(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】音響出力装置、音響出力方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04S 1/00 20060101AFI20240730BHJP
H04R 3/12 20060101ALI20240730BHJP
G10H 1/00 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
H04S1/00 200
H04R3/12 Z
G10H1/00 C
(21)【出願番号】P 2022036370
(22)【出願日】2022-03-09
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】名越 公洋
【審査官】中嶋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04352953(US,A)
【文献】特開2011-188479(JP,A)
【文献】特表2001-517005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04S 1/00
H04R 3/12
G10H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の出力装置と、
第2の出力装置と、
第3の出力装置と、
第4の出力装置と、
左チャンネルの信号と、右チャンネルの信号とを、第1の比率で
演算した第1の出力装置用の第1の出力信号
を生成し、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第2の比率で加算した第2の出力装置用の第2の出力信号
を生成し、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第3の比率で加算した第3の出力装置用の第3の出力信号
を生成し、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第4の比率で
演算した第4の出力装置用の第4の出力信号
を生成する出力信号生成手段
と、
を、備え
、
前記第1の出力装置は、聴取者からみて前記第2の出力装置、前記第3の出力装置、及び前記第4の出力装置よりも左側に配置される出力装置であり、
前記第1の比率は、前記左チャンネルの信号に対して、前記右チャンネルの信号を減算することによって設定され、
前記第4の出力装置は、前記聴取者からみて前記第1の出力装置、前記第2の出力装置、及び前記第3の出力装置よりも右側に配置される出力装置であり、
前記第4の比率は、前記右チャンネルの信号に対して、前記左チャンネルの信号を減算することによって設定されている音響出力装置。
【請求項2】
前記第1の比率を設定する第1の比率設定手段と、
前記第2の比率を設定する第2の比率設定手段と、
前記第3の比率を設定する第3の比率設定手段と、
前記第4の比率を設定する第4の比率設定手段と、をさらに備える請求項1に記載の音響出力装置。
【請求項3】
前記第1の出力信号を前記第1の出力装置に出力し、
前記第2の出力信号を前記第2の出力装置に出力し、
前記第3の出力信号を前記第3の出力装置に出力し、
前記第4の出力信号を前記第4の出力装置に出力する、請求項1または請求項2に記載の音響出力装置。
【請求項4】
前記第1の出力装置が、前記第1の出力信号
に基づいた音を出力
する位置は、聴取者からみて
、前記第2の出力装置が、前記第2の出力信号
に基づいた音を出力
する位置より左であり、
前記第3の出力装置が、前記第3の出力信号
に基づいた音を出力
する位置は、前記聴取者からみて
、前記第4の出力装置が、前記第4の出力信号
に基づいた音を出力
する位置より左である、請求項1乃至3の何れか1項に記載の音響出力装置。
【請求項5】
前記第3の出力装置が、前記第3の出力信号
に基づいた音を出力
する位置は、前記聴取者からみて
、前記第1の出力装置が、前記第1の出力信号
に基づいた音を出力
する位置より
右であり、
前記第4の出力装置が、前記第4の出力信号
に基づいた音を出力
する位置は、前記聴取者からみて
、前記第2の出力装置が、前記第2の出力信号
に基づいた音を出力
する位置より右である、請求項4に記載の音響出力装置。
【請求項6】
前記第1の比率の逆比と、前記第
4の比率とは等しく、前記第
2の比率の逆比と、前記第
3の比率とは等しい請求項4または請求項5に記載の音響出力装置。
【請求項7】
前記第1の比率と前記第
2の比率は、1対0を含む1対-1から1対1までの範囲のうちの1の比率であり、前記第
3の比率と前記第4の比率は、0対1を含む-1対1から1対1までの範囲のうちの1の比率である請求項4乃至6のいずれか1項に記載の音響出力装置。
【請求項8】
第1の出力装置、第2の出力装置、第3の出力装置及び第4の出力装置を備え、前記第1の出力装置は、聴取者からみて前記第2の出力装置、前記第3の出力装置、及び前記第4の出力装置よりも左側に配置される出力装置であり、前記第4の出力装置は、前記聴取者からみて前記第1の出力装置、前記第2の出力装置、及び前記第3の出力装置よりも右側に配置される出力装置である音響出力装置のプロセッサが、
左チャンネルの信号と、右チャンネルの信号とを、第1の比率で
演算した第1の出力信号を生成する工程と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第2の比率で加算した第2の出力信号を生成する工程と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第3の比率で加算した第3の出力信号を生成する工程と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第4の比率で
演算した第4の出力信号を生成する工程と、を備え
、前記第1の比率は、前記左チャンネルの信号に対して、前記右チャンネルの信号を減算することによって設定され、前記第4の比率は、前記右チャンネルの信号に対して、前記左チャンネルの信号を減算することによって設定されている音響出力方法。
【請求項9】
第1の出力装置、第2の出力装置、第3の出力装置及び第4の出力装置を備え、前記第1の出力装置は、聴取者からみて前記第2の出力装置、前記第3の出力装置、及び前記第4の出力装置よりも左側に配置される出力装置であり、前記第4の出力装置は、前記聴取者からみて前記第1の出力装置、前記第2の出力装置、及び前記第3の出力装置よりも右側に配置される出力装置である音響出力装置のコンピュータに、
左チャンネルの信号と、右チャンネルの信号とを、第1の比率で
演算した第1の出力信号を生成する工程を実行させる命令と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第2の比率で加算した第2の出力信号を生成する工程を実行させる命令と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第3の比率で加算した第3の出力信号を生成する工程を実行させる命令と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第4の比率で
演算した第4の出力信号を生成する工程を実行させる命令と、を含
み、
前記第1の比率は、前記左チャンネルの信号に対して、前記右チャンネルの信号を減算することによって設定され、前記第4の比率は、前記右チャンネルの信号に対して、前記左チャンネルの信号を減算することによって設定されているプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響出力装置、音響出力方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用のステレオセット、カーオーディオ、電子楽器、あるいはPA(Public Address)システムなど、スピーカとアンプを用いて音を出力する装置は広く用いられている。モノラルのシステムは少なく、左(L)チャンネル、および右(R)チャンネルのステレオ信号を取り扱うシステムがほとんどである。
【0003】
例えば、左右にそれぞれ2つのスピーカを用意し、各スピーカを個別のアンプで別々に駆動する、ステレオ信号の音響出力装置がある。この装置では4つのスピーカの音量を独立に調整することで、音圧や左右の広がりを自由にコントロールすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既存の技術では、左右の広がりを調整できるレンジが音量調整の範囲に限られる。その範囲を超えてしまうと、レベルの異なる同一信号を近接したスピーカから再生することによる位相干渉が目立ってくる。これが甚だしくなると、非常に不自然な聴感をもたらし、快適な音空間を作り出すことは難しい。位相干渉を軽減するために、周波数特性を任意のクロスオーバーで再生すると、狙いとする広がり感を得ることができない。再生音を聴取する環境や、再生音の感じ方をコントロールする自由度をさらに高めることのできる技術が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態係る音響出力装置は、第1の出力装置と、第2の出力装置と、第3の出力装置と、第4の出力装置と、出力信号生成手段とを備える。出力信号生成手段は、左チャンネルの信号と右チャンネルの信号とを第1の比率で演算して、第1の出力装置用の第1の出力信号を生成する。また、出力信号生成手段は、左チャンネルの信号と右チャンネルの信号とを第2の比率で加算して、第2の出力装置用の第2の出力信号を生成する。また、出力信号生成手段は、左チャンネルの信号と右チャンネルの信号とを第3の比率で加算して、第3の出力装置用の第3の出力信号を生成する。また、出力信号生成手段は、左チャンネルの信号と右チャンネルの信号とを第4の比率で演算して、第4の出力装置用の第4の出力信号を生成する。第1の出力装置は、聴取者からみて第2の出力装置、第3の出力装置、及び第4の出力装置よりも左側に配置される出力装置であり、第1の比率は、左チャンネルの信号に対して、右チャンネルの信号を減算することによって設定され、第4の出力装置は、聴取者からみて第1の出力装置、第2の出力装置、及び第3の出力装置よりも右側に配置される出力装置であり、第4の比率は、右チャンネルの信号に対して、左チャンネルの信号を減算することによって設定されている。
【発明の効果】
【0007】
聴感を制御する自由度をさらに高めた音響出力装置、音響出力方法、およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係わるスピーカシステムの一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、外側バランス回路20の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、内側バランス回路30の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、比較のため既存のスピーカシステムの一例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、音響出力装置を備える電子楽器の一例を示す外観図である。
【
図8】
図8は、電子楽器におけるスピーカの配置の例を示す図である。
【
図9】
図9は、電子楽器におけるスピーカの配置の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態]
この発明の実施の形態について、以下に説明する。
(構成)
図1は、実施形態に係わる音響出力装置の一例を示すブロック図である。この音響出力装置は、平面のパネル10に取り付けられるスピーカ1、2、3、および4と、それぞれのスピーカ1~4への出力信号を生成する出力信号生成部100とを備える。つまり音響出力装置は、Lチャンネル信号(L信号)およびRチャンネル信号(R信号)の2チャンネルのオーディオ信号を、4つのスピーカから音響出力する。
【0010】
実施形態では、スピーカ1と2が、音響信号の聴取者からみて左に位置するとし、スピーカ3と4が、音響信号の聴取者からみて右に位置するとする。聴取者が出力音を聴取する位置は、おおむね、スピーカ2とスピーカ3との間になる。聴取者からみて、スピーカ1と4は外側に位置し、スピーカ2と3は内側に位置する。なお、スピーカ1は、第1の出力装置の一例であり、スピーカ2は、第2の出力装置の一例であり、スピーカ3は、第3の出力装置の一例であり、スピーカ4は、第4の出力装置の一例である。スピーカ1~4はそれぞれパワーアンプ5~8により駆動され、音響信号を出力する。
【0011】
図1において、L信号は、L外側信号とL内側信号とに分岐されて出力信号生成部100に入力される。同様にR信号は、R外側信号とR内側信号とに分岐されて出力信号生成部100に入力される。
L外側信号とR外側信号は、プリアンプ40でそれぞれ任意のレベルに調整されたのち、出力信号生成部100の外側バランス回路20に入力される。同様に、L内側信号とR内側信号は、プリアンプ50でそれぞれ任意のレベルに調整されたのち内側バランス回路30に入力される。
【0012】
外側バランス回路20は、レベル調整されたL外側信号とR外側信号とから、外側のスピーカ1,4への出力信号を生成する。それぞれの出力信号は、パワーアンプ5,8に入力され、パワーアンプ5,8は、スピーカ1,4を駆動して音響信号が出力される。
【0013】
内側バランス回路30は、レベル調整されたL内側信号とR内側信号とから、内側のスピーカ2,3への出力信号を生成する。それぞれの出力信号は、パワーアンプ6,7に入力され、パワーアンプ6,7は、スピーカ2,3を駆動して音響信号が出力される。
【0014】
図2は、外側バランス回路20の一例を示す図である。外側バランス回路20は、反転アンプ21,23(Xvol_outside)と、加算器22,24とを備える。反転アンプ21,23は、入力された信号を任意のレベルで反転増幅して加算器22,24に送る。これにより加算器22,24には互いに逆相の信号が入力され、よって加算器22,24は減算器として作用する。
図3は、内側バランス回路30の一例を示す図である。内側バランス回路30は、正相アンプ31,33(Xvol_inside)と、加算器32,34とを備える。正相アンプ31,33は入力された信号を任意のレベルで正相で増幅して加算器32,34に送る。これにより加算器32,34には互いに同相の信号が入力され、よって加算器32,34はいずれも加算器として作用する。
【0015】
図2において、R外側信号は反転アンプ21で増幅され、L外側信号と加算器22で逆相で合成されて、スピーカ1への第1の出力信号が生成される。反転アンプ21の増幅率を任意に設定することで、L外側信号とR外側信号とを第1の比率で加算した第1の出力信号が得られる。すなわち反転アンプ21および加算器22は、第1の比率を設定する第1の比率設定手段として作用する。
【0016】
図3において、R内側信号は正相アンプ31でレベル調整され、L内側信号と加算器32で同相で合成されて、スピーカ2への第2の出力信号が生成される。正相アンプ31の増幅率を任意に設定することで、L内側信号とR内側信号とを第2の比率で加算した第2の出力信号が得られる。すなわち正相アンプ31および加算器32は、第2の比率を設定する第2の比率設定手段として作用する。
【0017】
図3において、L内側信号は正相アンプ33でレベル調整され、R内側信号と加算器34で同相で合成されて、スピーカ3への第3の出力信号が生成される。正相アンプ33の増幅率を任意に設定することで、L内側信号とR内側信号とを第3の比率で加算した第3の出力信号が得られる。すなわち正相アンプ33および加算器34は、第3の比率を設定する第3の比率設定手段として作用する。
【0018】
図2に再び戻って説明する。
図2において、L外側信号は反転アンプ23でレベル調整され、R外側信号と加算器24で逆相で合成されて、スピーカ4への第4の出力信号が生成される。反転アンプ23の増幅率を任意に設定することで、L外側信号とR外側信号とを第4の比率で加算した第4の出力信号が得られる。すなわち反転アンプ23および加算器24は、第4の比率を設定する第4の比率設定手段として作用する。
【0019】
次に、上記構成における作用を説明する。
(作用)
MS処理と称して知られる音響処理は、L、およびRの2チャンネルの信号を、中央成分(Mid)と広がり成分(Side)とに分けて処理する手法である。実施形態においてもこれを適用し、
L=Mid+Side
R=Mid-Side …(1)
としたとき、
Mid=(L+R)/2
Side=(L-R)/2 …(2)
と表すことができる。
【0020】
Mid成分の成分調整パラメータをmとし、Side成分の成分調整パラメータをsとすると、
L=m(L+R)/2+s(L-R)/2
=(mL+mR+sL-sR)/2
=(m+s)/2×L+(m-s)/2×R …(3)
R=m(L+R)/2-s(L-R)/2
=(mL+mR-sL+sR)/2
=(m-s)/2×L+(m+s)/2×R …(4)
と表すことができる。ここで、m>sのとき、式(3)、式(4)においてR、Lに乗算されるパラメータは正数となる。これは
図3のL信号とR信号が元の信号に加算される場合に対応する。
一方、m<sのとき、式(3)、式(4)においてR、Lに乗算されるパラメータは負数となる。これは
図2のL信号とR信号が元の信号から減算される場合に対応する。
また、m=s=1のときはL=L、R=Rとなり、オリジナル(原音)の2チャンネルステレオでの定位が得られる
【0021】
式(3)、式(4)を更に変形すると、式(5)、(6)が得られる。
L=(L+(m-s)/(m+s)R)×(m+s)/2 …(5)
R=(R+(m-s)/(m+s)L)×(m+s)/2 …(6)
式(5)及び式(6)における(m+s)/2は信号の増幅率に係る値であり、本実施形態では別途パワーアンプ5~8がその役割を担うため、ここでは信号を増幅したり減衰させる必要はなく(m+s)/2=1であってよい。すなわちm+s=2とする。そうすると式(5)及び式(6)は更に下記のように変形される。
【0022】
L=L+(m-s)/2×R …(7)
R=R+(m-s)/2×L …(8)
式(7)及び式(8)における(m-s)/2が、
図2及び
図3におけるXvol_outside及びXvol_insideの増幅率に対応する。上述したように、m>sの場合が
図3のXvol_insideであり、m<sの場合が
図2のXvol_outsideである。本実施形態においては、Xvol_outsideは反転増幅器であるので増幅率としては-(m-s)/2である。
ここで、左右の定位が元のステレオ信号の定位から変化しないようにするためには、左右の増幅器の増幅率を等しくして左右の音量バランスを維持する必要がある。すなわち、増幅器21と増幅器23の増幅率は等しく、増幅器31と増幅器33の増幅率は等しい。一方、Xvol_insideの増幅率とXvol_insideの増幅率は異なる値を取ることができる。つまり、内側の信号と外側の信号においてそれぞれ異なるm、sの値を取ることができる。
【0023】
図4は、音響設定の一例を示す図である。
図4は、オリジナルの2チャンネルステレオ定位を得ることのできる設定を示し、外側バランス回路20、内側バランス回路30において、それぞれパラメータmとsが同じ割合で設定された状態を示す。
【0024】
図5は、音響設定の別の例を示す図である。例えば、外側スピーカ1,4からの再生音ではSide成分を強調して広がり感を増強し、内側スピーカ2,3からの再生音ではMid成分を強調してまとまり感を増強したいならば、外側バランス回路20においてm:s=10:90にセットし、内側バランス回路30においてm:s=60:40にセットすることが考えられる。
【0025】
図5において、広がり感を強調したい場合には、外側バランス回路20において負の値を設定した反転アンプ21,23(Xvol_outside)を通したL,R信号を、外側のスピーカ1,4から再生すればよい。これはL信号、R信号を任意の割合で減算することで実現される。一方、まとまり感を強調したい場合には、内側バランス回路30において正の値を設定した正相アンプ31,33(Xvol_inside)を通したL,R信号を、内側のスピーカ2,3から再生すればよい。これはL信号、R信号を任意の割合で加算することで実現される。
【0026】
すなわち、左右の広がり感を増したい場合には、Side成分を強くするためにsの数値を上げ、mの数値を下げれば(または不変)良い。これに対し中央へのまとまり感を増したい場合には、Mid成分を強くするためにmの数値を上げ、sの数値を下げれば(または不変)よい。なお、音響出力装置の設置場所の音響特性等を考慮して、音質を確認しつつ、m,sの値によらずXvolの値を直接操作してもよい。
【0027】
ちなみに、m=2,s=0とすれば、モノラル中央定位が得られる(Mid最大)。また、m=0,s=2とすれば、L/Rの相関がなくなり(Side最大)、L/Rそれぞれの差信号が得られる。
【0028】
式(7)及び式(8)において、Xvol_insideの増幅率に対応する(m-s)/2をa(aは正数)、Xvol_outsideの増幅率に対応する(m-s)/2をb(bは負数)とおくと、スピーカ1への出力信号L1、スピーカ2への出力信号L2、スピーカ3への出力信号R3及びスピーカ4への出力信号R4は、それぞれ式(9)~(12)で表される。
L1=L+bR …(9)
L2=L+aR …(10)
R3=R+aL …(11)
R4=R+bL …(12)
【0029】
式(9)~式(12)より、外側信号L1のL信号とR信号を加算する比率は1:bであり、外側信号R4のL信号とR信号を加算する比率はb:1である。同様に内側信号L2のL信号とR信号を加算する比率は1:aであり、内側信号R3のL信号とR信号を加算する比率はa:1である。
すなわち、L信号とR信号とを加算する第1の比率の逆比と、L信号とR信号とを加算する第4の比率とが等しく、L信号とR信号とを加算する第2の比率の逆比と、L信号とR信号とを加算する第3の比率とが等しい。ここで、逆比とは、逆数の比率である。
【0030】
上述したように本実施形態においては(m+s)/2=1であるので、-2≦m-s≦2であり、つまり、-1≦(m-s)/2≦1となる。よって、上述した説明ではaは正数、bは負数であるとしたが、a、b共に-1~1までの値を取り得る。
しかし、内側スピーカ2,3でa<0になると、内側が差分信号になる。つまり内側がSide成分となる。同様にb>0になると、外側がMid成分となる。敢えてこのような効果を狙うことも可能ではある。したがって、一般的に、L信号とR信号を加算する第1の比率と第2の比率は、1対-1から1対1までの範囲のうちの1の比率である。また、L信号とR信号を加算する第3の比率と第4の比率は、-1対1から1対1までの範囲のうちの1の比率である。
【0031】
もちろん、音の広がりを制御するという効果を得るのであれば、0≦a≦1、-1≦b≦0の制限を設けるのが好ましい。すなわち内側はm≧s、外側はm≦sでかつm+s=2となるように制御する。
ここで通常、比率には一方が0である場合を含まないが、本発明においては比率として、1対0と0対1のいずれも含むものとする。すなわちa=0またはb=0の場合であり、L信号とR信号をそのまま出力する場合に相当する。
【0032】
図6は、比較のため既存のスピーカシステムの一例を示すブロック図である。この形態では、パラメータm,sを個別に設定することができず、まして、可変設定することもできない。
【0033】
これに対し実施形態によれば、パラメータm,sを調整することにより、同一の2チャンネルステレオ信号を単純に再生するよりも、より広がり感をもった音響出力を得ることができ、また、位相干渉も軽減することができる。
【0034】
[変形例]
実施形態の変形例について以下に説明する。
図7は、音響出力装置を備える電子楽器の一例を示す外観図である。電子楽器は、例えば電子ピアノであり、鍵盤と、電子的に生成された音を再生出力するスピーカとを備える。また、電子楽器はプロセッサと記憶装置とを備え、いわゆる組み込みのコンピュータである。
【0035】
図8は、電子楽器におけるスピーカの配置の例を示す図である。
図8(a)は、電子楽器を背面から見た背面図を示し、背面パネルにスピーカ1~4が配置された状態を示す。このように、鍵盤方向に沿った横手方向に4つのスピーカを、左右でそれぞれ近接させて配置する形態がある。
【0036】
一方、
図8(b)のように、上面パネルにスピーカ1~4を配置してもよい。多くの場合、背面よりも上面パネルのほうが面積を広くとれるので、
図8(b)のように外側スピーカ1,4を聴取者(演奏者)からみて奥側に、内側スピーカ2,3を手前側にオフセットしてもよい。あるいはその逆に、
図8(c)のように、外側スピーカ1,4を手前側に、内側スピーカ2,3を奥側にオフセットしてもよい。
【0037】
図9は、電子楽器におけるスピーカの配置の他の例を示す図である。
図9は、電子楽器を横からみた断面図を示す。
図9(a)は、
図8(a)の取り付け状態を示し、
図9(b)は、
図8(b)の取り付け状態に対応する。
【0038】
さらに、
図9(c)、(d)は音孔(サウンドホール)を備え、パネル10とともにバスレフ効果を期待できる。
図9(c)のように、スピーカを電子ピアノ筐体の外側に開口させても良いし、
図9(d)のように、スピーカを電子ピアノ筐体の内側に開口させて、サウンドホールからの再生音を聴取できるようにしても良い。
【0039】
(効果)
以上述べたように、実施形態では、2チャンネルのL/Rステレオ入力信号を内側2チャンネル、外側2チャンネルに任意のレベルで振り分け、出力信号生成部100において、任意のレベルで減算または加算を行うようにした。すなわち、ステレオのL信号/R信号をそれぞれ分岐して、左右ごとに近接する内側、外側の合計4つのスピーカからオーディオ信号をそれぞれ再生する。そして、L信号、R信号の相対する信号に任意の割合を乗じたものを減じることにより、Side成分が調整されたL信号、R信号を外側のスピーカ1,4から再生する。また、L信号、R信号の相対する信号に任意の割合を乗じたものを加えることにより、Mid成分が調整されたL信号、R信号を内側のスピーカ2,3から再生する。これにより、ステレオ感の広がりや、まとまりの制御、位相干渉の軽減を実現することができる。
【0040】
また実施形態では、L信号/R信号からMid/Sideの各信号を生成し、内側、外側それぞれでMidバランス/Sideバランスを調整することで、ワイド感やまとまり感をコントロールすることができる。特に、内側はMid量を調整し、外側はSide量を調整すると、高い効果を得ることができる。さらに、実施形態によれば、ワイド感、まとまり感といった聴感上の快適さを自在にコントロールできるとともに、位相干渉の軽減することも可能になる。
これらのことから、実施形態によれば、聴感を制御する自由度をさらに高めた音響出力装置、音響出力方法、およびプログラムを提供することができる。
【0041】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではない。例えば
図2においては、外側のL信号、R信号については加算器22,24において逆相で合成して互いに減算し、内側のL信号、R信号については加算器32,34において同相で合成して互いに加算するようにした。しかし、外側で減算、内側で加算に限定する必要は無い。自然な聴感を得るためには外側で減算、内側で加算することが好ましいとは言えるが、逆に、例えばエキセントリックな聴感を得るため、外側、内側の双方でL信号、R信号を減算しても良いし、加算しても良い。
【0042】
また、
図1乃至
図3の構成を、ソフトウェアによるデジタル演算処理によって実現することも可能である。
図10は、
図7に示される電子楽器の一例を示す機能ブロック図である。電子楽器200は、スピーカ1~4およびパワーアンプ5~8に加え、鍵盤11、入力部12、LCD(Liquid Crystal Display)13、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、記憶装置104、キースキャナ105、LCDコントローラ106、音源107、DAC(Digital to Analog Convertor)108、通信部110、プロセッサ111、および、バス112を備える。
【0043】
CPU101は、電子楽器200の全体の動作を制御する。例えば、CPU101は、ROM102又は記憶装置104に記憶されたプログラム102aをRAM103に展開する(読み出す)。そして、CPU101は、RAM103に展開されたプログラムを実行することによって、電子楽器200の様々な機能を実現する。
【0044】
ROM102は、データを不揮発に記憶する読み出し専用の記憶装置である。ROM102は、電子楽器200を制御するためのシステム制御プログラムや、楽音を生成するための楽音波形データなどを記憶する。
【0045】
RAM103は、CPU101の作業領域として使用される記憶装置である。例えば、RAM103は、ROM102又は記憶装置104に記憶されたプログラムの実行に必要なデータを記憶する。また、RAM103は、楽音波形データなどを一時的に記憶する。
【0046】
記憶装置104は、データを不揮発に記憶する読み出し及び書き込み可能なストレージ装置である。記憶装置104は、例えば、録音データを記憶する。記憶装置104は、電子楽器200に外部接続されてもよい。
【0047】
キースキャナ105は、操作子の操作状態を検知可能なIC(Integrated Circuit)である。キースキャナ105は、鍵盤11及び入力部12に接続される。キースキャナ105は、鍵盤11の押鍵/離鍵状態(操作状態)と、入力部12の操作状態とのそれぞれを定常的に監視する。そして、キースキャナ105は、鍵盤11及び入力部12のそれぞれの操作状態を、CPU101に通知する。
【0048】
LCDコントローラ106は、LCD13に接続され、LCD13の表示態様を制御するICである。LCDコントローラ106は、CPU101の制御に応じて、LCD13に様々な情報を表示する。LCDコントローラ106は、電子楽器200に搭載されたディスプレイの規格に応じて置き換えられ得る。
【0049】
音源107は、例えば、GM(General MIDI)規格に準拠するGM音源である。音源107は、例えば最大256ボイスの同時発音能力を有し、複数の音色を利用可能である。音源107は、例えば、CPU101の制御に基づいてRAM103から楽音波形データを読み出し、読み出した楽音波形データをプロセッサ111に入力する。この楽音波形データは、L信号、R信号の2チャンネルの成分を含む。
【0050】
プロセッサ111は、例えばDSP(Digital Signal Processor)であり、楽音波形データをデジタルの領域で処理する演算素子である。プロセッサ111は、楽音波形データから、スピーカ1への第1の出力信号、スピーカ2への第2の出力信号、スピーカ3への第3の出力信号、および、スピーカ4への第4の出力信号を生成し、DAC107に入力する。
【0051】
DAC107は、第1~第4の出力信号をデジタルからアナログ信号に変換し、それぞれパワーアンプ5~8に入力する。パワーアンプ5~8は、DAC107からのアナログ信号を増幅し、それぞれスピーカ1~4を駆動して音響信号を出力する。
【0052】
通信部110は、タブレットやスマートフォンなどの端末装置との接続に使用される通信装置である。通信部110は、BLE-MIDI通信部を含む。通信部110は、端末装置から受信した信号をCPU101に通知し、キースキャナ105から出力された信号などを端末装置に出力する。
【0053】
バス112は、電子楽器200の各構成の通信に使用されるデータ伝送路である。バス112には、CPU101、ROM102、RAM103、記憶装置104、キースキャナ105、LCDコントローラ106、音源107、及び通信部110が接続される。バス112には、演奏に使用されるペダルなど様々な装置が接続されてもよい。バス112に外部端末が無線又は有線で接続された場合に、電子楽器200が当該外部端末の操作に基づいて操作されてもよい。
【0054】
ところで、プロセッサ111は、実施形態に係わる機能として出力信号生成部111a、比率設定部111bを備える。
出力信号生成部111aは、音源107から与えられた楽音波形データのL信号データからL外側信号とL内側信号とを生成し、R信号データからR外側信号とR内側信号とを生成する。
【0055】
さらに出力信号生成部111aは、L外側信号とR外側信号とを第1の比率で加算して、第1の出力信号を生成する。また、出力信号生成部111aは、L内側信号とR内側信号とを第2の比率で加算して、第2の出力信号を生成する。また、出力信号生成部111aは、L内側信号とR内側信号とを第3の比率で加算して、第3の出力信号を生成する。さらに、出力信号生成部111aは、L外側信号とR外側信号とを第4の比率で加算して、第4の出力信号を生成する。
比率設定部111bは、第1の比率、第2の比率、第3の比率、および、第4の比率を設定する。
【0056】
プログラム102aは、コンピュータを出力信号生成部111aとして機能させるための命令を含む。すなわちプログラム102aは、プロセッサ111に、L外側信号とR外側信号とを第1の比率で加算して、第1の出力信号を生成させる命令と、L内側信号とR内側信号とを第2の比率で加算して、第2の出力信号を生成させる命令と、L内側信号とR内側信号とを第3の比率で加算して、第3の出力信号を生成させる命令と、L外側信号とR外側信号とを第4の比率で加算して、第4の出力信号を生成させる命令とを含む。
また、プログラム102aは、コンピュータを比率設定部111bとして機能させるための命令を含む。
【0057】
このように、実施形態に係わる音響出力装置を、プロセッサによる演算処理により実現することも可能である。この形態は、L信号およびR信号がデジタルデータとして与えられる構成に、より親和性が高い。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0059】
なお、上記実施形態は、以下の付記を含むものである。
[付記1]
左チャンネルの信号と、右チャンネルの信号とを、第1の比率で加算した第1の出力装置用の第1の出力信号と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第2の比率で加算した第2の出力装置用の第2の出力信号と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第3の比率で加算した第3の出力装置用の第3の出力信号と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第4の比率で加算した第4の出力装置用の第4の出力信号とを、
生成する出力信号生成手段を、備える音響出力装置。
[付記2]
前記第1の比率を設定する第1の比率設定手段と、
前記第2の比率を設定する第2の比率設定手段と、
前記第3の比率を設定する第3の比率設定手段と、
前記第4の比率を設定する第4の比率設定手段と、
をさらに備える付記1に記載の音響出力装置。
[付記3]
前記第1の出力信号を前記第1の出力装置に出力し、
前記第2の出力信号を前記第2の出力装置に出力し、
前記第3の出力信号を前記第3の出力装置に出力し、
前記第4の出力信号を前記第4の出力装置に出力する、
付記1または付記2に記載の音響出力装置。
[付記4]
前記第1の出力信号が出力される位置は、聴取者からみて前記第2の出力信号が出力される位置より左であり、
前記第3の出力信号が出力される位置は、前記聴取者からみて前記第4の出力信号が出力される位置より左である、付記1乃至3の何れか1項に記載の音響出力装置。
[付記5]
前記第3の出力信号が出力される位置は、前記聴取者からみて前記第1の出力信号が出力される位置より左であり、
前記第4の出力信号が出力される位置は、前記聴取者からみて前記第2の出力信号が出力される位置より右である、付記4に記載の音響出力装置。
[付記6]
前記第1の比率の逆比と、前記第2の比率とは等しく、前記第3の比率の逆比と、前記第4の比率とは等しい付記4または付記5に記載の音響出力装置。
[付記7]
前記第1の比率と前記第3の比率は、1対0を含む1対-1から1対1までの範囲のうちの1の比率であり、前記第2の比率と前記第4の比率は、0対1を含む-1対1から1対1までの範囲のうちの1の比率である付記4乃至6のいずれか1項に記載の音響出力装置。
[付記8]
音響出力装置のプロセッサが、
左チャンネルの信号と、右チャンネルの信号とを、第1の比率で加算した第1の出力信号を生成する工程と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第2の比率で加算した第2の出力信号を生成する工程と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第3の比率で加算した第3の出力信号を生成する工程と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第4の比率で加算した第4の出力信号を生成する工程と、を備える、音響出力方法。
[付記9]
コンピュータに、
左チャンネルの信号と、右チャンネルの信号とを、第1の比率で加算した第1の出力信号を生成する工程を実行させる命令と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第2の比率で加算した第2の出力信号を生成する工程を実行させる命令と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第3の比率で加算した第3の出力信号を生成する工程を実行させる命令と、
前記左チャンネルの信号と、前記右チャンネルの信号とを、第4の比率で加算した第4の出力信号を生成する工程を実行させる命令と、を含む、プログラム。
【符号の説明】
【0060】
1~4…スピーカ、5~8…パワーアンプ、10…パネル、11…鍵盤、12…入力部、20…外側バランス回路、21…反転アンプ、22…加算器、23…反転アンプ、24…加算器、30…内側バランス回路、31…正相アンプ、32…加算器、33…正相アンプ、34…加算器、40…プリアンプ、50…プリアンプ、100…出力信号生成部、101…CPU、102…ROM、102a…プログラム、103…RAM、104…記憶装置、105…キースキャナ、106…LCDコントローラ、107…音源、110…通信部、111…プロセッサ、112…バス、111a…出力信号生成部、111b…比率設定部、200…電子楽器。