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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240730BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021141416
(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公開番号】P2023034924
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2023-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】梅田 勝矢
(72)【発明者】
【氏名】大河内 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】氏家 智親
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-170933(JP,A)
【文献】特開2004-201394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統及び分散型電源と接続され、前記分散型電源から供給された電力を前記電力系統に応じた電力に変換し、変換後の電力を前記電力系統に供給する電力変換部と、
前記電力変換部に関連する所定の温度を測定する温度測定部と、
前記電力変換部の入力電圧に応じた出力制約を設定するための出力特性情報を記憶する記憶部と、
前記温度測定部で測定された温度、及び前記記憶部に記憶された前記出力特性情報を基に、前記電力変換部の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記出力特性情報は、前記電力変換部に関連する所定の温度に応じて設定される複数の特性を有し、
前記複数の特性は、前記分散型電源からの入力電圧の上昇に応じて前記電力系統に出力する最大出力電力を低下させるように設定されるとともに、前記電力変換部に関連する所定の温度が低いほど、前記電力変換部から前記電力系統に出力する電力が増加するように設定され、
前記制御部は、前記温度測定部で測定された温度を基に、前記出力特性情報を参照することにより、前記電力変換部から前記電力系統に出力する電力の最大出力電力を決定する電力変換装置。
【請求項2】
前記出力特性情報は、前記電力変換部に関連する所定の温度が所定値未満の時に用いられる第1特性と、前記電力変換部に関連する所定の温度が前記所定値以上の時に用いられる第2特性と、を有し、
前記制御部は、前記温度測定部で測定された温度に基づく前記所定の温度が、前記所定値未満である場合には、前記第1特性を参照し、前記入力電圧と前記第1特性とに基づいて前記最大出力電力を決定し、前記温度測定部で測定された温度に基づく前記所定の温度が、前記所定値以上である場合には、前記第2特性を参照し、前記入力電圧と前記第2特性とに基づいて前記最大出力電力を決定する請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電力変換部は、複数のスイッチング素子を有し、前記複数のスイッチング素子のスイッチングにより、電力の変換を行い、
前記出力特性情報の前記複数の特性は、前記電力変換部の前記複数のスイッチング素子のジャンクション温度に応じて設定され、
前記制御部は、前記温度測定部で測定された温度を基に、前記電力変換部の前記複数のスイッチング素子のジャンクション温度を計算し、計算によって求めた前記複数のスイッチング素子のジャンクション温度を基に、前記出力特性情報を参照することにより、前記電力変換部から前記電力系統に出力する電力の最大出力電力を決定する請求項1又は2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記温度測定部は、前記電力変換部の周囲の気温を前記電力変換部に関連する所定の温度として測定する請求項1~3のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記電力変換部は、複数のスイッチング素子を有し、前記複数のスイッチング素子のスイッチングにより、電力の変換を行うとともに、前記複数のスイッチング素子の少なくとも1つと熱的に結合することにより、前記複数のスイッチング素子の少なくとも1つの放熱を行うヒートシンクを有し、
前記温度測定部は、前記ヒートシンクの温度を前記電力変換部に関連する所定の温度として測定する請求項1~3のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記電力変換部と前記電力系統との間、又は前記電力変換部と前記分散型電源との間に設けられた気中遮断器をさらに備え、
前記温度測定部は、前記気中遮断器の内部の空気の温度を前記電力変換部に関連する所定の温度として測定する請求項1~3のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電機、風力発電機、バッテリなどの分散型電源の電力を電力系統に応じた電力に変換し、変換後の電力を電力系統に供給する電力変換装置がある。こうした電力変換装置において、入力電圧に応じた出力制約(ディレーティング特性)を設けることが行われている。電力変換装置は、分散型電源からの入力電圧の上昇に応じて電力系統に出力する電力を低下させるように、出力制約を設定する。これにより、電力変換装置の内部の機器を保護することができる。
【0003】
一方で、上記のように出力制約を設定すると、電力系統に出力する電力を必要以上に制限してしまい、電力変換装置から電力系統に出力する電力が必要以上に低下してしまう可能性が生じる。
【0004】
このため、電力変換装置では、出力制約を設定し、内部の機器を適切に保護できるようにしつつ、電力系統に出力する電力の必要以上の低下を抑制できるようにすることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020‐36533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、出力制約を設定し、内部の機器を適切に保護できるようにしつつ、電力系統に出力する電力の必要以上の低下を抑制できる電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態によれば、電力系統及び分散型電源と接続され、前記分散型電源から供給された電力を前記電力系統に応じた電力に変換し、変換後の電力を前記電力系統に供給する電力変換部と、前記電力変換部に関連する所定の温度を測定する温度測定部と、前記電力変換部の入力電圧に応じた出力制約を設定するための出力特性情報を記憶する記憶部と、前記温度測定部で測定された温度、及び前記記憶部に記憶された前記出力特性情報を基に、前記電力変換部の動作を制御する制御部と、を備え、前記出力特性情報は、前記電力変換部に関連する所定の温度に応じて設定される複数の特性を有し、前記複数の特性は、前記分散型電源からの入力電圧の上昇に応じて前記電力系統に出力する最大出力電力を低下させるように設定されるとともに、前記電力変換部に関連する所定の温度が低いほど、前記電力変換部から前記電力系統に出力する電力が増加するように設定され、前記制御部は、前記温度測定部で測定された温度を基に、前記出力特性情報を参照することにより、前記電力変換部から前記電力系統に出力する電力の最大出力電力を決定する電力変換装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
出力制約を設定し、内部の機器を適切に保護できるようにしつつ、電力系統に出力する電力の必要以上の低下を抑制できる電力変換装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る電力変換装置を模式的に表すブロック図である。
図2】実施形態に係る出力特性情報の一例を模式的に表すグラフである。
図3】実施形態に係る出力特性情報の変形例を模式的に表すグラフである。
図4】実施形態に係る電力変換装置の変形例を模式的に表すブロック図である。
図5】実施形態に係る電力変換装置の変形例を模式的に表すブロック図である。
【0010】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る電力変換装置を模式的に表すブロック図である。
図1に表したように、電力変換装置10は、電力変換部12と、温度測定部14と、記憶部16と、制御部18と、を備える。
【0012】
電力変換部12は、電力系統2及び分散型電源4と接続される。電力変換部12は、分散型電源4から供給された電力を電力系統2に応じた電力に変換し、変換後の電力を電力系統2に供給する。
【0013】
電力系統2の電力は、例えば、交流電力である。電力変換部12は、例えば、変圧器などを介して電力系統2と接続される。分散型電源4は、例えば、太陽光発電機である。分散型電源4の電力は、例えば、直流電力である。電力変換装置10は、分散型電源4の直流電力を電力系統2に対応した交流電力に変換し、変換後の交流電力を電力系統2に供給することにより、分散型電源4を電力系統2と連系させる。
【0014】
電力系統2の電力は、交流電力に限ることなく、直流電力などでもよい。分散型電源4は、太陽光発電機に限ることなく、例えば、風力発電機やガスタービン発電機などの他の発電機でもよい。また、分散型電源4は、例えば、蓄電池やコンデンサなどの電荷蓄積素子でもよい。分散型電源4の電力は、直流電力に限ることなく、交流電力などでもよい。
【0015】
例えば、分散型電源4が蓄電池などである場合には、電力変換部12は、分散型電源4の電力を変換して電力系統2に供給するとともに、電力系統2の電力を変換して分散型電源4に供給することにより、分散型電源4の充電を行えるようにしてもよい。
【0016】
電力変換部12は、例えば、複数のスイッチング素子12aを有し、複数のスイッチング素子12aのスイッチングにより、電力の変換を行う。電力変換部12は、例えば、三相2レベルインバータである。この場合、電力変換部12は、6つのスイッチング素子12aを有し、6つのスイッチング素子12aのスイッチングにより、電力の変換を行う。
【0017】
但し、電力変換部12の構成は、これに限定されるものではない。電力変換部12は、例えば、三相3レベルインバータなどでもよい。電力変換部12に設けられるスイッチング素子12aの数は、6つに限ることなく、電力変換部12の構成に応じた任意の数でよい。電力変換部12の構成は、少なくとも分散型電源4から供給された電力を電力系統2に応じた電力に変換し、変換後の電力を電力系統2に供給可能な任意の構成でよい。
【0018】
温度測定部14は、電力変換部12に関連する所定の温度を測定する。温度測定部14は、例えば、電力変換部12の周囲の気温(外気温)を測定する。温度測定部14は、温度の測定結果を制御部18に入力する。
【0019】
記憶部16は、出力特性情報20を記憶する。出力特性情報20は、電力変換部12の入力電圧に応じた出力制約(ディレーティング特性)を設定するための情報である。
【0020】
図2は、実施形態に係る出力特性情報の一例を模式的に表すグラフである。
図2に表したように、出力特性情報20は、分散型電源4から電力変換部12に入力される入力電圧と、電力変換部12から電力系統2に出力される最大出力電力と、の関係を表す。図2では、横軸を入力電圧、縦軸を最大出力電力として表している。
【0021】
図2に表したように、出力特性情報20は、電力変換部12に関連する所定の温度に応じて設定される複数の特性を有する。複数の特性は、分散型電源4からの入力電圧の上昇に応じて電力系統2に出力する最大出力電力を低下させるように設定されるとともに、電力変換部12に関連する所定の温度が低いほど、電力変換部12から電力系統2に出力する電力が増加するように設定される。
【0022】
出力特性情報20は、例えば、第1特性CT1、及び第2特性CT2の2つの特性を有する。第1特性CT1は、例えば、電力変換部12に関連する所定の温度が所定値未満の時に用いられる特性である。第2特性CT2は、例えば、電力変換部12に関連する所定の温度が所定値以上の時に用いられる特性である。所定値は、例えば、40℃である。但し、所定値は、これに限ることなく、任意の値でよい。
【0023】
第1特性CT1は、例えば、図2に表したように、入力電圧が第1閾値TH1未満の領域においては、最大出力電力を電力変換部12の最大定格出力MRVとし、入力電圧が第1閾値TH1以上の領域において、入力電圧の上昇に応じて最大出力電力を低下させるように設定される。第1特性CT1は、例えば、第1閾値TH1から入力電圧の上限値ULVに向かって、最大定格出力MRVから出力下限値LLVまで最大出力電力を連続的に減少させる。第1特性CT1は、例えば、入力電圧が第1閾値TH1以上の領域においては、第1閾値TH1から上限値ULVに向かって、最大定格出力MRVから出力下限値LLVまで最大出力電力を一次関数的に減少させる。
【0024】
第2特性CT2は、同様に、入力電圧が第2閾値TH2未満の領域においては、最大出力電力を最大定格出力MRVとし、入力電圧が第2閾値TH2以上の領域において、入力電圧の上昇に応じて最大出力電力を低下させるように設定される。第2特性CT2は、例えば、第2閾値TH2から上限値ULVに向かって、最大定格出力MRVから出力下限値LLVまで最大出力電力を連続的に減少させる。
【0025】
第1閾値TH1は、第2閾値TH2よりも高い値に設定される。これにより、電力変換部12に関連する所定の温度が所定値未満の時には、電力変換部12に関連する所定の温度が所定値以上の時と比べて、より高い入力電圧まで最大定格出力MRVを維持することができる。これにより、第1特性CT1では、第2特性CT2と比べて、電力変換部12から電力系統2に出力する電力を増加させることができる。すなわち、電力変換部12に関連する所定の温度が低いほど、電力変換部12から電力系統2に出力する電力を増加させることができる。
【0026】
制御部18は、温度測定部14で測定された温度、及び記憶部16に記憶された出力特性情報20を基に、電力変換部12の動作を制御する。制御部18は、温度測定部14で測定された温度を基に、出力特性情報20を参照することにより、電力変換部12から電力系統2に出力する電力の最大出力電力を決定する。
【0027】
制御部18は、例えば、温度測定部14で測定された温度を基に、次の(1)式により、電力変換部12の複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度を計算する。
Tj≧Vs×Is×K+Te・・・(1)
(1)式において、Tjは、スイッチング素子12aのジャンクション温度、Vsは、スイッチング素子12aの印加電圧、Isは、スイッチング素子12aの印加電流、Kは、予め決められた変換定数、Teは、スイッチング素子12aの周囲の温度である。
【0028】
電力変換部12は、例えば、図示を省略した電圧計及び電流計を有する。制御部18は、例えば、電力変換部12の電圧計で測定されたスイッチング素子12aの印加電圧Vs、電力変換部12の電流計で測定されたスイッチング素子12aの印加電流Is、及び温度測定部14で測定された外気温Teを基に、(1)式により、電力変換部12の複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度を計算する。スイッチング素子12aの印加電圧Vs、及びスイッチング素子12aの印加電流Isは、測定によって求めた値に限ることなく、例えば、分散型電源4からの入力電圧や電力系統2の電圧などを基に、内部で計算して求めた値を用いてもよい。
【0029】
出力特性情報20の複数の特性は、例えば、電力変換部12の複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度に応じて設定される。換言すれば、出力特性情報20の複数の特性は、例えば、電力変換部12の複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度を電力変換部12に関連する所定の温度として設定される。
【0030】
複数の特性は、例えば、複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度が、許容温度を超えないように設定される。制御部18は、(1)式によって求めた複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度Tjを基に、出力特性情報20を参照することにより、電力変換部12から電力系統2に出力する電力の最大出力電力を決定する。
【0031】
制御部18は、例えば、求めたジャンクション温度Tjが、所定値未満である場合には、第1特性CT1を参照し、入力電圧と第1特性CT1とに基づいて最大出力電力を決定する。そして、制御部18は、例えば、求めたジャンクション温度Tjが、所定値以上である場合には、第2特性CT2を参照し、入力電圧と第2特性CT2とに基づいて最大出力電力を決定する。
【0032】
分散型電源4が太陽光発電機である場合、制御部18は、例えば、直流電力を分散型電源4の最大電力点に追従させるMPPT(Maximum Power Point Tracking)方式の制御を行う。制御部18は、例えば、計測装置などによって検出された分散型電源4の電圧値及び電流値を基に、分散型電源4の最大電力点(最適動作点)を抽出し、抽出した最大電力点に応じた有効電力を電力系統2に供給するように、電力変換部12から電力系統2に供給する有効電力を決定する。
【0033】
制御部18は、電力変換部12から電力系統2に供給する有効電力を決定した後、決定した有効電力が出力特性情報20を基に決定した最大出力電力以上か否かを判定する。制御部18は、最大出力電力未満と判定した場合には、決定した有効電力を電力変換部12から電力系統2に供給するように、電力変換部12の動作を制御する。一方、制御部18は、最大出力電力以上と判定した場合には、決定した有効電力を最大出力電力に制限し、最大出力電力を電力変換部12から電力系統2に供給するように、電力変換部12の動作を制御する。これにより、電力変換部12を保護することができる。例えば、複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度が許容温度以上に上昇し、複数のスイッチング素子12aが故障してしまうことなどを抑制することができる。
【0034】
なお、電力変換部12から電力系統2に供給する有効電力の決定方法は、MPPT方式に限るものではない。電力変換部12から電力系統2に供給する有効電力は、例えば、上位のコントローラなどから入力される有効電力指令値に基づいて決定してもよい。制御部18は、入力された有効電力指令値に応じた有効電力を電力系統2に供給するように、電力変換部12の動作を制御してもよい。制御部18は、例えば、分散型電源4の発電量に応じた有効電力を電力系統2に供給するように、電力変換部12の動作を制御してもよい。
【0035】
上記の(1)式に表したように、複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度は、スイッチング素子12aの周囲の温度に依存する。従って、複数のスイッチング素子12aがジャンクション温度の許容温度を超えないように、適切に出力制約を設定するためには、スイッチング素子12aの周囲の温度を高い状態に設定して出力制約の特性を設定する必要がある。一方で、スイッチング素子12aの周囲の温度を高い状態に設定して出力制約の特性を設定した場合には、周囲の温度が低く、複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度に余裕がある場合にも、電力変換部12から電力系統2に出力する電力が制限されてしまい、電力変換部12から電力系統2に出力する電力が必要以上に低下してしまう可能性が生じてしまう。
【0036】
これに対し、本実施形態に係る電力変換装置10では、出力特性情報20が、電力変換部12に関連する所定の温度に応じて設定される複数の特性を有し、制御部18が、温度測定部14で測定された温度、及び記憶部16に記憶された出力特性情報20を基に、電力変換部12の動作を制御する。これにより、本実施形態に係る電力変換装置10では、例えば、周囲の温度を高い状態にして設定した1つの特性のみで出力制約を行う場合と比べて、電力系統2に出力する電力の必要以上の低下を抑制することができる。
【0037】
本実施形態に係る電力変換装置10では、出力特性情報20が、電力変換部12に関連する所定の温度が所定値未満の時に用いられる第1特性CT1を有する。これにより、電力系統2に出力する電力の必要以上の低下を抑制することができる。そして、本実施形態に係る電力変換装置10では、電力変換部12に関連する所定の温度が所定値以上の時に用いられる第2特性CT2をさらに有する。これにより、内部の機器を適切に保護することができる。例えば、複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度が許容温度以上に上昇し、複数のスイッチング素子12aが故障してしまうことなどを抑制することができる。
【0038】
従って、本実施形態に係る電力変換装置10では、出力制約を設定し、内部の機器を適切に保護できるようにしつつ、電力系統2に出力する電力の必要以上の低下を抑制することができる。
【0039】
上記実施形態では、出力特性情報20が、第1特性CT1及び第2特性CT2の2つの特性を有している。出力特性情報20に設けられる特性は、2つに限ることなく、3つ以上でもよい。例えば、電力変換部12に関連する所定の温度が25℃未満の時に用いられる第1特性、電力変換部12に関連する所定の温度が25℃以上40℃未満の時に用いられる第2特性、及び電力変換部12に関連する所定の温度が40℃以上の時に用いられる第3特性の3つの特性を出力特性情報20に設ける。このように、電力変換部12に関連する所定の温度に応じてより細かく特性を設定することにより、内部の機器を適切に保護できるようにしつつ、電力系統2に出力する電力の必要以上の低下をより確実に抑制することができる。
【0040】
図3は、実施形態に係る出力特性情報の変形例を模式的に表すグラフである。
図3に表したように、この例では、第1特性CT1及び第2特性CT2に対し、共通の閾値THが設定され、第1特性CT1及び第2特性CT2のそれぞれが、入力電圧が閾値TH未満の領域においては、最大出力電力を電力変換部12の最大定格出力MRVとし、入力電圧が閾値TH以上の領域において、入力電圧の上昇に応じて最大出力電力を低下させるように設定されている。
【0041】
また、この例において、第2特性CT2は、図2の例と同様に、閾値THから上限値ULVに向かって、最大定格出力MRVから出力下限値LLVまで最大出力電力を一次関数的に減少させるように設定されている。
【0042】
一方、第1特性CT1は、傾きの異なる2つの直線によって設定されている。第1特性CT1は、閾値THから所定の電圧までを第2特性CT2の傾きよりも小さい傾きとし、所定の電圧から上限値ULVまでを第2特性CT2の傾きよりも大きい傾きとすることにより、最大定格出力MRVから出力下限値LLVまで最大出力電力を2つの直線で減少させるように設定されている。
【0043】
このように、第1特性CT1を設定した場合にも、上記実施形態と同様に、第1特性CT1と第2特性CT2との差の三角形状の領域の分だけ、第1特性CT1において電力変換部12から電力系統2に出力される電力を、第2特性CT2において電力変換部12から電力系統2に出力される電力よりも増加させることができる。
【0044】
図2に表した例では、第1特性CT1及び第2特性CT2に対して異なる閾値を設定することにより、電力変換部12に関連する所定の温度が低いほど、電力変換部12から電力系統2に出力する電力が増加するようにしている。出力特性情報20の複数の特性は、これに限ることなく、例えば、図3に表した例のように、閾値を共通としつつ、複数の特性の直線の傾きを変化させることによって、電力変換部12に関連する所定の温度が低いほど、電力変換部12から電力系統2に出力する電力が増加するようにしてもよい。
【0045】
出力特性情報20の複数の特性は、最大出力電力を直線状(一次関数状)に変化させるものに限ることなく、最大出力電力を曲線状(例えば二次関数状)に変化させるものなどでもよい。また、出力特性情報20の複数の特性は、最大出力電力を連続的に変化させるものに限ることなく、最大出力電力を段階的(階段状)に変化させるものなどでもよい。出力特性情報20の複数の特性は、電力変換部12に関連する所定の温度が低いほど、電力変換部12から電力系統2に出力する電力が増加するように設定された任意の特性でよい。
【0046】
図4は、実施形態に係る電力変換装置の変形例を模式的に表すブロック図である。
図4に表したように、電力変換装置10aでは、電力変換部12が、ヒートシンク12bを有する。なお、上記実施形態と機能・構成上実質的に同じものには、同符号を付し、詳細な説明は、省略する。
【0047】
ヒートシンク12bは、複数のスイッチング素子12aの少なくとも1つと熱的に結合することにより、複数のスイッチング素子12aの少なくとも1つの放熱を行う。ヒートシンク12bは、複数のスイッチング素子12aのそれぞれと熱的に結合し、複数のスイッチング素子12aのそれぞれの放熱を行ってもよいし、複数のスイッチング素子12aのうちの所定数のスイッチング素子12aと熱的に結合し、所定数のスイッチング素子12aの放熱を行ってもよい。
【0048】
なお、ヒートシンク12bが、複数のスイッチング素子12aのうちの所定数のスイッチング素子12aの放熱を行う場合には、電力変換部12に複数のヒートシンク12bを設け、複数のヒートシンク12bによって、複数のスイッチング素子12aのそれぞれの放熱を行うことが好ましい。
【0049】
電力変換装置10aでは、電力変換部12が、ヒートシンク12bを有するとともに、温度測定部14が、電力変換部12に設けられている。この例において、温度測定部14は、ヒートシンク12bの温度を電力変換部12に関連する所定の温度として測定する。ヒートシンク12bは、例えば、表面積を増加させるための複数のフィンを有し、温度測定部14は、例えば、ヒートシンク12bの複数のフィンのいずれかの温度を測定する。
【0050】
制御部18は、温度測定部14で測定されたヒートシンク12bの温度をスイッチング素子12aの周囲の温度Teとし、上記の(1)式により、電力変換部12の複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度を計算する。なお、電力変換部12が複数のヒートシンク12bを有する場合には、例えば、複数の温度測定部14を設け、複数の温度測定部14で複数のヒートシンク12bのそれぞれの温度を測定し、複数の温度の平均値をスイッチング素子12aの周囲の温度Teとしてジャンクション温度を計算してもよい。
【0051】
このように、温度測定部14の測定する温度は、電力変換部12の周囲の気温に限ることなく、ヒートシンク12bの温度としてもよい。この場合にも、温度測定部14で測定されたヒートシンク12bの温度をスイッチング素子12aの周囲の温度Teとし、電力変換部12の複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度を計算することにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0052】
図5は、実施形態に係る電力変換装置の変形例を模式的に表すブロック図である。
図5に表したように、電力変換装置10bは、気中遮断器22をさらに備える。気中遮断器22は、電力変換部12と電力系統2との間に設けられる。気中遮断器22は、電力変換部12を電力系統2に接続する投入状態と、電力変換部12を電力系統2から切り離した開放状態と、を切り替える。電力変換装置10bでは、電力変換部12が、気中遮断器22を介して電力系統2と接続される。気中遮断器22は、例えば、低圧気中遮断器である。気中遮断器22は、例えば、ACB(Air Circuit Breaker)などと呼ばれる場合もある。
【0053】
電力変換装置10bでは、温度測定部14が、気中遮断器22に設けられている。温度測定部14は、気中遮断器22の内部に設けられ、気中遮断器22の内部に取り込まれる空気の温度を電力変換部12に関連する所定の温度として測定する。温度測定部14は、例えば、気中遮断器22の消弧室内の空気の温度を測定する。
【0054】
制御部18は、温度測定部14で測定された気中遮断器22の内部の空気の温度をスイッチング素子12aの周囲の温度Teとし、上記の(1)式により、電力変換部12の複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度を計算する。
【0055】
このように、温度測定部14の測定する温度は、気中遮断器22の内部の空気の温度としてもよい。この場合にも、温度測定部14で測定された気中遮断器22の内部の空気の温度をスイッチング素子12aの周囲の温度Teとし、電力変換部12の複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度を計算することにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0056】
電力変換装置10bでは、電力変換部12と電力系統2との間に気中遮断器22を設けている。気中遮断器22は、これに限ることなく、電力変換部12と分散型電源4との間に設けてもよい。気中遮断器22は、電力変換部12を分散型電源4に接続する投入状態と、電力変換部12を分散型電源4から切り離した開放状態と、を切り替えるものでもよい。温度測定部14は、電力変換部12と分散型電源4との間に設けられた気中遮断器22の内部の空気の温度を測定してもよい。
【0057】
なお、温度測定部14の測定する温度は、上記に限ることなく、電力変換部12に関連する任意の温度でよい。温度測定部14の測定する温度は、例えば、スイッチング素子12a自体の温度などでもよい。
【0058】
また、上記各実施形態では、出力特性情報20の複数の特性を、電力変換部12の複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度に応じて設定するとともに、制御部18が、温度測定部14で測定された温度を基に、電力変換部12の複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度を計算し、求めたジャンクション温度を基に、出力特性情報20を参照することにより、電力変換部12から電力系統2に出力する電力の最大出力電力を決定している。出力特性情報20の複数の特性は、複数のスイッチング素子12aのジャンクション温度に限ることなく、温度測定部14で測定される温度に応じて設定してもよい。制御部18は、温度測定部14で測定された温度をそのまま用い、温度測定部14で測定された温度を基に出力特性情報20を参照することにより、電力変換部12から電力系統2に出力する電力の最大出力電力を決定してもよい。
【0059】
出力特性情報20の複数の特性は、電力変換部12に関連する所定の温度に応じて設定すればよい。制御部18は、温度測定部14で測定された温度をそのまま用いてもよいし、温度測定部14で測定された温度をスイッチング素子12aのジャンクション温度などの別の温度に変換して用いてもよい。制御部18は、温度測定部14で測定された温度に基づく所定の温度を基に出力特性情報20を参照することにより、電力変換部12から電力系統2に出力する電力の最大出力電力を決定すればよい。
【0060】
制御部18は、例えば、温度測定部14で測定された温度に基づく所定の温度が、所定値未満である場合には、第1特性CT1を参照し、入力電圧と第1特性CT1とに基づいて最大出力電力を決定し、温度測定部14で測定された温度に基づく所定の温度が、所定値以上である場合には、第2特性CT2を参照し、入力電圧と第2特性CT2とに基づいて最大出力電力を決定するものでよい。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
2…電力系統、 4…分散型電源、 10、10a、10b…電力変換装置、 12…電力変換部、 12a…スイッチング素子、 12b…ヒートシンク、 14…温度測定部、 16…記憶部、 18…制御部、 20…出力特性情報、 22…気中遮断器
図1
図2
図3
図4
図5