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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ハチ類駆除用エアゾール製品
(51)【国際特許分類】
   A01N 53/10 20060101AFI20240730BHJP
   A01N 25/06 20060101ALI20240730BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20240730BHJP
   A01M 7/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A01N53/10 210
A01N25/06
A01P7/04
A01M7/00 S
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020064220
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161065
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390000527
【氏名又は名称】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】雨田 朋子
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-172646(JP,A)
【文献】特開2017-178793(JP,A)
【文献】特開2003-192504(JP,A)
【文献】特開2004-269406(JP,A)
【文献】特開2008-156235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 53/10
A01N 25/06
A01P 7/04
A01M 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステム孔の総断面積が1.5mm 以上のステム、
ハウジング孔が2.0mm以上のハウジングを装着したバルブと、
孔径が1.2mm以上の噴射口とを備えるエアゾール製品に、
ピレトリンおよび初留点が213℃~277℃である炭化水素系溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤と充填され
該エアゾール原液には合成ピレスロイド系化合物は含まれず、
ピレトリンの前記エアゾール原液に対する含有量は、0.5~10重量%であり、
前記原液と前記噴射剤との容量比は20/80~70/30であり、
該エアゾール製品の噴射量が7~15g/秒であって
該エアゾール製品の噴射口から水平方向に3m離れ、該方向に対し直交するように設置された直径15cmのろ紙に付着するピレトリンが少なくとも0.4mg/秒であることを特徴とするハチ類駆除用エアゾール製品。
【請求項2】
請求項1に記載のハチ類駆除用エアゾール製品をハチ類に噴霧することを特徴とするハチ類駆除方法。
【請求項3】
請求項1に記載のハチ類駆除用エアゾール製品をハチ類の巣に噴霧することを特徴とする
ハチ類の駆除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハチ類駆除用エアゾール製品に関する。
【背景技術】
【0002】
スズメバチに代表される人に危害を与えるハチ類を駆除するためにいくつかのハチ類駆除用エアゾール製品が開発されている(特許文献1および2)。
これらハチの巣に近づくことによるハチ類の集団攻撃を防止するためには、ハチやハチの巣から数メートル離れて使用するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-329148号公報
【文献】特開2015-93846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や特許文献2に開示されるように、従来のエアゾール製品には、殺虫成分として合成ピレスロイド系化合物が使用されることが多いが、消費者の天然物志向の高まりから、天然成分を含むハチ駆除用エアゾール製品が望まれていた。
【0005】
特許文献1に開示されるエアゾール製品は、噴射ノズルをハチ類の巣の中に挿入してハチを駆除することを特徴としているが、ハチ類の集団攻撃を防止するため、ハチ類の巣から数メートル離れて使用できるエアゾール製品も望まれていた。
【0006】
本発明は、天然成分であるジョチュウギクエキスに含まれるピレトリンを使用し、ハチ類に対して優れた駆除効果を有し、さらには安全に使用できるエアゾール製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果本発明に至った。すなわち本発明は、
[1]ピレトリンおよび初留点が150℃~300℃である炭化水素系溶剤を含有するエアゾール原液と、噴射剤とを充填してなるエアゾール製品において、
該エアゾール製品の噴射量が7~15g/秒であって、
該エアゾール製品の噴射口から水平方向に3m離れ、該方向に対し直交するように設置された直径15cmのろ紙に付着するピレトリンが少なくとも0.4mg/秒であることを特徴とするハチ類駆除用エアゾール製品。
[2]上記のハチ類駆除用エアゾール製品をハチ類に噴霧することを特徴とするハチ類駆除方法。
[3]上記のハチ類駆除用エアゾール製品をハチ類の巣に噴霧することを特徴とするハチ類の駆除方法。
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ハチ類を効率よく、しかも安全に駆除することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のハチ類駆除用エアゾール製品に使用されるピレトリンは、天然に存在する除虫菊の抽出物であるジョチュウギクエキスに含まれるピレトリンI、ピレトリンII、シネリンI、シネリンII、ジャスモリンIおよびジャスモリンIIの6種類の成分のことである。
該ピレトリンとしては、例えば、住化天然ピレトリン(住友化学商品名、総ピレトリン量44.57重量%)などを使用することができる。
【0010】
前記のピレトリンの含有量は、エアゾール原液全体量に対し0.1~10重量%である。
【0011】
本発明のハチ類駆除用エアゾール製品には初留点が150℃~300℃の炭化水素系溶剤が使用される。かかる炭化水素系溶剤としては、例えば、IPソルベント2835(出光興産社製、初留点277℃)、IPソルベント2028(出光興産社製、初留点213℃)、IPソルベント1620(出光興産社製、初留点166℃)、アイソパーG(エクソン社製、初留点153℃)、アイソパーM(エクソン社製、初留点218℃)、エクソールD130(エクソン社製、初留点281℃)などが挙げられる。
【0012】
本発明のハチ類駆除用エアゾール製品に使用される噴射剤としては、液化石油ガス(以下LPGと記すこともある)、ジメチルエーテル(以下DMEと記すこともある)、プロパンガス、ブタンガス、各種フルオロカーボンが挙げられ、これらは単独、または混合して使用することができる。
【0013】
本発明のハチ類駆除用エアゾール製品は、前記エアゾール原液ならびに前記噴射剤の容量比が20/80~70/30の範囲である。
【0014】
前記エアゾール原液には、さらに他の成分を含有させてもよく、例えば、ジョチュウギクエキス以外の天然成分からなる害虫防除成分、香料などが挙げられる。前記天然成分からなる害虫防除成分としては、ファルネシルアセトン、p-メンタン-3,8-ジオール、p-メンタン-1,8-ジオールなどが挙げられる。前記香料としては、緑茶香料、サクラ香料、ヒノキオイル、ヒバオイル、シダーウッドオイル、アニスオイル、ビャクダンオイル、クローブオイル、ピメンタオイル、パインオイル、マヌカオイル、パチョリオイル、スターアニスオイル、ヒソップオイル、パルマローザオイル、レモングラスオイル、タイムオイル、ディルオイル、セロリーオイル、ペパーミントオイル、レモンユーカリオイル、シトロネラオイル、レモンセントティーツリーオイル、ラベンダーオイル、ゼラニウムオイル、ローズマリーオイル、ティーツリーオイル、ベルガモットオイル、オレンジオイル、マージョラムオイル、ジュニパーベリーオイル、イランイランオイル、クラリセージオイル、ローズオイルなどが挙げられる。
【0015】
本発明のハチ類駆除用エアゾール製品は、噴射量が7~15g/秒であって、さらに該エアゾール製品の噴射口から3m離れた位置に設置された直径15cmのろ紙に付着するピレトリンが少なくとも0.4mg/秒となるように、適宜バルブ、噴口、噴射ボタンなどを選択すればよい。前記エアゾールバルブとしては、例えば、ステム孔の総断面積が1.5mm以上のステム、ハウジング孔が2.0mm以上のハウジングを装着したバルブを使用することができる。前記ノズルとしては、噴口の孔径が1.2mm以上の噴射ボタンを使用することができる。
【0016】
本発明のハチ類駆除用エアゾール製品は、例えば、エアゾール原液を公知の耐圧缶に入れてバルブを取り付けた後、噴射剤を充填しさらに噴射ボタンを取り付けて製造される。
【0017】
本発明のハチ類駆除用エアゾール製品が駆除対象とするハチ類としては使用形態によるが以下が例示できる。また以下のハチ類の巣も駆除対象となる。
アシナガバチ:セグロアシナガバチ、フタモンアシナガバチ、ヤマトアシナガバチ、キボシアシナガバチ等
スズメバチ:キイロスズメバチ、オオスズメバチ、コガタスズメバチ等
ハチ:クマバチ、セイヨウミツバチ等
より詳しくは、キイロスズメバチ、コガタスズメバチ、セイヨウミツバチまたはクマバチには各個体に直撃噴霧することにより、またアシナガバチまたはセイヨウミツバチにはその巣に噴霧することにより効率よくかつ安全に駆除することができる。特に当該巣については、直径15cmまでの巣を効率よくかつ安全に処理することができる。
【0018】
また本発明のハチ類駆除用エアゾール製品は、以下に示すアブ類やブユ類の駆除も可能である。
アブ:メクラアブ、ジャーシーアブ、フタスジアブ、イヨシロオビアブ、ウシアブ、アカウシアブ、アオコアブ、ニッポンシロフアブ、ホルバートアブ、キスジアブ、ヒゲナガサシアブ、ゴマフアブ等
ブユ:アオキツメトゲブユ、キタオオブユ、アシマダラブユ、ニッポンアシマダラブユ、ニッポンヤマブユ、キアシツメトゲブユ等
【0019】
本発明のハチ類駆除用エアゾール製品は、駆除対象のハチ個体またはハチの営巣地から数m離れた地点から噴射して使用することにより、効率よくかつ安全にハチ類を駆除することができる。
【実施例
【0020】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本発明について説明するが、これらに限定されるものではない。
【0021】
以下に示す原料およびエアゾール資材の中から適宜、原料およびその使用料ならびに資材を選択し、後述する作製手順に従い、表1に示す各エアゾール製品(実施例1~5および比較例1~3)を調整した。その後、3m先のピレトリンの付着量とハチに対する直撃噴霧試験および強制接触試験を実施した。
【0022】
〔原料〕
殺虫成分 住化天然ピレトリン(住友化学商品名 総ピレトリン量44.57重量%)
炭化水素系溶剤 IPソルベント2835(出光興産社製、初留点277℃)
IPソルベント2028(出光興産社製、初留点213℃)
IPソルベント1016(出光興産社製、初留点73℃)
噴射剤 LPG(蒸気圧0.48MPa/20℃)(以下LPG0.48と記す)
LPG(蒸気圧0.35MPa/20℃)(以下LPG0.35と記す)
DME
【0023】
〔エアゾール資材〕
耐圧缶 AE550(容量550ml、北海製罐社製)
バルブ1 ステム型番:SP-77(断面積3.36mm)、ハウジング型番:H-60(孔径2.2mm) (丸一社製)
バルブ2 ステム型番:SP-347(断面積1.54mm)、ハウジング型番:H-60(孔径2.2mm) (丸一社製)
バルブ3 ステム型番:SP-74(断面積0.2mm)、ハウジング型番:H-236(孔径2.0mm) (丸一社製)
噴射ボタン 型番:B-239(噴射口孔径φ1.6mm、丸一社製)
【0024】
〔作製手順〕
1.表1に従い住化天然ピレトリンおよび炭化水素系溶剤をそれぞれ所定量耐圧缶に投入した。
2.バルブを装着した後、噴射剤を充填した。
3.所定の噴射ボタンを装着しエアゾール製品を得た。
【0025】
〔3m先のピレトリンの付着量の測定〕
1.ハチの巣を想定し直径15cmのろ紙を3枚準備し、該ろ紙の重さを測定した。
2.ラージチャンバー(幅4m×奥行3m×高さ2.3m)内の中方向端部域に該ろ紙を垂直方向に担持可能な架台を設置し、ろ紙の下端部がチャンバー床面から高さ1mとなるように直径15cmのろ紙を3枚重ねて固定した。
3.前記エアゾール製品の噴射口が前記ろ紙の中心に対面するように位置を調整し、該ろ紙から3m離れた地点からエアゾール製品を2秒間噴射した。
4.前記ろ紙3枚を回収して重さを測定し、該ろ紙に付着したエアゾール原液量を求めた。
5.前記ろ紙3枚に付着したエアゾール原液量、エアゾール原液処方および噴射時間から該ろ紙に付着したピレトリン付着量(mg/秒)を算出した。
【0026】
〔ミツバチに対する直撃噴霧試験〕
1.ラージチャンバー(幅4m×奥行3m×高さ2.3m)内で、セイヨウミツバチ10頭が入ったナイロンメッシュケージ(メッシュサイズ1mm、20cm×20cm×20cm)の底面が、チャンバー床面から高さ1mとなるよう吊下げた
2.エアゾール製品の噴射口が前記ナイロンメッシュケージの中心域方向になるように位置を調整し、前記ナイロンメッシュケージから3m離れた位置からエアゾール製品を2秒間噴射した。
3.前記ナイロンメッシュゲージの底面に落下およびノックダウンしたセイヨウミツバチの時間を測定し、プロビット法によりLT50、KT50を算出した。
4.前記エアゾール製品を噴射してから10分後に、前記セイヨウミツバチをポリカップ(直径10cm、高さ10cm)に回収し、ハチミツ水を含ませた脱脂綿を入れ、25℃の部屋で静置し、エアゾール製品の噴射後24時間経過時のセイヨウミツバチの死虫数を調査し、致死率を算出した。
5.上記試験を2反復実施し、平均のLT50、KT50および致死率を算出した。
【0027】
【表1】
【0028】
〔スズメバチに対する直撃噴霧試験〕
1.ラージチャンバー(幅4m×奥行3m×高さ2.3m)内で、コガタスズメバチ5頭が入った金属製ケージ(メッシュサイズ5mm、20cm×20cm×20cm)の底面が、該チャンバー床面から高さ1mとなるよう吊下げた。
2.表1の実施例4の記載に従って調整したエアゾール製品の噴射口が前記金属製ケージの中心域方向になるように位置を調整し、金属製ケージから3m離れた地点からエアゾール製品を2秒間噴射した。
3.前記金属製ケージの底面に落下およびノックダウンしたコガタスズメバチの時間を測定し、プロビット法によりLT50、KT50を算出した。
4.前記エアゾール製品を噴射してから10分後に、前記コガタスズメバチをポリカップ(直径10cm、高さ10cm)に回収し、ハチミツ水を含ませた脱脂綿を入れ、25℃の部屋で静置しエアゾール製品の噴射後24時間経過時のコガタスズメバチの死虫数を調査し、致死率を算出した。
5.上記試験を2反復実施し、平均のLT50、KT50および致死率を算出した。
【0029】
【表2】
【0030】
〔ミツバチに対する強制接触試験〕
1.ラージチャンバー(幅4m×奥行3m×高さ2.3m)内の中方向端部域に該ろ紙を垂直方向に担持可能な架台を設置し、該ろ紙の下端部がチャンバー床面から高さ1mとなるように直径15cmのろ紙を3枚重ねて固定した。
2.表1の実施例1、実施例3、実施例5、比較例1および比較例2の記載に従って調整したエアゾール製品の噴射口が該ろ紙の中心に対面するように位置を調整し、該ろ紙から3m離れた地点からエアゾール製品を10秒間噴射した。
3.前記ろ紙の中心部に張り付けられたろ紙3枚を回収し、エアゾール製品を噴射した面が上になるように、1辺が15cmの正方形の化粧板にそれぞれ両面テープで固定した。
4.前記化粧板のろ紙の上に、金属製のザル(上部直径12cm×底部直径9cm×高さ4.5cm)を伏せた状態で設置した。(これを試験装置という)
5.前記ザル内に炭酸ガスで麻酔をしたセイヨウミツバチ10頭を放虫し、5分間の強制接触を行った後、試験装置をひっくり返して強制接触を終了した。
6.試験開始から60分後まで任意の時間毎にノックダウンしたセイヨウミツバチの数を測定し、プロビット法によりKT50を算出した。
【0031】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、ハチ類に対して優れた駆除効果を有するエアゾール製品を提供することができる。