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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】浴槽可動式浴室
(51)【国際特許分類】
   A47K 3/16 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
A47K3/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021061840
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022052705
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2020158995
(32)【優先日】2020-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501362906
【氏名又は名称】積水ホームテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】上田 恭平
(72)【発明者】
【氏名】半田 昌浩
【審査官】村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-268890(JP,A)
【文献】特開2000-084029(JP,A)
【文献】特開2008-148931(JP,A)
【文献】特開平08-254029(JP,A)
【文献】特開2010-246691(JP,A)
【文献】特開2001-011915(JP,A)
【文献】特開平07-004132(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0028024(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 3/16
E03C 1/20
A61H33/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴室の幅方向へ移動可能な可動浴槽と、
前記可動浴槽の前側部を支持する支柱と、
前記浴室の奥側壁に設けられ、前記可動浴槽の奥側框部を幅方向に移動可能に支持するバックハンガーと、
を備え、前記奥側框部には、前記幅方向へ延びる摺動レールが設けられており、
前記バックハンガーが、前記摺動レールの前記幅方向への相対移動を許容し、かつ前記幅方向と直交する奥行方向への相対移動を規制するようにして前記摺動レールと係合する摺動ガイドを有し
前記バックハンガーが、前記奥側壁に固定された壁固定部材と、前記壁固定部材に昇降可能に保持されたガイド部材とを含み、前記ガイド部材に前記摺動ガイドが設けられており、
前記ガイド部材に対して上向きのバネ力を付与する浮上バネを更に備えていることを特徴とする浴槽可動式浴室。
【請求項2】
前記浮上バネが、前記壁固定部材と前記ガイド部材との間に設けられた圧縮コイルバネであることを特徴とする請求項に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項3】
前記ガイド部材及び前記摺動レールの一方には、クリック凸部が設けられ、
前記ガイド部材及び前記摺動レールの他方には、前記可動浴槽が所定の位置のとき前記クリック凸部が抜け出し可能に嵌るクリック孔が形成されていることを特徴とする請求項又はに記載の浴槽可動式浴室。
【請求項4】
前記壁固定部材が上端開口の筒状であり、前記壁固定部材の内部に前記浮上バネ及び前記ガイド部材が収容されるとともに、前記ガイド部材の上端部が前記壁固定部材から突出されており、かつ前記ガイド部材の上端部における前記奥側壁を向く側部には、前記壁固定部材の上端部に被さるカバー部が設けられており、
前記壁固定部材には、前記奥側壁へ向かって突出して前記奥側壁と固定される一対の突出固定部が互いに前記幅方向に離れて設けられ、これら一対の突出固定部どうしの間に上下へ抜ける水抜き隙間が形成され、前記カバー部が前記水抜き隙間に臨んでいることを特徴とする請求項の何れか1項に記載の浴槽可動式浴室。
【請求項5】
浴室の幅方向へ移動可能な可動浴槽と、
前記可動浴槽の前側部を支持する支柱と、
前記浴室の奥側壁に設けられ、前記可動浴槽の奥側框部を幅方向に移動可能に支持するバックハンガーと、
を備え、前記奥側框部には、前記幅方向へ延びる摺動レールが設けられており、
前記バックハンガーが、前記摺動レールの前記幅方向への相対移動を許容し、かつ前記幅方向と直交する奥行方向への相対移動を規制するようにして前記摺動レールと係合する摺動ガイドを有し、
前記摺動ガイドが、前記摺動レールが前記奥側壁の側へ変位するのを阻止する奥側規制部を有していることを特徴とする浴槽可動式浴室。
【請求項6】
浴室の幅方向へ移動可能な可動浴槽と、
前記可動浴槽の前側部を支持する支柱と、
前記浴室の奥側壁に設けられ、前記可動浴槽の奥側框部を幅方向に移動可能に支持するバックハンガーと、
を備え、前記奥側框部には、前記幅方向へ延びる摺動レールが設けられており、
前記バックハンガーが、前記摺動レールの前記幅方向への相対移動を許容し、かつ前記幅方向と直交する奥行方向への相対移動を規制するようにして前記摺動レールと係合する摺動ガイドを有し、
前記可動浴槽の前側部にはカム機構が設けられ、前記カム機構が、前記可動浴槽の浴槽本体又は前記支柱に平常位置と作動位置との間で変位可能に設けられたカムと、前記支柱又は前記浴槽本体に設けられて前記カムと相対昇降し合うように係合されたカム受け部と、前記カムを変位させる操作部と、を含み、
前記カムが前記平常位置のとき、前記浴槽本体が前記浴室の浴室床に着地されており、
前記カムが前記作動位置のとき、前記相対昇降によって前記浴槽本体が前記浴室床から浮上されることを特徴とする浴槽可動式浴室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動式の浴槽を有する浴室に関し、特に要介助者などの利用に適した浴槽可動式浴室に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅や介助施設における要介助者などのための浴室は、その身体機能や介助の仕方に合わせて、浴槽の位置を変更可能にしたものが知られている(特許文献1、2など参照)。
特許文献1においては、浴槽の底部の四隅に板バネを介して車輪が設けられている。板バネのバネ力によって浴槽が持ち上げられた状態で車輪を転がして移動できる。浴槽に湯がたまると、浴槽がバネ力に抗して浴室床に着地し固定される。
【0003】
特許文献2においては、浴室床にスライドレールが設けられている。浴槽の底部には脚部が設けられ、スライドレールに脚部が載せられている。これによって、浴槽がスライドレールに沿って移動可能である。浴室の奥側の壁にはバックハンガーが設けられており、浴槽の奥側框部がバックハンガーに係止されている。これによって、浴槽が前側(洗い場側)へ傾くのが防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実用新案登録第2551207号公報
【文献】特許第5252646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の車輪付きの浴槽は、浴室の壁際に沿って真っ直ぐ移動させにくい。また、車輪には髪の毛などのゴミが絡まりやすいところ、特に浴室の奥側の壁際の車輪は掃除しにくく、動作不良のおそれがある。
特許文献2の浴室は、浴槽を移動させる際に、浴槽とスライドレールとの摩擦抵抗に加えて、奥側框部とバックハンガーとの摩擦抵抗も生じるため、浴槽を動かすにはこれらの摩擦抵抗に勝る力が必要である。また、スライドレールまわりの清掃が必要である。
本発明は、かかる事情に鑑み、浴槽が移動可能な浴室における浴槽まわりの清掃の手間を軽減し、かつ浴槽の移動時の摩擦抵抗を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係る浴槽可動式浴室は、
浴室の幅方向へ移動可能な可動浴槽と、
前記可動浴槽の前側部を支持する支柱と、
前記浴室の奥側壁に設けられ、前記可動浴槽の奥側框部を幅方向に移動動可能に支持するバックハンガーと、
を備え、前記奥側框部には、前記幅方向へ延びる低摩擦材料からなる摺動レールが設けられており、
前記バックハンガーが、前記摺動レールの前記幅方向への相対移動を許容し、かつ前記幅方向と直交する奥行方向への相対移動を規制するようにして前記摺動レールと係合する低摩擦材料からなる摺動ガイドを有していることを特徴とする。
【0007】
当該可動浴槽を有する浴室によれば、奥側の車輪が不要であり、浴槽底部を受けるスライドレールも不要である。したがって、可動浴槽まわりの清掃の手間が軽減される。かつ低摩擦材料からなる摺動レールと低摩擦材料からなる摺動ガイドとによって、可動浴槽の移動時における摩擦抵抗が低減され、可動浴槽を軽い力で移動させることができる。
【0008】
前記バックハンガーが、前記奥側壁に固定された壁固定部材と、前記壁固定部材に昇降可能に保持されたガイド部材とを含み、前記ガイド部材に前記摺動ガイドが設けられており、
前記ガイド部材に対して上向きのバネ力を付与する浮上バネを更に備えたことが好ましい。
可動浴槽の荷重は、壁固定部材を介して浴室の奥側壁に受け渡される。
浮上バネの上向きバネ力によってガイド部材が上昇させられ、ひいては可動浴槽が浴室床から浮上される。
浮上バネと可動浴槽との間にガイド部材が介在されることで、浮上バネが可動浴槽と直接あたるのを回避できる。
【0009】
前記浮上バネが、前記壁固定部材と前記ガイド部材との間に設けられた圧縮コイルバネであることが好ましい。これによって、バックハンガーにおける浮上バネの収容スペースをコンパクトにでき、かつ可動浴槽に対して大きな押し上げ力を付与できる。
【0010】
前記ガイド部材及び前記摺動レールの一方には、クリック凸部が設けられ、
前記ガイド部材及び前記摺動レールの他方には、前記可動浴槽が所定の位置のとき前記クリック凸部が抜け出し可能に嵌るクリック孔が形成されていることが好ましい。
クリック凸部とクリック孔の嵌合によりクリック感が生じることによって、可動浴槽が浴室の幅方向の所定位置に来たことを感知できる。
【0011】
前記壁固定部材が上端開口の筒状であり、前記壁固定部材の内部に前記浮上バネ及び前記ガイド部材が収容されるとともに、前記ガイド部材の上端部が前記壁固定部材から突出されており、かつ前記ガイド部材の上端部における前記奥側壁を向く側部には、前記壁固定部材の上端部に被さるカバー部が設けられており、
前記壁固定部材には、前記奥側壁へ向かって突出して前記奥側壁と固定される一対の突出固定部が互いに前記幅方向に離れて設けられ、これら一対の突出固定部どうしの間に上下へ抜ける水抜き隙間が形成され、前記カバー部が前記水抜き隙間に臨んでいることが好ましい。
これによって、水がバックハンガーの上方から壁固定部材の内部に侵入して浮上バネが濡れるのを防止でき、浮上バネの腐食を抑制できる。また、バックハンガーの上にかかった水を、水抜き隙間を通して下方へ排出できる。
【0012】
前記摺動ガイドが、前記摺動レールが前記奥側壁の側へ変位するのを阻止する奥側規制部を有していることが好ましい。
これによって、奥側框部が浴室の奥側壁部にぶつかるのを確実に防止できる。
【0013】
前記可動浴槽の前側部にはカム機構が設けられ、前記カム機構が、前記可動浴槽の浴槽本体又は前記支柱に平常位置と作動位置との間で変位可能に設けられたカムと、前記支柱又は前記浴槽本体に設けられて前記カムと相対昇降し合うように係合されたカム受け部と、前記カムを変位させる操作部と、を含み、
前記カムが前記平常位置のとき、前記浴槽本体が前記浴室床に着地されており、
前記カムが前記作動位置のとき、前記相対昇降によって前記浴槽本体が前記浴室床から浮上されることが好ましい。
平常時は、カムを平常位置にしておくことで、カム及びカム受け部どうしを互いに平常の相対高さにする。これによって、可動浴槽が浴室床に着地されて安定的に静置される。したがって、入浴などに支障を来すことが無い。
可動浴槽の移動時には、操作部によってカムを作動位置にする。すると、カム及びカム受け部どうしが互いのカム作用によって相対昇降し合うことで、可動浴槽が浴室床から浮き上がる。これによって、可動浴槽を浴室幅方向へ軽い力で容易に移動させることができる。
可動浴槽を所望の位置まで移動させた後、操作部によってカムを平常位置に戻す。これによって、カム及びカム受け部どうしが互いのカム作用によって平常の相対高さになり、可動浴槽が下降されて浴室床に着地される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可動浴槽のまわりの清掃の手間を軽減できる。かつ可動浴槽の移動時の摩擦抵抗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る浴槽可動式浴室の平面図である。
図2図2(a)は、浴槽が幅方向の中央部に位置する前記浴槽可動式浴室の斜視図である。図2(b)は、浴槽が幅方向の左側部に位置する前記浴槽可動式浴室の斜視図である。図2(c)は、浴槽が幅方向の右側部に位置する前記浴槽可動式浴室の斜視図である。
図3(a)】図3(a)は、前記浴槽を前側から見た斜視図である。
図3(b)】図3(b)は、前記浴槽を奥側から見た斜視図である。
図4(a)】図4(a)は、前記浴槽が浴室床から浮いた状態における前記浴槽可動式浴室の側面断面図である。
図4(b)】図4(b)は、前記浴槽が浴室床に着地した状態における前記浴槽可動式浴室の側面断面図である。
図5(a)】図5(a)は、浴室床から浮いた状態における浴槽の前側部を、図3(a)のV-V線に沿って示す側面断面図である。
図5(b)】図5(b)は、浴室床に着地した状態における浴槽の前側部を、図3(a)のV-V線に沿って示す側面断面図である。
図6(a)】図6(a)は、図3(a)のVIa-VIa線に沿う、前記浴槽の前側部の平面断面図である。
図6(b)】図6(b)は、図3(a)のVIb-VIb線に沿う、前記浴槽の前側部の平面断面図である。
図7(a)】図7(a)は、浴室床から浮いた状態における浴槽の前側部を、図3(a)のVII-VII線に沿って示す側面断面図である。
図7(b)】図7(b)は、浴室床に着地した状態における浴槽の前側部を、図3(a)のVII-VII線に沿って示す側面断面図である。
図8(a)】図8(a)は、浴室床から浮いた状態における浴槽の奥側部を示す、図4(a)の円部VIIIaの拡大断面図である。
図8(b)】図8(b)は、浴室床に着地した状態における浴槽の奥側部を示す、図4(b)の円部VIIIbの拡大断面図である。
図9図9は、図4(b)に表されたバックハンガー及び摺動レールを浴室前方かつ下方から矢視した斜視図である。
図10(a)】図10(a)は、前記バックハンガーを浴室奥側から矢視した斜視図である。
図10(b)】図10(b)は、前記バックハンガーを浴室奥側から矢視した分解斜視図である。
図11図11は、図4(b)に表されたバックハンガーを、同図のXI-XI線に沿って示す平面断面図である。
図12図12は、浴槽の移動時における浴槽奥側部の側面断面図である。
図13図13は、本発明の第2実施形態に係る浴槽を着地位置にして示す、浴室の側面断面図である。
図14図14は、前記第2実施形態の浴槽を浮上位置にして示す側面断面図である。
図15図15(a)は、前記第2実施形態の前記着地位置における浴槽の前側かつ下側部の側面断面図である。図15(b)は、前記第2実施形態の浮上位置における浴槽の前側かつ下側部の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
<第1実施形態(図1図12
図1に示すように、浴槽可動式浴室1は、洗い場2と、可動浴槽3を備えている。浴室1の幅方向と直交する奥行方向の前側(図1において下)に洗い場2が配置され、奥側(図1において上)に可動浴槽3が配置されている。洗い場2には、防水構造の洗い場パン2aが設けられている。浴槽3の下部には、防水構造の浴槽パン4が設けられている。浴槽パン4上に複数(ここでは4つ)の四角形のボード5aが幅方向に並べられて敷設されている。これらボード5aを含む敷設体5上に可動浴槽3が配置されている。
洗い場パン2aと浴槽パン4上の敷設体5とによって浴室床6が構成されている。
敷設体5は、浴室床6における浴槽側の床部分を構成している。
【0017】
図1に示すように、可動浴槽3の幅は、浴槽パン4の幅より小さい。図2(a)~同図(c)に示すように、可動浴槽3は、奥側壁7(図4(a))に沿うようにして、浴室1の幅方向に移動(位置変更)可能である。
【0018】
図3(a)及び同図(b)に示すように、浴槽3は、浴槽本体(バスタブ)10と、エプロン11を含む。浴槽本体10の上端部には、全周にわたって框12が設けられている。図1及び図4(a)に示すように、浴槽本体10の底部には、脚部17が設けられている。脚部17は、例えば浴槽本体10の幅方向の両側に配置され、奥行方向へ延びている。
【0019】
浴槽3は、後述する浮上バネを含む浮上手段による浮上力と、浴槽3に加わる下向きの荷重とのバランスによって昇降される。前記浮上力が勝ると浴槽3が浴室床6から浮上される(図4(a))。前記下向きの荷重が勝ることで浴槽3が下降されると、脚部17が浴槽パンに着地される(図4(b))。
【0020】
図4(a)に示すように、さらに可動浴槽3には、奥行方向の前側部及び奥側部をそれぞれ支持する支持構造が設けられている。
前側部の支持構造は、次のように構成されている。
図1に示すように、可動浴槽3の前側部の左右のコーナーに一対の支柱20が設けられている。支柱20によって浴槽3の前側部が支持されている。図4(a)及び図4(b)に示すように、支柱20は、上下に伸縮可能な伸縮支柱である。詳しくは、図5(a)に示すように、支柱20は、上側柱部21と、下側柱部22を有している。図6(a)に示すように、各柱部21,22は、四角形断面の角筒形状になっているが、これに限らず円筒形状などであってもよい。図5(a)及び図5(b)に示すように、上側柱部21の下端部に下側柱部22の上端部が差し入れられている。これら柱部21,22が互いに相対的に上下へ変位されることによって、支柱20が上下へ伸縮される。
【0021】
図4(a)に示すように、上側柱部21の上端部は、ボルト23bを含む連結手段23によって浴槽本体10に連結されている。図6(a)に示すように、上側柱部21の下端部は、支持ブラケット24を介してエプロン11に連結されている。したがって、上側柱部21は、浴槽本体10に直接またはエプロン11を介して固定されている。
【0022】
図5(a)に示すように、上側柱部21と下側柱部22との間には、浮上手段として、前側浮上バネ25が設けられている。浮上バネ25は、圧縮コイルバネによって構成されている。浮上バネ25の下端部が、下側柱部22の上端部のバネ収容筒22b内に収容され、該バネ収容筒22bの底部(バネ受け部)に突き当てられている。浮上バネ25の上端部は、上側柱部21に設けられたバネ受け部21bに突き当てられている。
【0023】
浮上バネ25は、上側柱部21及び下側柱部22に対して互いに離間させるようにバネ力を付与している。ひいては、浮上バネ25は、上側柱部21を介して浴槽3に対して上向きのバネ力(浮上力)を付与している。
【0024】
図5(b)に示すように、支柱20には、伸長規制部26が設けられている。伸長規制部26は、上側柱部21に設けられたピン26aと、下側柱部22に形成されたピン孔26bを含む。ピン孔26bは、上下に延びる長孔になっている。ピン孔26bにピン26aが挿入されている。下側柱部22に対する上側柱部21の昇降に伴って、ピン26aがピン孔26b内において上下に変位される。図5(a)に示すように、上側柱部21の上昇によって支柱20が伸長したとき、ピン26aがピン孔26bの上端部に突き当たる。これによって、支柱20の最大長さ(最大伸び量)が規制される。
【0025】
図5(a)に示すように、各支柱20の下端に車輪ユニット30が設けられている。車輪ユニット30は、車輪31と、車輪ホルダ32を含む。車輪31の車軸33は、浴室1の奥行方向に向けられている。車輪ホルダ32は、コ字状に形成され、車輪31を奥行方向に跨いでいる。車軸33が、車輪ホルダ32の一対の鉛直板に架け渡されている。
【0026】
図6(b)に示すように、車輪ユニット30の車輪ホルダ32が、下側柱部22の前面部(同図において上側部)に固定されている。したがって、車輪31は、支柱20の中心軸(断面の重心)よりも前側にずれて配置されている。これによって、図5(a)に示すように、車輪31は、浴室床6における浴槽側の床部分にではなく、洗い場パン2aに接している。つまり、浴槽側の床部分を構成するボード5aにおける支柱20の直下部は、洗い場側から奥側へ向けて下がる急傾斜面5cとなっているところ、車輪31は、該急傾斜面5cを避けて、比較的平坦な洗い場パン2a上に配置されている。
車輪31は、支柱20の下端と浴室床6との間に介在されることによって、これら支柱20と浴室床6との間の摩擦を低減する前側摩擦低減手段を構成している。
【0027】
図5及び図6に示すように、車輪ユニット30は車輪カバー35によって覆われている。車輪カバー35は、平面視で概略C字形状に形成され、車輪31の前方及び側方(幅方向の両側)に被さっている。詳細な図示は省略するが、車輪カバー35は、車輪ホルダ32及び下側柱部22にボルト締め、爪嵌合などによって着脱可能に固定されている。
【0028】
さらに、車輪ユニット30及び車輪カバー35は、次のようにして、エプロン11に潜り込むようにして収められている。
図3(a)に示すように、エプロン11は、エプロン本体11aと、エプロン裾部11bを有している。図4(a)に示すように、エプロン本体11aが、浴槽本体10の前面(洗い場2を向く面)及び両側面を覆っている。エプロン本体11aの下端部に、水平な段差部11dを介して、エプロン裾部11bが連なっている。エプロン裾部11bは、段差部11dから鉛直に垂下されている。図3(a)に示すように、前側のエプロン裾部11bは、前側のエプロン本体11aより奥側へ引っ込んでおり、かつ浴室1の幅方向へ延びている。図3(a)及び図6(a)に示すように、前側のエプロン裾部11bは、前側のエプロン本体11aの幅方向の両端部まで達しておらず、エプロン裾部11bの幅方向の端部とエプロン本体11aの下端部とによって切欠部11cが形成されている。切欠部11cに車輪ユニット30及び車輪カバー35が配置されている。
【0029】
図6(b)に示すように、平面視において、車輪カバー35は、エプロン本体11aと面一又はエプロン本体11aより少し浴室奥側(同図において下側)に引っ込んでいる。車輪31は、エプロン本体11aより浴室奥側に引っ込んでおり、平面視においてエプロン本体11aとエプロン裾部11bとの間に配置されている。
【0030】
図7(a)に示すように、エプロン裾部11bの下端部ひいてはエプロン11の下端部には、緩衝部材40が設けられている。緩衝部材40は、硬質固定部41と、軟質緩衝部42を含む。硬質固定部41は、硬質の樹脂成形品であり、エプロン裾部11bの下端部に接着などによって固定されている。硬質固定部41の下側に軟質緩衝部42が設けられている。軟質緩衝部42は、軟質の樹脂成型品である。軟質緩衝部42が硬質固定部41に凹凸嵌合によって着脱可能に接合されている。硬質固定部41及び軟質緩衝部42には、前記凹凸嵌合のための嵌合凹部41a及び嵌合凸部42a、並びに嵌合爪41b及び爪嵌合溝42bが形成されている。
【0031】
図7(a)及び図7(b)に示すように、緩衝部材40は、後述する浴槽3の昇降に伴って浴室床6に対して上方へ離間及び着地される。図7(a)に示すように、最も離間したときの緩衝部材40と浴室床6との間の緩衝隙間45は、7mm以下に設定されている。すなわち、支柱20が最大長さのときの浴室床6から緩衝部材40の下端までの高さH45は、H45≦7mmである。
【0032】
可動浴槽3における奥側部は、次のようにして支持されている。
図8(a)に示すように、浴槽3の奥側部には、摺動レール60が設けられている。摺動レール60は、概略四角形の一定断面に形成され、浴室1の幅方向へ直線状に延びている。摺動レール60は、低摩擦材料によって構成されている。低摩擦材料としては、ポリ
アセタール(POM)、フッ素系樹脂、高摺動性ポリエチレンなどが挙げられる。
【0033】
図8(b)及び図9に示すように、摺動レール60の底面及び前側面には、複数条の凹溝61が並んで形成されている。これによって、隣接する凹溝61の間に摺動突条62が形成されている。各凹溝61及び摺動突条62は、摺動レール60の長手方向(浴室の幅方向)へ真っ直ぐ延びている。
【0034】
図8(b)及び図9に示すように、摺動レール60の底面と奥側の側面とのコーナー部には、係止凹部63が形成されている。摺動レール60の底面には、摺動レール60の長手方向(浴室の幅方向)に間隔を置いて複数のクリック孔64が形成されている
【0035】
図8(a)に示すように、摺動レール60は、浴槽本体10の奥側框部12Rの上板部12aに固定されている。上板部12aから雌ネジ付きブッシュ13及びリブ14が垂下されている。ブッシュ13の下端面に摺動レール60が当てられ、かつレール固定ボルト15によって摺動レール60がブッシュ13に固定されている。
リブ14が、摺動レール60の奥側の側面に近接するように配置されている。なお、リブ14が摺動レール60と接していてもよい。
框部12Rの奥側の垂れ板12bが、摺動レール60の奥側の側面に当接されている。
【0036】
図1及び図3(b)に示すように、浴室1の奥側壁7には、1又は複数のバックハンガー50が設けられている。図においては、2つのバックハンガー50が、互いに浴室幅方向に間隔を置いて設けられている。好ましくは、バックハンガー50は、奥側壁7における幅方向の中央部寄りに配置されている。バックハンガー50によって、浴槽本体10の奥側框部12Rが幅方向に移動可能に支持されている。
【0037】
詳しくは、図10(b)に示すように、バックハンガー50は、壁固定部材51と、ガイド部材52を含む。壁固定部材51は、硬質樹脂の成形品である。壁固定部材51の材質としては、強度確保のために、POM、ガラス繊維強化ポリプロピレンなどを用いることが好ましい。
なお、壁固定部材51は樹脂製に限らず、金属製であってもよい。
【0038】
図10(b)及び図11に示すように、壁固定部材51は、上端が開口された概略角筒状に形成されている。図8(a)に示すように、壁固定部材51の浴室前方を向く前側壁部51aには、ネジからなるストッパ53が設けられている。前側壁部51aの上端部には、保持壁51hが上へ突出するように形成されている。
【0039】
図11に示すように、壁固定部材51の浴室奥側を向く奥側壁部51bの幅方向の両側部には、一対の突出固定部51dが形成されている。一対の突出固定部51dは、互いに浴室幅方向に離れて、奥側壁部51bから浴室奥側壁7へ向かって突出されている。詳細な図示は省略するが、各突出固定部51dが、奥側壁7にボルト締めされている。これによって、壁固定部材51が奥側壁7に固定されている。
【0040】
図11に示すように、一対の突出固定部51dと、奥側壁部51bと、浴室奥側壁7との間に水抜き隙間50dが形成されている。図8(a)に示すように、水抜き隙間50dは上下へ抜けている。
【0041】
図10(a)に示すように、壁固定部材51にガイド部材52が昇降可能に保持されている。
ガイド部材52は、硬質樹脂の成形品である。ガイド部材52の材質としては、摺動を高めるために、POM、フッ素系樹脂、高摺動性ポリエチレンなどの低摩擦材料が用いられている。ガイド部材52を構成する低摩擦材料は、摺動レール60を構成する低摩擦材料と同一でもよく、異なっていてもよい。ガイド部材52は樹脂製に限らず、金属製であってもよい。
【0042】
図10(b)に示すように、ガイド部材52は、内筒部52aと、摺動ガイド54とを有している。内筒部52aは、下端が開口された概略四角形の筒状に形成されている。該内筒部52aが、壁固定部材51内に昇降可能に収容されている。図8(b)に示すように、内筒部52aの前面部には、規制凸部52sが形成されている。図8(a)に示すように、ガイド部材52を上昇させていくと、やがて規制凸部52sがストッパ53に突き当たる。これによって、ガイド部材52の上昇可能高さが規制され、その以上は上昇不能になる。
【0043】
図10(a)に示すように、内筒部52aの上側部は、壁固定部材51から突出されており、そこに摺動ガイド54が一体成形されている。図10(b)に示すように、摺動ガイド54は、上蓋部54aと、係止壁54bと、奥側規制部54dとを含む。図8(a)に示すように、上蓋部54aが、内筒部52aの上端部を塞いでいる。
【0044】
図8(a)及び図10(b)に示すように、上蓋部54aの上面には、低いクリック凸部57が形成されている。クリック凸部57は、中心に向かうにしたがって隆起する部分球状に形成されている。
クリック凸部57は、ガイド部材52と一体に成形されてもよく、ガイド部材52とは別体に成形された後、上蓋部54aに接着などによって固定されてもよい。
【0045】
図8(a)に示すように、ガイド部材52の上蓋部54aにおける前側部には、係止壁54bが上方へ突出するように形成されている。係止壁54bは、保持壁51hよりも上方へ突出されている。ガイド部材52の上蓋部54aにおける奥側壁7を向く側部には、凸状の奥側規制部54dが上方へ突出するように形成されている。奥側規制部54dは、係止壁54bよりも低い。
【0046】
図8(a)に示すように、奥側規制部54dにカバー部56が一体に連なっている。カバー部56は、ヒレ状ないしは舌状に形成され、奥側規制部54dひいてはガイド部材52の上端部からガイド部材52の奥側面に沿って下方へ延びている。カバー部56は、下方へ向かうにしたがって奥側壁7に近づくように傾斜されている。該カバー部56が、奥側壁部51bの上端部に被さるとともに、水抜き隙間50dに臨んでいる。具体的には、カバー部56の下端部が水抜き隙間50dに入り込んでいる。
【0047】
図8(a)に示すように、壁固定部材51とガイド部材52との間には、浮上手段として、奥側浮上バネ55が設けられている。浮上バネ55は、圧縮コイルバネによって構成されている。該浮上バネ55が、内筒部52aの内部に収容され、かつ内筒部52aと共に壁固定部材51の内部に収容されている。浮上バネ55の下端部は、壁固定部材51の底板の上面に突き当てられている。浮上バネ55の上端部は、ガイド部材52の上蓋部54aの下面に突き当てられている。
浮上バネ55は、ガイド部材52ひいては浴槽3に対して上向きのバネ力(浮上力)を付与する。
【0048】
図8(a)及び図9に示すように、ガイド部材52の摺動ガイド部54上に摺動レール60が載せられている。摺動レール60の底面の摺動突条62が、上蓋部54aに摺動可能に接している。摺動レール60の前側面が係止壁54bと対面している。前側面の摺動突条62が、係止壁54bと近接又は当接されている。係止壁54bによって、摺動レール60ひいては浴槽3が奥行方向の前側へ変位されるのが規制されている。奥側規制部54dが係止凹部63に浴室幅方向へスライド可能に嵌っている。奥側規制部54dによって、摺動レール60ひいては浴槽3が奥側壁7の側へ変位されるのが規制されている。これによって、摺動ガイド54が、摺動レール60の幅方向への摺動(相対移動)を許容し、かつ奥行方向への相対移動を規制するようにして、摺動レール60と係合されている。
【0049】
言い換えると、摺動レール60が、摺動ガイド部54に対して浴室幅方向へ摺動可能に係合されている。ひいては、ガイド部材52によって奥側框部12Rが浴室幅方向へ移動可能にガイドされている。摺動レール60は、奥側框部12Rとバックハンガー50との間に介在されることによって、これら奥側框部12Rとバックハンガー50との摩擦を低減する奥側摩擦低減手段を構成している。
【0050】
図8(a)に示すように、摺動レール60ひいては浴槽3が浴室幅方向の所定位置に在るとき、クリック凸部57が所定のクリック孔64に嵌っている。例えば、浴槽3が浴室1の幅方向の中央部(図2(a))と左端部(図2(b))と右端部(図2(c))にそれぞれ位置されたとき、対応するクリック孔64がクリック凸部57と一致して嵌るように、摺動レール60における複数のクリック孔64の位置が設定されている。摺動レール60に対して幅方向への移動力を付与することによって、クリック凸部57がクリック孔64から抜け出し可能である。
【0051】
かかる構造の可動浴槽3は、要介助者の身体機能などに応じて適切な浴室幅方向位置に配置されて利用される。可動浴槽3の位置変更は、次のようにして行われる。
浴槽本体10内に湯水が入っているときは、先ずそれを抜く。これによって、浴槽3に加わる荷重が軽くなる。図4(a)に示すように、前記荷重が所定未満のとき、前側の浮上バネ25のバネ力によって、支柱20の上側柱部41が押し上げられる。かつ奥側の浮上バネ55のバネ力によって、バックハンガー50のガイド部材52が押し上げられる。この結果、脚部17が浴室床6から上へ離れ、浴槽本体10が浮く。したがって、浴槽本体10と浴室床6との間の静止摩擦抵抗が無くなる。
【0052】
また、図7(a)に示すように、緩衝部材40が浴室床6から上へ離れ、軟質緩衝部42が元の断面形状に弾性的に復帰される。軟質緩衝部42と浴室床6との間には緩衝隙間45が形成される。緩衝隙間45は最大でも7mm以下であるから、足の指が緩衝隙間45に挿し入れられることが無く、緩衝部材40と浴室床6の間に足の指を挟むのを防止できる。たとえ、挟んだとしても軟質緩衝部42の弾性によって、足の指のケガを防止できる。
【0053】
図5(a)に示すように、やがて、ピン26aがピン孔26bの上端縁に突き当たる。これによって、支柱40の伸長が規制される。これとほぼ同時に、図8(a)に示すように、規制凸部52sがストッパ53に突き当たる。これによって、バックハンガー50のガイド部材52の上昇が規制される。この結果、浴槽3の上昇が規制される。
【0054】
続いて、図2(a)~同図(c)に示すように、浴槽3を浴室1の幅方向に沿って所望の移動位置へ向けて押す。浴槽本体10が浴室床6から浮いていて、両者間に摩擦抵抗が発生することがないから、浴槽3を軽い力で動かすことができる。
【0055】
図5(a)に示すように、移動時の浴槽3の前側部においては、車輪31が浴室床6上を転がる。したがって、支柱20と浴室床6との摩擦を大幅に低減でき、浴槽3を一層容易に移動させることができる。
車輪31は、支柱20の前方にずれて配置されることで、浴室床6の浴槽側の急傾斜面5c上ではなく、比較的平らな洗い場パン2a上を円滑に転動できる。
緩衝部材40は、浴室床6から上へ離間されているから、摩擦抵抗となることはない(図7(a))。
エプロン裾部11bがエプロン本体11aより奥側へ引っ込んでいるために、浴槽移動時における足の踏み入れ場所を確保できる。
【0056】
図12に示すように、浴槽3の奥側部においては、浴槽3の移動開始によって、クリック凸部57がクリック孔64から抜け出す。クリック凸部57を低い部分球状に形成することによって、クリック孔64からの抜け出しを容易化できる。
さらに、摺動レール60が、バックハンガー50のガイド部材52上を摺動される。摺動レール60は、POM、フッ素系樹脂、高摺動性ポリエチレンなどの低摩擦材料によって構成されているから、ガイド部材52との間の摩擦抵抗を低減できる。ガイド部材52についても、POM、フッ素系樹脂、高摺動性ポリエチレンなどの低摩擦材料によって構成されることによって、摺動レール60とガイド部材52との間の摩擦抵抗を更に低減できる。
加えて、摺動レール60には凹溝61が形成されており、主に摺動突条62がガイド部材52と接触されるために、摺動レール50とガイド部材52との接触面積を小さくでき、摩擦抵抗を一層低減できる。
【0057】
更には、図12に示すように、摺動レール60の移動によって、クリック孔64がクリック凸部57からずれるために、摺動レール60の底面が、クリック凸部57の高さ分だけ上蓋部54aから離間してクリック凸部57の頂部とだけ接触される。これによって、摺動レール60とガイド部材52との間の摩擦抵抗をより一層低減できる。
この結果、浴槽3を一層軽い力で容易に幅方向へ移動させることができる。
【0058】
浴槽3の奥側框部12Rが摺動レール60を介してバックハンガー50と係合されることによって、浴槽3を奥側壁7に対して一定の間隔を保ちながら浴室幅方向へ真っ直ぐ移動させることができる。移動中、浴槽3が奥側壁7から離間されたり、奥側壁7にぶつかったりするのを回避できる。
バックハンガー50が奥側壁7における幅方向の中央部寄りに配置されることで、浴槽3の位置に拘わらず、バックハンガー50が常に奥側框部12Rと係合されるようにできる。
【0059】
浴槽3が浴室幅方向の1の所定位置まで移動された時、摺動レール60における1のクリック孔64がクリック凸部57と一致し、該クリック孔64にクリック凸部57が嵌入される。この時、クリック感が生じ、浴槽3が所定位置に来たことを感知できる。
このようにして、浴槽3を要介助者などの利用者に応じた浴室幅方向位置に位置決めできる。
【0060】
図4(b)に示すように、浴槽本体10に湯水を入れると、浴槽3の自重に湯水の重さが加わることによって浮上バネ25,55が縮み、浴槽本体3が降下される。
浴槽3と湯水の合計荷重すなわち浴槽3に加わる下向きの荷重が所定以上になると、浴槽本体10が浴室床6に着地される。具体的には、脚部17が敷設体5に接する。これによって、浴室床6が浴槽3の荷重を受けることができ、框12及びバックハンガー50ひいては奥側壁7に過剰な力がかかるのを防ぐことができる。そして、浴槽3を安定した状態で利用に供することができる。
【0061】
図7(b)に示すように、浴槽本体10の着地と併行して、緩衝部材40が浴室床6に接する。さらに、軟質緩衝部42が、硬質固定部41と浴室床6とで圧縮され、上下に押し潰されるように弾性変形される。したがって、軟質緩衝部42が浴室床6に密着される。これによって、エプロン11と浴室床6との間を塞ぐことができる。エプロン11と浴室床6との間に緩衝部材40が介在されることによって、エプロン11及び浴室床6の損傷を防止できる。
軟質緩衝部42は、硬質固定部41に対して着脱可能であるから、軟質緩衝部42が汚損、劣化されたときは、取り外して、新品と交換することができる。
【0062】
図8(a)からわかるように、浴槽3に対して奥側へ押したり奥側へ傾けたりする力が加えられたときは、係止凹部63の鉛直面63vがバックハンガー50の奥側規制部54dに突き当たる。これによって、浴槽3の奥側への変位を阻止できる。したがって、奥側框部12Rが奥側壁7にぶつかったり、こすれたりするのを阻止でき、浴槽3及び奥側壁7の損傷を回避できる。
浴槽3に対して手前側へ引いたり手前側へ傾けたりする力が加えられたときは、摺動レール60の前側面がバックハンガー50の係止壁54bに突き当たることによって、浴槽3が手前側へ変位されるのを阻止できる。更に、係止壁54bの前方に保持壁51hが配置されることで、浴槽3の手前側への変位を確実に阻止できる。
これによって、バックハンガー50に、浴槽3を幅方向へ滑らせる機能と、浴槽3を奥行方向に規制する機能とを併有させることができる。2つの機能を1つの部材に持たせることによって、構成を簡素化できる。
【0063】
浮上バネ55(浮上バネ)をバックハンガー50に設けることによって、押し上げ力の反力を奥側壁7に持たせることができる。つまり、押し上げ力の反力を浴室床6の奥側部分に持たせる必要が無い。したがって、浴室床6の奥側部分に押し上げ力の反力受け部を設ける必要が無い。
摺動レール60の奥側面に奥側框部12Rの垂れ板12bが宛がわれることで、浴槽本体10に対する摺動レール60の奥側への変位を阻止できる。また、摺動レール60の前方にリブ14が近接配置されることで、浴槽本体10に対する摺動レール60の前側への変位を規制できる。ひいては、雌ネジ付きブッシュ13及びボルト15にかかる負荷を軽減できる。
【0064】
可動浴槽3によれば、前側部にだけ車輪31を設ければよく、奥側部には車輪が不要である。かつ、浴室床7には、浴槽本体10の底部を受けるスライドレールも不要である。更に前述したように、浴室床6の奥側部分には、押し上げ力の反力受け部が不要である。したがって、可動浴槽3まわりの清掃の手間が軽減される。浴槽本体10を浴室床6から浮かせることで、浴槽本体10の底部と浴室床6との間の部分を洗うこともできる。特に、浴槽本体10の底部と浴室床6との間における奥側部分の掃除を容易化できる。
敷設体5ひいては浴槽パン4の一部は、浴槽3の幅方向の外側に露出されているから、容易に掃除できる。浴槽3を幅方向に移動させると、敷設体5及び浴槽パン4の新たに露出された部分を容易に掃除できる。
前側の車輪31まわりは奥側部分と比べて掃除が容易である。これによって、車輪31の転動に支障を来さないようにでき、浴槽3の移動を円滑に行うことができる。
【0065】
前側の浮上バネ25は、支柱20内に収容されているから、掃除や入浴時の水で濡れるおそれがない。したがって、浮上バネ25の腐食、劣化による押し上げ機能の低下を防止できる。
【0066】
奥側の浮上バネ55は、バックハンガー50内に収容されることで、掃除や入浴時の水で濡れるのを防止できる。水がバックハンガー50上にかかったとしても、カバー部56が奥側壁部51bの上端部に被さることによって、水が壁固定部材51の内部に入り込むのを防止できる。更に、バックハンガー50上にかかった水をカバー部56に沿って水抜き隙間50dに案内して、該水抜き隙間50dの下方へ排水できる。これによって、浮上バネ55が掃除や入浴時の水で濡れるのを確実に防止できる。したがって、浮上バネ55の腐食、劣化による押し上げ機能の低下を防止又は抑制できる。さらには、摺動レール60に水がかかるのを防止でき、摺動機能を維持できる。
【0067】
<第2実施形態(図13図15)>
図13に示すように、第2実施形態においては、浴槽3の前側部の支柱80が、第1支柱部81と、第2支柱部82を含む。第1支柱部81の上端部は、ボルト等の連結手段によって浴槽本体10に連結されている。第1支柱部81の中間部は、支持ブラケット84,85及びエプロン70の本体71を介して浴槽本体10と固定されている。第1支柱部81の下端の脚底部材81bが、浴室床6の敷設体5に着地されている。脚底部材81bの底面(下面)には、滑り止め材が設けられていてもよい。
【0068】
第2支柱部82は、第1支柱部81の前方(図13において左方)にずれて配置されている。洗い場と浴槽の境2bを挟んで、第1支柱部81は浴槽側に配置され、第2支柱部82は洗い場側に配置されている。
【0069】
第2支柱部82は、支持ブラケット84,85に上下変位可能に支持されている。ひいては、第2支柱部82は、支持ブラケット84,85を介して第1支柱部81と相対的に上下変位可能に連結されている。第2支柱部82の下端部に、キャスター83が洗い場パン2a上を浴室幅方向へ転動可能に設けられている。したがって、第2支柱部82の下端部は、第1支柱部81の下端部より浴室床6に対する浴室幅方向の摩擦抵抗が低い。
【0070】
さらに、第2支柱部82は、エプロン70の裾部72を支持する裾支持部を構成している。詳しくは、図13に示すように、第2実施形態のエプロン70は、下端のエプロン裾部72が、それより上側のエプロン本体71とは別体になっている。エプロン本体71が、浴槽本体10及び第1支柱部81と固定されている。
【0071】
図15(a)に示すように、エプロン本体71の下端部には、下向き段差71dを介して凹み壁74が垂設されている。凹み壁74にエプロン裾部72が相対的に上下変位可能に係合されている。エプロン裾部72は、例えばエプロン本体71より薄肉の樹脂によって構成され、断面U字状に形成されており、その内部に凹み壁74が差し入れられている。エプロン裾部72の長手方向の端部が、第2支柱部82に固定されて支持されている。エプロン裾部72は、キャスター83のコ字状の車輪ホルダー83hに固定されていてもよく、第2支柱部82の本体部82aに直接又はブラケット(図示せず)を介して固定されていてもよい。
【0072】
エプロン裾部72と浴室床6との間の隙間75の大きさ(上下寸法)は、0mm超~8mm以下である。
なお、エプロン裾部72における、浴槽側方を覆う側面エプロン裾部72bの奥側の端部は、エプロン本体71に連結軸77を介して連結されている。
【0073】
図13に示すように、さらに、第2実施形態における浴槽3の前側部には、支柱80と連係するカム機構90が設けられている。カム機構90は、カム91と、カム受け部92と、操作レバー93(操作部)を含む。
【0074】
カム91は、第2支柱部82の上方における、エプロン70と第1支柱部81との間に形成されたスペースに配置され、支持ブラケット84に添えられている。支持ブラケット84にはカム軸91c(カム連結部)が設けられている。該カム軸91cのまわりに、カム91が、平常位置と作動位置の間で回転変位可能に取り付けられている。カム91は、カム軸91c及び支持ブラケット84を介して、浴槽本体10及び第1支柱部81に連結されている。カム91における平常位置から作動位置にかけて下を向く側面(第2支柱部82と対向する面)が、カム面91aを構成している。
【0075】
カム受け部92は、第2支柱部82の上端部に取り付けられ、第2支柱部82に対して位置固定されている。該カム受け部92がカム面91aに突き当てられることで、カム91とカム受け部92とが、互いのカム作用によって相対昇降し合うように係合されている。
【0076】
カム91から操作レバー93が延び出ている。操作レバー93の操作によって、カム91が平常位置と作動位置との間で変位される。エプロン本体71の前面部の両側部には、カム91及び操作レバー93が収まる縦長の開口部71gが形成されている。
【0077】
図13に示すように、カム91が平常位置のときの操作レバー93は、前面エプロン本体71aに沿ってカム91から垂下され、開口部71gに収まっている。このとき、カム91及びカム受け部92どうしは、互いに平常の相対高さにあり、浴槽本体10が着地位置に配置されるとともに、第1支柱部81と第2支柱部82の下端部どうしが、略同じ高さに配置されて、それぞれ浴室床6に着地されている。すなわち、浴槽本体10の底部の脚部17が床ボード5aに着地されるとともに、第1支柱部81の下端の脚底部材81bが床ボード5aに着地され、第2支柱部82のキャスター83は、洗い場パン2aに着地されている。
【0078】
図14に示すように、カム91が作動位置のときの操作レバー93は、前面エプロン本体71aから前方へ突出される。このとき、カム91及びカム受け部92どうしは、平常時とは異なる相対高さになる。具体的には、カム軸91cとカム受け部92の高低差が前記平常位置のときより増大される。このため、支柱80の全体高さが平常位置のときより伸長される。これによって、図14及び図15(b)に示すように、浴槽本体10の前側部及び第1支柱部81が浴室床6から浮上されて、浴槽本体10が浮上位置に配置される。かつ、第2支柱部82のキャスター83が、第1支柱部81の脚底部材81bより下方へ突出され、第1支柱部81及び第2支柱部82のうち、第2支柱部82のキャスター83だけが、浴室床6に着地される。
【0079】
図13に示すように、第2実施形態においては、通常使用時は、操作レバー93が開口部71g内に収まり、カム91が平常位置に配置され、カム軸91cとカム受け部92どうしの高低差が平常になっている。これによって、浴槽本体10及び第1支柱部81が床ボード5aに着地されている。したがって、可動浴槽3を浴室床6に安定的に載置でき、入浴に支障を来すことが無い。浴槽本体10に加わる荷重は、該浴槽本体10から浴室床6へ直接受け渡されるとともに、第1支柱部81から浴室床6へ受け渡される。したがって、第2支柱部82に加わる荷重を十分に小さくでき、カム機構90やキャスター83への負荷を軽減できる。
【0080】
図14に示すように、可動浴槽3の移動時には、操作レバー93を手前側へ回すことによって、カム91を作動位置にする。これによって、カム91とカム受け部92が相対昇降される。具体的には、カム軸91cとカム受け部92の高低差が平常位置のときより増大される。これによって、支柱80の全体高さが伸長される。
このため、浴槽本体10の前側部が、バックハンガー50を回転支点として、浴室床6から浮き上がる。したがって、可動浴槽3の配置変更時に、浴槽本体10と浴室床6との間に働く摩擦抵抗を低減できる。かつ、浴槽本体10と一緒に第1支柱部81も浴室床6から浮き上がる。したがって、第1支柱部81と浴室床6との間に摩擦が働くことが無い。
【0081】
これに対し、第2支柱部82は、浮上されることなく、元の高さにとどまり、キャスター83が浴室床6に着地した状態を保持する。これによって、キャスター83を浴室床6に沿って転動させながら、可動浴槽3を浴室幅方向へ軽い力で容易に移動させることができる。バネ等の振動で可動浴槽3が不安定になることが無く、可動浴槽3の移動作業を安定的に行うことができる。
【0082】
エプロン本体71は、浴槽本体10の前側部及び第1支柱部81と一体に浮上される。一方、エプロン裾部72は、浮上されることなく、第2支柱部82と共に元の高さにとどまり、浴室床6に対して平常時と同じ高さを維持する。したがって、隙間75の大きさを常時8mm以下に維持でき、配置変更作業中に隙間75に足の指を挟むのを防止することができる。
【0083】
可動浴槽3を浴槽幅方向の所望の位置まで移動させた後、図13に示すように、操作レバー93を倒し、カム91を平常位置にする。これによって、カム軸91cとカム受け部92の高低差が平常に戻り、支柱80の全体高さが収縮されるとともに、浴槽本体10及び第1支柱部81が下降して床ボード5aに着地される。これによって、可動浴槽3を、変更後の配置位置に安定的に設置できる。
【0084】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、浮上バネは、圧縮コイルバネに限らず、引張コイルバネでもよく、板バネ、空気バネなどであってもよい。
浮上バネは、少なくともバックハンガーすなわち浴槽の奥側部に設けられていればよい。浴槽の前側部の浮上手段としては、支柱20がねじやピン止めなどによって高さ調整されるようになっていてもよい。
浮上バネを省略してもよい。浴槽3の移動時には、浴槽本体10の底部(脚部27)が浴室床6と摺擦されてもよい。摺動レール60及びガイド部材52を低摩擦材料によって構成することによって、移動時の摩擦抵抗を低減できる。
車輪31,83を省略してもよく、支柱20,82の下端部が浴室床6と接して摺動されるようにしてもよい。支柱20,82の下端部又は浴室床6における支柱との摺動領域部分に低摩擦材料からなる摺動材を設けてもよい。
支柱が浴室床6に固定されていてもよく、支柱の上に浴槽の前側框部が幅方向へ摺動可能に載せられていてもよい。
摺動レール60に1又は複数のクリック凸部57が設けられ、バックハンガーにクリック孔64が設けられていてもよい。
第2実施形態の変形例として、カム機構がネジ機構によって構成されていてもよい。カム機構は、操作部93の操作力を第1及び第2支柱部81,82どうしの相対高さ変位に変換するものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、例えば介助施設における浴室に適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 浴槽可動式浴室
2 洗い場
3 可動浴槽
4 浴槽パン
6 浴室床
7 奥側壁
10 浴槽本体
12R 奥側框部
12a 上板部
12b 垂れ板
13 雌ネジ付きブッシュ
14 リブ
15 レール固定ボルト
17 脚部
20 伸縮支柱(支柱)
50 バックハンガー
50d 水抜き隙間
51 壁固定部材
51d 突出固定部
51h 保持壁
52 ガイド部材
52a 内筒部
52s 規制凸部
53 ストッパ
54 摺動ガイド
54a 上蓋部
54b 係止壁
54d 奥側規制部
55 浮上バネ(圧縮コイルバネ、浮上手段)
56 カバー部
57 クリック凸部
60 摺動レール(奥側摩擦低減手段)
61 凹溝
62 摺動突条
63 係止凹部
63v 鉛直面
64 クリック孔
70 エプロン
71 エプロン本体
72 エプロン裾部
75 隙間
80 支柱
81 第1支柱部
82 第2支柱部
83 キャスター(車輪)
90 カム機構
91 カム
92 カム受け部
93 操作レバー(操作部)
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4(a)】
図4(b)】
図5(a)】
図5(b)】
図6(a)】
図6(b)】
図7(a)】
図7(b)】
図8(a)】
図8(b)】
図9
図10(a)】
図10(b)】
図11
図12
図13
図14
図15