(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ホウ素キレート化合物、近赤外光吸収材料、薄膜及び有機エレクトロニクスデバイス
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20240730BHJP
H10K 30/60 20230101ALI20240730BHJP
C09B 23/04 20060101ALI20240730BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C07F5/02 D CSP
H10K30/60
C09B23/04
C09K3/00 105
(21)【出願番号】P 2020185493
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2020007212
(32)【優先日】2020-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155516
【氏名又は名称】小笠原 亜子佳
(72)【発明者】
【氏名】久保 由治
(72)【発明者】
【氏名】前田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雄太
(72)【発明者】
【氏名】貞光 雄一
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/035303(WO,A1)
【文献】特開2012-199541(JP,A)
【文献】国際公開第2019/031456(WO,A1)
【文献】Lu, Hua et al.,Structural modification strategies for the rational design of red/NIR region BODIPYs,Chemical Society Reviews,2014年,43(13),,4778-4823
【文献】Loudet, Aurore et al.,BODIPY dyes and their derivatives: Syntheses and spectroscopic properties,Chemical Reviews ,2007年,107(11),4891-4932
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F、C07D、H10K、C09B、C09K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】
(式(1)中、Z
1およびZ
2は各々独立に芳香族炭化水素化合物の芳香環から水素原子を二つ除いた二価の連結基又は複素環化合物の複素環から水素原子を二つ除いた二価の連結基を表す。R
1乃至R
5は各々独立に水素原子、アリール基、複素環基、アルキル基又はハロゲン原子を表す。R
6はアリール基又は複素環基を表す。Z
1、Z
2およびR
1乃至R
6はいずれも置換基を有していてもよい。)
で表されるホウ素キレート化合物。
【請求項2】
Z
1とZ
2が同一の二価の連結基である請求項1に記載のホウ素キレート化合物。
【請求項3】
Z
1とZ
2が異なる二価の連結基である請求項1に記載のホウ素キレート化合物。
【請求項4】
R
6がアリール基である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のホウ素キレート化合物。
【請求項5】
R
5が水素原子である請求項1乃至4のいずれか一項に記載のホウ素キレート化合物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のホウ素キレート化合物を含む赤色光または近赤外光吸収材料。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のホウ素キレート化合物を含む有機薄膜。
【請求項8】
請求項7に記載の有機薄膜を含む光電変換素子。
【請求項9】
請求項8に記載の光電変換素子を備える光センサー。
【請求項10】
請求項8に記載の光電変換素子を備える撮像素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素キレート構造を有する新規化合物、光電変換素子、光センサー、撮像素子に関する。特に、近赤外領域に主たる吸収帯を有する光電変換素子及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
700乃至2500nmの波長領域に吸収帯を有する近赤外光吸収材料は、例えばCD-R(Compact Disk-Recordable)等の光情報記録媒体;サーマルCTP(Computer ToPlate)、フラッシュトナー定着、レーザー感熱記録等の印刷用途;熱遮断フィルム等の様々な用途で使用されており、また、選択的に特定波長域の光を吸収するという特性を用いて、PDP(Plasma Display Panel)等に用いられる近赤外光カットフィルターや、植物成長調整用フィルム等にも使用されている。更には、近赤外光吸収色素を溶媒に溶解又は分散させた近赤外光吸収インクを用いた印字物は、目視では認識が困難であって、かつ近赤外光検出器等でのみ読み取りが可能であることから、例えば偽造防止等を目的とした印字物等に使用される。
【0003】
このような不可視画像形成用の赤外光吸収材料としては、無機系の赤外光吸収材料と、有機系の赤外光吸収材料とが知られている。無機系の赤外光吸収材料としては、例えばイッテルビウム等の希土類金属や銅リン酸結晶化ガラス等が挙げられるが、無機系の赤外光吸収材料は一般的に近赤外領域の光吸収能が低く、不可視画像を形成する際に単位面積あたりの赤外光吸収材料が多量に必要となる。そのため、無機系の赤外光吸収材料を用いて形成した不可視画像の上にさらに可視画像を形成する場合には、不可視画像表面の凹凸が可視画像の表面形状に影響を与えてしまうことが問題であった。
【0004】
これに対して、有機系の赤外光吸収材料は近赤外領域の光の吸収能が高く、単位面積あたりの赤外線吸収材料が少量で不可視画像を形成することができるため、無機系の赤外光吸収材料を使用した場合のような不都合は生じない。そのため、現在に至るまで多くの有機系近赤外光吸収材料の検討が行われてきた。しかしながら、近赤外領域に吸収帯を示すシアニン色素、スクアリリウム色素及びジインモニウム色素等は何れも堅牢性に乏しく、その用途は限られている。
【0005】
この様な状況において、近年では赤色光から近赤外光の波長領域に吸収帯や蛍光帯を示すボロンジピロメテン色素(boron-dipyrromethene、以下「BODIPY」と称す。)の研究が盛んになされている(非特許文献1参照)。単純な構造のBODIPY色素は500nm付近に強い吸収帯を示すが、π共役系を拡張したり、電子供与性置換基を導入した芳香族基を導入したりすることで、近赤外光領域まで吸収波長を伸ばすことが可能である(非特許文献2)。
【0006】
非特許文献1及び2には、BODIPY骨格のピロール環にベンゼン環が縮環したジベンゾBODIPY化合物は、非縮環型のBODIPYよりも長波長シフトした吸収帯を示すことが記載されており、特許文献1には、該化合物を近赤外光吸収材料として光記録媒体に利用できることが記載されている。また、非特許文献1及び2には、B-Oキレート化による縮環構造とすることにより更に長波長シフトを達成できることが記載されており、特許文献2乃至4には、該縮環構造を有する化合物を用いた有機薄膜についても報告されている。更に、特許文献4には、BODIPYの3,5位にヘテロ環を連結し、B-Oキレート化したジピロメテンホウ素キレート化合物が記載されているが、それらの化合物の実施例は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開1999-255774号公報
【文献】特開2012-199541号公報
【文献】特開2016-166284号公報
【文献】国際公開第2013/035303号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Chem.Soc.Rev.,2014,43,4778-4823
【文献】Chem.Rev.,2007,107,4891-4932
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在主流の近赤外光吸収色素は耐熱性や耐光性に劣るという問題を抱えており、工業的に利用する際には、これらの問題の解決が重要となる。特に、有機デバイスに近赤外吸収色素を用いる場合、有機デバイス製造における電極形成や半導体封止層の導入などに必要なプロセス温度(通常は120乃至180℃)への適応性が不充分であるいった課題や、製造した有機半導体デバイスの高温環境下での耐久性、および連続駆動時の発熱などによるデバイス特性の低下などの課題につながる。このような観点から、デバイス製造プロセスに耐えうる耐熱性の高い材料の開発が望まれている。また有機光電変換素子をはじめとする種々の有機エレクトロニクスデバイス用途には、耐熱性以外にも電子輸送性、正孔輸送性等の要求特性を満たす材料が求められている。比較的耐熱性に優れたBODIPYは、上記要求を満たす可能性のある有望な材料であるが、近赤外光領域に吸収帯を有する材料は僅かであり、近赤外光領域に吸収帯を有する一部の材料も、主な吸収波長を可視光領域に有するものや合成が困難なものが殆どである。
【0010】
本発明の目的は、熱安定性が高く、有機エレクトロニクスデバイス等に容易に用い得る加工性を有し、かつ近赤外光領域に主たる吸収帯をもつ化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前記諸課題を解決するべく考究した結果、BODIPYのジピロメテン骨格における片側のピロール部のみを縮環拡張し、3,5位に置換した芳香環または複素環を以てB-Oキレート化による縮環構造を形成することを特徴とする新規のホウ素キレート化合物を用いることにより上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
[1]下記一般式(1)
【0012】
【0013】
(式(1)中、Z1およびZ2は各々独立に芳香族炭化水素化合物の芳香環から水素原子を二つ除いた二価の連結基又は複素環化合物の複素環から水素原子を二つ除いた二価の連結基を表す。R1乃至R5は各々独立に水素原子、アリール基、複素環基、アルキル基又はハロゲン原子を表す。R6はアリール基又は複素環基を表す。Z1、Z2およびR1乃至R6はいずれも置換基を有していてもよい。)で表されるホウ素キレート化合物、
[2]Z1とZ2が同一の二価の連結基である前項[1]に記載のホウ素キレート化合物、
[3]Z1とZ2が異なる二価の連結基である前項[1]に記載のホウ素キレート化合物、
[4]R6がアリール基である前項[1]乃至[3]のいずれか一項に記載のホウ素キレート化合物、
[5]R5が水素原子である前項[1]乃至[4]のいずれか一項に記載のホウ素キレート化合物、
[6]前項[1]乃至[5]のいずれか一項に記載のホウ素キレート化合物を含む赤色光または近赤外光吸収材料、
[7]前項[1]乃至[5]のいずれか一項に記載のホウ素キレート化合物を含む有機薄膜、
[8]前項[7]に記載の有機薄膜を含む光電変換素子、
[9]前項[8]に記載の光電変換素子を備える光センサー、及び
[10]前項[8]に記載の光電変換素子を備える撮像素子、
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の新規な化合物を含む有機薄膜は近赤外光領域に主たる吸収帯を有する。また、該化合物及び/又は該薄膜を用いることにより、近赤外光電変換素子が実現する。該化合物は、各種有機エレクトロニクスデバイスへの利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の光電変換素子の実施態様を例示した断面図を示す。
【
図2】
図2は、本発明の化合物のクロロホルム溶液の吸収スペクトルの測定結果である。
【
図3】
図3は、比較用の化合物のクロロホルム溶液の吸収スペクトルの測定結果である。
【
図4】
図4は、本発明の化合物及び比較用の化合物を用いて得られた有機薄膜の吸収スペクトルの測定結果である。
【
図5】
図5は、式(1-1)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜の加熱試験前後の吸収スペクトルの測定結果である。
【
図6】
図6は、式(1-2)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜の加熱試験前後の吸収スペクトルの測定結果である。
【
図7】
図7は、式(1-4)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜の加熱試験前後の吸収スペクトルの測定結果である。
【
図8】
図8は、式(X)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜の加熱試験前後の吸収スペクトルの測定結果である。
【
図9】
図9は、式(Y)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜の加熱試験前後の吸収スペクトルの測定結果である。
【
図10】
図10は、式(1-1)で表される化合物を用いた光電変換素子の光電流応答性の測定結果である。
【
図11】
図11は、式(1-2)で表される化合物を用いた光電変換素子の光電流応答性の測定結果である。
【
図12】
図12は、式(1-4)で表される化合物を用いた光電変換素子の光電流応答性の測定結果である。
【
図13】
図13は、式(Y)で表される化合物を用いた光電変換素子の光電流応答性の測定結果である。
【
図14】
図14は、本発明の化合物のクロロホルム溶液の吸収スペクトルの測定結果である。
【
図15】
図15は、本発明の化合物を用いて得られた有機薄膜の吸収スペクトルの測定結果である。
【
図16】
図15は、式(1-5)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜の加熱試験前後の吸収スペクトルの測定結果である。
【
図17】
図17は、式(1-5)で表される化合物を用いた光電変換素子の光電流応答性の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。ここに記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づくものであるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されない。なお、本明細書において、近赤外領域とは、750乃至2500nmの範囲内にある光の波長領域を意味し、赤外光または近赤外光吸収材料とは、赤外光または近赤外光領域に主たる吸収波長をもつ材料を意味する。
【0017】
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される。
【0018】
【0019】
式(1)中、Z1およびZ2は各々独立に芳香族炭化水素化合物の芳香環から水素原子を二つ除いた二価の連結基又は複素環化合物の複素環から水素原子を二つ除いた二価の連結基を表す。
式(1)のZ1およびZ2が表す二価の連結基となり得る芳香族炭化水素化合物及び複素環化合物は、芳香性を有する炭化水素化合物、及び酸素原子、硫黄原子若しくは窒素原子等の炭素原子以外の原子を含む5員環以上の化合物でありさえすれば特に限定されない。
式(1)のZ1およびZ2が表す二価の連結基となり得る芳香族炭化水素化合物としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、ピレン、トリフェニレン、フルオレン、ベンゾフルオレン、アセナフチレン及びフルオランテン等が挙げられる。尚、二価の連結基となり得る芳香族炭化水素化合物は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されない。
式(1)のZ1およびZ2が表す芳香族炭化水素化合物から水素原子を二つ除いた二価の連結基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン又はフルオレンから水素原子を二つ除いた二価の連結基が好ましく、ベンゼン、ナフタレン又はフルオレンから水素原子を二つ除いた二価の連結基がより好ましい。
【0020】
式(1)のZ1およびZ2が表す二価の連結基となり得る複素環化合物としては、例えばチオフェン、フラン、ピロール、インドール、ピリジン、チアゾール、トリアゾール、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、チエノチオフェン、ジベンゾチオフェン、ジベンゾフラン及びナフトチオフェン等が挙げられる。尚、二価の連結基となり得る複素環化合物は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されない。
式(1)のZ1およびZ2が表す複素環化合物から水素原子を二つ除いた二価の連結基としては、チオフェン、フラン、ピロール、ピリジン、ベンゾチオフェン又はチエノチオフェンから水素原子を二つ除いた二価の連結基が好ましく、チオフェン又はピロールから水素原子を二つ除いた二価の連結基がより好ましい。
【0021】
式(1)におけるZ1およびZ2としては、其々独立にベンゼン、ナフタレン、フルオレン、チオフェン、ピロール、ピリジン、ベンゾチオフェン又はチエノチオフェンから水素原子を二つ除いた二価の連結基が好ましく、其々独立にベンゼン、チオフェン又はピロールから水素原子を二つ除いた二価の連結基がより好ましい。
【0022】
式(1)中、R1乃至R5は各々独立に水素原子、アリール基、複素環基、アルキル基又はハロゲン原子を表す。また、R1とR2が結合して環構造を形成してもよく、R2とR3が結合して環構造を形成してもよく、R3とR4が結合して環構造を形成してもよい。
式(1)のR1乃至R5が表すアリール基とは、芳香族炭化水素化合物の芳香環から水素原子を一つ除いた残基であり、その具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、トリル基、インデニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、ピレニル基、フェナンスニル基及びメスチル基等が挙げられる。尚、式(1)のR1乃至R5が表すアリール基は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されない。
式(1)のR1乃至R5が表すアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、トリル基又はメスチル基が好ましく、フェニル基又はトリル基がより好ましい。
【0023】
式(1)のR1乃至R5が表す複素環基とは、複素環化合物の複素環から水素原子を一つ除いた残基であり、その具体例としては、フラニル基、チエニル基、チエノチエニル基、ピロリル基、N-メチルピロリル基、イミダゾリル基、N-メチルイミダゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、インドリル基、ベンゾピラジル基、ベンゾピリミジル基、ベンゾチエニル基、ベンゾチアゾリル基、ピリジノチアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピリジノイミダゾリル基、N-メチルベンゾイミダゾリル基、ピリジノ-N-メチルイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ピリジノオキサゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基、ピリジノチアジアゾリル基、ベンゾオキサジアゾリル基、ピリジノオキサジアゾリル基、カルバゾリル基、フェノキサジニル基及びフェノチアジニル基等が挙げられる。尚、式(1)のR1乃至R5が表す複素環基は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されない。
式(1)のR1乃至R5が表す複素環基としては、チエニル基、チエノチエニル基、ピロリル基、ピリジル基、チアゾリル基又はベンゾチエニル基が好ましく、チエニル基、ピロリル基又はピリジル基がより好ましい。
【0024】
式(1)のR1乃至R5が表すアルキル基は直鎖状、分岐鎖状及び環状の何れにも限定されず、その炭素数は1乃至30が好ましく、1乃至20がより好ましく、1乃至10が更に好ましい。
式(1)のR1乃至R5が表すアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-セチル基、n-ヘプタデシル基、2-エチルへキシル基、3-エチルヘプチル基、4-エチルオクチル基、2-ブチルオクチル基、3-ブチルノニル基、4-ブチルデシル基、2-ヘキシルデシル基、3-オクチルウンデシル基、4-オクチルドデシル基、2-オクチルドデシル基、2-デシルテトラデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。尚、式(1)のR1乃至R5が表すアルキル基は置換基を有していてもよく、該有していてもよい置換基は特に限定されない。
式(1)のR1乃至R5が表すアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、2-エチルへキシル基又はシクロヘキシル基好ましく、メチル基、エチル基、t-ブチル基又はシクロヘキシル基がより好ましい。
【0025】
式(1)のR1乃至R5が表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられ、フッ素原子又は臭素原子が好ましい。
式(1)におけるR1乃至R5は、全て水素原子であることが好ましい。
式(1)のR6が表すアリール基及び複素環基としては、式(1)のR1乃至R5が表すアリール基及び複素環基と同じものが挙げられ、フェニル基、ビフェニル基、トリル基、チエニル基、ピロール基又はピリジル基が好ましく、フェニル基、チエニル基又はピロール基がより好ましい。
【0026】
次に本発明のホウ素キレート化合物の合成方法について説明する。式(1)で表される化合物は、例えば以下のスキームに示した合成法によって合成できる。まず、式(M-1)で表されるインドール化合物と式(M-2)で表されるピロール化合物をオキシ塩化リンの作用により二量化することにより、式(M-3)で表されるジピロメテン化合物を得ることができる。続いて式(M-3)で表される化合物に三フッ化ホウ素を塩基性の条件下において作用させることにより、式(M-4)で表されるホウ素キレート化合物とし、最後に、メチル基の脱離を行うことにより分子内B-O結合を形成させ、式(1)で表されるホウ素キレート化合物を合成することができる。式(M-1)及び式(M-2)で表される化合物はそれぞれ公知の方法を用いることで合成することができる。
【0027】
【0028】
前記式(1)で表されるホウ素キレート化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれに限定されない。なお、具体例として示した構造式は共鳴構造の一つを表したものにすぎず、図示した共鳴構造に限定されない。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
本発明の赤外光または近赤外光吸収材料(以下、「本発明の赤外光または近赤外光吸収材料」を単に「本発明の赤外光吸収材料」とも記載する)は、上記式(1)で表されるホウ素キレート化合物を含有する。
本発明の赤外光吸収材料中の式(1)で表されるホウ素キレート化合物の含有量は、赤外光吸収材料を用いる用途において必要とされる赤外光または近赤外光の吸収能力が発現する限り特に限定されないが、通常は50質量%以上であり、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
本発明の赤外光吸収材料には、式(1)で表されるホウ素キレート化合物以外の化合物(例えば式(1)で表されるホウ素キレート化合物以外の赤外光または近赤外光吸収材料(色素)等)や添加剤等を併用してもよい。併用し得る化合物や添加剤等は、赤外光吸収材料を用いる用途において必要とされる赤外光または近赤外光の吸収能力が発現する限り特に限定されない。
【0036】
本発明の有機薄膜は、上記式(1)で表されるホウ素キレート化合物を含有する。
本発明の有機薄膜は、一般的な乾式成膜法や湿式成膜法により作製することができる。具体的には真空プロセスである抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング及び分子積層法、溶液プロセスであるキャスティング、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等が挙げられる。
一般的な近赤外光吸収材料の有機薄膜の形成は、加工の容易性という観点からは化合物を溶液状態で塗布するようなプロセスが望まれている。そのような観点から、溶液プロセスに適応できる溶解性の高い有機材料の開発が望まれる。
【0037】
一方で、有機膜を積層するような有機エレクトロニクスデバイスの場合、塗布溶液が下層の有機膜を侵さない溶媒条件を選択することが困難なことが多い。この様な積層構造を実現するためには、乾式成膜法、例えば抵抗加熱蒸着等の乾式成膜法に用い得る蒸着可能な材料であることが適切である。したがって、近赤外領域に主たる吸収波長を有し、且つ蒸着可能な赤外光吸収材料が赤外光電変換材料として好ましい。
【0038】
各層の成膜には上記の手法を複数組み合わせた方法を採用してもよい。各層の厚みは、それぞれの物質の抵抗値・電荷移動度にもよるので限定することはできないが、通常は0.5乃至5,000nmの範囲であり、好ましくは1乃至1,000nmの範囲、より好ましくは5乃至500nmの範囲である。
【0039】
前記式(1)で表されるホウ素キレート化合物の分子量は、例えば式(1)で表されるホウ素キレート化合物を含む有機層を蒸着法により製膜して利用することを意図する場合には、1,500以下であることが好ましく、1,200以下であることがより好ましく、1,000以下であることがさらに好ましい。分子量の下限値は、式(1)がとりうる最低分子量の値である。
なお、式(1)で表されるホウ素キレート化合物は、分子量にかかわらず塗布法で成膜してもよい。塗布法を用いれば、分子量が比較的大きな化合物であっても成膜することが可能である。
尚、本明細書における分子量は、EI-GCMS法で算出した値を意味する。
【0040】
〔光電変換素子〕
上記式(1)で表されるホウ素キレート化合物は、赤外光または近赤外光吸収特性を有する化合物であることから、光電変換素子(赤外または近赤外光電変換素子、以下、「(近)赤外光電変換素子」とも記載する)に好適に用いられる。特に、上記式(1)で表されるホウ素キレート化合物は、本発明の光電変換素子に於ける光電変換層に用いることができる。当該素子に於いては、光に対する応答波長光の吸収帯の極大吸収が700乃至2,500nmであることが好ましい。ここで、(近)赤外光電変換素子としては近赤外光センサー、有機撮像素子、近赤外光イメージセンサー等が挙げられる。
尚、本明細書における吸収帯の極大吸収とは、吸収スペクトル測定で測定した吸光度のスペクトルにおいて、吸光度が極大となる波長の値を意味し、極大吸収波長(λmax)は極大吸収の中で最も長波長側の極大吸収を意味する。
【0041】
光電変換素子は、対向する一対の電極膜間に光電変換部(膜)を配置した素子であって、電極膜の上方から光が光電変換部に入射されるものである。光電変換部は前記の入射光に応じて電子と正孔を発生するものであり、半導体により前記電荷に応じた信号が読み出され、光電変換膜部の吸収波長に応じた入射光量を示す素子である。光が入射しない側の電極膜には読み出しのためのトランジスタが接続される場合もある。光電変換素子は、アレイ状に多数配置されている場合、入射光量に加え入射位置情報をも示すため、撮像素子となる。また、より光源近くに配置された光電変換素子が、光源側から見てその背後に配置された光電変換素子の吸収波長を遮蔽しない(透過する)場合は、複数の光電変換素子を積層して用いてもよい。
【0042】
本発明の光電変換素子は、前記式(1)で表されるホウ素キレート化合物を上記光電変換部の構成材料として用いたものである。
光電変換部は、光電変換層と、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、結晶化防止層及び層間接触改良層等から成る群より選択される一種又は複数種の光電変換層以外の有機薄膜層とから成ることが多い。本発明の式(1)で表されるホウ素キレート化合物は、光電変換層以外にも用いることもできるが、光電変換層の有機薄膜層として用いることが好ましい。光電変換層は前記式(1)で表される化合物のみで構成されていてもよいが、前記式(1)で表される化合物以外に、公知の近赤外光吸収材料やその他を含んでいてもよい。
【0043】
本発明の光電変換素子に用いられる電極膜は、後述する光電変換部に含まれる光電変換層が、正孔輸送性を有する場合や光電変換層以外の有機薄膜層が正孔輸送性を有する正孔輸送層である場合は、該光電変換層やその他の有機薄膜層から正孔を取り出してこれを捕集する役割を果たし、又光電変換部に含まれる光電変換層が電子輸送性を有する場合や、有機薄膜層が電子輸送性を有する電子輸送層である場合は、該光電変換層やその他の有機薄膜層から電子を取り出して、これを吐出する役割を果たすものである。よって、電極膜として用い得る材料は、ある程度の導電性を有するものであれば特に限定されないが、隣接する光電変換層やその他の有機薄膜層との密着性や電子親和力、イオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選択することが好ましい。電極膜として用い得る材料としては、例えば、酸化錫(NESA)、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)及び酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物;金、銀、白金、クロム、アルミニウム、鉄、コバルト、ニッケル及びタングステン等の金属:ヨウ化銅及び硫化銅等の無機導電性物質:ポリチオフェン、ポリピロール及びポリアニリン等の導電性ポリマー:炭素等が挙げられる。これらの材料は、必要により複数を混合して用いてもよいし、異なる材料の電極膜を2層以上に積層して用いてもよい。電極膜に用いる材料の導電性も、光電変換素子の受光を必要以上に妨げなければ特に限定されないが、光電変換素子の信号強度や、消費電力の観点からできるだけ高いことが好ましい。例えばシート抵抗値が300Ω/□以下の導電性を有するITO膜であれば、電極膜として充分機能するが、数Ω/□程度の導電性を有するITO膜を備えた基板の市販品も入手可能となっていることから、この様な高い導電性を有する基板を使用することが望ましい。ITO膜(電極膜)の厚さは導電性を考慮して任意に選択することができるが、通常5乃至500nm、好ましくは10乃至300nm程度である。ITOなどの膜を形成する方法としては、従来公知の蒸着法、電子線ビーム法、スパッタリング法、化学反応法及び塗布法等が挙げられる。基板上に設けられたITO膜には必要に応じUV-オゾン処理やプラズマ処理等を施してもよい。
【0044】
電極膜のうち、少なくとも光が入射する側の何れか一方に用いられる透明電極膜の材料としては、ITO、IZO、SnO2、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、ZnO、AZO(Alドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、TiO2、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)等が挙げられる。光電変換層の吸収ピーク波長における透明電極膜を介して入射した光の透過率は、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
【0045】
検出する波長の異なる光電変換層を複数積層する場合、それぞれの光電変換層の間に用いられる電極膜(これは上記記載の一対の電極膜以外の電極膜である)は、それぞれの光電変換層が検出する波長を有する光以外の光を透過させる必要があり、該電極膜には入射光の90%以上を透過する材料を用いることが好ましく、95%以上の光を透過する材料を用いることがより好ましい。
【0046】
電極膜はプラズマフリーで作製することが好ましい。プラズマフリーでこれらの電極膜を作成することにより、電極膜が設けられる基板にプラズマが与える影響が低減され、光電変換素子の光電変換特性を良好にすることができる。ここで、プラズマフリーとは、電極膜の成膜時にプラズマを用いないか、又はプラズマ発生源から基板までの距離が2cm以上、好ましくは10cm以上、更に好ましくは20cm以上離すことにより、基板に到達するプラズマが減ぜられるような状態を意味する。
【0047】
電極膜の成膜時にプラズマを用いない装置としては、例えば、電子線蒸着装置(EB蒸着装置)やパルスレーザー蒸着装置等が挙げられる。EB蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をEB蒸着法と称し、パルスレーザー蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をパルスレーザー蒸着法と称する。
【0048】
成膜中プラズマを減ずることができるような状態を実現できる装置としては、例えば、対向ターゲット式スパッタ装置やアークプラズマ蒸着装置等が考えられる。
【0049】
透明導電膜を電極膜(例えば第一の導電膜)とした場合、DCショート、あるいはリーク電流の増大が生じる場合がある。この原因の一つは、光電変換層に発生する微細なクラックがTCO(Transparent Conductive Oxide)などの緻密な膜によって被覆され、第一の導電膜とは反対側の電極膜(第二の導電膜)との間の導通が増すためと考えられる。そのため、Alなど膜質が比較して劣る材料を電極に用いた場合、リーク電流の増大は生じにくい。電極膜の膜厚を、光電変換層の膜厚(クラックの深さ)に応じて制御することにより、リーク電流の増大を抑制することができる。
【0050】
通常、導電膜を所定の厚さより薄くすると、急激な抵抗値の増加が起こる。本実施形態の1つである光センサー用光電変換素子における導電膜のシート抵抗は、通常100乃至10,000Ω/□であり、膜厚を適宜設定することができる。又、透明導電膜が薄いほど吸収する光の量が少なくなり、一般に光透過率が高くなる。光透過率が高くなると、光電変換層で吸収される光が増加して光電変換能が向上するため非常に好ましい。
【0051】
本発明の光電変換素子が有する光電変換部は、光電変換層及び光電変換層以外の有機薄膜層を含む場合もある。光電変換部を構成する光電変換層には一般的に有機半導体膜が用いられるが、その有機半導体膜は一層若しくは複数の層であってもよく、一層の場合はp型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)が用いられる。一方、複数の層である場合は、層の数は2乃至10程度であり、p型有機半導体膜、n型有機半導体膜、又はそれらの混合膜(バルクヘテロ構造)の何れかを積層した構造であり、層間にバッファ層が挿入されていてもよい。なお、上記の混合膜により光電変換層を形成する場合、本発明の一般式(1)で表される化合物をp型半導体材料として用い、n型半導体材料としては一般的なフラーレンや、その誘導体を用いることが好ましい。
【0052】
本発明の光電変換素子において、光電変換部を構成する光電変換層以外の有機薄膜層は、光電変換層以外の層、例えば、電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、結晶化防止層又は層間接触改良層等として用いられる。特に電子輸送層、正孔輸送層、電子ブロック層及び正孔ブロック層(以下「キャリアブロック層」とも表す。)から成る群より選択される一種以上の薄膜層として用いることにより、弱い光エネルギーでも効率よく電気信号に変換する素子が得られるため好ましい。
【0053】
加えて、撮像素子では、一般的には高コントラスト化や省電力化を目的として、暗電流の低減により性能向上を目指すと考えられため、層構造内にキャリアブロック層を挿入する手法が好ましい。これらのキャリアブロック層は、有機エレクトロニクスデバイス分野では一般に用いられており、其々デバイスの構成膜中において正孔若しくは電子の逆移動を制御する機能を有する。
【0054】
電子輸送層は、光電変換層で発生した電子を電極膜へ輸送する役割と、電子輸送先の電極膜から光電変換層に正孔が移動するのをブロックする役割とを果たす。正孔輸送層は、発生した正孔を光電変換層から電極膜へ輸送する役割と、正孔輸送先の電極膜から光電変換層に電子が移動するのをブロックする役割とを果たす。電子ブロック層は、電極膜から光電変換層への電子の移動を妨げ、光電変換層内での再結合を防ぎ、暗電流を低減する役割を果たす。正孔ブロック層は、電極膜から光電変換層への正孔の移動を妨げ、光電変換層内での再結合を防ぎ、暗電流を低減する機能を有する。
【0055】
図1に本発明の光電変換素子の代表的な素子構造を示すが、本発明はこの構造に限定されるものではない。
図1の態様例においては、1が絶縁部、2が一方の電極膜(上部電極膜)、3が電子ブロック層、4が光電変換層、5が正孔ブロック層、6が他方の電極膜(下部電極膜)、7が絶縁基材又は他の有機光電変換素子をそれぞれ表す。図中には読み出し用のトランジスタを記載していないが、2又は6の電極膜と接続されていればよく、更には光電変換層4が透明であれば、光が入射する側とは反対側の電極膜の外側に成膜されていてもよい。有機光電変換素子への光の入射は、光電変換層4を除く構成要素が、光電変換層の主たる吸収波長の光を入射することを極度に阻害することがなければ、上部若しくは下部からの何れからでもよい。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
特に断りのない限り、実施例中の「部」は質量部を、「M」はモル濃度を、「%」は質量%をそれぞれ意味する。
合成例に記載の化合物は、必要に応じて質量分析スペクトル(FAB-MS)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)により構造を決定した。実施例における1H-NMRスペクトルはAvance400またはAvance500(Bruker)により、FAB-MSスペクトルはJMS-700(JEOL)により、吸収スペクトルはUV-3600(SHIMADZU)によりそれぞれ測定した。
【0057】
実施例1(下記式(1-1)で表される本発明の化合物の合成)
(工程1-1)下記式(B)で表される中間体化合物の合成
窒素雰囲気下、既知の方法(G.Cirrincinone,et al.,Tetrahedron,2011,67,2072.参照)で合成した下記式(A)で表される化合物(8.50部、33.9mmol)および2-(2-メトキシフェニル)-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン(8.30部、35.5mmol)を1,4-ジオキサン(500mL)に溶解させ、凍結脱気を3回行った。[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドのジクロロメタン付加物(1.39部、1.70mmol)および、凍結脱気した4Mの水酸化カリウム水溶液(300mL)を加えて90℃で12時間攪拌した。反応終了後、反応溶液を室温まで冷まし、クロロホルムを用いて3回抽出を行い、得られた有機層を減圧濃縮した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することにより下記式(B)で表される中間体化合物8.02部(収率74%)を得た。
【0058】
式(B)で表される中間体化合物のNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
1H NMR(400 MHz,CDCl3): δ(ppm) 11.26(1H,s),9.94(1H,s),8.06(1H,d),8.03-7.99(2H,m),7.44-7.38(2H,m),7.27-7.23(1H,m),7.16(1H,t),7.11(1H,d),4.02(3H,s).
【0059】
(工程1-2)下記式(D)で表される中間体化合物の合成
窒素雰囲気下、フラスコ内に工程1-1で合成した式(B)で表される中間体化合物(2.52部、10.0mmol)と既知の方法(G.S.Hanan,et al.,Phys.Chem.Chem.Phys.,2014,16,22207.参照)で合成した下記式(C)で表される中間体化合物(2.50部、10.0mmol)をジクロロメタン(140mL)に溶解させた。氷冷下で、オキシ塩化リン(1.0mL、11mmol)を滴下し、室温下で2時間攪拌させた。水でクエンチ後、有機相をジクロロメタンで抽出した。粗生成物に酢酸エチルを用いた懸濁洗浄を施すことにより下記式(D)で表される中間体化合物2.87部(収率59%)を赤緑色固体として得た。
【0060】
式(D)で表される中間体化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=482[M]+
1H NMR(400 MHz,CDCl3): δ(ppm) 7.83(1H,dd),7.77-7.74(2H,m),7.61(2H,dd),7.57(1H,d),7.52-7.46(3H,m),7.41-7.33(2H,m),7.36(1H,s),7.28-7.20(2H,m),7.11(1H,td),7.09(1H,d),7.00(1H,td),6.93(1H,dd),6.83(1H,d).
【0061】
(工程1-3)下記式(E)で表される中間体化合物の合成
窒素雰囲気下、工程1-2で合成した式(D)で表される中間体化合物(2.70部、5.60mmol)をトルエン(220mL)に溶解させた後、トリエチルアミン(2.1mL、15.2mmol)を滴下した。三フッ化ホウ素のエチルエーテル錯体(5.50mL、 44.56mmol)を滴下し、80℃まで昇温して2時間攪拌した。水でクエンチした後、有機相をジクロロメタンで抽出し、無水硫酸難トリウムで乾燥させ、溶媒を留去し、下記式(E)で表される中間体化合物2.59部を黒赤色固体として得た。
【0062】
式(E)で表される中間体化合物の質量分析スペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=530[M]+.
【0063】
(工程1-4)式(1-1)で表される化合物の合成
窒素雰囲気下、工程1-3で合成した式(E)で表される中間体化合物(2.01部、3.78mmol)をジクロロメタン(377mL)に溶解させ、氷冷下で攪拌した。氷冷下を維持したまま、三臭化ホウ素の1Mのジクロロメタン溶液(18mL、18mmol)をゆっくり滴下し、2時間攪拌した。ビーカー内の飽和炭酸水素ナトリウム(150mL)に反応液をゆっくり注ぎ入れ提案クエンチし、水とジクロロメタンを用いて分液した。有機相を、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させ、溶媒を留去し、黒緑色固体を得た。得られた固体を窒素雰囲気下、トルエン(220mL)に溶解させた後、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(4.1mL、24.1mmol)を加え、三フッ化ホウ素のエチルエーテル錯体(4.0mL、32.4mmol)を滴下し、2時間加熱還流させた。反応液を氷冷後、氷冷水に注ぎ込みクエンチした。水を用いて分液し、水相をジクロロメタンで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去させ、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン)で精製することで、式(1-1)で表される化合物0.397部(収率21%:式(D)で表される中間体化合物からの2段階収率)を赤紫色固体として得た。
【0064】
式(1-1)で表される化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=462[M]+
1H NMR(500 MHz,CDCl3): δ(ppm) 8.29(2H,dd),7.96(1H,d),7.82(1H,dd),7.66-7.64(m,2H),7.61(1H,ddd),7.54(s,1H),7.54-7.42(5H,m),7.28(1H,ddd),7.19(1H,td),7.09-7.05(2H,m),6.95(1H,s),6.91(1H,dd).
【0065】
【0066】
実施例2(下記式(1-2)で表される本発明の化合物の合成)
(工程2-1)下記式(G)で表される中間体化合物の合成
既知の方法(Y.Kubo,et al.,New J.Chem.,2020,44,29.参照)で合成した下記式(F)で表される化合物(4.95部、17.0mmol)のメタノール(172mL)とTHF(344mL)の混合溶液に水酸化カリウム(4.84部、86.2mmol)を室温で加え、1時間攪拌した。そこに農硫酸(32mL)のメタノール(172mL)溶液を氷冷下で滴下し、その後、室温まで昇温して1時間攪拌させた。反応終了後、揮発性の溶媒を減圧留去し、混合液を氷水に加えた。4Mの水酸化ナトリウム水溶液で中和し、有機相をジクロロメタンで抽出した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン)により精製を行うことにより、下記式(G)で表される中間体化合物3.44部(収率63%)を赤褐色粘性液体として得た。
【0067】
式(G)で表される中間体化合物のNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
1H NMR(400 MHz,CDCl3): δ(ppm) 7.45(1H,d),7.32(2H,dt),7.28-7.25(2H,m),7.17(1H,tt),6.82(1H,d),4.53(1H,d),3.74(1H,dt),3.42-3.31(2H,m),3.36(s,3H),3.29(s,3H).
【0068】
(工程2-2)下記式(H)で表される中間体化合物の合成
工程2-1で合成した式(G)で表される中間体化合物(0.564部、1.76mmol)を酢酸(25mL)に溶解させ、酢酸アンモニウム(0.686部、8.90mmol)を加えて100℃で1時間反応させた。反応終了後、氷水を加え、4Mの水酸化ナトリウム水溶液で中和した。有機相を分液した後、水相をジクロロメタンで抽出し、得られた有機相を水で洗浄した。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶媒:酢酸エチル/ヘキサン = 1/4 v/v)で精製することにより下記式(H)で表される中間体化合物0.291部(収率65%)を黄色固体として得た。
【0069】
式(H)で表される中間体化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=255 [M]+
1H NMR(500 MHz,CDCl3): δ(ppm) 9.39(1H,s),7.55(2H,dd),7.33(2H,tt),7.17(1H,tt),7.08(1H,dd),7.00(1H,d),6.86(1H,d),6.59(1H,dd),3.98(3H,s) .
【0070】
(工程2-3)下記式(I)で表される中間体化合物の合成
式(C)で表される中間体化合物の代わりに工程2-2で合成した式(H)で表される中間体化合物を用いた以外は工程1-2に準じた方法で、下記式(I)で表される中間体化合物(収率73%)を赤紫色固体として得た。
【0071】
式(I)で表される中間体化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=488 [M]+
1H NMR(400 MHz,CDCl3) : δ = 7.89(1H,dd),7.74(1H,d),7.59-7.57(2H,m),7.51-7.45(3H,m),7.37(1H,tt),7.33(1H,d),7.32(1H,s),7.27-7.23(1H,m),7.12(1H,td),7.09(1H,d),7.09-7.07(1H,m),6.84(1H,d),6.51(1H,s),3.87(3H,s),3.72(3H,s).
【0072】
(工程2-4)下記式(J)で表される中間体化合物の合成
式(D)で表される中間体化合物の代わりに工程2-3で合成した式(I)で表される中間体化合物を用いた以外は工程1-3に準じた方法で、下記式(J)で表される中間体化合物(収率70%)を青紫色固体として得た。
【0073】
式(J)で表される中間体化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=536 [M]+
1H NMR(400 MHz,CDCl3) : δ(ppm) = 7.82(1H,d),7.70(1H,dt),7.58-7.56(m,2H),7.53(1H,s),7.53-7.42(4H,m),7.40(1H,d),7.28(1H,d),7.28-7.24(1H,m),7.13(1H,td),7.05(1H,d),7.03(1H,s),6.83(1H,d),3.90(3H,s),3.73(3H,s).
【0074】
(工程2-5)下記式(1-2)で表される化合物の合成
式(E)で表される中間体化合物の代わりに工程2-4で合成した式(J)で表される中間体化合物を用いた以外は工程1-4に準じた方法で、式(1-2)で表される化合物(収率24%:式(I)で表される中間体化合物からの2段階収率)を黒紫色固体として得た。
【0075】
式(1-2)で表される化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=468 [M]+
1H NMR(500 MHz,CDCl3) :δ(ppm) = 8.28(1H,d),8.25(1H,dd),7.95(1H,d),7.65-7.63(2H,m),7.57(1H,ddd),7.54-7.50(2H,m,),7.50-7.43(3H,m),7.47(1H,s),7.31(1H,d),7.18(1H,td),7.12(1H,dd),6.73(1H,d),6.73(s,1H).
【0076】
【0077】
実施例3(下記式(1-3)で表される本発明の化合物の合成)
(工程3-1)下記式(K)で表される中間体化合物の合成
2-(2-メトキシフェニル)-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロランの代わりに4,4,5,5-テトラメチル-2-(3-メトキシ-2-チエニル)-1,3,2-ジオキサボロランを用いた以外は工程1-1に準じた方法で、下記式(K)で表される中間体化合物(収率63%)を黄緑色個体として得た。
【0078】
式(K)で表される中間体化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS :m/z=257[M]+,258[M +H]+
1H NMR(500 MHz,CDCl3) : δ(ppm) = 11.32(1H,s),9.88(1H,s),8.09(1H,d),7.98(1H,d),7.40(1H,t),7.38(1H,d),7.27-7.24(1H,m),7.02(1H,d),4.15(s,3H).
【0079】
(工程3-2)下記式(L)で表される中間体化合物の合成
式(B)で表される中間体化合物の代わりに工程3-1で合成した式(K)で表される中間体化合物を用いた以外は工程1-2に準じた方法で、下記式(L)で表される中間体化合物(収率69%)を黒緑色固体として得た。
【0080】
式(L)で表される中間体化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=488[M]+
1H NMR(500 MHz,CDCl3): δ(ppm) 12.63(1H,s),8.23(1H,d),7.79(1H,dd),7.74(1H,d),7.61(2H,d),7.50(2H,t),7.42(1H,d),7.39-7.26(4H,m),7.28(1H,s),7.06(1H,t),7.03(1H,d),7.01(1H,dd),6.87(1H,dd),4.02(3H,s),3.95(3H,s).
【0081】
(工程3-3)下記式(M)で表される中間体化合物の合成
式(D)で表される中間体化合物の代わりに工程3-2で合成した式(L)で表される中間体化合物を用いた以外は工程1-3に準じた方法で、下記式(M)で表される中間体化合物(収率75%)を黒紫色固体として得た。
【0082】
式(M)で表される中間体化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=536[M]+
1H NMR(500 MHz,CDCl3): δ(ppm) 7.82(1H,d),7.78(1H,dd),7.68(1H,d),7.60(2H,dd),7.57(1H,s),7.53-7.48(4H,m),7.42(1H,tt),7.36-7.30(2H,m),7.04(1H,td),6.96(1H,d),6.92(1H,d),6.64(1H,s),3.82(3H,s),3.81(3H,s).
【0083】
(工程3-4)下記式(1-3)で表される化合物の合成
式(E)で表される中間体化合物の代わりに工程3-3で合成した式(M)で表される中間体化合物を用いた以外は工程1-4に準じた方法で、式(1-3)で表される化合物(収率42%)を黒色固体として得た。
【0084】
式(1-3)で表される化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=468[M]+
1H NMR(500 MHz,CDCl3): δ(ppm) 8.08(1H,d),7.92(1H,d),7.79(1H,dd),7.66(1H,d),7.65-7.61(3H,m),7.53-7.49(3H,m),7.42-7.39(1H,m),7.41(1H,s),7.27-7.24(1H,m),7.06(1H,td),6.98(1H,dd),6.91(1H,s),6.87(1H,d).
【0085】
【0086】
実施例4(下記式(1-4)で表される本発明の化合物の合成)
(工程4-1)下記式(N)で表される中間体化合物の合成
式(B)で表される中間体化合物の代わりに工程3-1で得られた式(K)で表される中間体化合物を用い、かつ式(C)で表される中間体化合物の代わりに工程2-2で得られた式(H)で表される中間体化合物を用いた以外は工程1-2に準じた方法で、下記式(N)で表される中間体化合物を金色固体として得た。式(N)で表される中間体化合物は精製することなく次の反応に用いた。
【0087】
式(N)で表される中間体化合物の質量分析スペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=494[M]+
【0088】
(工程4-2)下記式(O)で表される中間体化合物の合成
式(D)で表される中間体化合物の代わりに工程4-1で合成した式(N)で表される中間体化合物を用いた以外は工程1-3に準じた方法で、下記式(O)で表される中間体化合物(収率55%:式(K)で表される中間体化合物からの2段階収率)を黒鉄色固体として得た。
【0089】
式(O)で表される中間体化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=542[M]+
1H NMR(500 MHz,CDCl3): δ(ppm) 7.80(1H,d),7.69(1H,d),7.60-7.57(3H,m),7.53-7.50(2H,m),7.48(1H,td),7.48(1H,s),7.43(1H,tt),7.36(1H,d),7.31(1H,ddd),7.11(1H,s),6.98(1H,d),6.88(1H,d),3.93(3H,s),3.84(3H,s).
【0090】
(工程4-3)下記式(1-4)で表される化合物の合成
式(E)で表される化合物の代わりに工程4-2で合成した式(O)で表される中間体化合物を用いた以外は工程1-4に準じた方法で、式(1-4)で表される化合物(収率46%)を緑色固体として得た。
【0091】
式(1-4)で表される化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS:m/z=474 [M]+
1H NMR(500 MHz,CDCl3): δ(ppm) 8.06(1H,d),7.91(1H,d),7.63-7.58(4H,m),7.52-7.47(3H,m),7.41(1H,tt),7.35(1H,s),7.24(1H,d),6.90(1H,d),6.78(1H,d),6.67(s,1H).
【0092】
【0093】
比較例1(下記式(X)で表される比較用化合物の合成)
(工程5-1)下記式(R)で表される中間体化合物の合成
式(B)で表される中間体化合物の代わりにOrganic Letters,2019,21,6860-6863.に記載の手法を参照して合成した下記式(P)で表される中間体化合物を用い、かつ式(C)で表される中間体化合物の代わりにSynlett,2016,27,1738-1742.に記載の手法を参照して合成した下記式(Q)で表される中間体化合物を用いた以外は工程1-2に準じた方法で、下記式(R)で表される中間体化合物(収率88%)を赤色固体として得た。
式(R)で表される化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS :m/z=422 [M]+
1H NMR(500 MHz,CDCl3): δ (ppm) 12.84(1H,s),8.21(2H,dd),7.98(1H,d),7.82(1H,d),7.72(2H,dd),7.63-7.60(2H,m),7.56(1H,tt),7.54-7.50(2H,m),7.48-7.44(2H,m),7.44-7.36(m,3H),7.38(1H,s),7.32(1H,tt),6.78(s,1H).
【0094】
(工程5-2)下記式(X)で表される比較用化合物の合成
式(D)で表される中間体化合物の代わりに工程5-1で得られた式(R)で表される中間体化合物を用いた以外は工程1-3に準じた方法で、下記式(X)で表される化合物(収率84%)を緑色固体として得た。
【0095】
式(X)で表される化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS :m/z=470 [M]+
1H NMR(500 MHz,CDCl3): δ(ppm) 7.89-7.83(5H,m),7.66-7.65(1H,m),7.65(1H,s),7.61-7.52(1H,m),7.45(1H,tt),7.42-7.33(4H,m),6.62(s,1H).
【0096】
【0097】
比較例2(下記式(Y)で表される比較用化合物の合成)
(工程6-1)下記式(Y)で表される化合物の合成
比較例1で得られた式(X)で表される化合物を出発原料に用いて、特許第5514800号に記載の方法を参照して下記式(Y)で表される化合物(収率60%)を紫色固体として得た。
【0098】
式(Y)で表される化合物の質量分析スペクトル及びNMRスペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS :m/z=730 [M]+
1H NMR(500 MHz,CDCl3): δ(ppm) 7.97-7.92(2H,m),7.90-7.86(2H,m),7.67-7.63(2H,m),7.62-7.49(8H,m),7.46(1H,tt),7.40-7.32(4H,m),6.67(s,1H),3.48-3.21(4H,m).
【0099】
【0100】
(本発明の化合物及び比較用化合物のクロロホルム溶液の吸収スペクトル測定)
実施例1乃至4、比較例1及び2で得られた化合物のクロロホルム溶液をそれぞれ調整し、吸収スペクトルを測定した。結果を
図2及び
図3に示した。
また
図2及び3から読み取った各化合物の極大吸収波長(λmax)を表1に記載した。
【0101】
【0102】
これらの結果から、本発明の化合物が比較用の化合物よりも長波長領域に吸収スペクトルを有していることがわかる。
【0103】
実施例5乃至7、比較例3及び4(有機薄膜の作製)
実施例1、2及び4、比較例1及び2で得られた化合物を予め洗浄したガラス基板上に抵抗加熱真空蒸着し、それぞれの化合物の有機薄膜を作製した。式(1-1)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜(実施例5)の厚さは95nm、式(1-2)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜(実施例6)の厚さは90nm、式(1-4)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜(実施例7)の厚さは110nm、式(X)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜(比較例3)の厚さは110nm、式(Y)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜(比較例4)の厚さは80nmであった。
【0104】
(有機薄膜の吸収スペクトル測定)
実施例5乃至7、比較例3及び4で得られた各有機薄膜の吸収スペクトルを測定した。結果を
図4に示した。尚、
図4は測定結果を単位膜厚(nm)あたり換算したものである。
また
図4から読み取った各有機薄膜の極大吸収波長(λmax)を表2に記載した。
【0105】
【0106】
これらの結果から、本発明の化合物を用いて得られた有機薄膜は700nm以上の波長領域に極大吸収波長を有しており、比較用の化合物を用いて得られた有機薄膜よりも長波長領域に吸収スペクトルを有していることがわかる。
【0107】
(有機薄膜の耐熱性評価)
実施例5乃至7、比較例3及び4で作製した各有機薄膜を、150℃のホットプレート上で30分間加熱した後、180℃まで昇温してさらに10分間加熱した。加熱前と加熱後の有機薄膜の吸収スペクトルを測定した。結果を
図5乃至9に示した。
図5は式(1-1)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜の測定結果、
図6は式(1-2)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜の測定結果、
図7は式(1-4)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜の測定結果、
図8は式(X)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜の測定結果、
図9は式(Y)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜の測定結果である。
また、
図5乃至9から各有機薄膜の吸収極大波長(λmax)における加熱前後の吸光度を読み取り、加熱前の吸光度を基準とした加熱後の吸光度の保持率に基づいて、下記の評価基準で有機薄膜の耐熱性を評価した。結果を表3に示した。
(評価基準)
〇;150℃×30分間の加熱後の吸光度の保持率が95%以上であり、かつ180℃×10分間の加熱後の吸光度の保持率が85%以上のもの。
△;150℃×30分間の加熱後の吸光度の保持率が95%以上であり、かつ180℃×10分間の加熱後の吸光度の保持率が85%未満のもの。
×;150℃×30分間の加熱後の吸光度の保持率が95%未満のもの。
【0108】
【0109】
これらの結果から、本発明の化合物を用いて得られた有機薄膜が、デバイス作成プロセスにおける種々の高温条件にも耐えうる高い耐熱性を有していることがわかる。
【0110】
実施例8(式(1-1)で表される化合物を用いた光電変換素子の作製およびその評価)
ITO透明導電ガラス(ジオマテック(株)製、ITO膜厚150nm)に、抵抗加熱真空蒸着によって式(1-1)で表される化合物の厚さ95nmの有機薄膜を形成し、光電変換層とした。その上に、抵抗加熱真空蒸着によってアルミニウムの厚さ100nmの膜を形成し、本発明の光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、700nm、半値幅20nmの光照射を行った状態で、1Vの電圧を印加した際の光電流応答性を測定したところ、暗所での電流は4.00×10
-9A/cm
2、明所での電流は1.33×10
-6A/cm
2であり、その明暗比(明所での電流/暗所での電流)は3.33×10
2であった。実施例8で得られた光電変換素子の光電流応答性を
図10に示した。
【0111】
実施例9(式(1-2)で表される化合物を用いた光電変換素子の作製およびその評価)
式(1-1)で表される化合物の代わりに式(1-2)で表される化合物を用い、かつ光電変換層の厚さを90nmとしたこと以外は実施例8に準じた方法で、本発明の光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、750nm、半値幅20nmの光照射を行った状態で、1Vの電圧を印加した際の光電流応答性を測定したところ、暗所での電流は4.27×10
-9A/cm
2、明所での電流は8.45×10
-7A/cm
2であり、その明暗比は1.98×10
2であった。実施例9で得られた光電変換素子の光電流応答性を
図11に示した。
【0112】
実施例10(式(1-4)で表される化合物を用いた光電変換素子の作製およびその評価)
式(1-1)で表される化合物の代わりに式(1-4)で表される化合物を用い、かつ光電変換層の厚さを110nmとしたこと以外は実施例8に準じた方法で、本発明の光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、750nm、半値幅20nmの光照射を行った状態で、1Vの電圧を印加した際の光電流応答性を測定したところ、暗所での電流は9.60×10
-11A/cm
2、明所での電流は8.42×10
-7A/cm
2であり、その明暗比は8.77×10
3であった。実施例10で得られた光電変換素子の光電流応答性を
図12に示した。
【0113】
比較例5(式(Y)で表される化合物を用いた光電変換素子の作製およびその評価)
式(1-1)で表される化合物の代わりに式(Y)で表される化合物を用い、かつ光電変換層の厚さを80nmとしたこと以外は実施例8に準じた方法で、比較用の光電変換素子を作製した。ITOとアルミニウムを電極として、600nm、半値幅20nmの光照射を行った状態で、1Vの電圧を印加した際の光電流応答性を測定したところ、暗所での電流は3.56×10
ー10A/cm
2、明所での電流は4.91×10
-6A/cm
2であり、その明暗比は1.38×10
4であった。比較例5で得られた光電変換素子の光電流応答性を
図13に示した。
【0114】
比較例5で得られた光電変換素子は、600nm付近の波長光においては光電変換特性を示すものの、700nm以上の近赤外光の光電変換素子としては利用することができない。一方、本発明のホウ素キレート化合物を用いた光電変換素子は、700nm以上の近赤外光領域においても高い明暗比が得られていることから、近赤外光の光電変換素子としても利用することが可能である。
【0115】
実施例11(下記式(1-5)で表される本発明の化合物の合成)
(工程7-1)下記式(S)で表される中間体化合物の合成
2-メトキシアセトフェノン(0.87mL、6.31mmol)をEtOH(20mL)に溶解させ、0℃の氷冷下で40%水酸化ナトリウム水溶液(1.5mL、21.5mmol)を加えた。その後、反応液にチオフェン-2-カルボキサルデヒド(0.58mL、6.36mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。反応終了後、ジクロロメタンと水で分液し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させて溶媒を留去して、黄色粘性液体の粗生成物を得た(1.42部)。その粗生成物をEtOH(19mL)に溶解させ、ニトロメタン(6.3mL、117mmol)および水酸化カリウム(0.14部、2.49mmol)を加え、60℃で160分間撹拌した。反応終了後、ジクロロメタンと水で分液し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を留去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:4v/v)で精製し、下記式(S)で表される化合物(1.24部、2段階収率62%)を白色固体として得た。
【0116】
式(S)で表される中間体化合物のNMRペクトルの測定結果は以下の通りであった。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ(ppm) 7.69 (dd, 1H), 7.49 (ddd, 1H), 7.20 (dd, 1H), 7.01 (dd, 1H), 6.98 (d, 1H) , 6.94-6.93 (m, 2H), 4.81 (dd,1H) , 4.67 (dd, 1H), 4.48-4.55 (1H, m), 3.92 (s, 3H), 3.53 (dd, 1H), 3.50 (dd, 1H).
【0117】
(工程7-2)下記式(T)で表される中間体化合物の合成
式(F)で表される化合物の代わりに工程7-1で合成した式(S)で表される中間体化合物を用いた以外は工程2-1に準じた方法で中間体化合物(下記の合成スキームには明記せず)を合成し、更に式(G)で表される化合物の代わりに前記で得られた中間体化合物を用いた以外は工程2-2に準じた方法で、式(T)で表される化合物(収率99%)を黄色固体として得た。
【0118】
式(T)で表される中間体化合物の質量分析スペクトル及びNMRペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS: m/z = 255 [M]+
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ(ppm) 9.81 (s, 1H), 7.69 (dd, 1H), 7.19 (ddd, 1H), 7.11-7.09 (2H, m), 7.06 (dd, 1H), 7.04-6.97 (m, 3
H), 6.80 (dd, 1H), 3.98 (s, 3H).
【0119】
(工程7-3)下記式(V)で表される中間体化合物の合成
式(C)で表される中間体化合物の代わりに工程7-2で合成した式(T)で表される中間体化合物を用いた以外は工程1-2に準じた方法で、下記式(V)で表される中間体化合物(収率50%)を青色固体として得た。
【0120】
式(V)で表される中間体化合物の質量分析スペクトル及びNMRペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS: m/z = 488 [M]+
1H NMR (400 MHz, CDCl3):δ(ppm) 12.9 (brs, 1H), 8.02 (d, 1H), 7.90 (dd, 1H), 7.73 (dd, 1H), 7.63 (dd, 1H), 7.62 (s, 1H), 7.59 (ddd, 1H), 7.53 (d, 1H, J = 7.65 Hz, Ho), 7.47 (dd, 1H), 7.46-7.43 (m, 1H), 7.36-7.33 (m, 1H), 7.29 (d, 1H), 7.24 (dd, 1H), 7.19 (td, 1H), 7.13 (dd, 1H), 7.09 (d, 1H), 7.06 - 7.03 (m, 1H), 6.60 (s, 1H), 3.84 (s, 3H), 3.60 (s, 3H).
【0121】
(工程7-4)下記式(W)で表される中間体化合物の合成
式(D)で表される中間体化合物の代わりに工程7-3で合成した式(V)で表される中間体化合物を用いた以外は工程1-3に準じた方法で、下記式(W)で表される中間体化合物(収率82%)を緑色固体として得た。
【0122】
式(W)で表される中間体化合物の質量分析スペクトル及びNMRペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS: m/z = 536 [M]+
1H NMR (400 MHz, CDCl3) : δ(ppm)7.89 (d, 1H), 7.85 (s, 1H), 7.66 (d, 1H), 7.63 (dt, 1H), 7.53 (ddd, 1H), 7.45 (ddd, 1H), 7.40 (dd, 1H), 7.39 (d, 1H), 7.32-7.27 (m, 3H), 7.18 (dd, 1H), 7.06 (td, 1H), 7.00 (d, 1H) , 6.97 (td, 1H), 6.92 (d, 1H), 6.60 (s, 1H), 3.79 (s, 3H), 3.71 (s, 3H).
【0123】
(工程7-5)下記式(1-5)で表される化合物の合成
式(E)で表される中間体化合物の代わりに工程7-4で合成した式(W)で表される中間体化合物を用いた以外は工程1-4に準じた方法で、式(1-5)で表される化合物(収率24%)を濃紺色固体として得た。
【0124】
式(1-5)で表される化合物の質量分析スペクトル及びNMRペクトルの測定結果は以下の通りであった。
FAB-MS: m/z = 468 [M]+
1H NMR (500 mHz, CDCl3) :δ(ppm) 8.29 (d, 1H), 8.28 (dd, 1H), 8.00 (s, 1H), 7.79 (dd, 1H), 7.71 (s, 1H), 7.63 (td, 1H), 7.51 (td, 1H), 7.47 (ddd, 1H), 7.42 (dd, 1H), 7.36 (dd, 1H), 7.29-7.26 (m, 1H), 7.19 (td, 1H), 7.19 (t, 1H), 7.06 (d, 1H), 7.06 (td, 1H), 6.92 (s, 1H), 6.90 (dd, 1H).
【0125】
【0126】
(本発明の化合物のクロロホルム溶液の吸収スペクトル測定)
実施例11で得られた化合物のクロロホルム溶液を調整し、吸収スペクトルを測定した結果を
図14に示した。極大吸収波長(λmax)は672nmであった。
【0127】
実施例12(有機薄膜の作製)
実施例11で得られた式(1-5)で表される化合物を予め洗浄したガラス基板上に抵抗加熱真空蒸着し、有機薄膜を作製した。式(1-5)で表される化合物を用いて得られた有機薄膜の厚さは85nmであった。
【0128】
(有機薄膜の吸収スペクトル測定)
実施例12で得られた有機薄膜の吸収スペクトルを測定した。結果を
図15に示した。尚、
図15は測定結果を単位膜厚(nm)あたりで換算したものである。
図15から読み取った有機薄膜の極大吸収波長(λmax)は701nmであった。
この結果から、本発明の化合物を用いて得られた有機薄膜は700nm以上の波長領域に極大吸収波長を有しており、比較用の化合物を用いて得られた有機薄膜よりも長波長領域に吸収スペクトルを有していることがわかる。
【0129】
(有機薄膜の耐熱性評価)
実施例12で作製した有機薄膜を、150℃のホットプレート上で30分間加熱した後、180℃まで昇温してさらに10分間加熱し、加熱前と加熱後における有機薄膜の吸収スペクトルを測定した。結果を
図16に示した。
また、
図16から式(1-5)で表される化合物の有機薄膜の吸収極大波長(λmax)における加熱前後の吸光度を読み取り、加熱前の吸光度を基準とした加熱後の吸光度の保持率に基づいて、実施例5乃至7、比較例3及び4で得られた有機薄膜の耐熱性評価と同じ評価基準で有機薄膜の耐熱性を評価したところ、評価結果は「〇(150℃×30分間の加熱後の吸光度の保持率が95%以上であり、かつ180℃×10分間の加熱後の吸光度の保持率が85%以上)」であった。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明のホウ素キレート化合物は、近赤外光領域における良好な吸収特性を示し、デバイス作成プロセスに十分に耐えうる高い耐熱性と、良好な近赤外光電変換特性を示すことから有機エレクトロニクスデバイス材料として有用である。