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特許7529374単気筒又はピストン同期型多気筒内燃機関
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  • 特許-単気筒又はピストン同期型多気筒内燃機関 図1
  • 特許-単気筒又はピストン同期型多気筒内燃機関 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】単気筒又はピストン同期型多気筒内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/00 20060101AFI20240730BHJP
   F02M 35/10 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
F01M13/00 K
F01M13/00 J
F02M35/10 301T
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020058929
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021156240
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】岡林 大輔
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-036738(JP,A)
【文献】特開平09-303128(JP,A)
【文献】特開2013-050060(JP,A)
【文献】特開昭60-209619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 13/00
F02M 35/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単気筒内燃機関又は複数のピストンが同期して昇降する多気筒内燃機関であって、
クランク室に吹き抜けたブローバイガスを吸気系のうちスロットルバルブよりも下流側に戻すPCV通路と、吸気系のうちスロットルバルブよりも上流側の部位とクランク室とに連通して新気のみを流す換気通路とを備えており、
前記PCV通路には、負圧により開くPCVバルブを設けている一方、
前記換気通路には、新気を前記クランク室の側のみに流す一方弁と、前記吸気系のうちスロットルバルブよりも下流側の部位から分岐した入力通路の負圧によって作動する弁体を備えた制御バルブとが、前記一方弁が上流側に位置して前記制御バルブが下流側に位置するように配置されていて、前記入力通路は前記弁体によって常に閉じられていて前記入力通路と前記換気通路との間での吸気及びブローバイガスの流れは遮断されており、
前記入力通路が前記弁体によって閉じた状態に保持されていることにより、前記入力通路の負圧に比例して前記弁体が動いて前記換気通路の開き量が増大するように設定されている、
単気筒又はピストン同期型多気筒内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単気筒内燃機関又は複数のピストンが同期して昇降する多気筒内燃機関に関するものであり、特に、ブローバイガスの処理技術を特徴にしている。
【背景技術】
【0002】
内燃機関は、気筒(シリンダボア)の数で単気筒と多気筒とに分類され、単気筒内燃機関では、ピストンの昇降によってクランク室が正圧状態と負圧状態とに交互に変化するという圧力変動が生じる。他方、4サイクル2気筒内燃機関では、一般に、2つのピストンを同期して昇降させることにより、行程を360度ずらしているが、この場合も、単気筒と同様にクランク室に圧力変動が発生する。
【0003】
さて、レシプロ式内燃機関では、気筒数に関係なく燃焼ガスの一部がクランク室に吹き抜ける現象があり、そこで、クランク室に吹き抜けたブローバイガスをオイルセパレータ室に通してここでオイルを捕集し、油分が除去されたブローバイガスをPCV通路によって吸気系(吸気マニホールド)に戻している。
【0004】
この場合、ブローバイガスの戻り制御は、負圧によって開くPCVバルブで行っており、過給機を搭載していない自然吸気タイプの内燃機関では、ブローバイガスは随時吸気系に還流し、過給機を搭載した内燃機関では、減速時のように過給がカットされて負圧状態になったときに還流するようになっている。
【0005】
ところが、上記したようにクランク室に圧力変動が発生する単気筒内燃機関や4サイクル2気筒内燃機関では、クランク室の負圧が吸気系の負圧よりも小さくなる現象があり、このため、吸気系の吸気マニホールドが負圧であってもPCVバルブが開かずに、ブローバイガスが吸気マニホールドに還流しないことがある。
【0006】
この点について非特許文献1には、吸気系のうちスロットルバルブよりも上流側の部位から吸気をクランク室に送る換気通路を設け、この換気通路に、吸気をクランク室のみに流して逆流は阻止する一方弁(逆止弁)と電磁式の開閉弁(流量制御弁)とを設け、クランク室が負圧になると開閉弁を開いて吸気をクランク室に送ることにより、PCVバルブを開き作動させることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Honda R&D Technical Review Vol.16 No.2 165~170 頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1では、クランク室での圧力変動は不可避としつつ、クランク室が負圧状態になっていてもPCVバルブの作動は確保して、ブローバイガスの戻しを確実化できると云えるが、高価な電磁式の開閉弁を必要とすると共に制御回路も必要になるためコストが嵩むという問題や、ケーブルが破断したり制御回路が故障したりすると、ブローバイガスの排除ができなくなるといった問題があった。
【0009】
本願発明は、この問題を解消すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、単気筒内燃機関又は複数のピストンが同期して昇降する多気筒内燃機関に係り、この内燃機関は、
「クランク室に吹き抜けたブローバイガスを吸気系のうちスロットルバルブよりも下流側に戻すPCV通路と、吸気系のうちスロットルバルブよりも上流側の部位とクランク室とに連通して新気のみを流す換気通路とを備えており、
前記PCV通路には、負圧により開くPCVバルブを設けている一方、
前記換気通路には、新気を前記クランク室の側のみに流す一方弁と、前記吸気系のうちスロットルバルブよりも下流側の部位から分岐した入力通路の負圧によって作動する弁体を備えた制御バルブとが、前記一方弁が上流側に位置して前記制御バルブが下流側に位置するように配置されていて、前記入力通路は前記弁体によって常に閉じられていて前記入力通路と前記換気通路との間での吸気及びブローバイガスの流れは遮断されており、
前記入力通路が前記弁体によって閉じた状態に保持されていることにより、前記入力通路の負圧に比例して前記弁体が動いて前記換気通路の開き量が増大するように設定されている」
という構成になっている。
【0011】
本願発明において、換気通路として吸気系とクランク室とを管路で接続してもよいし、吸気系と動弁室とは外部換気通路で接続する一方、動弁室とクランク室とはシリダヘッド及びシリンダブロックに空けた内部換気通路によって連通させ、外部換気通路に制御バルブを介挿するといったことも可能である。
【発明の効果】
【0012】
本願発明では、吸気系のうち吸気マニホールドのようなスロットルバルブよりも下流側の部位が負圧状態になるか又は負圧が真空側に高くなると、制御バルブが開いたり開度が大きくなったりして、クランク室に新気を導入したり、導入量を増大したりできる。
【0013】
従って、ピストンが上昇することによってクランク室が負圧形傾向になっても、新気の導入によって負圧化を阻止又は負圧の程度を抑制できる。これにより、吸気マニホールドがクランク室よりも相対的に減圧されている状態を維持して、PCVバルブを開き作動させることができる。その結果、単気筒内燃機関又はピストン同期型の多気筒内燃機関においても、ブローバイガスの還流を確実化できる。
【0014】
そして、制御バルブは吸気系の負圧によって作動するため、構造は簡単で回路は不要であり、従って、電磁弁に比べてコストを大幅に低減できると共に、ケーブルの断線や回路の破損による作動不能といった事態を皆無にして信頼性も向上できる。また、電力は使用しないためバッテリの負担増大がない利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の全体的な模式図である。
図2】制御バルブの構造を示す図で、(A)は図1の方向から見た断面図、(B)は(A)のB-B視断面図、(C)は全開状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本願発明を自動車用の4サイクル2気筒内燃機関に具体化した実施形態を、図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、前後方向はクランク軸線方向であり、左右方向はクランク軸線及びシリンダボア軸線と直交した方向としている。前と後ろについては、タイミングチェーンが配置される側を前、ミッションケースが配置される側を後ろとしている。
【0017】
(1).概要
内燃機関の基本構造は従来と同様であり、機関本体として、シリンダブロック1とその上面に固定されたシリンダヘッド2、シリンダヘッド2の上面に固定されたヘッドカバー3、シリンダブロック1の下面に固定されたオイルパン4を備えている。シリンダブロック1及びヘッドカバー3の前面は図示しないフロントカバーで覆われており、フロントカバーとシリンダブロック1及びヘッドカバー3とで囲われた空間にタイミングチェーンが配置されている。
【0018】
シリンダブロック1には、クランク軸5がクランクキャップを介して回転自在に保持されており、シリンダボア6にスライド自在に嵌挿されたピストン7とクランク軸5のクランクピン8とが、コンロッド9によって相対動自在に連結されている。
【0019】
シリンダヘッド2には、始端を吸気側面2aに開口させて終端をシリンダボア6に開口させた吸気ポート10と、始端をシリンダボア6に開口させて終端を排気側面2bに開口させた排気ポート11とが形成されている。吸気ポート10は吸気バルブ12が開閉され、排気ポート11は排気バルブ13で開閉される。
【0020】
シリンダヘッド2の吸気側面2aには吸気マニホールド14が固定されて、シリンダヘッド2の排気側面2bには排気マニホールド又は排気ターボ過給機(いずれも図示せず)が固定されている。吸気マニホールド14は、サージタンク15とこれから分岐した2本の枝通路16とを備えており、サージタンク15にはスロットルバルブ17が固定されて、枝通路16は吸気ポート10に接続されている。
【0021】
内燃機関は吸気系の部材としてエアクリーナ18を備えており、エアクリーナ18のクリーン室18aにダクト状の吸気通路19が接続されて、吸気通路19がスロットルバルブ17に接続されている。スロットルバルブ17は、正確には、筒状のスロットルボデーと、バタフライ式の弁体と、弁体を駆動するモータ(アクチュエータ)とを備えており、弁体の開度がECU(エンジン・コントロール・ユニット)によって制御される。
【0022】
シリンダブロック1の一側部には、ブローバイガスが流入するPCVセパレータ室20を設けており、PCVセパレータ室20とサージタンク15とがPCV通路21によって接続されている。PCVセパレータ室20には負圧で開くPCVバルブ22を設けているが、PCVバルブ22は、PCV通路21のうちの任意の部位に設けることが可能である。なお、PCVセパレータ室20は、ヘッドカバー3に設ける場合もある。
【0023】
(2).換気構造
エアクリーナ18のクリーン室18aとヘッドカバー3とが外部換気通路24によって接続されている一方、シリンダヘッド2及びシリンダブロック1には、内部換気通路25が形成されており、吸気が動弁室26を経由してクランク室27に流入するようになっている。外部換気通路24に、サージタンク15の負圧によって開く制御バルブ28と、エアクリーナ18への逆流を阻止する一方弁29とを介在させている。一方弁29は制御バルブ28よりも上流側に配置している。なお、外部換気通路24の始端は吸気通路19に接続してもよい。
【0024】
制御バルブ28の構造は図2に示している。制御バルブ28は、棒状(プランジャ状)の弁体30が摺動自在で回転不能に嵌まった弁筒31と、弁筒31と連通して互いに逆方向に開口した入り口ポート32及び出口ポート33とを備えている。弁筒31の一端には入力ポート34が開口して、この入力ポート34にホース又はチューブより成る入力通路35の一端が接続されており、入力通路35の他端はサージタンク15に接続されている。
【0025】
弁筒31の他端は蓋36で塞がれており、弁体30は、ばね(圧縮コイルばね)37によって蓋36の方向に付勢されている。そして、弁体30はサージタンク15が負圧になるとばね37に抗して入力通路35の側に引かれる。そこで、弁体30に、その軸芯と直交した方向に開口した連通穴38を空けている。
【0026】
弁体30がばね37によって前進しきった状態(蓋36に当たった状態)では、連通穴38はその全体が入口ポート32及び出口ポート33から外れており、従って、動弁室26及びクランク室27への新気の供給は行われていない。他方、弁体30が負圧に引かれてばね37に抗して後退すると、後退の程度に比例して連通穴38と入口ポート32及び出口ポート33との連通面積は増大していき、弁体30が後退しきると、連通穴38と入口ポート32及び出口ポート33とはフルに連通する。いずれにしても、入力通路35は弁体30によって常に閉じられていて、吸気又はブローバイガスが入力通路35と換気通路24との間に流れることはない。
【0027】
さて、2つのピストン7は行程が360度ずれているが同期して昇降するため、クランク室27の内圧は、180度間隔で正圧と負圧とに交互に変動する傾向を呈する。他方、吸気マニホールド14では、吸気行程による負圧増大と圧縮行程による負圧減少とが360度間隔で発生する。従って、吸気マニホールド14とクランク室27とで圧力変動のサイクルが相違している。
【0028】
しかるに、本実施形態では、吸気マニホールド14が負圧状態になる(又は負圧が真空側に大きくなる)と、クランク室27への換気量が増大して、クランク室27が負圧傾向にある場合は、負圧を無くすか又はその程度を小さくして、相対的に吸気マニホールド14が減圧された状態を維持できる。従って、PCVバルブ22を開き作動させて、ブローバイガスを吸気マニホールド14に還流させることができる。
【0029】
そして、制御バルブ28は、弁体30をばね37で付勢した単純な構造であるため、電磁弁に比べてコストを大幅に抑制できると共に、作動を確実化できて信頼性にも優れている。制御バルブ28は、ヘッドカバー3に取り付けたりサージタンク15に取り付けたりすることも可能であり、搭載位置の融通性にも優れている。
【0030】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば制御バルブは棒状の弁体方式には限らず、ニードル弁方式ども採用できる。内部換気通路を設けずに、エアクリーナ又は吸気通路とクランク室とを換気通路で直接に接続することも可能である。また、内部換気通路を設ける場合、フロントカバーで囲われたチェーン配置空間を内部換気通路に兼用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本願発明は、単気筒内燃機関又は複数のピストンが同期して昇降する多気筒内燃機関に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 シリンダブロック
2 シリンダヘッド
3 ヘッドカバー
7 ピストン
10 吸気ポート
11 排気ポート
14 吸気マニホールド
15 サージタンク
16 枝通路
17 スロットルバルブ
18 エアクリーナ
19 吸気通路
20 オイルセパレータ室
21 PCV通路
22 PCVバルブ
24 外部換気通路
25 内部換気通路
28 制御バルブ
29 一方弁
30 弁体
31 弁筒
35 入力通路
37 ばね
図1
図2