(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 49/00 20060101AFI20240730BHJP
G03G 9/107 20060101ALI20240730BHJP
G03G 9/113 20060101ALI20240730BHJP
H01F 1/36 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C01G49/00 C
G03G9/107 321
G03G9/113 351
C01G49/00 A
H01F1/36
(21)【出願番号】P 2020099642
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 謙
(72)【発明者】
【氏名】石川 誠
(72)【発明者】
【氏名】植村 哲也
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-167233(JP,A)
【文献】特開2010-150053(JP,A)
【文献】国際公開第2019/198304(WO,A1)
【文献】特開2015-093817(JP,A)
【文献】特開2017-021195(JP,A)
【文献】特開平06-263546(JP,A)
【文献】HOSTERMAN, B. D.,Raman Spectroscopic Study of Solid Solution Spinel Oxides,ネバダ大学博士論文,2011年
【文献】PAWAR, R. A. et al.,Crystal chemistry and single-phase synthesis of Gd3+ substituted Co-Zn ferrite nanoparticles for enhanced magnetic properties,RSC Advances,2018年,8, (44),25258-25267
【文献】YOUSUF, M. A. et al.,The impact of yttrium cations (Y3+) on structural, spectral and dielectric properties of spinel manganese ferrite nanoparticles,Ceramics International,2019年,45,10936-10942
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00
C01G 51/00
C01G 53/00
G03G 9/10
H01F 1/34
B01J 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、組成式AB
2O
4で表されるフェライト粒子であって、
B-O間距離が2.030Å以上2.080Å以下であり、
前記B-O間距離の標準偏差σが15.0×10
-4Å以下である、
ことを特徴とするフェライト粒子。
【請求項2】
3K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのB-H測定による飽和磁化が55Am
2/kg以上95Am
2/kg以下である請求項1に記載のフェライト粒子。
【請求項3】
見掛密度が1.60g/cm
3以上2.50g/cm
3以下である請求項1又は請求項2に記載のフェライト粒子。
【請求項4】
体積平均粒径(D
50)が20μm以上80μm以下である請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のフェライト粒子。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のフェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面を被覆する樹脂被覆層とを備えることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア。
【請求項6】
請求項5に記載の電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤。
【請求項7】
補給用現像剤として用いられる請求項6に記載の電子写真現像剤。
【請求項8】
空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、組成式AB
2O
4で表されるフェライト粒子を製造するためのフェライト粒子の製造方法であって、
内壁面が[A
xX
(1-x)][B
yX
(1-y)]
2O
4(但し、X≠A、X≠B、0≦x,y≦1であり、Xは6配位における有効イオン半径が1.00Åよりも小さく、価数が2又は3の金属元素又は半金属元素である。)の組成式で表されるフェライトよりなるコーティング層により被覆された被焼成物収容容器に、前記組成式AB
2O
4で表されるフェライト粒子の前駆体を収容して、当該前駆体を焼成することにより、前記フェライト粒子を製造する
にあたり、
前記被焼成物収容容器に充填する前記前駆体の充填率を30体積%以上80体積%以下とし、
前記前駆体と、当該前駆体を焼成するために用いる発熱体との間の距離について、その最短距離(Dmin)と最長距離(Dmax)との比が0.19以上であること、
を特徴とするフェライト粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真現像方法は、現像剤中のトナーを感光体上に形成された静電潜像に付着させて現像する方法をいう。この方法で使用される現像剤は、トナーとキャリアからなる二成分系現像剤と、トナーのみを用いる一成分系現像剤とに分けられる。二成分系現像剤を用いた現像方法としては、古くはカスケード法等が採用されていたが、現在では、マグネットロールを用いる磁気ブラシ法が主流である。
【0003】
磁気ブラシ法では、現像剤が充填されている現像ボックス内においてトナーとキャリアとを攪拌・混合することによって、トナーに電荷を付与する。そして、マグネットを保持する現像ロールによりキャリアを感光体の表面に搬送する。その際、キャリアにより、電荷を帯びたトナーが感光体の表面に搬送される。感光体上で静電的な作用によりトナー像が形成された後、現像ロール上に残ったキャリアは再び現像ボックス内に回収され、新たなトナーと撹拌・混合され、一定期間繰り返して使用される。
【0004】
二成分系現像剤は、一成分系現像剤とは異なり、キャリア自体の磁気特性や電気特性をトナーと分離して設計することができるため、現像剤を設計する際の制御性がよい。そのため、二成分系現像剤は高画質が要求されるフルカラー現像装置及び画像維持の信頼性、耐久性が要求される高速印刷を行う装置等に適している。
【0005】
このような二成分系現像剤のキャリアでは、Mn等の金属元素を含むスピネル型結晶構造を有するフェライト粒子(以下、スピネル型フェライト粒子)が芯材として用いられている。スピネル型フェライト粒子では、結晶構造によってその磁気特性や電気特性が変化する。そのため、芯材の磁気特性や電気特性を制御すべく結晶構造に着目した発明がいくつか提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、Mn等を特定範囲内で含み、格子定数を一定範囲内にすることで、小粒径であるにもかかわらず、粒子抵抗が高く、粒子間のバラツキを小さいフェライト粒子が提案されている。この特許文献2に記載のMn系フェライト粒子を芯材として用いることで、キャリア付着や細線再現性に優れた電子写真現像剤が得られる。
【0007】
また、特許文献2には、Fe及びMgを含む組成のスピネル型フェライト粒子において、格子定数が所定の数式で表される範囲内とすることで、所望の飽和磁化及び高電気抵抗を実現するようにしたフェライト粒子が提案されている。
【0008】
このように結晶構造に着目し、磁気特性の良好な芯材を用いることなどにより、例えば、低磁化粒子に起因するキャリア付着などが抑制された電子写真現像剤が得られている。特許文献3に開示されるように、数個の差のキャリア付着によって良否判定が行われるなど、その判定基準も厳しくなっている。今後、電子写真現像剤の特性をさらに向上させるには、フェライト粒子の磁気特性を個々の粒子レベルで制御し、キャリア付着の原因となる低磁化粒子が含まれないように、個々の粒子の磁気特性が均質であることが求められる。
【0009】
また、近年では、より高精細、高解像度な印刷特性が求められ、印刷物の画像現像量を検知して、現像電圧などの現像条件を制御することが行われている。この場合、同一現像条件では同一の画像現像量を再現することが求められる。しかしながら芯材の磁気特性にバラツキがあると磁気ブラシの高さにバラツキが発生し、同一現像条件において同一の画像現像量を再現することができない場合がある。従って、画像現像量のバラツキを抑制する上でも、個々の粒子の磁気特性が均質であることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5995048号公報
【文献】特許第5620699号公報
【文献】特開2018-84608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これらの点について、上記特許文献1及び特許文献2に記載の発明では、単に格子定数についてのみ着目しており、そのフェライト粒子が帰属する結晶構造を特定しているものではない。つまり、上記特許文献には、フェライト粒子の結晶構造を特定するために必要な空間群及び各イオンの原子座標について解析されておらず、どのような結晶構造であるかが特定されていない。
【0012】
仮に記載事項から、特許文献1及び特許文献2のフェライト粒子がスピネル型結晶構造を有し、その空間群がFd-3mであることが推認されたとしても、その点のみでは個々の粒子の磁気特性が均質であるとはいえない。個々の粒子の磁気特性は結晶格子の格子点を占有するイオンのスピン状態によって変化するためである。例えば、Acta Cryst. (1976). A32, 751出典Shannonらの報告にある有効イオン半径からスピン状態を推定することができるが、上記特許文献1及び特許文献2には、イオン半径等を解析した点に関する記載がなく、格子定数が所定の範囲内であっても、個々の粒子の結晶構造にはバラツキがあり、個々の粒子の磁気特性にはバラツキがあるものと考えられるためである。
【0013】
そこで、本件発明は、磁気特性に優れ、個々の粒子が均質なフェライト粒子、及び当該フェライト粒子を用いた電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係るフェライト粒子は、空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、組成式AB2O4で表されるフェライト粒子であって、B-O間距離が2.030Å以上2.080Å以下であり、前記B-O間距離の標準偏差σが15.0×10-4Å以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係るフェライト粒子において、3K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのB-H測定による飽和磁化が55Am2/kg以上95Am2/kg以下であることが好ましい。
【0016】
本発明に係るフェライト粒子において、見掛密度が1.60g/cm3以上2.50g/cm3以下であることが好ましい。
【0017】
本発明に係るフェライト粒子において、体積平均粒径(D50)が20μm以上80μm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、上記フェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面を被覆する樹脂被覆層とを備えることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る電子写真現像剤は、上記電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含むことを特徴とする。
【0020】
本発明に係る電子写真現像剤は、補給用現像剤として用いられることも好ましい。
【0021】
本発明に係るフェライト粒子の製造方法は、空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、組成式AB2O4で表されるフェライト粒子を製造するためのフェライト粒子の製造方法であって、内壁面が[AxX(1-x)][ByX(1-y)]2O4(但し、X≠A、X≠B、0≦x,y≦1であり、Xは6配位における有効イオン半径が1.00Åよりも小さく、価数が2又は3の金属元素又は半金属元素である。)の組成式で表されるフェライトよりなるコーティング層により被覆された被焼成物収容容器に、前記組成式AB2O4で表されるフェライト粒子の前駆体を収容して、当該前駆体を焼成することにより、前記フェライト粒子を製造するにあたり、前記被焼成物収容容器に充填する前記前駆体の充填率を30体積%以上80体積%以下とし、前記前駆体と、当該前駆体を焼成するために用いる発熱体との間の距離について、その最短距離(Dmin)と最長距離(Dmax)との比が0.19以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本件発明によれば、組成式AB2O4で表されるフェライト粒子において、3d軌道電子のスピン状態に影響を及ぼす因子であるB-O間距離及びその標準偏差を所定の範囲内にすることで、磁気特性に優れ、個々の粒子が均質なフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア、電子写真現像剤及びフェライト粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本件発明に係るフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤の実施の形態を説明する。なお、本明細書において、フェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤は、特記しない限り、それぞれ個々の粒子の集合体、つまり粉体を意味するものとする。まず、フェライト粒子の実施の形態を説明する。また、以下では、本実施の形態のフェライト粒子は電子写真現像剤用キャリア芯材として用いられるものとして説明するが、本件発明に係るフェライト粒子は磁性インク、磁性流体、磁性フィラー、ボンド磁石用フィラー及び電磁波シールド材用フィラー等の各種機能性フィラー、電子部品材料等の各種用途に用いることができ、当該フェライト粒子の用途は電子写真現像剤用キャリア芯材に限定されるものではない。
【0026】
1.フェライト粒子
まず、フェライト粒子について説明する。当該フェライト粒子は、空間群Fd-3mに帰属するスピネル型結晶構造を有し、組成式AB2O4で表される。A、Bはスピネル型結晶構造を有するフェライトを構成する元素であればよく、例えば、A及びBはFe及び/又はMeであることが好ましい。ここでMeは2価の価数を有する金属元素であり、Me≠Feとする。また、Meは6配位における有効イオン半径が1.00Åよりも小さく、価数が2又は3の金属元素又は半金属元素であることが好ましく、例えば、Mn、Mg、Ti、Co、Ni、Cu、Zr及びZnからなる群から選択される一種以上の金属元素であることが好ましく、MeはMn及び/又はMgであることがより好ましい。特に、上記組成式AB2O4は、MnFe2O4又は[Mn(x)Mg(1-x)]Fe2O4(0≦x≦1)であることが好ましい。また、当該フェライト粒子は、0.4mol%~2.0mol%の範囲内でSr、Ca等のA,B以外の金属元素であって、6配位における有効イオン半径が1.00Å以上の金属元素又は半金属元素を含んでいてもよい。
【0027】
ところで、スピネル型結晶は立方晶系に属し、その単位格子は8(AB2O4)で表される。スピネル型結晶の単位格子を構成する32個の酸素は最密立方格子を形成する。単位格子において金属イオンが配置される格子点は2種類あり、4個の酸素が構成する四面体の中心位置である8b位置(Aサイト)、6個の酸素が構成する六面体の中心位置である16c位置(Bサイト)とがある。
【0028】
当該フェライト粒子を構成するA、Bは2価又は3価の金属イオンとして8b位置又は16c位置に配置される。一般に、2価の金属イオンが8b位置を占有する場合、それを正スピネルといい、以下のように表される。
正スピネル:Me2+[Fe3+
2]O4
【0029】
フェライト粒子の磁気特性は3d軌道電子のスピン状態によって変化する。3d軌道電子のスピン状態は組成及び最隣接原子の相互作用によって変化する。Aサイト、Bサイトを占有するイオンのイオン半径に関する情報を得れば、Acta Cryst. (1976). A32, 751出典Shannonらの報告にある有効イオン半径と照合することでスピン状態を推定することができる。よって、後述する方法によりA-O間距離、B-O間距離、A-O-Bの角度を求めることで、イオン半径に関する情報を得れば、そのスピン状態を推定することができる。
【0030】
ここで、A-O間距離、B-O間距離、A-O-Bの角度のうち、本発明では、特にB-O間距離に着目した。これは次の理由による。B-O間距離は16c位置を占有するBイオンと、32e位置を占有する酸素イオンとの間の最短距離をいう。B-O間距離は特殊位置である16c位置と一般位置である32e位置との間距離を表す。B-O間距離が規定されると、A-O間距離、A-O-Bの角度が必然的に定まる。このようにB-O間距離を規定することで、結晶構造を特定することができる。そして、B-O間距離が所定の範囲内であるフェライト粒子は磁気特性が良好であり、後述する焼成条件等を採用することによりB-O間距離を制御し、B-O間距離の標準偏差σの小さいフェライト粒子が得られることを見出した。
【0031】
本発明者等は上記の点に加え、目的とする組成(AB2O4)のフェライト粒子を製造する際に、後述する要因等によってA,B以外の元素Xがスピネル型結晶の格子点である8b位置或いは16c位置を占有し、元素Xが固溶したフェライトが生成されると、上記各値が変化し、これらの値のバラツキが生じる原因になることに着目した。そこで、本件発明者等は鋭意検討の結果、後述する製造方法に想到し、上記元素Xが固溶したフェライトが生じることを抑制することで、上記の値を所定の範囲内とし、且つ、標準偏差が小さくなるように制御することができ、その結果、所望の磁気特性を有し、個々の粒子の磁気特性の均質なフェライト粒子が得られることを見出し、本発明に想到した。なお、X≠A、X≠Bであり、スピネル型結晶構造の上記格子点を占有可能なイオン半径を有する元素(例えば、Al,Si等の6配位における有効イオン半径が1.00Åよりも小さく、価数が2又は3の金属元素又は半金属元素)であるものとする。以下、詳細に説明する。
【0032】
(1)B-O間距離
本件発明に係るフェライト粒子は、上記B-O間距離が2.030Å以上2.080Å以下であるものとする。B-O間距離が当該範囲内であるフェライト粒子は磁気特性に優れ、電子写真用キャリア芯材に適した磁気特性を示す。
【0033】
これに対して、当該B-O間距離が2.030Å未満になると当該スピネル型フェライト粒子の飽和磁化が高くなる。そのため、当該スピネル型フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリア芯材としたとき、磁気ブラシの高さが不均一になり画像現像量バラツキが生じやすくなる。一方、当該B-O間距離が2.080Åを超えると当該スピネル型フェライト粒子の飽和磁化が低くなり、また飽和磁化の分布が広くなる。そのため、当該スピネル型フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリア芯材としたとき、キャリア付着が生じやすくなる。従って、上記範囲外である場合は、いずれも画像欠陥が生じやすく好ましくない。
【0034】
これらの効果を得る上で、当該B-O間距離は2.040Å以上であることが好ましく、2.050Å以上であることがより好ましい。また、当該B-O間距離は2.075Å以下であることが好ましい。なお、本発明において数値範囲の上限及び下限に関する好ましい数値については、「以上」を「より大きく」、或いは、「以下」を「より小さく」と置換してもよい。
【0035】
(2)B-O間距離の標準偏差σ
上記B-O間距離は、酸素イオンの座標値と、Bイオンの種類(Bイオンのイオン半径)によって変化する。本発明に係るスピネル型フェライト粒子において、B-O間距離の標準偏差σが15.0×10-4Å以下であることを特徴とする。
【0036】
B-O間距離の標準偏差σが15.0×10-4Å以下である場合、上記B-O間距離のバラツキが小さく、その結果、飽和磁化の分布が狭く、磁気特性の均質なフェライト粒子を得ることができる。よって、当該スピネル型フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリア芯材としたとき、キャリア付着の発生をより良好に抑制することができる。
【0037】
これに対して、B-O間距離の標準偏差σが15.0×10-4Åを超えると当該スピネル型フェライト粒子の飽和磁化の分布が広くなり、低磁化の粒子が増加するなど、個々の粒子の磁気特性にバラツキが生じるようになる。そのため、当該フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリア芯材としたとき、キャリア付着が生じやすくなる。
【0038】
これらの効果を得る上で、当該B-O間距離の標準偏差σは15.0×10-4Å以下であることが好ましく、10.0×10-4Å以下であることがより好ましい。
【0039】
ここで、上記B-O間距離及びその標準偏差σは後述する方法により得た粉末X線回折パターンを後述する方法によりリートベルト解析することにより結晶構造を特定した値をいう。
【0040】
(粉末X線回折)
X線回折装置として、パナリティカル社製「X’PertPRO MPD」を用いることができる。X線源としてCo管球(CoKα線)を用いることができる。光学系として集中光学系及び高速検出器「X‘Celarator」を用いることができる。測定条件は以下のとおりとする。
【0041】
スキャンスピード :0.08°/秒
発散スリット :1.0°
散乱スリット :1.0°
受光スリット :0.15mm
封入管の電圧及び電流値:40kV/40mA
測定範囲 :2θ=15°~90°
積算回数 :5回
【0042】
(結晶相の同定)
上記得られた測定結果(粉末X線回折パターン)を元に、「国立研究開発法人物質・材料研究機構、”AtomWork”、インターネット<URL:http://crystdb.nims.go.jp/>」に開示の構造より結晶構造を以下の通り同定した。
【0043】
フェライト粒子の場合は以下のモデルを仮定した。
マンガンフェライト(スピネル型結晶)からなる結晶相
結晶構造: 空間群 Fd-3m (No.227-2)
原子座標: Mn2+(8b位置(3/8,3/8,3/8))
Fe3+(16c位置(0,0,0))
O2- (32e位置(x,x,x))
【0044】
以上のように結晶相の同定を行った後、解析用ソフト「RIETAN-FP v2.83」を用いて下記のパラメータの精密化を行った。プロファイル関数はThompson,Cox,Hastingの擬Voigt関数を使用しHowardの方法で非対称化した。また、フィッティングの正確さを表すRwp値,S値が各々Rwp:2%以下,S値:1.5以下となるように以下のパラメータの精密化を行った。
【0045】
(精密化するパラメータ)
・シフト因子
・スケール因子
・バックグラウンドパラメータ
・ガウス関数 U,V,W
・ローレンツ関数 X,Y
・非対称パラメータ As
・格子定数
・酸素原子座標
なお、等方性原子変位パラメータはMn2+、Fe3+は0.75、O2-は1.00に固定した。
【0046】
(B-O間距離及び標準偏差σ)
上記パラメータを精密化した後にB-O間距離を求めるため、ORFFEプログラム用ファイル(*.xyz)を出力するようリートベルト解析用入力ファイル(*.ins)を設定し、さらにリートベルト解析プログラムを実行した。得られた(*.xyz)ファイルを用い、ORFFEプログラムを実行することでB-O間距離及び標準偏差σを得た。
【0047】
(3)磁気特性
次に、当該フェライト粒子の磁気特性について説明する。当該フェライト粒子は、3K・1000/4π・A/mの磁場をかけたときのB-H測定による飽和磁化が55Am2/kg以上95Am2/kg以下であることが好ましい。当該フェライト粒子の飽和磁化が当該範囲内であると、当該フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリア芯材として用いることで高画質の電子写真印刷を良好に行うことのできる電子写真現像剤を得ることができる。
【0048】
これに対して、飽和磁化が55Am2/kg未満になると、当該フェライト粒子の飽和磁化が低く、低磁化に起因するキャリア飛散が発生しやすくなるため好ましくない。また、飽和磁化が95Am2/kgを超えると飽和磁化が高すぎて、磁気ブラシの高さが不均一になり画像現像量バラツキが生じやすくなる。また、飽和磁化と電気抵抗はトレードオフの関係にあり、フェライト粒子の飽和磁化が高くなると、その電気抵抗は低くなる。そのため、当該フェライト粒子の飽和磁化が95Am2/kgを超えると、当該フェライト粒子の抵抗が低くなり、低抵抗に起因するキャリア飛散が発生しやすくなるため好ましくない。
【0049】
これらの効果を得る上で、飽和磁化は60Am2/kg以上であることがより好ましく、65Am2/kg以上であることがさらに好ましい。また、飽和磁化は90Am2/kg以下であることがより好ましく、85Am2/kg以下であることがさらに好ましい。
【0050】
飽和磁化は、積分型B-HトレーサーBHU-60型(株式会社理研電子製)を用いて測定することができる。具体的には、試料を4πIコイルに入れ、当該装置の電磁石間に磁場測定用Hコイル及び磁化測定用4πIコイルを配置し、電磁石の電流を変化させ磁場Hを変化させたHコイル及び4πIコイルの出力をそれぞれ積分し、H出力をX軸に、4πIコイルの出力をY軸に、ヒステリシスループを記録紙に描く。このヒステリシスカーブにおいて、印加磁場が3K・1000/4π・A/mであるときの磁化を求め、飽和磁化とした。なお、測定条件は以下のとおりである。
試料充填量 :約1g
試料充填セル:内径7mmφ±0.02mm、高さ10mm±0.1mm
4πIコイル:巻数30回
【0051】
(4)見掛密度(AD)
当該フェライト粒子の見掛密度(AD)は1.60g/cm3以上2.50g/cm3以下であることが好ましい。ここでいう見掛密度は、JIS Z 2504:2012に準拠して測定した値という。当該フェライト粒子の見掛密度が当該範囲内であると流動性が良好であり、当該フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリア芯材としたとき、現像機内で攪拌ストレスによる帯電特性の劣化を抑制することができる。
【0052】
これに対して、当該フェライト粒子の見掛密度(AD)が1.60g/cm3未満になると、流動性が低く現像機内でトナーとの攪拌を良好に行うことが困難になる他、磁化の低い粒子が増加し、低磁化に起因するキャリア付着を抑制することが困難になる。一方、当該フェライト粒子の見掛密度(AD)が2.50g/cm3を超えると、現像機内での攪拌ストレスにより、後述する樹脂被覆層が剥離するなどにより帯電特性が劣化する場合があるため好ましくない。
【0053】
これらの効果を得る上で、当該フェライト粒子の見掛密度は、1.70g/cm3以上であることがより好ましく、1.80g/cm3以上であることがさらに好ましい。また、当該フェライト粒子の見掛密度は、2.40g/cm3以下であることがより好ましく、2.30g/cm3以下であることがさらに好ましい。
【0054】
見掛密度は、粉末見掛密度計を用いて以下のようにして測定することができる。粉末見掛密度計として、漏斗、コップ、漏斗支持器、支持棒及び支持台から構成されるものを用いる。天秤は、秤量200gで感量50mgのものを用いる。そして、以下の手順で測定し、以下のようにして算出して得た値をここでいう見掛密度とする。
【0055】
(i)測定方法
(a)試料は、少なくとも150g以上とする。
(b)試料は孔径2.5+0.2/-0mmのオリフィスを持つ漏斗に注ぎ流れ出た試料が、コップ一杯になってあふれ出るまで流し込む。
(c)あふれ始めたら直ちに試料の流入をやめ、振動を与えないようにコップの上に盛り上がった試料をへらでコップの上端に沿って平らにかきとる。
(d)コップの側面を軽く叩いて、試料を沈ませコップの外側に付着した試料を除去して、コップ内の試料の重量を0.05gの精度で秤量する。
【0056】
(ii)計算
上記(d)で得られた測定値に0.04を乗じた数値をJIS-Z8401(数値の丸め方)によって小数点以下第2位に丸め、「g/cm3」の単位の見掛け密度とする。
【0057】
(5)平均体積粒径(D50)
当該フェライト粒子の平均体積粒径(D50)は20μm以上80μm以下であることが好ましい。フェライト粒子の体積平均粒径(D50)が当該範囲内であると、種々の用途に好適なフェライト粒子とすることができる。また、当該フェライト粒子の体積平均粒径(D50)が当該範囲内であると、B-O間距離を上述した範囲内に制御することが容易であり、B-O間距離の標準偏差σを小さくすることができる。
【0058】
当該観点から、当該フェライト粒子の平均体積粒径(D50)は25μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましい。また、当該フェライト粒子の平均体積粒径(D50)は70μm以下であることが好ましく、65μm以上であることがより好ましい。
【0059】
また、当該フェライト粒子を電子写真現像剤用キャリア芯材として用いる場合、当該フェライト粒子の体積平均粒径(D50)は25μm以上50μm以下であることが好ましい。当該範囲内とすることで、キャリア付着を抑制しつつ、画像現像量バラツキが生じるのを防ぐことができる。
【0060】
ここでいう平均体積粒径(D50)は、レーザ回折・散乱法によりJIS Z 8825:2013に準拠して測定した値をいう。具体的には、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計(Model9320-X100)を用い、次のようにして測定することができる。まず、測定対象とするフェライト粒子(又はフェライト単粉)を試料とし、試料10gと水80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を2滴~3滴添加し、超音波ホモジナイザー(SMT.Co.LTD.製UH-150型)を用い、出力レベル4に設定し、20秒間分散を行い、ビーカー表面にできた泡を取り除くことによりサンプルを調製し、当該サンプルを用いて、上記マイクロトラック粒度分析計により測定したサンプルの体積平均粒径を試料の平均体積粒径(D50)とする。
【0061】
2.電子写真現像剤用キャリア
次に、本件発明に係る電子写真現像剤用キャリアについて説明する。本発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、上記フェライト粒子と、当該フェライト粒子の表面に設けられた樹脂被覆層とを備える。すなわち、上記フェライト粒子は、電子写真現像剤用キャリア芯材として用いられる。電子写真現像剤用キャリア芯材としてのフェライト粒子については上述したとおりであるため、ここでは主として樹脂被覆層について説明する。
【0062】
(1)被覆樹脂の種類
樹脂被覆層を構成する樹脂(被覆樹脂)の種類は、特に限定されるものではない。例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フッ素アクリル樹脂、アクリル-スチレン樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。また、シリコーン樹脂等をアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の各樹脂で変性した変成シリコーン樹脂等を用いてもよい。例えば、トナーとの撹拌混合時に受ける機械的ストレスによる樹脂剥離を抑制するという観点からは、被覆樹脂は熱硬化性樹脂であることが好ましい。当該被覆樹脂に好適な熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂及びそれらを含有する樹脂等が挙げられる。但し、上述のとおり、被覆樹脂の種類は特に限定されるものではなく、組み合わせるトナーの種類や使用環境等に応じて、適宜適切なものを選択することができる。
【0063】
また、1種類の樹脂を用いて樹脂被覆層を構成してもよいし、2種類以上の樹脂を用いて樹脂被覆層を構成してもよい。2種類以上の樹脂を用いる場合は、2種類以上の樹脂を混合して1層の樹脂被覆層を形成してもよいし、複数層の樹脂被覆層を形成してもよい。例えば、当該フェライト粒子の表面に、当該フェライト粒子と密着性の良好な第一の樹脂被覆層を設け、当該第一の樹脂被覆層の表面に、当該キャリアに所望の帯電付与性能を付与するための第二の樹脂被覆層を設けることなども好ましい。
【0064】
(2)樹脂被覆量
フェライト粒子の表面を被覆する樹脂量(樹脂被膜量)は、芯材として用いるフェライト粒子に対して0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。当該樹脂被覆量が0.1質量%未満であると、フェライト粒子の表面を樹脂で十分被覆することが困難になり、所望の帯電付与能力を得ることが困難になる。また、当該樹脂被覆量が10質量%を超えると、製造時にキャリア粒子同士の凝集が発生してしまい、歩留まり低下等の生産性の低下と共に、実機内での現像剤の流動性或いは、トナーに対する帯電付与性等の現像剤特性が変動するため好ましくない。
【0065】
(3)添加剤
樹脂被覆層には、導電剤や帯電制御剤等のキャリアの電気抵抗や帯電量、帯電速度をコントロールすることを目的とした添加剤が含まれていてもよい。導電剤としては、例えば、導電性カーボン、酸化チタンや酸化スズ等の酸化物、又は、各種の有機系導電剤を挙げることができる。但し、導電剤の電気抵抗は低いため、導電剤の添加量が多くなりすぎると、電荷リークを引き起こしやすくなる。そのため、導電剤の含有量は、被覆樹脂の固形分に対して0.25質量%以上20.0質量%であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0066】
帯電制御剤としては、トナー用に一般的に用いられる各種の帯電制御剤や、シランカップリング剤が挙げられる。これらの帯電制御剤やカップリング剤の種類は特に限定されないが、ニグロシン系染料、4級アンモニウム塩、有機金属錯体、含金属モノアゾ染料等の帯電制御剤や、アミノシランカップリング剤やフッ素系シランカップリング剤等を好ましく用いることができる。帯電制御剤の含有量は、被覆樹脂の固形分に対して好ましくは0.25質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0067】
3.電子写真現像剤
次に、本件発明に係る電子写真現像剤の実施の形態について説明する。当該電子写真現像剤は、上記電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む。
【0068】
当該電子写真現像剤を構成するトナーとして、例えば、重合法により製造される重合トナー及び粉砕法によって製造される粉砕トナーのいずれも好ましく用いることができる。これらのトナーは各種の添加剤を含んでいてもよく、上記キャリアと組み合わせて電子写真現像剤として使用することができる限り、どのようなものであってもよい。
【0069】
トナーの体積平均粒径(D50)は2μm以上15μm以下であることが好ましく、3μm以上10μm以下であることがより好ましい。トナーの体積平均粒径(D50)が当該範囲内であると、高画質な電子写真印刷を行うことができる電子写真現像剤を得ることができる。
【0070】
キャリアとトナーとの混合比、すなわちトナー濃度は、3質量%以上15質量%以下であることが好ましい。トナーを当該濃度で含む電子写真現像剤は、所望の画像濃度が得られやすく、カブリやトナー飛散をより良好に抑制することができる。
【0071】
一方、当該電子写真現像剤を補給用現像剤として用いる場合には、キャリア1質量部に対してトナー2質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
【0072】
当該電子写真現像剤は、磁気ドラム等にキャリアを磁力により吸引付着させてブラシ状にしてトナーを搬送し、バイアス電界を付与しながら、感光体上等に形成された静電潜像にトナーを付着させて可視像を形成する磁気ブラシ現像法を適用した各種電子写真現像装置に好適に用いることができる。当該電子写真現像剤は、バイアス電界を付与する際に、直流バイアス電界を用いる電子写真現像装置だけでなく、直流バイアス電界に交流バイアス電界を重畳した交番バイアス電界を用いる電子写真現像装置にも用いることができる。
【0073】
4.製造方法
以下では、本件発明に係るフェライト粒子(電子写真現像剤用キャリア芯材)、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤の製造方法について説明する。
【0074】
4-1.フェライト粒子(電子写真現像剤用キャリア芯材)
本件発明に係るフェライト粒子は、本焼成工程を後述する方法で行う点を除いて、すなわち焼成工程前において造粒物(フェライト粒子の前駆体)を得るまでの工程(以下、本焼成前工程)と、本焼成工程後に行う解粒、分級、表面酸化処理等の工程(本焼成後工程)については電子写真現像剤キャリア芯材などの用途に用いられるフェライト粒子の一般的な製造方法を採用することができる。
【0075】
4-1-1.本焼成前工程
まず、本焼成前工程について説明する。上記AB2O4の組成式で表されるフェライト粒子を得るべく、A:B:Oが1:2:4となるようにA原料、B原料を秤量する。例えば、A=Me、B=Feである場合、Me原料とFe原料とをそれぞれ所定のモル比で準備する。例えば、Me=Mnのとき、Mn原料としては、MnO2、Mn2O3、Mn3O4、MnCO3等を用いることができる。Me=Co、Ni、Cu、Zn等の場合は、これらの酸化物又は炭酸塩等を原料として用いることができる。また、上記組成式においてMeO及び/又はFe2O3の一部が二価を取り得る元素の酸化物にFe原料としては、Fe2O3等の酸化鉄を用いることができる。さらに、Sr等の元素を含むフェライト粒子を得る場合には、それらの酸化物又は炭酸塩等を原料とし、所望の添加量で他の原料と粉砕混合する。
【0076】
秤量された各原料を、湿式あるいは乾式で、ボールミル、サンドミル又は振動ミル等で1時間以上、好ましくは1~20時間粉砕混合して、仮焼成する。そして、得られた仮焼物をさらにボールミル又は振動ミル等で粉砕した後、水を加えてビーズミル等を用いて微粉砕し、スラリーを得る。メディアとして使用するビーズの径、組成、粉砕時間を調整することによって、粉砕度合いをコントロールすることができる。原料を均一に分散させる上で、1mm以下の粒径を持つ微粒なビーズをメディアとして使用することが好ましい。また、原料を均一に分散させる上で、粉砕物の体積平均粒径(D50)が2.5μm以下になるように粉砕することが好ましく、2.0μm以下になるように粉砕することがより好ましい。また、異常粒成長を抑制するため、粒度分布の粗目側の粒径(D90)は3.5μm以下になるように粉砕することが好ましい。このようにして得られたスラリーに、必要に応じて分散剤、バインダー等を添加し、2ポイズ以上4ポイズ以下に粘度調整することが好ましい。この際、バインダーとしてポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンを用いることができる。
【0077】
上記のように調整されたスラリーを、スプレードライヤーを用いてスラリーを噴霧し、乾燥させることで造粒物を得る。
【0078】
次に、上記造粒物を焼成する前に分級し、当該造粒物に含まれる微細粒子を除去することが粒度の揃ったフェライト粒子を得る上で好ましい。造粒物の分級は、既知の気流分級や篩等を用いて行うことができる。
【0079】
次に、分級された造粒物を焼成する。造粒工程で添加したバインダー等の有機成分除去のために加熱処理をすることが好ましい。その場合の焼成温度は600℃以上1050℃以下にすることが好ましい。以上の工程により、上述したフェライト粒子の前駆体としての造粒物が得られる。
【0080】
4-1-2.本焼成工程
B-O間距離及びその標準偏差σが上記範囲内のフェライト粒子を得る上で、本焼成工程は以下のように行うことが好ましい。
【0081】
(1)焼成炉
本焼成を行う際は、ロータリーキルンのように、造粒物(被焼成物)を流動させながら熱間部を通過させるような形式の焼成炉よりも、トンネルキルン或いはエレベータキルン等のように造粒物をコウ鉢等の耐熱性の被焼成物収容容器に入れて静置した状態で熱間部を通過させるような形式の焼成炉で行うことが好ましい。ロータリーキルン等のように造粒物を流動させながら熱間部を通過させる形式の焼成炉では、焼成雰囲気の酸素濃度が低いと、造粒物が熱間部を通過する際に炉の内面に付着し、その内側を流動しながら通過する造粒物に十分に熱を加えることができない場合がある。その場合、造粒物を十分に焼結することができないまま、造粒物が熱間部を通過するため、得られた焼成物は表面の焼結は十分に行われていても、内部の焼結が不十分であることが多い。そのような焼成物は電子写真現像剤用キャリア芯材として要求される強度を満たさない他、内部におけるフェライト反応が不十分になるため、上述した範囲内のB-O間距離を有するフェライト粒子を得ることが困難になり、或いは、B-O間距離のバラツキが大きくなる場合がある。
【0082】
一方、造粒物を被焼成物収容容器に入れて静置した状態で熱間部を通過させる形式の焼成炉で造粒物を焼成すれば、被焼成物の内部を十分に焼結させることができるため、高磁化及び高抵抗であり、スピネル型結晶相が十分に生成されたフェライト粒子を得ることが容易になる。これらの理由から、本焼成工程を行う際には、トンネルキルン、エレベータキルン等を用いることが好ましい。
【0083】
(2)被焼成物収容容器
上記コウ鉢はアルミナ(Al2O3)を主成分とする材料よりなる略直方体の容器である。また、コウ鉢はシリカ(SiO2)を含む場合もある。AlやSiは6配位における有効イオン半径が1.00Åより小さく、価数が2又は3の金属元素又は半金属元素である。よって、このような元素を含む材料よりなる被焼成物収容容器に造粒物を収容してフェライト前駆体である造粒物を焼成すると、フェライト化反応が進行する際に、コウ鉢との接触面からこれらの元素がフェライト前駆体内に拡散し、これらのイオンが上記8b位置或いは16c位置を占有し、これらの元素が固溶したフェライトが生成する場合がある。このような固溶体が生成すると、B-O間距離が上記範囲内であるフェライト粒子、或いは、その標準偏差σが上記範囲内であるフェライト粒子を得ることが困難になり、B-O間距離にバラツキが生じ、個々の粒子の磁気特性の均質なフェライト粒子を得ることが困難になる。
【0084】
そこで、FeやMnのイオン半径と同程度のイオン半径を有し、スピネル型結晶の格子点である8b位置或いは16c位置に侵入しやすい元素X(但し、X≠A,X≠B、例えば、X=Al及び/又はSi等の6配位における有効イオン半径が1.00Åよりも小さく、価数が2又は3の金属元素又は半金属元素である。)を含む材料からなる被焼成物収容容器にフェライト前駆体を収容して焼成する場合、被焼成物収容容器の内壁面を[AxX(1-x)][ByX(1-y)]2O4(0≦x,y≦1)の組成式で表されるフェライトからなるコーティング層により予め被覆し、当該コーティング層を備えた被焼成物収容容器を用いて造粒物を焼成する。このような被焼成物収容容器を用いれば、被焼成物収容容器の内壁面は既にフェライト化されていることから、造粒物側への元素Xの拡散を抑制することができ、B-O間距離の標準偏差σが小さいフェライト粒子を得ることができる。
【0085】
このような被焼成物収容容器は、例えば、次のようにして用意することができる。被焼成物収容容器が上記元素Xを含み、組成式AB2O4においてA=Fe及び/又はMeであり、B=Fe及び/又はMeであり、Meは2価の金属元素であるとき、被焼成物収容容器の内壁面を、[AxX(1-x)][ByX(1-y)]2O4のMe原料、Fe原料とをそれぞれ準備する。Me原料として、Meの酸化物又は炭酸塩等を用いることができる。また、Fe原料としてFe2O3を用いることができる。これらの原料を粉砕混合することで調製した混合物により被焼成物収容容器の内壁面を被覆する。このとき、これらの混合物に水を加えて微粉砕しスラリーの状態としてもよいし、例えば、適宜造粒して粉体の状態で内壁面が被覆されるようにしてもよい。スラリーの状態のものを塗布すれば、内壁面を良好に被覆することができる。このようにX以外の成分についての原料を粉砕混合することにより調製した混合物により内壁面を被覆し、1050℃~1300℃で3時間~8時間焼成する。この工程を行うことにより、MeXFeO4又はFeX2O4等の上記[AxX(1-x)][ByX(1-y)]2O4(0≦x,y≦1)の組成式で表されるフェライトによりなるコーティング層を内壁面に備えた被焼成物収容容器を得ることができる。なお、上記工程を繰り返し行えば、被焼成物収容容器の内壁面が十分な厚みを有するコーティング層により被覆され、被焼成物収容容器側から、被焼成物側への元素Xの拡散を良好に防止することが可能になる。混合物をスラリー状に調製した場合、内壁面に対する塗工性がよい。一方、スラリー状に調製した場合、内壁面に対して上記原料と被焼成物収容容器中の元素Xとの接触が十分でない場合がある。造粒物を用いる場合、内壁面のみを造粒物で被覆/塗布することが困難な場合は、被焼成物収容容器に当該造粒物を充填して内壁面と上記混合物が十分に接触するようにしてもよい。
【0086】
(3)充填率
造粒物を被焼成物収容容器に収容して焼成する際に、被焼成物収容容器の内容積に対して、造粒物の収容量(充填量)を25体積%以上95体積%以下とすることが好ましい。被焼成物収容容器に対する造粒物の充填率が25体積%未満であると、次に説明する発熱体と造粒物との距離によっては、造粒物の焼結が進みすぎる場合があり、所望の磁気特性を有するフェライト粒子を得ることが困難である場合がある。また、充填率が25体積%未満になると、当該フェライト粒子の製造効率が低くなる。一方、充填率が95体積%を超えると、次に説明する発熱体と造粒物との距離によっては、収容された造粒物に均一な熱を加えて焼結させることが困難になる場合がある。当該充填率は、30体積%以上であることがより好ましい。また、当該充填率は90体積%以下であることがより好ましく、85体積%以下であることがさらに好ましく、80体積%以下であることが一層好ましい。
【0087】
(4)造粒物と発熱体との距離に関する比(Dmin/Dmax)
焼成炉の熱間部にはヒーター等の発熱体が設けられている。トンネルキルンやエレベータキルン等を用いる場合、炉内の温度分布や発熱体との距離によって、被焼成物収容容器内の造粒物間に温度分布が生じる場合がある。このような温度分布が生じると、被焼成物収容容器内の高温領域に配置された造粒物と低温領域に配置された造粒物との間で焼結の程度に差が生じ、やはり上述した範囲内のB-O間距離を有するフェライト粒子を得ることが困難になり、或いは、B-O間距離のバラツキが大きくなる場合がある。そこで、造粒物と、造粒物に最も近い発熱体との間の距離について、その最短距離(Dmin)と最長距離(Dmax)との比(Dmin/Dmax)が0.19以上とすることが好ましい。トンネルキルン、エレベータキルン等では、被焼成物収容容器を搬送するための搬送コンベアと発熱体との位置関係から、上記充填率を調整することなどにより、当該比(Dmin/Dmax)を調整することができる。当該比(Dmin/Dmax)は、0.20以上であることがより好ましく、0.25以上であることがさらに好ましく、0.30以上であることが一層好ましい。
【0088】
(5)本焼成温度等
これらの点を除いて、本焼成は目的とする組成のスピネル型フェライト粒子を製造する上で好ましい焼成条件を採用することができる。例えば、本焼成は、不活性雰囲気又は弱酸化性雰囲気下等で、850℃以上の温度で4時間以上24時間以下保持することにより行うことが好ましい。その際、スピネル型結晶構造を有するフェライト粒子の生成に適した温度(850℃以上1250℃以下)で3時間以上保持することが好ましい。しかしながら、本焼成温度や保持時間は、スピネル型結晶構造を有するフェライト粒子が得られる限り、特に限定されるものではない。なお、不活性雰囲気又は弱酸化性雰囲気下等とは、ここでは窒素と酸素の混合ガス雰囲気下において酸素濃度が0体積%(0ppm)以上10体積%(100000ppm)以下であることをいい、雰囲気酸素濃度は7体積%(70000ppm)以下であることがより好ましく、6体積%(60000ppm)以下であることがさらに好ましく、5体積%(50000ppm)以下であることがより一層好ましい。
【0089】
4-1-3.本焼成後工程
本焼成後、焼成物を解砕、分級を行ってフェライト単粉を得る。分級方法としては、既存の風力分級、メッシュ濾過法、沈降法等を用いて所望の粒子径に粒度調整する。乾式回収を行う場合は、サイクロン等で回収することも可能である。粒度調整を行う際は前述の分級方法を2種類以上選んで実施してもよく、1種類の分級方法で条件を変更して粗粉側粒子と微粉側粒子を除去してもよい。
【0090】
さらに、本焼成後或いは分級後のフェライト粒子に対して、必要に応じて、その表面を低温加熱することで表面酸化処理を施し、表面抵抗を調整することができる。表面酸化処理は、ロータリー式電気炉、バッチ式電気炉等を用い、大気等の酸素含有雰囲気下で、400℃以上730℃以下、好ましくは450℃以上680℃以下で行うことができる。表面酸化処理時の加熱温度が400℃よりも低い場合は、フェライト粒子表面を十分に酸化することができず、所望の表面抵抗特性が得られない場合がある。一方、加熱温度が730℃よりも高い場合、酸化が進みすぎ、フェライト粒子の飽和磁化が低下するため好ましくない。フェライト粒子の表面に均一に酸化被膜を形成するには、ロータリー式電気炉を用いることが好ましい。但し、当該表面酸化処理は任意の工程である。
【0091】
4-2.電子写真現像剤用キャリア
本件発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、上記フェライト粒子を芯材とし、当該フェライト粒子の表面に樹脂被覆層を設けたものである。樹脂被覆層を構成する樹脂は上述したとおりである。フェライト粒子の表面に樹脂被覆層を形成する際には、公知の方法、例えば刷毛塗り法、流動床によるスプレードライ法、ロータリドライ方式、万能攪拌機による液浸乾燥法等を採用することができる。フェライト粒子の表面に対する樹脂の被覆面積の割合(樹脂被覆率)を向上させるためには、流動床によるスプレードライ法を採用することが好ましい。いずれの方法を採用する場合であっても、フェライト粒子に対して、1回又は複数回樹脂被覆処理を行うことができる。樹脂被覆層を形成する際に用いる樹脂被覆液には、上記添加剤を含んでいてもよい。また、フェライト粒子表面における樹脂被覆量は上述したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0092】
フェライト粒子の表面に樹脂被覆液を塗布した後、必要に応じて、外部加熱方式又は内部加熱方式により焼き付けを行ってもよい。外部加熱方式では、固定式又は流動式の電気炉、ロータリー式電気炉、バーナー炉などを用いることができる。内部加熱方式では、マイクロウェーブ炉を用いることができる。被覆樹脂にUV硬化樹脂を用いる場合は、UV加熱器を用いる。焼き付けは、被覆樹脂の融点又はガラス転移点以上の温度で行うことが求められる。被覆樹脂として、熱硬化性樹脂又は縮合架橋型樹脂等を用いる場合は、これらの樹脂の硬化が十分進む温度で焼き付ける必要がある。
【0093】
4-3.電子写真現像剤
次に、本発明に係る電子写真現像剤の製造方法について説明する。
本発明に係る電子写真現像剤は、上記電子写真現像剤用キャリアとトナーとを含む。トナーは上述したとおり、重合トナー及び粉砕トナーのいずれも好ましく用いることができる。
【0094】
重合トナーは、懸濁重合法、乳化重合法、乳化凝集法、エステル伸長重合法、相転乳化法等の公知の方法で製造することができる。例えば、界面活性剤を用いて着色剤を水中に分散させた着色分散液と、重合性単量体、界面活性剤及び重合開始剤を水性媒体中で混合撹拌し、重合性単量体を水性媒体中に乳化分散させて、撹拌、混合しながら重合させた後、塩析剤を加えて重合体粒子を塩析させる。塩析によって得られた粒子を、濾過、洗浄、乾燥させることにより、重合トナーを得ることができる。その後、必要により乾燥されたトナー粒子に外添剤を添加してもよい。
【0095】
さらに、この重合トナー粒子を製造するに際しては、重合性単量体、界面活性剤、重合開始剤、着色剤等を含むトナー組成物を用いる。当該トナー組成物には、定着性改良剤、帯電制御剤を配合することができる。
【0096】
粉砕トナーは、例えば、バインダー樹脂、着色剤、帯電制御剤等を、例えばヘンシェルミキサー等の混合機で充分混合し、次いで二軸押出機等で溶融混練して均一分散し、冷却後に、ジェットミル等により微粉砕化し、分級後、例えば風力分級機等により分級して所望の粒径のトナーを得ることができる。必要に応じて、ワックス、磁性粉、粘度調節剤、その他の添加剤を含有させてもよい。さらに分級後に外添剤を添加することもできる。
【0097】
次に、実施例及び比較例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0098】
(1)フェライト粒子
実施例1では、配合比がMnO:38mol%、MgO:11mol%、Fe2O3:50.3mol%及びSrO:0.7mol%になるようにMnO原料、MgO原料、Fe2O3原料及びSrO原料をそれぞれ秤量した。ここで、MnO原料としては四酸化三マンガンを29.0kg、MgO原料としては水酸化マグネシウムを6.4kg、Fe2O3原料として酸化第二鉄を80.5kg、SrO原料としては炭酸ストロンチウムを1.0kg用いた。
【0099】
次いで、秤量した原料を乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)で5時間粉砕し、得られた粉砕物をローラーコンパクターによる圧片造粒法を用い約1mm角のペレットにした。得られたペレットを目開き3mmの振動篩により粗粉を除去し、目開き0.5mmの振動篩により微粉を除去した後、ロータリー式電気炉で1000℃で3時間加熱し、仮焼成を行った。
【0100】
得られた仮焼成物を乾式のメディアミル(振動ミル、1/8インチ径のステンレスビーズ)を用いて粉砕した後、水を加え、湿式のメディアミル(横型ビーズミル、1/16インチ径のステンレスビーズ)を用いて5時間粉砕してスラリーを調製した。
【0101】
以上のように調製したスラリーバインダー及び分散剤を添加した。バインダーとしてPVA(ポリビニルアルコール、20質量%溶液)を用い、これを固形分(スラリー中の仮焼成物量)に対してPVAを0.2質量%添加した。分散剤としてポリカルボン酸系分散剤を添加し、スラリーの粘度を2ポイズに調製した。そして、スプレードライヤーにより造粒、乾燥した。得られた造粒物をロータリー式電気炉により、大気雰囲気下で700℃、2時間加熱し、分散剤やバインダーといった有機成分の除去を行い、本焼成前の造粒物を得た。
【0102】
その後、トンネル式電気炉により、焼成温度(保持温度)1200℃、酸素濃度0.0体積%雰囲気下で5時間保持することにより造粒物の本焼成を行った。このとき、昇温速度を150℃/時、降温速度を110℃/時とした。また、造粒物は第一コウ鉢に収容して焼成した。ここで、第一コウ鉢はAl、Siを上記X元素として含む未使用の耐熱性のコウ鉢(但し、主成分はアルミナとする)の内壁面に、第一コーティング層としてAl及び又はSiが固溶したスピネルフェライト(Fe2(SiO4)、FeAl2O4、MnFeAlO4)を備えたコウ鉢をいうものとする。当該第一コウ鉢の作製方法は後述するとおりである。
【0103】
本実施例ではこの第二コウ鉢の内容積に対する造粒物の充填率が30体積%、トンネル式電気炉の熱間部に設けられたヒーター(発熱体)との間の距離について、その最短距離(Dmin)と最長距離(Dmax)との比(Dmin/Dmax)を0.33にした。また、雰囲気ガスをトンネル式電気炉の出口側から導入し、トンネル式電気炉の内部圧力を0~10Pa(正圧)にした。得られた焼成物を衝撃式粉砕機であるハンマークラッシャーにて解砕し、さらに回分式のふるいわけ方式を用いたジャイロシフター、及び気流式分級室回転型に分類されるターボクラシファイアにて分級して粒度調整を行い、磁力選鉱により低磁力品を分別した後、600℃で表面酸化処理を行い、実施例1のフェライト粒子とした。
【0104】
(2)電子写真現像剤用キャリア
上記フェライト粒子を芯材とし、当該フェライト粒子に対して、表面に以下のように樹脂被覆層を形成して、実施例1のキャリアを得た。
【0105】
まず、T単位とD単位を主成分とする縮合架橋型シリコーン樹脂(重量平均分子量:約8000)を準備した。このシリコーン樹脂溶液2.5質量部(樹脂溶液濃度20質量%のものを用いたためシリコーン樹脂固形分としては0.5質量部、希釈溶媒:トルエン)と、上記フェライト粒子100質量部とを、万能混合撹拌機にて混合撹拌し、トルエンを揮発させながらシリコーン樹脂をフェライト粒子の表面に被覆した。トルエンが充分揮発したことを確認した後、装置内から取り出して容器に入れ、熱風加熱式のオーブンにて250℃で2時間加熱処理を行った。その後、室温まで冷却し、表面の樹脂が硬化したフェライト粒子を取り出し、200メッシュの目開きの振動篩にて粒子の凝集を解し、磁力選鉱機を用いて、非磁性物を取り除いた。その後、再度200メッシュの目開きの振動篩にて粗大粒子を取り除き、フェライト粒子を芯材とし、その表面に樹脂被覆層を備えた実施例1の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【実施例2】
【0106】
本焼成時に、焼成温度(保持温度)を1250℃、酸素濃度を2.5体積%とし、後述する方法で作製した第一コウ鉢を用い、当該第一コウ鉢に対する造粒物の充填率を50体積%、上記最短距離(Dmin)と最長距離(Dmax)との比(Dmin/Dmax)を0.30にして本焼成を行った点と、焼成物に対して表面酸化処理を施さなかった点とを除いて、実施例1と同様にして実施例2のフェライト粒子を製造した。また、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例2の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【実施例3】
【0107】
本焼成時に、焼成温度(保持温度)を1300℃、酸素濃度を5.0体積%とし、後述する第二コウ鉢を用い、当該第二コウ鉢に対する造粒物の充填率を80体積%、上記最短距離(Dmin)と最長距離(Dmax)との比(Dmin/Dmax)を0.25にして本焼成を行った点と、焼成物に対して表面酸化処理を施さなかった点とを除いて、実施例1と同様にして実施例3のフェライト粒子を製造した。また、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例3の電子写真現像剤用キャリアを得た。なお、第二コウ鉢は第一コウ鉢と同じ未使用の耐熱性のコウ鉢の内壁面に、Al及び又はSiが固溶したスピネルフェライト(Fe2(SiO4)、FeAl2O4、MnFeAlO4)からなるコーティング層を備えたコウ鉢をいうものとする。
【実施例4】
【0108】
実施例4では、配合比がMnO:30mol%、Fe2O3:70.0mol%になるようにMnO原料及びFe2O3原料をそれぞれ秤量した点と、上記第二コウ鉢を用い、当該第二コウ鉢に対する造粒物の充填率を70体積%、上記最短距離(Dmin)と最長距離(Dmax)との比(Dmin/Dmax)を0.32にした点と、650℃で表面酸化処理を行った点とを除いて、実施例1と同様にして実施例4のフェライト粒子を製造した。また、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例4の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【実施例5】
【0109】
実施例4と同じ配合比でMnO原料及びFe2O3原料をそれぞれ秤量した点と、本焼成時に、焼成温度(保持温度)を1250℃、酸素濃度を2.5体積%とし、上記第二コウ鉢を用い、当該第二コウ鉢に対する造粒物の充填率を50体積%、上記最短距離(Dmin)と最長距離(Dmax)との比(Dmin/Dmax)を0.24にして本焼成を行った点と、焼成物に対して表面酸化処理を施さなかった点とを除いて、実施例1と同様にして実施例5のフェライト粒子を製造した。また、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例5の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【実施例6】
【0110】
実施例4と同じ配合比でMnO原料及びFe2O3原料をそれぞれ秤量した点と、本焼成時に、焼成温度(保持温度)を1300℃、酸素濃度を5.0体積%とし、上記第一コウ鉢に対する造粒物の充填率を30体積%、上記最短距離(Dmin)と最長距離(Dmax)との比(Dmin/Dmax)を0.19にして本焼成を行った点と、焼成物に対して表面酸化処理を施さなかった点とを除いて、実施例1と同様にして実施例6のフェライト粒子を製造した。また、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例6の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【比較例】
【0111】
[比較例1]
本焼成時に、酸素濃度を5.0体積%とした点と、内壁面にコーティング層を備えていないコウ鉢(実施例1と同じ未使用の耐熱性のコウ鉢)を用い、当該コウ鉢に対する造粒物の充填率を40体積%、上記最短距離(Dmin)と最長距離(Dmax)との比(Dmin/Dmax)を0.21にして本焼成を行った点と、焼成物に対して表面酸化処理を施さなかった点とを除いて、実施例1と同様にして比較例1のフェライト粒子を製造した。また、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例1の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0112】
[比較例2]
本焼成時に、酸素濃度を1.5体積%とした点と、上記第一コウ鉢を用い、当該第一コウ鉢に対する造粒物の充填率を90体積%、上記最短距離(Dmin)と最長距離(Dmax)との比(Dmin/Dmax)を0.22にして本焼成を行った点とを除いて、実施例1と同様にして比較例2のフェライト粒子を製造した。また、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例2の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0113】
[比較例3]
本焼成時に、酸素濃度を0.5体積%とした点と、上記第二コウ鉢を用い、当該第二コウ鉢に対する造粒物の充填率を30体積%、上記最短距離(Dmin)と最長距離(Dmax)との比(Dmin/Dmax)を0.15にして本焼成を行った点と、焼成物に対して550℃で表面酸化処理を施した点とを除いて、実施例1と同様にして比較例3のフェライト粒子を製造した。また、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例1の電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0114】
[比較例4]
実施例4と同じ配合比でMnO原料及びFe2O3原料をそれぞれ秤量した点と、本焼成時に、焼成温度(保持温度)を1250℃とし、上記第一コウ鉢を用い、当該第一コウ鉢に対する造粒物の充填率を20体積%、上記最短距離(Dmin)と最長距離(Dmax)との比(Dmin/Dmax)を0.22にして本焼成を行った点と、焼成物に対して表面酸化処理を施さなかった点とを除いて、実施例1と同様にして比較例4のフェライト粒子を製造した。また、このフェライト粒子を用いた点を除いて、実施例1と同様にして比較例4の電子写真現像剤用キャリアを得た。
表1に各実施例及び比較例におけるフェライト粒子の製造条件を示す。
【0115】
[コウ鉢]
(1)第一コウ鉢
第一コウ鉢は、以下のようにして作製した。まず、実施例1と同様にしてスラリーを調製し、Al及びSiの酸化物を主成分とする未使用の耐熱性のコウ鉢の内壁面全面に当該スラリーを塗布し、トンネル式電気炉により酸素濃度3.0体積%、1200℃で5時間保持することにより、コウ鉢の内側が、Al及び/又はSiが固溶したスピネルフェライトからなる第一コーティング層によりコーティングされた第一コウ鉢を作製した。
【0116】
(2)第二コウ鉢
実施例4と同様にしてスラリーを調製した以外は、第一コウ鉢と同様にして、アルミナを主成分とする耐熱性の未使用のコウ鉢(コウ鉢new)の内壁面全面に当該スラリーを塗布し、トンネル式電気炉により酸素濃度3.0体積%、1200℃で5時間保持することにより、コウ鉢の内側が、Al及び/又はSiが固溶したスピネルフェライトからなる第二コーティング層によりコーティングされた第二コウ鉢を作製した。
【0117】
[評価]
1.評価方法
(1)基本特性
上記各実施例及び比較例のフェライト粒子について、(a)体積平均粒径(D50)、(b)見掛密度(AD)、(c)飽和磁化、(d)B-O間距離、(e)B-O間距離の標準偏差σを測定した。これらの測定方法は上述したとおりであり、(d)、(e)の値を得る際に、原子座標について8b位置をMn2+が100%占有し、16c位置をFe3+が100%占有し、32e位置を酸素イオン(O2-)が占有するモデルを仮定した。
【0118】
(2)画質特性
各実施例及び比較例で製造した電子写真現像剤用キャリアを用いて、電子写真現像剤を調製し、(a)画像現像量バラツキ、(b)キャリア付着について評価した。
電子写真現像剤は、次のようにして調製した。
各実施例及び比較例で製造した電子写真現像剤用キャリア18.6gと、トナー1.4gをボールミルにより10分間攪拌して混合し、トナー濃度が7.0質量%の電子写真現像剤を製造した。トナーはフルカラープリンターに使用されている市販の負極性トナー(シアントナー、富士ゼロックス株式会社製DocuPrintC3530用;平均体積粒径(D50)約5.8μm)を用いた。
【0119】
(i)画像現像量バラツキ
上記のようにして調製した電子写真現像剤を試料とし、帯電量測定装置を用いて、以下のような基準で画像現像量バラツキを判定した。
【0120】
帯電量測定装置として、直径31mm、長さ76mmの円筒形のアルミ素管(以下、スリーブ)の内側に、N極とS極を交互に合計8極の磁石(磁束密度0.1T)を配置したマグネットロールを配置した。また、該スリーブと5.0mmのGapをもった円筒状の電極を、該スリーブの外周に配置した。そしてスリーブ上に、試料としての電子写真現像剤0.5gを均一に付着させた後、外側のアルミ素管を固定させたまま、内側のマグネットロールを100rpmで回転させながら、外側の電極とスリーブ間に、直流電圧2500Vを60秒間印加し、トナーを外側の電極に移行させて、外側の電極に移行したトナー質量(トナー移行量)を測定した。当該方法でトナー移行量の測定を10回繰り返し行い、各測定値に基づいて、以下の式により各試料についての画像現像量バラツキを評価するための評価値とした。なお、この評価値が低い程、画像現像量バラツキが小さいことを示す。
【0121】
評価値=(最大トナー移行量-最小トナー移行量)/トナー移行量の平均値×100(%)
【0122】
各試料について求めた評価値に基づき、以下の基準によりA~Dの評価を行った。
A:0%以上5%未満
B:5%以上10%未満
C:10%以上15%未満
D:15%以上
【0123】
(ii)キャリア付着
上記のようにして調製した電子写真現像剤を試料とし、以下のようにしてキャリア付着を評価した。
【0124】
画像現像量バラツキを評価する際に用いた帯電量測定装置と同じ帯電量測定装置を用い、スリーブ上に、上記電子写真現像剤1gを均一に付着させた後、外側のアルミ素管を固定させたまま、内側のマグネットロールを100rpmで回転させながら、外側の電極とスリーブ間に、直流電圧500Vを90秒間印加し、トナーを外側の電極に移行させた。90秒経過後、印加していた電圧を切り、マグネットロールの回転を止めた後、外側の電極を取り外し、電極に移行したトナーと一緒に付着したキャリア粒子の個数を計測した。計測したキャリア粒子の数に基づいて、以下の基準によりA~Dの評価を行った。
【0125】
A:付着したキャリア粒子の数20個未満
B:付着したキャリア粒子の数20個以上40個未満
C:付着したキャリア粒子の数40個以上50個未満
D:付着したキャリア粒子の数50個以上
【0126】
上記評価方法は、実機(画像印刷装置)により画像現像量バラツキやキャリア付着を評価する実機評価と比較すると、電子写真現像剤による画質特性の実態により近い評価を行うことができる。実機評価では上記特許文献3のように「○はキャリア付着の個数が1~3個の状態、△はキャリア付着の個数が4~10個の状態」と評価するように、1つの評価帯の幅が狭い。これは、実機や電子写真現像剤の性能が向上し、実際に印刷したときにはこのような数個のレベルの差としてしか表れない場合がある。また、試験に用いる実機の機種や実機自体の経年劣化等によって評価結果にバラツキが生じる場合がある。一方、上記のように帯電量測定装置による代替評価によれば、測定条件を厳密に制御することができ、実機評価の場合と比較すると1つの評価帯の幅を広くすることができる。そのため、各電子写真現像剤の画質特性についてより実態に近い評価が可能になる。
【0127】
2.評価結果
表2に各評価項目についての測定結果又は評価結果を示す。表2に示すように、実施例1~実施例6のフェライト粒子は、B-O間距離が2.030Å以上2.080Å以下であり、B-O間距離の標準偏差σが15.0×10-4Å以下であり、飽和磁化56Am2/kg以上74Am2/kg以下の範囲にある。いずれの実施例もキャリア付着、画像現像量バラツキについて良好な評価が得られることが確認された。
【0128】
ここで実施例1~実施例3のフェライト粒子と、比較例1~比較例3のフェライト粒子は同じ組成を有する。比較例1及び比較例3のフェライト粒子はB-O間距離が2.040Å、2.042Åと小さく、飽和磁化は実施例1~実施例3のフェライト粒子よりも高い。一方、比較例1及び比較例3のフェライト粒子は上記標準偏差σが16.0×10-4Å以上であり、B-O間距離のバラツキが実施例1~実施例3と比較すると大きく、キャリア付着についての評価が低い。当該事項から、比較例1及び比較例3のフェライト粒子の飽和磁化の分布が広く、比較例1及び比較例3のフェライト粒子では低磁化粒子が含まれる割合が実施例1~実施例3のフェライト粒子と比較すると多く、低磁化に起因するキャリア付着が発生したものと考えられる。これに対して、実施例1~実施例3のフェライト粒子は磁気特性に優れると共に、個々の粒子の磁気特性が均質であるといえる。
【0129】
また、比較例2のフェライト粒子はB-O間距離が2.080Åを超えており、上記標準偏差σも18.5×10-4Åと大きい。そのため、キャリア付着についての評価が「D」であり、全ての比較例の中で最も悪い評価となったと考えられる。
【0130】
実施例4~実施例6のフェライト粒子と、比較例4のフェライト粒子は同じ組成を有する。比較例4のフェライト粒子は上記標準偏差σが8.4×10-4Åと小さく、磁気特性のバラツキは小さいと考えられる。しかしながら、B-O間距離は2.030Åを下回り、飽和磁化は78と高い。その結果、磁気ブラシの高さが不均一になり画像現像量バラツキが大きく生じたものと考えられる。これに対して、実施例4~実施例6のフェライト粒子は優れた磁気特性を有し、且つ、個々の粒子の磁気特性が均質であるため、キャリア付着及び画像現像量バラツキの双方において良好な評価が得られたと考えられる。
【0131】
【0132】
【産業上の利用可能性】
【0133】
本件発明によれば、組成式AB2O4で表されるフェライト粒子において、3d軌道電子のスピン状態に影響を及ぼす因子であるB-O間距離及びその標準偏差を所定の範囲内にすることで、磁気特性に優れ、個々の粒子が均質なフェライト粒子、電子写真現像剤用キャリア及び電子写真現像剤を提供することができる。