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特許7529288アルカリ金属鉄酸塩製造用電気化学セルにおいて使用するためのポリプロピレン系またはポリエチレン系のセパレーター
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  • 特許-アルカリ金属鉄酸塩製造用電気化学セルにおいて使用するためのポリプロピレン系またはポリエチレン系のセパレーター 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】アルカリ金属鉄酸塩製造用電気化学セルにおいて使用するためのポリプロピレン系またはポリエチレン系のセパレーター
(51)【国際特許分類】
   C25B 13/08 20060101AFI20240730BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20240730BHJP
   C25B 1/01 20210101ALI20240730BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20240730BHJP
【FI】
C25B13/08 301
C01G49/00 J
C25B1/01 C
C25B9/19
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021574214
(86)(22)【出願日】2020-06-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-27
(86)【国際出願番号】 HU2020050024
(87)【国際公開番号】W WO2020249988
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】P1900214
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】HU
(73)【特許権者】
【識別番号】521545433
【氏名又は名称】エトヴェシュ ロラーンド トゥドマニーエジェテム
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラング、ジョーゼ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルガ、イムレ ペーテル
(72)【発明者】
【氏名】ザーライ、ジューラ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルガ、ヨーゼフ
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/069892(WO,A2)
【文献】特開2007-254878(JP,A)
【文献】特開2018-100434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B13/00-13/08
C25B1/00-1/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード区画と、カソード区画とを電気化学セルにおいて隔てるためのセパレーターであって、
a)ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される支持体、および
b)項目a)による前記支持体に沈積するFe(III)含有沈殿物
を含むセパレーター。
【請求項2】
前記支持体における細孔サイズの算術平均がおよそ1~100マイクロメートルであり、好ましくはおよそ10~50マイクロメートルである、請求項1に記載のセパレーター。
【請求項3】
前記支持体における繊維厚さが5~50マイクロメートルであり、好ましくは10~25マイクロメートルである、請求項2に記載のセパレーター。
【請求項4】
前記支持体が織り支持体または不織り支持体であり、好ましくは不織布である、請求項1~3のいずれか一項に記載のセパレーター。
【請求項5】
前記不織り支持体の厚さが好ましくは0.1~1mmであり、好ましくは0.15~0.5mmであり、より好ましくは0.2~0.3mmである、請求項4に記載のセパレーター。
【請求項6】
前記不織り支持体がおよそ5~100g/mの表面密度を有し、好ましくはおよそ15~70g/mの表面密度を有し、より好ましくはおよそ25~40g/mの表面密度を有する、請求項4または5に記載のセパレーター。
【請求項7】
前記Fe(III)含有沈殿物が、Fe(OH)、FeおよびFeO(OH)を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のセパレーター。
【請求項8】
前記Fe(III)含有沈殿物が風乾状態のものである、請求項1~7のいずれか一項に記載のセパレーター。
【請求項9】
アノード空間と、カソード空間とを電気化学セルにおいて隔てるためのセパレーターを製造するためのプロセスであって、下記のプロセス変法:
a)ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される支持体が1つまたは複数の水溶性のFe(II)塩および/またはFe(III)塩の水溶液に漬けられ、次いでアルカリ水溶液に浸漬され、ただし、Fe(II)塩の場合には酸素雰囲気(好ましくは空気雰囲気)の使用が必須であり、次いで、Fe(III)含有沈殿物が沈積した後で、前記支持体が蒸留水によりすすがれ、所望されるならば、乾燥される、プロセス変法;
b)ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される支持体がアルカリ性水溶液に漬けられ、次いで1つまたは複数の水溶性のFe(II)塩および/またはFe(III)塩の水溶液に浸漬され、ただし、Fe(II)塩の場合には酸素雰囲気(好ましくは空気雰囲気)の使用が必須であり、次いで、Fe(III)含有沈殿物が沈積した後で、前記支持体が蒸留水によりすすがれ、所望されるならば、乾燥される、プロセス変法;
c)ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される支持体が1つまたは複数の鉄酸塩(好ましくはNaFeOおよび/またはKFeO)の溶液に漬けられ、次いで蒸留水に浸漬され、Fe(III)含有沈殿物が沈積した後で、布地が蒸留水によりすすがれ、所望されるならば、乾燥される、プロセス変法;
d)ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される支持体が蒸留水に漬けられ、次いで1つまたは複数の鉄酸塩(好ましくはNaFeOおよび/またはKFeO)の溶液に浸漬され、Fe(III)含有沈殿物が沈積した後で、布地が蒸留水によりすすがれ、所望されるならば、乾燥される、プロセス変法;または
e)アルカリ金属鉄酸塩(好ましくはNaFeOおよび/またはKFeO)の既知条件のもとでの電解時において、ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される支持体が、前記アノード区画と、前記カソード区画とを隔てるために使用され、次いで、Fe(III)含有沈殿物が前記支持体に沈積した後で、前記支持体が蒸留水によりすすがれ、所望されるならば、乾燥される、プロセス変法
から選択されるプロセス。
【請求項10】
前記プロセスで適用される前記支持体が、請求項2~において定義される支持体である、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
アノード区画と、カソード区画とをアルカリ金属鉄酸塩の製造のための電気化学セルにおいて隔てるための、請求項1~8のいずれか一項に記載のセパレーターおよび請求項9~10のいずれか一項に記載のプロセスによって調製されるセパレーターの使用。
【請求項12】
前記アルカリ金属がナトリウムまたはカリウムであり、好ましくはナトリウムである、請求項11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、アルカリ金属鉄酸塩を製造するための電解(電気分解)セルのアノード区画とカソード区画とを隔てるために使用することができる超低抵抗のポリプロピレン系またはポリエチレン系の複合セパレーター(これは膜または隔膜としてもまた知られている)である。
【背景技術】
【0002】
その無機化学的特徴によれば、MeFeO、MeMeFeOまたはMeFeOの式による鉄酸塩は形式的には、遊離状態では知られていないFe(VI)を含有する鉄酸(HFeO)の塩であるとみなすことができる。これらの塩は固体状態では黒っぽい色をしており、溶液中では通常、黒紫色、青紫色または紫色である(それらのより希釈された溶液はピンク色である)。
【0003】
鉄酸塩は非常に反応性であり、空気または水と触れると分解する。これは、鉄酸塩が非常に強い酸化剤であるからであり、鉄酸塩はまた、(水溶液中ではFe(III)に還元される間に)水をゆっくり酸化する。鉄酸塩は酸性pHまたは中性pHの溶液では速やかに分解し、強アルカリ性溶液では比較的ゆっくり分解する。安定化鉄酸塩の製造は通常、非常に多数の処理工程を介して行われ、かなりの合成的作業を必要とする。輸送および包装の費用もまた、空気および水分を含まない包装が貯蔵寿命のために要求されるのでかなり大きい。これは通常、アンプルを使用することによって解決される。
【0004】
鉄酸塩のための「伝統的な」製造方法は、固体の反応相手から出発するものであり、一般には「乾式法」と呼ばれる。水溶液での鉄酸カリウムの合成化学的調製については、G.W.Thompson、L.T.OckermanおよびJ.M.Schreyerにより、方法が1951年に提案された[G.W.Thompson,L.T.Ockerman,J.M.Schreyer,Preparation and purification of potassium ferrate(VI),Journal of the American Chemical Society 73(1951)1379-1381.]。
【0005】
実際には、電気化学的製造が従来の合成化学的調製よりも好まれる。鉄(鋳鉄)の陽極溶解中に、鉄酸形成が1841年にPoggendorfによって最初に認められた[J.C.Poggendorff,Sitzungsberichte der Akademie der Wissenschaften zu Berlin 263(1841)312.es J.C.Poggendorf,Ueber die Frage,ob es wirksame galvanische Ketten ohne primitive chemische Action gebe,und uber die Bildung der Eisensaure auf galvanischem Wege,Annalen der Physik und Chemie 54(1841)353-377]。前世紀の初めに、F.HaberおよびW.Pickが鉄酸塩生成の可能性についていくつかの論文で議論していた。これらの中のおそらく最も興味深いものが、1901年にW.PickおよびF.Haberによって発表された研究「Uber die elektrochemische Bildung eisensaurer Alkalisalze」(鉄酸アルカリ塩の電気化学的生成について)である[W.Pick,F.Haber,Uber die elektrochemische Bildung eisensaurer Alkalisalze,Zeitschrift fur Elektrochemie 17(1901)713-724]。その後100年を超えて、いくつかの試みが、鉄酸塩を化学的に、また電気化学的に製造するために行われている。鉄酸塩の調製が、主にNaOHまたはKOHの高濃度溶液において、あるいは異なる組成の混合物において試みられている。鉄酸塩の電気化学的製造がハンガリー国特許出願番号P1600474によって改善されており、その基本的考えが、電解中において金属溶解状態を酸素発生よりも優先させるパラメーターを適用するために、電極表面を電解質温度よりも高い温度で保つことである。開発された電気化学セルにおいて、アノードと、カソードとが通常、ポリプロピレンフィルムとして記載されるセパレーター(隔膜)によって隔てられる。
【0006】
鉄酸塩(典型的には鉄酸ナトリウムまたは鉄酸カリウム)の電気化学的製造における非常に大きな問題の1つが、化学的に、また電気化学的に両方で非常に攻撃的な媒体によって引き起こされると述べることができる。強アルカリ性であり、しかも強い酸化性を有する電解液の存在は、使用することができる構造材料の範囲を著しく制限しており、市販材料の中ではポリプロピレン(PP)およびポリエチレン(PE)だけが安全に使用される。セパレーター(隔膜、膜)は、アノードでの鉄酸イオンと、カソードでの溶存水素との間における接触を防止するために電解セルにおいて使用されなければならない。セパレーターはまた、工業用途において長期間にわたって安定したままである、攻撃的媒体に対して抵抗性の材料から作製されなければならない。鉄酸塩の製造のために使用されるセルでは、かなり高価であり、かつ、多くの場合にはナフィオンタイプ[ポリ(テトラフルオロエチレン)(Teflon(商標))骨格と、ペルフルオロスルホン酸側鎖とを有するフルオロポリマーコポリマー]の比較的大きい抵抗を有する様々なイオン交換/イオン伝導膜が通常の場合、使用される(特許文献の中国特許CN1233876Cもまた過フッ素化膜をその例で開示することは注目される)。これらの膜の短所の1つが、その抵抗が比較的大きいこと、およびこれらの膜は、セルにおいて形成されるFe(III)含有沈殿物によって容易に詰まる可能性があることである。
【0007】
これまでの試みは、微孔性のポリエチレン/ポリプロピレン膜(これはフィルムとしてもまた知られる)を使用するために行われていることが知られている。微孔性膜については、セル抵抗が、「ナフィオンタイプ」のイオン伝導膜よりもさらに大きい。これがおそらくは、本発明者らの知る限りで、誰もが2005年以降は微孔性膜を半工業的規模でさえ使用していない理由である。
【0008】
ポリプロピレン製およびポリエチレン製の織布および不織布(「フェルト」または「フリース」)(フェルト様織物)が市販されており、これらは、工業用布地として主に使用されるものであり、例えば、家具産業において大量に製造されており、しかし、作業服および防護服、機械工学、絶縁/断熱および遮蔽からの様々な分野での様々な用途でもまた製造されており、したがって、非常に安価に入手可能である(例えば、Monopolist 2000によって製造されるPGX S-30)。
【0009】
本発明者らの実験では驚くべきことに、上記材料から作製される好適な厚さおよび細孔サイズの布地に、Fe(III)酸化物水酸化物を含有する沈殿物を沈殿させることが、アルカリ金属鉄酸塩の電気化学的製造のためのアルカリ性媒体におけるセパレーターとして効果的に使用することができる「複合」膜を形成させるために使用できることが見出されている。
【0010】
本発明によるポリプロピレン製およびポリエチレン製の織布および不織布(「フェルト」または「フリース」)の使用、すなわち、アノード区画と、カソード区画とを隔てるためにアルカリ金属鉄酸塩製造のための電気化学セル(電解セル)において使用することができるセパレーターを製造するためのそのような織布および不織布の使用が先行技術により教示されているかどうかを明らかにするために、先行技術が再検討された。
【0011】
特許文献の中国特許番号CN1233876Cには、電解による固体鉄酸カリウムの調製が開示されており、この場合、標的化合物が鉄含有電極による陽極酸化によって水酸化カリウム溶液中で調製される。明細書によれば、プロセスが、セパレーターとしての膜を含有する電解槽において高濃度KOH溶液中で行われる。膜はとりわけ、「微孔性ポリエチレン膜」または「ポリエチレン膜」または「微孔性膜」である場合がある(ペルフルオロカーボン膜が例では使用される)。不織り物は明細書において述べられておらず、その結果、(高抵抗の)微孔性膜のみがこの明細書では教示される。
【0012】
特許文献の特開JP2002151038Aは、カソード区画と、アノード区画とを隔てる、アルカリ電池で使用されるセパレーターに関する。使用されるセパレーターは、不織布または多孔性フィルムであることが可能であるポリオレフィン樹脂から作製される。しかしながら、前記電気化学セルは鉄酸塩製造のためのものではなく、したがって、Fe(III)含有沈殿物が膜に沈積し、これにより、鉄酸塩製造のための電気化学セルにおける非常に重要な利点(下記参照)がもたらされる本発明によるセパレーターは、明細書において何ら言及されていない。
【0013】
特許文献の中国特許番号CN102487132Aには、電池において使用するための、イオン移動を保証するセパレーターが開示される。開示によれば、セパレーターは、アルキレン(オレフィン)タイプまたはアルキレン塩タイプのコポリマーが適用される層状多孔質支持体の膜であって、下側の層状多孔質支持体もまたポリプロピレン系の不織り繊維物である場合がある、膜を含む。調製時において、可塑剤および1つまたは複数の様々な無機化合物(塩、水酸化物または酸化物)が加えられる(この場合、水酸化物には、Fe(III)水酸化物が含まれることがある)。得られた膜の組成は本発明の組成と著しく異なっており、鉄酸塩製造に関連しない(述べられたように、製造された膜は電池において使用される)。
【0014】
特許文献の米国特許第7,054,051号(B2)は、少なくとも2つの水酸化物を含有する水溶液において鉄含有アノードを使用し、第二鉄塩または第一鉄金属粒子を第二鉄イオン源として加え、しかし、アノードとカソードとのセパレーターを使用しない(「無セパレーター」型の)電気化学プロセスによる鉄酸(VI)塩の調製に関する。
【0015】
上記文献は本発明による解決策を記載しておらず、また、本発明による解決策を達成するために互いに組み合わせることができないと結論づけることができる。これは、それらのどれもが、Fe(III)含有沈殿物を鉄酸塩製造におけるセパレーターに沈積させることが好都合であろうことを示唆していないからである。
【発明の概要】
【0016】
1.アノード区画と、カソード区画とを電気化学セルにおいて隔てるためのセパレーターであって、
a)ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される支持体、および
b)項目a)による支持体に沈積するFe(III)含有沈殿物
を含むセパレーター。
【0017】
本発明の基本的実施形態の1つにおいて、セパレーターは上記構成要素からもっぱらなる。この場合、本発明は下記の表現によって記載される。
【0018】
アノード区画と、カソード区画とを電気化学セルにおいて隔てるためのセパレーターであって、
a)ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される支持体、および
b)項目a)による支持体に沈積するFe(III)含有沈殿物
からなるセパレーター。
【0019】
この場合、繊維間の空間が周囲の雰囲気によって満たされる(真空の場合には空所)。すなわち、液体電解質もしくは固体電解質または他の液体物もしくは固体物が繊維間の空間に存在しない。
【0020】
2.前記支持体における細孔サイズの算術平均がおよそ1~100マイクロメートルであり、好ましくはおよそ10~50マイクロメートルである、第1項に記載のセパレーター。
【0021】
3.前記支持体が5~50マイクロメートルの繊維厚さを有し、好ましくは10~25マイクロメートルの繊維厚さを有する、第2項に記載のセパレーター。
【0022】
4.前記支持体が織り支持体または不織り支持体であり、好ましくは不織布である、第1項~第3項のいずれか一項に記載のセパレーター。
【0023】
5.前記不織り支持体の厚さが好ましくは0.1~1mmであり、好ましくは0.15~0.5mmであり、より好ましくは0.2~0.3mmである、第4項に記載のセパレーター。
【0024】
6.前記不織り支持体がおよそ5~100g/mの表面密度を有し、好ましくはおよそ15~70g/mの表面密度を有し、より好ましくはおよそ25~40g/mの表面密度を有する、第4項または第5項に記載のセパレーター。
【0025】
7.前記Fe(III)含有沈殿物が、Fe(OH)、FeおよびFeO(OH)を含有する、第1項~第4項のいずれか一項に記載のセパレーター。
【0026】
8.前記Fe(III)含有沈殿物が風乾状態のものである、第1項~第7項のいずれか一項に記載のセパレーター。
【0027】
9.アノード空間と、カソード空間とを電気化学セルにおいて隔てるためのセパレーターを製造するためのプロセスであって、下記のプロセス変法:
a)ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される支持体が1つまたは複数の水溶性のFe(II)塩および/またはFe(III)塩の水溶液に漬けられ、次いでアルカリ水溶液に浸漬され、ただし、Fe(II)塩の場合には酸素雰囲気(好ましくは空気雰囲気)の使用が必須であり、次いで、Fe(III)含有沈殿物が沈積した後で、前記支持体が蒸留水によりすすがれ、所望されるならば、乾燥される、プロセス変法;
b)ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される支持体がアルカリ性水溶液に漬けられ、次いで1つまたは複数の水溶性のFe(II)塩および/またはFe(III)塩の水溶液に浸漬され、ただし、Fe(II)塩の場合には酸素雰囲気(好ましくは空気雰囲気)の使用が必須であり、次いで、Fe(III)含有沈殿物が沈積した後で、前記支持体が蒸留水によりすすがれ、所望されるならば、乾燥される、プロセス変法;
c)ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される支持体が1つまたは複数の鉄酸塩(好ましくはNaFeOおよび/またはKFeO)の溶液に漬けられ、次いで蒸留水に浸漬され、Fe(III)含有沈殿物が沈積した後で、布地が蒸留水によりすすがれ、所望されるならば、乾燥される、プロセス変法;
d)ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される支持体が蒸留水に漬けられ、次いで1つまたは複数の鉄酸塩(好ましくはNaFeOおよび/またはKFeO)の溶液に浸漬され、Fe(III)含有沈殿物が沈積した後で、布地が蒸留水によりすすがれ、所望されるならば、乾燥される、プロセス変法;または
e)アルカリ金属鉄酸塩(好ましくはNaFeOおよび/またはKFeO)の既知条件のもとでの電解時において、ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される支持体が、アノード区画と、カソード区画とを隔てるために使用され、次いで、Fe(III)含有沈殿物が前記支持体に沈積した後で、前記支持体が蒸留水によりすすがれ、所望されるならば、乾燥される、プロセス変法
から選択されるプロセス。
【0028】
10.前記プロセスで適用される前記支持体が、第2項~第項において定義される支持体である、第9項に記載のプロセス。
【0029】
11.アノード区画と、カソード区画とをアルカリ金属鉄酸塩の製造のための電気化学セルにおいて隔てるための、第1項~第8項のいずれか一項に記載のセパレーターおよび第9項~第10項のいずれか一項に記載のプロセスによって調製されるセパレーターの使用。
【0030】
12.前記アルカリ金属がナトリウムまたはカリウムであり、好ましくはナトリウムである、第11項に記載の使用。
【発明を実施するための形態】
【0031】
セパレーターとして使用することができる支持体の特徴
セパレーターにおいて使用することができる支持体は、ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維からなる織り支持体または不織り支持体(好ましくは織布または不織布)であることが可能である。支持体は一般には、1つだけのタイプのポリマー繊維を含有し、しかし、理論的には、ポリエチレン繊維およびポリプロピレン繊維の混合物を含有する支持体も除外され得ない。好ましい支持体が、ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される不織布であり、好ましくは1つだけのポリマーから作製される布地である。1つだけのポリマー繊維を含有する様々な布地が市販されており、それらにおいて、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレンは、この技術分野において一般に使用される高分子量のポリエチレンおよび/またはポリプロピレンであり、これらは大きい重合レベルのために、平均分子量が数kg/molである場合がある[それどころか6000kg/molにまで達する場合がある;Sara Ronca、Brydson’s Plastics Materials(第8版、2017)を参照のこと]。
【0032】
本発明のセパレーターにおける支持体として有用なポリプロピレン(PP)フリース布地の電子顕微鏡写真が図1に示される。
【0033】
記録に基づいて、細孔サイズが1~100マイクロメートルの範囲であり、この場合、細孔サイズの算術平均がおよそ10~50マイクロメートルである。
【0034】
繊維厚さが好ましくは5~50マイクロメートルであり、好ましくは10~25マイクロメートルである(図1に示される布地については、繊維厚さが約15~21マイクロメートルである)。
【0035】
使用される支持体の厚さが好ましくは0.1~1mmであり、好ましくは0.15~0.5mmであり、より好ましくは0.2~0.3mmである。
【0036】
細孔サイズ、繊維厚さおよび布地厚さの上記値は、織布および不織布について等しく示しており、原則として実際には好ましい実施形態に関連づけることができ、しかし、当然ながら、当該区間から外れるパラメーターによって特徴づけられる担体が適用可能であることが排除され得ない。しかしながら、本発明者らは、厚さがより大きい、または細孔サイズがより小さい布地のより大きい抵抗がその適用に悪影響を及ぼすことを認めている。
【0037】
好ましい織物は実際には多くの場合、単位面積あたりのその重量(表面密度)によって特徴づけられ、好適なポリエチレン織物およびポリプロピレン織物については表面密度が5g/m~100g/mの範囲である。この値は好ましくはおよそ15~70g/mであり、より好ましくは約25~40g/mであり、例えば、30g/mである。表面が疎水性でないことが好ましい。
【0038】
好ましい実施形態においては、上記パラメーターを有するいくつかの層(好ましくは2つまたは3つの層)がセルにおいて使用されることにはさらに留意される。
【0039】
Fe(III)含有沈殿物を支持体に沈積させることによる新しいタイプのセパレーターの調製方法
本発明のセパレーターは下記方法のいずれによって調製することができる。
-使用される支持体(好ましくは不織布)はFe(II)塩(例えば、モール塩)および/またはFe(III)塩(例えば、塩化物または硫酸塩)の水溶液に漬けられ、次いでアルカリ性水溶液(NaOH水溶液、KOH溶液)に(Fe(II)塩の場合には酸素の存在下で、好ましくは空気の存在下で)浸漬される。Fe(III)含有沈殿物の形成が分離した後、布地は蒸留水によりすすがれる。
-使用される支持体(好ましくは不織布)はアルカリ性溶液に漬けられ、次いでFe(II)塩(例えば、モール塩)および/またはFe(III)塩(例えば、塩化物または硫酸塩)の水溶液に(Fe(II)塩の場合には酸素の存在下で、好ましくは空気の存在下で)浸漬される。Fe(III)含有沈殿物が沈積した後、布地は蒸留水によりすすがれる。
【0040】
上記方法におけるFe(III)含有沈殿物の形成は典型的には下記の式に従って起こり得る:
【化1】

-使用される支持体(好ましくは不織布)は蒸留水に漬けられ、次いで、鉄酸塩(例えば、アルカリ金属鉄酸塩、典型的にはNaFeO、KFeO)の水溶液に浸漬される。Fe(III)含有沈殿物が沈積した後、薄織物が蒸留水によりすすがれる。
【0041】
上記の2つの場合において、Fe(III)含有沈殿物の形成は典型的には下記の式に従って起こる:
【化2】
【0042】
上記反応は好ましくは、周囲温度(約18~26℃、好ましくは20~24℃)および大気圧(好ましくは0.99~1.03×10Pa)において空気雰囲気中で行われる。
【0043】
本発明による複合セパレーターのFe(III)含有沈殿物は、「清浄な」支持体(例えば、織物)が電解開始時にセパレーターとして使用されるならば、ポリエチレン繊維および/またはポリプロピレン繊維から作製される繊維状支持体の表面における、セル内のアノードで形成される鉄酸と、セル内のカソードで形成される(溶存した)水素との反応生成物として、鉄酸塩の電気化学的製造(電解製造)において時間とともに形成されることにはさらに留意される。この場合、鉄酸の還元(水素との反応)が、複合セパレーター膜が形成されるまでアノード区画において連続して起こる。しかしながら、この場合、生成物には混入物が著しくより多く含まれる。実験例1および実験例2の結果を参照のこと。すなわち、この方法は、理想的純度の生成物を実際にはもたらさないので、理論的完全性のためだけに述べられる。
【0044】
新しいタイプのセパレーターの有利な性質
上記で提案されるポリプロピレン系またはポリエチレン系の「複合」セパレーターは非常に安価に製造することができ、かつ、鉄酸塩の電気化学的製造のために使用される媒体において非常に安定である。非常に重要な利点が、本発明によるセパレーターを含有する電気化学セルの電気抵抗が、他のタイプのセパレーターを使用するセルの抵抗のほんのわずかであるということである:典型的には、他のタイプのセパレーターについての1~100オームの程度の抵抗と比較して、最大で10分の数オームの抵抗である。後者の特徴はエネルギー収支のために特に有利である。製造において典型的に使用される20~32Aの電流において、電力が、他のタイプのセパレーターについての0.400~100kWと比較して、およそ60~150Wである。
【0045】
さらなる利点が、工業的規模での電解では、同じ電流が加えられるとき、はるかにより少ない電力(より低い最大出力電圧)を有する給電ユニット(これはより大きい電力の機器よりも著しく安価である)が要求されることである。本発明者らが典型的に使用する20~32Aの電流において、端子電圧が、他のタイプのセパレーターについての20~3200Vとは対照的に、およそ3~5Vである。直列で接続されるセルを稼働させるときには、この差が重なり、そのため、この差が特に著しくなる。
【0046】
さらなる利点が、支持体に沈積するFe(III)含有沈殿物/層がセルの稼働時に再生されるので、新しいタイプの複合膜の性能が、セルにおいて形成されるFe(III)化合物によって損なわれないことである。本発明者らの推定では、このことの機構は、カソード由来の溶存水素が、セパレーターの表面またはその内部で形成される鉄酸イオンと反応し、生じた沈殿物がセパレーターの表面または細孔内に結合することに基づく。
【化3】
【0047】
したがって、Fe(III)含有混入物である副生成物がアノード区画に入らない。このことは、Fe(III)含有物が生成物に混入し、電力消費を損なうだけではなく、鉄酸イオンの分解もまた触媒する(加速させる)ので、二重の利点を有する。議論中の場合において、このプロセスはまた、例えば、下記の式に従って、膜の表面でのみ起こる:
【化4】
【0048】
上記に基づいて、前記Fe(III)含有沈殿物は、Fe(OH)、FeおよびFeO(OH)である化合物の混合物であると言うことができる。この沈殿物は、湿っているときは水を適宜含有しており、しかし、セパレーターは、装置から取り出し、Fe(III)含有沈殿物と一緒に乾燥させることができる。このとき、支持体の表面におけるFe(III)含有沈殿物は、安定な状態である風乾状態である。すなわち、セパレーターはこのようにして貯蔵し、その後、後で再使用することができる。
【0049】
1つまたは複数の層で使用されるセパレーターがいくつかの製造プロセスにおいて使用できることもまた有利である(本発明者ら自身の実験では、布地は通常、2層または3層で使用され、また、布地は通常、3回~5回の事例で再使用された)。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本発明によるセパレーターにおける担体として使用することができるポリプロピレン(PP)フリース布地の電子顕微鏡写真である。
【実施例
【0051】
例1
2層の複合セパレーター(「前処理」膜、PPフリース布地:30g/m)を使用する鉄酸ナトリウム溶液の調製
a)セパレーターの調製
a1)セパレーターにおいて、支持体が、表面密度が30g/mである不織りPP織物(「フリース」布地)から作製される。使用されるPPフリース布地の電子顕微鏡写真が図1に示される。細孔サイズが1~100マイクロメートルの範囲であり、繊維厚さがおよそ15~21マイクロメートルであり、支持体の厚さがおよそ0.2mmおよび0.3mmである。
【0052】
カソードに適合し得るパウチをフリース布地から作製した(サイズ:およそ17.5cm×28.5cm)。
【0053】
a2)支持体の前処理:
1.フリース布地を蒸留水により十分に湿らせた。
【0054】
2.フリース布地を、NaFeOおよび水酸化ナトリウムを鉄酸イオンについては6g/dmの濃度で、水酸化ナトリウムについては14mol/dmの濃度で含有する水溶液に3時間漬けた。
【0055】
3.鉄酸ナトリウムと、沈積した鉄(III)沈殿物とを含有するフリース布地を蒸留水に5分間漬け、次いで穏やかにすすいだ。
【0056】
上記のように調製されるセパレーターを電解セルにおいてそのまま使用した。2つのセパレーターパウチを両方のカソード板に対して使用し、カソード板と該カソード板に近い方の層との間、同様にまた、これら2つの層の間における2~3mmの距離をポリプロピレン(PP)スペーサーにより保った。
【0057】
c)電解セルの特性および電解条件
電解セルの容積が、V=2100cmであった。電解セルの外側ジャケットを15℃で水浴によって調節し、同時に、アノードの表面を、およそ32℃での湯により、組み込まれた温調用チューブで調節した。アノードの電子伝導相の材質が白鋳鉄である。使用されるアノード幾何学的表面:1010cm。アノード板とカソード板との配置が、2つのカソード板がアノードを囲む対称的な「サンドイッチ」である。セルにおける電解液:16mol/dmのNaOH溶液。電解電流強度:I=22A。セル抵抗(インピーダンス測定によって求められる):0.173Ω。電解時におけるセルの電位差(セル電圧)が3.5~4.1Vである。電解時間:4h。
有効な電気エネルギー消費:E≒335Wh。
アノード重量減少:Δm=6.65g。
【0058】
(a)重量減少から計算される電荷効率:
【数1】
【0059】
b)電解直後における溶液中の鉄酸イオンの濃度(分光測光法によって求められる)。
【数2】

分光光度法に基づいて計算される電荷効率:
【数3】
【0060】
上記に基づいて、生成物の推定純度が下記の通りである:
【数4】
【0061】
c)10℃で貯蔵される溶液における電解後4時間での鉄酸イオンの濃度(分光光度法によって求められる)=6.27g/dm
【0062】
対応する「有効」電荷効率が、η=0.201である。
【0063】
例2
2層のPPフリース布地(30g/m)セパレーター(「現場」調製膜)を使用する鉄酸ナトリウム溶液の調製
使用セパレーターおよびセルは、例1で示される通りである。セルにおける電解液:16mol/dmのNaOH溶液。電解電流強度:I=22A。セル抵抗(インピーダンス測定によって求められる):0.171Ω。電解時におけるセルの電位差(セル電圧)が3.4~4.0Vである。電解時間:4h。
有効な電気エネルギー消費:E≒330Wh。
アノードの重量損失:Δm=6.72g。
【0064】
(a)重量減少から計算される電荷効率:
【数5】
【0065】
b)溶液中の電解後における鉄酸イオンの濃度(分光測光法によって求められる)。
【数6】

分光光度法に基づいて計算される電荷効率:
【数7】
【0066】
対応する「有効」電荷効率が下記の通りである:
【数8】
【0067】
c)10℃で貯蔵される溶液における電解後4時間での鉄酸イオンの濃度(分光光度法によって求められる)。
【数9】
【0068】
対応する「有効」電荷効率が、η=0.191である。
【0069】
プロセスの本質的な最終状態パラメーターのすべてが例1における対応する値よりも悪いことを認めることができる。
【0070】
例3(参考例)
セパレーターを使用しない鉄酸ナトリウム溶液の調製
使用セルは、例1に示される通りである。セルにおける電解液:16mol/dmのNaOH溶液。電気分解電流:I=22A。セル抵抗(インピーダンス測定によって求められる):0.153Ω。電解時におけるセルの電位差(セル電圧)が3.4~4.1Vである。電解時間:4h。
有効電気エネルギー消費:E≒300Wh。
アノード重量減少:Δm=6.62g。
【0071】
(a)重量減少から計算される電荷効率:
【数10】
【0072】
b)溶液中の電解直後における鉄酸イオンの濃度(分光測光法によって求められる)。
【数11】

分光光度法に基づいて計算される電荷効率:
【数12】
【0073】
上記に基づいて、生成物の推定純度が下記の通りである:
【数13】
【0074】
c)10℃で貯蔵される溶液における電解後4時間での鉄酸イオンの濃度(分光光度法によって求められる)。
【数14】
【0075】
対応する「有効」電荷効率が、η=0.098である。
【0076】
プロセスの本質的な最終状態パラメーターのすべてが例1および例2における対応する値よりも著しく悪いことを認めることができる。
図1