IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザインエレクトロニクス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-通信装置およびアクティブケーブル 図1
  • 特許-通信装置およびアクティブケーブル 図2
  • 特許-通信装置およびアクティブケーブル 図3
  • 特許-通信装置およびアクティブケーブル 図4
  • 特許-通信装置およびアクティブケーブル 図5
  • 特許-通信装置およびアクティブケーブル 図6
  • 特許-通信装置およびアクティブケーブル 図7
  • 特許-通信装置およびアクティブケーブル 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】通信装置およびアクティブケーブル
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/00 20060101AFI20240730BHJP
   H04B 10/075 20130101ALI20240730BHJP
   G06F 13/38 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G06F3/00 A
H04B10/075
G06F3/00 R
G06F13/38 350
G06F13/38 320A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020136672
(22)【出願日】2020-08-13
(65)【公開番号】P2022032660
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】399011195
【氏名又は名称】ザインエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悠介
【審査官】松平 英
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0317774(US,A1)
【文献】APPLE INC. et al,Universal Serial Bus 4 (USB4TM) Specification,[online],Version 1.0,2019 USB 3.0 Promoter Group,2019年08月,pp.12-13, 17, 21-22, 76-77, 468-477,インターネット:<URL : http://caxapa.ru/thumbs/945953/USB4_1.0_20190829.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F3/00
3/18
11/16-11/20
13/00-13/14
13/20-13/42
H04B10/00-10/90
H04J14/00-14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方がUSB4規格に準拠した第1レーンアダプタと第2レーンアダプタとの間で通信を行うアクティブケーブルに設けられる通信装置であって、
前記第1レーンアダプタと前記第2レーンアダプタとの間で送信される主信号に対して消費電力量に応じた能動的動作をする1または複数の能動デバイスと、
前記第1レーンアダプタと前記第2レーンアダプタとの間で送信されるサイドバンド信号のレベルを検知するレベル検知部と、
前記レベル検知部により検知されたサイドバンド信号のレベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、前記能動デバイスの何れかを低消費電力状態とする制御部と、
を備える通信装置。
【請求項2】
前記アクティブケーブルがアクティブ銅ケーブルであり、
前記制御部は、前記レベル検知部により検知されたサイドバンド信号のレベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、前記能動デバイスとしてのリドライバまたはリタイマを低消費電力状態とする、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記アクティブケーブルがアクティブ光ケーブルであり、
前記制御部は、前記レベル検知部により検知されたサイドバンド信号のレベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、前記能動デバイスとしてのレーザドライバまたはトランスインピーダンスアンプリファイアを低消費電力状態とする、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記レベル検知部により検知されたサイドバンド信号のレベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、前記能動デバイス以外の回路をも低消費電力状態とする、
請求項1~3の何れか1項に記載の通信装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記レベル検知部により検知されたサイドバンド信号のレベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、前記能動デバイスの何れかの動作の調整を行う、
請求項1~4の何れか1項に記載の通信装置。
【請求項6】
前記レベル検知部におけるサイドバンド信号の入力端と基準電位供給端との間に設けられた抵抗器を更に備える、
請求項1~5の何れか1項に記載の通信装置。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の通信装置を備えるアクティブケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一方がUSB4規格に準拠した第1レーンアダプタと第2レーンアダプタとの間で通信を行うアクティブケーブル、および、このアクティブケーブルに設けられる通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ等の情報機器に周辺機器を接続するためのシリアルバス規格の一つとしてユニバーサル・シリアル・バス(Universal Serial Bus、USB)がある。USBは、最初の規格であるUSB1.0が1996年に登場して以降、現在のパーソナルコンピュータ周辺機器において最も普及した汎用インターフェース規格である。2017年9月にUSB3.2規格(非特許文献1参照)が正式リリースされ、2019年8月にUSB4規格(非特許文献2参照)が正式リリースされた。USB4は、USB3.2に対して後方互換性が要求されている。
【0003】
主信号であるSS(Super Speed)信号のデータレート(1レーン当たり)は、USB3.2のGen1では5Gbpsであり、USB3.2のGen2では10Gbpsであり、USB4のGen2では10Gbpsであり、USB4のGen3では20Gbpsである。SS信号は差動信号である。SS信号の通信に2レーンを利用することができる。
【0004】
USB4では、SS信号通信用のレーンとは別に、サイドバンド用(SidebandUse、SBU)通信線が設けられている。サイドバンド信号のデータレートは1Mbpsである。サイドバンド信号は、シングルエンドで全二重の双方向通信である。しかし、USB3.2ではSBU通信線は設けられていない。
【0005】
また、USB4では、CC通信線によりパワーデリバリ(Power Delivery)通信(非特許文献3参照)が行われる。パワーデリバリ通信は、シングルエンドで半二重の通信である。
【0006】
USB4ではType-Cコネクタ(非特許文献4参照)が用いられる。図1は、Type-Cコネクタの端子配列を示す図である。主信号であるSS信号の通信には、TX1+,TX1-,TX2+,TX2-,RX1+,RX1-,RX2+,RX2-の各端子が用いられる。サイドバンド通信には、SBU1,SBU2の各端子が用いられる。パワーデリバリ通信には、CC(Configuration Channel)端子が用いられる。
【0007】
図2は、USB4規格準拠の通信ケーブルにより2つの機器が接続された構成を示す図である。DFP(Downstream Facing Port)およびUFP(UpstreamFacing Port)はリンクパートナである。DFPは、ホスト側の機器であり、例えばコンピュータ等の情報機器である。UFPは、デバイス側の機器であり、例えばマウスやディスプレイ等の周辺機器である。レーンアダプタ(Lane Adapter)は、DFPおよびUFPそれぞれに設けられており、USB4によるSS信号通信の主体となるものである。
【0008】
DFPとUFPとは通信ケーブルにより互いに接続される。DFPとUFPとを互いに接続する通信ケーブルが短い場合には、その通信ケーブルは、パッシブ・ケーブルであってもよい。一方、通信ケーブルが長い場合(USB4では長さ0.8m以上の場合)には、その通信ケーブルはアクティブケーブルであることが要求される。アクティブケーブルとして、電気信号のまま伝送するアクティブ銅ケーブル(Active Cupper Cable、ACC)と、電気信号を光信号に変換して光信号を伝送するアクティブ光ケーブル(Active Optical Cable、AOC)とがある。
【0009】
アクティブケーブルは能動デバイスを備えている。能動デバイスは、主信号に対して消費電力量に応じた能動的動作をすることができる。ACCの場合、能動デバイスは、信号の損失(特に高周波帯域の損失)を補正するリドライバやリタイマ等である。AOCの場合、能動デバイスは、電流信号を光信号に変換するレーザダイオード、レーザダイオードに電流信号を供給してレーザダイオードを駆動する駆動部(レーザドライバ)、光信号を電流信号に変換するフォトダイオード、フォトダイオードから出力される電流信号を電圧信号に変換するトランスインピーダンスアンプリファイア(Trans Impedance Amplifier、TIA)等である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】“The USB 3.2 Specification releasedon September 22, 2017 and ECNs”, [online],USB Implementers Forum,[令和2年8月6日検索],インターネット<URL:https://www.usb.org/document-library/usb-32-specification-released-september-22-2017-and-ecns>
【文献】“USB4 Specification”, [online],USB Implementers Forum,[令和2年8月6日検索],インターネット<URL:https://www.usb.org/document-library/usb4tm-specification>
【文献】“USB Type-C Cable and ConnectorSpecification Revision 2.0”, [online],USB Implementers Forum,[令和2年8月6日検索],インターネット<https://www.usb.org/document-library/usb-type-cr-cable-and-connector-specification-revision-20>
【文献】“USB Power Delivery”, [online],USB Implementers Forum,[令和2年8月6日検索],インターネット<https://www.usb.org/document-library/usb-power-delivery>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
USB4規格準拠のアクティブケーブルによりDFPとUFPとが互いに接続された構成(図2)において、DFPおよびUFPそれぞれのレーンアダプタの間でSS信号の通信が行われていないスリープ状態にある期間では、アクティブケーブルに含まれる能動デバイスの消費電力を低く抑えることが望まれる。しかし、USB3.2規格準拠のアクティブケーブルではスリープ状態にあることを検知できるが、そのスリープ状態検知技術をUSB4規格準拠のアクティブケーブルに適用することができない。
【0012】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、少なくとも一方がUSB4規格に準拠した第1レーンアダプタと第2レーンアダプタとの間で通信を行うアクティブケーブルにおいて簡易な構成で能動デバイスを低消費電力状態にすることができる通信装置、および、このような通信装置を備えるアクティブケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の通信装置は、少なくとも一方がUSB4規格に準拠した第1レーンアダプタと第2レーンアダプタとの間で通信を行うアクティブケーブルに設けられる通信装置であって、(1) 第1レーンアダプタと第2レーンアダプタとの間で送信される主信号に対して消費電力量に応じた能動的動作をする1または複数の能動デバイスと、(2) 第1レーンアダプタと第2レーンアダプタとの間で送信されるサイドバンド信号のレベルを検知するレベル検知部と、(3) レベル検知部により検知されたサイドバンド信号のレベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、能動デバイスの何れかを低消費電力状態とする制御部と、を備える。
【0014】
アクティブケーブルがアクティブ銅ケーブルであってもよい。このとき、制御部は、レベル検知部により検知されたサイドバンド信号のレベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、能動デバイスとしてのリドライバまたはリタイマを低消費電力状態とするのが好適である。
【0015】
アクティブケーブルがアクティブ光ケーブルであってもよい。このとき、制御部は、レベル検知部により検知されたサイドバンド信号のレベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、能動デバイスとしてのレーザドライバまたはトランスインピーダンスアンプリファイアを低消費電力状態とするのが好適である。
【0016】
制御部は、レベル検知部により検知されたサイドバンド信号のレベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、能動デバイス以外の回路をも低消費電力状態とするのが好適である。また、制御部は、レベル検知部により検知されたサイドバンド信号のレベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、能動デバイスの何れかの動作の調整を行うのが好適である。
【0017】
本発明の通信装置は、レベル検知部におけるサイドバンド信号の入力端と基準電位供給端との間に設けられた抵抗器を更に備えるのが好適である。
【0018】
本発明のアクティブケーブルは、上記の本発明の通信装置を備える。
【0019】
なお、本明細書において、USB4規格は、USB4以降にUSB4互換性を有するものとして策定されるUSB規格を含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、少なくとも一方がUSB4規格に準拠した第1レーンアダプタと第2レーンアダプタとの間で通信を行うアクティブケーブルにおいて簡易な構成で能動デバイスを低消費電力状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、Type-Cコネクタの端子配列を示す図である。
図2図2は、USB4規格準拠の通信ケーブルにより2つの機器が接続された構成を示す図である。
図3図3は、USB4規格におけるレーンアダプタのステートマシンを示す状態遷移図である。
図4図4は、USB4規格におけるレーンアダプタのCLdステートで行われるレーン初期化のフローチャートである。
図5図5は、第1実施形態のアクティブケーブル100の構成を示す図である。
図6図6は、第1実施形態のアクティブケーブル100に含まれる通信装置111の構成を示す図である。
図7図7は、第2実施形態のアクティブケーブル200の構成を示す図である。
図8図8は、第2実施形態のアクティブケーブル200に含まれる通信装置211の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0023】
初めに、USB3.2規格準拠のアクティブケーブルではスリープ状態にあることを検知できるが、そのスリープ状態検知技術をUSB4規格準拠のアクティブケーブルに適用することができないことについて説明する。
【0024】
図3は、USB4規格におけるレーンアダプタのステートマシンを示す状態遷移図である。電源投入直後のCLdステートでは、レーン初期化(Lane Initialization)が行われる。レーン初期化終了後のTrainingステートでは、イコライザ・トレーニングが行われて、DFPとUFPとの間のリンクが確立される。イコライザ・トレーニング終了後のCL0ステートでは、通常モードとしてDFPおよびUFPそれぞれのレーンアダプタの間でSS信号による通信が行われる。CL0s,CL1,CL2の各ステートでは、DFPおよびUFPそれぞれのレーンアダプタの間でSS信号による通信が行われない。CL0sステートの終了後にはCL0ステートに復帰する。CL1,CL2の各ステートの終了後にはTrainingステートに戻る。
【0025】
レーンアダプタ・ステートマシン(Lane Adapter State Machine)は物理論理層のステートマシンである。これより上位のコンフィグレーション層にルータ・ステートマシン(Router State Machine)がある。このルータ・ステートマシンのスリープ・ステートは、DFPおよびUFPそれぞれのレーンアダプタの間でSS信号の通信を行わないスリープ状態となる際に使用される。このスリープ状態の期間、アクティブケーブルに含まれる能動デバイスの消費電力を低く抑えることが望まれる。しかし、ルータ・ステートマシンのスリープ・ステートは、上位のコンフィグレーション層のものであるから、検知することができない。したがって、レーンアダプタ・ステートマシンに基づいて、スリープ状態にあることを検知することが必要である。
【0026】
USB3.2では、SS信号の無信号状態が一定時間(320ns)以上続くと、スリープ状態にあると判断することができる。しかし、スリープ状態の検知に基づいて低消費電力状態とした後に、これから。SS信号の通信を行うウェイク状態に迅速に復帰する必要があることから、この技術をUSB4に適用することができない。
【0027】
USB4では、CL0s,CL1,CL2の各ステートは、ローパワー・ステートである。ローパワー・ステートになると、レーンアダプタはSS信号の通信を行わない。CL0s,CL1,CL2の各ステートからウェイク状態に迅速に復帰する必要がある。
【0028】
CL0sステートからCL0ステートに復帰する際には、DFPおよびUFPの何れか一方の側のレーンアダプタは、他方の側のレーンアダプタへ、少なくとも16サイクルのLPFS(Low Frequency Periodic Signaling)を送る。他方の側のレーンアダプタは、このLPFSを受けて、CL0sステートからCL0ステートに復帰する。LPFSは、一度しか送られないので、一方の側のレーンアダプタから他方の側のレーンアダプタへ必ず伝送されなければならず、その伝送がアクティブケーブルにより妨げられてはならない。
【0029】
LPFSは、レーンアダプタ間で送りあう低速トグルパターン信号である。LPFSの周期は20~80nsであり、LPFSの16サイクルは最短で320nsである。SS信号の無信号状態が一定時間以上続くことの検知に基づいてスリープ状態にあると判断して、アクティブケーブルの能動デバイスを低消費電力状態としたとしても、CL0sステートからCL0ステートに復帰する際には、LPFSの受信を検知して直ちに起動してLPFSを通過させる必要がある。しかし、320ns以下の短時間の起動は困難であり、通常は10μs程度の起動時間を要することから。LPFSを通過させることが困難である。したがって、CL0sステートからCL0ステートに復帰することができない。
【0030】
CL1ステートまたはCL2ステートからTrainingステートに戻る際には、DFPおよびUFPの何れか一方の側のレーンアダプタは、他方の側のレーンアダプタへ、LPFSを送る。他方の側のレーンアダプタは、送られて来たLPFSを受けて、一方の側のレーンアダプタへLPFSを送り返す。最初にLPFSを送った側のレーンアダプタは、相手側のレーンアダプタからLPFSが帰ってくるまで、相手側のレーンアダプタへLPFSを送り続ける。したがって、アクティブケーブルの能動デバイスが低消費電力状態から起動するまでに時間を要しても、CL1ステートまたはCL2ステートからTrainingステートに戻ることができる。
【0031】
ただし、CL0sステートにあるか、それとも、CL1ステートまたはCL2ステートにあるか、を区別できなければならない。CL0ステートからCL0s,CL1,CL2の何れのステートに遷移するかの情報は、レーンアダプタ間で高速のSS信号で送られる。この高速のSS信号の内容を解読すればよいが、その為の回路の設計は容易でなく、回路の規模が大きい。したがって、簡易な回路構成では、CL0s,CL1,CL2の各ステートにおいてアクティブケーブルの能動デバイスを低消費電力状態にすることはできない。
【0032】
以上のとおり、USB3.2規格準拠のアクティブケーブルにおけるスリープ状態検知技術は、USB4規格準拠のアクティブケーブルに適用することができない。仮に、SS信号の無信号状態が一定時間以上続くことの検知に基づいてスリープ状態にあると判断して、アクティブケーブルの能動デバイスを低消費電力状態としたとすると、CL0sステート時に、このCL0sステートからCL0ステートに復帰することができず、デッドロックが生じてしまう。
【0033】
ところで、レーンアダプタのCLdステートで行われるレーン初期化は、次のようにして行われる。図4は、USB4規格におけるレーンアダプタのCLdステートで行われるレーン初期化のフローチャートである。レーン初期化(Lane Initialization)では、CC通信線を用いたパワーデリバリ通信、および、SBU通信線を用いたサイドバンド通信により、DFPおよびUFPそれぞれのレーンアダプタの間で、USB4およびUSB3.2の何れで通信を行うか、ならびに、何れのデータレートで通信を行うか等が決定される。レーン初期化の手続はphase1~5に区分される。
【0034】
レーン初期化のphase1では、CC通信線を用いたパワーデリバリ通信により、双方のリンクパートナ(DFP、UFP)およびアクティブケーブル内のデバイスがUSB4規格に対応しているか否かが確認される。これら全てがUSB4規格に対応している場合、USB4による通信が開始され、phase2以降に進む。逆に、何れかがUSB4規格に対応していない場合、USB3.2による通信が開始され、phase2以降に進まない。phase1の期間では、サイドバンド信号はLレベルに固定されている。
【0035】
レーン初期化のphase2では、SBU通信線を用いたサイドバンド通信により、何れのデータレートで通信を行うか等が決定される。phase2以降では、サイドバンド信号は、基本的にはHレベルを維持し、シンボル送信の際には、1ビットのLレベル(スタートビット)、8ビットの任意のレベル(シンボル)および1ビットのHレベル(ストップビット)となり、以降はHレベルを維持する。
【0036】
レーンアダプタ・ステートマシンのCLdステートの期間は、SS信号の通信を行っていないレーン初期化の期間であるが、ルータ・ステートマシンのスリープ・ステートの期間を含む。CLdステートのうちphase1ではサイドバンド信号はLレベルに固定されているのに対して、phase2以降ではサイドバンド信号は基本的にはHレベルを維持することになる。したがって、低速信号であるサイドバンド信号のレベルを簡易な回路構成をモニタすることにより、レーンアダプタ・ステートマシンのCLdステートのphase1にあることを検知することができ、アクティブケーブルに含まれる能動デバイスの消費電力を低く抑えることができる。
【0037】
以下に説明する構成は、本発明者による上記のような考察に基づくものである。
【0038】
図5は、第1実施形態のアクティブケーブル100の構成を示す図である。本実施形態のアクティブケーブル100は、アクティブ銅ケーブル(ACC)である。アクティブケーブル100は、一方のリンクパートナ140のレーンアダプタ141と他方のリンクパートナ150のレーンアダプタ151との間で通信を行うものである。レーンアダプタ141およびレーンアダプタ151のうち少なくとも一方はUSB4規格に準拠している。
【0039】
アクティブケーブル100の一方側にある端末装置110は、通信装置111およびコネクタ114を備える。コネクタ114はレーンアダプタ141に接続される。アクティブケーブル100の他方側にある端末装置120は、通信装置121およびコネクタ124を備える。コネクタ124はレーンアダプタ151に接続される。
【0040】
通信装置111と通信装置121との間に通信線(銅線)130が設けられている。この通信線130は、主信号であるSS信号を送信するSS信号線(TX1+,TX1-,TX2+,TX2-,RX1+,RX1-,RX2+,RX2-)、サイドバンド信号を送信するSBU通信線、パワーデリバリ信号を送信するCC通信線、電力供給に用いられる電源線(Vconn線)などを含む。
【0041】
図6は、第1実施形態のアクティブケーブル100に含まれる通信装置111の構成を示す図である。この図には、通信装置111のうち、リンクパートナ140のレーンアダプタ141からリンクパートナ150のレーンアダプタ151へ送られるSS信号に関連する構成が主に示されている。通信装置121も同様の構成とすることができる。また、送信するSS信号ではなく受信するSS信号についても同様の構成としてもいいし、送信するSS信号および受信するSS信号の双方について同様の構成としてもよい。
【0042】
通信装置111は、制御部11、比較部12、抵抗器13、電圧源14、信号検出部15、リドライバ16、eMarker17および電源IC18を備える。これらは、パドルカード(Paddle Card)と呼ばれる基板の上に実装される。
【0043】
比較部12は、SBU信号線の電圧値を入力するともに、電圧源14から出力される参照電圧値を入力して、SBU信号線の電圧値と参照電圧値とを大小比較することにより、サイドバンド信号のレベルを検知するレベル検知部である。比較部12は、このレベル検知結果を制御部11に通知する。
【0044】
抵抗器13は、レベル検知部である比較部12におけるサイドバンド信号の入力端と基準電位供給端との間に設けられている。基準電位供給端は、電源電位を供給するものであってもよいし、接地電位を供給するものであってもよい。抵抗器13は、プルアップ抵抗またはプルダウン抵抗である。抵抗器13が設けられていることにより、レーンアダプタ141およびレーンアダプタ151のうち何れか一方がUSB4規格に準拠していない場合(すなわち、サイドバンド通信を行わない場合)であっても、比較部12におけるサイドバンド信号の入力端の電位が確定し、無駄な電流が比較部12に流れることを抑制することができる。また、抵抗器13が十分に大きい抵抗値を有することにより、SBU通信に影響を及ぼさないようにすることができる。
【0045】
信号検出部15は、リンクパートナ140のレーンアダプタ141からリンクパートナ150のレーンアダプタ151へ送られる主信号であるSS信号の有無を検出し、この検出結果を制御部11に通知する。
【0046】
リドライバ16は、送信の際のSS信号の損失(特に高周波帯域の損失)を補正するものであり、SS信号に対して消費電力量に応じた能動的動作をすることができる。なお、リドライバ16に替えてリタイマが設けられてもよい。
【0047】
eMarker17は、接続相手に対して通知すべきアクティブケーブル100の情報を記憶している。記憶している情報は、例えば、電源線に流せる最大電流および最大電圧、USB4に対応に対応しているのかUSB3.2専用であるのか、SS信号線の最大データレート、等である。eMarker17は、CC線により接続相手に情報を通知する。
【0048】
電源IC18は、電源線(Vconn線)により供給される5Vの電源を、これより低い電圧(例えば3.3V)に下げて、その低い電圧を制御部11、比較部12、抵抗器13、電圧源14、信号検出部15およびリドライバ16等に与える。
【0049】
制御部11は、レベル検知部である比較部12からサイドバンド信号レベルの検知結果を受け取り、また、信号検出部15からSS信号有無の検出結果を受け取る。制御部11は、サイドバンド信号レベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、能動デバイスであるリドライバ16を低消費電力状態とする。
【0050】
前述したとおり、USB4規格におけるレーンアダプタのCLdステートで行われるレーン初期化において、phase1ではサイドバンド信号はLレベルに固定されているのに対して、phase2以降ではSBU通信線を用いたサイドバンド通信によりシンボルが送信される。phase2以降では、サイドバンド信号は、基本的にはHレベルを維持し、シンボル送信の際には、1ビットのLレベル(スタートビット)、8ビットの任意のレベル(シンボル)および1ビットのHレベル(ストップビット)となり、以降はHレベルを維持する。また、サイドバンド信号のデータレートは1Mbpsであり、サイドバンド信号の1ビットの時間は1μsである。したがって、サイドバンド信号レベルが10ビット分の時間(10μs)以上続けば、レーンアダプタがCLdステートのphase1にあると判断することができる。
【0051】
そこで、制御部11は、サイドバンド信号レベルが一定時間(少なくとも10μs)に亘ってLレベルである場合に、能動デバイスであるリドライバ16を低消費電力状態とすることができる。また、制御部11は、サイドバンド信号レベルに加えて、SS信号の無信号状態をも確認することで、より確実にレーンアダプタがCLdステートのphase1にあると判断することができる。
【0052】
制御部11は、サイドバンド信号レベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、リドライバ16を低消費電力状態とするだけでなく、eMarker17を低消費電力状態としてもよいし、電源IC18を低消費電力状態としてもよい。これにより、通信装置111の全体を、より低消費電力の状態とすることができる。
【0053】
また、制御部11は、サイドバンド信号レベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、能動デバイスであるリドライバ16の動作の調整を行ってもよい。具体的には、リドライバ16の動作の調整は、例えばSS信号のロス補正の際の周波数依存性の調整である。レーンアダプタがCLdステートのphase1にあるとき、SS信号が無信号状態であり、ウェイク状態への迅速が復帰が要求されないので、リドライバ16の動作の調整を行うことができる。
【0054】
本実施形態では、サイドバンド信号レベルが一定時間以上に亘ってLレベルであることを検知するだけでよいので、その為のレベル検知部である比較部12を回路規模が小さい簡易な構成とすることができる。したがって、通信装置111も、簡易な構成とすることができ、低コストかつ低電力でパドルカード上に実装することができる。
【0055】
図7は、第2実施形態のアクティブケーブル200の構成を示す図である。本実施形態のアクティブケーブル200は、アクティブ光ケーブル(AOC)である。アクティブケーブル200は、一方のリンクパートナ240のレーンアダプタ241と他方のリンクパートナ250のレーンアダプタ251との間で通信を行うものである。レーンアダプタ241およびレーンアダプタ251のうち少なくとも一方はUSB4規格に準拠している。
【0056】
アクティブケーブル200の一方側にある端末装置210は、通信装置211、レーザダイオード212、フォトダイオード213およびコネクタ214を備える。コネクタ214はレーンアダプタ241に接続される。アクティブケーブル200の他方側にある端末装置220は、通信装置221、レーザダイオード222、フォトダイオード223およびコネクタ224を備える。コネクタ224はレーンアダプタ251に接続される。
【0057】
レーザダイオード212とフォトダイオード223との間に、光信号を伝送する信号線として光ファイバ231が設けられている。レーザダイオード222とフォトダイオード213との間に、光信号を伝送する信号線として光ファイバ232が設けられている。これらの信号線は、主信号であるSS信号、サイドバンド信号、パワーデリバリ信号などを送信する。
【0058】
図8は、第2実施形態のアクティブケーブル200に含まれる通信装置211の構成を示す図である。この図には、通信装置211のうち、リンクパートナ240のレーンアダプタ241とリンクパートナ250のレーンアダプタ251との間で送られるSS信号に関連する構成が主に示されている。通信装置221も同様の構成とすることができる。
【0059】
通信装置211は、制御部21、比較部22、抵抗器23、電圧源24、送信信号検出部25、駆動部(レーザドライバ)26、増幅部27、差動増幅部28および受信信号検出部29を備える。また、通信装置211は、eMarkerおよび電源ICを備える。通信装置211、レーザダイオード212およびフォトダイオード213は、パドルカード上に実装される。
【0060】
比較部22は、SBU信号線の電圧値を入力するともに、電圧源24から出力される参照電圧値を入力して、SBU信号線の電圧値と参照電圧値とを大小比較することにより、サイドバンド信号のレベルを検知するレベル検知部である。比較部22は、このレベル検知結果を制御部21に通知する。
【0061】
抵抗器23は、レベル検知部である比較部22におけるサイドバンド信号の入力端と基準電位供給端との間に設けられている。基準電位供給端は、電源電位を供給するものであってもよいし、接地電位を供給するものであってもよい。抵抗器23は、プルアップ抵抗またはプルダウン抵抗である。抵抗器23が設けられていることにより、レーンアダプタ241およびレーンアダプタ251のうち何れか一方がUSB4規格に準拠していない場合(すなわち、サイドバンド通信を行わない場合)であっても、比較部22におけるサイドバンド信号の入力端の電位が確定し、無駄な電流が比較部22に流れることを抑制することができる。また、抵抗器23が十分に大きい抵抗値を有することにより、SBU通信に影響を及ぼさないようにすることができる。
【0062】
送信信号検出部25は、リンクパートナ240のレーンアダプタ241からリンクパートナ250のレーンアダプタ251へ送られる主信号であるSS信号の有無を検出し、この検出結果を制御部21に通知する。
【0063】
駆動部26は、相手方へ送信すべきSS信号があるとき、その信号に基づいて電流信号をレーザダイオード212に与えて、レーザダイオード212から光信号を相手方のフォトダイオード223へ出力させる。
【0064】
増幅部27は、相手方のレーザダイオード222から出力されて到達した光信号を受光したフォトダイオード213から出力される電流信号を入力し、この電流信号を電圧信号に変換して、該電圧信号(差動信号)を出力する。この増幅部27は、電流信号を電圧信号に変換するTIAである。差動増幅部28は、増幅部27から出力された電圧信号を増幅してSS信号として出力する。
【0065】
受信信号検出部29は、増幅部27と差動増幅部28との間の電圧信号の有無を検出する。すなわち、受信信号検出部29は、リンクパートナ250のレーンアダプタ251からリンクパートナ240のレーンアダプタ241へ送られる主信号であるSS信号の有無を検出する。受信信号検出部29は、この検出結果を制御部21に通知する。
【0066】
制御部21は、レベル検知部である比較部22からサイドバンド信号レベルの検知結果を受け取り、送信信号検出部25および受信信号検出部29それぞれからSS信号有無の検出結果を受け取る。制御部21は、サイドバンド信号レベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、能動デバイスである駆動部26、増幅部27および差動増幅部28のうち何れか1以上のものを低消費電力状態とする。
【0067】
前述したとおり、サイドバンド信号レベルが10ビット分の時間(10μs)以上続けば、レーンアダプタがCLdステートのphase1にあると判断することができる。そこで、制御部21は、サイドバンド信号レベルが一定時間(少なくとも10μs)に亘ってLレベルである場合に、能動デバイスである駆動部26、増幅部27および差動増幅部28のうち何れか1以上のものを低消費電力状態とすることができる。また、制御部21は、サイドバンド信号レベルに加えて、SS信号の無信号状態をも確認することで、より確実にレーンアダプタがCLdステートのphase1にあると判断することができる。
【0068】
制御部21は、サイドバンド信号レベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、能動デバイスを低消費電力状態とするだけでなく、eMarkerを低消費電力状態としてもよいし、電源ICを低消費電力状態としてもよい。これにより、通信装置211の全体を、より低消費電力の状態とすることができる。
【0069】
また、制御部21は、サイドバンド信号レベルが一定時間以上に亘ってLレベルである場合に、能動デバイスである駆動部26、増幅部27または差動増幅部28の動作の調整を行ってもよい。具体的には、駆動部26の動作の調整は、例えばレーザダイオード212に与える電流の大きさの調整である。増幅部27または差動増幅部28の動作の調整は、例えば、SS信号のロス補正の際の周波数依存性の調整であり、オフセットの調整である。
レーンアダプタがCLdステートのphase1にあるとき、SS信号が無信号状態であり、ウェイク状態への迅速が復帰が要求されないので、これらの動作の調整を行うことができる。
【0070】
本実施形態でも、サイドバンド信号レベルが一定時間以上に亘ってLレベルであることを検知するだけでよいので、その為のレベル検知部である比較部22を回路規模が小さい簡易な構成とすることができる。したがって、通信装置211も、簡易な構成とすることができ、低コストかつ低電力でパドルカード上に実装することができる。
【符号の説明】
【0071】
11…制御部、12…比較部、13…抵抗器、14…電圧源、15…信号検出部、16…リドライバ、17…eMarker、18…電源IC、21…制御部、22…比較部、23…抵抗器、24…電圧源、25…送信信号検出部、26…駆動部、27…増幅部、28…差動増幅部、29…受信信号検出部、100…アクティブケーブル、110…端末装置、111…通信装置、114…コネクタ、120…端末装置、121…通信装置、124…コネクタ、130…通信線、140…リンクパートナ、141…レーンアダプタ、150…リンクパートナ、151…レーンアダプタ、200…アクティブケーブル、210…端末装置、211…通信装置、212…レーザダイオード、213…フォトダイオード、214…コネクタ、220…端末装置、221…通信装置、222…レーザダイオード、223…フォトダイオード、224…コネクタ、231,232…光ファイバ、240…リンクパートナ、241…レーンアダプタ、250…リンクパートナ、251…レーンアダプタ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8