(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】肉厚測定システム、肉厚測定方法、肉厚測定プログラム及び肉厚測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/90 20210101AFI20240730BHJP
【FI】
G01N27/90
(21)【出願番号】P 2020184092
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】時岡 良宜
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特許第6725778(JP,B1)
【文献】特開昭62-015454(JP,A)
【文献】特表2008-508523(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0245867(US,A1)
【文献】特公平08-033374(JP,B2)
【文献】特開2015-222194(JP,A)
【文献】特開平08-160014(JP,A)
【文献】特開2017-194404(JP,A)
【文献】国際公開第2020/255728(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72-27/9093
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信コイル及び受信コイルを有するパルス渦電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定システムであって、
前記送信コイルへのパルス電流の出力停止後、前記受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出部と、
検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理部と、
を備え、
前記フィルタ処理部は、
前記検出信号の検出開始から終了までの検出期間の一部の期間である第一区間、及び、該第一区間を所定時間だけシフトさせた第二区間の少なくとも2つの区間のそれぞれにおいて、該検出信号のフーリエ級数を算出し、
前記第一区間でのフーリエ級数に基づいて前記検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第一信号と、前記第二区間でのフーリエ級数に基づいて前記検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第二信号と、を平均した信号を、該検出信号からノイズを除去した除去信号として生成する、
肉厚測定システム。
【請求項2】
前記各区間は、前記検出期間のうち、誘導起電力の継続時間の位置を超えた前記検出信号の値が十分に小さくなった時期以降の期間である請求項1に記載の肉厚測定システム。
【請求項3】
前記第一区間と前記第二区間とは、一部の期間が重複する請求項1又は請求項2に記載の肉厚測定システム。
【請求項4】
前記誘導起電力検出部は、前記パルス渦電流プローブに設けられ、
前記フィルタ処理部は、前記パルス渦電流プローブと通信可能な第一装置に設けられている請求項1~3のいずれかに記載の肉厚測定システム。
【請求項5】
送信コイル及び受信コイルを有するパルス渦電流プローブを用いて被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定方法であって、
前記送信コイルへのパルス電流の出力停止後、前記受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出工程と、
検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理工程と、
を含み、
前記フィルタ処理工程において、
前記検出信号の検出開始から終了までの検出期間の一部の期間である第一区間、及び、該第一区間を所定時間だけシフトさせた第二区間の少なくとも2つの区間のそれぞれにおいて、該検出信号のフーリエ級数を算出し、
前記第一区間でのフーリエ級数に基づいて前記検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第一信号と、前記第二区間でのフーリエ級数に基づいて前記検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第二信号と、を平均した信号を、該検出信号に含まれるノイズを除去した除去信号として生成する、
肉厚測定方法。
【請求項6】
送信コイル及び受信コイルを有するパルス渦電流プローブを用いて被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出するコンピュータに、
前記送信コイルへのパルス電流の出力停止後、前記受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出機能と、
検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理機能と、
を実現させ、
前記フィルタ処理機能において、
前記検出信号の検出開始から終了までの検出期間の一部の期間である第一区間、及び、該第一区間を所定時間だけシフトさせた第二区間の少なくとも2つの区間のそれぞれにおいて、該検出信号のフーリエ級数を算出し、
前記第一区間でのフーリエ級数に基づいて前記検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第一信号と、前記第二区間でのフーリエ級数に基づいて前記検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第二信号と、を平均した信号を、該検出信号に含まれるノイズを除去した除去信号として生成する、
肉厚測定プログラム。
【請求項7】
送信コイル及び受信コイルを有するパルス渦電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定装置であって、
前記送信コイルへのパルス電流の出力停止後、前記受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出部と、
検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理部と、
を備え、
前記フィルタ処理部は、
前記検出信号の検出開始から終了までの検出期間の一部の期間である第一区間、及び、該第一区間を所定時間だけシフトさせた第二区間の少なくとも2つの区間のそれぞれにおいて、該検出信号のフーリエ級数を算出し、
前記第一区間でのフーリエ級数に基づいて前記検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第一信号と、前記第二区間でのフーリエ級数に基づいて前記検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第二信号と、を平均した信号を、該検出信号に含まれるノイズを除去した除去信号として生成する、
肉厚測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パルス渦電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
配管等の金属物品の被測定物の傷の有無や肉厚等を検査する方法として、渦電流を使用したパルス渦流探傷法が知られている(例えば、特許文献1参照)。このパルス渦電流探傷法を適用したパルス渦流探傷装置では、被測定物に渦電流(誘導電流)を発生させる。この渦電流によって、プローブ(受信コイル)に誘導起電力が発生する。そして、受信コイルに生じた誘導起電力(検出信号)を検出する。この検出信号に基づいて、被測定物の傷の有無や肉厚の測定等が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のよう検出信号には、ノイズが混入する場合がある。例えば、モーター機器(ファン、ドリル等)のノイズが混入する。検出信号にノイズが混入すると肉厚の測定等の算出処理の精度が低下する。そのため、検出信号からノイズ成分を除去する必要があるが、周波数成分をもったノイズ除去を行う場合、フーリエ変換等を用いてノイズの周波数成分毎の振幅を抽出する。その際、フーリエ変換に使用する検出信号の範囲によってノイズ除去の割合が異なる恐れがあった。これは、検出信号の測定期間(検出期間)が数百ミリ秒~1秒程度と長いため、検出信号に含まれるノイズ成分の周波数や位相が一定ではないからである。ノイズ除去の割合が異なると、渦電流の継続時間τを正確に特定することができず、肉厚等を正確に算出することができない場合がある。また、複数回の測定によって得られる各測定データ(検出信号)に対して同等のノイズ除去の精度となることも要望されている。
【0005】
この発明は、誘導起電力の検出信号に含まれる周波数成分を持ったノイズを除去において、複数の測定データ(検出信号)に対して同等のノイズ除去の精度を実現させる肉厚測定システム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の側面によって提供される肉厚測定システムは、送信コイル及び受信コイルを有するパルス渦電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する。また、肉厚測定システムは、誘導起電力検出部及びフィルタ処理部を備える。誘導起電力検出部は、送信コイルへのパルス電流の出力停止後、受信コイルに生じた誘導起電力を検出する。フィルタ処理部は、検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去する。また、フィルタ処理部は、検出信号の検出開始から終了までの検出期間の一部の期間である第一区間、及び、第一区間を所定時間だけシフトさせた第二区間の少なくとも2つの区間のそれぞれにおいて、検出信号のフーリエ級数を算出し、第一区間でのフーリエ級数に基づいて検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第一信号と、第二区間でのフーリエ級数に基づいて検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第二信号と、を平均した信号を、検出信号からノイズを除去した除去信号として生成する。
【0007】
上記各区間は、前記検出期間のうち、誘導起電力の継続時間の位置を超えた検出信号の値が十分に小さくなった時期以降の期間としてもよい。
【0008】
上記第一区間と第二区間とは、一部の期間が重複してもよい。
【0009】
上記誘導起電力検出部は、パルス渦電流プローブに設けられ、上記フィルタ処理部は、パルス渦電流プローブと通信可能な第一装置に設けられていてもよい。
【0010】
本発明の第2の側面によって提供される肉厚測定方法は、送信コイル及び受信コイルを有するパルス渦電流プローブを用いて被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する肉厚測定方法であって、送信コイルへのパルス電流の出力停止後、受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出工程と、検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理工程と、を含む。また、フィルタ処理工程において、検出信号の検出開始から終了までの検出期間の一部の期間である第一区間、及び、第一区間を所定時間だけシフトさせた第二区間の少なくとも2つの区間のそれぞれにおいて、検出信号のフーリエ級数を算出し、第一区間でのフーリエ級数に基づいて検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第一信号と、第二区間でのフーリエ級数に基づいて検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第二信号と、を平均した信号を、検出信号に含まれるノイズを除去した除去信号として生成する。
【0011】
本発明の第3の側面によって提供される肉厚測定プログラムは、送信コイル及び受信コイルを有するパルス渦電流プローブを用いて被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出するコンピュータに、送信コイルへのパルス電流の出力停止後、受信コイルに生じた誘導起電力を検出する誘導起電力検出機能と、検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理機能と、を実現させる。また、フィルタ処理機能において、検出信号の検出開始から終了までの検出期間の一部の期間である第一区間、及び、第一区間を所定時間だけシフトさせた第二区間の少なくとも2つの区間のそれぞれにおいて、検出信号のフーリエ級数を算出し、第一区間でのフーリエ級数に基づいて検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第一信号と、第二区間でのフーリエ級数に基づいて検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第二信号と、を平均した信号を、検出信号に含まれるノイズを除去した除去信号として生成する。
【0012】
本発明の第4の側面によって提供される肉厚測定装置は、送信コイル及び受信コイルを有するパルス渦電流プローブを備え、被測定箇所に誘導電流を発生させて被測定箇所の肉厚を算出する。また、肉厚測定装置は、誘導起電力検出部及びフィルタ処理部を備える。誘導起電力検出部は、送信コイルへのパルス電流の出力停止後、受信コイルに生じた誘導起電力を検出する。フィルタ処理部は、検出された誘導起電力である検出信号に含まれるノイズを除去する。また、フィルタ処理部は、検出信号の検出開始から終了までの検出期間の一部の期間である第一区間、及び、第一区間を所定時間だけシフトさせた第二区間の少なくとも2つの区間のそれぞれにおいて、検出信号のフーリエ級数を算出し、第一区間でのフーリエ級数に基づいて検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第一信号と、第二区間でのフーリエ級数に基づいて検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した第二信号と、を平均した信号を、検出信号に含まれるノイズを除去した除去信号として生成する。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、区間毎のフーリエ級数に基づいて検出信号のノイズが除去された信号(第一信号、第二信号)が生成され、最終的に、これらの信号を平均した信号が、検出信号に含まれるノイズを除去した除去信号として生成される。これにより、複数の測定データ(検出信号)に対して同等のノイズ除去の精度を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明の実施形態に係る肉厚測定システムの概要を示す斜視図である。
【
図2】この発明の実施形態に係る肉厚測定システムの構成図である。
【
図3】誘導起電力の検出信号及び除去信号の時間的変化の一例を示す図である。
【
図4】区間別のノイズ除去後の誘導起電力(検出信号)の時間的変化の一例を示す図である。
【
図5】誘導起電力の検出信号及び除去信号の時間的変化の一例を示す図である。
【
図6】区間別のノイズ除去後の誘導起電力(検出信号)の時間的変化の一例を示す図である。
【
図8】フィルタ処理部のフィルタ処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照してこの発明の実施形態に係る肉厚測定システム(肉厚測定方法、肉厚測定プログラム、肉厚測定装置)について説明する。なお、この発明の構成は、実施形態に限定されるものではない。また、以下で説明するフローを構成する各種処理の順序は、処理内容に矛盾等が生じない範囲で順不同である。
【0016】
図1は、この発明の実施形態に係る肉厚測定システム1の概要を示す図である。
図2は、この発明の実施形態に係る肉厚測定システムの構成図である。本実施形態の肉厚測定システム(測定システム)1は、化学プラント等に設置された配管(被測定物)Pの肉厚を測定する。測定システム1は、複数のパルス渦電流プローブ2、ハブ端末3(第一装置の例)及びサーバ装置4等を備える。
【0017】
測定システム1は、順々に、各被測定箇所の肉厚測定を行う。また、測定システム1は、肉厚測定時、フーリエ級数に基づいて誘導起電力の検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理を実行する。
【0018】
複数のパルス渦電流プローブ2は、配管Pに設定されたそれぞれ異なる被測定箇所(配管Pの外周面)に当接するように設置されている。複数のパルス渦電流プローブ2とハブ端末3とは有線接続されており、接続線Lを介して電力供給及び情報通信が行われる。ハブ端末3とサーバ装置4とは、互いに無線通信可能に構成されている。
【0019】
パルス渦電流プローブ2は、
図2に示すように、送信コイル21、受信コイル22及びマイクロコントローラ23等を有する。マイクロコントローラ23の給電制御部231は、ハブ端末3の測定制御部311からの制御信号に従って、送信コイル21にパルス電流を流すように制御する。具体的には、給電制御部231は、一定期間だけパルス電流を流すように制御する。送信コイル21へのパルス電流が遮断されると、急激な磁界変化によって、パルス渦電流プローブ2が当接する被測定箇所に誘導電流(渦電流)が発生する。
【0020】
受信コイル22は、被測定箇所で発生した誘導電流による磁界によって、誘導起電力を発生させる。誘導起電力検出部232は、パルス電流の出力停止後、受信コイル22に生じた誘導起電力を電圧信号(検出信号)として検出する。誘導起電力検出部232は、受信コイル22による電圧信号の検出を所定期間(例えば500ms)継続し、記憶部(不図示)に記憶させる。検出される誘導起電力の検出信号の一例を
図3(A)に示す。
図3(A)は、誘導起電力(検出信号)であるV(t)の時間的変化の一例を示す図である。
【0021】
なお、パルス渦電流プローブ2の各個体は、識別情報Idにより識別される。識別情報Idは、例えば、ハブ端末3から近い順に01、02、03、…としてディップスイッチを用いて設定可能である。また、各パルス渦電流プローブ2の識別情報Idは、被測定箇所を特定する識別情報でもある。以下の説明では、識別情報Idにより特定されるパルス渦電流プローブ2が設置された被測定箇所を、単に識別情報Idにより特定される被測定箇所という場合がある。
【0022】
なお、以下の説明では、給電制御部231が送信コイル21にパルス電流を流すように制御し、誘導起電力検出部232が受信コイル22に生じた誘導起電力を検出する一連の動作を、「測定を実行する」という場合がある。
【0023】
次に、ハブ端末3について説明する。ハブ端末3は、ハブ側演算装置31及びハブ側通信部32等を有する。ハブ側演算装置31は、測定制御部311、フィルタ処理部312及び減衰解析部313を含む。ハブ側演算装置31は、例えばマイクロコントローラとして実装される。ハブ端末3は、電源(不図示)から電力供給を受けて動作するとともに、各パルス渦電流プローブ2に電力を供給する。
【0024】
測定制御部311は、複数のパルス渦電流プローブ2のうち、いずれのパルス渦電流プローブ2を用いた肉厚測定を実行するかを制御する。具体的には、測定制御部311は、サーバ装置4の測定回数分配部412により算出された測定実行回数に基づいて、パルス渦電流プローブ2を制御する。測定制御部311は、各パルス渦電流プローブ2に分配された測定実行回数が充足されるように、複数のパルス渦電流プローブ2の送信コイル21に順次パルス電流が流れるようにパルス渦電流プローブ2を制御する。
【0025】
より具体的には、測定制御部311は、測定実行回数が充足されるように、1のパルス渦電流プローブ2を選択し、選択されたパルス渦電流プローブ2にパルス渦電流が流れるように指示する制御信号を発信する。制御信号には、選択されたパルス渦電流プローブ2を識別する識別情報Idが含まれる。選択されたパルス渦電流プローブ2のマイクロコントローラ23は、識別情報Idに基づいて当該制御信号が自身宛であることを認識し、送信コイル21にパルス電流を流す制御を実行する。
【0026】
フィルタ処理部312は、検出された誘導起電力(検出信号)をパルス渦電流プローブ2を識別する識別情報Idとともに誘導起電力検出部232から取得し、ハブ端末3の記憶部(不図示)に記憶させる。また、フィルタ処理部312は、取得した検出信号に含まれるノイズを除去するフィルタ処理を実行する。詳細は後述する。減衰解析部312は、ノイズ除去後の検出信号(除去信号)の継続時間τを算出する。
図7は、ノイズ除去後の誘導起電力の減衰曲線を示す図である。
図7に示すように、誘導起電力は、t
-n(tは時間)に比例する曲線部分(急激な減衰を示す曲線部分)S2と、t
-nから外れる曲線部分(緩やかな減少を示す曲線部分)S1とに区分される。減衰解析部312は、減衰曲線の形状を解析して曲線部分S1と曲線部分S2との境界の時刻を特定し、これに基づいて継続時間τを決定する。
【0027】
ハブ側通信部32は、サーバ装置4のサーバ側通信部43と無線通信可能に構成される。ハブ側通信部32は、減衰解析部312が算出した継続時間τに、測定制御部311が選択したパルス渦電流プローブ2を特定する識別情報Id及び測定日時(肉厚の算出に用いられた継続時間τを測定した日時。)を付して、サーバ装置4に送出する。また、測定回数分配部412が決定した各パルス渦電流プローブ2の測定実行回数を表す測定回数テーブルを受信する。
【0028】
次に、サーバ装置4について説明する。サーバ装置4は、サーバ側演算装置41、記憶部42及びサーバ側通信部43等を有する。サーバ側演算装置41は、肉厚演算部411及び測定回数分配部412を含む演算装置である。サーバ側演算装置41は、例えばCPUとして実装される。
【0029】
記憶部42には、肉厚演算部411により算出された肉厚及び継続時間τが、被測定箇所(パルス渦電流プローブ2)を特定する識別情報Id及び測定日時に関連付けられて記憶されている。また、記憶部42には、それぞれの被測定箇所について当初肉厚及び下限肉厚が記憶されている。当初肉厚は、配管Pが設置された当初の被測定箇所の肉厚である。下限肉厚は、使用不可となる下限の肉厚である。
【0030】
サーバ側通信部43は、ハブ端末3のハブ側通信部32と無線通信可能に構成にされる。サーバ側通信部43は、測定回数テーブルをハブ端末3に送出する。また、ハブ端末3から継続時間τを受け取る。
【0031】
肉厚演算部411は、ハブ端末3から送出された継続時間τに基づいて、識別情報Idにより特定される被測定箇所の肉厚を算出する。具体的には、継続時間τと肉厚とがおおむね比例関係にあることに基づいて肉厚を算出する。算出された肉厚は、識別情報Id及び測定日時と関連付けられて記憶部42に記憶される。また、肉厚演算部411は、コロージョンレート及び減肉厚率等も算出し、記憶部42に記憶させる。
【0032】
測定回数分配部412は、コロージョンレート及び減肉厚率に基づいて、複数のパルス渦電流プローブ2のそれぞれについて、肉厚測定を実行する回数(測定実行回数)を決定する。すなわち、測定回数分配部412は、測定回数テーブルを生成する。測定実行回数は、例えば、一日あたりの肉厚測定の実行回数である。1の渦電流プローブ2において一日あたりの肉厚測定の実行回数が複数の場合もある。測定制御部311は、例えば、選択した1の渦電流プローブ2において肉厚測定を1回実行した場合、次の渦電流プローブ2を選択して肉厚測定を実行すればよい。例えば、識別情報Idの順に1の渦電流プローブ2を選択していけばよい。その際、測定回数が、測定実行回数を満たしている場合には、次の渦電流プローブ2を選択すればよい。そして、複数の渦電流プローブ2の肉厚測定が一巡した後、2回目の肉厚測定を順次行っていけばよい。
【0033】
次に、ハブ端末3のフィルタ処理部312におけるノイズ除去について詳述する。フィルタ処理部312は、上述したように、検出された誘導起電力(検出信号)を誘導起電力検出部232から取得し、検出信号に含まれるノイズを除去する。フィルタ処理部232は、検出信号の検出開始から終了までの検出期間(測定期間)に、複数の区間を設ける。例えば、
図3(A)に示すように、第一区間D1~第四区間D4の4区間を設ける。なお、
図3(A)は、ノイズ除去前の検出信号の一例を示す。第一区間D1は、検出期間(0ms~500ms)のうちの一部の期間である100ms~300msの期間である。第二区間D2~第四区間D4は、第一区間D1から所定時間(例えば、10ms)ずつ順にシフトさせた期間である。各区間D1~D4の時間的な長さは、200msである。
【0034】
なお、各区間D1~D4は、検出信号の検出期間(0ms~500ms)のうち、誘導起電力の継続時間τの位置を超えた時期以降に設定すればよい。すなわち、検出信号の値が十分に小さくなった時期以降に設定すればよい。また、検出期間における各区間の期間を特定するデータは、予めハブ端末3の記憶部に記憶されているパラメータ(制御用データ)に含めておけばよい。
【0035】
フィルタ処理部312は、区間D1~D4毎に検出信号のフーリエ級数を算出する。そして、フィルタ処理部312は、1の区間におけるフーリエ級数に基づいて、検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した信号を生成する。フィルタ処理部312は、全ての区間それぞれにおけるフーリエ級数に基づいて上記信号を生成する。例えば、第一区間D1におけるフーリエ級数に基づいて、検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した信号(第一信号)が生成される。また、第二区間D2におけるフーリエ級数に基づいて、検出信号の全体に対してノイズの周波数成分を除去した信号(第二信号)が生成される。第三区間D3及び第四区間D4においても、同様にして第三信号及び第四信号が生成される。
【0036】
その後、フィルタ処理部312は、区間D1~D4毎のフーリエ級数に基づいて除去された信号(第一信号~第四信号)を平均した信号を、検出信号に含まれるノイズを除去した除去信号として生成する。以下、ノイズが除去されていない元の検出信号を単に検出信号とし、フィルタ処理によってノイズ除去が完了した検出信号を除去信号として説明する。
【0037】
図8は、フィルタ処理部312が実行するフィルタ処理のフローチャートである。フィルタ処理では、上述したように、検出された誘導起電力(検出信号)を誘導起電力検出部232から取得し、検出信号に含まれるノイズを除去した除去信号が生成される。ハブ端末3(フィルタ処理部212)は、例えば、検出された誘導起電力(検出信号)を誘導起電力検出部232から取得した場合にフィルタ処理を実行する。以下、
図3(A)に示すノイズ除去前の検出信号の一例も参照しつつ、フィルタ処理について説明する。
【0038】
フィルタ処理部312は、最初に、ノイズが除去されていない検出信号を取得する(ステップS10)。例えば、ハブ端末3の記憶部に記憶されている検出信号を取得する。次に、フィルタ処理部312は、1の区間でのV(t)のフーリエ級数(フーリエ係数)を求める(ステップS20)。この1の区間を実行区間とする。例えば、最初に第一区間D1を実行区間としてフーリエ級数を求める。第一区間D1{t1~t2}のV(t)のフーリエ級数(フーリエ係数)は、下記のとおりである。
【0039】
【0040】
【0041】
なお、Nは、実行区間内の測定(検出)点の数である。fは、ノイズの周波数成分である。Nとfの各値は、パラメータとして与えられる。これらのパラメータは、被測定物の肉厚等によって設定すればよい。また、フーリエ級数の対象期間を「t2-100msからt2」としているのは、計算時間を短縮することに加えて、継続時間τの近傍の値を含まないようにするためでもある。このパラメータ「100ms」についても、被測定物の肉厚等によって適宜設定すればよい。
【0042】
次に、フィルタ処理部312は、ステップS20の処理と同じ実行区間において、最大となるfを算出する(ステップS30)。具体的には、ステップS20の処理で算出したap(f)、bp(f)を用いた下記の式(3)から最大となるfを算出する。例えば、第一区間D1においては、式(1),(2)で表されるap(f)、bp(f)を用いた式(3)から最大となるfを算出する。
【0043】
【0044】
次に、フィルタ処理部312は、ステップS20の処理と同じ実行区間内で、fの周期の整数倍の期間(tq)でフーリエ級数(フーリエ係数)を算出する(ステップS40)。例えば、第一区間D1では、式(4),(5)のように表される。
【0045】
【0046】
【0047】
次に、フィルタ処理部312は、ステップS30の処理におけるA(f)が、所定の閾値以下になったか否かを判断する(ステップS50)。すなわち、A(f)が、所定の閾値以下となった場合、ノイズが存在していない状態又は全てのノイズが除去された状態であると判断される。所定の閾値は、例えば、ノイズが除去されたと想定される値をパラメータとして設定しておけばよい。A(f)が所定の閾値以下ではない場合(ステップS50:NO)、フィルタ処理部312は、実行区間ではなく、検出期間0ms~500msの検出信号の全体(V(t))からfの周波数成分を差し引く(ステップS60)。例えば、実行区間が第一区間D1の場合では、式(6)のように表される。
【0048】
【0049】
その後、フィルタ処理部312は、ステップS20の処理に戻って、前回のステップS20の処理と同じ実行区間でのVf(t)に対し、上述したように、フーリエ級数(フーリエ係数)を算出する。例えば、フィルタ処理部312は、前回のステップS20の処理と同じ実行区間である第一区間D1でのVf(t)に対してフーリエ級数を算出する。すなわち、A(f)が、所定の閾値以下になるまでステップS20~S60の処理を繰り返してVf(t)に含まれるノイズを繰り返し除去する。検出信号に含まれるノイズは1つではない場合もあるからである。
【0050】
一方、A(f)が所定の閾値以下になった場合(ステップS50:YES)、フィルタ処理部312は、現在の実行区間でのフーリエ級数に基づく検出信号の全体に対するノイズの周波数成分の除去が完了したと判断し、ノイズ除去後の信号をハブ端末3の記憶部に記憶させる(ステップS70)。例えば、現在の実行区間が第一区間D1の場合、第一区間D1のフーリエ級数に基づくノイズ除去後の検出信号を第一信号として記憶部に記憶させる。
【0051】
例えば、
図3(A)に示す検出信号において、実行区間を第一区間D1として上述のステップS10~S60までの処理を実行した場合、
図4(A)に示す第一信号が生成される。そして、この第一信号は、ステップS70の処理において記憶部に記憶される。
【0052】
次に、フィルタ処理部312は、現在の実行区間が最終区間であるか否かを判断する(ステップS80)。本実施形態では、区間D1,D2,D3,D4の順に実行区間が設定される。例えば、現在の実行区間が第一区間D1の場合には、最終区間でないと判断される。また、現在の実行区間が第四区間D4の場合には、最終区間であると判断される。
【0053】
最終区間ではない場合(ステップS80:NO)、フィルタ処理部312は、次にノイズ除去するべき区間を実行区間として設定する(ステップS90)。例えば、現在の実行区間が第一区間D1の場合、第二区間D2が次の実行区間として設定される。その後、フィルタ処理部312は、ステップS10の処理に戻って、次の実行区間に関して上述した処理を行う。
【0054】
上述のS10~S90までの処理によって、第一信号~第四信号が生成される。例えば、
図3(A)に示す検出信号の場合、上述した
図4(A)に示す第一信号に加え、
図4(B)~
図4(D)に示す第二信号~第四信号が生成され、記憶部に記憶される。
【0055】
そして、ステップS80の処理において、現在の実行区間が最終区間であると判断した場合(テップS80:YES)、フィルタ処理部312は、第一信号~第四信号を平均した除去信号を生成する(ステップS100)。すなわち、第一信号~第四信号を平均した信号が、検出信号に含まれるノイズを除去した除去信号として生成される。例えば、
図3(B)は、
図4(A)~
図4(D)の第一信号~第四信号を平均した除去信号である。すなわち、
図3(A)に示す検出信号に対してフィルタ処理を実行することによって、
図3(B)に示す除去信号が生成される。そして、この除去信号を用いて、減衰解析部313によって継続時間τが算出される。
【0056】
また、例えば、
図5(A)に示すノイズ除去前の検出信号の場合には、上述のフィルタ処理を実行することで、
図6(A)~
図6(D)に示す第一信号~第四信号が生成される。そして、最終的に、
図5(B)に示す除去信号が生成される。
【0057】
次に、上述した
図3(A)に示す検出信号及び
図5(A)に示す検出信号のフィルタ処理を比較する。
図3(A)に示す検出信号の場合、
図4(B)及び
図4(D)から把握できるように、第二区間D2(90~290ms)及び第四区間D4(70~270ms)が、ノイズ除去の効果が高いと確認できる。一方、
図5(A)に示す検出信号の場合、
図6(C)から把握できるように、第三区間D3(80~280ms)がノイズ除去の効果が高いと確認できる。また、本実施形態のフィルタ処理後の
図3(B)及び
図5(B)に示すように1の区間をシフトさせた4区間での信号の平均値(除去信号)では、
図3(A)に示す検出信号及び
図5(A)に示す検出信号に対してほぼ同等のノイズ除去ができていることを確認できる。
【0058】
このように、フーリエ級数を計算する区間の選び方によって、ノイズ除去の割合は変わってしまう。しかし、肉厚測定は何回も実行され、各測定によって得られる検出信号は、全て同一の環境で測定されたものとはいえない。そのため、測定データ(検出信号)毎に、ノイズ除去の効果が高い(最適な)区間が異なる場合があり、一意に区間を決めることは難しい。しかし、本実施形態では、区間毎のフーリエ級数に基づいて検出信号のノイズが除去された信号(第一信号、第二信号等)が生成され、最終的に、これらの信号を平均した信号が、検出信号に含まれるノイズを除去した除去信号として生成される。したがって、複数の測定データ(検出信号)に対して同等のノイズ除去の精度を実現できる。
【0059】
なお、上述の実施形態では、フィルタ処理に用いる区間として4区間について説明したが、区間数は特にこれに限定されるものではない。複数の区間を用いる構成であれば、任意の区間数を採用可能である。
【0060】
上述の実施形態では、1区間あたりの期間は200msに設定されているが、特にこれに限定されるものではない。検出期間の一部の期間内であれば、任意の期間を採用可能である。
【0061】
上述の実施形態では、区間毎のシフト量(所定時間)を10msとしているが、特にこれに限定されるものではない。各区間の一部が重複する範囲でシフト量を設定すればよい。
【0062】
上述の実施形態の肉厚測定システムは、複数のパルス渦電流プローブ、ハブ端末及びサーバ装置4等を備える構成を説明したが、特にこれに限定されるものではない。肉厚測定システムにおける給電制御部、誘導起電力検出部及び測定制御部等の各部を設ける機器の振り分けは任意である。例えば、給電制御部、誘導起電力検出部及び測定制御部をハブ端末(第一装置)に設け、フィルタ処理部、減衰解析部、肉厚演算部及び測定回数分配部をサーバ装置に設けてもよい。また、給電制御部、誘導起電力検出部、測定制御部、フィルタ処理部、減衰解析部、肉厚演算部及び測定回数分配部を全て一台の装置に設けてもよい。また、例えば、パルス渦電流プローブを備える単一の肉厚測定装置に本発明を適用してもよい。この場合、肉厚測定装置は、1の被測定箇所を測定するので、測定回数分配部は設けなくてもよい。肉厚装置装置は、例えば、搭載したバッテリで駆動する。
【0063】
上述の実施形態では、パルス渦電流プローブとハブ端末とが有線接続され、ハブ端末3とサーバ装置とが無線通信可能に構成されていたが、特にこれに限定されるものではない。装置間の通信接続は、有線接続であっても無線接続であってもよい。例えば、パルス渦電流プローブとハブ端末との間で無線通信を可能にする無線通信モジュールを設けてもよい。この場合、パルス渦電流プローブに電力供給用のバッテリを搭載すればよい。
【0064】
上述の実施形態では、パルス渦電流プローブ等を有する肉厚測定システムを例として説明したが、上述の実施形態と同様の機能をコンピュータに実行させる肉厚測定プログラムでもありうる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
この発明は、誘導起電力の検出信号に含まれる周波数成分を持ったノイズを除去において、複数の測定データ(検出信号)に対して同等のノイズ除去の精度を実現させるのに有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 肉厚測定システム
2 パルス渦電流プローブ
3 ハブ端末
4 サーバ装置
21 送信コイル
22 受信コイル
232 誘導起電力検出部
312 フィルタ処理部
P 配管