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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】調理器用トッププレート
(51)【国際特許分類】
   F24C 15/10 20060101AFI20240730BHJP
   H05B 6/12 20060101ALI20240730BHJP
   C03C 17/02 20060101ALI20240730BHJP
   C03C 3/118 20060101ALI20240730BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
F24C15/10 B
H05B6/12 305
C03C17/02 Z
C03C3/118
C03C3/091
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021551639
(86)(22)【出願日】2020-10-05
(86)【国際出願番号】 JP2020037710
(87)【国際公開番号】W WO2021070774
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2019184989
(32)【優先日】2019-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 司
【審査官】土屋 正志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-109875(JP,A)
【文献】特開2012-201526(JP,A)
【文献】特開2013-238361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24C 15/10
H05B 6/12
C03C 17/02
C03C 3/118
C03C 3/091
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理器具が載せられる調理面及び該調理面とは反対側の裏面を有する、ガラス基板と、
前記ガラス基板の前記裏面上に設けられており、ガラスを含む無機層と、
を備え、
前記無機層の引張応力が、3.7MPa以下であり、
前記無機層中における前記ガラスの含有量が、60体積%以上、80体積%以下であり、
前記無機層に含まれる前記ガラスの組成が、質量%で、SiO 55~70%、B 15~25%、Al 3~10%、BaO 0.1~4.9%、CaO 0~3%、MgO 0~3%、Li O 0.1~5%、Na O 0~10%、K O 0.3~15%、F 0~2%である(但し、前記ガラスが、ZnOを10~35モル%含有するものを除く)、調理器用トッププレート。
【請求項2】
前記無機層の引張応力が、2.2MPa以上である、請求項1に記載の調理器用トッププレート。
【請求項3】
前記無機層が、無機顔料をさらに含む、請求項1又は2に記載の調理器用トッププレート。
【請求項4】
前記無機層中における前記無機顔料の含有量が、20体積%以上、40体積%以下である、請求項3に記載の調理器用トッププレート。
【請求項5】
前記ガラスの30℃以上、380℃以下の範囲における平均熱膨張係数が、45×10-7/℃以上、55×10-7/℃以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の調理器用トッププレート。
【請求項6】
前記ガラスの粘度が105.1mPa・sとなる温度が、800℃以上、900℃以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の調理器用トッププレート。
【請求項7】
前記無機層の厚みが、2.0μm以上、2.8μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の調理器用トッププレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理器用トッププレートに関する。
【背景技術】
【0002】
電磁調理器、ラジアントヒーター調理器、ガス調理器などの調理器用のトッププレートには、低い熱膨張係数を有する結晶化ガラスや硼珪酸ガラスなどからなる耐熱性を有するガラス基板が用いられている。このような調理器用トッププレートのガラス基板は、調理面と、調理器内部側に位置する裏面とを有している。
【0003】
調理器用トッププレートにおけるガラス基板の裏面には、一般に、意匠性を向上させたり調理器内部の構造を隠蔽したりすることを目的として、絵付け膜や遮光層が形成されている。このような絵付け膜や遮光層は、ガラス基板上に、ガラス粉末及び無機顔料粉末を含むペーストを塗布し、焼成することにより形成されることが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-192535号公報
【文献】特許第5621121号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ガラス基板上に絵付け膜や遮光層が設けられてなる調理器用トッププレートは、機械的強度が十分でないことが多く、割れやすいという問題がある。また、調理器の製造に用いられる接着剤等がシミとなる問題がある。
【0006】
本発明の目的は、機械的強度に優れ、割れ難く、シミの発生の少ない調理器用トッププレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る調理器用トッププレートは、調理器具が載せられる調理面及び該調理面とは反対側の裏面を有する、ガラス基板と、前記ガラス基板の前記裏面上に設けられており、ガラスを含む無機層と、を備え、前記無機層の引張応力が、3.7MPa以下であり、前記無機層中における前記ガラスの含有量が、60体積%以上、80体積%以下であることを特徴としている。
【0008】
本発明においては、前記無機層の引張応力が、2.2MPa以上であることが好ましい。
【0009】
本発明においては、前記無機層が、無機顔料をさらに含むことが好ましい。
【0010】
本発明においては、前記無機層中における前記無機顔料の含有量が、20体積%以上、40体積%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明においては、前記ガラスの30℃以上、380℃以下の範囲における平均熱膨張係数が、45×10-7/℃以上、55×10-7/℃以下であることが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記ガラスの粘度が105.1mPa・sとなる温度が、800℃以上、900℃以下であることが好ましい。
【0013】
本発明においては、前記ガラスが、ホウケイ酸ガラスであることが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記ガラスの組成が、質量百分率で、SiO 55~70%、B 15~25%、Al 3~10%、BaO 0.1~4.9%、CaO 0~3%、MgO 0~3%、LiO 0.1~5%、NaO 0~10%、KO 0.3~15%、F 0~2%であることが好ましい。
【0015】
本発明においては、前記無機層の厚みが、2.0μm以上、2.8μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、機械的強度に優れ、割れ難く、シミの発生の少ない調理器用トッププレートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る調理器用トッププレートを示す模式的断面図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係る調理器用トッププレートの裏面に温度センサーが取り付けられている構成を示す模式的断面図である。
図3図3は、本発明の第2の実施形態に係る調理器用トッププレートを示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0019】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る調理器用トッププレートを示す模式的断面図である。図1に示すように、調理器用トッププレート1(以下、「調理器用トッププレート1」を、単に「トッププレート1」とする)は、ガラス基板2を備える。ガラス基板2は、対向している調理面2a及び裏面2bを有する。調理面2aは、鍋やフライパンなどの調理器具が載せられる側の面である。裏面2bは、調理器の内部側において光源や加熱装置と対向する面である。従って、調理面2a及び裏面2bは、表裏の関係にある。
【0020】
ガラス基板2は、波長450nm~700nmにおける少なくとも一部の光を透過する。ガラス基板2は、有色透明であってもよいが、トッププレート1の美観性をより一層高める観点から、無色透明であることが好ましい。なお、本明細書において、「透明」であるとは、波長450nm~700nmにおける可視波長域の光透過率が70%以上であることをいう。
【0021】
トッププレート1では、加熱及び冷却が繰り返しなされる。そのため、ガラス基板2は、高い耐熱性及び低い熱膨張係数を有するものであることが好ましい。具体的には、ガラス基板2の軟化温度は、700℃以上であることが好ましく、750℃以上であることがより好ましい。また、ガラス基板2の30℃~750℃における平均線熱膨張係数は、-10×10-7/℃~+60×10-7/℃の範囲内であることが好ましく、-10×10-7/℃~+50×10-7/℃の範囲内であることがより好ましく、-10×10-7/℃~+40×10-7/℃の範囲内であることがさらに好ましい。従って、ガラス基板2は、ガラス転移温度が高く、低膨張なガラスや、低膨張な結晶化ガラスからなるものであることが好ましい。低膨張な結晶化ガラスの具体例としては、例えば、日本電気硝子社製の「N-0」が挙げられる。なお、ガラス基板2としては、ホウケイ酸ガラスなどを用いてもよい。
【0022】
ガラス基板2の厚みは、特に限定されない。ガラス基板2の厚みは、光透過率などに応じて適宜設定することができる。ガラス基板2の厚みは、例えば、2mm~6mm程度とすることができる。
【0023】
ガラス基板2の裏面2b上には、無機層3が設けられている。無機層3は、調理器内部の構造を隠蔽することを目的として設けられる遮光層である。本実施形態では、無機層3が、ガラスと、無機顔料とを含んでいる。
【0024】
また、本実施形態においては、ガラス基板2の裏面2b上に設けられている無機層3の引張応力が、3.7MPa以下である。そのため、トッププレート1の機械的強度を高めることができ、トッププレート1を割れ難くすることができる。
【0025】
なお、無機層3の引張応力は、ガラス基板2と無機層3の界面に働く応力を求めることにより得ることができる。具体的には、ガラス基板2の裏面2b上に無機層3が設けられているトッププレート1を切断し、断面方向を観察する。そして、セナルモン法に従い、歪計を用いて、ガラス基板2側に働いている圧縮応力を測定し、ガラス基板2側に働いている圧縮応力から計算することにより得ることができる。
【0026】
無機層3の引張応力は、好ましくは3.5MPa以下であり、より好ましくは3.1MPa以下である。この場合、トッププレート1の機械的強度をより一層高めることができ、トッププレート1をより一層割れ難くすることができる。
【0027】
また、無機層3の引張応力は、好ましくは2.2MPa以上であり、より好ましくは2.6MPa以上である。なお、無機層3の引張応力は、後述するように、ガラスの含有量やガラスの特性、無機層3の厚み、ガラス基板2の特性等を調整することにより上記の範囲内に設定することができる。この点について、以下、図2を参照してより詳細に説明する。
【0028】
図2に示すように、トッププレート1の裏面2bの加熱部分には、温度情報を取得するための温度センサー4(熱電対)が、シリコーン接着剤などの接着剤5を用いて取り付けられることがある。このような接着剤5は、熱源等により高温で加熱すると蒸発することがある。従来のトッププレートでは、この接着剤の蒸発物が、例えば、遮光層や絵付け膜を通過してガラス基板側にしみ出すことがある。そのため、調理面2a側から視たときに、シミとして目立ち易く、トッププレートの美観性が損なわれることがある。
【0029】
ところで、無機層3の引張応力は、無機層3に含まれるガラスの含有量を少なくしたり、ガラスの流動性を低下させたりすることにより、小さくすることができる。しかしながら、無機層3に含まれるガラスの含有量を少なくしすぎたり、ガラスの流動性を低下しすぎたりすると、無機層3が緻密な膜とはならない傾向がある。すなわち、無機層3に含まれるガラスの含有量を多くしたり、ガラスの流動性を高めたりすることにより、引張応力をある程度大きくする必要がある。従って、無機層3の引張応力をある程度大きくすることにより、無機層3をより一層緻密な膜にすることができ、接着剤5の蒸発物が無機層3をより透過し難くすることができる。これにより接着剤5などに起因するシミをより一層生じ難くすることができ、トッププレート1の美観性をより一層向上させることができる。
【0030】
無機層3に含まれるガラスの含有量は、60体積%以上であり、好ましくは62体積%以上であり、80体積%以下であり、好ましくは75体積%以下であり、より好ましくは72体積%以下である。ガラスの含有量が上記の下限値以上である場合、無機層3をより緻密な膜とすることができ、接着剤5などに起因するシミをより一層生じ難くすることができる。そのため、トッププレート1の外観品質をより一層向上させることができる。また、ガラスの含有量が上記の上限値以下である場合、無機層3とガラス基板2との密着面積をより一層小さくすることができ、ガラス基板2及び無機層3の界面における応力をより一層小さくすることができる。そのため、トッププレート1をより一層割れ難くすることができる。
【0031】
無機層3に含まれるガラスの30℃以上、380℃以下の範囲における平均熱膨張係数は、好ましくは45×10-7/℃以上であり、より好ましくは48×10-7/℃以上であり、好ましくは55×10-7/℃以下であり、より好ましくは51×10-7/℃以下である。ガラスの平均熱膨張係数が上記の下限値以上である場合、無機層3を固着させるための温度をより一層低くすることができ、ガラス基板2への悪影響をより及ぼし難くすることができる。また、ガラスをより流動し易くすることができ、無機層3をより緻密な膜とすることができる。そのため、接着剤5などに起因するシミをより一層生じ難くすることができ、トッププレート1の美観性をより一層向上させることができる。また、ガラスの平均熱膨張係数が上記の上限値以下である場合、ガラス基板2との膨張率差をより一層小さくすることができるので、ガラス基板2及び無機層3の界面における応力をより一層小さくすることができ、トッププレート1をより一層割れ難くすることができる。
【0032】
無機層3に含まれるガラスの粘度が105.1mPa・sとなる温度は、好ましくは800℃以上であり、より好ましくは820℃以上であり、好ましくは900℃以下であり、より好ましくは880℃以下である。ガラスの粘度が105.1mPa・sとなる温度が上記の下限値以上である場合、ガラスをより一層軟化流動し難くすることができ、ガラス基板2との密着強度をより一層小さくすることができる。そのため、ガラス基板2及び無機層3の界面における応力をより一層小さくすることができ、トッププレート1をより一層割れ難くすることができる。また、ガラスの粘度が105.1mPa・sとなる温度が上記の上限値以下である場合、ガラスをより一層軟化流動し易くすることができ、無機層3をより緻密な膜とすることができる。そのため、接着剤などに起因するシミをより一層生じ難くすることができ、トッププレート1の美観性をより一層向上させることができる。
【0033】
無機層3に含まれるガラスは、特に限定されないが、ホウケイ酸ガラスであることが好ましい。この場合、ガラス基板2との膨張率差をより一層小さくすることができるので、ガラス基板2及び無機層3の界面における応力をより一層小さくすることができ、トッププレート1をより一層割れ難くすることができる。
【0034】
なかでも、無機層3に含まれるガラスは、質量%で、SiO 55~70%、B 15~25%、Al 3~10%、BaO 0.1~4.9%、CaO 0~3%、MgO 0~3%、LiO 0.1~5%、NaO 0~10%、KO 0.3~15%、F 0~2%を含有するガラスであることが好ましい。また、ガラスは、実質的に鉛を含有しないことが好ましい。なお、実質的に鉛を含有しないとは、質量%で、ガラスに含まれる鉛の含有量が0.01%以下であることをいう。
【0035】
SiOは、ガラスの骨格を形成する成分である。SiOの含有量は、質量%で、好ましくは55~70%、より好ましくは55~65%、さらに好ましくは60~65%である。SiOの含有量が少なすぎると、ガラスの耐酸性が悪化するとともに、ガラスの熱膨張係数が大きくなる傾向がある。例えば、ガラス基板2と無機層3に含まれるガラスの膨張率差が大きくなりすぎて、トッププレート1が割れ易くなることがある。また、SiOの含有量が多すぎると、ガラスの軟化点や融点が高くなる傾向にあり、低温での焼成が困難になる場合がある。
【0036】
は、熱膨張係数を過剰に増加させずに、ガラスの粘性を低下させることができる成分である。Bの含有量は、質量%で、好ましくは15~25%である。Bの含有量が少なすぎると、ガラスの粘性が高くなり過ぎる傾向がある。また、Bの含有量が多すぎると、ガラスの耐酸性が悪化する傾向がある。
【0037】
Alは、化学耐久性を向上させ、ガラスの失透性を抑制するための成分である。Alの含有量は、質量%で、好ましくは3~10%、より好ましくは3~7%である。Alの含有量が少なすぎると、ガラスの失透性を抑制する効果が乏しくなる傾向にある。また、Alの含有量が多すぎると、ガラスの粘性が高くなり過ぎる傾向にある。
【0038】
BaOは、ガラスの化学耐久性の改善させる成分であるとともに、軟化点を低下させる成分である。BaOの含有量は、質量%で、好ましくは0.1~4.9%、より好ましくは0.5~4.9%、さらに好ましくは1~4.9%である。BaOの含有量が少なすぎると、ガラスの化学耐久性向上及び低軟化点化の効果が乏しくなる傾向にある。また、BaOの含有量が多すぎると、ガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎる傾向にある。
【0039】
MgO及びCaOは含まれていなくともよいが、ガラスの軟化点を低下させる効果があるため、質量%で、それぞれ3%を上限として含有してもよい。
【0040】
LiO、NaO、KOのアルカリ成分は、ガラスの軟化点を大きく低下させることができる成分である。
【0041】
特に、LiOは、微量の添加でガラスの軟化点を大きく低下させる効果を有する成分である。LiOの含有量は、質量%で、好ましくは0.1~5%、より好ましくは0.1~3%、さらに好ましくは0.1~2%である。LiOの含有量が少なすぎると、ガラスの軟化点を低下させる効果が乏しくなる傾向がある。また、LiOの含有量が多すぎると、ガラスが失透しやすくなり、失透物に起因した熱膨張係数の増加や化学耐久性の低下等の不具合が生じやすくなる傾向がある。
【0042】
Oは、ガラスの失透性を抑制するための成分である。特に、LiOを含むホウケイ酸ガラスにKOを含有させると、ガラスの失透性が抑制され、熱安定性の高いガラスを得ることが可能となる。KOの含有量は、質量%で、好ましくは0.3~15%、より好ましくは0.3~9%、さらに好ましくは0.3~6%である。KOの含有量が少なすぎると、ガラスの失透性を抑制する効果が乏しくなる傾向がある。また、KOの含有量が多すぎると、ガラスの耐酸性が著しく低下するとともに、ガラスの熱膨張係数が大きくなり過ぎる傾向にある。
【0043】
また、質量分率KO/LiOは、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.9以上、特に好ましくは1.5以上、最も好ましくは2.0以上である。KO/LiOが小さすぎると、ガラスの失透性が顕著になり、例えば、無機層3に含まれるガラスの焼成時や調理器用トッププレート1等の使用時等に無機層3に含まれるガラスが失透し、失透相に起因したクラックや耐酸性の劣化等の不具合が生じやすくなる傾向にある。
【0044】
NaOの含有量は、質量%で、好ましくは0~10%、より好ましくは0~8%である。NaOの含有量が多すぎると、ガラスの耐酸性が著しく低下し、更には、ガラスの熱膨張係数が大きくなりやすい傾向がある。
【0045】
Fの含有量は、質量%で、好ましくは0~2%、より好ましくは0~1.5%である。Fの含有量が多すぎると、無機層3に含まれるガラスの流動性が不安定になり、安定した無機層3が得難くなる傾向にある。
【0046】
上記成分以外に、SrO、ZrO、SnO、P等の成分を軟化点の調整や耐酸性改善等の目的で、質量%で、5%まで含有させてもよい。なお、ZrOはガラスの軟化点を上昇させる効果が大きいため、添加量は、質量%で3%未満とすることが好ましい。
【0047】
無機層3中に含まれる無機顔料としては、特に限定されず、例えば、Cu-Cr-Mn系黒色無機顔料を用いることができる。他にも、後述するシリコーン樹脂6に含まれる無機顔料と同じ無機顔料を用いることができる。無機顔料は、例えば、TiO粉末、ZrO粉末、ZrSiO粉末などの白色の無機顔料粉末、Coを含む青色又は緑色の無機顔料粉末、Coを含む緑色の無機顔料粉末、Ti-Sb-Cr系、Ti-Ni系の黄色の無機顔料粉末、Co-Si系の赤色の無機顔料粉末、Feを含む茶色の無機顔料粉末、Cuを含む黒色の無機顔料粉末などが挙げられる。
【0048】
無機層3中における無機顔料の含有量は、特に限定されず、好ましくは20体積%以上、より好ましくは28体積%以上、好ましくは40体積%以下、より好ましくは37体積%以下である。無機顔料の含有量が上記の下限値以上である場合、無機層3とガラス基板2との密着面積をより一層小さくすることができ、ガラス基板2及び無機層3の界面における応力をより一層小さくすることができる。そのため、トッププレート1をより一層割れ難くすることができる。また、無機顔料の含有量が上記の上限値以下である場合、無機層3をより緻密な膜とすることができ、接着剤などに起因するシミをより一層生じ難くすることができる。
【0049】
無機層3の厚みは、特に限定されず、好ましくは1.5μm以上、より好ましくは2.0μm以上、さらに好ましくは2.1μm以上、好ましくは2.8μm以下、より好ましくは2.7μm以下である。無機層3の厚みが上記の下限値以上である場合、調理器内部の構造をより効果的に隠蔽することができる。また、接着剤5などに起因するシミをより一層生じ難くすることができ、トッププレート1の美観性をより一層向上させることができる。一方、無機層3の厚みが上記の上限値以下である場合、ガラス基板2及び無機層3の界面における応力をより一層小さくすることができ、トッププレート1をより一層割れ難くすることができる。
【0050】
無機層3の形成方法は、特に限定されない。無機層3は、例えば、下記の方法により形成することができる。
【0051】
まず、ガラス粉末と無機顔料との混合粉末に溶媒を加えてペースト化する。得られたペーストをガラス基板2の裏面2b上に、スクリーン印刷法などを用いて塗布し、乾燥させる。その後、焼成することにより無機層3を形成することができる。なお、焼成温度及び焼成時間は、使用するガラス粉末の組成などに応じて適宜設定することができる。焼成温度は、例えば、800℃~900℃程度とすることができる。焼成時間は、例えば、10分~1時間程度とすることができる。
【0052】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態に係る調理器用トッププレートを示す模式的断面図である。図3に示すように、トッププレート21では、無機層3の上にさらに耐熱樹脂層6が設けられている。耐熱樹脂層6は、シリコーン樹脂と、無機顔料とを含んでいる。耐熱樹脂層6を設けることにより、トッププレート21の耐熱性をより一層向上させるとともに、調理器内部の構造をより効果的に隠蔽することができる。
【0053】
シリコーン樹脂としては、特に限定されないが、高い耐熱性を有するものであることが好ましい。シリコーン樹脂は、例えば、シリコン原子に直接結合した有機基がメチル基又はフェニル基の少なくとも一方であるシリコーン樹脂であることが好ましい。この場合、トッププレート21が高温になったときの耐熱樹脂層6の変色をより一層効果的に抑制することができる。なかでも、シリコン原子に直接結合した有機基がメチル基であるシリコーン樹脂であることがより好ましい。
【0054】
耐熱樹脂層6中におけるシリコーン樹脂の含有量は、特に限定されないが、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。シリコーン樹脂の含有量が、上記の下限値以上である場合、トッププレート21の耐熱性や耐衝撃性をより一層高めることができる。また、シリコーン樹脂の含有量が上記の上限値以下である場合、トッププレート21の機械的強度をより一層高めることができる。
【0055】
無機顔料は、例えば、TiO粉末、ZrO粉末、ZrSiO粉末などの白色の無機顔料粉末、Coを含む青色又は緑色の無機顔料粉末、Coを含む緑色の無機顔料粉末、Ti-Sb-Cr系、Ti-Ni系の黄色の無機顔料粉末、Co-Si系の赤色の無機顔料粉末、Feを含む茶色の無機顔料粉末、Cuを含む黒色の無機顔料粉末などが挙げられる。
【0056】
Coを含む青色の無機顔料粉末の具体例としては、例えば、Co-Al系、Co-Al-Ti系の無機顔料粉末が挙げられる。Co-Al系の無機顔料粉末の具体例としては、CoAl粉末などが挙げられる。Co-Al-Ti系の無機顔料粉末の具体例としては、CoAl:TiO:LiO粉末などが挙げられる。
【0057】
Coを含む緑色の無機顔料粉末の具体例としては、例えば、Co-Al-Cr系、Co-Ni-Ti-Zn系の無機顔料粉末が挙げられる。Co-Al-Cr系の無機顔料粉末の具体例としては、Co(Al,Cr)粉末などが挙げられる。Co-Ni-Ti-Zn系の無機顔料粉末の具体例としては、(Co,Ni,Zn)TiO粉末などが挙げられる。
【0058】
Feを含む茶色の無機顔料粉末の具体例としては、例えば、Fe-Zn系の無機顔料粉末が挙げられる。Fe-Zn系の無機顔料粉末の具体例としては、(Zn,Fe)Fe粉末などが挙げられる。
【0059】
Cuを含む黒色の無機顔料粉末の具体例としては、例えば、Cu-Cr系の無機顔料粉末が挙げられる。Cu-Cr系の無機顔料粉末の具体例としては、Cu(Cr,Mn)粉末などが挙げられる。
【0060】
これらの無機顔料は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0061】
耐熱樹脂層6中における無機顔料の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。無機顔料の含有量が、上記範囲内にある場合、調理器内部の構造をより効果的に隠蔽することができる。
【0062】
耐熱樹脂層6の厚みは、特に限定されない。耐熱樹脂層6の厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下である。耐熱樹脂層6の厚みが上記範囲内にある場合、トッププレート21の耐熱性をより一層向上させるとともに、調理器内部の構造をより効果的に隠蔽することができる。
【0063】
耐熱樹脂層6の形成方法も特に限定されない。まず、シリコーン樹脂と、無機顔料粉末と、さらに必要に応じて溶媒を含むペーストを用意する。次に、用意したペーストを無機層3上に直接塗布し、乾燥させる。それによって、耐熱樹脂層6を形成することができる。なお、耐熱樹脂層6の組成によっては、乾燥後に焼成を行うことによって、トッププレート21を得てもよい。
【0064】
ペーストの塗布スピード及び粘度は、耐熱樹脂層6に含まれる無機顔料の含有量に応じて適宜設定することができる。例えば、耐熱樹脂層6における無機顔料の含有量が多い場合は、シリコーン樹脂の粘度を低くし、シリコーン樹脂の塗布スピードを遅くすることが好ましい。
【0065】
塗布したペーストの乾燥温度としては、例えば、200℃以上、450℃以下の温度とすることができる。乾燥時間としては、例えば、10分以上、1時間以下とすることができる。
【0066】
本実施形態においても、ガラス基板2の裏面2b上に設けられている無機層3の引張応力が、3.7MPa以下である。そのため、トッププレート21の機械的強度を高めることができ、トッププレート21を割れ難くすることができる。
【0067】
また、上記実施形態では、耐熱樹脂層6が、ガラス基板2の裏面2bの全体の上に形成されているが、耐熱樹脂層6は、ガラス基板2の裏面2bの一部の上に形成されていてもよい。例えば、耐熱樹脂層6をトッププレート21の裏面2bにおける加熱部分に取り付けられる温度センサーの接着部の下方部分に設けてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、ガラス基板2の調理面2aの上には、膜が形成されていないが、調理面2aの上に、美観性向上やヒーター位置の表示等を目的として、装飾被膜等を形成してもよい。
【0069】
また、ガラス基板2の裏面2b側には、耐熱樹脂層6と無機層3との間に、密着層などが形成されていてもよいし、耐熱樹脂層6の上に、耐熱樹脂層6の保護層などが形成されていてもよい。あるいは、耐熱樹脂層6の上に、さらにもう一層の耐熱樹脂層が形成されていてもよい。
【0070】
以下、本発明について、実施例に基づいてさらに詳細を説明する。但し、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0071】
(実施例1~16,比較例1,2)
まず、ガラス粉末と、Cu-Cr系の黒色の無機顔料粉末と、樹脂バインダーとをそれぞれ質量比(ガラス粉末:無機顔料粉末:樹脂バインダー)で、1:1:2の割合となるように混合し、ペーストを作製した。
【0072】
なお、ガラス粉末としては、質量%で、下記の表1に示すような組成を有するガラスA~Fを用いた。ガラス粉末の30℃以上、380℃以下の範囲における平均熱膨張係数、及び粘度が105.1mPa・sとなる温度は、下記の表1に示す通りである。また、ガラス粉末は、形成する無機層中における含有量が下記の表2に示すガラス含有量(体積%)となるように添加した。
【0073】
次に、このペーストをガラス基板としての透明結晶化ガラス板(日本電気硝子社製、商品名「N-0」、30℃~750℃における平均線熱膨張係数:0.5×10-7/℃、厚み:4mm)全体の上に、スクリーン印刷した。その後、830℃で10分間、加熱乾燥を行った。それによって、ガラス基板の上に、無機層を形成して、トッププレートを得た。加熱後の無機層の厚みは、下記の表2に示す通りであった。
【0074】
[評価]
(引張応力の評価)
無機層の引張応力は、ガラス基板と無機層の界面に働く応力を求めることにより評価した。具体的には、実施例1~16及び比較例1,2で得られたトッププレートをそれぞれ切断し、断面方向を観察した。引張応力は、セナルモン法に従い、歪計(折原製作所社製、「歪測定器」)を用いて、ガラス基板側に働いている圧縮応力を測定し、ガラス基板側に働く圧縮応力から無機層の引張応力を計算することにより求めた。
【0075】
(機械的強度の評価)
まず、実施例1~16及び比較例1,2で得られたトッププレートを無機層が設けられていない面である調理面を上にして、木枠上で水平面上に設置した。その後、トッププレートの調理面に鋼球(重量535g)を、トッププレートの調理面から垂直方向において高さ10cmの位置から自然落下させた。鋼球の落下によってトッププレートにおける割れの有無を目視により観察した。トッププレートに割れが発生していない場合にはトッププレートに割れが発生するまで、鋼球の高さを5cm毎に高くして鋼球の自然落下を繰り返して、トッププレートに割れが発生した最小の鋼球の破壊高さを測定した。機械的強度は、この操作を10回繰り返した平均破壊高さにより評価した。
【0076】
(シミの評価)
実施例1~16及び比較例1,2で得られたトッププレートにおける無機層の上にそれぞれエタノールを塗布し、ガラス基板の調理面側からエタノールのシミを目視にて以下の評価基準で評価した。
【0077】
<評価基準>
◎…塗布したエタノールが観察されない場合
〇…塗布したエタノールが透けて観察される場合
×…塗布したエタノールが無機層に浸透し、シミとして観察される場合
【0078】
結果を下記の表2に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表2より、実施例1~16のトッププレートは、機械的強度に優れ、割れ難く、シミの発生が少ないことを確認できた。一方、比較例1のトッププレートでは、エタノールのシミが観察された。また、比較例2のトッププレートでは、わずかな衝撃でトッププレートが損傷した。
【符号の説明】
【0082】
1,21…調理器用トッププレート
2…ガラス基板
2a…調理面
2b…裏面
3…無機層
4…温度センサー
5…接着剤
6…耐熱樹脂層
図1
図2
図3