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特許7529317金属蒸着フィルムおよび金属蒸着フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】金属蒸着フィルムおよび金属蒸着フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/095 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
B32B15/095
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023218322
(22)【出願日】2023-12-25
【審査請求日】2023-12-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000235783
【氏名又は名称】尾池工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀井 明果
(72)【発明者】
【氏名】南部 壮志
【審査官】大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-123349(JP,A)
【文献】特開平07-242863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、アルミニウム層と、樹脂層とをこの順に有し、
前記樹脂層は、芳香族系樹脂と、芳香族系硬化剤と、ベンゾトリアゾール系添加剤とを含み、
前記樹脂層の膜厚は、35~100nmであり、
前記ベンゾトリアゾール系添加剤の、以下の式(1)に基づいて算出される含有割合は、5~20%である、電子材料用途の金属蒸着フィルム。
式(1):Z/(X+Y)×100
式(1)中、Xは芳香族系樹脂の重量部、Yは芳香族系硬化剤の重量部、Zはベンゾトリアゾール系添加剤の重量部である。
【請求項2】
前記樹脂層の表面から、四端子四探針方式により測定した表面抵抗値は、0.01~30Ω/□である、請求項1記載の金属蒸着フィルム。
【請求項3】
前記芳香族系樹脂は、芳香族を有するポリオールを含む、請求項1または2記載の金属蒸着フィルム。
【請求項4】
前記芳香族系硬化剤は、芳香族を有するイソシアネートを含む、請求項1または2記載の金属蒸着フィルム。
【請求項5】
基材上に、アルミニウム層を形成するアルミニウム蒸着工程と、
前記アルミニウム層上に、樹脂層を形成する樹脂層形成工程とを有し、
前記樹脂層は、芳香族系樹脂と、芳香族系硬化剤と、ベンゾトリアゾール系添加剤とを含み、
前記樹脂層の膜厚は、35~100nmとなるように形成され、
前記樹脂層形成工程において、前記樹脂層中の前記ベンゾトリアゾール系添加剤の、以下の式(2)に基づいて算出される含有割合が、5~20%となるように調整される、電子材料用途の金属蒸着フィルムの製造方法。
式(2):Z/(X+Y)×100
式(2)中、Xは芳香族系樹脂の重量部、Yは芳香族系硬化剤の重量部、Zはベンゾトリアゾール系添加剤の重量部である。
【請求項6】
60℃95%RHの条件にて72時間の湿熱試験を実施した際の渦電流方式における抵抗値変化(試験後/試験前)が1.5以下である請求項1または2記載の金属蒸着フィルム。
【請求項7】
85℃85%RHの条件にて72時間の湿熱試験を実施した際の渦電流方式における抵抗値変化(試験後/試験前)が1.7以下である請求項1または2記載の金属蒸着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属蒸着フィルムおよび金属蒸着フィルムの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、金属蒸着層(アルミニウム層)を覆う樹脂層の膜厚の値が小さい場合であっても、優れた耐久性を示す、金属蒸着フィルムおよび金属蒸着フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加飾用途、電子材料用途等において、金属蒸着フィルムが開発されている(たとえば、特許文献1)。特許文献1には、金属フィルムの腐食を防ぐための耐食金属化フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2008-534317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に、金属化フィルム(特にアルミニウムからなる金属化フィルム)は、酸化や腐食が起こりやすく、本来の金属調や導電性が失われたり、抵抗値が高くなったり、透明化したりする等、各種の不具合を生じやすい。また、特許文献1に記載の耐食金属化フィルムは、金属層にポリマー保護層を付着させることにより、金属層の劣化を防ぐよう試みられている。しかしながら、耐久性を向上させるためには、膜厚の値が大きなポリマー保護層(樹脂層)を要する。樹脂層の膜厚の値が大きいと、得られる金属化フィルムは、耐久性が得られやすいが、用途が限定されるという問題がある。
【0005】
本発明は、このような従来の発明に鑑みてなされたものであり、金属蒸着層(アルミニウム層)を覆う樹脂層の膜厚の値が小さい場合であっても、優れた耐久性を示す、金属蒸着フィルムおよび金属蒸着フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、アルミニウムからなる金属蒸着層に樹脂層を設ける際に、樹脂層を構成する成分として、芳香族系樹脂と、芳香族系硬化剤と、ベンゾトリアゾール系添加剤とを採用することにより、樹脂層の膜厚の値が小さい場合であっても、優れた耐久性を示し得る点を見出し、本発明を完成させた。すなわち、上記課題を解決する本発明の金属蒸着フィルムおよび金属蒸着フィルムの製造方法には、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)基材と、アルミニウム層と、樹脂層とをこの順に有し、前記樹脂層は、芳香族系樹脂と、芳香族系硬化剤と、ベンゾトリアゾール系添加剤とを含み、前記樹脂層の膜厚は、35~100nmであり、前記ベンゾトリアゾール系添加剤の、以下の式(1)に基づいて算出される含有割合は、5~20%である、金属蒸着フィルム。
式(1):Z/(X+Y)×100
式(1)中、Xは芳香族系樹脂の重量部、Yは芳香族系硬化剤の重量部、Zはベンゾトリアゾール系添加剤の重量部である。
【0008】
このような構成によれば、金属蒸着フィルムは、アルミニウム層を覆う樹脂層の膜厚の値が35~100nmであり小さいが、優れた耐久性を示す。
【0009】
(2)前記芳香族系樹脂は、芳香族を有するポリオールを含む、(1)記載の金属蒸着フィルム。
【0010】
このような構成によれば、金属蒸着フィルムは、より優れた耐久性を示す。
【0011】
(3)前記芳香族系硬化剤は、芳香族を有するイソシアネートを含む、(1)または(2)のいずれかに記載の金属蒸着フィルム。
【0012】
このような構成によれば、金属蒸着フィルムは、より優れた耐久性を示す。
【0013】
(4)基材上に、アルミニウム層を形成するアルミニウム蒸着工程と、前記アルミニウム層上に、樹脂層を形成する樹脂層形成工程とを有し、前記樹脂層は、芳香族系樹脂と、芳香族系硬化剤と、ベンゾトリアゾール系添加剤とを含み、前記樹脂層の膜厚は、35~100nmとなるように形成され、前記樹脂層形成工程において、前記樹脂層中の前記ベンゾトリアゾール系添加剤の、以下の式(2)に基づいて算出される含有割合が、5~20%となるように調整される、金属蒸着フィルムの製造方法。
式(2):Z/(X+Y)×100
式(2)中、Xは芳香族系樹脂の重量部、Yは芳香族系硬化剤の重量部、Zはベンゾトリアゾール系添加剤の重量部である。
【0014】
このような構成によれば、得られる金属蒸着フィルムは、アルミニウム層を覆う樹脂層の膜厚の値が35~100nmであり小さいが、優れた耐久性を示す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属蒸着層(アルミニウム層)を覆う樹脂層の膜厚の値が小さい場合であっても、優れた耐久性を示す、金属蒸着フィルムおよび金属蒸着フィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<金属蒸着フィルム>
本発明の一実施形態の金属蒸着フィルム(以下、フィルムともいう)は、基材と、アルミニウム層と、樹脂層とをこの順に有する。樹脂層は、芳香族系樹脂と、芳香族系硬化剤と、ベンゾトリアゾール系添加剤とを含む。樹脂層の膜厚は、35~100nmである。ベンゾトリアゾール系添加剤の、以下の式(1)に基づいて算出される含有割合は、5~20%である。以下、それぞれについて説明する。
式(1):Z/(X+Y)×100
式(1)中、Xは芳香族系樹脂の重量部、Yは芳香族系硬化剤の重量部、Zはベンゾトリアゾール系添加剤の重量部である。
【0017】
(基材)
基材は特に限定されない。一例を挙げると、基材は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリスチレン、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等からなる。
【0018】
基材の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、基材の厚みは、4μm以上であることが好ましく、6μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。また、基材の厚みは、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、125μm以下であることがさらに好ましい。基材の厚みが上記範囲内であることにより、フィルムは、軽量化でき、柔軟性が優れる。
【0019】
基材は、所望の表面加工が施されたものが使用されてもよい。表面加工は特に限定されない。一例を挙げると、表面加工は、マット加工、サテン加工、エンボス加工、ヘアライン加工等である。また、基材の表面(アルミニウム層が形成される面とは反対の面)に、各種コーティング(フッ素加工、ハードコート加工等)、転写等の表面加工が施されてもよい。これにより、基材の表面には、各種意匠性や機能性が付与され得る。
【0020】
また、基材は、各種の表面処理が施されてもよい。表面処理は特に限定されない。一例を挙げると、表面処理は、コロナ処理、プラズマ処理、イオンボンバード処理、イオン注入処理等である。これにより、基材は、その上に形成される層との密着性が向上され得る。
【0021】
基材は、後述するアルミニウム層との密着性を向上させるために、アンカー層が形成された基材であってもよい。この場合、基材は、上記の材料からなる基体シートと、基体シート上に形成されたアンカー層とからなる。
【0022】
アンカー層は特に限定されない。一例を挙げると、アンカー層は、基体シートとの密着性がよく、かつ、アルミニウムとの密着性がよい原料であればよく、アクリル系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン-マレイン酸系樹脂、塩素化PP系樹脂等である。
【0023】
アンカー層は、着色剤や金属顔料が付与されることにより、意匠性が付与されてもよい。たとえば、着色剤としてイエロー顔料が配合されることにより、積層フィルムは、金色の外観を表現し得る。着色剤の種類や含有量は、所望する金属調の外観に応じて適宜調整され得る。また、アンカー層は、帯電防止剤等が配合されることにより、帯電防止効果などの機能性が付与されてもよい。
【0024】
アンカー層を形成する方法は特に限定されない。一例を挙げると、アンカー層は、基体シート上にアンカー層を形成するアンカー層形成工程によって形成され、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、リバースロールコート法、ダイコート法、スクリーン印刷、CVD法等により形成され得る。
【0025】
(アルミニウム層)
アルミニウム層は、金属アルミニウムからなる金属蒸着層である。アルミニウム層のアルミニウムの純度としては、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。アルミニウムの純度が上記範囲内であることにより、フィルムは、優れた導電性や加飾性(金属調)を示すほか、各種特性(ガスバリア性、水蒸気バリア性等)を示し得る。なお、本実施形態においてアルミニウム層中には、不可避的に含まれてしまう不純物が含有されてもよく、本実施形態の効果を阻害しなければ、その他の成分を含んでいてもよい。
【0026】
アルミニウム層の膜厚は特に限定されない。一例を挙げると、アルミニウム層の膜厚は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましい。また、アルミニウム層の膜厚は、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。アルミニウム層の膜厚が上記範囲内であることにより、フィルムは、優れた導電性や加飾性(金属調)を示すほか、各種特性(ガスバリア性、水蒸気バリア性等)を示し得る。
【0027】
(樹脂層)
樹脂層は、アルミニウム層を覆う層であり、芳香族系樹脂と、芳香族系硬化剤と、ベンゾトリアゾール系添加剤とを含む。
【0028】
・芳香族系樹脂(主剤)
芳香族系樹脂は特に限定されない。一例を挙げると、芳香族系樹脂は、ポリオール、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリアミド、エポキシ、テルペン等である。
【0029】
芳香族を有するポリオールは、芳香族ポリエーテルポリオール、芳香族ポリエステルポリオール等である。
【0030】
これらの中でも、本実施形態の芳香族系樹脂は、芳香族を有するポリオールを含むことが好ましく、芳香族ポリエステルポリオールであることがより好ましい。これにより、得られるフィルムは、より優れた耐久性を示し得る。
【0031】
・芳香族系硬化剤
芳香族系硬化剤は特に限定されない。一例を挙げると、芳香族系硬化剤は、イソシアネート、アミン、フェノール等である。これらの中でも、本実施形態の芳香族系硬化剤は、芳香族を有するイソシアネートを含むことが好ましい。これにより、フィルムは、より優れた耐久性を示す。
【0032】
芳香族イソシアネートは、キシリレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等である。
【0033】
芳香族系硬化剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、芳香族系硬化剤の含有量は、芳香族系樹脂(主剤)100重量部に対して7重量部以上であることが好ましく、13重量部以上であることがより好ましい。また、芳香族系樹脂(主剤)100重量部に対して45重量部以下であることが好ましく、30重量部以下であることがより好ましい。芳香族系硬化剤の含有量が上記範囲内であることにより、樹脂層は、ポリマー間の凝集力が低下しにくく、水蒸気を透過させにくい。その結果、フィルムは、アルミニウム層が酸化または腐食されにくく、優れた耐湿熱性等の耐久性が維持されやすい。したがって、フィルムは、アルミニウム層を覆う樹脂層の膜厚が35~100nmと値が小さいが、優れた耐久性を示す。
【0034】
・ベンゾトリアゾール系添加剤
ベンゾトリアゾール系添加剤は特に限定されない。一例を挙げると、ベンゾトリアゾール系添加剤は、1,2,3-ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール等である。
【0035】
本実施形態において、ベンゾトリアゾール系添加剤の含有割合は、以下の式(1)に基づいて算出される。
式(1):Z/(X+Y)×100
式(1)中、Xは芳香族系樹脂の重量部、Yは芳香族系硬化剤の重量部、Zはベンゾトリアゾール系添加剤の重量部である。
【0036】
ベンゾトリアゾール系添加剤の含有割合は、式(1)の算出値で、5%以上であればよく、7%以上であることが好ましい。また、ベンゾトリアゾール系添加剤の含有割合は、式(1)の算出値で、20%以下であればよく、17%以下であることが好ましい。ベンゾトリアゾール系添加剤の含有割合が5%未満である場合、樹脂層は、水蒸気を透過させやすく、アルミニウム層が腐食しやすい。その結果、フィルムは、耐湿熱性等の耐久性が劣りやすい。また、アルミニウム層は、金属調が失われやすい。その結果、フィルムは、外観が劣る。一方、ベンゾトリアゾール系添加剤の含有割合が20%を超える場合、樹脂層の間隙が増え、ポリマー間の凝集力が低下するため、耐久性が劣る。また、アルミニウム層は、金属調が失われやすい。その結果、フィルムは、外観が劣る。ベンゾトリアゾール系添加剤の含有割合が上記範囲内であることにより、樹脂層は、ポリマー間の凝集力が低下しにくく、水蒸気を透過させにくい。その結果、フィルムは、アルミニウム層が酸化または腐食されにくく、優れた耐湿熱性等の耐久性が維持されやすい。したがって、フィルムは、アルミニウム層を覆う樹脂層の膜厚が35~100nmと値が小さいが、優れた耐久性を示す。
【0037】
樹脂層全体の説明に戻り、樹脂層の膜厚は、35nm以上であればよく、50nm以上であることが好ましい。また、樹脂層の膜厚は、100nm以下であればよく、75nm以下であることが好ましい。樹脂層の膜厚が35nm未満である場合、フィルムは、耐久性が劣る。一方、樹脂層の膜厚が100nmを超える場合、フィルムは、耐久性は良いが、樹脂層表面から表面抵抗を検出しにくいなどにより、用途が制限される。なお、樹脂層の膜厚は、光の干渉効果を利用したピークバレー法(PV法)等の方法により測定し得る。
【0038】
本実施形態のフィルムにおいて、四端子四探針方式において樹脂層表面から測定した表面抵抗値は特に限定されない。一例を挙げると、樹脂層表面から測定した表面抵抗値は、0.01Ω/□以上であることが好ましく、0.1Ω/□以上であることがより好ましく、0.5Ω/□以上であることがさらに好ましい。また、樹脂層表面から測定した表面抵抗値は、30Ω/□以下であることが好ましく、25Ω/□以下であることがより好ましく、20Ω/□以下であることがさらに好ましい。樹脂層表面から測定した表面抵抗値が上記範囲内であることにより、フィルムは、優れた導電性を示す。
【0039】
本実施形態のフィルムにおいて、渦電流方式において樹脂層表面から測定した表面抵抗値は特に限定されない。一例を挙げると、樹脂層表面から測定した表面抵抗値は、0.01Ω/□以上であることが好ましく、0.1Ω/□以上であることがより好ましく、0.5Ω/□以上であることがさらに好ましい。また、樹脂層表面から測定した表面抵抗値は、30Ω/□以下であることが好ましく、25Ω/□以下であることがより好ましく、20Ω/□以下であることがさらに好ましい。樹脂層表面から測定した表面抵抗値が上記範囲内であることにより、フィルムは、優れた導電性を示す。
【0040】
本実施形態のフィルムにおいて、60℃95%RHの条件にて72時間の湿熱試験を実施した際の渦電流方式における抵抗値変化(試験後/試験前)は特に限定されない。一例を挙げると、抵抗値変化(試験後/試験前)は、1.5以下であることが好ましく、1.4以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましい。60℃95%RHの条件にて72時間の湿熱試験を実施した際の抵抗値変化(試験後/試験前)が上記範囲内であることにより、フィルムは優れた耐久性を示す。
【0041】
本実施形態のフィルムにおいて、85℃85%RHの条件にて72時間の湿熱試験を実施した際の渦電流方式における抵抗値変化(試験後/試験前)は特に限定されない。一例を挙げると、抵抗値変化(試験後/試験前)は、1.7以下であることが好ましく、1.6以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。85℃85%RHの条件にて72時間の湿熱試験を実施した際の抵抗値変化(試験後/試験前)が上記範囲内であることにより、フィルムは優れた耐久性を示す。
【0042】
このように、本実施形態のフィルムは、芳香族系樹脂と芳香族系硬化剤とベンゾトリアゾール系添加剤とを含む樹脂層を設けることによって、アルミニウム層を覆う樹脂層の膜厚が35~100nmと値が小さいが、優れた耐久性を示す。このような作用効果を奏する機序は明らかではないが、以下のとおり、推測される。
【0043】
すなわち、一般的に、アルミニウム層は、酸化や腐食しやすく、本来のアルミニウム層の金属調が失われたり、透明化したり、導電性が失われる結果、抵抗値が高くなったりする。そこで、アルミニウム層の酸化や腐食を防ぐために、アルミニウム層の上に樹脂層を形成することが考えられる。しかしながら、耐酸化性や耐腐食性を向上させるためには、樹脂層は、剛直なセグメントを有することが好ましく、そのようなセグメントを得るためには、樹脂層を形成するポリマー鎖間の水素結合や双極子相互作用の置換基を側鎖に有するだけでなく、規則的に配列され、かつ、緻密に凝集させる必要がある。しかしながら、水のような水素結合力の強い低分子が浸入すると、ポリマーの水素結合等は、切断されやすい。その結果、ポリマー間の凝集力は、低下し得る。したがって、樹脂層は、水蒸気等を透過させやすくなり、アルミニウム層の酸化や腐食が起こりやすくなる。これに対し、本実施形態の樹脂層は、上記のとおり、芳香族系樹脂と芳香族系硬化剤とベンゾトリアゾール系添加剤とを含むことで、その構造中に芳香族環を主鎖として組み込み、水素結合や双極子相互作用を生じるような置換基をもつポリマーを構成し、規則的に配列され、かつ、緻密に凝集させて、凝集力が向上していると考えられる。具体的には、平面構造を有する芳香族環の間には、π電子による誘起双極子同士の相互作用(π-π相互作用)が生じると考えられる。その結合状態は、水によって切断されにくく、湿熱下でもポリマーの凝集力が維持され得ると考えられる。その結果、本実施形態のフィルムの樹脂層は、樹脂層の膜厚の値が35~100nmであり小さいが、水蒸気を透過させにくく、優れた耐湿熱性等の耐久性を示し得ると考えられる。
【0044】
以上、本実施形態のフィルムは、アルミニウム層を覆う樹脂層の膜厚が35~100nmと値が小さいが、優れた耐久性を示す。そのため、本実施形態のフィルムは、たとえば、加飾用途(ラベル、建材、家電製品、エレクトロニクス製品等)、電子材料用途(電極、電磁波シールド、回路等)、建材用途(熱線反射、反射鏡、パネル等)等において、好適に使用され得る。
【0045】
<金属蒸着フィルムの製造方法>
本発明の一実施形態の金属蒸着フィルムの製造方法は、基材上に、アルミニウム層を形成するアルミニウム蒸着工程と、アルミニウム層上に、樹脂層を形成する樹脂層形成工程とを有する。樹脂層は、芳香族系樹脂と、芳香族系硬化剤と、ベンゾトリアゾール系添加剤とを含む。樹脂層の膜厚は、35~100nmとなるように形成される。樹脂層形成工程において、樹脂層中のベンゾトリアゾール系添加剤の、以下の式(2)に基づいて算出される含有割合は、5~20%となるように調整される。以下、それぞれについて説明する。なお、金属蒸着フィルムの各層は、金属蒸着フィルムの実施形態において上記したものと同じである。そのため、それらの説明は適宜省略される。
式(2):Z/(X+Y)×100
式(2)中、Xは芳香族系樹脂の重量部、Yは芳香族系硬化剤の重量部、Zはベンゾトリアゾール系添加剤の重量部である。
【0046】
(アルミニウム蒸着工程)
アルミニウム蒸着工程は、基材上に、アルミニウム層を形成する工程である。
【0047】
アルミニウム層を形成する方法は特に限定されない。一例を挙げると、アルミニウム層は、真空蒸着法、スパッタリング法及びイオンプレーティング法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)並びに、化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等により形成され得る。
【0048】
(樹脂層形成工程)
樹脂層形成工程は、アルミニウム層上に、樹脂層を形成する工程である。
【0049】
樹脂層を形成する方法は特に限定されない。一例を挙げると、ブレードコート法、グラビアコート法、バーコート法、リバースロールコート法、ダイコート法、スクリーン印刷、CVD法等により形成され得る。
【0050】
樹脂層を形成する際の希釈溶剤は、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤等を使用し得る。
【0051】
付与された樹脂溶液に対し、適宜の乾燥工程が実施され得る。これにより、樹脂層が形成され得る。
【0052】
樹脂層形成工程において、樹脂層の膜厚は、35nm以上となるように形成されればよく、50nm以上となるように形成されることが好ましい。また、樹脂層の膜厚は、100nm以下となるように形成されればよく、75nm以下となるように形成されることが好ましい。これにより、得られるフィルムは、より優れた耐久性を示す。樹脂層の膜厚が35nm未満である場合、フィルムは、耐久性が劣る。一方、樹脂層の膜厚が100nmを超える場合、フィルムは、耐久性は良いが、樹脂層表面から表面抵抗を検出しにくいなどにより、用途が制限される。
【0053】
なお、樹脂層の膜厚は、光の干渉効果を利用したピークバレー法(PV法)等の方法により調整し得る。
【0054】
本実施形態において、ベンゾトリアゾール系添加剤の含有割合は、以下の式(2)に基づいて算出される。
式(2):Z/(X+Y)×100
式(2)中、Xは芳香族系樹脂の重量部、Yは芳香族系硬化剤の重量部、Zはベンゾトリアゾール系添加剤の重量部である。
【0055】
ベンゾトリアゾール系添加剤の含有割合は、式(2)の算出値で、5%以上であればよく、7%以上であることが好ましい。また、ベンゾトリアゾール系添加剤の含有割合は、式(2)の算出値で、20%以下であればよく、17%以下であることが好ましい。ベンゾトリアゾール系添加剤の含有割合が5%未満である場合、樹脂層は、水蒸気を透過させやすく、アルミニウム層が腐食しやすい。その結果、フィルムは、耐湿熱性等の耐久性が劣りやすい。また、アルミニウム層は、金属調が失われやすい。その結果、フィルムは、外観が劣る。一方、ベンゾトリアゾール系添加剤の含有割合が20%を超える場合、樹脂層の間隙が増え、ポリマー間の凝集力が低下するため、耐久性が劣る。また、アルミニウム層は、金属調が失われやすい。その結果、フィルムは、外観が劣る。ベンゾトリアゾール系添加剤の含有割合が上記範囲内であることにより、樹脂層は、ポリマー間の凝集力が低下しにくく、水蒸気を透過させにくい。その結果、得られるフィルムは、アルミニウム層が酸化または腐食されにくく、優れた耐湿熱性等の耐久性が維持されやすい。したがって、フィルムは、アルミニウム層を覆う樹脂層の膜厚が35~100nmと値が小さいが、優れた耐久性を示す。
【0056】
以上、本実施形態によれば、得られるフィルムは、アルミニウム層を覆う樹脂層の膜厚が35~100nmと値は小さいが、優れた耐久性を示す。
【実施例
【0057】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
【0058】
<実施例1>
基材(PETフィルム、厚み12μm)を準備し、真空蒸着法により、基材上にアルミニウム層を形成した。アルミニウム形成工程での真空度は、5×10-2Pa以下、出力は10kVの電子ビーム加熱法にてアルミニウムを加熱し、成膜速度は毎分40nmで蒸着した。アルミニウム層の膜厚は25nmであった。次いで、アルミニウム層上に、樹脂層を形成した。樹脂層を形成するための塗工液は、芳香族ポリエステルポリオール100重量部に対し、芳香族ポリイソシアネートを14.6重量部、ベンゾトリアゾールの含有割合は、式(1)の算出値で15%となるように調製し、樹脂層の膜厚が35nmになるように希釈液で希釈して塗工液とした。得られた塗工液をアルミニウム層上にバーコートで塗工後、100℃で乾燥させて、金属蒸着フィルムを得た。
【0059】
<実施例2~11、比較例1~7>
表1に記載の樹脂層の処方および膜厚に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、金属蒸着フィルムを得た。
【0060】
<比較例8、9>
樹脂層を形成するための塗工液を、アクリル樹脂100重量部に対して、ベンゾトリアゾール系添加剤15重量部となるように調製し、樹脂層の膜厚を表1に記載の75nmとした以外は、実施例1と同様の方法により、金属蒸着フィルムを得た。
【0061】
実施例1~11、比較例1~9で得られた金属蒸着フィルムを用いて、以下の評価方法により、表面抵抗値および外観を評価した。結果を表1に示す。なお、表1中、樹脂層の処方における「-」は材料の不使用を示し、表面抵抗値および外観の評価における「-」は評価の未実施を示す。「overload」は測定器の測定限界値以上の数値であったことを示す。
【0062】
(表面抵抗値(試験前・四端子四探針方式))
低抵抗抵抗率計(ロレスターGP MCP-T610、(株)三菱化学アナリテック製)を用いて、四端子四探針方式により、樹脂層表面から表面抵抗値(Ω/□)を測定した。
【0063】
(表面抵抗値((60℃95%RH)/72hr湿熱試験前後・渦電流方式)および外観)
渦電流抵抗計(NC-700V、ナプソン(株)製)を用いて、12cm角のサンプルにおいて樹脂層表面から表面抵抗値(Ω/□)を測定し、試験前の表面抵抗値とした。その後、60℃95%RHの条件にて、72時間の湿熱試験を実施した。その後、湿熱試験後の表面抵抗値を樹脂層表面から測定し、試験後の表面抵抗値とした。湿熱試験前後の表面抵抗値を比較し、表面抵抗値の変化を確認した。また、湿熱試験後、照度300ルクス以上の環境下で目視の透過および反射を用いて外観を観察し、以下の評価基準に従って評価した。
(評価基準)
○:湿熱試験前の外観と変わらない状態であった。
△:アルミニウム層の金属調が点状で失われて透明な部分があり、光が点状で透過する状態であった。
×:アルミニウム層の金属調が失われて透明になり、光が透過する状態であった。
【0064】
(表面抵抗値((85℃85%RH)/72hr湿熱試験前後・渦電流方式)および外観)
渦電流抵抗計(NC-700V、ナプソン(株)製)を用いて、12cm角のサンプルにおいて樹脂層表面から表面抵抗値(Ω/□)を測定し、試験前の表面抵抗値とした。その後、85℃85%RHの条件にて、72時間の湿熱試験を実施した。その後、湿熱試験後の表面抵抗値を樹脂層表面から測定し、試験後の表面抵抗値とした。湿熱試験前後の表面抵抗値を比較し、表面抵抗値の変化を確認した。また、湿熱試験後、照度300ルクス以上の環境下で目視の透過および反射を用いて外観を観察し、以下の評価基準に従って評価した。
(評価基準)
○:湿熱試験前の外観と変わらない状態であった。
△:アルミニウム層の金属調が点状で失われて透明な部分があり、光が点状で透過する状態であった。
×:アルミニウム層の金属調が失われて透明になり、光が透過する状態であった。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示されるように、本発明の実施例1~11の金属蒸着フィルムは、湿熱試験前後において表面抵抗値が上昇しにくく、優れた耐湿熱性を示した。また、実施例1~11の金属蒸着フィルムは、湿熱試験後の外観が良好であった。これらを総合すると、本発明の実施例1~11の金属蒸着フィルムは、アルミニウム層を覆う樹脂層の膜厚が35~100nmと値が小さいが、優れた耐久性を示すことがわかった。
【要約】
【課題】金属蒸着層(アルミニウム層)を覆う樹脂層の膜厚の値が小さい場合であっても、優れた耐久性を示す、金属蒸着フィルムおよび金属蒸着フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】基材と、アルミニウム層と、樹脂層とをこの順に有し、樹脂層は、芳香族系樹脂と、芳香族系硬化剤と、ベンゾトリアゾール系添加剤とを含み、樹脂層の膜厚は、35~100nmであり、前記ベンゾトリアゾール系添加剤の、以下の式(1)に基づいて算出される含有割合は、5~20%である、金属蒸着フィルム。
式(1):Z/(X+Y)×100
式(1)中、Xは芳香族系樹脂の重量部、Yは芳香族系硬化剤の重量部、Zはベンゾトリアゾール系添加剤の重量部である。
【選択図】なし