(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】多層コーティング構造を有する電気コンタクト
(51)【国際特許分類】
H01R 13/03 20060101AFI20240730BHJP
H01R 12/58 20110101ALI20240730BHJP
H01R 43/16 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H01R13/03 D
H01R12/58
H01R43/16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022133847
(22)【出願日】2022-08-25
【審査請求日】2022-10-03
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501090342
【氏名又は名称】ティーイー コネクティビティ ジャーマニー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツンク
【氏名又は名称原語表記】TE Connectivity Germany GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】ヘルゲ シュミット
(72)【発明者】
【氏名】イザベル ブレシュ
(72)【発明者】
【氏名】エリカ クランダル
(72)【発明者】
【氏名】クラウス クレメンス ボルハウアー
【審査官】濱田 莉菜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-531026(JP,A)
【文献】特開2001-210399(JP,A)
【文献】特開2005-056605(JP,A)
【文献】特開2019-031732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/03
H01R 12/58
H01R 43/16
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層コーティング構造(20)を有する電気コンタクト(1)を製造する方法であって、
-ニッケルを含むナノスケールの第1の層(24)を、前記電気コンタクト(1)に付与するステップと、
-ビスマスを含むが錫を含まない第2の層(28)を、ニッケルを含む前記第1の層(24)の上に付与するステップとを含み、
前記第2の層(28)の厚さは、前記第1の層(24)の厚さの少なくとも9倍大きい、
方法。
【請求項2】
前記第2の層(28)の厚さは、前記第1の層(24)の厚さの少なくとも9倍大きく、かつ60倍以下である、
請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の層(24)の厚さ(26)が約1nm~40nm未満である、
請求項
1または
2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の層(24)の平均粒度が約1nm~約50nmである、
請求項
1または
2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の層および前記第2の層のうちの少なくとも一方が、単一プロセスまたは2段階プロセスとしての、電気めっきプロセス、物理蒸着プロセス、および化学蒸着プロセスのうちの少なくとも1つによって付与される、
請求項
1または
2に記載の方法。
【請求項6】
前記電気コンタクト(1)は圧入コンタクト(2)である、
請求項
1または
2に記載の方法。
【請求項7】
前記電気コンタクト(1)は、プリント回路基板(PCB)のめっきスルーホールに挿入するように構成されている圧入コンタクト(2)である、
請求項
1または
2に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の層(28)を、前記第1の層(24)の上に付与する前記ステップは、室温で実施される、
請求項
1または
2に記載の方法。
【請求項9】
前記ビスマスは10nm~0.5μmの平均粒度を有し、
前記第2の層(28)を、前記第1の層(24)の上に付与する前記ステップは、室温で実施される、
請求項
1または
2に記載の方法。
【請求項10】
多層コーティング構造(20)を有する電気コンタクト(1)であって、
請求項1または請求項2に記載の方法によって製造された電気コンタクト(1)。
【請求項11】
多層コーティング構造(20)を有する電気コンタクト(1)であって、
請求項3に記載の方法によって製造された電気コンタクト(1)。
【請求項12】
多層コーティング構造(20)を有する電気コンタクト(1)であって、
請求項4に記載の方法によって製造された電気コンタクト(1)。
【請求項13】
多層コーティング構造(20)を有する電気コンタクト(1)であって、
請求項5に記載の方法によって製造された電気コンタクト(1)。
【請求項14】
多層コーティング構造(20)を有する電気コンタクト(1)であって、
請求項6に記載の方法によって製造された電気コンタクト(1)。
【請求項15】
多層コーティング構造(20)を有する電気コンタクト(1)であって、
請求項7に記載の方法によって製造された電気コンタクト(1)。
【請求項16】
多層コーティング構造(20)を有する電気コンタクト(1)であって、
請求項8に記載の方法によって製造された電気コンタクト(1)。
【請求項17】
多層コーティング構造(20)を有する電気コンタクト(1)であって、
請求項9に記載の方法によって製造された電気コンタクト(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層コーティング構造を有する電気コンタクト、およびそのような電気コンタクトを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気コンタクトは、相手側コンタクトとの電気的接続を形成するために、様々な用途に使用されている。電気コンタクトの接続動作を容易にし、酸化および他の原因による表面の損傷を防ぐために、電気コンタクトにはコーティングが施されている。従来、錫(Sn)および鉛(Pb)からなるコーティング溶液が使用されている。錫を主に含むコーティングには、外部圧力または応力によって引き起こされるウィスカ形成が錫に生じやすいという問題がある。錫ウィスカは、他の電気部品にブリッジするのに十分な長さに成長することがあり、短絡を引き起こし、潜在的なシステム故障につながるおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、錫コーティングよりもウィスカ形成に対する耐性が強いコーティングを有する電気コンタクトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、互いに重なって配置された少なくとも2つの層、すなわち、Bi3Niを含む中間層と、遊離ビスマス(Bi)粒子を含む上層とを有する多層コーティング構造を備える電気コンタクトを提供することによって、上記の問題を解決する。
【0005】
上記の目的は、多層コーティング構造を有する電気コンタクトを製造する方法によってさらに達成される。方法は、ニッケル(Ni)を含む第1の層を電気コンタクトに付与するステップと、ビスマスを含む第2の層を第1の層の上に付与するステップとを含み、第2の層の厚さが第1の層の厚さよりも少なくとも9倍大きい。
【0006】
本発明の電気コンタクトおよび電気コンタクトを製造する方法は、錫および鉛の代わりにビスマス層を有する電気コンタクトを提供する。鉛と比較すると、ビスマスは無害な物質であり、錫と同様の特性を有するが、ウィスカ形成のリスクがはるかに低い。しかしながら、遊離ビスマス粒子を含む単層を電気コンタクトの基材に配置することは、コア材料から容易に剥がれることがわかっている。遊離ビスマス粒子を有する単層は、剥がれると、その目的を果たすことができない。しかしながら、Bi3Niなどの金属間化合物の単層は、余剰なニッケルが表面に拡散して、暗色の酸化ニッケルまたは水酸化ニッケルを形成することにより、多湿下で変色による影響(tarnishing effects)を引き起こす。
【0007】
しかしながら、中間Bi3Ni層と遊離ビスマス粒子を含む上層とを含む多層構造が、それぞれの単層の問題を軽減できることがわかっている。金属間化合物Bi3Niを含む中間層により、剥がれに抵抗する密着性が得られ、遊離ビスマス粒子を含む上層は、ニッケルが表面に拡散してそこで酸化し得ることを防ぐバリアを形成する。第1の厚さを有する第1のニッケル層を電気コンタクトに付着させ、第2の厚さを有する第2のビスマス層を第1の層に付着させ、第1の厚さと第2の厚さとの比が1:9以下となるようにすることにより、規則的な連続したBi3Ni中間層を迅速に形成し、表面の残りの遊離ビスマスは上層を形成する。したがって、本発明の解決策により、鉛および錫を含まない信頼性の高いコンタクト要素が提供される。
【0008】
本明細書で使用されるとき、「備える(comprising)」という用語は、「含む(including)」、「包含する(encompassing)」、または「含有する(containing)」といった広い標準的な意味を有する。「備える」という用語は、明示的に列挙された要素を含み、かつ列挙されていない他の要素の存在を可能にもする。この広い包括的な意味に加えて、本明細書で使用されるとき、「備える(comprising)」という用語は、「~からなる(consisting of)」という限定的な意味を有することもある。これは、ある特徴を備えるとして定義される本出願の任意の態様または実施形態が、明示的に記載されているか否かに関わらず、前記特徴のみからなるという意味も含むことを意味する。加えて、「備える(comprising)」という用語は、「本質的に~からなる(consisting essentially of)」という意味を有することもある。
【0009】
それぞれの技術的効果に関して互いに独立し、任意に組み合わせることができる以下の特徴によって、本発明をさらに改良することができる。
【0010】
例えば、電気コンタクトを銅または銅合金から形成することができる。電気コンタクトを形成する物質は、多層コーティング構造で被覆され得る基材を構成することができる。中間層を基材に直に配置することができ、上層を中間層に直に配置することができ、中間層が基材と上層との間に直接配置されるようになっていることが好ましい。「直に(immediately)」という用語は、共通の境界面の前に形成された2つの表面間で直接物理的に接触することを意味する。
【0011】
電気コンタクト、特に多層コーティング構造は、鉛および/または錫を含まないことが好ましい。
【0012】
好ましい一実施形態によれば、電気コンタクトは圧入コンタクトであってよい。圧入コンタクトは、信頼性の高い電気的接続を行うための無はんだの解決策を提供する。圧入コンタクト、特に圧入ピンは、例えば、プリント回路基板(PCB)のめっきスルーホール(PTH)に挿入するように構成されている。はんだを使用することなく、冷間圧接相互接続(cold-welded interconnection)が自律的(autonomously)に形成される。このような冷間圧接プロセスにより、金属間接続が生じて、接触抵抗値が低くなる。多層構造は、圧入コンタクトに特に有利である。遊離ビスマス粒子は、めっきスルーホールのめっきとの冷間圧接接続を形成することができ、上層が中間層に密着することにより、上層の剥がれを防ぐことができる。したがって、圧入コンタクトをめっきスルーホールに固定する高い保持力を実現することができる。
ビスマスは、錫ほどウィスカ形成が生じにくいため、複数のめっきスルーホールと圧入コンタクトとを小さいピッチで配置することができる。ニッケル層の代わりにビスマス層を有することにより、ウィスカが隣接するコンタクトに到達して短絡を引き起こすリスクを低減させることができる。
【0013】
多層構造は、圧入コンタクトの接触部のみに配置され得ることが好ましい。接触部は圧入領域を形成することができ、この圧入領域は、硬くても柔軟であってもよく、接続後にスルーホールに配置される。あるいは、圧入コンタクト全体に多層構造が設けられていてもよい。
【0014】
コーティングとは、一般に、物体の表面を物質で覆うことを指す。第1の層および第2の層は、特にめっきであってよく、これは、金属を導電性表面に付着させるコーティングの一種である。めっきは、電気めっき、蒸着、およびスパッタ堆積などの異なる方法で付与することができる。単一プロセスとして、または互いに組み合わせた2段階プロセスとしての、電気めっきプロセスおよび/または物理蒸着プロセスおよび/または化学蒸着プロセスの変形例によって、第1の層および/または第2の層を付与することができると好ましい。したがって、コーティングプロセスは、電気めっきプロセスと物理蒸着プロセスまたは化学蒸着プロセスとを含む2段階プロセスであってよい。
【0015】
ビスマス粒子は、約10nm~約0.5μmの、約0.1~約0.5μmの、特に約10nm~約0.4μmまたは約0.2~約0.4μmの平均粒度を有することができると好ましい。ビスマス粒度が比較的小さいと、室温、すなわち約25℃で、より規則的な金属間化合物形成が生じる。したがって、約10nm~約0.5μmの平均粒度を有するビスマスをニッケル層に付与すると、より規則的な金属間化合物、すなわちBi3Niの層を、室温、すなわち25℃で即座に形成することができる。
【0016】
平均粒度は、例えば、走査型電子顕微鏡によって取り込まれた画像において直線切片法(linear intercept method)を使用することによって判定することができる。平均粒度は、ASTM E112に従って判定されることが好ましい。
【0017】
加えてまたは代わりに、金属間化合物、したがって中間層の規則性を、主結晶方位(012)を有するビスマス粒子によって向上させることができる。上記の小さい平均粒度と組み合わせて、室温での金属間化合物形成の規則性により、ウィスカ成長のための固有の局所的な応力源(intrinsic localised stress sources)が減り、ウィスカをさらに低減させる。「主」結晶方位とは、主な結晶方位が(012)であることを意味する。ビスマス粒子の約50%超、約60%超、約70%超、約80%超、約90%超、または全部が、結晶方位(012)を有することができると好ましい。結晶方位(110)および(104)を有するビスマス粒子がわずかに存在してもよい。しかしながら、(012)のビスマス粒子の量が多いほど、金属間化合物の形成がより規則的になる。
【0018】
ビスマス粒子の小さい粒度と主結晶方位との組合せにより、それぞれの圧入コンタクトによる試験中に、ウィスカがめっきスルーホールから突出しないことがわかっている。いずれのウィスカも、特に100μm超の長さを有するウィスカは、約0.1μm以下の直径を有する。したがって、ウィスカは、まっすぐに立ってめっきスルーホールの外側へ成長するほど強力ではない。それどころか、ウィスカは、曲がる、丸まる、または他の表面に寄り掛かる。ビスマスウィスカがスルーホールから突出したとしても、ほとんどの付与において、ウィスカは即座に溶けるであろう。したがって、付与中のウィスカ形成によってもたらされるリスクをなくすことができる。
【0019】
主結晶方位は、ビスマス粒子の主な結晶方位であると考えられる。結晶方位(012)を有するビスマス粒子は、全ビスマス粒子の少なくとも約50%、60%、70%、80%、または90%を構成することができると好ましい。一実施形態において、すべてのビスマス粒子が結晶方位(012)を含むことができる。ビスマス粒子の結晶方位は、X線回折(XRD)測定によって判定することができる。さらに、特定の結晶方位を有するビスマス粒子の量は、XRD測定によって判定することができる。
【0020】
遊離ビスマス粒子を含む上層は、電気コンタクトの最外層を形成することができると好ましい。したがって、遊離ビスマス粒子に、相手側コネクタが直接接触することができる。
【0021】
物質を含む層とは、前記物質が前記層の主な物質であることを表すことができる。したがって、Bi3Niは中間層の主な物質であってよく、遊離ビスマス粒子は上層の主な物質であってよい。上層の遊離ビスマス粒子の含有量は、少なくとも約50wt%、少なくとも約60wt%、少なくとも約70wt%、少なくとも約80wt%であってよい。上層の遊離ビスマス粒子の含有量は、少なくとも約90wt%~約100wt%であり得ることが最も好ましい。
【0022】
表面へ拡散するニッケルの酸化により可視の黒点が発生するため、上面のニッケルの含有量を約0wt%~約10wt%の最小値に維持することができる。
【0023】
圧入コンタクトは、通常、めっきスルーホールに嵌入するように形成される。圧入接続には、孔の直径および接触領域における圧入コンタクトの直径の公差が小さいことが必要である。接触領域における圧入コンタクトの直径が公差を超えると、圧入コンタクトをめっきスルーホールに挿入するのに必要な挿入力が大きくなる。これは、圧入接続を行う困難さを増大させるだけでなく、接続システムの部品に損傷を与えるリスクも高める。圧入コンタクトが過度に大きくなることを防ぐために、多層コーティング構造の厚さを制限することが好ましい。
【0024】
上層の厚さは、少なくとも約1nm、少なくとも約2nm、少なくとも約5nm、または少なくとも約10nmであってよい。上層の厚さは、少なくとも約20nmであり得ることが好ましい。上層の最大厚さは、約1μm以下、約0.8μm以下、最も好ましくは約0.4μm以下であってよい。上層の上記の最小厚さと組み合わせた上層のこれらの最大層厚さによって定義される任意の範囲も考えられ、この範囲はそれぞれの端点を含むまたは除く。例えば、一部の実施形態において、上層の厚さは約1nm~約1μm、すなわち約1nmと約1μmとの間である。上記の範囲のすべてにおいて、下のそれぞれの端点を含むが上のそれぞれの端点を除く対応する範囲、および下のそれぞれの端点を除くが上のそれぞれの端点を含む範囲も考えられる。
【0025】
例示的な一実施形態において、上層は、Bi粒子の平均粒度の約0.2~約5倍の厚さを有することができる。上層は、1つのBi粒子の厚さ、すなわちBi粒子の平均粒度を有することが好ましい。
【0026】
中間層は、少なくとも約9nm、少なくとも約25nm、少なくとも約50nm、より好ましくは少なくとも約0.1μmの厚さを含むことができる。中間層の最大厚さは、約30nm以下、約1μm以下、より好ましくは約0.5μm以下であってよい。中間層の上記の最小厚さと組み合わせた中間層のこれらの最大層厚さによって定義される任意の範囲も考えられ、この範囲はそれぞれの端点を含むまたは除く。例えば、一部の実施形態において、中間層の厚さは約50nm~約1μm、すなわち約50nmと約1μmとの間である。他の例では、中間層は、約25nm~約0.5μm、または、約9nm~約30nmの厚さを含むことができる。上記の範囲のすべてにおいて、下のそれぞれの端点を含むが上のそれぞれの端点を除く対応する範囲、および下のそれぞれの端点を除くが上のそれぞれの端点を含む範囲も考えられる。
【0027】
製造中に電気コンタクトに付着されるニッケル層は、ナノスケールのニッケルフラッシュであり得ることが好ましい。本明細書で使用されるとき、「ナノスケールの」という用語は、第1の厚さが1nm~100nmの範囲であり、ニッケル層のニッケルの平均粒度が約1nm~約50nmであることを意味する。第1の厚さは、約60nm未満、約50nm未満、約40nm未満であり得ることが好ましい。第1の厚さは、ニッケル粒子の約2つの粒子層によって形成され得ることが好ましい。
【0028】
約1nm~約50nmの範囲のニッケルの平均粒度と組み合わせた薄い第1の層により、大量の粒界が生じて、熱処理なしの室温でのBi3Niの即座の形成をさらに促進する。
【0029】
第2の厚さ、すなわちニッケル層に付与されるビスマス層の厚さは、第1の厚さよりも少なくとも9倍大きくてよい。第1の厚さと第2の厚さとの比が1:9よりも大きいと、遊離ビスマス粒子全体が時間と共にBi3Niに変換されることがわかっている。したがって、ニッケルが表面に拡散して、暗色のニッケル腐食生成物による黒点が残る。
【0030】
厚さ比、すなわち第1の厚さと第2の厚さとの比(第2の厚さに対する第1の厚さの比、すなわち、「第1の厚さ/第2の厚さ」)により、上層の厚さと中間層の厚さとを予め決めることができる。したがって、厚さ比を調節することによって、上層と中間層との所望の厚さレベルを得ることができる。厚さ比が小さいほど、遊離ビスマス粒子を含む上層の厚さが大きくなる。最大厚さ比は、約1:9以下、約1:10以下、約1:16以下、または約1:20以下であってよい。最小厚さ比は、少なくとも約1:100、少なくとも約1:90、少なくとも約1:80、少なくとも約1:70、最も好ましくは少なくとも約1:60であってよい。上記の最大厚さ比と組み合わせたこれらの最小厚さ比によって定義される任意の範囲も考えられ、この範囲はそれぞれの端点を含むまたは除く。例えば、一部の実施形態において、厚さ比は約1:60~約1:9、すなわち約1:60と約1:9との間である。
上記の範囲のすべてにおいて、下のそれぞれの端点を含むが上のそれぞれの端点を除く対応する範囲、および下のそれぞれの端点を除くが上のそれぞれの端点を含む範囲も考えられる。
【0031】
本明細書で使用されるとき、「約」という用語は、量、時間長などの測定可能な値に言及するとき、その測定可能な値自体に加えて、特定の値からの±20%または±10%の変動値、場合によっては、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%、または±1%の変動値、および他の場合には、±0.9%、±0.8%、±0.7%、±0.6%、±0.5%、±0.4%、±0.3%、±0.2%、±0.1%の変動値を包含することを意味する。特定の値に関する「約」という用語は、その特定値を含むことが明示されているかどうかに関わらず、その特定の値自体を含むことを理解されたい。したがって、「約」という用語が特定の記載された値を含むことが明確に表示されていないことは、特定の記載された値が、「約」という用語によって生じる変動値の範囲から除外されていると理解すべきではない。
「約」という用語が特定の記載された値を含むことが明確に表示されていなくても、その特定の値は、「約」という用語によって生じる変動値の前記範囲に含まれる。当業者であれば、記載された値からの偏差に小数が含まれ得る場合(例えば、温度、圧力、または期間に関して)と、そのような偏差が整数のみであり得る場合(例えば、より大きい分子内の個々の部分に関して)とを認識するであろう。「約」という用語の上記の一般的な定義に加えて、この用語は、記載された温度値に対して±1℃、記載された長さ値に対して±0.05μm、記載された長さ値に対して±0.5nm、記載された濃度に対して±1%(w/w)を特に指すことができる。「約」という用語が数値範囲の前に記載されている場合、「約」という用語は、下の端点、上の端点、または下の端点および上の端点の両方を指すことができる。
【0032】
以下で、例示的な実施形態を示す添付図面を参照しながら、電気コンタクトおよびそれに応じて電気コンタクトを製造する方法について、より詳細に説明する。
【0033】
図中、機能および/または構造に関して互いに対応する要素については同一の参照数字を使用する。
【0034】
様々な態様および実施形態の説明によれば、図面に示す要素の技術的効果が特定の用途に必要でない場合には、その要素を省略することができる。逆に、図示しないまたは図面を参照して説明しないが前述した特定の要素の技術的特徴が、特定の用途に有利である場合には、その特定の要素を追加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明による電気コンタクトの例示的な実施形態の概略斜視図である。
【
図2】第1の層を電気コンタクトに付着させた後の電気コンタクトの層の詳細図である。
【
図3】第2の層を電気コンタクトに付着させた後の電気コンタクトの層の詳細図である。
【
図4】第1の層と第2の層とで多層コーティング構造を形成した後の電気コンタクトの層の詳細図である。
【
図5】別の有利な実施形態による、第1の層と第2の層とで多層コーティング構造を形成した後の電気コンタクトの層の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本明細書全体を通じて使用されるとき、以下の略語は、文脈に特に明記されていない限り、以下の意味を有する。℃:摂氏温度、μm:ミクロン、μm:10×10-6メートル、nm:ナノメートル、nm:10×10-9メートル、wt%:重量パーセント。
【0037】
「付着させる(depositing)」、「被覆する(coating)」、「付与する(applying)」という用語は、本明細書全体を通じて同義で使用される。
【0038】
例示的な実施形態は、電気コンタクト1、特に、基板6の導電性スルーホール4に挿入するように構成されている圧入コンタクト2に関する。基板6は、例えばプリント回路基板8であってよい。導電性スルーホール4にめっき10を施すことができると好ましい。
【0039】
圧入コンタクト2を、銅または銅合金などの導電性基材12から、プレス加工などによって形成することができる。硬直な圧入コンタクト(rigid press-fit contacts)または柔軟な圧入コンタクト(compliant press-fit contacts)などの圧入コンタクト2の異なる変形例が考えられる。例示的な実施形態において、圧入コンタクト2の圧入領域16に形成される接触部14を有する柔軟圧入コンタクト(コンプライアント圧入コンタクト)が示されている。少なくとも圧入領域16で、圧入コンタクト2は、スルーホール4内に挿入方向18で挿入される間に変形するように、弾性であってよい。圧入領域16の弾性により、基板6における応力が大幅に低下する。
【0040】
挿入状態において、接触部は、冷間圧接相互接続を生じさせる大きい接触力で、めっき10に直接物理的に接触している。このために、少なくとも接触部14またはさらには圧入コンタクト2全体に、コーティング、特にめっきが施されている。従来、鉛および錫を含むめっきが使用されている。しかしながら、鉛が人間の神経系に有害であることがわかっているため、電子部品に鉛を使用することは徐々に減っている。圧入コンタクトの錫めっきは、圧入プロセス中および圧入プロセス後に柔軟圧入領域(compliant press-in zone)によって加わる大きい外部圧力により、錫ウィスカを形成する傾向がある。錫ウィスカは、隣接するコンタクトへのブリッジを形成し、場合によっては短絡を引き起こすことがあるため、信頼性に対する深刻な脅威として認識されている。錫ウィスカの形成によりもたらされる脅威は、例えば高密度コネクタの解決策を提供することによる小型化の傾向の増加も制限する。
したがって、ウィスカ形成による短絡のリスクを低減させる代替のコーティング溶液の必要性が増大している。
【0041】
錫めっきの代わりに、例示的な実施形態による電気コンタクトには、少なくとも接触部14に多層コーティング構造20が設けられている。あるいは、圧入コンタクト2全体に多層コーティング構造20が設けられていてもよい。
図2~
図4を参照しながら、多層コーティング構造20を付与する方法および多層コーティング構造20自体についてさらに説明する。
【0042】
図2は、第1のステップ後に設けられた層を示す、電気コンタクト1の例示的な実施形態の概略詳細図である。電気コンタクト1は、前述したように、電気コンタクト1を形成する銅または銅合金であり得る基材12を含む。第1のステップで、ニッケルの好ましくはナノスケールの層22を、第1の厚さ26を有する多層コーティング構造20の第1の層24として、基材12に直接付着させる。「ナノスケールの」とは、第1の厚さ26が約1nm~約100nmの範囲であってよく、粒度が約1nm~約50nmであってよいことを意味する。第1の厚さ26は、約1nm~約60nmであり、ニッケル粒子の約2つの粒子層を含むことが好ましい。ニッケルの小さい厚さと粒度との組合せにより、大量の粒界が生じて、熱処理なしの室温での金属間Bi
3Ni化合物の即座の形成を大きく促進する。
【0043】
金属を基板に付着させるための1つまたは複数の従来の方法を使用して、ニッケル層を付着させることができる。このような従来の方法として、限定されないが、電気めっき、無電解めっき、もしくは浸漬めっきなどのめっき、化学蒸着、または物理蒸着が挙げられる。
【0044】
図3に示す第2のステップにおいて、第2の層28が第1の層24に直接配置され、第2の層28は、ビスマス粒子を含み、第1の厚さ26よりも少なくとも約9倍大きい第2の厚さ30を有する。第2の厚さ30は、第1の厚さ26の少なくとも約9倍大きく、かつ約100倍以下、好ましくは約60倍以下であってよい。
【0045】
第1の層24および/または第2の層28を、電気めっきプロセス、物理蒸着プロセス、および化学蒸着プロセスのうちの少なくとも1つによって付与することができる。一実施形態において、単一プロセスを使用することができる。上記のプロセスのうちの2つを互いに組み合わせた2段階プロセスを使用することが好ましい。
【0046】
図3は、単に例示の目的で示されたものであり、電気コンタクトの実際の状態を反映していない。第1の層のニッケルは、
図4に示すように、既に約25℃の温度で、熱処理なしで、第2の層のビスマス粒子に接触すると即座に金属間化合物を形成するからである。形成される金属間化合物はBi
3Niであり、これは多層コーティング構造20の中間層32を形成する。中間層32は、基材12の上に直に配置され、少なくとも約50nm~約1.0μmの中間層厚さ34を有する。
【0047】
第2の厚さ30が第1の厚さ26よりも少なくとも9倍大きいため、ビスマス粒子が余剰に提供され、この余剰分は、ニッケルによって消費されて金属間化合物を形成することはない。ビスマス粒子の前記余剰分は、上層厚さ38を有する上層36を形成する。上層厚さ38は、約2nm~約1.0μm、約2nm~約0.8μm、最も好ましくは2nm~約0.4μmであってよい。
【0048】
中間層32および上層36は、規則的な形状を有する必要はないことに留意されたい。このような場合、中間層厚さ34と上層厚さ38との両方が、それぞれの層の平均厚さを指す。
【0049】
図5に好ましい実施形態が示され、上層36を形成するビスマス粒子40が概略的に描かれている。本実施形態に見られるように、上層厚さ38は、およそビスマス粒子40の平均粒度42である。
【0050】
ビスマスは無害な物質であり、ビスマスコーティングは軟質で、錫コーティングの硬度と同様の硬度を有するが、ウィスカ形成がはるかに生じにくい。ビスマスウィスカが形成されても、ビスマスの導電率は、錫の導電率の約10分の1である。したがって、ビスマスウィスカは、錫ウィスカと比べて、通電に対する懸念または脅威がはるかに少ない。しかしながら、遊離ビスマス粒子の単一のコーティング層は、圧入動作中に圧入コンタクト2から剥がれるおそれがある。その結果、必要な保持力(retention force)を常に実現することができるとは限らない。しかしながら、Bi3Ni中間層を設けると、遊離ビスマス粒子の密着性が向上して、剥がれに対する抵抗をさらに高める。
【0051】
上層36の遊離ビスマス粒子は、中間層のニッケルが表面に拡散することを防ぐバリアも形成する。多湿下で、ニッケルは暗色の酸化ニッケルまたは水酸化ニッケルを形成することにより、電気コンタクトの寿命の間に変色による影響を引き起こす。
【0052】
ウィスカ成長のための固有の局所的な応力源を減らすためには、規則的な中間相(regular intermediate phase)がかなり好ましい。ビスマス粒子の平均粒度および/または結晶方位を特定すると、特に規則的な中間相が、熱処理なしで即座に形成されることがわかっている。第2の層28に使用されるビスマス粒子は、約10nm~約0.5μmの、約0.1~約0.5μmの、特に約10nm~約0.4μmもしくは約0.2~約0.4μmの平均粒度および/または主結晶方位(012)を有することが最も好ましい。平均粒度は、走査型電子顕微鏡によって取り込まれた画像において直線切片法を使用して、ASTM E112に従って判定することができる。結晶方位はX線回折によって判定することができる。
【0053】
ナノスケールの第1の層、小さい平均粒度、および第2の層の結晶方位を特に組み合わせることにより、制御された規則的な連続したBi3Ni中間層32が迅速に形成される。したがって、金属間化合物の不規則な粒界形成を減らすことができるため、ウィスカがさらに低減する。
【0054】
上層36は、電気コンタクトの最外層を形成し、少なくとも約90wt%の遊離ビスマス粒子を含むことが好ましい。さらに、上層36は、約10wt%未満のニッケルを含み得るため、多湿で発生する可視の黒点のリスクがさらに低減される。
【0055】
以下の実施例は、本発明をさらに例示するために含まれるが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0056】
実施例において、銅合金から形成された基板に、ニッケルを含む第1の層とビスマスを含む第2の層とをめっきした。ビスマスは、約0.1~約0.5μmの平均粒度および結晶方位(012)を有した。また、実施例において、ニッケルめっきの第1の厚さとビスマスめっきの第2の厚さとを変化させ、上層、すなわちBi3Ni中間層の形成後の遊離ビスマス粒子層の上層厚さを測定した。実施例のそれぞれの厚さが以下の表にまとめられている。
【0057】
【0058】
結果は、第1の厚さと第2の厚さとの厚さ比(第2の厚さに対する第1の厚さの比、すなわち、「第1の厚さ/第2の厚さ」)を調節することによって、上層厚さを調節できることを示している。厚さ比が小さいほど、上層を形成する余剰な遊離ビスマス粒子が多く残る。1:9よりも大きい比で、ビスマス粒子はすべて消費されて、ニッケルと共に金属間化合物を形成することがわかった。
【0059】
実施例による圧入コンタクトのウィスカ形成を評価し、純錫めっきを有する圧入コンタクトおよび純ビスマスめっきを有する圧入コンタクトと比較した。圧入ピンをめっきスルーホールに挿入した。実施例および比較例の走査電子像を検討した。
【0060】
純錫めっきを有する比較例の走査電子像は、より厚いウィスカ、したがって、より強力、より頑強、およびより安定したウィスカを示した。ウィスカはスルーホールの外側へ成長し、隣接するコンタクトに接触し得る。純ビスマスめっきを有する比較例のビスマスめっきは剥がれ、スルーホール内における圧入コンタクトの必要な保持力(retention force)を維持することができず、圧入コンタクトが使い物にならなくなった。
【0061】
主結晶方位(012)を有するビスマスの単一の粒子層を含む上記の解決策を使用すると、スルーホールから突出するウィスカは記録されなかった。ウィスカはスルーホール内のみに見られ、特に、100μm超の長さを有するウィスカは極端に細く、約0.1μmの直径を有する。したがって、ウィスカは、まっすぐに立ってめっきスルーホールの外側へ成長するほど強力ではない。それどころか、ウィスカは、曲がる、丸まる、または他の表面に寄り掛かる。遊離ビスマス粒子を含む上層の剥がれは、Bi3Ni中間層によって防止されるため、見られなかった。
【符号の説明】
【0062】
1 電気コンタクト
2 圧入コンタクト
4 導電性スルーホール
6 基板
8 プリント回路基板
10 めっき
12 基材
14 接触部
16 圧入領域
18 挿入方向
20 多層コーティング構造
22 ニッケルのナノスケールの層
24 第1の層
26 第1の厚さ
28 第2の層
30 第2の厚さ
32 中間層
34 中間層厚さ
36 上層
38 上層厚さ
40 ビスマス粒子
42 平均粒度