極15bが面全体に配置されている。スリット15aの幅(以下、「スリット幅」ともいう。)は、例えば1~8μmであり、好ましくは5μm以下である。また、互いに隣接するスリット15aの間の距離(すなわち、線状電極15bの幅。以下、「電極幅」ともいう。)は、例えば1~8μmであり、好ましくは5μm以下である。なお、画素電極15が有するスリット15aは、図3に示すように、斜めスリットのみから構成されていてもよいし、長辺部30a又は短辺部30bに平行な開口部を更に有していてもよい。
【0035】
スリット15aが延びる方位(すなわち、線状電極15bが延びる方位)は、第1~第4ドメイン31~34のそれぞれにおいて、β度又は-β度(ただし、45度≦β≦85度を満たす。)となっている。換言すると、第1透過軸27aの軸方向を0度、第2透過軸28aの軸方向を90度と定義したときに、スリット15aが延びる方位と、画素30の短手方向(X軸方向)とのなす角度は、第1~第4ドメイン31~34のそれぞれにおいて、45度以上85度以下となっている。スリット15aが延びる方位は、第1ドメイン31と第2ドメイン32とで異なり、第3ドメイン33と第4ドメイン34とで異なっている。具体的には、第1ドメイン31及び第4ドメイン34では、スリット15aが延びる方位は-β度(=360-β度)であり、第2ドメイン32及び第3ドメイン33では、スリット15aが延びる方位はβ度である。
【0036】
なお、以下では、画素30の短手方向(X軸方向)と、スリット15aが延びる方向とのなす角度を「スリット角度β」という。スリット角度βは、2つの角度のうち小さい方の角度である(図3(d)、(e)参照)。スリット角度βは、第1透過軸27aとスリット15aが延びる方向とのなす角度でもあり、0度以上90度以下の値を取り得る。
【0037】
電圧オン時には、スリット15aによって形成される電界が作用することにより、液晶層13の配向方位は、複数の配向領域で互いに異なる。このとき、液晶層13の配向方位は、各配向領域において、スリット15aが延びる方向と平行になる(図3(e)参照)。例えば、図3の液晶表示装置10はβ=45度であり、各ドメインにおける液晶層13の配向方位はそれぞれ、電圧オフ時には、-10度(=350度)、10度、190度、170度となり(図3(d)参照)、電圧オン時には、-45度(=315度)、45度、225度、135度となる(図3(e)参照)。
【0038】
液晶表示装置10は、各画素30の各ドメイン31~34において、スリット15aが延びる方向と、電圧オフ時における液晶層13の配向方位とのなす角度γ(2つの角度のうち小さい方の角度、図3(d)参照)が、15度以上85度以下の範囲内となっている。角度γが上記範囲内にあることにより、透過率特性及び視野角特性に優れた液晶表示装置10を得ることができる。液晶表示装置10の電圧オン時の透過率特性及び視野角特性をより優れたものとする観点から、角度γは、20度以上であることがより好ましく、30度以上であることが更に好ましく、35度以上であることが特に好ましい。また、角度γは、80度以下であることがより好ましく、70度以下であることが更に好ましく、65度以下であることが特に好ましい。なお、角度γは、スリット角度βと液晶投影角度αとの差分で表される。図3の例では、角度γは35度である。
【0039】
次に、本実施形態の液晶表示装置10の他の一例として、α=0度かつβ=60度である場合について、図4を用いて説明する。図4の(a)~(e)は図3と同じである。図4の例では、第1基板11近傍の液晶分子のチルト方位は、第1基板11を液晶層13側から見て、第1ドメイン31及び第2ドメイン32が0度、第3ドメイン33及び第4ドメイン34が180度となる(図4(a)参照)。また、第2基板12近傍の液晶分子のチルト方位は、第2基板12を液晶層13側から見て、第1ドメイン31及び第2ドメイン32が0度、第3ドメイン33及び第4ドメイン34が180度となる(図4(b)参照)。この液晶表示装置10においては、電圧オフ時の液晶層13の配向方位が、第1ドメイン31及び第2ドメイン32で0度、第3ドメイン33及び第4ドメイン34で180度となる。また、電圧オン時の液晶層13の配向方位は、スリット15aが延びる方向に平行な方向、すなわち、第1ドメイン31で-60度(=300度)、第2ドメイン32で60度、第3ドメイン33で240度、第4ドメイン34で120度となる。角度γは60度である。
【0040】
液晶投影角度αは、視野角特性の改善効果をより高くできる点で、0度以上25度以下であることが好ましく、0度以上20度以下であることがより好ましく、0度以上15度以下であることが更に好ましく、0度以上10度以下であることが特に好ましい。スリット角度βは、液晶表示装置の駆動電圧を下げることができる点で、45度よりも大きい角度であることが好ましく、50度以上であることがより好ましく、55度以上であることが更に好ましい。また、スリット角度βは、電圧オン時の透過率特性の改善効果をより高くできる点で、80度以下であることが好ましく、75度以下であることがより好ましく、70度以下であることが更に好ましく、60度以下であることが特に好ましい。
【0041】
<液晶表示装置の製造方法>
次に、液晶表示装置10の製造方法について説明する。液晶表示装置10は、以下の工程1~3を含む方法によって製造することができる。
【0042】
(工程1:塗膜の形成)
まず、公知の方法に従って、配向膜形成前の第1基板11及び第2基板12を準備する。続いて、第1基板11及び第2基板12の各電極配置面上に液晶配向剤を塗布し、基板上に塗膜を形成する。基板への液晶配向剤の塗布は、好ましくはオフセット印刷法、フレキソ印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行う。液晶配向剤を塗布した後には、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、焼成(ポストベーク)が実施される。ポストベーク温度は、好ましくは80~300℃であり、ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。形成される液晶配向膜の厚みは、好ましくは0.001~1μmである。
【0043】
(工程2:配向処理)
続いて、液晶配向膜に所望のプレチルト角特性を付与するために、工程1により形成した塗膜(液晶配向膜)の少なくとも一方に対して光配向処理を行う。本実施形態では、第1基板11上に形成した塗膜及び第2基板12上に形成した塗膜のそれぞれに対し、フォトマスクを用いて、液晶配向膜に発現させるチルト方位に応じて、基板面に対し斜め方向から偏光放射線(直線偏光)を照射する。これにより、塗膜にプレチルト角付与能を発現させ、液晶配向膜とする。光配向処理は、塗膜上での露光方位が互いに異なる複数の走査工程により行われる。これら複数の走査工程により、電圧オン時における液晶層13の配向方位が互いに異なる複数のドメイン(図3及び図4では4つのドメイン)が1画素内に形成される。
【0044】
塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザー等が挙げられる。放射線の照射量は、好ましくは100~50,000J/mであり、より好ましくは150~20,000J/mである。
【0045】
図3のように液晶投影角度αを0よりも大きくした場合には、各基板に対し、一画素内に形成される配向領域の数に対応する回数(本実施形態では合計4回)のスキャン露光を行う。一方、図4のように液晶投影角度αを0とした場合には、各基板に対し、一画素内に形成される配向領域の数の半分に対応する回数(本実施形態では合計2回)のスキャン露光で済む。したがって、α=0の場合には、液晶表示装置10の製造に際し配向処理回数を少なくすることができ、製造プロセスの効率化を図ることができる。
【0046】
(工程3:液晶セルの構築)
続いて、液晶配向膜が形成された2枚の基板(第1基板11及び第2基板12)を用い、対向配置した2枚の基板間に、負の誘電率異方性を持つ液晶分子を配置することにより、液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール材により貼り合わせ、基板表面及びシール材により囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。PSAモードの場合には、液晶セルの構築後に、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。
【0047】
続いて、液晶セルのそれぞれの外側表面に、透過軸27aと透過軸28aとが直交するように第1偏光板27及び第2偏光板28を貼り合わせることにより、液晶表示装置10が得られる。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0048】
<液晶表示装置の作用>
次に、上述した液晶表示装置10の作用について説明する。液晶表示装置10は、スリット15aが延びる方向と、電圧オフ時における液晶層13の配向方位とのなす角度γが、15度以上85度以下の範囲内となっている。角度γを上記特定の範囲内とすることにより、液晶表示装置の透過率特性と視野角特性とを優れたものとすることができる。この点について、図5及び図6の電圧-透過率特性を用いて更に説明する。これらの電圧-透過率特性は、以下の実施例に記載の計算条件にてシミュレーションにより算出した結果である。
【0049】
図5は、図3の液晶表示装置10において、プレチルト角を89度とした場合の電圧-透過率特性を示している。図6は、図4の液晶表示装置10において、プレチルト角を87度とした場合の電圧-透過率特性を示している。図7には、比較のため、図8に示す従来のUV2Aモード型の液晶表示装置(γ=0度)の例を示している。図5~7中、実線は、液晶表示装置の表示領域を正面から見た場合(θ=0度、φ=0度)であり、破線は、液晶表示装置の表示領域を正面から右方向又は左方向に45度傾いた方向から見た場合(θ=45度、φ=0度)である。θは、液晶表示装置の表示領域の正面を0度とした極角であり、φは、画素の短手方向に平行な方向であって、表示領域を正面から見たときの右方向を0度とした方位角である。
【0050】
図5に示すように、図3の液晶表示装置10では、θ=0度及びθ=45度のいずれにおいても最大透過率が十分に高く、透過率特性が良好である。また、図3の液晶表示装置10は、印加電圧(駆動電圧)を大きくしてもθ=0度とθ=45度との間の透過率差が小さく、視野角特性も良好である。またさらに、図4の液晶表示装置10についても同様の結果が得られた。一方、図8の液晶表示装置は、印加電圧を大きくすると、θ=0度とθ=45度との間の透過率差が大きくなり、角度γが15度以上85度以下の範囲内であるという条件を満たす液晶表示装置に比べて視野角特性に劣る。
【0051】
液晶表示装置10は、種々の用途に有効に適用することができる。液晶表示装置10は、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワードプロセッサ(ワープロ)、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイなどの各種表示装置として用いることができる。
【0052】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について第1実施形態との相違点を中心に説明する。上記第1実施形態では、第1配向膜22により規定されるプレチルト角及び第2配向膜23により規定されるプレチルト角を共に90度未満としたが、本実施形態では、第1配向膜22により規定されるプレチルト角及び第2配向膜23により規定されるプレチルト角のうち、一方が90度未満であり、他方が実質的に90度である点で第1実施形態と相違する。
【0053】
図9に、本実施形態の液晶表示装置の各画素30における、液晶分子のプレチルト角を示す。図9に示すように、第1~第4ドメイン31~34のそれぞれの配向領域39は、第1配向膜22により規定されるプレチルト角θ1を90度未満とし、第2配向膜23により規定されるプレチルト角θ2を実質的に90度としている。
【0054】
具体的には、第1配向膜22は、光配向処理により、1画素内において液晶分子の配向方位が領域ごとに異なるように分割露光されている(図10(a)参照)。第1配向膜22は、光配向性基を有する重合体を用いて形成された塗膜に対し、フォトマスク(例えば偏光子)を用いて、偏光放射線を複数回斜め照射することにより形成されている。一方、第2配向膜23は分割露光されておらず(図10(b)参照)、電圧オフ時には、第2配向膜23の近傍に存在する液晶分子35の配向方位を同じ方向に制御する。本実施形態では、第1配向膜22と同じ重合体組成物を用いて形成された塗膜を、光を照射せず第2配向膜23としてそのまま用いている。
【0055】
なお、第2配向膜23に対して光照射しない構成に代えて、第2配向膜23の面全体に対し、フォトマスクを用いずに基板法線方向から無偏光露光を行ってもよい。この場合、第2基板12に対する露光は、平行光であっても拡散光であってもよい。
【0056】
第1配向膜22により規定されるプレチルト角θ1は、液晶分子35の応答遅れを抑制する観点から、好ましくは89.0度以下であり、より好ましくは88.5度以下であり、さらに好ましくは88.0度以下である。また、液晶表示装置10のコントラストの低下を抑制する観点から、プレチルト角θ1は、好ましくは81.0度以上であり、より好ましくは83.0度以上であり、さらに好ましくは84.0度以上である。なお、本明細書において「実質的に90度」とは、90度±0.5度の範囲をいう。第2配向膜23により規定されるプレチルト角θ2は、好ましくは90度±0.2度であり、より好ましくは90度±0.1度である。
【0057】
なお、液晶配向膜によって規定されるプレチルト角を第1配向膜22側と第2配向膜23側とで非対称とする場合、液晶配向膜を形成する際の加熱温度を第1配向膜22と第2配向膜23とで異なる温度としたり、液晶配向膜形成時のポストベーク時間を第1配向膜22と第2配向膜23とで異なる時間としたり、液晶配向膜の膜厚を第1配向膜22と第2配向膜23とで異なる厚さとしたり、或いは、第1配向膜22と第2配向膜23とを異種配向膜としたりすることにより、フリッカーや焼き付きの発生を抑制するようにしてもよい。
【0058】
図10には、本実施形態の液晶表示装置の一例として、α=0度かつβ=60度である場合を示している。図10中の(a)~(e)は図3と同じである。図10の例では、第1配向膜22は分割露光により形成されている。分割露光により、第1基板11近傍の液晶分子のチルト方位は、第1基板11を液晶層13側から見て、第1ドメイン31及び第2ドメイン32で0度、第3ドメイン33及び第4ドメイン34で180度となっている。一方、第2配向膜23には露光処理を行っていない。これら一対の基板11、12を貼り合わせて液晶表示装置10を構築することにより、液晶表示装置10において、電圧オフ時の液晶層13の配向方位は、第1ドメイン31及び第2ドメイン32で0度、第3ドメイン33及び第4ドメイン34で180度となる。また、液晶表示装置10の電圧オン時には、液晶層13の配向方位が、スリット15aが延びる方向に平行な方位となる。具体的には、第1ドメイン31では-60度(=300度)、第2ドメイン32では60度、第3ドメイン33では240度、第4ドメイン34では120度となる。角度γは60度である。
【0059】
図11に、図10の液晶表示装置における印加電圧と透過率との関係を示す。なお、図11は、第1基板11側のプレチルト角が87.0度、第2基板側のプレチルト角が90度であり、以下の実施例に記載の計算条件にてシミュレーションにより算出した結果である。図11中、実線及び破線は、上記図5~7と同じ意味である。図11に示すように、図10の液晶表示装置は、正面方向から見た場合(θ=0度)及び斜め方向から見た場合(θ=45度)のいずれにおいても最大透過率が十分に高く、透過率特性が良好である。また、図10の液晶表示装置は、印加電圧を大きくしても正面方向から見た場合(θ=0度)と斜め方向から見た場合(θ=45度)との間で透過率差が小さく、視野角特性も良好である。
【0060】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について第1実施形態及び第2実施形態との相違点を中心に説明する。本実施形態の液晶表示装置は、第1配向膜22により規定されるプレチルト角及び第2配向膜23により規定されるプレチルト角のうち、一方が90度未満であり、他方が実質的に90度となっている点で上記第2実施形態と同じである。ただし、本実施形態では、第1配向膜22及び第2配向膜23の両方が分割露光により作製されている点で第2実施形態と相違する。
【0061】
図12に、本実施形態の液晶表示装置の一例として、α=0度かつβ=60度である場合を示している。図12中の(a)~(e)は図3と同じである。図12の例では、第1配向膜22は、第1ドメイン31及び第2ドメイン32に対し分割露光することにより形成されている。これにより、第1基板11近傍の液晶分子のチルト方位は、第1基板11を液晶層13側から見て、第1ドメイン31及び第2ドメイン32では0度となっている。なお、第1配向膜22の第3ドメイン33及び第4ドメイン34に対しては光照射しないか、又は基板法線方向から無偏光露光を行う。一方、第2配向膜23は、第1ドメイン31及び第2ドメイン32に対しては光照射しないか、又は基板法線方向から無偏光露光を行い、第3ドメイン33及び第4ドメイン34に対し分割露光する。これにより、第2基板12近傍の液晶分子のチルト方位は、第2基板12を液晶層13側から見て、第3ドメイン33及び第4ドメイン34で0度となっている。
【0062】
これら一対の基板11、12を貼り合わせて液晶表示装置を構築することにより、液晶表示装置の電圧オフ時における液晶層13の配向方位は、第1ドメイン31及び第2ドメイン32で0度、第3ドメイン33及び第4ドメイン34で180度となる。また、液晶表示装置10の電圧オン時には、液晶層13の配向方位は、第1ドメイン31で-60度(=300度)、第2ドメイン32で60度、第3ドメイン33で240度、第4ドメイン34で120度となる。角度γは60度である。
【0063】
本実施形態では、第1~第4ドメイン31~34のうち一部に光照射することにより第1配向膜22及び第2配向膜23を形成する。こうした配向処理により、一画素内の複数のドメインのうちの一部(本実施形態では、第1ドメイン31及び第2ドメイン32)では、第1配向膜22により規定されるプレチルト角θ1を90度未満とし、かつ第2配向膜23により規定されるプレチルト角θ2を実質的に90度としている。残りのドメイン(本実施形態では、第3ドメイン33及び第4ドメイン34)では、第1配向膜22により規定されるプレチルト角θ1を実質的に90度とし、かつ第2配向膜23により規定されるプレチルト角θ2を90度未満としている。
【0064】
配向露光された液晶配向膜によって規定されるプレチルト角(以下、「チルト角θ3」という。)は、配向露光されていない液晶配向膜によって規定されるプレチルト角(以下、「チルト角θ4」という。)よりも小さい。液晶分子35の応答遅れを抑制する観点から、チルト角θ3は、好ましくは89.0度以下であり、より好ましくは88.5度以下であり、さらに好ましくは88.0度以下である。また、液晶表示装置のコントラストの低下を抑制する観点から、チルト角θ3は、好ましくは81.0度以上であり、より好ましくは83.0度以上であり、さらに好ましくは84.0度以上である。プレチルト角θ4は、実質的に90度である。
【0065】
この液晶表示モードでは、一対の基板に対するスキャン露光の回数を、一画素内に形成される配向領域の数に対応する回数以下(図12の液晶表示装置では合計2回)とすることができる。したがって、露光回数をできるだけ少なくすることができ、スループットの向上を図ることができる。
【0066】
また、本実施形態の液晶表示装置は、1画素内の複数の配向領域のうち、一部の配向領域については第1配向膜22に配向露光が施されており、残りの配向領域については第2配向膜23に配向露光が施されている。すなわち、各画素30は、1画素内の非対称性の向きが互いに逆方向になる領域を有している。この場合、第1基板11側を露光した配向領域と、第2基板12側を露光した配向領域とでは互いに逆相の波形でフリッカーを発生することとなる。これにより、露光回数の低減を図りながら、表示品位を良化することができる。
【0067】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について第1~第3実施形態との相違点を中心に説明する。上記第1~第3実施形態では、複数の配向領域(第1~第4ドメイン31~34)は、画素30の上下方向に並べて配置されている構成とした。これに対し、本実施形態では、複数の配向領域は、画素30の上下方向及び左右方向のそれぞれに複数個ずつ並べて配置されている点で第1~3実施形態と相違する。
【0068】
本実施形態の液晶表示装置の一例として、α=0度かつβ=45度である場合について、図13を用いて説明する。図13の(a)~(e)は図3と同じである。図13に示すように、第1~第4ドメイン31~34は、1画素内に、画素30の上下方向及び左右方向のそれぞれに2個ずつ並べて配置されている。隣接するドメイン同士は、スリット15aが延びる方向が互いに異なっている。具体的には、スリット15aは、画素30を平面視して、画素30の中央から外周に向かって放射線状に延びている(図13(e)参照)。
【0069】
図13の例では、第1基板11近傍の液晶分子35のチルト方位は、第1基板11を液晶層13側から見て、第1ドメイン31及び第3ドメイン33が0度、第2ドメイン32及び第4ドメイン34が180度となる。また、第2基板12近傍の液晶分子のチルト方位は、第2基板12を液晶層13側から見て、第1ドメイン31及び第3ドメイン33が180度、第2ドメイン32及び第4ドメイン34が0度となる。液晶層13の配向方位は、電圧オフ時に、第1ドメイン31及び第3ドメイン33で0度、第2ドメイン32及び第4ドメイン34で180度となり(図13(c)及び(d)参照)、電圧オン時には、スリット15aが延びる方向に平行な方向になる(図13(e)参照)。角度γは45度である。
【0070】
図14に、図13の液晶表示装置における印加電圧と透過率との関係を示す。なお、図14は、第1基板11側のプレチルト角及び第2基板側のプレチルト角をそれぞれ89.0度とし、以下の実施例に記載の計算条件にてシミュレーションにより算出した結果である。図14中、実線及び破線は、上記図5~7と同じ意味である。図14に示すように、本実施形態の液晶表示装置は最大透過率が十分に高く、透過率特性が良好である。また、印加電圧を大きくしても正面方向から見た場合(θ=0度)と斜め方向から見た場合(θ=45度)との間の透過率差が小さく、視野角特性も良好である。
【0071】
(他の実施形態)
本開示は上記実施形態に限定されず、例えば以下のように実施されてもよい。
【0072】
・上記第2実施形態では、第1配向膜22により規定されるプレチルト角θ1を90度未満とし、第2配向膜23により規定されるプレチルト角θ2を実質的に90度としたが、第2配向膜23により規定されるプレチルト角θ2を90度未満とし、第1配向膜22により規定されるプレチルト角θ1を実質的に90度としてもよい。
【0073】
・上記実施形態では、画素電極15として、画素領域の面全体にスリット15aが形成されている場合について説明したが、画素領域の一部(例えば、隣接する2つのドメインの境界部や、画素30の上下方向及び左右方向のうちいずれかの外縁部分)にのみスリットが形成されていてもよい。
【0074】
・画素の配向分割の数や画素の形状は上記実施形態の構成に限定されない。例えば、図15(a)に示すように、1画素を2つの領域に配向分割した液晶表示装置に本開示を適用したり、或いは、図15(b)及び図15(c)に示すように、1画素を8つの領域に配向分割した液晶表示装置に本開示を適用したりしてもよい。また、図15(d)に示すように、画素の各辺が上下方向に延びる短辺部と左右方向に延びる長辺部とにより構成された画素を備える液晶表示装置に本開示を適用してもよい。
【0075】
・上記第1~第4実施形態において、画素電極15の電極幅をL、スリット幅をS、液晶層13の厚さ(セルギャップ)をdとしたとき、L<1.1d、かつS<dを満たすことが好ましい。電極幅(L)、スリット幅(S)、及び液晶層13の厚さ(d)が上記関係を満たす場合、光透過率がより高い液晶表示装置10を得ることができる点で好適である。なお、液晶層13の厚さの変更に伴い、液晶表示装置10の好ましい電極幅及びスリット幅が変化する要因としては、スリット構造により電極間で発生する斜め電界が液晶の駆動に影響を及ぼすことが考えられる。この点に鑑み、上記関係(L<1.1d、S<d)を満たすように液晶層13の厚さ、並びに画素電極15の電極幅及びスリット幅を設定することにより、スリット電極を有する液晶表示装置において好適な斜め電界を得ることができ、透過率特性に優れた液晶表示装置を得ることができる。
【0076】
・上記実施形態では、カラーフィルタを第2基板12に設けたが、第1基板11にカラーフィルタを設けてもよい。
【実施例
【0077】
以下、実施例に基づき実施形態を説明するが、以下の実施例によって本開示が限定的に解釈されるものではない。
【0078】
以下の例において、重合体の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、重合体溶液の溶液粘度及びエポキシ当量は以下の方法により測定した。以下の実施例で用いた原料化合物及び重合体の必要量は、下記の合成例に示す合成スケールでの合成を必要に応じて繰り返すことにより確保した。
【0079】
[重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mn]
重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、以下の条件におけるGPCにより測定したポリスチレン換算値である。
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
溶剤:テトラヒドロフラン
温度:40℃
圧力:68kgf/cm
[重合体溶液の溶液粘度]
重合体溶液の溶液粘度(mPa・s)は、E型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
[エポキシ当量]
エポキシ当量は、JIS C 2105に記載の塩酸-メチルエチルケトン法により測定した。
【0080】
1.重合体の合成
[合成例1]
窒素下、100mL二口フラスコに、下記(MI-1)で表される化合物5.00g、4-ビニル安息香酸0.64g、4-(2,5-ジオキソ-3-ピロリン-1-イル)安息香酸2.82g、及び4-(グリシジルオキシメチル)スチレン3.29g、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.31g、連鎖移動剤として2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.52g、並びに溶媒としてテトラヒドロフラン25mlを加え、70℃で5時間重合した。n-ヘキサンに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することにより、スチレン-マレイミド系重合体(これを「重合体(PM-1)」とする。)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは30000、分子量分布Mw/Mnは2であった。
【化1】
【0081】
[合成例2]
窒素下、100mL二口フラスコに、上記(MI-1)で表される化合物5.00g、メタクリル酸0.86g、及びオキシラン-2-イルメチルメタクリラート1.43g、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.39g、連鎖移動剤として2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.39g、並びに溶媒としてテトラヒドロフラン25mlを加え、70℃で5時間重合した。n-ヘキサンに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することにより、スチレン-マレイミド系重合体(これを「重合体(PM-2)」とする。)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは28000、分子量分布Mw/Mnは1.8であった。
【0082】
[合成例3]
窒素下、100mL二口フラスコに、下記(MI-2)で表される化合物3.00g、メタクリル酸1.82g、及びオキシラン-2-イルメチルメタクリラート3.01g、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.39g、連鎖移動剤として2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.39g、並びに溶媒としてテトラヒドロフラン25mlを加え、70℃で5時間重合した。n-ヘキサンに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することにより、スチレン-マレイミド系重合体(これを「重合体(PM-3)」とする。)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは27000、分子量分布Mw/Mnは1.7であった。
【化2】
【0083】
[合成例4]
1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物70.0mmol、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル76.9mmolをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)170gに溶解し、25℃で3時間反応を行うことにより、ポリアミック酸を10質量%含有する溶液を得た。次いで、このポリアミック酸溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。得られた沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリアミック酸(これを「重合体(PAA-1)」とする。)を得た。
【0084】
[合成例5]
2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物0.121モル、6-{[((2E)-3-{4-[(4-(3,3,3-トリフルオロプロポキシ)ベンゾイル)オキシ]フェニル}プロパ-2-エノイル)オキシ]}ヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート0.109モル、5ξ-コレスタン-3-イル 2,4-ジアミノフェニルエーテル0.00604モル、及び3,5-ジアミノ安息香酸=5ξ-コレスタン-3-イル0.00604モルをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)185.7gに溶解し、60℃で24時間反応させた。この重合体溶液の粘度を測定したところ、2100mPa・sであった。次いで、このポリアミック酸溶液を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈殿させた。得られた沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥させることにより、ポリアミック酸(これを「重合体(PAA-2)」とする。)を得た。
【0085】
[合成例6]
撹拌機、温度計、滴下漏斗及び還流冷却管を備えた反応容器に、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン100.0g、メチルイソブチルケトン500g及びトリエチルアミン10.0gを仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水100gを滴下漏斗より30分かけて滴下した後、還流下で混合しつつ、80℃で6時間反応させた。反応終了後、有機層を取り出し、0.2質量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで洗浄したのち、減圧下で溶媒及び水を留去することにより、エポキシ基を有するポリオルガノシロキサン(EPS-1)を粘調な透明液体として得た。得られたポリオルガノシロキサン(EPS-1)の重量平均分子量Mwは2,200であり、エポキシ当量は186g/モルであった。
次いで、300mLの三口フラスコに、ポリオルガノシロキサン(EPS-1)30.1g、メチルイソブチルケトン140g、下記式(A-1)で表される桂皮酸誘導体(A-1)31.9g(ポリオルガノシロキサン(EPS-1)が有するケイ素原子に対して50モル%に相当する。)、ステアリン酸4.60g(ポリオルガノシロキサン(EPS-1)が有するケイ素原子に対して10モル%に相当する。)、3,5-ジニトロ安息香酸0.0686g(ポリオルガノシロキサン(EPS-1)が有するケイ素原子に対して0.2モル%に相当する。)及びテトラブチルアンモニウムブロミド3.00gを仕込み、80℃で5時間撹拌下に反応を行った。反応終了後、メタノールで再沈殿を行い、沈殿物を酢酸エチルに溶解して溶液を得た。得られた溶液を5回水洗した後、溶媒を留去することにより、感放射線性ポリオルガノシロキサンとして、重量平均分子量(Mw)が12,600(Mw/Mn=1.42)の重合体(PS-1)の白色粉末55.6gを得た。
【化3】
【0086】
2.液晶表示装置の製造及び評価
[実施例1]
1.液晶配向剤の調製
重合体(PAA-1)80質量部、及び重合体(PAA-2)20質量部に、溶剤としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶媒組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0087】
2.液晶表示装置の製造
TFT基板及びCF基板を用いて液晶表示装置を製造した。TFT基板の画素電極としては、各画素の短手方向とスリットが延びる方向とがなす角度(スリット角度β)が45度、電極幅(L)が3.5μm、スリット幅(S)が2.5μmであるスリット電極を用いた(図3参照、以下の実施例2~10、比較例1~6についても同じ)。CF基板の対向電極としては、スリットが形成されていないベタ電極を用いた。TFT基板及びCF基板の各電極配置面に液晶配向剤(AL-1)をスピンキャスト法により塗布した。これを80℃で1分間プレベークを行った後、230℃で40分間ポストベークを行い、膜厚が120nmの塗膜を形成した。続いて、TFT基板に形成した塗膜(液晶配向膜)に対しスキャン露光を行った。スキャン露光は、図3に従い、電圧オン時の液晶分子の配向方位が互いに異なる4つのドメインが1画素内に形成されるように、かつ、各ドメインの露光方位が、各画素の短手方向に対して10度となるように、313nmの直線偏光を20mJ/cmの強度により合計4回照射することにより行った。また、CF基板に形成した塗膜(液晶配向膜)に対してもTFT基板と同様にしてスキャン露光を行った。
【0088】
続いて、TFT基板の液晶配向膜の形成面に、負の誘電異率方性を有するネマチック液晶を滴下し、CF基板の外縁部に、シール材として熱硬化性エポキシ樹脂を配置した。その後、TFT基板、CF基板の配向膜面が互いに内側になるようにして貼り合わせた。続いて、130℃で1時間加熱してエポキシ樹脂を硬化させ、液晶セルを得た。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、液晶セルを150℃で加熱してから室温まで徐冷した。次に、液晶セルの基板外側の両面に、偏光板を、その透過軸が互いに直交するように貼り合わせ、光垂直型液晶表示装置を得た。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側及びCF基板側共に89.0度であった。電圧オフ時の液晶層の配向方位と画素の短手方向とがなす角度(液晶投影角度α)は10度となる。なお、プレチルト角は、シンテック社製のOPTI-Proを使用して測定した値である(以下同じ)。
【0089】
3.透過率特性の評価
(1)透過率の計算
LinkGlobal21社製のExpert LCDを用いて、上記1.で製造した液晶表示装置の透過率をシミュレーションにより算出した。計算条件として、液晶物性:Δε=3、Ne=1.6、No=1.5、セルギャップ:3.4μm、プレチルト角:計測値(実施例1では89.0°)を適用した。その結果を図5に示した。なお、図5には、液晶表示装置を正面方向(極角θ=0度かつ方位角φ=0度)から観察した場合の透過率(実線参照)と、液晶表示装置を斜め方向(極角θ=45度かつ方位角φ=0度)から観察した場合の透過率(破線参照)とを示している。
(2)最大透過率による評価
上記(1)の結果(図5)から、液晶表示装置の最大透過率により透過率特性を評価した。極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.280以上である場合に透過率特性「良好」、0.280未満である場合に「不良」と評価した。この実施例では、最大透過率は0.314であり、透過率特性「良好」と判断された。
(3)透過率比による評価
上記(1)の結果(図5)から、最大輝度になる電圧V100及び輝度が最大輝度の20%になる電圧V20の各電圧における透過率比α(V)を下記式(1)によりそれぞれ算出し、透過率比α(V)により視野角特性を評価した。
α(V)=(極角θ=0かつ方位角φ=0の透過率)/(極角θ=45かつ方位角φ=0の透過率)
…(1)
透過率比α(V)が1に近いほど、表示領域を正面から見た場合と斜め方向から見た場合との間の透過率差が小さく、視野角特性に優れているといえる。最大輝度になる電圧V100での透過率比α(V100)及び最大輝度の20%になる電圧V20での透過率比α(V20)が共に0.80~1.15の範囲内である場合を「良好」、電圧V100での透過率比α(V100)及び電圧V20での透過率比α(V20)のうち少なくとも一方が0.80未満であるか又は1.15よりも大きい場合を「不良」と評価した。この実施例では、電圧V100での透過率比α(V100)は1.08、電圧V20での透過率比α(V20)は1.01であり、視野角特性「良好」と判断された。
【0090】
[実施例2]
1.液晶配向剤の調製
重合体(PS-1)10質量部、及び重合体(PAA-1)100質量部に、溶剤としてNMP及びBCを加え、溶媒組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-2)を調製した。
2.液晶表示装置の製造
液晶配向剤(AL-1)に代えて液晶配向剤(AL-2)を用いた点、並びに、チルト方位が図16(a)及び(b)に示す方位となるように、第1~第4ドメインの露光方位を変更した点以外は、実施例1と同様にして図16の光垂直型液晶表示装置を製造した。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側及びCF基板側共に89.0度であった。液晶投影角度αは10度となる。
3.透過率特性の評価
実施例1と同様にして、上記2.で製造した液晶表示装置の透過率をシミュレーションにより算出した。その結果、この実施例では、極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.285であり、透過率特性「良好」と判断された。また、電圧V100での透過率比α(V100)は1.04、電圧V20での透過率比α(V20)は1.11であり、視野角特性「良好」と判断された。
【0091】
[実施例3]
1.液晶表示装置の製造
チルト方位が図4(a)及び(b)に示す方位となるように、第1~第4ドメインの露光方位を変更した点以外は、実施例1と同様にして、図4の光垂直型液晶表示装置を製造した。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側及びCF基板側共に89.0度であった。液晶投影角度αは0度となる。なお、スキャン露光は、各基板で2回ずつ(合計4回)行った。
2.透過率特性の評価
上記1.で製造した液晶表示装置の透過率を実施例1と同様にしてシミュレーションにより算出した。その結果、この実施例では、極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.312であり、透過率特性「良好」と判断された。また、電圧V100での透過率比α(V100)は1.07、電圧V20での透過率比α(V20)は1.09であり、視野角特性「良好」と判断された。
【0092】
[実施例4]
1.液晶表示装置の製造
液晶配向剤(AL-1)に代えて液晶配向剤(AL-2)を用いた点、スリット角度βを60度にした点、及びチルト方位が図4(a)及び(b)に示す方位となるように、第1~第4ドメインの露光方位を変更した点以外は、実施例1と同様にして図4の光垂直型液晶表示装置を製造した。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側及びCF基板側共に89.0度であった。液晶投影角度αは0度となる。
2.透過率特性の評価
実施例1と同様にして、上記1.で製造した液晶表示装置の透過率をシミュレーションにより算出することにより、図6の結果を得た。この実施例では、極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.313であり、透過率特性「良好」と判断された。また、電圧V100での透過率比α(V100)は1.12、電圧V20での透過率比α(V20)は1.12であり、視野角特性「良好」と判断された。
【0093】
[実施例5]
1.液晶配向剤の調製
重合体(PM-3)10質量部、及び重合体(PAA-1)100質量部に、溶剤としてNMP及びBCを加え、溶媒組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-3)を調製した。
2.液晶表示装置の製造
液晶配向剤(AL-1)に代えて液晶配向剤(AL-3)を用いた点、スリット角度βを60度にした点、及びチルト方位が図4(a)及び(b)に示す方位となるように、第1~第4ドメインの露光方位を変更した点以外は、実施例1と同様にして図4の光垂直型液晶表示装置を製造した。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側及びCF基板側共に87.0度であった。液晶投影角度αは0度となる。
3.透過率特性の評価
上記2.で製造した液晶表示装置の透過率を実施例1と同様にしてシミュレーションにより算出した。その結果、この実施例では、極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.314であり、透過率特性「良好」と判断された。また、電圧V100での透過率比α(V100)は1.09、電圧V20での透過率比α(V20)は1.04であり、視野角特性「良好」と判断された。
【0094】
[実施例6]
1.液晶表示装置の製造
液晶配向剤(AL-1)に代えて液晶配向剤(AL-3)を用いた点、スリット角度βを60度にした点、及びチルト方位が図10(a)に示す方位となるように、TFT基板にのみ露光した点以外は、実施例1と同様にして図10の光垂直型液晶表示装置を製造した。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側で87.0度、CF基板側で90度であった。液晶投影角度αは0度となる。
2.透過率特性の評価
実施例1と同様にして、上記2.で製造した液晶表示装置の透過率をシミュレーションにより算出することにより、図11の結果を得た。この実施例では、極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.313であり、透過率特性「良好」と判断された。また、電圧V100での透過率比α(V100)は1.12、電圧V20での透過率比α(V20)は1.04であり、視野角特性「良好」と判断された。
【0095】
[実施例7]
1.液晶配向剤の調製
重合体(PM-1)10質量部、及び重合体(PAA-1)100質量部に、溶剤としてNMP及びBCを加え、溶媒組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-4)を調製した。
2.液晶表示装置の製造
液晶配向剤(AL-1)に代えて液晶配向剤(AL-4)を用いた点、及びチルト方位が図17(b)に示す方位となるように、CF基板にのみ露光した点以外は、実施例1と同様にして図17の光垂直型液晶表示装置を製造した。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側が90度、CF基板側が88.0度であった。液晶投影角度αは0度となる。
3.透過率特性の評価
上記2.で製造した液晶表示装置の透過率を実施例1と同様にしてシミュレーションにより算出した。その結果、この実施例では、極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.310であり、透過率特性「良好」と判断された。また、電圧V100での透過率比α(V100)は1.07、電圧V20での透過率比α(V20)は1.12であり、視野角特性「良好」と判断された。
【0096】
[実施例8]
1.液晶表示装置の製造
液晶配向剤(AL-1)に代えて液晶配向剤(AL-4)を用いた点、スリット角度βを60度にした点、及びチルト方位が図18(a)に示す方位となるように、TFT基板にのみ露光した点以外は、実施例1と同様にして図18の光垂直型液晶表示装置を製造した。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側で88.0度、CF基板側で90度であった。液晶投影角度αは20度となる。
2.透過率特性の評価
実施例1と同様にして、上記1.で製造した液晶表示装置の透過率をシミュレーションにより算出した。この実施例では、極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.306であり、透過率特性「良好」と判断された。また、電圧V100での透過率比α(V100)は1.11、電圧V20での透過率比α(V20)は0.84であり、視野角特性「良好」と判断された。
【0097】
[実施例9]
1.液晶表示装置の製造
液晶配向剤(AL-1)に代えて液晶配向剤(AL-4)を用いた点、スリット角度βを60度にした点、及びチルト方位が図19(b)に示す方位となるようにCF基板にのみ露光した点以外は、実施例1と同様にして図19の光垂直型液晶表示装置を製造した。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側で90度、CF基板側で88.0度であった。液晶投影角度αは20度となる。
2.透過率特性の評価
実施例1と同様にして、上記1.で製造した液晶表示装置の透過率をシミュレーションにより算出した。この実施例では、極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.308であり、透過率特性「良好」と判断された。また、電圧V100での透過率比α(V100)は1.11、電圧V20での透過率比α(V20)は0.85であり、視野角特性「良好」と判断された。
【0098】
[実施例10]
1.液晶表示装置の製造
チルト方位が図13に示す方位となるようにTFT基板側及びCF基板側の塗膜に分割露光を行った点以外は、実施例1と同様にして、図13の光垂直型液晶表示装置を製造した。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側及びCF基板側共に89.0度であった。液晶投影角度αは0度となる。
2.透過率特性の評価
実施例1と同様にして、上記1.で製造した液晶表示装置の透過率をシミュレーションにより算出することにより、図14の結果を得た。この実施例では、極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.321であり、透過率特性「良好」と判断された。また、電圧V100での透過率比α(V100)は1.09、電圧V20での透過率比α(V20)は1.14であり、視野角特性「良好」と判断された。
【0099】
実施例1~10において使用した液晶配向剤、並びに液晶表示装置の液晶投影角度α、スリット角度β、電圧オフ時の液晶層の配向方位とスリット方向とがなす角度γ、及び透過率比α(V)を下記表1にまとめた。なお、液晶投影角度αは、電圧オフ時の液晶層の配向方位と、TFT基板側の偏光板の透過軸が延びる方向とがなす角度と等しく、スリット角度βは、スリット方向と、TFT基板側の偏光板の透過軸が延びる方向とがなす角度と等しくなる。
【0100】
【表1】
【0101】
[比較例1]
1.液晶表示装置の製造
スリットが設けられていないベタ電極をTFT基板及びCF基板として用いた点、及びチルト方位が図20(a)及び(b)に白抜き矢印で示す方位となるようにTFT基板側及びCF基板側の塗膜に分割露光を行った点以外は、実施例1と同様にして光垂直型液晶表示装置を製造した(図20)。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側及びCF基板側共に89.0度であった。液晶投影角度αは45度となる。なお、図20中、(a)~(c)は図3と同じであり、(d)は、電圧オン時の液晶層13の配向方位を示している。
2.透過率特性の評価
実施例1と同様にして、上記1.で製造した液晶表示装置の透過率をシミュレーションにより算出した。この実施例では、極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.243であり、透過率特性は「不良」と判断された。また、電圧V100での透過率比α(V100)は1.12、電圧V20での透過率比α(V20)は0.74であり、視野角特性「不良」と判断された。
【0102】
[比較例2]
1.液晶配向剤の調製
重合体(PM-2)10質量部、及び重合体(PAA-1)100質量部に、溶剤としてNMP及びBCを加え、溶媒組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が4.0質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-5)を調製した。
2.液晶表示装置の製造
スリットが設けられていないベタ電極をTFT基板及びCF基板として用いた点、液晶配向剤(AL-1)に代えて液晶配向剤(AL-5)を用いた点、及びチルト方位が図20に示す方位となるようにTFT基板側及びCF基板側の塗膜に分割露光を行った点以外は、実施例1と同様にして光垂直型液晶表示装置を製造した(図20)。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側及びCF基板側共に86.0度であった。液晶投影角度αは45度となる。
3.透過率特性の評価
実施例1と同様にして、上記2.で製造した液晶表示装置の透過率をシミュレーションにより算出した。この実施例では、極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.288であり、透過率特性は「良好」と判断された。一方、電圧V100での透過率比α(V100)は1.12、電圧V20での透過率比α(V20)は0.65であり、視野角特性「不良」と判断された。
【0103】
[比較例3]
1.液晶表示装置の製造
チルト方位が図8(a)及び(b)に白抜き矢印で示す方位となるようにTFT基板側及びCF基板側の塗膜に分割露光を行った以外は、実施例1と同様にして光垂直型液晶表示装置を製造した。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側及びCF基板側共に89.0度であった。液晶投影角度αは45度となる。
2.透過率特性の評価
実施例1と同様にして、上記1.で製造した液晶表示装置の透過率をシミュレーションにより算出することにより、図7の結果を得た。この実施例では、極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.306であり、透過率特性は「良好」と判断された。一方、電圧V100での透過率比α(V100)は1.12、電圧V20での透過率比α(V20)は0.69であり、視野角特性「不良」と判断された。
【0104】
[比較例4]
1.液晶表示装置の製造
スリットが設けられていないベタ電極をTFT基板及びCF基板として用いた点、及びチルト方位が図21(a)及び(b)に白抜き矢印で示す方位となるようにTFT基板側及びCF基板側の塗膜に分割露光を行った点以外は、実施例1と同様にして光垂直型液晶表示装置を製造した(図21)。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側及びCF基板側共に89.0度であった。液晶投影角度αは45度となる。なお、図21中、(a)~(c)は図3と同じであり、(d)は、電圧オン時の液晶層13の配向方位を示している。
2.透過率特性の評価
実施例1と同様にして、上記1.で製造した液晶表示装置の透過率をシミュレーションにより算出した。この実施例では、極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.272であり、透過率特性「不良」と判断された。また、電圧V100での透過率比α(V100)は1.12、電圧V20での透過率比α(V20)は0.69であり、視野角特性「不良」と判断された。
【0105】
[比較例5]
1.液晶表示装置の製造
スリットが設けられていないベタ電極をTFT基板及びCF基板として用いた点、液晶配向剤(AL-1)に代えて液晶配向剤(AL-3)を用いた点、及びチルト方位が図21(a)及び(b)に白抜き矢印で示す方位となるようにTFT基板側及びCF基板側の塗膜に分割露光を行った点以外は、実施例1と同様にして光垂直型液晶表示装置を製造した(図21)。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側及びCF基板側共に87.0度であった。液晶投影角度αは45度となる。
2.透過率特性の評価
実施例1と同様にして、上記1.で製造した液晶表示装置の透過率を測定した。この実施例では、極角θ=0度かつφ=0度での最大透過率が0.298であり、透過率特性「良好」と判断された。一方、電圧V100での透過率比α(V100)は1.11、電圧V20での透過率比α(V20)は0.65であり、視野角特性「不良」と判断された。
【0106】
[比較例6]
1.液晶表示装置の製造
チルト方位が図22(a)及び(b)に白抜き矢印で示す方位となるように、TFT基板及びCF基板に形成した塗膜に露光した点以外は、実施例1と同様にして光垂直型液晶表示装置を製造した(図22)。得られた液晶表示装置のプレチルト角は、TFT基板側及びCF基板側共に89.0度であった。液晶投影角度αは45度となる。
2.透過率特性の評価
実施例1と同様にして、上記1.で製造した液晶表示装置の透過率をシミュレーションにより算出した。この実施例では、極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.306であり、透過率特性「良好」と判断された。一方、電圧V100での透過率比α(V100)は1.12、電圧V20での透過率比α(V20)は0.69であり、視野角特性「不良」と判断された。
【0107】
比較例1~6において使用した液晶配向剤、並びに液晶表示装置の液晶投影角度α、スリット角度β、電圧オフ時の液晶層の配向方位とスリット方向とがなす角度γ、及び透過率比α(V)を下記表2にまとめた。
【0108】
【表2】
【0109】
[実施例11]
スリット角度βを固定値とし、液晶投影角度αを0度、10度、20度、30度及び40度に変更することにより、液晶投影角度αの変化に対する透過率変化を調べた。透過率の測定は、LinkGlobal21社製のExpert LCDを用い、液晶配向剤(AL-1)、印加電圧=10V、極角θ=0度、方位角φ=0度の条件により計算を行った。その結果を図23に示す。なお、図23中、(a)はスリット角度βを60度とした場合、(b)はスリット角度βを75度とした場合の結果である。
図23に示すように、β=60度とした場合、液晶投影角度αが30度以下では10V印加時の透過率が0.30よりも大きかったのに対し、液晶投影角度αを40度とすると、透過率の低下が大きかった。特に、液晶投影角度αを0度以上20度以下とした場合には、透過率がほぼ変わらず安定し、透過率特性に優れていた。また、β=75度とした場合の結果からも、液晶投影角度αを30度以下とすることが好適であるといえる。
【0110】
[実施例12]
次に、液晶投影角度αを固定値とし、スリット角度βを45度、50度、60度、70度及び80度に変更することにより、スリット角度βの変化に対する透過率変化を調べた。透過率の計算については実施例11と同じである。その結果を図24に示す。なお、図24中、(a)は液晶投影角度αを0度とした場合、(b)は液晶投影角度αを20度とした場合の結果である。
図24に示すように、液晶投影角度α=0度とした場合、スリット角度βを50度、60度、70度とした場合には、スリット角度βを45度、80度とした場合よりも透過率が高く、良好であった。α=20度とした場合の結果からも、スリット角度βを45度よりも大きく、かつ80度未満とすることが好適であるといえる。
【0111】
[実施例13~24]
上記実施例1の液晶表示装置について、画素電極の電極幅(L)及びスリット幅(S)、並びにセルギャップ(d)の各条件を下記表3のとおり変更し、液晶表示装置の透過率に及ぼす影響を調べた。透過率は、実施例1と同じく、LinkGlobal21社製のExpert LCDを用いてシミュレーションにより算出した。極角θ=0度かつ方位角φ=0度での最大透過率が0.310以上である場合に透過率特性「優良(◎)」、0.280以上0.310未満である場合に「良好(○)」と評価した。評価結果を以下に示す。なお、表3中、「L<1.1d」及び「S<d」欄について、該当する条件を満たす場合に「○」、満たさない場合に「×」と表示した。
【0112】
【表3】
【0113】
表3に示すように、実施例1、13~24はいずれも、最大透過率が0.280以上であり、良好な透過率特性を示した。特に、電極幅がセルギャップの1.1倍よりも小さく(L<1.1d)、かつスリット幅がセルギャップよりも小さい(S<d)場合(実施例1、14~18、20、21)では、最大透過率が0.310以上の値を示し、特に優れていた。
【符号の説明】
【0114】
10…液晶表示装置、11…第1基板、12…第2基板、13…液晶層、15…画素電極、19…対向電極、22…第1配向膜、23…第2配向膜、30…画素、35…液晶分子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
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