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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ゲル電気泳動装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/447 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
G01N27/447 315A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022195922
(22)【出願日】2022-12-07
(65)【公開番号】P2024082160
(43)【公開日】2024-06-19
【審査請求日】2023-11-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「開発途上国・新興国等における医療技術等実用化研究事業」「現場使用可能な新型コロナウイルス変位株RNA検出システムの開発と開発途上国・新興国での性能評価」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000231073
【氏名又は名称】日本航空電子工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519164415
【氏名又は名称】BioSeeds株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】國方 亮太
(72)【発明者】
【氏名】須田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】マニシュ ビヤニ
(72)【発明者】
【氏名】宇野 宗則
(72)【発明者】
【氏名】ラディカ ビヤニ
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-017438(JP,A)
【文献】特表2012-522220(JP,A)
【文献】特表2005-504310(JP,A)
【文献】特開2003-315311(JP,A)
【文献】特表2002-502018(JP,A)
【文献】国際公開第2015/079048(WO,A1)
【文献】米国特許第05989400(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルカセットと、台座と、維持部と、第1電極と、第2電極とを備えるゲル電気泳動装置であって、
前記ゲルカセットは、絶縁性のケースと、前記ケースに保持されたゲルとを備えており、
前記ゲルには、第1接続領域と、第2接続領域と、サンプル設置領域とが設けられており、
前記第1接続領域と、前記第2接続領域と、前記サンプル設置領域とは、前記ケースから露出しており、
所定方向において、前記サンプル設置領域は、前記第1接続領域と前記第2接続領域との間に位置しており、
前記所定方向において、前記サンプル設置領域は、前記第1接続領域に隣接する一方、前記第2接続領域から離れており、
前記ゲルカセットは、前記第1接続領域及び前記第2接続領域にそれぞれ対応する位置において、所定厚みを有しており、
前記台座には、前記ゲルカセットを搭載することが可能であり、
前記維持部は、前記台座に対して、組み合わせられ固定されることが可能であるとともに、前記台座から分離可能であり、
前記第1電極と前記第2電極は、両方とも前記維持部及び前記台座の一方に設けられており、
前記維持部と前記台座の残りの一方には、前記第1電極と前記第2電極にそれぞれ対応する第1対向部と第2対向部とが設けられており、
前記ゲルカセットを前記台座に搭載せずに前記維持部を前記台座に固定した未搭載状態において、前記第1電極及び前記第2電極は、前記所定方向と直交する上下方向において前記第1対向部及び前記第2対向部とそれぞれ対向しているとともに所定距離以下だけ離れることが可能であり、
前記所定距離のサイズは、前記所定厚みのサイズより小さいものであり、
前記第1電極及び前記第2電極を前記第1接続領域及び前記第2接続領域にそれぞれ直接接触させつつ前記ゲルカセットを前記台座に搭載して前記維持部を前記台座に固定した搭載状態において、前記第1電極及び前記第2電極は、前記第1接続領域及び前記第2接続領域を前記上下方向において直接押圧する
ゲル電気泳動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のゲル電気泳動装置であって、
前記ゲルカセットの前記ゲルは、前記第1接続領域及び前記第2接続領域のそれぞれにおいて、0.5mm以上3.0mm以下の厚みを有しており、
前記ゲルカセットの前記ゲルは、ポリアクリルアミドゲルからなるものであり、
前記ゲルカセットが前記台座に搭載された搭載状態において、前記第1接続領域及び前記第2接続領域は、前記第1電極及び前記第2電極にそれぞれ押圧されて0.1mm以上変位している
ゲル電気泳動装置。
【請求項3】
請求項1に記載のゲル電気泳動装置であって、
前記ゲル電気泳動装置は、さらに押圧機構を備えており、
前記ゲルカセットが前記台座に搭載された搭載状態において、前記押圧機構は、前記第1電極及び前記第1接続領域の一方を残りの一方に向けて押圧するとともに、前記第2電極及び前記第2接続領域の一方を残りの一方に向けて押圧する
ゲル電気泳動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル電気泳動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、緩衝液(バッファー)の層を介して電極とゲルとを接触させる構造を有するゲル電気泳動装置を開示している。
【0003】
非特許文献2は、バッファーを必要としないバッファーレスゲル電気泳動チップを開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Toshifumi Tshukahara、外2名、“A Nonsequencing Approach for the Rapid Detection of RNA Editing”、Journal of Visualized Experiments、2022年3月5日発行、インターネット<https://www.jove.com/t/63591>、DOI:10.3791/63591
【文献】Seriy Oleksandrov、外7名、“Development of bufferless gel electrophoresis chip for easy preparation and rapid DNA separation” 2017年9月27日発行、Wiley Analytical Science、DOI:10.1002/elps.201700326
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
緩衝液を用いるゲル電気泳動装置において、予めゲルに混入させた緩衝液以外の緩衝液(付加的緩衝液)を用いた場合、使用後に付加的緩衝液の廃液処理が必要となりコストがかかる。また、廃液としての付加的緩衝液は、環境への負荷が少なくない。そのため、付加的緩衝液を用いることなく、適切に電気泳動を行えるゲル電気泳動装置が求められている。
【0006】
非特許文献2のバッファーレスゲル電気泳動チップ(ゲルカセット)は、付加的緩衝液を必要としない。しかしながら、このバッファーレスゲル電気泳動チップは、電極を備えているため、高コストである。ゲルカセットは、使い捨て部材なので、低コストのゲルカセットが求められ、ひいては、低コストのゲルカセットを使用できるゲル電気泳動装置が求められている。
【0007】
本発明は、予めゲルに混入させた緩衝液以外の緩衝液を用いることなく、適切に電気泳動を行うことができるゲル電気泳動装置を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、低コストのゲルカセットを使用できるゲル電気泳動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ゲル電気泳動測定に用いられるゲルとしてポリアクリルアミドゲルを使用すると、アガロースゲルを使用した場合と比較してより小さなDNAやRNAなどの測定が可能である。しかし、付加的緩衝液を用いることなく電極とポリアクリルアミドゲルとを接触させて電気泳動を行うと、同一種のサンプル対して同一条件で電気泳動が行われたとしても観測結果にばらつきが生じる。本発明の発明者らは、このばらつきがゲル表面に存在する凹凸に起因していることを突き止めた。すなわち、ゲル表面に凹凸が存在すると、ゲル表面に電極を接触させたとき、ゲルの凸部と電極は接触するもののゲルの凹部と電極との間には隙間が生じる。そのためゲル上に一様な電界を形成することができない。このような問題は、ゲルに反りが生じた場合にも起こり得る。
【0010】
なお、観測結果にばらつきが生じる現象は、非特許文献2のバッファーレスゲル電気泳動チップにおいてアガロースゲルの代わりにポリアクリルアミドゲルを用いた場合にも生じる。非特許文献2のバッファーレスゲル電気泳動チップは、電極を備えた樹脂容器にアガロース溶液を注ぎ込み、その状態でゲル化することで、アガロースゲルの成型体を得ている。ところが、同様の手順をポリアクリルアミドゲルにて実施すると、電極との界面に空隙が形成され、ゲル化された領域とゲル化されていない領域が不均一に混交する層が形成される。その結果、電場が弱まったり不均一となったりして、観測結果にばらつきを生じる。
【0011】
そこで、本発明は、電極をゲルに押し付けることにより、電極とゲルとを隙間なく接触させることとし、それによってゲル上に一様な電界を形成させることとした。なお、ゲルの反りは、ポリアクリルアミドゲルだけでなく、アガロースゲルの場合にも起こり得るものであるので、本発明はアガロースゲルの場合にも適用可能である。
【0012】
詳しくは、本発明の一の側面は、第1のゲル電気泳動装置として、ゲルカセットと、台座と、維持部と、第1電極と、第2電極とを備えるゲル電気泳動装置であって、
前記ゲルカセットは、絶縁性のケースと、前記ケースに保持されたゲルとを備えており、
前記ゲルには、第1接続領域と、第2接続領域と、サンプル設置領域とが設けられており、
前記第1接続領域と、前記第2接続領域と、前記サンプル設置領域とは、前記ケースから露出しており、
所定方向において、前記サンプル設置領域は、前記第1接続領域と前記第2接続領域との間に位置しており、
前記所定方向において、前記サンプル設置領域は、前記第1接続領域に隣接する一方、前記第2接続領域から離れており、
前記ゲルカセットは、前記第1接続領域及び前記第2接続領域にそれぞれ対応する位置において、所定厚みを有しており、
前記台座には、前記ゲルカセットを搭載することが可能であり、
前記維持部は、前記台座に対して、組み合わせられ固定されることが可能であるとともに、前記台座から分離可能であり、
前記第1電極と前記第2電極は、両方とも前記維持部及び前記台座の一方に設けられており、
前記維持部と前記台座の残りの一方には、前記第1電極と前記第2電極にそれぞれ対応する第1対向部と第2対向部とが設けられており、
前記ゲルカセットを前記台座に搭載せずに前記維持部を前記台座に固定した未搭載状態において、前記第1電極及び前記第2電極は、前記所定方向と直交する上下方向において前記第1対向部及び前記第2対向部とそれぞれ対向しているとともに所定距離以下だけ離れることが可能であり、
前記所定距離のサイズは、前記所定厚みのサイズより小さいものであり、
前記第1電極及び前記第2電極を前記第1接続領域及び前記第2接続領域にそれぞれ直接接触させつつ前記ゲルカセットを前記台座に搭載して前記維持部を前記台座に固定した搭載状態において、前記第1電極及び前記第2電極は、前記第1接続領域及び前記第2接続領域を前記上下方向において直接押圧する
ゲル電気泳動装置を提供する。
【0013】
また、本発明は、第2のゲル電気泳動装置として、第1のゲル電気泳動装置であって、
前記ゲルカセットの前記ゲルは、前記第1接続領域及び前記第2接続領域のそれぞれにおいて、0.5mm以上3.0mm以下の厚みを有しており、
前記ゲルカセットの前記ゲルは、ポリアクリルアミドゲルからなるものであり、
前記ゲルカセットが前記台座に搭載された搭載状態において、前記第1接続領域及び前記第2接続領域は、前記第1電極及び前記第2電極にそれぞれ押圧されて0.1mm以上変位している
ゲル電気泳動装置を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、第3のゲル電気泳動装置として、第1のゲル電気泳動装置であって、
前記ゲル電気泳動装置は、さらに押圧機構を備えており、
前記ゲルカセットが前記台座に搭載された搭載状態において、前記押圧機構は、前記第1電極及び前記第1接続領域の一方を残りの一方に向けて押圧するとともに、前記第2電極及び前記第2接続領域の一方を残りの一方に向けて押圧する
ゲル電気泳動装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のゲル電気泳動装置は、第1電極及び第2電極をゲルに押し付けてゲルを変形させるので、予めゲルに混入させた緩衝液以外の緩衝液を用いることなく、ゲルに均一の電界を生じさせ、適切に電気泳動を行うことができる。また、緩衝液を廃液処理する必要がなく、低コストかつ低環境負荷である。加えて、本発明のゲル電気泳動装置において、ゲルカセットは電極を備えていないので、さらに低コスト化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施の形態によるゲル電気泳動装置を示す第1の断面概略図である。上部筐体は開いており、ゲルカセットは、台座に搭載されていない。
図2図1のゲル電気泳動装置を示す第2の断面概略図である。ゲル電気泳動装置は、搭載状態にある。搭載状態において、ゲルカセットは台座に搭載され、上部筐体は閉じておりかつ下部筐体に固定されている。
図3図2のゲル電気泳動装置を示す第3の断面概略図である。維持部、第1電極、第2電極は、省略されている。
図4図1のゲル電気泳動装置に含まれるゲルカセットを示す上面図である。第1接続領域における第1電極が接触する領域と、第2接続領域における第2電極が接触する領域とが、それぞれ破線で示されている。
図5図4のゲルカセットをV-V線に沿って示す断面図である。
図6図1のゲル電気泳動装置におけるゲルと第1電極との関係を示す背面概略図である。ゲルには反りが生じている。
図7図6のゲルと第1電極との関係を示す別の背面概略図である。ゲルの反りは解消されている。
図8図6のゲルと第1電極に加え、第2電極を示す斜視概略図である。
図9】本発明の第2の実施の形態によるゲル電気泳動装置を示す第1の断面概略図である。上部筐体は開いており、ゲルカセットは、台座に搭載されていない。
図10図9のゲル電気泳動装置を示す第2の断面概略図である。ゲル電気泳動装置は、搭載状態にある。搭載状態において、ゲルカセットは台座に搭載され、上部筐体は閉じておりかつ下部筐体に固定されている。
図11】本発明の第3の実施の形態によるゲル電気泳動装置を示す第1の断面概略図である。上部筐体は開いており、ゲルカセットは、台座に搭載されていない。
図12図11のゲル電気泳動装置を示す第2の断面概略図である。ゲル電気泳動装置は、搭載状態にある。搭載状態において、ゲルカセットは台座に搭載され、上部筐体は閉じておりかつ下部筐体に固定されている。
図13図11のゲル電気泳動装置に含まれるゲルカセットを示す上面図である。
図14図13のゲルカセットをXIV-XIV線に沿って示す断面図である。
図15図13のゲルカセットを示す底面図である。第1接続領域における第1電極が接触する領域と、第2接続領域における第2電極が接触する領域とが、それぞれ破線で示されている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施の形態)
図1を参照すると、本発明の第1実施の形態によるゲル電気泳動装置10は、ゲルカセット12と、台座14と、維持部16、第1電極22と、第2電極24とを備えている。また、ゲル電気泳動装置10は、下部筐体32と、上部筐体34と、加熱冷却機構36とを備えている。ゲル電気泳動装置10は、さらに電気及び光学機器26を備えている。電気及び光学機器26には、第1電極22と第2電極24との間に駆動電圧を供給するドライバ(図示せず)や撮像機器(図示せず)が含まれる。
【0018】
図1に示されるように、本実施の形態において、台座14は、下部筐体32に取り付けられている。また、本実施の形態において、維持部16は、上部筐体34に取り付けられている。さらに、本実施の形態において、第1電極22及び第2電極24は、維持部16に取り付けられている。ただし、本発明は、これに限られない。本発明において、台座14は、下部筐体32とは別体であってもよい。また、維持部16は、上部筐体34とは別体であってもよい。さらには、本発明において、上部筐体34及び下部筐体32は必須ではない。
【0019】
図1及び図2から理解されるように、台座14は、ゲルカセット12を搭載できるように構成されている。本実施の形態において、台座14はフレーム形状を有している。ただし、本発明は、これに限られない。台座14は、ゲルカセット12を搭載できるように構成されていればよく、たとえば、複数の部材で構成されていてもよい。ゲルカセット12が搭載されたとき、台座14は、ゲルカセット12の縁部を下方から支持する。本実施の形態において、上下方向はZ方向である。+Z方向が上方であり、-Z方向が下方である。
【0020】
図1及び図2から理解されるように、上部筐体34は、下部筐体32に対して開閉可能である。また、上部筐体34は、下部筐体32に対して固定可能である。本実施の形態において、上部筐体34は、ヒンジ38を用いて下部筐体32に取り付けられている。また、上部筐体34には、パチン錠40の受け金具401が取り付けられ、下部筐体32には、パチン錠40の本体403が取り付けられている。ヒンジ38のおかげで、上部筐体34は、下部筐体32に対して回動可能又は開閉可能である。また、ヒンジ38及びパチン錠40のおかげで、上部筐体34は、下部筐体32に対して固定可能である。ただし、本発明はこれに限られない。上部筐体34は、下部筐体32に対して開閉可能又は着脱可能であり、かつ固定可能であればよく、その構成は特に限定されない。たとえば、上部筐体34は、下部筐体32に対して一方向にスライド可能に取り付けられていてもよい。
【0021】
図1及び図2から理解されるように、上部筐体34を開閉させると、台座14と維持部16との相対位置が変化する。また、上部筐体34を下部筐体32に固定すると、台座14に対する維持部16の相対位置が固定される。このように、本実施の形態において、維持部16は、台座14に対して、組み合わせられ固定可能であるとともに、台座14から分離可能である。しかも、上部筐体34の開閉操作に連動して台座14に対する維持部16の固定分離操作が可能である。つまり、上部筐体34の開閉操作とは別に、維持部16の固定分離操作を行う必要がない。ただし、本発明は、これに限られない。台座14と維持部16とは、上部筐体34及び下部筐体32を用いることなく、直接または間接に互いに固定可能かつ分離可能に構成されてもよい。いずれの場合においても、台座14に対して維持部16が固定されたとき、維持部16は台座14に直接接触していてもよいし、直接接触していなくてもよい。本実施の形態において、維持部16は台座14に直接接触していない。
【0022】
図1及び図2から理解されるように、維持部16は、板状の基部161と、基部161から突出する一対の突条部163とを有している。突条部163は、上下方向と直交する第1方向へ延びている。上部筐体34が下部筐体32に固定されたとき、突条部163は、基部161から下方へ突出している。突条部163の頂部には、第1電極22及び第2電極24がそれぞれ設けられている。本実施の形態において、第1方向は、X方向である。
【0023】
図1及び図2から理解されるように、台座14には、第1電極22及び第2電極24にそれぞれ対応する第1対向部141と第2対向部143が設けられている。ここで、ゲルカセット12を台座14に搭載せずに維持部16を台座14に固定した状態を「未搭載状態」と称する。未搭載状態において、第1電極22及び第2電極24は、上下方向において第1対向部141及び第2対向部143とそれぞれ対向する。本実施の形態において、未搭載状態のとき、第1電極22及び第2電極24は、上下方向において第1対向部141及び第2対向部143から所定距離Dだけ離れている。ただし、本発明は、これに限られない。未搭載状態において、第1電極22及び第2電極24は、第1対向部141及び第2対向部143にそれぞれ接していてもよい。ただし、第1電極22及び第2電極24は、未搭載状態において、第1対向部141及び第2対向部143から離れることが可能であることを条件とする。換言すると、未搭載状態において、第1電極22及び第2電極24は、上下方向において第1対向部141及び第2対向部143から所定距離D以下だけ離れることが可能であればよい。
【0024】
図3を参照すると、加熱冷却機構36は、加熱機構361と、冷却機構363と、伝熱板365とを備えている。加熱機構361及び冷却機構363は、たとえば、ペルチェ素子を用いて構成される。本実施の形態において、冷却機構363には、ヒートシンク367が設けられている。また、本実施の形態において、上部筐体34には通気口341が設けられており、通気口341の一つに対応するようにファン369が上部筐体34に取り付けられている。本発明において、加熱冷却機構36は、必須ではない。しかし、加熱冷却機構36を作動させることで、電気泳動速度の温度に対する変化を検出することが可能である。
【0025】
図4及び図5を参照すると、ゲルカセット12は、矩形の略板状の形状を有している。ゲルカセット12のサイズは、特に限定されないが、たとえば、幅50mm、長さ36mm、厚み3mmである。ここで、幅は、第1方向のサイズ、長さは、上下方向及び第1方向の両方と直交する第2方向のサイズ、厚みは、上下方向のサイズである。本実施の形態において、第2方向は、Y方向である。
【0026】
図4及び図5に示されるように、ゲルカセット12は、絶縁性のケース121と、ゲル123とを備えている。ケース121は、ベース1211と、フレーム1213と、トップカバー1215とを有している。ゲル123は、ケース121に保持され、ケース121から部分的に露出している。本実施の形態において、ケース121は、樹脂製である。ケース121は、サンプルに加えられた蛍光標識を観測できるように、励起光や蛍光に対して透明であってよい。ただし、本発明はこれに限られない。ケース121は、一部又は全部がガラス製であってよい。
【0027】
図4に示されるように、ゲル123には、第1接続領域1231と、第2接続領域1233と、サンプル設置領域1235とが設けられている。第1接続領域1231と、第2接続領域1233と、サンプル設置領域1235は、ケース121から露出している。詳しくは、第1接続領域1231と、第2接続領域1233と、サンプル設置領域1235は、フレーム1213から上方へ露出している。第1接続領域1231、第2接続領域1233及びサンプル設置領域1235のそれぞれは、第1方向に長い矩形の領域である。第1接続領域1231及び第2接続領域1233は、第1電極22及び第2電極24にそれぞれ対応する領域である。第1接続領域1231及び第2接続領域1233は、その面積が互いに等しくなるように形成されている。
【0028】
図4に示されるように、第1接続領域1231、第2接続領域1233及びサンプル設置領域1235は、第2方向(所定方向)において、この順に並んでいる。換言すると、第2方向において、サンプル設置領域1235は、第1接続領域1231と第2接続領域1233との間に位置している。また、第2方向において、サンプル設置領域1235は、第1接続領域1231に隣接する一方、第2接続領域1233から離れている。なお、本実施の形態において、第1電極22は、アノードであり、第2電極24は、カソードである。第1電極22及び第2電極24の材料は特に限定されないが、たとえば、白金、金、アルミニウム、ステンレス、銅、グラッシーカーボン等の炭素等を用いることができる。また、本実施の形態において、第1電極22及び第2電極24のそれぞれの形状は、断面が円形のワイヤー状である。ただし、本発明は、これに限られない。第1電極22及び第2電極24のそれぞれの形状は、板状、角柱状、または円柱状であってもよい。なお、第1電極22及び第2電極24のそれぞれの形状は、変形しにくいという理由で板状であることが好ましい。
【0029】
図4及び図5から理解されるように、サンプル設置領域1235には、複数のウェル125が形成されている。ウェル125は、全て同一形状、同一のサイズとなるように形成されている。また、ウェル125は、第1方向に所定の間隔で配置されている。本実施の形態において、ウェル125の数は10個である。ただし、本発明は、これに限られない。ウェル125の形状、サイズ及び数は、任意に設定することができる。ウェル125は、少なくとも一つあればよい。
【0030】
図1及び図2から理解されるように、ゲルカセット12が台座14に搭載された状態で、上部筐体34が閉じられると、ゲルカセット12は、台座14と維持部16とによって保持される。ここで、ゲルカセット12が台座14に搭載され、維持部16が台座14に固定された状態を「搭載状態」と称する。搭載状態において、第1電極22及び第2電極24は、第1接続領域1231及び第2接続領域1233にそれぞれ直接押し付けられる。また、加熱冷却機構36は、ゲルカセット12に接触する。加熱冷却機構36が必要以上にゲルカセット12を押圧することがないように、加熱冷却機構36と上部筐体34との間に緩衝機構を設けてもよい。
【0031】
図5に示されるように、ゲルカセット12は、第1接続領域1231及び第2接続領域1233にそれぞれ対応する位置において、所定厚みTを有している。一方、第1電極22及び第2電極24は、前述したように、未搭載状態において、上下方向において第1対向部141及び第2対向部143から所定距離Dだけ離れている。ここで、所定距離Dのサイズは、所定厚みTのサイズよりも小さい(D<T)。したがって、図2に示される搭載状態において、第1電極22及び第2電極24は、第1接続領域1231及び第2接続領域1233に押し付けられ、第1接続領域1231及び第2接続領域1233を変形させる。こうして、第1電極22及び第2電極24は、搭載状態において第1接続領域1231及び第2接続領域1233を上下方向において直接押圧する。このとき、第1電極22が第1接続領域1231を押圧する力と、第2電極24が第2接続領域1233を押圧する力とは、本実施の形態においては等しい。また、第1電極22が第1接続領域1231に接する面積と、第2電極24が第2接続領域1233に接する面積とは等しい。これを実現するため、本実施の形態において、第1電極22と第2電極24とは、互いに同一の表面積を有している。
【0032】
図2に示される搭載状態において、第1電極22及び第2電極24は、上述したように、第1接続領域1231及び第2接続領域1233に押し付けられ、第1接続領域1231及び第2接続領域1233を変形させる。その結果、ゲル123の表面に凹凸が存在していても、その影響を除去又は低減することができる。すなわち、第1電極22及び第2電極24は、第1接続領域1231及び第2接続領域1233にそれぞれ一様に接触する。これにより、予めゲル123に混入させた緩衝液以外の緩衝液(付加的緩衝液)を用いることなく、ゲル123に対して均一に電圧を印加し、ゲル123に均一な電場を生じさせることができる。
【0033】
本実施の形態において、ゲルカセット12のゲル123は特に限定されないが、弾性を有するゲル、たとえば、ポリアクリルアミドゲル又はアガロースゲルであってよい。たとえば、ゲル123として、ゲル濃度4~8[%T]のアクリルアミド/ビスアクリルアミド(19:1)溶液にTBE緩衝液を90[mM]混入させたプレキャストゲルを用いることができる。ここで、%T=総モノマー濃度=(アクリルアミドの総重量+ビスアクリルアミドの総重量)/総液量[ml]×100であり、mM=ミリモーラー=ミリモル/リットルである。
【0034】
ゲル123としてポリアクリルアミドゲルを用いる場合、第1接続領域1231及び第2接続領域1233のそれぞれにおいて、0.5mm以上3.0mm以下の厚み(所定厚みT)を有していることが好ましい。また、所定距離Dは、搭載状態において、第1接続領域1231及び第2接続領域1233が第1電極22及び第2電極24にそれぞれ押圧されて0.1mm以上変位するように設定される。ゲル123の表面の凹凸の影響を低減して、第1電極22及び第2電極24を第1接続領域1231及び第2接続領域1233にそれぞれ一様に接触させるためである。ゲル123の表面の凹凸の影響を一層低減するため、第1電極22及び第2電極24にそれぞれ押圧されたときの第1接続領域1231及び第2接続領域1233の変位量は、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましい。
【0035】
図6に示されるように、ゲル123は、時間経過とともに乾燥して反りを生じることがある。本実施の形態によるゲル電気泳動装置10によれば、第1電極22及び第2電極24がゲル123を下方へ押圧するので、図7及び図8に示されるように、ゲル123の反りによる影響を除去又は低減できる。すなわち、ゲル123に反りが生じたとしても、ゲル電気泳動装置10は、ゲル123に対して均一に電圧を印加し、ゲル123の第1接続領域1231と第2接続領域1233との間に均一な電場を生じさせることができる。
【0036】
以上のように、本実施の形態によるゲル電気泳動装置10は、付加的緩衝液を用いることなく、ゲルカセット12のゲル123に一様な電圧を印加することができ、適切に電気泳動を行うことができる。詳しくは、ゲル電気泳動装置10は、複数の電気泳動レーンに対して一様な電界を発生させることができる。また、ゲル電気泳動装置10は、再現性良く電気泳動を行うことができる。しかも、ゲル電気泳動装置10は、ゲルカセット12に電極を要しないので、低コストである。さらに、付加的緩衝液の廃液処理が不要なので、コストのより一層の低減が可能であるとともに、環境負荷の低減が図れる。加えて、付加的緩衝液による電圧降下がないので、印加電圧を下げて消費電力を低減することもできる。
【0037】
(第2の実施の形態)
図9及び図10を参照すると、本発明の第2の実施の形態によるゲル電気泳動装置10Aは、維持部16に代わる維持部16Aを備えている点で、第1の実施の形態によるゲル電気泳動装置10と異なっている。その他の点については、ゲル電気泳動装置10Aはゲル電気泳動装置10と同じなので、その説明を省略する。
【0038】
図9及び図10に示されるように、維持部16Aは、基部161Aと、一対の支持部165と、一対の押圧機構167とを有している。支持部165は、基部161Aに移動可能に取り付けられている。上部筐体34を閉じた状態で、押圧機構167は、上下方向に移動可能となるように、基部161Aに取り付けられている。押圧機構167は、上部筐体34を閉じた状態で、支持部165を下方へ押圧している。本実施の形態において、押圧機構167のそれぞれは、少なくとも一つのスプリングバネである。また、本実施の形態において、押圧機構167は、上部筐体34に対して支持部165を押圧している。ただし、本発明は、これに限られない。押圧機構167は、板バネ、トーションバー、皿バネ等のバネ、もしくはゴムブロック等の弾性体であってもよい。また、押圧機構167は、基部161Aに対して支持部165を押圧するものであってよい。
【0039】
図10から理解されるように、搭載状態において、押圧機構167は、支持部165を下方へ押圧する。これにより、第1電極22及び第2電極24は、ゲルカセット12の第1接続領域1231及び第2接続領域1233にそれぞれ押し付けられる。これにより、第1電極22及び第2電極24は、第1接続領域1231及び第2接続領域1233にそれぞれ一様に接触し、ゲル123に均一な電場を生じさせることができる。
【0040】
本実施の形態によるゲル電気泳動装置10Aにおいて、支持部165は基部161Aに対して移動可能でありかつ押圧機構167により付勢されている。それゆえ、ゲル電気泳動装置10Aは、ゲル123の第1接続領域1231及び第2接続領域1233における厚みが所定範囲内にあれば、第1電極22及び第2電極24を第1接続領域1231及び第2接続領域1233にそれぞれ一様に押し付けることができる。換言すると、ゲル電気泳動装置10Aは、ゲル123の厚みのばらつきにかかわらず、第1電極22及び第2電極24を第1接続領域1231及び第2接続領域1233にそれぞれ一様に押し付けることができる。
【0041】
(第3の実施の形態)
図11及び図12を参照すると、本発明の第3の実施の形態によるゲル電気泳動装置10Bは、台座14に第1電極22及び第2電極24が設けられている点で、第1の実施の形態によるゲル電気泳動装置10と異なっている。また、維持部16Bには、第1電極22及び第2電極24にそれぞれ対応する第1対向部1631及び第2対向部1633が設けられている。さらに、ゲル電気泳動装置10Bは、ゲルカセット12に代わるゲルカセット12Bを備えている。
【0042】
図13から図15を参照すると、ゲルカセット12Bは、絶縁性のケース121Bと、ゲル123Bとを備えている。ケース121Bは、ベース1211Bと、フレーム1213Bと、トップカバー1215とを有している。ゲル123Bは、ケース121Bに保持され、ケース121Bから部分的に露出している。詳しくは、第1接続領域1231Bと、第2接続領域1233Bは、ベース1211Bから下方へ露出し、ゲル123のサンプル設置領域1235は、フレーム1213Bから上方へ露出している。
【0043】
図12から理解されるように、搭載状態において、第1電極22及び第2電極24は第1接続領域1231B及び第2接続領域1233Bにそれぞれ一様に押し付けられる。これにより、ゲル123Bに均一な電場を生じさせることができる。このように、第1電極22及び第2電極24は、維持部16ではなく、台座14に設けられてもよい。すなわち、第1電極22と第2電極24は、両方とも維持部16及び台座14の一方に設けられていればよい。なお、維持部16及び台座14の残りの一方には、第1電極22と第2電極24にそれぞれ対応する第1対向部141又は1631と第2対向部143又は1633が設けられる。
【0044】
以上、本発明について、実施の形態を掲げて説明してきたが、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変形、変更が可能である。
【0045】
たとえば、第3の実施の形態によるゲル電気泳動装置10Bに、第2実施の形態の維持部16Aを組み合わせてもよい。その場合、押圧機構167は、ゲルカセット12Bを第1電極22及び第2電極24へ向かって押圧する。また、第3の実施の形態によるゲル電気泳動装置10Bの台座14に、第2の実施の形態の支持部165と押圧機構167とを組み合わせて、第1電極22及び第2電極24を第1接続領域1231B及び第2接続領域1233Bへそれぞれ押圧するようにしてもよい。このように、本発明において、押圧機構167は、搭載状態において、第1電極22及び第1接続領域1231(又は1231B)の一方を残りの一方に向けて押圧するとともに、第2電極24及び第2接続領域1233(又は1233B)の一方を残りの一方に向けて押圧するものであればよい。
【0046】
また、上記実施の形態のそれぞれにおいて、上部筐体34を下部筐体32に固定するための固定機構としてパチン錠40を用いたが、パチン錠40以外の固定機構、たとえば、打掛、ネジ止めなどの機械式機構、磁力を用いた磁気式機構を用いてもよい。
【0047】
また、上記実施の形態のそれぞれにおいて、電気及び光学機器26は、下部筐体32に収容されているが、電気及び光学機器26は、下部筐体32に収容されていなくてもよい。たとえば、電気及び光学機器26の一部又は全部は、上部筐体34に収容されてもよいし、下部筐体32及び上部筐体34の外部に配置されてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10、10A、10B ゲル電気泳動装置
12、12B ゲルカセット
121、121B ケース
1211、1211B ベース
1213、1213B フレーム
1215 トップカバー
123、123B ゲル
1231、1231B 第1接続領域
1233、1233B 第2接続領域
1235 サンプル設置領域
125 ウェル
14 台座
141 第1対向部
143 第2対向部
16、16A、16B 維持部
161、161A 基部
163 突条部
1631 第1対向部
1633 第2対向部
165 支持部
167 押圧機構
22 第1電極
24 第2電極
26 電気及び光学機器
32 下部筐体
34 上部筐体
341 通気口
36 加熱冷却機構
361 加熱機構
363 冷却機構
365 伝熱板
367 ヒートシンク
369 ファン
38 ヒンジ
40 パチン錠
401 受け金具
403 本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15