(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】血圧測定用カフおよび血圧計
(51)【国際特許分類】
A61B 5/022 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
A61B5/022 300A
(21)【出願番号】P 2020181309
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100122286
【氏名又は名称】仲倉 幸典
(72)【発明者】
【氏名】澤野井 幸哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 達矢
(72)【発明者】
【氏名】内藤 晃誠
(72)【発明者】
【氏名】杤久保 修
【審査官】小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-334153(JP,A)
【文献】特開2008-178542(JP,A)
【文献】特開2000-79101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定部位を圧迫して阻血する血圧測定用カフであって、
被測定部位を取り巻く帯状の外布と、
上記外布の上記被測定部位に対向する側の面に沿って設けられ、上記被測定部位の特定の閉領域に対向する第1空気袋とを備え、
上記第1空気袋は、
上記外布に沿った面内で、上記特定の閉領域の全域に相当する第1形状、または、上記特定の閉領域のうち外周領域に相当する環状の第2形状を有する外空気袋と、
上記第1形状を有する上記外空気袋の内部で上記特定の閉領域のうち外周領域に取り囲まれた内部領域に対応して、または、上記第2形状を有する上記外空気袋の環に取り囲まれた空き領域に配された内空気袋とを含み、
上記第1空気袋の上記被測定部位に対向する側の面に沿って設けられ、振動を減衰させるダンパー層と、
上記ダンパー層の上記被測定部位に対向する側の面に沿って、上記特定の閉領域のうち上記内部領域の中心を含む部分を占める中心領域に対応して設けられ、上記特定の閉領域を通る動脈のうち上記中心領域に存する部分からの脈波による脈波情報を検出する第2空気袋とを備えた
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項2】
請求項1に記載の血圧測定用カフにおいて、
上記ダンパー層は、
上記外布に沿った面内で、上記第2空気袋に対応して設けられた中心セグメントと、
上記被測定部位を取り巻く長手方向に関して垂直な幅方向に関して、上記中心セグメントから上記第1空気袋の両縁まで延在する態様で、それぞれ上記中心セグメントに連結して設けられた上流側セグメント、下流側セグメントと
を含む、3連構造を有する
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項3】
請求項2に記載の血圧測定用カフにおいて、
上記外空気袋に対して、上記内空気袋と上記ダンパー層の上記中心セグメントと上記第2空気袋とは、上記特定の閉領域内で上記動脈が通る方向に沿って下流側に偏って配置されている
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項4】
請求項1に記載の血圧測定用カフにおいて、
上記外布に沿った面内で、上記ダンパー層の形状、寸法は上記第2空気袋の形状、寸法とそれぞれ同じに設定され、
上記外空気袋に対して、上記内空気袋と上記ダンパー層と上記第2空気袋とは、上記特定の閉領域内で上記動脈が通る方向に沿って下流側に偏って配置されている
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項5】
請求項1に記載の血圧測定用カフにおいて、
上記外空気袋は上記第2形状を有し、
上記内空気袋は上記外空気袋の上記環に取り囲まれた上記空き領域に配され、
上記外空気袋の内周縁と、この内周縁に隣り合う上記内空気袋の外周縁とが、上記外布に対して垂直な厚さ方向に関して互いに対応する蛇腹形状を有し、互いに嵌合されている
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項6】
請求項1に記載の血圧測定用カフにおいて、
上記外空気袋は上記第2形状を有し、
上記内空気袋は上記外空気袋の上記環に取り囲まれた上記空き領域に配され、
上記外空気袋の内周縁と、この内周縁に隣り合う上記内空気袋の外周縁とが、上記環に沿って全周にわたって又は部分的に互いに溶着されている
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項7】
請求項6に記載の血圧測定用カフにおいて、
上記外布に沿った面内で、上記外空気袋の内周縁と上記内空気袋の外周縁とは、それぞれ、上記環に沿った丸角の矩形状に形成されて、上記特定の閉領域を通る上記動脈に交差する辺と、上記動脈から離れた辺とを含み、
上記外空気袋の内周縁の上記動脈から離れた辺と上記内空気袋の外周縁の上記動脈から離れた辺とは、部分的に互いに溶着されている一方、上記外空気袋の内周縁の上記動脈に交差する辺と上記内空気袋の外周縁の上記動脈に交差する辺とは、互いに離間している
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか一つに記載の血圧測定用カフにおいて、
上記外空気袋と上記内空気袋と上記第2空気袋とに、それぞれ空気を供給するエア配管が接続され、
上記エア配管同士は、脈波を減衰させるフィルタを介して、互いに通気可能に接続されている
ことを特徴とする血圧測定用カフ。
【請求項9】
被測定部位を圧迫して血圧を測定する血圧計であって、
請求項1から8までのいずれか一つに記載の血圧測定用カフと、
上記血圧測定用カフの外部に設けられたポンプからエア配管を通して、上記第2空気袋、上記外空気袋および上記内空気袋に空気を供給して、上記特定の閉領域に対する押圧力を制御する圧力制御部と、
上記第2空気袋の圧力を検出する圧力検出部と、
上記圧力検出部の出力に基づいて、オシロメトリック法により血圧を算出する血圧算出部と
を備えたことを特徴する血圧計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は血圧測定用カフに関し、より詳しくは、被測定部位を圧迫して阻血する血圧測定用カフに関する。また、この発明は、そのような効率的な血圧測定用カフを備えた血圧計に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の血圧測定用カフでは、一般的に、エッジ効果(カフをなす空気袋の中央部で圧迫力が強く、空気袋の端に向かうにつれて圧迫力が減少する現象)が生じて、空気袋の中央部と端部とで取得される圧脈波の形状が異なり、それらが混合した圧脈波の波形が検出されるため、S/N比(信号対ノイズ比)が低下し、血圧測定の精度が低下する、という課題がある。
【0003】
従来、この課題に対策した血圧測定用カフとして、例えば特許文献1(特開2007-125247号公報)に開示されているように、血圧測定部位の動脈を圧迫する阻血用カフと、前記阻血用カフの下方(血圧測定部位に対向する側)の略中央部に配置されるとともに脈波を検出する脈波検出用カフと、前記阻血用カフの下方(血圧測定部位に対向する側)で前記略中央部よりも心臓側(上流側)に配置されるサブカフとを備えたものが知られている。この血圧測定用カフでは、サブカフによって、阻血用カフの圧力が収縮期血圧よりもやや高い状態の時に、阻血用カフ下の上流部に浸入しようとする血流を阻止して、脈波検出用カフによる脈波(動脈の容積変化による振動)検出のS/N比向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された血圧測定用カフでは、被測定部位よりも両端側の動脈から脈波による振動が脈波検出用カフに回り込んでくる。このため、エッジ効果によるS/N比の低下を有効に防止することができない、という問題がある。
【0006】
そこで、この発明の課題は、被測定部位を圧迫して阻血する血圧測定用カフであって、エッジ効果によるS/N比の低下を有効に防止できるものを提供することにある。また、この発明の課題は、そのような血圧測定用カフを備えた血圧計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この開示の血圧測定用カフは、
被測定部位を圧迫して阻血する血圧測定用カフであって、
被測定部位を取り巻く帯状の外布と、
上記外布の上記被測定部位に対向する側の面に沿って設けられ、上記被測定部位の特定の閉領域に対向する第1空気袋とを備え、
上記第1空気袋は、
上記外布に沿った面内で、上記特定の閉領域の全域に相当する第1形状、または、上記特定の閉領域のうち外周領域に相当する環状の第2形状を有する外空気袋と、
上記第1形状を有する上記外空気袋の内部で上記特定の閉領域のうち外周領域に取り囲まれた内部領域に対応して、または、上記第2形状を有する上記外空気袋の環に取り囲まれた空き領域に配された内空気袋とを含み、
上記第1空気袋の上記被測定部位に対向する側の面に沿って設けられ、振動を減衰させるダンパー層と、
上記ダンパー層の上記被測定部位に対向する側の面に沿って、上記特定の閉領域のうち上記内部領域の中心を含む部分を占める中心領域に対応して設けられ、上記特定の閉領域を通る動脈のうち上記中心領域に存する部分からの脈波による脈波情報を検出する第2空気袋とを備えた
ことを特徴とする。
【0008】
本明細書で、「~の上記被測定部位に対向する側」とは、この血圧測定用カフが被測定部位を取り巻いて装着された状態(装着状態)で、上記被測定部位に対向する側を意味する。
【0009】
「特定の閉領域」とは、上記被測定部位のうち圧迫の対象となる閉領域を指す。
【0010】
また、外空気袋の「第1形状」、「第2形状」とは、上記外布に沿った面内における平面的な形状を意味する。
【0011】
また、「特定の閉領域のうち外周領域」とは、その特定の閉領域の外周縁に沿った環状の領域を指す。
【0012】
脈波による「脈波情報」とは、動脈の容積変化による圧力の変化(振動を含む)を表す情報を意味する。
【0013】
上記特定の閉領域を通る動脈のうち上記中心領域に存する部分を、適宜「中央部分」と呼ぶ。
【0014】
この開示の血圧測定用カフは、被測定部位の特定の閉領域に対して上記第1空気袋が対応する状態で、帯状の外布が被測定部位を取り巻くことによって装着される。例えば、上記外布に沿った面内で、上記ダンパー層の形状、寸法は上記第2空気袋の形状、寸法とそれぞれ同じに設定され、上記ダンパー層が上記第2空気袋に対応して設けられているものとする。この場合、装着状態では、上記被測定部位の上記特定の閉領域のうち上記外周領域(環状の領域)に対して、厚さ方向(上記被測定部位の外周面に対して垂直な方向)に関して、上記第1空気袋の外空気袋と、上記外布とが、この順に並ぶ。上記被測定部位の上記特定の閉領域のうち上記内部領域(上記中心領域を除く)に対して、厚さ方向に関して、上記第1空気袋(第1形状のときは外空気袋のうち内空気袋が存する部分、第2形状のときは内空気袋)と、上記外布とが、この順に並ぶ。上記被測定部位の上記特定の閉領域のうち上記中心領域に対して、厚さ方向に関して、上記第2空気袋と、上記ダンパー層と、上記第1空気袋(第1形状のときは外空気袋のうち内空気袋が存する部分、第2形状のときは内空気袋)と、上記外布とが、この順に並ぶ。
【0015】
この装着状態で、血圧測定時には、例えば、この血圧測定用カフの外部に設けられたポンプからエア配管を通して空気が、上記第2空気袋、上記第1空気袋をなす上記外空気袋および上記内空気袋に供給される。このとき、上記第2空気袋、上記第1空気袋(上記外空気袋および上記内空気袋)が上記被測定部位から遠ざかる向きの膨張は、全体として上記外布によって規制される。したがって、上記第2空気袋、上記外空気袋および上記内空気袋は、上記被測定部位のうち上記特定の閉領域を押圧する向きに膨張する。これにより、上記被測定部位の上記特定の閉領域が圧迫されて、上記特定の閉領域を通る動脈が阻血される。詳しくは、上記被測定部位の上記特定の閉領域のうち上記外周領域は、上記外空気袋によって押圧されて、上記特定の閉領域を通る動脈の上流側の端部、下流側の端部が圧迫される。上記特定の閉領域のうち上記内部領域(上記中心領域を除く)は、上記第1空気袋(第1形状のときは外空気袋のうち内空気袋が存する部分、第2形状のときは内空気袋)によって押圧されて、上記特定の閉領域を通る動脈の上流側の端部と中央部分との間の上流側遷移部分、および、下流側の端部と中央部分との間の下流側遷移部分が圧迫される。また、上記被測定部位の上記特定の閉領域のうち上記中心領域は、上記第2空気袋と、上記ダンパー層を介して設けられた上記第1空気袋(第1形状のときは外空気袋のうち内空気袋が存する部分、第2形状のときは内空気袋)とによって押圧されて、上記特定の閉領域を通る動脈の中央部分が圧迫される。そして、上記第2空気袋、上記外空気袋および上記内空気袋に対する加圧過程または減圧過程で、上記第2空気袋によって、上記特定の閉領域を通る動脈のうち上記中央部分からの脈波による脈波情報が検出される。この脈波情報に基づいて、例えばオシロメトリック法により血圧が算出される。
【0016】
ここで、上記特定の閉領域のうち上記外周領域(上記特定の閉領域を通る動脈の上流側の端部、下流側の端部が存在する)を圧迫する上記外空気袋は、上記被測定部位よりも上流側の動脈、下流側の動脈からエッジ効果によって浸入する血流の脈波(振動)の影響を受け易い。しかしながら、この血圧測定用カフでは、上記外空気袋は、上記第1形状を有する場合は、上記外空気袋に内包された上記内空気袋と、上記ダンパー層とを介して、上記第2空気袋から分離されている。または、上記外空気袋は、上記第2形状を有する場合は、上記空き領域に配された上記内空気袋と、上記ダンパー層とを介して、上記第2空気袋から分離されている。したがって、上記外空気袋によって取得された脈波(振動)は、いずれの場合も上記第2空気袋には伝わり難い。したがって、この血圧測定用カフでは、上記第2空気袋によって、主に、上記特定の閉領域を通る動脈のうち上記中央部分からの脈波のみによる脈波情報が検出され得る。したがって、エッジ効果によるS/N比の低下を有効に防止でき、この結果、血圧測定の精度を高めることができる。
【0017】
一実施形態の血圧測定用カフでは、上記ダンパー層は、
上記外布に沿った面内で、上記第2空気袋に対応して設けられた中心セグメントと、
上記外布が帯状に延在する長手方向に対して垂直な幅方向に関して、上記中心セグメントから上記第1空気袋の両縁に相当する位置まで延在する態様で、それぞれ上記中心セグメントに連結して設けられた上流側セグメント、下流側セグメントと
を含む、3連構造を有することを特徴とする。
【0018】
ここで、血圧測定用カフについて、「長手方向」は、上記外布が帯状に延在する方向を意味し、装着状態では上記被測定部位を取り巻く周方向に相当する。また、「幅方向」は、上記外布に沿った面内で上記長手方向に対して垂直な方向を意味し、装着状態では上記被測定部位を動脈が通る方向に相当する。「上流側」、「下流側」とは、上記動脈を流れる血流に関してそれぞれ上流側、下流側を意味する。既述の「厚さ方向」は、長手方向と幅方向との両方(つまり、外布)に対して垂直な方向を意味し、装着状態では上記被測定部位の外周面に対して垂直な方向に相当する。
【0019】
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記ダンパー層が上述の3連構造を有することから、装着状態では、上記被測定部位の上記特定の閉領域のうち上記外周領域(環状の領域)に対して、厚さ方向に関して、上記ダンパー層の上流側セグメントまたは下流側セグメントと、上記第1空気袋の外空気袋と、上記外布とが、この順に並ぶ。上記被測定部位の上記特定の閉領域のうち上記内部領域(上記中心領域を除く)に対して、厚さ方向に関して、上記ダンパー層の上流側セグメントまたは下流側セグメントと、上記第1空気袋(第1形状のときは外空気袋のうち内空気袋が存する部分、第2形状のときは内空気袋)と、上記外布とが、この順に並ぶ。上記被測定部位の上記特定の閉領域のうち上記中心領域に対して、厚さ方向に関して、上記第2空気袋と、上記ダンパー層の中心セグメントと、上記第1空気袋(第1形状のときは外空気袋のうち内空気袋が存する部分、第2形状のときは内空気袋)と、上記外布とが、この順に並ぶ。上記中心セグメントと上流側セグメント、下流側セグメントとは連結されているので、上記中心セグメントと上流側セグメント、下流側セグメントとが相対的に位置ずれすることはない。
【0020】
この装着状態で、血圧測定時には、上述のように、この血圧測定用カフの外部に設けられたポンプからエア配管を通して空気が、上記第2空気袋、上記第1空気袋をなす上記外空気袋および上記内空気袋に供給される。このとき、上述のように、上記第2空気袋、上記第1空気袋(上記外空気袋および上記内空気袋)が上記被測定部位から遠ざかる向きの膨張は、全体として上記外布によって規制される。したがって、上記第2空気袋、上記外空気袋および上記内空気袋は、上記被測定部位のうち上記特定の閉領域を押圧する向きに膨張する。これにより、上記被測定部位の上記特定の閉領域が圧迫されて、上記特定の閉領域を通る動脈が阻血される。詳しくは、上記被測定部位の上記特定の閉領域のうち上記外周領域は、上記ダンパー層の上流側セグメントまたは下流側セグメントを介して上記外空気袋によって押圧されて、上記特定の閉領域を通る動脈の上流側の端部、下流側の端部が圧迫される。上記特定の閉領域のうち上記内部領域(上記中心領域を除く)は、上記ダンパー層の上流側セグメントまたは下流側セグメントを介して上記第1空気袋(第1形状のときは外空気袋のうち内空気袋が存する部分、第2形状のときは内空気袋)によって押圧されて、上記特定の閉領域を通る動脈の上流側の端部と中央部分との間の上流側遷移部分、および、下流側の端部と中央部分との間の下流側遷移部分が圧迫される。また、上記被測定部位の上記特定の閉領域のうち上記中心領域は、上記第2空気袋と、上記ダンパー層の中心セグメントを介して設けられた上記第1空気袋(第1形状のときは外空気袋のうち内空気袋が存する部分、第2形状のときは内空気袋)とによって押圧されて、上記特定の閉領域を通る動脈の中央部分が圧迫される。そして、上記第2空気袋、上記外空気袋および上記内空気袋に対する加圧過程または減圧過程で、上記第2空気袋によって、上記特定の閉領域を通る動脈のうち上記中央部分からの脈波による脈波情報が検出される。この脈波情報に基づいて、例えばオシロメトリック法により血圧が算出される。
【0021】
ここで、上記特定の閉領域のうち上記外周領域(上記特定の閉領域を通る動脈の上流側の端部、下流側の端部が存在する)を圧迫する上記外空気袋は、上述のように、上記被測定部位よりも上流側の動脈、下流側の動脈からエッジ効果によって浸入する血流の脈波(振動)の影響を受け易い。しかしながら、この血圧測定用カフでは、上記外周領域のうち上記動脈の上流側、下流側に相当する端部と上記外空気袋との間には、上記ダンパー層の上流側セグメントまたは下流側セグメントが介在する。したがって、上記外周領域のうち上記動脈の上流側、下流側に相当する端部からエッジ効果によって上記外空気袋へ浸入しようとする血流の脈波(振動)は、上記上流側セグメントまたは上記下流側セグメントによって減衰され、上記外空気袋には伝わり難い。さらに、上記外空気袋は、上記第1形状を有する場合は、上記外空気袋に内包された上記内空気袋と、上記ダンパー層の中心セグメントとを介して、上記第2空気袋から分離されている。または、上記外空気袋は、上記第2形状を有する場合は、上記空き領域に配された上記内空気袋と、上記ダンパー層の中心セグメントとを介して、上記第2空気袋から分離されている。したがって、上記外空気袋によって取得された脈波(振動)は、いずれの場合も上記内空気袋と上記ダンパー層の中心セグメントによって減衰され、上記第2空気袋には伝わり難い。したがって、この血圧測定用カフでは、上記第2空気袋によって、主に、上記特定の閉領域を通る動脈のうち上記中央部分からの脈波のみによる脈波情報が検出され得る。したがって、エッジ効果によるS/N比の低下を有効に防止でき、この結果、血圧測定の精度を高めることができる。
【0022】
一実施形態の血圧測定用カフでは、
上記外空気袋に対して、上記内空気袋と上記ダンパー層の上記中心セグメントと上記第2空気袋とは、上記特定の閉領域内で上記動脈が通る方向に沿って下流側に偏って配置されている
ことを特徴とする。
【0023】
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記外空気袋に対して、上記内空気袋と上記ダンパー層の上記中心セグメントと上記第2空気袋とは、上記特定の閉領域内で上記動脈が通る方向に沿って下流側に偏って配されている。したがって、上記第2空気袋は、上記特定の閉領域内で、上記特定の閉領域を通る動脈の上流側の端部から比較的遠い領域に対応して配されている。これにより、上記特定の閉領域内で、上記外空気袋によって取得された上記動脈の上流側の端部からの脈波(振動)が、上記第2空気袋に伝わり難くなる。したがって、この血圧測定用カフでは、エッジ効果によるS/N比の低下をさらに有効に防止でき、この結果、血圧測定の精度をさらに高めることができる。
【0024】
一実施形態の血圧測定用カフでは、
上記外布に沿った面内で、上記ダンパー層の形状、寸法は上記第2空気袋の形状、寸法とそれぞれ同じに設定され、
上記外空気袋に対して、上記内空気袋と上記ダンパー層と上記第2空気袋とは、上記特定の閉領域内で上記動脈が通る方向に沿って下流側に偏って配置されている
ことを特徴とする。
【0025】
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記外空気袋に対して、上記内空気袋と上記ダンパー層(上記第2空気袋の形状、寸法と同じ形状、寸法をもつ)と上記第2空気袋とは、上記特定の閉領域内で上記動脈が通る方向に沿って下流側に偏って配されている。したがって、上記第2空気袋は、上記特定の閉領域内で、上記特定の閉領域を通る動脈の上流側の端部から比較的遠い領域に対応して配されている。これにより、上記特定の閉領域内で、上記外空気袋によって取得された上記動脈の上流側の端部からの脈波(振動)が、上記第2空気袋に伝わり難くなる。したがって、この血圧測定用カフでは、エッジ効果によるS/N比の低下をさらに有効に防止でき、この結果、血圧測定の精度をさらに高めることができる。
【0026】
一実施形態の血圧測定用カフでは、
上記外空気袋は上記第2形状を有し、
上記内空気袋は上記外空気袋の上記環に取り囲まれた上記空き領域に配され、
上記外空気袋の内周縁と、この内周縁に隣り合う上記内空気袋の外周縁とが、上記外布に対して垂直な厚さ方向に関して互いに対応する蛇腹形状を有し、互いに嵌合されている
ことを特徴とする。
【0027】
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記外空気袋の内周縁と、この内周縁に隣り合う上記内空気袋の外周縁とが、上記外布に対して垂直な厚さ方向に関して互いに対応する蛇腹形状を有し、互いに嵌合されている。したがって、上記装着状態で上記第2空気袋、上記外空気袋および上記内空気袋に空気が供給された場合、蛇腹形状が厚さ方向に伸びることによって、上記外空気袋と上記内空気袋が上記厚さ方向に膨張し易い。したがって、上記被測定部位の上記特定の閉領域を容易に圧迫できる。また、上記外空気袋と上記内空気袋とが嵌合されている結果、たとえ上記装着状態で上記第2空気袋、上記外空気袋および上記内空気袋に空気が供給された場合であっても、上記外布に沿った面内で、上記外空気袋に対して上記内空気袋の相対的な位置が保たれ、この結果、上記ダンパー層を介して上記第2空気袋の相対的な位置も保たれる。
【0028】
一実施形態の血圧測定用カフでは、
上記外空気袋は上記第2形状を有し、
上記内空気袋は上記外空気袋の上記環に取り囲まれた上記空き領域に配され、
上記外空気袋の内周縁と、この内周縁に隣り合う上記内空気袋の外周縁とが、上記環に沿って全周にわたって又は部分的に互いに溶着されている
ことを特徴とする。
【0029】
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記外空気袋の内周縁と、この内周縁に隣り合う上記内空気袋の外周縁とが、上記環に沿って全周にわたって又は部分的に、互いに溶着されている。したがって、たとえ上記装着状態で上記第2空気袋、上記外空気袋および上記内空気袋に空気が供給された場合であっても、上記外布に沿った面内で、上記外空気袋に対して上記内空気袋の相対的な位置が保たれ、この結果、上記ダンパー層を介して上記第2空気袋の相対的な位置も保たれる。また、上記外空気袋と上記内空気袋との間に溶着箇所が介在するので、上記外空気袋によって取得された脈波(振動)は上記内空気袋へ直接伝わることが無い。したがって、上記外空気袋によって取得された脈波(振動)は、上記第2空気袋にさらに伝わり難くなる。この結果、血圧測定の精度をさらに高めることができる。
【0030】
一実施形態の血圧測定用カフでは、
上記外布に沿った面内で、上記外空気袋の内周縁と上記内空気袋の外周縁とは、それぞれ、上記環に沿った丸角の矩形状に形成されて、上記特定の閉領域を通る上記動脈に交差する辺と、上記動脈から離れた辺とを含み、
上記外空気袋の内周縁の上記動脈から離れた辺と上記内空気袋の外周縁の上記動脈から離れた辺とは、部分的に互いに溶着されている一方、上記外空気袋の内周縁の上記動脈に交差する辺と上記内空気袋の外周縁の上記動脈に交差する辺とは、互いに離間している
ことを特徴とする。
【0031】
「丸角の矩形」とは、四隅の角が丸くされた長方形または正方形を意味する。
【0032】
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記外空気袋の内周縁の上記動脈から離れた辺と上記内空気袋の外周縁の上記動脈から離れた辺とは、部分的に互いに溶着されている。したがって、たとえ上記装着状態で上記第2空気袋、上記外空気袋および上記内空気袋に空気が供給された場合であっても、上記外布に沿った面内で、上記外空気袋に対して上記内空気袋の相対的な位置が保たれ、この結果、上記ダンパー層を介して上記第2空気袋の相対的な位置も保たれる。一方、上記外空気袋の内周縁の上記動脈に交差する辺と上記内空気袋の外周縁の上記動脈に交差する辺とは、互いに離間している。これにより、上記外空気袋の内周縁の上記動脈に交差する辺と上記内空気袋の外周縁の上記動脈に交差する辺とが互いに溶着されている場合に比して、上記外空気袋のうち、上記被測定部位よりも上流側の動脈、下流側の動脈からエッジ効果によって浸入する血流の脈波(振動)の影響を最も受け易い部分(動脈と交差する部分)から、上記第2空気袋への、脈波(振動)の伝達経路が遠くなる。したがって、上記外空気袋によって取得された脈波(振動)は、上記第2空気袋にさらに伝わり難くなる。したがって、この血圧測定用カフでは、エッジ効果によるS/N比の低下をさらに有効に防止でき、この結果、血圧測定の精度をさらに高めることができる。
【0033】
一実施形態の血圧測定用カフでは、
上記外空気袋と上記内空気袋と上記第2空気袋とに、それぞれ空気を供給するエア配管が接続され、
上記エア配管同士は、脈波を減衰させるフィルタを介して、互いに通気可能に接続されている
ことを特徴とする。
【0034】
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記外空気袋と上記内空気袋と上記第2空気袋とに、それぞれ空気を供給するエア配管が接続されている。上記エア配管同士は、脈波を減衰させるフィルタを介して、互いに通気可能に接続されている。したがって、1つのポンプから上記エア配管のうちのいずれかに空気を供給することによって、上記外空気袋と上記内空気袋と上記第2空気袋とに、それぞれ空気を供給することができる。これにより、上記外空気袋と上記内空気袋と上記第2空気袋とに、それぞれ別のポンプから空気を供給する場合に比して、ポンプ数(すなわち、血圧計の構成部品数)を低減できる。また、この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記エア配管同士の間に、脈波を減衰させるフィルタが介挿されている。このフィルタにより、上記外空気袋および/または上記内空気袋によって取得された脈波(振動)が、上記エア配管を介して、上記第2空気袋に混入するのを抑制できる。したがって、血圧測定の精度を高く維持することができる。
【0035】
別の局面では、この開示の血圧計は、
被測定部位を圧迫して血圧を測定する血圧計であって、
上記血圧測定用カフと、
上記血圧測定用カフの外部に設けられたポンプからエア配管を通して、上記第2空気袋、上記外空気袋および上記内空気袋に空気を供給して、上記特定の閉領域に対する押圧力を制御する圧力制御部と、
上記第2空気袋の圧力を検出する圧力検出部と、
上記圧力検出部の出力に基づいて、オシロメトリック法により血圧を算出する血圧算出部と
を備えたことを特徴する血圧計。
【0036】
この開示の血圧計では、上記血圧測定用カフは、被測定部位の特定の閉領域に対して上記第1空気袋が対応する状態で、帯状の外布が被測定部位を取り巻くことによって装着される。この装着状態で、圧力制御部は、この血圧測定用カフの外部に設けられたポンプからエア配管を通して、上記第2空気袋、上記第1空気袋をなす上記外空気袋および上記内空気袋に空気を供給して、上記特定の閉領域に対する押圧力を制御する。そして、上記第2空気袋、上記外空気袋および上記内空気袋に対する加圧過程または減圧過程で、圧力検出部は、上記第2空気袋の圧力を検出する。血圧算出部は、上記圧力検出部の出力に基づいて、オシロメトリック法により血圧を算出する。
【0037】
この血圧計では、上記血圧測定用カフのおかげで、上記第2空気袋によって、主に、上記特定の閉領域を通る動脈のうち上記中央部分からの脈波のみによる脈波情報を検出できる。したがって、エッジ効果によるS/N比の低下を有効に防止でき、この結果、血圧測定の精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0038】
以上より明らかなように、この開示の血圧測定用カフおよび血圧計によれば、エッジ効果によるS/N比の低下を有効に防止でき、血圧測定の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】この発明の第1実施形態の血圧測定用カフを備えた血圧計の概略的なブロック構成を示す図である。
【
図2】
図2(A)は、上記血圧測定用カフを展開した状態で、上記カフの平面レイアウトを模式的に示す図である。
図2(B)は、
図2(A)において上記カフをなす外布を省略した状態で、IIB-IIB線矢視断面を示す図である。
図2(C)は、
図2(A)において上記カフをなす外布を省略した状態で、IIC-IIC線矢視断面を示す図である。
【
図3A】上記カフをなす外空気袋と内空気袋とが溶着された一つの態様を示す図である。
【
図3B】上記カフをなす外空気袋と内空気袋とが溶着された別の態様を示す図である。
【
図3C】上記カフをなす内空気袋が蛇腹形状の側面を有する態様を示す図である。
【
図4】上記カフが棒状の被測定部位の外周を取り巻いて装着された態様を示す図である。
【
図5】上記血圧計による血圧測定のフローを示す図である。
【
図6】
図6(A)、
図6(B)、
図6(C)は、上記カフのダンパー層が変形された態様を、それぞれ
図2(A)、
図2(B)、
図2(C)に対応して示す図である。
【
図7】
図7(A)は、第2実施形態の血圧測定用カフを展開した状態で、上記カフの平面レイアウトを模式的に示す図である。
図7(B)は、
図7(A)において上記カフをなす外布を省略した状態で、VIIB-VIIB線矢視断面を示す図である。
図7(C)は、
図7(A)において上記カフをなす外布を省略した状態で、VIIC-VIIC線矢視断面を示す図である。
【
図8】
図7のカフが棒状の被測定部位の外周を取り巻いて装着された態様を示す図である。
【
図9】
図7の血圧測定用カフを変形した第1の変形例の平面レイアウトを、
図7(A)に対応して示す図である。
【
図10】
図7の血圧測定用カフを変形した第2の変形例の平面レイアウトを、
図7(A)に対応して示す図である。
【
図12】
図7の血圧測定用カフを変形した第4の変形例の断面構造を、
図7(B)に対応して示す図である。
【
図13】
図2の血圧測定用カフの性能を一般的な血圧測定用カフの性能と比較するための検証実験における測定態様を示す図である。
【
図14】上記血圧計に搭載された圧力センサによって検出される第2空気袋の圧力(カフ圧)Pc、脈波信号Pmを例示する図である。
【
図15】
図14において収縮期血圧(SBP)が得られた時刻t2近傍の時間軸を拡大して、
図2の血圧測定用カフによって得られる脈波信号Pmを、一般的な血圧測定用カフによって得られる脈波信号Pm′と比較して示す図である。
【
図16】
図14において拡張期血圧(DBP)が得られた時刻t3近傍の時間軸を拡大して、
図2の血圧測定用カフによって得られる脈波信号Pmを、一般的な血圧測定用カフによって得られる脈波信号Pm′と比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0041】
図1は、この発明の第1実施形態の血圧測定用カフ20を備えた血圧計100の概略的なブロック構成を示している。この血圧計100は、大別して、上腕または手首などの棒状の被測定部位90(
図4参照)に装着されるカフ20と、本体10とを備えている。
【0042】
(血圧測定用カフの構成)
図4は、上記カフ20が被測定部位(この例では、上腕)90の外周を取り巻いて装着された態様を示している。この例では、被測定部位90を通る動脈91に沿った断面を示している。
図4によって分かるように、カフ20は、概ね、最外周に位置する帯状の外布21と、この外布21の被測定部位90に対向する側の面に沿って設けられた第1空気袋210と、この第1空気袋210の被測定部位90に対向する側の面に沿って設けられたダンパー層280Lと、このダンパー層280Lの被測定部位90に対向する側の面に沿って設けられた第2空気袋220とを備えている。この例では、第1空気袋210は、外空気袋211と、この外空気袋211の内部に設けられた内空気袋212とを含んでいる。
【0043】
図2(A)は、カフ20を展開した状態で、カフ20の平面レイアウトを模式的に示している。理解の容易のために、
図2(A)中には、棒状の被測定部位90(2点鎖線で示す)が左右方向に延在する態様で示されている。
図2(B)は、
図2(A)においてカフ20をなす外布21を省略した状態で、IIB-IIB線矢視断面を示している。
図2(C)は、
図2(A)においてカフ20をなす外布21を省略した状態で、IIC-IIC線矢視断面を示している。
【0044】
ここで、カフ20について、「長手方向」は、外布21が帯状に延在する方向を意味し、装着状態(
図4参照)では被測定部位90を取り巻く周方向に相当する。また、「幅方向」は、外布21に沿った面内で長手方向に対して垂直な方向を意味し、装着状態では被測定部位90を動脈91が通る方向に相当する。「上流側」、「下流側」とは、動脈91を流れる血流に関してそれぞれ上流側、下流側を意味する。また、「厚さ方向」は、長手方向と幅方向との両方(つまり、外布21)に対して垂直な方向であり、装着状態では被測定部位90の外周面に対して垂直な方向に相当する。
【0045】
外布21は、この例では
図2(A)の紙面に沿って長手方向(
図2(A)における縦方向)に延在する帯状(この例では、丸角の長方形)の形状を有している。外布21は、湾曲または屈曲可能であるが、血圧測定時に第2空気袋220、第1空気袋210(外空気袋211および内空気袋212)が被測定部位90から遠ざかる向きに膨張するのを全体として規制するために、実質的に伸縮しないように構成されている。ここで、「布」とは、編まれたものに限られず、樹脂の一層または複数層からなっていてもよい。外布21の長手方向の寸法は、被測定部位90としての上腕の周囲長よりも長く設定されている。
【0046】
図2(A)に示すように、第1空気袋210をなす外空気袋211は、外布21に沿った面内で、被測定部位90のうち連続的に広がる特定の閉領域90Aの全域に相当する、丸角の長方形の形状(これを「第1形状」と呼ぶ。)を有している。なお、この第1形状を有する外空気袋211が、
図2(A)中に示す被測定部位90の外周に沿って湾曲して当接されると、被測定部位90上の特定の閉領域90Aに対応して一致する。この例では、外布21に沿った面内で、外空気袋211は、長手方向寸法L=24cm、幅方向寸法W=13cmに設定されている。
【0047】
内空気袋212は、上述のように外空気袋211の内部に設けられ、
図2(A)に示すように、特定の閉領域90Aのうち外周領域90sに取り囲まれた内部領域90iに対応して配されている。ここで、外周領域90sとは、特定の閉領域90Aの周縁に沿った環状の領域を指し、この例では、外空気袋211の外周縁211oと内空気袋212の外周縁212oとの間の、
図2(A)中に斜線で示す領域に相当する。すなわち、外空気袋211が、
図2(A)中に示す被測定部位90の外周に沿って湾曲して当接されると、この斜線で示す環状の領域が被測定部位90上の外周領域90sに対応して一致するとともに、内空気袋212が被測定部位90上の内部領域90iに対応して一致する。内空気袋212は、外空気袋211と同様に、丸角の長方形の形状を有している。この例では、外布21に沿った面内で、内空気袋212は、長手方向寸法22cm、幅方向寸法6cmに設定されている。
図2(A)、
図2(B)から分かるように、この例では、外空気袋211に対して、内空気袋212は、特定の閉領域90A内で動脈91が通る方向に沿って下流側(
図2(A)における右側)へ偏って配置されている。詳しくは、内空気袋212の中心を通る縦線をCとすると、外空気袋211の外周縁211oの左辺と縦線Cとの間の左右方向の距離はX1=7cm、外空気袋211の外周縁211oの右辺と縦線Cとの間の左右方向の距離はX2=6cmにそれぞれ設定されている。一方、
図2(A)、
図2(C)から分かるように、外布21の長手方向に関して、外空気袋211の中心と内空気袋212の中心とは一致している。
【0048】
この例では、
図3(A)に示すように、外空気袋211と内空気袋212とが互いに対向する領域213,214は、互いに溶着されている。これにより、外空気袋211に対する内空気袋212の相対的な位置ずれが防止される。特に、外空気袋211と内空気袋212とが膨張したときに、内空気袋212が
図3(A)において左右方向に位置ずれするのが防止される。この結果、血圧測定の精度を高く維持することができる。なお、
図3(B)に示すように、外空気袋211と内空気袋212とが互いに溶着される領域は、連続的に広がる領域213,214ではなく、点状の領域213a,213b,214a,214bであってもよい。この
図3(B)の態様でも、
図3(A)の態様と同様の作用効果を奏することができる。
【0049】
図2(A)に示すように、第2空気袋220は、外布21に沿った面内で、特定の閉領域90Aのうち内部領域90iの中心を含む部分を占める中心領域90cに対応して設けられている。第2空気袋220は、外空気袋211、内空気袋212と同様に、丸角の長方形の形状を有している。この例では、外布21に沿った面内で、第2空気袋220は、長手方向寸法6cm、幅方向寸法3cmに設定されている。この例では、
図2(A)、
図2(B)、
図2(C)から分かるように、外布21に沿った面内で、内空気袋212の中心と第2空気袋220の中心とは一致している。この結果、外空気袋211に対して、第2空気袋220は、内空気袋212と同様に、特定の閉領域90A内で動脈91が通る方向に沿って下流側(
図2(A)における右側)へ偏って配置されている。ただし、第2空気袋220は、特定の閉領域90Aの中心(すなわち、外空気袋211の中心)をカバーしている。
【0050】
上述の外空気袋211、内空気袋212、第2空気袋220は、それぞれ、ポリウレタン樹脂からなる一対のシートを互いに対向させ、上記一対のシートの外周縁を互いに溶着して作製されている。
【0051】
ダンパー層280Lは、この例では、外布21に沿った面内で、第2空気袋220に対応して設けられた中心セグメント283と、カフ20の幅方向に関してそれぞれこの中心セグメント283の両側に連結して設けられた上流側セグメント281、下流側セグメント282とを含む、3連構造を有している。中心セグメント283は、外布21に沿った面内で、第2空気袋220と略同じ寸法の長方形の形状を有している。上流側セグメント281は、カフ20の長手方向に関して中心セグメント283と略同じ寸法で、カフ20の幅方向に関して中心セグメント283から外空気袋211の左縁(
図2(A)において)に相当する位置まで延在する長方形の形状を有している。下流側セグメント282は、カフ20の長手方向に関して中心セグメント283と略同じ寸法で、カフ20の幅方向に関して中心セグメント283から外空気袋211の右縁(
図2(A)において)に相当する位置まで延在する長方形の形状を有している。この結果、外空気袋211に対して、ダンパー層280Lの中心セグメント283は、第2空気袋220、内空気袋212と同様に、特定の閉領域90A内で動脈91が通る方向に沿って下流側(
図2(A)における右側)へ偏って配置されている。
【0052】
この例では、ダンパー層280Lは、ポリウレタン樹脂からなる一対のシート(この例では、長方形の形状を有する。丸角の長方形の形状であってもよい。)を互いに対向させ、上記一対のシートの外周縁と、中心セグメント283と上流側セグメント281との間を仕切る領域284と、中心セグメント283と下流側セグメント282との間を仕切る領域285とを、それぞれ互いに溶着して作製されている。この結果、中心セグメント283と上流側セグメント281とは、溶着された領域284を介して連結された状態になっている。また、中心セグメント283と下流側セグメント282とは、溶着された領域285を介して連結された状態になっている。したがって、中心セグメント283と上流側セグメント281、下流側セグメント282とが相対的に位置ずれすることはない。この例では、中心セグメント283、上流側セグメント281、下流側セグメント282をなす一対のシートの間には、それぞれ脈波の振動を減衰させる材料として、それぞれ10ミリリットル~20ミリリットルの範囲内(典型的には、約15ミリリットル)の空気が内包されている。これにより、ダンパー層280Lを簡単に作製することができる。なお、中心セグメント283、上流側セグメント281、下流側セグメント282をなす一対のシートの間に、空気に代えて、脈波の振動を高効率で減衰させるシリコーンゲルまたはシリコーンゴムなどを内包してもよい。
【0053】
ダンパー層280Lの中心セグメント283、上流側セグメント281、下流側セグメント282は、それぞれ外空気袋211の対向する面に接着剤(図示せず)によって接着されている。第2空気袋220も、中心セグメント283の対向する面に接着剤(図示せず)によって接着されている。これにより、外空気袋211に対するダンパー層280L、第2空気袋220の相対的な位置ずれが防止される。
【0054】
この例では、外空気袋211、内空気袋212、第2空気袋220には、
図2(A)中に模式的に示すように、それぞれエア配管37c,37e,37gが通気可能に接続されている。外空気袋211、内空気袋212、第2空気袋220は、これらのエア配管37c,37e,37gを通して空気が供給されることによって膨張する一方、これらのエア配管37c,37e,37gを通して空気が排出されることによって収縮することができる。第2空気袋220には、さらに、エア配管38が通気可能に接続されている。このエア配管38を通して、第2空気袋220が取得する脈波による脈波情報が検出され得る(詳しくは、後述する。)。
【0055】
(本体の構成)
図1に示すように、本体10は、制御部110と、表示器50と、操作部52と、記憶部としてのメモリ51と、電源部53と、圧力センサ31と、ポンプ32と、弁33とを搭載している。さらに、本体10は、圧力センサ31からの出力を周波数に変換する発振回路310と、ポンプ32を駆動するポンプ駆動回路320と、弁33を駆動する弁駆動回路330とを搭載している。
【0056】
表示器50は、この例では、ディスプレイおよびインジケータ等を含み、制御部110からの制御信号に従って所定の情報(例えば、血圧測定結果など)を表示する。
【0057】
操作部52は、この例では、血圧の測定開始の指示を受け付けるための測定スイッチ52Aと、過去の血圧測定結果を呼び出すためのメモリスイッチ52Bとを有する。これらの測定スイッチ52A、メモリスイッチ52Bは、ユーザによる指示に応じた操作信号を制御部110に入力する。
【0058】
メモリ51は、血圧計100を制御するためのプログラムのデータ、血圧計100の各種機能を設定するための設定データ、および血圧値の測定結果のデータなどを記憶する。また、メモリ51は、プログラムが実行されるときのワークメモリなどとして用いられる。
【0059】
制御部110は、CPU(Central Processing Unit)を含み、この血圧計100全体の動作を制御する。具体的には、制御部110は、メモリ51に記憶された血圧計100を制御するためのプログラムに従って圧力制御部として働いて、操作部52からの操作信号に応じて、ポンプ32や弁33を駆動する制御を行う。また、制御部110は、血圧算出部として働いて、血圧値を算出し、表示器50およびメモリ51を制御する。具体的な血圧測定の仕方については後述する。
【0060】
電源部53は、制御部110、圧力センサ31、ポンプ32、弁33、表示器50、メモリ51、発振回路310、ポンプ駆動回路320、および弁駆動回路330の各部に電力を供給する。
【0061】
ポンプ32は、カフ20をなす各空気袋211,212,220内の圧力(カフ圧)を加圧するために、空気を供給する。弁33は、各空気袋211,212,220内の空気を排出し、または封入してカフ圧を制御するために開閉される。ポンプ駆動回路320は、ポンプ32を制御部110から与えられる制御信号に基づいて駆動する。弁駆動回路330は、弁33を制御部110から与えられる制御信号に基づいて開閉する。
【0062】
この例では、ポンプ32に接続されたエア配管37aと、弁33に接続されたエア配管37bとが合流して、外空気袋211に接続されたエア配管37cに連通されている。エア配管37cから分岐したエア配管37dが、脈波を減衰させるフィルタとしてのエアチャンバ41を介して、内空気袋212に接続されたエア配管37eに通気可能に接続されている。さらに、エア配管37eから分岐したエア配管37fが、脈波を減衰させるフィルタとしての細管42を介して、内空気袋212に接続されたエア配管37gに通気可能に接続されている。このように、エア配管37c,37e同士、エア配管37e,37g同士がそれぞれ互いに通気可能に接続されている。したがって、1つのポンプ32からエア配管37c,37e,37gのうちのいずれか(この例では、エア配管37c)に空気を供給することによって、外空気袋211と内空気袋212と第2空気袋220とに、それぞれ空気を供給することができる。これにより、外空気袋211と内空気袋212と第2空気袋220とに、それぞれ別のポンプから空気を供給する場合に比して、ポンプ数(すなわち、血圧計の構成部品数)を低減できる。なお、エア配管37a~37gを総称して符号37で表す。
【0063】
エアチャンバ41は、エア配管37d,37eの単位長当たりの容量よりも大容量に構成されている。エアチャンバ41は、血圧測定時に、外空気袋211で取得された脈波が内空気袋212、第2空気袋220側へ伝わるのを減衰させる。細管42は、エア配管37d,37eの単位長当たりの容量よりも小容量に構成されている。細管42は、血圧測定時に、内空気袋212で取得された脈波が第2空気袋220側へ伝わるのを減衰させる。したがって、血圧測定時に、外空気袋211によって取得された脈波(振動)が、エア配管37を介して、第2空気袋220によって検出される被測定部位90を通る動脈からの脈波(振動)に混入するのを抑制できる。この結果、血圧測定の精度を高く維持することができる。
【0064】
圧力センサ31と発振回路310は、第2空気袋220内の圧力を検出する圧力検出部として働く。圧力センサ31は、例えば、ピエゾ抵抗式圧力センサであり、エア配管38を介して、カフ20をなす第2空気袋220内の圧力(カフ圧)を検出する。この例では、発振回路310は、圧力センサ31からのピエゾ抵抗効果による電気抵抗の変化に基づく電気信号値に基づき発振して、圧力センサ31の電気信号値に応じた周波数を有する周波数信号を制御部110に出力する。この例では、カフ20をなす各空気袋211,212,220内に空気を供給し又は排気するエア配管37とは別に、第2空気袋220内の圧力を検出するためのエア配管38が設けられている。したがって、血圧測定時に、外空気袋211によって取得された脈波(振動)が、第2空気袋220によって検出される被測定部位90を通る動脈からの脈波(振動)に混入するのを、抑制できる。この結果、血圧測定の精度をさらに高く維持することができる。
【0065】
(血圧測定用カフの装着態様)
上記カフ20は、
図4(被測定部位90を通る動脈91に沿った断面)に示したように、被測定部位(この例では、上腕)90のうち圧迫の対象となる特定の閉領域90Aに対して第1空気袋210が対応する状態で、帯状の外布21が被測定部位90を取り巻くことによって装着される。なお、装着状態では、図示しない面ファスナによって、外布21が緩まないように固定される。この装着状態では、被測定部位90の特定の閉領域90Aのうち外周領域90s(環状の領域)に対して、厚さ方向(被測定部位90の外周面に対して垂直な方向)に関して、ダンパー層280Lの上流側セグメント281または下流側セグメント282と、第1空気袋210の外空気袋211と、外布21とが、この順に並ぶ。被測定部位90の特定の閉領域90Aのうち内部領域90i(中心領域90cを除く)に対して、厚さ方向に関して、ダンパー層280Lの上流側セグメント281または下流側セグメント282と、第1空気袋210(この例では、内空気袋212を内包した外空気袋211)と、外布21とが、この順に並ぶ。被測定部位90の特定の閉領域90Aのうち中心領域90cに対して、厚さ方向に関して、第2空気袋220と、ダンパー層280Lの中心セグメント283と、第1空気袋210(この例では、内空気袋212を内包した外空気袋211と、外布21とが、この順に並ぶ。
【0066】
(血圧測定)
図5は、ユーザが血圧計100によって血圧測定を行う際の動作フローを示している。
【0067】
カフ20が被測定部位90に装着された装着状態で、ユーザが本体10に設けられた操作部52によって測定開始を指示すると、制御部110は、初期化を行う(
図5のステップS1)。具体的には、制御部110は、処理用メモリ領域を初期化するとともに、ポンプ32をオフ(停止)し、弁33を開いた状態で、圧力センサ31の0mmHg調整(大気圧を0mmHgに設定する。)を行う。
【0068】
次に、制御部110は圧力制御部として働いて、弁駆動回路330を介して弁33を閉じ(ステップS2)、続いて、ポンプ駆動回路320を介してポンプ32をオン(起動)して、カフ20の加圧を開始する(ステップS3)。すなわち、制御部110は、ポンプ32からエア配管37を通してカフ20(外空気袋211と内空気袋212と第2空気袋220)に空気を供給する。これとともに、圧力センサ31は圧力検出部として働いて、第2空気袋220の圧力を、エア配管38を通して検出する。制御部110は、圧力センサ31の出力に基づいて、ポンプ32による加圧速度を制御する。
【0069】
このとき、
図4に示した第2空気袋220、外空気袋211および内空気袋212が被測定部位90から遠ざかる向きの膨張は、全体として外布21によって規制される。したがって、第2空気袋220、外空気袋211および内空気袋212は、被測定部位90のうち特定の閉領域90Aを押圧する向きに膨張する。これにより、被測定部位90の特定の閉領域90Aが圧迫されて、特定の閉領域90Aを通る動脈91が阻血される。詳しくは、被測定部位90の特定の閉領域90Aのうち外周領域90sは、ダンパー層280Lの上流側セグメント281または下流側セグメント282を介して外空気袋211によって押圧されて、特定の閉領域90Aを通る動脈91の上流側の端部91u、下流側の端部91dが圧迫される。特定の閉領域90Aのうち内部領域90i(中心領域90cを除く)は、ダンパー層280Lの上流側セグメント281または下流側セグメント282を介して第1空気袋210(この例では、外空気袋211のうち内空気袋212が存する部分)によって押圧されて、特定の閉領域90Aを通る動脈91の上流側の端部91uと中央部分91cとの間の上流側遷移部分91iu、および、下流側の端部91dと中央部分91cとの間の下流側遷移部分91idが圧迫される。ここで、特定の閉領域90Aを通る動脈91のうち中心領域90cに存する部分を、中央部分91cと呼んでいる。また、被測定部位90の特定の閉領域90Aのうち中心領域90cは、第2空気袋220と、ダンパー層280Lの中心セグメント283を介して設けられた第1空気袋210(この例では、外空気袋211のうち内空気袋212が存する部分)とによって押圧されて、特定の閉領域90Aを通る動脈91のうち中央部分91cが圧迫される。
【0070】
次に、
図5のステップS4で、制御部110は、圧力センサ31の出力に基づいて、カフ20(この例では、第2空気袋220)の圧力(
図14の上部に示すカフ圧Pc)が予め定められた値(所定圧)Puに達したか否かを判断する。ここで、この所定圧Puは、被験者の想定される血圧値を十分上回るように、例えば300mmHgというように定められていてもよいし、前回測定された被験者の血圧値プラス40mmHgというように定められていてもよい。制御部110は、カフ圧Pcが上述の所定圧Puに達するまで、加圧を継続し、カフ圧Pcが上述の所定圧Puに達すると(ステップS4でYes)、ポンプ32を停止する(ステップS5)。続いて、制御部110は、弁駆動回路330を介して弁33を徐々に開く(ステップS6)。これにより、カフ圧Pcを略一定速度で減圧してゆく。ここで、エア配管38を通して検出されるカフ圧Pcには、脈波による脈波情報としての脈波信号(変動成分)Pm(
図14の下部に拡大して示す)が重畳されている。
【0071】
この減圧過程で、圧力センサ31は圧力検出部として働いて、第2空気袋220の圧力、言い換えれば、
図4に示した特定の閉領域90Aを通る動脈91(特に、第2空気袋220に対向する中央部分91c)からの脈波による脈波情報としての脈波信号(変動成分)Pmを、フィルタを通して抽出する。制御部110は血圧算出部として働いて、この時点で取得されている脈波信号Pmに基づいて、公知のオシロメトリック法により血圧値(収縮期血圧SBP(Systolic Blood Pressure)と拡張期血圧DBP(Diastolic Blood Pressure))の算出を試みる(
図5のステップS7)。
【0072】
この時点で、データ不足のために未だ血圧値を算出できない場合は(ステップS8でNO)、算出できるまでステップS6~S8の処理を繰り返す。
【0073】
このようにして血圧値の算出ができたら(ステップS8でYes)、制御部110は圧力制御部として働いて、弁33を開いて、カフ20(外空気袋211と内空気袋212と第2空気袋220)内の空気を急速排気する制御を行う(ステップS9)。なお、
図14の例では、時刻t1でポンプ32が停止され、時刻t2で収縮期血圧SBPが得られ、また、時刻t3で拡張期血圧DBPが得られている。
【0074】
この後、制御部110は、算出した血圧値を表示器50へ表示し(ステップS10)、血圧値をメモリ51へ保存する制御を行う。
【0075】
なお、血圧算出は、カフ20の減圧過程でなく、加圧過程で行われてもよい。
【0076】
ここで、
図4に示した特定の閉領域90Aのうち外周領域90s(特定の閉領域90Aを通る動脈91の上流側の端部91u、下流側の端部91dが存在する)を圧迫する外空気袋211は、被測定部位90よりも上流側の動脈91、下流側の動脈91からエッジ効果によって浸入する血流の脈波(振動)の影響を受け易い。しかしながら、このカフ20では、外周領域90sのうち動脈91の上流側、下流側に相当する端部91u,91dと外空気袋211との間には、ダンパー層280Lの上流側セグメント281または下流側セグメント282が介在する。したがって、外周領域90sのうち動脈91の上流側、下流側に相当する端部91u,91dからエッジ効果によって外空気袋211へ浸入しようとする血流の脈波(振動)D1,D2は、上流側セグメント281または下流側セグメント282によって減衰され、外空気袋211には伝わり難い。つまり、エッジ効果によって外空気袋211に伝わる脈波(振動)をD1′,D2′とすると、D1′<D1、および、D2′<D2となる。さらに、外空気袋211は、外空気袋211に内包された内空気袋212と、ダンパー層280Lの中心セグメント283とを介して、第2空気袋220から分離されている。したがって、外空気袋211によって取得された脈波(振動)D1′,D2′は、内空気袋212とダンパー層280Lの中心セグメント283によって減衰され、第2空気袋220には伝わり難い。つまり、エッジ効果によって第2空気袋220に伝わる脈波(振動)をD3とすると、D3<(D1′+D2′)となる。したがって、このカフ20では、第2空気袋220によって、主に、特定の閉領域90Aを通る動脈91のうち中央部分91cからの脈波のみによる脈波情報が検出され得る。したがって、エッジ効果によるS/N比の低下を有効に防止でき、この結果、血圧測定の精度を高めることができる。
【0077】
また、上記カフ20では、既述のように、外空気袋211に対して、内空気袋212とダンパー層280Lの中心セグメント283と第2空気袋220とは、特定の閉領域90A内で動脈91が通る方向に沿って下流側へ偏って配されている。したがって、第2空気袋220は、特定の閉領域90A内で、特定の閉領域90Aを通る動脈91の上流側の端部91uから比較的遠い領域に対応して配されている。これにより、特定の閉領域90A内で、外空気袋211によって取得された動脈91の上流側の端部91uからの脈波(振動)D1が、第2空気袋220に伝わり難くなる。したがって、このカフ20では、エッジ効果によるS/N比の低下をさらに有効に防止でき、この結果、血圧測定の精度をさらに高めることができる。
【0078】
また、上記血圧計100(カフ20)では、エア配管37d,37e同士の間にフィルタとしてのエアチャンバ41が介挿され、また、エア配管37d,37e同士の間にフィルタとしての細管42が介挿されている。したがって、血圧測定時に、外空気袋211および/または内空気袋212によって取得された脈波(振動)が、エア配管37を介して、第2空気袋220に混入するのを抑制できる。さらに、上記血圧計100(カフ20)では、カフ20をなす各空気袋211,212,220内に空気を供給し又は排気するエア配管37とは別に、第2空気袋220内の圧力を検出するためのエア配管38が設けられている。したがって、血圧測定時に、外空気袋211および/または内空気袋212によって取得された脈波(振動)が、第2空気袋220によって検出される被測定部位90を通る動脈からの脈波(振動)に混入するのを、抑制できる。したがって、血圧測定の精度を高く維持することができる。
【0079】
なお、エア配管37c,37e,37gは、フィルタ(エアチャンバ41、細管42など)を介して互いに通気可能に接続されているのではなく、互いに完全に分離されていてもよい。これにより、外空気袋211によって取得された脈波(振動)が、エア配管37を介して、第2空気袋220によって検出される脈波(振動)に混入するのをさらに防止できる。
【0080】
上の例では、内空気袋212は、ポリウレタン樹脂からなる一対のシートを互いに対向させ、上記一対のシートの外周縁を互いに溶着して作製されているものとした。しかしながら、これに限られるものではない。例えば、
図3Cに示す内空気袋212′のように、上記一対のシート(丸角の長方形)の外周縁の全周に沿って、厚さ方向に伸縮可能な蛇腹形状の側面212sを有していてもよい。この構成によれば、装着状態で、外空気袋211が厚さ方向に膨張したり収縮したりするのを、内空気袋212′が妨げることがない。
【0081】
また、上の例では、ダンパー層280Lは、中心セグメント283と、カフ20の幅方向に関してそれぞれこの中心セグメント283の両側に連結して設けられた上流側セグメント281、下流側セグメント282とを含む、3連構造を有するものとした。しかしながら、これに限られるものではない。例えば、
図6(A)、
図6(B)、
図6(C)は、カフ20のダンパー層280Lが変形された態様を、それぞれ
図2(A)、
図2(B)、
図2(C)に対応して示している。この例では、外布21に沿った面内で、ダンパー層280の形状、寸法は第2空気袋220の形状、寸法とそれぞれ同じに設定されている。すなわち、
図6に示すダンパー層280は、第2空気袋220と同じ寸法の丸角の長方形の形状を有している。この例では、ダンパー層280は、空間的に連続した一体の、シリコーンゲルまたはシリコーンゴムなどの脈波の振動を高効率で減衰させる材料からなっている。これにより、ダンパー層280を簡単に作製することができる。ダンパー層280は、外空気袋211の対向する面に接着剤(図示せず)によって接着されている。第2空気袋220も、ダンパー層280の対向する面に接着剤(図示せず)によって接着されている。これにより、外空気袋211に対するダンパー層280、第2空気袋220の相対的な位置ずれが防止される。
【0082】
このダンパー層280を備えた場合、上流側セグメント281および下流側セグメント282が省略されていることから、血圧測定時に、エッジ効果によって外空気袋211に伝わる脈波(振動)をD1′,D2′とすると、D1′≒D1、および、D2′≒D2となる。しかし、ダンパー層280が脈波の振動を高効率で減衰させるので、エッジ効果によって第2空気袋220に伝わる脈波(振動)をD3とすると、D3≪(D1′+D2′)となる。したがって、エッジ効果によるS/N比の低下を有効に防止でき、この結果、血圧測定の精度を高めることができる。
【0083】
(第2実施形態の血圧測定用カフ)
図7(A)は、上述のカフ20とは別の第2実施形態の血圧測定用カフ20Aを展開した状態で、カフ20Aの平面レイアウトを模式的に示している。
図7(B)は、
図7(A)においてカフ20Aをなす外布21を省略した状態で、VIIB-VIIB線矢視断面を示している。
図7(C)は、
図7(A)においてカフ20Aをなす外布21を省略した状態で、VIIC-VIIC線矢視断面を示している。
図8は、
図4に対応して、上記カフ20Aが被測定部位(この例では、上腕)90の外周を取り巻いて装着された態様を示している。なお、第1実施形態におけるのと同一の構成要素には、同一の符号を付している。
【0084】
図8によって分かるように、カフ20Aは、概ね、最外周に位置する帯状の外布21と、この外布21の被測定部位90に対向する側の面に沿って設けられた第1空気袋210Aと、この第1空気袋210A(特に、内空気袋212A)の被測定部位90に対向する側の面に沿って設けられたダンパー層280と、このダンパー層280の被測定部位90に対向する側の面に沿って設けられた第2空気袋220とを備えている。
【0085】
この例では、
図7(A)によって分かるように、第1空気袋210Aは、特定の閉領域90Aのうち外周領域90s(その平面レイアウトについては
図4参照)に相当する環状の形状(これを「第2形状」と呼ぶ。)を有する外空気袋211Aと、この外空気袋211Aの環に取り囲まれた空き領域211wに配された内空気袋212Aとを含んでいる。内空気袋212Aは、空き領域211wの形状に対応した丸角の長方形の形状を有している。
【0086】
図7(A)、
図7(B)から分かるように、先の例と同様に、外空気袋211Aに対して、内空気袋212Aは、特定の閉領域90A内で動脈91が通る方向に沿って下流側(
図2(A)における右側)へ偏って配置されている。詳しくは、内空気袋212Aの中心を通る縦線をCとすると、外空気袋211Aの外周縁211oの左辺と縦線Cとの間の左右方向の距離はX1=7cm、外空気袋211Aの外周縁211oの右辺と縦線Cとの間の左右方向の距離はX2=6cmにそれぞれ設定されている。一方、
図7(A)、
図7(C)から分かるように、外布21の長手方向に関して、外空気袋211Aの中心と内空気袋212Aの中心とは一致している。
【0087】
この例では、外空気袋211Aの内周縁211iと、この内周縁211iに隣り合う内空気袋212Aの外周縁212oとが、外空気袋211Aの環に沿って全周にわたって互いに溶着されている。理解の容易のため、
図7(A)~
図7(C)、
図8では、溶着箇所211mに斜線が付されている。この溶着により、外空気袋211Aに対する内空気袋212Aの相対的な位置ずれが防止される。特に、外空気袋211Aと内空気袋212Aとが膨張したときに、内空気袋212Aが例えば
図8において左右方向に位置ずれするのが防止される。この結果、血圧測定の精度を高く維持することができる。
【0088】
このカフ20Aにおける第2空気袋220は、
図2(A)~
図2(C)において説明した第2空気袋220と全く同様に構成されている。また、このカフ20Aにおけるダンパー層280は、
図6(A)~
図6(C)において説明したダンパー層280と全く同様に構成されている。ダンパー層280は、内空気袋212Aの対向する面に接着剤(図示せず)によって接着されている。第2空気袋220も、ダンパー層280の対向する面に接着剤(図示せず)によって接着されている。このカフ20Aにおけるその他の点は、上述のカフ20におけるのと全く同様に構成されており、同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する。なお、
図7(A)では、簡単のため、エア配管の図示が省略されているが、このカフ20Aにも、
図2(A)におけるのと同様にエア配管が接続されている。このカフ20Aは、
図1に示したのと同じ態様で、血圧計100の本体10に接続されている。
【0089】
上記カフ20Aは、
図8に示したように、被測定部位(この例では、上腕)90のうち圧迫の対象となる特定の閉領域90Aに対して第1空気袋210Aが対応する状態で、帯状の外布21が被測定部位90を取り巻くことによって装着される。この装着状態では、被測定部位90の特定の閉領域90Aのうち外周領域90s(環状の領域)に対して、厚さ方向(被測定部位90の外周面に対して垂直な方向)に関して、第1空気袋210Aをなす外空気袋211Aと、外布21とが、この順に並ぶ。被測定部位90の特定の閉領域90Aのうち内部領域90i(中心領域90cを除く)に対して、厚さ方向に関して、第1空気袋210Aをなす内空気袋212Aと、外布21とが、この順に並ぶ。被測定部位90の特定の閉領域90Aのうち中心領域90cに対して、厚さ方向に関して、第2空気袋220と、ダンパー層280と、内空気袋212Aと、外布21とが、この順に並ぶ。
【0090】
この装着状態で、血圧測定時には、
図8に示した第2空気袋220、外空気袋211Aおよび内空気袋212Aが被測定部位90から遠ざかる向きの膨張は、全体として外布21によって規制される。したがって、第2空気袋220、外空気袋211Aおよび内空気袋212Aは、被測定部位90のうち特定の閉領域90Aを押圧する向きに膨張する。これにより、被測定部位90の特定の閉領域90Aが圧迫されて、特定の閉領域90Aを通る動脈91が阻血される。詳しくは、被測定部位90の特定の閉領域90Aのうち外周領域90sは、外空気袋211Aによって押圧されて、特定の閉領域90Aを通る動脈91の上流側の端部91u、下流側の端部91dが圧迫される。特定の閉領域90Aのうち内部領域90i(中心領域90cを除く)は、第1空気袋210Aをなす内空気袋212Aによって押圧されて、特定の閉領域90Aを通る動脈91の上流側の端部91uと中央部分91cとの間の上流側遷移部分91iu、および、下流側の端部91dと中央部分91cとの間の下流側遷移部分91idが圧迫される。また、被測定部位90の特定の閉領域90Aのうち中心領域90cは、第2空気袋220と、ダンパー層280を介して設けられた第1空気袋210Aをなす内空気袋212Aとによって押圧されて、特定の閉領域90Aを通る動脈91の中央部分91cが圧迫される。そして、第2空気袋220、外空気袋211Aおよび内空気袋212Aに対する加圧過程または減圧過程で、第2空気袋220によって、特定の閉領域90Aを通る動脈91のうち中央部分91cからの脈波による脈波情報としての脈波信号Pm(
図14参照)が検出される。この脈波信号Pmに基づいて、オシロメトリック法により血圧が算出される。
【0091】
ここで、
図8に示した特定の閉領域90Aのうち外周領域90s(特定の閉領域90Aを通る動脈91の上流側の端部91u、下流側の端部91dが存在する)を圧迫する外空気袋211Aは、被測定部位90よりも上流側の動脈91、下流側の動脈91からエッジ効果によって浸入する血流の脈波(振動)の影響を受け易い。しかしながら、このカフ20Aでは、外空気袋211Aと内空気袋212Aとの間に溶着箇所211mが介在する。したがって、外周領域90sのうち動脈91の上流側、下流側に相当する端部91u,91dからエッジ効果によって外空気袋211Aへ浸入しようとする血流の脈波(振動)D1,D2は、溶着箇所211mによって減衰され、内空気袋212Aには伝わり難い。つまり、エッジ効果によって内空気袋212Aに伝わる脈波(振動)をD1″,D2″とすると、D1″<D1、および、D2″<D2となる。さらに、内空気袋212Aは、ダンパー層280を介して、第2空気袋220から分離されている。したがって、内空気袋212Aによって取得された脈波(振動)D1″,D2″は、ダンパー層280によって減衰され、第2空気袋220にさらに伝わり難くなる。つまり、エッジ効果によって第2空気袋220に伝わる脈波(振動)をD3とすると、D3≪(D1″+D2″)となる。したがって、このカフ20Aでは、第2空気袋220によって、主に、特定の閉領域90Aを通る動脈91のうち中央部分91cからの脈波のみによる脈波情報が検出され得る。したがって、エッジ効果によるS/N比の低下を有効に防止でき、この結果、血圧測定の精度を高めることができる。
【0092】
また、上記カフ20Aでは、既述のように、外空気袋211Aに対して、内空気袋212Aとダンパー層280と第2空気袋220とは、特定の閉領域90A内で動脈91が通る方向に沿って下流側へ偏って配されている。したがって、第2空気袋220は、特定の閉領域90A内で、特定の閉領域90Aを通る動脈91の上流側の端部91uから比較的遠い領域に対応して配されている。これにより、特定の閉領域90A内で、外空気袋211Aによって取得された動脈91の上流側の端部91uからの脈波(振動)D1が、第2空気袋220に伝わり難くなる。したがって、このカフ20Aでは、エッジ効果によるS/N比の低下をさらに有効に防止でき、この結果、血圧測定の精度をさらに高めることができる。
【0093】
(第1の変形例)
図9は、
図7のカフ20Aを変形した第1の変形例としての血圧測定用カフ20Bの平面レイアウトを、
図7(A)に対応して示している。なお、
図9において、
図7におけるのと同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する(
図10、
図11、
図12でも同様。)。
【0094】
このカフ20Bでは、外空気袋211Aの内周縁211iと、この内周縁211iに隣り合う内空気袋212Aの外周縁212oとが、外空気袋211Aの環に沿って部分的に互いに溶着されている。具体的には、外空気袋211Aの内周縁211iをなす上辺211i1と、内空気袋212Aの外周縁212oをなす上辺212o1とが、それらの辺の中央部で溶着されている(溶着箇所を符号211m1で示す。)。外空気袋211Aの内周縁211iをなす下辺211i2と、内空気袋212Aの外周縁212oをなす下辺212o2とが、それらの辺の中央部で溶着されている(溶着箇所を符号211m2で示す。)。外空気袋211Aの内周縁211iをなす左辺211i3と、内空気袋212Aの外周縁212oをなす左辺212o3とが、それらの辺の中央部で溶着されている(溶着箇所を符号211m3で示す。)。外空気袋211Aの内周縁211iをなす右辺211i4と、内空気袋212Aの外周縁212oをなす右辺212o4とが、それらの辺の中央部で溶着されている(溶着箇所を符号211m4で示す。)。
【0095】
これらの溶着箇所211m1~211m4により、外空気袋211Aに対する内空気袋212Aの相対的な位置ずれが防止される。特に、外空気袋211Aと内空気袋212Aとが膨張したときに、内空気袋212Aが例えば
図9において左右方向に位置ずれするのが防止される。また、外空気袋211Aと内空気袋212Aとの間に溶着箇所211m1~211m4が介在するので、外空気袋211Aによって取得された脈波(振動)が内空気袋212Aへ直接伝わることが無い。しかも、外空気袋211Aから内空気袋212Aへ脈波(振動)が伝わる箇所が4つの溶着箇所211m1~211m4に限られている。これにより、
図7のカフ20Aの場合に比して、特定の閉領域90A内で、外空気袋211Aによって取得された脈波(振動)が、第2空気袋220にさらに伝わり難くなる。したがって、このカフ20Bでは、エッジ効果によるS/N比の低下をさらに有効に防止でき、この結果、血圧測定の精度をさらに高めることができる。
【0096】
(第2の変形例)
図10は、
図7のカフ20Aを変形した第2の変形例としての血圧測定用カフ20Cの平面レイアウトを、
図7(A)に対応して示している。
【0097】
このカフ20Cでは、外空気袋211Aの内周縁211iの動脈91から離れた辺と、内空気袋212Aの外周縁212oの動脈91から離れた辺とが、部分的に互いに溶着されている。一方、外空気袋211Aの内周縁211iの動脈91に交差する辺と、内空気袋212Aの外周縁212oの動脈91に交差する辺とが、互いに離間している。具体的には、外空気袋211Aの内周縁211iをなす上辺211i1と、内空気袋212Aの外周縁212oをなす上辺212o1とが、それらの辺の中央部で溶着されている(溶着箇所を符号211m1で示す。)。外空気袋211Aの内周縁211iをなす下辺211i2と、内空気袋212Aの外周縁212oをなす下辺212o2とが、それらの辺の中央部で溶着されている(溶着箇所を符号211m2で示す。)。一方、外空気袋211Aの内周縁211iをなす左辺211i3と、内空気袋212Aの外周縁212oをなす左辺212o3とが、互いに離間している。外空気袋211Aの内周縁211iをなす右辺211i4と、内空気袋212Aの外周縁212oをなす右辺212o4とが、互いに離間している。
【0098】
上述の溶着箇所211m1,211m2により、外空気袋211Aに対する内空気袋212Aの相対的な位置ずれが防止される。特に、外空気袋211Aと内空気袋212Aとが膨張したときに、内空気袋212Aが例えば
図10において左右方向に位置ずれするのが防止される。また、外空気袋211Aと内空気袋212Aとの間に溶着箇所211m1,211m2が介在するので、外空気袋211Aによって取得された脈波(振動)が内空気袋212Aへ直接伝わることが無い。しかも、
図9のカフ20Bの場合に比して、外空気袋211Aから内空気袋212Aへ脈波(振動)が伝わる箇所が、溶着箇所211m1,211m2に限られている。これにより、外空気袋211Aのうち、被測定部位90よりも上流側の動脈、下流側の動脈からエッジ効果によって浸入する血流の脈波(振動)の影響を最も受け易い部分(動脈91に交差する部分)211A3,211A4から、第2空気袋220への、脈波(振動)の伝達経路(破線で示す)C1,C1′,C2,C2′が遠くなる。したがって、外空気袋に211Aよって取得された脈波(振動)は、第2空気袋220にさらに伝わり難くなる。したがって、このカフ20Cでは、エッジ効果によるS/N比の低下をさらに有効に防止でき、この結果、血圧測定の精度をさらに高めることができる。
【0099】
(第3の変形例)
図11(A)、
図11(B)、
図11(C)は、
図7のカフ20Aを変形した第3の変形例としての血圧測定用カフ20Dを、それぞれ
図7(A)、
図7(B)、
図7(C)に対応して示している。
図11(B)は、
図11(A)においてカフ20Dをなす外布21を省略した状態で、XIB-XIB線矢視断面を示している。
図11(C)は、
図11(A)においてカフ20Dをなす外布21を省略した状態で、XIC-XIC線矢視断面を示している。
【0100】
このカフ20Dでは、第1空気袋210Aをなす外空気袋211A、内空気袋212Aに代えて、第1空気袋210Bをなす外空気袋211B、内空気袋212Bを備えている。
【0101】
この例では、
図11(A)によって分かるように、第1空気袋210Bは、特定の閉領域90Aのうち外周領域90s(その平面レイアウトについては
図4参照)に相当する環状の形状(第2形状)を有する外空気袋211Bと、この外空気袋211Bの環に取り囲まれた空き領域211wに配された内空気袋212Bとを含んでいる。内空気袋212Bは、空き領域211wの形状に対応した丸角の長方形の形状を有している。この例では、外布21に沿った面内で、外空気袋211Bは、長手方向寸法23cm、幅方向寸法12cmに設定されている。また、内空気袋212Bは、第2空気袋220よりも若干大きく、長手方向寸法7cm、幅方向寸法4cmに設定されている。
【0102】
外空気袋211Bは、外周縁211o、内周縁211iの全周に沿って、それぞれ厚さ方向に伸縮可能な蛇腹形状の側面211t1,211t2を有している。内空気袋212Bは、外周縁211oの全周に沿って、厚さ方向に伸縮可能な蛇腹形状の側面212tを有している。外空気袋211Bの内周縁211iの蛇腹形状の側面211t2と、内空気袋212Bの外周縁211oの蛇腹形状の側面212tとは、互いに対応する凹凸を有している。この例では、外空気袋211Bの内周縁211iと、この内周縁211iに隣り合う内空気袋212Bの外周縁212oとが、互いに嵌合されている。
【0103】
この構成によれば、装着状態で第2空気袋220、外空気袋211Bおよび内空気袋212Bに空気が供給された場合、蛇腹形状の側面211t1,211t2,212tが厚さ方向に伸びることによって、外空気袋211Bと内空気袋212Bが厚さ方向に膨張し易い。したがって、被測定部位90の特定の閉領域90Aを容易に圧迫できる。また、外空気袋211Bと内空気袋212Bとが嵌合されている結果、たとえ装着状態で第2空気袋220、外空気袋211Bおよび内空気袋212Bに空気が供給された場合であっても、外布21に沿った面内で、外空気袋211Bに対して内空気袋212Bの相対的な位置が保たれ、この結果、ダンパー層280を介して第2空気袋220の相対的な位置も保たれる。
【0104】
(第4の変形例)
図12は、
図7のカフ20Aを変形した第4の変形例としての血圧測定用カフ20Eの断面構造を、
図7(B)に対応して示している。
【0105】
このカフ20Eでは、上述のカフ20Aに対して、第1空気袋210Aをなす外空気袋211Aと内空気袋212Aとが互いに溶着(連結)されておらず、互いに離間している点が異なっている。内空気袋212Aは、外空気袋211Aの環に取り囲まれた空き領域211wに配されている。このカフ20Eでは、
図12中に示すように、外布21の被測定部位90に対向する面に、接着剤241,242によって外空気袋211A、内空気袋212Aがそれぞれ接着されている。
【0106】
これらの接着により、外空気袋211Aに対する内空気袋212Aの相対的な位置ずれが防止される。特に、外空気袋211Aと内空気袋212Aとが膨張したときに、内空気袋212Aが例えば
図12において左右方向に位置ずれするのが防止される。したがって、血圧測定の精度を高めることができる。
【0107】
なお、既述のカフ20A,20B,20C,20Dでは、外布21に対して第1空気袋210,210Aが接着されることを必要としない。例えば、外布21と第1空気袋210,210Aとが離間しないように、外布21に対して第1空気袋210,210Aが係合されてもよい。または、外布21と、伸縮自在な内布(図示せず)とを対向させて袋状に構成し、その袋内に、第1空気袋210,210Aとダンパー層280と第2空気袋220とを一体に収容してもよい。その際、外布21に沿って第1空気袋210,210Aが配され、内布に沿って第2空気袋220が配されるものとする。
【0108】
(検証実験)
図13は、
図2に示した血圧測定用カフ20の性能を一般的な血圧測定用カフ(市販の血圧計を構成するカフ)の性能と比較するための検証実験における測定態様を示している。この例では、被験者80の被測定部位90としての左上腕に
図2に示したカフ20が装着されている。比較のための被測定部位90′としての右上腕に一般的な血圧測定用カフ900が装着されている(一般的なカフ900は1つの空気袋920のみを含んでいる。)。カフ20が含む第1空気袋210、第2空気袋220には、エア配管37を通して、ポンプ32から流体としての空気が供給されるようになっている。また、第2空気袋220の圧力(カフ圧Pc)は、エア配管38を通して、圧力センサ31によって検出されるようになっている。一方、一般的なカフ900が含む空気袋920には、エア配管37と並列に設けられたエア配管937を通して、ポンプ32から流体としての空気が供給されるようになっている。また、空気袋920の圧力(カフ圧Pc)は、エア配管937から分岐したエア配管938を通して圧力センサ931によって検出されるようになっている。
【0109】
この
図13の測定態様によって、カフ20、カフ900に対する加圧、減圧を並行して行って、カフ20によって得られる脈波信号Pmと、カフ900によって得られる脈波信号Pm′とを並行して観測した。
図15は、
図14において収縮期血圧(SBP)が得られた時刻t2近傍の時間軸を拡大して、
図2のカフ20によって得られる脈波信号Pm(実線で示す)を、一般的なカフ900によって得られる脈波信号Pm′(破線で示す)と比較して示している。一般的なカフ900によって得られる脈波信号Pm′では、時刻t2の前後で振幅(ピーク・ツゥ・ピーク)にあまり差が無いのに対して、
図2のカフ20によって得られる脈波信号Pmでは、時刻t2の前後で振幅(ピーク・ツゥ・ピーク)に比較的大きい差が生じており、S/N比が改善されている。また、
図16は、
図14において拡張期血圧(DBP)が得られた時刻t3近傍の時間軸を拡大して、
図2のカフ20によって得られる脈波信号Pm(実線で示す)を、一般的なカフ900によって得られる脈波信号Pm′(破線で示す)と比較して示している。時刻t3の前後でも、時刻t2の前後におけるのと同様に、S/N比が改善されている。しかも、一般的なカフ900によって得られる脈波信号Pm′では、時刻t3の前後で脈波立ち上がり部分Pm1′,Pm2′,Pm3′にあまり変化が無いのに対して、
図2のカフ20によって得られる脈波信号Pmでは、時刻t3の前後で脈波立ち上がり部分Pm1,Pm2,Pm3に比較的大きい変化が生じている(Pm1,Pm2では変形が大きいが、Pm3では変形が小さい。)。したがって、拡張期血圧(DBP)を検出し易い。このように、
図2のカフ20では、一般的なカフ900に比して、エッジ効果によるS/N比の低下を有効に防止でき、血圧測定の精度を高められることを検証できた。
【0110】
上の例では、外布21に沿った面内で、外空気袋211,211A,210B、内空気袋212,212′,212A,212B、ダンパー層280、第2空気袋220は、それぞれ丸角の長方形の形状を有するものとしたが、これに限られるものではない。それらの平面的な形状は、丸角の正方形であってもよいし、楕円形、円形などであってもよい。
【0111】
また、上の例では、被測定部位90は上腕であるものとしたが、これに限られるものではない。被測定部位90は、手首などの上腕以外の上肢、または、足首などの下肢であってもよい。
【0112】
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。上述した複数の実施の形態は、それぞれ単独で成立し得るものであるが、実施の形態同士の組みあわせも可能である。また、異なる実施の形態の中の種々の特徴も、それぞれ単独で成立し得るものであるが、異なる実施の形態の中の特徴同士の組みあわせも可能である。
【符号の説明】
【0113】
10 本体
20,20A,20B,20C,20D,20E 血圧測定用カフ
21 外布
31 圧力センサ
32 ポンプ
37,37a~37g,38 エア配管
100 血圧計
210,210A,210B 第1空気袋
211,211A,211B 外空気袋
212,212′,212A,212B 内空気袋
220 第2空気袋
280,280L ダンパー層