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特許7529215状態推定装置、状態推定プログラム、状態推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】状態推定装置、状態推定プログラム、状態推定方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20240730BHJP
   G06Q 50/06 20240101ALI20240730BHJP
   G06F 17/18 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H02J3/00 170
G06Q50/06
G06F17/18 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021029735
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131016
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大井 章弘
(72)【発明者】
【氏名】神通川 亨
(72)【発明者】
【氏名】福山 良和
(72)【発明者】
【氏名】東 大智
【審査官】滝谷 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-074639(JP,A)
【文献】特開2008-154418(JP,A)
【文献】特開2000-175319(JP,A)
【文献】特開2018-110488(JP,A)
【文献】特開2021-040362(JP,A)
【文献】岩田 壮平 他1名,コレントロピーを用いた配電系統の負荷推定型状態推定に対する Differential Evolutionary Particle Swarm Optimization の適用,電気学会論文誌B,第138巻、第6号,日本,一般社団法人 電気学会,2018年06月01日,第423-431ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
G06Q 50/06
G06F 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力、気体、液体の何れか一つを供給する系統の状態を示し、複数の計測点のそれぞれで計測された前記複数の系統情報と、前記系統を模擬したモデルと、に基づいて、前記系統の状態を推定する第1状態推定部と、
前記複数の系統情報と、前記第1状態推定部が推定した第1推定結果と、に基づいて、前記複数の系統情報に異常があるか否かを判定する判定部と、
前記複数の系統情報に異常があると判定されると、前記系統の状態を推定した第2推定結果を出力する第2状態推定部と、
を備え、
前記第1状態推定部は、
前記系統情報及び前記第1推定結果の差が小さくなる程、評価値が大きくなり、所定の変数の値が小さくなる程、前記系統情報に含まれる異常値の前記評価値への影響が小さくなる目的関数において、前記系統の所定の位置における前記何れか一つの変化に応じた値を示す決定変数を変化させ、前記評価値が最大となる際の前記決定変数を用いて、前記系統の状態を推定し、
前記第2状態推定部は、
複数の前記所定の変数の値毎に、複数の異なる条件における最適化手法を用いて前記評価値が最大となる複数の推定結果を求めた後、前記所定の変数の値毎の前記複数の推定結果のばらつきに基づいて、前記第2推定結果を出力する、
状態推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の状態推定装置であって、
前記第2状態推定部は、
複数の前記所定の変数の値のうち、前記ばらつきが最小となる所定の変数の値で推定された前記複数の推定結果に基づいて、前記第2推定結果を出力する、
状態推定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の状態推定装置であって、
前記第2状態推定部は、前記系統の所定の位置における前記複数の推定結果のばらつきに基づいて、前記ばらつきが最小となる所定の変数の値を選択する、
状態推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の状態推定装置であって、
前記所定の位置は、
異常があると判定された系統情報が計測された計測点の位置である、
状態推定装置。
【請求項5】
請求項2から請求項4の何れか一項に記載の状態推定装置であって、
前記第2状態推定部は、
前記ばらつきが最小となる所定の変数の値で推定された前記複数の推定結果のうち、前記目的関数J(x)の値が最大となる推定結果を、前記第2推定結果として出力する、
状態推定装置。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の状態推定装置であって、
前記系統は、電力を、需要家に供給する電力系統であり、
前記第1及び第2状態推定部は、
潮流計算を行うことにより前記系統の状態を推定する、
状態推定装置。
【請求項7】
コンピュータに、
電力、気体、液体の何れか一つを供給する系統の状態を示し、複数の計測点のそれぞれで計測された前記複数の系統情報と、前記系統を模擬したモデルと、に基づいて、前記系統の状態を推定する第1状態推定処理と、
前記複数の系統情報と、前記第1状態推定処理で推定した第1推定結果と、に基づいて、前記複数の系統情報に異常があるか否かを判定する判定処理と、
前記複数の系統情報に異常があると判定されると、前記系統の状態を推定した第2推定結果を出力する第2状態推定処理と、
を実行させ、
前記第1状態推定処理は、
前記系統情報及び前記第1推定結果の差が小さくなる程、評価値が大きくなり、所定の変数の値が小さくなる程、前記系統情報に含まれる異常値の前記評価値への影響が小さくなる目的関数において、前記系統の所定の位置における前記何れか一つの変化に応じた値を示す決定変数を変化させ、前記評価値が最大となる際の前記決定変数を用いて、前記系統の状態を推定し、
前記第2状態推定処理は、
複数の前記所定の変数の値毎に、複数の異なる条件における最適化手法を用いて前記評価値が最大となる複数の推定結果を求めた後、前記所定の変数の値毎の前記複数の推定結果のばらつきに基づいて、前記第2推定結果を出力する、
状態推定プログラム。
【請求項8】
電力、気体、液体の何れか一つを供給する系統の状態を示し、複数の計測点のそれぞれで計測された前記複数の系統情報と、前記系統を模擬したモデルと、に基づいて、前記系統の状態を推定する第1状態推定ステップと、
前記複数の系統情報と、前記第1状態推定ステップで推定した第1推定結果と、に基づいて、前記複数の系統情報に異常があるか否かを判定する判定ステップと、
前記複数の系統情報に異常があると判定されると、前記系統の状態を推定した第2推定結果を出力する第2状態推定ステップと、
を含み、
前記第1状態推定ステップは、
前記系統情報及び前記第1推定結果の差が小さくなる程、評価値が大きくなり、所定の変数の値が小さくなる程、前記系統情報に含まれる異常値の前記評価値への影響が小さくなる目的関数において、前記系統の所定の位置における前記何れか一つの変化に応じた値を示す決定変数を変化させ、前記評価値が最大となる際の前記決定変数を用いて、前記系統の状態を推定し、
前記第2状態推定ステップは、
複数の前記所定の変数の値毎に、複数の異なる条件における最適化手法を用いて前記評価値が最大となる複数の推定結果を求めた後、前記所定の変数の値毎の前記複数の推定結果のばらつきに基づいて、前記第2推定結果を出力する、
状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態推定装置、状態推定プログラム、及び状態推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電力、ガス、水を供給する系統の状態を、計測された系統情報に基づいて推定する技術が知られている(例えば、特許文献1、及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-62171号公報
【文献】特開2013-132106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、系統に設けられた系統情報を計測するセンサが故障すると、センサの計測結果に異常値(または、外れ値)が含まれてしまう。このようなセンサの異常値を除去し、系統の状態が推定されると、一般に推定結果の精度は悪化してしまう。
【0005】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みてなされたものであって、センサの計測結果に異常値が含まれている場合であっても系統の状態を高い精度で推定することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決する主たる本発明は、電力、気体、液体の何れか一つを供給する系統の状態を示し、複数の計測点のそれぞれで計測された前記複数の系統情報と、前記系統を模擬したモデルと、に基づいて、前記系統の状態を推定する第1状態推定部と、前記複数の系統情報と、前記第1状態推定部が推定した第1推定結果と、に基づいて、前記複数の系統情報に異常があるか否かを判定する判定部と、前記複数の系統情報に異常があると判定されると、前記系統の状態を推定した第2推定結果を出力する第2状態推定部と、を備え、前記第1状態推定部は、前記系統情報及び前記第1推定結果の差が小さくなる程、評価値が大きくなり、所定の変数の値が小さくなる程、前記系統情報に含まれる異常値の前記評価値への影響が小さくなる目的関数において、前記系統の所定の位置における前記何れか一つの変化に応じた値を示す決定変数を変化させ、前記評価値が最大となる際の前記決定変数を用いて、前記系統の状態を推定し、前記第2状態推定部は、複数の前記所定の変数の値毎に、複数の異なる条件における最適化手法を用いて前記評価値が最大となる複数の推定結果を求めた後、前記所定の変数の値毎の前記複数の推定結果のばらつきに基づいて、前記第2推定結果を出力する、状態推定装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、センサの計測結果に異常値が含まれている場合であっても系統の状態を高い精度で推定することができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】情報処理装置10の構成を示す図である。
図2】電力系統30を説明するための図である。
図3】情報処理装置10を説明するための図である。
図4】配電線41の電圧分布(推定結果)を説明するための図である。
図5】情報処理装置10で実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図6】配電線41の電圧分布の一例を説明するための図である。
図7】カーネルサイズを変化させた際の電圧分布のばらつきを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0010】
=====本実施形態=====
<<<情報処理装置10の構成>>>
図1は、本発明の一実施形態である情報処理装置10の構成を示す図である。情報処理装置10は、例えば、図2に示す電力系統30(後述)の状態を推定する装置であり、CPU(Central Processing Unit)20、メモリ21、記憶装置22、入力装置23、表示装置24、及び通信装置25を含むコンピュータである。なお、情報処理装置10は、「状態推定装置」に相当する。
【0011】
CPU20は、メモリ21や記憶装置22(記憶部)に格納されたプログラムを実行することにより、情報処理装置10における様々な機能を実現する。
【0012】
メモリ21は、例えばRAM(Random-Access Memory)等であり、プログラムやデータ等の一時的な記憶領域として用いられる。
【0013】
記憶装置22は、CPU20によって、実行または処理される各種データを格納する不揮発性の記憶装置である。
【0014】
入力装置23は、ユーザによるコマンドやデータの入力を受け付ける装置であり、キーボード、タッチパネルディスプレイ上でのタッチ位置を検出するタッチセンサなどの入力インタフェースを含む。
【0015】
表示装置24は、例えばディスプレイなどの装置であり、通信装置25は、ネットワーク(不図示)を介して、他のコンピュータと各種プログラムやデータの受け渡しを行う。
【0016】
<<<電力系統30の一例>>>
図2は、情報処理装置10が状態推定を行う電力系統30の一例を示す図である。電力系統30は、例えば、6.6kV系の配電線系統であり、変圧器40、配電線41、需要家42~45、センサS1~S4を含む。なお、一般的な電力系統には、他にも配電線、需要家、センサ等が含まれているが、便宜上、ここでは簡素化した電力系統30を一例として図示している。
【0017】
変圧器40は、送電線(不図示)から供給される電圧を変圧し、6.6kVの電圧を配電線41へと出力する。
【0018】
需要家42は、配電線41から供給される電力を消費する負荷(例えば、工場)であるとともに、配電線41に対し、電力を供給するインバータ等の発電設備(不図示)を含む。なお、需要家43~45も、需要家42と同様である。このため、配電線41には、配電線41からの電力を消費する負荷と、配電線41に電力を供給する発電設備と、が接続されていることになる。
【0019】
センサS1は、配電線41の“計測点A”に設けられ、配電線41の“系統情報Za”を計測する計測器である。具体的には、センサS1は、配電線41の“計測点A”における“電圧Va”及び“電流Ia”を計測する。
【0020】
センサS2~S4は、センサS1と同様であり、配電線41の“計測点B”~“計測点D”のそれぞれに設けられた計測器であり、配電線41の“系統情報Zb”~“系統情報Zd”を計測する。
【0021】
なお、本実施形態の“系統情報Zi”(i=a~d)は、“電圧Vi”及び“電流Ii”であることとしたが、以下便宜上、適宜“電圧Vi”を中心に説明する。
【0022】
また、詳細は後述するが、情報処理装置10は、需要家42~45の有効電力P、無効電力Qを変化させて、例えば、配電線41の“計測点A”~“計測点D”のそれぞれの推定結果が、センサS1~S4の計測結果に一致するよう、潮流計算を行う。この結果、情報処理装置10は、図2に示すような推定結果(例えば、配電線41の電圧分布)を計算することができる。
【0023】
<<<情報処理装置10の機能ブロック>>>
図3は、情報処理装置10の機能ブロック等を示す図である。情報処理装置10の記憶装置22には、系統モデル60が記憶されている。また、CPU20が、所定のプログラムを実行することにより、情報処理装置10には、第1状態推定部70、判定部71、及び第2状態推定部72が実現される。
【0024】
系統モデル60は、例えば、状態方程式で表される電力系統30を模擬したモデルである。詳細は後述するが、需要家42~45の有効電力P、無効電力Qが指定された状態で、系統モデル60を用いて潮流計算が実行されると、電力系統30の状態、つまり、配電線41の電圧、電流、位相角等が得られる。
【0025】
==第1状態推定部70==
第1状態推定部70は、4つの“計測点A”~“計測点D”のそれぞれで計測された“系統情報Za”~“系統情報Zd”と、系統モデル60と、に基づいて、電力系統30の状態を推定する。具体的には、第1状態推定部70は、計測された“電圧VA”~“電圧VD”を用いて、配電線41の電圧分布を推定する。
【0026】
ここで、図4を参照しつつ、第1状態推定部70で実行される処理の詳細を説明する。図4は、電力系統30の推定結果を、“最小二乗法”の手法で計算した場合と、“コレントロピー”の手法で計算した場合との一例を示す図である。
【0027】
図4において、“計測点A”~“計測点D”の計測結果(図4の“黒丸”)うち、“計測点C”での計測結果のみが異常であることとする。
【0028】
配電線41の電圧分布が推定される際に、仮に、“計測点A”~“計測点D”の計測結果と、推定結果と、の差を最小とする、最小二乗法に基づく目的関数が用いられると、一点鎖線で示す“推定結果R1”は、点線で示す正しい電圧分布から大きくずれてしまう。これは、“推定結果R1”を、異常値である“計測点C”に近づけることにより、最小二乗法の目的関数の値が最小になるからである。
【0029】
一方、“コレントロピー”の手法は、異常値である“計測点C”の影響を抑制することが可能な手法である。“コレントロピー”の手法では、推定結果と、計測結果との差に対する式を正規分布の形とした下記の目的関数J(x)を用い、目的関数J(x)が最大となるよう、決定変数xが探索される。
【0030】
【数1】
【0031】
ここで、“N”は、計測点の数であり、“i”は、計測点のうちi番目の計測点を示し、“σ”は、例えば利用者に設定される、カーネルサイズ(または、標準偏差)を示す所定値である。また、“yi(x)”は、i番目の計測点の推定結果を示し、“zi”は、i番目の計測点の計測結果を示す。なお、カーネルサイズであるσは、「所定の変数」に相当し、J(x)の値は、「評価値」に相当する。
【0032】
このような式において、推定結果“yi(x)”が、計測結果“zi”から離れると、目的関数J(x)の値は小さくなり、“0”(ゼロ)に近づく。
【0033】
一方、推定結果“yi(x)”が、計測結果“zi”に近くなると、目的関数J(x)の値は大きくなる。
【0034】
このため、例えば、図5の誤った“計測点C”の計測結果に、推定結果を近づけるよりも、他の計測点(“A”,“B”,“D”)の計測結果に、推定結果を近づける方が、目的関数J(x)の値は大きくなる。
【0035】
ここで、本実施形態の第1状態推定部70は、決定変数xとして、需要家42~45の有効電力P、無効電力Qを用い、“i”として、“計測点A”~“計測点D”の個数である“4”を用いる。
【0036】
そして、第1状態推定部70は、目的関数J(x)の値が最大となる際の決定変数x(つまり、需要家42~45の有効電力P、無効電力Q)を用いて、電力系統30の状態を推定する。この結果、第1状態推定部70は、目的関数J(x)を最大とすることで、点線で示す正しい電圧分布に近い、例えば、一点鎖線で示す“推定結果R2”を計算することができる。
【0037】
==判定部71==
判定部71は、i番目の計測点におけるセンサSiの出力に異常があるか否かを判定する。具体的には、判定部71は、センサSiの計測結果である“電圧Vi”と、第1状態推定部70で推定された“計測点i”の推定結果と、の差が所定値より大きい場合、センサSiの計測結果に異常があることを判定する。なお、以下、異常であると判定された計測点を、「異常点」と称する。また、異常点における計測結果を、「異常値」または「外れ値」と称する。
【0038】
==第2状態推定部72==
第2状態推定部72は、異常値があると判定された場合、目的関数J(x)のカーネルサイズを変更しつつ、カーネルサイズ毎に複数の電力系統30の状態推定を行う。具体的には、第2状態推定部72は、カーネルサイズ毎に、複数の異なる条件の最適化手法(例えば、多点型探索最適化手法)を用い、目的関数J(x)の値が最大となる推定結果を複数計算する。
【0039】
なお、ここでは、多点型探索最適化手法を用いることとしたが、例えば、一点探査型の最適化手法をもちい、諸条件(例えば、決定変数xの初期値や、最適化手法のパラメータ)を変化させ、カーネルサイズ毎に複数の推定結果を求めても良い。
【0040】
また、詳細は後述するが、第2状態推定部72は、カーネルサイズ毎の複数の推定結果のばらつきを計算し、ばらつきが最小となるカーネルサイズを選択する。そして、第2状態推定部72は、選択されたカーネルサイズで計算された複数の推定結果に基づいて、電力系統30の推定結果を出力する。
【0041】
==情報処理装置10で実行される処理の一例==
図5は、情報処理装置10で実行される処理S10の一例を示すフローチャートである。まず、第1状態推定部70は、センサS1~S4の計測結果を取得する(S20)。そして、第1状態推定部70は、計測結果と、系統モデル60とに基づいて、電力系統30の状態を推定する(S21:第1状態推定処理,第1状態推定ステップ)。
【0042】
ここで、第1状態推定部70は、上述したコレントロピーの手法を用いる目的関数J(x)の値が最大となるよう、決定変数xである需要家42~45の有効電力P、無効電力Qを定める。そして、第1状態推定部70は、定められた有効電力P、無効電力Qに基づいて、状態方程式を示す系統モデル60を用いて、電力系統30の状態を推定する。なお、この際、目的関数J(x)のカーネルサイズは、利用者により設定された初期値(例えば、0.01)である。この結果、例えば、図6の配電線41の電圧分布(実線)が得られることになる。
【0043】
そして、判定部71は、センサS1~S4の計測結果と、電力系統30の推定結果と、に基づいて、計測結果に異常が有るか否かを判定する(S22:判定処理,判定ステップ)。具体的には、判定部71は、センサS1~S4の計測結果と、センサS1~S4の位置に対応する電力系統30の推定結果との差が、所定値以上であるか否かを判定する。
【0044】
計測結果と、推定結果との差が所定値未満で、計測結果に異常がないと判定されると(S22:No)、第1状態推定部70は、処理S21で得られた推定結果を、例えば、表示装置24に出力する(S23)。この結果、電力系統30の推定結果が、表示装置24に表示されることになる。なお、本実施形態の第1状態推定部70が処理S21で推定した推定結果は、「第1推定結果」に相当する。
【0045】
一方、計測結果と、推定結果との差が所定値以上で、計測結果に異常が有ると判定される(S22:Yes)。なお、図6の例においては、例えば、センサS4の計測結果と、推定結果との差が所定値以上である。このため、ここでは、判定部71は、電力系統30に異常がある(センサS4の計測点が異常点である)と判定する。
【0046】
判定部71が、計測結果に異常があると判定すると(S22:Yes)、第2状態推定部72は、複数のカーネルサイズ毎に多点型探索手法を用い、複数の推定結果を求める(S24)。具体的には、本実施形態の第2状態推定部72は、カーネルサイズを、初期値(=0.01)から、所定の刻み幅(例えば、0.01)で、最大値(例えば、0.1)まで、10段階変化させる。
【0047】
そして第2状態推定部72は、10個のカーネルサイズ毎に、多点型探索手法を用い、例えば、3個の推定結果を求める。なお、本実施形態では、第2状態推定部72がカーネルサイズ毎に求める推定結果の個数を一例として3個としたが、これに限られるものではなく、4個以上であっても良い。
【0048】
ところで、仮に、電力系統30の状態を推定する際に、カーネルサイズを非常に小さくし、異常値の影響をほぼ排除してしまうと、推定結果の比較対象となる値(異常値)がなくなるため、異常点における推定結果の精度は大きく悪化してしまう。また、仮に、カーネルサイズを非常に大きくし、異常点を、正常点と同様に扱い電力系統30の状態を推定すると、異常点における推定結果は、異常値に非常に近くなるため、推定結果の精度は大きく悪化してしまう。そこで、本実施形態では、カーネルサイズを変化させることにより、異常点の影響を抑制しつつ考慮し、確からしい電力系統30の状態を推定する。
【0049】
図7は、カーネルサイズが、小さい値(例えば、0.02)の3つの推定結果と、大きい値(例えば、0.08)の3つの推定結果との一例示す図である。カーネルサイズが小さい場合、一般に、コレントロピーの式(1)から、計測点のうち、異常点の影響は考慮されるが、その影響は比較的小さい。したがって、このような場合、3つの推定結果において、特に異常点における推定結果のばらつきが大きくなる傾向がある。なお、カーネルサイズが、例えば0.02の際の3つの推定結果のばらつきは、一般に、異常点を用いない場合の推定結果のばらつきより小さくなる。
【0050】
一方、カーネルサイズとして大きな値(例えば、0.08)を用いると、一般に、式(1)から、計測点のうち、異常点の影響が徐々に大きくなる。したがって、このような場合、カーネルサイズが0.02の場合の2点鎖線で示す推定結果のように、異常点から大きく離れた推定結果(つまり、実際の推定結果から大きく外れている可能性が高い推定結果)を排除できる。
【0051】
このように、カーネルサイズを変化させつつ、電力系統30の推定結果を計算すると、異常値の影響を完全に排除した場合の推定結果、または、異常値の影響を完全に考慮した場合の推定結果と比較し、実際の電力系統30において、確からしい推定結果を得ることができる。そして、本実施形態では、異常点の推定結果のばらつきが最小となるカーネルサイズにおける推定結果を、実際の電力系統30において、確からしい推定結果であるとして処理を実行している。
【0052】
具体的には、第2状態推定部72は、10個のカーネルサイズ毎の3つの異常点の推定結果のばらつきを計算し、ばらつきが最小となるカーネルサイズを選択する(S25)。例えば、10個カーネルサイズ(0.01~0.1)のうち、カーネルサイズが0.08のばらつきが最小の場合、0.08のカーネルサイズが選択される。
【0053】
また、第2状態推定部72は、処理S25で選択されたカーネルサイズにおける3つの推定結果のうち、目的関数J(x)が最大となる推定結果を選択する(S26)。たとえば、図7の例では、3つの推定結果(点線、一点鎖線、二点鎖線)のうち、点線で示す推定結果の目的関数J(x)が、他の2つの目的関数J(x)より大きい場合、点線の推定結果が選択される。
【0054】
そして、第2状態推定部72は、処理S26で選択した推定結果を、例えば、表示装置24に出力する(S27)。この結果、電力系統30の推定結果が、表示装置24に表示されることになる。なお、本実施形態の第2状態推定部72が処理S27で出力する推定結果は、「第2推定結果」に相当する。また、第2状態推定部72が実行する処理S24~S27は、「第2状態推定処理」、「第2状態推定ステップ」に相当する。
【0055】
<<情報処理装置10の他の適用例>>
情報処理装置10は、例えば、電力系統30の状態を推定する際に用いられたが、これに限られない。例えば、“電力”を供給する電力系統30の代わりに、“ガス”または“水道”を供給する系統(不図示)の状態を推定(または、解析)する、管網解析に用いられても良い。
【0056】
例えば、系統に“ガス”が供給される場合、図2の変圧器40は、例えば、ガス供給設備に対応し、配電線41は、“ガス”を供給する供給管に対応する。また、需要家42~45は、供給された“ガス”を消費し、センサS1~S4は、系統情報として、供給管の圧力(例えば、ガス圧)を計測する計測器に対応する。これらの構成を含む“ガス”を供給する系統に対しても、情報処理装置10は、本実施形態と同様に、系統の状態を推定、解析できる。
【0057】
なお、ここでは、“ガス”について説明したが、例えば、工場などのコンプレッサ等に“圧縮空気”を供給する配管網でも同様である。したがって、情報処理装置10は、ガスや空気を含む“気体”を供給する系統に用いられても良い。
【0058】
例えば、系統に“水道(または、水)”が供給される場合、図2の変圧器40は、例えば、“水道”の供給設備に対応し、配電線41は、“水”を供給する供給管に対応する。また、需要家42~45は、供給された“水”を使用し、センサS1~S4は、系統情報として、供給管の圧力(例えば、水圧)を計測する計測器に対応する。これらの構成を含む“水道”を供給する系統に対しても、情報処理装置10は、本実施形態と同様に、系統の状態を推定、解析できる。
【0059】
なお、ここでは、“水”について説明したが、例えば、“オイル”を供給する配管網でも同様である。したがって、情報処理装置10は、水やオイルを含む“液体”を供給する系統に用いられても良い。
【0060】
=====まとめ=====
以上、本実施形態の情報処理装置10について説明した。第2状態推定部72は、センサS1~S4の計測結果に異常がある場合、複数のカーネルサイズ毎に、目的関数J(x)が最大となるよう、決定変数xである需要家42~45の有効電力P、無効電力Qを複数探索している。そして、第2状態推定部72は、複数のカーネルサイズ毎の推定結果のばらつきに基づいて、電力系統30の状態を推定する。この結果、本実施形態では、電力系統30の状態を高い精度で推定することができる。なお、目的関数J(x)において、カーネルサイズの値が小さくなるほど、異常値(または、外れ値)J(x)の値(評価値)への影響は小さくなる。
【0061】
また、第2状態推定部72は、例えば、複数のカーネルサイズのうち、推定結果のばらつきが所定値より小さくなるカーネルサイズを選択し、選択されたカーネルサイズにおける推定結果を用いても良い。ただし、一般には、複数の推定結果のばらつきが小さいほど、実際の電力系統30における推定結果を反映している可能性が高い。本実施形態の第2状態推定部72は、推定結果のばらつきが最小となるカーネルサイズを選択しているため、より高い精度で電力系統30の状態を推定することができる。
【0062】
また、第2状態推定部72は、推定結果のばらつきを計算する際、例えば配電線41の所定の範囲(例えば、計測点C~計測点Dの範囲)における推定結果ばらつきを計算しても良い。ただし、本実施形態では、所定の位置(例えば、計測点D)での推定結果のばらつきを計算しているため、計算量を少なくすることができる。
【0063】
また、第2状態推定部72は、特に異常点である計測点Dにおける推定結果のばらつきを計算する。一般に、例えば、異常点から遠い計測点Aの推定結果のばらつきは、カーネルサイズを変化させた場合であっても、大きく変化しない。したがって、異常点における推定結果のばらつきを用いることで、より高い精度でばらつきを評価することができる。
【0064】
また、カーネルサイズが最小の際の3つの推定結果のうち、例えば、3つの推定結果の平均値や、3つの推定結果の中央値(例えば、図7の場合では計測点Dにおいて3つの真ん中にある点線の推定結果)を、電力系統30の推定結果として出力しても良い。ただし、本実施形態では、3つの推定結果のうち、目的関数J(x)が最大となる推定結果を選択しているため、より確からしい電力系統30の推定結果を得ることができる。
【0065】
また、本実施形態の情報処理装置10は、電力系統30の状態推定に適用されたが、上述のように、例えば、“ガス”や“水”の系統の状態も推定可能である。
【0066】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。
【0067】
例えば、系統モデル60としては、状態方程式に基づくモデルが用いられることとしたが、これに限られない。系統モデル60は、ハードウェアで電力系統30を模擬したモデルであっても良い。
【符号の説明】
【0068】
10 情報処理装置
20 CPU
21 メモリ
22 記憶装置
23 入力装置
24 表示装置
25 通信装置
30 電力系統
40 変圧器
41 配電線
42~45 需要家
60 系統モデル
70 第1状態推定部
71 判定部
72 第2状態推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7