(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】積層体、シーラントフィルム、包装袋、包装体及び湿熱処理包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20240730BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2023102228
(22)【出願日】2023-06-22
【審査請求日】2024-03-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】永井 暁
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-305767(JP,A)
【文献】特開平08-238733(JP,A)
【文献】特開2019-166715(JP,A)
【文献】特開2007-044930(JP,A)
【文献】国際公開第2023/218968(WO,A1)
【文献】特開2006-116891(JP,A)
【文献】特開2012-006252(JP,A)
【文献】特開平11-293062(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103802389(CN,A)
【文献】国際公開第2023/210278(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/32
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
包装袋に用いられる積層体であって、
基材層とシーラント層とを少なくとも備え、
前記シーラント層のシール面の局所熱分析による表面軟化温度が110℃以上140℃以下であり、
前記シーラント層が、前記シーラント層と同一のシーラント層と121℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合に2.0N/15mm以下の融着強度を有し、
前記シーラント層の厚さが20μm以上であり、
前記基材層及び前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂を含
み、
前記包装袋が80℃以上の加熱処理を施す用途に用いられる、積層体。
【請求項2】
基材層とシーラント層とを少なくとも備える積層体であって、
前記シーラント層のシール面の局所熱分析による表面軟化温度が110℃以上140℃以下であり、
前記シーラント層が、前記シーラント層と同一のシーラント層と121℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合に2.0N/15mm以下の融着強度を有し、
前記基材層及び前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂を含み、
前記積層体に対して0.33MPa、130℃、30分間の条件で加圧及び加熱処理を行った後の前記シール面の局所熱分析による表面軟化温度が140℃以上150℃以下であ
る積層体。
【請求項3】
前記シーラント層が、前記シーラント層と同一のシーラント層と、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合、ヒートシール温度が121℃である場合の融着強度をT1(N/15mm)、ヒートシール温度が128℃である場合の融着強度をT2(N/15mm)とした場合、
T2-T1が10.0N/15mm以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記シール面の全反射赤外線吸収スペクトルにおいて、963cm
-1以上983cm
-1以下の第一領域に現れる吸収ピークのピーク強度をP1、700cm
-1以上750cm
-1以下の第二領域に現れる1つの吸収ピークのピーク強度をP2、前記第二領域に2つ以上の吸収ピークが存在する場合、前記第二領域におけるピーク強度が最も大きい2つの吸収ピークのうち高波数側の吸収ピークのピーク強度をP3、低波数側の吸収ピークのピーク強度をP4とした場合、
ピーク強度比P2/P1若しくはP3/P1が0.15以下、又はP4/P3が1.5以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項5】
前記シーラント層が、前記シーラント層と同一のシーラント層と135℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合、10.0N/15mm以下の融着強度を有する、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項6】
前記積層体にガスバリア層を更に含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の積層体を用い、前記シール面同士をヒートシールして得られる包装袋。
【請求項8】
包装袋に用いられる、ポリプロピレン系樹脂を含むシーラントフィルムであって、
前記シーラントフィルムのシール面の局所熱分析による表面軟化温度が110℃以上140℃以下であり、
前記シーラントフィルムが、前記シーラントフィルムと同一のシーラントフィルムと、121℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールした場合に2.0N/15mm以下の融着強度を有
し、
前記シーラントフィルムの厚さが20μm以上であり、
前記包装袋が80℃以上の加熱処理を施す用途に用いられる、シーラントフィルム。
【請求項9】
包装袋と、前記包装袋内に収容された内容物を備え、
前記包装袋は、請求項1又は2に記載の積層体を用いて形成され、
前記シール面が前記包装袋の内面を構成する、包装体。
【請求項10】
包装袋と、前記包装袋内に収容された内容物を備え、
前記包装袋は、積層体を用いて形成され、
前記積層体は、
基材層とシーラント層とを少なくとも備え、前記シーラント層のシール面の局所熱分析による表面軟化温度が140℃以上150℃以下であり、
前記表面軟化温度が湿熱処理を施した後の表面軟化温度であり、
前記基材層及び前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂を含み、
前記シール面が前記包装袋の内面を構成する、湿熱処理包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体、シーラントフィルム、包装袋、包装体及び湿熱処理包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮したサスティナブル包材のニーズが高まり、リサイクル適性が良好な、同一の材料を含む層の積層体で構成される包装材料(モノマテリアル包材)の開発が進められている。
【0003】
モノマテリアル包材は、同一の材料を含む内層及び外層を有するため、異なる樹脂からなる内層及び外層を備えた積層体で構成される包材(マルチマテリアル包材)に比べて、外層の耐熱性に乏しい。そのため、モノマテリアル包材では、外層には高耐熱化が求められ、内層には低融点化すなわち低温ヒートシール性が求められる。
【0004】
このようなモノマテリアル包材として、例えば、特許文献1には、ベース層及びヒートシール層の2層を有し、ベース層及びヒートシール層がそれぞれプロピレン・ランダム共重合体及び高密度ポリエチレンからなる複合フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の複合フィルムは、低温(155℃未満)でのヒートシール性を有していいても、当該複合フィルムを用いて得られる包装袋に対して、例えば120℃程度の高温でのレトルト処理等の湿熱処理を行うと包装袋の内面(シール面)同士が融着するシール面融着性を有していた。一方、耐シール面融着性を向上させると、低温ヒートシール性を実現できなくなることがあった。
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低温ヒートシール性を有しながら、湿熱処理を行っても優れた耐シール面融着性を有する積層体、シーラントフィルム、包装袋、包装体及び湿熱処理包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、基材層とシーラント層とを少なくとも備え、上記シーラント層のシール面の局所熱分析による表面軟化温度が110℃以上140℃以下であり、上記シーラント層が、上記シーラント層と同一のシーラント層と121℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合に2.0N/15mm以下の融着強度を有し、上記基材層及び上記シーラント層がポリプロピレン系樹脂を含む積層体を提供する。
上記積層体は、低温ヒートシール性を有しながら、湿熱処理を行っても優れた耐シール面融着性を有する。具体的には、上記積層体は、当該積層体を用いて包装袋を作製する場合、積層体のシール面同士を向かい合わせてヒートシールすると、シール面の局所熱分析による表面軟化温度が140℃を超える場合に比べて、低温でヒートシールを行うことができる。また、上記積層体は、当該積層体を用い、シール面同士をヒートシールして包装袋を作製し包装袋内に内容物を収容した包装体に対して湿熱処理を行った場合でも、上記融着強度が2.0N/15mmを超える場合に比べて、シール面同士の融着の発生を抑制できる。
【0008】
上記積層体に対して0.33MPa、130℃、30分間の条件で加熱及び加圧処理を行った後の上記シール面の局所熱分析による表面軟化温度が140℃以上150℃以下であることが好ましい。
この場合、上記積層体は、低温ヒートシール性を有しながら、湿熱処理を行ってもより優れた耐シール面融着性を有する。このため、上記積層体は、当該積層体を用い、シール面同士をヒートシールして包装袋を作製し、包装袋内に内容物を収容した包装体に対して湿熱処理を行った場合でも、シール面同士の融着の発生を十分に抑制できる。
【0009】
上記積層体においては、上記シーラント層が、上記シーラント層と同一のシーラント層と、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合に、ヒートシール温度が121℃である場合の融着強度をT1(N/15mm)、ヒートシール温度が128℃である場合の融着強度をT2(N/15mm)とした場合に、T2-T1が10.0N/15mm以下であることが好ましい。
この場合、積層体は125℃以上の湿熱処理に対しても耐シール面融着性を有する。このため、上記積層体は、当該積層体を用い、シール面同士をヒートシールして包装袋を作製し、包装袋内に内容物を収容した包装体に対して125℃以上で湿熱処理を行った場合であっても、シール面同士の融着の発生を抑制できる。
【0010】
上記シール面の全反射赤外線吸収スペクトルにおいて、963cm-1以上983cm-1以下の第一領域に現れる吸収ピークのピーク強度をP1、700cm-1以上750cm-1以下の第二領域に現れる1つの吸収ピークのピーク強度をP2、上記第二領域に2つ以上の吸収ピークが存在する場合、上記第二領域におけるピーク強度が最も大きい2つの吸収ピークのうち高波数側の吸収ピークのピーク強度をP3、低波数側の吸収ピークのピーク強度をP4とした場合に、ピーク強度比P2/P1若しくはP3/P1が0.15以下、又はP4/P3が1.5以下であることが好ましい。
この場合、積層体は、湿熱処理を行ってもより優れた耐シール面融着性を有する。このため、上記積層体は、当該積層体を用い、シール面同士をヒートシールして包装袋を作製し、包装袋内に内容物を収容した包装体に対して湿熱処理を行った場合でも、シール面同士の融着の発生を効果的に抑制できる。
【0011】
上記シーラント層が、上記シーラント層と同一のシーラント層と135℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合、10.0N/15mm以下の融着強度を有することが好ましい。
この場合、積層体は130℃以上の湿熱処理に対しても耐シール面融着性を有する。このため、上記積層体は、当該積層体を用い、シール面同士をヒートシールして包装袋を作製し、包装袋内に内容物を収容した包装体に対して、130℃以上で湿熱処理を行った場合でも、シール面同士の融着の発生を抑制できる。
【0012】
上記積層体は、更にガスバリア層を含んでいることが好ましい。
この場合、積層体のガスバリア性がより向上する。このため、上記積層体は、当該積層体を用いて包装袋を作製し、包装袋内に内容物を収容して包装体を作製した場合に酸素等のガスによる内容物の劣化を効果的に抑制できる。
【0013】
本開示の他の側面は、上述した積層体を用い、上記シール面同士をヒートシールして得られる、包装袋を提供する。
この包装袋は、低温ヒートシール性を有するとともに、湿熱処理を行ってもシール面同士の融着の発生を抑制できる。
上記包装袋は、80℃以上の加熱処理を施す用途に用いてもよい。
【0014】
本開示のまた他の側面は、ポリプロピレン系樹脂を含むシーラントフィルムであって、上記シーラントフィルムのシール面の局所熱分析による表面軟化温度が110℃以上140℃以下であり、上記シーラントフィルムが、上記シーラントフィルムと同一のシーラントフィルムと121℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合に2.0N/15mm以下の融着強度を有する、シーラントフィルムを提供する。
このシーラントフィルムは、低温でヒートシールされるため、ポリプロピレン系樹脂を含む基材層とともに形成される積層体を用いて包装袋を作製する場合、積層体のシール面同士を向かい合わせてヒートシールすると、積層体を低温でヒートシールすることができる。また、このシーラントフィルムは、ポリプロピレン系樹脂を含む基材層とともに形成される積層体を用い、シール面同士をヒートシールし、シーラントフィルムを内層として備える包装袋を作製する場合、湿熱処理を行ってもシール面同士の融着の発生が抑制できる。
【0015】
本開示のさらに他の側面は、包装袋と、上記包装袋内に収容された内容物を備え、上記包装袋は、上述した積層体を用いて形成され、上記シール面が上記包装袋の内面を構成する、包装体を提供する。
この包装体によれば、湿熱処理を行う場合でも包装袋のシール面同士の融着が発生することを抑制できる。このため、包装体を容易に開封することができる。また包装体を開封した後は、内容物を容易に取り出すことができ、内容物を十分に排出させることができる。その結果、内容物を排出した後に残る包装袋は、高いリサイクル性を有することが可能となる。また、上記包装体によれば、積層体が低温ヒートシール性を有するため、包装袋が形成される際に、積層体中のシーラント層以外の層への熱による劣化を抑制することができる。このため、包装体の内容物の品質の低下を抑制できる。
【0016】
本開示のさらに他の側面は、包装袋と、上記包装袋内に収容される内容物を備え、上記包装袋は、積層体を用いて形成され、上記積層体は、基材層とシーラント層とを少なくとも備え、上記シーラント層のシール面の局所熱分析による表面軟化温度が140℃以上150℃以下であり、上記基材層及び上記シーラント層がポリプロピレン系樹脂を含み、上記シール面が上記包装袋の内面を構成する、湿熱処理包装体を提供する。
この湿熱処理包装体によれば、積層体が湿熱処理により包装袋のシール面同士の融着が発生することを抑制できるものであるため、湿熱処理された包装袋のシール面同士の融着が抑制される。このため、湿熱処理包装体を容易に開封することができる。また湿熱処理包装体を開封した後は、内容物を容易に取り出すことができ、内容物を十分に排出させることができる。その結果、内容物を排出した後に残る包装袋は、高いリサイクル性を有することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、低温ヒートシール性を有しながら、湿熱処理を行っても優れた耐シール面融着性を有する積層体、シーラントフィルム、包装袋、包装体及び湿熱処理包装体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は本開示の積層体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は本開示の包装体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、シーラント層の融着強度の測定に用いるシール体を示す平面図である。
【
図4】
図4は本開示の湿熱処理包装体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示における実施形態について説明する。なお、同一の構成要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面中の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0020】
[積層体]
まず、本開示の積層体の実施形態について
図1を参照しながら説明する。
図1は、本開示の積層体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、積層体100は、基材層10とシーラント層30とを少なくとも備える。シーラント層30における基材層10と反対側の面がシール面30aである。
基材層10及びシーラント層30はポリプロピレン系樹脂を含む。
シーラント層30においては、シール面30aの局所熱分析による表面軟化温度は110℃以上140℃以下である。
また、シーラント層30は、シーラント層30と同一のシーラント層と、121℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合に2.0N/15mm以下の融着強度を有する。
【0021】
積層体100は、基材層10とシーラント層30との間に中間層20を更に備えてもよい。積層体100は、必要に応じて印刷層をさらに備えてもよい。
【0022】
積層体100は、低温ヒートシール性を有しながら、湿熱処理を行っても優れた耐シール面融着性を有する。具体的には、積層体100は、積層体100を用いて包装袋を作製する場合、積層体100のシール面30a同士を向かい合わせてヒートシールすると、シール面30aの局所熱分析による表面軟化温度が140℃を超える場合に比べて、低温でヒートシールを行うことができる。また、積層体100は、積層体100を用い、シール面30a同士をヒートシールして包装袋を作製し包装袋内に内容物を収容した包装体に対して湿熱処理を行った場合でも、上記融着強度が2.0N/15mmを超える場合に比べて、シール面30a同士の融着の発生を抑制できる。
【0023】
以下、積層体100、基材層10、シーラント層30、中間層20及び印刷層について詳細に説明する。
【0024】
(積層体)
積層体100中のポリプロピレン系樹脂の含有率は、特に制限されるものではないが、72質量%以上であることが好ましい。この場合、積層体100のリサイクル性を向上させることができる。リサイクル性をより向上させる観点から、積層体100におけるポリプロピレン系樹脂の含有率は、92質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0025】
(基材層)
基材層10は、シーラント層30を支持する層であり、ポリプロピレン系樹脂を含む。
【0026】
基材層10に含まれるポリプロピレン系樹脂は、プロピレンを構成単位として含む樹脂で構成される。ポリプロピレン系樹脂として、ホモポリプロピレン、プロピレンとエチレン又はブテンなどのα-オレフィンとが共重合して得られるプロピレン共重合体、及びエチレンプロピレンゴム等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
プロピレン共重合体としては、例えば、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-エチレンターポリマーなどが挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレンとエチレンプロピレンゴムとの混合物であるブロックポリプロピレンであってもよい。
【0027】
基材層10は、無延伸フィルムでも延伸フィルムでもよい。延伸フィルムは、一軸延伸フィルムでも二軸延伸フィルムでもよい。また基材層10は、延伸フィルムと無延伸フィルムとを含む積層体であってもよい。
基材層10は、二軸延伸フィルムを有することが好ましい。この場合、積層体100の機械強度及び寸法安定性を向上することができる。
【0028】
基材層10のシーラント層30側の表面には、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、フレーム処理などの各種前処理が施されたり、易接着層などのコート層が設けられたりしてもよい。
基材層10は、ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂を含んでもよい。このような樹脂としては、例えばポリエチレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂が挙げられる。
基材層10は、必要に応じて、フィラー、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、及び酸化防止剤等から選ばれる少なくとも一種の添加剤を含有してもよい。
【0029】
(シーラント層)
シーラント層30は、積層体100においてヒートシールによる封止性を付与する層であり、ポリプロピレン系樹脂を含む。ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンを構成単位として含む樹脂を含有する。ポリプロピレン系樹脂として、ホモポリプロピレン、プロピレンとエチレン又はブテンなどのα-オレフィンとが共重合して得られるプロピレン共重合体、及びエチレンプロピレンゴム等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
プロピレン共重合体としては、例えば、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-エチレンターポリマーなどが挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレンとエチレンプロピレンゴムとの混合物であるブロックポリプロピレンであってもよい。
【0030】
シーラント層30は、無延伸フィルムでも延伸フィルムでもよいが、ヒートシール温度を低下させ、かつ、ヒートシールによる封止性を高める観点からは、無延伸フィルムであることが好ましい。
【0031】
シーラント層30は、単層で構成されても、複数の層の積層体で構成されてもよい。
【0032】
シーラント層30の厚さは例えば、20μm以上、60μm以上又は100μm以上でよい。
シーラント層30の厚さは、150μm以下、100μm以下又は60μm以下でよいが、100μm以下であることが好ましい。シーラント層30の厚さが100μm以下であることで、ヒートシールに必要な熱量を抑えやすく、積層体100中の基材層10及び中間層20への熱によるダメージを軽減しやすい。
【0033】
(1)シール面の表面軟化温度
(1-1)表面軟化温度B
シール面30aの局所熱分析による表面軟化温度(以下「表面軟化温度B」ともいう)は、上述したとおり、110℃以上140℃以下である。表面軟化温度Bが110℃以上であると、表面軟化温度Bが110℃未満である場合と比べて、湿熱処理を行ってもより優れた耐シール面融着性を有するという利点が得られる。また表面軟化温度Bが140℃以下であると、表面軟化温度Bが140℃を超える場合に比べて、低温でヒートシールを行うことができる。
表面軟化温度Bは、115℃以上、120℃以上、又は125℃以上であってもよい。
表面軟化温度Bは、138℃以下、135℃以下、133℃以下又は130℃以下であってもよい。
【0034】
例えば、シーラント層30に用いるポリプロピレン系樹脂がホモポリプロピレンもしくはブロックポリプロピレンなどを含むことで、高い表面軟化温度Bを有するシーラント層30が得られる。他方、ポリプロピレン系樹脂がランダムポリプロピレンもしくはエラストマーなどを含むことで、低い表面軟化温度Bを有するシーラント層30が得られる。したがって、ポリプロピレン系樹脂の種類及び配合割合を適宜調整することで、シーラント層30の表面軟化温度Bを所望の値に調整することができる。
【0035】
表面軟化温度は、樹脂などの物質が軟化の挙動を示す温度のことである。本実施形態での表面軟化温度Aは、原子間力顕微鏡(AFM)を用い、シーラント層30のシール面30aに対して局所熱分析(LTA)を行うことで測定される。
表面軟化温度Aは、具体的には以下のようにして算出される。
まずシーラント層30を用意する。このとき、シーラント層30それ自体を用意してもよく、シーラント層30に基材層10等の別フィルムを貼り付けて得られる積層体を用意してもよい。
表面軟化温度Aを測定するために、シーラント層30の加熱が行われるが、この加熱は、ヒーターを有するカンチレバーに電圧を印加することで行う。局所熱分析(LTA)ではシーラント層30の表面(シール面30a)の形状測定を行ったのち、シーラント層30の表面の所定箇所にカンチレバーで一定の力(触圧)を加え、触圧を一定に保ったまま加熱を行い、加熱前後のシール面30aの硬度変化によりカンチレバーの高さ位置(Z変位)の変化が生じる温度を表面軟化温度として算出する。カンチレバーの高さ位置の変化とは、シール面30aの熱膨張によるカンチレバーの垂直方向の位置上昇と、シール面30aの軟化によるカンチレバーの垂直方向の位置下降による変化をいう。このようなカンチレバーの高さ位置の変化が生じる際のカンチレバーのヒーターの印加電圧を表面軟化温度に換算することで、ナノスケール領域の局所的、且つ表面近傍の軟化温度を知ることができる。
【0036】
カンチレバーのヒーターへの印加電圧を軟化温度に換算するため、印加電圧と温度の校正曲線の作成を行う。校正用サンプルとしては、融点が互いに50℃以上異なる高分子材料4種を用いる。これら高分子材料としては、融点がシーラント層30の表面軟化温度以上である材料、および、融点が表面軟化温度以下である材料が用いられる。校正用サンプルは、予め示差走査熱量計(DSC)により融点(融解ピーク温度)を測定し、融点を校正用サンプルの表面軟化温度とする。各校正用サンプルにおいて測定位置を変えて局所熱分析を行い、得られた軟化地点の印加電圧の平均値と校正用サンプルの軟化温度(DSC測定の融点)を最小二乗法により3次関数で近似した検量線を作成して、この検量線を校正曲線とする。
【0037】
この印加電圧と温度の校正曲線を用いて、軟化地点の印加電圧に対応する温度を求め、この温度を表面軟化温度とする。こうして表面軟化温度が算出される。
【0038】
(1-2)表面軟化温度A
シーラント層30においては、0.33MPa、130℃、30分間の条件で加圧及び加熱処理を行った後のシール面30aにおける局所熱分析による表面軟化温度(以下「表面軟化温度A」ともいう)は140℃以上150℃以下であることが好ましい。
表面軟化温度Aが150℃以下であることで、積層体100は、低温ヒートシール性を有することができる。また、上記表面軟化温度Aが140℃以上であることで、湿熱処理を行ってもより優れた耐シール面融着性を有することができる。このため、積層体100は、積層体100を用い、シール面30a同士をヒートシールして包装袋を作製し、包装袋内に内容物を収容した包装体に対して湿熱処理を行った場合でも、シール面30a同士の融着の発生を十分に抑制できる。
表面軟化温度Aは143℃以上、145℃以上又は146℃以上であってもよい。
また、表面軟化温度Aは、149℃以下又は148℃以下であってもよい。
表面軟化温度Aは、表面軟化温度Bと同様にして測定することができる。
【0039】
なお、上記加圧及び加熱処理は、湿熱処理における熱による、シーラント層30への影響を模擬的に再現する処理である。
【0040】
(2)融着強度
シーラント層30は、シーラント層30と同一のシーラント層と、121℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合に2.0N/15mm以下の融着強度T1を有する。上記融着強度T1が2.0N/15mm以下であることで、積層体100は、積層体100を用い、シーラント層30のシール面30a同士をヒートシールして包装袋を作製し、包装袋内に内容物を収容した包装体に対して湿熱処理を行った場合でも、シール面30a同士の融着の発生を抑制できる。
融着強度T1は、1.8N/15mm以下であってもよく、1.6N/15mm以下であってもよい。
融着強度T1は0N/15mmであってもよく、0N/15mmより大きくてもよい。融着強度は、0.1N/15mm以上、0.3N/15mm以上又は0.5N/15mm以上でもよい。
シーラント層30と同一のシーラント層とは、シーラント層30と構成材料及び厚さが同一であるシーラント層をいう。
【0041】
シーラント層30が、シーラント層30と同一のシーラント層と128℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合の融着強度をT2(N/15mm)とした場合、T2-T1は特に制限されるものではないが、好ましくは10.0N/15mm以下であり、より好ましくは8N/15mm以下であり、特に好ましくは6N/15mm以下である。T2-T1が10.0N/15mm以下であると、積層体100は、125℃以上の湿熱処理に対しても耐シール面融着性を有する。このため、積層体100は、積層体100を用い、シール面30a同士をヒートシールして包装袋を作製し、包装袋内に内容物を収容した包装体に対し125℃以上で湿熱処理を行った場合であっても、シール面30a同士の融着の発生を抑制できる。
T2-T1は、0N/15mmであっても、0N/15mmより大きくてもよい。T2-T1は、0N/15mmより大きい場合、0.1N/15mm以上、0.5N/15mm以上、又は1.0N/15mm以上であってもよい。
【0042】
シーラント層30は、シーラント層30と同一のシーラント層と135℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合、10.0N/15mm以下の融着強度T3を有することが好ましい。
この場合、積層体100は130℃以上の湿熱処理に対しても耐シール面融着性を有する。このため、積層体100は、積層体100を用い、シール面30a同士をヒートシールして包装袋を作製し、包装袋内に内容物を収容した包装体に対して、130℃以上で湿熱処理を行った場合でも、シール面30a同士の融着の発生を抑制できる。
融着強度T3は、8.0N/15mm以下、又は5.0N/15mm以下であってもよい。
融着強度T3は1.0N/15mm以上又は2.0N/15mm以上であってもよい。
【0043】
融着強度は、T字剥離試験によって測定される。以下、融着強度の測定方法について
図3を参照しながら説明する。
図3は、シーラント層の融着強度の測定に用いるシール体を示す平面図である。
まず、測定に用いるシーラント層からなるフィルムを2枚用意する。
図3に示すように、フィルムはいずれも、フィルム成形時の流れ方向(MD方向)の長さが60mm、フィルム成形時のMD方向と垂直な方向(TD方向)の長さが120mmとなるように用意する。そして、2枚のフィルムを重ね合わせ、TD方向の縁部600aから10mmの幅の領域を、0.05MPaで30秒間加圧しながら所定のヒートシール温度(121℃、128℃又は135℃)で加熱することによってヒートシールを行い、斜線で示されるヒートシール部610を形成する。こうして、シール体600が得られる。なお、ヒートシール部610は、MD方向の長さが10mm、TD方向の長さが120mmとなる領域である。
次に、シール体600から、
図3の破線で示される部分620を切り取り、TD方向の幅が15mm、MD方向の長さが60mmの試験片を得る。
最後に、試験片を用い、T字剥離試験を行う。T字剥離試験は、JIS K 6854-3に準拠して行う。そして、試験片のヒートシール部が剥離したときの引張強度を、そのヒートシール部のヒートシール条件における融着強度とする。こうして融着強度が測定される。
【0044】
(3)全反射赤外線吸収スペクトルにおけるピーク強度比
シール面30aの全反射赤外線吸収スペクトルを測定すると、シーラント層30がポリプロピレン系樹脂(例えばランダムポリプロピレン共重合体)を含むことで、963cm―1以上983cm―1以下の第一領域にポリプロピレン系樹脂のメチル基に由来する1つの吸収ピークが現れる。
また、シーラント層30に含まれるポリプロピレン系樹脂がメチレン基を含む場合、700cm―1以上750cm―1以下の第二領域にそのメチレン基に由来する吸収ピークが現れる。この吸収ピークは、シーラント層30中のポリエチレン系樹脂の含有量が増加するか、ポリプロピレン系樹脂の種類が例えばブロックポリプロピレンになると、結晶性の変化により、2本の吸収ピークに分裂する。
ここで、第一領域に現れる吸収ピークのピーク強度をP1、第二領域に現れる吸収ピークが1つである場合、その吸収ピークのピーク強度をP2、第二領域に2つ以上の吸収ピークが現れる場合、第二領域における最も大きい2つの吸収ピークのうち、高波数側の吸収ピークのピーク強度をP3、低波数側の吸収ピークのピーク強度をP4とすると、ピーク強度比P2/P1は0.15以下、P3/P1は0.15以下、又はP4/P3は1.5以下であることが好ましい。
この場合、積層体100は、湿熱処理を行ってもより優れた耐シール面融着性を有する。このため、積層体100は、積層体100を用い、シール面30a同士をヒートシールして包装袋を作製し、包装袋内に内容物を収容した包装体に対して湿熱処理を行った場合でも、シール面30a同士の融着の発生を効果的に抑制できる。
【0045】
P2/P1又はP3/P1は好ましくは0.15以下であり、より好ましくは0.13以下である。この場合、P2/P1又はP3/P1が0.15を超える場合に比べて、高温で湿熱処理を行っても、シール面30a同士の融着の発生をより効果的に抑制できる。
P2/P1又はP3/P1は0.04以上であってもよく、0.06以上であってもよい。
【0046】
P4/P3は1.2以下であることが好ましい。
P4/P3は0.5以上でもよく、1.0以上でもよい。
【0047】
なお、全反射赤外線吸収スペクトルは、プリズムを通じて赤外光をシーラント層30のシール面30aに照射し、シーラント層30とプリズムとの界面で全反射した光を測定することによって得られる赤外線吸収スペクトルである。
各吸収ピークのピーク強度は、上記のようにして測定された全反射赤外線吸収スペクトルにおいて、吸収ピークの極大点における強度とベースラインにおける強度との差をいう。
【0048】
シーラント層30が、ホモポリプロピレンを多く含む場合、又はプロピレン共重合体を含みかつプロピレン共重合体中にプロピレンを多く含む場合、シーラント層30中のメチル基の割合が多くなるため、P1の値が大きくなる傾向がある。
一方、シーラント層30が、例えばポリエチレン又はエチレンを構成単位に含むランダポリプロピレン等の、メチレン基を含みかつ結晶化度の低い材料を多く含む場合、第二領域の吸収ピークは分裂しにくくなる。このとき、シーラント層30中のポリエチレンまたはプロピレン共重合体中のエチレンの割合が多いほど、P2の値が大きくなる傾向がある。
また、シーラント層30が、例えばブロックポリプロピレン等の、メチレン基を含みかつ結晶化度の高い材料を多く含む場合、第二領域の吸収ピークは分裂しやすくなる。このとき、シーラント層30中のブロックポリプロピレンの割合が多いほど、P3及びP4の値が大きくなり、特にP4の値が大きくなる。
したがって、シーラント層30に含まれるポリプロピレン系樹脂の種類やポリエチレン系樹脂の配合割合を適宜調整することで、ピーク強度比P1/P2、P3/P2、及び、P3/P4を所望の値に調整することができる。
【0049】
(中間層)
中間層20は、例えばガスバリアフィルムであってよい。積層体100が中間層20としてガスバリアフィルムを備えることで、積層体100を用いて包装袋を作製し、包装袋内に内容物を収容して包装体を作製した場合に酸素等のガスによる内容物の劣化を効果的に抑制できる。
ガスバリアフィルムは、ガスバリア層を含む。
ガスバリア層は、無機化合物で構成される蒸着層を含んでよい。
【0050】
蒸着層を構成する無機化合物としては、SiOX及びAlOXなどが挙げられる。
ガスバリア層として、例えばSiOXを用いる場合、ガスバリア層が透明となるため、包装袋の外側から内容物を視認することが可能である。
蒸着層は、SiOXやAlOXなどの無機化合物を、真空蒸着法を用いて形成することができる。蒸着層の厚さは例えば15~30nmでよい。
ガスバリアフィルムは、ガスバリア層を含んでいればよく、ガスバリア層のみで構成されても、樹脂フィルム(プラスチックフィルム)、アンカーコート層及びガスバリア層をこの順に含んで構成されてもよい。
ここで、ガスバリア層は、樹脂フィルムよりも基材層10側又はシーラント層30側のいずれに設けられてもよい。
【0051】
ガスバリア層は、蒸着層のみで構成されてもガスバリア性を有するが、蒸着層の上にさらにコーティング層を重ねて形成してなる複合層で構成されることが好ましい。
【0052】
ガスバリア層が複合層で構成されることにより、ガスバリア層において、蒸着層とコーティング層との界面に両層の反応層が生じるか、或いはコーティング層が蒸着層に生じるピンホール、クラック、粒界などの欠陥又は微細孔を充填又は補強することによって緻密構造が形成される。そのため、コーティング層と蒸着層を複合した複合層で構成されるガスバリア層は、より高いガスバリア性、耐湿性及び耐水性を実現するとともに、外力による変形に耐えられる可撓性を有するため、積層体100に対して包装材料としての適性を付与することができる。
【0053】
コーティング層は、例えば蒸着層の上にコーティング剤を塗布し、加熱乾燥するコーティング法により形成することができる。コーティング剤は、水溶性高分子と、一種以上のアルコキシド、その加水分解物、又は塩化錫のうち、少なくともいずれかひとつを含む水溶液又は水/アルコール混合水溶液を主剤とすることができる。コーティング剤はさらに、シランモノマーを含んでもよい。この場合、コーティング層と蒸着層との密着性の向上を図ることができる。
【0054】
上記アンカーコート層は、例えばウレタンアクリレートなどの硬化性化合物(樹脂)を用いて形成することができる。アンカーコート層は、硬化性化合物を溶媒に溶解した塗料を、グラビアコーティングなどの印刷手法を応用したコーティング方法又は一般に知られているコーティング方法を用いてコーティングすることによって形成することができる。
【0055】
上記樹脂フィルムは、樹脂を含んでいればよい。樹脂は、特に制限されるものではないが、ポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。樹脂フィルムの樹脂がポリプロピレン系樹脂であることで、積層体100は、より一層、リサイクル性の高いものとなる。
樹脂フィルムは、無延伸フィルムでも延伸フィルムでもよいが、耐熱性及び寸法安定性の観点からは、延伸フィルムであることが好ましい。
延伸フィルムは、一軸延伸フィルムでも二軸延伸フィルムでもよい。延伸フィルムが二軸延伸フィルムである場合、積層体100の強度及び透明性がより向上する。
樹脂フィルムの厚さは、積層体100の使用用途によって適宜設定すればよく、10μm以上であってよく、15μm以上であってもよい。
樹脂フィルムの厚さは、40μm以下、又は25μm以下であってよい。
中間層20は、ガスバリア層の代わりに接着層であってもよく、接着層をさらに備えてもよい。
【0056】
(印刷層)
積層体100は、既に述べたとおり、印刷層を備えてもよい。
印刷層は、基材層10の少なくとも一方の表面上、又は、中間層20の少なくとも一方の表面上に設けることができる。
印刷層は、内容物に関する情報の表示、内容物の識別、隠蔽性の向上、あるいは包装袋の意匠性向上を目的として、積層体100の外側から見える位置に設けられる。
印刷インキは特に制限されず、既知の印刷インキの中から積層体100中の他の層への印刷適性、色調などの意匠性、密着性、食品容器としての安全性などを考慮して適宜選択される。
印刷方法も特に制限されず、既知の印刷方法の中から適宜選択される。印刷方法としては、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法などを用いることができる。中でもグラビア印刷法は生産性や絵柄の高精細度の観点から、好ましく用いることができる。
【0057】
[シーラントフィルム]
次に、本開示のシーラントフィルムの実施形態について説明する。
本開示のシーラントフィルムは、上述したシーラント層30で構成される。すなわち、シーラントフィルムは、ポリプロピレン系樹脂を含み、シール面30aを有しており、シール面30aの局所熱分析による表面軟化温度が110℃以上140℃以下であり、121℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合に2.0N/15mm以下の融着強度を有している。
【0058】
このシーラントフィルムは、低温でヒートシールされるため、ポリプロピレン系樹脂を含む基材層とともに形成される積層体を用いて包装袋を作製する場合、積層体のシール面同士を向かい合わせてヒートシールすると、積層体を低温でヒートシールすることができる。また、このシーラントフィルムは、ポリプロピレン系樹脂を含む基材層とともに形成される積層体を用い、シール面同士をヒートシールし、シーラントフィルムを内層として備える包装袋を作製する場合、湿熱処理を行ってもシール面30a同士の融着の発生が抑制できる。
【0059】
[包装体]
次に、本開示の包装体の実施形態について
図2を参照しながら説明する。
図2は、本開示の包装体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、包装体500は、包装袋400と包装袋400内に収容された内容物Cとを備える。包装袋400は、積層体100を用いて形成されており、シール面30aが包装袋400の内面を構成している。具体的には、包装袋400は、2つの積層体100を、シール面30a同士を向かい合わせて重ね合わせ、シール面30aの周縁部同士をヒートシールすることにより形成されている。したがって、包装袋400は、内容物Cが収容されている本体部401と、本体部401を包囲するシール部402とを備えている。
【0060】
包装体500は、湿熱処理により包装袋のシール面30a同士の融着が発生することを抑制できる。このため、包装袋400の向かい合うシール面30aを互いに対して離れる方向に引き離すことによって包装体500を開封する際に、包装体500を容易に開封することができる。また、シール部402の一部を切り取って開口部を形成することにより包装体500を開封した後は、開口部を通して内容物Cを容易に取り出すことができ、内容物Cを十分に排出させることができる。その結果、内容物Cを排出した後に残る包装袋400は、高いリサイクル性を有することが可能となる。
また、包装体500によれば、積層体100が低温ヒートシール性を有するため、包装袋400が形成される際に、積層体100中のシーラント層30以外の層(基材層10又は中間層20)への熱による劣化を抑制することができる。このため、包装体500の内容物Cの品質の低下を抑制できる。
【0061】
(内容物)
内容物Cは特に限定されないが、内容物Cとしては、例えば食品、医薬品などが挙げられる。内容物Cが食品である場合、包装体500は、包装体500の開封後、内容物Cを容易に取り出すことができ、内容物Cを十分に排出させることができる。このため、包装体500は、フードロスを削減することも可能になる。
【0062】
(包装袋)
本実施形態では、包装袋400は、内容物Cが収容されている本体部401と、本体部401を包囲するシール部402とを備えている。すなわち、包装袋400は、四方パウチで構成されている。
包装袋400を構成する2つの積層体100は、互いに異なる材料で構成されたものでよく、厚みや形状等が互いに異なるものであってもよい。
包装袋400は、四方パウチに特に限定されず、包装袋の用途に合わせて適宜選択することができる。包装袋400は、例えば、三方パウチ、ピロー袋、スタンディングパウチ、ガゼット袋、スパウト付き袋などであってもよい。
なお、包装袋400は、3つ以上の積層体100で構成されたものでもよい。このとき、包装袋400を構成する複数の積層体100は、互いに異なる材料で構成されたものでよく、厚みや形状等が互いに異なるものであってもよい。
【0063】
包装袋400は、80℃以上の加熱処理を施す用途に用いてもよい。加熱処理としては、レトルト処理、ボイル処理等の湿熱処理が挙げられる。
【0064】
[湿熱処理包装体]
次に、本開示の湿熱処理包装体の実施形態について
図4を参照しながら説明する。
図4は、本開示の湿熱処理包装体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図4に示すように、湿熱処理包装体700は、包装袋900と、包装袋900内に収容された内容物Cとを備える。包装袋900は、積層体800を用いて形成されており、シール面830aが包装袋900の内面を構成している。具体的には、包装袋900は、2つの積層体800を、シール面830a同士を向かい合わせて重ね合わせ、シール面830aの周縁部同士をヒートシールした後、湿熱処理することにより形成されている。
湿熱処理としては、例えばレトルト処理及びボイル処理が挙げられる。レトルト処理は、例えば0.33MPa、130℃、30分間の条件での加圧及び加熱処理であり、ボイル処理は、例えば80℃、45分間の条件での加熱処理である。
積層体800は、基材層10とシーラント層830とを備え、シーラント層830のシール面830aの局所熱分析による表面軟化温度が140℃以上150℃以下であり、シーラント層830がポリプロピレン系樹脂を含み、シール面830aが包装袋900の内面を構成する。シール面830aは、シーラント層830のうち基材層10と反対側の面である。
この湿熱処理包装体700によれば、積層体800が湿熱処理により包装袋900のシール面830a同士の融着が発生することを抑制できるものであるため、レトルト処理された包装袋900のシール面830a同士の融着が抑制される。このため、湿熱処理包装体700を容易に開封することができる。また湿熱処理包装体700を開封した後は、内容物Cを容易に取り出すことができ、内容物Cを十分に排出させることができる。その結果、内容物Cを排出した後に残る包装袋900は、高いリサイクル性を有することが可能となる。
【0065】
表面軟化温度は143℃以上、145℃以上又は146℃以上であってもよい。
また、表面軟化温度は、149℃以下又は148℃以下であってもよい。
表面軟化温度は、表面軟化温度Aと同様にして測定することができる。
【0066】
包装袋900を構成する2つの積層体800は、互いに異なる材料で構成されたものでよく、厚みや形状等が互いに異なるものであってもよい。
包装袋900は、四方パウチに特に限定されず、包装袋の用途に合わせて適宜選択することができる。包装袋900は、例えば、三方パウチ、ピロー袋、スタンディングパウチ、ガゼット袋、スパウト付き袋などであってもよい。
なお、包装袋900は、3つ以上の積層体800で構成されたものでもよい。このとき、包装袋900を構成する複数の積層体800は、互いに異なる材料で構成されたものでよく、厚みや形状等が互いに異なるものであってもよい。
【実施例】
【0067】
以下、本開示の実施例について具体的に説明する。ただし、本開示の形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
先ず、樹脂フィルムとして、厚さが20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP2)(フタムラ化学株式会社製、商品名「FOR」)を準備した。
次に、樹脂フィルムの片側の表面上に、真空蒸着装置により蒸着膜を形成した。こうしてガスバリアフィルムを得た。
【0069】
次に、ガスバリアフィルムの蒸着層側の表面上に、ポリウレタン系接着剤を塗工し、この接着剤を用いて、基材層として、厚さが20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP1)(フタムラ化学株式会社製、商品名「FOR」)を貼り合わせた。このとき、ポリウレタン系接着剤としては、三井化学株式会社製の製品名「タケラックA626/タケネートA50」を用いた。
【0070】
次に、ガスバリアフィルムの蒸着層とは反対側の表面に、上記ポリウレタン系接着剤を塗工し、この接着剤を介して、シーラント層として、厚さ60μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)を貼り合せた。こうして積層体(基材層/蒸着層/樹脂フィルム/シーラント層)を作製した。
【0071】
上記シーラント層について、シール面の表面軟化温度B(加圧及び加熱処理前)、表面軟化温度A(加圧及び加熱処理後)、121℃における融着強度T1、128℃における融着強度T2、135℃における融着強度T3、T2-T1、全反射赤外線吸収スペクトルを、後述するようにして算出又は測定したところ、表面軟化温度B、A、融着強度T1、T2、T3、T2-T1、ピーク強度比P2/P1、P3/P1及びP4/P3は、表1に示すとおりであった。
【0072】
(実施例2~9及び比較例2~3)
シーラント層として、厚さ、表面軟化温度B、A、融着強度T1、T2、T3、T2-T1、ピーク強度比P2/P1、P3/P1及びP4/P3が表1に示した値を有するCPPフィルムを用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0073】
(比較例1)
シーラント層として、厚さ、表面軟化温度B、A、融着強度T1、T2、T3、T2-T1、ピーク強度比P2/P1、P3/P1及びP4/P3が表1に示した値を有するCPPフィルム(商品名「トレファン(登録商標)NO ZK207」、東レフィルム加工株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0074】
(1)表面軟化温度
シーラント層のシール面の表面軟化温度B,Aを以下のようにして算出した。
【0075】
(1-1)表面軟化温度B
まず、原子間力顕微鏡(AFM)としてオックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製のMFP-3D-SA(商品名)、局所熱分析オプションとしてZthermシステム(商品名)、カンチレバーとして、ばね定数:0.5~3.5N/mの仕様のアナシス・インスツルメンツ社製のAN2-200(商品名)を含む表面軟化温度測定装置を用意した。
一方、積層体の作製に使用するシーラント層としてのシーラントフィルムを用意した。
そして、上記表面軟化温度測定装置を用いて、シーラントフィルムのシール面について表面軟化温度測定とシール面の形状測定を行った。測定モードは、シール面の形状測定ではACモード(タッピングモード)とし、表面軟化温度測定ではコンタクトモードとした。表面軟化温度測定は、シール面の中央部(対角線の交点)を含む10μm×10μmの領域について行った。
【0076】
このとき、カンチレバーの触圧(カンチレバーのたわみ量(Deflection)の変化量)の設定に際して、Deflection電圧の変化量を0.2Vとし、電圧印加速度(昇温速度)を0.5V/秒、最大印加電圧を5.5Vとして、Detrend補正後にシール面を加熱した。そして、シール面が膨張し、カンチレバー位置が上昇した後、シール面を更に加熱することでシール面が軟化し、カンチレバー位置が10nm下降した時点で測定を終了させた。カンチレバーの垂直方向の高さ(Z変位)が変化点から50nm下降せずに最大印加電圧に達した場合は、Detrend補正時と測定時の最大印加電圧を0.5V昇圧して再度測定を実施した。
【0077】
カンチレバーの垂直方向の高さ(Z変位)が最大の地点の印加電圧を軟化地点の印加電圧とし、電圧値を読み取った。
【0078】
シーラント層の表面軟化温度を算出するため、シーラント層の測定条件に合わせた校正曲線の作成を行った。校正用サンプルとしては、予め示差走査熱量計(DSC)により融点(融解ピーク温度)を測定した下記4種の高分子材料とし、それぞれガラス転移温度以下の環境で作製した試料を用いた。
・ポリカプロラクトンのペレット(融点:60℃)
・低密度ポリエチレンのペレット(融点:112℃)
・ポリプロピレンのペレット(融点:166℃)
・ポリエチレンテレフタレートの二軸延伸フィルム(融点:255℃)
測定条件は、電圧印加速度(昇温速度)を0.5V/秒、最大印加電圧をポリカプロラクトンについては3.5V、低密度ポリエチレンについては5V、ポリプロピレンについては6V、ポリエチレンテレフタレートについては7.8Vとした。カンチレバーの触圧(カンチレバーのたわみ量(Deflection)の変化量)の設定に際して、Deflection電圧の変化量を0.2Vとし、Detrend補正後にシール面を加熱して軟化地点の印加電圧の測定を行った。校正用サンプルの測定位置を変えて軟化地点の印加電圧を10回測定し、軟化地点の印加電圧の平均値とDSC測定の融点(融解ピーク温度)を最小二乗法により3次関数で近似した検量線を作成し、この検量線を校正曲線とした。
【0079】
印加電圧と温度の校正曲線を用いて、シール面の軟化地点の印加電圧に対応する温度を求め、この温度を表面軟化温度Bとした。結果を表1に示す。
【0080】
(1-2)表面軟化温度A
まず、実施例及び比較例で用いられるシーラント層としてのCPPフィルムから、120mm(MD方向)×120mm(TD方向)のサイズのシーラントフィルムを2枚用意した。
次に、2枚のシーラントフィルムのシール面同士を向かい合わせ、3辺をヒートシールすることで、開口部を有する包装袋を作製した。
次に、包装袋の開口部から、包装袋内に150mLの水を充填し、開口部を塞ぐようにヒートシールして密封することで、包装体を作製した。
次に、作製した包装体を、0.33MPaの環境下で、30分間、130℃の水をスプレーで噴射することで加熱し、さらに0.33MPaの環境下で、10分間、40℃の水をスプレーで噴射することで冷却した。
最後に、包装体のシール部分を切り取り、水を排出した後、シール面を乾燥させた。
こうして加熱及び加圧処理を行ったシーラントフィルムを用意した。
そして、この加熱及び加圧処理を行った後のシーラントフィルムについて、表面軟化温度Bと同様にして表面軟化温度Aを算出した。結果は表1に示すとおりである。
【0081】
(2)融着強度
融着強度は、T字剥離試験によって測定した。
具体的には、まず、測定に用いるシーラント層からなるフィルムを2枚用意した。フィルムのサイズはいずれも、60mm(MD方向)×120mm(TD方向)とした。そして、2枚のフィルムを重ね合わせ、TD方向の縁部600aから10mmの幅の領域を、0.05MPaで30秒間加圧しながら所定のヒートシール温度(121℃、128℃又は135℃)で加熱することによってヒートシールを行い、
図3の斜線で示される、10mm(MD方向)×120mm(TD方向)のヒートシール部を形成した。こうしてシール体を得た。
次に、シール体から、
図3の破線で示される部分620を切り取り、15mm(TD方向)×60mm(MD方向)のサイズの試験片を得た。
最後に、試験片を用い、T字剥離試験を行った。T字剥離試験は、JIS K 6854-3に準拠し、以下の試験条件で行った。そして、試験片のヒートシール部が剥離したときの引張強度を、そのヒートシール部のヒートシール条件における融着強度とした。こうして融着強度を測定した。結果は表1に示すとおりである。
(試験条件)
・チャック間距離:15mm
・引張速度300mm/min
・引張方向:MD方向
【0082】
(3)ピーク強度比P2/P1、P3/P1、P4/P3
ピーク強度比P2/P1、P3/P1、P4/P3は、以下のようにして算出した。
まず、シーラント層のシール面に対して、全反射赤外線吸収スペクトル装置(製品名「Spectrum Spotlight 400/Frontier」、PerkinElmer社製)を用いて、以下の測定条件で全反射赤外線吸収スペクトルの測定を行った。
(測定条件)
・プリズムの材質:ダイヤモンド
・測定波数範囲:400~4000cm―1
・積算回数:16回
測定された全反射赤外線吸収スペクトルにおいて、1130±5cm-1及び680c±5cm-1における極小点同士を結ぶ線をベースラインとして決定した。
次に、全反射赤外線吸収スペクトルにおいて、吸収ピークの極大点における強度とベースラインにおける強度との差を吸収ピークのピーク強度とし、ピーク強度P1~P4を算出した。
最後に、算出されたピーク強度P1~P4に基づいて、ピーク強度比P2/P1、P3/P1、P4/P3を算出した。結果は表1に示すとおりである。
【0083】
<耐シール面融着性>
実施例及び比較例で作製した積層体から、以下のようにして2つの異なる加熱条件下で作製した試験片1及び試験片2を用意し、これらの試験片1及び試験片2を用い、以下のようにして耐シール面融着性の判定及び評価を行った。
(1)試験片1(加熱条件:125℃、30min)
まず、実施例及び比較例で作製した積層体から、MD方向及びTD方向の長さが120mmである2枚の積層体片を切り出した。
次に、切り出した2枚の積層体片を、シール面同士が向かい合うように重ね合わせ、シール面同士を密着させた状態で積層体片の4辺をインパルスシーラーでヒートシールし、融着体を作製した。
融着体を0.21MPaの環境下で加圧しながら、125℃の熱水をスプレーで30分間噴射することで加熱し、続いて0.21MPaの環境下で、40℃の水をスプレーで10分間噴射することで冷却した後、融着体を室温にて1日静置した。静置後の融着体について、4辺のヒートシール部を切り取り、残った融着体の中心部分を試験片1として用意した。
【0084】
(2)試験片2(加熱条件:130℃、30min)
融着体を、130℃の熱水をスプレーで30分間噴射することで加熱したこと以外は加熱条件1と同様にして試験片2を作製した。
【0085】
(3)耐シール面融着性の判定及び評価
上記のようにして用意した試験片1及び試験片2について、2枚の積層体片をそれぞれ手でつまみ、互いに引き離すようにして剥離し、剥離時の抵抗感に基づいて下記のとおり5段階の判定基準を設けて判定を行った。判定の結果を表1に示す。
(判定基準)
1:剥離時に抵抗感が全くない
2:剥離時に抵抗感がほとんどない
3:剥離時に僅かに抵抗感がある
4:剥離時に大きい抵抗感がある
5:試験片が融着しており、かなり大きい抵抗感がある(剥離時に変形又はシール面の外観変化(凝集剥離など)を伴う)
なお、判定が「1」及び「2」である試験片については「◎」、判定が「3」である試験片については「〇」、判定が「4」である試験片については「△」、判定が「5」である試験片については「×」と評価した。結果を表1に示す。
【0086】
<低温ヒートシール性>
低温ヒートシール性は、実施例及び比較例で用いたシーラント層のシール開始温度に基づいて評価した。シーラント層のシール開始温度は以下のようにして測定した。
まず、
図3に示すように、120mm(TD方向)×60mm(MD方向)のサイズのシーラント層を2枚用意し、これら2枚のシーラント層を、シール幅10mmで、0.2MPaで1秒間加圧しながら、T℃で加熱してヒートシール体を用意した。このとき、Tを130℃以上170℃以下の間で2℃ずつ異なる加熱温度にして作製したヒートシール体をそれぞれ用意した。
そして、これらのヒートシール体から、60mm(TD方向)×15mm(MD方向)のサイズの試験片を用意した。
上記のようにして準備した複数の試験片の各々について、T字剥離試験を行った。T字剥離試験は、JIS K 6854-3に準拠して行った。T字剥離試験では、具体的には、チャック間距離15mm、引張速度300mm/minの条件でMD方向にT字剥離を行った。そして、剥離強度が10N/15mm以上となる最も低い温度を、当該シーラント層のシール開始温度とした。
【0087】
シーラント層の低温ヒートシール性は、以下の評価基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
(評価基準)
〇:シール開始温度が155℃未満
×:シール開始温度が155℃以上
【0088】
【0089】
表1に示す結果より、実施例1~9では、シール開始温度が155℃未満であり、かつ「125℃、30min」及び「130℃、30min」の各加熱条件における耐シール面融着性の判定が1~4であり、積層体が、低温ヒートシール性を有しながら、シール面同士の融着が発生しないことが確認された。これに対し、比較例1では、シール開始温度が156℃であり、155℃以上であった。また、比較例2及び3では、「125℃、30min」及び「130℃、30min」の各加熱条件における耐シール面融着性の判定が5であり、シール面同士の融着が生じることが確認された。
【0090】
以上のことから、本開示の積層体は、低温ヒートシール性を有し、かつ湿熱処理された場合でも、優れた耐シール面融着性を有することが確認された。
【0091】
なお、本開示の概要は以下のとおりである。
[1]基材層とシーラント層とを少なくとも備え、前記シーラント層のシール面の局所熱分析による表面軟化温度が110℃以上140℃以下であり、前記シーラント層が、前記シーラント層と同一のシーラント層と121℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合に2.0N/15mm以下の融着強度を有し、前記基材層及び前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂を含む積層体。
[2]前記積層体に対して0.33MPa、130℃、30分間の条件で加圧及び加熱処理を行った後の、前記シール面の局所熱分析による表面軟化温度が140℃以上150℃以下である、[1]に記載の積層体。
[3]前記シーラント層が、前記シーラント層と同一のシーラント層と、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合、ヒートシール温度が121℃である場合の融着強度をT1(N/15mm)、ヒートシール温度が128℃である場合の融着強度をT2(N/15mm)とした場合、T2-T1が10.0N/15mm以下である、[1]又[2]に記載の積層体。
[4]前記シール面の全反射赤外線吸収スペクトルにおいて、963cm-1以上983cm-1以下の第一領域に現れる吸収ピークのピーク強度をP1、700cm-1以上750cm-1以下の第二領域に現れる1つの吸収ピークのピーク強度をP2、前記第二領域に2つ以上の吸収ピークが存在する場合、前記第二領域におけるピーク強度が最も大きい2つの吸収ピークのうち高波数側の吸収ピークのピーク強度をP3、低波数側の吸収ピークのピーク強度をP4とした場合、ピーク強度比P2/P1若しくはP3/P1が0.15以下、又はP4/P3が1.5以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]前記シーラント層が、前記シーラント層と同一のシーラント層と135℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合、10.0N/15mm以下の融着強度を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6]前記積層体にガスバリア層を更に含む、[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7][1]~[6]に記載の積層体を用い、前記シール面同士をヒートシールして得られる包装袋。
[8]80℃以上の加熱処理を施す用途に用いられる、[7]に記載の包装袋。
[9]ポリプロピレン系樹脂を含むシーラントフィルムであって、前記シーラントフィルムの表面をシール面とする場合に、前記シール面の局所熱分析による表面軟化温度が110℃以上140℃以下であり、前記シーラントフィルムが、前記シーラントフィルムと同一のシーラントフィルムと121℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールした場合に2.0N/15mm以下の融着強度を有する、シーラントフィルム。
[10]包装袋と、前記包装袋内に収容された内容物を備え、前記包装袋は、[1]~[6]のいずれかに記載の積層体を用いて形成され、前記シール面が前記包装袋の内面を構成する、包装体。
[11]包装袋と、前記包装袋内に収容された内容物を備え、前記包装袋は、積層体を用いて形成され、前記積層体は、基材層とシーラント層とを少なくとも備え、前記シーラント層のシール面の局所熱分析による表面軟化温度が140℃以上150℃以下であり、前記基材層及び前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂を含み、前記シール面が前記包装袋の内面を構成する、湿熱処理包装体。
【符号の説明】
【0092】
10…基材層、20…中間層、30,830…シーラント層、30a,830a…シール面、100,800…積層体、400,900…包装袋、500…包装体、600…シール体、610…ヒートシール部、700…湿熱処理包装体、C…内容物
【要約】
【課題】低温ヒートシール性を有しながら、湿熱処理を行っても優れた耐シール面融着性を有する積層体、シーラントフィルム、包装袋、包装体及び湿熱処理包装体を提供すること。
【解決手段】基材層とシーラント層とを少なくとも備え、シーラント層のシール面の局所熱分析による表面軟化温度が110℃以上140℃以下であり、シーラント層が、シーラント層と同一のシーラント層と121℃、0.05MPa及び30秒の条件でヒートシールされる場合に2.0N/15mm以下の融着強度を有し、基材層及びシーラント層がポリプロピレン系樹脂を含む積層体。
【選択図】
図1