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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】布地を染色する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   D06P 1/22 20060101AFI20240730BHJP
   C12N 11/00 20060101ALN20240730BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20240730BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
D06P1/22
C12N11/00 ZNA
C12N15/53
C12N15/62 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021503056
(86)(22)【出願日】2018-07-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 EP2018069820
(87)【国際公開番号】W WO2020015839
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-06-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507343327
【氏名又は名称】サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス
【氏名又は名称原語表記】SANKO TEKSTIL ISLETMELERI SAN. VE TIC. A.S.
【住所又は居所原語表記】Organize Sanayi Bolgesi 3. Cadde 16400 Inegol-Bursa(TR)
(73)【特許権者】
【識別番号】519446539
【氏名又は名称】ライクスユニバーシタイト フローニンゲン
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ ロンカル
(72)【発明者】
【氏名】イトカ イルマズ
(72)【発明者】
【氏名】エジェ セネル
(72)【発明者】
【氏名】グーカン カプラン
(72)【発明者】
【氏名】マルコ フラーイエ
(72)【発明者】
【氏名】オズギュル シバノグル
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-246837(JP,A)
【文献】特表2000-500655(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0265867(US,A1)
【文献】特開2011-026730(JP,A)
【文献】特表昭59-501972(JP,A)
【文献】特開平02-104773(JP,A)
【文献】Organic Biomolecular Chemistry,2011年03月07日,Volume 9 Number 5,1337-1341
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料前駆体の酵素的合成を含んでなる布地(22)を染色する方法であって、前記方法は、次の工程:
a)少なくとも第1の染料前駆体(112)を含んでなる溶液を、少なくとも第1の固定化酵素(12)と接触させ、前記第1の染料前駆体(112)の少なくとも一部を、少なくとも第2の染料前駆体(113)に転化して、少なくとも前記第2の染料前駆体(113)を含んでなる溶液を得る工程;
b)前記第2の染料前駆体(113)を含んでなる溶液の流れを発生させ、これにより、前記第2の染料前駆体(113)を含んでなる溶液を、前記第1の固定化酵素(12)から前記布地(22)に流動させる工程;
c)前記第2の染料前駆体(113)を含んでなる前記溶液を布地(22)と接触させる工程;及び
d)前記第2の染料前駆体(113)の少なくとも一部を、少なくとも1の染料(111)に転化し、これにより、前記布地(22)の少なくとも一部を染色する工程
を含んでなり、前記第1の固定化酵素(12)は、布地(22)から一定の間隔を有していること;前記第1の染料前駆体(112)がインドール及び/又はその誘導体であり、前記第2の染料前駆体(113)がインドキシル及び/又はその誘導体であり、及び前記染料(111)がインジゴ及び/又はその誘導体であること;及び前記第1の固定化酵素が、酸化酵素、好ましくは、オキシゲナーゼ、さらに好ましくは、モノオキシゲナーゼであり、これにより、前記第1の染料前駆体は、前記固定化酵素と接触する際、酸化されて、前記第2の染料前駆体を生成することを特徴とする方法。
【請求項2】
工程d)において廃溶液が得られ、前記廃溶液の流れを発生させ、これにより、前記廃溶液を、前記少なくとも第1の固定化酵素(12)に流動させる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、第2の固定化酵素、好ましくは、固定化コファクター再生酵素を含んでなる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
コファクター再生酵素が、デヒドロゲナーゼであり、好ましくは、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PTDH)、及びギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)からなる群から選ばれる少なくとも1のデヒドロゲナーゼであり、さらに好ましくは、亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PTDH)である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第1の固定化酵素及び第2の固定化酵素を、固定化融合酵素として提供し、好ましくは、前記融合酵素はPTDH-mFMOである請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
酸素を溶液に添加する請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
工程a)を、少なくとも第1のチャンバー(11)で行い、布地(22)の少なくとも一部の染色を、少なくとも第2のチャンバー(21)において行う請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
第1のチャンバー(11)及び第2のチャンバー(21)とは異なる1以上の反応器(51)において、1以上の原料化合物(114)から出発して、第1の染料前駆体(112)を、酵素的に生成する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第1のチャンバー(11)において、1以上の原料化合物(114)から出発して、第1の染料前駆体(112)を、酵素的に生成する請求項7に記載の方法。
【請求項10】
担体及び前記担体に固定化された少なくとも融合酵素(ここで、融合酵素はPTDH-mFMO融合酵素である)を含んでなる固定化融合酵素の、布地の染色法において、インドール及び/又はその誘導体を酸化してインドキシル及び/又はその誘導体とし、前記布地の存在下でインドキシル及び/又はその誘導体をインジゴ及び/又はその誘導体に転化するための使用。
【請求項11】
酵素的合成によってインジゴ又はインジゴ誘導体を製造する方法であって、前記方法は、次の工程:
a’)少なくともトリプトファナーゼの存在下、トリプトファン又はトリプトファン誘導体を転化して、インドール又はインドール誘導体を得る工程;
b’)少なくとも酸化酵素の存在下、工程a’)において得られた前記インドール又はインドール誘導体をヒドロキシル化して、インドキシル又はインドキシル誘導体を得る工程;及び
c’)工程b’)において得られたインドキシル又はインドキシル誘導体を、布地の存在下、インジゴ又はインジゴ誘導体に転化する工程
を含んでなり、前記トリプトファナーゼ及び前記酸化酵素は、単離酵素、好ましくは、固定化酵素であることを特徴とする製法。
【請求項12】
工程a’)のトリプトファン誘導体が、トリプトファンハロゲン化誘導体であり、さらに、i)少なくともトリプトファンハロゲナーゼ及びハロゲン源の存在下、トリプトファンをハロゲン化して、前記トリプトファンハロゲン化誘導体を得る工程を含んでなり、前記トリプトファンハロゲナーゼが、単離酵素、好ましくは、固定化酵素である請求項11に記載の製法。
【請求項13】
工程a’)~c’)を水性媒体中で行い、水性媒体の流れを発生させ、これにより、工程a’)~c’)を、異なった反応器又は反応器の異なった位置で行う請求項11又は12に記載の製法。
【請求項14】
ハロゲンが臭素であり、トリプトファン誘導体が6-ブロモトリプトファンであり、インジゴ誘導体がティリアンパープルである請求項11~13のいずれかに記載の製法。
【請求項15】
工程c’)を、少なくとも酸化酵素から間隔を保って配置された布地の存在下で行い、これにより、前記布地の少なくとも一部を染色する請求項11~14のいずれかに記載の製法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布地を染色する方法及び装置、並びに前記方法を実施するために要求される、前記装置に含まれる固定化酵素に係る。
【背景技術】
【0002】
建て染め染料は、水に溶解されるためには還元剤を必要とする不溶性の染料である。慣習的には、建て染め染料を使用する染色は、溶解、還元形の染料を布地に塗布することを含んでなり、続いて、染料を酸化して、不溶形に戻し、布地に色を付与する。
【0003】
インジゴは、式(I)
【化1】

の建て染め染料である。
【0004】
基、例えば、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、アミノ、アリール、アリールオキシ、及びカルボニルによるインジゴの芳香環における置換は、青以外の広範囲の色を呈し及びいわゆるインジゴ誘導体の一部である化合物を提供する。
【0005】
インジゴ及びインジゴ誘導体の大部分は、合成を介して生成される。Heumann合成(下記スキーム1)及びPfleger合成(下記スキーム2)は、工業的規模でのインジゴ製造に使用される第1の合成ルートであり、これらの方法の変法は、今日においても使用されている。
【0006】
スキーム1
【化2】

II’ III’ I
【0007】
スキーム2
【化3】

II’’ III’’ I
【0008】
上記合成ルートは、インジゴ誘導体の製造にも使用され、この場合、化合物II’、II’’、III’、及びIII’’は、合成されるべき所望のインジゴ誘導体における位置と同じ位置において、同じ基によって置換される。
【0009】
他の建て染め染料とともに、インジゴ及びその誘導体の合成は、酵素、又は細菌発現酵素の手段によっても実施される。しかし、このような酵素的合成は、工業的方法では使用されない。
【0010】
インジゴの前駆体(例えば、上記スキームの化合物II’、II’’、III’、及びIII’’)は水溶液に溶解性であるが、インジゴは溶解性ではなく、水溶液中での合成の後に沈殿する。それ故、上述のように、インジゴ及びその誘導体は還元されなければならない(例えば、スキーム3に示されるように、還元剤での処理による)。
【0011】
スキーム3
【化4】

I IV
【0012】
ここで、化合物Iはインジゴであり、化合物IVは、ロイコ-インジゴ(無色のため、白藍)と呼ばれる水溶性及び還元形のインジゴである。
【0013】
それ故、染料としてインジゴ又はその誘導体を使用する又は一般に建て染め染料を使用する工業的染色方法は、初めに、公知の方法(例えば、上記スキーム1の合成ルート)を介する、反応器におけるインジゴ又はその誘導体(又は建て染め染料)の水溶液中での合成を含んでなる。インジゴ又はその誘導体(又は建て染め染料)が沈殿として得られる。ついで、懸濁したインジゴ又はその誘導体(又は建て染め染料)を含んでなる水溶液を還元剤で処理して、溶解したロイコ-インジゴ又はその誘導体(又は建て染め染料)を含んでなる水溶液を得る。ついで、溶解したロイコ-インジゴ又はその誘導体(又は建て染め染料)を含んでなる水溶液を布地に塗布する。溶解したロイコ-インジゴを含んでなる水溶液で布地を湿潤させた後、ロイコ-インジゴ又はその誘導体(又は建て染め染料)の酸化によって、インジゴ又はその誘導体(又は建て染め染料)を得て、このようにして、布地が染色される。このような酸化は、例えば、空気中の酸素によって行われる。通常、インジゴ染色法は、所望の色のシェードを達成するために、数回の浸漬及び酸化工程が必要である。
【0014】
不溶性の建て染め染料、例えば、インジゴ又はその誘導体を還元するために使用される還元剤は、強力な化学物質、すなわち、ユーザー及び/又は環境に対して危険な化学物質、例えば、水酸化ナトリウム及びヒドロ亜硫酸ナトリウムである。実際に、染料として、例えば、インジゴ又はその誘導体が使用される従来の染色法では、多量の還元塩及び水酸化物が使用され、これにより、廃棄前に処理されなければならない多量の廃水が発生する。この工程は染色法のコストを増大させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように、建て染め染色及び水処理法についてのコストを低減させ、建て染め染料、特に、インジゴ又はその誘導体による布地を染色する改善された方法についての要求がある。
【0016】
公知のインジゴ染色法による他の課題は、アルカリ性の処理溶液及びその中に存在する副生物に長期間曝されることによって、布地、特に、セルロースが損傷されることである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的は、上記課題を解決し、安全であり、費用効果があり、環境にやさしい、不溶性染料、例えば、建て染め染料を使用する、特に、インジゴ又はその誘導体を使用する布地の染色法を提供することにある。
【0018】
本発明の他の目的は、インジゴ又はその誘導体、又は一般に建て染め染料を使用する従来の染色法よりも持続可能である、不溶性染料、例えば、建て染め染料と同様に、インジゴ又はその誘導体を使用する布地の染色法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の染色法の概略図である。
図2】本発明の染色法の他の具体例を概略して示す図である。
図3】染色法の具体例を概略して示す図である。
図4】装置10の概略図である。
図5】装置10の他の概略図である。
図6】リザーバーを含む装置10の具体例を概略して示す図である。
図7】回収タンクを含む装置10の他の具体例を概略して示す図である。
図8】装置10の具体例を概略して示す図である。
図5】装置10の他の具体例を概略して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
他の目的とともに、上記の目的は、請求項1による方法、すなわち、染料前駆体の酵素的合成を含んでなる布地を染色する方法であって、次の工程:
a)少なくとも第1の染料前駆体を、少なくとも第1の固定化酵素と接触させ、前記第1の染料前駆体の少なくとも一部を、少なくとも第2の染料前駆体に転化して、前記第2の染料前駆体を含んでなる溶液を得る工程;
b)第2の染料前駆体を含んでなる溶液の流れを発生させ、これにより、前記第2の染料前駆体を含んでなる溶液を、第1の固定化酵素から布地に流動させる工程;
c)第2の染料前駆体を含んでなる溶液を布地と接触させる工程;及び
d)第2の染料前駆体の少なくとも一部を、少なくとも1の染料に転化し、これにより、布地の少なくとも一部を染色する工程
を含んでなり、前記第1の固定化酵素は、布地から一定の間隔を有していることを特徴とする方法を提供する本発明を介して達成される。
【0021】
以下の明細書において、「布地」は、例えば、インジゴ又はその誘導体によって染色される各種の繊維、糸、ロープ、織物及び/又は衣服をいう。布地材料は、動物又は植物由来のもののような天然素材、例えば、綿、リネン、絹、ウール等でもよく、又は合成素材、又はその混合物、例えば、伸縮性の綿織物又は衣服でもよい。また、前記糸は、各種の公知の方法によって製造され、前記織物は、各種の公知の方法、例えば、織り、編み、クローシェ編み、糸結び、及びフェルティングによって製造される。さらに、前記衣服は、各種の衣類、例えば、ジーンズ、シャツ、カジュアル衣料等である。
【0022】
本発明において、「第1の染料前駆体」は、酵素的に第2の染料前駆体に転化される各種の溶解性化合物をいう。本発明において、「第2の染料前駆体」は、第1の染料前駆体によって得られ、例えば、二量化を介して、不溶性染料に転化される各種の溶解性化合物をいう。本発明において、「不溶性染料」は、織物を染色するために一般的に使用される各種の水不溶性化合物、例えば、インジゴのような各種の建て染め染料をいう。それ故、本発明によれば、第1の染料前駆体、第2の染料前駆体、及び不溶性染料は、合成ルート、特に、第1の酵素的工程及び第2の非酵素的工程を含んでなる合成ルートを介して、互いに関連する。例えば、本発明による前記第1の染料前駆体、前記第2の染料前駆体、及び前記不溶性染料は、それぞれ、インドール及び/又はその誘導体、インドキシル及び/又はその誘導体、及びインジゴ及び/又はその誘導体であり、下記に示すスキーム4に示されるように関連する。どの第1の染料前駆体が工程a)の溶液に含まれていなければならないかは、布地の色が不溶性染料によって提供され、不溶性染料が第1の染料前駆体を原料として得られるため、染色される織物が、発明の染色法の終了時に有していなければならない色に応じて選択される。
【0023】
第1の染料前駆体、第2の染料前駆体、及び不溶性染料の有利な例は、それぞれ、インドール及び/又はその誘導体、インドキシル及び/又はその誘導体、及びインジゴ及び/又はその誘導体である。インジゴ又はその誘導体は、下記のスキーム4に表されるように、インドール及びその誘導体を原料として合成される。
【0024】
スキーム4
【化5】

II III I
【0025】
ここで、化合物IIはインドール(第1の染料前駆体)であり、化合物IIはインドキシル(第2の染料前駆体)であり、及び化合物Iはインジゴ(染料)である。特に、スキーム4の反応を参照すると、インドールの3位の炭素へのヒドロキシル基の付加はインドキシルを生成し、インドキシルは、水溶液中で二量化して、インジゴを生成する。本発明によれば、インドール及び/又はその誘導体へのヒドロキシル基の付加は、本発明の方法の工程a)において、固定化酵素によって行われる。第1の染料前駆体がインドール及び/又はその誘導体であり、第2の染料前駆体がインドキシル及び/又はその誘導体であり、及び不溶性染料がインジゴ及び/又はその誘導体である場合、本発明の方法は、従来技術の還元工程を経由することなく、織物染色において汎用される染料であるインジゴ及び/又はその誘導体により織物を染色できる。
【0026】
本発明よれば、「インドール誘導体」、「インドキシル誘導体」、及び「インジゴ誘導体」は、それぞれ、1以上の置換基によって置換された、例えば、インドール又はインドキシルの4、5、6及び7位から、及びインジゴの4,4’、5,5’、6,6’及び7,7’位から選ばれる各種の位置の1以上の炭素において1以上の基によって及び/又はインドール、インドキシル、又はインジゴの窒素原子において基によって置換されたインドール、インドキシル、及びインジゴをいう。1以上の炭素を置換する1以上の基は、例えば、ハロゲン、アルキル基(例えば、C1-C20アルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、3級-ブチル、及びイソブチル)、アルコキシ基(例えば、C1-C20アルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ、3級-ブトキシ、及びイソブトキシ)、アリール基(例えば、フェニル、置換フェニル、ベンジル、置換ベンジル、ナフチル、アントラセニル、及びヘテロアリール)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、及びナフトキシ)、アミン基(例えば、1級及び/又は2級脂肪族及び/又は芳香族アミン基、ニトロ基、及びカルボニル基(例えば、アルデヒド基、例えば、芳香族及び/又は脂肪族アルデヒド、及びケトン、例えば、芳香族及び/又は脂肪族ケトン)であるが、これらに限定されない。窒素を置換する基は、アルキル基(例えば、C1-C20アルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、3級-ブチル、及びイソブチル)、アリール基(例えば、フェニル、置換フェニル、ベンジル、置換ベンジル、ナフチル、アントラセニル、及びヘテロアリール)、及びアセチル基(例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ベンゾイル、及びアクリロイル)であるが、これらに限定されない。それ故、インドール誘導体は、例えば、4-クロロインドール、5-クロロインドール、6-クロロインドール、7-クロロインドール、5-ブロモインドール、6-ブロモインドール、5-ニトロインドール、5-ヒドロキシインドール、5-メチルインドール、5-メトキシインドール、6-メチルインドール、7-メチルインドール、5-アミノインドール、1-メチルインドール、インドール-6-カルボキシアルデヒドであり;及びインドキシル誘導体は、例えば、4-クロロインドキシル、5-クロロインドキシル、6-クロロインドキシル、7-クロロインドキシル、5-ブロモインドキシル、6-ブロモインドキシル、5-ニトロインドキシル、5-ヒドロキシインドキシル、5-メチルインドキシル、5-メトキシインドキシル、6-メチルインドキシル、7-メチルインドキシル、5-アミノインドキシル、1-メチルインドキシル、インドキシル-6-カルボキシアルデヒドである。本発明は、インドール誘導体が、反応し、酵素的触媒作用によって、対応するインドキシル誘導体に転化されるものであれば、他の各種のインドール及びインドキシル誘導体の使用も包含する。これらのインドキシル誘導体は、転化される(すなわち、本発明の方法の工程d)に従って二量化される)際には、各々、異なった色を有する対応するインジゴ誘導体を生成する。本発明によれば、「インジゴ誘導体」は、非対称のインジゴ、すなわち、異なる2つのインドキシル誘導体、又はインドキシル又はインドキシル誘導体の二量化に由来するインジゴもいう。非対称のインジゴによる布地の染色は、本発明に従って、2以上の異なるインドール誘導体、又はインドール及び1以上のインドール誘導体を含んでなる溶液が、工程a)において、酵素と接触される際に達成される。例えば、2つの異なるインドール誘導体、又はインドール及びインドール誘導体が、第1の固定化酵素と接触する際(工程a))、2つの異なるインドキシル誘導体、又はインドキシル及びインドキシル誘導体が得られ、続いて、方法の工程c)に従って、これらは布地と接触する。このような2つの異なるインドキシル誘導体、又はインドキシル及びインドキシル誘導体は、方法の工程d)に従って、少なくとも染料に転化する場合、3つの異なったインジゴ誘導体、すなわち、2つの異なる非対称のインジゴ誘導体及び1つの非対称のインジゴ誘導体(例えば、下記のスキームに示されるように)が得られ、このようにして、布地は、1以上の染料(その内の1は非対称のインジゴである)によって染色される。
【0027】
スキーム5
【化6】
【0028】
スキーム5を参照すると、2つの異なるインドール誘導体は、化合物IIa(4-メトキシインドール)及びIIb(7-クロロインドール)であり、2つの異なるインドキシル誘導体は、化合物IIIa(4-メトキシインドキシル)及びIIIb(7-クロロインドキシル)であり、3つの異なるインジゴ誘導体は、化合物Ia(4,4’-ジメトキシインジゴ又は4-メトキシ-2-(4-メトキシ-3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2H-インドール-2-イルインデン)-1,2-ジヒドロ-3H-インドール-3-オン;対称インジゴ誘導体)、Ib(7,7’-ジクロロインジゴ又は7-クロロ-2-(7-クロロ-3-オキソ-1,3-ジヒドロ-2H-インドール-2-イルインデン)-1,2-ジヒドロ-3H-インドール-3-オン;対称インジゴ誘導体)、及びIc(7-クロロ-4’-メトキシインジゴ又は7-クロロ-2-(4-メトキシ-1,3-ジヒドロ-3-オキソ-2H-インドール-2-イルインデン)-1,2-ジヒドロ-3H-インドール-3-オン;非対称インジゴ誘導体)である。それ故、方法の工程d)において、少なくとも2のインドール誘導体、又はインドール及び少なくとも1のインドール誘導体を酵素と接触させる際、1以上のインジゴ誘導体が得られ、これにより、本発明の方法に従って、1以上の染料による布地の染色が達成される。
【0029】
本発明によれば、「第1の固定化酵素」は、本発明の方法の工程a)に従って、第1の染料前駆体の第2の染料前駆体への転化を触媒できる各種の酵素をいう。例えば、第1の固定化酵素は、インドール及び/又はその誘導体のインドキシル及び/又はその誘導体への転化(すなわち、酸化)を触媒できる固定化酵素である。
【0030】
本発明によれば、工程a)において、各種の化合物を酵素と接触させること、例えば、第1の染料前駆体を固定化酵素と接触させることは、このような化合物が、酵素的に転化されることを意味する。このような接触は、少なくともこのような第1の染料前駆体含んでなる溶液の流れを酵素と接触させることによって行われ、これにより、このような溶液に含まれる溶解した第1の染料前駆体は、順次、固定化酵素と接触し、酵素的に、第2の染料前駆体に転化される。
【0031】
本発明によれば、少なくとも第2の染料前駆体を含んでなる溶液と布地との接触は、このような溶液による布地の湿潤を意味し、これにより、布地が、第2の染料前駆体が溶解されている溶液を含浸する。
【0032】
本発明によれば、「固定化された」又は「固定化」は、酵素の固定化方法をいう。酵素の固定化は、このような酵素の担体、例えば、エポキシ活性化樹脂(例えば、メタクリレート共重合体、例えば、Eupergit(登録商標)、SepaBeads(登録商標)、Relizyme(商標名)、Purolite(登録商標))、セルロース、アガロース、ポリスチレン系イオン交換樹脂、アミノアクリレート樹脂、ハイドロゲル(吸蔵による固定化;例えば、アガロース、アルギネート、カラギーナン、又はゼラチン)、キレート担体(例えば、Ni-Sepharose(登録商標)、IDA-Sepharose(登録商標)、NTA-Sepharose(登録商標)、IDA-Agarose及びその誘導体)等への結合、好ましくは、共有結合を含む当分野で公知の一般的な方法である。酵素を固定化するために使用される担体のタイプは、酵素の露出された基に左右される。例えば、表面アミノ基が酵素上で露出されている場合には、担体として、エポキシ活性化樹脂が使用される:アミノ基はエポキシ活性化樹脂のエポキシ基に共有結合するため、酵素はエポキシ活性化樹脂に固定化される。本発明によれば、固定化は、NaCl0.5Mを含有するpH8.0の100 mMリン酸カリウム溶液中において、撹拌しながら、12時間、酵素及びエポキシ活性化樹脂をインキュベートすることによって行われる。有利には、固定化を行った後、担体の残りの(未反応)活性化基を不活性化する:例えば、残りの活性化基の不活性化は、エポキシ活性化樹脂を含んでなる溶液中で10mMエタノールアミン又は10mMグリシンをインキュベートすることによって行われる。
【0033】
好適なエポキシ活性化樹脂は、300~1800Å、例えば、300~600Å、又は1200~1800Åの範囲の平均細孔径を持つ100~1100μ、例えば、150~300μ、又は200~500μ、又は250~1000μの範囲の粒径を有する。本発明の1態様では、酵素の固定化は、湿潤担体1g当たり(半)精製酵素5~75mgの範囲、さらに好ましくは、湿潤担体1g当たり(半)精製酵素15~25mgの範囲の比で行われる。
【0034】
本発明の方法では、例えば、触媒効力を増大させるため又は担体への改善された結合を提供するために、変異酵素(例えば、遺伝子組み換え酵素)が使用される。例えば、酵素を固定化するために使用される担体がエポキシ活性化樹脂である場合は、担体への結合を増大させるために、酵素を、好ましくは、N-末端におけるヘキサリジン(6xLys)又はヘキサヒスチジン(6xHis)タグ配列の導入を介して修飾できる。
【0035】
本発明によれば、「一定の間隔を保って」とは、第1の固定化酵素及び布地を、第2の染料前駆体の不溶性染料への転化が、前記第1の固定化酵素において及び/又は近くで起こらず、代わりに、第2の染料前駆体を含んでなる溶液が布地と接触した後に起こるように配置することをいう。それ故、第2の染料前駆体の不溶性染料への転化は、直接、布地において得られる。本発明によれば、このように、布地は、溶液の流れの方向について、固定化酵素の下流に配置される。酵素は、拘束され、溶液の流れとともに流動できないように固定化される。このような間隔を保つことは、例えば、固定化酵素(又は酵素系)及び布地を異なる容器又はチャンバーに配置することにより、又は固定化酵素(又は酵素系)及び前記布地を、同一の容器又はチャンバーにおいて、異なる領域に拘束することによって行われる。溶液のパラメーター、例えば、流速、温度、溶液と酵素及び布地との接触時間は、第2の染料前駆体の不溶性染料への転化が、実質的に布地上で、すなわち、少なくとも第2の染料前駆体を含んでなる溶液が布地と接触した後に、間違いなく生ずるように選択される。
【0036】
それ故、本発明によれば、前記第1の固定化酵素における及び/又は近くでの第2の染料前駆体の不溶性染料への転化(すなわち、沈殿)は、実質的に防止される。発明者らは、酵素における及び/又は近くでの不溶性染料の沈殿は、酵素の活性のロスから生ずるとの知見を得ている;沈殿した不溶性染料は、基質-酵素相互作用にマイナスの影響を及ぼし、さらに、基質(すなわち、第1の染料前駆体)の固定化酵素との接触を妨げると思われる。
【0037】
本発明の他の利点は、還元剤の使用が回避され、従って、還元剤を含有する廃水が生成しないため、本発明の方法は、環境的に優しく、安全であり、費用効果があり、持続可能である。
【0038】
方法が標準的な染色条件で行われ、第2の染料前駆体がインドキシル及び/又はその誘導体である場合、それらのインジゴ及び/又はその誘導体への二量化は自発的である。本発明の方法によれば、このような自発的な二量化は、少なくとも前記インドキシル及び/又はその誘導体を含んでなる溶液が布地(第1の固定化酵素から間隔を保って配置されている)と接触した後に生ずる。本発明の方法では、工業的規模の方法において、布地を染色するために、インジゴ及び/又はその誘導体の酵素的合成を使用することが可能である。
【0039】
有利には、本発明の方法は連続法である。連続法は、工程a)の上流で第1の染料前駆体を添加することができ、これにより、染料前駆体を含んでなる溶液を、連続して、固定化酵素と接触させることができる。
【0040】
本発明の方法の1具体例によれば、工程d)後に得らえた溶液は、工程a)において第2の染料前駆体に転化されなかった未反応の第1の染料前駆体を含んでなる廃溶液である。
【0041】
本発明の方法の1具体例によれば、廃溶液の少なくとも一部を、工程d)後、第1の固定化酵素に戻して、方法において再利用する。この具体例では、廃溶液中に存在する未反応の第1の染料前駆体を第2の染料前駆体に転化することができ、ついで、第2の染料前駆体を、本発明の方法の工程b)~d)に供することができる。当該具体例は、例えば、方法の工程を繰り返すことによって、すなわち、溶液の流れを導いて、数回、第1の固定化酵素と接触させることによって、前記第1の染料前駆体を完全に前記第2の染料前駆体に転化できるため、前記第1の染料前駆体の使用を最適化できる。方法の工程を繰り返すことにより、染色された布地に異なった色のシェードを提供できる;このように、方法は、布地について所望の色のシェードが得られるまで行われる。さらに、この具体例では、有用な溶質、例えば、未反応の第1の染料前駆体、緩衝剤、コファクター等をなお含有する廃溶液の廃棄を回避できる。
【0042】
さらに、工程d)の後に固定化酵素に戻される廃溶液に、第1の染料前駆体を添加できる。これにより、本発明の方法を連続的に実施できる。
【0043】
以下のパラグラフにおいて、不溶性染料がインジゴであり、第2の染料前駆体がインドキシルであり、第1の染料前駆体がインドールである具体例を参照して、方法を詳述する。発明の範囲は、これらの例示した化合物に限定されない。本発明の具体例によれば前記第1の固定化酵素は酸化酵素であり、これにより、酸化酵素と接触する際、インドール及び/又はその誘導体は酸化されて、インドキシル及び/又はその誘導体が得られる。
【0044】
本発明によれば、「酸化酵素」は、その基質の酸化を触媒できる各種の酵素、例えば、酸化還元酵素(EC 1)をいう。好適な酸化還元酵素は、モノオキシゲナーゼ(EC 1.13)である;好ましくは、フラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO)(EC 1.14.13.8)、及びさらに好ましくは、微生物フラビン含有モノオキシゲナーゼである(mFMO)。或いは、モノオキシゲナーゼは、バイヤー・ビリガーモノオキシゲナーゼ(BVMO)である。モノオキシゲナーゼ、特に、FMO及びmFMOは、多数のインドール誘導体を転化する好適な特異性とともに、多くの第1の染料前駆体、例えば、インドール及び/又はその誘導体の良好な転化率及び結合を提供し、このように、本発明には有益である。バイヤー・ビリガーモノオキシゲナーゼ(BVMO)は、FMOに対する類似した相同性を有し、このように、本発明に対してなお有益である。本発明において使用される特に好適な酸化酵素は、メチロファーガ属(Methylophaga sp.)から、さらに好ましくは、菌株SK1からのmFMOである。この種のmFMOは、水溶液において非常に溶解性であり、高濃度溶液を提供でき、このようにして、第2の染料前駆体113、例えば、インドール及び/又はその誘導体(このタイプのmFMOによって合成される)の量を増大させる。さらに、このタイプのmFMOは、インドール又は1つの特別なインドール誘導体に対して特異的ではないため、多くのインドール誘導体を、対応するインドキシル誘導体に転化できる。しかし、本発明の範囲には、前記メチロファーガ属mFMOの各種の類似体も包含される。一般に、変異酵素、例えば、遺伝子組み換え酸化酵素は、本発明に従って、例えば、第1の染料前駆体の酸化効率を改善するために使用される。
【0045】
本発明の1具体例によれば、方法は、第2の固定化酵素、好ましくは、固定化コファクター再生酵素も使用することを含んでなる。
【0046】
本発明によれば、「第2の固定化酵素」は、第1の固定化酵素によって触媒される第1の染料前駆体の第2の染料前駆体への転化を補助する及び/又は完了させる各種の酵素である。特に、第2の固定化酵素は、第1の固定化酵素によって使用されるコファクターを再生させることによって、このような転化を保持できる;この場合、第2の固定化酵素は、固定化コファクター再生酵素である。
【0047】
本発明によれば、「コファクター再生酵素」は、第1の染料前駆体の転化反応(本発明の方法の工程a))を触媒する第1の固定化酵素によって使用されるコファクターを再生(すなわち、生成)できる各種の酵素である。
【0048】
第2の固定化酵素は、このように、前記第1の固定化酵素によって使用されるコファクターよりも安価な基質を原料として、第1の固定化酵素によって使用されるコファクターを生成できる。
【0049】
好適なコファクター再生酵素は、当分野において公知であり、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PTDH)、ギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)、及びその変異体である。好ましくは、コファクター再生酵素は、亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PTDH)であり;好適なPTDHの例は、国際公開第2004/108912号に開示されている。特に、前記第1の固定化酵素として、酸化酵素、特に、FMOが使用される場合には、デヒドロゲナーゼ、例えば、GDH、 FDH、及び特にPTDHの使用が有利である。GDH、FDH、及びPTDHは、それぞれ、前記酸化酵素によって使用されるコファクターよりも著しく安価であり、広く商業的に入手可能であるグルコース、ギ酸塩、及び亜リン酸塩を原料として、このような酸化酵素によって使用されるコファクターを再生する。遺伝子組み換えコファクター再生酵素は、本発明に従って、例えば、第1の染料前駆体のコファクター再生効率を改善するために使用される。
【0050】
好ましくは、第1及び第2の酵素は、ともに、酵素系を提供するために固定化される。
【0051】
本発明の1具体例によれば、固定化酵素系は、布地から間隔を保って配置され、溶液は酵素系から布地に流動する。本発明の方法は、固定化酵素系において又は近くで、不溶性染料の沈殿を回避又は少なくとも大いに減少させる。
【0052】
本発明の他の具体例によれば、第1の固定化酵素及び第2の固定化酵素は、固定化融合酵素として提供され、このようにして、融合系が提供される。好ましくは、前記第1の固定化酵素は、酸化酵素、さらに好ましくは、モノオキシゲナーゼ、なお好ましくは、微生物フラビン含有モノオキシゲナーゼ(mFMO)である。前記第2の酵素は、好ましくは、コファクター再生酵素、さらに好ましくは、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PTDH)、及びギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)からなる群から選ばれる少なくとも1のデヒドロゲナーゼであり、最も好ましくは、亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PTDH)である。このように、好適な1具体例によれば、前記融合系はPTDH-mFMO融合酵素である。
【0053】
酵素の融合は、当分野において公知の技術である。好適な融合酵素は、第1の酵素に由来の領域及び第2の酵素に由来する領域を含んでなり、各領域は、必須の機能的特性を提供する。
【0054】
融合酵素の固定化は、融合酵素の各領域における表面露出基、例えば、第1の酵素の領域、又は第2の酵素の領域、又は両領域における表面露出基によって行われる。担体は、融合酵素のいずれかの領域における表面露出基に応じて選択される。
【0055】
本発明の方法では、変異融合酵素を使用できる。このような変異融合酵素は、例えば、より効果的に固定化されるように、又は触媒効率を改善するために、遺伝子組み換えされる。
【0056】
1具体例では、第1の固定化酵素又は酵素系は、第1の容器又はチャンバーに配置され、及び布地は、第2の容器又はチャンバーに配置される。それ故、この具体例によれば、工程a)は、少なくとも第1のチャンバーで行われ、前記布地の少なくとも一部の染色は、少なくとも第2のチャンバーで行われる。従って、前記具体例によれば、第1の染料前駆体の第2の染料前駆体への転化(本発明の方法の工程a))は第1のチャンバーで生じ、一方、前記第2の染料前駆体の前記染料への転化は前記第2のチャンバー(前記第1のチャンバーと流体接続する)で生ずる。
【0057】
1具体例によれば、第1の染料前駆体は、1以上の原料化合物から酵素的に生成される。例えば、インドール(すなわち、代表的な第1の染料前駆体)は、原料化合物としてトリプトファンを使用して酵素的に得られる。
【0058】
具体例によれば、第1の染料前駆体は、第1及び第2のチャンバーとは異なる1以上の反応器において、1以上の原料を使用して酵素的に生成される。有利には、具体例によれば、このような反応器は、少なくとも第1のチャンバーと流体接続している。
【0059】
具体例によれば、上述のように、第1の染料前駆体は、第1のチャンバーにおいて、1以上の原料化合物から酵素的に生成される。
【0060】
ここで使用するように、用語「原料化合物」は、上記で限定したように、1以上の酵素的反応によって第1の染料前駆体に転化される化合物をいう。このような酵素的反応は、1以上の原料酵素によって行われる。具体例によれば、原料酵素は固定化される。
【0061】
具体例によれば、原料化合物(例えば、トリプトファン)は、その誘導体、例えば、ハロゲン化誘導体に酵素的に転化される。
【0062】
ここで使用するように、用語「原料酵素」は、このように、原料化合物、例えば、トリプトファンの第1の染料前駆体、例えば、インドールへの転化を触媒できる1以上の酵素をいう。
【0063】
スキーム6は、第1の染料前駆体(インドール(II))が、原料化合物(トリプトファン(IV))を原料として酵素的に得られる反応スキームを表す。
反応スキーム6
【化7】
【0064】
スキーム6を参照すると、化合物IVはトリプトファン(原料化合物)であり、化合物IIはインドール(第1の染料前駆体)であり、化合物IIIはインドキシル(第2の染料前駆体)であり、化合物Iはインジゴ(不溶性染料)である。具体例によれば、トリプトファンのインドールへの転化は、原料酵素、例えば、トリプトファナーゼによって又はその変異型(例えば、改善された触媒特性を有する変異型)によって行われ、第1の染料前駆体から第2の染料前駆体への転化、第2の染料前駆体から不溶性染料への転化は、上記のようにして行われる。スキーム6の反応は、トリプトファン、インドール、インドキシル、及びインジゴ誘導体にも適用される。
【0065】
ここで使用するように、用語「トリプトファン誘導体」は、インドール、インドキシル、及びインジゴ誘導体について開示したように、1以上の置換基によって置換されたトリプトファンをいう。例えば、トリプトファン誘導体、対応するインドール、インドキシル、及びインジゴ誘導体が関与する実例となる反応をスキーム7に示す。スキーム7は、原料化合物(トリプトファン(IV))がハロゲン化誘導体(6-ブロモトリプトファン(IVd))に転化される実例となる反応を示している。この場合、所望の第1の染料前駆体(6-ブロモインドール(IId))を得るためには、1以上の原料酵素、すなわち、トリプトファンハロゲナーゼ及びトリプトファナーゼが要求される。
【0066】
スキーム7
【化8】
【0067】
スキーム7を参照すると、化合物IVはトリプトファン(原料化合物)であり、化合物IVdは6-ブロモトリプトファン(原料化合物のハロゲン化誘導体)であり、化合物IIdは
6-ブロモインドール(第1の染料前駆体)であり、化合物IIIdは6-ブロモインドキシル(第2の染料前駆体)であり、及び化合物Idは6,6’-ジブロモインジゴ(ティリアンパープルとも呼ばれる;不溶性染料)である。上述のようにトリプトファンの6-ブロモトリプトファンへの転化及び6-ブロモトリプトファンの6-ブロモインドールへの転化は、原料酵素、例えば、それぞれ、トリプトファンハロゲナーゼ及びトリプトファナーゼによって行われ、第1の染料前駆体から第2の染料前駆体への転化及び第2の染料前駆体から不溶性染料への転化は上述のように行われる。
【0068】
具体例によれば、不溶性染料は、酵素カスケード反応工程(すなわち、原料化合物を出発して第2の染料前駆体を導く酵素的転化)、続く、非酵素的反応工程(すなわち、布地上で生ずる第2の染料前駆体から不溶性染料への転化)によって得られる。
【0069】
有利には、本発明の方法のパラメーターを制御することによって、直接、布地における第2の染料前駆体の不溶性染料への転化を得ることができ、その結果、酵素での及び/又は近くで不溶性染料の沈殿を回避できる。
【0070】
具体例によれば、本発明の方法は、さらに、少なくとも原料化合物を含んでなる溶液を、少なくとも原料酵素と接触させて、このような原料化合物の少なくとも一部を第1の染料前駆体に転化させて、工程a)を行う前に、少なくとも前記第1の染料前駆体を含んでなる溶液を得る工程を含むことができる。
【0071】
本発明の他の目的は、布地を染色する方法を実施するための請求項11による装置、すなわち、少なくとも第1の固定化酵素及び少なくとも染料前駆体を含んでなる溶液を収容する第1のチャンバー、布地を収容する少なくとも第2のチャンバー、及び溶液の流れを発生させる手段を含んでなる布地を染色する装置にある。第1のチャンバーは第2のチャンバーと流体接続しており、これにより、少なくとも染料前駆体を含んでなる溶液は、第1のチャンバーから第2のチャンバーに流動でき、染料前駆体の少なくとも一部は染料に転化されて、布地の少なくとも一部を染色する。第2のチャンバーは、任意に、前記溶液を第2のチャンバーから除去するために出口手段を含んでなる。
【0072】
本発明の他の具体例によれば、装置は、さらに、
【0073】
少なくとも第1のチャンバーと流体接続する1以上のリザーバー(染料前駆体を含んでなる溶液は、リザーバーから第1のチャンバーに流動できる);及び/又は
第2のチャンバーの出口手段と流体接続する1以上の回収タンク
を含んでなる。
【0074】
この具体例によるリザーバーは、設置されると、少なくとも第1の染料前駆体、例えば、第1の染料前駆体を含んでなる溶液を、本発明の装置に、特に、第1の固定化酵素を収容する第1のチャンバーに提供するようにセットされる。実際、前記リザーバーは、ユーザーが、溶液及び/又は溶質(このような溶液及び/又は溶質は、本発明の装置によって、本発明の方法を実施するために要求される)を、本発明の装置に容易に供給できるようにする目的で設置される。それ故、例えば、少なくとも前記第1の染料前駆体を含んでなる溶液は、前記リザーバーに加えられ、ついで、このような溶液は、前記リザーバーと前記第1のチャンバーとの間の流体接続の手段によって、前記第1の固定化酵素(及び最終的に前記第2の酵素)を収容する前記第1のチャンバーに供給される。この具体例による回収タンクは、布地が染色された後(例えば、本発明の方法の工程d)の後)に得られる廃溶液を集めることを可能にする。
【0075】
他の具体例によれば、本発明の装置は、溶液の流れを発生させる手段も含んでなる。溶液の流れを発生させる前記手段、例えば、1以上のポンプは、本発明の装置に含まれる溶液の流動を可能にする。
【0076】
具体例によれば、装置は、装置と、好ましくは、第1のチャンバーと流体接続する1以上の反応器を含むことができる。前記1以上の反応器は、1以上の原料酵素、及び1以上の原料化合物を含んでなる溶液を収容できる。
【0077】
具体例によれば、第1の染料前駆体を酵素的に生成するために、第1のチャンバー内に、1以上の原料酵素及び1以上の原料化合物を含んでなる溶液を収容できる。
【0078】
本発明の他の目的は、請求項19による固定化融合酵素、すなわち、担体及び前記担体に固定化された少なくとも融合酵素を含んでなる固定化融合酵素(前記融合酵素は、PTDH-mFMO融合酵素である)にある。
【0079】
PTDH-mFMO融合酵素は、本発明の方法、すなわち、布地の染色、特に、前記染色がインジゴ及び/又はその誘導体を使用して実施される際に特に有用であることが認められた。
【0080】
本発明の他の目的は、請求項20による使用、すなわち、固定化融合酵素の布地の染色方法における使用(前記固定化融合酵素は、再生酵素-酸化酵素融合酵素であり、例えば、PTDH-mFMO融合酵素、すなわち、本発明の上記の目的による固定化融合酵素である)である。
【0081】
前記固定化融合酵素、特に、前記固定化PTDH-mFMO融合酵素は、染料として、不溶性染料、特に、インジゴ及び/又はその誘導体が使用される染色方法(例えば、本発明の染色法)において、特に有用であることが明らかにされた。実際、前記固定化融合酵素、特に、前記固定化PTDH-mFMO融合酵素によって、第1の染料前駆体、特に、インドール及び/又はその誘導体の酸素化において良好な反応速度及び収率が提供される。それ故、前記固定化融合酵素、特に、前記固定化PTDH-mFMO融合酵素は、不溶性染料、特に、インジゴ及び/又はその誘導体を合成するために、及び本発明による染色を実施するために最適である。
本発明の他の目的は、請求項21による方法、すなわち、下記の工程:
a’)少なくともトリプトファナーゼの存在下、トリプトファン又はその誘導体を転化して、インドール及び/又はその誘導体を得る工程;
b’)少なくとも酸化酵素の存在下、工程a’)において得られた前記インドール及び/又はその誘導体をヒドロキシル化して、インドキシル又はその誘導体を得る工程;及び
c’)工程b’)において得られた前記インドキシル又はその誘導体をインジゴ及び/又はインジゴ誘導体に転化する工程
を含んでなる酵素的合成によるインジゴ及び/又はその誘導体の製法にある。
【0082】
本発明の方法の反応スキームは、上記スキーム6に示されている。
【0083】
本発明の方法は、酵素的カスケード反応工程(工程a’)及びb’))及び非酵素的工程(工程c’))による、トリプトファン又はトリプトファン誘導体を原料とするインジゴ及び/又はインジゴ誘導体の合成を提供する。本発明の方法は、インジゴ及び/又はインジゴ誘導体、例えば、ティリアンパープルを、コスト的に有利に生成するためには、特に有利である。
【0084】
また、本発明の方法は、インジゴ及び/又はインジゴ誘導体を、工業的規模で製造することを可能にする。
【0085】
ここで使用するように、「トリプトファン誘導体」は、インドール及びインドキシル誘導体について上記で定義したような基及び位置で置換されているトリプトファンをいう。
【0086】
工程a’)のトリプトファン誘導体は、好ましくは、少なくともトリプトファンハロゲナーゼ及びハロゲン源の存在下で、トリプトファンをハロゲン化することによって得られるトリプトファンハロゲン化誘導体である。この具体例の反応スキームは、上記スキーム7に示されている(ここで、ハロゲン化誘導体は、6-ブロモ誘導体である)。
【0087】
具体例によれば、酵素的にインジゴ及びインジゴ誘導体を生成するために、原料化合物として、トリプトファンが使用される。有利には、原料化合物としてトリプトファンを使用することは、インジゴ及び/又はインジゴ誘導体の費用効果に優れた製造を可能にする。
【0088】
ここで使用するように、「ハロゲン化誘導体」は、5、6、7及び8位(インジゴについては、5’、6’、7’及び8’位)における1以上の炭素上で、ハロゲン、特に、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素によって置換されたトリプトファン、インドール、インドキシル、及びインジゴをいう。例えば、トリプトファンハロゲン化誘導体は、6-ブロモトリプトファン((上記スキーム7の化合物IVd)及び7-クロロトリプトファンであり、インドールハロゲン化誘導体は、6-ブロモインドール(上記スキーム7の化合物IId)及び7-クロロインドールであり、インドキシルハロゲン化誘導体は、6-ブロモインドキシル(上記スキーム7の化合物IIId)及び7-クロロインドキシルであり、及びインジゴハロゲン化誘導体は、ティリアンパープル(6,6’-ジブロモインジゴ;上記スキーム7の化合物Id)及び7,7’-ジクロロインジゴである。
【0089】
具体例によれば、本発明の染色法とともに、本発明の製法において使用される酵素は、単離された酵素(好ましくは、精製又は半-精製されている)であり、これにより、本発明の方法は、細菌において発現させることなく行われる。好ましくは、前記の単離された酵素は固定化酵素である。
【0090】
本発明の製法は、1つの反応器において行われ、これにより、ワンポット反応を提供する。これにより、工程c’)の後、インジゴ又はその誘導体が固体沈殿物として得られ、これは反応混合物から単離(濾過)される。換言すれば、本発明の方法をワンポット反応に従って行う場合には、得られたインジゴ又はその誘導体は、反応混合物から単離され、精製される。
【0091】
具体例によれば、工程c’)は、布地の存在下で行われ、これにより、得られるインジゴ又はインジゴ誘導体の少なくとも一部が布地上に沈着される。
【0092】
具体例によれば、工程a’)~c’)は、水性媒体中で行われ、水性媒体の流れが発生され、これにより、工程a’)~c’)は、異なった反応器内で又は1つの反応器の異なった位置で行われる。この具体例は、各工程を、その最適パラメーター、例えば、温度、pH、酵素の基質の量、等に従って行うには有利である。
【0093】
例示的具体例によれば、本発明の製法は、2段階充填床反応器、例えば、Spinchem(登録商標)回転床反応器(RBR)において行われる。
【0094】
本発明の製法は、好ましくは、水性媒体中で行われる。このような水性媒体は、好ましくは、中性又はわずかにアルカリ性のpH、例えば、7.0~10、好ましくは、7.4又は8を有する。このような水性媒体は、このように、緩衝剤、例えば、リン酸カリウム緩衝剤を含有できる。いくつかのトリプトファン誘導体、例えば、6-ブロモトリプトファンは、水性媒体に対しては溶解性に乏しく、本発明の製法は、水性媒体に懸濁化された当該トリプトファン誘導体を使用して行われる。
【0095】
工程a’)は、トリプトファナーゼの存在下におけるトリプトファン又はトリプトファン誘導体上の炭素-炭素結合の開裂を含む。このようなトリプトファン誘導体は、好ましくは、工程a’)を実施することによって合成される。
【0096】
工程a’)の反応をスキーム8に示す。
スキーム8
【化9】
【0097】
ここで、化合物IVはトリプトファンであり、化合物IIはインドールであり、化合物Vはピルビン酸塩であり、TRPaseはトリプトファナーゼである。トリプトファン誘導体のインドール誘導体への転化、例えば、6-ブロモトリプトファンの6-ブロモインドールへの転化を触媒するためにトリプトファナーゼが使用されることが観察された。
【0098】
トリプトファナーゼ(系統名:L-トリプトファンインドールリアーゼ(脱アミノ化;ピルビン酸形成))は、トリプトファンの炭素-炭素結合を開裂して、インドールを放出する公知の酵素である。これらは、コファクターとして、ピリドキサルリン酸(PLP)を使用できる。本発明の製法における使用に適するトリプトファナーゼは、大腸菌(Escherichia coli)NEB(登録商標)10βのトリプトファナーゼである。
【0099】
PLPは、トリプトファン又はその誘導体の転化の収率を改善するため、工程a’)の反応混合物に任意に添加される。
【0100】
本発明の工程b’)は、酸化酵素及びOの存在下、工程a’)から得られたインドール又はその誘導体の少なくとも3位の炭素におけるヒドロキシル化を含む。工程b’)は、このようにして、インドキシル又はその誘導体を提供する。
【0101】
好適な酸化酵素は、上述のようなもの、例えば、メチロファーガ属菌株SK1からの細菌FMO及びバイヤー・ビリガーモノオキシゲナーゼである。酸化酵素は、インドール又はその誘導体のヒドロキシル化を触媒するために、反応混合物内において、O、すなわち、酸素を必要とする。工程b’)を行うために要求されるOは、標準的には、水性反応混合物内に溶解した酸素であり、又は反応混合物は、インドール又はその誘導体の最大の転化を達成するために、Oにて飽和されていてもよい。
【0102】
工程c’)は、非酵素的であり、インドキシル又はその誘導体のインジゴ及び/又はその誘導体への酸化及び二量化を含む。
【0103】
具体例によれば、本発明の製法の工程c’)は、布地の存在下で行われ、布地は少なくとも前記酸化酵素から間隔を保って配置され、これにより、インジゴ又はインジゴ誘導体の生成は、直接、布地上で行われ、前記布地の少なくとも一部が染色される。この場合、有利には、酵素及び/又は近くでのインジゴ又はその誘導体の沈殿は、実質的に回避される。
【0104】
工程c’)は、工程b’)後に自発的に起こるか(ただし、O濃度が、インドキシル又はその誘導体を酸化するに適切な量である場合)、又は誘発される(例えば、反応混合物にOを添加することによる)。
【0105】
工程c’)を行うために要求されるOは、標準的には、水性反応混合物内に溶解している酸素であり、又は反応混合物は、インドール又はその誘導体の最大の転化を達成するために、Oで飽和されていてもよい。
【0106】
1具体例において、工程a’)のトリプトファン誘導体は、少なくともトリプトファンハロゲナーゼの存在下でトリプトファンをハロゲン化する更なる工程i)によって得られるトリプトファンハロゲン化誘導体である。
【0107】
トリプトファンハロゲナーゼは、各種の位置に置けるトリプトファンのハロゲン化を触媒できる公知の酵素である。トリプトファンハロゲナーゼは、通常、フラビン依存性ハロゲナーゼであり、すなわち、これらは、コファクターとして、FAD又はFADH2を使用する。本発明の製法による好適なトリプトファンハロゲナーゼは、好熱性のトリプトファンハロゲナーゼ、例えば、ストレプトマイセス・バイオラセウスニガー(Streptomyces violaceusniger)の好熱性トリプトファンハロゲナーゼである。
【0108】
具体例によれば、トリプトファンハロゲナーゼは、ストレプトマイセス・バイオラセウスニガーの菌株SPC6の好熱性トリプトファンハロゲナーゼである。
【0109】
例えば、好熱性トリプトファンハロゲナーゼは下記の配列を有する:
LNNVVIVGGGTAGWMTASYLKAAFGDRIDITLVESGHIGAVGVGEATFSDIRHFFEFLGLKEKDWMPACNATYKLAVRFENWREKGHYFYHPFEQMRSVNGFPLTDWWLKQGPTDRFDKDCFVMASVIDAGLSPRHQDGTLIDQPFDEGADEMQGLTMSEHQGKTQFPYAYQFEAALLAKYLTKYSVERGVKHIVDDVREVSLDDRGWITGVRTGEHGDLTGDLFIDCTGFRGLLLNQALEEPFISYQDTLPNDSAVALQVPMDMERRGILPCTTATAQDAGWIWTIPLTGRVGTGYVYAKDYLSPEEAERTLREFVGPAAADVEANHIRMRIGRSRNSWVKNCVAIGLSSGFVEPLESTGIFFIHHAIEQLVKNFPAADWNSMHRDLYNSAVSHVMDGVREFLVLHYVAAKRNDTQYWRDTKTRKIPDSLAERIEKWKVQLPDSETVYPYYHGLPPYSYMCILLGMGGIELKPSPALALADGGAAQREFEQIRNKTQRLTEVLPKAYDYFTQ(配列番号1)。
【0110】
このタイプのトリプトファンハロゲナーゼは、好ましくは、トリプトファンの6位の炭素のハロゲン化を触媒し、これにより、本発明の製法によるティリアンパープル(6,6’-ジブロモインジゴ)の生成に適する。
【0111】
本発明の製法に適する他のトリプトファンハロゲナーゼは、トリプトファンハロゲナーゼPrnA、好ましくは、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)のトリプトファンハロゲナーゼPrnAであり、好ましくは、トリプトファンの5又は7位の炭素におけるトリプトファンのハロゲン化を触媒する。
【0112】
例えば、トリプトファンハロゲナーゼ(PrnA)は、下記の配列を有する:
MNKPIKNIVIVGGGTAGWMAASYLVRALQQQVNITLIESAAIPRIGVGEATIPSLQKVFFDFLGIPEREWMPQVNGAFKAAIKFVNWRKPPDHSRDDYFYHLFGSVPNCDGVPLTHYWLRKREQGFQQPMEYACYPQPGALDGKLAPCLLDGTRQMSHAWHFDAHLVADFLKRWAVERGVNRVVDEVVEVRLNDRGYISTLLTKEGRTLEGDLFIDCSGMRGLLINQALKEPFIDMSDYLLCDSAVASAVPNDDVREGVEPYTSAIAMNSGWTWKIPMLGRFGSGYVFSSKFTSRDQATADFLNLWGLSDNQSLNQIKFRVGRNKRAWVNNCVSIGLSSCFLEPLESTGIYFIYAALYQLVKHFPDTSFDPRLSDAFNAEIVYMFDDCRDFVQAHYFTTSREDTPFWLANRHELRLSDAIKEKVQRYKAGLPLTTTSFDDSTYYETFDYEFKNFWLNGNYYCIFAGLGMLPDRSLPLLQHRPESIEKAEAMFASIRREAERLRTSLPTNYDYLRSLRNGDAGQSRNQRGPTLAAKEGL(配列番号2)。
【0113】
具体例によれば、トリプトファンハロゲナーゼは遺伝子組み換え酵素であり、換言すれば、トリプトファンハロゲナーゼは変異型である。例えば、トリプトファンハロゲナーゼは、ストレプトマイセス・バイオラセウスニガーの菌株SPC6の好熱性トリプトファンハロゲナーゼの変異型、又はトリプトファンハロゲナーゼPrnAの変異型である。
【0114】
インジゴハロゲン誘導体に転化されるためには、トリプトファンは、トリプトファンハロゲナーゼの存在下でハロゲンと反応されなければならないため、実施には、当該具体例は反応混合物内にハロゲン源を必要とする。本発明の製法による好適なハロゲン源は、ハロゲン塩、すなわち、アニオンがハロゲンイオンである塩である。好適なハロゲン塩は、マグネシウム、銀、ナトリウム、カリウム、リチウム、及びカルシウムのハロゲン塩、例えば、NaCl、KCl、KI、LiCl、CuCl2、CuBr2、AgCl、CaCl2、CaBr2、ClF、MgCl2、MgBr2、等である。
【0115】
当該具体例は、有利には、20~60℃、好ましくは25~40℃、さらに好ましくは、30℃の温度において、30分~4時間、好ましくは、1~3時間、さらに、約2時間の時間で行われる。
【0116】
具体例によれば、本発明の製法において使用する酵素によって要求されるコファクターを再生するために、コファクター再生酵素が使用される。
【0117】
具体例によれば、工程b’)は、コファクターNADPHを再生するために好適な少なくとも酵素の存在下で行われる。好ましくは、コファクターNADPHを再生するために好適な酵素は、後述するように、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PTDH)、及びギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)であり、さらに好ましくは、後述するように、PTDHであり、これにより、FMO-NADPH再生酵素系が提供される。有利には、この具体例は、高価なコファクター(すなわち、NADPH)が、より安価なコファクター(例えば、グルコール、亜リン酸塩、又はギ酸塩)を消費することによって再生される酵素系を提供する。例えば、酸化酵素、例えば、FMOは、コファクターとして、NADPH(安価なコファクター、例えば、グルコース、亜リン酸塩、及びギ酸塩を使用するNADPH再生酵素によって生成される)を使用できる。
【0118】
他の具体例では、そのハロゲン化誘導体を得るためのトリプトファンのハロゲン化は、フラビンリダクターゼ、及びグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PTDH)、及びギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)からなる群から選ばれるNAD(P)H再生酵素(さらに好ましくは、PTDH)の存在下で行われ、これにより、トリプトファンハロゲナーゼ-フラビンリダクターゼ-NAD(P)H再生酵素系が提供される。
【0119】
フラビンリダクターゼ(EC 1.5.1.30)は、下記の反応を触媒する酵素であり:

リボフラビン+NADPH+H+ → 還元されたリボフラビン+NADP+H+

一方、NAD(P)H再生酵素は、NADH又はNADPH、例えば、GDH、PTDH、及びFDHを生成する酵素である。有利には、この具体例は、より安価なコファクター(例えば、グルコール、亜リン酸塩、又はギ酸塩)を消費することによって、高価なコファクター(すなわち、FAD、NADH又はNADPH)が再生される酵素系を提供するものであり、本発明の製法の工業的実行可能性を改善する。例えば、トリプトファンハロゲナーゼは、コファクターとしてFADを使用できる(FADは、コファクターとしてNADH又はNADPHを使用するフラビンリダクターゼによって生成され;NADH又はNADPHは、安価なコファクター、例えば、グルコール、亜リン酸塩、又はギ酸塩を使用するNAD(P)H再生酵素によって生成される)。
【0120】
本発明の製法に有用な好適なフラビンリダクターゼは、枯草菌(Bacillus subtilis)のフラビンリダクターゼ、特に、枯草菌の菌株WU-S2Bのフラビンリダクターゼである。
【0121】
例えば、フラビンリダクターゼは下記の配列を有する:
MKVLVLAFHPNMEQSVVNRAFADTLKDAPGITLRDLYQEYPDEAIDVEKEQKLCEEHDRIVFQFPLYWYSSPPLLKKWLDHVLLYGWAYGTNGTALRGKEFMVAVSAGAPEEAYQAGGSNHYAISELLRPFQATSNFIGTTYLPPYVFYQAGTAGKSELAEGATQYREHVLKSF(配列番号3)。
【0122】
本発明の製法の収率及び工業的実行可能性を改善するために、本発明の製法において使用される各種の酵素の変異型が使用される。
【0123】
6-ブロモインドールに対するFMOの触媒活性を改善するために、W319A、C78I、C78I Y207W、及びC78I Y207W W319Fからなる群から選ばれるFMO変異体が発見された。さらに、NADPH再生酵素、例えば、国際公開第2004/108912号に開示されたPTDHは、NADPHの生成を改善する変異体である。
【0124】
具体例によれば、酵素がコファクターを要求する場合、このような酵素は、コファクター再生酵素との融合酵素として提供される。
【0125】
例えば、トリプトファンハロゲナーゼ及びフラビンリダクターゼは、融合酵素として、提供され、及びFMO及びNADPH再生酵素は、融合酵素として、好ましくは、PTDH-FMOとして提供される。この具体例によれば、本発明の製法において(任意の工程i)が行われる場合)、ただ3つの個々の酵素、すなわち、トリプトファンハロゲナーゼ-フラビンリダクターゼ融合酵素、トリプトファナーゼ、及びFMO-NADPH再生融合酵素が使用される。最後の融合酵素のNADPH再生部分は、その安価な基質、すなわち、亜リン酸塩を原料とする融合酵素のFMO領域及びフラビンリダクターゼ領域の両方について要求されるNADPHを再生できる。
【0126】
本発明のさらに他の目的は、本発明の染色法を介して得られる染色された布地にある。
【0127】
さらに、本発明の目的は、本発明の製法を介して、製法の工程c’)が布地の存在下で行われる場合に得られる染色された布地にある。
【0128】
次に、本発明の目的及び具体例を、図面を参照して詳述する。
本発明の目的は、染料前駆体の酵素的合成を含んでなる布地22を染色する方法にあり、該方法は、下記の工程:
a)少なくとも第1の染料前駆体112を含んでなる溶液を、少なくとも第1の固定化酵素12と接触させて、前記少なくとも第1の染料前駆体112の少なくとも一部を、少なくとも第2の染料前駆体113に転化し、少なくとも第2の染料前駆体113を含んでなる溶液を得る工程;
b)前記少なくとも第2の染料前駆体113を含んでなる溶液の流れを発生させ、これにより、前記少なくとも第2の染料前駆体113を含んでなる溶液を、前記第1の固定化酵素12から前記布地に流動させる工程;
c)前記少なくとも第2の染料前駆体113を含んでなる溶液を、前記布地と接触させる工程;及び
d)前記少なくとも第2の染料前駆体113の少なくとも一部を、少なくとも染料111に転化し、これにより、前記布地22の少なくとも一部を染色する工程
を含んでなり、例えば、図1に示されるように、前記少なくとも第1の固定化酵素12は、前記布地22から間隔を保って配置されていることを特徴とする。
【0129】
図1は、本発明の染色法の概略図を示し、特に、前記第1の固定化酵素12による前記第1の染料前駆体112の前記第2の染料前駆体113への転化、続く、少なくとも第2の染料前駆体113を含んでなる溶液の、布地22(前記第1の固定化酵素12から間隔を保って配置されている)への流動、及び最後に、直接、前記布地22上での、前記第2の染料前駆体113の前記不溶性染料111への転化を示す。
【0130】
さらに詳しくは、図1を参照して、本発明の染色法を、インドールのインジゴへのルートを参照して開示する。染色法は、以下の工程の結果として布地22の染色を提供する:インドール染料前駆体112を含んでなる溶液の流れを、少なくとも固定化酵素12又は酵素系と接触させ(工程a))、このようにして、酵素触媒反応によって、インドールの少なくとも一部のインドキシル113への転化を得る。溶液は、インドキシル113を含んでなるものとなる。溶液の流動により、インドキシル113を含んでなる溶液の布地22との接触が可能になる;有利には、インドキシル113の合成の直後又は短時間の後、溶液が前記布地22に達するようにするため、パラメーター、例えば、流速を制御する。このようにして、前記布地22において、インドキシル113のインジゴ111への転化が得られ、前記布地22の染色が達成される。特に、前記布地22が、インドキシル113を含んでなる前記溶液で湿潤されると、前記インドキシル113の少なくとも一部は、直接、前記布地22の上で、インジゴ111に転化される。
【0131】
本発明による染色法は、図1(矢印は溶液の流れの方向を示す)によって示されるように、初めに酵素12(又は酵素系)に、ついで、酵素12(又は酵素系)から布地22への溶液の流れを発生させる。このような溶液の流れが、初めに、前記酵素12へ、ついで、前記酵素22から前記布地22に供給される限り、溶液の流れは、いずれの方向でも可能である。例えば、溶液の流れの他の方向は、第1の固定化酵素12が前記布地22の下方にある場合には、底から頂部への方向であり、又は第1の固定化酵素12が前記布地22の上にある場合には、頂部から底への方向であり、第1の固定化酵素12及び前記布地22が、1つの環状チャンバー、例えば、ドーナツ形のチャンバーの異なった区域内に収容されている場合には、例えば、これらが、このようなドーナツ形チャンバー内において、正反対の区域に保持される場合には、環状でもよい。
【0132】
本発明の染色法における流れの使用により、少なくとも第2の染料前駆体113を含んでなる溶液は、前記布地22(前記第1の固定化酵素12から間隔を保って配置されている)と接触し、ついで、前記第2の染料前駆体113の前記不溶性染料111への転化が生ずるため、固定化酵素12における及び/又は近くでのインジゴ111の沈殿が防止される。
【0133】
特に、前記第2の染料前駆体113が、自発的に、前記不溶性染料111へ転化する場合、例えば、前記第2の染料前駆体113がインドキシル及び/又はその誘導体であり、前記不溶性染料111がインジゴ及び/又はその誘導体である場合、少なくとも第2の染料前駆体113を含んでなる溶液の流れが発生され、これにより、前記溶液は、前記第2の染料前駆体113が自発的に転化し、固定化酸化酵素において及び/又は近くで、前記不溶性染料111として沈殿する前に、前記布地22に流動する。
【0134】
前記第2の染料前駆体113が、自発的に、前記不溶性染料111へ転化しない場合、又は自発的に、好適な量で転化しない場合には、布地22及び前記第2の染料前駆体113が存在する際に、前記第2の染料前駆体113の前記不溶性染料111への転化を促進するために、条件、例えば、pH及び/又は温度を変更すること、及び/又は試薬を添加すること、及び/又はガス、例えば、酸素を供給することが可能である。逆に、染色法の工程a)において、溶液の条件を制御して、溶液が布地に達するまで、転化を防止することができる。
【0135】
さらに、染色法の工程a)に従って、2以上の第1の染料前駆体112を、酵素12と接触させることができ、これにより、2以上の異なった第2の染料前駆体113が得られる。ついで、これらの2以上の異なった第2の染料前駆体113を、染色法の工程d)に従って転化して、布地22の上で、1以上の異なった染料111を得る;最終的に、これらの2以上の異なった第2の染料前駆体113の工程d)での転化は、このような転化が自発的に生じなければ、又は好適な量で生じなければ、さらに試薬を添加することによって及び/又はそれらを含んでなる溶液のパラメーターを変更することによって達成される。2以上の異なった染料前駆体が酵素12と接触される実施例を、上記スキーム5に示す。本発明の染色法に従って、2以上の異なった第1の染料前駆体112が使用される場合;例えば、2以上の異なった第1の染料前駆体112が、それぞれ異なった第2の染料前駆体113に転化されるために、異なった酵素反応を要求する場合、又は2以上の異なった第1の染料前駆体112が、同じ酵素12の基質ではない場合には、2以上の異なった酵素12が必要である。
【0136】
少なくとも第1の染料前駆体112を含んでなる溶液は、他の溶質を含むことができ、染色法の工程a)において第1の固定化酵素12又は酵素系と接触される溶液である。少なくとも第2の染料前駆体113を含んでなる溶液は、工程a)の後、前記第1の染料前駆体112の少なくとも一部が前記第2の染料前駆体113に転化された後に得られる溶液であり、他の溶質、例えば、いくらかの未反応の第1の染料前駆体112も含有できる。
【0137】
上述のように、本発明による溶液は、他の機能的な溶質、例えば、緩衝剤、コファクター、及び酸素及び/又は過酸化物スカベンジャー(例えば、カタラーゼ)を含有できる。好ましくは、水溶液に含有される基質の濃度は、前記触媒酵素を飽和し、従って、前記第1の固定化酵素は、前記第1の染料前駆体112の第2の染料前駆体113への転化を効果的に触媒できる。前記第1の染料前駆体112がインドールであり、前記第1の固定化酵素12がmFMOであり、及び前記第2の固定化酵素がPTDHである場合、本発明による実例となる溶液は、溶媒としての水とともに、100 mMリン酸カリウム緩衝剤(pH8.0)、0.5M NaCl、100μM NADPH、20mM亜リン酸ナトリウム、及び1nM牛肝臓カタラーゼを含んでなる。
【0138】
本発明の染色法は、布地22の染色を、バッチ式又は連続式で提供できる。連続式で実施するためには、工程a)前における前記第1の染料前駆体112の、例えば、溶液への添加が要求され、これにより、少なくとも第1の染料前駆体112を含んでなる溶液は、連続して、前記第1の固定化酵素12と接触され、第2の染料前駆体113が連続して合成される。有利には、前記第1の染料前駆体112を添加して、前記第1の固定化酵素12を飽和状態に維持する。本発明の染色法を連続式で行うためには、例えば、工程a)前における他の溶質、例えば、コファクター、緩衝剤、及び酸素の添加も要求される。
【0139】
本発明の染色法による温度及びpH値、変動可能であり、不溶性染料の酵素的合成において一般的に使用される値である。
【0140】
本発明の染色法による溶液の温度は、例えば、20~40℃、好ましくは、25~30℃の範囲である。本発明の染色法による溶液のpHは、7.0~10.0、好ましくは、7.5~9.0、さらに好ましくは、7.5~8.5、最も好ましくは、8.0である。
【0141】
前記第1の固定化酵素12と、インドール112を含んでなる前記溶液との接触時間は、染色される布地の異なったシェーディングを達成するために変動可能であり、例えば、溶液の流速を変更することによって変更される。
【0142】
溶液における酸素濃度は、酸素が、第1の染料前駆体の第2の染料前駆体への転化、及び/又は第2の染料前駆体の不溶性染料への転化(例えば、第1の染料前駆体がインドール及び/又はその誘導体であり、第2の染料前駆体がインドキシル及び/又はその誘導体であり、及び不溶性染料がインジゴ及び/又はその誘導体である場合)に参加するため、染色全体の収率にとって重要なパラメーターである。このように、溶液における酸素濃度は、例えば、合成される不溶性染料の量に基づいて、又は染色される布地の量によって変動される。例えば、インドール及び/又はその誘導体、及びインドキシル及び/又はその誘導体の最大の転化を達成するためには、溶液は、有利には、酸素で飽和される。酸素濃度は、有利には、監視及び制御され、溶液を飽和状態に維持するために要求される場合には、酸素が添加される。
【0143】
本発明の染色法の他のパラメーターは、例えば、いかなるタイプの布地を染色するか及び最終染料として、いかなる染料を選択するかに応じて選択される。
【0144】
本発明の染色法の1具体例によれば、工程d)からの生じた溶液の流れ、いわゆる、「廃溶液」を、固定化酵素系を収容するチャンバー又は区域に戻すように導く。廃溶液は、インドキシル113の少なくとも一部がインジゴ111(前記布地22に固定される)に転化された後に得られる溶液であり、特に、本発明の染色法の工程a)において、前記第1の染料前駆体112が、前記酵素12により、完全には反応されなかった場合には、未反応の第1の染料前駆体112、例えば、インドールを含んでなる。この具体例は、図2に示されている。インドールを含んでなる廃溶液は、残るインドールを反応させる、直接又は間接に、連続して又はバッチ式で酵素系に戻すように供給される。
【0145】
好ましくは、染色法は、いくらかの第1の染料前駆体112を廃溶液に添加する工程を提供する。有利には、前記第1の染料前駆体112を添加して、前記第1の固定化酵素12を飽和状態に維持する。これは、連続式で実施される本発明の染色法を提供できる。
【0146】
本発明の1具体例では、前記第1の固定化酵素12は、既に定義したように、酸化酵素である。前記第2の染料前駆体113に転化させるために、前記第1の染料前駆体112を酸化する場合、例えば、前記第1の染料前駆体112がインドキシル及び/又はその誘導体であり、前記第2の染料前駆体113がインドキシル及び/又はその誘導体であり、及び前記不溶性染料111がインジゴ及び/又はその誘導体である場合には、特に、オキシゲナーゼの使用が有益である。
【0147】
本発明の染色法は、さらに、第2の固定化酵素、好ましくは、既に定義したように、固定化したコファクター再生酵素を、染色用プラント内に存在させる。これは酵素系を提供し、第1の固定化酵素は、第1の染料前駆体112の転化を触媒し、及び固定化コファクター再生酵素は、第1の染料前駆体112によって要求されるコファクターを再生させる。前記第2の固定化酵素を固定化するために使用される担体は、前記第2の酵素の表面露出基に応じて、前記第1の固定化酵素を固定化するために使用されるものと同じであってもよいし、異なっていてもよい。可能であれば、前記第1及び第2の酵素の両方を固定化するために、同一の担体が使用される。
【0148】
前記固定化コファクター再生酵素のタイプは、前記第1の固定化酵素12によって、どのコファクターが使用されるかに左右される。例えば、第1の固定化酵素12がフラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO:コファクターとしてNADPHを使用する)である場合、固定化コファクター再生酵素は、NADPHを発生する少なくともデヒドロゲナーゼ、例えば、グルコールデヒドロゲナーゼ(GDH)、亜リン酸デヒドロゲナーゼ(PTDH)、及びギ酸デヒドロゲナーゼ(FDH)からなる群から選ばれるデヒドロゲナーゼである。PTDHは、例えば、シュードモナス・スツッツェリ(Pseudomonas stutzeri)から得られる、NADPHの生成を触媒するために基質として亜リン酸を使用する可溶性のNADPH再生酵素である。PTDHとともにFMO(好ましくはmFMO)を使用することは、良好な酸化速度及びNADPHの効果的な再生を提供するため、多くの第2の染料前駆体113、特に、インドキシル及び/又はその誘導体の合成において効果的である。
【0149】
本発明の染色法及び装置において使用される溶液は、コファクター及び/又は前記第2の固定化酵素の基質を含むことができる。例えば、固定化コファクター再生酵素として、GDH、又はPTDH、又はFDHが使用される場合には、溶液は、それぞれ、グルコース、又は亜リン酸塩、又はギ酸塩(すなわち、それぞれ、GDH、PTDH、及びFDHの基質)を含有できる。
【0150】
第1の酵素と同様に、本発明の染色法において、例えば、所望のコファクターの再生を改善するために、又はそれらの担体への結合特性を改善するために、第2酵素の変異体(例えば、遺伝子組み換え第2酵素)を使用できる。
【0151】
本発明の具体例では、前記第1の酵素及び前記第2の酵素は、既に定義したように、融合酵素として提供される。これは酵素系を提供する。
【0152】
図3を参照すると、本発明の染色法の他の具体例が示されている。このような具体例は、1の原料化合物114、例えば、トリプトファンを出発原料として、第1の染料前駆体112、例えば、インドールの生成を提供する。この具体例によれば、本発明の染色法は、更なる工程、すなわち、少なくとも原料化合物114を少なくとも出発酵素14と接触させて、原料化合物114の少なくとも一部を、第1の染料前駆体112に転化させ、第1の染料前駆体112を含んでなる溶液を得る工程を含み、これにより、本発明の染色法の工程a)~d)は、図1及び2を参照して上述したようにして実施される。第1の固定化酵素12及び出発酵素14を、間隔を保って配置する場合、第1の染料前駆体112(原料化合物114を転化することによって得られた)を含んでなる溶液を、酵素12と接触させるために、このような溶液の流れを発生させ、これにより、例えば、図3に示されるように、このような溶液は、出発酵素14から第1の固定化酵素12に流動する。工程d)から生じた廃溶液は、未反応の原料化合物114を含有することがあるため、廃溶液の反応器又は出発酵素14を収容するエリア及び/又は第1の固定化酵素12を収容する第1のチャンバー又はエリアへの循環は、未反応の原料化合物114及び/又は第1の染料前駆体112の転化を最適化するためには有利である。
【0153】
本発明の染色法の更なる具体例では、工程a)は、第1のチャンバー11で行われ、及び布地22の染色は、第2のチャンバー21において行われる。第1の染料前駆体112を含んでなる溶液は、第1のチャンバー1内に提供され、これにより、前記溶液は、前記第1のチャンバー11に収容された第1の酵素12と接触し、第1の染料前駆体112は、酵素的に、第2の染料前駆体113に転化される。ついで、溶液の流れを発生させ、少なくとも前記第2の染料前駆体113を含むようになった溶液は、布地22を収容する前記第2のチャンバー21に流動し、これにより、溶液及び第2の染料前駆体113は接触し、前記布地22を含浸する。最後に、第2の染料前駆体113は、布地22の上で、直接、染料111に転化する。
【0154】
溶液の流れは、各種の好適な手段、例えば、ポンプ50又は重力(第1のチャンバー11が第2のチャンバー21の上方に配置されている場合)によって発生される。
【0155】
第1のチャンバー11は、酵素12又は第2の固定化酵素を含む酵素系及び水溶液を収容するに適した容器である。第1のチャンバー11は、前記第1の固定化酵素12(及び最終的に酵素系)を収容し及びその内部に保持するための手段、例えば、1以上のフィルターを含むことができる。前記第1のチャンバー11は、有利には、溶液のパラメーター、例えば、pH、溶液の温度、酸素濃度、流速、等を監視するための1以上の手段又はセンサーを含むことができる。前記第1のチャンバー11の寸法、形状及び材料は、多くの要因、例えば、染色される布地22の量及び前記第2のチャンバー21の寸法及び形状に応じて任意に選択される。
【0156】
第2のチャンバー21は、少なくとも前記布地22及び水溶液を収容するに適した容器であり、ここで、前記第2の染料前駆体113の前記不溶性染料111への転化が行われる。第2のチャンバー21は、より速い又はより完全な染色処理を可能にするために、前記布地22を所定の位置に保持する手段を含むこともできる。前記第2のチャンバー21は、有利には、溶液のパラメーター、例えば、pH、溶液の温度、酸素濃度、流速、等を監視するための1以上の手段又はセンサーを含むことができる。前記第2のチャンバー21の寸法、形状及び材料は、多くの要因、例えば、染色される布地の量及び前記第1のチャンバー11の寸法及び形状に応じて選択される。
【0157】
第1のチャンバー11及び第2のチャンバー21は、例えば、ジャケット手段、例えば、水ジャケットによって、個々に、温度制御される。
【0158】
図4において、第1のチャンバー11は、第2のチャンバー21と流体接続されている。前記流体接続は、流体コネクター11a、例えば、チューブ又はパイプによって行われ、その寸法、形状及び材料は、第1及び第2のチャンバーの間の流体接続を確保し、及びそれらが、前記第1のチャンバー11において及び前記第2のチャンバー21において循環する水溶液を効果的に収容でき、及び前記水溶液に対して不活性であることを確保するように、当業者によって選択される。このような寸法、形状及び材料は、例えば、染色される布地の量及び溶液について要求される流速に従って、任意に変動される。前記流体コネクター(例えば、チューブ又はパイプ)は、有利には、本発明の染色法を監視するため及び例えば、溶液のサンプルを採取するためのポートホール、丸窓、及び/又はドアとともに、パラメーター、例えば、流速、温度、溶液のpH、及び酸素濃度を測定するためのプローブを含むことができる。
【0159】
本発明の他の目的は、布地22を染色するための装置10にあり、当該装置は、少なくとも第1の固定化酵素12及び少なくとも染料前駆体を含んでなる溶液を収容する第1のチャンバー11、布地22を収容する少なくとも第2のチャンバー21、及び溶液の流れを発生させる手段50を含んでなり、前記第1のチャンバー11は、前記第2のチャンバー21と流体接続しており、これにより、例えば、図4に示されるように、少なくとも染料前駆体を含んでなる溶液は、前記第1のチャンバー11から前記第2のチャンバー21に流動し、前記染料前駆体の少なくとも一部は、染料111に転化されて、前記布地22の少なくとも一部を染色できる。前記第2のチャンバー21は、任意に、前記溶液を前記第2のチャンバー21から除去するための出口手段を含む。
【0160】
特に、図4は、前記第1の固定化酵素12を収容する前記第1のチャンバー11及び前記布地22を収容する前記第2のチャンバー21を示す。矢印は、少なくとも染料前駆体を含んでなる溶液の、前記第1のチャンバー11から前記第2のチャンバー21への流れを示す。前記第2のチャンバー21内では、前記第2の染料前駆体113の少なくとも一部が不溶性染料111に転化されて、前記第2のチャンバー21に収容された布地22の少なくとも一部を染色する。
【0161】
図5は、装置10の1具体例の概略図であり、第2のチャンバー21は、出口手段21aを有し、出口手段21aは、第1のチャンバー11と流体接続している。このため、廃溶液を、前記第2のチャンバー21から排出し、続いて、前記第1のチャンバー11に供給することができる(図5における矢印によって示されるように)。出口手段21aは、例えば、上述のように、各種のチューブ又はパイプである。
【0162】
前記装置10を使用して、本発明の染色法を連続式で実施するためには、第1のチャンバー11へのコファクター及び基質及び第1の固定化酵素12の供給を維持することが有益であり、これにより、第2の染料前駆体113を生成し続けることができる。この理由により、化合物(例えば、コファクター及び基質)を、前記第1のチャンバー11及び/又は廃溶液(第1のチャンバー11に還流される)に添加する。図5の装置10には、従って、このような添加を行うための手段が設けてあり、第1のチャンバー11に接続された供給手段11b及び/又は出口手段21aに接続された供給手段21bを含んでなる。
【0163】
本発明の装置10の1具体例では、さらに、溶液の流れを発生させる手段50が含まれ、本発明の装置10内に含まれる溶液を流動させることができる。
【0164】
第1の固定化酵素12が、ただ1つの基質に対して特異的でなく、このように、異なる第1の染料前駆体112を転化できる場合には、装置10に供給する試薬をただ変更するだけで、染色される布地22に異なった色を提供できる。装置10及び/又は収容される酵素12を変更することなく、第1の染料前駆体112を変更することによって、異なった染料111が得られる:これらの染料111は、第2のチャンバー21において布地22を染色するに適している。例えば、第1のチャンバー11に収容れた酵素12が、融合酵素PTDH-mFMO(その誘導体とともに、インドールを転化できる)である場合、装置10にインドールを含んでなる溶液を提供する場合には、青色の布地を提供する。同じ染色方法において、インドールを含んでなる溶液の代わりに、5-ヒドロキシインドールを含んでなる溶液を使用し、装置10に供給すると、褐色の染料及び褐色に染色された布地が得られる。
【0165】
図6は、装置10の他の具体例を示し、当該装置は、さらに、少なくとも前記第1のチャンバー11と流体接続する1のリザーバー31を含んでなり、これにより、染料前駆体を含んでなる溶液は、前記リザーバー31から前記第1のチャンバー11に流動できる。図7は、装置10の他の具体例を示し、当該装置は、さらに、前記第2のチャンバー21の前記出口手段21aと流体接続する1の回収タンク41を含んでなる。
【0166】
リザーバー31は、水溶液、例えば、少なくとも前記第1の染料前駆体112、例えば、インドール及び/又はその誘導体を含んでなる溶液を収容できる各種の容器である。リザーバー31は、本発明の染色法を行うために、少なくとも前記第1の染料前駆体112を含んでなる溶液が、ここから装置10に供給される容器であってもよい。それ故、リザーバー31は、有利には、オペレーターが溶液及び/又はその中の溶質を容易に供給できるように設定されており、その形状及び寸法は、適宜に選択される。図6の装置10は、図6において矢印によって示されるように、溶液をリザーバー31から第1のチャンバー11に流動させ、このようにして、第1の染料前駆体112を含んでなる溶液を第1のチャンバー11に供給するために、溶液の流れを発生させるための手段50、例えば、ポンプを含んでなる。
【0167】
図8は、リザーバー31及び回収タンク41の両方を含んでなる装置10を示す。図8の装置は、本発明の染色法の実施に有益である。少なくとも第1の染料前駆体を含んでなる溶液がリザーバー31に提供される。ついで、ポンプ50によって当該溶液の流れが発生され、溶液は、前記リザーバー31から第1のチャンバー11に流動する。前記第1のチャンバー11において、当該溶液と酵素との接触が得られる。第2の染料前駆体113を含むようになった溶液は、第1のチャンバー11から、布地22が置かれている第2のチャンバー21に流動する。前記第2の染料前駆体113の少なくとも一部は、染料111に転化され、前記第2のチャンバー21において、前記布地22の少なくとも一部を染色し、及び廃溶液が得られる。出口手段1aを介して、廃溶液を第2のチャンバー21から除去して、回収タンク41において集める。例えば、存在する可能性のある沈殿(例えば、不溶性染料111)を除去するために、このような廃溶液を処理しなければならない場合には、廃溶液の収集は有利である:このような処理は、回収タンク41において行われる。廃溶液は、前記第1のチャンバー11に存在する前記第1の固定化酵素12に戻され(リザーバー31を通って流動する)、これにより、溶液中の未反応の第1の化合物112は、前記第1の固定化酵素12と接触する。また、溶質、例えば、第1の染料前駆体112及びコファクターが、リザーバー31によって、溶液に添加されてもよい。図8に示された装置10には、溶質の添加を行うための他の手段、例えば、第1のチャンバー11に接続された供給手段11b及び/又は出口手段21aに接続された供給手段21b(図8には示されていない)が設けられる。
【0168】
本発明の装置10には、1以上のリザーバー31及び/又は1以上の回収タンク41が存在でき、それらは、直列及び/又は並列に設定される。
【0169】
他の具体例では、例えば、図9に示されるように、本発明の装置10において、さらに、1以上の原料化合物114、例えば、トリプトファンを出発して、第1の染料前駆体112、例えば、インドールを生成するための反応器51が含まれる。このような反応器51は、少なくとも出発酵素14を収容する。原料化合物114を含んでなる溶液は、供給手段51bによって反応器51に供給され、これにより、当該溶液は、原料酵素14と接触し、原料化合物114は、第1の染料前駆体112に転化される。ついで、第1の染料前駆体112を含んでなる溶液は、第2のポンプ50bにより当該溶液の流れが発生されることによって、第1のチャンバー11に流動する。第1の染料前駆体112を含む溶液が、第1のチャンバー11に流動すると、本発明の染色法の工程a)~d)が行われる。図9は、反応器51が、第1のチャンバー11から第2のチャンバー21に流動する溶液の流れに対して並列に設定された具体例を示す;しかし、1以上の反応器51が、溶液の流れに対して直列に設定された、好ましくは、第1のチャンバー11の上流に設定された具体例も、本発明に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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