(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】制振装置および監視システム
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240730BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240730BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20240730BHJP
G08B 21/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
E04H9/02 311
F16F15/02 L
F16F9/32 S
G08B21/00 A
(21)【出願番号】P 2022129303
(22)【出願日】2022-08-15
(62)【分割の表示】P 2017254879の分割
【原出願日】2017-12-28
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】512062305
【氏名又は名称】千博産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渥美 幸久
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-018304(JP,A)
【文献】特開2016-199393(JP,A)
【文献】特開2012-102590(JP,A)
【文献】特許第7152739(JP,B2)
【文献】特開2015-152166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 9/19,9/32,15/02,15/027
H04Q 9/00
G08B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の制振部材の状態を監視する監視装置と通信可能に構成された制振装置であって、
構造物において外部から視認できない位置に設置される前記制振部材と、
前記制振部材の異常に関する状態を検出する検出部と、
前記制振部材の位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記検出部で検出された前記制振部材の異常に関する状態を示す状態情報と、前記制振部材の識別情報と、前記位置情報取得部によって取得された前記制振部材の位置情報とを送信する送信部と
を備え、
前記制振部材の状態情報は、前記監視装置において前記制振部材の異常状態を監視するために用いられ
、
前記制振部材の位置情報は、前記制振部材の識別情報とは異なる情報であることを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記位置情報は、GPS情報に基づいて取得した情報である請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記制振部材の識別情報は、前記制振部材の製造シリアルナンバーである請求項1に記載の制振装置。
【請求項4】
前記制振部材の異常に関する前記状態情報と、前記制振部材の識別情報と、前記位置情報取得部によって取得された前記制振部材の位置情報とを少なくとも含むログ情報を記録する記録部を備えることを特徴とする請求項1に記載の制振装置。
【請求項5】
前記制振部材は、オイルを充填したシリンダと、前記シリンダ内に設けられたピストンと、を有する油圧ダンパであり、
前記油圧ダンパは、前記ピストンに連結するピストンロッドの端部を一方の構造部材に連結すると共に、前記シリンダの端部を他方の構造部材に連結して、前記一方および他方の構造部材の間に設置されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項6】
前記検出部は、前記オイルの前記シリンダからの漏れを検出するオイル漏れセンサであることを特徴とする請求項5に記載の制振装置。
【請求項7】
前記オイル漏れセンサは、前記ピストンロッドにおける鉛直方向下側の端部近傍に設置されていることを特徴とする請求項6に記載の制振装置。
【請求項8】
前記制振部材は、粘弾性材料を用いたダンパ、金属の塑性変形を用いたダンパ、又は、摩擦材を用いたダンパであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項9】
前記検出部は、前記制振部材の異常を検出し、
前記送信部は、前記制振部材の状態情報として異常を示す異常情報を送信することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の制振装置。
【請求項10】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の制振装置と、
前記制振装置と通信可能に設けられた前記監視装置と、
を備え、
前記監視装置は、
前記制振部材の状態情報、前記制振部材の識別情報、及び前記制振部材の位置情報を取得する取得部と、
前記制振部材の状態情報に基づいて、前記制振部材の異常を判定する判定部と、
前記判定部による判定結果と、前記制振部材の識別情報と、前記制振部材の位置情報とを少なくとも含むログ情報を出力する出力部と
を備えることを特徴とする監視システム。
【請求項11】
前記判定部は、異常のレベルを判定するための複数の基準値を有し、複数の前記基準値と前記制振部材の状態情報とを比較することにより、前記制振部材の異常のレベルを判定することを特徴とする請求項10に記載の監視システム。
【請求項12】
前記取得部は、前記判定部により判定された前記制振部材の異常のレベルが高いほど、当該制振部材の状態情報を取得するインターバルを短くする請求項11に記載の監視システム。
【請求項13】
前記出力部は、前記ログ情報を予め登録されている送信先に送信する送信部を含むことを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載の監視システム。
【請求項14】
前記ログ情報を記録する記録部を備えることを特徴とする請求項10から13のいずれか1項に記載の監視システム。
【請求項15】
構造物において外部から視認できない位置に設置される複数の制振部材の状態を監視する監視装置であって、
前記制振部材の状態情報、前記制振部材の識別情報、及び前記制振部材の位置情報を取得する取得部と、
前記制振部材の状態情報に基づいて、前記制振部材の異常を判定する判定部と、
前記判定部による判定結果と、前記制振部材の識別情報と、前記制振部材の位置情報とを少なくとも含むログ情報を出力する出力部と、
を備え、
前記判定部は、異常のレベルを判定するための複数の基準値を有し、複数の前記基準値と前記制振部材の状態情報とを比較することにより、前記制振部材の異常のレベルを判定し、
前記取得部は、前記判定部により判定された前記制振部材の異常のレベルが高いほど、当該制振部材の状態情報を取得するインターバルを短くする監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震や強風に際して構造物の揺れを抑える制振部材を備える制振装置および当該制振部材を監視する監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家屋や工場等の構造物の壁の内側などには、地震や強風による振動を抑制する制振装置が設置されている。
構造物の制振装置は、構造物の寿命に合わせて耐久期間が定められ、その耐久期間において制振機能を発揮するように設計、製造される。しかしながら、構造物の制振装置は、春夏秋冬の季節の変化や、昼間、夜間の気温の変化、天候の変化などにより、氷点下から50℃を越す状況下において使用される。このような使用状況下においては、何らかの原因により制振装置がその機能を発揮できなくなる可能性は否定できない。
ところが、上述したように、制振装置は、壁の内側などの直接目の届かない場所に設置される。そのため、何らかの原因により制振装置に異常が発生した場合、構造物の所有者や管理者が当該異常を即座に認識することは難しい。
【0003】
特許文献1には、油圧制震ダンパに油温を検出する温度センサを設け、温度センサの検出温度をもとに油圧制震ダンパの機能状態を監視する監視システムが開示されている。この監視システムでは、温度センサによって検出された油温を、公衆回線または/及び所定エリア内のネットワーク回線を用いて監視装置に送信するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の技術にあっては、一部の温度センサからの検出温度が、他の多くの温度センサからの検出温度とかけ離れた数値を示している場合、異常が発生している油圧制震ダンパが存在することを認識することができる。しかしながら、構造物のどこに設置された油圧制震ダンパに異常が発生しているのかを特定できなければ、点検、修理作業を適切に行うことはできない。
そこで、本発明は、壁の内側などに設置される制振部材の状態を適切に認識し、異常が発生した制振部材を適切に特定することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る制振装置は、構造物において外部から視認できない位置に設置される複数の制振部材の状態を監視する監視装置と通信可能に構成された制振装置であって、構造物において外部から視認できない位置に設置される制振部材と、前記制振部材の状態を検出する検出部と、前記検出部で検出された前記制振部材の状態を示す状態情報と、前記制振部材の製造シリアルナンバーとを送信する送信部とを備え、前記制振部材の状態情報は、前記監視装置において前記制振部材の状態を監視するために用いられ、前記シリアルナンバーは、前記制振部材の位置を特定するために用いられる。
【0007】
本発明の一態様に係る制振装置は、複数の制振部材の状態を監視する監視装置と通信可能に構成された制振装置であって、構造物において外部から視認できない位置に設置される前記制振部材と、前記制振部材の異常に関する状態を検出する検出部と、前記制振部材の位置情報を取得する位置情報取得部と、前記検出部で検出された前記制振部材の異常に関する状態を示す状態情報と、前記制振部材の識別情報と、前記位置情報取得部によって取得された前記制振部材の位置情報とを送信する送信部とを備え、前記制振部材の状態情報は、前記監視装置において前記制振部材の異常状態を監視するために用いられ、前記制振部材の位置情報は、前記制振部材の識別情報とは異なる情報であることを特徴とする制振装置。
【0008】
本発明の一態様に係る監視装置は、構造物において外部から視認できない位置に設置される複数の制振部材の状態を監視する監視装置であって、前記制振部材の状態を示す状態情報、前記制振部材の製造シリアルナンバー、及び前記制振部材の位置情報を取得する取得部と、前記制振部材の状態情報に基づいて、前記制振部材の異常を判定する判定部と、前記判定部による判定結果と、前記制振部材の製造シリアルナンバーと、前記制振部材の位置情報とを少なくとも含むログ情報を出力する出力部とを備える。
【0009】
本発明の一態様に係る監視システムは、上記制振装置と、前記制振装置と通信可能に設けられた前記監視装置と、を備え、前記監視装置は、前記制振部材の状態情報、前記制振部材の識別情報、及び前記制振部材の位置情報を取得する取得部と、前記制振部材の状態情報に基づいて、前記制振部材の異常を判定する判定部と、前記判定部による判定結果と、前記制振部材の識別情報と、前記制振部材の位置情報とを少なくとも含むログ情報を出力する出力部とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る監視方法は、構造物において外部から視認できない位置に設置される複数の制振部材の状態を監視する監視方法であって、前記制振部材の状態を示す状態情報、前記制振部材の製造シリアルナンバー、及び前記制振部材の位置情報を取得する取得工程と、前記制振部材の状態情報に基づいて、前記制振部材の異常を判定する判定工程と、前記判定工程における判定結果と、前記制振部材の製造シリアルナンバーと、前記制振部材の位置情報とを少なくとも含むログ情報を出力する出力工程とを備える。
【0011】
本発明の一態様に係るプログラムは、上記監視方法をコンピュータに実行させる。
【0012】
本発明に係る制振装置の一態様は、構造物において外部から視認できない位置に設置される制振部材を備える制振装置であって、前記制振部材の状態を検出する検出部と、前記検出部により検出された前記制振部材の状態に基づいて、当該制振部材の異常を判定する判定部と、前記構造物内において前記異常が発生している前記制振部材の設置位置を特定する特定部と、前記判定部による判定結果および前記特定部により特定された前記設置位置に関する情報を少なくとも含むログ情報を送信する送信部と、を備える。
【0013】
これにより、制振装置は、建物の壁の内側など直接目で確認できない位置に設置された制振部材の異常発生の有無と、異常が発生している制振部材の設置位置とを、建物の所有者や管理者等に適切に通知することができる。したがって、建物の所有者や管理者は、制振部材に異常が発生したことを容易に認識することができると共に、異常が発生した制振部材の設置場所を適切に把握することができ、制振部材の修理や交換を迅速かつ正確に実行することが可能となる。
【0014】
また、上記制振装置において、前記判定部は、前記制振部材の異常のレベルを判定してもよい。このように、異常のレベル(経過観察でよいレベルであるのか、すぐに修理が必要なレベルであるのか等)を判定することで、制振部材の状態を詳細に通知することができる。
さらに、上記制振装置において、前記検出部は、前記判定部により判定された前記制振部材の異常のレベルが高いほど、当該制振部材の状態の検出インターバルを短くしてもよい。これにより、制振部材の異常レベルが低い場合には、制振部材の状態を検出するセンサの駆動を抑え、消費電力を削減することができる。また、異常を検出した後は、短い間隔で制振部材の状態を監視することができるので、制振部材の修理や交換が必要となるタイミングを適切に判断し、迅速な対応が可能となる。
【0015】
また、上記制振装置において、前記制振部材は、オイルを充填したシリンダと、前記シリンダ内に設けられたピストンと、を有する油圧ダンパであり、前記油圧ダンパは、前記ピストンに連結するピストンロッドの端部を一方の構造部材に連結すると共に、前記シリンダの端部を他方の構造部材に連結して、前記一方および他方の構造部材の間に斜めに設置されていてもよい。この場合、建物の壁の内側などに設置された油圧ダンパの異常を適切に検出することができる。
さらに、上記制振装置において、前記検出部は、前記オイルの前記シリンダからの漏れを検出するオイル漏れセンサであってもよい。このように、油圧ダンパのシリンダからのオイルの漏れを検出することで、油圧ダンパとしての制振機能を発揮できなくなる状況を適切に検出することができる。
【0016】
また、上記制振装置において、前記判定部は、前記オイル漏れセンサにより検出された前記オイルの漏れ量に基づいて、前記制振部材の異常のレベルを判定してもよい。油圧ダンパにおいてオイル漏れが生じ得る異常が発生した場合、徐々にシリンダからオイルが漏れ出し、オイルの漏れ量が一定値に達すると、油圧ダンパとしての制振機能を発揮できなくなる。そのため、オイルの漏れ量を監視することで、経過観察でよいレベルの異常であるのか、すぐに修理が必要なレベルの異常であるのかを適切に判定し、通知することができる。
さらにまた、上記制振装置において、前記オイル漏れセンサは、前記ピストンロッドにおける鉛直方向下側の端部近傍に設置されていてもよい。これにより、適切にシリンダからのオイル漏れを検出することができる。
【0017】
また、上記制振装置は、前記制振部材の識別情報と当該制振部材の設置位置とを関連付けたデータベースを保持する保持部と、前記制振部材に設けられ、当該制振部材の識別情報を発信する発信部と、をさらに備え、前記特定部は、前記発信部により発信された前記識別情報に基づいて、前記保持部により保持されたデータベースを参照し、前記設置位置を特定してもよい。この場合、容易かつ適切に制振部材の設置位置を特定することができる。
さらに、上記制振装置は、前記データベースを作成し、前記保持部に保持させる作成部をさらに備えていてもよい。制振部材を壁の内側等に設置した後に上記データベースを作成すれば、信頼性の高いデータベースを得ることができ、より適切に制振部材の設置位置を特定することができる。
【0018】
また、上記制振装置は、前記制振部材に設けられ、当該制振部材の位置情報を発信する発信部をさらに備え、前記特定部は、前記発信部により発信された前記位置情報に基づいて、前記設置位置を特定してもよい。このように、制振部材が位置情報を発信可能な構成であれば、容易に異常が発生した制振部材の設置位置を特定することができる。
さらに、上記制振装置において、前記送信部は、前記ログ情報を電子メールにて予め定められた送信先に送信してもよい。これにより、遠隔地にいる建物の所有者や管理者に対して、制振部材の状態を適切に通知することができる。
また、上記制振装置は、前記ログ情報を記録する記録部をさらに備えていてもよい。これにより、記録されたログ情報を、制振装置のメンテナンス計画の作成や制振装置の次機種の設計に有効に利用することができる。
【0019】
さらに、本発明に係る監視システムの一態様は、構造物において外部から視認できない位置に設置される制振部材を監視する監視システムであって、前記制振部材の状態を検出する検出部と、前記検出部により検出された前記制振部材の状態に基づいて、当該制振部材の異常を判定する判定部と、前記構造物内において前記異常が発生している前記制振部材の設置位置を特定する特定部と、前記判定部による判定結果および前記特定部により特定された前記設置位置に関する情報を少なくとも含むログ情報を送信する送信部と、を備える。
これにより、建物の壁の内側など直接目で確認できない位置に設置された制振部材の異常発生の有無と、異常が発生している制振部材の設置位置とを、建物の所有者や管理者等に適切に通知可能なシステムとすることができる。したがって、建物の所有者や管理者は、制振部材に異常が発生したことを容易に認識することができると共に、異常が発生した制振部材の設置場所を適切に把握することができ、制振部材の修理や交換を迅速かつ正確に実行することが可能となる。
【0020】
また、本発明に係る制振装置の監視方法の一態様は、構造物において外部から視認できない位置に設置される制振部材の監視方法であって、前記制振部材の状態を検出するステップと、検出された前記制振部材の状態に基づいて、当該制振部材の異常を判定するステップと、前記構造物内において前記異常が発生している前記制振部材の設置位置を特定するステップと、前記異常の判定結果および特定された前記設置位置に関する情報を少なくとも含むログ情報を外部装置へ送信するステップと、を含む。
これにより、建物の所有者や管理者は、建物の壁の内側など直接目で確認できない位置に設置された制振部材の異常発生の有無と、異常が発生している制振部材の設置位置とを適切に把握することができる。したがって、制振部材に異常が発生した場合には、異常が発生した制振部材の修理や交換を迅速かつ正確に実行することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、壁の内側などに設置される制振部材の状態を適切に認識し、異常が発生した制振部材を適切に特定することができる。したがって、制振部材に異常が生じた場合には、修理や交換を迅速に実行可能となり、制振装置の機能を適切に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態における制振装置を建物に適用した実施の形態を示す正面図。
【
図4】ピストンバルブを示すピストン部分の拡大図で、(a)は、(b)のa-a断面図、(b)は側面図。
【
図6】ピストンバルブのバルブ座板が撓んだ状態を示す断面図。
【
図7】オイル漏れの監視装置の構成を示すブロック図。
【
図8】監視装置が実行する異常判定処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。制振部材である油圧ダンパ1を有する制振装置Aは、
図1に示すように、建築物の柱2と梁3との間に斜めに設置して用いられる。本制振装置Aは、軸組工法、2×4工法等の木造住宅に用いて好適であるが、これに限らず、軽量鉄骨構造、重量鉄骨構造等の建築物、その他タワー、橋梁等のあらゆる構造物に適用可能であり、また新築に限らず、既存構造物の耐震補強にも適用可能である。
また、油圧ダンパ1の設置方法は、
図1に示すように柱2と梁3との間に斜めに設置する方法に限定されるものではなく、例えば、柱2と柱2との間に設置してもよい。なお、油圧ダンパ1は、柱2と土台(不図示)との間や、柱2と梁3とを接続する接続部間など、様々な構造部材間に設置することができる。また、制振装置Aは、油圧ダンパ1を直接構造部材間に連結したものに限らず、ブレース構造の一部に本油圧ダンパ1を介在してもよい。
【0024】
上記油圧ダンパ1は、
図2および
図3に示すように、シリンダ5およびピストンロッド6を有する。シリンダ5の一端はキャップ部材7により閉塞されており、かつ他端は連結部材9により閉塞されている。ピストンロッド6は、一端が小径部6aとなっており、該小径部6aにピストン10が嵌合している。ピストンロッド6の他端にはボス部11が一体に固定されている。該ボス部11にはボルト12を介して取付け金具13が回動自在に連結している。また、シリンダ5の他端連結部材9にはボス部15が一体に固定されており、該ボス部15にはボルト16を介して他方の取付け金具17が回動自在に連結されている。
【0025】
シリンダ5内の一方側には環状のエンド部材19が嵌合されており、該エンド部材19は、スナップリング20によりシリンダ5に対して軸方向位置が一体となるように規定されている。該エンド部材19の外周面にはOリング21が装着されており、またピストンロッド6が貫通する内周面にもOリング22が装着されており、該エンド部材19は、その軸方向の前後の空間を油密状に区画している。シリンダ5内の他方側にはフロート部材23が軸方向に移動自在に嵌合しており、該フロート部材23の外周面にはスライドリング25およびシールリング26が軸方向に並んで装着されている。該フロート部材23は、その軸方向前後の空間を油密状かつ気密状に区画している。
【0026】
シリンダ5内におけるエンド部材19とフロート部材23との間の空間には所定粘度のオイルが充填されて、油圧室27を構成している。なお、オイルとは、所定粘度を有する液体を意味し、一般的にはオイルとなるが、狭義のオイルに限定するものではない。シリンダ5内におけるフロート部材23と連結部材9との間の空間には所定圧力の窒素ガス等の不活性ガスが封入されて、ガス室(予圧室)29を構成している。シリンダ一端のキャップ部材7は、ピストンロッド6を摺動自在に挿通して該ピストンロッドを支持するガイド孔7aを有し、該ガイド孔7aにはピストンロッド6と摺接して該ピストンロッド6に付着した塵埃等を掻取るスクレーパ30が装着されている。シリンダ5内におけるエンド部材19とキャップ部材7との間の空間は空気が出入自在に入る空気室(余裕空隙)31となっている。該空気室31の軸方向間隔は、油圧ダンパ1のストロークより長い。
【0027】
上記エンド部材19の油圧室27側に隣接してバネ受け金具32が配置されており、ピストンロッド6の小径部6aに嵌合してバネ受けリング部材33が配置されている。ピストンロッド6の小径部6aの先端にはワッシャ35を介してナット36が螺合されている。バネ受けリング部材33は、小径部段差部6bに当接されている。第1および第2のピストンバルブ371,372は、ピストン10を挟むようにピストン10の両側に配置されている。バネ受けリング部材33、ピストン10および両ピストンバルブ371,372は、上記ナット36により、ピストンロッド6に対して位置決めされている。該ピストン10により、油圧室27は、ロッド側油室27aと非ロッド側油室27bに区画されている。ロッド側油室27a内において、上記バネ受け金具32とバネ受けリング部材33との間にコイルスプリング40が縮設されている。
【0028】
上記ピストン10は、
図4に詳示するように、両側面10a,10bにピストンロッド6を中心とした環状で凸状の突起45,45が形成されている。該突起45と上記ピストンロッド小径部6aを嵌挿したボス部44との間には、環状の油圧空間46,46が形成されている。なお、上記突起45とボス部44とはピストン両側面10a,10bに対して同じ突出高さ、即ち面一となっている。ピストン10には、一方の側面10aの油圧空間46と他方の側面10bにおける突起45の外径側とを連通する複数(3個)の押し側油路47…と、他方の側面10bの油圧空間46と一方の側面10aにおける突起45の外径側とを連通する複数(3個)の引き側油路49とが形成されている。これら両油路47,49は、同形状および同数からなり、円周方向に長い矩形状断面からなる。
【0029】
上記第1および第2のピストンバルブ371,372は、環状の板バネからなり、その外周部分が上記環状の突起45に当接するバルブ座板50と、該バルブ座板50を上記環状の突起45に所定付勢力で圧接する皿バネ51とを有する。上記ピストン10の左右の第1および第2のピストンバルブ371,372は、ピストン10のそれぞれ一方の動きに対して、両油室27a,27bの油路47又は49を通るオイルの移動を規制するチェック弁として機能する。また、第1および第2のピストンバルブ371,372は、ピストン10のそれぞれ他方の動きに対して、両油室27a,27bの油路47又は49を通るオイルの流れを所定特性に制御する。
【0030】
即ち、第1および第2のピストンバルブ37
1,37
2は、
図5に示すように、それぞれ規制される流れと反対方向のオイルの流れに対して、所定値P以下のピストン10の移動速度Vの場合、該移動速度変化に対してピストンを移動する荷重F変化が大きく(S部分)、所定値Pよりピストン10の移動速度Vが大きい場合、該移動速度変化に対してピストンを移動する荷重F変化が小さい(T部分)減衰力特性を有する。
なお、上記所定値Pは、
図5にあっては実質的に点で表示されている。該点のように狭い領域で上記急勾配(S部分)と緩勾配(T部分)に切換えられることが好ましいが、
図5に鎖線で示すように、ある程度の範囲で滑らかに切換わるものでもよく、上記所定値は、このものも含む概念である。本実施の形態にあっては、第1および第2のピストンバルブ37
1,37
2の各バルブ座板50が2板、皿バネ51が3枚からなるが、これは、上記特性に応じて、その数およびその径方向寸法、板厚は適宜設定される。また、ピストン10の外周面には、所定の油密特性を有すると共にシリンダ5内周面に対して摺接する圧力リング53が装着されている。
【0031】
本実施の形態は以上のような構成からなるので、油圧ダンパ1は、住宅の柱2と梁3にそれぞれに取付け金具13および17をビス等により取付けることにより、柱2と梁3との間に斜めに設置される。周囲温度の変化が、油圧室27内のオイルの温度に影響して、該オイルが膨張又は収縮する。すると、シリンダ5に摺動自在に支持されてフリーピストンを構成するフロート部材23は、上記オイルの膨張又は収縮による油圧室27の容積変化に応じて、ガス室29内の高圧ガスの付勢力に抗して又は順じて移動する。これにより、周囲温度により油圧室のオイルが体積変化しても、高圧ガスの弾性圧縮によりフロート部材23が移動して吸収され、エンド部材19のOリング21,22およびフロート部材23のスライドリング25およびシールリング26に過度の圧力を作用することなく、上記各リングからオイルの漏れおよび空気等の吸込みを生じることを防止できる。
【0032】
油圧室27のロッド側油室27aにピストンロッド6がシリンダ5の外部に突出するように延び、非ロッド側油室27bには上記ピストンロッド6が延びていないので、ピストン10の両側には、上記ピストンロッド6の断面積分の油圧差を生じる。従って、ピストン10に対する両油室27a,27bの面積差によりピストン10は、ピストンロッド6側に移動する方向に偏倚する力が作用するが、本実施の形態にあっては、ロッド側油室27aに配置されたスプリング40の付勢力がピストン10に作用し、該ピストン10は、該スプリング付勢力と上記面積差による偏倚力がバランスした位置であるスプリング40の全圧縮位置とフロート部材23との中間位置に保持される。
【0033】
上記スプリング40の付勢力に基づく油圧室27内の油圧がフロート部材23に作用するが、ガス室29内には高圧ガスが封入されており、上記フロート部材23は、油圧室27側の油圧とガス室29側のガス圧とがバランスして所定位置に保持されている。
これにより、油圧ダンパ1は、外力を加えていない自然状態にあっては、予め設定された所定長さにあり、該所定長さの油圧ダンパ1が、前述したように柱2と梁3との間に取付けられる。この状態では、ピストン10が油圧室27のストローク可能範囲の略々中央に位置している。
【0034】
地震により建物に揺れを生じる場合、油圧ダンパ1は、伸縮してストローク範囲の略々中央に位置するピストン10が
図2の左右方向に移動する力を受ける。ピストン10が油圧室27を右方向(押し方向)に移動しようとする場合、非ロッド側油室27bのオイルが押し側油路47を通って左油圧空間46に流れて、第1のピストンバルブ37
1のバルブ座板50を撓ましてロッド側油室27aに流れる方向の力が作用する。反対に、ピストン10が油圧室27を左方向(引き方向)に移動しようとする場合、ロッド側油室27aのオイルが引き側油路49を通って右油圧空間46に流れて、第2のピストンバルブ37
2のバルブ座板50を撓まして非ロッド側油室27bに流れる方向の力が作用する。
この際、ピストン10の押し側移動では、第2のピストンバルブ37
2のバルブ座板50が環状の突起45に当接して、非ロッド側油室27bから右油圧空間46および引き側油路49を通ってロッド側油室27aに流れるオイルの流れが阻止される。一方、ピストン10の引き側移動では、第1のピストンバルブ37
1のバルブ座板50が環状の突起45に当接して、ロッド側油室27aから左油圧空間46および押し側油路47を通って非ロッド側油室27bに流れるオイルの流れが阻止される。
【0035】
地震が弱く建物の揺れが小さい場合、油圧ダンパ1に作用する伸縮方向の力も小さくかつ弱い。この場合、ピストン10が油圧室27内で移動しようとする力も弱く、その速度も遅い。油圧ダンパ1が収縮する方向、即ちピストン10が非ロッド側油室27bに向って移動する場合、非ロッド側油室27b内のオイルが押し側油路47を通って左油圧空間46に流れようとするが、ピストン10を移動する力も弱くかつ遅いので、左油圧空間46に作用する油圧上昇も小さい。従って、第1のピストンバルブ371は、皿バネ51の付勢力によりバルブ座板50が環状の突起45に略々当接した状態(閉じ状態)に保持される。
同様に、油圧ダンパ1が伸長する方向、即ちピストン10がロッド側油室27aに向って移動する場合、ロッド側油室27aのオイルが引き側油路49を通って右油圧空間46に流れようとするが、該右油圧空間46の油圧も小さく、第2のピストンバルブ372は、バルブ座板50が環状の突起45に略々当接した状態(閉じ状態)に保持される。
【0036】
従って、地震の規模が比較的小さく、建物に作用するエネルギが小さい場合、油圧ダンパ1は、その収縮および伸長の両方向において非ロッド側油室27bおよびロッド側油室27aに流れようとするオイルの流れが制限された減衰力特性の大きい状態にあり、油圧ダンパ1の伸縮移動は、大きな抵抗力を受ける。即ち、ピストン10の移動速度が遅い場合、
図5のS部分に示すように、両油室27a,27bのオイルの流通量は、バルブ座板50と環状の突起45の隙間等から僅かな量であり、大きな荷重(抵抗力)が作用し、油圧ダンパ1は、ピストン速度Vに対する荷重Fの勾配が大きな剛体に近い状態となる。
【0037】
これにより、地震規模が小さい場合又は道路を車両が通過する振動の場合等、振動エネルギが小さく、建物の揺れが比較的小さい場合、油圧ダンパ1からなる制振装置Aは、建物に対して剛体に近い頬杖、ブレースとして機能し、建物の揺れを抑えると共に、建物の強度を向上する。この際、油圧ダンパ1の柱2および梁3の取付け部分13,17に集中荷重が作用するとしても、振動エネルギは比較的小さいので、該取付け部分が破損することはない。また、両油室27a,27bの間を流れるオイルは、バルブ座板50と環状の突起45との隙間等の狭い通路を大きな抵抗を受けながら流れるので、熱に変換され、ヒステリシスとなって建物の揺れエネルギを有効に吸収する。このように、比較的高い頻度で発生する小さな振動エネルギに対しては、建物は、上記減衰力特性の高い油圧ダンパにより建物の揺れは抑えられ、建物の居住性等の構造物の品質を向上することができる。
【0038】
地震規模が大きく、建物の揺れが大きい場合、油圧ダンパ1に作用する伸縮方向の力も大きくなると共に、そのストロークも大きくなりかつ速度も速くなる。この状態では、ピストン10は大きなストロークでかつ速く移動し、ピストン10が右方向に移動する場合、非ロッド側油室27bから、押し側油路47を通って左油圧空間46に流れ込むオイル油圧が高くなり、第1のピストンバルブ37
1のバルブ座板50は、
図6に示すように、該座板自体のバネ力およびバックアップとしての皿バネ51の付勢力に抗してその外周部分が環状の突起45から離れる方向に撓む。同様に、ピストン10が左方向に移動する場合、ロッド側油室27aから、引き側油路49を通って右油圧空間46に流れ込むオイルの油圧が高くなり、第2のピストンバルブ37
2のバルブ座板50は、環状の突起45から離れる方向に撓む。
【0039】
これにより、第1および第2のピストンバルブ37
1,37
2は、
図6に示すように、バルブ座板50と環状の突起45との間に流路C,Dが形成され、該流路C,Dを通って両油室27a,27bにオイルが流れることにより、
図5のT部分に示すように、速度Vに対する荷重Fの勾配が低い減衰力特性の低い状態となり、油圧ダンパ1は、低い抵抗力により伸縮する。従って、大きな地震に際しては、油圧ダンパ1が、比較的低い減衰力特性により建物の揺れを制振し、地震エネルギを吸収する。この際、
図6に示すように、バルブ座板50の外径部は、環状の突起45とその全周において離れ、該周長の長い環状の突起45との間に比較的広い面積からなる上記流路C,Dが一気に形成される。これにより、
図5に示すように、油圧ダンパの減衰力特性は、所定値Pにおいて急勾配(S)から緩勾配(T)に瞬時に切換えられる。
【0040】
この状態では、油圧ダンパ1は、伸縮しつつ制振するので、取付け金具13,17付近に過度に大きな集中荷重が作用することがなく、該取付け部分又は該取付け部分の柱2および梁3が破壊されることを減少する。また、地震エネルギは、上部流路C,Dを絞られつつ流れる比較的大量のオイルの流れにより熱に変換されて吸収される。また、上記地震により建物が塑性変形領域まで変形したとしても、地震が終わった状態で、油圧ダンパ1は、スプリング40およびガス室29のガス圧がバランスすると共にピストンロッド6の面積差による両油室27a,27bの初期位置に戻るように付勢されており、上記塑性変形まで変形した建物も、上記油圧ダンパ1のストローク中央位置への付勢により元の状態(初期姿勢)に戻される。これにより、頻度は少ないが、大きな地震が発生した場合、建物は、本制振装置Aにより有効に制振され、建物の破壊を防止して耐震性を向上することができる。
【0041】
上記油圧ダンパ1は、シリンダ5からピストンロッド6が突出する側に空気室(余裕空隙)31が設けられており、該空気室31部分のピストンロッド6は、キャップ部材7のスクレーパ30により塵埃、錆、水等が除去されたクリーンな状態にある。従って、上記地震により油圧ダンパ1が伸縮して、ピストンロッド6がエンド部材19の貫通孔を摺接しても、該摺接部分は、上記クリーンな状態にある部分であり、上記摺接に際してピストンロッドに付着した塵埃等がエンド部材19のシール22を傷付けたり、また該塵埃、水等が油圧室27内に浸入したりすることを防止できる。
【0042】
ところで、油圧ダンパにおいては、何らかの原因によりその機能を発揮できなくなる可能性は否定できない。例えば油圧ダンパでは、オイルがシリンダから漏れ出てしまうと、油圧ダンパとしての制振機能が発揮できなくなってしまう。このようなオイル漏れの発生原因としては、周囲の温度変化によるオイルの膨張、収縮の繰り返しが考えられる。また、それ以外にも、シリンダやピストンロッドなどの金属部品やオイルシール部材の損傷、それらの経時変化による劣化なども考えられる。
【0043】
しかしながら、油圧ダンパは、壁の内側など、直接目の届かない場所に設置される。そのため、壁を解体しない限り油圧ダンパの状況を直接確認することはできず、何らかの原因により油圧ダンパに異常が発生した場合、それを即座に認識することは難しい。
そこで、本実施形態における制振装置Aは、構造物において外部から視認できない位置に設置された油圧ダンパ1の状態をモニタリングし、油圧ダンパ1の異常発生を即座に認識できるように構成されている。さらに、本実施形態における制振装置Aは、異常を検出した油圧ダンパ1の構造物内における設置位置を特定できるように構成されている。
【0044】
具体的には、
図1~
図3に示すように、油圧ダンパ1のピストンロッド6にはオイル漏れセンサ60が設けられている。オイル漏れセンサ60は、シリンダ5に充填されているオイルが何らかの原因でシリンダ5から漏れ出し、ピストンロッド6を伝わって流れてきたオイルを検出する。オイル漏れセンサ60は、ピストンロッド6における鉛直方向下側の端部近傍に設置されている。
オイル漏れセンサ60の検出信号(センサ信号)は、後述する監視装置に送信される。監視装置は、オイル漏れセンサ60のセンサ信号をもとに油圧ダンパ1の異常を判定し、判定結果を管理者等に通知する機能を有する。
【0045】
オイル漏れセンサ60は、ピストンロッド6に貼られた所定色のシートと、そのシートの色の変化を検出するセンサ(例えば、CCDカメラ)とを含んで構成されている。上記シートは、シリンダ5に充填されたオイルに接触することで所定色(例えば、白色)から特定の色(例えば、赤色や蛍光)に変化する発色現像剤が塗布または含浸されたシートである。油圧ダンパ1においてオイル漏れが発生し、上記シートがシリンダ5から漏れ出したオイルを吸収すると、当該シートの色が所定色から特定の色に変化する。
オイル漏れセンサ60は、シートの色が変化したか否かを検出することで、オイル漏れが発生したか否かを検出し、検出結果を監視装置に送信する。また、オイル漏れセンサ60は、シートの色の変化度合や、シートの色が変化し始めてからの時間等を検出することでオイルの漏れ量を検出し、検出結果を監視装置に送信することもできる。
【0046】
オイル漏れセンサ60は、監視装置との間で無線通信が可能な通信装置をも含んで構成されている。ここで、無線通信の手法としては特に限定されないが、例えば無線LAN規格(例えば、IEEE802.11規格シリーズ)に準拠した通信とすることができる。つまり、オイル漏れセンサ60は、無線LANによる通信機能を用いて、例えばWi-Fi通信が可能である。
オイル漏れセンサ60が使用する通信方式は、無線LANに限定されるものではなく、近接無線通信(NFC)やBluetooth(登録商標)といった無線通信方式であってもよい。さらに、オイル漏れセンサ60が使用する通信方式は、無線通信方式に限定されるものではなく、有線通信方式であってもよい。ただし、オイル漏れセンサ60が有線通信方式を用いる場合は、その配線設備がさらに必要となる。
オイル漏れセンサ60の電源は、例えば乾電池などであってよい。
【0047】
なお、本実施形態では、オイル漏れセンサ60は、オイルと接触することで色が変化するシートと、当該シートの色の変化を検出するセンサとを含んで構成される場合について説明するが、上記構成に限定されるものではない。例えば、オイル漏れセンサ60は、オイルに反応して電気的特性が変化する部材により構成されていてもよい。この場合、当該部材をピストンロッド6に設け、その電気的特性の変化を検出することによりオイル漏れを検出するようにしてもよい。オイル漏れセンサ60は、油圧ダンパ1の伸縮に干渉しない構造で、油圧ダンパ1の伸縮に干渉しない位置に設置され、シリンダ5からのオイル漏れを検知可能に構成されていればよい。
【0048】
また、油圧ダンパ1におけるシリンダ5の外周面には、ICチップ61が設けられている。ICチップ61は、例えばミューチップとすることができる。ミューチップは、RFID技術を用い、電池なしに内部のメモリ情報を読み出し、送信することができるRFIDチップである。つまり、ミューチップは、専用の読み取り装置が発生する電波を受信し、その電磁波エネルギを利用して回路を駆動し、メモリ情報を送信することができる。ICチップ61は、上記メモリ情報として、油圧ダンパ1を識別するための識別情報(例えば、製造シリアルナンバー)を送信可能に構成されている。
なお、ICチップ61の設置位置は、シリンダ5の外周面に限定されるものではなく、油圧ダンパ1の伸縮に干渉しない位置であればよい。
【0049】
図7は、油圧ダンパ1の状態を監視する監視装置70の構成を示すブロック図である。監視装置70は、操作部71、表示部72、制御部73、送信部74、記録部75および電源部76を備える。この監視装置70は、例えばパーソナルコンピュータ(PC)などにより構成され、例えば建物内において、当該建物の所有者や管理者が操作可能な場所に設置することができる。
操作部71は、監視装置70のオンオフやリセットの指示をはじめ、操作者からの各種入力に用いられるスイッチ等を有する。操作部71への操作入力は、制御部73に入力される。表示部72は、液晶ディスプレイ(LCD)等のモニタを含んで構成されており、オイル漏れセンサ60の状態や異常判定結果、操作部71からの操作入力を表示する。
制御部73は、オイル漏れセンサ60のセンサ信号を取得する。制御部73はCPUを含むマイクロコンピュータからなり、所定のプログラムに従って監視装置70の機能を実現するための処理を実行する。具体的には、制御部73は、オイル漏れセンサ60のセンサ信号に基づいて、油圧ダンパ1の異常を判定するとともに当該異常のレベルを判定し、後述する送信部74に判定結果の送信を指示する異常判定処理を行う。異常判定処理の詳細については後述する。
【0050】
送信部74は、無線通信機能を有する。また、送信部74は、電子メールの送信機能を有し、制御部73による指示に従って、異常判定処理の判定結果を含む電子メールを予め定められた送信先へ送信する。送信先としては、建物の所有者や管理会社が挙げられる。当該送信先は、監視装置70の操作者が操作部71を操作して適宜選択することができる。選択された送信先の情報は、記録部75に記録される。なお、送信先の設定方法は、操作部71を用いて操作者が設定する方法に限定されるものではなく、外部装置から無線通信を用いて送信先を送信する方法を用いてもよい。
【0051】
また、送信部74が使用する通信方式は、無線通信方式に限定されるものではなく、有線通信方式であってもよい。ただし、送信部74が有線通信方式を用いる場合は、その配線設備がさらに必要となる。さらに、異常判定処理の判定結果を送信する方法は、電子メール機能を用いた方法に限定されるものではなく、ファクシミリやショートメッセージなどの他のデータ送信機能を用いた方法であってもよい。また、送信部74は、音声データを送信するよう構成されていてもよい。
【0052】
記録部75は、USBメモリなどのメモリ素子により構成され、制御部73による異常判定処理の判定結果を含むログ情報を記録する。記録部75に記録されたログ情報は、メンテナンス時などに利用することができる。
また、記録部75は、建物に設置された複数の油圧ダンパ1の建物内における設置位置を管理するデータベースを保持する保持部としても機能する。当該データベースは、例えば、油圧ダンパ1の識別情報(製造シリアルナンバー)と建物内の設置位置に関する情報とを関連付けたテーブルである。当該データベースは、異常判定処理の実行に先立って、記録部75に記録される。
【0053】
記録部75に記録されるデータベースは、建物の施工前(施工時)に決定された油圧ダンパ1の設置位置に関する仕様情報(どの油圧ダンパ1を建物内のどの位置に設置するか)に基づいて、事前に作成することができる。ただし、何らかの理由により仕様通りの位置に油圧ダンパ1が設置されないおそれもあるため、上記データベースは、油圧ダンパ1が実際に建物に設置された後に作成されることが好ましい。
例えば、上記データベースは、油圧ダンパ1の設置後、ICチップ61が発信する識別情報と、ICチップ61の位置情報とを取得することで作成することができる。具体的には、読み取り装置62を建物の壁の外側から壁の内側に設置された油圧ダンパ1に近接させ、ICチップ61から油圧ダンパ1の識別情報を読み取る。また、このとき読み取り装置62は、ICチップ61の位置情報も取得する。ここで、ICチップ61の位置情報は、ICチップ61がGPS情報をもとに取得した位置情報であってもよいし、読み取り装置62がGPS情報をもとに取得した位置情報であってもよい。
電源部76は、監視装置70の各部を駆動するための電力を供給する。
【0054】
次に、監視装置70が実行する異常判定処理について、
図8を参照しながら具体的に説明する。
図8に示す異常判定処理は、例えば、操作者が操作部71により監視装置70をオンする操作を行ったタイミングで開始され、操作者が操作部71により監視装置70をオフする操作を行うまで実行される。ただし、
図8の処理の開始タイミングおよび終了タイミングは、上記のタイミングに限らない。監視装置70は、制御部73が必要なプログラムを読み出して実行することにより、
図8に示す各処理を実現することができる。
【0055】
まずS1において、監視装置70は、オイル漏れセンサ60のセンサ信号を取得する。例えば、監視装置70は、オイル漏れセンサ60に対してセンサ信号の送信を要求する信号を送信し、オイル漏れセンサ60が監視装置70からの要求に応じて送信したセンサ信号を取得する。このように、オイル漏れセンサ60は、監視装置70からのプッシュ通知を受けてセンサ信号を送信するよう構成されている。
また、このS1においては、監視装置70は、油圧ダンパ1の識別情報を取得する。例えば、監視装置70は、オイル漏れセンサ60に対して識別情報の送信を要求する信号を送信する。すると、オイル漏れセンサ60は、監視装置70からの要求に応じてICチップ61から識別情報を読み取り、読み取った識別情報を監視装置70に送信する。監視装置70は、オイル漏れセンサ60から送信される識別情報を取得する。
【0056】
次に、S2において、監視装置70は、S1において取得されたセンサ信号と、予め設定された基準値TH1とを比較する。ここで、センサ信号は、上述したシールの色の変化度合といった、油圧ダンパ1におけるオイル漏れ量を表す値であり、値が大きいほどオイル漏れ量が多いことを示す。また、基準値TH1は、油圧ダンパ1が正常であるか否かを判定するための閾値であり、例えばTH1=0とすることができる。監視装置70は、センサ信号が基準値TH1以下であると判定した場合には、オイル漏れが発生しておらず油圧ダンパ1は正常であると判定してS3に移行する。一方、監視装置70は、センサ信号が基準値TH1を上回っていると判定した場合には、オイル漏れが発生していると判定してS9に移行する。
【0057】
S3では、監視装置70は、タイマをスタートさせ、S4において、タイマの値が予め設定された期間T1に達しているか否かを判定する。ここで、期間T1は、例えば1週間とすることができる。そして、監視装置70は、タイマの値が期間T1に達していないと判定した場合には、期間T1が経過するまで待機し、タイマの値が期間T1に達するとS5に移行する。なお、上記期間T1は、1週間に限定されるものではない。上記期間T1は、オイル漏れセンサ60の電源(例えば、乾電池)が制振装置Aの耐久期間に亘って使用可能となるような検出インターバルに相当する期間であればよく、例えば1週間よりも短い期間でもよいし、1週間よりも長い期間でもよい。
【0058】
S5では、監視装置70は、S1と同様に、オイル漏れセンサ60のセンサ信号を取得し、S6に移行する。S6では、監視装置70は、S2と同様に、S5において取得されたセンサ信号が基準値TH1以下であるか否かを判定する。そして、監視装置70は、センサ信号が基準値TH1以下であると判定した場合にはS7に移行し、センサ信号が基準値TH1を上回っていると判定した場合にはS9に移行する。
【0059】
S7では、監視装置70は、油圧ダンパ1が正常であることを、送信部74から電子メールを用いて予め定められた送信先へ通知する。監視装置70は、予め制御部73の内部メモリ等に電子メールの文章データを記憶しておき、当該文章データに必要な情報を付加して電子メールを送信する。文章データに付加する情報としては、時間情報や位置情報などがある。
具体的には、監視装置70は、(1)油圧ダンパ1の状態(正常/異常)を表す文章、(2)電子メールの送信日時(年、月、日、時、分)、もしくは油圧ダンパ1の異常判定を行った日時、(3)異常レベル(高/中/低)、(4)油圧ダンパ1の識別情報(製造シリアルナンバー)、(5)建物の場所(住所)、(6)油圧ダンパ1の建物内の設置位置(壁の位置)を含むログ情報を電子メールで送信する。
【0060】
上記(2)の日時データは、例えば制御部73が有する内部タイマの情報を用いることができる。上記(3)の異常レベルは、油圧ダンパ1が正常である場合には「低」とすることができる。また、油圧ダンパ1に異常が発生しているがしばらく経過を観察すればよいレベルである場合、異常レベルを「中」とし、すぐに修理が必要なレベルである場合、異常レベルを「高」とすることができる。上記(6)の設置場所に関する情報は、油圧ダンパ1の識別情報をもとに、記録部75に記録されたデータベースを参照して特定することができる。
【0061】
さらにS7では、監視装置70は、上記のログ情報を、履歴情報として記録部75に記録する。この履歴情報は、制振装置Aのメンテナンス計画の作成や制振装置Aの次機種の設計にフィードバックすることができる。
S8では、監視装置70は、タイマをリセットし、S4に戻る。
このように、監視装置70は、油圧ダンパ1が正常であると判定されている間は、期間T1(例えば、1週間)ごとにオイル漏れセンサ60のセンサ信号を取得し、油圧ダンパ1の状態を監視する。そして、監視装置70は、油圧ダンパ1に異常が発生したことを検知すると(S2もしくはS6でNo)、S9以降の処理を実行する。
【0062】
S9では、監視装置70は、センサ信号が予め設定された基準値TH2以下であるか否かを判定する。ここで、基準値TH2は、油圧ダンパ1の異常レベルが、すぐに修理が必要なレベル(異常レベル:高)であるのか、経過観察でよいレベル(異常レベル:中)であるのかを判定するための閾値である。監視装置70は、センサ信号が基準値TH2を下回っていると判定した場合には、異常レベルが「中」であると判定してS10に移行し、センサ信号が基準値TH2以上であると判定した場合には、異常レベルが「高」であると判定してS14に移行する。
【0063】
S10では、監視装置70は、油圧ダンパ1に異常が発生しており、経過観察が必要であることを、送信部74から電子メールを用いて予め定められた送信先へ通知する。このとき、監視装置70は、上述したログ情報のうち、上記(1)の文章を油圧ダンパ1の経過観察が必要であることを表す文章とし、上記(3)の異常レベルを「中」として電子メールを送信する。
S11では、監視装置70は、タイマをリセットし、S12に移行する。S12では、監視装置70は、タイマの値が予め設定された期間T2に達しているか否かを判定する。ここで、期間T2は、期間T1よりも短い期間であり、例えば3日とすることができる。そして、監視装置70は、期間T2に達していないと判定した場合には、期間T2が経過するまで待機し、期間T2に達するとS13に移行する。なお、上記期間T2は、3日に限定されるものではなく、期間T1よりも短い期間であれば任意に設定可能である。
S13では、監視装置70は、S1と同様に、オイル漏れセンサ60のセンサ信号を取得し、S9に戻る。
【0064】
S14では、監視装置70は、油圧ダンパ1に異常が発生しており、すぐに修理が必要であることを、送信部74から電子メールを用いて予め定められた送信先へ通知する。このとき、監視装置70は、上述したログ情報のうち、上記(1)の文章をすぐに油圧ダンパ1の修理が必要であることを表す文章とし、上記(3)の異常レベルを「高」として電子メールを送信する。S14において送信される電子メールの一例を
図9に示す。
S16では、監視装置70は、油圧ダンパ1が正常な状態に復元されたか否かを判定する。例えば、監視装置70は、操作者からの指示により異常が発生した油圧ダンパ1を修理または交換したことを確認した場合や、オイル漏れセンサ60のセンサ信号が正常値となったことを確認した場合に、油圧ダンパ1が正常な状態に復元されたと判定する。監視装置70は、油圧ダンパ1が正常な状態に復元されるまで待機し、正常な状態に復元されたと判定すると、S3に移行する。
【0065】
以上説明したように、本実施形態における制振装置Aは、構造物において外部から視認できない位置に設置される制振部材(油圧ダンパ1)を備える。制振装置Aは、油圧ダンパ1の状態を検出する検出部としてのオイル漏れセンサ60を備え、オイル漏れセンサ60により検出された油圧ダンパ1の状態に基づいて、当該油圧ダンパ1の異常を判定する。また、制振装置Aは、異常が発生していると判定された油圧ダンパ1の構造物内における設置位置を特定する。そして、制振装置Aは、油圧ダンパ1の異常判定結果と、異常が発生していると判定された油圧ダンパ1の設置位置に関する情報とを少なくとも含むログ情報を外部装置へ送信する。
【0066】
このように、制振装置Aは、建物の壁の内側など、直接目で確認できない位置に設置された油圧ダンパ1の異常発生の有無とその異常レベルとを、建物の所有者や管理者に適切に通知することができる。また、制振装置Aは、異常が発生している油圧ダンパ1の設置位置も併せて通知することができる。したがって、建物の所有者や管理者は、油圧ダンパ1に異常が発生したことを容易に認識することができると共に、異常が発生した油圧ダンパ1の設置場所を適切に把握することができ、油圧ダンパ1の修理や交換を迅速かつ正確に実行することが可能となる。これにより、制振装置Aは、油圧ダンパ1の機能を適切に維持することができる。
【0067】
ここで、オイル漏れセンサ60は、油圧ダンパ1のシリンダ5からのオイルの漏れを検出するセンサであり、ピストンロッド6における鉛直方向下側の端部近傍に設置されている。したがって、制振装置Aは、シリンダ5からのオイル漏れの発生の有無を適切に検出することができ、油圧ダンパの制振機能を発揮できない状況であるか否かを適切に判定することができる。
また、制振装置Aは、オイル漏れセンサ60によって検出されたオイルの漏れ量に基づいて、油圧ダンパ1の異常のレベルを判定する。油圧ダンパ1においては、オイルの漏れ量が一定量に達するまでは、油圧ダンパ1としての機能は維持される。そのため、オイルの漏れ量を監視することで、異常のレベルが経過を観察すればよいレベルであるのか、修理や交換が必要なレベルであるのかを判定することができる。その結果、不必要に油圧ダンパ1の修理や交換を行わないようにすることができる。
【0068】
さらに、制振装置Aは、油圧ダンパ1の異常のレベルが高いほど、オイル漏れセンサ60によるオイル漏れの検出インターバルを短くすることができる。これにより、油圧ダンパ1の異常レベルが低い場合には、オイル漏れセンサ60の駆動を抑え、消費電力を低減することができる。また、オイル漏れを検出した後は、短い間隔でオイル漏れセンサ60からセンサ信号を取得し、油圧ダンパ1の状態を監視することができるので、当該油圧ダンパ1の修理や交換が必要となるタイミングを適切に判断し、迅速な対応が可能となる。
また、監視装置70は、タイマを計測してオイル漏れセンサ60の検出タイミングを判定し、オイル漏れセンサ60に対してセンサ信号の送信を要求するプッシュ通知を送信する。そして、オイル漏れセンサ60は、監視装置70からのプッシュ通知を受けてセンサ信号を監視装置70へ送信する。このような構成により、オイル漏れセンサ60を常時駆動させる必要がなくなり、消費電力を低減することができる。
【0069】
油圧ダンパ1の状態を検出するオイル漏れセンサ60は、油圧ダンパ1と同様に、構造物において外部から視認できない壁の内側等に設置される。そのため、オイル漏れセンサ60は、油圧ダンパ1の耐久期間に亘ってメンテナンスフリーであることが要求される。また、例えば一般住宅等においては、壁の内側に配線を引いたり電源を配置したりすることが難しい場合がある。本実施形態におけるオイル漏れセンサ60は、低消費電力化を実現可能な構成であり、例えば乾電池などにより駆動することができる。したがって、壁の内側に配線や大型の電源が不要であり、油圧ダンパ1の耐久期間に亘るメンテナンスフリーを実現することができる。
【0070】
また、制振装置Aは、油圧ダンパ1の識別情報と当該油圧ダンパ1設置位置とを関連付けたデータベースを記録しておき、当該データベースを参照して油圧ダンパ1の設置位置を特定することができる。具体的には、油圧ダンパ1に、当該油圧ダンパ1の識別情報を発信するICチップ61を設け、ICチップ61から発信される識別情報に基づいて、上記データベースを参照して、油圧ダンパ1の設置位置を特定する。したがって、容易に油圧ダンパ1の設置位置を特定することができる。
【0071】
さらに、制振装置Aが上記データベースを作成する作成部を備え、油圧ダンパ1を壁の内側等に設置した後、ICチップ61から発信される識別情報を用いて上記データベースを作成するようにすれば、信頼性の高いデータベースを得ることができる。したがって、より適切に油圧ダンパ1の設置位置を特定することができる。
油圧ダンパ1は、壁の内側などに設置されており、異常が発生した油圧ダンパ1の修理や交換を行うためには、対応する位置の壁を解体する必要がある。異常が発生した油圧ダンパ1の設置位置を適切に特定することで、誤って正常な油圧ダンパ1に対応する壁を解体してしまうといった事態を回避することができる。
【0072】
また、制振装置Aは、異常判定結果等を含むログ情報を、電子メールにて予め定められた送信先に送信することができる。したがって、遠隔地にいる建物の所有者や管理者に対して、油圧ダンパ1の状態を適切に通知することができる。
さらに、制振装置Aは、上記のログ情報をUSBメモリなどの記録部75に記録することもできる。これにより、記録されたログ情報を、制振装置Aのメンテナンス計画の作成や制振装置Aの次機種の設計に有効に利用することができる。
【0073】
(変形例)
上記実施形態においては、油圧ダンパ1の異常としてオイル漏れを検出する場合について説明したが、スプリング40の弾性力の低下など、他の異常を検出するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、監視装置70は、油圧ダンパ1の異常のレベルとして、2段階(経過観察/修理)の異常レベルを判定する場合について説明したが、3段階以上の異常レベルを判定するようにしてもよい。
さらに、上記実施形態においては、オイル漏れセンサ60自体の異常を検出する手段を設け、オイル漏れセンサ60自体に異常が発生したことを検知した場合には、これを通知するようにしてもよい。
【0074】
また、上記実施形態においては、記録部75に油圧ダンパ1の識別情報と建物内の設置位置に関する情報とを関連付けたデータベースを記録しておき、油圧ダンパ1の識別情報をもとに当該データベースを参照して油圧ダンパ1の設置位置を特定する場合について説明した。しかしながら、オイル漏れセンサ60が監視装置70に対して、センサ信号とともに油圧ダンパ1の位置情報を送信する構成であってもよい。つまり、必ずしも記録部75にデータベースを記録しておく必要はない。また、必ずしも油圧ダンパ1にICチップ61を設置する必要もない。
【0075】
また、上記実施形態において、油圧ダンパ1の設置位置の特定に、上記のデータベースを用いる場合について説明したが、油圧ダンパ1の設置位置の特定方法は上記に限定されない。例えば、監視装置70は、油圧ダンパ1の異常を検出した場合、ICチップ61等の油圧ダンパ1に設置された発信部から所定の異常信号を発信するよう指示するようにしてもよい。この場合、上記発信部から発信された異常信号を、壁の外側の油圧ダンパ1に近接した位置において近距離通信等により捕捉することで、異常が発生した油圧ダンパ1の設置位置を特定することができる。
【0076】
監視装置70は、油圧ダンパ1の異常判定結果と、異常が発生している油圧ダンパ1の設置位置に関する情報とを通知可能な構成であればよく、監視装置70が実行する異常判定処理は
図8に示す処理に限定されない。例えば、監視装置70は、建物内に設置されているすべての油圧ダンパ1の設置位置を予め把握しておき、油圧ダンパ1を1つずつ順に指定してオイル漏れセンサ60からセンサ信号を受信し、異常判定を行うようにしてもよい。この場合にも、異常判定結果と、異常が発生している油圧ダンパ1の設置位置に関する情報とを併せて通知することができる。
さらに、上記実施形態においては、油圧ダンパ1が正常である場合にも、油圧ダンパ1の識別情報や設置位置を電子メールにて通知する場合について説明したが、異常が発生した場合にのみ、当該異常が発生した油圧ダンパ1の識別情報や設置位置を電子メールにて通知するようにしてもよい。
【0077】
また、上記実施形態においては、監視装置70は、油圧ダンパ1の異常レベルに応じてオイル漏れセンサ60の検出インターバルを変更する場合について説明したが、検出インターバルは異常レベルによらずに一定であってもよい。ただし、この場合、検出インターバルは、異常が発生している油圧ダンパ1の経過観察にも適した期間であることが好ましい。
さらに、上記実施形態においては、監視装置70が
図8に示す異常判定処理を実行する場合について説明したが、オイル漏れセンサ60の電源(例えば、乾電池)が制振装置Aの耐久期間に亘って使用可能である場合には、上述した監視装置70と同様の機能をオイル漏れセンサ60が実現するようにしてもよい。つまり、オイル漏れセンサ60が、監視装置70の制御部73、送信部74および記録部75に対応する構成を備えていてもよい。
【0078】
また、上記実施形態においては、制振部材が油圧ダンパである場合について説明したが、これに限定されるものではなく、制振部材は、ゴム等の粘弾性材料を用いたダンパや、金属の塑性変形を用いたダンパ、摩擦材を用いたダンパなどであってもよい。これらの場合にも、制振部材の状態(ゴムの硬化状態や金属の変形状態など)を検出し、制振部材としての性能を発揮できない状態であるか否かを判定することができる。
【符号の説明】
【0079】
1…油圧ダンパ、2…構造部材(柱)、3…構造部材(梁)、5…シリンダ、6…ピストンロッド、10…ピストン、60…オイル漏れセンサ、61…ICチップ、70…監視装置、73…制御部、74…送信部