(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】蒸気環境でのマルテンサイト系耐熱鋼の酸化層の内層厚さの計算方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20240730BHJP
C22C 38/22 20060101ALI20240730BHJP
C23C 8/10 20060101ALI20240730BHJP
F22B 37/38 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G01N17/00
C22C38/22
C23C8/10
F22B37/38 E
(21)【出願番号】P 2023087183
(22)【出願日】2023-05-26
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】202310439946.7
(32)【優先日】2023-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507393540
【氏名又は名称】武▲漢▼大学
(74)【代理人】
【識別番号】100207561
【氏名又は名称】柳元 八大
(74)【代理人】
【識別番号】100230086
【氏名又は名称】譚 粟元
(72)【発明者】
【氏名】王 学
(72)【発明者】
【氏名】杜 ▲ツォン▼昊
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-110039(JP,A)
【文献】特開2003-090506(JP,A)
【文献】特開2015-045490(JP,A)
【文献】特開平09-318586(JP,A)
【文献】特開2001-082702(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112597627(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111581861(CN,A)
【文献】Quande Li, 外2名,Corrosion behavior of three heat-rsistant steels for turbine system in steam at 600℃ and 20 MPa,Materials and Corrosion,2022年11月27日,第74巻,630-643頁,DOI:10.1002/maco.202213338
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルテンサイト系耐熱鋼の蒸気環境での酸化層の内層の厚さの計算方法であって、前記マルテンサイト系耐熱鋼は、9%Cr耐熱鋼であり、前記蒸気環境での前記酸化層の内層の厚さの計算式は、Y=ω×Y
T+(1-ω)×Y
pであり、ここで、
【数1】
Y
p=a+bt+cp+dt
2+hpt+ip
2
式中、Yは、前記蒸気環境での前記酸化層の内層の厚さであり、Y
Tは、前記蒸気環境での温度と前記酸化層の内層の厚さとの関係式であり、Y
pは、前記蒸気環境での圧力と前記酸化層の内層の厚さとの関係式であり、単位がいずれもμmであり、ωは、重み係数であり、k、a、b、c、d、h、iは、フィッティング係数であり、Qは、活性化エネルギーであり、単位がJ・mol
-1であり、Rは、気体定数であり、Tは、蒸気温度であり、単位がKであり、pは、蒸気圧力であり、単位がMPaであり、tは、時間であり、単位がhである、
ことを特徴とする計算方法。
【請求項2】
前記蒸気温度の範囲は、550~650℃であり、前記蒸気圧力の範囲は、5.0~25.0MPaである、
ことを特徴とする請求項1に記載の計算方法。
【請求項3】
前記マルテンサイト系耐熱鋼の蒸気環境での運転時間tの範囲は、1000~150000hである、
ことを特徴とする請求項1に記載の計算方法。
【請求項4】
前記Yの計算式において、
前記蒸気温度T<600℃である場合、前記ωの値は、0.1682±0.1136であり、
前記蒸気温度T≧600℃である場合、前記ωの値は、0.6891±0.2269である、
ことを特徴とする請求項1に記載の計算方法。
【請求項5】
前記Y
Tの計算式において、前記マルテンサイト系耐熱鋼の蒸気酸化層の内層の厚さの式において、前記n=0.25である、
ことを特徴とする請求項1に記載の計算方法。
【請求項6】
前記Y
Tの計算式において、前記kと前記蒸気温度Tとの間に存在する数学的関係は、k=1.01×10
-42T
14.68である、
ことを特徴とする請求項1に記載の計算方法。
【請求項7】
前記Y
Tの計算式において、前記活性化エネルギーQと前記時間tとの間に存在する数学的関係は、Q=106661.33557-0.36498t+3.07915×10
-6t
2である、
ことを特徴とする請求項1に記載の計算方法。
【請求項8】
前記Y
pの計算式において、前記フィッティング係数aの値は、22.21であり、前記フィッティング係数bの値は、0.0009334であり、前記フィッティング係数cの値は、-0.8198であり、前記フィッティング係数dの値は、-7.655×10
-10であり、前記フィッティング係数hの値は、1.79×10
-5であり、前記フィッティング係数iの値は、0.1152である、ことを特徴とする請求項1に記載の計算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルテンサイト系耐熱鋼の技術分野に属し、具体的には、蒸気環境でのマルテンサイト系耐熱鋼の酸化層の内層の厚さの計算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マルテンサイト系耐熱鋼は、T/P91、T/P92、E911、T/P93(9Cr-3W-3Co)、T/P122などの9~12%Cr耐熱鋼を含む。マルテンサイト系耐熱鋼は、優れた高温クリープ強度、良好な熱伝導性及び低い線膨張係数を有し、超(超)臨界ユニットを製造するための主蒸気管、ヘッダ、過熱器、再熱器などの重要な高温部材に広く応用される。ユニットの動作蒸気の圧力の向上に伴い、マルテンサイト系耐熱鋼の耐蒸気酸化性能は、高温部材の耐用年数に影響を及ぼす重要な因子の1つとなる。高温部材の長期運転過程において、酸化層の厚さが増加するため、管壁の有効肉厚が減少し、管壁の応力も対応して増加し、また、酸化層が管壁の熱伝導性能の悪化を引き起こし、管壁の平均運転温度を向上させ、管壁が長期に過温サービス状態にあり、ある程度まで発展すると、最終的に管破裂事故の発生を招く。したがって、部材の使用期間を評価し、早期警報を実現し、事故の発生を低減するために、過熱器、再熱器などの蒸気でサービスする部材の酸化層の厚さを予測することは、非常に必要である。
【0003】
酸化膜の内層の厚さの計算には、耐熱鋼の蒸気環境での酸化動力学モデルを用いる必要がある。現在、中国国内外のマルテンサイト系耐熱鋼蒸気酸化動力学モデルについては、一般的に蒸気温度の影響のみを考慮し、蒸気圧力の変化による影響を考慮することが少なく、特に両者の結合作用での総合的な影響を考慮しない。実際には、ユニットの異なる部材における蒸気温度と蒸気圧力のパラメータの差異が大きく、例えば高温再熱器の蒸気温度が過熱器より高いが、蒸気圧力が過熱器より明らかに低い。したがって、蒸気温度と蒸気圧力の総合的な影響を考慮してこそ、異なる部材の酸化層の厚さを正確に予測し、さらにその残存耐用年数を予測することができる。また、現在、マルテンサイト系耐熱鋼蒸気酸化動力学モデルは、酸化重量法実験結果に基づいて得られたものであり、酸化層の厚さを直接的に計算することができない。少数の文献には酸化層の厚さの増加に基づくマルテンサイト系耐熱鋼高温蒸気酸化動力学モデルが報告されているが、酸化層が内層及び外層を含み、これらの文献には外層の厚さ及び内層の厚さが区別されない。出願人の研究によると、酸化層の内層の厚さの増加だけで管壁の薄肉化をもたらし、管の耐用年数に影響を及ぼすため、酸化層の内層の厚さを予測することは、より実際的な意味を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の技術に存在する問題を解決するために、蒸気環境でのマルテンサイト系耐熱鋼の酸化層の内層の厚さの計算方法を提供し、蒸気温度、蒸気圧力及び運転時間に基づいて、9%Crマルテンサイト系耐熱鋼の蒸気での酸化層の内層の厚さを容易に迅速に計算することができ、計算精度を顕著に向上させ、そして実際の発電所の運転中に管を切断せずに測定すれば高温部材の残存耐用年数の評価を実現することができ、ユニットの安全運転を保証し、コストを低減し、重要な工業上の応用価値を有する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明が用いる技術手段は、以下のとおりである。
【0006】
マルテンサイト系耐熱鋼の蒸気環境での酸化層の内層の厚さの計算方法が提供され、前記マルテンサイト系耐熱鋼は、9%Cr耐熱鋼であり、前記蒸気環境での前記酸化層の内層の厚さの計算式は、Y=ω×YT+(1-ω)×Yp (1)であり、
ここで、
【0007】
【数1】
Y
p=a+bt+cp+dt
2+hpt+ip
2 (3)
式中、Yは、前記蒸気環境での前記酸化層の内層の厚さであり、Y
Tは、前記蒸気環境での温度と前記酸化層の内層の厚さとの関係式であり、Y
pは、前記蒸気環境での圧力と前記酸化層の内層の厚さとの関係式であり、単位がいずれもμmであり、ωは、重み係数であり、k、a、b、c、d、h、iは、フィッティング係数であり、Qは、活性化エネルギーであり、単位がJ・mol
-1であり、Rは、気体定数であり、Tは、蒸気温度であり、単位がKであり、pは、蒸気圧力であり、単位がMPaであり、tは、時間であり、単位がhである。
【0008】
上記技術手段では、前記蒸気温度の範囲は、550~650℃であり、前記蒸気圧力の範囲は、5.0~25.0MPaである。
【0009】
上記技術手段では、時間の範囲は、1000~150000hである。
【0010】
上記技術手段では、前記Yの計算式において、
前記蒸気温度T<600℃である場合、前記ωの値は、0.1682±0.1136であり、
前記蒸気温度T≧600℃である場合、前記ωの値は、0.6891±0.2269である。
【0011】
上記技術手段では、前記YTの計算式において、前記マルテンサイト系耐熱鋼の蒸気酸化層の内層の厚さの式において、前記n=0.25である。
【0012】
上記技術手段では、前記YTの計算式において、前記kと前記温度Tとの間に存在する数学的関係は、k=1.01×10-42T14.68である。
【0013】
上記技術手段では、前記YTの計算式において、前記活性化エネルギーQと前記時間tとの間に存在する数学的関係は、Q=106661.33557-0.36498t+3.07915×10-6t2である。
【0014】
上記技術手段では、前記Ypの計算式において、前記フィッティング係数aの値は、22.21であり、前記フィッティング係数bの値は、0.0009334であり、前記フィッティング係数cの値は、-0.8198であり、前記フィッティング係数dの値は、-7.655×10-10であり、前記フィッティング係数hの値は、1.79×10-5であり、前記フィッティング係数iの値は、0.1152である。
【0015】
発電所で蒸気で運転するマルテンサイト系耐熱鋼部材の耐用年数を評価する方面における上記計算方法の応用を提供する。
【0016】
上記技術手段では、前記蒸気温度は、550~650℃であり、前記蒸気圧力は、5.0~25.0MPaである。
【0017】
本発明において、まず酸化層の内層の厚さYと蒸気温度T又は蒸気圧力pとの関係を単独に研究し、次に温度及び圧力が酸化層の内層の厚さに及ぼす影響の大きさと程度に対して重み分析を行ったところ、蒸気温度と圧力の結合作用で、異なる温度区間で、温度が酸化層の内層の厚さに及ぼす影響の重みが異なることを発見する。最後に実際のデータを結合して従来の指数モデルに基づいて式を数学的に補正し、蒸気温度、蒸気圧力及び運転時間という3つの因子を総合する、9%Crマルテンサイト系耐熱鋼の蒸気酸化層の内層の厚さの計算式を提供する。管を切断して測定する必要がなく、コストの低減及び運転に影響を与えない状況での管の酸化層の厚さの推定を実現する。また、本式により9%Crマルテンサイト系耐熱鋼の酸化層の内層の厚さを計算して、管の内壁の酸化腐食程度を正確に反映することができ、部材の残存耐用年数の計算に基礎データを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の有益な効果は以下のとおりである。
【0019】
1、本発明によれば、まずマルテンサイト系耐熱鋼に関して超(超)臨界蒸気環境での酸化層の内層の厚さを研究し、蒸気温度、蒸気圧力及び運転時間という3つの因子を総合して9%Crマルテンサイト系耐熱鋼の蒸気酸化層の内層の厚さを容易に迅速に計算し、予測の正確度を大幅に向上させ、誤差を6%以内に制御することができ、そして実際の発電所の運転中に管を切断せずに酸化層の内層の厚さを測定することができ、コストを低減し、作業効率を向上させ、実用的価値が高い。
【0020】
2、本発明によれば、マルテンサイト系耐熱鋼の超(超)臨界蒸気環境での酸化層の内層の厚さを高精度に計算し得ることにより、マルテンサイト系耐熱鋼管の内壁の酸化による腐食と薄肉化の程度を十分に反応し、部材の残存耐用年数を評価し、ユニットの安全運転を保障し、重要な工業上の応用価値を有する。
【0021】
3、本発明によれば、異なる温度区間において、温度が酸化層の内層の厚さに及ぼす影響の異なる重みを決定し、さらに計算の正確度を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施例における酸化層の内層の厚さY
TとZのフィッティング曲線図である。
【
図2】本発明の実施例における酸化層の内層の厚さY
pと選定された圧力p及び時間tとの関係図である。
【
図3】本発明の実施例における酸化層の内層の厚さY
pと選定された圧力p及び時間tでの実測データの3回繰り返しフィッティング検証図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に具体的な実施例により本発明の技術手段をさらに説明する。
【0024】
1)酸化層の内層の厚さYTと温度Tとの関係式
温度T及び時間tが発電所ボイラーの高温受熱面の酸化層に及ぼす影響を究明し、高温動作状況での酸化層の厚さYTは、以下の式(1)の指数モデル法則に合致する。
【0025】
【数2】
ここで、kは、係数であり、Qは、金属酸化活性化エネルギーであり、Rは、気体定数であり、Tは、温度であり、tは、時間である。
【0026】
本発明の実施例では、温度550℃~650℃、蒸気圧力5.0~25.0MPa、酸化時間1000~150000hでのT/P91、T/P92などの9%Cr耐熱鋼の酸化層の内層の厚さのデータを含む、大量の発電所の実際の運転データ及び実験室シミュレーション実験データを収集し、上記データを用いて、式(1)におけるパラメータn、Q及びkを計算する。計算方法は、以下のステップ1~ステップ3のとおりである。
【0027】
ステップ1では、nを求める。
特定の温度Tを取ると、
【0028】
【数3】
は、定数である。圧力が一定である場合、各温度Tでの実験データを当該式に代入してフィッティングし、以下の2組の異なるデータのフィッティング結果を取得する。
【0029】
第1組について、
T=550℃である場合、YT=5.3307±0.36426t0.25745±0.00604であり、
T=575℃である場合、YT=3.8695±0.25881t0.32759±0.00588であり、
T=600℃である場合、YT=7.4295±0.57287t0.29728±0.00675であり、
T=625℃である場合、YT=16.0928±1.29516t0.24991±0.0071であり、
T=650℃である場合、YT=31.4784±1.91864t0.21077±0.0054であり、
第2組について、
T=550℃である場合、YT=5.1523±0.76277t0.26299±0.01301であり、
T=575℃である場合、YT=3.9382±0.52155t0.33434±0.01156であり、
T=600℃である場合、YT=5.66428±0.63578t0.33218±0.00987であり、
T=625℃である場合、YT=5.52665±0.39467t0.36569±0.00628であり、
T=650℃である場合、YT=2.47527±0.14564t0.37688±0.00511であり、
n値の範囲が約0.21~0.35であり、かつ0.25付近に集中して変動することを発見することができ、9%Cr耐熱鋼の酸化動力学が実質的に立方法則に合致することを説明するため、nを0.25とすれば、式(1)が以下の式(2)に修正される。
【0030】
【0031】
ステップ2では、活性化エネルギーQを求める。
式(2)の両辺の部分に対して対数を取って、以下を得る。
【0032】
【数5】
特定の時間tを取ると、ln(kt
0.25)が定数であり、Gと記し、上式を簡易化して、以下の式(3)を得る。
【0033】
【0034】
t=1000h、10000h、50000h、100000h、150000hである場合、実験データをステップ1で得られたフィッティング式に代入し、それぞれT=550℃、575℃、600℃、625℃、650℃であるlnY値を計算し、次に式(3)に代入し、異なる時間tの活性化エネルギーQ値を計算して、表1に示すとおりである。
【0035】
【0036】
表1から分かるように、異なる時間のQ値が異なり、異なる時間帯の酸化反応の活性化エネルギーが異なることを説明する。研究したところ、9%Cr耐熱鋼の酸化反応は、複雑で、動的に変化する過程であり、酸化の異なる段階で反応機構、生成物及び酸化物の成分及び構造が変化することを発見する。したがって、本発明では、数学的モデルを用いて活性化エネルギーの時間的変化をフィッティングして、得られた活性化エネルギーQと時間tは、以下の数学的モデルに高度に合致し、式が以下のとおりである。
Q=106661.33557-0.36498t+3.07915×10-6t2 (4)
【0037】
式(4)を式(2)に代入し、補正された厚さの式を得て、以下のとおりである。
【0038】
【0039】
ステップ3では、係数kを求める。
特定の温度T値及び運転時間tを選択すると、
【0040】
【数8】
が定値となり、Zと記し、以上の式がY
T=k×Zに変更される。各温度での実験データを順に式(5)に代入し、かつフィッティングして係数kを求めると、異なる温度でのk値が異なることを発見し、フィッティング曲線は、
図1に示され、結果は以下のとおりである。
T=550℃である場合、Y
T=(6.37±0.109)×Zであり、
T=575℃である場合、Y
T=(11.02±0.17)×Zであり、
T=600℃である場合、Y
T=(15.39±0.23)×Zであり、
T=625℃である場合、Y
T=(21.98±0.25)×Zであり、
T=650℃である場合、Y
T=(35.58±0.42)×Zである。
得られたkと温度Tとの関係式は、以下の式(6)のとおりである。
k=1.01×10
-42T
14.68 (6)
【0041】
分かるように、温度の上昇に伴い、k値がますます大きくなる。これは、温度が高いほど、温度が酸化層の内層の厚さに及ぼす影響が大きいことを説明する。したがって、最終的に得られた酸化層の内層の厚さYTと温度Tのフィッティング式は、以下の式(7)のとおりである。
【0042】
【0043】
上記式において、温度Tの単位は、Kであり、時間tの単位は、hであり、計算された酸化層の内層の厚さYTの単位は、μmである。
【0044】
2)酸化層の内層の厚さYpと蒸気圧力pとの関係式
圧力p及び時間tが発電所ボイラーの高温受熱面の酸化層に及ぼす影響を究明するために、異なる時間t、異なる圧力pでの9%Crマルテンサイト系耐熱鋼の酸化層の内層の厚さの実験データを選別処理し、結果は、表2に示すとおりである。
【0045】
【0046】
上記データをプロットして、
図2に示された酸化層の内層の厚さY
pと選定された圧力p及び時間tとの関係図を得る。
【0047】
厚さYpと圧力p及び時間tとの間に二次元二次関数関係が存在することを発見することができ、三次元非線形曲面フィッティングにより以下の式(8)を得る。
Yp=a+bt+cp+dt2+hpt+ip2 (8)
【0048】
ステップ1では、p項を含む係数i、h、cを求める。
特定の時間tを選択すると、tを含む項が定値となり、式(8)がpに関する放物線方程式に変換され、データを代入してからフィッティングして、p項を含む係数i、h、cを得ることができる。
i=0.1152±0.03315
h=1.79×10-5±4.74×10-6
c=-0.8198±1.0842
【0049】
ステップ2では、t項を含む係数d、bを求める。
同様に、特定の圧力pを選択すると、pを含む項が定値となり、式(8)がtに関する放物線方程式に変換され、データを代入してからフィッティングして、t項を含む係数d、bを得ることができる。
d=-7.655×10-10±7.7735×10-10
b=0.0009334±0.0001543
【0050】
ステップ3では、5つの係数を決定した後、最後に係数aを決定する必要がある。上記得られた係数を式(8)に代入し、次に全てのデータを代入して三次元非線形曲面フィッティングを行って、係数a=22.21±9.65を得る。したがって、式(8)が以下の式(9)に書き直される。
Yp=22.21+0.0009334t+(-0.8198p)+(-7.655×10-10t2)+1.79×10-5tp+0.1152p2 (9)
【0051】
ステップ4では、
図2に対して繰り返してフィッティングを行い、かつ式(9)における各の係数の誤り率を検証する。式(9)の表現式に曲面図に作り、次に全てのデータを図に代入し、データ点が基本的に曲面にあると、式(9)の予測結果が基本的に実際の結果に合致すると説明する。各の係数値がいずれも一定の変動範囲を有するため、3回のフィッティングを行って精度を向上させ、誤差を減少させる。最後に
図3に示す実際のデータの3回繰り返しフィッティング予測図を得る。異なる動作状況でのデータ点が基本的に3つの予測曲面(境界)にあり、平均誤り率が5%であることを発見することができ、実際の動作状況での厚さY
pと圧力p及び時間tとの関係が式(9)に記載の関数変化法則に基本的に合致することを説明し、各の係数は以下のように決定される。
a=22.21
b=0.0009334
c=-0.8198
d=-7.655×10
-10
h=1.79×10
-5
i=0.1152
【0052】
最終的に得られた酸化層の内層の厚さYpと蒸気圧力pのフィッティング式は、以下の式(10)のとおりである。
Yp=22.21+0.0009334t+(-0.8198p)+(-7.655×10-10t2)+1.79×10-5tp+0.1152p2 (10)
【0053】
上記式において、時間tの単位は、hであり、蒸気圧力pの単位は、MPaであり、酸化層の内層の厚さYpの単位は、μmである。
【0054】
3)酸化層の内層の総厚さYと蒸気温度T及び蒸気圧力pとの関係式
実験データをフィッティングする過程において、Tとpのデータを同時に導入し、かつフィッティング処理を行うと、結果はいずれも実際に合致せず、かつエラー率が高いことを発見する。分析すれば、原因が以下のとおりである可能性がある。温度及び圧力を同時に1つのシステムに導入すると、温度及び圧力という2つの物理量自体も互いに影響して変化するため、システムに閉ループ再現性エラーが発生して、フィッティング結果と実際の状況との差が大きくなり、以上に酸化層の内層の厚さと蒸気温度T又は蒸気圧力pとの関係式を既に得て、現在両者の厚さに対する重み係数を研究し、T及びpを含む酸化層の内層の総厚さの計算式を決定する。
【0055】
ステップ1では、酸化層の内層の総厚さの式を以下の式(11)として決定する。
Y=ω×YT+(1-ω)×Yp (11)
以上から分かるように、
【0056】
【数10】
Y
p=22.21+0.0009334t+(-0.8198p)+(-7.655×10
-10t
2)+1.79×10
-5tp+0.1152p
2
ここで、ωは、重み係数であり、Y
Tは、蒸気環境での温度と酸化層の内層の厚さとの関係式であり、Y
pは、蒸気環境での圧力と酸化層の内層の厚さとの関係式である。異なる温度、異なる圧力でのデータを表現式に代入して計算値を求め、かつ実際値と比較してフィッティングする。
【0057】
ステップ2では、T=550℃、575℃、600℃、625℃、650℃の酸化層の内層の厚さの実測データを代入してフィッティングした後に、温度が低い場合(T=550℃、575℃)、ωの値が0.1~0.2の範囲内で変動することを発見し、温度が低い場合、温度が酸化層の内層の厚さに及ぼす影響が圧力による影響より小さく、最終的に実測データを代入し、フィッティングして得られた温度Tの重み係数ωの値が0.1682±0.1136であれば、式(11)が以下の式(12)に変更される。
Y=(0.1682±0.1136)×YT+(0.8318±0.1136)×Yp (12)
【0058】
温度が高い場合(T=600℃、625℃、650℃)、ω値が0.6~0.8の範囲内で変動し、温度が高い場合、温度が酸化層の厚さに及ぼす影響が圧力による影響を超え、最終的に実測データを代入し、フィッティングして得られた温度Tの重み係数ωの値が0.6891±0.2269であれば、式(11)が以下の式(13)に変更される。
Y=(0.6891±0.2269)×YT+(0.3109±0.2269)×Yp (13)
【0059】
上記ステップから分かるように、温度の上昇に伴い、重み係数ωがますます大きくなり、これは、温度と酸化層の内層の厚さとの関係式YTの変化法則と基本的に一致する。前記のように、酸化層の内層の総厚さYと温度T及び蒸気圧力pの計算式は、以下のとおりである。
T<600℃である場合、Y=(0.1682±0.1136)×YT+(0.8318±0.1136)×Ypであり、
T≧600℃である場合、Y=(0.6891±0.2269)×YT+(0.3109±0.2269)×Yp、
【0060】
【数11】
Y
p=22.21+0.0009334t+(-0.8198p)+(-7.655×10
-10t
2)+1.79×10
-5tp+0.1152p
2である。
【0061】
上記式において、蒸気温度Tの単位は、Kであり、蒸気圧力pの単位は、MPaであり、時間tの単位は、hであり、酸化層の厚さYの単位は、μmである。
【0062】
(実施例1)
本発明に係る計算方法による結果とT91鋼の酸化実験結果とを比較する。
【0063】
NishimuraらがT91鋼を蒸気温度555~568℃で、蒸気圧力25MPaで約1451h酸化した後に酸化層の内層の厚さが約71μmであり、実験条件を本発明の実施例に係る式(12)に代入して計算して得られた酸化層の内層の厚さは、約70.8602μmであり、誤差百分率は0.19%であった。
【0064】
(実施例2)
本発明に係る計算方法による結果とT92鋼の酸化実験結果とを比較する。
【0065】
MurakiらがT92鋼を蒸気温度555~568℃で、蒸気圧力25MPaで約29920h酸化した後、酸化層の内層の厚さが約149μmであり、実験条件を本発明の実施例に係る式(12)に代入して計算して得られた酸化層の内層の厚さは約140.2092μmであり、誤差は5.9%であった。
【0066】
(実施例3)
実際の発電所環境での本発明に係る計算方法の応用である。
【0067】
ある発電所#6ユニットの高温再熱器ヘッダの接続管材料は、T92鋼であり、蒸気温度615℃で、蒸気圧力5MPaで15479h及び19037h運転した後に、実測された酸化層の内層の厚さがそれぞれ98μm及び112μmであった。
【0068】
上記運転パラメータにおける蒸気温度をYT(式7)に代入して計算して得られた15479h場合の酸化層の内層の厚さは105.8385μmであり、誤差百分率は、7.9%であった。上記運転パラメータにおける蒸気圧力をYp(式10)に代入して計算して得られた15479h場合の酸化層の内層の厚さは90.6411μmであり、誤差百分率は7.5%であった。上記2つの運転パラメータを本発明の実施例に提出された式(13)に代入して計算して得られた15479h場合の酸化層の内層の厚さは100.9753μmであり、誤差百分率は3.0%であった。
【0069】
上記運転パラメータにおける蒸気温度をYT(式7)に代入して計算して得られた19037h場合の酸化層の内層の厚さは120.1865μmであり、誤差百分率は、7.3%であった。上記運転パラメータにおける蒸気圧力をYp(式10)に代入して計算して得られた19037h場合の酸化層の内層の厚さは103.4091μmであり、誤差百分率は7.7%であった。上記2つの運転パラメータを本発明の実施例に提出された式(13)に代入して計算して得られた19037h場合の酸化層の内層の厚さは114.8177μmであり、誤差百分率は2.5%であった。
【0070】
以上より、温度と圧力を総合的に考慮した後の誤差がより小さく、予測結果がより正確である。
【0071】
(実施例4)
実際の発電所環境での本発明に係る計算方法の応用である。
【0072】
ある発電所の超臨界発電ボイラーは、蒸気温度が約571℃であり、蒸気圧力が約25.4MPaであり、管材としてT91鋼が用いられ、約12956h運転した後、管内の酸化層の内層の厚さが約101μmであると測定した。
【0073】
上記運転パラメータにおける蒸気温度をYT(式7)に代入して計算して得られた12956h場合の酸化層の内層の厚さは108.4956μmであり、誤差百分率は、7.4%であった。上記運転パラメータにおける蒸気圧力をYp(式9)に代入して計算して得られた12956h場合の酸化層の内層の厚さは91.4774μmであり、誤差百分率は9.4%であった。上記2つの運転パラメータを本発明の実施例に提出された式(12)に代入して計算して得られた12956h場合の酸化層の内層の厚さは102.8971μmであり、誤差百分率は1.8%であった。
【0074】
以上より、温度と圧力を総合的に考慮した後の誤差がより小さく、予測結果がより正確である。
【0075】
以上の実施例には、いずれも、当該方法で計算された9%Crマルテンサイト系鋼の酸化層の内層の厚さが実際の測定結果とよく合致し、かつ誤差が6%以内であることが説明されている。
【0076】
本発明の技術手段は、上記各実施例に限定されるものではなく、同等置換方式で得られた技術手段はいずれも本発明の保護を求める範囲内にある。
【要約】 (修正有)
【課題】蒸気環境でのマルテンサイト系耐熱鋼の酸化層の内層の厚さの計算方法を提供する。
【解決手段】蒸気温度、蒸気圧力及び運転時間という、酸化層の厚さに及ぼす影響が最も大きい3つの因子を総合的に考慮し、金属酸化動力学モデルにより、大量の発電所の実際の運転データ及び実験室シミュレーション実験データを結合して式を数学的に補正し、線形フィッティング及びカーブフィッティングなどの方法を用いて9%Crマルテンサイト系耐熱鋼の蒸気環境での酸化層の内層の厚さの計算方法を得る。本発明は、蒸気温度、蒸気圧力及び運転時間に基づいて9%Crマルテンサイト系耐熱鋼の蒸気での酸化層の内層の厚さを容易に迅速に計算し、計算精度を顕著に向上させ、そして実際の発電所の運転中に管を切断せずに測定すれば高温部材の残存耐用年数の評価を実現することができ、ユニットの安全運転を保証し、コストを低減し、重要な工業上の応用価値を有する。
【選択図】なし