(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】電動車用冷却液組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20240730BHJP
C09K 5/20 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C09K5/10 F
C09K5/20
(21)【出願番号】P 2020072580
(22)【出願日】2020-04-14
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000106771
【氏名又は名称】シーシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】江川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】長岡 俊大
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/095759(WO,A1)
【文献】特表2005-500649(JP,A)
【文献】国際公開第2020/185611(WO,A1)
【文献】特開2017-190512(JP,A)
【文献】特開2001-164244(JP,A)
【文献】特開2011-201953(JP,A)
【文献】特表2004-524652(JP,A)
【文献】特開2014-203739(JP,A)
【文献】特表2021-533261(JP,A)
【文献】国際公開第2009/026916(WO,A1)
【文献】特開平10-025470(JP,A)
【文献】特表2007-536707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00-5/20
H01M8/04-8/0668
H01M10/52-10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール類、アルコール類及びグリコールエーテル類の中から選ばれる1種以上、及び水を含有する基剤
及び
下記a及びbを含有する電動車用冷却液組成物。
a.ベンゾトリアゾール系化合物
b.アミノ基を有する有機ケイ素化合物
【請求項2】
a.ベンゾトリアゾール系化合物が式(1)で示される化合物である請求項1に記載の電動車用冷却液組成物。
【化1】
R
1:それぞれが独立して、水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基
R
2:炭素数1~10のアルキレン基
R
3、R
4:R
3、R
4が共に式(2)で示す基、又はR
3、R
4のいずれか1つが式(2)で示す基であり、残りの基が水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基
【化2】
R
5 :炭素数1~10のアルキレン基
【請求項3】
有機ケイ素化合物は、基剤100重量部に対して0.01~1.0重量部含有する請求項1又は2に記載の電動車用冷却液組成物。
【請求項4】
導電率が200μS/cm以下である請求項1~
3のいずれかに記載の電動車用冷却液組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車用冷却液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッドカーのように、大容量の電池を搭載する自動車には、電池を冷却するシステムが搭載され、そのシステム内に冷却液を循環させることにより、電池を冷却させることが必要とされている。
しかしながら、これらの冷却液は、冬季の不凍性及び絶縁性に優れることが必要とされる。特に、万が一電池内部と通電した際には、漏電や電極等間でのショートが発生することが懸念されるため、優れた絶縁性が要求される。
そのため、特許文献1に記載のように、多価アルコール、非イオン性界面活性剤及び第3級アルコールを含有することにより、絶縁性を備えた冷却液が、特許文献2に記載のように水、エチレングリコール及び特定のグリコールジアルキルエーテルを含有することにより、絶縁性を備えた冷却液が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-19905号公報
【文献】特開2019-172774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷却液を使用するにつれて、冷却液を循環させる回路の特に内面を腐食しないことにも留意すべきである。内面が腐食すると冷却液中のイオン性物質濃度が上昇して、絶縁性を毀損することになる。その結果、何らかのきっかけで、電池のみではなくモーター及びインバータ等の電気自動車やハイブリッドカーに必要な装置が漏電したり、冷却液が通電したりする可能性がある。
そのため、電動車用冷却液組成物として、電池、モーター、インバータ等の発熱する装置を冷却するために、不凍性と絶縁性だけではなく、冷却液を循環させる回路内を含めて防錆効果を備える電動車用冷却液組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために本発明は以下の電動車用冷却液組成物とした。
1.下記a及びbを含有する電動車用冷却液組成物。
a.ベンゾトリアゾール系化合物
b.有機ケイ素化合物
2.a.ベンゾトリアゾール系化合物が式(1)で示される化合物である1に記載の電動車用冷却液組成物。
【化1】
R
1 : それぞれが独立して、水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基
R
2 : 炭素数1~10のアルキレン基
R
3、R
4 : R
3、R
4が共に式(2)で示す基、又はR
3、R
4のいずれか1つが式(2)で示す基であり、残りの基が水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基
【化2】
R
5:炭素数1~10のアルキレン基
3.有機ケイ素化合物がアミノ基を有する1又は2に記載の電動車用冷却液組成物。
4.水、グリコール類、アルコール類及びグリコールエーテル類の中から選ばれる1種以上を含有する基剤を含有する1~3のいずれかに記載の電動車用冷却液組成物。
5.ベンゾトリアゾール系化合物は、基剤100重量部に対して0.01~1.0重量部含有する1~4のいずれかに記載の電動車用冷却液組成物。
6.有機ケイ素化合物は、基剤100重量部に対して0.01~1.0重量部含有する1~5のいずれかに記載の電動車用冷却液組成物。
7.導電率が200μS/cm以下である1~6のいずれかに記載の電動車用冷却液組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、不凍性及び絶縁性に優れることに加え、防錆性にも優れた電動車用冷却液組成物を得ることができる。
【0007】
以下、具体的に本発明について述べる。
本発明は冷却液として基剤を有するものであり、その基剤に対して、ベンゾトリアゾール系化合物と有機ケイ素化合物を含有することを基本とする。
本発明はこれらの化合物を併用することにより、それぞれを単独で使用する場合よりも、優れた効果を奏する。特にベンゾトリアゾール系化合物と有機ケイ素化合物をそれぞれ単独で使用すると、いずれの場合も鋳鉄やはんだ等が腐食したり肌荒れするが、これらを併用することにより、合計の含有量がそれぞれ単独で使用した場合と同じであっても、意外なことに、各種の金属に対して十分な防錆効果を発揮できる。
【0008】
(a.ベンゾトリアゾール系化合物)
本発明の電動車用冷却液組成物が含有するベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、1-アミノアルキルベンゾトリアゾール、1-[ジヒドロキシアルキルアミノ]アルキルベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシアルキルアミノアルキルベンゾトリアゾール、1-[ヒドロキシアルキル(アルキル)アミノ]アルキルベンゾトリアゾール、6-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、7-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール、1-アミノベンゾトリアゾール、1-フェニルベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシメチルベンゾトリアゾール、1-ベンゾトリアゾールカルボン酸メチル、5-ベンゾトリアゾールカルボン酸、1-メトキシ-ベンゾトリアゾール、1-(2,2-ジヒドロキシエチル)-ベンゾトリアゾール、1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)ベンゾトリアゾール、あるいは「IRGAMET」シリーズとしてBASFジャパンより市販されている、2,2’-{[(4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ}ビスエタノール、2,2’-{[(5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ}ビスエタノール、2,2’-{[(4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ}ビスエタン、または2,2’-{[(4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ}ビスプロパン等を挙げることができる。
中でも、1-[ジヒドロキシアルキルアミノ]アルキルベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシアルキルアミノアルキルベンゾトリアゾール、1-[ヒドロキシアルキル(アルキル)アミノ]アルキルベンゾトリアゾールが好ましい。
【0009】
その中でも、下記式(1)で示されるものが好ましい。
【化3】
R
1 : それぞれが独立して、水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基
R
2 : 炭素数1~10のアルキレン基
R
3、R
4 : R
3、R
4が共に式(2)で示す基、又はR
3、R
4のいずれか1つが式(2)で示す基であり、残りの基が水素原子、又は炭素数1~10のアルキル基
【化4】
R
5:炭素数1~10のアルキレン基
【0010】
上記式(1)のベンゾトリアゾール系化合物の中でも、2,2’-(4-メチル-H-ベンゾトリアゾール-1-イルメチルイミノ)モノエタノール、2,2’-(4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イルメチルイミノ)ビスエタノール、2,2’-(4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イルメチルイミノ)モノイソプロパノール、2,2’-(4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イルメチルイミノ)ビスイソプロパノールが好ましく、2,2’-(4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イルメチルイミノ)ビスエタノールが特に好ましい。
本発明の電動車用冷却液組成物において、ベンゾトリアゾール系化合物の含有量としては、電動車用冷却液組成物の基剤100重量部に対して、0.01~1.0重量部であることが好ましく、0.1~0.5重量部であることがより好ましい。
ベンゾトリアゾール系化合物の含有量が0.01重量部未満であると、鉄、鋳鉄、黄銅、はんだ及び銅などの金属が腐食する可能性があり、1.0重量部を超えて含有させても、より高い効果が得られない可能性がある。
【0011】
(b.有機ケイ素化合物)
本発明の電動車用冷却液組成物が含有する有機ケイ素化合物としては下記式(3)で示されるものである。
式(3)
RmSiO(4-m)/2
(式(3)中、Rは、互いに独立して、置換若しくは非置換の一価炭化水素基であり、
mは、1.9~2.2の数である。)
ここでRとしては、好ましくは、互いに独立して、置換若しくは非置換の、炭素数1~18の一価炭化水素基である。非置換の一価炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基及びオクタデシル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基及びアリル基等のアルケニル基、フェニル基及びトリル基等のアリール基、スチリル基及びα-メチルスチリル基等のアリールアルケニル基等が挙げられる。
中でも上記置換基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をアミノ基で置換したものが好ましく、例えばアミノメチル基、γ-アミノプロピル基、3,3,3-トリアミノプロピル基、アミノエチル基及びN-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピル基等が挙げられ、中でも、γ-アミノプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0012】
本発明の電動車用冷却液組成物において、有機ケイ素化合物の含有量としては、電動車用冷却液組成物の基剤100重量部に対して、0.01~1.0重量部であることが好ましく、0.1~0.5重量部であることがより好ましい。
有機ケイ素化合物の含有量が0.01重量部未満であると鉄、鋳鉄及びはんだなどの金属が腐食する可能性があり、 1.0重量部を超えて含有させても、より高い効果が得られない可能性がある。
ベンゾトリアゾール系化合物と有機ケイ素化合物の含有比率は、重量の比率で、ベンゾトリアゾール系化合物:有機ケイ素化合物=1:100~100:1が好ましく、1:50~50:1がより好ましく、1:30~30:1がさらに好ましく、1:28~10:1が最も好ましい。
【0013】
(基剤)
本発明の電動車用冷却液組成物の基剤としては、水、又は水と共に公知の基剤を使用することができ、そのような基剤として例えば下記のアルコール類やグリコールエーテル類から選ばれる1種以上が採用される。電動車用冷却液組成物の融点を考慮して、冷却液組成物中80~99重量%、好ましくは90~98重量%となるように使用されることが好ましい。
(アルコール類)
メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール等の1価アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、5-メチル-1,2,4-ヘプタントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール等、中でも特にエチレングリコール、或いはプロピレングリコールが好ましい。
(グリコールエーテル類)
エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0014】
(導電率)
本発明の電動車用冷却液組成物は、例えば電池等を冷却する場合において、漏電等の発生を防止するために、導電率が低いことが好ましい。
そのため、電動車用冷却液組成物中にイオン性の化合物を含有しないことが好ましく、pH調整剤、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、塩の形態である各種防錆剤、カルボン酸化合物等の酸やその塩等を含有しないことが好ましい。
そして、好ましい導電率としては、200μS/cm以下であり、より好ましくは100μS/cm以下であり、さらに好ましくは50.0μS/cm以下である。
本発明中の導電率は、JIS K 0130に基づいて行い、25℃で測定したものである。
【0015】
(添加剤)
本発明の冷却組成物には、例えば、消泡剤、着色剤、染料、分散剤又は苦味剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜添加することができる。
但し、18-クラウン-6-エーテル骨格構造を有する分子、3,5-ジメチルピラゾール、テトラエトキシシラン化合物を含有してもしなくても良い。
【0016】
(実施例)
下記実施例及び比較例の組成の電動車用冷却液組成物を調整した。これらの電動車用冷却液組成物の組成及び試験結果を下記表1に示す。表1中の各成分に関する数値は重量部を示す。
ベンゾトリアゾール系化合物:2,2’-{[(4-メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ}ビスエタノール
有機ケイ素化合物:γ-アミノプロピルトリエトキシシラン
【0017】
【0018】
本発明に沿った例である実施例1によれば、各金属の試験片の試験前後の質量変化は小さく、外観に変化がなかったため合格であった。
それに対して、ベンゾトリアゾール又はオルトケイ酸テトラエチルのみを含有した比較例1及び2によれば、各試験片の質量変化が大きい結果となり、鋳鉄及び鋼が腐食し、はんだ表面に肌荒れが発生したり、黄銅が腐食したりした。
さらに、ベンゾトリアゾール系化合物を0.25重量部含有させ、有機ケイ素化合物を含有させなかった比較例3によれば、鋳鉄とはんだの質量変化が大きかった。そして鋳鉄に腐食が生じ、はんだ表面に肌荒れが発生した。また、有機ケイ素化合物を0.25重量部含有し、ベンゾトリアゾールを含有させなかった比較例4によれば、鋳鉄、黄銅、はんだ及び銅に比較的大きい質量変化を生じ、鋳鉄に腐食が生じた。