(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】押圧部材、工具本体及び切削工具
(51)【国際特許分類】
B23C 5/22 20060101AFI20240730BHJP
B23C 5/06 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B23C5/22
B23C5/06 A
(21)【出願番号】P 2023202827
(22)【出願日】2023-11-30
【審査請求日】2023-11-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】阿曽 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】佐治 龍一
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0266112(US,A1)
【文献】特開平09-174509(JP,A)
【文献】特開昭56-157906(JP,A)
【文献】特開2019-030953(JP,A)
【文献】特表平11-505180(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174506(WO,A1)
【文献】実開昭62-147419(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0086284(US,A1)
【文献】特開平11-277306(JP,A)
【文献】特開2003-275916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/22
B23C 5/06
B23B 27/14
B23B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体のポケットに挿し込まれて前記ポケットの装着部に配置された切削具を前記装着部の装着面へ押圧して固定する押圧部材であって、
前記ポケットの内面に接触する接触面と、前記切削具に当接する押圧面とを有し、前記接触面に対して前記押圧面が前記ポケットへの挿入方向に向かって次第に前記接触面へ近接されている楔部と、
前記ポケットにねじ込まれる締結部品の先端によって前記挿入方向へ向かって押し込まれる受圧部と、
を有
し、
前記受圧部は、前記楔部における前記挿入方向の前方側に配置されているとともに前記楔部の前記接触面に平行な軸中心を有し、
前記切削具を固定した状態において、
前記受圧部における前記締結部品との接触位置は、前記装着部への前記切削具の挿入方向の端面よりも前記切削具と対向する位置に配置される、
押圧部材。
【請求項2】
前記受圧部は円柱状に形成されており、前記楔部における前記接触面側に一体に形成されている、
請求項1に記載の押圧部材。
【請求項3】
前記切削具を固定した状態において、
前記受圧部は、少なくとも一部が周方向の全周にわたって前記ポケットからさらに凹む保持穴部の内周面に囲われる、
請求項
1に記載の押圧部材。
【請求項4】
前記楔部は、最厚部分が前記締結部品の直径よりも小さい、
請求項
1に記載の押圧部材。
【請求項5】
前記楔部は、前記締結部品の少なくとも一部が収容される収容凹部を有し、
前記収容凹部における前記挿入方向の後方側の壁面は、前記ポケットから緩められる前記締結部品によって押圧される引出面とされている、
請求項
1に記載の押圧部材。
【請求項6】
前記収容凹部における前記挿入方向の前方側の壁面は、前記受圧部とともに前記締結部品によって押圧される押込面とされている、
請求項
5に記載の押圧部材。
【請求項7】
前記楔部は、両側部に外側へ突出する突起部を有する、
請求項
1に記載の押圧部材。
【請求項8】
前記突起部は、
前記切削具を固定した状態において、前記ポケットに干渉せず、
前記切削具の取り外し時に前記ポケットに当接可能である、
請求項
7に記載の押圧部材。
【請求項9】
請求項
1に記載の押圧部材と、
周方向に間隔をあけて形成され、前記押圧部材が挿入される複数のポケットを有するベース部と、
前記ポケットにねじ込まれる締結部品と、
を有し、
前記ポケットは、切削具が配置される装着部を有し、
前記ポケットにねじ込まれる締結部品によって前記ポケットに挿し込まれた前記押圧部材が前記ポケットへの挿入方向へ向かって押圧されることにより、前記装着部に配置された前記切削具が前記装着部の装着面へ押圧されて固定される、
工具本体。
【請求項10】
請求項
9に記載の工具本体と、
前記工具本体の前記ベース部に形成された前記ポケットの前記装着部に配置される切削具と、
を備える、
切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押圧部材、工具本体及び切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
刃先交換式カッタなどの切削工具は、工具本体の先端部に、複数の切削インサートが放射状に装着されている。これらの切削インサートは、押圧部材によって工具本体の先端部に設けられたポケットに固定される(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6860866号公報
【文献】国際公開第2023/058593号
【文献】特表2008-526535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、切削工具では、装着する切削インサートの装着数が多いほど効率良く加工できる。このため、切削インサートの薄型化を図り、装着数を増加させることが図られている。また、切削インサートの薄型化により、切削工具自体の小型化も図れる。
【0005】
しかし、工具本体の先端部におけるスペースは、切削インサートを固定する押圧部材によって占有されるため、切削インサートを薄型化しても、切削インサートの装着枚数の増加及び工具本体の小型化が制限されてしまう。このため、切削インサートの装着枚数の増加及び工具本体の小型化のために、さらなる改良が望まれている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、切削具の装着枚数の増加及び工具本体の小型化を図れる押圧部材、工具本体及び切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る押圧部材は、工具本体のポケットに挿し込まれてポケットの装着部に配置された切削具を装着部の装着面へ押圧して固定する押圧部材であって、ポケットの内面に接触する接触面と、切削具に当接する押圧面とを有し、接触面に対して押圧面がポケットへの挿入方向に向かって次第に接触面へ近接されている楔部と、ポケットにねじ込まれる締結部品によって挿入方向へ向かって押し込まれる受圧部と、を有する。
【0008】
上記構造の押圧部材では、受圧部が締結部品によって押し込まれることにより、楔部がポケットに押し込まれる構造を有している。したがって、ポケットへ押し込むためのネジが螺合される雌ネジ部をなくすことができ、小型化を図ることができる。そして、この押圧部材が小型化されることにより、工具本体への切削具の装着数を増やしたり、切削工具自体を小型化できる。
【0009】
切削具を固定した状態において、受圧部における締結部品との接触位置は、装着部への切削具の挿入方向の端面よりも切削具と対向する位置に配置されてもよい。
【0010】
切削具を固定した状態において、受圧部は、少なくとも一部が周方向の全周にわたってポケットからさらに凹む保持穴部の内周面に囲われてもよい。
【0011】
楔部は、最厚部分が締結部品の直径よりも小さくてもよい。
【0012】
楔部は、締結部品の少なくとも一部が収容される収容凹部を有し、収容凹部における挿入方向の後方側の壁面は、ポケットから緩められる締結部品によって押圧される引出面とされていてもよい。
【0013】
収容凹部における挿入方向の前方側の壁面は、受圧部とともに締結部品によって押圧される押込面とされていてもよい。
【0014】
楔部は、両側部に外側へ突出する突起部を有していてもよい。
【0015】
突起部は、切削具を固定した状態において、ポケットに干渉せず、切削具の取り外し時にポケットに当接可能であってもよい。
【0016】
本発明の一態様に係る工具本体は、上記の押圧部材と、周方向に間隔をあけて形成され、押圧部材が挿入される複数のポケットを有するベース部と、ポケットにねじ込まれる締結部品と、を有し、ポケットは、切削具が配置される装着部を有し、ポケットにねじ込まれる締結部品によってポケットに挿し込まれた押圧部材がポケットへの挿入方向へ向かって押圧されることにより、装着部に配置された切削具が装着部の装着面へ押圧されて固定される。
【0017】
本発明の一態様に係る切削工具は、上記の工具本体と、工具本体のベース部に形成されたポケットの装着部に配置される切削具と、を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、切削具の装着枚数の増加及び工具本体の小型化を図れる押圧部材、工具本体及び切削工具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る切削工具の斜視図である。
【
図2】
図2は、切削インサートが取り付けられた切削工具のポケット部分の斜視図である。
【
図3】
図3は、切削インサートが取り付けられた切削工具のポケット部分における断面図である。
【
図4】
図4は、工具本体のベース部に設けられたポケット部分の斜視図である。
【
図5】
図5は、収容凹部に締結部品が収容された押圧部材及び切削インサートの斜視図である。
【
図6】
図6は、押圧部材及び締結部品の斜視図である。
【
図7】
図7は、押圧部材における楔部の押圧面側から視た斜視図である。
【
図8】
図8は、押圧部材における受圧部側から視た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(切削工具)
図1に示すように、本実施形態に係る切削工具100は、工具本体10と、切削インサート40とを備えている。工具本体10は、押圧部材50と、締結部品70とを有している。
【0021】
切削工具100は、工具本体10の先端に、複数の切削インサート40が装着され、周方向へ間隔をあけて放射状に配置されている。切削工具100は、刃先交換式カッタなどの転削工具であり、回転しながら工具本体10の先端の切削インサート40によって被削材を切削する。なお、本例では、工具本体10に装着される切削具として切削インサート40を例示するが、切削具としては、カートリッジに切削インサート40が組付けられた形態も含む。
【0022】
(工具本体)
工具本体10は、全体的に円筒状をなすベース部11を有し、このベース部11がマシニングセンタなどの工作機械の回転軸に取り付けられる。
【0023】
図2~
図4に示すように、工具本体10のベース部11は、その先端部に、複数のポケット12を有している。ポケット12には、押圧部材50及び締結部品70が配置される。また、ポケット12は、装着部13を有している。この装着部13は、例えば、溝状または凹状に形成されており、この装着部13には、切削インサート40が配置される。装着部13に配置された切削インサート40は、押圧部材50と締結部品70とによって固定される。
【0024】
装着部13は、装着面13aと、当接面13bとを有している。装着部13に収容される切削インサート40は、装着面13aと当接面13bとに当接される。また、装着部13は、ベース部11の先端側が開放されており、ベース部11の後端側には、位置決め面13cが設けられている。
【0025】
ポケット12は、楔収容部21と、締結穴部22とを有している。楔収容部21は、ポケット12における装着部13側に設けられ、締結穴部22は、楔収容部21に対して装着部13と反対側に設けられている。これらの楔収容部21及び締結穴部22は、ベース部11の径方向の中心側である奥へ向かって次第に装着部13側へ傾斜されている(
図3参照)。また、楔収容部21は、奥行が装着部13よりも大きく、さらに、締結穴部22の後述する保持穴部22aは、奥行が楔収容部21よりも大きくされている。
【0026】
楔収容部21は、装着部13と反対側に摺動面21aを有している。また、楔収容部21には、装着部13側における両内側面に、奥行方向に沿ってガイド突条21bが形成されている。
【0027】
締結穴部22は、奥から順に、保持穴部22a、ねじ穴部22b及び導入穴部22cとされており、次第に大径とされている。ねじ穴部22bは、その内周面に雌ネジが形成されている。
【0028】
ねじ穴部22b及び導入穴部22cは、その周方向の一部が楔収容部21と連通されている。保持穴部22aは、その後端側において、周方向の一部が楔収容部21と連通されている。
【0029】
(切削インサート)
切削インサート40は、台金41と、刃先チップ42とを有している。台金41は、矩形の板状に形成されており、その上面における片側の隅部に刃先チップ42が設けられている。この台金41に設けられた刃先チップ42は、例えば、単結晶ダイヤモンドやダイヤモンド焼結体(PCD)のチップである。
【0030】
切削インサート40は、刃先チップ42と反対側の端部からポケット12の装着部13へ装着される。この切削インサート40は、装着部13への装着方向へ向かって次第に厚さが厚くされている。
【0031】
(押圧部材)
図5~
図11に示すように、押圧部材50は、工具本体10のベース部11のポケット12に挿し込まれ、ポケット12の装着部13に配置された切削インサート40を装着部13の装着面13aへ押圧して固定する部材である。
【0032】
この押圧部材50は、楔部51と、受圧部52とを有している。押圧部材50は、ポケット12に挿入されることにより、楔部51が楔収容部21に挿し込まれ、受圧部52が締結穴部22に挿し込まれる。
【0033】
楔部51は、接触面55と、押圧面56とを有している。接触面55は、ポケット12の内面である楔収容部21の摺動面21aに接触し、押圧面56は、装着部13に配置された切削インサート40に当接する。楔部51は、ポケット12への挿入方向D(
図3参照)へ向かって次第に厚さが薄くなる楔形状に形成されている。これにより、楔部51では、接触面55に対して押圧面56が、ポケット12への挿入方向Dに向かって次第に接触面55へ近接するように傾斜している。この楔部51は、挿入方向Dの後方の端部における厚さが最厚部分とされており、この最厚部分は、締結部品70の直径よりも小さい厚さとされている。
【0034】
また、楔部51は、その両側部に、外側へ突出する突起部57を有している。これらの突起部57は、楔部51のポケット12への挿入方向Dに沿って、接触面55に対して平行に形成されている。この突起部57は、その上下の隅部が円弧状に凹む形状に形成されている(
図11参照)。なお、突起部57は、その上下の隅部がテーパ形状に形成されていてもよい。
【0035】
受圧部52は、円柱状に形成されており、楔部51における接触面55側に一体に形成されている。受圧部52は、楔部51における挿入方向Dの前方側に配置されており、その一部が楔部51よりも挿入方向Dの前方側へ突出されている。この受圧部52は、楔部51の接触面55と平行な軸中心を有している。
【0036】
また、押圧部材50は、楔部51に収容凹部60を有している。この収容凹部60には、締結部品70の一部が収容される。収容凹部60は、楔部51における接触面55側に形成されており、断面視円弧状に凹んだ形状に形成されている。この収容凹部60における挿入方向Dの前方側の壁面は、受圧部52の端面と面一とされ、受圧部52の端面とともに、押込面61とされている。さらに、収容凹部60における挿入方向Dの後方側の壁面は、引出面62とされている(
図8参照)。また、収容凹部60における挿入方向Dの後方側の壁部には、その上縁に、逃げ凹部63が形成されている。
【0037】
(締結部品)
押圧部材50の収容凹部60に収容される締結部品70は、外周におねじを有する、例えば、ホーローセットネジ(イモネジ)である。この締結部品70は、その後端面に、工具が係合される工具穴71を有している。工具穴71としては、六角レンチが係合可能な六角穴に限らず、トルクス(登録商標)穴等の各種の工具が係合可能な形状の穴でもよい。この締結部品70は、ポケット12の締結穴部22に形成されたねじ穴部22bに螺合可能とされている。
【0038】
締結部品70は、押圧部材50の受圧部52よりも大径であり、収容凹部60に収容された状態で、受圧部52と軸中心が一致される。なお、締結部品70の軸中心は、受圧部52の軸中心と必ずしも一致していなくてもよい。また、収容凹部60に締結部品70を収容させた状態で、締結部品70の工具穴71の回転軌跡となる外接円は、上縁に逃げ凹部63を有する収容凹部60における挿入方向Dの後方側の壁部にかからないようになっている。これにより、工具穴71に挿し込んだ工具が収容凹部60における挿入方向Dの後方側の壁部に干渉しないようになっている。このように、収容凹部60における挿入方向Dの後方側の壁部に逃げ凹部63を形成することにより、工具との干渉のために薄くし辛い押圧部材50の楔部51をさらに薄くできる。
【0039】
(切削インサートの固定)
次に、工具本体10のベース部11に設けられたポケット12へ切削インサート40を装着させる場合について説明する。
【0040】
まず、工具本体10のベース部11のポケット12に、収容凹部60に締結部品70を収容させた押圧部材50を挿入させる。具体的には、押圧部材50の受圧部52の先端をポケット12の締結穴部22における保持穴部22aに挿し込みつつ、押圧部材50の楔部51を、楔収容部21へ挿し込み、締結部品70をねじ穴部22bに緩く螺合させる。この状態において、押圧部材50は、楔部51の両側部の突起部57が楔収容部21のガイド突条21bに係止され、ポケット12内に配置された状態に維持される。
【0041】
次に、ポケット12の装着部13へ切削インサート40を挿し込んで配置させる。これにより、切削インサート40を、装着面13a、当接面13b及び位置決め面13cに当接させる。なお、切削インサート40は、ポケット12に押圧部材50を挿入する前に、ポケット12の装着部13へ挿し込んで配置させておいてもよい。
【0042】
その後、押圧部材50の収容凹部60に収容されている締結部品70の工具穴71に工具を挿し込み、ポケット12の締結穴部22に形成されたねじ穴部22bに締結部品70をねじ込む。
【0043】
このように、締結部品70をねじ穴部22bへねじ込むと、締結部品70が締結穴部22の奥へ向かって移動する。これにより、この締結部品70によって押圧部材50の押込面61が押圧され、押圧部材50がポケット12の奥へ押し込まれる。すると、押圧部材50の楔部51は、接触面55を楔収容部21の摺動面21aに摺動させながら楔収容部21の奥へ移動することにより、押圧面56が切削インサート40へ近接する方向へ移動して切削インサート40の台金41に当接する。
【0044】
締結部品70をさらにねじ込むと、押圧部材50の楔部51の押圧面56によって切削インサート40の台金41が押圧される。これにより、切削インサート40は、装着部13の装着面13aと押圧部材50の楔部51の押圧面56とによって強固に挟持されて固定される。これにより、工具本体10のベース部11のポケット12に切削インサート40が固定される。
【0045】
このように、押圧部材50は、締結部品70によってポケット12へ押し込まれる構造であるので、ポケット12へ押し込むためのネジが螺合される雌ネジ部をなくすことができ、小型化を図ることができる。
【0046】
また、押圧部材50による切削インサート40の固定状態において、押圧部材50は、その受圧部52における締結部品70との接触位置Csが、装着部13への切削インサート40の挿入方向Dの端面40a(
図3における2点鎖線)よりも後方側で切削インサート40と対向する位置に配置される(
図3参照)。これにより、受圧部52が締結部品70によって押圧される際に生じる曲げモーメントを抑えることができる。つまり、押圧部材50は、切削インサート40を固定した際に生じる曲げモーメントを抑え、応力緩和を考慮した設計となっている。したがって、押圧部材50の強度を十分に確保しつつ小型化できる。
【0047】
さらに、押圧部材50による切削インサート40の固定状態において、受圧部52は、ポケット12の締結穴部22の保持穴部22aに先端の一部が挿し込まれている。つまり、受圧部52の先端の一部は、周方向の全周にわたってポケット12の保持穴部22aの内周面
22aaに囲われる(
図3参照)。これにより、締結部品70によって押圧される受圧部52の傾きを抑えることができ、楔部51の押圧面56による切削インサート40の押圧力を十分に確保しつつ小型化できる。
【0048】
なお、押圧部材50による切削インサート40の固定状態において、楔部51の両側部の突起部57は、楔収容部21のガイド突条21bから離れ、ポケット12に対して非接触状態となる。したがって、ポケット12に突起部57が干渉することによって切削インサート40を押圧する押圧力が低下するようなことがない。
【0049】
(切削インサートの取り外し)
次に、押圧部材50によってポケット12に固定した切削インサート40を取り外す場合について説明する。
【0050】
切削インサート40を取り外すには、工具穴71に挿し込んだ工具によって締結部品70を締結時と逆方向へ回動させる。すると、ポケット12の締結穴部22に形成されたねじ穴部22bにねじ込まれていた締結部品70が緩められ、挿入方向Dと逆方向の取り出し方向へ移動する。
【0051】
すると、この締結部品70によって押圧部材50の引出面62が押圧され、押圧部材50がポケット12から引き出される。これにより、押圧部材50の楔部51の押圧面56が切削インサート40から離れる方向へ移動し、押圧部材50による切削インサート40の押圧が解除される。この状態において、ポケット12の装着部13に配置された切削インサート40を把持して装着部13から取り出す。
【0052】
ここで、締結部品70とともにポケット12から引き出される押圧部材50は、楔部51の両側部の突起部57が楔収容部21のガイド突条21bに接触して係止される。つまり、切削インサート40の取り外しの際には、押圧部材50の楔部51に形成された突起部57がポケット12のガイド突条21bに当接してガイドされることにより、押圧部材50が傾いて締結部品70が収容凹部60から外れるようなことがなく、したがって、押圧部材50が、締結部品70とともにポケット12から円滑に引き抜かれる。なお、押圧部材50は、工具によって緩める際の姿勢によっては、楔部51に形成された突起部57がポケット12のガイド突条21bに当接しないこともある。また、切削インサート40は、押圧部材50及び締結部品70をポケット12から完全に取り外さずに緩めた状態で着脱して交換可能である。
【0053】
以上、説明したように、本実施形態に係る押圧部材50によれば、受圧部52が締結部品70によって押し込まれることにより、楔部51がポケット12に押し込まれる構造を有している。したがって、ポケット12へ押し込むためのネジが螺合される雌ネジ部をなくすことができ、小型化を図ることができる。そして、この押圧部材50が小型化されることにより、工具本体11への切削インサート40の装着数を増やしたり、切削工具100自体を小型化できる。
【0054】
また、押圧部材50は、楔部51の最厚部分が締結部品70の直径よりも小さくされているので、楔部51の厚さを抑えて押圧部材50をより小型化できる。
【符号の説明】
【0055】
10 工具本体
11 ベース部
12 ポケット
13 装着部
13a 装着面
22a 保持穴部
22aa 内周面
40 切削インサート(切削具)
40a 端面
50 押圧部材
51 楔部
52 受圧部
55 接触面
56 押圧面
57 突起部
60 収容凹部
61 押込面
62 引出面
70 締結部品
100 切削工具
Cs 接触位置
D 挿入方向
【要約】
【課題】切削具の装着枚数の増加及び工具本体の小型化を図れる押圧部材、工具本体及び切削工具を提供する。
【解決手段】工具本体10のポケット12に挿し込まれてポケット12の装着部13に配置された切削インサート40を装着部13の装着面13aへ押圧して固定する押圧部材50であって、ポケット12の内面に接触する接触面55と、切削インサート40に当接する押圧面56とを有し、接触面55に対して押圧面56がポケット12への挿入方向Dに向かって次第に接触面55へ近接されている楔部51と、ポケット12にねじ込まれる締結部品70によって挿入方向Dへ向かって押し込まれる受圧部52と、を有する。
【選択図】
図3