(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】X線素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G21K 1/06 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
G21K1/06 B
G21K1/06 D
(21)【出願番号】P 2020104051
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-04-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔1〕 刊行物名 2019年度 首都大学東京 理工学部 物理学コース 卒業研究発表会Abstract 発行日 2020年2月6日 <資料> 卒業研究発表会プログラム及びAbstract(抜粋) 〔2〕 集会名 2019年度 首都大学東京 理工学部 物理学コース 卒業研究発表会 開催日(公開日) 2020年2月12日 <資料> 卒業研究発表会 発表スライド(抜粋)
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】江副 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】大橋 隆哉
(72)【発明者】
【氏名】沼澤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】伊師 大貴
(72)【発明者】
【氏名】大坪 亮太
(72)【発明者】
【氏名】福島 碧都
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 光
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 辰哉
(72)【発明者】
【氏名】内野 智樹
(72)【発明者】
【氏名】作田 紗恵
(72)【発明者】
【氏名】石川 久美
(72)【発明者】
【氏名】満田 和久
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-030232(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104819828(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102200640(CN,A)
【文献】特開2017-190987(JP,A)
【文献】特開2017-003766(JP,A)
【文献】特表2009-503506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向で所定の厚みを有する第1基板に、ドライエッチングによって、前記第1方向に貫通し、前記第1方向から見たときに前記第1方向に交差する第2方向よりも前記第1方向及び前記第2方向に交差する第3方向に長い第1貫通孔を形成する第1貫通孔形成工程と、
第1方向で所定の厚みを有する第2基板に、ドライエッチングによって、前記第1方向に貫通し、前記第1方向から見たときに前記第3方向よりも前記第2方向に長い第2貫通孔を形成する第2貫通孔形成工程と、
前記第1方向から見て前記第1貫通孔が前記第2貫通孔の前記第2方向の両端部よりも中央部の少なくとも一部と重なり、且つ前記第2貫通孔が前記第1貫通孔の前記第3方向の両端部よりも中央部の少なくとも一部と重なるように位置合わせし、前記第1基板と前記第2基板とを前記第1方向で重ねる位置合わせ工程と、
前記第1基板と前記第2基板とを所定の曲率半径で曲げ、前記第1貫通孔及び前記第2貫通孔の各々の周壁面を所定の位置を中心とする径方向に沿う第4方向に沿って延在させ、前記第1基板の前記第4方向の両端を前記所定の位置を中心とする周方向に沿う第5方向に沿って湾曲させ、前記第2基板の前記第4方向の両端を前記所定の位置を中心とする周方向に沿い且つ前記第5方向に交差する第6方向に沿って湾曲させる曲率付与工程と、
を備え、
前記第1貫通孔の側壁をなす表面の粗さ及び前記第2貫通孔の側壁をなす表面の粗さの各々を10nm以下とする、
X線素子の製造方法。
【請求項2】
前記第1貫通孔及び前記第2貫通孔の各々の側壁をなす前記第1基板及び前記第2基板の表面でX線を反射可能に加工する周壁面加工工程をさらに備える、
請求項
1に記載のX線素子の製造方法。
【請求項3】
前記第1基板及び前記第2基板はそれぞれ、第1半導体基板及び第2半導体基板のそれぞれであり、
前記周壁面加工工程において、
前記第1貫通孔の側壁をなす前記第1半導体基板の表面にX線を反射可能な第1金属膜を形成し、
前記第2貫通孔の側壁をなす前記第2半導体基板の表面にX線を反射可能な第2金属膜を形成する、
請求項
2に記載のX 線素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、X線素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天体から放射されるX線の観測は、天体や宇宙で起こっている現象の理解を深めるため、X線天文学、宇宙物理学等の分野で重要である。X線は地球の大気によって吸収されるため、X線を観測するための装置は、人工衛星等に搭載され、大気よりも高い高度に運ばれる。そのため、軽量で高性能な装置が求められる。
【0003】
X線を観測するための装置には、X線をX線検出器に入射させるためのX線素子が設けられている。X線は可視光よりも約1000倍エネルギーが高く、透過力があるため、反射面に対して略垂直に入射させても概ね透過してしまい、X線の向きを変えられない。そのため、X線を観測する装置には、1°以下の入射角度で全反射させることによってX線の向きをX線検出器に合わせる斜入射光学系が広く採用されている。斜入射光学系に用いるX線素子として、例えば特許文献1には、ドライエッチングによって複数の曲線状のスリットが形成されたシリコンウェハを所定の曲率半径で曲げて変形させたX線素子が開示されている。
【0004】
上述のようにシリコンウェハ等の基材で形成可能なX線素子として、例えばX線の進行方向の中心に沿って延びる複数の膜状の基材が径方向に互いに間隔をあけて配置されたWolter I型の素子が知られている。但し、Wolter I型の素子の製造には、多段の工程を要する。Wolter I型に比べて一段の工程でX線素子として、甲殻類の眼を模したLobster eye型の素子が提案されている。Lobster eye型の素子を用いることによって、X線の進行方向の中心に対称な広い視野を得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Lobster eye型の中でもAngel配置と呼ばれるX線素子には、入射する線の進行方向から見たとき、矩形状の孔が形成されている。ドライエッチングによってシリコンウェハ等の基材に矩形状の孔を形成すると、成熟した技術を用いて容易に実現できる利点がある一方で、厚み方向に沿って見たときに孔の角部に丸みが生じる虞がある。矩形状の孔の角部に丸みが生じると、孔の周壁で反射したX線を所定の位置に向けることが難しいという問題があった。つまり、X線を所定の位置に向けて高精度に出射し且つ容易に製造可能なX線素子が求められていた。
【0007】
本発明は、X線を所定の位置に向けて高精度に出射し且つ容易に製造可能なX線素子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るX線素子の製造方法は、第1方向で所定の厚みを有する第1基板に、ドライエッチングによって、前記第1方向に貫通し、前記第1方向から見たときに前記第1方向に交差する第2方向よりも前記第1方向及び前記第2方向に交差する第3方向に長い第1貫通孔を形成する第1貫通孔形成工程と、第1方向で所定の厚みを有する第2基板に、ドライエッチングによって、前記第1方向に貫通し、前記第1方向から見たときに前記第3方向よりも前記第2方向に長い第2貫通孔を形成する第2貫通孔形成工程と、前記第1方向から見て前記第1貫通孔が前記第2貫通孔の前記第2方向の両端部よりも中央部の少なくとも一部と重なり、且つ前記第2貫通孔が前記第1貫通孔の前記第3方向の両端部よりも中央部の少なくとも一部と重なるように位置合わせし、前記第1基板と前記第2基板とを前記第1方向で重ねる位置合わせ工程と、前記第1基板と前記第2基板とを所定の曲率半径で曲げ、前記第1貫通孔及び前記第2貫通孔の各々の周壁面を所定の位置を中心とする径方向に沿う第4方向に沿って延在させ、前記第1基板の前記第4方向の両端を前記所定の位置を中心とする周方向に沿う第5方向に沿って湾曲させ、前記第2基板の前記第4方向の両端を前記所定の位置を中心とする周方向に沿い且つ前記第5方向に交差する第6方向に沿って湾曲させる曲率付与工程と、を備える。本発明に係るX線素子の製造方法では、前記第1貫通孔の側壁をなす表面の粗さ及び前記第2貫通孔の側壁をなす表面の粗さの各々を10nm以下とする。
【0011】
上述のX線素子の製造方法では、前記第1貫通孔及び前記第2貫通孔の各々の側壁をなす前記第1基板及び前記第2基板の表面でX線を反射可能に加工する周壁面加工工程をさらに備えてもよい。
【0012】
上述のX線素子の製造方法では、前記第1基板及び前記第2基板はそれぞれ、第1半導体基板及び第2半導体基板のそれぞれであり、周壁面加工工程において、前記第1貫通孔の側壁をなす前記第1半導体基板の表面にX線を反射可能な第1金属膜を形成し、前記第2貫通孔の側壁をなす前記第2半導体基板の表面にX線を反射可能な第2金属膜を形成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、X線を所定の位置に向けて高精度に出射し且つ容易に製造可能なX線素子及びX線素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る一実施形態のX線素子を用いてX線をX線検出器で検出する様子を示す模式図である。
【
図2】本発明に係る一実施形態のX線素子をX線の進行方向の後方から前方に向かって見た正面図である。
【
図3】
図2に示すX線素子をZ1-Z1線で矢視した断面図である。
【
図4】
図2に示すX線素子の要部を拡大した斜視図である。
【
図5】本発明に係る一実施形態のX線素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図6】本発明に係る一実施形態のX線素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図7】
図6に示す領域M10を拡大した断面図である。
【
図8】
図6に示す領域M10を拡大した別の断面図である。
【
図9】本発明に係る一実施形態のX線素子の製造方法を説明するための斜視図である。
【
図10】本発明に係る一実施形態のX線素子の製造方法を説明するための断面図である。
【
図12】従来のX線素子の要部を拡大した斜視図である。
【
図13】実施例で使用したフォトマスクの平面図である。
【
図14】
図13に示すフォトマスクの単位パターン(領域M1)の拡大図である。
【
図15】
図13に示すフォトマスクの領域M2の拡大図である。
【
図16】
図13に示すフォトマスクの領域M3の拡大図である。
【
図17】
図13に示すフォトマスクを用いてSi基板に複数の第1貫通孔を形成したときのSi基板の表側から見た光学顕微鏡写真である。
【
図18】
図13に示すフォトマスクを用いてSi基板に複数の第1貫通孔を形成したときのSi基板の裏側から見た光学顕微鏡写真である。
【
図19】実施例においてSi基板に複数の矩形状の貫通孔を形成したときのSi基板の表側から見た光学顕微鏡写真である。
【
図20】実施例においてSi基板に複数の矩形状の貫通孔を形成したときのSi基板の裏側から見た光学顕微鏡写真である。
【
図21】実施例において第1のパターンの第1貫通孔の周壁面の粗さを測定した結果を示すグラフである。
【
図22】実施例において第2のパターンの第1貫通孔の周壁面の粗さを測定した結果を示すグラフである。
【
図23】実施例における1枚目のSi基板の平面図である。
【
図24】実施例における2枚目のSi基板の平面図である。
【
図25】実施例における1枚目のSi基板と2枚目のSiとを組み合わせたときの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、本発明に係る一実施形態のX線素子10は、不図示の天体等からのX線100をX線検出器200に集め、X線検出器200によって検出可能とする。
【0016】
X線素子10は、第1層21と、第2層22と、を備え、第1層21と第2層22との積層構造を有する。
図2に示すように、第1層21は、半導体基板(第1半導体基板)25と、金属膜(第1金属膜)61と、を備える。第2層22は、半導体基板(第2半導体基板)26と、金属膜(第2金属膜)62と、を備える。半導体基板25、26は、フォトリソグラフィー技術及びエッチング技術で加工可能且つ曲げ加工可能な半導体で形成され、例えばシリコン(Si)で形成されている。
図1から
図3に示すように、X線素子10において、第1方向
(第4方向)R1は、X線検出器200においてX線100が集まる所定の位置50を中心とする径方向を表す。曲げ加工前の半導体基板25、26の第1方向R1から見た直径は、例えば3inchから12inch(即ち、76.2mmから304.8mm)程度であるが、X線素子10に求められる条件等を勘案して適宜設定される。
【0017】
図1から
図3に示すように、第2方向
(第6方向)S2は、第1方向R1に交差する曲面に含まれ、位置50を中心とする周方向のうちの一方向である。第3方向
(第5方向)S3は、位置50を中心とする周方向に沿い且つ第2方向S2に交差する方向であり、位置50を中心とする周方向のうちの一方向である。第1層21は、第1方向R1で所定の厚みT21を有し、第1方向R1から見て円形状に形成され、所定の位置50を中心とする曲面に沿い、所定の大きさを有する。第2層22は、第1方向R1で所定の厚みT22を有し、第1方向R1から見て円形状に形成され、所定の位置50を中心とする曲面に沿い、所定の大きさを有する。厚みT21、T22の各々は、例えば100μmから1000μm程度であるが、X線素子10に求められる条件等を勘案して適宜設定される。第2層22は、第1層21よりもX線100の進行方向前方、即ち第1方向R1において第1層21とX線検出器200との間に配置され、第1方向R1で第1層21と隣り合っている。
【0018】
半導体基板25には、第1方向R1に貫通する複数の第1貫通孔31が形成されている。複数の第1貫通孔31は、位置50を中心とする周方向に沿う第2方向S2で互いに間隔をあけて形成されている。第1方向R1から見たとき、各々の第1貫通孔31の第3方向S3の大きさL33は、同じ第1貫通孔31の第2方向S2の大きさL32よりも大きい。
図2には、複数の第1貫通孔31のうちの1つの第1貫通孔31-1の大きさL32、L33を例示している。複数の第1貫通孔31の大きさL32は、互いに略同一である。一方、複数の第1貫通孔31のうち第2方向S2で互いに隣り合う第1貫通孔31の大きさL33は、互いに異なる。
【0019】
半導体基板26には、第1方向R1に貫通する複数の第2貫通孔32が形成されている。複数の第2貫通孔32は、第3方向S3で互いに間隔をあけて形成されている。第1方向R1から見たとき、各々の第2貫通孔32の第2方向S2の大きさL35は、同じ第2貫通孔32の第3方向S3の大きさL36よりも大きい。
図2には、複数の第2貫通孔32のうちの1つの第2貫通孔32-1の大きさL35、L36を例示している。複数の第2貫通孔32の大きさL36は、互いに略同一である。一方、複数の第2貫通孔32のうち第3方向S3で互いに隣り合う第2貫通孔32の大きさL35は、互いに異なる。なお、
図1では、第2方向S2で互いに隣り合う第1貫通孔31同士の間の第1層21の厚み、及び第3方向S3で互いに隣り合う第2貫通孔32同士の間の第2層22の厚みは略省略されている。
【0020】
図4は、一例として、第1貫通孔31-1及びその周壁を構成する第1層21と第2貫通孔32-1及びその周壁を構成する第2層22の要部を拡大した図である。
図2及び
図4に示すように、第1方向R1から見たとき、第1貫通孔31-1は、第2貫通孔32-1の第2方向S2の端部41、42よりも中心側の中央部43の一部と重なっている。第2貫通孔32-1の端部41(即ち、
図2の紙面左側の端部)とは、第2貫通孔32-1の第2方向S2の一方の端(即ち、
図2の紙面左側の端)から他方の端に向かって所定の寸法移動した位置までの第2方向S2の領域を表す。所定の寸法は、半導体基板25にエッチング技術で矩形状の貫通孔を形成した際に角部に生じる丸みの曲率半径と略同じであって、例えば5μm程度、若しくは1μm程度である。第2貫通孔32-1の端部42(即ち、
図2の紙面右側の端部)とは、第2貫通孔32-1の第2方向S2の他方の端(即ち、
図2の紙面右側の端)から一方の端に向かって上述の所定の寸法移動した位置までの第2方向S2の領域を表す。
【0021】
第1方向R1から見たとき、第2貫通孔32-1は、第1貫通孔31-1の第3方向S3の端部45、46よりも中心側の中央部47の一部と重なっている。第1貫通孔31-1の端部45(即ち、
図2の紙面上側の端部)とは、第1貫通孔31-1の第3方向S3の一方の端(即ち、
図2の紙面上側の端)から他方の端に向かって上述の所定の寸法移動した位置までの第3方向S3の領域を表す。第1貫通孔31-1の端部46(即ち、
図2の紙面下側の端部)とは、第1貫通孔31-1の第3方向S3の他方の端(即ち、
図2の紙面下側の端)から一方の端に向かって上述の所定の寸法移動した位置までの第3方向S3の領域を表す。
【0022】
図4に示すように、第1方向R1から見たとき、各々の第1貫通孔31の周壁面71は、X線を反射可能に構成されている。同じく第1方向R1から見たとき、各々の第2貫通孔32の周壁面72は、X線を反射可能に構成されている。周壁面71、72の各々の粗さは、少なくとも10nm以下であり、好ましくは5nm以下であり、より好ましくは1nm以下である。周壁面71、72の各々の粗さは、例えば二乗平均粗さ(root mean square:RMS)を意味する。前述の粗さは、適当な測定方法によって測定可能な値であり、例えば原子間力顕微鏡を用いた観測によって得られる。
【0023】
具体的には、第1貫通孔31の周壁をなす半導体基板25の側面(表面)25a、25bに、金属膜61が設けられている。金属膜61の表面61aは、第1貫通孔31に露出している。第2貫通孔32の周壁をなす半導体基板26の側面26a、26bに、金属膜62が設けられている。金属膜62の表面62aは、第1貫通孔31に露出している。金属膜61の表面61a及び金属膜62の表面62aの各々の粗さは、少なくとも10nm以下であり、好ましくは5nm以下であり、より好ましくは1nm以下である。金属膜61、62は、X線を反射可能な金属で形成され、重金属を含むことが好ましい。金属膜61、62を形成する重金属で酸化物としては、例えば酸化ハフニウム(HfO2)、酸化イリジウム(IrO2)、酸化タンタル(TaO2、Ta2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化ランタン(La2O3)、酸化亜鉛(ZnO)等が挙げられる。窒化物としては、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(Ta3N5)、窒化ハフニウム(HfZn)等が挙げられる。金属膜61、62を形成する金属としては、例えばルビジウム(Rb)、銅(Cu)、タングステン(W)、モリブデン(M)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)等が挙げられる。
【0024】
上述の構成を備えたX線素子10には、第1方向R1から見て格子状の貫通孔80が形成されている。貫通孔80の第1方向R1の深さは、厚みT21と厚みT22との合計値に相当する。貫通孔80のうちX線100の進行方向の後側の厚みT21に相当する範囲は第1貫通孔31の中央部47であり、貫通孔80のうち、第1貫通孔31よりもX線100の進行方向の前側の厚みT22に相当する範囲は第2貫通孔32の中央部43である。
図3では、金属膜61、62は、省略されている。
図1及び
図3に示すように、第1層21及び第2層22は、入射するX線100が金属膜61の表面61aに対して1°程度の入射角で入射し、全反射すると共に、金属膜62の表面62aに対して1°程度の入射角で入射し、全反射するように、X線100が集まる位置50を中心に所定の曲率半径で曲がっている。所定の曲率半径は、例えば10cmから10m程度であるが、前述のようにX線がふるまうように適宜設定されている。
【0025】
図4に示すように、例えば、貫通孔80に対して第1方向R1に対して数°程度の角度をなして入射するX線100は、先ず第3方向S3に沿う金属膜61で全反射され、第1貫通孔31を通過すると、次に第2方向S2に沿う金属膜62で全反射され、第2貫通孔32を通過し、貫通孔80から出射されると共にX線検出器200に向かって進行する。即ち、X線100は、貫通孔80で2回反射することによって、位置50に向かって進行する。
【0026】
次いで、本発明に係る一実施形態のX線素子の製造方法について、説明する。本実施形態のX線素子の製造方法は、上述のX線素子10を製造する方法であり、第1貫通孔形成工程と、第2貫通孔形成工程と、位置合わせ工程と、曲率付与工程と、周壁面加工工程と、を備える。
【0027】
第1貫通孔形成工程では、Si基板等の半導体基板(第1基板)25に、複数の第1貫通孔31を形成する。詳しく説明すると、
図5に示すように、第1方向D1で所定の厚みT1を有する半導体基板25の表面25cに、例えばアルミニウム(AL)膜110を蒸着し、AL膜110上にレジスト保護膜112を形成する。レジスト保護膜112の上に、フォトマスク120を配置する。フォトマスク120には、複数の第1貫通孔31に合わせてパターンが形成されている。
図5に示す一例では、第1貫通孔31が形成される部分は紫外線(UV)を透過する石英等で形成され、第1貫通孔31が形成されない部分にはクロム(Cr)等のUVを透過しない非透過素材でパターン122が描画されている。つまり、非透過部材が描画されていない石英の部分は、第1方向D1から見たときに第1方向D1に略直交(交差)する第2方向D2よりも第1方向D1及び第2方向D3に略直交(交差)する第3方向D3に長く形成されている。
図6に示すように、フォトマスク120の上方からUVを照射し、フォトリソグラフィーによって、フォトマスク120のパターン122をレジスト保護膜112及びAL膜に転写する。
【0028】
次に、ドライエッチングによって、
図7及び
図8に示すように、第1方向D1から見てAL膜110が設けられずに表面25cが露出している部分の半導体基板25をエッチングし、半導体基板25を第1方向D1に貫通する複数の第1貫通孔31を形成する。半導体基板25がシリコン基板であれば、
図7に示すように例えば六フッ化硫黄(SF
6)ガスを用いてエッチングできる。
図8に示すように、第1方向D1に貫通する第1貫通孔31の側壁をなす壁面(表面)25wに保護膜128を形成する。なお、
図8におけるnは、2以上の任意の自然数を表す。
【0029】
次に、上述した第1貫通孔形成工程において、半導体基板25を半導体基板(第2基板)26に置き換え、
図5から
図8を参照して説明した手順と同様にして第2貫通孔形成工程を行う。但し、第2貫通孔形成工程では、フォトマスクのパターンの非透過部材が描画されていない石英の部分は、第1方向D1から見たときに第3方向D3よりも第2方向D2に長く形成されている。第2貫通孔形成工程では、半導体基板26に、複数の第2貫通孔32を形成する。半導体基板25の壁面25w及び半導体基板26において第2貫通孔32の側壁をなす壁面(表面)26wの各々の粗さが少なくとも10nm以下、好ましくは5nm以下、より好ましくは1nm以下になるように、エッチング時のSF
6ガス或いはその他にエッチングで使用するガスの流量等、種々の条件等を調整する。エッチング終了後、適時にアッシングの処理によって、レジスト保護膜112及び保護膜128を除去する。
【0030】
次に説明する位置合わせ工程において半導体基板25、26を第1方向D1で重ねるために、第1貫通孔形成工程及び第2貫通孔形成工程の各工程で使用したフォトマスク120のパターンには、複数の第1貫通孔31及び複数の第2貫通孔32の形成位置とは互いに異なる位置に、位置合わせ用のマークやパターン(以下、単に位置合わせパターンと記載する)が形成されていることが好ましい。このことによって、
図9に示すように半導体基板25の表面25cにおいて複数の第1貫通孔31が形成されていない領域に位置合わせパターンを形成できる。また、半導体基板26の表面において複数の第2貫通孔32が形成されていない領域に位置合わせパターンを形成できる。
【0031】
次に、位置合わせ工程では、
図9に示すように第1方向D1から見て第1貫通孔31が第2貫通孔32の第2方向D2の両端部よりも中央部の少なくとも一部と重なり、且つ第2貫通孔32が第1貫通孔31の第3方向D3の両端部よりも中央部の少なくとも一部と重なるように、半導体基板25の位置合わせパターン151と半導体基板26に形成した位置合わせパターン152との位置合わせを行う。互いに位置合わせした状態で半導体基板25、26を第1方向D1で重ねる。なお、第1貫通孔31の両端部は、第1貫通孔31の第3方向D3の両端から中央に向かって前述の所定の寸法移動した位置までの第3方向S3の領域を表す。第2貫通孔32の両端部は、第2貫通孔32の第2方向D2の両端から中央に向かって前述の所定の寸法移動した位置までの第2方向S2の領域を表す。
【0032】
上述のように、位置合わせパターン151、152を互いに所定の形状をなすように合わせる、或いは互いに一致させることによって、第1方向D1から見て第1貫通孔31を第2貫通孔32の第2方向D2の中央部の少なくとも一部と重ね、且つ第2貫通孔32を第1貫通孔31の第3方向D3の中央部の少なくとも一部と重ねることができる。
【0033】
次に、曲率付与工程では、
図10に示すように互いに重ねた半導体基板25、26を所定の曲率半径で曲げる。なお、周壁面加工工程後の半導体基板25、26の各々を個別に所定の曲率半径で曲げ、半導体基板25、26を位置合わせパターン151、152の重なり度合いを考慮して第1方向R1(即ち、曲げる前の第1方向D1)で重ねても構わない。
【0034】
次に、周壁面加工工程では、
図11に示すように第1貫通孔31の周壁面をなす半導体基板25の壁面25w、及び第2貫通孔32の周壁面をなす半導体基板26の壁面26wで、X線を反射可能に加工する。詳しく説明すると、半導体基板25の壁面25wに、例えば原子層堆積法によって金属膜61を形成する。同様に、半導体基板26の壁面26wに、原子層堆積法によって金属膜62を形成する。金属膜61の表面61a、金属膜62の表面62aの各々の粗さが少なくとも10nm以下、好ましくは5nm以下、より好ましくは1nm以下になるように、金属膜の形成時の設定や条件を調整する。
【0035】
上述の各工程を行うことによって、X線素子10を製造できる。
【0036】
以上説明した本実施形態のX線素子10は、第1層21と、第2層22と、を備える。第1層21は、位置50の径方向に沿う第1方向R1で厚みT21を有する。第2層22は、第1方向R1で厚みT22を有し、前記第1方向で前記第1層と隣り合っている。第1層21には、第1方向R1に貫通する複数の第1貫通孔31が形成されている。第1方向R1から見たとき、第1貫通孔31の第3方向S3の大きさは、第1貫通孔31の第2方向S2の大きさよりも大きい。第2層22には、第1方向R1に貫通する複数の第2貫通孔32が形成されている。第1方向R1から見たとき、第2貫通孔32の第2方向S2の大きさは、第2貫通孔32の第3方向S3の大きさよりも大きい。第1方向R1から見たとき、第1貫通孔31は、第2貫通孔の第2方向S2の中央部と重なっている。第2貫通孔32は、第1貫通孔の第3方向S3の中央部と重なっている。第1層21の第1貫通孔31において第1方向R1の周壁面71は、X線100を全反射可能に構成されている。また、第2層22の第2貫通孔32において第1方向R1の周壁面72は、X線100を全反射可能に構成されている。周壁面71、72の各々の粗さは10nm以下である。
【0037】
本実施形態のX線素子10では、第1層21の第1貫通孔31は、第1方向R1において第2貫通孔32の端部41、42とは重ならずに中央部43と重なっている。また、第2層22の第2貫通孔32は、第1方向R1において第1貫通孔31の端部45、46とは重ならずに中央部47と重なっている。ドライエッチングによって、
図12に例示する従来のAngel配置と呼ばれるX線素子250のように、単一層221に第1方向R1から見て矩形状の貫通孔231を形成すると、貫通孔231の角部に丸みが生じる。本実施形態のX線素子10では、第1方向R1から見たとき、
図2等に示す第1貫通孔31の端部45、46の半導体基板25、及び第2貫通孔32の端部41、42の半導体基板26には、丸みが生じている。一方、第1貫通孔31の中央部47の半導体基板25、及び第2貫通孔32の中央部43の半導体基板26は、第3方向S3及び第2方向S2に沿って直線状に延び、丸みを全く帯びていない。したがって、
図4に示すように、本実施形態のX線素子10によれば、第1方向S1から見たときに、角部に丸みがない格子状の複数の貫通孔80を形成できる。複数の貫通孔80に入射して2回全反射されたX線100は、位置50に精度よく集められる。また、第1貫通孔31の端部45、46の半導体基板25、及び第2貫通孔32の端部41、42の半導体基板26に丸みが生じることに構わず、第1層21と第2層22との積層構造によって角部に丸みのない貫通孔80を実現するため、X線素子10を容易に製造可能とする。
【0038】
本実施形態のX線素子10では、周壁面71、72の各々の粗さは10nm以下であるため、全反射する際のX線100の乱反射等を抑え、X線100を位置50に向けて良好に出射することができる。これらのことによって、本実施形態のX線素子10によれば、X線100を位置50に向けて高精度に出射し且つ容易に製造できる。
【0039】
本実施形態のX線素子10では、第1層21は、半導体基板25と、X線100を反射可能な金属膜61と、を備える。第2層22は、半導体基板26と、X線100を反射可能な金属膜62と、を備える。前記第1貫通孔31は半導体基板25に形成され、第2貫通孔32は半導体基板26に形成されている。第1貫通孔31の側壁をなす半導体基板25の側面25a、25bに金属膜61が設けられている。第2貫通孔32の側壁をなす半導体基板26の側面26a、26bに金属膜62が設けられている。
【0040】
本実施形態のX線素子10によれば、第1層21の基材として半導体基板25を備えることで、リソグラフィー技術及びドライエッチング技術を用いて形状精度の良い且つ製造容易に第1貫通孔31及び第2貫通孔32が形成されている。また、第1貫通孔31の周壁面71として、金属膜61において粗さ10nm以下の表面61aが形成されている。第2貫通孔32の周壁面72として、金属膜62において粗さ10nm以下の表面62aが形成されている。したがって、本実施形態のX線素子10によれば、X線100を位置50に向けて高精度に出射し且つ容易に製造できる。
【0041】
本実施形態のX線素子の製造方法は、上述説明した第1貫通孔形成工程と、第2貫通孔形成工程と、位置合わせ工程と、曲率付与工程と、周壁面加工工程と、を備える。第1貫通孔形成工程では、第1基板(例えば、半導体基板25)に、複数の第1貫通孔31を形成する。第2貫通孔形成工程では、第2基板(例えば、半導体基板26)に、複数の第2貫通孔32を形成する。半導体基板25、26において少なくとも第1貫通孔31及び第2貫通孔32の各々の周壁面をなす表面の粗さを少なくとも10nm以下にし、好ましくは5nm以下、より好ましくは1nm以下にする。位置合わせ工程では、第1方向D1から見て第1貫通孔31が第2貫通孔32の第2方向D2の中央部の少なくとも一部と重ね、且つ第2貫通孔32が第1貫通孔31の第3方向D3の中央部の少なくとも一部と重なるように位置合わせし、半導体基板25、26とを第1方向D1で重ねる。曲率付与工程では、半導体基板25、26を所定の曲率半径で曲げ、半導体基板25、26の各々に曲率を付与する。周壁面加工工程では、第1貫通孔31及び第2貫通孔32の各々の周壁面をなす半導体基板25、26の表面でX線を反射可能に加工する。周壁面加工工程では、各々の周壁面の粗さを少なくとも10nm以下にし、好ましくは5nm以下、より好ましくは1nm以下にする。なお、半導体基板25、26の全体の粗さが10nm以下であっても構わない。
【0042】
本実施形態のX線素子の製造方法によれば、第1貫通孔31の端部45、46の半導体基板25、及び第2貫通孔32の端部41、42の半導体基板26に丸みが生じても、第1方向D1から見て第1貫通孔31の第3方向D3の中央部47と第2貫通孔32の第2方向D2の中央部43とを重ねることができる。したがって、第1層21と第2層22との積層構造によって角部に丸みのない格子状の貫通孔80を実現し、X線素子10を容易に製造できる。また、本実施形態のX線素子10では、周壁面71、72の各々の粗さを10nm以下にするため、周壁面71、72の各々で全反射する際のX線100の乱反射等を抑え、X線100を位置50に向けて良好に出射することができる。これらのことによって、本実施形態のX線素子の製造方法によれば、X線100を位置50に向けて高精度に出射可能なX線素子10を容易に製造できる。
【0043】
本実施形態のX線素子の製造方法では、第1基板は半導体基板25であり、第2基板は半導体基板26である。周壁面加工工程において、第1貫通孔31の側壁をなす半導体基板25の側面25a、25bにX線を反射可能な金属膜61を形成する。同じ工程において、第2貫通孔32の側壁をなす半導体基板26の表面にX線を反射可能な金属膜62を形成する。金属膜61の表面61aの粗さを少なくとも10nm以下にし、好ましくは5nm以下、より好ましくは1nm以下にする。本実施形態のX線素子の製造方法によれば、リソグラフィー技術及びドライエッチング技術を用いて第1貫通孔31及び第2貫通孔32を形状精度良く且つ容易に形成できる。また、第1貫通孔31の周壁面71として、金属膜61において粗さ10nm以下の表面61aを形成する。第2貫通孔32の周壁面72として、金属膜62において粗さ10nm以下の表面62aを形成する。したがって、本実施形態のX線素子の製造方法によれば、X線100を位置50に向けて高精度に出射するX線素子10を容易に製造できる。
【0044】
以上、本発明に係る好ましい実施形態について詳述した。本発明は、上述の実施形態に限定されない。本発明は、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、変更可能である。
【0045】
例えば、第1層21及び第2層22がリソグラフィー技術及びドライエッチング技術を適用可能且つ前述の重金属或いは金属を含む基材等のX線を反射可能な基材で形成される場合は、第1貫通孔31及び第2貫通孔32の側壁をなす壁面に金属膜61、62を設けなくてもよく、第1貫通孔31及び第2貫通孔32の側壁をなす壁面を、該壁面の粗さが10nm以下になるように加工すればよい。
【0046】
例えば、上述のX線素子10には複数の第1貫通孔31及び複数の第2貫通孔32が形成されているが、第1貫通孔31及び第2貫通孔32の各々の数は特に限定されない。また、第1方向D1から見たときに第1貫通孔31が第2貫通孔32の第2方向D2の中央部の少なくとも一部と重なり、且つ第2貫通孔32が第1貫通孔31の第3方向D3の中央部の少なくとも一部と重なれば、複数の第1貫通孔31の大きさL32、L33及び複数の第2貫通孔32の大きさL35、L36は適宜変更可能である。
【0047】
例えば、上述のX線素子10の製造方法では、周壁面加工工程を曲率付与工程後に行う例を説明したが、曲率付与工程で半導体基板25、26に曲率を付与した後に金属膜61、62が所定の形状を有すれば、周壁面加工工程を位置合わせ工程後及び曲率付与工程前に行ってもよく、位置合わせ工程前に行ってもよい。
【0048】
また、本発明に係るX線素子の製造方法において、第1基板及び第2基板は、リソグラフィー技術及びドライエッチング技術を適用可能な基板であれば、半導体基板25、26に限定されない。第1基板及び第2基板がリソグラフィー技術及びドライエッチング技術を適用可能且つX線を反射可能な基材であれば、周壁面加工工程を行わなくてもよく、例えば上述のX線素子の製造方法における曲率付与工程までの各工程を行うことによってX線素子を製造できる。
【実施例】
【0049】
次いで、本発明に係る実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0050】
本実施例では、上述のX線素子の製造方法に沿ってX線素子10の第1層21及び第2層の前駆体、即ち所定の曲率半径で曲げる前の第1層及び第2層を形成した。半径5cmのフォトマスクと2枚のSi基板とを用意した。
図13に示すように、フォトマスクの表面は、中心から周方向で90°ごとに区画されている。中心に対して向かい合う区画には、中心に対して互いに点対称にパターンが描画されている。即ち、使用したフォトマスクには、2種類のパターンが形成されている。2種類のパターンに共通する単位パターンには、
図14に示すように、複数のスリットが含まれている。スリットの縦方向の大きさは1980μmであり、スリットの横方向の大きさは16μmである。横方向でのスリット同士の間隔は、24μmである。
【0051】
図15に示すように、第1のパターンには、複数の単位パターンが縦方向及び横方向の各々で300μmの間隔をあけて配置されている。
図16に示すように、第2のパターンには、複数の単位パターンが縦方向及び横方向の各々で300μmの間隔をあけて配置されている。このフォトマスクを用いて、リソグラフィー技術及びドライエッチング技術によって2枚のSi基板にフォトマスクの2種類のパターンを転写し、複数のスリットと同形状を有する第1貫通孔及び第2貫通孔を形成した。
【0052】
図17及び
図18は、第1のパターンの第1貫通孔の横方向の端部をSi基板の表側及び裏側から撮影したときの光学顕微鏡写真である。
図17及び
図18に示すように、第1貫通孔の端部の角には、丸みが生じたことがわかる。また、Si基板の表側よりも裏側の方が丸みの曲率半径が大きいことがわかる。また、参考例として、
図19及び
図20には、Angel配置と呼ばれるX線素子の矩形状のパターンで貫通孔を形成した場合にSi基板の表側及び裏側から撮影したときの光学顕微鏡写真を示す。
図19及び
図20に示すように、矩形状の貫通孔においても角部に丸みが生じ、丸みが生じていない中央部の確保が難しいことがわかる。参考例においても、Si基板の表側よりも裏側の方が丸みの曲率半径が大きい。
【0053】
第1貫通孔及び第2貫通孔の側壁部分のSi基板の粗さについて触針型粗さ測定器(Dektak 6M;BRUKER社製)を用いた測定によって求めた結果を
図21及び
図22に示す。
図21及び
図22に示すように、金属膜の表面の粗さは10nm以下を達成し、滑らかであることがわかる。続いて、Si基板の第1貫通孔の側壁にPtからなる金属膜を形成した。
【0054】
図23に示すように複数の第1貫通孔を形成した1枚目のSi基板と、
図24に示すように複数の第2貫通孔を形成した2枚目のSi基板とは、互いに中心から90°ずらして回転させた状態と重なる。
図25に示すように、1枚目のSi基板と2枚目のSi基板との位置合わせパターンを互いに一致させ、2枚目のSi基板上に1枚目のSi基板を重ねることによって、格子状の貫通孔を構成できる。
【0055】
以上説明した実施例で得られた結果から、上述の実施形態で説明したX線素子の製造方法によってX線を所定の位置に向けて高精度に出射し且つ容易に製造可能なX線素子を提供可能であることを確認した。
【符号の説明】
【0056】
10…X線素子、21…第1層、22…第2層、25…半導体基板(第1半導体基板)、26…半導体基板(第2半導体基板)、31…第1貫通孔、32…第2貫通孔、61…金属膜(第1金属膜)、62…金属膜(第2金属膜)