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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/70 20060101AFI20240730BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20240730BHJP
   G11B 5/706 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/78
G11B5/706
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021548744
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2020033522
(87)【国際公開番号】W WO2021059922
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019176117
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(72)【発明者】
【氏名】市瀬 奈津貴
(72)【発明者】
【氏名】山鹿 実
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 克紀
(72)【発明者】
【氏名】寺川 潤
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友恵
(72)【発明者】
【氏名】潟口 嵩
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-023950(JP,A)
【文献】特開2015-201246(JP,A)
【文献】特開2012-142529(JP,A)
【文献】特開2019-067466(JP,A)
【文献】国際公開第2019/159466(WO,A1)
【文献】特開平03-209627(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047559(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/82
G11B 5/84 - 5/858
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の磁気記録媒体であって、
ε酸化鉄粒子を含む記録層を備え、
垂直方向における前記記録層のSFDカーブの総面積Stotalと、保磁力Hcが-500[Oe]≦Hc≦500[Oe]の範囲における前記SFDカーブの面積Slowとの面積比Rlow(=(Slow/Stotal)×100)が、3.6%以下である磁気記録媒体。
【請求項2】
垂直方向における前記記録層の保磁力が、3000[Oe]以上5000[Oe]以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
垂直方向における前記記録層の角形比Rsが、70%以上である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
垂直方向における前記記録層のSFDが、1.1以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記磁気記録媒体の熱安定性Tb(=Kact/kT、K:磁性粉の結晶磁気異方性定数、Vact:磁性粉の活性化体積、k:ボルツマン定数、T:絶対温度)が、60以上である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記記録層は、97nm以下の最短記録波長λで信号を記録可能に構成されている請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記磁気記録媒体は、13000Oe以上の磁界を印加可能に構成された記録再生装置に用いられる請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記記録層の表面の算術平均粗さRaが、2.0nm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記ε酸化鉄粒子は、AlおよびGaのうちの少なくとも1種を含む請求項1に記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テープ状の磁気記録媒体では、高記録密度化を実現すべく、記録層に含まれる磁性粉の微粒子化が進められている。しかしながら、磁性粉が微粒子化されると、磁気テープ使用環境における外部熱の影響を磁性粉末が受け、磁化の熱擾乱の影響が顕著になり、記録した磁化が消失してしまう現象が発生する。このような磁化の熱擾乱の影響を抑制するために、磁性粉として高い保磁力Hcを有するε酸化鉄磁性粉を用いることが検討されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-269548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ε酸化鉄磁性粉を用いた磁気記録媒体では、電磁変換特性が低下する場合がある。
【0005】
本開示の目的は、良好な電磁変換特性を得ることができる磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、本開示は、テープ状の磁気記録媒体であって、ε酸化鉄粒子を含む記録層を備え、垂直方向における記録層のSFDカーブの総面積Stotalと、保磁力Hcが-500[Oe]≦Hc≦500[Oe]の範囲におけるSFDカーブの面積Slowとの面積比Rlow(=(Slow/Stotal)×100)が、3.6%以下である磁気記録媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る磁気記録媒体の構成の一例を示す断面図である。
図2図2は、SFDカーブの一例を示す図である。
図3図3は、SFDカーブの総面積Stotalの算出方法を説明するための図である。
図4図4Aは、信号記録時の記録層の構成の一例を示す概略図である。図4Bは、垂直方向の磁化分布の一例を示す概略図である。図4Cは、再生信号(再生電圧)の波形の一例を示す概略図である。
図5図5Aは、実施例1の磁気テープの垂直方向に磁界を印加することにより測定されたM-Hループを示すグラフである。図5Bは、図5AのM-Hループから得られたSFDカーブを示すグラフである。
図6図6Aは、比較例1の磁気テープの垂直方向に磁界を印加することにより測定されたM-Hループを示すグラフである。図6Bは、図6AのM-Hループから得られたSFDカーブを示すグラフである。
図7図7Aは、比較例2の磁気テープの垂直方向に磁界を印加することにより測定されたM-Hループを示すグラフである。図7Bは、図7AのM-Hループから得られたSFDカーブを示すグラフである。
図8図8は、実施例1、比較例1、2の磁気テープの電磁変換特性の評価結果を示すグラフである。
図9図9は、実施例1、比較例1、2の磁気テープの信号減衰量の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の一実施形態について以下の順序で説明する。
1 磁気記録媒体の構成
2 記録層の磁気特性等
3 磁気記録媒体の製造方法
4 作用効果
【0009】
[1 磁気記録媒体の構成]
図1は、磁気記録媒体10の構成の一例を示す断面図である。磁気記録媒体10は、いわゆるテープ状の磁気記録媒体であり、基体11と、基体11の一方の主面(第1の主面)上に設けられた下地層12と、下地層12上に設けられた記録層13と、基体11の他方の主面(第2の主面)上に設けられたバック層14とを備える。なお、下地層12およびバック層14は、必要に応じて備えられるものであり、無くてもよい。磁気記録媒体10は、垂直記録型の磁気記録媒体であってもよいし、長手記録型の磁気記録媒体であってもよい。
【0010】
磁気記録媒体10は、記録用ヘッドとしてリング型ヘッドを備える記録再生装置で用いられることが好ましい。磁気記録媒体10は、走行時に磁気記録媒体10の長手方向のテンションを記録再生装置により調整することで、磁気記録媒体10の幅を一定またはほぼ一定に保つことができるものであることが好ましい。
【0011】
(基体)
基体11は、下地層12および記録層13を支持する非磁性支持体である。基体11は、長尺のフィルム状を有する。基体11の平均厚みの上限値は、好ましくは4.2μm以下、より好ましくは3.8μm以下、さらにより好ましくは3.4μm以下である。基体11の平均厚みの上限値が4.2μm以下であると、1データカートリッジに記録できる記録容量を一般的な磁気記録媒体よりも高めることができる。基体11の平均厚みの下限値は、好ましくは3μm以上、より好ましくは3.2μm以上である。基体11の平均厚みの下限値が3μm以上であると、基体11の強度低下を抑制することができる。
【0012】
基体11の平均厚みは以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気記録媒体10を準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。続いて、サンプルの基体11以外の層(すなわち下地層12、記録層13およびバック層14)をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプル(基体11)の厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、基体11の平均厚みを算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0013】
基体11は、例えば、ポリエステル類、ポリオレフィン類、セルロース誘導体、ビニル系樹脂、芳香族ポリエーテルケトン(PAEK)類、およびその他の高分子樹脂のうちの少なくとも1種を含む。基体11が上記材料のうちの2種以上を含む場合、それらの2種以上の材料は混合されていてもよいし、共重合されていてもよいし、積層されていてもよい。
【0014】
ポリエステル類は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PCT(ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、PEB(ポリエチレン-p-オキシベンゾエート)およびポリエチレンビスフェノキシカルボキシレートのうちの少なくとも1種を含む。
【0015】
ポリオレフィン類は、例えば、PE(ポリエチレン)およびPP(ポリプロピレン)のうちの少なくとも1種を含む。セルロース誘導体は、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、CAB(セルロースアセテートブチレート)およびCAP(セルロースアセテートプロピオネート)のうちの少なくとも1種を含む。ビニル系樹脂は、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)およびPVDC(ポリ塩化ビニリデン)のうちの少なくとも1種を含む。芳香族ポリエーテルケトン(PAEK)類は、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を含む。
【0016】
その他の高分子樹脂は、例えば、PA(ポリアミド、ナイロン)、芳香族PA(芳香族ポリアミド、アラミド)、PI(ポリイミド)、芳香族PI(芳香族ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、芳香族PAI(芳香族ポリアミドイミド)、PBO(ポリベンゾオキサゾール、例えばザイロン(登録商標))、ポリエーテル、PEK(ポリエーテルケトン)、ポリエーテルエステル、PES(ポリエーテルサルフォン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PSF(ポリスルフォン)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PC(ポリカーボネート)、PAR(ポリアリレート)およびPU(ポリウレタン)のうちの少なくとも1種を含む。
【0017】
(記録層)
記録層13は、いわゆる磁性層である。記録層13は、信号を磁化パターンにより記録するための記録層である。記録層13は、垂直記録型の記録層であってもよいし、長手記録型の記録層であってもよい。記録層13には、必要に応じて、予めサーボパターンが書き込まれていてもよい。記録層13は、例えば、磁性粉および結着剤を含む。記録層13が、必要に応じて、潤滑剤、帯電防止剤、研磨剤、硬化剤、防錆剤および非磁性補強粒子等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0018】
記録層13の平均厚みtの上限値は、80nm以下、好ましくは70nm以下、より好ましくは50nm以下である。記録層13の平均厚みtの上限値が80nm以下であると、記録ヘッドとしてはリング型ヘッドを用いた場合に、反磁界の影響を軽減できるため、電磁変換特性を向上することができる。
【0019】
記録層13の平均厚みtの下限値は、好ましくは35nm以上である。記録層13の平均厚みtの下限値が35nm以上であると、再生ヘッドとしてはMR型ヘッドを用いた場合に、出力を確保できるため、電磁変換特性を向上することができる。
【0020】
記録層13の平均厚みtは、以下のようにして求められる。まず、蒸着法によりカーボン層を磁気記録媒体10の記録層13側の表面およびバック層14側の表面に形成したのち、蒸着法によりタングステン層を記録層13側の表面にさらに形成する。これらの層は、後述の薄片化処理においてサンプルを保護するために形成される。次に、上記層が形成された磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法により加工して薄片化する。当該薄片化は磁気記録媒体10の長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気記録媒体10の長手方向および厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
【0021】
得られた薄片サンプルの上記断面を、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により、下記の条件で観察し、TEM像を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率および加速電圧は適宜調整されてもよい。
装置:TEM(日立製作所製H9000NAR)
加速電圧:300kV
倍率:100,000倍
【0022】
次に、得られたTEM像を用い、磁気記録媒体10の長手方向の少なくとも10点以上の位置で記録層13の厚みを測定する。得られた測定値を単純に平均(算術平均)して得られた平均値を記録層13の平均厚みt[nm]とする。なお、上記測定が行われる位置は、試験片から無作為に選ばれるものとする。
【0023】
(磁性粉)
磁性粉は、複数の磁性粒子を含む。磁性粒子は、イプシロン型酸化鉄(ε酸化鉄)を含む粒子(以下「ε酸化鉄粒子」という。)である。磁性粉は、磁気記録媒体10の厚み方向(垂直方向)に優先的に結晶配向していることが好ましい。
【0024】
ε酸化鉄粒子は、微粒子でも高保磁力を得ることができる硬磁性粒子である。ε酸化鉄粒子は、球状もしくはほぼ球状を有しているか、または立方体状もしくはほぼ立方体状を有している。ε酸化鉄粒子が上記のような形状を有しているため、磁性粒子としてε酸化鉄粒子を用いた場合、磁性粒子として六角板状のバリウムフェライト粒子を用いた場合に比べて、磁気記録媒体10の厚み方向における粒子同士の接触面積を低減し、粒子同士の凝集を抑制することができる。したがって、磁性粉の分散性を高め、電磁変換特性を向上することができる。
【0025】
ε酸化鉄粒子は、コアシェル型構造を有していてもよい。具体的には、ε酸化鉄粒子は、コア部と、このコア部の周囲に設けられた2層構造のシェル部とを備える。2層構造のシェル部は、コア部上に設けられた第1シェル部と、第1シェル部上に設けられた第2シェル部とを備える。
【0026】
コア部は、ε酸化鉄を含む。コア部に含まれるε酸化鉄は、ε-Fe結晶を主相とするものが好ましく、単相のε-Feからなるものがより好ましい。
【0027】
第1シェル部は、コア部の周囲のうちの少なくとも一部を覆っている。具体的には、第1シェル部は、コア部の周囲を部分的に覆っていてもよいし、コア部の周囲全体を覆っていてもよい。コア部と第1シェル部の交換結合を十分なものとし、磁気特性を向上する観点からすると、コア部の表面全体を覆っていることが好ましい。
【0028】
第1シェル部は、いわゆる軟磁性層であり、例えば、α-Fe、Ni-Fe合金またはFe-Si-Al合金等の軟磁性体を含む。α-Feは、コア部に含まれるε酸化鉄を還元することにより得られるものであってもよい。
【0029】
第2シェル部は、酸化防止層としての酸化被膜である。第2シェル部は、α酸化鉄、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素を含む。α酸化鉄は、例えばFe、FeおよびFeOのうちの少なくとも1種の酸化鉄を含む。第1シェル部がα-Fe(軟磁性体)を含む場合には、α酸化鉄は、第1シェル部に含まれるα-Feを酸化することにより得られるものであってもよい。
【0030】
ε酸化鉄粒子が、上述のように第1シェル部を有することで、熱安定性を確保するためにコア部単体の保磁力Hcを大きな値に保ちつつ、ε酸化鉄粒子(コアシェル粒子)全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できる。また、ε酸化鉄粒子が、上述のように第2シェル部を有することで、磁気記録媒体10の製造工程およびその工程前において、ε酸化鉄粒子が空気中に暴露されて、粒子表面に錆び等が発生することにより、ε酸化鉄粒子の特性が低下することを抑制することができる。したがって、磁気記録媒体10の特性劣化を抑制することができる。
【0031】
ε酸化鉄粒子が単層構造のシェル部を有していてもよい。この場合、シェル部は、第1シェル部と同様の構成を有する。但し、ε酸化鉄粒子の特性劣化を抑制する観点からすると、上述したように、ε酸化鉄粒子が2層構造のシェル部を有していることが好ましい。
【0032】
ε酸化鉄粒子が、上記コアシェル構造に代えて添加元素を含んでいてもよいし、上記コアシェル構造を有すると共に添加元素を含んでいてもよい。この場合、ε酸化鉄粒子のFeの一部が添加元素で置換される。ε酸化鉄粒子が添加元素を含むことによっても、ε酸化鉄粒子全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できるため、記録容易性を向上することができる。添加元素は、鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくはAl、GaおよびInのうちの少なくとも1種、さらにより好ましくはAlおよびGaのうちの少なくとも1種である。
【0033】
具体的には、添加元素を含むε酸化鉄は、ε-Fe2-x結晶(但し、Mは鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくはAl、GaおよびInのうちの少なくとも1種、さらにより好ましくはAlおよびGaのうちの少なくとも1種である。xは、例えば0<x<1である。)である。
【0034】
磁性粉の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)の上限値は、好ましくは24.25nm以下、より好ましくは22.5nm以下、さらにより好ましくは20.75nm以下、最も好ましくは15nm以下である。磁性粉の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)の下限値は、好ましくは8nm以上、より好ましくは12nm以上である。磁性粉の平均粒子サイズを最短記録波長の1/4以下に設定することで、電磁変換特性を向上することができる。したがって、磁性粉の平均粒子サイズが24.25nm以下であると、97nm以下の最短記録波長で信号を記録可能に構成された高記録密度の磁気記録媒体10において、電磁変換特性を向上することができる。一方、磁性粉の平均粒子サイズが8nm以上であると、磁性粉の分散性がより向上し、電磁変換特性を向上することができる。
【0035】
磁性粉の平均アスペクト比が、好ましくは1.0以上3.0以下、より好ましくは1.0以上2.5以下、さらにより好ましくは1.0以上2.1以下、特に好ましくは1.0以上1.8以下である。磁性粉の平均アスペクト比が1.0以上3.0以下の範囲内であると、磁性粉の凝集を抑制することができる。また、記録層13の形成工程において磁性粉を垂直配向させる際に、磁性粉に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粉の垂直配向性を向上することができる。
【0036】
磁性粉の平均粒子サイズおよび平均アスペクト比は、以下のようにして求められる。まず、記録層13の平均厚みtの算出方法と同様にして、薄片サンプルを得る。次に、得られた薄片サンプルの上記断面を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で記録層13の厚み方向に対して記録層13全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を撮影する。次に、撮影したTEM写真から、粒子の形状を明らかに確認することができる50個の粒子を選び出し、各粒子の長軸長DLと短軸長DSを測定する。ここで、長軸長DLとは、各粒子の輪郭に接するように、あらゆる角度から引いた2本の平行線間の距離のうち最大のもの(いわゆる最大フェレ径)を意味する。一方、短軸長DSとは、粒子の長軸(DL)と直交する方向における粒子の長さのうち最大のものを意味する。続いて、測定した50個の粒子の長軸長DLを単純に平均(算術平均)して平均長軸長DLaveを求める。このようにして求めた平均長軸長DLaveを磁性粉の平均粒子サイズとする。また、測定した50個の粒子の短軸長DSを単純に平均(算術平均)して平均短軸長DSaveを求める。そして、平均長軸長DLaveおよび平均短軸長DSaveから粒子の平均アスペクト比(DLave/DSave)を求める。
【0037】
磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは5600nm以下、より好ましくは250nm以上5600nm以下、さらにより好ましくは900nm以上5600nm以下、特に好ましくは900nm以上1800nm以下、最も好ましくは900nm以上1500nm以下である。一般的に磁気記録媒体10のノイズは粒子個数の平方根に反比例(すなわち粒子体積の平方根に比例)するため、粒子体積をより小さくすることで、電磁変換特性を向上することができる。したがって、磁性粉の平均粒子体積が5600nm以下であると、高記録密度の磁気記録媒体10(例えば44nm以下の最短記録波長で信号を記録可能に構成された磁気記録媒体10)において、電磁変換特性を向上することができる。一方、磁性粉の平均粒子体積が250nm以上であると、磁性粉の分散性が向上し、電磁変換特性を向上することができる。
【0038】
ε酸化鉄粒子が球状またはほぼ球状を有している場合には、磁性粉の平均粒子体積は以下のようにして求められる。まず、上記の磁性粉の平均粒子サイズの算出方法と同様にして、平均長軸長DLaveを求める。次に、以下の式により、磁性粉の平均体積Vを求める。
V=(π/6)×DLave 3
【0039】
ε酸化鉄粒子が立方体状またはほぼ立方体状を有している場合には、磁性粉の平均体積は以下のようにして求められる。まず、記録層13の平均厚みtの算出方法と同様にして、薄片サンプルを得る。次に、得られた薄片サンプルを透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で記録層13の厚み方向に対して記録層13全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率および加速電圧は適宜調整されてよい。次に、撮影したTEM写真から粒子の形状が明らかである50個の粒子を選び出し、各粒子の辺の長さDCを測定する。続いて、測定した50個の粒子の辺の長さDCを単純に平均(算術平均)して平均辺長DCaveを求める。次に、平均辺長DCaveを用いて以下の式から磁性粉の平均体積Vave(粒子体積)を求める。
ave=DCave 3
【0040】
磁性粉の平均粒子サイズDに対する磁性粒子の粒度分布の標準偏差σの割合Rσ/D(=(σ/D)×100)が、好ましくはRσ/D≦15%、より好ましくはRσ/D≦13%である。割合RがRσ/D≦15%であると、磁性粒子の粒子サイズのばらつきが小さくなり、磁性粉の磁気特性(例えば磁性粉の保磁力Hc)のばらつきを抑制することができる。割合Rσ/Dの下限値は特に限定されるものではないが、例えば5%≦Rσ/Dである。
【0041】
上記の割合Rσ/Dは、以下のようにして求められる。まず、磁性粉の平均粒子サイズの算出方法と同様にして、50個の粒子の粒子サイズ(長軸長DL)を求めることにより、磁性粉の粒度分布を得る。次に、求めた粒度分布からメジアン径(50%径、D50)を求めて、これを平均粒子サイズDとする。また、求めた粒度分布から標準偏差σを求める。次に、求めた平均粒子サイズDおよび粒度分布の標準偏差σを用いて、割合Rσ/D(=(σ/D)×100)を算出する。
【0042】
(結着剤)
結着剤としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル-エチレン共重合体、ポリフッ化ビニル、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、合成ゴム等が挙げられる。
【0043】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0044】
上記の全ての結着剤には、磁性粉の分散性を向上させる目的で、-SOM、-OSOM、-COOM、P=O(OM)(但し、式中Mは水素原子またはリチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属を表す)や、-NR1R2、-NR1R2R3で表される末端基を有する側鎖型アミン、>NR1R2で表される主鎖型アミン(但し、式中R1、R2、R3は水素原子または炭化水素基を表し、Xはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン元素イオン、無機イオンまたは有機イオンを表す。)、さらに-OH、-SH、-CN、エポキシ基等の極性官能基が導入されていてもよい。これら極性官能基の結着剤への導入量は、10-1~10-8モル/gであるのが好ましく、10-2~10-6モル/gであるのがより好ましい。
【0045】
(潤滑剤)
潤滑剤としては、例えば、炭素数10~24の一塩基性脂肪酸と、炭素数2~12の1価~6価アルコールのいずれかとのエステル、これらの混合エステル、ジ脂肪酸エステル、トリ脂肪酸エステル等が挙げられる。潤滑剤の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ペンチル、ステアリン酸ヘプチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸イソオクチル、ミリスチン酸オクチル等が挙げられる。
【0046】
(帯電防止剤)
帯電防止剤としては、例えば、カーボンブラック、天然界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0047】
(研磨剤)
研磨剤としては、例えば、α化率90%以上のα-アルミナ、β-アルミナ、γ-アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α-酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカ-バイト、酸化チタン、二酸化珪素、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、2硫化モリブデン、磁性酸化鉄の原料を脱水、アニール処理した針状α酸化鉄、必要によりそれらをアルミおよび/またはシリカで表面処理したもの等が挙げられる。
【0048】
(硬化剤)
硬化剤としては、例えば、ポリイソシアネート等が挙げられる。ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)と活性水素化合物との付加体等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)と活性水素化合物との付加体等の脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。これらポリイソシアネートの重量平均分子量は、100~3000の範囲であることが望ましい。
【0049】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えばフェノール類、ナフトール類、キノン類、窒素原子を含む複素環化合物、酸素原子を含む複素環化合物、硫黄原子を含む複素環化合物等が挙げられる。
【0050】
(非磁性補強粒子)
非磁性補強粒子として、例えば、酸化アルミニウム(α、βまたはγアルミナ)、酸化クロム、酸化珪素、ダイヤモンド、ガーネット、エメリー、窒化ホウ素、チタンカーバイト、炭化珪素、炭化チタン、酸化チタン(ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタン)等が挙げられる。
【0051】
(下地層)
下地層12は、基体11の表面の凹凸を緩和し、記録層13の表面の凹凸を調整するためのものである。下地層12は、非磁性粉および結着剤を含む非磁性層である。下地層12が、必要に応じて、潤滑剤、帯電防止剤、硬化剤および防錆剤等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0052】
下地層12の平均厚みは、好ましくは0.3μm以上2.0μm以下、より好ましくは0.5μm以上1.4μm以下である。下地層12の平均厚みが2.0μm以下であると、外力による磁気記録媒体10の伸縮性が高くなるため、テンション調整による磁気記録媒体10の幅の調整が容易となる。下地層12の平均厚みは、記録層13の平均厚みと同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、下地層12の厚みに応じて適宜調整される。
【0053】
(非磁性粉)
非磁性粉は、例えば無機粒子粉または有機粒子粉の少なくとも1種を含む。また、非磁性粉は、カーボンブラック等の炭素粉を含んでいてもよい。なお、1種の非磁性粉を単独で用いてもよいし、2種以上の非磁性粉を組み合わせて用いてもよい。無機粒子は、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物または金属硫化物等を含む。非磁性粉の形状としては、例えば、針状、球状、立方体状、板状等の各種形状が挙げられるが、これらの形状に限定されるものではない。
【0054】
(結着剤)
結着剤は、上述の記録層13と同様である。
【0055】
(添加剤)
潤滑剤、帯電防止剤、硬化剤および防錆剤はそれぞれ、上述の記録層13と同様である。
【0056】
(バック層)
バック層14は、結着剤および非磁性粉を含む。バック層14が、必要に応じて潤滑剤、硬化剤および帯電防止剤等のうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。結着剤および非磁性粉は、上述の下地層12と同様である。
【0057】
非磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは10nm以上150nm以下、より好ましくは15nm以上110nm以下である。非磁性粉の平均粒子サイズは、上記の磁性粉の平均粒子サイズと同様にして求められる。非磁性粉が、2以上の粒度分布を有する非磁性粉を含んでいてもよい。
【0058】
バック層14の平均厚みtの上限値は、好ましくは0.6μm以下である。バック層14の平均厚みの上限値が0.6μm以下であると、磁気記録媒体10の平均厚みtが5.6μm以下である場合でも、下地層12や基体11の厚みを厚く保つことができるので、磁気記録媒体10の記録再生装置内での走行安定性を保つことができる。バック層14の平均厚みtの下限値は特に限定されるものではないが、例えば0.2μm以上である。
【0059】
バック層14の平均厚みtは以下のようにして求められる。まず、磁気記録媒体10の平均厚みtを測定する。平均厚みtの測定方法は、後述の「磁気記録媒体の平均厚み」に記載されている通りである。続いて、サンプルのバック層14をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。次に、Mitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルの厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、平均値t[μm]を算出する。その後、以下の式よりバック層14の平均厚みt[μm]を求める。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
[μm]=t[μm]-t[μm]
【0060】
[2 記録層の磁気特性等]
(保磁力Hc)
磁気記録媒体10の垂直方向における記録層13の保磁力Hcの下限値が、好ましくは3000[Oe]以上、より好ましくは3250[Oe]以上、さらにより好ましくは3500[Oe]以上、特に好ましくは3750[Oe]以上である。垂直方向における記録層13の保磁力Hcが3000[Oe]以上であると、磁気記録媒体10の熱安定性Tbの低下を抑制することができる。
【0061】
磁気記録媒体10の垂直方向における記録層13の保磁力Hcの上限値が、好ましくは5000[Oe]以下、より好ましくは4500[Oe]以下、さらにより好ましくは4000[Oe]以下である。垂直方向における記録層13の保磁力Hcが5000[Oe]以下であると、記録ヘッドによる飽和記録が容易になり、良好な電磁変換特性を得ることができる。
【0062】
上記の保磁力Hcは以下のようにして求められる。まず、磁気記録媒体10が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、測定サンプルが作製される。この際に、磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)を用いて磁気記録媒体10の垂直方向(厚み方向)に対応する測定サンプル(磁気記録媒体10の全体)のM-Hループが測定される。次に、アセトンまたはエタノール等が用いられて塗膜(下地層12、記録層13およびバック層14等)が払拭され、基体11のみが残される。そして、得られた基体11が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に「補正用サンプル」という。)が作製される。その後、VSMを用いて基体11の垂直方向(磁気記録媒体10の垂直方向)に対応する補正用サンプル(基体11)のM-Hループが測定される。
【0063】
測定サンプル(磁気記録媒体10の全体)のM-Hループ、補正用サンプル(基体11)のM-Hループの測定においては、東英工業社製の高感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20とされる。
【0064】
測定サンプル(磁気記録媒体10の全体)のM-Hループおよび補正用サンプル(基体11)のM-Hループが得られた後、測定サンプル(磁気記録媒体10の全体)のM-Hループから補正用サンプル(基体11)のM-Hループが差し引かれることで、バックグラウンド補正が行われ、バックグラウンド補正後のM-Hループが得られる。このバックグラウンド補正の計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。得られたバックグラウンド補正後のM-Hループから保磁力Hcが求められる。なお、この計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。また、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃にて行われるものとする。また、M-Hループを磁気記録媒体10の垂直方向に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。
【0065】
(角形比)
磁気記録媒体10の垂直方向(厚み方向)における記録層13の角形比Rsが、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは75%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは85%以上である。角形比Rsが65%以上であると、磁性粉の垂直配向性が十分に高くなるため、電磁変換特性を向上することができる。
【0066】
垂直方向における角形比Rsは以下のようにして求められる。まず、上記の保磁力Hcの測定方法と同様にして、バックグラウンド補正後のM-Hループを得る。次に、得られたバックグラウンド補正後のM-Hループの飽和磁化Ms[emu]および残留磁化Mr[emu]が以下の式に代入されて、角形比Rs[%]が計算される。
角形比Rs(%)=(Mr/Ms)×100
【0067】
(SFD)
保磁力Hcの分布は、SFD(Switching Field Distribution)によって評価することが可能である。磁気記録媒体10の垂直方向における記録層13のSFDは、磁気記録媒体10の垂直方向における記録層13のSFDカーブにおいて、保磁力Hcが正となる側に位置するメインピークの半価幅(半値全幅)をHa、記録層13の保磁力をHcとしたときに、Ha/Hcで定義される。なお、この計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
【0068】
磁気記録媒体10の垂直方向における記録層13のSFDの上限値は、好ましくは1.1以下、より好ましくは1以下、さらにより好ましくは0.93以下である。SFDが1.1以下であると、保磁力Hcのばらつきを抑制することができる。したがって、記録層13の低Hc成分および高Hc成分を抑制することができる。SFDの下限値は、例えば0.1以上である。SFDは例えば0.1のような0に近い数値であるほどHc分布がシャープであり、磁気記録媒体10の電磁変換特性を向上することができる。なお、本明細書において、低Hc成分とは、保磁力Hcが-500[Oe]≦Hc≦500[Oe]の範囲の成分のことをいう。また、高Hc成分とは、保磁力Hcが-15000[Oe]≦Hc≦-10000[Oe]、および10000[Oe]≦Hc≦15000[Oe]の範囲の成分のことをいう。
【0069】
磁気記録媒体10の垂直方向における記録層13のSFDは、以下のようにして求められる。まず、上述の保磁力Hcの測定方法と同様にしてバックグラウンド補正後のM-Hループを求める。次に、このバックグラウンド補正後のM-Hループの微分カーブ(以下「SFDカーブ」という。)を求め、そのSFDカーブの半値幅Haを求める。次に、求めた半値幅Haを保磁力Hcで規格化することによりSFDを求める。なお、この計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
【0070】
(SFDカーブの面積比)
図2は、垂直方向における記録層13のSFDカーブの一例を示す図である。垂直方向における記録層13のSFDカーブの総面積Stotalと、保磁力Hcが-500[Oe]≦Hc≦500[Oe]の範囲の、垂直方向における記録層13のSFDカーブの面積Slowとの面積比Rlow(=(Slow/Stotal)×100)が、5.5%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、さらにより好ましくは3.6%以下である。面積比Sが5.5%以下であると、記録層13の低Hc成分を低減することができる。したがって、信号の書き込み時に、磁気ヘッドからの漏れ磁界により磁化反転することを抑制することができる。よって、良好な電磁変換特性を得ることができる。面積比Rlowの下限値は、例えば1%以上、好ましくは0%以上である。面積Slowは、具体的には、SFDカーブと直線Hc=-500と直線Hc=500とで囲まれた領域の面積を意味する。
【0071】
垂直方向における記録層13のSFDカーブの総面積Stotalと、保磁力Hcが-15000[Oe]≦Hc≦-10000[Oe]、および10000[Oe]≦Hc≦15000[Oe]の範囲の、垂直方向における記録層13のSFDカーブの面積Shighとの面積比Rhigh(=(Shigh/Stotal)×100)が、好ましくは5.5%以下、より好ましくは5%以下、さらにより好ましくは4.5%以下である。Rhighが5.5%以下であると、信号の書き込み時に、磁気ヘッドからの磁界により磁化反転することが困難となる高Hc成分を低減することができるので、出力信号を向上することができる。したがって、さらに良好な電磁変換特性を得ることができる。面積比Rhighの下限値は、例えば1%以上、好ましくは0%以上である。面積Shighは、具体的には、SFDカーブと直線Hc=-15000と直線Hc=-10000とで囲まれた領域の面積、およびSFDカーブと直線Hc=10000と直線Hc=15000とで囲まれた領域の面積の総和を意味する。
【0072】
なお、面積比Rlowおよび面積Shighは、磁性粉の製造条件および記録層形成用塗料の調製条件のうちの少なくとも一方を調整することにより、所望の値に設定することが可能である。
【0073】
SFDカーブの総面積Stotal、面積Slowおよび面積Shighの算出には、上述のSFDの算出方法と同様の方法で求めたSFDカーブが用いられる。図3に、第1象限および第2象限のSFDカーブを拡大して示す。ここで、横軸を-15000[Oe]≦H≦15000[Oe]の範囲でm分割し、その分点をH,H・・・,H,Hn+1・・・,Hm-1,Hとする。但し、n,mは自然数である。なお、横軸は、図3に示すように、磁界Hである。
【0074】
第1象限(0≦H、0≦M)および第2象限(H≦0、0≦M)における直線H=HとSFDカーブとの交点の座標を(H,M )、第1象限(0≦H、0≦M)および第2象限(H≦0、0≦M)における直線H=Hn+1とSFDカーブとの交点の座標を(Hn+1,Mn+1 )、第3象限(H≦0、M≦0)および第4象限(0≦H、M≦0)における直線H=HとSFDカーブとの交点の座標を(H,M )、第3象限(H≦0、M≦0)および第4象限(0≦H、M≦0)における直線H=Hn+1とSFDカーブとの交点の座標を(Hn+1,Mn+1 )と定義する。このように座標を定義した場合、座標(H,M ),(Hn+1,Mn+1 )、(H,M ),(Hn+1,Mn+1 )を頂点とする四角形の面積Sは、以下の式から求められる。
=(|M +Mn+1 |×|Hn+1-H|/2)+(|M +Mn+1 |×|Hn+1-H|/2)
【0075】
SFDカーブの総面積Stotalは、以下の式より求められる。
total=S+・・・+S+Sn+l・・・+Sm-1+S
但し、Hの最小値はH=-15000[Oe]、Hの最大値はH=15000[Oe]である。
【0076】
面積Shighは、-15000[Oe]≦H≦-10000[Oe]かつ10000[Oe]≦H≦15000[Oe]の範囲でのSの総和である。面積Slowは、-500≦H≦500[Oe]の範囲でのSの総和である。
【0077】
SFDカーブのメインピークの面積(保磁力Hcが-10000[Oe]<H<-500[Oe]、および500[Oe]<H<10000[Oe]での面積Sの総和)は、Smainは以下の式から求められる。
main=Stotal-Slow-Shigh
n+1-Hの値はVSM測定条件の最大磁界と磁界ステップにより決まり、上述の保磁力Hcの算出方法におけるM-Hルーブの測定条件では100≦|Hn+1-H|≦200[Oe]の範囲である。また、n,mは自然数である。但し、上記の|Hn+1-H|の範囲は、Hが-10000[Oe]、-500[Oe]、500[Oe]、10000[Oe]となるように選択されるものとする。すなわち、面積Snを有する上記四角形の辺が、直線H=-10000[Oe]、直線H=-500[Oe]、直線H=500[Oe]、直線H=10000[Oe]と重なるように選択されるものとする。
【0078】
(一軸結晶磁気異方性の成分と多軸結晶磁気異方性の成分の比率)
磁気記録媒体10のトルク波形をフーリエ変換して得られる一軸結晶磁気異方性の成分L2と、多軸結晶磁気異方性の成分L4との比率L4/L2は、磁性粉の一軸結晶磁気異方性の強さを表しており、比率L4/L2が小さい程、磁性粉の一軸結晶磁気異方性が強くなる。この比率L4/L2は、0以上0.25以下、好ましくは0以上0.20以下、より好ましくは0以上0.18以下である。比率L4/L2が0以上0.25以下あると、磁性粉の一軸結晶磁気異方性が十分に強くなるため、ノイズを低減することができる。したがって、電磁変換特性を向上することができる。
【0079】
上記比率L4/L2は、以下のようにして求められる。
(1)まず、所定の大きさに磁気記録媒体10を3枚切り出し、それら3枚を重ねて貼ったのち、両面をメンディングテープで貼ることにより積層体を得る。そして、得られた積層体を直径φ=6.25の丸いパンチで穴開けすることにより、円形状のサンプルを得る。
(2)次に、得られたサンプルをAC消磁する。この処理は、着磁した状態のサンプルを用いた場合、外部磁場印加時に磁化が飽和しており、トルクの出力数値が正常でなくなる可能性があることを考慮して行われるものである。
(3)次に、サンプルを測定装置にセットする。具体的には、磁性粉が垂直配向されている場合には、印加磁場方向に対してサンプルを垂直にセットする。一方、磁性粉が長手配向されている場合には、印加磁場方向に対してサンプルを水平にセットする。
(4)次に、測定装置(東英工業株式会社製、TRT-2形)をゼロ磁場調整したのち、トルク角度測定モードで15000[Oe]の外部磁場を印加し、トルク波形を測定する。
(5)測定後、測定装置が自動的にフーリエ変換して算出表示する一軸結晶磁気異方性の成分L2と、多軸結晶磁気異方性の成分L4とを用いて、比率L4/L2を求める。
【0080】
(熱安定性Tb)
磁気記録媒体10の熱安定性Tb(=Kact/kT、K:磁性粉の結晶磁気異方性定数、Vact:磁性粉の活性化体積、k:ボルツマン定数、T:絶対温度)が、好ましくは60以上、より好ましくは80以上、さらにより好ましくは85以上である。熱安定性Tbが60以上であると、磁気記録媒体10の出力信号の劣化を抑制することができる。
【0081】
熱安定性Tbは、以下に示すシャーロックの式を用いて算出される(参考文献:IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, VOL. 50, NO. 11, NOVEMBER 2014、J. Flanders and M. P. Sharrock: J. Appl. Phys., 62, 2918 (1987))。
(t’)=H[1-{kT/(Kact)ln(ft’/0.693)}]
(但し、H:残留磁場、t’:磁化減衰量、H:磁場変化量、k:ボルツマン定数、
T:絶対温度、K:結晶磁気異方性定数、Vact:活性化体積、f:周波数因子、n:係数)
【0082】
なお、(a)残留磁場H、(b)磁化減衰量t’および(c)磁場変化量Hは以下のようにして求められる。また、(d)周波数因子fおよび(e)係数nは以下の数値が用いられる。
(a)残留磁場Hは、Hayama製パルスVSM「HR-PVSM20」により測定できる。測定には上述の保磁力Hcの測定方法と同様の作成方法により得られたサンプルを用いる。測定を開始する前にサンプルに6358[Oe]の磁場を印加しサンプルを一方向に磁気的に配向させる。その後、0~20230[Oe]まで505.75[Oe]ごとに磁場を断続的に印加し、その際の磁化量を測定し印加磁場をX軸、磁化量をY軸とし値をプロットする。得られたグラフでY=0となる際のXが残留磁場Hである。
(b)磁化減衰量t’は次のようにして求められる。すなわち、磁気記録媒体10の保磁力Hcの近傍の外部磁場を3条件で印加し、通常VSMにより磁化減衰量を測定する。そして、その磁化減衰量からフランダースの式を用いて磁化減衰量t’を算出する。(参考文献:I. P. J. Flanders and M. P. Sharrock, “An analysis of time-dependent magnetization and coercivity and of their relationship to print-through in recording tapes,” J. Appl. Phys., vol. 62, pp. 2918-2928, 1987.)。
ここで、「保磁力Hc」とは、磁性粉の配向方向における保磁力Hcを意味する。すなわち、磁性粉が垂直方向に配向されている場合、「保磁力Hc」とは、垂直方向における保磁力Hcを意味する。一方、磁性粉が長手方向に配向されている場合、「保磁力Hc」とは、長手方向における保磁力Hcを意味する。
また、「3条件の外部磁場」とは、保磁力Hc以上の磁場(正の磁化が得られる磁場)、保磁力Hc近傍の磁場(0に近い磁化が得られる磁場)、および保磁力Hc未満の磁場(負の磁化が得られる磁場)を意味する。具体例を挙げると、垂直配向テープのHc=3800[Oe]の場合「3条件の外部磁場」は正の磁化が得られる磁場=4000[Oe]、保磁力Hc近傍の磁場=3800[Oe]、負の磁化が得られる磁場=3600[Oe]として算出する。ただし、この具体例として挙げた数値は実際の測定に際し数値範囲を限定するものではない。
(c)磁場変化量Hは、(b)で測定した際の測定磁場と磁化減衰量をシャーロックの式に代入し算出した定数である。
(d)周波数因子fは一定値であり、f=5.0×10Hzとする。
(e)係数nは、磁性粉の結晶磁気異方性に応じた値に設定される。磁性粉が一軸結晶磁気異方性を有する場合、n=0.5に設定される。一方、磁性粉が多軸結晶磁気異方性(3軸結晶磁気異方性)を有する場合、n=0.77に設定される。
【0083】
磁性粉が一軸結晶磁気異方性および多軸結晶磁気異方性のいずれを有しているかは、以下のようにして判断することができる。上述の比率L4/L2の算出方法と同様にして、(1)から(4)の工程を実施して、トルク波形を測定する。測定されたトルク波形が、180°周期で変動している場合には、磁性粉が一軸結晶磁気異方性を有していると判断される。測定されたトルク波形が、90°周期で変動している場合には、磁性粉が多軸結晶磁気異方性を有していると判断される。
【0084】
(磁気記録媒体の平均厚み)
磁気記録媒体10の平均厚み(平均全厚)tの上限値が、5.6μm以下、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは4.6μm以下、さらにより好ましくは4.4μm以下である。磁気記録媒体10の平均厚みtが5.6μm以下であると、1データカートリッジに記録できる記録容量を一般的な磁気記録媒体よりも高めることができる。磁気記録媒体10の平均厚みtの下限値は特に限定されるものではないが、例えば3.5μm以上である。
【0085】
磁気記録媒体10の平均厚みtは以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気記録媒体10を準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルの厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、平均厚みt[μm]を算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0086】
(磁気記録媒体の長手方向のヤング率)
磁気記録媒体10の長手方向のヤング率は、好ましくは8.0GPa以下、より好ましくは7.9GPa以下、さらにより好ましくは7.5GPa以下、特に好ましくは7.1GPa以下である。磁気記録媒体10の長手方向のヤング率が8.0GPa以下であると、外力による磁気記録媒体10の伸縮性がさらに高くなるため、テンション調整による磁気記録媒体10の幅の調整が容易となる。したがって、オフトラックを適切に抑制することができ、磁気記録媒体10に記録されたデータを正確に再生することが可能となる。
【0087】
磁気記録媒体10の長手方向のヤング率は、外力による磁気記録媒体10の長手方向における伸縮のし難さを示す値であり、この値が大きいほど外力により磁気記録媒体10は長手方向に伸縮し難く、この値が小さいほど外力により磁気記録媒体10は長手方向に伸縮しやすい。
【0088】
なお、磁気記録媒体10の長手方向のヤング率は、磁気記録媒体10の長手方向に関する値であるが、磁気記録媒体10の幅方向の伸縮のし難さとも相関がある。つまり、この値が大きいほど磁気記録媒体10は外力により幅方向に伸縮し難く、この値が小さいほど磁気記録媒体10は外力により幅方向に伸縮しやすい。したがって、テンション調整の観点から、磁気記録媒体10の長手方向のヤング率は、小さい方が有利である。
【0089】
ヤング率の測定には、引っ張り試験機(島津製作所製、AG-100D)が用いられる。測定環境の温度は25℃、相対湿度は55%である。磁気記録媒体10の長手方向のヤング率を測定したい場合は、磁気記録媒体10を180mmの長さにカットして測定サンプルを準備する。上記引っ張り試験機に測定サンプルの幅(1/2インチ)を固定できる冶具を取り付け、測定サンプル幅の上下を固定する。距離(チャック間の測定サンプルの長さ)は100mmにする。測定サンプルをチャック後、測定サンプルを引っ張る方向に応力を徐々にかけていく。引っ張り速度は0.1mm/minとする。この時の応力の変化と伸び量から、以下の式を用いてヤング率を計算する。
E(N/m)=((ΔN/S)/(Δx/L))×10
ΔN:応力の変化(N)
S:試験片の断面積(mm
Δx:伸び量(mm)
L:つかみ治具間距離(mm)
応力の範囲としては0.5Nから1.0Nとし、この時の応力変化(ΔN)と伸び量(Δx)を計算に使用する。
【0090】
(算術平均粗さ)
記録層13の表面の算術平均粗さRaは、好ましくは2.5nm以下、より好ましくは2.2nm以下、さらにより好ましくは2.0nm以下、最も好ましくは1.9nm以下である。算術平均粗さRaが2.5nm以下であると、スペーシングロスによる出力低下を抑制することができるため、電磁変換特性を向上することができる。記録層13の表面の算術平均粗さRaの下限値は、好ましくは1.0nm以上、より好ましくは1.2nm以上、さらにより好ましくは1.4nm以上である。記録層13の表面の算術平均粗さRaの下限値が1.0nm以上であると、摩擦の増大による走行性の低下を抑制することができる。
【0091】
算術平均粗さRaは次のようにして求められる。まず、記録層13の表面をAFM(Atomic Force Microscope)により観察し、40μm×40μmのAFM像を得る。AFMとしてはDigital Instruments社製、Nano Scope IIIa D3100を用い、カンチレバーとしてはシリコン単結晶製のものを用い(注1)、タッピング周波数として、200~400Hzのチューニングにて測定を行う。次に、AFM像を512×512(=262,144)個の測定点に分割し、各測定点にて高さZ(i)(i:測定点番号、i=1~262,144)を測定し、測定した各測定点の高さZ(i)を単純に平均(算術平均)して平均高さ(平均面)Zave(=(Z(1)+Z(2)+・・・+Z(262,144))/262,144)を求める。続いて、各測定点での平均中心線からの偏差Z”(i)(=Z(i)-Zave)を求め、算術平均粗さRa[nm](=(Z”(1)+Z”(2)+・・・+Z”(262,144))/262,144)を算出する。この際には、画像処理として、Flatten order2、ならびに、planefit order 3 XYによりフィルタリング処理を行ったものをデータとして用いる。
(注1)Nano World社製 SPMプローブ NCH ノーマルタイプ PointProbe L(カンチレバー長)=125μm
【0092】
(磁気ヘッドにより印加される磁界の強度)
磁気記録媒体10は、好ましくは10000Oe以上、より好ましくは13000Oe以上、さらにより好ましくは15000Oe以上の磁界を印加可能に構成された記録ヘッドを有する記録再生装置に用いられる。10000Oe以上の磁界を印加可能に構成された記録ヘッドを有する記録再生装置では、記録ヘッドの漏れ磁界により磁化反転を特に発生し易い。したがって、このような記録再生装置を用いて磁気記録媒体10に信号を書き込む場合、面積比Rlow(=(Slow/Stotal)×100)が5.5%以下であると、漏れ磁界による磁化反転の抑制効果が顕著に発現する。したがって、電磁変換特性を向上する効果が顕著に発現する。
【0093】
磁気記録媒体10に印加される磁界の強度は、記録ヘッドに用いる材料により決定される。
【0094】
(記録波長)
記録層13は、記録容量を向上する観点から、好ましくは97nm以下、より好ましくは90nm以下、さらにより好ましくは83nm以下の最短記録波長λで信号を記録可能に構成されている。また、最短記録波長λが97nmである場合、漏れ磁界による磁化反転の抑制効果が顕著に発現する。したがって、電磁変換特性を向上する効果が顕著に発現する。
【0095】
最短記録波長λは、以下のようにして求められる。データが全面に記録された磁気記録媒体10を準備し、その記録層13のデータバンド部分のデータ記録パターンを磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope:MFM)を用いて観察し、MFM像を得る。MFMとしてはDigital Instruments社製、NANO SCOPEとその解析ソフトが用いられる。当該MFM像の測定領域は2μm×2μmとし、当該2μm×2μmの測定領域は512×512(=262,144)個の測定点に分割される。場所の異なる3つの2μm×2μm測定領域についてMFMによる測定が行われ、すなわち3つのMFM像が得られる。得られたMFM像の記録パターンの二次元の凹凸チャートからビット間距離を50個測定する。当該ビット間距離の測定は、NANO SCOPEに付属の解析ソフトを用いて行われる。測定された50個のビット間距離のおよそ最大公約数となる値を磁化反転間距離の最小値Lとする。なお、測定条件は掃引速度:1Hz、使用チップ:NANO WORLD社製 MFMR、リフトハイト:225μm、補正:Flatten order 3である。磁化反転間距離の最小値Lを2倍することにより、最短記録波長λが求められる。
【0096】
[3 磁気記録媒体の製造方法]
次に、上述の構成を有する磁気記録媒体10の製造方法の一例について説明する。
【0097】
(塗料の調製工程)
まず、非磁性粉および結着剤等を溶剤に混練、分散させることにより、下地層形成用塗料を調製する。次に、磁性粉および結着剤等を溶剤に混練、分散させることにより、記録層形成用塗料を調製する。記録層形成用塗料および下地層形成用塗料の調製には、例えば、以下の溶剤、分散装置および混練装置を用いることができる。
【0098】
上述の塗料調製に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、エチレングリコールアセテート等のエステル系溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2-エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【0099】
上述の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば、連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、ロールニーダー等の混練装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。また、上述の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えば、ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、パールミル(例えばアイリッヒ社製「DCPミル」等)、ホモジナイザー、超音波分散機等の分散装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。
【0100】
(塗布工程)
次に、下地層形成用塗料を基体11の一方の主面に塗布して乾燥させることにより、下地層12を形成する。続いて、この下地層12上に記録層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、記録層13を下地層12上に形成する。なお、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉を基体11の厚み方向に磁場配向させる。また、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉を基体11の走行方向(長手方向)に磁場配向させたのちに、基体11の厚み方向に磁場配向させるようにしてもよい。このように長手方向に磁性粉を一旦配向させる処理を施すことで、磁性粉の垂直配向度(すなわち角形比Rs)をさらに向上することができる。記録層13の形成後、基体11の他方の主面にバック層14を形成する。これにより、磁気記録媒体10が得られる。
【0101】
角形比Rsは、例えば、記録層形成用塗料の塗膜に印加される磁場の強度、記録層形成用塗料中における固形分の濃度、記録層形成用塗料の塗膜の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整することにより所望の値に設定される。塗膜に印加される磁場の強度は、磁性粉の保磁力の2倍以上3倍以下であることが好ましい。角形比Rsをさらに高めるためには、記録層形成用塗料中における磁性粉の分散状態を向上させることが好ましい。また、角形比Rsをさらに高めるためには、磁性粉を磁場配向させるための配向装置に記録層形成用塗料が入る前の段階で、磁性粉を磁化させておくことも有効である。なお、上記の角形比Rsの調整方法は単独で使用されてもよいし、2以上組み合わされて使用されてもよい。
【0102】
(カレンダー工程、裁断工程)
その後、得られた磁気記録媒体10を大径コアに巻き直し、硬化処理を行う。最後に、磁気記録媒体10に対してカレンダー処理を行ったのち、所定の幅(例えば1/2インチ幅)に裁断する。以上により、目的とする磁気記録媒体10が得られる。
【0103】
[4 作用効果]
上述したように、一実施形態に係る磁気記録媒体10では、垂直方向における記録層13のSFDカーブの総面積Stotalと、保磁力Hcが-500[Oe]≦Hc≦500[Oe]の範囲の、垂直方向における記録層13のSFDカーブの面積Slowとの面積比Rlow(=(Slow/Stotal)×100)が、5.5%以下であるので、低Hc成分を減らすことができる。これにより、図4Aに示すように、書き込み時の記録ヘッド101からの漏れ磁界102があっても、漏れ磁界102による磁化反転が抑制される。したがって、書き込み時の記録ヘッド101からの漏れ磁界102があっても、図4Bに示すように、記録層13の磁化分布をシャープに保持することができるので、記録信号の劣化することを抑制することができる。すなわち、図4Cに示すように、再生信号がブロードになることを抑制することができる。よって、良好な電磁変換特性を得ることができる。
【0104】
また、ε酸化鉄磁性粉を用いた従来の磁気記録媒体では、記録層は低Hc成分を多く含んでいる。垂直方向における記録層の低Hc成分は、信号の記録には寄与しない成分であるため、ノイズ源になる虞がある。また、垂直方向における記録層の角形比Rsが低下するので、再生出力も弱くなる。したがって、ε酸化鉄磁性粉を用いた従来の磁気記録媒体では、電磁変換特性が低くなる。これに対して、一実施形態に係る磁気記録媒体10では、ノイズ源となる記録層13の低Hc成分を低減することができる。また、垂直方向における記録層13の角形比Rsを高くすることができるので、再生出力を高くすることができる。したがって、良好な電磁変換特性を得ることができる。
【0105】
磁気記録媒体の記録容量を増やすためには、最短記録波長を短くする必用がある。すなわち1bit当たりに使用する記録層の面積を小さくする必要がある。しかしながら、記録層の低Hc成分は外部磁界の影響により磁化反転が起こりやすいため、最短記録波長を短くすると、書き込み時の記録ヘッドからの漏れ磁界により、磁化反転(すなわち記録減磁)が発生し易い。このような磁化反転が発生すると、記録層13の磁化分布がシャープではなくなり、再生信号がブロードになる。したがって、1bitあたりに使用する記録層13の面積をより小さくすることが困難となる虞がある。よって、短波長での信号の記録が困難となる虞がある。
【0106】
これに対して、一実施形態に係る磁気記録媒体10では、上述したように、面積比Rlow(=(Slow/Stotal)×100)が5.5%以下であるので、低Hc成分を減らすことができる。したがって、最短記録波長を短くしても、信号書き込み時の記録ヘッド101からの漏れ磁界102による磁化反転が抑制される。このため、記録層13の磁化分布がシャープになり、1bitあたりに使用する記録層13の面積をより小さくすることができる。よって、短波長での信号の記録が可能となる。
【0107】
記録層13の保磁力Hcが3000[Oe]以上である場合、信号の書き込み時には従来の記録ヘッドよりも高い磁界を記録層13に印加可能な次世代ヘッドを用いる必用がある。このような記録ヘッドを用いる場合、記録ヘッドの漏れ磁界により磁化反転が特に発生し易い。したがって、記録層13の保磁力Hcが3000[Oe]以上である場合に、面積比Rlow(=(Slow/Stotal)×100)が5.5%以下であると、漏れ磁界による磁化反転の抑制効果が顕著に発現する。すなわち、電磁変換特性を向上する効果が顕著に発現する。
【実施例
【0108】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0109】
[実施例1]
(記録層形成用塗料の調製工程)
記録層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第1組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第1組成物と、下記配合の第2組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、記録層形成用塗料を調製した。
【0110】
(第1組成物)
表1に示すε酸化鉄粒子粉(但し、添加元素としてGaを含有する。):100質量部
塩化ビニル系樹脂(シクロヘキサノン溶液30質量%):45質量部(溶液含む)
(重合度300、Mn=10000、極性基としてOSOK=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
酸化アルミニウム粉末:5質量部
(α-Al、平均粒径0.2μm)
カーボンブラック:2.0質量部
(東海カーボン社製、商品名:シーストTA)
【0111】
(第2組成物)
塩化ビニル系樹脂:15質量部(溶液含む)
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:121.3質量部
トルエン:121.3質量部
シクロヘキサノン:60.7質量部
【0112】
最後に、上述のようにして調製した記録層形成用塗料に、硬化剤としてポリイソシアネート(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製):4質量部と、潤滑剤としてステアリン酸:2質量部とを添加した。
【0113】
(下地層形成用塗料の調製工程)
下地層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第3組成物をエクストルーダで混練した。次に、ディスパーを備えた攪拌タンクに、混練した第3組成物と、下記配合の第4組成物を加えて予備混合を行った。続いて、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、下地層形成用塗料を調製した。
【0114】
(第3組成物)
針状酸化鉄粉末:100質量部
(α-Fe、平均長軸長0.15μm)
塩化ビニル系樹脂:55.6質量部
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
カーボンブラック:10質量部
(平均粒径20nm)
【0115】
(第4組成物)
ポリウレタン系樹脂UR8200(東洋紡績製):18.5質量部
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:108.2質量部
トルエン:108.2質量部
シクロヘキサノン:18.5質量部
【0116】
最後に、上述のようにして調製した下地層形成用塗料に、硬化剤としてポリイソシアネート(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製):4質量部と、潤滑剤としてステアリン酸:2質量部とを添加した。
【0117】
(バック層形成用塗料の調製工程)
バック層形成用塗料を以下のようにして調製した。下記原料を、ディスパーを備えた攪拌タンクで混合を行い、フィルター処理を行うことで、バック層形成用塗料を調製した。
カーボンブラック(旭カーボン株式会社製、商品名:#80):100質量部
ポリエステルポリウレタン:100質量部
(日本ポリウレタン社製、商品名:N-2304)
メチルエチルケトン:500質量部
トルエン:400質量部
シクロヘキサノン:100質量部
【0118】
(塗布工程)
上述のようにして調製した記録層形成用塗料および下地層形成用塗料を用いて、非磁性支持体である、平均厚み4.0μm、長尺のポレエチレンナフタレートフィルム(以下「PENフィルム」という。)の一方の主面上に下地層および記録層を以下のようにして形成した。まず、PENフィルムの一方の主面上に下地層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、カレンダー後の平均厚みが0.9μmとなるように下地層を形成した。次に、下地層上に記録層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、カレンダー後の平均厚みが80nmとなるように記録層を形成した。なお、記録層形成用塗料の乾燥の際に、ソレノイドコイルにより、磁性粉をフィルムの厚み方向に磁場配向させた。また、記録層形成用塗料の乾燥条件(乾燥温度および乾燥時間)を調整し、磁気テープの厚み方向(垂直方向)における角形比Rsを74.3%に設定した。続いて、PENフィルムの他方の主面上にバック層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、カレンダー後の平均厚みが0.4μmとなるようにバック層を形成した。これにより、磁気テープが得られた。
【0119】
(カレンダー工程、裁断工程)
得られた磁気テープに対して硬化処理を行ったのち、カレンダー処理を行い、記録層の表面を平滑化した。この際、カレンダー処理の条件を調整して、記録層の表面の算術平均粗さRaを1.4nmに設定した。
【0120】
(裁断工程)
上述のようにして得られた磁気テープを1/2インチ(12.65mm)幅に裁断した。これにより、平均厚み5.38μmの磁気テープが得られた。
【0121】
[比較例1]
磁性粉として表1に示すε酸化鉄粒子粉を用いたいこと以外は実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0122】
[比較例2]
磁性粉として表1に示すε酸化鉄粒子粉を用いたいこと以外は実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0123】
[評価]
上述のようにして得られた実施例1、比較例1、2の磁気テープの記録層について、以下の評価を行った。
【0124】
(Mst、Mrt)
Mst[mA]、Mrt[mA](Mr)(但し、Mstは、飽和磁化Msと記録層の厚みtの積であり、Mrtは、残留磁化Mrと記録層の厚みtの積である。)を以下のようにして求めた。まず、上述の一実施形態における保磁力Hcの算出方法と同様にして、バックグラウンド補正後のM-Hループを得た。次に、得られたバックグラウンド補正後のM-Hループから飽和磁化Ms[emu]、残留磁化Mr[emu]を得た。その後、測定サンプルの面積で飽和磁化Ms[emu]を除することによってMst[mA]を算出した。また、測定サンプルの面積で残留磁化Mr[emu]を除することによってMrt[mA]を算出した。
【0125】
(保磁力Hc、角形比Rs、SFD、半値幅Ha、熱安定性Tb、算術平均粗さRa)
上述の一実施形態にて説明した算出方法により保磁力Hc、角形比Rs、SFD、半値幅Ha、熱安定性Tb、算術平均粗さRaを求めた。図5A図6A図7Aにそれぞれ、実施例1、比較例1、2の磁気テープの垂直方向に磁界を印加することにより測定されたM-Hループを示す。図5B図6B図7Bにそれぞれ、図5A図6A図7Aに示したM-Hループから得られたSFDカーブを示す。なお、比較例2の磁気テープでは、半値幅HaがH≦0になる範囲にかかっているため、VSMに付属されている測定・解析プログラムでは、半値幅HaおよびSFDは算出不可能であった。なお、比較例2の磁気テープのように半値幅が2つの象限に重なるような場合は低Hc成分が多くSFDが大きいため、良好な電磁変換特性が得られない傾向にある。
【0126】
(SFDカーブの面積、面積比)
上述の一実施形態にて説明した算出方法により面積Stotal、Slow、Smain、Shigh、面積比Rlow、Rhighを求めた。また、上述のようにして求めたStotal、Rmainを用いて、面積比Rmain(=(Smain/Stotal)×100)を求めた。
【0127】
(SNR(電磁変換特性))
実施例1、比較例1、2の磁気テープのSNR(電磁変換特性)を以下のようにして評価した。記録/再生ヘッドおよび記録/再生アンプを取り付けた1/2インチテープ走行装置(Mountain Engineering II社製、MTS Transport)を用いて、25℃環境における磁気テープのSNRを測定した。記録ヘッドにはギャップ長0.2μmのリングヘッドを用い、再生ヘッドにはシールド間距離0.1μmのGMRヘッドを用いた。相対速度は6m/s、記録クロック周波数は160MHz、記録トラック幅は2.0μmとした。また、SNRは、下記の文献に記載の方法に基づき算出した。その結果を、記録線密度500kbpiのBBSNRを0dBとする相対値で図8に示した。
Y.Okazaki:“An Error Rate Emulation System.”,IEEE Trans. Man., 31,pp.3093-3095(1995)
【0128】
(信号減衰量)
磁性体の熱安定性の指標としてKuV/kBTが知られており、一度磁気テープに記録した信号を短時間で再生し、その減衰量から長期経時後の再生信号減衰量が推定可能である(参考文献「リニアテープシステム用バリウムフェライト媒体の長期保存性能」電子情報通信学会 技術研究報告.MR,磁気記録112(137),53-57,2012-07-12)。
【0129】
実施例1、比較例1、2の磁気テープの信号減衰量の測定においては、Micro Physics社製「Tape Head Tester(以下「THT」という。)」が用いられる。記録再生ヘッドにはIBM社製テープドライブ「TS1140」に搭載されているものをそのまま使用した。測定に際して磁気テープを90cmの長さに切り取り、磁気テープの記録層が裏になるようにリング状にした後、磁気テープ裏面より粘着テープで磁気テープ両端同士を接合した。また接合部の隣には、テープ周回位置を検出する為の銀テープを貼った。リング状の磁気テープはTHTに取り付けた後、速度2m/secで周回させた。
【0130】
次に、Tektronix社製信号発生機「ARBITRARY WAVEFORM GENERATOR AWG2021」を用いて発生させた10MHzの信号を、磁気テープに最適記録電流を用いて、テープ全長一周分だけ記録した。
【0131】
記録に続いて、次の周回からは、テープに記録された信号を連続して再生させ、再生出力をHewlett Packard社製スペクトラムアナライザー「8591E」にて計測した。尚、この際のスペクトラムアナライザーの設定はRBW:1MHz、VBW:1MHz、SWP:500msec、point: 400、ゼロスパンモードとした。
【0132】
計測は、十分な記録が行われていない「テープ接合部近傍」を除いた「記録部」のみの間の0.4sec間だけ行い、この間の再生出力の平均値Yを計算した。計測はテープ一周毎に行い、其々の周回における再生出力の平均値Yを、信号記録終了時(t=0)からの経過時間における再生出力平均値Y(t)とした。
【0133】
計測は、t=100secまで行い、接続したパソコンへと適時送信し、記録させた。
上述の測定を同じ磁気テープを用いて4度行い、各測定により得られたY(t)値を、同じ経過時間t毎に平均化してYave(t)の数列とした。
得られたYave(t)をY軸、経過時間tをX軸にとりグラフにプロットし、このグラフから対数近似を用いて近似曲線を作成した。得られた近似曲線を用いて1年後、5年後、10年後の信号減衰量を算出した。
【0134】
表1は、実施例1、比較例1、2の磁気テープに用いた磁性粉の特性を示す。
【表1】
【0135】
表2は、実施例1、比較例1、2の磁気テープに備えられた記録層の磁気特性の評価結果を示す。
【表2】
【0136】
表3は、実施例1、比較例1、2の磁気テープに備えられた記録層のSFDカーブの評価結果を示す。
【表3】
【0137】
図8に、実施例1、比較例1、2の磁気テープの電磁変換特性の評価結果を示す。図8では、比較例1、2の磁気テープのSNRは、線記録密度が高くなるに従って、実施例1の磁気テープのSNRに比べて低下する傾向が見られる。すなわち、比較例1、2の磁気テープのSNRの傾きは、実施例1の磁気テープのSNRの傾きに比べて大きくなる傾向が見られる。これは、以下の理由によるものと考えられる。すなわち、記録層の低Hc成分が多い比較例1、2の磁気テープでは、記録層の低Hc成分が少ない実施例1の磁気テープに比べて、磁化反転(記録減磁)が発生し易い。また、線記録密度が高くなると、1ビット(磁区)の長さが短くなるため、磁化反転(記録減磁)によるノイズの影響が強く表れる。すなわち、高線記録密度域(すなわち短波長域)で、SNRの劣化が顕著に現れる。
【0138】
したがって、面積比Rlow(=(Slow/Stotal)×100)が5.5%以下である実施例1の磁気テープでは、面積比Rlow(=(Slow/Stotal)×100)が5.5%を超える比較例1、2の磁気テープに比べて、短波長記録(すなわち高記録密度)においても良好な電磁変換特性(SNR)を得ることができる。
【0139】
図9に、実施例1、比較例1、2の磁気テープの信号減衰量の評価結果を示す。図9、表2から以下のことがわかる。実施例1の磁気テープ(平均粒子サイズ:16.4nm)の信号減衰量は、実施例1と同程度の平均粒子サイズを有する比較例2の磁気テープ(平均粒子サイズ:15.7nm)の信号減衰量に比べて小さい。実施例1の磁気テープ(平均粒子サイズ:16.4nm)の信号減衰量は、実施例1に比べて平均粒子サイズが大きい比較例1の磁気テープ(平均粒子サイズ:19.3nm)の信号減衰量と同程度である。
【0140】
したがって、実施例1の磁気テープでは、磁性粉の粒子サイズを小さくし、最短記録波長を短くしても、すなわち記録容量を増加させても、熱安定性Tbの低下を抑制することができる。
【0141】
以上、本開示の実施形態および変形例について具体的に説明したが、本開示は、上述の実施形態および変形例に限定されるものではなく、本開示の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態および変形例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値等を用いてもよい。上述の実施形態および変形例の構成、方法、工程、形状、材料および数値等は、本開示の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0142】
上述の実施形態および変形例にて例示した化合物等の化学式は代表的なものであって、同じ化合物の一般名称であれば、記載された価数等に限定されない。上述の実施形態および変形例で段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値または下限値は、他の段階の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。上述の実施形態および変形例で例示した材料は、特に断らない限り、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0143】
また、本開示は以下の構成を採用することもできる。
(1)
テープ状の磁気記録媒体であって、
ε酸化鉄粒子を含む記録層を備え、
垂直方向における前記記録層のSFDカーブの総面積Stotalと、保磁力Hcが-500[Oe]≦Hc≦500[Oe]の範囲における前記SFDカーブの面積Slowとの面積比Rlow(=(Slow/Stotal)×100)が、5.5%以下である磁気記録媒体。
(2)
垂直方向における前記記録層の保磁力が、3000[Oe]以上5000[Oe]以下である(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)
垂直方向における前記記録層の角形比Rsが、70%以上である(1)または(2)に記載の磁気記録媒体。
(4)
垂直方向における前記記録層のSFDが、1.1以下である(1)から(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(5)
前記磁気記録媒体の熱安定性Tb(=Kact/kT、K:磁性粉の結晶磁気異方性定数、Vact:磁性粉の活性化体積、k:ボルツマン定数、T:絶対温度)が、60以上である(1)から(4)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(6)
前記記録層は、96nm以下の最短記録波長λで信号を記録可能に構成されている(1)から(5)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(7)
前記磁気記録媒体は、13000Oe以上の磁界を印加可能に構成された記録再生装置に用いられる(1)から(6)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(8)
前記SFDカーブの総面積Stotalと、保磁力Hcが-15000[Oe]≦Hc≦-10000[Oe]、および10000[Oe]≦Hc≦15000[Oe]の範囲における前記SFDカーブの面積Shighとの面積比Rhigh(=(Shigh/Stotal)×100)が、5%以下である(1)から(7)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(9)
前記記録層の表面の算術平均粗さRaが、2.0nm以下である(1)から(8)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(10)
前記ε酸化鉄粒子は、AlおよびGaのうちの少なくとも1種を含む(1)から(9)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【符号の説明】
【0144】
10 磁気記録媒体
11 基体
12 下地層
13 記録層
14 バック層
101 記録ヘッド
102 漏れ磁界
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9