(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】RNAのキャッピング方法、修飾RNAの製造方法、及び修飾RNA
(51)【国際特許分類】
C12P 19/34 20060101AFI20240730BHJP
C07H 21/02 20060101ALI20240730BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20240730BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
C12P19/34 A
C07H21/02
C12N15/10 Z ZNA
C12N9/10
(21)【出願番号】P 2021512300
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2020015168
(87)【国際公開番号】W WO2020204130
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2019073163
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 博英
(72)【発明者】
【氏名】大野 博久
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 冴
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-523777(JP,A)
【文献】特表2015-535430(JP,A)
【文献】特表2017-500034(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0175129(US,A1)
【文献】WARMINSKI, M., et al.,Applications of phosphate modification and labeling to study (m)RNA caps.,Topics in Current Chemistry,2017年,Vol.375:16,pp.1-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C12P 1/00-41/00
CAplus/REGISTRY/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワクシニアウイルス(Vaccinia virus)のキャッピング酵素の存在下で、下記一般式(1)で表される化合物(1)(但し、GTPを除く)と、RNAと、を反応させる工程(a)
と、
前記RNAの3’末端に、下記一般式(Ak-1)で表される化合物(Ak-1)を結合させる工程(c1)と、を含む、
修飾RNAの製造方法。
【化1】
「式中、R
b1は、オキソ基、炭素数1~3のアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し;R
b2は、存在しないか、炭素数1~3のアルキル基を表し;R
b3は、アミノ基又は水素原子を表し;R
b4は、存在しないか、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し;R
r1は、ヒドロキシ基、炭素数1~3のアルコキシ基、アミノ基、アジド基、-OR
1C≡CH、又は-R
2R
3を表し;R
r2は、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルコキシ基、アミノ基、アジド基、-OR
1C≡CH、又は-R
2R
3を表し;A
1は、酸素原子又は硫黄原子を表す。R
1は炭素数1~3のアルキレン基を表し、R
2は-OC(=O)NH-、-OC(=O)-、-NHC(=O)-、-O-又は単結合を表し;R
3は炭素数1~3のアミノアルキル基を表す。実線及び点線からなる二重線は、単結合又は二重結合を表す。
但し、R
r1
及びR
r2
のいずれか1つは、アジド基である。」
【化2】
[式中、Y
1は、2価の連結基を表し;Baseは、ヌクレオチド塩基を表す。]
【請求項2】
前記工程(a)及び前記工程(c1)の後、さらに、
前記工程(a)により前記RNAの5’末端に導入されたアジド基と、前記工程(c1)により前記RNAの3’末端に導入されたアルキニル基とを反応させて、環状RNAを生成する工程(d1)を含む、
請求項
1に記載の修飾RNAの製造方法。
【請求項3】
前記化合物(1)が、2’-アジド-2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸、又は3’-アジド-2’,3’-ジデオキシグアノシン-5’-三リン酸である、請求項
1又は
2に記載の修飾RNAの製造方法。
【請求項4】
ワクシニアウイルス(Vaccinia virus)のキャッピング酵素の存在下で、下記一般式(1)で表される化合物(1)(但し、GTPを除く)と、RNAと、を反応させる工程(a)と、
前記RNAの3’末端に、下記一般式(Az-1)で表される化合物(Az-1)を結合させる工程(c2)を含む、
修飾RNAの製造方法。
【化3】
「式中、R
b1
は、オキソ基、炭素数1~3のアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し;R
b2
は、存在しないか、炭素数1~3のアルキル基を表し;R
b3
は、アミノ基又は水素原子を表し;R
b4
は、存在しないか、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し;R
r1
は、ヒドロキシ基、炭素数1~3のアルコキシ基、アミノ基、アジド基、-OR
1
C≡CH、又は-R
2
R
3
を表し;R
r2
は、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルコキシ基、アミノ基、アジド基、-OR
1
C≡CH、又は-R
2
R
3
を表し;A
1
は、酸素原子又は硫黄原子を表す。R
1
は炭素数1~3のアルキレン基を表し、R
2
は-OC(=O)NH-、-OC(=O)-、-NHC(=O)-、-O-又は単結合を表し;R
3
は炭素数1~3のアミノアルキル基を表す。実線及び点線からなる二重線は、単結合又は二重結合を表す。但し、R
r1
及びR
r2
のいずれか1つは、-OR
1
C≡CHである。」
【化4】
[式中、Y
2
は、2価の連結基を表し;Baseは、ヌクレオチド塩基を表す。]
【請求項5】
前記工程(a)及び(c2)の後、さらに、
前記工程(a)により前記RNAの5’末端に導入されたアルキニル基と、前記工程(c2)により前記RNAの3’末端に導入されたアジド基とを反応させて、環状RNAを生成する工程(d2)を含む、
請求項
4に記載の修飾RNAの製造方法。
【請求項6】
前記化合物(1)が、3’-(O-プロパギル)-グアノシン-5’-三リン酸である、請求項
4又は
5に記載の修飾RNAの製造方法。
【請求項7】
下記式(Ci-1)~(Ci-3)からなる群より選択される構造を含む、環状修飾RNA。
【化5】
【化6】
[式中、m
7Gは、N7-メチルグアニンを表し;Y
1及びY
2は、それぞれ独立して、2価の連結基を表し;Baseは、それぞれ独立して、ヌクレオチド塩基を表し、*は、隣接するヌクレオチド残基の5’位の炭素原子に結合する結合手を表し、**は、隣接するヌクレオチド残基の3’位の炭素原子に結合する結合手を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAのキャッピング方法、修飾RNAの製造方法、及び修飾RNAに関する。
本願は、2019年4月5日に、日本に出願された特願2019-73163号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
人工mRNAは、原理上ゲノムDNAへ組み込まれる可能性が低いため、安全な遺伝子担体として、遺伝子治療及び分化細胞の初期化等の臨床研究及び生物学研究における遺伝子導入法として利用が期待されている。しかし、RNAは不安定な分子であるため、効果及び持続時間は限定的である。
【0003】
人工mRNAには、翻訳の開始と分解の抑制をつかさどる、5’キャップと呼ばれる構造が必要である。この5’キャップに化学的な修飾を導入することで、分解酵素に対する抵抗性を高めたり、翻訳開始因子との親和性を向上させて翻訳活性を高めたりする試みが行われてきた(例えば、非特許文献1、2)。
しかしながら、非特許文献1及び2に記載の方法では、導入したい修飾ごとに、修飾されたキャップ構造を有するジヌクレオチドを化学的に合成する必要がある。また、試験管内転写反応による合成の際には、RNA転写開始点に取り込ませる時にGTPとの競合が起こるため、GTP量を減らす必要がある。そのため、得られるRNA量が低下したり、修飾キャップを有さないRNAが一定量生成されたりする、という問題がある。
上記の方法によりアジド基やアミノ基を5’キャップ部位に有するRNAを作製し、それらの官能基特異的な化学反応によって、さらなる修飾を導入する方法も報告されているが(非特許文献3、4)、上記の問題点は解決されていない。
【0004】
また、メチル基転移酵素とメチル基供与体(SAM)の修飾アナログを利用して、5’キャップのグアニン塩基に化学修飾を導入する方法も報告されている(非特許文献5)。しかしながら、メチル基転移酵素及びSAMアナログの準備が必要であること、メチル基転移酵素の基質特異性のため導入できる修飾が限られること、翻訳活性が低下する場合が多いこと等の多くの問題があり、一般的な修飾キャップRNA合成法とはなりえていない。
【0005】
また、クロレラウイルスPBCVに由来するキャッピング酵素を用いてGTPアナログをRNAの5’キャップに導入した例も報告されている(非特許文献6)。しかしながら、5’キャップに導入できない修飾GTPも多く、導入できたGTPアナログについても導入効率は高くなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Stepinski J et al., Synthesis and properties of mRNAs containing the novel "anti-reverse" cap analogs 7-methyl(3'-O-methyl)GpppG and 7-methyl (3'-deoxy)GpppG. RNA(2001) 7:1486-95.
【文献】Grudzien-Nogalska E et al., Synthetic mRNAs with superior translation and stability properties. Methods Mol Biol(2013) 969:55-72.
【文献】Mamot A et al., Azido-Functionalized 5' Cap Analogues for the Preparation of Translationally Active mRNAs Suitable for Fluorescent Labeling in Living Cells. Angew Chem Int Ed Engl(2017) 56(49):15628-32.
【文献】Warminski M et al., Amino-Functionalized 5' Cap Analogs as Tools for Site-Specific Sequence-Independent Labeling of mRNA. Bioconjug Chem(2017) 28(7):1978-92.
【文献】Muttach F1, et al., Chemo-enzymatic modification of eukaryotic mRNA. Org Biomol Chem(2017) 15(2):278-84.
【文献】Issur M et al., Enzymatic synthesis of RNAs capped with nucleotide analogues reveals the molecular basis for substrate selectivity of RNA capping enzyme: impacts on RNA metabolism. PLoS One (2013) 8(9):e75310.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、RNAの5’キャップ部位に修飾を導入する従来の方法では、導入可能な修飾の種類が限られており、修飾の導入効率も高くない等の問題がある。さらに、5’キャップ部位に修飾を導入するための準備及び操作が煩雑である場合が多い。
そこで、本発明は、簡易に、種々の修飾を5’キャップ部位に導入可能なRNAのキャッピング方法、前記キャッピング方法を利用した修飾RNAの製造方法、及び前記修飾RNAの製造方法により製造された新規修飾RNAを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
[1]ワクシニアウイルス(Vaccinia virus)のキャッピング酵素の存在下で、下記一般式(1)で表される化合物(1)(但し、GTPを除く)と、RNAと、を反応させる工程を含む、RNAのキャッピング方法。
【0009】
【化1】
[式中、R
b1は、オキソ基、炭素数1~3のアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し;R
b2は、存在しないか、炭素数1~3のアルキル基を表し;R
b3は、アミノ基又は水素原子を表し;R
b4は、存在しないか、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し;R
r1は、ヒドロキシ基、炭素数1~3のアルコキシ基、アミノ基、アジド基、-OR
1C≡CH、又は-R
2R
3を表し;R
r2は、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルコキシ基、アミノ基、アジド基、-OR
1C≡CH、又は-R
2R
3を表し;A
1は、酸素原子又は硫黄原子を表す。R
1は炭素数1~3のアルキレン基を表し、R
2は-OC(=O)NH-、-OC(=O)-、-NHC(=O)-、-O-又は単結合を表し;R
3は炭素数1~3のアミノアルキル基を表す。実線及び点線からなる二重線は、単結合又は二重結合を表す。]
[2]前記化合物(1)が、N7-メチルグアノシン-5’-三リン酸、N1-メチルグアノシン-5’-三リン酸、O6-メチルグアノシン-5’-三リン酸、6-クロログアノシン-5’-三リン酸、イノシン-5’-三リン酸、2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸、アラグアノシン-5’-三リン酸、2’-フルオロ-2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸、2’-O-メチルグアノシン-5’-三リン酸、3’-O-メチルグアノシン-5’-三リン酸、2’-アミノ-2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸、3’-アミノ-2’,3’-ジデオキシグアノシン-5’-三リン酸、2’-アジド-2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸、3’-アジド-2’,3’-ジデオキシグアノシン-5’-三リン酸、3’-(O-プロパギル)-グアノシン-5’-三リン酸、2’/3’-O-(2-アミノエチル-カルバモイル)-グアノシン-5’-三リン酸、及びグアノシン―5’-O-(1-チオ三リン酸)からなる群より選択される、[1]に記載のキャッピング方法。
[3]ワクシニアウイルス(Vaccinia virus)のキャッピング酵素の存在下で、下記一般式(1)で表される化合物(1)(但し、GTPを除く)と、RNAと、を反応させる工程(a)を含む、修飾RNAの製造方法。
【0010】
【化2】
「式中、R
b1は、オキソ基、炭素数1~3のアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し;R
b2は、存在しないか、炭素数1~3のアルキル基を表し;R
b3は、アミノ基又は水素原子を表し;R
b4は、存在しないか、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し;R
r1は、ヒドロキシ基、炭素数1~3のアルコキシ基、アミノ基、アジド基、-OR
1C≡CH、又は-R
2R
3を表し;R
r2は、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルコキシ基、アミノ基、アジド基、-OR
1C≡CH、又は-R
2R
3を表し;A
1は、酸素原子又は硫黄原子を表す。R
1は炭素数1~3のアルキレン基を表し、R
2は-OC(=O)NH-、-OC(=O)-、-NHC(=O)-、-O-又は単結合を表し;R
3は炭素数1~3のアミノアルキル基を表す。実線及び点線からなる二重線は、単結合又は二重結合を表す。」
[4]前記化合物(1)が、N7-メチルグアノシン-5’-三リン酸、N1-メチルグアノシン-5’-三リン酸、O6-メチルグアノシン-5’-三リン酸、6-クロログアノシン-5’-三リン酸、イノシン-5’-三リン酸、2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸、アラグアノシン-5’-三リン酸、2’-フルオロ-2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸、2’-O-メチルグアノシン-5’-三リン酸、3’-O-メチルグアノシン-5’-三リン酸、2’-アミノ-2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸、3’-アミノ-2’,3’-ジデオキシグアノシン-5’-三リン酸、2’-アジド-2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸、3’-アジド-2’,3’-ジデオキシグアノシン-5’-三リン酸、3’-(O-プロパギル)-グアノシン-5’-三リン酸、2’/3’-O-(2-アミノエチル-カルバモイル)-グアノシン-5’-三リン酸、及びグアノシン―5’-O-(1-チオ三リン酸)からなる群より選択される、[3]に記載の修飾RNAの製造方法。
[5]前記一般式(1)中のR
r1又はR
r2が、アジド基であり、前記工程(a)の後、さらにアルキン化合物を反応させる工程(b1)を含む、[3]に記載の修飾RNAの製造方法。
[6]前記化合物(1)が、2’-アジド-2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸、又は3’-アジド-2’,3’-ジデオキシグアノシン-5’-三リン酸である、[5]に記載の修飾RNAの製造方法。
[7]前記アルキン化合物が機能性基を含む、[5]又は[6]に記載の修飾RNAの製造方法。
[8]前記一般式(1)中のR
r1又はR
r2が、-OR
1C≡CHであり、前記工程(a)の後、さらにアジド化合物を反応させる工程(b2)を含む、[3]に記載の修飾RNAの製造方法。
[9]前記化合物(1)が、3’-(O-プロパギル)-グアノシン-5’-三リン酸である、[8]に記載の修飾RNAの製造方法。
[10]前記アジド化合物が機能性基を含む、[8]又は[9]に記載の修飾RNAの製造方法。
[11]前記一般式(1)中のR
r1又はR
r2が、アジド基であり、さらに、前記RNAの3’末端に、下記一般式(Ak-1)で表される化合物(Ak-1)を結合させる工程(c1)を含む、[3]に記載の修飾RNAの製造方法。
【0011】
【化3】
[式中、Y
1は、2価の連結基を表し;Baseは、ヌクレオチド塩基を表す。]
[12]前記工程(a)及び前記工程(c1)の後、さらに、前記工程(a)により前記RNAの5’末端に導入されたアジド基と、前記工程(c1)により前記RNAの3’末端に導入されたアルキニル基とを反応させて、環状RNAを生成する工程(d1)を含む、[11]に記載の修飾RNAの製造方法。
[13]前記化合物(1)が、2’-アジド-2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸、又は3’-アジド-2’,3’-ジデオキシグアノシン-5’-三リン酸である、[11]又は[12]に記載の修飾RNAの製造方法。
[14]前記一般式(1)中のR
r1又はR
r2が、-OR
1C≡CHであり、
さらに、前記RNAの3’末端に、下記一般式(Az-1)で表される化合物(Az-1)を結合させる工程(c2)を含む、[3]に記載の修飾RNAの製造方法。
【0012】
【化4】
[式中、Y
2は、2価の連結基を表し;Baseは、ヌクレオチド塩基を表す。]
[15]前記工程(a)及び(c2)の後、さらに、前記工程(a)により前記RNAの5’末端に導入されたアルキニル基と、前記工程(c2)により前記RNAの3’末端に導入されたアジド基とを反応させて、環状RNAを生成する工程(d2)を含む、[14]に記載の修飾RNAの製造方法。
[16]前記化合物(1)が、3’-(O-プロパギル)-グアノシン-5’-三リン酸である、[14]又は[15]に記載の修飾RNAの製造方法。
[17]下記式(Cp-1)~(Cp-13)からなる群より選択される構造を5’末端に有する、修飾RNA。
【0013】
【0014】
【0015】
【化7】
[各式中、m
7Gは、N7-メチルグアニンを表し;*は、隣接するヌクレオチド残基の5’位の炭素原子に結合する結合手を表す。]
[18]下記式(Ca-1)~(Ca-3)からなる群より選択される構造を5’末端に有する、修飾RNA。
【0016】
【化8】
[各式中、m
7Gは、N7-メチルグアニンを表し;*は、隣接するヌクレオチド残基の5’位の炭素原子に結合する結合手を表す。R
a1およびR
a2は、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表す。但し、R
a1及びR
a2の少なくとも1つは有機基である。R
a1及びR
a2の両方が有機基である場合、それらは相互に結合して環構造を形成してもよい。R
a3は有機基を表す。]
[19]下記式(Ci-1)~(Ci-3)からなる群より選択される構造を含む、環状修飾RNA。
【0017】
【0018】
【化10】
[式中、m
7Gは、N7-メチルグアニンを表し;Y
1及びY
2は、それぞれ独立して、2価の連結基を表し;Baseは、それぞれ独立して、ヌクレオチド塩基を表し、*は、隣接するヌクレオチド残基の5’位の炭素原子に結合する結合手を表し、**は、隣接するヌクレオチド残基の3’位の炭素原子に結合する結合手を表す。]
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡易に、種々の修飾を5’キャップ部位に導入可能なRNAのキャッピング方法、前記キャッピング方法を利用した修飾RNAの製造方法、及び前記修飾RNAの製造方法により製造された新規修飾RNAが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】VCE(Vaccinia virus capping enzyme)を用いた、GTPによるRNAのキャッピング反応を示す。VCEが転写産物の5’末端にGTP(上)を付加し、グアニンの7位にSAM(S-adenosylmethionine)のメチル基を転移させることで、m
7G(N7-methylguanosine)キャップを有するRNAが生じる。
【
図2】実施例で使用したGTPアナログの修飾部位を示す。修飾部位に応じて、「Base」、「Ribose」、「Base and ribose」及び「Phosphate」に分類した。
図2では、修飾部位の構造のみ示した。
【
図3】実施例1において、各GTPアナログのキャッピング効率を評価した結果を示す図である。各GTPアナログのキャッピング効率は、GTPアナログが付加したRNAの量と未反応RNAの量から算出した。
【
図4】
図3でキャッピング効率の低かったGTPアナログについて、GTPアナログの濃度を2倍に、又はGTPアナログ及びVCEの濃度を2倍にしてキャッピング反応を行ったときの各GTPアナログのキャッピング効率を示す図である。
【
図5A】実施例2において、各GTPアナログでキャップしたmRNAの細胞内での翻訳活性を評価した結果を示す。各GTPアナログでキャップしたmRNAをトランスフェクションしたHeLa細胞の蛍光顕微鏡画像(スケールバー:200μm)である。
【
図5B】実施例2において、各GTPアナログでキャップしたmRNAのHeLa細胞内での翻訳活性を評価した結果を示す。トランスフェクションコントロールとして共導入した赤色蛍光タンパク質iRFP670を発現している細胞について、フローサイトメーターで測定したAzami-Green蛍光レベルの平均値を、同様に求めたiRFP670の発現レベルで補正した。
【
図6A】実施例2において、各GTPアナログでキャップしたmRNAの細胞内での翻訳活性を評価した結果を示す。各GTPアナログでキャップしたmRNAをトランスフェクションした293FT細胞の蛍光顕微鏡画像(スケールバー:200μm)である。
【
図6B】実施例2において、各GTPアナログでキャップしたmRNAの293FT細胞内での翻訳活性を評価した結果を示す。トランスフェクションコントロールとして共導入した赤色蛍光タンパク質iRFP670を発現している細胞について、フローサイトメーターで測定したAzami-Green蛍光レベルの平均値を、同様に求めたiRFP670の発現レベルで補正した。
【
図7】実施例3で用いた、DBCO-biotin及びDBCO-AF647の化学構造式を示す。
【
図8】SPAAC反応を利用して、アジド基を有するキャップをDBCO-dye/biotinで修飾する反応のスキームを示す図である。
【
図9】実施例3において、アジド基をキャップに有するRNAに、SPAAC反応によりDBCO-dye/biotinを導入した結果を示す図である。
【
図10】実施例3で作製したmRNAのアジド基を有するキャップに、DBCO-AF647が導入されたことを示す、変性PAGEのゲル写真である。
【
図11】実施例3において、AF647標識mRNAをトランスフェクションしたHeLa細胞の共焦点蛍光顕微鏡画像である。左端は明視野画像、その右の3列は、それぞれ、核(Hoechstによる染色)、Azami-Green(緑色蛍光タンパク質)、及びAF647(赤色蛍光色素)の蛍光を観察したものである。図中、「Mock」はRNAなしでトランスフェクション処理したものを示し、「Untreated」はトランスフェクション処理を行っていないものを示す。
【
図12】実施例4における環状RNA生成のスキームを説明する図である。
【
図13】実施例4における変性PAGEの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書及び本特許請求の範囲において、化学式で表される構造によっては、不斉炭素が存在し、エナンチオ異性体(enantiomer)やジアステレオ異性体(diastereomer)が存在し得るものがある。その場合は一つの化学式でそれら異性体を代表して表す。それらの異性体は単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
【0022】
[RNAのキャッピング方法]
1態様において、本発明は、ワクシニアウイルス(Vaccinia virus)のキャッピング酵素の存在下で、下記一般式(1)で表される化合物(1)(但し、GTPを除く)と、RNAと、を反応させる工程を含む、RNAのキャッピング方法を提供する。
【0023】
【化11】
「式中、R
b1は、オキソ基、炭素数1~3のアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し;R
b2は、存在しないか、又は炭素数1~3のアルキル基を表し;R
b3は、アミノ基又は水素原子を表し;R
b4は、存在しないか、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表し;R
r1は、ヒドロキシ基、炭素数1~3のアルコキシ基、アミノ基、アジド基、-OR
1C≡CH、又は-R
2R
3を表し;R
r2は、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルコキシ基、アミノ基、アジド基、-OR
1C≡CH、又は-R
2R
3を表し;A
1は、酸素原子又は硫黄原子を表す。R
1は炭素数1~3のアルキレン基を表し、R
2は-OC(=O)NH-、-OC(=O)-、-NHC(=O)-、-O-又は単結合を表し;R
3は炭素数1~3のアミノアルキル基を表す。実線及び点線からなる二重線は、単結合又は二重結合を表す。」
【0024】
本態様にかかるキャッピング方法では、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素を用いて、キャッピング反応を行う。後述の実施例で示されるように、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素は、幅広い範囲のGTPアナログに適用可能であり、種々の修飾をRNAのキャップ部位に導入することができる。キャップ部位の構造は、RNAの安定性、及び翻訳活性等に影響する。そのため、本態様にかかるキャッピング方法によりRNAのキャッピングを行うことにより、安定性及び翻訳活性の異なる種々のRNAを得ることができる。
【0025】
<ワクシニアウイルスのキャッピング酵素:VCE>
「ワクシニアウイルスのキャッピング酵素」とは、ワクシニアウイルスが有するキャッピング酵素である(Martin SA, et al., J Biol Chem (1976) 251(23):7313-7321.; Fuchs AL, et al., RNA (2016) 22(9):1454-1466.)。キャッピング酵素は、RNAの5’末端にキャップを付加することのできる酵素である。キャップは、RNAの5’末端に三リン酸結合を介してグアノシン又はグアノシン誘導体が結合した構造をしており、細胞内でのRNAの安定化や翻訳開始などに関与している。ワクシニアウイルスのキャッピング酵素は、大サブユニット(Gene ID:3707562)及び小サブユニット(Gene ID:3707515)の2つのサブユニットから構成されている。
【0026】
図1は、キャッピング酵素によるRNAのキャッピング反応を模式的に示した図である。キャッピング酵素の存在下で、RNAにGTPを反応させると、GTPからRNAの5’末端にGMPが転移して結合するとともに、ピロリン酸(PPi)が分離する。さらに、S-アデノシルメチオニン(SAM)からグアニン塩基の7位の窒素原子にメチル基が転移して、N7-メチルグアニン(m
7G)の塩基を含むキャップがRNAの5’末端に形成される。
図1において、GTPに替えて、GTPアナログ(修飾GTP)を用いることにより、種々の構造を有するキャップをRNAの5’末端に導入することができる。
【0027】
ワクシニアウイルスのキャッピング酵素は、公知であり、GenBank等の公知のデータベースから配列情報を取得することができる。ワクシニアウイルスのキャッピング酵素遺伝子の大サブユニット及び小サブユニットの塩基配列としては、例えば、配列番号2及び配列番号4に記載の配列がそれぞれ挙げられる。また、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素の大サブユニット及び小サブユニットのアミノ酸配列としては、例えば、配列番号3(NCBI Reference Sequence:YP_232988.1)及び配列番号5(NCBI Reference Sequence:YP_232999.1)に記載の配列がそれぞれ挙げられる。例えば、当該配列情報に基づいて、適切なプライマーを設計し、ワクシニアウイルスのDNAを鋳型としてPCR等を行うことにより、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素遺伝子を得ることができる。さらに、当該酵素遺伝子を適切な細胞に導入して発現させ、当該細胞から公知の酵素精製手段を用いて精製することにより、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素を得ることができる。酵素遺伝子からのキャッピング酵素の合成には、無細胞タンパク質合成系を用いてもよい。
また、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素は、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、ScriptCap m7G Capping System(CellScript)が挙げられる。
【0028】
以下、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素を「VCE」と記載することがある。
【0029】
<化合物(1)>
化合物(1)は、上記一般式(1)で表される化合物である。本態様にかかるキャッピング方法において、化合物(1)は、GTPに替えて用いられるものであり、RNAの5’末端にキャップとして導入される。上記一般式(1)で表される化合物は、GTPを包含するが、GTPは化合物(1)から除かれる。すなわち、一般式(1)において、Rb1がオキソ基、Rb2が存在せず、Rb3がアミノ基、Rb4が水素原子、Rr1がヒドロキシ基、Rr2がヒドロキシ基、且つA’が酸素原子である組合せとなることはない。
【0030】
上記一般式(1)中、Rb1は、オキソ基、炭素数1~3のアルコキシ基、又はハロゲン原子を表す。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、中でも、塩素原子が好ましい。前記炭素数1~3のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、及びプロポキシ基が挙げられ、メトキシ基又はエトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
上記一般式(1)中、Rb2は、存在しないか、又は炭素数1~3のアルキル基を表す。前記炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、及びプロピル基が挙げられ、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。Rb2が炭素数1~3のアルキル基となる場合、一般式(1)中のRb2が結合する窒素原子は正電荷を帯びる。
上記一般式(1)中、Rb3は、アミノ基又は水素原子を表す。
上記一般式(1)中、Rb4は、存在しないか、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を表す。前記炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、及びプロピル基が挙げられ、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0031】
上記一般式(1)中、Rr1は、ヒドロキシ基、炭素数1~3のアルコキシ基、アミノ基、アジド基、-OR1C≡CH、又は-R2R3を表す。
前記炭素数1~3のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、及びプロポキシ基が挙げられ、メトキシ基又はエトキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。
前記-OR1C≡CH中のR1は、炭素数1~3のアルキレン基を表す。前記炭素数1~3のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、及びプロピレン基が挙げられ、メチレン基又はエチレン基が好ましく、メチレン基がより好ましい。
前記-R2R3中のR2は、-OC(=O)NH-、-OC(=O)-、-NHC(=O)-、-O-又は単結合を表す。R2は、-OC(=O)NH-又は単結合が好ましく、-OC(=O)NH-がより好ましい。前記-R2R3中のR3は、炭素数1~3のアミノアルキル基を表す。前記炭素数1~3アミノアルキル基としては、アミノメチル基、アミノエチル基、及びアミノプロピル基が挙げられ、アミノメチル基又はアミノエチル基が好ましく、アミノエチル基がより好ましい。-R2R3は、アミノエチルカルバモイルオキシ基であることが特に好ましい。
【0032】
上記一般式(1)中、Rr2は、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~3のアルコキシ基、アミノ基、アジド基、-OR1C≡CH、又は-R2R3を表す。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、中でも、フッ素原子が好ましい。-OR1C≡CH中のR1は、上記と同様である。R2R3中のR2及びR3は、それぞれ上記と同様である。
上記一般式(1)中、A1は、酸素原子又は硫黄原子を表す。
上記一般式(1)中、実線及び点線からなる二重線は、単結合又は二重結合を表す。
【0033】
一般式(1)中の塩基部分をBase、糖部分をSugarとして表すと、化合物(1)は、下記一般式(1’)で表すことができる。
【0034】
【0035】
前記一般式(1’)中のBaseの具体例としては、以下の式(B-1)~(B-5)のいずれかで表される塩基が挙げられる。式中、*は、式(1’)中のSugarに結合する結合手を表す。
【0036】
【0037】
前記一般式(1’)中のSugarの具体例としては、以下の式(R-1)~(R-12)のいずれかで表される塩基が挙げられる。式中、*は、式(1’)中のBaseに結合する結合手を表す。**は、式(1’)中の酸素原子に結合する結合手を表す。
【0038】
【0039】
【0040】
化合物(1)の好ましい具体例としては、例えば、N7-メチルグアノシン-5’-三リン酸(以下、「m7GTP」ともいう)、N1-メチルグアノシン-5’-三リン酸(以下、「m1GTP」ともいう)、O6-メチルグアノシン-5’-三リン酸(以下、「m6GTP」ともいう)、6-クロログアノシン-5’-三リン酸(以下、「Cl6GTP」ともいう)、イノシン-5’-三リン酸(以下、「ITP」ともいう)、2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸(以下、「dGTP」ともいう)、アラグアノシン-5’-三リン酸(以下、「araGTP」ともいう)、2’-フルオロ-2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸(以下、「fGTP」ともいう)、2’-O-メチルグアノシン-5’-三リン酸(以下、「Om2’GTP」ともいう)、3’-O-メチルグアノシン-5’-三リン酸(以下、「Om3’GTP」ともいう)、2’-アミノ-2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸(以下、「NH2
2’GTP」ともいう)、3’-アミノ-2’,3’-ジデオキシグアノシン-5’-三リン酸(以下、「NH2
3’dGTP」ともいう)、2’-アジド-2’-デオキシグアノシン-5’-三リン酸(以下、「N3
2’GTP」ともいう)、3’-アジド-2’,3’-ジデオキシグアノシン-5’-三リン酸(以下、「N3
3’dGTP」ともいう)、3’-(O-プロパギル)-グアノシン-5’-三リン酸(以下、「Opp3’GTP」ともいう)、2’/3’-O-(2-アミノエチル-カルバモイル)-グアノシン-5’-三リン酸(以下、「EDA2’/3’GTP」ともいう)、及びグアノシン―5’-O-(1-チオ三リン酸)(以下、「GTPαS」ともいう)等が挙げられる。EDA2’/3’GTPは、糖の2’位又は3’位がO-(2-アミノエチル-カルバモイル)基で置換された化合物の混合物である。
これらの中でも、キャッピング効率の観点からは、m7GTP、m1GTP、m6GTP、Cl6GTP、dGTP、araGTP、fGTP、Om2’GTP、Om3’GTP、NH2
2’GTP、NH2
3’dGTP、N3
2’GTP、N3
3’dGTP、Opp3’GTP、EDA2’/3’GTP、GTPαSが好ましい。
化合物(1)は、市販品を用いることができる。
【0041】
<RNA>
RNAは、特に限定されず、いかなる配列及び鎖長のものであってもよいが、5’末端にキャップを有しないものを用いる。
RNAは、公知の方法で合成することができる。例えば、RNAは、T7RNAポリメラーゼを用いたインビトロの方法により、鋳型DNAからmRNAを転写して得ることができる。この場合、鋳型DNAには、T7RNAポリメラーゼが認識し得るプロモーター配列(T7プロモーター配列)を導入することが好ましい。インビトロRNA転写系としては、各種市販品(例えば、MEGAscript T7 Transcription Kit、Thermo Fisher Scientific等)が入手可能である。そのため、これらの市販品を用いて鋳型DNAからRNAを合成してもよい。合成したRNAは、DNase処理等でDNAを除去した後、市販のRNA精製キット(例えば、RNeasy MinElute Cleanup Kit、Qiagen)等を用いて精製することができる。
また、短鎖RNA(例えば、100塩基長以下)の場合には、ホスホロアミダイト法等の公知のRNA合成法により合成してもよい。
【0042】
<反応工程>
本態様にかかるキャッピング方法は、VCEの存在下で、化合物(1)と、RNAと、を反応させる工程を含む。前記反応は、キャッピング反応に一般的に用いられる条件で行うことができる。例えば、適当な緩衝液に、VCE、化合物(1)、及びRNAを添加し、30~38℃、好ましくは35~37℃で反応させる。反応時間は、特に限定されないが、例えば、30分~50時間を例示することができ、好ましくは1~30時間が挙げられる。好ましい反応時間は、使用する化合物(1)の種類に応じて変動するため、使用する化合物(1)の種類に応じて反応時間を設定してもよい。例えば、化合物(1)として、m7GTP、m1GTP、m6GTP、dGTP、araGTP、Om3’GTP、NH2
2’GTP、NH2
3’dGTP、N3
3’ dGTP、Opp3’GTP、又はEDA2’/3’GTPを用いる場合には、反応時間を30~120分程度、好ましくは50~70分程度とすることができる。一方、化合物(1)として、Cl6GTP、ITP、fGTP、Om2’GTP、N3
2’GTP、又はGTPαSを用いる場合には、反応時間を10~30時間程度、好ましくは20~30時間程度とすることができる。
【0043】
キャッピング反応の反応液には、VCE、化合物(1)、及びRNAに加えて、SAM、及びRNaseインヒビター等を添加することができる。
また、反応液中のVCE、化合物(1)、及びRNAの濃度は、化合物(1)の種類に応じて、適宜設定することができる。
【0044】
キャッピング反応後は、キャップ化されていないRNAの除去処理を行ってもよい。キャップ化されていないRNAの除去方法は、特に限定されないが、例えば、アルカリホスファターゼ等による脱リン酸化と、ポリヌクレオチドキナーゼによるリン酸化とにより、キャップ化されていないRNAの5’末端を一リン酸化した後、5’一リン酸化RNAを特異的に分解するエキソヌクレアーゼにより一リン酸化RNAを分解する方法等が挙げられる。
上記のように適宜キャップ化されていないRNAの除去処理を行った後、市販のRNA精製キット等を用いてRNAの精製を行ってもよい。
【0045】
本態様にかかるキャッピング方法は、後述の修飾RNAの製造方法に利用することができる。
【0046】
[修飾RNAの製造方法]
一態様において、本発明は、ワクシニアウイルス(Vaccinia virus)のキャッピング酵素の存在下で、上記一般式(1)で表される化合物(1)(但し、GTPを除く)と、RNAと、を反応させる工程(a)を含む、修飾RNAの製造方法を提供する。
【0047】
<工程(a)>
工程(a)は、上記態様のRNAのキャッピング方法における反応工程と同様に行うことができる。VCE、化合物(1)、及びRNAについても、上記で説明したものと同様であり、好ましい例も同様である。
【0048】
本態様の製造方法により得られる修飾RNAは、RNAの5’末端にキャップとして化合物(1)が導入されたRNAである。本明細書において、「修飾RNA」とは、5’末端にm7G以外の構造のキャップを有するRNAを意味する。
工程(a)により、化合物(1)からピロリン酸が除去されたものが、RNAの5’末端の三リン酸に結合してキャップを形成する。これにより、化合物(1)のヌクレオシド構造が5’-5’三リン酸結合を介して5’末端に結合した修飾RNAを得ることができる。
【0049】
<任意工程>
本態様の製造方法は、上記工程(a)に加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、工程(a)で得られた修飾RNAに、さらなる修飾を行う工程等が挙げられる。さらなる修飾は、特に限定されないが、例えば、クリックケミストリーを利用した修飾等が挙げられる。より具体的には、クリックケミストリーを利用して、工程(a)で得られた修飾RNAに、機能性基を導入する工程、あるいは工程(a)で得られた修飾RNAを環状化する工程等が挙げられる。
【0050】
≪機能性基の導入≫
本態様の製造方法は、上記工程(a)の後、さらに、アルキン化合物又はアジド化合物を導入する工程を含んでいてもよい。そのような工程の具体例としては、下記工程(b1)及び工程(b2)が挙げられる。また、前記アルキン化合物又はアジド化合物に活性分子を結合させておくことにより、修飾RNAに機能性基を導入することができる。
【0051】
(工程(b1))
例えば、化合物(1)が、上記一般式(1)中のRr1又はRr2が、アジド基(-N=N+=N-)である化合物(以下、化合物(1-az)ともいう。)である場合、本態様にかかる製造方法は、上記工程(a)の後、さらに、アルキン化合物を反応させる工程(b1)を含むことができる。
【0052】
化合物(1-az)の具体例としては、N3
2’GTP及びN3
3’dGTPが挙げられる。
【0053】
本明細書において、「アルキン化合物」とは、分子中に炭素-炭素三重結合(-C≡C-)を有する化合物を意味する。アルキン化合物の構造は、特に限定されず、所望の分子に三重結合を導入したものであってよい。例えば、アルキン化合物は、機能性基を含むものであることができる。「機能性基」とは、1つ以上の機能を有する原子団を意味し、当該機能としては、例えば、蛍光活性、発光活性、結合活性、酵素活性、酵素阻害活性、生理活性、接着活性、各種薬剤活性等が挙げられるが、これらに限定されない。機能性基は、機能性分子をアルキン化合物に結合させることによって生じる化合物において、当該機能性分子に由来する原子団から構成される基(機能性分子から誘導される基)であってもよい。また、機能性基は、タンパク質、糖、核酸等の生体高分子から誘導される基であってもよい。前記機能性分子の具体例としては、例えば、蛍光分子、発光分子、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、酵素、糖、ポリエチレングリコール、ステロイド、カルボン酸、アミン、コハク酸イミド等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
化合物(1)が化合物(1-az)である場合、工程(a)により得られる修飾RNAにはキャップ部位にアジド基が導入されている。工程(b1)では、前記アジド基に対して、銅触媒型アジド-アルキン環化付加(Cu-catalyzed azide alkyne cycloaddition:CuAAC)反応、又は歪み促進型アジド-アルキン付加環化(strain-promoted azid-alkyne cycloaddition:SPAAC)反応により、アルキン化合物を反応させることができる。例えば、アルキン化合物がプロパルギル基を有する場合には、CuAAC反応を利用することができ、銅触媒下で反応を行うことができる。また、アルキン化合物が環状アルキン構造を含む化合物である場合、SPAAC反応を利用することができ、銅触媒の非存在下で反応を行うことができる。これらの反応における反応条件は、特に限定されず、CuAAC反応又はSPAAC反応に一般的に用いられる反応条件を用いることができる。例えば、これらの反応は常温(20~38℃程度)で行うことができ、反応時間としては30~120分等が挙げられる。
【0055】
(工程(b2))
例えば、化合物(1)が、上記一般式(1)中のRr1又はRr2が、-OR1C≡CHである化合物(以下、化合物(1-pr)ともいう。)である場合、本態様にかかる製造方法は、上記工程(a)の後、さらに、アジド化合物を反応させる工程(b2)を含むことができる。
【0056】
化合物(1-pr)において、前記-OR1C≡CHは、プロパルギルオキシ基であることが好ましい。化合物(1-pr)の具体例としては、Opp3’GTPが挙げられる。
【0057】
本明細書において、「アジド化合物」とは、分子中にアジド基(-N=N+=N-)を有する化合物を意味する。アジド化合物の構造は、特に限定されず、所望の分子にアジド基を導入したものであってよい。例えば、アジド化合物は、機能性基を含むものであることができる。機能性基としては、上記で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0058】
化合物(1)が化合物(1-pr)である場合、工程(a)により得られる修飾RNAにはキャップ部位にプロパルギル基(-CH2-C≡CH)が導入されている。工程(b2)では、前記プロパルギル基に対して、CuAAC反応により、アジド化合物を反応させることができる。反応条件としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0059】
≪環状RNAの形成≫
本態様の製造方法は、上記工程(a)に加えて、さらに、RNAの3’末端にアルキン化合物又はアジド化合物を導入する工程を含んでいてもよい。そのような工程の具体例としては、例えば、下記工程(c1)及び(c2)が挙げられる。さらに、その後、環状RNAを生成する工程を含んでいてもよい。そのような工程の具体例としては、例えば、下記工程(d1)及び(d2)が挙げられる。
【0060】
(工程(c1))
化合物(1)が、化合物(1-az)である場合、本態様にかかる製造方法は、上記工程(a)に加えて、さらに、RNAの3’末端に、下記一般式(Ak-1)で表される化合物(以下、「化合物(Ak-1)」という)を結合させる工程(c1)を含むことができる。
【0061】
【化16】
[式中、Y
1は、2価の連結基を表し;Baseは、ヌクレオチド塩基を表す。]
【0062】
前記一般式(Ak-1)中、Y1は、2価の連結基を表す。前記2価の連結基としては、置換基を有していてもよい炭化水素基が挙げられる。前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよいが、脂肪族炭化水素基が好ましい。前記脂肪族炭化水素基は、炭素数3~50であることが好ましく、炭素数3~30であることがより好ましく、炭素数3~25であることがさらに好ましい。
前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環状であってもよいが、直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基が好ましく、直鎖状脂肪族炭化水素基がより好ましい。前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基であってもよく、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよいが、飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましい。好ましくは、Y1は、直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基である。
前記脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよい。前記置換基は、水素原子(-H)を1価の基で置換するものであってもよく、メチレン基を2価の基で置換するものであってもよい。前記水素原子を置換する1価の基としては、例えば、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アミノ基、及びアルコキシ基等が挙げられるが、これらに限定されない。前記メチレン基を置換する2価の基としては、例えば、-O-、-NHC(=O)-、-NH-、-C(=O)NH-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、及び-C(-O)-等が挙げられるが、これらに限定されない。前記脂肪族炭化水素基は、水素原子が置換されていないことが好ましく、メチレン基の一部が2価の基で置換されていることが好ましい。中でも、Y1は、メチレン基の一部が、-O-、又は-NHC(=O)-で置換された直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましい。Y1の具体例としては、例えば、-(CH2)m-NHC(=O)-(CaH2aO)n-が挙げられる。前記m及びnは、それぞれ独立して、1以上の整数であり、1~15の整数が挙げられる。mは、1~10の整数であることが好ましく、2~8の整数であることがより好ましく、3~7の整数であることがさらに好ましく、5又は6が特に好ましく、6が最も好ましい。前記nは、1~10の整数であることが好ましく、2~8の整数であることがより好ましく、3~7の整数であることがさらに好ましく、5又は6が特に好ましく、5が最も好ましい。aは、1~3の整数であり、1又は2が好ましく、2がより好ましい。
【0063】
前記一般式(Ak-1)中、Baseはヌクレオチド塩基を表す。ヌクレオチド塩基は、グアニン、シトシン、アデニン、及びウラシル、並びにこれらの誘導体からなる群より選択される。前記誘導体は、RNAの3’末端への結合が阻害されない限り特に限定されず、グアニン、シトシン、アデニン、又はウラシルの公知の誘導体を用いることができる。ヌクレオチド塩基は、好ましくは、グアニン、シトシン、アデニン、及びウラシルからなる群より選択され、より好ましくはシトシンである。
【0064】
化合物(Ak-1)の具体例としては、pCp-alkyneが挙げられる。
【0065】
【0066】
化合物(1-az)の具体例としては、N3
2’GTP及びN3
3’dGTPが挙げられる。
【0067】
RNAの3’末端への、前記化合物(Ak-1)の結合は、T4 RNAリガーゼの存在下で行うことができる。T4 RNAリガーゼは、核酸の5’末端のリン酸基を3’末端のヒドロキシ基に結合させる酵素であり、各種市販品(例えば、Ambion(登録商標) T4 RNA Ligase等)が利用可能である。T4 RNAリガーゼによるRNAの3’末端への化合物(Ak-1)の結合反応(ライゲーション反応)は、ATP存在下で行うことが好ましい。T4 RNAリガーゼによるライゲーション反応は、市販のT4 RNAリガーゼを用いる場合には、当該製品において推奨される条件に従って行えばよい。例えば、適当な緩衝液中で、RNA、化合物(Ak-1)、T4 RNAリガーゼ、及びATPを混合し、ライゲーション反応を行う。反応温度としては、例えば、3~20℃、反応時間としては、例えば、16~96時間等が挙げられる。
ライゲーション反応後は、市販のRNA精製キット等を用いて、RNAの精製を行ってもよい。
【0068】
工程(c1)は、下記Sheme(c1-1)に示すように、前記工程(a)の後に行ってもよい。あるいは、下記Sheme(c1-2)に示すように、工程(a)の前に行ってもよい。なお、下記Shemeでは、化合物(1)がN3
3’dGTPである場合を例として記載している。下記Sheme中、「5’-3’」における太線はRNA鎖を示す。
【0069】
【0070】
【0071】
工程(c1)を行うことで、RNAの3’末端に、アルキニル基を導入することができる。
【0072】
(工程(d1))
本態様にかかる製造方法は、前記工程(a)及び工程(c1)の後、さらに、前記工程(a)によりRNAの5’末端に導入されたアジド基と、前記工程(c1)によりRNAの3’末端に導入されたアルキニル基とを反応させて、環状修飾RNAを生成する工程(d1)を含んでいてもよい。
【0073】
前記アジド基とアルキニル基との反応は、上述のCuAAC反応により行うことができる。CuAAC反応における反応条件は、特に限定されず、CuAAC反応に一般的に用いられる反応条件を用いることができる。例えば、反応は常温(20~38℃程度)で行うことができ、反応時間としては30~120分等が挙げられる。
【0074】
CuAAC反応により、RNAの5’末端のアジド基と、3’末端のアルキニル基とを結合させることで、環状RNAを得ることができる。環状RNAは、遊離末端を有さないため、エキソヌクレアーゼによる分解を受けず、生体内での安定性の向上が見込まれる。
【0075】
(工程(c2))
化合物(1)が、化合物(1-pr)である場合、本態様にかかる製造方法は、上記工程(a)に加えて、さらに、RNAの3’末端に、下記一般式(Az-1)で表される化合物(以下、「化合物(Az-1)」という)を結合させる工程(c2)を含むことができる。
【0076】
【化20】
[式中、Y
2は、2価の連結基を表し;Baseは、ヌクレオチド塩基を表す。]
【0077】
前記一般式(Az-1)中、Y2は、2価の連結基を表す。前記2価の連結基としては、前記一般式(Ak-1)中のY1における2価の連結基と同様のものが挙げられ、好ましい例も同様のものが例示される。中でも、Y2は、メチレン基の一部が、-O-、又は-NHC(=O)-で置換された直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましい。Y2の具体例としては、例えば、-(CH2)m-NHC(=O)-(CaH2aO)n-(CH2)2-が挙げられる。前記m及びnは、前記一般式(Ak-1)中のY1で説明したものと同様である。中でも、mは5又は6が好ましく、6がより好ましい。nは3~7の整数が好ましく、3~6の整数がより好ましく、4がさらに好ましい。前記aは、前記一般式(Ak-1)中のY1で説明したものと同様である。aは、1又は2が好ましく、2がより好ましい。
【0078】
前記一般式(Az-1)中、Baseはヌクレオチド塩基を表す。ヌクレオチド塩基は、グアニン、シトシン、アデニン、及びウラシル、並びにこれらの誘導体からなる群より選択される。前記誘導体は、RNAの3’末端への結合が阻害されない限り特に限定されず、グアニン、シトシン、アデニン、又はウラシルの公知の誘導体を用いることができる。ヌクレオチド塩基は、好ましくは、グアニン、シトシン、アデニン、及びウラシルからなる群より選択され、より好ましくはシトシンである。
【0079】
化合物(Az-1)の具体例としては、pCp-azideが挙げられる。
【0080】
【0081】
化合物(1-pr)において、前記-OR1C≡CHは、プロパルギルオキシ基であることが好ましい。化合物(1-pr)の具体例としては、Opp3’GTPが挙げられる。
【0082】
RNAの3’末端への、前記化合物(Az-1)の結合は、上記工程(c1)と同様に、T4 RNAリガーゼの存在下で行うことができる。T4 RNAリガーゼによるライゲーション反応は、上記工程(c1)と同様に行うことができる。
ライゲーション反応後は、市販のRNA精製キット等を用いて、RNAの精製を行ってもよい。
【0083】
工程(c2)は、下記Scheme(c2-1)に示すように、前記工程(a)の後に行ってもよい。あるいは、下記Scheme(c2-2)に示すように、工程(a)の前に行ってもよい。なお、下記Schemeでは、化合物(1)がOpp3’GTPである場合を例として記載している。下記Sheme中、「5’-3’」における太線はRNA鎖を示す。
【0084】
【0085】
【0086】
工程(c2)を行うことで、RNAの3’末端に、アジド基を導入することができる。
【0087】
(工程(d2))
本態様にかかる製造方法は、前記工程(a)及び工程(c2)の後、さらに、前記工程(a)によりRNAの5’末端に導入されたアルキニル基と、前記工程(c2)によりRNAの3’末端に導入されたアジド基とを反応させて、環状修飾RNAを生成する工程(d2)を含んでいてもよい。
【0088】
前記アルキニル基とアジド基との反応は、上述のCuAAC反応により行うことができる。CuAAC反応における反応条件は、特に限定されず、前記工程(d1)と同様に、CuAAC反応に一般的に用いられる反応条件を用いることができる。
【0089】
CuAAC反応により、RNAの5’末端のアルキニル基と、3’末端のアジド基とを結合させることで、環状RNAを得ることができる。
【0090】
本態様にかかる製造方法は、さらに、キャップ化されていないRNAを除去する工程、及び修飾RNAを精製する工程等を含んでいてもよい。
【0091】
本態様にかかる修飾RNAの製造方法は、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素を用いることにより、種々のGTPアナログがキャップに導入された、種々の修飾RNAを得ることができる。後述する実施例で示すとおり、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素は、GTPアナログに対して幅広い基質特異性を示すため、種々のGTPアナログをRNAの5’末端に導入することができる。本態様にかかる製造方法では、所望のGTPアナログを準備する以外は、煩雑な有機合成を行う必要はなく、簡易に、種々の修飾RNAを得ることができる。
【0092】
本態様にかかる製造方法により得られる修飾RNAは、キャップ部位に種々の修飾を有し得る。そのため、安定性や翻訳活性の異なる修飾RNAを得ることができる。そのため、所望の安定性や翻訳活性を有する修飾RNAを選択して、発現ベクターとして用いることができる。例えば、遺伝子治療用ベクター、幹細胞作製用ベクター、遺伝子編集用ベクター等として用いることができる。
【0093】
さらに、クリックケミストリーを利用して、所望の機能を有する機能性基を導入することにより、所望の機能を修飾RNAに付加することができる。例えば、修飾RNAに、AF647等の蛍光分子を導入することにより、細胞内でのRNAの局在や動態を観察することができ、相互作用分子の同定等にも利用することができる。
【0094】
さらに、クリックケミストリーを利用して、環状RNAを生成することにより、エキソヌクレアーゼに対する耐性を高め、生体内での安定性を向上させることができる。
従来の方法で作製された環状RNAは、5’キャップを有さないため、翻訳を開始させるために、RNA配列中にIRES(internal ribosome entry site)を導入する必要があった(例えば、Wesselhoeft RA et al., Nat Commun. 2018 Jul 6;9(1):2629.)。IRESは、修飾塩基(例えば、ψ(シュードウラシル)、m1ψ、m5Cなど)の使用により翻訳活性がなくなることがあり、IRESを用いる場合には修飾塩基の使用が制限される場合がある。
一方、本態様にかかる製造方法で得られる環状RNAは、5’キャップを有するため、RNA配列中にIRES(internal ribosome entry site)を導入しなくても、翻訳が可能である。そのため、修飾塩基の導入による安定性の向上等の種々の改良を行い得る。
【0095】
[修飾RNA]
一態様において、本発明は、下記式(Cp-1)~(Cp-13)からなる群より選択される構造を5’末端に有する、修飾RNAを提供する。
【0096】
【0097】
【0098】
【化26】
[各式中、m
7Gは、N7-メチルグアニンを表し;*は、隣接するヌクレオシドの5’位の炭素原子に結合する結合手を表す。]
【0099】
上記式(Cp-1)~(Cp-13)でそれぞれ表される構造を5’末端に有する修飾RNA(RNA(Cp-1)~(Cp-13))は、上記態様の修飾RNAの製造方法により製造することができる。RNA(Cp-1)~(Cp-13)は、VCEの存在下で、RNAに、dGTP、araGTP、fGTP、Om2’GTP、Om3’GTP、NH2
2’GTP、NH2
3’dGTP、N3
2’GTP、N3
3’ dGTP、Opp3’GTP、EDA2’/3’GTP(RNA(Cp-11)及びRNA(Cp-12)を生成)、及びGTPαSをそれぞれ反応させることにより得ることができる。これらの構造を有するRNAは、安定性の向上が期待できる。また、ヒドロキシ基、アミノ基、アジド基、又はプロパルギル基等を利用して、任意の分子を導入することができる。
【0100】
中でも、RNA(Cp-8)~(Cp-10)は、クリックケミストリーを利用して所望の分子を導入することができる。例えば、上記工程(b1)又は工程(b2)のように、クリックケミストリーを使用して、下記一般式(Ca-1)~(Ca-3)でそれぞれ表される構造を5’末端に有する修飾RNAを得ることができる。したがって、一実施形態において、本発明は、下記一般式(Ca-1)~(Ca-3)からなる群より選択される構造を5’末端に有する修飾RNAもまた提供する。
【0101】
【化27】
[各式中、m
7Gは、N7-メチルグアニンを表し;*は、隣接するヌクレオチド残基の5’位の炭素原子に結合する結合手を表す。R
a1およびR
a2は、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表す。但し、R
a1及びR
a2の少なくとも1つは有機基である。R
a1及びR
a2の両方が有機基である場合、それらは相互に結合して環構造を形成してもよい。R
a3は有機基を表す。]
【0102】
上記式(Ca-1)又は(Ca-2)中、Ra1及びRa2は、それぞれ独立に、水素原子又は有機基を表す。前記有機基は、特に限定されず、所望の構造であることができる。好ましい態様において、Ra1及びRa2のいずれか一方は、機能性基を含む有機基である。また、Ra1及びRa2の両方が、機能性基を含む有機基であってもよい。前記有機基が含む機能性基の数は、特に限定されず、所望の数とすることができる。Ra1及びRa2が複数の機能性基を含む場合、前記複数の機能性基は、互いに同じものであってもよく、異なるものであってもよい。機能性基としては、上記「[修飾RNAの製造方法]」で例示したものと同様のものが挙げられる。
Ra1及びRa2は、ともに水素原子となることはなく、少なくとも一方は有機基である。また、Ra1及びRa2の両方が有機基である場合、Ra1及びRa2は、相互に結合して環構造を形成してもよい。
【0103】
上記式(Ca-3)中、Ra3は、有機基である。前記有機基は、特に限定されず、所望の構造であることができる。好ましい態様において、Ra3は、機能性基を含む有機基である。Ra3が含む機能性基の数は、特に限定されず、所望の数とすることができる。Ra3が複数の機能性基を含む場合、前記複数の機能性基は、互いに同じものであってもよく、異なるものであってもよい。機能性基としては、上記「[修飾RNAの製造方法]」で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0104】
上記式(Ca-1)で表される構造の具体例としては、例えば、下記式(Ca-1-1)で表される構造が例示される。また、上記式(Ca-2)で表される構造の具体例としては、例えば、下記式(Ca-2-1)で表される構造が例示される。したがって、本発明は、下記式(Ca-1-1)及び(Ca-2-1)からなる群より選択される構造を5’末端に有する修飾RNAもまた提供する。
【0105】
【化28】
[各式中、m
7Gは、N7-メチルグアニンを表し;*は、隣接するヌクレオチド残基の5’位の炭素原子に結合する結合手を表し;AMは機能性基を表す。]
【0106】
また、式(Cp-8)~(Cp-10)でそれぞれ表される構造を5’末端に有するRNAは、クリックケミストリーを利用して、環状RNAとすることができる。例えば、上記工程(c1)及び工程(d1)あるいは上記工程(c2)及び工程(d2)のように、クリックケミストリーを使用して、下記一般式(Ci-1)~(Ci-3)でそれぞれ表される構造を有する環状修飾RNAを得ることができる。したがって、一実施形態において、本発明は、下記一般式(Ci-1)~(Ci-3)からなる群より選択される構造を有する環状修飾RNAもまた提供する。
【0107】
【0108】
【化30】
[式中、m
7Gは、N7-メチルグアニンを表し;Y
1及びY
2は、それぞれ独立して、2価の連結基を表し;Baseは、それぞれ独立して、ヌクレオチド塩基を表し、*は、隣接するヌクレオチド残基の5’位の炭素原子に結合する結合手を表し、**は、隣接するヌクレオチド残基の3’位の炭素原子に結合する結合手を表す。]
【0109】
前記式(Ci-1)及び(Ci-2)中、Y1は、上記一般式(Ak-1)中のY1と同様であり、好ましい例も同様のものが挙げられる。中でも、Y1の好ましい例としては、*1-(CH2)m-NHC(=O)-(CH2O)n-*2が挙げられる。前記式中、*1は、式(Ci-1)又は(Ci-2)中の酸素原子に結合する結合手であり、*2には、式(Ci-1)又は(Ci-2)中のメチレン基における炭素原子に結合する結合手である。Y1の具体例としては、*1-(CH2)6-NHC(=O)-(CH2O)5-*2が挙げられる。
Baseは、それぞれ独立して、ヌクレオチド塩基を表し、前記式(Ak-1)中のBaseと同様であり、好ましい例も同様のものが挙げられる。Baseの具体例としては、シトシンが挙げられる。
【0110】
前記式(Ci-3)中、Y2は、上記一般式(Az-1)中のY2と同様であり、好ましい例も同様のものが挙げられる。中でも、Y2の好ましい例としては、*3-(CH2)m-NHC(=O)-(CH2O)n-(CH2)2-*4が挙げられる。前記式中、*3は、式(Ci-3)中の酸素原子に結合する結合手であり、*4には、式(Ci-3)中の窒素原子に結合する結合手である。Y2の具体例としては、*3-(CH2)6-NHC(=O)-(CH2O)4-(CH2)2-*4が挙げられる。
Baseは、それぞれ独立して、ヌクレオチド塩基を表し、前記式(Ak-1)中のBaseと同様であり、好ましい例も同様のものが挙げられる。Baseの具体例としては、シトシンが挙げられる。
【0111】
本態様にかかるRNAは、遺伝子治療や幹細胞作製のためのベクターとして用いたり、RNAの細胞内動態の観察、及び相互作用分子の探索等に用いたりすることができる。
【実施例】
【0112】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0113】
[材料]
(修飾ヌクレオチド)
m7GTP(Santa Cruz Biotechnology)、dGTP(Toyobo)、Opp3’GTP、及びEDA2’/3’GTP(Jena Bioscience)を使用した。他のGTPアナログは、TriLink社から購入した。
【0114】
(酵素)
Vaccinia virus由来のキャッピング酵素(VCE)としては、ScriptCap m7G Capping System(CellScript)を使用した。
【0115】
[実施例1]GTPアナログのキャッピング効率の評価
<方法>
様々なGTPアナログを用いて、VCEによるRNAのキャッピング反応を行い、GTPアナログのキャッピング効率を評価した。RNAに対するキャップの付加を明瞭に検出するために、11ヌクレオチド長(nt)の短鎖RNA(5’-GGGCGAAUUAA-3’(配列番号1):レポーターmRNAの5’UTRの5’末端と同じ配列)を合成して使用した。目的配列の上流にT7プロモーター配列を有する二本鎖DNAを転写用テンプレートとして準備し、MEGAshortscript T7 Transcription Kit(Thermo Fischer Scientific)を用いて、一晩、転写反応を行った。転写時に生じる、RNAの3’端への余分なヌクレオチドの付加を抑制するために、転写反応は42℃で行った。転写反応後、転写反応物の変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(変性PAGE)を行い、目的サイズのRNAを切り出して精製した。
【0116】
前記の精製した短鎖RNAに対して、VCEを用いて、キャッピング反応を行った。200pmolのRNAに対して、20nmolのGTPアナログ及び8unitのVCEを使用し、37℃で、1時間又は24時間反応させた。キャッピング反応後、キャッピング反応物の変性PAGEを行い、SYBR Green II(Lonza)で染色後、ゲルをTyphoon FLA 7000(GE Healthcare)で観察した。キャッピング効率は、キャップ化されたRNAとキャップ化されていないRNAのバンド強度比から、Image Quant(GE Healthcare)を用いて計算した。各実験はそれぞれ3回以上行い、平均値と標準偏差を算出した。
【0117】
<結果>
図2に記載のGTPアナログについて、キャッピング効率を確認した結果を
図3に示す。各GTPアナログのキャッピング効率は、GTPアナログが付加したRNAの量と未反応RNAの量から算出した。複数のGTPアナログ(例えば、dGTP(#11)、Om
3’GTP(#16)等)で、GTPと同等程度のキャッピング効率が確認された。
また、
図3でキャッピング効率が低かったGTPアナログについて、キャッピング反応におけるGTPアナログ及びVCEの濃度を変更したときのキャッピング効率を
図4に示す。Om
2’GTP(#15)では、GTPアナログの濃度を2倍にすることにより、キャッピング効率が大きく改善した。また、GTPアナログとともにVCE濃度を2倍にすることにより、m
1GTP(#2)、m
6GTP(#3)、及びITP(#9)のキャッピング効率が改善した。
【0118】
表1に、
図3及び
図4の結果をまとめた。表1中、「A」はキャッピングが認められたもの、「B」はキャッピングが認められないかキャッピング効率が低いものを示す。
【0119】
【0120】
[実施例2]キャップ修飾mRNAの細胞内翻訳活性の評価
<方法>
(キャップ修飾mRNAの作製)
蛍光タンパク質Azami-Green(hmAG1)をコードするプラスミドを鋳型として、KOD-Plus-Neo(TOYOBO)を使用したPCRを行い、mRNA転写用テンプレート用のDNA断片を増幅した。次いで、QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen)を使用し、増幅産物を精製した。前記増幅産物を転写用テンプレートとして、MEGAscript T7 Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて、37℃で、6時間、転写反応を行った。前記転写反応には、RNAを細胞に導入した際に起こる免疫応答を抑制するために、CTP及びUTPの代わりに、5-Methyl-CTP(TriLink)及びPseudo-UTP(TriLink)をそれぞれ使用した。前記転写反応により得られたmRNAは、DNase処理後、RNeasy MinElute Cleanup Kit(Qiagen)を用いてカラム精製した。
GTP アナログによるmRNAのキャッピングは、VCEを使用して行った。50 pmolのmRNAに対して、20 nmolのGTPアナログ及び8 unitのVCEを使用し、37℃で、1時間又は24時間反応させた。キャッピング効率の低いGTPアナログによるキャッピング反応では、GTPアナログ及びVCEの量を前記の量の2倍に増やした。
【0121】
キャッピング反応後、キャップ化されていないmRNAを分解して除去した。キャップ化されていないmRNAの除去は、以下のように行った。キャッピング反応を行ったmRNAに対して、Antarctic phosphatase(New England Biolabs)による脱リン酸化、及びT4 Polynucleotide kinase(Takara)によるリン酸化を行い、キャップ化されていないmRNAの5’末端を一リン酸化した。次いで、一リン酸化されたRNAのみを特異的に分解する酵素であるTerminator 5’-Phosphate-Dependent Exonuclease(Epicentre)を用いて、30℃で、1時間、キャップ化されていないmRNAの分解反応を行った。これにより、キャップ修飾mRNAを精製した。
【0122】
トランスフェクションコントロールとして、iRFP670 mRNAを用いた。hmAG1 mRNAと同様の方法で、iRFP670 mRNAの転写用テンプレートを作製した。前記iRFP670 mRNAの転写用テンプレートを用いて、ARCA(Anti-reverse cap analog:TriLink)とGTPとの混合物(4:1)をGTPの代わりに加えて、転写反応を行った。ARCA存在下での転写反応では、5’末端にARCAが取り込まれず、5’三リン酸を有するRNAも生成される。前記5’リン酸基に由来する免疫応答や細胞死を防ぐために、転写産物は脱リン酸化処理を行ってからトランスフェクションに使用した。
【0123】
(ヒト細胞における翻訳活性の評価)
トランスフェクションの24時間前に、24ウェルプレートにHeLa細胞又はHEK293FT細胞を播種した。HeLa細胞は0.5×105細胞/ウェルに、HEK293FT細胞は1.0×105細胞/ウェルになるようにした。作製した修飾キャップ化 hmAG1 mRNA(100ng)を、iRFP670 mRNA(100ng)とともに、Lipofectamine MessengerMAX(Invitrogen)を使用してトランスフェクションした。トランスフェクションの4時間後に培地交換を行い、トランスフェクションの24時間後に蛍光顕微鏡(IX81:Olympus)及びフローサイトメーター(BD Accuri C6:BD Biosciences)を用いて、蛍光タンパク質の発現レベルを調べた。フローサイトメーターによる測定結果は、FlowJo(BD Biosciences)を用いて解析した。Azami-Greenの発現レベルは、共導入したiRFP670の発現レベルで標準化した。各実験は、それぞれ3回行った。
【0124】
<結果>
5’末端キャップの化学修飾は、翻訳開始やmRNAの安定性に影響を及ぼし、翻訳活性を変化させる可能性がある。そこで、実施例1で高いキャッピング効率が確認されたGTPアナログについて、当該GTPアナログによる5’末端キャップのキャップを有するmRNAを作製し、ヒト細胞にトランスフェクションして、ヒト細胞内での翻訳活性を調べた。
【0125】
結果を
図5A、B(HeLa細胞)及び
図6A,B(293FT細胞)に示す。
図5A及び
図6Aは、蛍光顕微鏡による観察結果であり、
図5B及び
図6Bは、フローサイトメーターによる測定結果である。実施例1で、GTPによるキャップ構造と同じキャップ構造になるm
7GTP(#1)のキャッピング効率がよいことが確認されたため、m
7GTPでキャップ化したmRNAをRNA standardとして使用した。
HeLa細胞及び293FT細胞での結果は、いずれも同様の傾向を示した。m
6GTP(#3)、dGTP(#11)、fGTP(#14)、Om
3’GTP(#16)及びGTPαS(#24)は、m
7GTP(#1)よりも高い翻訳活性を示した。Om
2’GTP(#15)、及びNH
2
2’GTP(#17)は、m
7GTP(#1)と同程度の翻訳活性を示した。araGTP(#13)、N
3
2’GTP(#19)、及びN
3
3’dGTP(#20)では、翻訳活性が若干低下したが、低下の幅は小さかった。m
1GTP(#2)、Cl
6GTP(#6)、ITP(#9)、NH
2
3’dGTP(#18)、及びOpp
3’GTP(#21)では、翻訳活性が低下した。
以上の結果から、VCE及び種々のGTPアナログを用いて、RNAの5’末端に種々の構造のキャップを付加することにより、様々な翻訳活性を有するRNAを作製できることが確認された。
【0126】
[実施例3]5’キャップの修飾
<方法>
(バイオコンジュゲーション)
実施例1で作製した短鎖RNAに対して、GTP、N3
2’GTP、又はN3
3’dGTPを用いてVCEによるキャッピング反応を行った。キャッピング反応は、GTPアナログとして前記のものを用いた以外は、実施例1と同様に行った。キャッピング反応後、変性PAGEを行い、キャッピングされたRNA画分をゲルから切り出して精製した。得られたRNAの200pmolを、100nmolのDBCO-biotin(Dibenzocyclooctyne-PEG4-biotin conjugate、Aldrich)又はDBCO-AF647(AF 647 DBCO、Click Chemistry Tools)と混合し、1×TBS(Tris-buffered saline:50mM Tris,150mM NaCl,pH7.6)、及び25%DMSO(dimethyl sulfoxide)を含む反応液中で、37℃で、1時間反応させた。反応後、エタノール沈殿により未反応のDBCOを除去した後、変性PAGEを行い、Typhoon FLA 7000で観察した。
【0127】
(HeLa細胞における蛍光標識mRNAの可視化)
実施例2で作製したhmAG1のmRNAに対して、GTP、N3
2’GTP、又はN3
3’dGTPを用いてVCEによるキャッピング反応、及びキャッピングされていないRNAの分解処理を行った。キャッピング反応及びキャッピングされていないRNAの分解処理は、GTPアナログとして前記のものを用いた以外は、実施例2と同様に行った。前記mRNAの約11pmolを100nmolのDBCO-AF647と混合し、1×TBS(Tris-buffered saline:50mM Tris,150mM NaCl,pH7.6)、及び25%DMSOを含む反応液中で、37℃で、1時間反応させた。反応後、反応液のカラム精製を行った後、変性PAGEを行い、mRNAが蛍光標識されていること及び未反応色素の持ち込みがないことを確認した。
トランスフェクションの24時間前に、0.5×105細胞/ウェルとなるようにHeLa細胞をガラスボトム24ウェルプレート(Greiner)に播種した。Lipofectamine MessengerMAXを使って、500ngのhmAG1 mRNAを前記細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションの4時間後に、PBSで細胞を洗浄し、1%パラホルムアルデヒド溶液処理を20分間行い固定した。その後、Hoechst 33342 (Thermo Fisher Scientific)で染色し、共焦点顕微鏡(LSM710、Carl Zeiss)で観察を行った。
【0128】
<結果>
VCEによりキャッピングに使用できたGTPアナログの中には、一級アミノ基やアジド基、プロパルギル基(アルキン)を持つものが含まれていた。これらの官能基は、タンパク質や核酸といった生体分子に機能性分子を共有結合で連結させるバイオコンジュゲーションに広く利用されている。そのため、これらの官能基を有する5’末端キャップには、バイオコンジュゲーション技術によりさらなる修飾を施すことができると考えられる。そこで、典型的なクリックケミストリーの一種であるアジド-アルキン間の反応を利用し、キャップ中のアジド基に、機能性分子を導入することを試みた。アルキンとしてDBCO(Dibenzocyclooctyne)を含む2種の機能性分子(DBCO-biotin、DBCO-AF647:
図7参照)を用い、SPAAC(strain-promoted azide-alkyne cycloaddition)反応を利用して、アジド基を有するキャップ化RNAを修飾した(
図8参照)。
その結果を
図9に示す。アジド基を有するキャップ化RNAに対して、特異的にビオチン又は蛍光色素を付加することができた。
【0129】
次に、アジド基を有するキャップ化mRNAに、SPAAC反応を利用して蛍光色素AF647を導入した。
図10に示すように、アジド基を有するキャップ化RNAに特異的に、AF647が導入(AF647標識)されていることが確認できた。
【0130】
次に、前記AF647標識mRNA又はAF647非標識mRNAをHeLa細胞にトランスフェクションし、細胞内で導入mRNAを検出できるかを確認した。
その結果を
図11に示す。
図11は、AF647標識mRNA又はAF647非標識mRNAを導入した細胞の共焦点顕微鏡画像である。AF647標識mRNAを導入した細胞では、細胞質中に顆粒状に存在するAF647の赤色蛍光が検出できた。
以上の結果から、VCEによるGTPアナログでのキャッピングとバイオコンジュゲーション技術を組み合わせることにより、様々な機能性分子をRNAのキャップ部位に導入できることが示された。
【0131】
[実施例4]環状RNAの生成
<方法>
実施例2と同様に、hmAG1のmRNAを試験管内転写法で合成し、カラム精製を行った。前記mRNA 100pmolを、200pmolのpCp-alkyne(Jena Bioscience)、20unitのT4 RNA Ligase(Ambion)、及び500pmolのATPを含む反応液中で、16℃で48時間反応させた。反応産物はRNeasy MinElute Cleanup Kit(Qiagen)で精製した。精製で得られたRNAの5’端を、実施例2と同様の条件で、N3
3’dGTPでキャッピングし、RNeasy MinElute Cleanup Kit(Qiagen)を用いて精製した。得られたRNA 10pmolを、0.1mM CuSO4、0.5mM BTTAA(Click Chemistry Tools)、25mM リン酸バッファー、20% DMS、及びO、5mM アスコルビン酸を含む反応液中で、25℃で1時間反応させた。その後、エタノール沈殿で精製し、得られたRNAを変性PAGEで確認した。
【0132】
<結果>
N
3
3’dGTPでキャッピングし、3’末端にpCp-alkyneを導入したRNAにおいて、CuAAC反応を行うことで、
図12に示すように環状化RNAが得られると考えられる。
変性PAGEの結果、N
3
3’dGTPでキャッピングし、3’末端にpCp-alkyneを導入したRNA(N
3
3’dG-hmAG1-alkyne)では、電気泳動の易動度の小さいバンドが確認された(
図13参照)。一方、天然型のキャップを有するRNA(m
7G-hmAG1)、天然型のキャップを有するRNAの3’末端にpCp-alkyneを導入したRNA(m
7G-hmAG1-alkyne)、及びN
3
3’dGTPでキャッピングし、3’末端にpCp-alkyneを導入していないRNA(N
3
3’dG-hmAG1)では、そのようなバンドは確認できなかった。この結果から、N
3
3’dGTPでキャッピングし、3’末端にpCp-alkyneを導入したRNAでは、環状RNAが生成していると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明によれば、簡易に、種々の修飾を5’キャップ部位に導入可能なRNAのキャッピング方法、前記キャッピング方法を利用した修飾RNAの製造方法、及び前記修飾RNAの製造方法により製造された新規修飾RNAが提供される。
【配列表】