(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】人工骨成形方法および人工骨成形キット
(51)【国際特許分類】
A61F 2/28 20060101AFI20240730BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240730BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20240730BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A61F2/28
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/14
(21)【出願番号】P 2020203744
(22)【出願日】2020-12-08
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】391036552
【氏名又は名称】株式会社ニッケン
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 岳明
(72)【発明者】
【氏名】上田 誠二
(72)【発明者】
【氏名】海老沼 隆
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/023462(WO,A1)
【文献】特表2007-530202(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0243458(US,A1)
【文献】特開昭58-177646(JP,A)
【文献】特開昭49-22460(JP,A)
【文献】特表2019-506217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/28
A61L 27/16
A61L 27/18
A61L 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭蓋骨から前記頭蓋骨の一部である骨片を欠損させることにより前記頭蓋骨に形成された開口を塞ぐ人工骨を成形する人工骨成形方法であって、
前記骨片の湾曲凸面に、可撓性を有する第1シートを密着させる第1密着工程と、
前記骨片に密着した前記第1シート上に、硬化後に型となる第1材料を、前記湾曲凸面の形状を前記第1材料に転写するように、前記第1シートに密着させて前記第1材料に湾曲凹面を形成する第1転写工程と、
硬化後の前記第1材料の前記湾曲凹面上に、可撓性を有する第2シートを密着させる第2密着工程と、
前記第1材料を型として、前記第1材料に密着した前記第2シート上に、硬化後に前記人工骨となる第2材料を、前記湾曲凹面の形状を前記第2材料に転写するように、前記第2シートに密着させる第2転写工程と、を有することを特徴とする人工骨成形方法。
【請求項2】
前記第1シートは、袋状をなし、
前記第1密着工程は、前記第1シート内の空気を吸引することにより行われる請求項1に記載の人工骨成形方法。
【請求項3】
前記第1密着工程では、前記骨片の前記湾曲凹面と前記第1シートとの間に、通気性を有するスペーサーを介挿した状態で吸引を行う請求項1または2に記載の人工骨成形方法。
【請求項4】
前記第2シートは、袋状をなし、
前記第2密着工程は、前記第2シート内の空気を吸引することにより行われる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の人工骨成形方法。
【請求項5】
前記第2シートを覆う袋状をなす第3シートを有し、
前記第1転写工程で形成された前記第1材料は、前記第2密着工程までは、前記第3シートに収容された前記第2シート内に収容される請求項4に記載の人工骨成形方法。
【請求項6】
頭蓋骨から前記頭蓋骨の一部である骨片を欠損させることにより前記頭蓋骨に形成された開口を塞ぐ人工骨を成形する人工骨成形キットであって、
前記骨片の湾曲凸面に密着させて用いられる第1シートと、
前記骨片に密着した前記第1シートを介して前記湾曲凸面が転写された型の湾曲凹面上に密着させて用いられる第2シートと、を備え、
前記第2シートは、前記型の前記湾曲凹面に密着した状態で、硬化後に前記人工骨となる第2材料を押し付けられるように用いられることを特徴とする人工骨成形キット。
【請求項7】
前記第1シートと前記骨片の前記湾曲凸面との間の空気、および、前記第2シートと前記型の前記湾曲凹面との間の空気を吸引する吸引具をさらに備える請求項6に記載の人工骨成形キット。
【請求項8】
通気性を有し、前記骨片の前記湾曲凹面と前記第1シートとの間に介挿された状態で用いられるスペーサーをさらに備える請求項6または7に記載の人工骨成形キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工骨成形方法および人工骨成形キットに関する。
【背景技術】
【0002】
脳神経外科手術においては、頭蓋骨に開口を形成し、この開口を介して、例えば、髄液の排出等の治療を行う開頭手術が知られている。開頭手術後は、頭蓋骨に形成した開口に、人工骨(頭蓋骨代替具)を埋設して開口を塞ぐ(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されている頭蓋骨代替具は、頭蓋骨の開口に合わせて形成された網状部と、網状部を頭蓋骨の開口の縁部に固定する固定部と、を有する。また、頭蓋骨代替具は、生体適合性を有し、かつ、十分な強度を有するという観点からチタンで構成されるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている頭蓋骨代替具は、製造するのに時間がかかるとともに、比較的高価なものである。
【0006】
本発明の目的は、容易に製造することができ、かつ、比較的安価に整美性の高い人工骨を製造することができる人工骨成形方法および人工骨成形キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記に記載の本発明により達成される。
(1) 頭蓋骨から前記頭蓋骨の一部である骨片を欠損させることにより前記頭蓋骨に形成された開口を塞ぐ人工骨を成形する人工骨成形方法であって、
前記骨片の湾曲凸面に、可撓性を有する第1シートを密着させる第1密着工程と、
前記骨片に密着した前記第1シート上に、硬化後に型となる第1材料を、前記湾曲凸面の形状を前記第1材料に転写するように、前記第1シートに密着させて前記第1材料に湾曲凹面を形成する第1転写工程と、
硬化後の前記第1材料の前記湾曲凹面上に、可撓性を有する第2シートを密着させる第2密着工程と、
前記第1材料を型として、前記第1材料に密着した前記第2シート上に、硬化後に前記人工骨となる第2材料を、前記湾曲凹面の形状を前記第2材料に転写するように前記第2シートに密着させる第2転写工程と、を有することを特徴とする人工骨成形方法。
【0008】
(2) 前記第1シートは、袋状をなし、
前記第1密着工程は、前記第1シート内の空気を吸引することにより行われる上記(1)に記載の人工骨成形方法。
【0009】
(3) 前記第1密着工程では、前記骨片の前記湾曲凹面と前記第1シートとの間に、通気性を有するスペーサーを介挿した状態で吸引を行う上記(1)または(2)に記載の人工骨成形方法。
【0010】
(4) 前記第2シートは、袋状をなし、
前記第2密着工程は、前記第2シート内の空気を吸引することにより行われる上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の人工骨成形方法。
【0011】
(5) 前記第2シートを覆う袋状をなす第3シートを有し、
前記第1転写工程で形成された前記第1材料は、前記第2密着工程までは、前記第3シートに収容された前記第2シート内に収容される上記(4)に記載の人工骨成形方法。
【0012】
(6) 頭蓋骨から前記頭蓋骨の一部である骨片を欠損させることにより前記頭蓋骨に形成された開口を塞ぐ人工骨を成形する人工骨成形キットであって、
前記骨片の湾曲凸面に密着させて用いられる第1シートと、
前記骨片に密着した前記第1シートを介して前記湾曲凸面が転写された型の湾曲凹面上に密着させて用いられる第2シートと、を備え、
前記第2シートは、前記型の前記湾曲凹面に密着した状態で、硬化後に前記人工骨となる第2材料を押し付けられるように用いられることを特徴とする人工骨成形キット。
【0013】
(7) 前記第1シートと前記骨片の前記湾曲凸面との間の空気、および、前記第2シートと前記型の前記湾曲凹面との間の空気を吸引する吸引具をさらに備える上記(6)に記載の人工骨成形キット。
【0014】
(8) 通気性を有し、前記骨片の前記湾曲凹面と前記第1シートとの間に介挿された状態で用いられるスペーサーをさらに備える上記(6)または(7)に記載の人工骨成形キット。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、容易かつ正確に人工骨を製造することができ、さらに、比較的安価に人工骨を製造することができる人工骨成形方法および人工骨成形キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の人工骨成形キットの実施形態にかかる斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す人工骨成形キットの使用方法(本発明の人工骨成形方法)の手順の一例を説明するための断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す人工骨成形キットの使用方法(本発明の人工骨成形方法)の手順の一例を説明するための断面図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す人工骨成形キットの使用方法(本発明の人工骨成形方法)の手順の一例を説明するための断面図である。
【
図5】
図5は、
図1に示す人工骨成形キットの使用方法(本発明の人工骨成形方法)の手順の一例を説明するための断面図である。
【
図6】
図6は、
図1に示す人工骨成形キットの使用方法(本発明の人工骨成形方法)の手順の一例を説明するための断面図である。
【
図7】
図7は、
図1に示す人工骨成形キットの使用方法(本発明の人工骨成形方法)の手順の一例を説明するための平面図である。
【
図8】
図8は、
図1に示す人工骨成形キットの使用方法(本発明の人工骨成形方法)の手順の一例を説明するための断面図である。
【
図9】
図9は、
図1に示す人工骨成形キットの使用方法(本発明の人工骨成形方法)の手順の一例を説明するための断面図である。
【
図10】
図10は、
図1に示す人工骨成形キットの使用方法(本発明の人工骨成形方法)の手順の一例を説明するための断面図である。
【
図11】
図11は、
図1に示す人工骨成形キットの使用方法(本発明の人工骨成形方法)の手順の一例を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の人工骨成形キットの実施形態にかかる斜視図である。
図2~
図6は、
図1に示す人工骨成形キットの使用方法(本発明の人工骨成形方法)の手順の一例を説明するための断面図である。
図7は、
図1に示す人工骨成形キットの使用方法(本発明の人工骨成形方法)の手順の一例を説明するための平面図である。
図8~
図11は、
図1に示す人工骨成形キットの使用方法(本発明の人工骨成形方法)の手順の一例を説明するための断面図である。
図12は、頭蓋骨を模式的に示した斜視図である。
【0018】
なお、以下の説明において、「上側」「下側」は、それぞれ図中における「上側」「下側」を意味し、同様に、「右側」「左側」は、それぞれ図中における「右側」「左側」を意味する。
【0019】
図1に示すように、人工骨成形キット1は、例えば、開頭手術において頭蓋骨に形成された開口を埋める人工骨を成形するための器具であり、第1袋11と、第2袋12と、第3袋13と、スペーサー14と、吸引キット15と、攪拌容器16と、型形成材料10Aと、型形成材料10Bと、人工骨形成材料10Cと、人工骨形成材料10Dと、を備える。そして、これらを用いて、本発明の人工骨成形方法を実行することができる。
【0020】
人工骨成形方法は、人工骨を成形するための型を成形する型成形工程と、型成形工程で成形した型を用いて人工骨を成形する人工骨成形工程と、を有する。型成形工程では、第1袋11と、スペーサー14と、吸引キット15と、型形成材料10Aと、型形成材料10Bと、が使用される。一方、人工骨成形工程では、第2袋12と、第3袋13と、吸引キット15と、攪拌容器16と、人工骨形成材料10Cと、人工骨形成材料10Dと、が使用される。
【0021】
まず、人工骨成形キット1の各要素について説明する。
(第1袋11)
第1袋11は、
図1に示すように、骨片100が挿入される袋であり、2枚のシート11A(第1シート)で構成され、これらが重ねられた状態で縁部が接合されて袋状に形成されたものである。接合方法としては、特に限定されず、接着、融着、圧着等が挙げられる。また、シート11Aは、3辺が接合されており、接合されていない辺に対応する部分が、骨片100を挿入する挿入口111として機能する。なお、この構成に限定されず、例えば、筒状のシート11Aの一方の開口側を接合して塞ぐことにより形成されたものであってもよい。
【0022】
骨片100は、
図2、
図3、
図12に示すように、一方が湾曲凸面100A、他方が湾曲凹面100Bで構成される板状をなしている。この骨片100は、例えば、頭蓋骨に開口を形成するにあたって頭蓋骨を欠損させた欠損片である。
【0023】
また、挿入口111には、内部を気密的に密閉する密閉手段112が設けられている。密閉手段112は、例えば、ジップロック(登録商標)等が挙げられる。この密閉手段112により、第1袋11に骨片100を挿入し、収納した状態を維持することができる(
図1参照)。
【0024】
なお、密閉手段112に関しては、特に限定されず、例えば、2本の長尺体により挟持して密閉するグリップであってもよく、挿入口111付近のシート11A同士を、再度破断可能に融着を行うことにより形成された融着部であってもよい。グリップの場合、2本の長尺体の間に挿入口111付近のシート11Aを挟持し、その状態を保持する構成であれば特に限定されず、例えば、マグネットにより保持する構成や、嵌合により保持する構成や、圧着により保持する構成であってもよい。
【0025】
また、第1袋11には、吸引孔113が設けられている。吸引孔113は、貫通孔で構成され、図示しない自己封止弁が設けられている。吸引孔113には、吸引キット15が接続され、吸引キット15が吸引を行うと、吸引孔113を介して第1袋11内の空気が排出され、第1袋11内を減圧することができる。また、吸引キット15を外すと、自己封止弁の作用により、第1袋11内の減圧状態が維持される。
【0026】
シート11Aの構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)のようなポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、軟質ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、シリコーン、ポリウレタン、ポリアミドエラストマー等の各種熱融着性エラストマーあるいはこれらを任意に組み合わせたもの(ブレンド樹脂、ポリマーアロイ等)が挙げられる。
【0027】
また、シート11Aは、光透過性を有することが好ましい。これにより、骨片100を挿入する操作や、骨片100とスペーサー14との位置合わせ等の操作を容易かつ正確に行うことができる。
【0028】
(スペーサー14)
スペーサー14は、可撓性を有するメッシュシートにより構成される。スペーサー14は、第1袋11内で、かつ、シート11Aと骨片100の湾曲凹面100Bとの間に介挿されて用いられる。第1袋11内に骨片100を挿入した状態で内部を吸引する際、スペーサー14がシート11Aの過剰な変形を防ぎつつ、スペーサー14自体がシート11Aの変形に合わせて安定的に変形する。これにより、シート11Aを安定して変形させて骨片100の湾曲凹面100Bに効果的に密着させることができる。さらに、
図3に示すように、吸引を行った際、骨片100の側面100C(湾曲凸面100Aおよび湾曲凹面100Bの間の面)にシート11Aを側面100Cの形状に追従して密着させることができる。
【0029】
また、スペーサー14は、円形の本体141と、平面視において、円形の本体141から突出して設けられた把持部142と、を有する。把持部142を有することにより、スペーサー14を第1袋11内に挿入する際、その操作性を高めることができる。ただし、スペーサー14の平面での形状は特に限定されず、例えば、三角形、四角形、それ以上の多角形、楕円形等、如何なる形状であってもよい。
【0030】
また、本体141は、平面視で、骨片100を十分に包含する大きさを有することが好ましい。これにより、第1袋11内の吸引を行った際、骨片100の側面100Cの全周にわたって、シート11Aを側面100Cの形状に追従して密着させることができる。
。
【0031】
また、スペーサー14は、可撓性を有していることが好ましい。これにより、第1袋11内の吸引を行ってスペーサー14が変形する際、より柔軟に変形して湾曲凹面100Bに効果的に追従することができる。
【0032】
スペーサー14の構成材料としては、天然ゴム、シリコーンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレン等が挙げられる。
【0033】
(第2袋12)
第2袋12は、
図8に示すように、後述する型200が挿入される袋であり、シート12A(第2シート)により構成される。第2袋12は、挿入口121と、密閉手段122と、吸引孔123と、切り取り部分124と、を有する。第2袋12の構成は、第1袋11と略同様の構成であるため、相違点のみを説明する。
【0034】
切り取り部分124は、第2袋12を第3袋13に挿入した状態において、第3袋13から外側に露出する部分である。切り取り部分124を有することにより、第2袋12に型200を挿入する際に、その操作を容易かつ迅速に行うことができる。さらに、滅菌状態ではない型200が、第3袋13の内側や、第2袋12の外側のうち、第3袋13内に位置する部分等と接触してしまうのを防止することができる。
【0035】
そして、第2袋12に対して型200の挿入が完了すると、切り取り部分124は、
図1中破線で示す切り取り位置125で離脱され、破棄される。なお、切り取り位置125には、例えば、ミシン目、薄肉部等の易判断部が形成されていることが好ましい。
【0036】
なお、上記では、切り取り部分124が第2袋12の一部である場合について説明したが、切り取り部分124が予め別体で構成されていてもよい。
【0037】
このような第2袋12の構成材料としては、特に限定されず、例えば、第1袋11の構成材料として列挙した材料を用いることができる。ただし、第1袋11および第2袋12の構成材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、第1袋11は、伸縮性を有する材料で構成されているのが好ましく、第2袋12は、生体適合性に優れる材料で構成されているのが好ましい。
【0038】
(第3袋13)
第3袋13は、
図1および
図7に示すように、第2袋12が挿入される袋であり、シート13A(第3シート)により構成される。第3袋13は、挿入口131と、密閉手段132と、を有する。すなわち、第3袋13は、吸引孔113が省略されていること、および、寸法が異なること以外は、第1袋11と略同様の構成であることとして説明する。
【0039】
(吸引キット15)
吸引キット15(吸引具)は、吸引器151と、可撓性を有するチューブ152と、を有する。吸引器151は、吸引口153を有し、チューブ152が接続される。吸引器151は、図示しないモーターが内蔵され、モーターの作動により減圧状態を作ることができ、吸引口153から空気を吸引することができる。なお、モーターの作動のON/OFFの制御は、図示しない電源スイッチを操作することによりなされる。
【0040】
吸引キット15は、後述する第1密着工程および第2密着工程で用いられる。第1密着工程では、シート11Aと骨片100の湾曲凸面100Aとの間の空気を吸引する。第2密着工程では、シート12Aと型200の湾曲凹面200Bとの間の空気を吸引する。
【0041】
また、チューブ152は、一端部が吸引器151の吸引口153に接続され、他端が第2密着工程において第2袋12の吸引孔123に接続される。
【0042】
なお、吸引器151は、上記構成に限定されず、例えば、シリンジの押し子を手動で操作することにより吸引を行う構成であってもよい。
また、チューブ152を省略してもよい。すなわち、チューブ152は、人工骨成形キット1の構成要件でなくてもよい。チューブ152が省略されている場合、吸引器151の吸引口153が、吸引孔113または吸引孔123に直接接続される。
【0043】
(攪拌容器16)
攪拌容器16は、後述する人工骨形成材料10Cおよび人工骨形成材料10Dを混合する際に使用される。この攪拌容器16は、滅菌処理が行われたものであるのが好ましい。
【0044】
滅菌処理としては、特に限定されず、例えば、高温高圧の水蒸気による水蒸気滅菌(高圧蒸気滅菌)や、EOG(エチレンオキサイドガス)、過酸化水素系消毒液を用いた滅菌等が挙げられる。
【0045】
なお、攪拌容器16は、人工骨成形キット1の構成要件でなくてもよい。この場合、人工骨成形キット1の使用者が別の容器を用意する。
【0046】
(型形成材料10Aおよび型形成材料10B)
型形成材料10Aおよび型形成材料10Bは、混合し、硬化させることにより、型200となる第1材料である。型形成材料10Bは、硬化促進材として機能する。型形成材料10Aとしては、各種シリコン等を用いることができ、型形成材料10Bとしては、各種硬化促進剤等を用いることができる。また、型形成材料10Aおよび型形成材料10Bの形態は、特に限定されず、液状、粉末状、ペースト状等、如何なる形態であってもよい。なお、型形成材料10Aおよび型形成材料10Bとしては、上記に限定されず、石膏を構成する材料、各種樹脂材料を構成する材料であってもよい。
【0047】
(人工骨形成材料10Cおよび人工骨形成材料10D)
人工骨形成材料10Cおよび人工骨形成材料10Dは、混合し、硬化させることにより、人工骨300となる第2材料である。人工骨形成材料10Cは、粉末であり、人工骨形成材料10Dは、液状をなしている。これらを混合することにより、重合反応が起こり、樹脂(レジン)を形成する。そして、混合を始めてから徐々に硬化し始め、数分(例えば、2分~10分程度)で硬化が完了する。
【0048】
人工骨形成材料10Cとしては、特に限定されず、例えば、ポリメチルメタクリレートを主成分とする粉末を用いることができる。人工骨形成材料10Dとしては、特に限定されず、例えば、メタクリル酸メチルを主成分とする液体を用いることができる。
【0049】
次に、本発明の人工骨成形方法について、
図2~
図12を参照しつつ説明する。
まず、本発明の人工骨成形方法を行うのに先立って、開頭手術を行う。この開頭手術としては、外傷性頭蓋内血腫(硬膜外血腫・硬膜下血腫・脳内血腫)に対する血腫除去術、脳内血腫に対する血腫除去術、脳動脈瘤に対する動脈瘤頚部クリッピング手術、もやもや病や主幹動脈閉塞症に対するバイパス手術、脳腫瘍に対する腫瘍摘出術、脳ヘルニアに対する減圧開頭手術、神経血管圧迫症候群(三叉神経痛・顔面けいれん)に対する微小血管減圧術等が挙げられる。これらの開頭手術の際に、頭蓋骨にその一部を欠損させて開口を形成した際に生じた骨片100を採取する。
【0050】
本発明の人工骨成形方法は、第1密着工程と、第1転写工程と、保管工程と、第2密着工程と、第2転写工程と、を有する。
【0051】
[第1密着工程]
図2および
図3に示すように、第1密着工程は、骨片100の湾曲凸面100Aに、可撓性を有するシート11Aを密着させる工程である。
【0052】
まず、
図2に示すように、第1袋11内に骨片100およびスペーサー14を挿入する。この際、骨片100の湾曲凹面100B側にスペーサー14を配置する。そして、吸引キット15を用いて第1袋11内の空気を吸引する。すなわち、吸引キット15のチューブ152を第1袋11の吸引孔113に接続し、吸引器151を作動させる。これにより、
図3に示すように、第1袋11のシート11Aが、骨片100の湾曲凸面100Aの湾曲形状に倣って追従し、シート11Aを湾曲凸面100Aに密着させることができる。
【0053】
また、この際、スペーサー14がシート11Aの過剰な変形を防ぎつつ、スペーサー14自体がシート11Aの変形に合わせて安定的に変形する。これにより、シート11Aを安定して変形させて骨片100の湾曲凹面100Bに効果的に密着させることができる。さらに、
図3に示すように、吸引を行った際、骨片100の側面100C(湾曲凸面100Aおよび湾曲凹面100Bの間の面)に、シート11Aを側面100Cの形状に追従して密着させることができる。
【0054】
[第1転写工程]
図4に示すように、第1転写工程は、硬化後に型200となる型形成材料10Aおよび型形成材料10Bの混合物M1を、骨片100の湾曲凸面100Aに密着したシート11A上に形成する工程である。
【0055】
まず、型形成材料10Aおよび型形成材料10Bを所望の混合比となるように混合して混合物M1を得る。次いで、
図4に示すように、混合物M1を練り、混合物M1を骨片100の湾曲凸面100Aに密着したシート11Aに対して万遍なく広げて押しつける。この際、骨片100の側面100Cにも万遍なく押し付ける。
【0056】
この際の混合物M1の厚さは、特に限定されないが、5mm以上20mm以下程度であるのが好ましい。
【0057】
そして、
図5に示すように、混合物M1をシート11Aから離脱させ、その後、硬化させる。これにより、骨片100の湾曲凸面100Aの形状が転写された型200を得ることができる。
【0058】
より詳細には、得られた型200は、
図5に示すように、湾曲凸面100Aの形状が転写された湾曲凹面200Bと、骨片100の側面100Cの形状が転写された側面200Cと、を有する。
【0059】
なお、
図4に示す状態において混合物M1を硬化させてから型200をシート11Aから離脱させてもよい。
【0060】
[保管工程]
次いで、
図6および
図7に示すように、型200を第2袋12に挿入して保管する。
なお、型200を第2袋12に挿入する以前に、第2袋12および第3袋13を滅菌状態としておく。滅菌状態とする処理としては、特に限定されないが、上述したような、攪拌容器16の滅菌処理で列挙したような方法が挙げられる。
【0061】
第2袋12は、第3袋13内に挿入されており、第2袋12の切り取り部分124が第3袋13から露出した状態となっている。型200を第2袋12に挿入する際、第2袋12には、切り取り部分124が設けられているため、挿入操作を容易かつ迅速に行うことができる。さらに、この挿入操作の際、使用者は、主に、切り取り部分124を把持して挿入操作を行うことができるため、第2袋12および第3袋13の滅菌状態を効果的に維持することができる。
【0062】
上記のように保管した状態は、開頭手術を行ってから、人工骨300を埋め込む手術を行う当日まで維持される。また、以下の工程は、滅菌環境下で行われる。
【0063】
[第2密着工程]
第2密着工程は、手術の直前に行われる。まず、
図7に示す状態において、第3袋13から第2袋12を取り出して、
図8に示す状態とする。次いで、
図9に示すように、吸引キット15を用いて第2袋12内の空気を吸引する。すなわち、吸引キット15のチューブ152を第2袋12の吸引孔123に接続し、吸引器151を作動させる。これにより、
図9に示すように、第2袋12のシート12Aが、型200の湾曲凹面200Bの湾曲形状に追従し、シート12Aを湾曲凹面200Bに密着させることができる。
【0064】
[第2転写工程]
図10に示すように、第2転写工程は、型200を用いて、硬化後に人工骨300となる人工骨形成材料10Cおよび人工骨形成材料10Dの混合物M2を、型200の湾曲凹面200Bに密着したシート12A上に形成する工程である。
【0065】
まず、人工骨形成材料10Cおよび人工骨形成材料10Dを所望の混合比となるように攪拌容器16内で混合して混合物M2を得る。
【0066】
次いで、混合物M2を練り、
図10に示すように、混合物M2を型200の湾曲凹面200Bに密着したシート12Aに対して万遍なく広げて押しつける。この際、型200の側面200Cにも万遍なく押し付ける。
【0067】
この際の混合物M2の厚さは、特に限定されないが、2mm以上10mm以下程度であるのが好ましい。
【0068】
そして、
図11に示すように、混合物M2の構成材料にもよるが、混合物M2の温度によっては、混合物M2が常温になるまで冷却された後にシート12Aから離脱させ、その後、硬化させる。これにより、型200の湾曲凹面200Bの形状が転写された人工骨300を得ることができる。
【0069】
なお、
図10に示す状態において混合物M2を硬化させてから人工骨300をシート12Aから離脱させてもよい。
【0070】
そして、
図12に示すように、頭蓋骨に形成された開口を塞ぐように人工骨300を頭部に埋設する手技を実行することによって、欠損させたことが一目でわからない程度に頭蓋骨を修復させることができる。
【0071】
このように、本発明の人工骨成形方法は、頭蓋骨から頭蓋骨の一部である骨片100を欠損させることにより頭蓋骨に形成された開口を塞ぐ人工骨を成形する人工骨成形方法であって、骨片100の湾曲凸面100Aに、可撓性を有するシート11A(第1シート)を密着させる第1密着工程と、骨片100に密着したシート11A上に、硬化後に型200となる型形成材料10Aおよび型形成材料10B(第1材料)を、湾曲凸面100Aの形状を型形成材料10Aおよび型形成材料10Bの混合物M1に転写するように、シート11Aに密着させて混合物M1に湾曲凹面200Bを形成する第1転写工程と、硬化後の混合物M1、すなわち、型200の湾曲凹面200B上に、可撓性を有する第2シート(シート12A)を密着させる第2密着工程と、型200を型として、型200に密着したシート12A上に、硬化後に人工骨300となる第2材料(人工骨形成材料10Cおよび人工骨形成材料10D)を、湾曲凹面200Bの形状を人工骨形成材料10Cおよび人工骨形成材料10Dの混合物M2に転写するようにシート12Aに密着させる第2転写工程と、を有する。型200の湾曲凹面200Bは、骨片100の湾曲凸面100Aが転写された形状であるため、このような方法で得られた人工骨300は、骨片100の形状の再現性が高く、人工骨300を正確に製造することができる。また、従来のようなチタン製の人工骨は、比較的高価であり、また、骨片に対する人工骨の再現性を高めるのには熟練の技が必要である。これに対し、本発明では、比較的安価な混合物M2を型200に対して万遍なく押し広げるという簡単な方法によって人工骨300を製造することができる。また、混合物M2を押し広げる際、外表面の形状を所望の形状にしやすいため、見た目が美しい人工骨300を得ることができる、すなわち、整美性が高い人工骨300を得ることができる。以上より、本発明によれば、容易かつ正確に人工骨300を製造することができ、さらに、比較的安価に整美性の高い人工骨300を製造することができる。
【0072】
また、シート11A(第1シート)は、袋状をなし、第1密着工程は、シート11A内の空気を吸引することにより行われる。これにより、第1密着工程において、骨片100の湾曲凸面100Aにシート11Aをより効果的に密着させることができる。
【0073】
また、第1密着工程では、骨片100の湾曲凹面100Bとシート11A(第1シート)との間に、通気性を有するスペーサー14を介挿した状態で吸引を行う。これにより、シート11Aを安定して変形させて骨片100の湾曲凹面100Bに効果的に密着させることができる。さらに、
図3に示すように、吸引を行った際、骨片100の側面100C(湾曲凸面100Aおよび湾曲凹面100Bの間の面)に、シート11Aを側面100Cの形状に追従して密着させることができる。
【0074】
また、シート12A(第2シート)は、袋状をなし、第2密着工程は、シート12A内の空気を吸引することにより行われる。これにより、第2密着工程において、型200の湾曲凹面200Bにシート12Aをより効果的に密着させることができる。
【0075】
また、シート12A(第2シート)を覆う袋状をなす第3シートを有し、第1転写工程で形成された型200は、第2密着工程までは、シート13A(第3シート)に収容されたシート12A(第2シート)内に収容される。これにより、型200に密着したシート12Aの無菌状態を効果的に維持することができる。
【0076】
また、本発明の人工骨成形キット1は、頭蓋骨から頭蓋骨の一部である骨片100を欠損させることにより頭蓋骨に形成された開口を塞ぐ人工骨を成形するものであって、骨片100の湾曲凸面100Aに密着させて用いられるシート11A(第1シート)と、骨片100に密着したシート11Aを介して湾曲凸面100Aが転写された型200の湾曲凹面200B上に密着させて用いられるシート12A(第2シート)と、を備える。また、シート12Aは、型200の湾曲凹面200Bに密着した状態で、硬化後に人工骨300となる人工骨形成材料10Cおよび人工骨形成材料10Dの混合物M2(第2材料)を押し付けられるように用いられる。これにより、前述したように、容易かつ正確に人工骨300を製造することができ、さらに、比較的安価に人工骨300を製造することができる。
【0077】
また、前述したように、人工骨成形キット1は、シート11A(第1シート)と骨片100の湾曲凸面100Aとの間の空気、および、シート12A(第2シート)と型200の湾曲凹面200Bとの間の空気を吸引する吸引具である吸引キット15をさらに備える。これにより、第1密着工程において、骨片100の湾曲凸面100Aにシート11Aをより効果的に密着させることができるとともに、第2密着工程において、型200の湾曲凹面200Bにシート12Aをより効果的に密着させることができる。
【0078】
また、前述したように、人工骨成形キット1は、通気性を有し、骨片100の湾曲凹面100Bとシート11A(第1シート)との間に介挿された状態で用いられるスペーサー14をさらに備える。これにより、シート11Aを安定して変形させて骨片100の湾曲凹面100Bに効果的に密着させることができる。さらに、
図3に示すように、吸引を行った際、骨片100の側面100C(湾曲凸面100Aおよび湾曲凹面100Bの間の面)に、シート11Aを側面100Cの形状に追従して密着させることができる。
【0079】
以上、本発明の人工骨成形方法および人工骨成形キットを図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、人工骨成形方法および人工骨成形キットを構成する各部、工程は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のもの、工程と置換することができる。また、任意の構成物、工程が付加されていてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 人工骨成形キット
10A 型形成材料
10B 型形成材料
10C 人工骨形成材料
10D 人工骨形成材料
11 第1袋
11A シート
12 第2袋
12A シート
13 第3袋
13A シート
14 スペーサー
15 吸引キット
16 攪拌容器
100 骨片
100A 湾曲凸面
100B 湾曲凹面
100C 側面
111 挿入口
112 密閉手段
113 吸引孔
121 挿入口
122 密閉手段
123 吸引孔
124 切り取り部分
125 切り取り位置
131 挿入口
132 密閉手段
141 本体
142 把持部
151 吸引器
152 チューブ
153 吸引口
200 型
200A 湾曲凸面
200B 湾曲凹面
200C 側面
300 人工骨
M1 混合物
M2 混合物