(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】長繊維不織布およびその製造方法ならびに工程保護材
(51)【国際特許分類】
D04H 3/147 20120101AFI20240730BHJP
【FI】
D04H3/147
(21)【出願番号】P 2024515482
(86)(22)【出願日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2024006247
【審査請求日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2023025789
(32)【優先日】2023-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】池尻 祐希
(72)【発明者】
【氏名】竹光 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】松浦 博幸
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/116569(WO,A1)
【文献】特開2020-006294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00 - 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を主成分とする繊維で構成されてなる長繊維不織布であって、前記長繊維不織布の両面の表面粗さR
zが25.0μm以上50.0μm以下であり、一方の表面の前記表面粗さR
zと他方の表面の前記表面粗さR
zとの差の絶対値が4.0μm以上10.0μm以下である、長繊維不織布。
【請求項2】
前記長繊維不織布の繊維空隙部の面積割合が1.0%以上15.0%以下である、請求項1に記載の長繊維不織布。
【請求項3】
前記繊維が高融点重合体の周りに該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維である、請求項1または2に記載の長繊維不織布。
【請求項4】
前記長繊維不織布の見掛密度が0.40g/cm
3以上0.75g/cm
3以下である、請求項1または2に記載の長繊維不織布。
【請求項5】
前記長繊維不織布の目付が40g/m
2以上75g/m
2以下である、請求項1または2に記載の長繊維不織布。
【請求項6】
熱可塑性樹脂を紡糸口金の吐出孔から紡出し、さらに吸引延伸して、長繊維を得る工程と、
移動するネットコンベア上に前記長繊維を捕集して、繊維ウェブを形成する工程と、
前記繊維ウェブの一方の表面のみに加熱面を接触させて予熱して、予熱繊維ウェブを得る工程と、
前記予熱繊維ウェブを一対のフラットロールで熱接着する工程と、
を順次施す、請求項1または2に記載の長繊維不織布の製造方法であって、
前記吸引延伸における紡糸速度が3000m/分以上6000m/分以下であり、
前記予熱において、前記加熱面の温度が前記熱可塑性樹脂の融点よりも30℃以上110℃以下低い温度で、かつ、前記加熱面の線圧が1N/cm以上100N/cm以下であって、
前記熱接着において、一対のフラットロールの表面の温度が前記熱可塑性樹脂の融点よりも30℃以上70℃以下低い温度で、かつ、前記一対のフラットロールの線圧が100N/cm以上900N/cm以下である、
長繊維不織布の製造方法。
【請求項7】
高融点重合体と、前記高融点重合体の融点よりも10℃以上110℃以下低い融点を有する低融点重合体と、を複合紡糸口金の吐出孔から紡出し、さらに吸引延伸して、該高融点重合体の周りに該低融点重合体を配した複合繊維である長繊維を得る工程と、
移動するネットコンベア上に前記長繊維を捕集して、繊維ウェブを形成する工程と、
前記繊維ウェブの一方の表面のみに加熱面を接触させて予熱して、予熱繊維ウェブを得る工程と、
前記予熱繊維ウェブを一対のフラットロールで熱接着する工程と、
を順次施す、請求項3に記載の長繊維不織布の製造方法であって、
前記吸引延伸における紡糸速度が3000m/分以上6000m/分以下であり、
前記予熱において、前記加熱面の温度が前記低融点重合体の融点よりも30℃以上110℃以下低い温度で、かつ、前記加熱面の線圧が1N/cm以上100N/cm以下であって、
前記熱接着において、一対のフラットロールの表面の温度が前記低融点重合体の融点よりも30℃以上70℃以下低い温度で、かつ、前記一対のフラットロールの線圧が100N/cm以上900N/cm以下である、
長繊維不織布の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の長繊維不織布を含む、工程保護材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維不織布およびその製造方法、そして、この長繊維不織布を含む工程保護材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、製造工程において中間製品を水平方向に搬送する際には、ベルトコンベアなどがよく用いられる。中でも、搬送時に傷がつくことを避けなければならない精密部品などでは、搬送される部材が搬送時の振動などで滑らないよう、コンベアと部材との間に、工程保護材としてのシート部材を配置したり、コンベアの表面そのものをシート部材としたりするなどして、部材を吸引しつつ、部材を固定しながら搬送することも行われる。このシート部材には、搬送される部材を傷つけないための表面平滑性と、シート部材が浮くことなく搬送するための、コンベアなどへの追従性が求められる。
【0003】
このようなシート部材に用いられるものとして、合成紙が用いられることがあり、この合成紙として、例えば、特許文献1において、ポリエステル繊維よりなる第1層と、低融点成分を少なくとも一部に有する繊維とポリエステル繊維とからなる第2層を積層一体化せしめてなる合成紙において、第1層、第2層とも複屈折が特定の値以下の低配向ポリエステル繊維を一定量含む合成紙が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で開示されるような合成紙は、短繊維より構成されていることもあって、繊維接着点が多くなる。そのため、毛羽立ちやすく、その塵などが製造工程内に混入することがあり、精密部品などに傷を与えうるという課題がある。
【0006】
そこで本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、表面平滑性とコンベアなどへの追従性に優れ、連続使用時にも耐えうる長繊維不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を重ねた結果、長繊維不織布の両面の表面粗さを特定の範囲とし、一方の表面の表面粗さと他方の表面の表面粗さとの差の絶対値を特定の範囲とした長繊維不織布とすることで、平滑で機械的強度にも優れるだけではなくコンベアなどへの追従性を向上できるという知見を得た。さらにこの長繊維不織布を含む工程保護材が、耐摩耗性にも優れ、毛羽立ちなく再び使用することを可能とすることも判明した。
【0008】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 熱可塑性樹脂を主成分とする繊維で構成されてなる長繊維不織布であって、前記長繊維不織布の両面の表面粗さRzが25.0μm以上50.0μm以下であり、一方の表面の前記表面粗さRzと他方の表面の前記表面粗さRzとの差の絶対値が4.0μm以上10.0μm以下である、長繊維不織布。
[2] 前記長繊維不織布の繊維空隙部の面積割合が1.0%以上15.0%以下である、前記[1]に記載の長繊維不織布。
[3] 前記繊維が高融点重合体の周りに該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維である、前記[1]または[2]に記載の長繊維不織布。
[4] 前記長繊維不織布の見掛密度が0.40g/cm3以上0.75g/cm3以下である、前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の長繊維不織布。
[5] 前記長繊維不織布の目付が40g/m2以上75g/m2以下である、前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の長繊維不織布。
[6] 熱可塑性樹脂を紡糸口金の吐出孔から紡出し、さらに吸引延伸して、長繊維を得る工程と、移動するネットコンベア上に前記長繊維を捕集して、繊維ウェブを形成する工程と、前記繊維ウェブの一方の表面のみに加熱面を接触させて予熱して、予熱繊維ウェブを得る工程と、前記予熱繊維ウェブを一対のフラットロールで熱接着する工程と、を順次施す、前記[1]~[5]のいずれか1つに記載の長繊維不織布の製造方法であって、前記吸引延伸における紡糸速度が3000m/分以上6000m/分以下であり、前記予熱において、前記加熱面の温度が前記熱可塑性樹脂の融点よりも30℃以上110℃以下低い温度で、かつ、前記加熱面の線圧が1N/cm以上100N/cm以下であって、前記熱接着において、一対のフラットロールの表面の温度が前記熱可塑性樹脂の融点よりも30℃以上70℃以下低い温度で、かつ、前記一対のフラットロールの線圧が100N/cm以上900N/cm以下である、長繊維不織布の製造方法。
[7] 高融点重合体と、前記高融点重合体の融点よりも10℃以上110℃以下低い融点を有する低融点重合体と、を複合紡糸口金の吐出孔から紡出し、さらに吸引延伸して、該高融点重合体の周りに該低融点重合体を配した複合繊維である長繊維を得る工程と、移動するネットコンベア上に前記長繊維を捕集して、繊維ウェブを形成する工程と、前記繊維ウェブの一方の表面のみに加熱面を接触させて予熱して、予熱繊維ウェブを得る工程と、前記予熱繊維ウェブを一対のフラットロールで熱接着する工程と、を順次施す、前記[1]~[5]のいずれか1つに記載の長繊維不織布の製造方法であって、前記吸引延伸における紡糸速度が3000m/分以上6000m/分以下であり、前記予熱において、前記加熱面の温度が前記低融点重合体の融点よりも30℃以上110℃以下低い温度で、かつ、前記加熱面の線圧が1N/cm以上100N/cm以下であって、前記熱接着において、一対のフラットロールの表面の温度が前記低融点重合体の融点よりも30℃以上70℃以下低い温度で、かつ、前記一対のフラットロールの線圧が100N/cm以上900N/cm以下である、長繊維不織布の製造方法。
[8] 前記[1]~[5]のいずれか1つに記載の長繊維不織布を含む、工程保護材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表面平滑性とコンベアなどへの追従性に優れ、連続使用時にも耐えうる長繊維不織布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態の長繊維不織布の工程保護材としての評価を行うための装置の構成を説明する、断面概念図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態の長繊維不織布の製造方法に係る長繊維不織布の製造装置の構成を例示、説明する断面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態(以降、「本実施形態」とも称する。)の長繊維不織布は、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布であって、前記長繊維不織布の両面の表面粗さRzが25.0μm以上50.0μm以下で、一方の表面の前記表面粗さRzと他方の表面の前記表面粗さRzとの差の絶対値が4.0μm以上10.0μm以下である。以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0012】
(熱可塑性樹脂を主成分とする繊維)
本実施形態の長繊維不織布は、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布である。ここで、本実施形態において「熱可塑性樹脂を主成分とする」とは、繊維全体の質量に対する当該熱可塑性樹脂の質量の割合が、50質量%より多いことを指す。
【0013】
上記の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、あるいはこれらの混合物や共重合体等を挙げることができる。なかでも、ポリエステルが、より機械的強度や耐熱性、耐水性、耐薬品性等の耐久性に優れることから好ましい。
ポリエステルはジカルボン酸成分とジオール成分とからなる。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸などを用いることができる。ジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどを用いることができる。
【0014】
具体的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、これらの共重合体等を挙げることができる。
【0015】
本実施形態の熱可塑性樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶核剤や艶消し剤、滑剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、親水剤などの添加剤を添加することができる。
また、本実施形態の熱可塑性樹脂が酸化チタンなどの金属酸化物を含有するものであると、その製造段階において、後述する予熱繊維ウェブを熱接着するなどの際、繊維ウェブの熱伝導性が増されることで繊維ウェブ内の接着性を向上させることができ、より機械的強度に優れた長繊維不織布とすることができる。
【0016】
さらに、本実施形態の熱可塑性樹脂がエチレンビスステアリン酸アミドなどの脂肪族ビスアミド、および/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを含有するものであると、その製造段階において、後述する予熱繊維ウェブを熱接着する際に用いる一対のフラットロールと予熱繊維ウェブとの間の離型性が高くなり、繊維ウェブ内の接着安定性を向上させることができ、より柔軟性が増し、工程保護材として使用した際にコンベアなどへの追従性に優れた長繊維不織布とすることができる。
なお、これらの添加剤などは、後述する熱可塑性樹脂を主成分とする繊維において、その繊維の表面に付着してなる態様としてもよい。
【0017】
本実施形態の熱可塑性樹脂の融点は、100℃以上320℃以下の範囲であることが好ましい。上記の範囲について、その下限を好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは140℃以上、特に好ましくは160℃以上であることにより、所望の熱接着性を得ることができ、高密度で平滑な長繊維不織布となる。一方、上記の範囲について、その上限を好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは280℃以下、特に好ましくは250℃以下であることにより、複合繊維がより柔軟なものとなり、よりコンベアなどに追従しやすい長繊維不織布となる。
【0018】
本実施形態に係る繊維としては、高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維であることが好ましい。このような形態の複合繊維とすることにより、繊維同士がより接着することが可能となり平滑に優れた長繊維不織布となり、工程保護材として使用した際に、搬送される部材に傷をつけることを防止することができる。
【0019】
上記の高融点重合体の融点と低融点重合体の融点との間の差(以降、単に「融点の差」と略記することがある)としては、10℃以上110℃以下が好ましい。換言すれば、高融点重合体の融点よりも、10℃以上110℃以下の範囲で低い融点を有する低融点重合体であることが好ましい。融点の差が好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上であることで、十分接着性に優れた長繊維不織布となる。また、前記の融点の差が好ましくは110℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下であることで、熱接着時に使用するロールに低融点重合体が融着して生産性が低下するということがなく、通気性にも優れた長繊維不織布となる。
【0020】
本実施形態において、前記の複合繊維における高融点重合体の融点は、160℃以上320℃以下の範囲であることが好ましい。前記の複合繊維における高融点重合体の融点が好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上であることにより、形態安定性や耐久性に優れた長繊維不織布となる。また、前記の複合繊維における高融点重合体の融点が320℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは280℃以下であることで、複合繊維がより柔軟なものとなり、よりコンベアなどに追従しやすい長繊維不織布となる。
【0021】
一方、上記の複合繊維における低融点重合体の融点は、前記の融点の差を確保した上で、100℃以上250℃以下の範囲であることが好ましい。上記の複合繊維における低融点重合体の融点が好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上さらに好ましくは140℃以上であることにより、所望の熱接着性を得ることができ、高密度で平滑な長繊維不織布となる。また、上記の複合繊維における低融点重合体の融点が好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは230℃以下であることで、複合繊維がより柔軟なものとなり、よりコンベアなどに追従しやすい長繊維不織布となる。
【0022】
なお、本実施形態において、熱可塑性樹脂の融点は、示差走査型熱量計(例えば、パーキンエルマー社製「DSC-2」型など)を用い、昇温速度20℃/分、測定温度範囲30℃から350℃の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を当該熱可塑性樹脂の融点とする。また、示差走査型熱量計において融解吸熱曲線が極値を示さない樹脂については、ホットプレート上で加熱し、顕微鏡観察により樹脂が溶融した温度を融点とする。
【0023】
熱可塑性樹脂がポリエステルの場合、高融点重合体と低融点重合体の組み合わせ(以下、高融点重合体/低融点重合体の順に記載することがある)としては、例えば、PET/PBT、PET/PTT、PET/ポリ乳酸、およびPET/共重合PET等の組み合わせを挙げることができ、これらの中でも、紡糸性に優れることからPET/共重合PETの組み合わせが好ましく用いられる。また、共重合PETの共重合成分としては、特に紡糸性に優れることから、イソフタル酸共重合PETが好ましく用いられる。
【0024】
複合繊維の複合形態については、例えば、同心芯鞘型、偏心芯鞘型および海島型等が挙げられ、なかでも、繊維同士を均一かつ強固に融着させることができることから同心芯鞘型のものが好ましい。さらにその複合繊維の断面形状としては、円形断面、扁平断面、多角形断面、多葉断面および中空断面等の形状が挙げられる。なかでも、複合繊維の断面形状としては円形断面の形状のものを用いることが好ましい態様である。
【0025】
また、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維における高融点重合体と低融点重合体との含有比率は、質量比で90:10~30:70の範囲であることが好ましく、83:17~40:60の範囲がより好ましい態様である。繊維に含有される高融点重合体と低融点重合体の合計の質量に対する高融点重合体の質量割合(高融点重合体の含有比率と略記する)が好ましくは30質量%以上90質量%以下、より好ましくは40質量%以上83質量%以下であることで、熱安定性に優れた長繊維不織布となる。一方、繊維に含有される高融点重合体と低融点重合体の合計の質量に対する低融点重合体の質量割合(低融点重合体の含有比率と略記する)が10質量%以上70質量%以下、より好ましくは17質量%以上60質量%以下であることにより、熱接着性に優れ、より平滑なで高密度の長繊維不織布となる。
【0026】
上記の熱可塑性樹脂を主成分とする繊維は、その平均単繊維直径が10μm以上24μm以下であることが好ましい。平均単繊維直径が好ましくは10μm以上、より好ましくは12μm以上、さらに好ましくは14μm以上であることにより、機械的強度に優れた長繊維不織布となる。
一方、平均単繊維直径が好ましくは24μm以下、より好ましくは22μm以下、さらに好ましくは20μm以下であることにより、より緻密な長繊維不織布となるため、ミクロな凹凸が小さなものとなり、工程保護材として使用した際に、搬送される部材を傷つけることを防ぐことができる。
【0027】
なお、複数種類の繊維が混繊されている場合であっても、下記の手順によって測定される繊維の単繊維径が上記の範囲内であることが好ましい。
【0028】
なお、本実施形態においては、前記の熱可塑性樹脂を主成分とする繊維の平均単繊維直径(μm)は、以下の手順によって算出される値を採用するものとする。
(1)長繊維不織布からランダムに小片サンプル(100mm×100mm)10個を採取する。
(2)マイクロスコープ(例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500」など)で500倍以上3000倍以下の表面写真を撮影し、各サンプルからランダムに10本ずつ、計100本の単繊維の直径を測定する。
(3)測定した100本の値の算術平均値を、小数点以下第一位を四捨五入して平均単繊維直径(μm)を算出する。
【0029】
熱可塑性樹脂を主成分とする繊維は、熱可塑性樹脂以外に、滑剤、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、親水剤などの添加剤等を含有してもよい。
【0030】
(長繊維不織布)
本実施形態の長繊維不織布は、前記の繊維で構成されてなる。そして、本実施形態の長繊維不織布は、その両面の表面粗さRzは25.0μm以上50.0μm以下である。両面の表面粗さRzが25.0μm以上、好ましくは30.0μm以上、より好ましくは35.0μm以上であることにより、表面に適度な凹凸を有する長繊維不織布となり、工程保護材として用いる際に、搬送される部材を十分に吸引し、コンベアなどと搬送される部材との間に滑りを生じることなく部材を搬送することができる。
一方、両面の表面粗さRzが50.0μm以下、好ましくは45.0μm以下、より好ましくは40.0μm以下であることにより、より緻密な表面を有する長繊維不織布となり、工程保護材として用いる際には、搬送される部材との摩擦による毛羽立ちを防止することができる。
【0031】
この表面粗さRzを長繊維不織布の両面について上記の範囲とするには、長繊維不織布の製造方法の熱接着する工程における、一対のフラットロールの表面の温度や線圧を後述する範囲に調整することで達成することができる。
【0032】
また、本実施形態の長繊維不織布は、一方の表面の表面粗さRzと他方の表面の表面粗さRzとの差の絶対値(以降、単に「表面粗さの差の絶対値」と略記することがある)が4.0μm以上10.0μm以下である。長繊維不織布の表面粗さの差の絶対値が4.0μm以上、好ましくは5.0μm以上、さらに好ましくは6.0μm以上であることにより、表面粗さに十分な表裏差がある長繊維不織布となり、工程保護材として用いる際に、コンベアなどと搬送される部材との間に滑りを生じることなく部材を搬送することができる。
一方、表面粗さの差の絶対値が10.0μm以下、好ましくは9.0μm以下、より好ましくは8.0μm以下であることにより、表面粗さについて適度な表裏差がある長繊維不織布となり、工程保護材として用いる際に、工程保護材の毛羽立ちや破れを抑制し、搬送される部材へのリント混入を防ぐことができる。
【0033】
この表面粗さの差の絶対値は、長繊維不織布の製造方法の予熱繊維ウェブを得る工程における、繊維ウェブの一方の表面のみに接触させる加熱面の温度や線圧、そして、熱接着する工程における、一対のフラットロールの表面の温度や線圧をそれぞれ後述する範囲に調整することで達成することができる。
【0034】
なお、長繊維不織布の表面粗さ(μm)ならびに表面粗さの差(μm)については以下の手順によって算出する。
(1)10cm×10cmの長繊維不織布を20箇所任意で採取する。
(2)任意で採取した不織布において、表面粗さ計(例えば、株式会社ミツトヨ社製「サーフテストSJ―210」)を使用し、JISB0610:2001「製品の幾何特性仕様(GPS)―表面形状:輪郭曲線方式―転がり円うねりの定義及び表示」の規格に準拠し、λc=2.5mm、λs=8μm、測定速度0.5mm/sの条件で21mmの範囲を長繊維不織布シート幅方向に対し測定し、0.1μm単位で最大高さRzを各採取サンプル20点の測定をそれぞれの面で実施する。
(3)上記測定した値を各面で算術平均により値を求め、小数点第2位を四捨五入し、差を求め、表面粗さの差とする。
(4)また、上記各面の表面粗さを算術平均により値を求め、小数点第2位を四捨五入し、長繊維の表面粗さを求める。
【0035】
前記の長繊維不織布の繊維空隙部の面積割合が1.0%以上15.0%以下であることが好ましい。長繊維不織布の繊維空隙部の面積割合が好ましくは1.0%以上、より好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは5.0%以上であることにより、繊維が多く存在するところと少なく存在するところとを同時に有する長繊維不織布となり、工程保護材として用いる際に、工程保護材をコンベアなどに十分に吸引しつつ、搬送される部材がずれないように搬送することができる。一方、前記の長繊維不織布の繊維空隙部の面積割合が好ましくは15.0%以下、より好ましくは13.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下であることにより、繊維の疎密が均質化された長繊維不織布となり、工程保護材として用いる際に、工程保護材の毛羽立ちや破れ、そして、搬送される部材の破損を防ぐことができる。
【0036】
なお、長繊維不織布の繊維空隙部の面積割合については以下の手順によって算出する。
(1)長手方向30cm×幅方向21cmの長繊維不織布を10箇所任意で採取する。
(2)任意で採取した不織布をスキャナー(例えば、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社製複合機「DocuCentre-VI4471」など)により300dpiでスキャンする。
(3)スキャンした画像を画像編集ソフト(例えば、「GIMP Ver.2.10.30」など)により、閾値175(黒色:0~灰色~白色:255の256段階としたとき、175以下を黒色、176以上を白色という意味)で二値化処理を実施する。
(4)二値化処理した画像解析ソフト(例えば、「ImageJ Ver.1.53e」など)により、黒くなった(繊維空隙部)の面積比率を各測定箇所で算出する。
(5)各箇所で測定した数値を算術平均により値を求め、小数点第2位を四捨五入し、算出し、長繊維不織布の繊維空隙部の面積割合とする。
【0037】
前記の長繊維不織布の見掛密度は0.40g/cm3以上0.75g/cm3以下であることが好ましい。見掛密度が好ましくは、0.40g/cm3以上、より好ましくは0.42g/cm3以上、さらに好ましくは0.45g/cm3以上であることにより、毛羽立ちの少ない長繊維不織布となり、機械的強度もより高めることができる。一方、長繊維不織布の見掛密度が0.75g/cm3以下、好ましくは0.72/cm3以下、より好ましくは0.70g/cm3以下であることにより、工程保護材として用いる際に、搬送時の工程保護材の浮きもなく、工程通過性に優れる長繊維不織布となる。
【0038】
なお、前記の長繊維不織布の見掛密度(g/cm3)は、後述する長繊維不織布の目付(g/m2)を、後述する長繊維不織布の厚さ(mm)で単位換算した上で除して、その結果(g/cm3)の小数点以下第三位を四捨五入し算出される値を採用するものとする。ここで、長繊維不織布の厚さ(mm)については以下の手順によって算出する。
(1)長手方向10cm幅なりの長繊維不織布を3個採取する。
(2)直径10mmの加圧子を使用し、荷重10kPaで長繊維不織布の幅方向に等間隔に1mあたり10点の厚さを0.01mm単位で測定する。
(3)上記の得られた測定値の算術平均値を、採取した3個の長繊維不織布それぞれで算出し、さらに3個の長繊維不織布に対しても算術平均値を小数点以下第四位で四捨五入し、算出する。
【0039】
前記の長繊維不織布の目付は、40g/m2以上75g/m2であることが好ましい。目付は好ましくは40g/m2以上、より好ましくは45g/m2以上、さらに好ましくは50g/m2以上であることにより、機械的強度に優れた長繊維不織布となり、工程保護材として用いる際に、搬送される部材の破損を防ぐことができる。
一方、目付は好ましくは75g/m2以下、より好ましくは70g/m2以下、さらに好ましくは65g/m2以下であることにより、通気性の低下が抑制された長繊維不織布となり、工程保護材として用いた際に、搬送される部材の吸引固定性に優れたものとすることができる。
【0040】
なお、前記の長繊維不織布の目付(g/m2)は、以下の手順によって算出する。
(1)30cm×50cmの長繊維不織布を3個採取する。
(2)各試料の質量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりの質量(g/m2)に換算し、小数点以下第一位を四捨五入して、目付を算出する。
【0041】
前記の長繊維不織布の通気量は5cm3/(cm2・秒)以上30cm3/(cm2・秒)以下であることが好ましい。通気量は好ましくは、5cm3/(cm2・秒)以上、より好ましくは10cm3/(cm2・秒)以上、さらに好ましくは15cm3/(cm2・秒)以上とすることにより、一定の通気量を有する長繊維不織布となり、工程保護材として用いた際に、搬送される部材の吸引固定性に優れたものとすることができる。
一方、通気量は好ましくは30cm3/(cm2・秒)以下、より好ましくは27cm3/(cm2・秒)以下、さらに好ましくは25cm3/(cm2・秒)以下とすることにより、過剰な通気量を有することのない長繊維不織布となり、工程保護材として用いた際に、コンベアへの吸引力が高くなりすぎてしまうことによって生じる、搬送される部材の破損を防ぐことができる。
【0042】
(工程保護材)
本実施形態の工程保護材は、本実施形態の長繊維不織布を含む。ここで、工程保護材とは、部材の搬送の際に、コンベアと部材の間に配置するものであり、部材とコンベアとが直接接触して汚損や破損、傷が入ることを保護したり、部材に塗布された薬液等がコンベアに付着して、後続の部材などが汚染されたりすることを防ぐものである。
本実施形態の工程保護材の幅は、コンベアの幅と同じ幅か数cm程度狭いことが好ましく、このような幅であることで、コンベアの駆動部へ工程保護材が巻き込まれることを抑制できる。
【0043】
(長繊維不織布の製造方法)
次に、本実施形態の長繊維不織布の製造方法について説明する。本実施形態の長繊維不織布は、下記(a)~(d)の工程を順次施すことによって製造されることが好ましい。
(a)熱可塑性樹脂を紡糸口金の吐出孔から紡出し、さらに吸引延伸して、長繊維を得る工程。
(b)移動するネットコンベア上に前記長繊維を捕集して、繊維ウェブを形成する工程。
(c)前記繊維ウェブの一方の表面のみに加熱面を接触させて予熱して、予熱繊維ウェブを得る工程。
(d)前記予熱繊維ウェブを一対のフラットロールで熱接着する工程。
【0044】
あるいは、本実施形態の長繊維不織布は、下記(a)~(d)の工程を順次施すことによって製造されることも好ましい。
(a)高融点重合体と、低融点重合体と、を複合紡糸口金の吐出孔から紡出し、さらに吸引延伸して、複合繊維である長繊維を得る工程。
(b)移動するネットコンベア上に前記長繊維を捕集して、繊維ウェブを形成する工程。
(c)前記繊維ウェブの一方の表面のみに加熱面を接触させて予熱して、予熱繊維ウェブを得る工程。
(d)前記予熱繊維ウェブを一対のフラットロールで熱接着する工程。
【0045】
以下に、上記の各工程について、さらに詳細を説明する。
【0046】
(a)長繊維を得る工程
まず、この工程では、前記の熱可塑性樹脂を紡糸口金の吐出孔から紡出する。
そして、長繊維不織布を構成する繊維を、高融点重合体の周りに該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維とする場合には、高融点重合体と、この高融点重合体の融点よりも10℃以上110℃以下低い融点を有する低融点重合体とを、複合紡糸口金の吐出孔から紡出する。この場合において、高融点重合体、低融点重合体のそれぞれについて、その融点以上(融点+70℃)以下で溶融し、高融点重合体の周りに低融点重合体を配した複合繊維である長繊維となるように、口金温度は融点以上(融点+70℃)以下の紡糸口金から溶融押出することが好ましい。なお、高融点重合体および低融点重合体を、溶融時は異なる温度で制御し、途中から同じ温度で制御してもよい。
【0047】
また、溶融した熱可塑性樹脂が押出される紡糸口金の吐出孔の形状は、前記の繊維の断面形状に合わせ、円形、楕円形、多角形、多葉形、あるいは、これらの組み合わせの形状が挙げられる。なかでも、円形断面の形状のものを用いることが効率的に繊維同士の接着点を得られ、熱接着により繊維同士を強固に接着させることができる点の観点からより好ましい態様である。
【0048】
そして、前記のように溶融押出し、紡出された該熱可塑性樹脂を、エジェクターにより牽引、延伸して繊維を形成する。牽引、延伸については、空気により延伸することが一般的であり、この際の紡糸速度は、3000m/分以上6000m/分以下で牽引することが好ましい。紡糸速度を好ましくは3000m/分以上、より好ましくは3500m/分以上、さらに好ましくは4000m/分以上とすることで、後工程での予熱や熱接着時に繊維が収縮してシワが発生したり、加熱されたロールなどに熱可塑性樹脂、特に、低融点重合体が融着して生産性が低下したりすることがないように、得られる繊維ウェブを構成する長繊維をより高度に配向結晶化させることができる。
一方、紡糸速度を好ましくは6000m/分以下、より好ましくは5500m/分以下、さらに好ましくは5000m/分以下とすることにより、繊維の過度の配向結晶化を抑制することができ、スパンボンド不織布の機械的強度の向上に資する熱接着性を得ることができる。
【0049】
(b)繊維ウェブを形成する工程
この工程においては、上記の工程により得られた長繊維を、移動するネットコンベア上に捕集して、繊維ウェブを形成する。この際、前記の長繊維については、開繊板により該繊維の配列を規制したあと、捕集することが好ましい。具体的には、エジェクターにて吸引させた繊維をエジェクターの下部に設けられたスリット状を有する開繊板から噴射させることがより好ましい。そして、その繊維を移動するネットコンベア上に堆積させることで繊維ウェブを形成することが好ましい。
【0050】
(c)予熱繊維ウェブを得る工程
本実施形態の長繊維不織布の製造方法では、前記の工程で得られた繊維ウェブの一方の表面のみに加熱面を接触させて予熱して、予熱繊維ウェブを得る。
【0051】
予熱は、捕集した繊維ウェブを上下一対のフラットロールにより融着させる方法、ネットコンベアの上方にフラットロールや加熱プレートを設置し、ネットコンベアと当該フラットロールあるいは加熱プレートとの間で融着させる方法が好ましく用いられる。このようにすることで表裏差を設け、工程保護材として使用した際に工程通過性を良好とする。
【0052】
これらの方法で用いられる「フラットロール」とは、ロールの表面に凹凸のない金属製ロールや弾性ロールのことであり、さらに、上下一対のフラットロールとは、金属製ロールと金属製ロールとを対にしたもの、あるいは、金属製ロールと弾性ロールを対にしたものなどのことである。ここで、弾性ロールとは、金属製ロールと比較して、弾性を有する材質からなるロールのことである。弾性ロールとしては、ペーパー製、コットン製、アラミドペーパー製などのいわゆるペーパーロール、あるいは、ウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、シリコン系樹脂、ポリエステル系樹脂および硬質ゴム等や、これらの混合物からなる樹脂製ロールなどが挙げられる。
【0053】
なお、この予熱において、上下一対のフラットロールにより融着させる場合には、一方のフラットロールのみが加熱面となるようにする。一実施態様を例示するならば、一方のフラットロールのみがヒーターなどの加熱機構を有し、かつ、後述する温度に加熱されたロール(熱ロール)であり、他方のフラットロールはこのような加熱機構を有さないロールであるか、加熱機構を有していてもヒーターのスイッチが切られている状態であるロールである態様である。また、この実施態様において、前記の「加熱面」とは、熱ロールの表面のことを指す。
【0054】
そして、この予熱において、ネットコンベアの上方にフラットロールを設置し、ネットコンベアと当該フラットロールとの間で予熱させる場合、当該フラットロールには、金属製が好ましく、このフラットロールにのみヒーターなどの加熱機構が設けられ、後述する温度に加熱される。そして、このフラットロールが熱ロールであり、この熱ロールの表面が前記の「加熱面」である。
【0055】
また、この予熱において、ネットコンベアの上方に加熱プレートを設置し、ネットコンベアと当該加熱プレートとの間で予熱させる場合、当該加熱プレートは、金属製のものが好ましく、この加熱プレートにのみヒーターなどの加熱機構が設けられ、後述する温度に加熱される。そして、この加熱プレートの、繊維ウェブと接する側の表面が「加熱面」である。
【0056】
本工程の予熱においては、加熱面の温度が熱可塑性樹脂の融点(繊維が高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維の場合は、その低融点重合体の融点)に対して30℃以上110℃以下低い温度で、かつ、前記加熱面の線圧が1N/cm以上100N/cm以下である。このような条件で行うことで、加熱面の繊維ウェブのみに熱を付与し、繊維の接触面のみ繊維の結晶化が促進され、後述の熱接着後に、十分に表面粗さRzについて表裏差のある不織布とすることができる。
【0057】
特に、前記の温度の範囲について、熱可塑性樹脂の融点(繊維が高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維の場合は、その低融点重合体の融点)に対して30℃以上低くすること([融点-30]℃以下とすること)、好ましくは、40℃以上低くすること([融点-40]℃以下とすること)で、加熱面の繊維ウェブの表面温度が高くなり過ぎて、熱接着時に1対のフラットロールに繊維ウェブが取られてしまうということなく、後工程へ搬送することができ、前記の融点に対して110℃以下低くすること([融点-110]℃以上とすること)、好ましくは100℃以下低くすること([融点-100]℃以上とすること)で、加熱面の繊維ウェブを十分予熱することができる。
【0058】
一方、前記の線圧の範囲について、下限を1N/cm以上、好ましくは5N/cm以上とすることで、加熱面の繊維ウェブに十分予熱することができる。一方、前記の範囲について、上限を100N/cm以下、好ましくは50N/cm以下とすることで、加熱面の繊維ウェブ内部まで熱を伝え、熱結晶化することを抑制し、熱接着時に十分圧着することができる。
【0059】
(d)熱接着する工程
本実施形態の長繊維不織布の製造方法では、前記の工程で得られた予熱繊維ウェブを、一対のフラットロールで熱接着する。この熱接着においては、一対のフラットロールの表面の温度が前記の熱可塑性樹脂の融点(繊維が高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維の場合は、その低融点重合体の融点)よりも30℃以上70℃以下低い温度で、かつ、前記一対のフラットロールの線圧が100N/cm以上900N/cm以下である。このような条件で行うことで、十分に予熱繊維ウェブを熱接着し、所望の平滑な表面粗さを有し、かつ、十分に表面粗さRzについて表裏差のある不織布とすることができる。
【0060】
特に、前記の温度の範囲について、熱可塑性樹脂の融点(繊維が高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維の場合は、その低融点重合体の融点)に対して30℃以上低くすること([融点-30]℃以下とすること)、好ましくは、40℃以上低くすること([融点-40]℃以下とすること)で一対のフラットロール表面温度が高すぎて、フラットロールに予熱繊維ウェブが巻き付くことなく、後工程へ搬送することができる。前記の融点に対して70℃以下低くすること([融点-70]℃以上とすること)、好ましくは60℃以下低くすること([融点-60]℃以上とすること)で、予熱繊維ウェブが十分熱接着され、十分な機械的強度を有する長繊維不織布が得られる。
【0061】
一方、前記の線圧の範囲について、下限を100N/cm以上、好ましくは500N/cm以上とすることで、予熱繊維ウェブを十分熱接着し、所望の表面粗さを有する長繊維不織布が得られる。一方、前記の範囲について、上限を900N/cm以下、好ましくは800N/cm以下とすることで、強固に熱接着を実施することなく、長繊維不織布が部分的にフィルム化することを抑制することができる。
【0062】
(e)長繊維不織布の製造装置
最後に、上記(a)~(d)で例示、説明した長繊維不織布の製造方法を行うための製造装置の一例を
図2に示す。
【0063】
紡糸口金5(前記のとおり、紡糸口金5は複合紡糸口金であってもよい)の吐出孔から紡出された熱可塑性樹脂10(前記のとおり、紡出された熱可塑性樹脂10は、高融点重合体と低融点重合体であってもよい)は、エジェクター6で吸引延伸して長繊維が得られる。そして、長繊維は移動するネットコンベア7上に捕集されて、繊維ウェブ11が形成される。その後、繊維ウェブ11は繊維ウェブの搬送方向を示す矢印13の方向へ搬送され、繊維ウェブ11の一方の表面のみに加熱面8を接触させて予熱されて、予熱繊維ウェブとなる。この予熱繊維ウェブは、一対のフラットロール9で熱接着され、最終的に、長繊維不織布12が得られるのである。
【0064】
もちろん、上記の装置は好ましい態様を示したにすぎず、上記した範囲に何ら限定されるものではない。そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0065】
次に、実施例に基づき本実施形態の不織布ロールとその製造方法について、具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0066】
[測定方法]
(1)固有粘度IV:
ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度IVは、次の方法で測定した。オルソクロロフェノール100mLに対し試料8gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを、下記式により求めた
ηr=η/η0=(t×d)/(t0×d0)
(ここで、ηはポリマー溶液の粘度、η0はオルソクロロフェノールの粘度、tは溶液の落下時間(秒)、dは溶液の密度(g/cm3)、t0:はオルソクロロフェノールの落下時間(秒)、d0はオルソクロロフェノールの密度(g/cm3)を、それぞれ表す。)
次いで、上記の相対粘度ηrから、下記式により、固有粘度IVを算出した。
固有粘度IV=0.0242ηr+0.2634 。
【0067】
(2)融点(℃):
使用した熱可塑性樹脂の融点は、示差走査型熱量計(TA Instruments社製「Q100」)を用いて、上記の条件で測定し、吸熱ピーク頂点温度の平均値を算出して、測定対象の融点とした。
【0068】
(3)繊維の平均単繊維直径(μm)
繊維の平均単繊維直径(μm)は、マイクロスコープとして株式会社キーエンス製「VHX-D500」を用い、前記の方法で測定、算出した。
【0069】
(4)目付(g/m2)、厚さ(mm)、見掛密度(g/cm3):
長繊維不織布の目付、厚さ、見掛密度は、それぞれ前記の方法で測定、算出した。
【0070】
(5)通気量(cm3/(cm2・秒))
長繊維不織布の通気量は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.8.1 フラジール形法」に準じて、15cm角にカットした繊維シート10枚を、テクステスト社製の通気性試験機「FX3300」を用いて、試験圧力125Paで測定した。そして、得られた値の平均値から、小数点以下第二位を四捨五入して算出した。
【0071】
(6)表面粗さRz(μm)、表面粗さRzとの差の絶対値
長繊維不織布の表面粗さRz(μm)、表面粗さRzとの差の絶対値は前記の方法で算出した。
【0072】
(7)繊維空隙部の面積割合(%)
長繊維不織布の繊維空隙部の面積割合(%)は、スキャナーとして、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社製複合機「DocuCentre-VI4471」を、画像編集ソフトとして、「GIMP Ver.2.10.30」を、画像解析ソフトとして、「ImageJ Ver.1.53e」を用い、前記の方法で算出した。
【0073】
(8)工程保護材としての評価
長繊維不織布(比較例4は短繊維不織布)を幅方向に分割(スリット)し、その中から両端部と中央部の2箇所計4箇所より幅25cm、長さ55mの試験片を採取し、(8-1)の搬送操作を行って、工程保護材として用いたときの評価を以下の(8-2)~(8-4)の3つの観点で行った。
【0074】
(8-1)搬送操作
搬送については、
図1の断面概念図に示される装置を用いて評価した。具体的には、コンベア長さ30cm、幅30cm、曲部半径0.5cmのポリエステル製平織物のベルトコンベア3を用い、同ベルトコンベア3の上に試験片1を載せて、底面が150mm角の正方形で、質量260gのプラスチック製の搬送部材2がベルトコンベア3に吸着されるように、風速5.0m/分の条件で図示されない吸引手段によりベルトコンベア3の内側へ吸引しながら、
図1の右側の送り出し機構4から左側に向かって搬送部材2を搬送した。なお、搬送部材2と試験片1との間の動摩擦係数は0.35であり、1秒/個の搬送速度で50個搬送する操作を5回繰り返した。
【0075】
(8-2)シートの弛みの有無
搬送操作後に工程保護材の両端部のシート弛みの有無を確認した。
【0076】
(8-3)搬送部材の吸引固定具合
搬送操作後に搬送部材が幅方向にズレが生じるか確認し、1cm以上のズレが発生した搬送部材の有無を確認した。
【0077】
(8-4)毛羽立ち性
長繊維不織布表面を1ロール当たり3箇所搬送前後で目視観察し、さらに走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社キーエンス製「VHX-950H」)を用いて観察した。搬送操作前後で表面状態に変化が見られない場合は「5」、目視では不明瞭であるがSEM観察ではわずかに毛羽立ちが確認できる場合は「4」、目視では不明瞭であるがSEM観察では明らかに毛羽立ちが確認できる場合は「3」、目視で毛羽立ちが確認できる場合は「2」、シート形態を保持できていない場合は「1」で表記した。
【0078】
[使用した樹脂]
次に、実施例・比較例において使用した樹脂について、その詳細を記載する。
・高融点重合体:水分率50質量ppm以下に乾燥した、固有粘度(IV)が0.65で融点が260℃の、ポリエチレンテレフタレート(表1および表2において、PETと表記した。)
・低融点重合体:水分率50質量ppm以下に乾燥した、固有粘度(IV)が0.64、イソフタル酸共重合率が11mol%で融点が230℃の、共重合ポリエチレンテレフタレート(表1および表2において、cо-PETと表記した。)。
【0079】
[実施例1]
(長繊維を得る工程)
前記の高融点重合体と低融点重合体とを、それぞれ、295℃、280℃の温度で溶融させた。その後、高融点重合体を芯成分とし、低融点重合体を鞘成分として、口金温度が295℃で、芯:鞘=80:20の質量比率で円形の紡糸口金の吐出孔から紡出した。
その後、紡出された熱可塑性樹脂をエジェクターにより紡糸速度4900m/分で牽引、延伸し、円形断面形状の長繊維を形成した。
【0080】
(繊維ウェブを形成する工程)
前記の長繊維を、開繊板により該長繊維の配列を規制した後、移動するネットコンベア上に捕集して、平均単繊維直径が12.3μmの複合繊維からなる、目付50g/m2の繊維ウェブを形成した。
【0081】
(予熱繊維ウェブを得る工程)
形成した繊維ウェブをネットコンベアで搬送し、この繊維ウェブのネットコンベアと接していない側の表面について、ネットコンベアの上方に設置した加熱プレート(金属製、加熱面の温度:155℃)を線圧10N/cmで接触させることで、繊維ウェブの一方の表面のみを予熱し、予熱繊維ウェブを得た。
【0082】
(熱接着する工程)
前記の予熱繊維ウェブを、両方のフラットロールの表面の温度が185℃で、線圧が700N/cmとした一対の金属製フラットロールからなるカレンダーロールに通すことによって熱接着し、長繊維不織布を得た。結果を表1に示す。
【0083】
この長繊維不織布の見掛密度は0.58g/cm3、通気量は25cm3/(cm2・秒)、各面の表面粗さRzは35.8μm、43.4μm、繊維空隙部の面積割合は5.0%であった。
この長繊維不織布を工程保護材として使用した結果、シート弛みは無く、搬送部材の吸引固定具合も問題なく、毛羽立ち性も5であった。
【0084】
[実施例2]
(予熱繊維ウェブを得る工程)において、予熱時に金属製の加熱プレートを用い、線圧が10N/cmであったところ、金属製のフラットロールを用いることとし、線圧を50N/cmに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で実施した。結果を表1に示す。
【0085】
得られた長繊維不織布の目付は50g/m2、見掛密度は0.61g/cm3、通気量は18cm3/(cm2・秒)、各面の表面粗さRzは36.2μm、43.6μm、繊維空隙部の面積割合は10.0%であった。
この長繊維不織布を工程保護材として使用した結果、シート弛みは無く、搬送部材の吸引固定具合も問題なく、毛羽立ち性も5であった。
【0086】
[実施例3]
(繊維ウェブを形成する工程)において、移動するネットコンベアの速度が目付50g/m2の長繊維不織布が得られるように調整していたところ、目付70g/m2の長繊維不織布が得られるように調整するようにしたこと以外は実施例2と同様の方法で実施した。結果を表1に示す。
【0087】
得られた長繊維不織布の見掛密度は0.59g/cm3、通気量は7cm3/(cm2・秒)、各面の表面粗さRzは32.1μm、39.8μm、繊維空隙部の面積割合は0.2%であった。
この長繊維不織布を工程保護材として使用した結果、シート弛みは無く、搬送部材の吸引固定具合も問題なく、毛羽立ち性も5であった。
【0088】
【0089】
[比較例1]
(予熱繊維ウェブを得る工程)において、加熱プレートを取り外して予熱を実施しないこと(すなわち、繊維ウェブを、移動するネットコンベアでそのまま搬送すること)にし、(熱接着する工程)において、繊維ウェブを、両方のフラットロールの表面の温度が195℃で、線圧が700N/cmとした一対の金属製フラットロールからなるカレンダーロールに通すことによって熱接着したこと以外は実施例1と同様の方法で実施した。結果を表2に示す。
【0090】
得られた長繊維不織布の目付は50g/m2、見掛密度は0.81g/cm3、通気量は7cm3/(cm2・秒)、各面の表面粗さRzは32.3μm、32.9μm、繊維空隙部の面積割合は0.1%であった。
この長繊維不織布を工程保護材として使用した結果、搬送部材の吸引固定具合も問題なく、毛羽立ち性も5であったものの、シート弛みが発生した。
【0091】
[比較例2]
(予熱繊維ウェブを得る工程)において、加熱プレートを取り外して予熱を実施しないこと(すなわち、繊維ウェブを、移動するネットコンベアでそのまま搬送すること)にし、(熱接着する工程)において、繊維ウェブを、両方のフラットロールの表面の温度が150℃で、線圧が700N/cmとした一対の金属製フラットロールからなるカレンダーロールに通し、さらに、両方のフラットロールの表面の温度が195℃で、線圧が700N/cmとした一対の金属製フラットロールからなるカレンダーロールに通すことによって2段階の熱接着をしたこと以外は実施例1と同様の方法で実施した。結果を表2に示す。
【0092】
得られた長繊維不織布の目付は50g/m2、見掛密度は0.57g/cm3、通気量は22cm3/(cm2・秒)、各面の表面粗さRzは36.2μm、37.1μm、繊維空隙部の面積割合は2.1%であった。
この長繊維不織布を工程保護材として使用した結果、搬送部材の吸引固定具合も問題なく、毛羽立ち性も5であったものの、シート弛みが発生した。
【0093】
[比較例3]
(長繊維を得る工程)
前記の高融点重合体と低融点重合体とを、それぞれ、295℃、280℃の温度で溶融させた。その後、高融点重合体を芯成分とし、低融点重合体を鞘成分として、口金温度が295℃で、芯:鞘=80:20の質量比率で円形の紡糸口金の吐出孔から紡出した。
その後、紡出された熱可塑性樹脂をエジェクターにより紡糸速度4900m/分で牽引、延伸し、円形断面形状の長繊維を形成した。
【0094】
(繊維ウェブを形成する工程)
前記の長繊維を、開繊板により該長繊維の配列を規制した後、移動するネットコンベア上に捕集して、平均単繊維直径が11.4μmの複合繊維からなる、目付35g/m2の繊維ウェブを形成した。
【0095】
(予熱繊維ウェブを得る工程)
形成した繊維ウェブをネットコンベアで搬送し、この繊維ウェブのネットコンベアと接していない側の表面について、ネットコンベアの上方に設置した加熱プレート(金属製、加熱面の温度:135℃)を線圧10N/cmで接触させることで、繊維ウェブの一方の表面のみを予熱し、予熱繊維ウェブを得た。
【0096】
(熱接着する工程)
前記の予熱繊維ウェブを、両方のフラットロールの表面の温度が135℃で、線圧が490N/cmとした一対の金属製フラットロールからなるカレンダーロールに通すことによって熱接着し、不織布シートを得た。さらに、得られた不織布シートを2層重ね合わせ、上中下3段のフラットロールに、中段-下段のロール間、中段-上段のロール間の順に通すことによってさらに熱接着し、最後に、表面温度を45℃とした、金属製の冷却ロールに1秒間接触させることで、長繊維不織布を得た。ここで、上中下3段のフラットロールの詳細は以下のとおりである。
上段のフラットロール:硬度(ShoreD)91、表面平均粗さRaが4μmの樹脂製の弾性ロール(表面温度:130℃)
中段のフラットロール:金属製ロール(表面温度:195℃)
下段のフラットロール:硬度(ShoreD)91、表面平均粗さRaが4μmの樹脂製の弾性ロール(表面温度:130℃)
上段のフラットロールと中段のフラットロールとの間の線圧:1850N/cm
中段のフラットロールと下段のフラットロールとの間の線圧:1850N/cm
結果を表2に示す。
【0097】
この長繊維不織布を工程保護材として使用した結果、シート弛みは無く、毛羽立ち性も5であったものの、搬送部材の吸引固定具合が弱く搬送部材ズレが発生した。
得られた長繊維不織布の目付は70g/m2、見掛密度は0.83g/cm3、通気量は1cm3/(cm2・秒)、各面の表面粗さRzは24.8μm、30.0μm、繊維空隙部の面積割合は0.1%であった。
【0098】
[比較例4]
平均単繊維直径が17.0μmで、繊維長が64mmの前記の高融点重合体からなる延伸糸30質量部と、平均単繊維直径が10.0μmで、繊維長が38mmの前記の高融点重合体からなる延伸糸20質量部と、平均単繊維直径が22.0μmで、繊維長が38mmの前記の高融点重合体からなる未延伸糸50質量部を混綿し、カード機で混合繊維ウェブを作製した。作製した混合繊維ウェブを、両方のフラットロールの表面の温度が180℃で、線圧が600N/cmとした一対の金属製フラットロールからなるカレンダーロールに通すことで混合繊維ウェブの全面を熱接着し、目付63g/m2の短繊維不織布を得た。結果を表2に示す。
【0099】
得られた短繊維不織布の見掛密度は0.60g/cm3、通気量は8cm3/(cm2・秒)、各面の表面粗さRzは40.8μm、44.6μm、繊維空隙部の面積割合は0.4%であった。
この短繊維不織布を工程保護材として使用した結果、シート弛みは無く、搬送部材の吸引固定具合も問題なかったものの、毛羽立ち性は2であった。
【0100】
[比較例5]
(予熱繊維ウェブを得る工程)において、予熱時に金属製の加熱プレートを用い、線圧が10N/cmであったところ、金属製のフラットロールを用いることとし、加熱面の温度を205℃に、線圧を50N/cmに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で実施した。結果を表2に示す。
【0101】
得られた長繊維不織布の目付は50g/m2、見掛密度は0.45g/cm3、通気量は32cm3/(cm2・秒)、各面の表面粗さRzは24.1μm、40.2μm、繊維空隙部の面積割合は16.3%であった。
この長繊維不織布を工程保護材として使用した結果、毛羽立ち性も5であったものの、シート弛みが有り、搬送部材の吸引固定についても吸引具合が強すぎて搬送部材が変形した。
【0102】
【0103】
<まとめ>
上記のとおり、実施例・比較例で得られた長繊維不織布を用い、工程保護材として使用した結果、実施例1~3の長繊維不織布においては、長繊維不織布のシート弛みもなく、搬送部材の吸引固定も問題なく、毛羽立ち性も良好であり、耐擦過性にも優れることを確認した。一方、比較例1、2の長繊維不織布では長繊維不織布に表裏差がなく、シート端部がカールしやすく弛み、シートの弛みが一部で発生した。また、比較例3の長繊維不織布では、高密度で表面が平滑であるため、搬送時に搬送部材を十分吸引固定できず搬送性不良が発生した。また、比較例4の短繊維不織布については、搬送性には問題なかったものの、2回同加工でSEMでの表面観察の結果、毛羽立ちが見られ、さらに計5回同加工をした結果、目視でも毛羽立ちが発生し、連続生産性には劣るものであった。さらに、比較例5の長繊維不織布では、予熱工程で温度が高く、長繊維不織布の表面粗さの差が大きくなり、シートがカールして搬送時のシートの弛みが発生した。加えて、予熱面側の温度が高く、結晶化が進行したことで、熱接着時の接着性が低下して、通気量が高くなったため、前記のように吸引具合が強くなり、搬送部材の変形が発生した。
【0104】
上記結果より本発明の長繊維不織布は、コンベアへの追従性に優れ、搬送できかつ、耐擦過性に優れ、連続使用時にも耐えうる長繊維不織布であった。
【0105】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2023年2月22日付けで出願された日本特許出願(特願2023-025789)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【符号の説明】
【0106】
1:試験片
2:搬送部材
3:ベルトコンベア
4:送り出し機構
5:紡糸口金
6:エジェクター
7:ネットコンベア
8:加熱面
9:フラットロール
10:紡出された熱可塑性樹脂
11:繊維ウェブ
12:長繊維不織布
13:繊維ウェブの搬送方向を示す矢印
【要約】
表面平滑性とコンベアなどへの追従性に優れ、連続使用時にも耐えうる長繊維不織布を提供することを課題とする。本発明は、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維で構成されてなる長繊維不織布であって、前記長繊維不織布の両面の表面粗さRzが25.0μm以上50.0μm以下であり、一方の表面の前記表面粗さRzと他方の表面の前記表面粗さRzとの差の絶対値が4.0μm以上10.0μm以下である、長繊維不織布に関する。