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  • 特許-フェライト焼結磁石 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】フェライト焼結磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/11 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
H01F1/11
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019020763
(22)【出願日】2019-02-07
(65)【公開番号】P2020129579
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-09-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】池田 真規
(72)【発明者】
【氏名】森田 啓之
(72)【発明者】
【氏名】村川 喜堂
(72)【発明者】
【氏名】室屋 尚吾
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】渡辺 努
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-130493(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021149(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F1/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶構造を有するフェライト粒子を含むフェライト焼結磁石であって、
前記フェライト焼結磁石は金属元素を下記式(1)で表される原子比で含み、
Ca1-w-xSrFeCo・・・(1)
式(1)中、Rは希土類元素及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、Rは少なくともLaを含み、
式(1)中、w、x、z及びmは、下記式(2)~(5)を満たし、
0.360≦w≦0.420・・・(2)
0.110≦x≦0.173・・・(3)
8.51≦z≦9.71・・・(4)
0.208≦m≦0.249・・(5)
磁化容易軸に平行な断面において、全フェライト粒子の数をN、積層欠陥を有するフェライト粒子の数をnとしたときに、0≦n/N≦0.20を満たす、フェライト焼結磁石。
(ただし、Sを100ppm以上含むフェライト焼結磁石を除く。)
【請求項2】
さらに、AlをAl換算で0.03~0.3質量%含む、請求項1に記載のフェライト焼結磁石。
【請求項3】
さらに、BをHBO換算で0.037~0.181質量%含む、請求項1又は2に記載のフェライト焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェライト焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物からなる永久磁石の材料としては、六方晶系のM型(マグネトプランバイト型)Srフェライト又はBaフェライトが知られている。これらのフェライトを含むフェライト磁石は、フェライト焼結磁石やボンド磁石の形で永久磁石として供されている。近年、電子部品の小型化、高性能化に伴って、フェライト磁石に対しても、小型でありながら高い磁気特性を有することが要求されつつある。
【0003】
永久磁石の磁気特性の指標としては、一般に、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)が用いられ、これらが高いほど高い磁気特性を有していると評価される。従来、永久磁石のBr及びHcJを向上させる観点から、フェライト磁石に所定の元素を含有させるなど、組成を変えて検討が行われてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、種々の元素を添加した六方晶系のフェライト焼結磁石が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2011/004791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、添加する元素の組み合わせを種々に変える試みがなされているが、どのような添加元素の組み合わせが高い保磁力を与えるのかは、未だ明らかではない。特に、Laのような希土類元素及びCoの組み合わせなどのように、価数及びイオン半径が互いに大きく異なる元素の組み合わせが添加された場合に、保磁力が十分でない場合がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、保磁力の優れたフェライト磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、六方晶構造を有するフェライト粒子を含むフェライト焼結磁石である。このフェライト焼結磁石は金属元素を下記式(1)で表される原子比で含む。
【0009】
Ca1-w-xSrFeCo・・・(1)
式(1)中、Rは希土類元素及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、Rは少なくともLaを含み、
式(1)中、w、x、z及びmは、下記式(2)~(5)を満たす。
【0010】
0.360≦w≦0.420・・・(2)
0.110≦x≦0.173・・・(3)
8.51≦z≦9.71・・・(4)
0.208≦m≦0.269・・・(5)
さらに、磁化容易軸に平行な断面において、全フェライト粒子の数をN、積層欠陥を有するフェライト粒子の数をnとしたときに、0≦n/N≦0.20を満たす。
【0011】
この磁石は、保磁力に特に優れる。
【0012】
上記フェライト焼結磁石は、さらに、AlをAl換算で0.03~0.3質量%含むことができる。フェライト焼結磁石がAlを上記範囲内で含むことにより、HcJをさらに向上させることができる。
【0013】
上記フェライト焼結磁石は、BをHBO換算で0.037~0.181質量%含むことができる。
【0014】
これにより、焼結体の粒成長を抑制し、一次粒子径を小さくすることによりHcjを一層向上させるという効果がある。また、Bを含有する粒界相が均質に形成されることにより、フェライト粒子間の磁気的相互作用が抑制され、Hcjの低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、保磁力に優れたフェライト焼結磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本発明の実施形態にかかるフェライト磁石の磁化容易軸に平行な断面の模式図であり、磁化容易軸は図の垂直方向Aである。
図2図2は実施例2のフェライト焼結磁石の磁化容易軸方向に平行な断面のTEM写真であり、磁化容易軸は図の方向Aである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
(フェライト焼結磁石)
本実施形態に係るフェライト焼結磁石は、六方晶構造を有するフェライト粒子(結晶粒子)を含むものである。上記フェライトとしては、マグネトプランバイト型フェライト(M型フェライト)であることが好ましい。
【0019】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石は、金属元素を下記式(1)で表される原子比で含む酸化物である。
【0020】
Ca1-w-xSrFeCo・・・(1)
式(1)中、Rは希土類元素(Yを含む)及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、Rは少なくともLaを含む。
【0021】
さらに、式(1)中、w、x、z及びmは、下記式(2)~(5)を満たす。w、x、z及びmが下記式(2)~(5)を満たすことにより、フェライト焼結磁石が安定且つ優れた残留磁束密度Br及び保磁力HcJを有することができる。
【0022】
0.360≦w≦0.420・・・(2)
0.110≦x≦0.173・・・(3)
8.51≦z≦9.71・・・(4)
0.208≦m≦0.269・・・(5)
【0023】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石中の金属元素の原子比におけるCaの係数(1-w-x)は、0.435を超え、0.500未満であることが好ましい。Caの係数(1-w-x)が0.435を超えると、フェライトをM型フェライトとしやすくなる。また、α-Fe等の非磁性相の割合を低減するほか、Rが過剰となってオルソフェライト等の非磁性の異相が生成することを抑制し、磁気特性(特に、Br又はHcJ)の低下を抑制できる傾向がある。同様の観点から、Caの係数(1-w-x)は、0.436以上であることがより好ましく、0.445を超えることがさらに好ましい。一方、Caの係数(1-w-x)が0.500未満であると、フェライトをM型フェライトとしやすくなるほか、CaFeO3-x等の非磁性相を低減し、優れた磁気特性が得られやすくなる。同様の観点から、Caの係数(1-w-x)は、0.491以下であることがより好ましい。
【0024】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石中の金属元素の原子比におけるRは希土類元素及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であってLaを少なくとも含む。希土類元素としては、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu及びYが挙げられる。RはLaであることが好ましい。RがLaであると、異方性磁界を向上させることができる。
【0025】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石中の金属元素の原子比におけるRの係数(w)は、0.360以上、0.420以下である。Rの係数(w)が上記範囲内にあることにより、良好なBr、HcJ及び角形比Hk/HcJを得ることができる。Rの係数(w)が0.360以上になると、フェライト焼結磁石におけるCoの固溶量が十分となり、Br及びHcJの低下を抑制することができる。同様の観点から、Rの係数(w)は、0.370を超えることが好ましく、0.380以上であることがより好ましい。一方、Rの係数(w)が0.420以下であると、オルソフェライト等の非磁性の異相が生じることを抑制し、フェライト焼結磁石をHcJが高い実用的なものとすることができる。同様の観点から、Rの係数(w)は、0.410未満であることが好ましい。
【0026】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石中の金属元素の原子比におけるSrの係数(x)は、0.110以上、0.173以下である。Srの係数(x)が上記範囲内にあることにより、良好なBr、HcJ及びHk/HcJを得ることができる。Srの係数(x)が0.110以上になると、Ca及び/又はLaの比率が小さくなり、HcJが低下することを抑制することができる。一方、Srの係数(x)が0.173以下であると、十分なBr及びHcJが得られやすくなる。同様の観点から、Srの係数(x)は、0.170未満であることが好ましく、0.165未満であることがより好ましい。
【0027】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石中の金属元素の原子比におけるFeの係数(z)は、8.51以上、9.71以下である。Feの係数(z)が上記範囲内にあることにより、良好なBr、HcJ及びHk/HcJを得ることができる。Feの係数(z)は、より良好なHcJを得る観点から、8.70を超え、9.40未満であることが好ましい。また、Feの係数(z)は、より良好なHk/HcJを得る観点から、8.90を超え、9.20未満であることが好ましい。
【0028】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石中の金属元素の原子比におけるCoの係数(m)は、0.208以上、0.269以下である。Coの係数(m)が0.208以上となると、より優れたHcJを得ることができる。同様の観点から、Coの係数(m)は、0.210を超えることが好ましく、0.220を超えることがより好ましく、0.250以上であることがさらに好ましい。一方、Coの係数(m)が0.269以下であると、より優れたBrを得ることができる。同様の観点から、Coの係数(m)は、0.250以下であることが好ましい。また、フェライト焼結磁石がCoを含むことにより、異方性磁界を向上させることができる。
【0029】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石はAl(アルミニウム)をさらに含むことができる。フェライト焼結磁石中のAlの含有量はAl換算で0.03質量%以上、0.3質量%以下であることが好ましい。フェライト焼結磁石がAlをAl換算で0.03質量%以上含むことにより、仮焼時の粒成長を抑制し、得られるフェライト焼結磁石の保磁力がさらに向上する。一方、フェライト焼結磁石中のAlの含有量をAl換算で0.3質量%以下とすることにより、優れたBr及びHcJを得ることができる。
【0030】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石はB(ホウ素)を含むことができる。フェライト焼結磁石中のBの好適な含有量はHBO換算で0.037質量%以上、0.181質量%以下である。フェライト焼結磁石がBをHBO換算で0.037質量%以上含むことにより、HcJの仮焼温度への依存を低減することができる。同様の観点から、Bの含有量はHBO換算で0.050質量%以上であることが好ましく、0.070質量%以上であることがより好ましい。一方、フェライト焼結磁石中のBの含有量をHBO換算で0.181質量%以下とすることにより、高いHcJを維持することができる。同様の観点から、Bの含有量はHBO換算で0.165質量%以下であることが好ましく、0.150質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石はSi(ケイ素)をさらに含むことができる。フェライト焼結磁石中のSiの含有量はSiO換算で0.1~3質量%であることができる。フェライト焼結磁石がSiを上記範囲内で含むことにより、高いHcJが得られやすくなる。同様の観点から、Siの含有量はSiO換算で0.5~1.0質量%であってもよい。
【0032】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石はBa(バリウム)をさらに含んでいてもよい。フェライト焼結磁石がBaを含む場合、フェライト焼結磁石中のBaの含有量はBaO換算で0.001~0.068質量%であることができる。フェライト焼結磁石がBaを上記範囲で含んでいても、フェライト焼結磁石のHcJを高い値で維持することができる。しかし、BaをBaO換算で0.068質量%を超えて含むと焼結温度依存性が低下し保磁力も低下する傾向がある。
【0033】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石は、さらに、Cr、Ga、Mg、Cu、Mn、Ni、Zn、In、Li、Ti、Zr、Ge、Sn、V、Nb、Ta、Sb、As、W及びMo等を含んでいてもよい。各元素の含有量は酸化物換算で3質量%以下が好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。また、磁気特性低下を避ける観点から、これらの元素の合計含有量は2質量%以下にするのがよい。
【0034】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石は、アルカリ金属元素(Na、K、Rb等)を含まないことが好ましい。アルカリ金属元素は、フェライト焼結磁石の飽和磁化を低下させやすい傾向にある。ただし、アルカリ金属元素は、例えば、フェライト焼結磁石を得るための原料中に含まれている場合もあり、そのように不可避的に含まれる程度であれば、フェライト焼結磁石中に含まれていてもよい。磁気特定に大きく影響しないアルカリ金属元素の含有量は、3質量%以下である。
【0035】
フェライト焼結磁石の組成は、蛍光X線定量分析によって測定することができる。また、主相の存在は、X線回折又は電子線回折によって確認することができる。
【0036】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石におけるフェライト粒子の平均結晶粒径は、好ましくは1.5μm以下であり、より好ましくは1.0μm以下であり、さらに好ましくは0.5~1.0μmである。このような平均結晶粒径を有することで、高いHcJが得られやすくなる。フェライト焼結磁石の結晶粒径は、SEM又はTEMによって測定することができる。
【0037】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石は、磁化容易軸に平行な断面において、全フェライト粒子の数をN、積層欠陥を有するフェライト粒子の数をnとしたときに、0≦n/N≦0.20を満たす。このような磁石は保磁力に特に優れる。以下ではn/Nを積層欠陥割合と呼ぶことがある。n/Nは0.15以下であることが好ましく、0.07以下であることがより好ましい。
【0038】
n及びNは、例えば、フェライト粒子が50~100個程度含まれるTEM写真における値とすることが出来る。図1は、磁化容易軸Aに平行な断面のTEM写真の模式図である。フェライト粒子Gのc軸は磁化容易軸Aの方向と実質的に平行である。
【0039】
フェライト粒子G’のようにその一部のみが写真に現れたフェライト粒子はNに数えず、フェライト粒子Gのように全部が写真に現れたフェライト粒子の個数を数えることが好適である。すなわち、Nは、磁化容易軸Aに平行な断面TEM写真内におけるすべてが現れているフェライト粒子Gの数とすることができる。一方、nは、上記のフェライト粒子Gのうち、粒子内に直線状の明領域又は暗領域を有する粒子の数である。以下では直線状の明領域又は暗領域を線状領域SFと呼ぶ。線状領域SFの長さは0.1μm以上であることができ、通常、フェライト粒子の大きさを上限とし、フェライト粒子の外には伸びない。通常、線状領域SFは、磁化容易軸Aと垂直又は磁化容易軸Aに対して45°以上の角度をなして傾斜する。一つのフェライト粒子Gの中に複数の線状領域SFを含むこともある。線状領域SFは、結晶における積層欠陥に対応する。
【0040】
本実施形態にかかるフェライト焼結磁石が上述のn/Nの条件を満たすことにより、保磁力が向上する理由は明らかではないが、発明者は以下のように考えている。
【0041】
マグネトプランバイト構造のような六方晶フェライトは、酸素イオンがABAB・・・・のように積み重なって六方最密充填されている。積層欠陥とは、このABAB・・・のような積み重なりの順序が乱れた面欠陥のことである。積層欠陥が存在すると、一つのフェライト粒子が磁気的に分断されるため、反磁場係数が増加し、保磁力が低下すると考えられる。積層欠陥割合を0~0.19にすることで、高い特性を得ることができると考えられる。
【0042】
(フェライト焼結磁石の製造方法)
以下に、本実施形態に係るフェライト焼結磁石の製造方法の一例を示す。上記製造方法は、原料粉末調製工程、仮焼工程、粉砕工程、成形工程及び焼成工程を備える。また、上記製造方法は、上記粉砕工程と上記成形工程の間に、微粉砕スラリーの乾燥工程、及び混練工程を備えていてもよく、上記成形工程と上記焼成工程との間に、脱脂工程を備えていてもよい。各工程について、以下に説明する。
【0043】
<原料粉末調製工程>
原料粉末調製工程では、フェライト焼結磁石の原料を混合して、原料混合物を得て、必要に応じて、これを粉砕することにより原料粉末を得る。まず、フェライト焼結磁石の原料としては、これを構成する元素のうちの1種又は2種以上を含む化合物(原料化合物)が挙げられる。原料化合物は、例えば、粉末状のものが好適である。原料化合物としては、各元素の酸化物、又は焼成により酸化物となる化合物(炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等)が挙げられる。例えば、SrCO、La、Fe、BaCO、CaCO、Co、HBO、Al、及びSiO等が例示できる。
【0044】
Fe化合物の平均一次粒子径は0.5μm以下が好ましく、0.4μm以下がより好ましく、0.3μm以下が更に好ましい。
【0045】
Sr化合物の平均一次粒子径は2.0μm以下が好ましく、1.0μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらに好ましい。
【0046】
Ca化合物の平均一次粒子径は1.0μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましい。
【0047】
他の原料粒子の平均一次粒径は2μm以下が好ましい。
【0048】
平均一次粒子径は、レーザ回折式粒度分布装置による体積基準の粒度分布のD50とすることが出来る。
【0049】
微細かつ粒径の揃った原料粒子を使用することで、仮焼体の一次粒子径を均一にすることができる。この結果、積層欠陥の割合を小さくすることが出来る。
【0050】
各原料は、例えば、所望とするフェライト焼結磁石の組成が得られるように秤量され、混合された後、湿式アトライタ、ボールミル等を用い、0.1~20時間程度、混合、粉砕される。原料化合物の粉末の平均粒径は、例えば、均一な配合を可能とする観点から、0.1~5.0μm程度とすることが好ましい。原料粉末は少なくともCa、R、Sr、Fe、Co及びBを含む。特に原料粉末がBを含むことにより、フェライト焼結磁石の磁気特性の仮焼温度への依存性を一層低減することができる。また、フェライト焼結磁石がAlを含む場合には、原料粉末はAlをさらに含む。これにより、仮焼における粒成長を抑制し、仮焼体の一次粒子径を小さくすることができる。
【0051】
原料の一部は後述する粉砕工程で添加することもできる。しかし、本実施形態では、粉砕工程において原料の一部を添加しないことが好ましい。すなわち、得られるフェライト焼結磁石を構成するCa、R、Sr、Fe、Co及びBの全て(不可避的に混入する元素を除く)が、原料粉末調製工程における原料粉末から供給されることが好ましい。特に、フェライト焼結磁石を構成するBの全てが原料粉末調製工程における原料粉末から供給されることが好ましい。また、フェライト焼結磁石を構成するAlの全てが原料粉末調製工程における原料粉末から供給されることが好ましい。これにより、原料粉末がB又はAlを含むことによる上述の効果がさらに得られやすくなる。
【0052】
<仮焼工程>
仮焼工程では、原料粉末調製工程で得られた原料粉末を仮焼する。仮焼は、例えば、空気(大気)中等の酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。仮焼の温度は、1100~1400℃の温度範囲であることが好ましく、1100~1300℃であることがより好ましく、1150~1300℃であることがさらに好ましい。本実施形態に係るフェライト焼結磁石の製造方法では上記仮焼温度のいずれにおいても安定した磁気特性を得ることができる。仮焼の時間(仮焼の温度で保持する時間)は、1秒間~10時間であることができ、1秒間~5時間であることが好ましい。仮焼により得られる仮焼体は、上述したような主相(M相)を70%以上含む。仮焼体の一次粒子径は、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは2μm以下であり、さらに好ましくは1μm以下である。仮焼における粒成長を抑制し、仮焼体の一次粒子径を(例えば1μm以下に)小さくすることにより、得られるフェライト焼結磁石のHcJを一層向上させることができる。
【0053】
<粉砕工程>
粉砕工程では、仮焼工程で顆粒状又は塊状となった仮焼体を粉砕し、再び粉末状にする。これにより、後述する成形工程での成形が容易となる。この粉砕工程において、原料粉末調製工程で混合しなかった原料をさらに添加してもよい。ただし、仮焼温度依存性の効果、又は、仮焼における粒成長の抑制効果を得る観点からは、原料は原料粉末調製工程においてすべて混合されていることが好ましい。粉砕工程は、例えば、仮焼体を粗い粉末となるように粉砕(粗粉砕)した後、これをさらに微細に粉砕する(微粉砕)、2段階の工程からなるものであってもよい。
【0054】
粗粉砕は、例えば、振動ミル等を用いて、平均粒径が0.5~5.0μmとなるまで行われる。微粉砕では、粗粉砕で得られた粗粉砕材を、さらに湿式アトライタ、ボールミル又はジェットミル等によって粉砕する。微粉砕では、得られた微粉砕材の平均粒径が、好ましくは0.08~2.0μm、より好ましくは0.1~1.0μm、さらに好ましくは0.1~0.5μm程度となるように、微粉砕を行う。微粉砕材の比表面積(例えば、BET法により求められる。)は、4~12m/g程度であることが好ましい。好適な粉砕時間は、粉砕方法によって異なり、例えば湿式アトライタの場合、30分間~20時間程度であることが好ましく、ボールミルによる湿式粉砕では10~50時間程度であることが好ましい。
【0055】
微粉砕工程では、湿式法の場合、分散媒として、水のほか、トルエン及びキシレン等の非水系分散媒を用いることができる。非水系分散媒を用いる場合、後述の湿式成形時において高配向性が得られる傾向がある。一方、水系分散媒を用いる場合、生産性の観点から有利である。
【0056】
また、微粉砕工程では、焼成後に得られる焼結体の配向度を高めるため、例えば、分散剤として、一般式C(OH)n+2で示される多価アルコールを添加してもよい。ここで、多価アルコールとしては、一般式において、nが4~100であることが好ましく、4~30であることがより好ましく、4~20であることがさらに好ましく、4~12であることが特に好ましい。多価アルコールとしては、例えばソルビトールが挙げられる。また、2種類以上の多価アルコールを併用してもよい。さらに、多価アルコールに加えて、他の公知の分散剤を併用してもよい。
【0057】
多価アルコールを添加する場合、その添加量は、添加対象物(例えば、粗粉砕材)に対して、0.05~5.0質量%であることが好ましく、0.1~3.0質量%であることがより好ましく、0.2~2.0質量%であることがさらに好ましい。なお、微粉砕工程で添加した多価アルコールは、後述する焼成工程で熱分解除去される。
【0058】
<成形工程>
成形工程では、粉砕工程後に得られた粉砕材(好ましくは微粉砕材)を、磁場中で成形して、成形体を得る。成形は、乾式成形及び湿式成形のいずれの方法によっても行うことができる。磁気的配向度を高くする観点からは、湿式成形によって行うことが好ましい。
【0059】
湿式成形により成形する場合は、例えば、上述した微粉砕工程を湿式で行うことでスラリーを得た後、このスラリーを所定の濃度に濃縮して、湿式成形用スラリーを得て、これを用いて成形を行うことが好ましい。スラリーの濃縮は、遠心分離又はフィルタープレス等によって行うことができる。湿式成形用スラリーは、その全量中、微粉砕材が30~80質量%程度を占めることが好ましい。この場合、スラリーには、グルコン酸、グルコン酸塩及びソルビトール等の界面活性剤を添加してもよい。また、分散媒としては非水系分散媒を使用してもよい。非水系分散媒としては、トルエン及びキシレン等の有機分散媒を使用することができる。この場合には、オレイン酸等の界面活性剤を添加することが好ましい。なお、湿式成形用スラリーは、微粉砕後の乾燥状態の微粉砕材に、分散媒等を添加することによって調製してもよい。
【0060】
湿式成形では、次いで、この湿式成形用スラリーに対し、磁場中成形を行う。その場合、成形圧力は、9.8~49MPa(0.1~0.5ton/cm)程度であると好ましく、印加する磁場は398~1194kA/m(5~15kOe)程度とすることが好ましい。
【0061】
<焼成工程>
焼成工程では、成形工程で得られた成形体を焼成して焼結体とする。これにより、上述したようなフェライト磁石の焼結体、すなわちフェライト焼結磁石が得られる。焼成は、大気中等の酸化性雰囲気中で行うことができる。焼成温度は、1120~1270℃であることが好ましく、1150~1240℃であることがより好ましい。また、焼成時間(焼成温度での保持時間)は、0.5~3時間程度であることが好ましい。
【0062】
上述したような湿式成形で成形体を得た場合、この成形体を十分に乾燥させないまま、焼成工程で急激に加熱すると、分散媒等の揮発が激しく生じて成形体にクラックが発生する可能性がある。そこで、このような不都合を避ける観点から、上記の焼結温度まで到達させる前に、例えば室温から100℃程度まで、1℃/分程度の低い昇温速度で加熱して成形体を十分に乾燥させることで、クラックの発生を抑制することが好ましい。さらに、界面活性剤(分散剤)等を添加した場合は、例えば、100~500℃程度の温度範囲において、3℃/分程度の昇温速度で加熱を行うことで、これらを十分に除去する(脱脂処理)ことが好ましい。なお、これらの処理は、焼成工程のはじめに行ってもよく、焼成工程よりも前に別途行ってもよい。
【0063】
さらに、1100℃から焼成温度までの昇温速度は4℃/分以下であることが好ましく、3℃/分以下であることがより好ましく、1℃/分以下であることがさらに好ましい。一方、焼成温度から1100℃までの降温速度は6℃/分以上であることが好ましく、10℃/分以上であることがより好ましい。1100℃以上における昇温速度と、1100℃までの降温速度が上記範囲内にあることにより、積層欠陥割合を低くしやすくなる。
【0064】
以上、フェライト焼結磁石の好適な製造方法について説明したが、本発明のフェライト焼結磁石を製造する限り、その製造方法は上記で説明した製造方法には限定されず、条件等は適宜変更することができる。
【0065】
フェライト焼結磁石の形状は特に限定されない。フェライト焼結磁石は、円盤のような板状であってもよく、円柱又は四角柱のような柱状であってもよく、C形、弓形及びアーチ形状等の形状であってもよく、リング形状であってもよい。
【0066】
本実施形態に係るフェライト焼結磁石は、例えば、モータ及び発電機などの回転機、並びに各種センサ等に使用することができる。
【実施例
【0067】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
(フェライト焼結磁石の作製)
[実施例1]
<原料粉末調製工程>
フェライト焼結磁石を構成する金属元素の原料として、平均一次粒子径0.3μmの炭酸カルシウム(CaCO)粒子、酸化ランタン(La)粒子、平均一次粒子径0.5μmの炭酸ストロンチウム(SrCO)粒子、平均一次粒子径0.3μmの酸化鉄(Fe:不純物として、Mn、Cr、Al、Si及びClを含む)、及び、酸化コバルト(Co)粒子を準備した。これらの原料を、金属元素を下記式(1a)で表わされる原子比で含むフェライト焼結磁石において、概ねw=0.388、x=0.133、z=8.721、m=0.247となるように秤量し、混合した。次いで、フェライト焼結磁石の原料として、さらに、ホウ酸(HBO)粒子及びアルミナ(Al)粒子を準備した。得られるフェライト焼結磁石全体に対してホウ素の含有量がHBO換算で0.144質量%となり、アルミニウムの含有量がAl換算で0.060質量%となるように、ホウ酸粒子及びアルミナ粒子をそれぞれ秤量し、上記混合物に加えた。得られた原料混合物を湿式アトライタにて混合、粉砕し、乾燥して、原料粉末を得た。
Ca1-w-xLaSrFeCo・・・(1a)
【0069】
<仮焼・粉砕工程>
原料粉末に対し、大気中、1200℃で2時間保持する仮焼を行い、仮焼体を得た。得られた仮焼体を、BET法により求められる比表面積が0.5~2.5m/gとなるように、小型ロッド振動ミルにて粗粉砕した。得られた粗粉砕材を、湿式ボールミルを用いて32時間微粉砕し、BET法により求められる比表面積が7.0~10m/gである微粉砕粒子を有する湿式成形用スラリーを得た。微粉砕後のスラリーを遠心分離機で脱水して固形分濃度を70~80質量%に調整することにより、湿式成形用スラリーを得た。
【0070】
<成形・焼成工程>
湿式成形用スラリーを、湿式磁場成形機を使用して、10kOeの印加磁場中で成形し、直径30mm×厚さ15mmの円柱状の成形体を得た。得られた成形体を、大気中、室温にて十分に乾燥した。次いで、大気中で昇温し、特に1100℃以上では1.0℃/分で昇温し、1205℃で1時間保持し、その後1100℃まで10.0℃/分で降温し、その後室温まで降温する焼成を行い、実施例1のフェライト焼結磁石を得た。
【0071】
[実施例2]
原料粉末調整工程において、平均一時粒子径が0.3μmのFe粒子に代えて平均一次粒子径が0.4μmのFe粒子、及び、平均一時粒子径が0.5μmのSrCO粒子に代えて、平均一次粒子径が1.0μmのSrCO粒子に代える以外は、実施例1と同様にして、実施例2のフェライト焼結磁石を得た。
【0072】
[実施例3]
原料粉末調整工程において、平均一時粒子径が0.3μmのFe粒子に代えて、平均一次粒子径が0.5μmのFe粒子、平均一時粒子径が0.5μmのSrCO粒子に代えて、平均一次粒子径が2.0μmのSrCO粒子、及び、平均一時粒子径が0.3μmのCaCO粒子に代えて、平均一次粒子径が1.0μmのCaCO粒子を用いる以外は、実施例2と同様にして、実施例3のフェライト焼結磁石を得た。
【0073】
[比較例1]
焼成工程において、1100℃以上での昇温速度5.0℃/分とし、焼成温度を1220℃とし、1100℃までの降温速度を5.0℃/分とする以外は、実施例3と同様として、比較例1のフェライト焼結磁石を得た。
【0074】
(評価方法)
[積層欠陥割合]
各実施例の磁石の磁化容易軸に平行な断面のTEM写真を撮影した。画像の範囲は、縦が4μmで横が7.4μmとし、縦方向を磁化容易軸とした。画像の範囲内にすべての領域が現れているフェライト粒子の数Nを求めた後、Nのうち、粒子内に線状領域を有する粒子の数nを求め、積層欠陥割合であるn/Nを求めた。実施例2におけるSEM写真の例を図2に示す。白矢印は、線状領域SFの一例を示す。
【0075】
[磁気特性]
実施例及び比較例で得られた円柱状の各フェライト焼結磁石の上下面を加工した後、最大印加磁場25kOeのB-Hトレーサを用い、これらの残留磁束密度Br(mT)及び保磁力HcJ(kA/m)を求めるとともに、磁束密度がBrの90%になるときの外部磁界強度(Hk)を測定した。Hk及びHcJの測定結果から、角形比Hk/HcJを求めた。
【0076】
製品の分析組成、製造条件、n/N及び磁気特性を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
積層欠陥割合n/Nが低い実施例では、比較例に比べて、特に、保磁力の向上が見られた。
【符号の説明】
【0079】
G…フェライト粒子、SF…線状領域。
図1
図2