(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/44 20060101AFI20240730BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240730BHJP
A61K 31/047 20060101ALI20240730BHJP
A61K 31/195 20060101ALI20240730BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20240730BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240730BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240730BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240730BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240730BHJP
A61K 47/06 20060101ALI20240730BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240730BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240730BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20240730BHJP
【FI】
A61K8/44
A61K8/34
A61K31/047
A61K31/195
A61P17/16
A61Q19/00
A61P43/00 121
A61K9/06
A61K9/107
A61K47/06
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/44
(21)【出願番号】P 2022140598
(22)【出願日】2022-09-05
(62)【分割の表示】P 2017074775の分割
【原出願日】2017-04-04
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 直哲
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-094396(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0974005(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K31/33-33/44
A61K31/00-31/327
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00- 9/72
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
〔式中、
R
1は、炭素原子数
5~9の直鎖
のアルキル基であり、
R
2は、炭素原子数1~
4の直鎖もしくは分岐鎖の
アルキル基である。〕で表される化合物またはその塩、および多価アルコールを含み、
多価アルコールは、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールからなる群より選ばれる1種以上を含
み、
多価アルコールが、前記化合物またはその塩1重量部に対して0.5~200重量部で組成物中に含まれ、
多価アルコールの含量が0.1~90%(wt)である、
非洗浄性の組成物(ただし、糖型バイオサーファクタントをさらに含む組成物を除く。)。
【請求項2】
R
1が、炭素原子数7の直鎖
のアルキル基である、請求項
1記載の組成物。
【請求項3】
R
2が、
エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、またはtert-ブチル基である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記化合物が、下記式(1’):
【化2】
〔式中、
R
1およびR
2はそれぞれ、請求項1と同じである。〕で表される化合物またはその塩である、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記化合物がN-オクタノイル-L-バリンである、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記化合物がN-オクタノイル-L-アラニンである、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物における前記化合物またはその塩の含量が0.01%(wt)以上である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物における前記化合物またはその塩の含量が0.01%(wt)~1%(wt)である、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
多価アルコールが、前記化合物またはその塩1重量部に対して
0.75~100重量部で組成物中に含まれる、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物における多価アルコールの含量が
0.5~80%(wt)である、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物がさらに油剤を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
油剤が、炭化水素油、エステル油、油脂、高級アルコール、およびロウからなる群より選ばれる1または2以上の油剤である、請求項
11記載の組成物。
【請求項13】
油剤が、前記化合物またはその塩1重量部に対して0.01重量部以上で組成物中に含まれる、請求項
11又は12記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物における油剤の含量が0.1%(wt)以上である、請求項
11又は12記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物がさらに水分を含み、
水分に対する前記化合物またはその塩の重量百分率が0.1以上である、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、液状組成物、クリーム状組成物、乳化組成物、スティック状組成物、またはシート含浸型組成物である、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物が塗布用組成物である、請求項1記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物が保湿剤である、請求項1記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が化粧料である、請求項1記載の組成物。
【請求項20】
前記化粧料がリーブオン化粧料である、請求項
19記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が外用剤である、請求項1記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物が、乳液、化粧水、クリーム、ジェル、美容液、またはフェイスマスクである、請求項1記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物が、毛髪用乳液、ヘアトリートメント、ヘアコンディショナー、またはヘアローションである、請求項1記載の組成物。
【請求項24】
前記組成物が、軟膏剤、クリーム剤、またはムース剤である、請求項1記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-アシルアミノ酸またはその塩、および多価アルコールを含む組成物などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、皮膚用および頭皮スカルプケア用のリーブオン化粧料では、かさつき感やパサつき感を抑え、保湿性を与えるために、グリセリン等の多価アルコールが用いられている。しかしながら、グリセリンに代表される多価アルコールは、水分吸湿性に優れ、保湿性を与えるものの、実際の保湿の保持力については満足いくものではなかった。そこで、所望の保湿性を実現するため、グリセリンの代わりに、セラミド(特許文献1)、エッセンシャルオイル(特許文献2)の使用が提案されている。
【0003】
また、代表的なリーブオン化粧料である化粧水や乳液においては、その安定性を保つために、多価アルコールとの相溶性の高い保湿成分の開発が進められている。
【0004】
さらに、リーブオン化粧料の塗布時の感触をコントロールするために、粘度調整が容易である処方配合の技術開発が求められている。例えば、リーブオン処方の粘度調整のために、ポリマーの使用が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5888563号公報
【文献】特表2008-506725号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】光井武夫(編)、新化粧品学(第2版) 南山堂、2001年1月18日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セラミドは高価であり、乳化剤全般への使用はコスト上負担になる。セラミドはまた、溶解性が低く多価アルコールとの相溶性が低いために、処方への配合量が制限され、また、処方の安定性に欠ける。
【0008】
エッセンシャルオイルは、処方中への安定な乳化または可溶化のために、多量の乳化剤が必要とされる。しかし、乳化剤は一般に皮膚刺激性を有することが多い。したがって、リーブオン化粧品においてエッセンシャルオイルを用いる場合、多量の乳化剤の使用に伴う皮膚刺激が誘発され易い。
【0009】
リーブオン処方における粘度調整のためのポリマーの使用は、ポリマー自体の感触が元の処方に大きく影響を与えるという課題がある。また、ポリマーが処方中で十分に分散していないと処方の濁りや沈殿といった品質上の問題が起こり、ポリマーの分散状態が最終処方の外観に影響を及ぼす。したがって、処方調製時のポリマー分散プロセスの負荷が多大になる。
【0010】
したがって、本発明の一つの目的は、保湿の保持力に優れる組成物(例、リーブオン化粧料等の化粧料)を提供することである。
また、本発明の別の目的は、保湿の保持力に優れ、さらには処方としても優れる組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定のN-アシルアミノ酸が、多価アルコールと相乗的に作用することにより、保湿の保持力を顕著に改善できることを見出した。本発明者らはまた、特定のN-アシルアミノ酸が、多価アルコールの溶状安定性、粘度、および乳化能(乳化安定性、および乳化状態の均一性)を顕著に改善できることを見出した。かかる知見に基づき、本発明者らは、特定のN-アシルアミノ酸および多価アルコールを含む組成物を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕下記式(1):
【化1】
〔式中、
R
1は、炭素原子数1~17の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基であり、
R
2は、水素原子、または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である。〕で表される化合物またはその塩、および多価アルコールを含む、組成物。
〔2〕R
1が、炭素原子数1~11の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である、〔1〕の組成物。
〔3〕R
1が、炭素原子数1~9の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である、〔2〕の組成物。
〔4〕R
1が、炭素原子数7の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である、〔3〕の組成物。
〔5〕R
2が、水素原子、または炭素原子数1~4の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である、〔1〕~〔4〕のいずれかの組成物。
〔6〕R
2が、炭素原子数1~4の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である、〔5〕の組成物。
〔7〕R
1およびR
2における炭化水素基がアルキルである、〔1〕~〔6〕のいずれかの組成物。
〔8〕多価アルコールが、2価または3価のアルコールである、〔1〕~〔7〕のいずれかの組成物。
〔9〕多価アルコールが、前記化合物またはその塩1重量部に対して0.5重量部以上で組成物中に含まれる、〔1〕~〔8〕のいずれかの組成物。
〔10〕前記組成物がさらに油剤を含む、〔1〕~〔9〕のいずれかの組成物。
〔11〕油剤が、炭化水素油、エステル油、油脂、高級アルコール、およびロウからなる群より選ばれる1または2以上の油剤である、〔10〕の組成物。
〔12〕油剤が、前記化合物またはその塩1重量部に対して0.01重量部以上で組成物中に含まれる、〔10〕または〔11〕の組成物。
〔13〕前記組成物がさらに水分を含み、
水分に対する前記化合物またはその塩の重量百分率が0.1~15%である、〔1〕~〔12〕のいずれかの組成物。
〔14〕前記組成物が、液状組成物、クリーム状組成物、または乳化組成物である、〔1〕~〔13〕のいずれかの組成物。
〔15〕前記組成物が保湿剤である、〔1〕~〔14〕のいずれかの組成物。
〔16〕前記組成物が化粧料である、〔1〕~〔15〕のいずれかの組成物。
〔17〕前記化粧料がリーブオン化粧料である、〔16〕の組成物。
【発明の効果】
【0013】
特定のN-アシルアミノ酸および多価アルコールを含む本発明の組成物によれば、特定のN-アシルアミノ酸が、多価アルコールと相乗的に作用することにより、保湿の保持力を顕著に改善することができる。したがって、本発明の組成物は、長期にわたる保湿の保持力に優れる。
また、本発明の組成物は、多価アルコールの溶状安定性、粘度、ならびに乳化能(乳化安定性、および乳化状態の均一性)を顕著に改善することができる。
さらに、本発明の組成物は、透明の性状を呈することができるため、外観的に高級感を付与することができ、更に肌への視覚上の影響を回避できる。したがって、本発明の組成物は、例えば、塗布による白残りを軽減できるという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、組成物を提供する。本発明の組成物は、上記式(1)で表される化合物またはその塩、および多価アルコールを含む。
【0015】
(I)上記式(1)で表される化合物またはその塩
R1は、炭素原子数1~17の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である。R1における炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは15以下であり、より好ましくは13以下であり、さらにより好ましくは11以下、なおさらにより好ましくは9以下であってもよい。R1における炭化水素基の炭素原子数はまた、2以上、3以上、4以上、または5以上であってもよい。より具体的には、R1における炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは2~15、より好ましくは3~13、さらにより好ましくは4~11、なおさらにより好ましくは5~9、特に好ましくは7であってもよい。R1における炭化水素基は、飽和もしくは不飽和である。このような炭化水素基としては、例えば、アルキル、アルケニル、およびアルキニルが挙げられる。
【0016】
R1がアルキルである場合、アルキルは、炭素原子数1~17の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルである。R1におけるアルキルの炭素原子数の例および好ましい例は、R1における上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。R1におけるアルキルとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル(例、n-プロピル、イソプロピル)、ブチル(例、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル)、ペンチル(例、n-ペンチル、iso-ペンチル、neo-ペンチル、1-エチルプロピル)、ヘキシル(例、n-ヘキシル、iso-ヘキシル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル)、ヘプチル(例、n-ヘプチル、1-メチルヘキシル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、1,1-ジメチルペンチル、2,2-ジメチルペンチル、3,3-ジメチルペンチル、2-エチルペンチル)、オクチル(例、n-オクチル、1-メチルヘプチル、2-メチルヘプチル、3-メチルヘプチル、1,1-ジメチルヘキシル、2,2-ジメチルヘキシル、3,3-ジメチルヘキシル、2-エチルヘキシル)、ノニル(例、n-ノニル、3,5,5-トリメチルヘキシル)、デカニル(例、n-デカニル)、ウンデカニル(例、n-ウンデカニル)、ドデカニル(例、n-ドデカニル)、トリデカニル(例、n-トリデカニル)、テトラデカニル(例、n-テトラデカニル)、ペンタデカニル(例、n-ペンタデカニル)、ヘキサデカニル(例、n-ヘキサデカニル)、およびヘプタデカニル(例、n-ヘプタデカニル)が挙げられる。
【0017】
R1がアルケニルである場合、アルケニルは、炭素原子数2~17の直鎖もしくは分岐鎖のアルケニルである。R1におけるアルケニルの炭素原子数の例および好ましい例は、R1における上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。R1におけるアルケニルとしては、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、へキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、およびヘプタデセニルが挙げられる。
【0018】
R1がアルキニルである場合、アルキニルは、炭素原子数2~17の直鎖もしくは分岐鎖のアルキニルである。R1におけるアルキニルの炭素原子数の例および好ましい例は、R1における上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。R1におけるアルキニルとしては、例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、へキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル、ウンデシニル、ドデシニル、トリデシニル、テトラデシニル、ペンタデシニル、ヘキサデシニル、およびヘプタデシニルが挙げられる。
【0019】
好ましくは、R1は、炭素原子数1~17の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルである。R1におけるアルキルの炭素原子数の例および好ましい例は、R1における上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。このようなアルキルの具体例は、上述したとおりである。
【0020】
R2は、水素原子、または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である。R2における炭化水素基の炭素原子数は、好ましくは4以下、より好ましくは3以下であってもよい。炭化水素基は、飽和もしくは不飽和である。このような炭化水素基としては、例えば、アルキル、アルケニル、およびアルキニルが挙げられる。
【0021】
R2がアルキルである場合、アルキルは、炭素原子数1~5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルである。R2におけるアルキルとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル(例、n-プロピル、iso-プロピル)、ブチル(例、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル)、ペンチル(例、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル)が挙げられる。
【0022】
R2がアルケニルである場合、アルケニルは、炭素原子数2~5の直鎖もしくは分岐鎖のアルケニルである。R2におけるアルケニルとしては、例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニルが挙げられる。
【0023】
R2がアルキニルである場合、アルキニルは、炭素原子数2~5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキニルである。R2におけるアルキニルとしては、例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニルが挙げられる。
【0024】
好ましくは、R2は、水素原子、または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルである。より好ましくは、R2は、炭素原子数1~5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキルである。R2におけるアルキルの炭素原子数の例および好ましい例は、R2における上述した炭化水素基の炭素原子数と同様である。このようなアルキルの具体例は、上述したとおりである。
【0025】
一実施形態では、式(1)で表される化合物は、下記式(2):
【0026】
【化2】
〔式中、
R
1は、炭素原子数1~17の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である。〕で表される化合物であってもよい。式(2)におけるR
1について、炭化水素基(例、アルキル、アルケニル、アルキニル)および炭素原子数の定義、例、好ましい例および具体例は、式(1)において上述したものと同様である。
【0027】
別の実施形態では、式(1)で表される化合物は、下記式(3):
【0028】
【化3】
〔式中、
R
1は、炭素原子数1~17の直鎖もしくは分岐鎖の炭化水素基である。〕で表される化合物であってもよい。式(3)におけるR
1について、炭化水素基(例、アルキル、アルケニル、アルキニル)および炭素原子数の定義、例、好ましい例および具体例は、式(1)において上述したものと同様である。
【0029】
式(1)~(3)で表される化合物は、N-アシルアミノ酸誘導体に対応する。式(1)~(3)で表される化合物は、窒素原子、カルボニル基の炭素原子およびR2のいずれもが結合する炭素原子について光学異性体(L体もしくはD体)であってもよく、またはそれらの混合物であってもよい。好ましくは、式(1)~(3)で表される化合物は、L体である。
【0030】
上記式(1)~(3)で表される化合物は、当該分野において公知である(例、特許第4893381号公報を参照)。したがって、本発明の組成物は、このような化合物を用いて調製することができる。
【0031】
塩としては、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩、無機塩基との塩、有機塩基との塩、およびアミノ酸との塩が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、塩化水素、臭化水素、リン酸、硫酸、および硝酸との塩が挙げられる。有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、シュウ酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、およびピログルタミン酸との塩が挙げられる。無機塩基との塩としては、例えば、アルカリ金属(例、ナトリウム、カリウム)、アルカリ土類金属(例、カルシウム、マグネシウム)、および亜鉛、アルミニウム等の他の金属、ならびにアンモニウムとの塩が挙げられる。有機塩基との塩としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロピレンジアミン、エチレンジアミン、ピリジン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、およびトリエタノールアミンとの塩が挙げられる。アミノ酸との塩としては、例えば、塩基性アミノ酸(例、アルギニン、ヒスチジン、リジン、オルニチン)、および酸性アミノ酸(例、アスパラギン酸、グルタミン酸)との塩が挙げられる。
【0032】
(II)多価アルコール
多価アルコールとしては、例えば、2価アルコール(例、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ペンタンジオール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、モノグリセリド(モノアシルグリセロール))、3価アルコール(例、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール)、4価アルコール(例、ジグリセリン、ペンタエリスリトール)、より高い価数のアルコール、ならびにそれらの塩(例、上述したような塩)が挙げられる。より高い価数のアルコールとしては、例えば、置換されていてもよい糖アルコール(例、ソルビトール、マンニトール、スクロース、グルコース、マンノース等の単糖アルコール、トレハロース等の二糖アルコール、およびヒアルロン酸、キサンタンガム等の多糖アルコール)、ならびに上述したような2~4価アルコールの重合物(例、ポリグリコール、ポリグリセリン)、ならびにそれらの塩(例、上述したような塩)が挙げられる。多価アルコールは、好ましくは、2~4価アルコールであってもよく、より好ましくは、2価または3価アルコールであってもよい。
【0033】
(III)組成物の詳細
本発明の組成物における式(1)で表される化合物またはその塩の含量は、式(1)で表される化合物またはその塩単独により、または式(1)で表される化合物またはその塩と他の成分との組合せにより多価アルコールを含む組成物の保湿の保持力を改善できる限り特に限定されない。このような成分としては、例えば、ゲル化剤(例、ジブチルラウロイルグルタミド)、増粘剤(例、カルボキシビニルポリマー等の後述の増粘剤)が挙げられる。本発明の組成物では、式(1)で表される化合物またはその塩を他の成分と組み合わせて用いる場合、他の成分の含量を低減させつつ組成物の保湿の保持力を改善することができる。式(1)で表される化合物またはその塩を他の成分と組み合わせて用いる場合、式(1)で表される化合物またはその塩の含量は、保湿の保持力の改善のために他の成分の含量の低減に貢献できる量である限り特に限定されない。
【0034】
より具体的には、式(1)で表される化合物またはその塩単独による、または式(1)で表される化合物またはその塩と他の成分との組合せによる、本発明の組成物における式(1)で表される化合物またはその塩の含量は、式(1)で表される化合物またはその塩、他の成分の有無、ならびに多価アルコール、および他の成分の種類および量等によっても変動するが、例えば0.01%(wt)以上、好ましくは0.05%(wt)以上、より好ましくは0.10%(wt)以上、さらにより好ましくは0.20%(wt)以上であってもよい。含量はまた、例えば90%(wt)以下、好ましくは80%(wt)以下、より好ましくは70%(wt)以下、さらにより好ましくは60%(wt)以下であってもよい。より具体的には、含量は、例えば0.01~90%(wt)、好ましくは0.05~80%(wt)、より好ましくは0.10~70%(wt)、さらにより好ましくは0.20~60%(wt)であってもよい。本発明の組成物は、式(1)で表される化合物またはその塩を1種または2種以上(例、2種、3種、4種)含んでいてもよい。
【0035】
本発明の組成物における多価アルコールの含量は、例えば0.1%(wt)以上、好ましくは0.5%(wt)以上、より好ましくは1.0%(wt)以上、さらにより好ましくは2.0%(wt)以上であってもよい。含量はまた、例えば90%(wt)以下、好ましくは80%(wt)以下、より好ましくは70%(wt)以下、さらにより好ましくは60%(wt)以下であってもよい。より具体的には、含量は、例えば0.1~90%(wt)、好ましくは0.5~80%(wt)、より好ましくは1.0~70%(wt)、さらにより好ましくは2.0~60%(wt)であってもよい。本発明の組成物は、多価アルコールを1種または2種以上(例、2種、3種、4種)含んでいてもよい。
【0036】
本発明の組成物では、他の成分の有無、ならびに式(1)で表される化合物またはその塩、多価アルコール、および他の成分の種類および量等によっても変動するが、式(1)で表される化合物またはその塩1重量部に対する多価アルコールの量は、例えば0.5重量部以上、好ましくは0.75重量部以上、より好ましくは1.0重量部以上、さらにより好ましくは2.0重量部以上、特に好ましくは5重量部以上であってもよい。このような量はまた、例えば200重量部以下、好ましくは100重量部以下、より好ましくは80重量部以下、さらにより好ましくは60重量部以下、特に好ましくは40重量部以下であってもよい。より具体的には、式(1)で表される化合物またはその塩1重量部に対する多価アルコールの量は、例えば0.5~200重量部、好ましくは0.75~100重量部、より好ましくは1.0~80重量部、さらにより好ましくは2.0~60重量部、特に好ましくは5~40重量部であってもよい。
【0037】
本発明の組成物は、水分をさらに含んでいてもよい。本発明の組成物における水分は、式(1)で表される化合物またはその塩、および多価アルコールに対して、水溶液を添加することにより付与され得る。水溶液は、緩衝能を有していてもいなくてもよい。水溶液としては、例えば、水(例、蒸留水、滅菌蒸留水、精製水、生理食塩水)、リン酸水溶液(緩衝液)、Tris-塩酸緩衝液、TE(Tris-EDTA)緩衝液、炭酸-重炭酸緩衝液、ホウ酸水溶液(緩衝液)、酒石酸水溶液(緩衝液)、塩酸-塩化カリウム緩衝液、グリシン-塩酸緩衝液、グリシン-水酸化ナトリウム緩衝液、クエン酸水溶液(緩衝液)、クエン酸-リン酸緩衝液、酢酸水溶液(緩衝液)が挙げられる。本発明の組成物における水分は、1種または2種以上(例、2種、3種、4種)の水溶液に由来するものであってもよい。
【0038】
本発明の組成物における水分含量は、特に限定されず、本発明の組成物の処方によっても変動するが、例えば10%(wt)以上、好ましくは20%(wt)以上、より好ましくは30%(wt)以上、さらにより好ましくは40%(wt)以上であってもよい。水分含量はまた、例えば95%(wt)以下、好ましくは90%(wt)以下、より好ましくは85%(wt)以下、さらにより好ましくは80%(wt)以下であってもよい。より具体的には、水分含量は、例えば10~95%(wt)、好ましくは20~90%(wt)、より好ましくは30~85%(wt)、さらにより好ましくは40~80%(wt)であってもよい。
【0039】
本発明の組成物は、上述した多価アルコール以外の有機溶媒(例、親水性有機溶媒、もしくは疎水性有機溶媒、またはそれらの混合物)をさらに含んでいてもよい。
【0040】
好ましくは、有機溶媒は、油剤である。油剤としては、例えば、炭化水素油、エステル油、油脂、高級脂肪酸、高級アルコール、ロウ、シリコーン油が挙げられる。油剤は、液体であっても、または半固形もしくは固形であってもよい。本発明の組成物は、1種または2種以上(例、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、10種)の油剤を含んでいてもよい。
【0041】
炭化水素油は、飽和または不飽和の炭化水素化合物である。炭化水素油としては、例えば炭素原子数7以上、好ましくは10以上、より好ましくは12以上の炭化水素化合物が挙げられる。炭化水素油はまた、炭素原子数30以下、25以下、または20以下の炭化水素化合物であってもよい。このような炭化水素化合物は、置換基(例、メチル等のアルキル基)を有していてもよい。炭化水素油としては、例えば、鉱物油(例、ミネラルオイル、ワセリン)、パラフィン系油(例、パラフィン、流動パラフィン、イソパラフィン、シクロパラフィン)、燃料油(例、軽油、重油、石油、灯油、ガソリン、混合油)、炭化水素鎖(直鎖または分岐鎖)を有する化合物〔例、デカン、ウンデカン、ドデカン(例、n-ドデカン)、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、スクワラン〕、ベンゼン環化合物(例、ベンゼン、トルエン、安息香酸アルキル(C12-15))等の炭化水素環(芳香族性または非芳香族性)を有する化合物が挙げられる。
【0042】
エステル油は、一価または多価アルコールとカルボン酸との反応により生じるエステルである。
【0043】
一価または多価アルコールは、炭素原子数1以上の直鎖、分岐鎖または環状(単環式または縮合環等の二環式)の飽和または不飽和の炭化水素部分(例、炭化水素鎖)を有する一価または多価アルコールであってもよい。一価または多価アルコールとしては、例えば、炭素原子数1~30の炭化水素部分を有する一価または多価アルコールが挙げられる。炭素原子数は、例えば2以上、好ましくは3以上であってもよい。炭素原子数はまた、25以下、または20以下であってもよい。多価アルコールの価数は、例えば2~6、好ましくは2または3である。一価アルコールの具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピル(例、n-プロピル、iso-プロピル)アルコール、ブチル(n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル)アルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デカニルアルコール、ウンデカニルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、ヘキシルドデカノール、イソステアリルアルコールが挙げられる。多価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンが挙げられる。
【0044】
カルボン酸は、一価または多価カルボン酸である。一価カルボン酸としては、例えば、炭素原子数1~30の飽和または不飽和の脂肪酸が挙げられる。一価カルボン酸の炭素原子数は、例えば2以上、好ましくは3以上であってもよい。一価カルボン酸の炭素原子数はまた、25以下、または20以下であってもよい。一価カルボン酸の具体例としては、メタン酸(ギ酸)、エタン酸(酢酸)、プロパン酸(プロピオン酸)、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸(ペラルゴン酸)、デカン酸(カプリン酸)、ウンデカン酸(ウンデシル酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸(トリデシル酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸(ペンタデシル酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)が挙げられる。多価カルボン酸としては、例えば、炭素原子数2~30の飽和または不飽和の酸が挙げられる。多価カルボン酸の炭素原子数は、例えば2以上、好ましくは3以上であってもよい。多価カルボン酸の炭素原子数はまた、25以下、または20以下であってもよい。多価カルボン酸の価数は、例えば2~6、好ましくは2または3である。多価カルボン酸の具体例としては、コハク酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸が挙げられる。
【0045】
一価アルコールとカルボン酸とのエステルの具体例としては、液状油として、脂肪酸エステル油〔例、エチルヘキサン酸セチル、パルミチン酸エチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリエチルヘキサノイン等の脂肪酸エステル・多価アルコール脂肪酸エステル〕、アシルアミノ酸エステル類〔例、ラウロイルサルコシンイソプロピル(エルデュウ(登録商標)SL-205)、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/オクチルドデシル)、ミリストイルメチルアミノプロピオン酸ヘキシルデシル、ラウロイルグルタミン酸ジヘキシルデシル、ラウロイルグルタミン酸ジイソステアリル、ラウロイルグルタミン酸ジオクチルドデシル、ラウロイルグルタミン酸ビス(ヘキシルデシル/オクチルドデシル)、ラウロイルグルタミン酸ジオクチルドデシル、ステアロイルグルタミン酸ジオクチルドデシル〕、およびフィトステロールエステル油〔例、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル/2-オクチルドデシル)〕が挙げられ、半固形油として、コレステロールエステル油〔例、イソステアリン酸コレステリル、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、マカダミアナッツ油脂肪酸コレステリル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)〕、フィトステロールエステル油〔例、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/2-オクチルドデシル)、ミリストイルメチル-β-アラニン(フィトステリル/デシルテトラデシル)、イソステアリン酸フィトステリル、オレイン酸フィトステリル〕、ジペンタエリトリット脂肪酸エステル油〔例、ヘキサオキシステアリン酸ジペンタエリトリット、ロジン酸ジペンタエリトリット〕が挙げられる。
【0046】
多価アルコールとカルボン酸とのエステルの具体例としては、グリコリド(例、ジ-2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、モノイソステアリン酸N-アルキルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ピバリン酸トリプロピレングルコール)、グリセリド(例、ジ-2-ヘプチルウンデカン酸グリセリン、ジイソステアリン酸グリセリン、トリ-2-エチルヘキサン酸グリセリン(トリエチルヘキサノイン)、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリン)、トリ(カプリル/カプリン/ミリスチン/ステアリン酸)グリセリル、硬化油等の部分的に水素添加されたトリグリセリドが挙げられる。
【0047】
油脂は、植物油、動物油、魚油等の天然由来液体油脂、半合成油脂、または合成油脂である。油脂の具体例としては、液体植物油(例、大豆油、アマニ油、ヒマシ油、アボガド油、ツバキ油、トウモロコシ油、コメ油、オリーブ油、ナタネ油、ゴマ油、小麦胚芽油、サザンカ油、サフラワー油、綿実油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、ヒマワリ油)等の半固形または固形植物油(例、シア油、カカオ脂、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、パーム核油、モクロウ核油、モクロウ油等)、その他の油脂(例、牛脂、羊脂、馬脂)が挙げられる。
【0048】
高級アルコールとしては、例えば、炭素原子数6以上のアルコールが挙げられる。高級アルコールは、直鎖、分岐鎖または環状の構造を有していてもよい。高級アルコールとしては、炭素原子数8以上のアルコールが好ましく、炭素原子数10以上のアルコールがより好ましく、炭素原子数12以上のアルコールが特に好ましい。高級アルコールはまた、炭素原子数30以下、25以下、または20以下であってもよい。高級アルコールの具体例としては、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デカニルアルコール、デシルテトラデカノール、ウンデカニルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ヒドロキシステアリン酸イソステアリル、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、ヘキシルドデカノール、イソステアリルアルコールが挙げられる。
【0049】
ロウとしては、例えば、カルナバロウ、ミツロウ、キャンデリラロウ、ラノリン、サトウキビロウ、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ホホバロウが挙げられる。
【0050】
高級脂肪酸としては、例えば、炭素原子数8以上の飽和または不飽和脂肪酸が挙げられる。高級脂肪酸はまた、炭素原子数30以下、25以下、または20以下であってもよい。高級脂肪酸は、直鎖、分岐鎖または環状(好ましくは直鎖または分岐鎖)の構造を有していてもよい。高級脂肪酸の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、リノール酸、リノレン酸が挙げられる。
【0051】
シリコーン油としては、例えば、ポリシロキサンが挙げられる。ポリシロキサンの具体例としては、鎖状ポリシロキサン(例、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン)、環状ポリシロキサン(例、シクロメチコン、シクロテトラシロキサン、シクロペンタシロキサン、シクロヘキサシロキサン)、変性ポリシロキサン(例、アミノ変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン)が挙げられる。
【0052】
本発明の組成物における多価アルコール以外の有機溶媒(例、油剤)含量は、特に限定されず、本発明の組成物の処方(例、液体処方、またはクリーム状組成物のような高粘度の処方)によっても変動するが、例えば0.1%(wt)以上、好ましくは0.3%(wt)以上、より好ましくは0.5%(wt)以上、さらにより好ましくは0.7%(wt)以上であってもよい。有機溶媒(例、油剤)含量はまた、例えば90%(wt)以下、好ましくは80%(wt)以下、より好ましくは70%(wt)以下、さらにより好ましくは60%(wt)以下であってもよい。より具体的には、有機溶媒(例、油剤)含量は、例えば0.1~90%(wt)、好ましくは0.3~80%(wt)、より好ましくは0.5~70%(wt)、さらにより好ましくは0.7~60%(wt)であってもよい。
【0053】
本発明の組成物では、他の成分の有無、ならびに式(1)で表される化合物またはその塩、多価アルコール、および他の成分の種類および量等によっても変動するが、式(1)で表される化合物またはその塩1重量部に対する有機溶媒(例、油剤)の量は、例えば0.01重量部以上、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは0.10重量部以上、さらにより好ましくは0.15重量部以上、特に好ましくは0.20重量部以上であってもよい。このような量はまた、例えば200重量部以下、好ましくは100重量部以下、より好ましくは80重量部以下、さらにより好ましくは60重量部以下、特に好ましくは40重量部以下であってもよい。より具体的には、式(1)で表される化合物またはその塩1重量部に対する多価アルコールの量は、例えば0.01~200重量部、好ましくは0.05~100重量部、より好ましくは0.10~80重量部、さらにより好ましくは0.15~60重量部、特に好ましくは0.20~40重量部であってもよい。
【0054】
本発明の組成物では、他の成分の有無、ならびに式(1)で表される化合物またはその塩、多価アルコール、および他の成分の種類および量、ならびに本発明の組成物の処方等によっても変動するが、水分に対する式(1)で表される化合物またはその塩の重量百分率は、例えば0.1%以上、好ましくは0.15%以上、より好ましくは0.2%以上、さらにより好ましくは0.25%以上、特に好ましくは0.3%以上であってもよい。重量百分率はまた、例えば50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらにより好ましくは20%以下、特に好ましくは15%以下であってもよい。より具体的には、重量百分率は、例えば0.1~50%、好ましくは0.5~40%、より好ましくは1.0~30%、さらにより好ましくは1.5~20%、特に好ましくは2.0~15%であってもよい。
【0055】
本発明の組成物は、上述した成分に加えて、任意の作用(例、生物学的作用、または化学的作用)を有する1種または2種以上(例、2種、3種、4種)の有効成分をさらに含んでいてもよい。このような有効成分としては、例えば、低分子化合物が挙げられる。
【0056】
用語「低分子化合物」とは、分子量1500以下の化合物をいう。低分子化合物は、天然化合物または合成化合物である。低分子化合物の分子量は、1200以下、1000以下、900以下、800以下、700以下、600以下、500以下、400以下、または300以下であってもよい。低分子化合物の分子量はまた、30以上、40以上、または50以上であってもよい。低分子化合物としては、例えば、アミノ酸、オリゴペプチド、ビタミン、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、単糖、オリゴ糖、脂質、脂肪酸、およびそれらの代謝物、ならびにそれらの塩(例、上述したような塩)が挙げられる。このような低分子化合物は、保湿剤、美白剤、または育毛剤であってもよい。
【0057】
本発明の組成物はまた、増粘剤、安定化剤、pH調整剤、保存剤、紫外線防止剤、香料、色素等の他の成分を含んでいてもよい。これらの成分の具体的な種類および量は、適宜設定することができる。
【0058】
増粘剤としては、例えば、カラギーナン、デキストリン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、カルボキシビニルポリマー(カルボマー)、(アクリル酸/アクリル酸アルキル(C10-30))コポリマー、キサンタンガムが挙げられる。
【0059】
安定化剤としては、例えば、アスコルビン酸、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTAが挙げられる。
【0060】
pH調製剤としては、例えば、上述したような水溶液(緩衝液)、塩酸等の酸性物質、水酸化ナトリウム等の塩基性物質が挙げられる。
【0061】
保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エチル、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、ソルビン酸、パラベン(例、メチルパラベン、プロピルパラベン)、亜硫酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0062】
紫外線防止剤としては、例えば、紫外線吸収剤(例、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、オキシベンゾン-3)、および紫外線散乱剤(例、酸化チタン、酸化亜鉛)が挙げられる。
【0063】
香料としては、例えば、リモネン、シトラール、メントール、バラ油、ローズ油が挙げられる。
【0064】
色素としては、例えば、有機顔料(例、赤色201号等の赤色顔料、青色404号等の青色顔料、橙色203号等の橙色顔料、黄色205号等の黄色顔料、緑色3号等の緑色顔料、ジルコニウムレーキ等の有機レーキ顔料、クロロフィル等の天然色素)、および無機顔料(例、酸化チタン等の白色顔料、酸化鉄等の有色顔料、タルク等の体質顔料、マイカ等のパール顔料)が挙げられる。
【0065】
本発明の組成物は、生体への刺激性(例、皮膚刺激性)が低いと考えられる。これは、本発明の組成物に含まれる多価アルコールが生体への刺激性が低いことに加えて、N-アシルアミノ酸もまた一般的に生体への刺激性が低いことが知られているためである(例、乳幼児向け乳化物の成分としてN-アシルアミノ酸を提案している特開2002-145755号公報を参照)。
【0066】
本発明の組成物は、任意の状態の組成物として調製することができる。このような組成物としては、例えば、液状組成物、クリーム状組成物、乳化状組成物、粉状組成物、スティック状組成物、シート含浸型組成物が挙げられる。本発明の組成物は、例えば、化粧料、医薬品、医薬部外品、雑貨等の製品、およびそれらの原料として有用である。
【0067】
本発明の組成物はまた、被験体(例、ヒト等の哺乳動物、鳥類、爬虫類等の動物)の所望の部位(例、皮膚、毛髪、体毛、頭皮)に有効量(例、1mg~100g)を塗布することにより、用いることができる。好ましくは、本発明の組成物は、ヒトに適用される。本発明の組成物が適用される被験体の状態は、健常な状態、または異常な状態(例、疾患)である。このような異常な状態としては、例えば、肌荒れ、皮膚の乾燥、鱗屑、ターンオーバーの乱れ、皮膚疾患(例、アトピー性皮膚炎等の皮膚炎)が挙げられる。
【0068】
好ましくは、本発明の組成物は、保湿剤であってもよい。本発明の組成物が保湿剤である場合、本発明の保湿剤は、保湿作用を通じて、肌荒れ等の状態の予防、抑制、もしくは改善に優れた効果を発揮することができ、また、抗しわ、抗しみ、もしくは抗そばかす効果も発揮することができる。
【0069】
本発明の組成物はまた、化粧料または外用剤である。本発明の化粧料または外用剤は、常法に従って、例えば所望の部位(例、皮膚、毛髪、頭皮)に適用可能な任意の形態の製剤とすることができる。
【0070】
本発明の化粧料または外用剤は、好ましくは、皮膚、毛髪、または頭皮に対する化粧料または外用剤として用いることができる。皮膚に対する化粧料または外用剤としては、例えば、乳液、化粧水、クリーム、ジェル、美容液、フェイスマスクが挙げられる。毛髪に対する化粧料または外用剤としては、例えば、毛髪用乳液、ヘアトリートメント、ヘアコンディショナー、シャンプー、ヘアローションが挙げられる。頭皮に対する化粧料または外用剤としては、例えば、育毛剤が挙げられる。好ましい化粧料としては、例えば、リーブオン化粧料、化粧水、乳液、クリーム、フェイスマスクが挙げられる。好ましい外用剤としては、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ムース剤が挙げられる。
【実施例】
【0071】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
実施例1~10:試験組成物の調製
実施例1~10の試験組成物の調製は、後述する試験例に記載のとおり行った。
【0073】
比較例1~15:比較組成物の調製
比較例1~15の比較組成物の調製は、後述する試験例に記載のとおり行った。
【0074】
試験例1:実施例1~5、比較例1、2の組成物の評価
(1)試験サンプル調製方法
以下の表に記載の成分を、ガラスバイアル瓶に入れ、80℃にて撹拌し、各成分が一様に混合したのを確認した後、室温まで徐冷して、試験サンプルとした。
【0075】
(2)保湿性試験
秤量ビンに、各試験サンプルを合計約1gとなるように秤量し、65%相対湿度(RH)に設定された恒温恒湿器(ナガノ科学機械製作所:LH-30-10)に7日間放置し重量(グラム)を測定した後、35%RHに設定された恒温恒湿器に同じサンプルを入れ、さらに14日後の重量(グラム)を測定した。アシル中性アミノ酸又はその塩単独の重量変化率と、多価アルコール単独の重量変化率を比較し、相加平均以上をA、相加平均未満をBとした。
【0076】
実施例1の計算例を以下に示す。
相加平均=(実施例1の重量変化率+比較例1の重量変化率)/2=-13%
実施例3の変化率=-9%>-13%より、実施例3の重量変化率は、相加平均以上であるため、Aと判定している。同様の計算結果を表中に、変化率と相加平均の差として示す。
【0077】
【0078】
その結果、N-アシルアミノ酸は、多価アルコールであるグリセリンおよびソルビトールと良好な相溶性を示した。また、N-アシルアミノ酸および多価アルコールを含む組成物は、14日後の重量変化率において相加平均以上の値を示した(表1)。このことは、N-アシルアミノ酸が、多価アルコールと相乗的に作用することにより、保湿の保持力を顕著に改善できることを示す。したがって、本発明の組成物は、長期にわたる保湿の保持力に優れることが示された。
【0079】
試験例2:実施例3~7、比較例1~6の組成物の評価
<溶状安定性>
サンプルの溶状を下記の基準で評価した。溶状の判定は、試験サンプル約1gを50mLガラスバイアル容器に採り、25℃で2週間保存後に行った。結果を表2に示す。
A:透明
B:析出
C:固体
【0080】
<粘度評価>
サンプルの粘度を下記の基準で評価した。粘度の判定は、試験サンプル約1gを50mLガラスバイアル容器に採り、5秒放置後に行った。結果を表2に示す。
A:容器を90度傾けても容易に流れない
B:容器を90度傾けると速やかに流れる
C:析出または固体
【0081】
【0082】
その結果、N-アシルアミノ酸は、種々の多価アルコールと良好な相溶性を示した。また、N-アシルアミノ酸および多価アルコールを含む組成物は、多価アルコール単独、または多価アルコールと乳化剤との組合せに比し、高い溶状安定性を有し、また、高粘度であった(表2)。このことは、N-アシルアミノ酸が、多価アルコールの溶状安定性および粘度を顕著に改善できることを示す。したがって、本発明の組成物は、液状組成物、および高粘度の組成物(例、クリーム状組成物)として有用であることが示された。
【0083】
試験例3:実施例8~10、比較例7~15の組成物の評価
<乳化安定性試験>
エッペンドルフチューブに、各試験サンプルを1g秤量し、ボルテックスミキサー(Scientific Industries Vortex Genie 2)により10秒間撹拌した後、外観を観察し、下記の基準により評価した。本試験は、25℃で行われた。
【0084】
A:撹拌後、5分以上乳化状態を維持
B:撹拌後、5分間は乳化状態を維持
C:撹拌後、直ちに2相分離
【0085】
<乳化均一性評価>
エッペンドルフチューブに、各試験サンプルを1g秤量し、ボルテックスミキサーで10秒間撹拌した後、サンプルを光学顕微鏡で観察し、以下の基準により評価した。本試験は、25℃で行われた。
【0086】
A:乳化粒子は均一で、合一や凝集が少ない。
B:乳化粒子は不均一で、わずかに合一や凝集が生じた。
C:乳化粒子は不均一で、合一や凝集が顕著に生じた。
【0087】
【0088】
その結果、N-アシルアミノ酸および多価アルコールを含む組成物は、種々の比較物質に比し、乳化安定性、および乳化状態の均一性に優れていた(表3)。このことは、特定のN-アシルアミノ酸が、多価アルコールの乳化能において顕著に優れることを示す。したがって、本発明の組成物は、乳化状組成物として有用であることが示された。
【0089】
処方例1:化粧水処方(その1)
【0090】
【0091】
多価アルコールは、グリセリン、DPG、BGである(総量6.25wt%)。
油剤は、「エルデュウ」PS-203R、エチルヘキサン酸セチルである(総量0.50%)。
【0092】
1:A成分を70℃にて撹拌溶解する。
2:A成分を撹拌しながら70℃に加温したB成分徐々に添加し、40℃まで冷却する。
3:別にC成分を混合しておく。
4:A+B成分にC成分を添加し、撹拌しながら室温まで冷却する。
5:D成分でpHを調整し、製品とする。
【0093】
処方例2:化粧水処方(その2)
【0094】
【0095】
多価アルコールは、ヒアルロン酸Na、ソルビトール、グリセリン、1,3-ブチレングリコールである(総量13.1wt%)。
【0096】
1:A成分にB成分を加え、撹拌混合する。
2:C成分にB成分を加え、撹拌混合する。
3:D成分でpHを調整し、製品とする。
【0097】
処方例3:スキンクリーム処方(その1)
【0098】
【0099】
多価アルコールは、グリセリン、キサンタンガム、ステアリン酸グリセリル、およびパルミチン酸スクロースである(総量4wt%)。
油剤は、スクワラン、ホホバ油、マカデミアナッツ油、トリ(カプリン酸/カプリル酸)グリセリル、「エルデュウ」PS-203、ヒドロキシステアリン酸イソステアリル、シア脂、ステアリルアルコール、カルナウバロウである(総量28.9wt%)。
【0100】
1:B成分を十分に混合する。
2:C成分を順に加え、85℃にて溶解する。
3:D成分を加え、pHを調整する。
4:A成分(油相)を85℃で混合する。
5:ホモミキサーで油相を攪拌しながら水相を加え、85℃にて3分間攪拌する(3,000rpm)。
6:メカニカルスターラーを使い、50rpmで攪拌しながら、室温まで冷却する。
7:メカニカルスターラーを使い、100rpmで攪拌しながら、E成分を添加し攪拌混合する。
【0101】
処方例4:スキンクリーム処方(その2)
【0102】
【0103】
多価アルコールは、グリセリン、キサンタンガム、ステアリン酸グリセリル、およびパルミチン酸スクロースである(総量4wt%)。
油剤は、ミネラルオイル、ホホバ油、マカデミアナッツ油、トリ(カプリン酸/カプリル酸)グリセリル、「エルデュウ」PS-203、ヒドロキシステアリン酸イソステアリル、シア脂、ステアリルアルコール、カルナウバロウである(総量28.9wt%)。
【0104】
1:B成分を十分に混合する。
2:C成分を順に加え、85℃にて溶解する。
3:D成分を加え、pHを調整する。
4:A成分(油相)を85℃で混合する。
5:ホモミキサーで油相を攪拌しながら水相を加え、85℃にて3分間攪拌する(3,000rpm)。
6:メカニカルスターラーを使い、50rpmで攪拌しながら、室温まで冷却する。
7:メカニカルスターラーを使い、100rpmで攪拌しながら、E成分を添加し攪拌混合する。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の組成物は、例えば、リーブオン化粧料等の化粧料およびその原料として有用である。