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特許7529217ペプチド複合体及びその製造方法、並びに前記ペプチド複合体の利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ペプチド複合体及びその製造方法、並びに前記ペプチド複合体の利用
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/00 20060101AFI20240730BHJP
   C40B 40/10 20060101ALI20240730BHJP
   C07K 7/00 20060101ALI20240730BHJP
   C40B 30/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C07K14/00 ZNA
C40B40/10
C07K7/00
C40B30/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021508239
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2020005762
(87)【国際公開番号】W WO2020195303
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2019064539
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】高津 慶士
(72)【発明者】
【氏名】鹿倉 敏裕
(72)【発明者】
【氏名】松田 優佳
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 達也
(72)【発明者】
【氏名】前田 博文
(72)【発明者】
【氏名】北 寛士
(72)【発明者】
【氏名】北野 光昭
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第07862807(US,B2)
【文献】国際公開第2017/213158(WO,A1)
【文献】特開2008-271903(JP,A)
【文献】Journal of American chemical society,2012年,Vol.134,p.15273-15276
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C40B 40/10
C07K 7/00
C40B 30/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドと、前記ペプチドに導入された細胞膜透過性付与基とを含み、
前記細胞膜透過性付与基が、下記構造式で表され
前記ペプチドと、前記細胞膜透過性付与基とが、オキシムライゲーション法により結合されたものであることを特徴とするペプチド複合体。
【化1】
前記構造式中、「*」はペプチドとの連結部位を表す。
【請求項2】
ペプチドと、前記ペプチドに導入された細胞膜透過性付与基とを含み、
前記細胞膜透過性付与基が、下記構造式で表され、
前記ペプチドと、前記細胞膜透過性付与基とが、オキシムライゲーション法により結合されたものであることを特徴とするペプチド複合体。
【化2】
前記構造式中、「*」はペプチドとの連結部位を表す。
【請求項3】
前記ペプチドのアミノ酸残基数が200以下である請求項1から2のいずれかに記載のペプチド複合体。
【請求項4】
ペプチドに、細胞膜透過性分子を導入する工程を含み、
前記細胞膜透過性分子が、下記構造式で表され、
前記ペプチドと、前記細胞膜透過性分子とが、オキシムライゲーション法により結合されたものであることを特徴とするペプチド複合体の製造方法。
【化3】
前記構造式中、「*」はペプチドとの連結部位を表す。
【請求項5】
ペプチドに、細胞膜透過性分子を導入する工程を含み、
前記細胞膜透過性分子が、下記構造式で表され、
前記ペプチドと、前記細胞膜透過性分子とが、オキシムライゲーション法により結合されたものであることを特徴とするペプチド複合体の製造方法。
【化4】
前記構造式中、「*」はペプチドとの連結部位を表す。
【請求項6】
前記ペプチドのアミノ酸残基数が200以下である請求項4から5のいずれかに記載のペプチド複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれかに記載のペプチド複合体を含むことを特徴とするペプチドライブラリ。
【請求項8】
請求項7に記載のペプチドライブラリを用いて機能性ペプチドをスクリーニングする工程を含むことを特徴とする機能性ペプチドのスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞膜透過性のペプチド複合体及びその製造方法、前記ペプチド複合体を含むペプチドライブラリ、及び前記ペプチドライブラリを用いた機能性ペプチドのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々なアミノ酸配列のペプチド(ポリペプチド)ライブラリの中から、特定の疾患に対する治療薬や、標的分子に親和性の高い分子などを選択することが行われるようになっている。
【0003】
前記ペプチドライブラリの作製方法として、例えば、in vitro翻訳系の方法として、ペプチド鎖、mRNA分子、及びリボソームを含むリボソームディスプレイ複合体を用いるリボソームディスプレイ法(RD法)が知られている(例えば、特許文献1参照)。前記RD法は、in vitro翻訳系とmRNAさえあれば、それらを混合するだけで、1012種類以上のペプチドライブラリを数分で作製することができる非常に優れた有用なものである。
【0004】
また、医薬品の開発においては、タンパク質や核酸などの様々な有効成分を細胞内に効率良く取り込めるようにする技術も重要である。
【0005】
有効成分を細胞内に取り込む技術としては、例えば、塩基性アミノ酸を多く含む細胞膜透過ペプチドのアミノ酸配列を融合する方法や、中心から規則的に分枝した構造を有する樹状高分子であるデンドリマーを用いる方法(例えば、特許文献2参照)などが知られている。
【0006】
有効成分の短時間での細胞膜透過性が低いと、細胞に取り込まれる前に有効成分の多くが代謝されてしまい、薬効を示しにくくなるおそれがあることから、有効成分の細胞内への取込みは短時間で行われることが好ましい。
【0007】
しかしながら、短時間におけるペプチドの細胞膜透過性を向上させることができる技術として十分に満足のいくものは未だ開発されておらず、その速やかな開発が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-271903号公報
【文献】米国特許第7,862,807号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、短時間における細胞膜透過性に優れたペプチド複合体及びその製造方法、前記ペプチド複合体を含むペプチドライブラリ、及び前記ペプチドライブラリを用いた機能性ペプチドのスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、4以上の枝を有する樹状構造を有し、前記4以上の枝のうち、少なくとも4つの枝の末端に塩基性官能基を有する細胞膜透過性付与基をペプチドに導入することにより、ペプチド複合体の短時間における細胞膜透過性を顕著に高めることができることを知見した。
【0011】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> ペプチドと、前記ペプチドに導入された細胞膜透過性付与基とを含み、
前記細胞膜透過性付与基が、4以上の枝を有する樹状構造を有し、
前記4以上の枝のうち、少なくとも4つの枝の末端に塩基性官能基を有することを特徴とするペプチド複合体である。
<2> ペプチドに、細胞膜透過性分子を導入する工程を含み、
前記細胞膜透過性分子が、4以上の枝を有する樹状構造を有し、前記4以上の枝のうち、少なくとも4つの枝の末端に塩基性官能基を有することを特徴とするペプチド複合体の製造方法である。
<3> 前記<1>に記載のペプチド複合体を含むことを特徴とするペプチドライブラリである。
<4> 前記<3>に記載のペプチドライブラリを用いて機能性ペプチドをスクリーニングする工程を含むことを特徴とする機能性ペプチドのスクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、短時間における細胞膜透過性に優れたペプチド複合体及びその製造方法、前記ペプチド複合体を含むペプチドライブラリ、及び前記ペプチドライブラリを用いた機能性ペプチドのスクリーニング方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(ペプチド複合体)
本発明のペプチド複合体は、ペプチドと、前記ペプチドに導入された細胞膜透過性付与基とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の構成を含む。
【0014】
<ペプチド>
前記ペプチドとしては、前記細胞膜透過性付与基を導入することができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記ペプチドにおけるアミノ酸の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、天然のアミノ酸であってもよいし、非天然のアミノ酸であってもよく、また、D体であってもよいし、L体であってもよい。
前記ペプチドは、リポペプチドなどの修飾型ペプチドであってもよい。
【0015】
前記細胞膜透過性付与基の導入に利用するアミノ酸残基(以下、「反応性アミノ酸残基」と称することがある。)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、システイン残基、リジン残基、ヒスチジン残基、トリプトファン残基、チロシン残基、セリン残基、トレオニン残基などが挙げられる。また、アミノ酸残基におけるアルコール側鎖を利用してもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記反応性アミノ酸残基のペプチドにおける数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
例えば、前記ペプチドとして、環状のペプチドを用いる場合には、前記反応性アミノ酸残基のペプチドにおける数は、2以上が好ましい。前記反応性アミノ酸残基のペプチドにおける数の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、反応点が多くなるとペプチドに結合する前記細胞膜透過性付与基の数や位置が安定せず、アミノ酸配列に由来するペプチドの特性を比較し難くなる場合があるので、10以下が好ましい。
なお、例えば、ペプチド中のシステイン残基がジスルフィド結合により前記ペプチドの高次構造の安定化に関与しているような場合には、別途、上記反応性アミノ酸残基を前記ペプチドに導入することが好ましい。
【0016】
前記反応性アミノ酸残基の前記ペプチドにおける位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0017】
例えば、前記ペプチドとして、mRNA分子、その翻訳物であるペプチド鎖(以下、「ポリペプチド鎖」と称することもある。)、及びリボソームを含むリボソームディスプレイ複合体(以下、「RD複合体」と称することがある。)を用いる場合には、例えば、リボソームの出口トンネル(exit tunnel)から外に出ている部分であり、具体的にはN末端から2番目~C末端から30番目の位置(N末端から2番目の位置及びC末端から30番目の位置を含む)の間とすることが、前記リンカー分子による修飾反応がリボソームにより立体的に阻害され難くなり得る点で、好ましい。
前記C末端からの位置としては、C末端から50番目が好ましく、100番目がより好ましい。
また、前記反応性アミノ酸残基の位置をN末端側から数えた場合、その位置は、ペプチドの鎖長に応じて適宜設定できるが、例えば、N末端から2~1,000番目の位置であり、N末端から2~100番目の位置が好ましく、N末端から2~50番目の位置がより好ましい。
【0018】
前記RD複合体の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、国際公開第2017/213158号に記載の方法などが挙げられる。また、市販のキットを利用して製造することもできる。
【0019】
前記ペプチドのアミノ酸配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ペプチドライブラリとして有用であるように、特定の位置にランダム配列を含むものが好ましい。かかるランダム配列の中から、所定の目的に応じて有用なアミノ酸配列を特定し得る。
【0020】
前記ランダム配列の前記ペプチドにおける位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記反応性アミノ酸残基の位置と同様に、RD複合体を用いる場合には、N末端から2番目~C末端から30番目の位置(N末端から2番目の位置及びC末端から30番目の位置を含む)の間とすることが好ましい。即ち、反応性アミノ酸残基は、ランダム配列内に含まれることが好ましい。従ってランダム配列の好ましい位置は、反応性アミノ酸残基の好ましい位置と同じ範囲から設定できる。
【0021】
前記ランダム配列の前記ペプチドにおける数は、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。前記ランダム配列の数の上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10以下が好ましい。
前記ランダム配列1つあたりのアミノ酸残基数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1以上、30以下とすることができる。
1つのランダム配列が長くなるほど、またランダム配列の数が多くなるほど、ペプチドライブラリの多様性を高めることができる。
【0022】
前記ペプチドは、更に、FLAG(登録商標)配列やポリHis配列等のポリペプチド鎖の精製のための配列、プロテアーゼなどにより選択的に切断される配列、スペーサー配列などを含んでいてもよい。
【0023】
前記ペプチドのアミノ酸残基数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、10以上、5,000以下とすることができるが、その上限値としては、800以下が好ましく、400以下がより好ましく、200以下が特に好ましい。
【0024】
前記ペプチドの合成方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0025】
<細胞膜透過性付与基>
前記細胞膜透過性付与基は、例えば、下記一般式(1)で表すことができる。
A-B-C ・・・ 一般式(1)
前記一般式(1)中、「A」はペプチド連結用基、「B」は連結基又は単結合、「C」は樹状構造を有する基を表す。
【0026】
-ペプチド連結用基-
前記ペプチド連結用基は、前記ペプチドにおける反応性アミノ酸残基との反応により、細胞膜透過性付与基のペプチドへの導入に寄与する。
前記反応性アミノ酸残基は、前記ペプチド連結用基と反応するアミノ酸残基であり、前記ペプチド連結用基と直接反応するアミノ酸残基であってもよいし、前記ペプチド連結用基と反応できるように修飾されたアミノ酸残基であってもよい。
【0027】
前記ペプチド連結用基としては、前記ペプチドと連結することができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、システイン残基のチオール基、リジン残基の側鎖アミノ基(-NH)、ヒスチジン残基又はトリプトファン残基の側鎖アミノ基(>NH)と反応して結合を形成可能な基などが挙げられる。
前記ペプチド連結用基の具体例としては、例えば、国際公開第2017/213158号の段落〔0067〕~〔0076〕に記載されているハロゲン化アルキル基、活性化カルボニル基、不飽和炭化水素基、エポキシ基、スルホニル含有基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、カルベン発生基、ジスルフィド結合含有基、チオール基などが挙げられる。
【0028】
また、例えば、オキシムライゲーション法により、前記ペプチドと前記細胞膜透過性付与基とを結合する場合には、下記構造式で表されるものを前記ペプチド連結用基として用いることもできる。
【化1】
【0029】
-連結基-
前記連結基は、前記ペプチド連結用基と、前記樹状構造を有する基とを連結する基である。
前記連結基の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0030】
-樹状構造を有する基-
前記細胞膜透過性付与基は、4以上の枝を有する樹状構造を有し、前記4以上の枝のうち、少なくとも4つの枝の末端に塩基性官能基を有する。
前記樹状構造を有する基は、前記ペプチドに細胞膜透過能を付与する基である。
前記細胞膜透過性付与基の樹状構造における枝の数としては、4以上であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、6以上、9以上などが挙げられる。
なお、「4以上の枝を有する」とは、前記細胞膜透過性付与基内における樹状構造の枝の合計数をいう。即ち、前記細胞膜透過性付与基は、4以上の枝を有する1つの樹状構造単位を有していてもよいし、3以下の枝を有する1つの樹状構造単位を複数有し、前記複数の樹状構造単位における枝の合計数が4以上となるものであってもよい。
【0031】
前記細胞膜透過性付与基における樹状構造単位の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1つであってもよいし、2以上であってもよい。
前記樹状構造単位1つあたりの枝の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3以上が好ましい。
前記樹状構造の枝の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
前記樹状構造を有する基の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、米国特許第7,862,807号明細書などに記載の方法により製造することができる。
【0033】
--塩基性官能基--
前記塩基性官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グアニジノ基、アミノ基、イミダゾール基などが挙げられる。これらの中でも、グアニジノ基を有することが好ましい。前記塩基性官能基は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記塩基性官能基の数としては、4以上であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、6以上、9以上などが挙げられる。
前記塩基性官能基は、4以上のグアニジノ基を有する態様が好ましい。
前記塩基性官能基の前記細胞膜透過性付与基における位置としては、少なくとも樹状構造の4つの枝の末端に塩基性官能基が位置している限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0034】
前記樹状構造を有する基の樹状構造単位の具体例としては、例えば、下記一般式(C)で表されるものなどが挙げられる。
【化2】
前記一般式(C)は、枝の数が3である樹状構造単位を表し、式中「Y」は塩基性官能基を表す。
なお、前記塩基性官能基は、全ての枝の末端に形成されていてもよいし、一部の枝の末端に形成されていてもよい。
【0035】
前記細胞膜透過性付与基は、前記細胞膜透過性付与基における前記ペプチド連結用基と、前記ペプチドにおける反応性アミノ酸残基とが反応することにより前記ペプチドに導入される。前記反応の際に、前記ペプチド連結用基の構造は変化する。
【0036】
前記細胞膜透過性付与基の具体例としては、以下の構造式で表される化合物などが挙げられる。
【0037】
下記構造式で表される細胞膜透過性付与基は、ペプチド用連結基として、オキシムライゲーション法によりペプチドと結合可能な基を有し、樹状構造を有する基として、3つの枝のすべての末端に塩基性官能基としてグアニジノ基を有する樹状構造単位を2つ有し、前記ペプチド連結用基と前記樹状構造を有する基とが、連結基を介して連結している例である。
【化3】
前記構造式中、「*」はペプチドとの連結部位を表す。
【0038】
下記構造式で表される細胞膜透過性付与基は、ペプチド用連結基として、オキシムライゲーション法によりペプチドと結合可能な基を有し、樹状構造を有する基として、3つの枝のすべての末端に塩基性官能基としてグアニジノ基を有する樹状構造単位を3つ有し、前記ペプチド連結用基と前記樹状構造を有する基とが、連結基を介して連結している例である。
【化4】
前記構造式中、「*」はペプチドとの連結部位を表す。
【0039】
<その他の構成>
前記ペプチド複合体におけるその他の構成としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蛍光物質などの発光物質、色素、放射性物質、薬剤、毒素、核酸、アミノ酸、糖類、脂質、各種ポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記蛍光物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フルオレセイン類、ローダミン類、クマリン類、ピレン類、シアニン類などの蛍光色素が挙げられる。
前記その他の構成は、例えば、上記したペプチドに、直接又は連結基などを介して結合させることができる。
【0040】
本発明のペプチド複合体は、短時間における細胞膜透過性に優れる。したがって、例えば、ランダム配列を含むペプチド複合体ライブラリとし、スクリーニングを行うことで、短時間における細胞膜透過性に優れ、かつ対象物質への親和性が高い等の有用なアミノ酸配列を特定し得る。
【0041】
(ペプチド複合体の製造方法)
本発明のペプチド複合体の製造方法は、ペプチドに、細胞膜透過性分子を導入する導入工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0042】
<導入工程>
前記導入工程は、ペプチドに、細胞膜透過性分子を導入する(以下、「結合させる」、「挿入する」、「連結する」と称することもある。)工程である。
前記導入工程により、ペプチドに、上記した(ペプチド複合体)の項目における細胞膜透過性付与基を導入することができる。
前記導入工程では、反応物中における少なくとも1つのペプチドに細胞膜透過性付与基が導入されればよいが、全てのペプチドに細胞膜透過性付与基が導入されることが好ましい。
【0043】
-ペプチド-
前記ペプチドは、上記した(ペプチド複合体)の<ペプチド>の項目に記載したものと同様である。なお、前記ペプチドは、ペプチドライブラリの態様であってもよい。
【0044】
-細胞膜透過性分子-
前記細胞膜透過性分子は、ペプチドに導入され、上記した(ペプチド複合体)の項目における細胞膜透過性付与基として存在する。そのため、前記細胞膜透過性分子は、上記した(ペプチド複合体)の<細胞膜透過性付与基>と同様とすることができる。
【0045】
前記細胞膜透過性分子の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、細胞膜透過性付与基前駆体形成工程と、前記細胞膜透過性付与基前駆体にペプチド連結用基前駆体を有する連結基を導入する工程と、前記ペプチド連結用基前駆体からペプチド連結用基を形成する工程と、前記細胞膜透過性付与基前駆体から細胞膜透過性付与基を形成する工程と、を含む方法などが挙げられる。
前記各工程は、公知の化学合成の技術を適宜選択して行うことができる。
【0046】
-導入-
前記導入の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記細胞膜透過性分子におけるペプチド連結用基と、前記ペプチドにおける反応性アミノ酸残基とを反応させる方法などが挙げられる。
前記反応の温度、時間等の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0047】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ペプチド複合体精製工程などが挙げられる。
【0048】
得られたペプチド複合体が所望の構造を有するか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、公知の分析方法を適宜選択することができ、例えば、質量分析法、プロトン核磁気共鳴分光法、炭素13核磁気共鳴分光法、紫外分光法、赤外分光法などの分析方法が挙げられる。
【0049】
(ペプチドライブラリ)
本発明のペプチドライブラリは、本発明のペプチド複合体を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の構成を含む。
前記ペプチドライブラリは、本発明のペプチド複合体のみからなるものであってもよいし、前記細胞膜透過性付与基が導入されていないペプチドが含まれていてもよい。
【0050】
前記ペプチドライブラリは、上記した(ペプチド複合体の製造方法)と同様にして、製造することができる。
【0051】
(機能性ペプチドのスクリーニング方法)
本発明の機能性ペプチドのスクリーニング方法は、本発明のペプチドライブラリを用いて機能性ペプチドをスクリーニングする工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
前記スクリーニングの方法としては、本発明のペプチドライブラリを用いる限り、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。例えば、所望の対象物質と、前記ペプチドライブラリとを混合し、結合したペプチド複合体(例えば、RD複合体)を選択し、前記RD複合体からRNAを解離させ、前記RNAからDNAを調製し、増幅した後、mRNAに転写し、再度RD複合体ライブラリを作製するという工程を繰り返し、前記対象物質に対する親和性を有する機能性ペプチドをスクリーニングする方法などが挙げられる。
【実施例
【0052】
以下に実施例等を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0053】
(比較例1:ペプチド複合体G3-Pの合成)
<化合物C1の合成>
The Journal of Organometallic Chemistry 2013,17-24に記載の方法に従い、下記構造式で表される化合物C1を合成した。なお、化合物の構造式中の「Fmoc」は「9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基」を表す。
【化5】
【0054】
<化合物C3の合成>
【化6】
【0055】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される化合物C3を合成した。
具体的には、化合物C1(50mg,0.159mmol)を塩化メチレン(5mL)に溶解し、0℃に冷却した。ここに、米国特許第7,862,807号明細書に記載の方法と同様の方法により合成した化合物C2(284mg,0.239mmol)と1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC/HCl)(45.8mg,0.239mmol)と1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)(32.2mg,0.239mmol)を加え0℃で12時間撹拌した。飽和食塩水(20mL)を加え、塩化メチレンで抽出を行い(20mLで3回)、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過後、濃縮した。残渣を分取薄層クロマトグラフィー(PTLC)で精製し(塩化メチレン/メタノール(MeOH)=10/1;Rf=0.7)、化合物C3(210mg,0.141mmol,収率89%)を無色油状物として取得した。
なお、化合物の構造式中の「Fmoc」は「9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基」、「Boc」は「tert-ブトキシカルボニル基」を表す。
前記化合物C3の1H NMRによる同定データは、以下のとおりであった。
1H NMR(CDCl): δ 8.58(t, HH=6.0Hz, 3H), 7.74(d, HH=8.0Hz, 2H), 7.58-7.57(m, 4H), 7.38(t, HH=7.5Hz, 2H), 7.28(t, HH=7.0Hz, 2H), 4.47(d, HH=7.0Hz, 2H), 4.26(s, 6H), 3.68(t, HH=5.5Hz, 6H), 3.49-3.46(m, 6H), 3.37-3.33(m, 6H), 2.43(t, HH=6.0Hz, 6H), 1.49(s, 27H), 1.46(s, 27H)
【0056】
<化合物C4の合成>
【化7】
【0057】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される化合物C4を合成した。
具体的には、化合物C3(210mg,0.141mmol)と20%ピペリジン/N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(1.0mL)を混合し、25℃で1時間撹拌した。反応液に窒素ガスを吹き付けて溶媒を揮発させた。得られた残渣をPTLCで精製し(塩化メチレン/MeOH=10/1)、化合物C4(168mg,0.133mmol,収率94%)を無色透明油状物として取得した。
前記化合物C4の1H NMRによる同定データは、以下のとおりであった。
1H NMR(CDCl): δ 11.4(s, 3H), 8.59(t, HH=6.0Hz, 3H), 7.71(t, HH=5.0Hz, 3H), 6.79(s, 1H), 4.03(s, 2H), 3.71-3.67(m, 12H), 3.55-3.52(m, 6H), 3.42-3.39(m, 6H), 2.43(t, HH=5.5Hz, 6H), 1.49(s, 27H), 1.48(s, 27H)
【0058】
<細胞膜透過性分子G3の合成>
【化8】
【0059】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される細胞膜透過性分子G3を合成した。
具体的には、化合物C4に塩酸ジオキサン溶液(4N; 1.0mL)を加えて溶液とし、25℃で2時間撹拌した。析出した白色固体を遠心分離により取得し、さらにジエチルエーテルで洗浄することにより(3mLで3回)、細胞膜透過性分子G3(90mg,定量的収率)を取得した。
前記化合物G3のマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析(MALDI-TOF MS)による同定データは、以下のとおりであった。
MALDI-TOF MS C245014 計算値(M+H+)663.401、測定値663.402
【0060】
<化合物C5の合成>
マイクロウェーブを用いた固相合成法により、リンクアミド(Rink Amide)樹脂(0.2mmol/g)上で、以下の配列を有するペプチドを合成した。
Fmoc-Ahx-Cys-Met-Leu-Tyr-Ile-Val-Pro-Tyr-Phe-Ser-Val-Gly-Cys-NH
[上記配列中、「Fmoc」は9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基を表し、「Ahx」は6-アミノヘキサン酸を表す。]
前記ペプチドを形成した樹脂を、トリフルオロ酢酸(TFA)/水/トリイソプロピルシラン/3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(92.5/2.5/2.5/2.5(容量比))に3時間浸漬し、前記ペプチドを樹脂から切り出した。
得られたペプチド(55.0mg,30.0μmol)をDMF(2.5mL)に溶解し、1,3-ジブロモ-2-プロパノン(20mM DMF溶液;1.5mL,30μmol)及びN-メチルモルホリン(10mM DMF溶液;6.0mL,60μmol)を加えて25℃で1時間撹拌した。ここにジエチルエーテル(100mL)を加えて上清を除去し、残渣をジエチルエーテル(100mL)で洗浄することにより化合物C5を白色固体として取得した(54.6mg,28.9μmol,収率97%)。
なお、化合物C5の構造式中の「CMLYIVPYFSVGC」は、ペプチドのアミノ酸配列を表す。
前記化合物C5のマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析(MALDI-TOF MS)による同定データは、以下のとおりであった。
MALDI-TOF MS C941281520 計算値(M+H+)1882.862、測定値1883.140
【化9】
【0061】
<化合物C6の合成>
【化10】
【0062】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される化合物C6を合成した。
具体的には、化合物C5(30mg,0.0159mmol)と細胞膜透過性分子G3(52.7mg,0.0796mmol)とDMF(0.5mL)と水(0.05mL)とを混合し、25℃で24時間撹拌した。ジエチルエーテル(5mL)を加えて遠心分離を行い、上澄を除去した。残渣をジエチルエーテルで洗浄(3mLで3回)することにより化合物C6粗生成物を取得した。逆相HPLC(high performance liquid chromatography)により精製し凍結乾燥することにより、化合物C6(3.8mg,0.00150mmol,収率9%)を取得した。
【0063】
<ペプチド複合体G3-Pの合成>
【化11】
【0064】
上記反応式のようにして、上記構造式で表されるペプチド複合体G3-Pを合成した。
具体的には、化合物C6と20%ピペリジン/DMF溶液(1.0mL)を混合し、25℃で2時間ボルテックスミキサーを用いて撹拌した。窒素ガスを吹き付けて溶媒を揮発させた。この残渣をジエチルエーテルで洗浄した(1mLで3回)。ここに、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)(0.8mg,0.002mmol)とジイソプロピルエチルアミン(iPrEtN)(0.0022mL,0.0124mmol)とDMF(0.5mL)を混合し、25℃で20時間撹拌した。ジエチルエーテル(15mL)を加えて遠心分離を行い、上澄みを除去した。残渣をジエチルエーテルで洗浄し(5mLで2回)、ペプチド複合体G3-P粗生成物を取得した。逆相HPLCで精製し凍結乾燥することにより、ペプチド複合体G3-P(1.6mg,0.00059mmol,収率40%)を白色固体として取得した。
前記ペプチド複合体G3-PのMALDI-TOF MSによる同定データは、以下のとおりであった。
MALDI-TOF MS C1241773030 計算値(M+H+)2694.212、測定値2694.208
【0065】
(実施例1:ペプチド複合体G6-Pの合成)
<化合物C7の合成>
マイクロウェーブを用いた固相合成法により、Wang樹脂(0.66mmol/g)上で、以下の配列を有するペプチドを合成した。
Fmoc-AOAA-Ahx-Glu
[上記配列中、「AOAA」はアミノオキシ酢酸を表し、「Ahx」は6-アミノヘキサン酸を表す。]
前記ペプチドを形成した樹脂を、トリフルオロ酢酸(TFA)/水/トリイソプロピルシラン/3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(92.5/2.5/2.5/2.5(容量比))に3時間浸漬し、前記ペプチドを樹脂から切り出した。窒素ガスを吹き付けて溶媒を留去し、残渣をジエチルエーテル(10mL)で洗浄することにより下記構造式で表される化合物C7を白色固体として取得した(定量的収率)。
【化12】
【0066】
<化合物C8の合成>
【化13】
【0067】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される化合物C8を合成した。
具体的には、化合物C7(72.6mg,0.130mmol)を塩化メチレン(3mL)に溶解し、0℃に冷却した。ここに、化合物C2(466mg,0.392mmol)とEDC/HCl(75.1mg,0.392mmol)とHOBT(52.9mg,0.392mmol)を加え0℃で12時間撹拌した。飽和食塩水(20mL)を加え、塩化メチレンで抽出を行い(20mLで3回)、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過後、濃縮した。残渣をPTLCで精製し(塩化メチレン/MeOH=10/1;Rf=0.7)、化合物C8(74.0mg,0.0255mmol,収率20%)を無色油状物として取得した。
【0068】
<化合物C9の合成>
【化14】
【0069】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される化合物C9を合成した。
具体的には、化合物C8(74mg,25.5mmol)と20%ピペリジン/DMF溶液(1.0mL)を混合し、25℃で1時間撹拌した。反応液に窒素ガスを吹き付けることで溶媒を揮発させて化合物C9粗生成物を無色透明油状物として取得した。
【0070】
<細胞膜透過性分子G6の合成>
【化15】
【0071】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される細胞膜透過性分子G6を合成した。
具体的には、前記化合物C9粗生成物に塩酸ジオキサン溶液(4N; 1.0mL)を加えて溶液とし、25℃で2時間撹拌した。析出した白色固体を遠心分離により取得し、さらにジエチルエーテルで洗浄することにより(1mLで3回)、細胞膜透過性分子G6(117mg,定量的収率)を白色固体として取得した。
【0072】
<化合物C10の合成>
【化16】
【0073】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される化合物C10を合成した。
具体的には、化合物C5(30mg,0.0159mmol)と細胞膜透過性分子G6(117mg,0.0796mmol)とDMF(0.5mL)と水(0.05mL)とを混合し、25℃で92時間撹拌した。ジエチルエーテル(5mL)を加えて遠心分離を行い、上澄を除去した。残渣をジエチルエーテルで洗浄(3mLで3回)することにより化合物C10粗生成物を取得した。逆相HPLCにより精製し凍結乾燥することにより、化合物C10(4.7mg,0.00141mmol,収率9%)を白色固体として取得した。
【0074】
<ペプチド複合体G6-Pの合成>
【化17】
【0075】
上記反応式のようにして、上記構造式で表されるペプチド複合体G6-Pを合成した。
具体的には、化合物C10と20%ピペリジン/DMF溶液(1.0mL)を混合し、25℃で2時間ボルテックスミキサーを用いて撹拌した。窒素ガスを吹き付けて溶媒を揮発させた。この残渣をジエチルエーテルで洗浄した(1mLで3回)。ここに、FITC(0.8mg,0.002mmol)とジイソプロピルエチルアミン(0.0022mL,0.0124mmol)とDMF(0.5mL)を混合し、25℃で24時間撹拌した。ジエチルエーテル(15mL)を加えて遠心分離を行い、上澄みを除去した。残渣をジエチルエーテルで洗浄し(5mLで2回)、ペプチド複合体G6-P粗生成物を取得した。逆相HPLCで精製し凍結乾燥することにより、ペプチド複合体G6-P(1.1mg,0.00031mmol,収率22%)を黄色固体として取得した。
前記ペプチド複合体G6-PのMALDI-TOF MSによる同定データは、以下のとおりであった。
MALDI-TOF MS C1572404539 計算値(M+H+)3507.706、測定値3507.696
【0076】
(実施例2:ペプチド複合体G9-Pの合成)
<化合物C11の合成>
マイクロウェーブを用いた固相合成法により、Wang樹脂(0.66mmol/g)上で、以下の配列を有するペプチドを合成した。
Fmoc-AOAA-Ahx-Glu-Glu
[上記配列中、「AOAA」はアミノオキシ酢酸を表し、「Ahx」は6-アミノヘキサン酸を表す。]
前記ペプチドを形成した樹脂を、トリフルオロ酢酸(TFA)/水/トリイソプロピルシラン/3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(92.5/2.5/2.5/2.5(容量比))に3時間浸漬し、前記ペプチドを樹脂から切り出した。窒素ガスを吹き付けて溶媒を留去し、残渣をジエチルエーテル(10mL)で洗浄することにより下記構造式で表される化合物C11を白色固体として取得した(定量的収率)。
【化18】
【0077】
<化合物C12の合成>
【化19】
【0078】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される化合物C12を合成した。
具体的には、化合物C11(50mg,0.073mmol)に塩化メチレン(10mL)を加えて溶液とし、0℃に冷却した。ここに、化合物C2(391mg,0.329mmol)とEDC/HCl(63.0mg,0.329mmol)とHOBT(44.1mg,0.329mmol)を順に加えて0℃で14時間撹拌した。水(30mL)を加え有機層を分離した。水層を更に塩化メチレンで抽出し(30mLで2回)、有機層を混合した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過及び濃縮を行うことにより化合物C12粗生成物を取得した。粗生成物をPTLCで精製し(塩化メチレン/MeOH=10/1;Rf=0.5)、化合物C12(163mg,0.038mmol,収率53%)を白色固体として取得した。
【0079】
<化合物C13の合成>
【化20】
【0080】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される化合物C13を合成した。
具体的には、化合物C12(93mg,22.1mmol)と20%ピペリジン/DMF溶液(1.0mL)を混合して溶液とし、25℃で30分間撹拌した。反応液に窒素ガスを吹き付けて溶媒を揮発させた。得られた残渣をヘキサンで洗浄し(5mLで3回)、化合物C13(101mg,定量的収率)を白色固体として取得した。
【0081】
<細胞膜透過性分子G9の合成>
【化21】
【0082】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される細胞膜透過性分子G9を合成した。
具体的には、化合物C13と塩酸ジオキサン溶液(4N; 1.0mL)を混合して溶液とし、25℃で2時間撹拌した。析出した白色固体を遠心分離により取得し、さらにジエチルエーテルで洗浄することにより(5mLで3回)、細胞膜透過性分子G9(148mg,定量的収率)を白色固体として取得した。
【0083】
<化合物C14の合成>
【化22】
【0084】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される化合物C14を合成した。
具体的には、化合物C5(28mg,0.0148mmol)と細胞膜透過性分子G9(161mg,0.074mmol)とDMF(0.5mL)と水(0.05mL)とを混合して溶液とした。ボルテックスミキサーを用い25℃で12時間撹拌後、窒素ガスを吹き付けて溶媒を揮発させた。残渣をジエチルエーテルで洗浄(5mLで3回)することにより、化合物C14粗生成物を取得した。逆相HPLCにより精製し凍結乾燥することにより、化合物C14(6.6mg,0.00163mmol,収率11%)を白色固体として取得した。
【0085】
<ペプチド複合体G9-Pの合成>
【化23】
【0086】
上記反応式のようにして、上記構造式で表されるペプチド複合体G9-Pを合成した。
具体的には、化合物C14と20%ピペリジン/DMF溶液(1mL)を混合し、25℃で2時間ボルテックスミキサーを用いて撹拌した。窒素ガスを吹き付けて溶媒を揮発させた。この残渣をジエチルエーテルで洗浄した(1mLで3回)。ここに、FITC(0.8mg,0.002mmol)とジイソプロピルエチルアミン(0.0022mL,0.0124mmol)とDMF(0.5mL)を混合し、25℃で60時間撹拌した。ジエチルエーテル(15mL)を加えて遠心分離を行い、上澄みを除去した。残渣をジエチルエーテルで洗浄し(5mLで2回)、ペプチド複合体G9-P粗生成物を取得した。逆相HPLCで精製し凍結乾燥することにより、ペプチド複合体G9-P(2.0mg,0.000475mmol,収率29%)を黄色固体として取得した。
前記ペプチド複合体G9-PのMALDI-TOF MSによる同定データは、以下のとおりであった。
MALDI-TOF MS C1842915947 計算値(M+H+)4208.115、測定値4208.107
【0087】
(試験例1:細胞膜透過能評価)
HeLa細胞(Human cervix adenocarcinoma cell)を、実施例1~2又は比較例1で合成したペプチド複合体2μMを含む細胞培養液中、5%(v/v)CO、37℃の条件下で1時間培養した。HeLa細胞の培養には、FluoroBrite D-MEM(ThermoFisher社製)(10%(v/v)FCS(ウシ胎児血清)、10%(v/v)GlutaMax(ThermoFisher社製)添加)を用いた。
次いで、D-PBS(-)(ヘパリン(20units/mL)添加)で細胞表面を洗浄後、細胞を回収し、D-PBS(-)(0.5%(v/v)BSA(ウシ血清アルブミン)、200mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、0.2%(v/v)ヨウ化プロピジウム(Sigma-Aldrich社製)添加)に懸濁させ、フローサイトメーター(BD FACS AriaIII)を用いて蛍光強度を測定した。フローサイトメトリー解析時には、ヨウ化プロピジウム陽性の死細胞を除いた生細胞集団に対し、蛍光強度最頻値を算出した。なお、対照として、ペプチド複合体を含まないジメチルスルホキシド(DMSO)についても同様にして試験した。結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示されるとおり、培養1時間後において、実施例1~2で合成したペプチド複合体はいずれも比較例1で合成したペプチド複合体に比べて高い細胞膜透過量を示した。このことから、4以上の枝を有する樹状構造を有し、前記4以上の枝のうち、少なくとも4つの枝の末端に塩基性官能基を有するデンドリマー型の細胞膜透過性付与基を用いることで、短時間における高い膜透過性が得られることが実証された。
【0090】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> ペプチドと、前記ペプチドに導入された細胞膜透過性付与基とを含み、
前記細胞膜透過性付与基が、4以上の枝を有する樹状構造を有し、
前記4以上の枝のうち、少なくとも4つの枝の末端に塩基性官能基を有することを特徴とするペプチド複合体である。
<2> 前記塩基性官能基が、4以上のグアニジノ基を有する前記<1>に記載のペプチド複合体である。
<3> 前記ペプチドのアミノ酸残基数が200以下である前記<1>から<2>のいずれかに記載のペプチド複合体である。
<4> 前記細胞膜透過性付与基が、下記一般式(C)で表される樹状構造単位を有する前記<1>から<3>のいずれかに記載のペプチド複合体である。
【化24】
前記一般式(C)中、「Y」は塩基性官能基を表す。
<5> 前記細胞膜透過性付与基が、下記構造式で表される前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチド複合体である。
【化25】
前記構造式中、「*」はペプチドとの連結部位を表す。
<6> 前記細胞膜透過性付与基が、下記構造式で表される前記<1>から<4>のいずれかに記載のペプチド複合体である。
【化26】
前記構造式中、「*」はペプチドとの連結部位を表す。
<7> ペプチドに、細胞膜透過性分子を導入する工程を含み、
前記細胞膜透過性分子が、4以上の枝を有する樹状構造を有し、前記4以上の枝のうち、少なくとも4つの枝の末端に塩基性官能基を有することを特徴とするペプチド複合体の製造方法である。
<8> 前記塩基性官能基が、4以上のグアニジノ基を有する前記<7>に記載のペプチド複合体の製造方法である。
<9> 前記ペプチドのアミノ酸残基数が200以下である前記<7>から<8>のいずれかに記載のペプチド複合体の製造方法である。
<10> 前記細胞膜透過性付与基が、下記一般式(C)で表される樹状構造単位を有する前記<7>から<9>のいずれかに記載のペプチド複合体の製造方法である。
【化27】
前記一般式(C)中、「Y」は塩基性官能基を表す。
<11> 前記細胞膜透過性付与基が、下記構造式で表される前記<7>から<10>のいずれかに記載のペプチド複合体の製造方法である。
【化28】
前記構造式中、「*」はペプチドとの連結部位を表す。
<12> 前記細胞膜透過性付与基が、下記構造式で表される前記<7>から<10>のいずれかに記載のペプチド複合体の製造方法である。
【化29】
前記構造式中、「*」はペプチドとの連結部位を表す。
<13> 前記<1>から<6>のいずれかに記載のペプチド複合体を含むことを特徴とするペプチドライブラリである。
<14> 前記<13>に記載のペプチドライブラリを用いて機能性ペプチドをスクリーニングする工程を含むことを特徴とする機能性ペプチドのスクリーニング方法である。
【配列表】
0007529217000001.app