(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】動力伝達システム
(51)【国際特許分類】
F16D 27/112 20060101AFI20240730BHJP
H02K 7/12 20060101ALI20240730BHJP
H02K 7/108 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
F16D27/112 Z
H02K7/12 Z
H02K7/108
(21)【出願番号】P 2023036607
(22)【出願日】2023-03-09
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】藤野 竜介
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-055725(JP,A)
【文献】実開昭58-186770(JP,U)
【文献】特開昭56-132142(JP,A)
【文献】特開昭56-112851(JP,A)
【文献】特開2003-120765(JP,A)
【文献】特開2003-165330(JP,A)
【文献】特開昭53-109043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 27/108-27/115
H02K 7/00 - 7/20
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00
10/02
10/06
10/08
10/10
10/18
10/26
10/28
10/30 -20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子及び前記回転子の外側に設けられた固定子を含むモータと、
前記回転子に連結されて前記回転子の回転軸方向において移動可能なクラッチディスク、及び前記クラッチディスクを挟んで前記回転子の反対側に設けられて、前記クラッチディスクが接触すると摩擦により前記クラッチディスクに連動して回転することにより、前記モータの回転力を前
記回転力が伝達される動力伝達部材
に伝達するフライホイールを含むクラッチと、
前記回転軸方向において前記固定子と前記クラッチディスクとの間で前記固定子に連結されて、前記回転軸方向において前記固定子と共に移動することにより前記クラッチディスク及び前記回転子を前記回転軸方向において移動させて、前記クラッチディスクと前記フライホイールとが接触する状態、又は前記クラッチディスクと前記フライホイールとが接触しない状態にすることが可能な移動部材と、
前記固定子
及び前記移動部材を前記
回転軸方向に移動させ
ることにより、前記クラッチに動力の伝達を断接させる動作制御部と、
を有する動力伝達システム。
【請求項2】
前記固定子及び前記移動部材の少なくともいずれかに巻き付けられたコイルと、をさらに備え、
前記動作制御部は、電源に前記コイルへ電圧を印加させることにより前記固定子を前記回転子に対して移動させて、前記クラッチに動力の伝達を断接させる、
請求項1に記載の動力伝達システム。
【請求項3】
前記固定子及び前記移動部材に対して前記回転軸方向に力を加える弾性部材をさらに有し、
前記動作制御部は、前記電源に前記コイルへ電圧を印加させることにより、前記弾性部材が前記固定子に加える力よりも大きい力で前記移動部材を移動させて、前記クラッチに動力の伝達を断接させる、
請求項2に記載の動力伝達システム。
【請求項4】
前記弾性部材は、前記固定子及び前記移動部材に対して前記回転軸方向に力を加えることにより前記クラッチに動力の伝達を切断させ、
前記動作制御部は、前記電源に前記コイルへ電圧を印加させることにより、前記弾性部材が前記固定子及び前記移動部材に加える力よりも大きい力を生じさせて、前記クラッチに動力の伝達を接続させる、
請求項3に記載の動力伝達システム。
【請求項5】
前記動作制御部は、
電源に前記コイルへ第1電圧を印加させることにより、前記クラッチに動力の伝達を接続させる向きに前記固定子及び前記移動部材を移動させる力を生じさせ、
前記第1電圧の極性とは逆の極性の第2電圧を前記電源に前記コイルへ印加させることにより、前記クラッチに動力の伝達を切断させる向きに前記固定子及び前記移動部材を移動させる力を生じさせる、
請求項2に記載の動力伝達システム。
【請求項6】
前記クラッチに動力の伝達を接続させた状態の前記移動部材を保持し、前記クラッチに動力の伝達を切断させた状態の前記移動部材を保持する保持部材を有する、
請求項5に記載の動力伝達システム。
【請求項7】
前記動作制御部は、前記クラッチディスクの回転速度と前記フライホイールの回転速度との回転速度差が所定値以下の場合に、電源に前記コイルへ電圧を印加させて前記クラッチに動力の伝達を接続させる、
請求項2に記載の動力伝達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの動力を伝達する動力伝達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
動力を伝達するシステムが知られている。特許文献1には、鉄心に巻き付けられたソレノイドコイルを励磁させて、シフトレバーに連結されたプランジャをソレノイドコイルに吸着させることで、支点ピンを中心にシフトレバーを回転させ、シフトレバーに連結されたクラッチを動作させて、動力を伝達するか否かを切り替える動力伝達システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の技術では、シフトレバーやプランジャを配置するための空間、プランジャが移動するための空間及びシフトレバーが支点ピンを中心に回転するための空間等が必要であり、動力伝達システムが大きくなっていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、動力を伝達する動力伝達システムを小型化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様においては、回転子及び前記回転子の外側に設けられた固定子を含むモータと、前記モータの回転力が伝達される動力伝達部材と前記回転子と間の動力の伝達を断接するクラッチと、前記固定子を前記回転子に対して移動させて、前記クラッチに動力の伝達を断接させる動作制御部と、を有する動力伝達システムを提供する。
【0007】
前記固定子に連結されて前記固定子と共に前記回転子の回転軸方向に移動可能な移動部材と、前記固定子及び前記移動部材の少なくともいずれかに巻き付けられたコイルと、をさらに備え、前記動作制御部は、電源に前記コイルへ電圧を印加させることにより前記固定子を前記回転子に対して移動させて、前記クラッチに動力の伝達を断接させてもよい。
【0008】
前記固定子及び前記移動部材に対して前記回転軸方向に力を加える弾性部材をさらに有し、前記動作制御部は、前記電源に前記コイルへ電圧を印加させることにより、前記弾性部材が前記固定子に加える力よりも大きい力で前記移動部材を移動させて、前記クラッチに動力の伝達を断接させてもよい。
【0009】
前記弾性部材は、前記固定子及び前記移動部材に対して前記回転軸方向に力を加えることにより前記クラッチに動力の伝達を切断させ、前記動作制御部は、前記電源に前記コイルへ電圧を印加させることにより、前記弾性部材が前記固定子及び前記移動部材に加える力よりも大きい力を生じさせて、前記クラッチに動力の伝達を接続させてもよい。
【0010】
前記動作制御部は、電源に前記コイルへ第1電圧を印加させることにより、前記クラッチに動力の伝達を接続させる向きに前記固定子及び前記移動部材を移動させる力を生じさせ、前記第1電圧の極性とは逆の極性の第2電圧を前記電源に前記コイルへ印加させることにより、前記クラッチに動力の伝達を切断させる向きに前記固定子及び前記移動部材を移動させる力を生じさせてもよい。
【0011】
前記クラッチに動力の伝達を接続させた状態の前記移動部材を保持し、前記クラッチに動力の伝達を切断させた状態の前記移動部材を保持する保持部材を有してもよい。
【0012】
前記クラッチは、前記移動部材に接続されたクラッチディスクと、前記クラッチディスクが接触すると摩擦により前記クラッチディスクに連動して回転するフライホイールとを含み、前記動作制御部は、前記クラッチディスクの回転速度と前記フライホイールの回転速度との回転速度差が所定値以下の場合に、電源に前記コイルへ電圧を印加させて前記クラッチに動力の伝達を接続させてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、動力を伝達する動力伝達システムを小型化できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施の形態に係る動力伝達システムの構成を説明するための図である。
【
図2】動力の伝達が接続されている状態の模式図である。
【
図3】動作制御装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】第2実施の形態に係る動力伝達システムの構成を説明するための図である。
【
図5】動力の伝達が接続されている状態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施の形態に係る動力伝達システムSの構成]
図1及び
図2は、第1実施の形態に係る動力伝達システムSの構成を説明するための図である。動力伝達システムSは、モータ1を備える車両に搭載されている。動力伝達システムSは、モータ1、電源3、動作制御装置4及びクラッチ6を含む。
【0016】
動力伝達システムSは、モータ1と、モータ1の回転力が伝達される動力伝達部材との間の動力の伝達を接続したり切断したりする。動力伝達部材は、例えば車輪に連結されたプーリあるが、ギヤやシャフトなど他の動力伝達部材であってもよい。
図1では、モータ1と動力伝達部材の間で動力の伝達が切断されており、
図2では、動力の伝達が接続されている。
【0017】
モータ1は、固定子12の内側に配置した回転子11を回転させるインナーロータ型モータである。回転子11は、円柱形状であり、クラッチ6のクラッチディスク61に連結されている。固定子12は、回転子11の外側に設けられている。固定子12は、回転子11の回転軸5方向に移動可能に設けられている。
【0018】
移動部材13は、固定子12に連結されている。移動部材13は、固定子12と共に回転軸5方向に移動可能である。移動部材13は、回転軸5方向において固定子12から見てクラッチ6と同じ側に設けられている。移動部材13は、パイプである。
【0019】
クラッチ6は、ベアリング2を介して移動部材13に連結されている。クラッチ6は、移動部材13の回転軸5方向の移動に連動して、モータ1の回転力が伝達される動力伝達部材と回転子11と間の動力の伝達を断接する。クラッチ6は、例えば摩擦クラッチであり、具体的にはダイヤフラムスプリング式クラッチであるが、これに限定するものではない。
【0020】
クラッチ6は、クラッチディスク61、フライホイール62、クラッチカバー63、プレッシャープレート64及びダイヤフラムスプリング65を含む。クラッチディスク61は、回転子11に接続されて、回転子11の回転に連動して回転する。フライホイール62は、動力伝達部材に連結されている。クラッチカバー63は、フライホイール62に設けられている。ダイヤフラムスプリング65は、中心に穴の開いた円盤状の板を円錐状にした弾性部材である。ダイヤフラムスプリング65は、クラッチカバー63と接触点66で接触している。ダイヤフラムスプリング65と移動部材13の間には、ベアリング2が設けられている。クラッチ6が移動部材13の回転軸5方向の移動に連動して動力の伝達を断接する動作の詳細は後述する。
【0021】
コイル14は、固定子12の外周面に巻き付けられている。コイル14は、移動部材13の外周面に巻き付けられていてもよく、固定子12及び移動部材13の両方の外周面に巻き付けられていてもよい。コイル14は、例えば導体が絶縁体で覆われている絶縁電線である。
【0022】
弾性部材15は、回転軸5方向において固定子12から見て移動部材13とは反対側に設けられている。弾性部材15の一端は、プレート16に接続されている。弾性部材15の他端は、固定子12に接続されている。言い換えると、弾性部材15は、固定子12及びプレート16の間に設けられている。弾性部材15は、弾性部材である。弾性部材15は、例えば圧縮ばねであるが、これに限定するものではない。
【0023】
弾性部材15は、固定子12及び移動部材13に対して回転軸5方向に力を加える。弾性部材15は、回転軸5方向において固定子12及び移動部材13をクラッチ6に近づける向き(紙面左から右に向かう向き)に固定子12及び移動部材13に力を加える。弾性部材15は、固定子12及び移動部材13をクラッチ6に近づける向きに力を加えることによりクラッチ6に動力の伝達を切断させる。以下、弾性部材15が動力伝達部材と回転子11と間の動力の伝達が接続されている状態から、動力の伝達を切断させる動作を説明する。
【0024】
動力の伝達が接続されている状態では、ダイヤフラムスプリング65は、プレッシャープレート64に力を加えている(
図2参照)。プレッシャープレート64は、ダイヤフラムスプリング65から力が加わるとクラッチディスク61に力を加える。クラッチディスク61は、プレッシャープレート64から力が加わるとフライホイール62に押し付けられてフライホイール62と接触する。クラッチディスク61とフライホイール62とが接触すると摩擦によりフライホイール62がクラッチディスク61に連動して回転し、動力伝達部材と回転子11と間の動力の伝達が接続される。
【0025】
動力の伝達を切断させる場合、弾性部材15は、回転軸5方向において移動部材13に力を加えて、クラッチ6に近づく向きに移動させる。移動部材13は、ダイヤフラムスプリング65をクラッチディスク61に近づける向きの力を加える。ダイヤフラムスプリング65は、移動部材13から力が加わると、クラッチカバー63との接触点66を支点として反り返る(
図1参照)。プレッシャープレート64は、ダイヤフラムスプリング65が反り返ると力が加わらなくなる。クラッチディスク61は、力が加わらなくなると、フライホイール62から離れる。クラッチディスク61がフライホイール62から離れると、クラッチディスク61が回転してもフライホイール62は回転しなくなる。このように、弾性部材15は、固定子12及び移動部材13をクラッチ6に近づく向きに力を加えることにより、クラッチ6に動力の伝達を切断させる。
【0026】
電源3は、コイル14に電圧を印加する。電源3は、コイル14に電圧を印加することでコイル14に電流を流すことができる。例えば、電源3は、第1端子31が正極(プラス)、第2端子32が負極(マイナス)になる電圧をコイル14に印加する。また、電源3は、電圧の極性を反転して、第1端子31が負極(マイナス)、第2端子32が正極(プラス)になる電圧をコイル14に印加することもできる。
【0027】
動作制御装置4は、記憶部41及び制御部42を有する。記憶部41は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びハードディスク等を含む記憶媒体である。記憶部41は、制御部42が実行するプログラムを記憶する。
【0028】
制御部42は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含む計算リソースである。制御部42は、記憶部41に記憶されたプログラムを実行することにより、動作制御部421としての機能を実現する。
【0029】
動作制御部421は、電源3にコイル14へ電圧を印加させることにより固定子12を回転子11に対して移動させて、クラッチ6に動力の伝達を接続させる。具体的には、動作制御部421は、第1端子31が正極、第2端子32が負極になる電圧を電源3にコイル14へ印加させることにより、固定子12及び移動部材13に対して弾性部材15が加える力よりも大きい力(ローレンツ力)を生じさせる。より具体的には、動作制御部421は、ローレンツ力を生じさせることで、回転軸5方向において固定子12及び移動部材13がクラッチ6から遠ざかる向きに(紙面右から左に向かう向き)に固定子12及び移動部材13を移動させる。
【0030】
移動部材13がクラッチ6から遠ざかる向きに移動すると、クラッチ6は、移動部材13の回転軸5方向の移動に連動して、動力伝達部材と回転子11との間の動力の伝達を接続する。具体的には、ダイヤフラムスプリング65は、移動部材13が回転軸5方向に移動すると、移動部材13からの力が加わらなくなる。
【0031】
ダイヤフラムスプリング65は、プレッシャープレート64に対して力を加える。クラッチディスク61は、ダイヤフラムスプリング65及びプレッシャープレート64からの力が加わってフライホイール62に接触する。なお、クラッチディスク61は、プレッシャープレート64からの力が加わることにより、回転軸5方向においてフライホイール62に近づく向きに移動する。また、回転子11は、クラッチディスク61の移動に連動して、回転軸5方向においてフライホイール62に近づく向きに移動する。
【0032】
なお、動作制御部421は、固定子12及び移動部材13を移動させる力として磁力を生じさせてもよい。この場合、プレート16は、磁石で構成され、移動部材13は、磁石でない磁性体で構成される。動作制御部421は、電源3にコイル14へ電圧を印加させることにより移動部材13を磁石として機能させる。具体的には、動作制御部421は、電源3にコイル14へ電圧を印加することにより、移動部材13をプレート16に吸着させる磁気吸着力を生じさせる磁石にする。動作制御部421は、磁気吸着力を生じさせることにより、固定子12及び移動部材13がプレート16に近づく向きに固定子12及び移動部材13を移動させて、動力の伝達を接続させる。
【0033】
動作制御部421は、クラッチディスク61の回転速度とフライホイール62の回転速度との回転速度差が所定値以下の場合に、クラッチ6に動力の伝達を接続させてもよい。この場合、動作制御部421は、クラッチディスク61の回転速度を検出するセンサ及びフライホイール62の回転速度を検出するセンサの各々から各回転速度を取得する。所定値は、クラッチ6に動力の伝達を接続させる際の衝撃が許容できる範囲に収まるように、実験などにより適宜定めればよい。例えば、動作制御部421は、車両が停止中でクラッチディスク61の回転速度とフライホイール62の回転速度とが0である場合に、電源3にコイル14へ電圧を印加させてクラッチ6に動力の伝達を接続させる。動作制御部421は、動力の伝達を接続させた後、モータ1を始動させる。これにより、動作制御部421は、クラッチ6に動力の伝達を接続させる際の衝撃を低減することができる。
【0034】
動作制御部421は、回転速度差が所定値よりも大きい場合、モータ1を制御して、回転速度差を所定値以下にする。例えば、動作制御部421は、クラッチディスク61の回転速度がフライホイール62の回転速度に近づくようにモータ1の回転子11の回転速度を変化させて、回転速度差を所定値以下にする。動作制御部421は、回転速度差が所定値以下にした後、電源3にコイル14へ電圧を印加させる。これにより、動作制御部421は、車両が走行中にモータ1の動力を使用する場合でも、クラッチ6に動力の伝達を接続させる際の衝撃を低減することができる。
【0035】
動作制御部421は、クラッチ6に動力の伝達を接続させる場合、第1端子31が正極、第2端子32が負極になる電圧を電源3にコイル14へ印加させ続ける。言い換えると、動作制御部421は、第1端子31が正極、第2端子32が負極になる電圧を電源3にコイル14へ印加させ続けて、クラッチ6が動力の伝達を接続している状態を維持する。
【0036】
動作制御部421は、動力伝達部材と回転子11と間の動力の伝達をクラッチ6に切断させる場合、電源3にコイル14へ電圧を印加させない。電源3がコイル14へ電圧を印加していない場合、固定子12及び移動部材13は、弾性部材15からの力が加わる。弾性部材15が移動部材13に対して力を加えることにより、ダイヤフラムスプリング65は、移動部材13から力を加えられてクラッチカバー63との接触点66を支点として反り返る。ダイヤフラムスプリング65が接触点66を支点として反り返ると、クラッチディスク61に力が加わらなくなって、クラッチディスク61とフライホイール62が接触しなくなる。クラッチディスク61とフライホイール62が接触していないと、クラッチディスク61が回転してもフライホイール62が回転しなくなるので、動力の伝達が切断される。
【0037】
このように、動作制御部421は、電源3にコイル14へ電圧を印加させるか、印加させないかを切り替えることにより移動部材13を移動させて、移動部材13の移動に連動するクラッチ6に動力の伝達を断接させる。これにより、動力伝達システムSは、シフトレバーやプランジャを配置するための空間、プランジャが移動するための空間及びシフトレバーが支点ピンを中心に回転するための空間等が不要になる。その結果、動力を伝達する動力伝達システムSの構成に必要な空間を小さくすることができるので、動力伝達システムSを小型化できる。
【0038】
[第1実施の形態に係る動作制御装置4が実行する処理]
図3は、動作制御装置4が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図3のフローチャートは、動力伝達システムSを搭載する車両が始動している間、繰り返し実行される。
【0039】
動作制御部421は、クラッチ6に動力の伝達を接続させるか否かを判定する(ステップS1)。例えば、動作制御部421は、動力伝達システムSが搭載された車両を制御するECU(Electronic Control Unit)からクラッチ6に動力の伝達を接続させる指示を受けた場合、クラッチ6に動力の伝達を接続させると判定する。また、動作制御部421は、ECUからクラッチ6に動力の伝達を切断させる指示を受けた場合、クラッチ6に動力の伝達を切断すると判定する。
【0040】
動作制御部421は、クラッチ6に動力の伝達を接続する場合(ステップS1でYes)、電源3にコイル14へ電圧を印加させる(ステップS2)。動作制御部421は、クラッチ6に動力の伝達を接続する指示を受けてからクラッチ6に動力の伝達を切断させる指示を受けるまでの間、第1端子31が正極、第2端子32が負極になる電圧を電源3にコイル14へ印加させ続ける。電源3がコイル14へ電圧を印加している間、クラッチ6は、動力の伝達を接続している状態を維持する。
【0041】
動作制御部421は、クラッチ6に動力の伝達を切断させる指示を受けた場合(ステップS1でNo)、電源3にコイル14へ電圧を印加させない(ステップS3)。動作制御部421は、クラッチ6に動力の伝達を切断させる指示を受けたときに電源3に電圧を印加させていたら、電源3にコイル14への電圧の印加を停止させる。電源3がコイル14へ電圧を印加していない場合、ダイヤフラムスプリング65が移動部材13に対して力を加えるので、クラッチ6は、動力の伝達を切断している状態を維持する。
【0042】
[第2実施の形態に係る動力伝達システムS1の構成]
図4及び
図5は、第2実施の形態に係る動力伝達システムS1の構成を説明するための図である。
図4では、モータ1と動力伝達部材の間で動力の伝達が切断されており、
図5で動力の伝達が接続されている。動力伝達システムS1は、第1実施の形態に係る動力伝達システムSと異なり、弾性部材15及びプレート16に替えて、保持部材17を有する。また、移動部材13は、保持部材17が挿入される第1孔181及び第2孔182を有する。
【0043】
保持部材17は、第1孔181又は第2孔182に挿入されることで所定の状態になった固定子12及び移動部材13を保持する。動作制御部421は、図示しないアクチュエータを制御して回転軸5に垂直な方向(紙面上下方向)に保持部材17を移動させて、第1孔181又は第2孔182から保持部材17を引き出したり、第1孔181又は第2孔182に保持部材17を挿入したりする。なお、保持部材17は、回転軸5に垂直な方向に移動し、回転軸5に平行な方向には移動しないように設けられている。
【0044】
動作制御部421は、保持部材17を第1孔181に挿入することで、クラッチ6に動力の伝達を切断させた状態の移動部材13を保持部材17に保持させる。
図4に示すように、保持部材17は、第1孔181に挿入されることで、移動部材13を回転軸5方向に移動できなくして、クラッチ6に動力の伝達を切断させた状態の移動部材13を保持する。
【0045】
動作制御部421は、クラッチ6に動力の伝達を切断させた状態からクラッチ6に動力の伝達を接続させた状態にする場合、保持部材17を第1孔181から引き出す。具体的には、動作制御部421は、アクチュエータを制御して第1孔181に挿入された保持部材17を移動部材13から遠ざかる向きに移動させることで第1孔181から保持部材17を引き出す。
【0046】
動作制御部421は、第1孔181から保持部材17を引き出した後、電源3にコイル14へ第1電圧を印加させることにより、クラッチ6に動力の伝達を接続させる向きに固定子12及び移動部材13を移動させるローレンツ力を生じさせる。具体的には、動作制御部421は、第1端子31が正極、第2端子32が負極になる第1電圧を電源3にコイル14へ印加させることで、クラッチ6から遠ざかる向きに移動部材13を移動させるローレンツ力を生じさせる。動作制御部421は、クラッチ6から遠ざかる向きに移動部材13を移動させることでダイヤフラムスプリング65を解放し、クラッチ6に動力の伝達を接続させる。
【0047】
動作制御部421は、移動部材13がクラッチ6に動力の伝達を接続させる状態になったら、保持部材17を移動部材13に近づく向きに移動させて第2孔182に挿入する(
図5参照)。保持部材17は、第2孔182に挿入されることで、移動部材13を回転軸5方向に移動できなくして、クラッチ6に動力の伝達を接続させた状態の移動部材13を保持する。動作制御部421は、保持部材17を第2孔182に挿入したら、電源3にコイル14への電圧の印加を停止させる。
【0048】
動作制御部421は、クラッチ6に動力の伝達を接続させた状態からクラッチ6に動力の伝達を切断させる場合、保持部材17を第2孔182から引き出す。具体的には、動作制御部421は、アクチュエータを制御して第2孔182に挿入された保持部材17を移動部材13から遠ざかる向きに移動させることで第2孔182から保持部材17を引き出す。
【0049】
動作制御部421は、保持部材17を第2孔182から引き出したら、第1電圧の極性とは逆の極性の第2電圧を電源3にコイル14へ印加させる。具体的には、動作制御部421は、第1端子31が負極、第2端子32が正極になる第2電圧を電源3にコイル14に印加させることにより、クラッチ6に動力の伝達を切断させる向きに固定子12及び移動部材13を移動させるローレンツ力を生じさせる。より具体的には、動作制御部421は、回転軸5方向において移動部材13がクラッチ6に近づく向きに移動部材13を移動させるローレンツ力を生じさせる。動作制御部421は、移動部材13がクラッチ6に動力の伝達を切断させる状態になったらアクチュエータを制御して保持部材17を第1孔181に挿入する。動作制御部421は、保持部材17を第1孔181に挿入したら、電源3にコイル14への電圧の印加を停止させる。
【0050】
このように、クラッチ6に動力の伝達を接続させた状態の移動部材13又はクラッチ6に動力の伝達を切断させた状態の移動部材13を保持部材17が保持することにより、動作制御部421は、移動部材13を保持するために電源3に電圧をコイル14へ印加させ続ける必要がなくなるので、消費電力を低減することができる。
【0051】
(変形例1)
上記の第1及び第2実施の形態においては、クラッチ6は、ダイヤフラムスプリング式クラッチであったが、これに限らず、他のクラッチであってもよい。クラッチ6は、回転軸5方向に移動することで動力の伝達を断接するクラッチであればよく、例えばコイルスプリング式の摩擦クラッチやドッグクラッチであってもよい。
【0052】
(変形例2)
第1実施の形態の動作制御部421は、電源3にコイル14へ電圧を印加させることによりクラッチ6に動力の伝達を接続させ、電源3にコイル14へ電圧を印加させないことによりクラッチ6に動力の伝達を切断させた。これに限らず、動作制御部421は、電源3にコイル14へ電圧を印加させることによりクラッチ6に動力の伝達を切断させ、電源3にコイル14へ電圧を印加させないことによりクラッチ6に動力の伝達を接続させてもよい。この場合、弾性部材15は、引っ張りばねであり、固定子12及び移動部材13に対して回転軸5方向の力を加えることによりクラッチ6に動力の伝達を接続させる。動作制御部421は、第1端子31が負極、第2端子32が正極になる電圧を電源3にコイル14へ印加させることにより、弾性部材15が固定子12及び移動部材13に対して加えている力よりも大きな力で固定子12及び移動部材13移動させてクラッチ6に動力の伝達を切断させる。
【0053】
(変形例3)
動力伝達システムSは、弾性部材15及び保持部材17の両方を有してもよい。この場合、移動部材13は、保持部材17が挿入される保持孔を有する。動作制御部421は、電源3にコイル14へ電圧を印加させて動力の伝達状態を変化させた後、保持部材17を保持孔に挿入する。これにより、動作制御部421は、移動部材13の状態を維持するために電源3に電圧を印加させ続けなくてもよくなるので、消費電力を低減できる。
【0054】
[動力伝達システムSの効果]
以上説明したとおり、動力伝達システムSは、固定子12及び移動部材13を回転子11の回転軸5方向に移動させることで、移動部材13の移動に連動するクラッチを断接できる。そのため、動力伝達システムSは、シフトレバーの回転に必要な空間が不要になるので、クラッチを動作させるシフトレバーを有する構成よりも小型化できる。
【0055】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0056】
S 動力伝達システム
1 モータ
11 回転子
12 固定子
13 移動部材
14 コイル
15 弾性部材
16 プレート
17 保持部材
181 第1孔
182 第2孔
2 ベアリング
3 電源
31 第1端子
32 第2端子
4 動作制御装置
41 記憶部
42 制御部
421 動作制御部
5 回転軸
6 クラッチ
61 クラッチディスク
62 フライホイール
63 クラッチカバー
64 プレッシャープレート
65 ダイヤフラムスプリング
66 接触点
【要約】
【課題】動力を伝達する動力伝達システムを小さくする。
【解決手段】回転子11の外側に設けられて回転子11の回転軸5方向に移動可能な固定子12及び回転子11を含むモータ1と、固定子12に連結されて回転軸5方向に移動可能な移動部材13と、移動部材13の回転軸5方向の移動に連動して、モータ1の回転力が伝達される動力伝達部材と回転子11と間の動力の伝達を断接するクラッチ6と、固定子12及び移動部材13の少なくともいずれかに巻き付けられたコイル14に電圧を印加する電源3と、電源3にコイル14へ電圧を印加させることにより固定子12を回転子11に対して移動させて、クラッチ6に動力の伝達を断接させる動作制御部421と、を有する動力伝達システム。
【選択図】
図1