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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】電気自動車
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
B60L15/20 K
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023010408
(22)【出願日】2023-01-26
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勇 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】水谷 賢治
(72)【発明者】
【氏名】池上 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】安江 昭人
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-156260(JP,A)
【文献】特開平05-332443(JP,A)
【文献】特開平10-103506(JP,A)
【文献】特開2022-034647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータを走行用の動力装置として使用する電気自動車であって、
アクセルペダルと、
シフターと、
運転者のモード選択操作に従い手動モードと第1自動モードと第2自動モードの中から前記電気モータの制御モードを選択するモード選択装置と、
前記運転者からの要求を受けてオートクルーズコントロールを実行するACC制御装置と、
前記電気モータを制御するモータ制御装置と、を備え、
前記モータ制御装置は、
前記手動モードで前記電気モータを制御する場合は、前記アクセルペダルの操作に対する前記電気モータの出力特性を前記シフターの操作ポジションに応じて変化させ
前記第1自動モードで前記電気モータを制御する場合は、前記アクセルペダルの操作に対する前記電気モータの出力特性を前記シフターの操作ポジションに対応する複数の出力特性の間で車速に応じて自動で切り替え、
前記第2自動モードで前記電気モータを制御する場合は、前記シフターの操作ポジションによらずに前記アクセルペダルの操作に応じて前記電気モータの出力を連続的に変化させ、
前記手動モードでの前記電気モータの制御中に前記オートクルーズコントロールの要求があった場合は、前記電気モータの制御を前記手動モードから前記第2自動モードへ切り替える、ように構成されている
ことを特徴とする電気自動車。
【請求項2】
請求項1に記載の電気自動車において、
前記ACC制御装置は、前記オートクルーズコントロールの実行中に前記モード選択装置により前記手動モードが選択された場合は、前記オートクルーズコントロールを解除する、ように構成されている
ことを特徴とする電気自動車。
【請求項3】
請求項1に記載の電気自動車において、
前記モータ制御装置は、前記オートクルーズコントロールの実行中は前記モード選択装置による前記手動モードの選択を無効にする、ように構成されている
ことを特徴とする電気自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気モータを走行用の動力装置として用いる電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2021-118569号公報は、マニュアルトランスミッション車両(以下、MT車両という)の手動変速動作をモータトルクの制御によって疑似的に再現可能な電気自動車を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-118569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気自動車を含む自動車の機能としてオートクルーズコントロール(アダプティブクルーズコントロールとも言う)が知られている。しかし、特開2021-118569号公報に記載の電気自動車では、手動変速動作時のシフト装置の操作ポジションに応じて車速が制限されるため、オートクルーズコントロールの機能は阻害されてしまう。
【0005】
本開示は上記の課題に鑑みてなされたものである。本開示の1つの目的は、電気自動車においてMT車両のような運転を楽しむことを可能にしつつ、オートクルーズコントロールの機能が阻害されることを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は上記目的を達成するための電気自動車を提供する。本開示の電気自動車は、アクセルペダル、シフター、モード選択装置、ACC制御装置、及び電気モータを制御するモータ制御装置を備える。モード選択装置は運転者のモード選択操作に従い手動モードと自動モードの中から電気モータの制御モードを選択するように構成されている。ACC制御装置は運転者からの要求を受けてオートクルーズコントロールを実行するように構成されている。モータ制御装置は、手動モードで電気モータを制御する場合は、アクセルペダルの操作に対する電気モータの出力特性をシフターの操作ポジションに応じて変化させるように構成されている。また、モータ制御装置は、自動モードで電気モータを制御する場合は、シフターの操作ポジションによらずにアクセルペダルの操作に応じて電気モータの出力を変化させるように構成されている。さらに、モータ制御装置は、手動モードでの電気モータの制御中にオートクルーズコントロールの要求があった場合は、電気モータの制御を手動モードから自動モードへ切り替えるように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示の電気自動車によれば、運転者はモード選択操作によって手動モードを選択することによって、アクセルペダルの操作に対する電気モータの出力特性をシフターの操作ポジションに応じて変化させることができる。つまり、運転者はシフターとアクセルペダルの操作によってMT車両のような運転を楽しむことができる。そして、手動モードでの電気モータの制御中にオートクルーズコントロールの要求があった場合、電気モータの制御は手動モードから自動モードへ切り替えられる。自動モードでは、電気モータはシフターの操作ポジションによらずにアクセルペダルの操作に応じて出力を変化させるように制御されるため、車速がシフターの操作ポジションに応じて制限されることはなく、オートクルーズコントロールの機能は阻害されない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施形態に係る電気自動車の構成を模式的に示す図である。
図2】電気自動車の車両制御装置の構成を示すブロック図である。
図3】車両モデルを構成するエンジンモデル、クラッチモデル、及びトランスミッションモデルの各例を示す図である。
図4】オートクルーズコントロールに連動した制御モードの切り替えの第1の実施形態を示すフローチャートである。
図5】オートクルーズコントロールに連動した制御モードの切り替えの第2の実施形態を示すフローチャートである。
図6】モード切替に連動したオートクルーズコントロールのオン/オフの切り替えを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.電気自動車の構成
図1は本実施の形態に係る電気自動車10の動力系の構成を模式的に示す図である。図1に示すように、電気自動車10は走行用の動力装置として電気モータ2を備えている。電気モータ2には、その回転速度を検出するための回転速度センサ40が設けられている。電気モータ2の出力軸3はギア機構4を介してプロペラシャフト5の一端に接続されている。プロペラシャフト5の他端はデファレンシャルギア6を介して車両前方のドライブシャフト7に接続されている。電気自動車10は前車輪である駆動輪8と後車輪である従動輪12とを備えている。駆動輪8はドライブシャフト7の両端にそれぞれ設けられている。各車輪8,12には車輪速センサ30が設けられている。図1では、代表して右後輪の車輪速センサ30のみが描かれている。車輪速センサ30は電気自動車10の車速を検出するための車速センサとしても用いられる。
【0010】
電気自動車10はバッテリ14とインバータ16とを備えている。バッテリ14は電気モータ2を駆動する電気エネルギを蓄える。すなわち、電気自動車10はバッテリ14に蓄えられた電気エネルギで走行するバッテリ電気自動車(BEV)である。インバータ16は加速時にバッテリ14から入力される直流電力を電気モータ2の駆動電力に変換する。また、インバータ16は減速時に電気モータ2から入力される回生電力を直流電力に変換し、バッテリ14に充電する。
【0011】
電気自動車10は、運転者が電気自動車10に対する加速要求を入力するためのアクセルペダル22と、制動要求を入力するためのブレーキペダル24とを備えている。アクセルペダル22には、アクセル開度を検出するためのアクセルポジションセンサ32が設けられている。また、ブレーキペダル24には、ブレーキ踏込量を検出するためのブレーキポジションセンサ34が設けられている。
【0012】
電気自動車10はさらに疑似パドルシフター26を備えている。疑似パドルシフター26は本来のパドルシフターとは異なるダミーである。一般的に、パドルシフターを備えるMT車両はクラッチペダルを備えないクラッチペダルレスMT車両である。ゆえに、電気自動車10は疑似パドルシフター26を備えているが、クラッチペダルに似せた疑似クラッチペダルは備えていない。疑似パドルシフター26はクラッチペダルレスMT車両が備えるパドルシフターに似せた構造を有している。疑似パドルシフター26はステアリングホイールに取り付けられている。疑似パドルシフター26は操作ポジションを決定するアップシフトスイッチ26uとダウンシフトスイッチ26dを備える。アップシフトスイッチ26uは手前に引かれることでアップシフト信号を発し、ダウンシフトスイッチ26dは手前に引かれることでダウンシフト信号を発する。
【0013】
電気自動車10はモード選択装置42を備えている。モード選択装置42は電気自動車10の走行モードを選択するスイッチである。電気自動車10の走行モードには、手動変速モードと自動変速モードとEVモードとがある。手動変速モードは電気自動車10をMT車両のように運転するための制御モードであり、アクセルペダル22の操作に対する電気モータ2の出力特性を疑似パドルシフター26の操作ポジションに応じて変化させるようにプログラムされている。自動変速モードとEVモードは疑似パドルシフター26の操作ポジションによらずにアクセルペダル22の操作に応じて電気モータ2の出力を変化させる制御モードである。詳しくは、自動変速モードは電気自動車10を有段自動変速機付きのAT車両のように運転するための制御モードであり、疑似パドルシフター26の操作ポジションに対応する複数の出力特性を車速に応じて自動で切り替えるようにプログラムされている。EVモードは電気自動車10を一般的な電気自動車として運転するための通常の制御モードであり、アクセルペダル22の操作に応じて電気モータ2の出力を連続的に変化させるようにプログラムされている。自動変速モードとEVモードは総称して自動モードと称され、それぞれ第1自動モード、第2自動モードと言い換えられる。それらとの対比において、手動変速モードは手動モードと言い換えられる。
【0014】
電気自動車10はACCスイッチ44を備えている。ACCスイッチ44はオートクルーズコントロールを作動させるためのスイッチである。電気自動車10はオートクルーズコントロールによる運転が可能な自動車である。オートクルーズコントロールを可能にするため、電気自動車10はミリ波レーダー46を備えている。ただし、先行車両との車間距離を検知する手段として、ミリ波レーダー46に代えて、或いは、ミリ波レーダー46とともにカメラを備えてもよい。
【0015】
電気自動車10は車両制御装置50を備えている。電気自動車10に搭載されたセンサ類や制御対象の機器は情報通信ネットワークによって車両制御装置50に接続されている。車両制御装置50は、典型的には、電気自動車10に搭載される電子制御ユニット(ECU)である。車両制御装置50は複数のECUの組み合わせであってもよい。車両制御装置50は、インターフェース52と、メモリ54と、プロセッサ56とを備えている。インターフェース52には車載ネットワークが接続されている。メモリ54は、データを一時的に記録するRAMと、プロセッサ56で実行可能なプログラムやプログラムに関連する種々のデータを保存するROMとを含んでいる。プログラムは複数のインストラクションで構成されている。プロセッサ56は、プログラムやデータをメモリ54から読み出して実行し、各センサから取得した信号に基づいて制御信号を生成する。
【0016】
図2は車両制御装置50の構成を示すブロック図である。車両制御装置50はACC制御装置510及びモータ制御装置520を備える。詳しくは、メモリ54に記憶されたプログラムがプロセッサ56により実行されることで、プロセッサ56は、少なくともACC制御装置510及びモータ制御装置520として機能する。以下、車両制御装置50を構成する各装置について説明する。
【0017】
2.車両制御装置の構成
2-1.ACC制御装置
ACC制御装置510は運転者からの要求を受けてオートクルーズコントロールを実行する装置である。ACC制御装置510にはACCスイッチ44からの信号が入力される。ACCスイッチ44がオンにされたとき、ACC制御装置510はミリ波レーダー46からの信号を用いて先行車両との距離を判定し、設定されている制限速度を超えない範囲において先行車両に追従するように車間距離を制御する。ただし、一つの実施形態では、ACC制御装置510にはモード選択装置42からの信号が入力される。そして、モード選択装置42からの信号はACC制御装置510におけるオートクルーズコントロールのオン/オフの切り替えに用いられる。その実施形態については後述する。
【0018】
2-2.モータ制御装置
モータ制御装置520はインバータ16のPWM制御によって電気モータ2を制御する装置である。モータ制御装置520は、車両モデル530、要求モータトルク計算部540、モータトルク指令マップ550、及びトルク切替部560を備える。モータ制御装置520には、車輪速センサ30、アクセルポジションセンサ32、アップシフトスイッチ26u、ダウンシフトスイッチ26d、回転速度センサ40、モード選択装置42、及びACCスイッチ44からの信号が入力される。モータ制御装置520はこれらの信号を処理し、インバータ16をPWM制御するためのモータトルク指令値を算出する。
【0019】
モータ制御装置520によるモータトルクの計算は、車両モデル530と要求モータトルク計算部540とを用いた計算と、モータトルク指令マップ550を用いた計算の2通りがある。車両モデル530と要求モータトルク計算部540は、電気自動車10を手動変速モードで走行させる場合のモータトルクの計算と自動変速モードで走行させる場合のモータトルクの計算に用いられる。モータトルク指令マップ550は電気自動車10をEVモードで走行させる場合のモータトルクの計算に用いられる。どちらのモータトルクを用いるかはトルク切替部560によって決定される。
【0020】
車両モデル530は手動変速モデル530Aと自動変速モデル530Bとを備える。手動変速モデル530Aは電気モータ2を手動変速モードで制御する場合に使用される。手動変速モデル530Aは、電気自動車10をMT車両であると仮定した場合においてアクセルペダル22及び疑似パドルシフター26の操作によって得られるはずの駆動輪トルクを計算するモデルである。自動変速モデル530Bは電気モータ2を自動変速モードで制御する場合に使用される。自動変速モデル530Bは、電気自動車10を有段自動変速機付きのAT車両であると仮定した場合においてアクセルペダル22の操作によって得られるはずの駆動輪トルクを計算するモデルである。
【0021】
車両モデル530における手動変速モデル530Aと自動変速モデル530Bの切り替えは、モード選択装置42からの信号に従って行われる。モード選択装置42で手動変速モードが選択された場合、車両モデル530は手動変速モデル530Aを使用する。モード選択装置42で自動変速モードが選択された場合、車両モデル530は自動変速モデル530Bを使用する。ただし、一つの実施形態では、車両モデル530にはACCスイッチ44からの信号が入力される。そして、ACCスイッチ44からオン信号の入力によってモデルの切り替えが行われる。その実施形態については後述する。
【0022】
要求モータトルク計算部540は車両モデル530で算出された駆動輪トルクTwを要求モータトルクTmtに変換する。要求モータトルクTmtは車両モデル530で算出された駆動輪トルクTwの実現必要なモータトルクである。駆動輪トルクTwの要求モータトルクTmtへの変換には、電気モータ2の出力軸3から駆動輪8までの減速比が用いられる。
【0023】
モータトルク指令マップ550はアクセル開度と電気モータ2の回転速度からモータトルクを決定するマップである。モータトルク指令マップ550の各パラメータには、アクセルポジションセンサ32の信号と、回転速度センサ40の信号とが入力される。モータトルク指令マップ550からは、これらの信号に対応するモータトルクTevが出力される。なお、EVモードでは、運転者が疑似パドルシフター26を操作してもその操作は電気自動車10の運転には反映されない。
【0024】
トルク切替部560は電気モータ2の制御モードに応じて接続先を切り替える。電気モータ2をEVモードで制御する場合、トルク切替部560はモータトルク指令マップ550に接続してモータトルクTevをモータトルク指令値Tmとしてインバータ16に出力する。電気モータ2を手動変速モード及び自動変速モードで制御する場合、トルク切替部560は接続先を要求モータトルク計算部540に切り替え、モータトルクTmtをモータトルク指令値としてインバータ16に出力する。トルク切替部560の接続先の切り替えは、モード選択装置42からの信号に従って行われる。ただし、一つの実施形態では、トルク切替部560にはACCスイッチ44からの信号が入力される。そして、ACCスイッチ44からオン信号の入力によって接続先の切り替えが行われる。その実施形態については後述する。
【0025】
次に、車両モデル530について説明する。図3に示すように、車両モデル530は、エンジンモデル531、クラッチモデル532、及びトランスミッションモデル533を備えている。これらのモデル531、532、533は手動変速モデル530Aと自動変速モデル530Bで共通である。なお、車両モデル530により仮想的に実現されるエンジン、クラッチ、及びトランスミッションをそれぞれ仮想エンジン、仮想クラッチ、仮想トランスミッションと称する。エンジンモデル531では、仮想エンジンがモデル化されている。クラッチモデル532では、仮想クラッチがモデル化されている。トランスミッションモデル533では、仮想トランスミッションがモデル化されている。
【0026】
車両モデル530の計算には、センサで得られた信号が用いられる。手動変速モデル530Aの計算では、アクセルポジションセンサ32で検出されたアクセル開度Papがエンジンモデル531で使用される。また、アップシフトスイッチ26uから発信されたアップシフト信号Suと、ダウンシフトスイッチ26dから発信されたダウンシフト信号Sdとがトランスミッションモデル533で使用される。自動変速モデル530Bの計算では、アクセル開度Papがエンジンモデル531で使用される。しかし、アップシフト信号Su及びダウンシフト信号Sdは自動変速モデル530Bの計算では使用されない。車輪速センサ30で検出された車速Vwは手動変速モデル530Aの計算でも自動変速モデル530Bの計算でも使用される。
【0027】
エンジンモデル531は仮想エンジン回転速度Neと仮想エンジン出力トルクTeoutを算出する。エンジンモデル531は、仮想エンジン回転速度Neを計算するモデルと、仮想エンジン出力トルクTeoutを計算するモデルから構成される。仮想エンジン回転速度Neの計算には、例えば、次式(1)で表されるモデルが用いられる。次式(1)では、車輪8の回転速度Nw、総合減速比R、及び仮想クラッチのスリップ率Rslipから仮想エンジン回転速度Neが算出される。
【数1】
【0028】
式(1)において、車輪8の回転速度Nwは車輪速センサ30によって検出される。総合減速比Rは、後述するトランスミッションモデル533で計算されるギア比(変速比)rと、所定の減速比とから算出される。スリップ率Rslipは後述するクラッチモデル532で算出される。
【0029】
ただし、式(1)は、仮想クラッチによって仮想エンジンと仮想トランスミッションとが接続されている状態での仮想エンジン回転速度Neの計算式である。仮想クラッチが切られている場合、仮想エンジンで発生する仮想エンジントルクTeは、仮想エンジン回転速度Neの上昇に使用されるとみなすことができる。仮想エンジントルクTeは仮想エンジン出力トルクTeoutに慣性モーメントによるトルクを加えたトルクである。仮想クラッチが切られている場合、仮想エンジン出力トルクTeoutはゼロである。ゆえに、エンジンモデル531は、仮想クラッチが切られている場合、仮想エンジントルクTeと仮想エンジンの慣性モーメントJとを用いて次式(2)により仮想エンジン回転速度Neを算出する。仮想エンジントルクTeの計算には、アクセル開度Papをパラメータとするマップが用いられる。
【数2】
【0030】
エンジンモデル531は仮想エンジン回転速度Ne及びアクセル開度Papから仮想エンジン出力トルクTeoutを算出する。仮想エンジン出力トルクTeoutの計算には、例えば、図3に示すようなマップが用いられる。このマップは、定常状態でのアクセル開度Papと、仮想エンジン回転速度Neと、仮想エンジン出力トルクTeoutとの関係を規定したマップである。このマップでは、アクセル開度Pap毎に仮想エンジン回転速度Neに対する仮想エンジン出力トルクTeoutが与えられる。図3に示すトルク特性は、ガソリンエンジンを想定した特性に設定することもできるし、ディーゼルエンジンを想定した特性に設定することもできる。また、自然吸気エンジンを想定した特性に設定することもできるし、過給エンジンを想定した特性に設定することもできる。
【0031】
クラッチモデル532はトルク伝達ゲインkを算出する。トルク伝達ゲインkは仮想クラッチ開度に応じた仮想クラッチのトルク伝達度合いを算出するためのゲインである。仮想クラッチ開度は通常は0%であり、仮想トランスミッションの仮想ギア段の切り替えに連動して一時的に100%まで開かれる。クラッチモデル532は、例えば、図3に示すようなマップを有する。このマップでは、仮想クラッチ開度Pcに対してトルク伝達ゲインkが与えられる。図3でPc0は仮想クラッチ開度Pcが0%の位置に対応し、Pc3は仮想クラッチ開度Pcが100%の位置に対応している。CP0からCP1までの範囲とCP2からCP3までの範囲は、仮想クラッチ開度CPによってトルク伝達ゲインkが変わらない不感帯である。
【0032】
クラッチモデル532はトルク伝達ゲインkを用いてクラッチ出力トルクTcoutを算出する。クラッチ出力トルクTcoutは仮想クラッチから出力されるトルクである。クラッチモデル532は、例えば、次式(3)により仮想エンジン出力トルクTeout及びトルク伝達ゲインkからクラッチ出力トルクTcoutを算出する。
【数3】
【0033】
また、クラッチモデル532はスリップ率Rslipを算出する。スリップ率Rslipは、エンジンモデル531での仮想エンジン回転速度Neの計算に用いられる。スリップ率Rslipの算出には、トルク伝達ゲインkと同様に、仮想クラッチ開度Pcに対してスリップ率Rslipが与えられるマップを用いることができる。そのようなマップに代えて、スリップ率Rslipとトルク伝達ゲインとの関係を表す次式(4)によって、トルク伝達ゲインkからスリップ率Rslipを算出してもよい。
【数4】
【0034】
トランスミッションモデル533はギア比(変速比)rを算出する。ギア比rは仮想トランスミッションにおいて仮想ギア段GPにより決まるギア比である。手動変速モデル530Aの計算では、アップシフト信号Suの入力を受けて仮想ギア段GPは1段アップされ、ダウンシフト信号Sdの入力を受けて仮想ギア段GPは1段ダウンされる。自動変速モデル530Bの計算では、仮想ギア段GPは車速Vwの増大に応じて自動でアップされ、車速Vwの減少に応じて自動でダウンされる。トランスミッションモデル533は、例えば、図3に示すようなマップを有する。このマップでは、仮想ギア段GPに対してギア比rが与えられる。図3に示すように、仮想ギア段GPが大きいほどギア比rは小さくなる。トランスミッションモデル533はギア比rを用いて変速機出力トルクTgoutを算出する。変速機出力トルクTgoutは仮想トランスミッションから出力されるトルクである。トランスミッションモデル533は、例えば、次式(5)によりクラッチ出力トルクTcout及びギア比rから変速機出力トルクTgoutを算出する。
【数5】
【0035】
式(5)から明らかなように、変速機出力トルクTgoutはギア比rの切り替えに応じて不連続に変化する。この不連続な変速機出力トルクTgoutの変化は変速ショックを発生させ、有段変速機を備えた車両らしさが演出される。ただし、自動変速モデル530Bで変速機出力トルクTgoutを計算する場合には、例えば一次遅れフィルタによる処理によって変速機出力トルクTgoutの不連続を抑えるようにしてもよい。
【0036】
車両モデル530は所定の減速比rrを用いて駆動輪トルクTwを算出する。減速比rrは仮想トランスミッションから駆動輪8までの機械的な構造により決まる固定値である。減速比rrにギア比rを乗じて得られる値が前述の総合減速比Rである。車両モデル530は、例えば、次式(6)により変速機出力トルクTgout及び減速比rrから駆動輪トルクTwを算出する。算出された駆動輪トルクTwは要求モータトルク計算部540に出力される。
【0037】
3.オートクルーズコントロールに連動した制御モードの切替
上記の構成によれば、運転者は電気モータ2の制御モードを任意に選択することができる。特に、手動変速モードを選択することによって、運転者はMT車両のようなシフト操作を楽しむことができる。ただし、手動変速モードでは、疑似パドルシフター26の操作ポジションに応じて車速が制限を受ける。このため、手動変速モードにおいてオートクルーズコントロールを実行した場合、先行車両への追従に支障をきたすおそれがある。そこで、車両制御装置50は、運転者がACCスイッチ44を操作してオートクルーズコントロールを要求するのであれば、運転者の意志を尊重し、オートクルーズコントロールの機能が阻害されないように制御モードの切り替えを実行する。
【0038】
オートクルーズコントロールに連動した制御モードの切り替えには2つの実施形態が存在する。図4はその第1の実施形態を示すフローチャートである。第1の実施形態では、まずステップS11において、現在の制御モードが手動変速モードかどうか判定される。手動変速モードでなければオートクルーズコントロールを実行する上で問題はない。よって、現在の制御モードが自動変速モードやEVモードである場合、そのままの制御モードが維持される。
【0039】
現在の制御モードが手動変速モードの場合、ステップS12において、ACCスイッチ44がオンにされたかどうか判定される。ACCスイッチ44がオンにされていない、つまり、運転者がオートクルーズコントロールを要求していないのであれば手動変速モードを継続しても問題はない。よって、ACCスイッチ44がオフである場合、そのままの制御モードが維持される。
【0040】
現在の制御モードが手動変速モードであり、ACCスイッチ44がオンになった場合、手順はステップS13に進む。ステップS13では、手動変速モードからEVモードへ制御モードが切り替えられる。詳しくは、トルク切替部560の接続先が要求モータトルク計算部540からモータトルク指令マップ550に切り替えられる。EVモードでは、電気モータ2は疑似パドルシフター26の操作ポジションによらずにアクセルペダル22の操作に応じて出力を変化させるように制御される。このため、オートクルーズコントロールの機能が阻害されることは防止される。
【0041】
図5はオートクルーズコントロールに連動した制御モードの第2の実施形態を示すフローチャートである。第2の実施形態では、まずステップS21において、現在の制御モードが手動変速モードかどうか判定される。現在の制御モードが手動変速モードの場合、ステップS22において、ACCスイッチ44がオンにされたかどうか判定される。
【0042】
そして、現在の制御モードが手動変速モードであり、ACCスイッチ44がオンになった場合、手順はステップS23に進む。ステップS23では、手動変速モードから自動変速モードへ制御モードが切り替えられる。詳しくは、車両モデル530における計算が手動変速モデル530Aから自動変速モデル530Bに切り替えられる。自動変速モードでは、電気モータ2は疑似パドルシフター26の操作ポジションによらずにアクセルペダル22の操作に応じて出力を変化させるように制御される。このため、オートクルーズコントロールの機能が阻害されることは防止される。
【0043】
なお、オートクルーズコントロールの実行中は、仮想ギア段GPの切り替えに合わせた変速ショックの演出は停止される。つまり、オートクルーズコントロールの実行中は、仮想ギア段GPの切り替えの前後において、トランスミッションモデル533で計算される変速機出力トルクTgoutを連続的に変化させることが行われる。
【0044】
4.モード切替に連動したオートクルーズコントロールのオン/オフの切り替え
オートクルーズコントロールの実行中は、モード選択装置42による手動変速モードの選択を無効にしてもよい。つまり、オートクルーズコントロールを機能させることを最優先にして自動変速モードかEVモードのみを許容するようにしてもよい。しかし、その一方で、運転者がモード選択装置42を操作して手動変速モードを選択した場合、MT車両のようなシフト操作を楽しみたいという運転者の意志表明であるとも捉えることができる。
【0045】
図6はモード切替に連動したオートクルーズコントロールのオン/オフの切り替えを示すフローチャートである。まずステップS31において、現時点でオートクルーズコントロールがオンであるかどうか判定される。オートクルーズコントロールがオフになっているのであれば制御モードが手動変速モードに切り替えられても問題はない。よって、現時点でオートクルーズコントロールがオフである場合、そのままオートクルーズコントロールのオフが維持される。
【0046】
オートクルーズコントロールがオンの場合、ステップS32において、制御モードが手動変速モードに切り替えられたかどうか判定される。手動変速モードでなければオートクルーズコントロールの機能は阻害されない。よって、現在の制御モードが自動変速モードやEVモードである場合、オートクルーズコントロールのオンがそのまま維持される。
【0047】
現時点でオートクルーズコントロールがオンであり、制御モードが手動変速モードに切り替えられた場合、手順はステップS33に進む。ステップS33では、オートクルーズコントロールはオンからオフに切り替えられる。オートクルーズコントロールが解除されることで、運転者はMT車両のようなシフト操作を楽しむことが可能となる。
【0048】
4.その他
上記実施形態において、パドル式の疑似シフターに代えてレバー式の疑似シフターを備えてもよい。レバー式の疑似シフターは、シフトレバーを前方に倒すことでアップシフト信号を出力し、シフトレバーを後方に倒すことでダウンシフト信号を出力するように構成される。また、上記実施形態において、疑似シーケンシャルシフターに代えて疑似H型シフターと疑似クラッチペダルとを備えてもよい。その場合、車両モデルのクラッチモデルでは、疑似クラッチペダルの踏み込み量に応じてトルク伝達ゲインを算出するようにすればよい。また、車両モデルのトランスミッションモデルでは、疑似H型シフターのシフトポジションに応じてギア比を算出すればよい。
【符号の説明】
【0049】
2 電気モータ、10 電気自動車、22 アクセルペダル、26 疑似パドルシフター、42 モード選択装置、44 ACCスイッチ、46 ミリ波レーダー、50 車両制御装置、510 ACC制御装置、520 モータ制御装置
【要約】      (修正有)
【課題】制御モードの切り替えによってMT車両のような運転を楽しむことを可能にしつつ、オートクルーズコントロールの機能が阻害されることを防止することを目的とする。
【解決手段】この電気自動車は、アクセルペダル、シフター、運転者のモード選択操作に従い手動モードと自動モードの中から電気モータの制御モードを選択するモード選択装置、運転者からの要求を受けてACCを実行するACC制御装置、及びモータ制御装置を備える。モータ制御装置は、手動モードでは、アクセルペダルの操作に対する電気モータの出力特性をシフターの操作ポジションに応じて変化させ、自動モードでは、シフターの操作ポジションによらずにアクセルペダルの操作に応じて電気モータの出力を変化させる。手動モードでの制御中にACCの要求があった場合、モータ制御装置は電気モータの制御を手動モードから自動モードへ切り替える。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6