(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ガス吸着液
(51)【国際特許分類】
A61L 9/01 20060101AFI20240730BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A61L9/01 K
A61L9/01 B
B01D53/14 210
(21)【出願番号】P 2021155256
(22)【出願日】2021-09-24
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】597006300
【氏名又は名称】愛知珪曹工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 洋
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/098687(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/118714(WO,A1)
【文献】特開2017-167495(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109589945(CN,A)
【文献】国際公開第2015/037483(WO,A1)
【文献】特開2010-253409(JP,A)
【文献】特開2010-235363(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0178364(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00 - 9/22
B01D 53/02 - 53/12
B01J 20/00 - 20/34
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジヒドラジド化合物の含有量が6~9質量%、かつ、金属酸化物ゾル固形分の含有量が10~25質量%であ
り、前記金属酸化物ゾル固形分がNa
2
Oを0.1%~2.5%含むSiO
2
であるアルデヒドおよびケトンガス吸着液。
【請求項2】
前記金属酸化物ゾル固形分が、Na
2Oを0.3%~2.5%含むSiO
2である請求項
1に記載のアルデヒドおよびケトンガス吸着液。
【請求項3】
前記アルデヒドおよびケトンガス吸着液中の金属酸化物ゾルの一次粒子が、10nm未満のシリカゾルを含む請求項1
又は2に記載のアルデヒドおよびケトンガス吸着液。
【請求項4】
ジヒドラジド化合物が、カルボヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、よりなる群から選択された少なくとも一つである、請求項1から
3のいずれか1項に記載のアルデヒドおよびケトンガス吸着液。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載のアルデヒドおよびケトンガス吸着液を用いて加工したことを特徴とするアルデヒドおよびケトンガス吸着性加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物、特にアルデヒドおよびケトンガスの吸着液及びそれを用いたアルデヒドおよびケトンガス吸着性加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シックハウス又はシックビル症候群などに見られるような、アルデヒドガスなどの揮発性有機化合物(VOC)による健康障害が問題視されている。室内環境下のアルデヒドおよびケトンガスを除去する方法としては、アミン化合物からなるガス吸着剤が有効であることが知られており、アミン化合物の中でもジヒドラジド化合物は、吸着容量が大きく、安全性や加工性などに優れることから多用されている。これらジヒドラジド化合物は、形状が固体顆粒状であることから、繊維やプラスチックなどの材料に加工する場合は、水などの溶媒に溶解または懸濁することで加工しやすくする必要がある。また、ジヒドラジド化合物単独では十分な吸着性能が得られないため、無機化合物と複合化することで高性能化する技術が知られている。
【0003】
たとえば、特許文献1~3には、アジピン酸ジヒドラジドなどのジヒドラジド化合物とシリカゾルとを有効成分とするアルデヒド吸着液が開示されている。特許文献1は、ヒドラジド化合物100質量部に対して、シリカ固形分として10~1000質量部である3~250nmの平均粒子径を有する水性シリカゾルからなるアルデヒド類消臭剤組成物が開示されており、その実施例にはアジピン酸ジヒドラジドを0.5%~4.5%とシリカ固形分として0.5~4.5%となるシリカゾルを配合した吸着液が記載されている。また、特許文献2には、コロイダルシリカ水性分散液中にアルデヒド捕捉剤を添加した処理液が開示されており、その実施例には二次粒子径50~100nmのコロイダルシリカを3.6~4%とアルデヒド捕捉剤としてカルボジヒドラジドを0.15%~1.5%を含有した処理液が記載されている。さらに、特許文献3には、ジヒドラジド化合物及び金属酸化物ゾルを含有し、ジヒドラジド化合物の含有量が、ガス吸着液全量に対して1.3~6質量%であり、かつ、ジヒドラジド化合物及び金属酸化物ゾル固形分の合計含有量が、ガス吸着液全量に対して18~45質量%であることを特徴とするアルデヒド系ガス吸着液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-290543号公報
【文献】特開2008-190179号公報
【文献】WO2015/098687
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下は、本発明者による分析である。
特許文献1~3に開示されたような液状アルデヒド吸着剤は、外観は透明性液体であり、そのままスプレー液として紙、不織布、木材又は繊維生地などに噴霧加工することができるため、粉末状アルデヒド吸着剤よりも技術的な改善度は大きい。しかし、これらアルデヒド吸着液は保存安定性に劣り、1か月程度の保存で液中に析出物が発生することや吸着液全体がゲル化してしまう問題があったため、吸着液を調製後すぐに使用する必要があった。また、アルデヒド吸着液の保存安定性を保つためジヒドラジドの含有量が低く設定されており、吸着効果を高めるためには多量のアルデヒド吸着液を塗布する必要があり、塗布後の乾燥に時間がかかるという問題もあった。
【0006】
これらのアルデヒドおよびケトンガス吸着剤が使用される末端用途は、ノネナールなどの加齢臭用の衣料や寝具などの繊維製品、VOC対策のための自動車用カーマットやカーシート、タバコ用のインテリア製品、各種フィルター類など、人が日常生活で触れる機会の多い製品が多く、外観や安全上の配慮も欠かせない。また、これら末端用途の繊維製品等の加工には、大掛かりな設備を必要としない噴霧塗布加工ができるアルデヒドおよびケトンガス吸着液を用いることが工業的には最良であり、できるだけ少量でガス吸着性能が得られる無色液状吸着剤であるほど加工性および輸送や保管上にもよいことは言うまでもない。しかし、加工性及び保存安定性に優れた吸着液で、しかも、高いアルデヒドおよびケトンガス吸着性を兼ね備えたガス吸着液は知られていなかった。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の一視点において、アルデヒドおよびケトンガス吸着性能が高く、処理加工性と保存安定性にも優れるVOC吸着液、特にアルデヒドおよびケトンガスの吸着液を提供することを目的とする。また、本発明の他の視点において、当該ガス吸着液を用いて加工した優れたガス吸着性能を発揮する繊維、シート、成形品などのアルデヒドおよびケトンガス吸着性加工品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の視点において、ジヒドラジド化合物の含有量が6~9質量%、かつ、金属酸化物ゾル固形分の含有量が10~25質量%であり、前記金属酸化物ゾル固形分がNa
2
Oを0.1%~2.5%含むSiO
2
であるアルデヒドおよびケトンガス吸着液が提供される。また、本発明の第二の視点において、第一の視点によるアルデヒドおよびケトンガス吸着液を用いて加工したことを特徴とするアルデヒドおよびケトンガス吸着性加工品が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第一の視点において、ガス吸着性が高く、処理加工性・保存性にも優れるアルデヒド及びケトンガスの吸着剤が提供される。又、本発明の第二の視点において、第一の視点によるガス吸着液を用いて、優れたアルデヒド及びケトンガスの吸着性を有する加工品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者は、ジヒドラジド化合物と金属酸化物ゾルを特定の割合で配合することで、アルデヒドおよびケトンガス吸着性が高く、加工性と保存安定性に優れるアルデヒドおよびケトンガス吸着液が得られることを見出した。
すなわち、本発明は以下の形態を含む。
1.ジヒドラジド化合物の含有量が6~9質量%、かつ、金属酸化物ゾル固形分の含有量が10~25質量%であるVOC吸着液、特にアルデヒドおよびケトンガス吸着液。
2.上記金属酸化物ゾル固形分がNa2Oを0.1%~2.5%含むSiO2である上記1に記載のアルデヒドおよびケトンガス吸着液。
3.上記金属酸化物ゾル固形分が、Na2Oを金属酸化物ゾル固形分に対し0.3%~2.5%含むSiO2である上記1又は2に記載のアルデヒドおよびケトンガス吸着液。
4.上記アルデヒドおよびケトンガス吸着液中の金属酸化物ゾルが、一次粒子が10nm未満のシリカゾルを含む上記1から3のいずれかに記載のアルデヒドおよびケトンガス吸着液。
5.ジヒドラジド化合物が、カルボヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、よりなる群から選択された少なくとも一つである、上記1から4のいずれかに記載のアルデヒドおよびケトンガス吸着液。
6.上記1から5のいずれかに記載のアルデヒドおよびケトンガス吸着液を用いて加工したことを特徴とするアルデヒドおよびケトンガス吸着性加工品。
【0011】
(実施の形態における効果)
本発明におけるアルデヒドおよびケトンガス吸着液は、ジヒドラジド化合物及び金属酸化物ゾルを特定の割合で含有しているため、アルデヒドおよびケトンガス吸着性能が高く、加工性及び保存安定性にも優れている。
具体的には、本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液は、アルデヒドおよびケトンガスの吸着性能が高いことから、室内や車内などの各種製品に少量塗布するのみで、空気中のアルデヒドおよびケトンガスを低減させ、各種材料から発生するアルデヒドおよびケトンガスの放散も抑制することができる。また、一実施形態においてアルデヒドおよびケトンガス吸着液は保存安定性に優れ、少なくとも6ヶ月は安定して使用可能である。好ましい実施形態において、上記吸着液は、1年以上処理液を保管しても析出物、ゲル化及び変色を生じることがなく、塗布乾燥した材料表面が白化しにくいため、濃色の基材にも外観を損なわずに適用することができる。
【0012】
本発明の実施形態について更に詳細に説明すると以下のとおりであるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断りのない%は質量%であり、部は質量部を示す。
また、数値範囲を表す「~」の記載は、その前後の数値を含む数値範囲を意味する。また、本発明において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
【0013】
本発明の一実施形態に係るアルデヒドおよびケトンガス吸着液は、ジヒドラジド化合物の含有量が6~9質量%、かつ、金属酸化物ゾル固形分の含有量10~25質量%であることを特徴とする。以下の構成成分について、具体的に説明する。
【0014】
本発明に用いるジヒドラジド化合物は、分子中に2個のヒドラジド基を有するジヒドラジド化合物であり、下記式(1)で表わされる化合物である。
H2NHN-X-NHNH2 (1)
[式中Xは基-CO-又は基-CO-A-CO-を示す。Aはアルキレン基又はアリーレン基を示す。]
【0015】
上記式1の式中のAで示されるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基及びウンデカメチレン基等の炭素数1~12の直鎖状アルキレン基を挙げることができる。アルキレン基は置換基を有していてもよく、置換基としては、例えばヒドロキシ基等を挙げることができる。また、アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基及びフェナントリレン基等を挙げることができる。アリーレン基の置換基としては、アルキル基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子等を挙げることができる。
【0016】
上記式1のジヒドラジド化合物は、例えば、カルボジヒドラジド(別名炭酸ジヒドラジド)、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン-2酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、ダイマー酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ酸ジヒドラジド等の2塩基酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0017】
これらの中で好ましいものは、同じ質量のジヒドラジド化合物を用いたときのガス吸着容量が大きくなることから分子量が小さいジヒドラジド化合物である。また、水溶性化合物であり工業的に安価に入手できることも重要である。具体的な好ましいジヒドラジド化合物は、カルボジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドの中から選択される少なくとも一つである。より好ましくは、アルデヒドおよびケトンガス吸着液の保存安定性に優れることから、アジピン酸ジヒドラジド(C6H14N402)である。
【0018】
ジヒドラジド化合物の含有量は、アルデヒドおよびケトンガス吸着液全量に対して6~9質量%である。ジヒドラジド化合物の含有量は、6.5~8.5質量%であることが好ましく、6.5~7.5質量%であることがより好ましい。ジヒドラジド化合物の含有量が6質量%未満では、アルデヒドおよびケトンガス吸着性能が低いため、対象とする材料への塗布量が増える。その結果、1回の噴霧塗布では材料が塗れた状態になるため複数回に分けて噴霧が必要となるか、塗布できても乾燥に時間がかかる場合がある。一方、含有量が9質量%を超えると、ガス吸着液の保存安定性が低下し、乾燥後のガス吸着性加工品が白化する傾向がある。
【0019】
本発明に用いる金属酸化物ゾルとは、金属又は半金属の酸化物を含有するゾルをいい、水又は水溶性溶剤を分散媒とし、粒径が数nm~数百nmの二酸化ケイ素や酸化アルミニウムなどを分散質とするコロイド分散系である。市販の金属酸化物ゾルはナトリウム安定化水性ゾル、アンモニア安定化ゾル又は酸性水性ゾルなどがある。また、メタノールゾルなどのアルコール性ゾルもあるが、取り扱いのし易さおよび性能の観点から水性ゾルが好ましい。金属酸化物ゾルのpHは、腐食性がなく保存安定性に優れる点から8以上であり、9以上が好ましく、9.5以上がより好ましい。一般に金属酸化物ゾルの固形分濃度は10~50%のものがあるが、アルデヒドおよびケトンガス吸着性と処理加工性の点から、10%から25%に調製することが好ましい。本発明に用いる金属酸化物ゾルの具体的成分に制限はなく、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、及び酸化ジルコニウム等が挙げられる。これらの中では、特に保存安定性に優れることから、二酸化ケイ素ゾル(シリカゾル)が好ましい。
【0020】
本発明における金属酸化物ゾル固形分の含有量は、ガス吸着液全量に対し、10~25質量%である。好ましくは、13~22質量%であり、より好ましくは、15~20質量%である。当該含有量が10質量%未満では、多量のアルデヒドおよびケトンガス吸着液を噴霧する必要があり、基材に1回の塗布で展着できなかったり、乾燥時間が長くかかる可能性もあり経済的ではない。一方、含有量が25質量%を超えると、固形分濃度が高すぎて保存安定性に劣る上、粘度が高くなり塗布加工が安定にできなくなる。
【0021】
本発明の一実施形態においてシリカゾルとしては、保存安定性付与のためアルカリ性のものが好ましく、一例としてNa2O 0.1%~2.5%とすることが好ましい。さらにシリカゾルは、アルデヒドおよびケトンガス吸着液の高い保存安定性の観点からシリカゾル固形分中にNa2Oで0.3%~2.5%含むものが好ましく、Na2Oで0.5~2.0%含むものがより好ましい。Na2Oで0.3%未満の場合、ガス吸着液が長期間保管で析出物の発生やゲル化を生じやすく、2.5%超の場合はアルカリ性が高くなりすぎるうえ、析出物やゲル化の抑制に効果の向上がみられない。
【0022】
一般にシリカゾルは、製法により得られる物性や特徴が異なる。シリカゾルの製法は、アルコキシシランを加水分解・重縮合することによって得る方法、珪酸ナトリウム水溶液である水ガラスをイオン交換樹脂でナトリウムを除去することにより中性又は酸性化することによって得る方法、または金属珪素の粉末または塊にアルカリを加え加水分解する方法が挙げられる。本発明で用いるシリカゾルの製法に限定はないが、金属珪素の粉末または塊にアルカリを加え加水分解する方法で製造されたものが好ましい。この製法はアルカリに水酸化ナトリウムを使用することで、Na2Oが適量含まれたシリカゾルが得られることで保存安定性の高い吸着液が容易に製造できるためである。金属珪素からシリカゾルを製造する方法は、特に限定されない。例えば、金属珪素からシリカゲルを製造する方法を開示する米国特許2614995号公報やWO2008/072637号公報などを参考にすることができる。適量のNa2Oを含有していない他の製法のシリカゾルを使用する際は、後からNa2O成分となる化合物を適量添加して調整することが可能である。
【0023】
本発明に用いる金属酸化物ゾルの粒度に制限はないが、粒が大きいほど凝集性が弱くなって分散しやすい一方で、細かいほど繊維製品など各種製品への吸収がしやすく、加工後に脱落し難いため好ましい。ナノ粒子の粒度測定には、レーザー回折式の粒度分布では測定できないため、TEMまたは動的光散乱法DLSで測定する。本発明における粒度測定は、動的光散乱法ナノ粒子解析装置で測定した精度の高い分析値に基づいている。本発明における金属酸化物ゾルは、一次粒子が10nm未満のシリカゾルを用いることが好ましい。より好ましい金属酸化物ゾルの粒度は、メジアン径で4~10nmであり、さらにより好ましくは5~9nmである。特に金属珪素から製造したシリカゾルは、一次粒子が10nm以下となるため、金属珪素から製造したシリカゾルを用いることが好ましい。
【0024】
市販品の水性シリカゾルとしては、スノーテックスO(商品名、日産化学工業(株)製)、スノーテックスC(商品名、日産化学工業(株)製)、スノーテックスOS(商品名、日産化学工業(株)製)、スノーテックスOXS(商品名、日産化学工業(株)製)、ナルコ1034A(商品名、ナルコ ケミカル カンパニー社製)、ナイヤコール2034DI(商品名、エカ ケミカルズ アクチェボラーグ社製)、カタロイドSN(商品名、日揮触媒化成工業(株)製)、アデライトAT-20Q(商品名、(株)ADECA製)等が挙げられる。
【0025】
上記アルデヒドおよびケトンガス吸着液中の上記金属酸化物ゾル固形分の含有量は、ジヒドラジド化合物の含有量の1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。ジヒドラジド化合物が多いほどガス吸着容量が大きくなる傾向があるが、両者の比率には適正値があり、1.5倍以上であれば、高いガス吸着性が得られ、ガス吸着液の保存安定性も向上する。また、ジヒドラジド化合物が多いほど、アルデヒドおよびケトンガス吸着液を塗布した基材が白化する傾向にあり、ガス吸着性加工品の外観を損なう。ここで、金属酸化物ゾルの固形分が、ジヒドラジド化合物の含有量の5倍以下であれば、十分なアルデヒドおよびケトンガス吸着性を発現する量を塗布した場合でも、白化の不具合が抑制される。
【0026】
本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液は、ジヒドラジド化合物を金属酸化物ゾルに溶解することで製造することができる。溶解温度は10℃~50℃、溶解時間は1時間程度撹拌すれば製造可能である。溶解温度は高いほど早く溶解できるが、温度が低下した際にジヒドラジド化合物の再析出の可能性もあることから、15℃~30℃で溶解させることが好ましい。短時間で溶解することから、撹拌は特別な設備は必要でなく、汎用的なミキサーが使用可能である。また、本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液の保管容器は、金属製のものは腐食することで異物の混入や着色など品質に影響を及ぼす可能性があるため、プラスチック容器やガラス容器が好ましい。
【0027】
本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液には、任意成分として、その変形形態としてエタノールなどの有機溶媒やポリオールなども保存安定性や加工性などを改良するために加えても良い。また、上述した成分に加えて、防腐剤、沈殿防止剤、pH調整剤、抗菌剤、香料、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、着色剤、清澄剤、粘度調整剤、精油等の各種添加剤を含有することもできる。
【0028】
本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液は、各種のアルデヒドおよびケトンガスに対して吸着能力がある。アルデヒドガスとしては、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、プロパナール、ブタナール、ノネナール、ノナナール、オクタナール、及びアクロレインが対象ガスであり、ケトンガスとしては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、ジエチルケトン、メチルアミルケトン、ジアセチル、アセトイン、2,3-ペンタンジオン、2,3-ヘキサンジオンが対象ガスである。
【0029】
また、本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液は、本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液以外のアルデヒドおよびケトンガス吸着剤と一緒に用いてもよい。当該アルデヒドおよびケトンガス吸着剤としては、硫酸アンモニウム、ポリアリルアミン塩酸塩、EDTA・ナトリウム塩、トリエタノールアミン、ピリジン、ジメチルヒダントイン、カゼイン、尿素、チオ尿素、カゼインナトリウム、グリシン、ヘキサメチレンテトラミン、硝酸グアニジン、及び硫酸ヒドロキシルアミン等が例示できる。ただし、金属酸化物ゾルに加えるとゲル化や変色などを生じる化合物もあるため、配合量は最低の量に留め、塗布加工の直前に配合するか水で稀釈後に配合することが望ましい。
【0030】
本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液の使用方法は、アルデヒドおよびケトンガスのみを対象とすることもあるが、アルデヒドおよびケトンガス以外のガスを対象とする吸着剤ないし消臭剤と混合(消臭剤組成物)するか、それらと併用して使用することもできる。本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液と混合又は併用する具体的な消臭剤の例としては、ベンゼン、エチルベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系ガス消臭剤、アンモニア、トリメチルアミンなどの塩基性ガスを消臭するための塩基性ガス消臭剤がある。塩基性ガス消臭剤としては、水に対して不溶性又は難溶性の4価金属リン酸塩化合物が例示できる。当該4価金属リン酸塩化合物の好ましい具体例として、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン、及びリン酸スズ等がある。これらの化合物には、α型結晶、β型結晶、γ型結晶、及びナシコン型結晶など、種々の結晶系を有する結晶質のものと非晶質のものがあるが、ガス吸着性を有するものは、いずれも本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液と混合又は併用することができる。
【0031】
また、本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液は、硫化水素、メチルメルカプタンなどの硫黄系ガスを消臭するための硫黄性ガス消臭剤と混合又は併用して用いることができる。例えば、本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液は、銅、亜鉛、マンガンから選ばれる少なくとも1種以上の金属イオンを担持した4価金属リン酸塩化合物、酸化亜鉛、ケイ酸銅又はケイ酸亜鉛と、混合又は併用することができる。酸化亜鉛、ケイ酸銅及びケイ酸亜鉛については、比表面積の大きいものが、ガス吸着性能が高く好ましい。
【0032】
また、本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液は、酢酸、イソ吉草酸、及び酪酸等の悪臭を消臭するための有機酸性ガス消臭剤と混合又は併用して用いることができる。例えば、水和酸化ジルコニウム、水和酸化チタン、ゼオライト、シリカゲル、及び活性炭と、本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液とを混合することにより消臭剤組成物とすることができる。
【0033】
本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着性加工品を得るためには、紙、木材、不織布又は繊維生地等の基材表面にアルデヒドおよびケトンガス吸着液を噴霧塗布するか、又はアルデヒドおよびケトンガス吸着液に浸漬することで、一定量のアルデヒドおよびケトンガス吸着液を対象基材に付着させる。加工方法としては、付着量の調整と乾燥工程が容易なことから、噴霧塗布することが好ましい。アルデヒドおよびケトンガス吸着液を噴霧後は、風乾又は熱風乾燥等により水分を蒸散させ吸着剤を固着することができる。この乾燥は、自然乾燥又は室温~200℃程度まで加熱して乾燥させることができる。また、繊維などの基材への固着をより強固とするために、アクリル酸系樹脂やウレタン系樹脂等の公知のバインダー樹脂を本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液と併用することも可能である。
【0034】
本発明のアルデヒドおよびケトンガス吸着液の噴霧塗布量は、1~200g/m2が好ましく、5~150g/m2がより好ましい。噴霧塗布量が1g/m2以上であれば、アルデヒドおよびケトンガス吸着性能を発現でき、200g/m2以下であれば、塗布した機材の外観の白化などが抑制される。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を更に具体的に実施例によって説明するが、これに限定されるものではない。なお、下記において、部及び%は質量基準である。
【0036】
1.評価方法
(1)ガス吸着液の保存安定性
各種ガス吸着液を100mlガラス製容器に入れて、10℃の恒温器内で保存し、保存後1か月ごとに析出物やゲル化の有無を目視判定した。
【0037】
(2)ガス吸着性加工品の作製と外観
スプレーを用いて、各種ガス吸着液を雑綿フェルト不織布(10cm×10cm×1.5cm)の一方の表面のみに10g/m2噴霧塗布した後、1日風乾することにより、ガス吸着性加工品を作製した。このガス吸着性加工品の外観を目視で観察した。
【0038】
(3)ガス吸着性加工品の吸着性
当該ガス吸着性加工品をテドラーバックに入れ、これにアセトアルデヒドガス750ppmを含有する空気を3L注入し、室温で2時間静置した。その後、テドラーバッグ中の残存するアセトアルデヒドガス濃度をガス検知管で測定した。当該ガス吸着性加工品1個あたりのアセトアルデヒドガス吸着量(mL/個)を測定した。
【0039】
(4)ガス吸着性加工品のアルデヒド放散抑制性
ガス捕集用テドラーバッグに当該ガス吸着性加工品を入れ密封した後、バッグ内の空気を窒素5Lで置換した。このバックを内温65℃に調整した乾燥器に2時間入れた後、バッグ内のガスをDNPH(ジニトロフェニルヒドラジン)カートリッジで捕集し、誘導体化-溶媒抽出-高 速液体クロマトグラフ(HPLC)法で当該ガス吸着性加工品1m2あたりのホルムアルデヒド発生量μg/m2を分析した。なお、未加工の雑綿フェルト不織布のホルムアルデヒド発生量は、140 μg/m2であった。
【0040】
2.アルデヒドおよびケトンガス吸着液の製造及び評価
<参考例>金属珪素を加水分解する方法によるシリカゾルAの調製
0.5%の水酸化ナトリウム水溶液に金属珪素粉末を10%入れ、90℃で7時間加熱し反応した。反応後の液を濾過精製した後、水を加えて金属酸化物ゾル固形分の含有量を27%に調整したシリカゾルを製造した。このシリカゾルの固形分中のNa2O含有量は1.7%であり、シリカゾル種類を(シリカゾルA)とした。さらに、このシリカゾルAに水を加えることで金属酸化物ゾル固形分の含有量を8%、15%、20%のシリカゾルを調製した。
【0041】
<実施例1~6>
ジヒドラジド化合物およびシリカゾルを表1の種類と固形分量となるように配合し、室温で1時間撹拌することで各種アルデヒドおよびケトンガス吸着液を製造した。
この液の保存安定性、ガス吸着性加工品の外観、ガス吸着性加工品のアセトアルデヒド吸着量、並びに、ガス吸着性加工品のホルムアルデヒド放散量を評価し、その結果を表1に記載した。なお、表1中の略号は、次の材料を示す。
【0042】
ADH:アジピン酸ジヒドラジド、東京化成工業(株)製 試薬
SUDH:コハク酸ジヒドラジド、(株)日本ファインケム製
シリカゾル種類A:参考例で製造したシリカゾル(一次粒子径;6nm、固形分濃度;27質量%、固形分中のNa2O含有量;1.7%)
シリカゾル種類B:日産化学工業(株)製 商品名「スノーテックスC30」(一次粒子径;12nm、固形分濃度;31質量%、固形分中のNa2O含有量;0.1%未満)
【0043】
<比較例1~5>
ジヒドラジド化合物およびシリカゾルを表1の種類と固形分量となるように配合し、室温で1時間撹拌することでアルデヒドおよびケトンガス吸着液を製造した。
この液の保存安定性、ガス吸着性加工品の外観、ガス吸着性加工品のアセトアルデヒド吸着量、並びに、ガス吸着性加工品のホルムアルデヒド放散量を評価し、その結果を表1に記載した。なお、表1中の略号は、実施例と同様である。
【0044】
【0045】
実施例は、10℃で6ヶ月保管まで保存が可能であり、アルデヒドガスの吸着性および放散抑制にも優れていた。注*、実施例4は、6ヶ月で析出物が僅かに発生したが、6ヶ月まで保存可能であった。
一方、比較例は、10℃で6ヶ月以内に析出物が発生するかゲル化するため保存安定性に劣り、アルデヒドガスの吸着性および放散抑制にも劣る場合があった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明におけるアルデヒドおよびケトンガス吸着液は、アルデヒドおよびケトンガス吸着性能、加工性及び保存安定性に優れる。また、このアルデヒドおよびケトンガス吸着液を用いて製造した、紙や繊維などの製品に塗布又は練り込み加工が可能であり、様々な吸着性加工品を提供することができる。加工品は、外観を損ねることがない。従って、アルデヒドおよびケトンガスを抑制したい室内や車内などの各種製品に応用することで、その環境のアルデヒドおよびケトンガス濃度を容易に低減することができる。
【0047】
なお、引用した上記の特許文献等の各開示は、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態ないし実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし、選択(非選択を含む)が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。