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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ワーク保持治具及び表面処理装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/08 20060101AFI20240730BHJP
   C25D 17/00 20060101ALI20240730BHJP
   C25D 17/06 20060101ALI20240730BHJP
   C25D 21/00 20060101ALI20240730BHJP
   C25D 21/12 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C25D17/08 R
C25D17/00 G
C25D17/06 H
C25D17/08 J
C25D21/00 E
C25D21/12 L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021128254
(22)【出願日】2021-08-04
(65)【公開番号】P2023023068
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2024-04-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507264549
【氏名又は名称】株式会社アルメックステクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(72)【発明者】
【氏名】石井 勝己
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/140857(WO,A1)
【文献】特開2013-194309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D17/00-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理液に浸漬される矩形のワークを、前記ワークの表面及び裏面を垂直にして保持する保持部と、
前記ワークを陰極に設定するための互いに絶縁された2つの被給電部と、
前記2つの被給電部と前記保持部との間を導通させ、かつ、互いに絶縁される2つの導通部と、
を有し、
前記保持部は、上枠と、下枠と、2つの縦枠と、を含み、
前記上枠と前記下枠と前記2つの縦枠との各々が、前記ワークの一辺と平行に延び、互いに絶縁された導電性の2つのプレートを含み、計8つのプレートで前記保持部が形成され、
前記2つの縦枠の各々に設けられた前記2つのプレートの一方は、前記上枠に絶縁部材を介して支持され、かつ、各下端が前記下枠に設けられた前記2つのプレートの一方の両端部に連結され、
前記2つの縦枠の各々に設けられた前記2つのプレートの他方は、前記上枠に絶縁部材を介して支持され、かつ、各下端が前記下枠に設けられた前記2つのプレートの他方の両端部に連結され、
前記上枠と前記下枠との各々に、前記ワークを挟んで保持するクランパーが設けられ、
前記クランパーは、前記ワークの前記表面と接触する導電性の第1クランプ片と、前記ワークの前記裏面と接触する導電性の第2クランプ片と、を含み、
前記第1クランプ片は、前記2つの被給電部、前記2つの導通部及び前記2つのプレートの各一方と導通され、
前記第2クランプ片は、前記2つの被給電部、前記2つの導通部及び前記2つのプレートの各他方と導通される、ワーク保持治具。
【請求項2】
請求項1において、
前記2つの導通部は、第1~第8導通部を含み
前記第1導通部は、前記2つの被給電部の一方と、前記上枠に設けられた前記2つのプレートの一方の一端との間を導通させ、
前記第2導通部は、前記2つの被給電部の一方と、前記上枠に設けられた前記2つのプレートの一方の他端との間を導通させ、
前記第3導通部は、前記2つの被給電部の他方と、前記上枠に設けられた前記2つのプレートの他方の一端との間を導通させ、
前記第4導通部は、前記2つの被給電部の他方と、前記上枠に設けられた前記2つのプレートの他方の他端との間を導通させ、
前記第5導通部は、前記2つの被給電部の一方と、前記2つの縦枠の一方に設けられた前記2つのプレートの一方との間を導通させ、
前記第6導通部は、前記2つの被給電部の一方と、前記2つの縦枠の他方に設けられた前記2つのプレートの一方との間を導通させ、
前記第7導通部は、前記2つの被給電部の他方と、前記2つの縦枠の一方に設けられた前記2つのプレートの他方との間を導通させ、
前記第8導通部は、前記2つの被給電部の他方と、前記2つの縦枠の他方に設けられた前記2つのプレートの他方との間を導通させる、ワーク保持治具。
【請求項3】
請求項2において、
前記第1~第4導通部の各々は、前記第5~第8導通部の各々よりも電気抵抗が大きい、ワーク保持治具。
【請求項4】
処理液中に矩形のワークが浸漬される処理槽と、
前記ワークの表面と対面する第1陽極と、前記ワークの裏面と対面する第2陽極と、を含み、前記処理槽に配置される陽極と、
互いに絶縁されて平行に配置される8列の給電レールと、
前記8列の給電レールのうちの4つの給電レールと前記第1陽極との間にそれぞれ接続される4個の整流器と、前記8列の給電レールのうちの他の4つの給電レールと前記第2陽極との間にそれぞれ接続される他の4個の整流器と、を含む計8個の整流器と、
前記ワークをそれぞれ保持して、前記8列の給電レールの各2つとそれぞれ電気的に接続される、移動可能な4つのワーク保持治具と、
を含み、
前記4つのワーク保持治具の各々は、請求項1~3のいずれか一項に記載されたワーク保持治具である、表面処理装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記4つの整流器は、前記8列の給電レールのうち奇数列目の前記4つの給電レールそれぞれと接続され、
前記他の4つの整流器は、前記8列の給電レールのうち偶数列目の前記他の4つの給電レールとそれぞれ接続される、表面処理装置。
【請求項6】
請求項4において、
前記4つの整流器は、前記8列の給電レールのうち互いに隣り合う第1~4列目の前記4つの給電レールとそれぞれ接続され、
前記他の4つの整流器は、前記8列の給電レールのうち互いに隣り合う第5~8列目の前記他の4つの給電レールとそれぞれ接続される、表面処理装置。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一項において、
前記4つのワーク保持治具の各々は、
前記2つの被給電部の一方を支持する第1支持アームと、
前記2つの被給電部の他方を支持する第2支持アームと、
前記第1及び第2支持アームが固定される水平アーム部と、
をさらに有し、
前記第1及び第2支持アームが前記水平アーム部に固定される各位置が、前記8列の給電レールが延びる方向に対して直交する方向で、前記8列の給電レールの前記各2つの位置に合わせて、調整可能である、表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク保持治具及び表面処理装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、N(Nは複数)個の被給電部と、互いに絶縁されるN個の導通経路とを含むワーク保持治具を提案している(特許文献1)。互いに絶縁されるN個の導通経路は、ワークを含む異なるN個の陰極設定部位に導通されるものであり、その一態様として、ワークの表裏(2個の陰極設定部位)を例示している。本発明者はさらに、このワーク保持治具を含む表面処理装置も提案している(特許文献2)。
【0003】
一方、本願出願人は、一つの表面処理槽の処理液に同時に浸漬可能な最大5つのワークを保持する5つのワーク保持治具に、それぞれ異なる整流器(図1では5個の整流器、図7ではワークの表裏で各5個、計10個の整流器)に接続される5列の給電レールと接触して給電する表面処理装置を提案している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6820626号公報
【文献】特許第6744646号公報
【文献】特許第5457010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1~3には、ワークの表裏に導通する互いに絶縁された2つの導通経路を有するワーク保持治具及びそれを用いる表面処理装置の具体的構造は開示されていない。
【0006】
本発明の目的は、ワーク保持治具に必須な保持部の構造を利用して、ワークの表裏に低抵抗で接続され、かつ、互いに絶縁される導通経路を有するワーク保持治具及びそれを用いた表面処理装置を提供することである。
本発明の他の目的は、ワークの表裏面への電流量を個別に調整しながらも、スループットを維持しながら過度な大型化を避けることができる表面処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様は、
処理液に浸漬される矩形のワークを、前記ワークの表面及び裏面を垂直にして保持する保持部と、
前記ワークを陰極に設定するための互いに絶縁された2つの被給電部と、
前記2つの被給電部と前記保持部との間を導通させ、かつ、互いに絶縁される2つの導通部と、
を有し、
前記保持部は、
前記ワークの一辺と平行に延び、互いに絶縁された導電性の2つのプレートと、
前記ワークの前記表面と接触する導電性の第1クランプ片と、前記ワークの前記裏面と接触する導電性の第2クランプ片と、を含み、前記ワークを挟んで保持するクランパーと、
を含み、
前記第1クランプ片は、前記2つの被給電部、前記2つの導通部及び前記2つのプレートの各一方と導通され、
前記第2クランプ片は、前記2つの被給電部、前記2つの導通部及び前記2つのプレートの各他方と導通される、ワーク保持治具に関する。
【0008】
本発明の一態様によれば、ワーク保持治具に必須な構造である保持部が、導電性の2つのプレートと、導電性の第1、第2クランプ片を含むクランパーとを含む。2つの被給電部、2つの導通部及び2つのプレートの各一方は、クランパーの第1クランプ片を介してワークの表面と導通する。2つの被給電部、2つの導通部及び2つのプレートの各他方は、クランパーの第2クランプ片を介してワークの裏面と導通する。こうして、ワーク保持治具に必要な構造を利用して、ワークの表裏に低抵抗で接続され、かつ、互いに絶縁される導通経路を有するワーク保持治具が提供される。
【0009】
(2)本発明の一態様(1)では、前記保持部は、上枠と、下枠と、2つの縦枠と、を含むことができる。この場合、前記上枠と前記下枠と前記2つの縦枠との各々が前記2つのプレートを含み、計8つのプレートが設けられる。前記上枠と前記下枠との各々に、前記クランパーが設けられる。前記2つの縦枠の各々に設けられた前記2つのプレートの一方は、前記下枠に設けられた前記2つのプレートの一方と導通され、前記2つの縦枠の各々に設けられた前記2つのプレートの他方は、前記下枠に設けられた前記2つのプレートの他方と導通される。2つの被給電部、2つの導通部及び上枠の2つのプレートの各一方は、上枠に設けられた第1チェック片を介してワークの表面と導通する。2つの被給電部、2つの導通部及び上枠に設けられた2つのプレートの各他方は、上枠に設けられた第2チェック片を介してワークの裏面と導通する。2つの被給電部と、2つの導通部と、2つの縦枠及び下枠の各2つのプレートと、の各一方は、下枠に設けられた第1チェック片を介してワークの表面と導通する。2つの被給電部と、2つの導通部と、2つの縦枠及び下枠の各に設けられた2つのプレートと、の各他方は、下枠に設けられた第2チェック片を介してワークの裏面と導通する。こうして、上枠、下枠、2つの縦枠というワーク保持治具に必要な構造を利用して、ワークの表裏に低抵抗で接続され、かつ、互いに絶縁される導通経路を設けることができる。
【0010】
(3)本発明の一態様(2)では、前記2つの縦枠は、前記上枠に絶縁部材を介して支持されても良く、前記上枠に設けられた前記2つのプレートの一方は、前記2つの縦枠の各々に設けられた前記2つのプレートと絶縁され、前記上枠に設けられた前記2つのプレートの他方は、前記2つの縦枠の各々に設けられた前記2つのプレートと絶縁される。こうして、保持部の中では、上枠を経由してワークの表裏面に導通させる一の導電経路と、2つの縦枠及び下枠を経由してワークの表裏面に導通させる他の導電経路とを、互いに電気的に絶縁することができる。
【0011】
(4)本発明の一態様(3)では、前記2つの導通部は、第1~第8導通部を含んでも良い。この場合、前記第1導通部は、前記2つの被給電部の一方と、前記上枠に設けられた前記2つのプレートの一方の一端との間を導通させ、前記第2導通部は、前記2つの被給電部の一方と、前記上枠に設けられた前記2つのプレートの一方の他端との間を導通させ、前記第3導通部は、前記2つの被給電部の他方と、前記上枠に設けられた前記2つのプレートの他方の一端との間を導通させ、前記第4導通部は、前記2つの被給電部の他方と、前記上枠に設けられた前記2つのプレートの他方の他端との間を導通させ、前記第5導通部は、前記2つの被給電部の一方と、前記2つの縦枠の一方に設けられた前記2つのプレートの一方との間を導通させ、前記第6導通部は、前記2つの被給電部の一方と、前記2つの縦枠の他方に設けられた前記2つのプレートの一方との間を導通させ、前記第7導通部は、前記2つの被給電部の他方と、前記2つの縦枠の一方に設けられた前記2つのプレートの他方との間を導通させ、前記第8導通部は、前記2つの被給電部の他方と、前記2つの縦枠の他方に設けられた前記2つのプレートの他方との間を導通させる。こうして、2つの被給電部と、上枠に設けられた2つのプレートの両端(計4つの端部)とを、第1~第4導通部によって電気的に接続することができる。また、2つの被給電部と、2つの縦枠に設けられた各2つのプレートの各一端(計4つの他の端部)とを、第5~第8導通部によって電気的に接続することができる。
【0012】
(5)本発明の一態様(4)では、前記第1~第4導通部の各々は、前記第5~第8導通部の各々よりも電気抵抗を大きくすることができる。こうすると、第1~第4導通部から上枠を経由してワークの表裏面に導通させる経路の電気抵抗と、第5~第8導通部から2つの縦枠及び下枠を経由してワークの表裏面に導通させる経路の電気抵抗とを、ほぼ等しく設定することが可能となる。
【0013】
(6)本発明の他の態様は、
処理液中に矩形のワークが浸漬される処理槽と、
前記ワークの表面と対面する第1陽極と、前記ワークの裏面と対面する第2陽極と、を含み、前記処理槽に配置される陽極と、
互いに絶縁される8列の給電レールと、
前記8列の給電レールのうちの4つの給電レールと前記第1陽極との間にそれぞれ接続される4個の整流器と、前記8列の給電レールのうちの他の4つの給電レールと前記第2陽極との間にそれぞれ接続される他の4個の整流器と、を含む計8個の整流器と、
前記ワークをそれぞれ保持して、前記8列の給電レールの各2つとそれぞれ電気的に接続される、移動可能な4つのワーク保持治具と、
を含み、
前記4つのワーク保持治具の各々は、本発明の一態様(1)~(5)のいずれかに記載されたワーク保持治具である、表面処理装置に関する。
【0014】
本発明の他の態様によれば、本発明の一態様(1)~(5)のいずれかに記載されたワーク保持治具を用いて、ワークの表裏面への電流量を個別に調整してワークの表裏面を表面処理することができる。ワークの表裏面への電流量を個別に調整するために、処理槽に同時に通過できるワーク保持治具の最大数を4とすることで、給電レール及び整流器の数を各々8つとすることができ、それによりスループットを維持しながら表面処理装置の過度な大型化を避けることができる。
【0015】
(7)本発明の他の態様(6)では、前記4つの整流器は、前記8列の給電レールのうち奇数列の前記4つの給電レールとそれぞれ接続され、前記他の4つの整流器は、前記8列の給電レールのうち偶数列の前記他の4つの給電レールとそれぞれ接続されてもよい。こうすると、ワーク保持治具に設けられる2つの被給電部の間隔は、隣り合う給電レール間の間隔よりも広くすることができる。それにより、2つの被給電部に2つの導通部を接続するスペースが確保され易くなる。
【0016】
(8)本発明の他の態様(6)では、前記4つの整流器は、前記8列の給電レールのうち互いに隣り合う第1~4列の前記4つの給電レールとそれぞれ接続され、前記他の4つの整流器は、前記8列の給電レールのうち互いに隣り合う第5~8列の前記他の4つの給電レールとそれぞれ接続されてもよい。こうすると、こうすると、ワーク保持治具に設けられる2つの被給電部の間隔を隣り合う給電レール間の間隔に合わせて狭めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る表面処理装置の概略平面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るワーク保持治具の基本構造を示す概略斜視図である。
図3】上枠を経由してワークの表裏面に電流を流す導通経路を説明するための図である。
図4】上枠及び下枠を経由してワークの表裏面に電流を流す導通経路を説明するための図である。
図5図4に示す導通経路の構造を示す図である。
図6】クランパーの構造を示す図である。
図7】本発明の他の実施形態に係る表面処理装置の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0019】
1.表面処理装置
図1は、本発明の実施形態である表面処理装置1を模式的に示す平面図である。図1において、表面処理装置1は、処理槽10と、処理槽10内に設けられる陽極20と、ワーク(図1では図示せず)を搬送するワーク保持治具30と、整流器40と、給電レール50とを有する。処理槽10は、矩形のワークが浸漬される処理液例えばメッキ液を収容している。複数の処理槽10を連結して設けることもでき、その場合には、処理槽10の長手方向の両端に、隣り合う処理槽10間でワークの通過を許容する開口11、12が設けられる。
【0020】
処理槽10内に設けられる陽極20は、ワークの表面と対面する第1陽極21と、ワークの裏面と対面する第2陽極22と、を含む。処理槽10外には、8個の整流器40(41~48)が設けられる。処理槽10外には、互いに絶縁される8列の給電レール50(51~58)が、処理槽10の長手方向に沿って、例えば処理槽10の一方の側部に設けられる。4個の整流器41~44は、8列の給電レール50(51~58)のうちの例えば4つの給電レール51~54と第1陽極21との間にそれぞれ接続される。他の4個の整流器45~48は、4つの給電レール55~58と第2陽極22との間にそれぞれ接続される。
【0021】
処理槽10には、ワークをそれぞれ保持して、8列の給電レール50の各2つとそれぞれ電気的に接続されるワーク保持治具30として、最大4つのワーク保持治具31~34が、処理槽10の長手方向に沿って移動可能に設けられる。これらのワーク保持治具31~34は、搬送方向Aの上流側(例えば図示しない上流の処理槽)から処理槽10内に順次搬入され、処理槽10を例えば連続移動した後に、搬送方向Aの下流側(例えば図示しない下流の処理槽)へと順次搬出される。
【0022】
ここで、最大4つのワーク保持治具31~34の各々は、8列の給電レール50(51~58)のうちの異なる2列の給電レールと接続される。図1に示す状態では、最下流のワーク保持治具31は、例えば奇数番目の1列目と5列目の給電レール51、55と接続される。ワーク保持治具32は、例えば偶数番目の2列目と6列目の給電レール52、56と接続される。ワーク保持治具33は、例えば偶数番目の3列目と7列目の給電レール53、57と接続される。ワーク保持治具34は、例えば偶数番目の4列目と8列目の給電レール54、58と接続される。このとき、整流器41は、ワーク保持治具31に保持されたワークの表面と対面する第1陽極21と、1列目の給電レール51とに接続されて、ワーク保持治具31に保持されたワークの表面に流れる電流を調整する。整流器45は、ワーク保持治具31に保持されたワークの裏面と対面する第2陽極22と、5列目の給電レール55とに接続されて、ワーク保持治具31に保持されたワークの裏面に流れる電流を調整する。同様にして、ワーク保持治具32に保持されたワークの表面及び裏面に流れる電流は、整流器42及び整流器46により個別に調整される。ワーク保持治具33に保持されたワークの表面及び裏面に流れる電流は、整流器43及び整流器47により個別に調整される。ワーク保持治具34に保持されたワークの表面及び裏面に流れる電流は、整流器44及び整流器48により個別に調整される。
【0023】
ここで、処理槽10を同時に通過可能な最大4つのワーク保持治具31~34のうち、最上流のワーク保持治具31及び最下流のワーク保持治具34の少なくとも一方に保持されるワークが処理槽10中の処理液に部分浸漬され、最大3つのワーク保持治具31~33または32~34に保持される最大3つのワークが処理槽10中の処理液に全面浸漬される。図1では、最上流のワーク保持治具31及び最下流のワーク保持治具34の双方に保持される2つのワークが処理槽10中の処理液に部分浸漬され残りのワーク保持治具32、33に保持される2つのワークが処理槽10中の処理液に全面浸漬されている。部分浸漬とは、ワークの処理面の一部分が処理槽10内の処理液中に浸漬されている状態をいう。全面浸漬とは、ワークの処理面の全面が処理槽10内の処理液中に完全に浸漬されている状態をいう。つまり、処理槽10の長手方向の長さは、最大3つのワーク保持治具30により保持される最大3つのワークが全面浸漬するに足る長さとされる。
【0024】
同時刻に全面浸漬状態で処理槽10内を搬送可能なワークの数をN)をとしたとき、整流器40及び給電レール50の各々の数は2×(N+1)であり、本実施形態はN=3の例である。ワークの表裏面への電流量を個別に調整しながら所望のスループットを達成するためには、Nを2以下にすると処理槽10の連結数が増大し、Nを4以上とすると処理槽10及び給電レール50を含む表面処理装置1の幅が増大してしまう。本実施形態のN=3では、ワークの表裏面への電流量の個別な調整とスループットを維持しながら、表面処理装置1の過度な大型化を避けることができる。なお、整流器41~48は、ワークが処理槽10に搬入出される際には、特許文献3に記載された方法を採用して、ワークに流れる電流を処理面積に応じて漸次増加(搬入時)または漸次減少(搬出時)することができる。
【0025】
2.ワーク保持治具
2.1.基本構造
ワーク保持治具30の基本構造は、特許文献1及び2の図4に示すものと概略が同じであり、その基本構造を図2に示す。このワーク保持治具30は、水平アーム部300と、垂直アーム部310と、ワークを保持する保持部320と、被案内部330と、被給電部340と、被押動片350及び被係合部360と、を有する。水平アーム部300は、搬送方向Aと直交する方向Bに沿って延びる。垂直アーム部310は水平アーム部300に垂下して保持される保持部320は、支持枠311を介して垂直アーム部310に固定される。保持部320は、上枠321と、上枠321に例えば昇降可能に支持される2つの縦枠322、323と、2つの縦枠322、323に固定される下枠324を含む。上枠321には、ワークの上縁をクランプする複数の上部クランパー325が設けられる。下枠324には、ワークの下縁をクランプする複数の下部クランパー326が設けられる。ワークには下部クランパー326により下向きのテンションが付与される。ただし、ワークが厚い場合及び/又はワークの下部から給電しない場合には、2つの縦枠322、323、下枠324及び下部クランパー326を省略しても良い。
【0026】
被案内部330は、表面処理装置1に設けられる案内レール(図示せず)に案内されて、ワーク保持治具30を直線案内するものである。被案内部330は、案内レールの天面と転接するローラー331と、案内レールの両側面と転接するローラー332(図2では一方の側面に転接するローラーのみ図示)とを含むことができる。
【0027】
被給電部340としての第1,第2被給電部340A,340Bは、図1に示す8列の給電レール50(51~58)のうちの異なる2列の給電レールと接触して、ワークの表裏面をそれぞれ個別に陰極に設定する。第1,第2被給電部340A,340Bは、搬送方向Aに沿って延びる第1,第2支持アーム341A,341Bの上流側と下流側とに支持される2つの接触子342,343をそれぞれ含む。接触子342,343は、支持アーム341に平行リンク機構を介して支持され、図1に示す8列の給電レール50に圧接されるようにバネで付勢される。図1に示す4つのワーク保持治具31~34は、図2に示すB方向での第1,第2被給電部340A,340Bの位置を異ならせることで、図1に示す8列の給電レール50(51~58)のうちの異なる2列の給電レールと接触できる。そのために、ワーク保持治具30は、第1,第2支持アーム341A,341B、が水平アーム部300に対して固定される位置を、図2に示すB方向で調整できことが好ましい。こうすると、一種類のワーク保持治具30を調整することで、図1に示す4種類のワーク保持治具31~34を用意することができる。
【0028】
ワーク保持治具30は、被押動片350及び被係合部360の双方を有することができる。被係合部360は、連続移動する例えばチェーンに係合されることで、ワーク保持治具30を連続搬送することができる。被押動片350は、間欠搬送装置により矢印C方向に押動されて、ワーク保持治具30に間欠搬送力を伝達させるものである。こうして、ワーク保持治具30は間欠搬送にも連続搬送にも兼用できる。ただし、ワーク保持治具30は、間欠搬送及び連続搬送の一方にのみ用いられるものであっても良い。
【0029】
2.2.ワークの表裏に流れる電流を個別に調整するための構造
図2では、ワーク保持治具30の第1,第2被給電部340A,340Bと保持部320との間を導通させ、かつ、互いに絶縁される2つの導通部や、保持部320に設けられる導通経路は省略されている。図3及び図6は、保持部320のうちの上枠321を介してワークを陰極に設定する導電経路を示している。
【0030】
図3において、ワーク保持治具30の保持部320の例えば上枠321は、図6に示すように、互いに絶縁された導電性の2つのプレート321A、321Bを有する。ワーク保持治具30の上枠321に支持されるクランパー325は、互いにに絶縁された導電性の第1クランプ片325A及び第2クランプ片325Bを有する。ワーク保持治具30は、2つの被給電部340A、340Bと上枠321(保持部320)との間を導通させ、かつ、互いに絶縁される2つの導通部370A及び370Bをさらに有する。整流器41の負端子は、給電レール51、第1被給電部340A、導通部370A、プレート321A及び第1クランプ片325Aを介してワークの表面と電気的に接続される。一方、整流器45の負端子は、給電レール55、第2被給電部340B、導通部370B、プレート321B及び第2クランプ片325Bを介してワークの裏面と電気的に接続される。こうして、整流器41からワークの表面に流れる電流と、整流器45からワークの裏面に流れる電流とを、整流器41、45によりそれぞれ独立して調整することができる。
【0031】
図4及び図5は、ワーク保持治具30の上枠321を経由してワークの上縁からワークの表裏面に電流を流す経路と、ワーク保持治具30の2つの縦枠322、323及び下枠324を経由してワークの下縁からワークの表裏面に電流を流す経路と、をより具体的に示している。図3に示した2つの導通部370A及び370Bは、図4及び図5に示す部材371~376及び第1~第8導通部381~388を含んで構成される。
【0032】
第1被給電部340Aに設けられた2つの接触子342、343は例えばケーブル371、372によって、共通接続部373と電気的に接続される。同様に、第2被給電部340Bに設けられた2つの接触子342、343は例えばケーブル374、375によって、共通接続部376と電気的に接続される。ケーブル371、372、374、375は、図2に示す第1,第2支持アーム341A,341Bの間を経由して、例えばワーク保持治具30の垂直アーム部310または支持枠311に支持される共通接続部373、376まで引き回すことができる。その際、図1に示すように、例えばワーク保持治具31が1列目の給電レール51と5列目の給電レール55と接触するようにすると、第1,第2支持アーム341A,341Bの間隔が広がり、ケーブル371、372、374、375を引き回し易くなる。
【0033】
ここで、図5に示すように、縦枠322は、2つの平行な導電性のプレート322A、322Bを、間隔を空けて平行に配置することで構成される。縦枠323は、2つの平行な導電性のプレート323A、323Bを、間隔を空けて平行に配置することで構成される。下枠324は、2つの平行な導電性のプレート324A、324Bを、間隔を空けて平行に配置することで構成される。プレート324Aの一端はプレート322Aの下端と連結され、プレート324Aの他端はプレート323Aの下端と連結される。同様に、プレート324Bの一端はプレート322Bの下端と連結され、プレート324Bの他端はプレート323Bの下端と連結される。上枠321も、図5及び図6に示すように、2つの平行な導電性のプレート321A、321Bを、間隔を空けて平行に配置することで構成される。上枠321の強度を確保するために、プレート321A、321B間に絶縁材321C(図6)を配置しても良い。なお、上枠321のプレート321Aは、図5に示すように、縦方向に延びる導電部材391と連結される。上枠321のプレート321Bは、縦方向に延びる導電部材392と連結される。導電部材391、392は縦方向で平行に延びている。また、2つの縦枠322、323は、上枠321と電気的に絶縁されて、上枠321に支持されても良い。本実施形態では、縦枠322、323中のプレート322A、323Aは導電部材391と絶縁体(図示せず)を介して支持され、縦枠322、323中のプレート322B、323Bは導電部材391と絶縁体(図示せず)を介して支持されている。2つの縦枠322、323は、上枠321と電気的に絶縁されて、上枠321に昇降可能に支持されても良い。こうすると、ワークの下端にテンションを付与することができる。
【0034】
第1導通部381は、第1被給電部340Aと接続される共通接続部373と、上枠321に設けられたプレート321Aの一端(例えば左端)との間を、プレート321Aの一端に連結された導電部材391を介して導通させる。第2導通部382は、第1被給電部340Aと接続される共通接続部373と、上枠321に設けられたプレート321Aの他端(例えば右端)との間を、プレート321Aの他端に連結された導電部材391(図5では省略)を介して導通させる。こうして、第1被給電部340Aと、上枠321に設けられたプレート321Aの両端とを、第1、第2導通部381、382によって電気的に接続することができる。
【0035】
第3導通部383は、第2被給電部340Bと接続される共通接続部376と、上枠321に設けられたプレート321Bの一端(例えば左端)との間を、プレート321Bの一端に連結された導電部材392(図5では導電部材391に重なって見えない)を介して導通させる。第4導通部384は、第2被給電部340Bと接続される共通接続部376と、上枠321に設けられたプレート321Bの他端(例えば右端)との間を、プレート321Bの他端に連結された導電部材392を介して導通させる。こうして、第2被給電部340Bと、上枠321に設けられたプレート321Bの両端とを、第3、第4導通部383、384によって電気的に接続することができる。
【0036】
第5導通部385は、第1被給電部340Aと接続される共通接続部373と、縦枠322に設けられたプレート322Aのとの間を導通させ。第6導通部386は、第1被給電部340Aと接続される共通接続部373と、縦枠323に設けられたプレート323Aとの間を導通させる。こうして、第1被給電部340Aと、2つの縦枠322、323に設けられたプレート322A、323Aの各上端とを、第5、第6導通部385、386によって電気的に接続することができる。プレート322A、323Aは、下枠324のプレート324Aの両端と連結されているので、第1被給電部340Aと下枠324のプレート324Aとを電気的に接続することができる。
【0037】
第7導通部387は、第2被給電部340Bと接続される共通接続部376と、縦枠322に設けられたプレート322Bのとの間を導通させ。第8導通部388は、第2被給電部340Bと接続される共通接続部376と、縦枠323に設けられたプレート323Bとの間を導通させる。こうして、第2被給電部340Bと、2つの縦枠322、323に設けられたプレート322B、323Bの各上端とを、第7、第8導通部387、388によって電気的に接続することができる。プレート322B、323Bは、下枠324のプレート324Bの両端と連結されているので、第2被給電部340Bと下枠324のプレート324Bとを電気的に接続することができる。
【0038】
ここで、第1~第4導通部381~384の各々は、第5~第8導通部385~388の各々よりも電気抵抗を大きくすることができる。第1~第4導通部381~384の各々は比較的距離が近い上枠321と導通するのに対し、第5~第8導通部385~388は2つの縦枠322、323を経由して下枠324と導通する。よって、共通接続部373、376から上枠321に至る導通経路の電気抵抗と、共通接続部373、376から下枠324に至る導通経路の電気抵抗とを等しくするために、第1~第4導通部381~384の各々の電気抵抗を大きくしている。具体的には、第1~第4導通部381~384の各々は、図5に示すように例えばL字状に屈曲する金属プレートで構成されるのに対して、第5~第8導通部385~388は電気ケーブルで構成している。
【0039】
図6は、クランパー例えば上部クランパー325を示している。下部クランパー326も同様に構成することができる。上部クランパー325は、上枠321の一対のプレート321A、321Bに支持される。上部クランパー325は、プレート321Aに支持、例えば固定される第1クランプ片325Aと、プレート321Bに移動可能に支持される第2クランプ片325Bとを含むことができる。第2クランプ片325Bは、例えばコイルスプリング325Cにより矢印D方向に回転付勢されて、プレート321Bに設けた支点325Dの廻りに回転可能に支持される。図6では、ワークが存在しないので、第1、第2クランプ片325A、325Bは圧接している。第2クランプ片325Bを、外力により矢印D方向とは逆向きに回転させた後に、第1、第2クランプ片325A、325B間にワークを配置し、外力を解除すると、第1、第2クランプ片325A、325B間でワークは挟持される。それにより、第1、第2クランプ片325A、325Bはワークにより電気的に絶縁される。こうして、プレート321A及び第1クランプ片325Aを介してワークの表面に流れる電流と、プレート321B及び第2クランプ片325Bを介してワークの裏面に流れる電流とを、電気的に分離することができる。
【0040】
3.変形例
図1とは異なり、ワーク保持治具30と給電レール50との電気的接続を図7に示すようにしても良い。図7では、4つの整流器41~44は、8列の給電レール51~58のうち互いに隣り合う第1~4列の4つの給電レール51~54とそれぞれ接続され、他の4つの整流器45~48は、8列の給電レール51~58のうち互いに隣り合う第5~8列の4つの給電レール55~58とそれぞれ接続される。こうすると、ワーク保持治具30に設けられる2つの被給電部340A、340Bの間隔を隣り合う給電レール間の間隔に合わせて狭めることができる。
【0041】
また、例えば本出願人による特許第6909526号のように、複数のクランパー325、326のうち隣り合う2つの間にあるワークの縁部に対して接近して配置される導電性のダミー板を設けても良い。この場合、ワークの表裏面に対応して2つのダミー板を設けることができる。2つのダミー板への導通経路は、2つのダミー板の両側に位置するクランパーの第1、第2クランプ片への導電経路を兼用しても良い。
【符号の説明】
【0042】
1…表面処理装置、10…処理槽、11、12…開口、20…陽極、21…第1陽極、22…第2陽極、30(31~38)…8列の給電レール、40(41~48)…整流器、50(51~54)…ワーク保持治具、320…保持部、321…上枠、321A、321B…2つのプレート、322、323…2つの縦枠、322A、322B…2つのプレート、323A、323B…2つのプレート、324…下枠、324A、324B…2つのプレート、325…クランパー、326…クランパー、325A…第1クランプ片、325B…第2クランプ片、340A,340B…第1,第2の被給電部、370A、370B…2つの導通部、381~388…第1~第8導通部
図1
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図7