IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人梅村学園の特許一覧 ▶ 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構の特許一覧

<>
  • 特許-減速装置 図1
  • 特許-減速装置 図2
  • 特許-減速装置 図3
  • 特許-減速装置 図4
  • 特許-減速装置 図5
  • 特許-減速装置 図6
  • 特許-減速装置 図7
  • 特許-減速装置 図8
  • 特許-減速装置 図9
  • 特許-減速装置 図10
  • 特許-減速装置 図11
  • 特許-減速装置 図12
  • 特許-減速装置 図13
  • 特許-減速装置 図14
  • 特許-減速装置 図15
  • 特許-減速装置 図16
  • 特許-減速装置 図17
  • 特許-減速装置 図18
  • 特許-減速装置 図19
  • 特許-減速装置 図20
  • 特許-減速装置 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】減速装置
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/40 20060101AFI20240730BHJP
   B64G 1/62 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B64G1/40 500
B64G1/62
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021043876
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022143395
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2024-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】502178001
【氏名又は名称】学校法人梅村学園
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】村中 崇信
(72)【発明者】
【氏名】上野 一磨
(72)【発明者】
【氏名】奥村 哲平
(72)【発明者】
【氏名】大川 恭志
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特許第7432187(JP,B2)
【文献】特表2009-528218(JP,A)
【文献】米国特許第06565044(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0024005(US,A1)
【文献】特開2018-205483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/40
B64G 1/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙空間で移動する対象物の減速率を調整可能な減速装置であって、
前記対象物に取り付けられるか、または前記対象物の一部を構成し、電気的に分離された複数の領域を含む第1の面を有する膜部材と、
前記膜部材と電気的に接続され、前記複数の領域のそれぞれを帯電させる帯電装置と、
前記帯電装置による前記複数の領域のそれぞれへの印加電圧を制御する制御装置と
を備える、減速装置。
【請求項2】
前記膜部材は、前記複数の領域のそれぞれを構成する複数の膜片を有している、請求項1に記載の減速装置。
【請求項3】
前記膜部材の姿勢を検出する姿勢検出装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記姿勢検出装置で検出した前記膜部材の姿勢に応じて前記帯電装置を制御する、請求項1または請求項2に記載の減速装置。
【請求項4】
前記膜部材は、前記第1の面と、前記第1の面と反対面の第2の面とを有し、
前記帯電装置は、前記第1の面と前記第2の面とを異なる電位に帯電可能であり、
前記制御装置は、前記第1の面を前記第2の面よりも所定の電位差だけ低い負電位に帯電させるように前記帯電装置を制御する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の減速装置。
【請求項5】
前記膜部材は、
前記第1の面を構成する導電性材料からなる第1導体と、
前記第2の面を構成する導電性材料からなる第2導体と、
前記第1導体と前記第2導体との間に配置される導電性材料からなる第3導体と、
前記第1導体と前記第3導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる第1不導体と、
前記第2導体と前記第3導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる第2不導体と
を有している、請求項4に記載の減速装置。
【請求項6】
前記膜部材は、
前記第1の面を構成する導電性材料からなる第1導体と、
前記第2の面を構成する導電性材料からなる第2導体と、
前記第1導体と前記第2導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる不導体と
を有している、請求項4に記載の減速装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記複数の領域のそれぞれを正電位に帯電させるように前記帯電装置を制御する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙空間で移動する対象物の減速率を調整可能な減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙空間で移動する対象物の減速率を調整するニーズは、様々に存在する。例えば、そのようなニーズは、スペースデブリと称される宇宙ゴミの除去や、人工衛星または惑星探査機の制御に見られる。スペースデブリについては、地球周回軌道上に数多く存在しており、スペースデブリを減速させ、保護すべき重要な衛星軌道から離脱させることが求められている。
【0003】
特許文献1には、スペースデブリを減速させるスペースデブリ低減装置が開示されている。このスペースデブリ低減装置は、円形又は多角形からなる膜部材あるいはガス圧封入可能なバルーンないしはエアーマット状の構造物からなる抗力増大装置を有する。このスペースデブリ低減装置は、スペースデブリに取り付けられ、抗力増大装置により微量の大気および太陽光輻射圧を受けて、スペースデブリを減速させ、その軌道を変更する。このようにしてスペースデブリを保護すべき重要な衛星軌道から離脱させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-285137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大気密度は、軌道高度が高くなるにつれて著しく低下する。例えば、大気密度は、高度400km~600kmに比べて高度1000km付近で1/50~1/100程度まで低下することが確認されている。従って、特許文献1のスペースデブリ低減装置では、軌道高度が高くなるにつれて大気から得られる抗力が低下し、十分な実行能力を得られないおそれがある。
【0006】
上記のような大気密度が十分でない軌道高度の領域では、電気的に中性な気体と、その一部が太陽紫外線によって電離した電離気体(イオンおよび電子)とが存在する。従って、大気密度の変化を詳細に確認すると、中性大気の密度は上記の通り高度が高くなるにつれて著しく低下するが、イオンの密度の減少はこれよりも少ない。換言すれば、大気密度が十分でない軌道高度の領域では、中性大気からの抗力を受けるよりもイオンからの抗力を受けることが有効である可能性がある。そのためには、例えば、特許文献1の膜部材を帯電させて膜部材の周囲にシース(電位勾配を有する電気的に中性でない空間電荷層)を形成し、シースを利用してイオンからの抗力を増大させることが考えられる。
【0007】
しかし、シースを利用してイオンからの抗力を増大させる場合においても、膜部材の姿勢によってはイオンから十分な抗力を得られないおそれがある。具体的には、膜部材の姿勢が進行方向に対して平行になるほど、イオンからの受圧面積が低下し、十分な抗力を得られないおそれがある。従って、膜部材の姿勢を好適に制御することが求められるが、具体的な手法については確立されていない。
【0008】
本発明は、膜部材を有する減速装置において、膜部材の姿勢を制御することにより宇宙空間で移動する対象物の減速率を調整することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
宇宙空間で移動する対象物の減速率を調整可能な減速装置であって、
前記対象物に取り付けられるか、または前記対象物の一部を構成し、電気的に分離された複数の領域を含む第1の面を有する膜部材と、
前記膜部材と電気的に接続され、前記複数の領域のそれぞれを帯電させる帯電装置と、
前記帯電装置による前記複数の領域のそれぞれへの印加電圧を制御する制御装置と
を備える、減速装置を提供する。
【0010】
この構成によれば、膜部材の複数の領域のそれぞれに対して印加する電圧を調整することにより、膜部材の複数の領域のそれぞれがイオンから受ける抗力を調整できる。従って、膜部材の姿勢を制御できる。膜部材の姿勢を制御できることにより、対象物の減速率を調整できる。ここで、対象物は、宇宙空間で移動するものを広く意味し、例えばスペースデブリ、人工衛星、または惑星探査機などであり得る。
【0011】
前記膜部材は、前記複数の領域のそれぞれを構成する複数の膜片を有してもよい。
【0012】
この構成によれば、複数の膜片のそれぞれが構造的に互いに分離しているため、複数の膜片の一部が損傷しても、その他が連れて損傷して全体として機能しなくなることを抑制できる。
【0013】
前記減速装置は、前記膜部材の姿勢を検出する姿勢検出装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記姿勢検出装置で検出した前記膜部材の姿勢に応じて前記帯電装置を制御してもよい。
【0014】
この構成によれば、膜部材の姿勢を好適に制御できる。詳細には、第1の面上の電圧印加位置と印可電圧の制御によって、イオン流から受ける「力の発生位置」と「力の大きさ」を可変させ、第1の面の重心に対するトルクを制御し、膜部材の姿勢を制御できる。また、当該制御を時間的に累積することで、第1の面がイオン流から受ける総トルクを制御できる。例えば、膜部材の第1の面の姿勢が進行方向に対して垂直でない場合、膜部材の第1の面の姿勢が進行方向に対して垂直になるように制御してもよい。これにより、膜部材がイオンから受ける抗力を増大でき、対象物の減速率を増加できる。また、膜部材の第1の面の姿勢が進行方向に対して垂直に近い場合、膜部材の第1の面の姿勢を進行方向に対して平行になるように制御してもよい。これにより、膜部材がイオンから受ける抗力を減少でき、対象物の減速率を減少できる。
【0015】
前記膜部材は、前記第1の面と、前記第1の面と反対面の第2の面とを有し、
前記帯電装置は、前記第1の面と前記第2の面とを異なる電位に帯電可能であり、
前記制御装置は、前記第1の面を前記第2の面よりも所定の電位差だけ低い負電位に帯電させるように前記帯電装置を制御してもよい。
【0016】
この構成によれば、膜部材の第1の面と第2の面に対して所定の電位差を設けているため、シースが膜部材の周囲に等方的に形成されることを抑制できる。ここでは、第1の面はイオン流の上流側の面(受圧側の面)として配置され、第2の面はイオン流の下流側の面として配置される。これにより、第1の面においてイオンを効率的に収集できるとともに第2の面へのイオンの回り込みを抑制できる。従って、イオンの膜部材に対する運動量交換がイオン流の上流側(第1の面側)と下流側(第2の面側)で相殺することを抑制でき、イオンから十分な抗力を得ることができる。ここで、所定の電位差とは、上記イオンの第2の面への回り込みを効果的に抑制できる程度の値である。例えば、所定の電位差は、10V~1000Vであってもよい。また、負電位とは、宇宙空間における基準電位に対する相対電位であり得る。宇宙空間では、測定や設定の容易さから、減速装置(例えば衛星本体)自体の電位を基準電位とし、当該基準電位に対して相対的に負になる電位を負電位とする場合がある。
【0017】
前記膜部材は、
前記第1の面を構成する導電性材料からなる第1導体と、
前記第2の面を構成する導電性材料からなる第2導体と、
前記第1導体と前記第2導体との間に配置される導電性材料からなる第3導体と、
前記第1導体と前記第3導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる第1不導体と、
前記第2導体と前記第3導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる第2不導体と
を有してもよい。
【0018】
この構成によれば、膜部材が5層構造によって構成され、具体的に第1の面および第2の面に対して所定の電位差を設けることができる。特に中央に第3導体が配置されることで、第1導体および第2導体に対して第3導体からの電位差をそれぞれ正確に与えることができる。
【0019】
前記膜部材は、
前記第1の面を構成する導電性材料からなる第1導体と、
前記第2の面を構成する導電性材料からなる第2導体と、
前記第1導体と前記第2導体との間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる不導体と
を有してもよい。
【0020】
この構成によれば、膜部材が3層構造によって構成され、具体的に第1の面および第2の面に対して所定の電位差を設けることができる。一般に、膜部材は宇宙空間で展開されるまでは折り畳まれた状態で収納されることが想定される。収納に際しては、膜部材が多層になるほど電気的な結線や配線が増えるため、結線や配線の不具合を防止するための取り扱いが困難となるおそれがある。そのため、膜部材を3層に構成することで、構造を単純化し、取り扱いを容易にすることが有効である。
【0021】
前記制御装置は、前記複数の領域のそれぞれを正電位に帯電させるように前記帯電装置を制御してもよい。
【0022】
この構成によれば、複数の領域のそれぞれが正電位に帯電されるため、膜部材でイオンを反発させることによりイオンから抗力を受けることができる。ここで、正電位とは、上記のように、宇宙空間における基準電位に対する相対電位であり得る。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、膜部材を有する減速装置において、膜部材の姿勢を制御することにより宇宙空間で移動する対象物の減速率を調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1実施形態に係る減速装置の概略構成図。
図2】衛星本体および膜部材の正面図。
図3図2の衛星本体と膜部材の変形例を示す正面図。
図4】複数の領域を示す膜部材の正面図。
図5】姿勢制御を示す膜部材の側面図。
図6】姿勢制御を示す膜部材の正面図。
図7】別の姿勢制御を示す膜部材の斜視図。
図8】別の姿勢制御を示す膜部材の正面図。
図9】膜部材が自転する場合の姿勢制御を示す膜部材の第1側面図。
図10】膜部材が自転する場合の姿勢制御を示す膜部材の第2側面図。
図11】膜部材の変形例を示す断面図。
図12】単層構造の膜部材周囲のシースを示す模式図。
図13】複層構造の膜部材周囲のシースを示す模式図。
図14図11の膜部材の変形例を示す断面図。
図15図11の膜部材の他の変形例を示す断面図。
図16】対象物の進行方向の前方に減速装置を設置した場合の概略構成図。
図17】第2実施形態に係る減速装置の概略構成図。
図18】第2実施形態に係る減速装置の変形例を示す対象物の側面図。
図19】膜部材を正電位に帯電させた場合のシースを示す模式図。
図20】膜部材の変形例を示す正面図。
図21】膜部材の変形例を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0026】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る減速装置1の概略構成図である。
【0027】
本実施形態の減速装置1は、地球を周回するスペースデブリ2(宇宙空間で移動する対象物の一例)に取り付けられ、スペースデブリ2の減速率を調整する。例えば、減速装置1によってスペースデブリ2の周回速度を低下させることによりスペースデブリ2の軌道を変更することができる。これにより、スペースデブリ2を地上へと落下させるなどして人工衛星等に使用される重要な軌道を保護できる。また、地球周回軌道上のスペースデブリの位置は概ね把握されているため、減速装置1が取り付けられたスペースデブリ2が他のスペースデブリに衝突しそうであれば減速率を調整して衝突を回避することもできる。これにより、スペースデブリ2が複数の小片となって除去が困難になることを防止できる。
【0028】
図1では、スペースデブリ2の進行方向が矢印A1で示されている。減速装置1から見れば、矢印A1とは反対方向にイオン流が相対的に流れている。また、破線円で示される減速装置1の一部が拡大して示されている。
【0029】
本実施形態の減速装置1は、衛星本体10と、膜部材20と、帯電装置30と、取付装置40とを備えている。
【0030】
図2は、衛星本体10および膜部材20の正面図である。
【0031】
衛星本体10は、推進機能を有している。詳細な説明は省略するが、推進機能は、イオンエンジンなどの公知の機構によって達成され得る。衛星本体10は膜部材20と直接的に接続されており、衛星本体10と膜部材20との相対的な位置関係は固定されている。また、衛星本体10は、詳細を後述するように帯電装置30を制御する制御装置11(図1参照)を搭載している。
【0032】
膜部材20は、薄膜状である。本実施形態では、膜部材20は、正面から見ると正方形である。膜部材20は、イオン流からの受圧面となる第1の面20aと、第1の面20aと反対面の第2の面20bとを有している。膜部材20は、正方形の対角線に沿って設けられたフレーム21を有している。フレーム21により、膜部材20の展開状態が維持され、イオン流から効率的に受圧できる。フレーム21は折り畳み可能な構造を有し、膜部材20の展開前には折り畳まれた状態とされていてもよい。なお、膜部材20の形状は、特に正方形に限定されず任意の形状であり得る。
【0033】
図3は、図2の衛星本体10と膜部材20の変形例を示す正面図である。
【0034】
衛星本体10と膜部材20の接続態様は、図2に示すものに限定されず、例えば支持部材22を介して剛に接続されてもよい。支持部材22は、所定の長さを有する柱状の部材である。支持部材22によって衛星本体10と膜部材20との間の距離を所定の長さに保つことによって、膜部材20がイオンから受圧する面積を大きく確保できる。
【0035】
図1を参照して、帯電装置30は、電圧を印加するための電源31および電気配線などを含んでいる。電源31は、電気配線を介して膜部材20と電気的に接続されている。帯電装置30は、後述するように、膜部材20の第1の面20aに設けられた複数の領域Rのそれぞれを異なる電位に帯電させることができる。代替的には、電源31は、同様の帯電機能を有するイオン源に置換されてもよい。
【0036】
取付装置40は、スペースデブリ2を捕獲するための捕獲機構41を有する。
【0037】
捕獲機構41は、スペースデブリ2を把持する把持部41aと、スペースデブリ2を把持するように把持部41aを射出する射出装置41bと、把持部41aおよび射出装置41bを繋ぐ所定の長さのテザー41cとを含む。このような捕獲機構41は、既に地球周回軌道上に存在するスペースデブリを取り除くADR(Active Debris Removal)に特有である。なお、運用を終了した衛星やロケットの軌道からの自力離脱であるPMD(Post Mission Disposal)については第2実施形態で説明する。
【0038】
上記構成を有する減速装置1は、衛星本体10の推進機能によってスペースデブリ2に接近し、射出装置41bからテザー41cの付いた把持部41aを射出し、スペースデブリ2を把持して捕獲する。次いで、膜部材20を展開し、スペースデブリ2の周回速度を低下させることによりスペースデブリ2の軌道を変更する。従って、本実施形態の減速装置1は、ADR対応のものといえる。
【0039】
大型のスペースデブリ2の後方では、スペースデブリ2に近いほどスペースデブリの軌道速度に対し熱速度が相対的に遅いイオンの割合が低下する空間(イオンウェイク)が生じる。このイオンウェイクの領域に膜部材20が位置すると、膜部材20のイオン収集能力が低下するおそれがある。従って、イオンウェイクの領域に膜部材20が位置することを回避するためにテザー41cには所定の長さが必要となる。例えば、スペースデブリ2として、運用を終了したロケットの上段部が想定される。その場合、ロケット上段部は直径約2m~4m程度、高度700~1000kmの軌道速度が約7.5km/s、イオンのうち大きな運動量を持つ酸素イオンの熱速度が約1.1km/s程度であるため、所定の長さとしては10~20m、好ましくは30m程度が想定される。
【0040】
本実施形態では、捕獲機構41が把持部41aを含む例を示しているが、捕獲機構41の捕獲態様は把持部41aを使用するものに限定されない。また、テザー41cは、柔軟な紐状でなくてもよく、例えば一定程度の剛性を有する構造物であってもよい。
【0041】
図4は、複数の領域Rを示す膜部材20の正面図である。図示を明瞭にするため、符号23,32,33および符号Rは一部のみに付されている。これは、以降の図でも同様である。また、図4では、二点鎖線円で示される膜部材20の一部が拡大して示されている。
【0042】
膜部材20の第1の面20aは、電気的に分離された複数の領域Rを含んでいる。本実施形態では、膜部材20は、第1の面20aにおいて複数の領域Rのそれぞれを構成する複数の膜片23を有している。複数の膜片23は、絶縁性を有する薄い絶縁シート24に保持されている。図示の例では、複数の膜片23が、受圧面となる第1の面20aと、第1の面20aとは反対面の第2の面20b(図1参照)とを構成している。即ち、複数の膜片23は、絶縁シート24を貫通して配置されている。複数の膜片23は、第1の面20aを構成する導体面と、第2の面20bを構成する導体面とを有し、それぞれ異なる電位に印加できるようになっている。詳細については、図11,14,15等を用いて後述するが、第1の面20aを構成する導体面と第2の面20bを構成する導体面とに対してそれぞれ電気ケーブル(図示せず)を配線し、それぞれ異なる電位に印加できるようにしてもよい。また、複数の膜片23のそれぞれの間の距離d(即ち絶縁部の幅d)は、沿面放電を防止できる程度に設計される。複数の膜片23のそれぞれは、絶縁シート24を縫製することによって図示のように連結されてもよいし、絶縁性の接着を使用して連結されてもよい。
【0043】
本実施形態では、複数の膜片23は、図4において縦9個×横9個の合計81個の膜片からなる。ただし、複数の膜片23を構成する膜片の数や配置は特に限定されない。また、本実施形態では、複数の膜片23のそれぞれは正方形である。ただし、複数の膜片23のそれぞれの形状についてもイオン流から受圧可能な形状であればよく、特に限定されない。なお、本実施形態では、膜部材20が複数の膜片23を有する構成を例示しているが、膜部材20は1枚の膜からなってもよい。この場合、複数の領域Rが1枚の膜上で電気的に分離される。
【0044】
複数の膜片23(即ち複数の領域R)のそれぞれは、帯電装置30によって帯電される。図示の例では、複数の膜片23のそれぞれに対して、電気配線として、主ホット線32(破線参照)および副ホット線33(一点鎖線参照)が取り付けられている。主ホット線32および副ホット線33は、帯電装置30と電気的に接続されている。即ち、複数の膜片23のそれぞれは、主ホット線32(破線参照)と、副ホット線33(一点鎖線参照)とを通じて異なる電位に帯電可能となっている。なお、当該給電構造は複数の膜片23を構成する冗長系設計の一例であり、他の構造や冗長系設計以外の構造が採用されてもよい。
【0045】
制御装置11は、帯電装置30による複数の膜片23(即ち複数の領域R)のそれぞれへの印加電圧を制御する。制御装置11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、およびROM(Read Only Memory)等のハードウェアと、それらに実装されたソフトウェアとにより構成されている。
【0046】
本実施形態では、膜部材20の姿勢を検出する姿勢検出装置12が設けられている。姿勢検出装置12は、例えばジャイロセンサなどの公知の角度検出器であり得る。本実施形態では、姿勢検出装置12は、衛星本体10に搭載されている。衛星本体10と膜部材20は直接的ないし支持部材22を介して剛に接続されているため、衛星本体10の姿勢を検出することにより膜部材20の姿勢を検出できる。代替的には、姿勢検出装置12は、膜部材20に直接的に取り付けられてもよい。また、姿勢検出装置12は、必須の構成でなく、必要に応じて省略され得る。
【0047】
図5は、姿勢制御を示す膜部材20の側面図である。また、図6は、姿勢制御を示す膜部材20の正面図である。図5,6において、X軸は第1の面20aに対して垂直な軸を示し、Y,Z軸はX軸に垂直で膜部材20の正方形の各辺に平行で互いに直交する軸を示している。これは以降の図でも同様である。
【0048】
図1,5,6を合わせて参照して、制御装置11は、姿勢検出装置12で検出した膜部材20の姿勢に応じて帯電装置30を制御する。本実施形態では、イオン流A2に対する膜部材20の姿勢を好適に制御する。なお、イオン流A2は、スペースデブリ2の進行方向A1(図1参照)と反対方向に流れるイオンを示している。
【0049】
図5,6の例では、膜部材20は、イオン流A2に対して垂直に配置されておらず、イオン流A2に対してZ軸まわりに傾いて配置されている。このような場合、複数の領域Rのうち、イオン流A2の上流側に位置する領域に対して負電位を印加し、その他の領域には印加しない。図示の例では、最も上流側に位置する9つの領域(斜線部参照)に対して負電位を印加し、複数の領域Rのうちその他の領域には印加しないものとしている。また、第2の面20bに対しては、全体を正電位に印加する。イオンは負電位に帯電された領域(斜線部参照)にて収集され、膜部材20は当該領域(斜線部参照)でイオンから強く受圧して抗力を受ける。これにより、膜部材20にはZ軸まわりの回転力が生じ(矢印A3参照)、膜部材20をイオン流A2に対して垂直に配置できる。その後、制御装置11は、上記印加を解除する。なお、このとき、膜部材20と衛星本体10は剛に接続されているため、膜部材20だけでなく衛星本体10もイオン流A2に対して垂直に配置できる。
【0050】
図7は、別の姿勢制御を示す膜部材20の斜視図である。また、図8は、別の姿勢制御を示す膜部材20の正面図である。
【0051】
図7,8の例では、膜部材20が、イオン流A2に対して垂直に配置されておらず、Y軸まわりおよびZ軸まわりに傾いて配置されている。このような場合、図8に示すように、複数の領域Rのうち、イオン流A2の上流側に位置する24個の領域(斜線部参照)に対して負電位を印加し、その他の領域には印加しない。また、第2の面20bに対しては、全体を正電位に印加する。これにより、上記と同様に当該領域(斜線部参照)においてイオンから強く受圧して抗力を受け、膜部材20にはY軸まわりおよびZ軸まわりの回転力が生じ(矢印A3参照)、膜部材20をイオン流A2に対して垂直に配置できる。
【0052】
図9は、膜部材20が自転する場合の姿勢制御を示す膜部材20の第1側面図である。図10は、膜部材20が自転する場合の姿勢制御を示す膜部材20の第2側面図であり、図9から一定時間経過後の状態を示している。
【0053】
図9,10の例では、膜部材20がZ軸まわりに自転している(矢印A4参照)。この場合、自転方向A4に対して前方側の第1の面20aを負電位に帯電させ、後方側の第2の面20bを正電位に帯電させる。特に図示の例では、第1の面20aの複数の領域RのうちY方向の一端部に位置する領域のみ(斜線部参照)を負電位に帯電させている。第2の面20bは全体を正電位に帯電させる。これにより、上記と同様に当該領域(斜線部参照)においてイオンから強く受圧して抗力を受け、膜部材20にはZ軸まわりの回転力が生じ(矢印A3参照)、膜部材20の自転を弱めることができ、最終的に膜部材20をイオン流A2に対して垂直に配置できる。なお、このとき、膜部材20と衛星本体10は剛に接続されているため、膜部材20だけでなく衛星本体10もイオン流A2に対して垂直に配置できる。
【0054】
本実施形態の減速装置1によれば、以下の作用効果を奏する。
【0055】
膜部材20の複数の領域Rのそれぞれに対して印加する電圧を調整することにより、膜部材20の複数の領域Rのそれぞれがイオンから受ける抗力を調整できる。従って、膜部材20の姿勢を制御できる。膜部材20の姿勢を制御できることにより、スペースデブリ2の減速率を調整できる。
【0056】
また、膜部材20が複数の膜片23を有し、複数の膜片23のそれぞれが構造的に互いに分離しているため、複数の膜片23の一部が損傷しても、その他が連れて損傷して全体として機能しなくなることを抑制できる。代替的には、複数の領域Rは、電気的には分離されるが構造的には分離されなくてもよい。例えば、1枚のシート上に、導電性を有する複数の領域Rと、複数の領域Rのそれぞれを電気的に分離するように絶縁性を有する領域とを設けてもよい。
【0057】
また、減速装置1が姿勢検出装置12を有しているため、膜部材20の姿勢を好適に制御できる。詳細には、第1の面20a上の電圧印加位置と印可電圧の制御によって、イオン流A2から受ける「力の発生位置」と「力の大きさ」を可変させ、第1の面20aの重心に対するトルクを制御し、膜部材20の姿勢を制御できる。また、当該制御を時間的に累積することで、第1の面20aがイオン流A2から受ける総トルクを制御できる。なお、図5~10では、膜部材20をイオン流A2に対して垂直に配置するための姿勢制御を例に説明したが、同様の原理により、膜部材20をイオン流A2に対して平行に配置する姿勢制御も実現できる。さらに言えば、膜部材20のイオン流A2に対する姿勢は、垂直または平行に限らず、傾斜した姿勢などの任意の姿勢に制御することもできる。従って、膜部材20の姿勢に応じてスペースデブリ2の減速率を容易に調整できる。
【0058】
図11は、膜部材20の変形例を示す断面図である。
【0059】
本変形例では、上記実施形態と異なり、絶縁シート24(図4参照)が設けられておらず、複数の膜片23のそれぞれが複層構造を有するとともに互いに連結されている。膜部材20は、上記と同様に、第1の面20aと、第1の面20aと反対面の第2の面20bとを有している。絶縁シート24(図4参照)が設けられていないことから、第1の面20aだけでなく第2の面20bもまた、複数の膜片23によって構成される。なお、図11では、複数の膜片23の1つが模式的に示されている。
【0060】
本変形例の膜部材20は、第1の面20aおよび第2の面20bにおいて複数電位に帯電可能な構造を有している。即ち、第1の面20aおよび第2の面20bは、帯電装置30によって互いに異なる電位に帯電可能となっている。
【0061】
本変形例の膜部材20は、第1の面20aを構成する導電性材料からなる第1導体23aと、第2の面20bを構成する導電性材料からなる第2導体23bと、第1導体23aと第2導体23bとの間に配置される導電性材料からなる第3導体23cとを備える。また、膜部材20は、第1導体23aと第3導体23cとの間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる第1不導体23dと、第2導体23bと第3導体23cとの間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる第2不導体23eとを備える。本実施形態では、第1不導体23dおよび第2不導体23eは、ともにポリイミドからなる。ただし、第1不導体23dおよび第2不導体23eの材料は絶縁体材料または誘電体材料であれば特段限定されない。
【0062】
本変形例では、電源31の負極が第1導体23aに電気的に接続され、電源31の正極が第2導体23bに電気的に接続されている。第3導体23cは接地部10に接続されているが、これは第3導体23cが衛星本体10に電気的に接続されていることを示す。従って、ここでは、接地部10と衛星本体10とを同じ参照符号で示している。宇宙空間では、衛星本体10の電位は必ずしもゼロではなく、衛星本体10の周囲環境によって衛星本体10の電位は変動する。従って、接地部10の電位は、衛星本体10が存在する位置におけるいわゆる宇宙機電位(基準電位)を示す。本実施形態では、帯電装置30によって、第1の面20aが第2の面20bよりも所定の電位差だけ低くなる負電位に帯電される。ここでの負電位は、当該基準電位に対する相対的な電位であり得る。
【0063】
第1導体23a(第1の面20a)と第2導体23b(第2の面20b)との間の上記所定の電位差は、好ましくは、10V~1000Vと設定され、より好ましくは、100V~1000Vと設定される。また、好ましくは、第1導体23a(第1の面20a)の電位は-10V以下と(負側に大きく)設定され、より好ましくは-100V以下と(負側に大きく)設定される。なお、ここでの-10V以下または-100V以下の電位は、上記宇宙機電位を基準とする電位である。当該電位差および電位によれば、シースが膜部材20の周囲に等方的に形成されることを抑制できるとともに、第1の面20aにおいてイオンを効率的に収集できるシースを形成できる。また、シース内でイオンを十分静電加速し増速することができる。換言すれば、10V未満の電位差では第1の面20aにおいてイオンを効率的に収集できる大きさのシースを形成できず、また、第1の面20aの電位が-10Vより大きく(負側に小さく)設定された場合は、シース内でイオンは静電加速するが増速は十分とは言えない。1000V以上の電位差では膜面に流入する電子もしくはイオン電流による電力消費が大となり、本システムが消費電力の観点から非効率となるおそれがある。また、印加可能な物理的上限電圧は、第1不導体23dおよび第2不導体23eの絶縁破壊電圧で設計されてもよい。
【0064】
図12,13を比較参照して、単層構造の膜部材200と、複層構造の膜部材20との差を説明する。
【0065】
図12は、本変形例(図11参照)とは異なる単層構造の膜部材200を使用した場合のシースSmの形状を示している。図13は、本変形例(図11参照)と同じ複層構造の膜部材20を使用した場合のシースSmの形状を示している。シースSmは、イオンを収集する領域を示している。
【0066】
図12を参照して、単層構造の膜部材200では、シースSmが膜部材200の周囲に等方的(概ね球体状)に形成されている。このような等方的なシースSmでは、第1の面200aだけでなく、第1の面200aと反対面の第2の面200bにおいてもイオンが収集される。結果として、イオン流A2の回り込みが発生し、イオンの運動量交換がイオン流A2の上流側(第1の面20a側)と下流側(第2の面20b側)で相殺し、イオン流A2から受ける抗力が低減されるおそれがある。
【0067】
図13を参照して、複層構造の膜部材20では、第1の面20a側にのみイオン収集に実効的に寄与するシースSm(この場合はイオンシース)が形成されている。換言すれば、第2の面20bにおけるシースは、第2の面20bの電位が空間電位と同等となる場合は、図12の状態から大きく縮小してイオン収集に実効的に寄与しない。そのため、イオンの運動量交換がイオン流A2の上流側(第1の面20a側)と下流側(第2の面20b側)で相殺することを抑制でき、第1の面20aにおいてのみイオンを収集し、第1の面20aにおいてのみ抗力を受けることができる。なお、図13では、破線にて第2の面20bの正の電位に基づく領域Sp(この場合は電子シース)も示されている。当該領域Spでは、イオンの収集が抑制され、即ちイオン流A2の回り込みが抑制される。
【0068】
本変形例によれば、膜部材20が5層構造によって構成され、具体的に第1の面20aおよび第2の面20bに対して所定の電位差を設けることができる。特に中央に第3導体23cが配置されることで、第1導体23aおよび第2導体23bに対して第3導体23cからの電位差をそれぞれ正確に与えることができる。
【0069】
図14は、図11の膜部材20の変形例を示す断面図である。図14では、複数の膜片23の1つが模式的に示されている。
【0070】
本変形例では、膜部材20は、絶縁シートが設けられておらず、複数の膜片23のそれぞれが複層構造を有するとともに互いに連結されている。膜部材20は、第1の面20aと、第1の面20aと反対面の第2の面20bとを有している。本変形例においても絶縁シートが設けられていないことから、第1の面20aだけでなく第2の面20bもまた、複数の膜片23によって構成されている。
【0071】
本変形例の膜部材20は、第1の面20aと第2の面20bにおいて複数電位に帯電可能な構造を有している。即ち、第1の面20aおよび第2の面20bは、帯電装置30によって互いに異なる電位に帯電可能となっている。
【0072】
膜部材20は、第1の面20aを構成する導電性材料からなる第1導体23fと、第2の面20bを構成する導電性材料からなる第2導体23gと、第1導体23fと第2導体23gとの間に配置される絶縁体材料または誘電体材料からなる不導体23hとを備える。本変形例では、不導体23hは、ポリイミドからなる。ただし、不導体23hの材料は絶縁体材料または誘電体材料であれば特段限定されない。
【0073】
帯電装置30においては、電源31の負極が第1導体23fに電気的に接続され、電源31の正極が第2導体23gに電気的に接続されている。図14では、第1導体23fおよび第2導体23gは、ともに接地部(衛星本体)10に電気的に接続されていないが、図15に示す別の変形例のように第2導体23gを接地部(衛星本体)10に電気的に接続してもよい。いずれの場合でも、帯電装置30により、第1の面20aが第2の面20bよりも所定の電位差だけ低くなる負電位に帯電可能である。これにより、膜部材20が上記と同様に複数電位に帯電される。
【0074】
本変形例によれば、膜部材20が3層構造によって構成され、具体的に第1の面20aおよび第2の面20bに対して所定の電位差を設けることができる。一般に、膜部材20は宇宙空間で展開されるまでは折り畳まれた状態で収納されることが想定される。収納に際しては、膜部材20が多層になるほど電気的な結線や配線が増えるため、結線や配線の不具合を防止するための取り扱いが困難となるおそれがある。そのため、膜部材20を3層に構成することで、構造を単純化し、取り扱いを容易にすることが有効である。
【0075】
図16は、スペースデブリ2の進行方向A1の前方に減速装置1を設置した場合の概略構成図である。
【0076】
図16の例では、上記実施形態におけるテザー41c(図1参照)が支持部材41dに置換されている。支持部材41dは、所定の長さを有する柱状の部材であり、スペースデブリ2と減速装置1とを剛に接続している。従って、膜部材20がイオン流から抗力を受けた際にスペースデブリ2と膜部材20との距離が縮まらないようになっている。
【0077】
減速装置1の構造および作用効果については、上記実施形態と同様である。従って、減速装置1は、スペースデブリ2の前方または後方のいずれにおいても、同様の原理で膜部材20の姿勢制御を実行することにより、スペースデブリ2の減速率を調整できる。
【0078】
(第2実施形態)
図17に示す第2実施形態の減速装置1は、PMD対応のものである。本実施形態では、第1実施形態にて示した構成と同じ部分については説明を省略する場合がある。
【0079】
本実施形態の減速装置1は、第1実施形態とは異なり、衛星本体10(図1参照)や捕獲機構41(図1参照)を有していない。本実施形態では、取付装置40は、スペースデブリ2を膜部材20に直接固定する固定具42を含む。代替的には、取付装置40は、図1に示すようなテザー41cを含んでもよく、テザー41cを介してスペースデブリ2と膜部材20を機械的に接続してもよい。
【0080】
本実施形態の減速装置1は、スペースデブリ2として衛星やロケットの残骸を対象とする。減速装置1は、衛星やロケットの打ち上げ前に衛星やロケットに予め搭載され、それらの運用の終了とともに展開される。
【0081】
減速装置1の作用効果については、第1実施形態と同様であり、複数の領域Rの少なくとも一部を帯電させることにより膜部材20の姿勢を制御し、スペースデブリ2の減速率を調整できる。
【0082】
本実施形態によれば、スペースデブリ2を宇宙空間で捕獲する必要がなく、スペースデブリ2の確実な減速率調整を期待できる。
【0083】
図18は、第2実施形態に係る減速装置1の変形例を示すスペースデブリ2の側面図である。
【0084】
本変形例では、スペースデブリ2の一部が膜部材20となっている。図示の例では、スペースデブリ2としてロケットの残骸が示されており、当該スペースデブリ2の側面が膜部材20となっている。
【0085】
本変形例の減速装置1の作用効果についても、上記と同様であり、複数の領域Rの一部を帯電させることにより膜部材20の姿勢を制御し、スペースデブリ2の減速率を調整できる。
【0086】
図19は、膜部材20を正電位に帯電させた場合のシースを示す模式図である。
【0087】
制御装置11は、膜部材20の姿勢制御のために、複数の領域Rのそれぞれを正電位に帯電させるように帯電装置30を制御してもよい。これにより、正電位に基づく領域Sp(この場合は電子シース)が膜部材20の複数の領域Rのそれぞれに対して形成され、当該領域Spに対してイオン流A2が反発することにより抗力を得られる。従って、図5~10に示すように、複数の領域Rの一部を帯電させて膜部材20の姿勢を制御できる。
【0088】
従って、膜部材20の第1の面20aの複数の領域Rのそれぞれは、負電位に帯電させるだけでなく、正電位に帯電させてもイオンから抗力を得ることができる。
【0089】
以上より、本発明の具体的な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。例えば、個々の実施形態ないし変形例の内容を適宜組み合わせたものを、この発明の一実施形態としてもよい。
【0090】
また、例えば、図20,21を参照して、膜部材20は、相対的に大きな基部25と、基部25上に積層された相対的に小さな積層部26とを有してもよい。基部25は、2つの導体25a,25bと、2つの導体25a,25bの間に配置された不導体(絶縁体)25cとを有している。2つの導体25a,25bおよび不導体25cは、膜部材20の正面から見て同じ大きさの正方形である。積層部26は、導体26aと、不導体(絶縁体)26bとを有している。導体26aおよび不導体26bは膜部材20の正面から見て同じ大きさの長方形である。導体26aの長辺は導体25aの一辺と同程度の長さであり、導体26aは導体25aの一辺に沿って配置されている。導体26aは、不導体26bを介して導体25aに取り付けられている。導体25a、導体25b、および導体26aには、電源31を介して異なる電圧を印加できる。特に導体26aへの印加電圧は可変に構成されている。導体25aおよび導体26aは複数の領域Rを含む第1の面20aを構成し、導体25bは第2の面20bを構成している。例えば、第1の面20aは負電位に設定され、第2の面20bは正電位に設定される。本変形例のように、複数の領域Rは、同一平面上に設けられなくてもよく、積層された2つ以上の平面に設けられてもよい。
【0091】
また、例えば、第2の面20bの一部を導体で構成し、当該導体部分の面積を第1の面20aや第2の面20bの全体面積よりも小さくしてもよい。これにより、第1の面20aと第2の面20bとの電位を所望の値に維持し易くし得る。また、第2の面20bについても、第1の面20aと同様に、複数の領域に分割して電位を印加してもよい。
【0092】
また、減速装置1の用途としてスペースデブリ2の減速率調整を例示したが、減速装置1の用途は他にも様々に考えられる。例えば、減速装置1は、人工衛星や惑星探査機などを対象物とし、人工衛星や惑星探査機などの減速率調整に使用されてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1 減速装置
2 スペースデブリ(対象物)
10 衛星本体(接地部)
11 制御装置
12 姿勢検出装置
20 膜部材
20a 第1の面
20b 第2の面
21 フレーム
22 支持部材
23 複数の膜片
23a 第1導体
23b 第2導体
23c 第3導体
23d 第1不導体
23e 第2不導体
23f 第1導体
23g 第2導体
23h 不導体
24 絶縁シート
25 基部
25a,25b 導体
25c 不導体
26 積層部
26a 導体
26b 不導体
30 帯電装置
31 電源
32 主ホット線
33 副ホット線
40 取付装置
41 捕獲機構
41a 把持部
41b 射出装置
41c テザー
41d 支持部材
42 固定具
200 膜部材
200a 第1の面
200b 第2の面
R 複数の領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21