(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】受動センサーからの擬似距離推定
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240730BHJP
【FI】
G06T7/00 350A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019173286
(22)【出願日】2019-09-24
【審査請求日】2022-09-02
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【氏名又は名称】黒田 晋平
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(72)【発明者】
【氏名】リース・アレクサンダー・クロージア
(72)【発明者】
【氏名】ブレンダン・パトリック・ウィリアムズ
(72)【発明者】
【氏名】ソレン・ガブリエル・ドーリーン・ヘガティ-クレーマー
【審査官】藤原 敬利
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-078409(JP,A)
【文献】特開2004-334283(JP,A)
【文献】特開平07-280557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 9/00-11/30
G01C 3/00- 3/32
G06T 7/00- 7/90
G06V 10/00-20/90
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受動センサーを有するビークルから検出された未知の物体までの擬似距離を推定する方法であって、
前記受動センサーから前記未知の物体の検出を示すデータを受け取るステップと、
センサー検出データを前記受動センサーの事前検出尤度および事前性能モデル
であって、前記ビークルの位置、時刻または大気条件のうちの少なくとも1つを含む遭遇条件と、前記受動センサーから前記検出された未知の物体までの前記擬似距離とを関連付ける事前性能モデルと組み合わせることによって擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布を確立するステップと、
擬似距離推定値の前記1つまたは複数の確率分布から、前記検出された未知の物体までの前記擬似距離の推定値を導出するステップと、
前記検出された未知の物体までの推定された擬似距離を出力するステップと、
を含み、
前記ビークルの空間的および時間的位置の領域における既知のまたは可能性の高いビークル活動のデータベースにアクセスするステップ
をさらに含み、前記組み合わせることと前記導出することの一方または両方が、前記ビークル活動を付加的に考慮するステップをさらに含む方法。
【請求項2】
擬似距離推定値の前記1つまたは複数の確率分布から、前記検出された未知の物体までの前記擬似距離の推定値を導出する前記ステップが、正しい可能性が高い擬似距離推定値を選択するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
擬似距離推定値の前記1つまたは複数の確率分布から、前記検出された未知の物体までの前記擬似距離の推定値を導出する前記ステップが、最悪の場合の擬似距離推定値を選択するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
センサー検出データを前記受動センサーの事前性能モデルと組み合わせる前記ステップが、ベイズ法を使用して、センサー検出の不確実性を検出された物体までの擬似距離の関数として記述する事前確率分布と前記センサー検出データを組み合わせるステップを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
擬似距離推定値の前記確率分布のうちの1つを確立するステップが、初期検出時に未知の物体までの擬似距離のベイズ事後確率分布を確立するステップを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
現在の大気条件データを受け取るステップ
をさらに含み、前記組み合わせることと前記導出することの一方または両方が、前記大気条件データを付加的に考慮することをさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
時間的状態推定器を使用して事前擬似距離推定値を擬似距離推定値の1つまたは複数の現在の確率分布と比較することによって前記検出された未知の物体までの推定された擬似距離を更新するステップ
をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記時間的状態推定器が検出された物体までの距離の事前クロージャーモデルをさらに受け取る、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記擬似距離推定値の前記確率分布のうちの少なくとも1つが、想定される検出物体タイプおよび環境条件について確立される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
受動センサーを有するビークルから検出された未知の物体までの擬似距離を推定するように適合された擬似距離推定装置であって、
前記受動センサーの格納された事前性能モデルと、
メモリと、
前記メモリに動作可能に接続され、前記事前性能モデルを受け取るように動作する処理回路と、を含み、前記処理回路が、
前記受動センサーから前記未知の物体の検出を示すデータを受け取り、
センサー検出データを前記受動センサーの事前検出尤度および事前性能モデル
であって、前記ビークルの位置、時刻または大気条件のうちの少なくとも1つを含む遭遇条件と、前記受動センサーから前記検出された未知の物体までの前記擬似距離とを関連付ける事前性能モデルと組み合わせることによって擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布を確立し、
擬似距離推定値の前記1つまたは複数の確率分布から、前記検出された未知の物体までの前記擬似距離の推定値を導出し、
前記検出された未知の物体までの推定された擬似距離を出力する
ように適合され、
前記処理回路が、前記ビークルの空間的および時間的位置の領域における既知のまたは可能性の高いビークル活動のデータベースにアクセスするようにさらに適合され、前記処理回路が、前記ビークル活動を付加的に考慮することによって前記組み合わせることと前記導出することの一方または両方を行うように適合された、擬似距離推定装置。
【請求項11】
前記処理回路が、擬似距離推定値の前記1つまたは複数の確率分布から、正しい可能性が高い擬似距離推定値を選択することによって前記検出された未知の物体までの前記擬似距離の推定値を導出するように適合された、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記処理回路が、擬似距離推定値の前記1つまたは複数の確率分布から、最悪の場合の擬似距離推定値を選択することによって前記検出された未知の物体までの前記擬似距離の推定値を導出するように適合された、請求項10に記載の装置。
【請求項13】
前記処理回路が、ベイズ法を使用して、センサー検出の不確実性を検出された物体までの擬似距離の関数として記述する事前確率分布と前記センサー検出データを組み合わせることによって前記センサー検出データを前記受動センサーの事前性能モデルと組み合わせるように適合された、請求項10から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記処理回路が、初期検出時に未知の物体までの擬似距離のベイズ事後確率分布を確立することによって前記擬似距離推定値の前記確率分布のうちの少なくとも1つを確立するように適合された、請求項10から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記処理回路が、現在の大気条件データを受け取るようにさらに適合され、前記処理回路が、前記大気条件データを付加的に考慮することによって前記組み合わせることと前記導出することの一方または両方を行うように適合された、請求項10から14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記処理回路が、時間的状態推定器を使用して事前擬似距離推定値を擬似距離推定値の1つまたは複数の現在の確率分布と比較することによって、前記検出された未知の物体までの推定された擬似距離を更新するようにさらに適合された、請求項10から15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記処理回路が、検出された物体までの距離の事前クロージャーモデルをさらに受け取る、請求項10から16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記処理回路が、想定される検出物体タイプおよび環境条件についての前記擬似距離推定値の前記確率分布のうちの少なくとも1つを確立するように適合されている、請求項10から17のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般にビークルに関し、特に受動センサーから検出されたが未知の物体までの擬似距離を推定するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リアルタイムソフトウェア、センサー技術、センサーフュージョンなどの進歩により、自律ビークル運行が現実になっただけでなく、実際には(平均すると)人間による操作を上回る改善がなされている。水上ビークル、航空機、列車、船舶、潜水艦、宇宙船などを含む多種多様なビークルを自律運行にするための研究開発が進行中である。
【0003】
環境内のビークルまたはその他の物体を検出し、多くの場合回避する能力は、多くのタイプのビークルの操作を自動化するための一般的な要件である。この検出および回避(detect and avoid(DAA))能力は、飛行操作段階と地上移動操作段階の両方において他の航空機および潜在的な衝突物体を検出および回避できなければならない、一般に「ドローン」として知られている自律型航空機には特に重要である。
【0004】
自律型ビークルがDAAの「検出」部分を行った後の、「回避」部分にとって重要な情報が、検出された物体までの見通し線(Line of Sight(LoS))距離、すなわち距離である。RADARやLIDARなどの能動的な距離測定技術は周知である。能動システムは電磁(electromagnetic(EM))放射を放出し、様々な信号処理技術により、反射された放出放射線を使用して目標物までの距離の推定値を決定する。
【0005】
能動距離測定システムは大型で複雑であり、EM送信機と、信号を処理して距離を計算するのに必要な処理回路の両方に相当な電力を必要とする。重量と電力が重視される用途では、受動センサーを使用した距離検出が望ましい。さらに、能動放出システムは航空機の位置を事実上ブロードキャストし、これは、防衛、法執行、または民間防衛の用途には望ましくない場合がある。本明細書で使用される場合、受動センサーとは、いかなる信号も送信せずに物理的特性を検出するセンサーである。受動センサーは、可視光、赤外線、無線周波数(RF)などを含むスペクトルの任意の部分の電磁放射を検出することができる。受動センサーには、可聴音や超音波、または一般に、別のビークルなどの未知の物体の存在を示す任意の識別可能な物理的特性を検出するセンサーも含まれる。
【0006】
受動センサーを使用した距離検出のいくつかの技術が当技術分野で公知である。既存の解決策の大部分は、複数のフレームにわたる目標物情報の処理、追加のハードウェア(すなわち、複数のセンサーの設置)、識別可能な特性(例えば、特定の寸法に沿った測定可能な数の画素、リターン信号強度、解決可能な特徴など)を有する検出された物体の画像、または、異なる形状および/もしくは時間からの物体の複数の画像(例えば、画像間に人工的な基準線を作成するための自律型ビークルの操作、センサーの上下動など)を必要とする。これらの手法の各々が、自律型ビークル、特に軽航空機におけるDAAに対する有用性を制限する欠陥を呈する。
【0007】
受動距離検出のモデルベースの手法は、検出された目標物のいくつかの識別可能で測定可能な特性、例えば画素数を、翼幅や胴体サイズ、色、パターン、識別マーク、またはエンジンの数などの他の解決可能な特徴の推定値として利用する。これらの特徴は、距離の推定値を決定するために、可能性の高い航空機およびその他の物体の既知の特性と比較される。そのような手法には、距離の瞬間的な尺度を提供する潜在能力があり、一般に追加のセンサーを必要としない。目標物の識別可能な特性に依拠する手法の欠点は、少数の潜在的な遭遇形状を除いて、検出された物体の識別可能な特徴が、通常は初期検出の相当後になるまで解決できないことである。結果として、意思決定と回避行動が行われるのに十分な時間では正確な距離推定値を利用できないことになり得る。モデルベースの手法はまた、一般に距離の増加とともに低下する特徴(例えば、画素数、面積、寸法の長さなど)の推定における雑音/誤りにも敏感である。加えて、モデルベースの手法は、目標物(モデル)の想定される特性に依拠し、これは、遭遇した所与の物体に対して正しくない場合があり、距離推定の誤りにつながる。顕著な距離での距離測定には、高解像度のセンサーが必要であるが、これによって視野が狭くなる。多くの場合、最小有効動眼視野をカバーするために複数のセンサーが必要であり、DAAシステムのサイズ、重量、抗力、および電力の需要が増える。高解像度のセンサーにはまた、より高度な画像安定化技術の使用も必要である。
【0008】
モデルベースの手法の1つの変形では、目標物の画像または信号のある識別可能な特性(例えば、画素領域、寸法、コントラスト、リターン強度など)の増加率を測定し、これを、物体までの距離を推定するために使用することができる、最接近点までの距離または時間の関数として想定される増加率のモデルと比較する。増加率の手法には、目標物の識別可能な特性の追跡に依拠する他の技法と同じ問題がある。加えて、識別可能な特徴の見かけ上の増加は通常、指数関数型プロファイルに従い、このため、距離推定値の発生が、クロージャーシナリオにおいてDAAに役立つには遅すぎることになる。この手法はまた、一般に距離の増加とともに低下する特徴(例えば、画素数、面積、寸法の長さなど)の推定における雑音/誤りにも敏感である。この手法は想定される増加モデルに依拠し、増加モデルは目標航空機の特定の特性を想定するので、検出された距離は、検出された物体の初期の分類の正確度に依存する。
【0009】
距離を推定する周知の手法は、当技術分野でステレオ感知として公知の複数の空間的に分布したセンサーの使用によるものである。人間の目とほぼ同じように動作し、目標物までの距離は、単一の目標物の2つ以上の画像間で生成された視差(差分画像)から決定される。測距性能は、センサーを分離する基準線のサイズと形状、画像の時間同期の正確度、および振動に対して画像を安定させる能力などによって制限される。この手法には、自律型ビークルの空間的に分布した位置に複数のセンサーを設置する必要があり、このため抗力と重量が増加し、電力消費が増加し、利用可能な有効搭載量が減少する。測距の正確度は、連続する画像間の基準線のサイズに比例する。
【0010】
ステレオ感知に類似した距離検出のもう1つの手法が、動き基準線感知である。この手法では、(自律型ビークルまたはセンサー自体の操作による)センサーの動きを使用して、異なる相対姿勢からの検出された物体の複数の観測を提供することができる。次いで、(ステレオ感知で使用されるのと)同様の画像処理を適用して、目標物の距離推定値が確認される。動き基準線法は、画像間のセンサー位置および姿勢の正確な追跡(またはフィルタリングによるそれらの推定)に依拠して、距離推定値を生成する。(観測間の)目標航空機の動きのモデルも必要である。正確度は、連続する画像間の基準線のサイズと目標航空機の動きモデルの正確度とに比例する。この手法の1つの重大な欠点は、十分に異なる姿勢から複数の画像を収集して処理するためにさらなる時間を要することである。距離の瞬間的な推定は不可能であり、操作に要する時間により、状況を処理して回避行動を取るために利用できる時間が短縮される。
【0011】
受動測距の別の手法は、運動視差、オブスキュレーション(obscuration)、および相対サイジングを利用する。この手法は、検出された物体のサイズ、位置、および/または動きを、既知のサイズおよび/またはセンサーからの距離の他の物体と比較することに基づくものである。加えて、既知の距離にある他の物体による目標物の重なりまたはオブスキュレーションの度合いも、目標物までの距離を推定するために使用することができる。
【0012】
視差およびオブスキュレーションに基づく手法は、概念的には実現可能であるが、検出された関心対象の目標物と同じ場面内の(または目標物に近接した)複数の「既知の測距された」物体を必要とするので、自律型軽航空機のDAAに実用的である可能性は低い。これらの手法は、他の測距手法よりも正確度が低くなる可能性が高く、せいぜい「概算」推定値を提供するものである。これらの手法は、タクシー運送などの地上運行中に使用されるDAAシステムに最適である。
【0013】
受動センサーを使用した距離推定の公知の手法は、多くの欠陥を呈する。ステレオ感知においては複数のセンサーが必要であるため、自律型ビークルの重量、抗力、および電力消費が増加する。独立した移動にせよ、ビークルを移動させることによってにせよ、センサーの移動が必要な場合、複雑さが増し、遅すぎてDAAに有用ではない。モデルベースの手法、増加率の手法、および同様の手法は、早期の目標物分類と格納されたモデルとの比較に依存し、初期分類の誤りが正確な距離推定に害をもたらし得る。これらの手法ではまた、DAAで使用するには距離推定値を得るのが遅すぎることになり得る。視差およびオブスキュレーションに基づく手法は、既知の基準物体がある環境での操作に依存し、これは一般に、自律ビークル運行中に行われる可能性が低い。
【0014】
したがって、目標物の特徴検出にも目標物の分類にも依存しない、即時の距離推定値をもたらす単一(または少数)の受動センサーを使用した距離推定技術があれば、最新技術の著しい前進となるはずである。
【0015】
本明細書の背景技術の項は、当業者がその範囲および有用性を理解する助けとなるように、本開示の態様を技術的動作的文脈に置くために提供されている。本明細書の記述は、そうであると明示的に特定されない限り、単にそれが背景技術の項に含まれているというだけで先行技術であると認められるものではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
以下では、当業者に基本的な理解を提供するために、本開示の簡略化した概要を提示する。この概要は、本開示の広範な概説ではなく、本開示の態様の主要/重要な要素を特定することも、本開示の範囲を正確に描写することも意図されていない。この概要の唯一の目的は、後述するより詳細な説明の前段として、本明細書で開示されるいくつかの概念を簡略化した形で提示することである。
【0017】
本出願に記載され、特許請求される1つまたは複数の態様によれば、受動センサーによる物体の検出後に擬似距離が推定される(「擬似距離」とは、実際の距離の大まかな、すなわち既知の不正確な推定値である)。センサーからの検出データがセンサーの事前性能モデルと組み合わされる。これらの比較により、擬似距離推定値の事後確率分布、またはそのような分布の集合が生成される。確率分布から単一の擬似距離推定値が導出され、DAA意思決定および行動計画で使用するために出力される。例えば、最も可能性の高い擬似距離推定値、または最悪の場合の推定値を選択することができる。擬似距離推定値は、必ずしも正確度の高いものではないが、受動センサーによる物体の検出時に本質的に即座に生成される。その正確度を高めるために、例えば再帰フィルター(カルマンフィルターなど)を使用して、擬似距離推定値を更新することができる。擬似距離推定値はまた、1つまたは複数の公知の受動測距方法を使用して改善することもできる。センサー検出をセンサーの事前性能モデルと組み合わせることは、ベイズ法を使用して、センサー検出の不確実性を検出された物体の擬似距離の関数として記述する事前確率分布と、センサー検出およびビークルの空間的および時間的位置を組み合わせることを含むことができる。複数の擬似距離推定値を確立することは、初期検出時に未知の物体までの擬似距離のベイズ事後分布を確立することを含むことができる。ビークルの空間的および時間的位置に加えて、他の情報、例えば、現在の大気データや、領域内の現時点の既知の(または可能性の高い)ビークル活動などを、事前性能モデルとの比較と、事後確率分布からの擬似距離推定値の導出のどちらかまたは両方で使用することができる。
【0018】
一態様は、受動センサーを有するビークルから検出された未知の物体までの擬似距離を推定する方法に関する。物体の検出の表示が受動センサーから受け取られる。擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布が、センサー検出データをセンサーの事前検出尤度および事前性能モデルと組み合わせることによって確立される。検出された未知の物体までの擬似距離の推定値が、擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布から導出される。検出された未知の物体までの推定された擬似距離が出力される。
【0019】
別の態様は、受動センサーを有するビークルから検出された未知の物体までの擬似距離を推定するように適合された擬似距離推定装置に関する。本装置は、センサーの格納された事前性能モデルと、メモリと、処理回路と、を含む。処理回路は、メモリに動作可能に接続され、事前性能モデルを受け取るように動作する。処理回路は、受動センサーから物体の検出を示すデータを受け取り、センサー検出データをセンサーの事前検出尤度および事前性能モデルと組み合わせることによって擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布を確立し、擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布から、検出された未知の物体までの擬似距離の推定値を導出し、検出された未知の物体までの推定された擬似距離を出力する、ように適合されている。
【0020】
次に本開示を、本開示の態様が示されている添付の図面を参照して、以下でより十分に説明する。しかしながら本開示は本明細書に記載されている態様に限定されると解釈されるべきではない。これらの態様は、むしろ、本開示が十分かつ完全であり、当業者に本開示の範囲を十分に伝えるために提供されているものである。同様の番号は全体を通して同様の要素を指す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】擬似距離推定システムを含むDAAシステムのブロック図である。
【
図2】受動センサーを有するビークルから検出された未知の物体までの擬似距離を推定する方法の流れ図である。
【
図3】
図1の擬似距離推定システムを実現する装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示は、簡略化と例示を目的として、主にその例示的な態様を参照して説明されている。以下の説明では、本開示の十分な理解を提供するために、多くの具体的な詳細が記載されている。しかしながら、本開示の態様がこれらの具体的な詳細に限定されることなく実施できることが、当業者には容易に明らかであろう。本明細書では、本開示を不必要に曖昧にしないために、周知の方法および構造は詳細に説明されていない。
【0023】
本明細書で使用される場合、「擬似距離」および「擬似距離推定値」という用語は、受動センサーによる物体の検出時に本質的に即座に提供される、センサーから物体までのLoS距離、すなわち距離の初期の大まかな推定値を意味する。「擬似」という修飾語は、擬似距離推定値が、例えば、詳細な飛行計画のためには不十分な正確さであることを示す。しかしながら、擬似距離推定値は一般に、DAAプロセスを開始するには十分に正確である。「本質的に即座に」とは、物体の検出の表示を受け取った後、ごく少数のメモリアクセスと計算操作との遅延後に擬似距離推定値が生成されることを意味する。最新のプロセッサーおよびDSPの処理速度を考えると、そのような短い遅延は、画像の複数のフレームにわたって目標物を追跡したり、検出された特性の増加を追跡したりするために多大な処理時間を必要とし得るか、または異なるセンサービューを生成するためにビークルを移動させるという遅延を被り得る公知の受動検出システムと比較して、本質的に即座である。センサー(またはセンサー出力を処理する回路)による物体の初期検出は一般に、物体が存在するという単なるバイナリ表示である。この段階では、サイズ、特徴、色などの物体に関する詳細は何もわかっていない。したがって、最初に検出された物体は、ここでは「検出された未知の物体」と呼ばれており、検出されたが、その分類または正体は未知である。
【0024】
本開示の態様の擬似距離推定プロセスは、人間のパイロットが、空域内の航空機、鳥、およびその他の物体の視覚的検出時に、直感的に、経験に基づいて距離の初期推定値を作成するやり方をモデルにしている。このプロセスは、パイロットの記憶に蓄積された経験を、やはり経験を通じて生成され洗練される発見的手法を使用して適用することを伴う。初期擬似距離推定値を確立する際に使用される主な要因は、センサー搭載航空機の位置、検出された物体(別の航空機など)の位置、および時刻である。
【0025】
1つの非限定的な例として、小さな無管制空港の近くを高度3,000フィートで飛行するパイロットが、「グリント(glint)」、すなわち、近くの空域内のある未知の物体からの太陽光の反射を視覚的に検出する場合がある。しかしながら、その距離、相対的な形状、大気の視界などが原因で、パイロットは物体をはっきりと見ることも、その特徴を明らかにすることもできない。最初にパイロットは、自身の経験上、鳥はそのような反射を生成しないため、そのグリントを航空機として分類するであろう。小さい空港の近くで比較的低い高度にあるという空間的位置のため、パイロットはさらに、その航空機は小型のピストン機である可能性が高いと想定することができる。(自身の検出パフォーマンスの暗黙的モデルとして符号化された)事前の経験に基づき、パイロットは、そのような航空機は約2マイル以内でははっきりと見え、約6マイルを越えると見えにくくなり、または見えなくなることを知っているので、可能性の高い2から6マイルの距離を想定し得る。対照的に、クラスB空域の主要空港の近くを12,000フィートで飛行する同じパイロットは、同様の視覚的グリントを、全く異なる視界特性を有する民間ジェット機である可能性が最も高いと解釈し、よって、物体までのより大きな擬似距離を想定するであろう。パイロットは、これらの初期擬似距離推定を行う際に、本能的にしばしば意識下で、他の利用可能な情報を使用する。例えば、現在の大気の視界は、パイロットが自身で様々なサイズの飛行機を検出できることがわかっている距離に影響し、パイロットはそれに応じて擬似距離推定値を調整するであろう。同様に、軍事基地での訓練作戦や近くの空港での航空ショーなどの既知の活動の知識も、検出されたが未知の物体までの擬似距離を推定する際に人間のパイロットによって本質的に考慮に入れられる。当然ながら、目標物までの距離推定の実行時に上記のすべての要因がパイロットによって明示的に考慮されるわけではない。さらに、最初の視覚的検出時の目標物の近接度によっては、パイロットが考慮または熟考された距離分析プロセスに従わない場合がある。むしろ、回避行動を開始するためにパイロットが使用するのは大雑把な視覚データに基づく自動応答だけである可能性がある。
【0026】
本開示の態様によれば、受動センサーによる物体の検出の表示時に、自律型ビークル内の処理回路によって同様の推論プロセスが適用される。任意の特定のタイプ/サイズ/感度のセンサー(例えば、可視光、IR、UVなど)について、いくつかの事前性能モデルが開発されるか、または実際の試験から取り込まれる。可能な物体の距離ごとに、事前性能モデルが、特定の条件(位置、時間、大気条件など)の下で、センサーから物体までのLoS距離を関連付ける。これらが事前確率および尤度分布として符号化される。これらの事前性能モデルは、データベース(例えばベイジアン信念ネットワーク内に実装されたデータベース)などに、またはニューラルネットワークを訓練することによって格納され、利用に供される。
【0027】
物体の検出の受動センサーによる表示の直後(物体の識別可能な特徴などのさらなる詳細なしで)、想定される目標物タイプおよび遭遇条件の集合についての擬似距離推定値の事後確率分布を決定するために、ベイズ更新プロセスを使用して、検出と想定される尤度またはサンプリングモデルとセンサーの事前(過去)の性能モデルとが組み合わされる。一般に、現在の大気条件や領域、時刻などの既知の活動パターンなどの追加情報も、尤度モデルのパラメーターまたは周辺確率(遭遇条件)とみなすことができる。一般に、様々な目標物タイプおよび遭遇条件を想定することにより、このプロセスは、異なる(可能性の高い)目標物タイプおよび条件ごとに1つずつの、擬似距離確率分布の集合をもたらす。
【0028】
一態様では、ベイズ確率理論を利用して、現在の条件と事前性能モデルとの比較に基づいて、擬似距離推定値の事後確率分布(またはそのような分布の集合)を生成する。ベイズ確率は、不十分または不完全な情報に基づいて意思決定を行う数学的技法である。情報が利用できない場合、ベイズ法はその可能性のある内容について数学的な仮定を行う。その情報が収集されて広まると、ベイズ法は仮定を訂正または置換し、その意思決定をしかるべく変更する。
【0029】
より正式には、ベイズ推論法は、不確実な量の事前確率分布(例えば、検出された物体までの擬似距離)を、尤度関数(例えば、空間的および時間的位置、大気条件などといった、特定の目標物タイプおよび条件についての事前性能モデル)と組み合わせ、比較から導出された情報が与えられたと仮定して、不確実な量(すなわち擬似距離)の事後確率分布を生成する。
【0030】
様々な数学的技法を使用して、(1つまたは複数の)出力された事後擬似距離確率分布からLoS距離の推定値を導出することができる。例えば、最も可能性の高い擬似距離、または最悪の場合の擬似距離(一般に最も近い)を選択することができる。必要な場合には、次いで、検出された物体までのクロージャー率を記述する過去のモデル、および/またはカルマンフィルターなどの再帰フィルターを使用して、擬似距離推定値への更新を提供することができる。いくつかの態様では、従来技術の測距技術を採用して、擬似距離推定値の正確度を高めることができる。本明細書に記載されるように、これらは、代替または追加のセンサー、物体データの複数のフレーム、センサーの移動などの使用を必要とする可能性があり、開発および処理に時間を要する可能性がある。一方、DAAプロセスが回避操作を潜在的に開始するために初期の擬似距離推定値を使用することができる。
【0031】
いくつかの態様では、より正確な距離情報が利用可能になるに従い、プロセスは、人間のパイロットが自身の経験を使用して自身のパフォーマンスを向上させるのと同様の方法で、その事前性能モデルおよび周辺確率を更新することができる。
【0032】
図1は、擬似距離推定を、本開示の態様に従って、一般的なDAAシステムにどのように組み込むことができるかを示すブロック図である。DAAシステム10が受動センサー14から入力を受け取る。DAAシステム10は、一般に、検出部20と、追跡部22と、評価部24と、警告部26と、回避部28とを含む。DAA部20から28のうちの1つまたは複数を、別個のプロセッサー、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ、フルカスタムハードウェアなどの個別のハードウェアブロックとして実装することができる。あるいは、DAA部20から28のうちの1つまたは複数を、1つまたは複数のプロセッサー、デジタル信号プロセッサー(DSP)などで実行されるソフトウェアモジュールとして実装することもできる。任意の特定の実施態様において、DAA部20から28のうちの2つ以上の機能を統合することができる。DAA部20から28は、その名前が示す機能を果たす。簡単にいうと、検出部20は、受動センサー14の出力信号を監視し、物体の存在を検出する。検出された物体への方位は、追跡部22によって経時的に追跡される。擬似距離推定値を受け取ると、評価部24は、検出された物体との衝突または干渉の脅威を評価する。そのような脅威が十分に高い場合、警告部26は警告を生成する。警告時に、回避部28は、ビークルの進路を変更するなど、物体を回避するための1つまたは複数の戦略を計画する。一般に、DAA機能は当業者に公知であり、これについて本明細書では詳述しない。
【0033】
DAAシステム10はまた、擬似距離推定システム12も含む。擬似距離推定システム12は、検出部20により判断される受動センサー14による物体の検出後に本質的に即座に擬似距離推定値を生成するように動作する。擬似距離推定システム12は、格納された(1つまたは複数の)事前性能モデル30と、ベイズ更新プロセス部32と、推論プロセス部34とを含む。いくつかの態様では、擬似距離推定システム12は、格納された(1つまたは複数の)クロージャーモデル38と、擬似距離更新プロセス部36とをさらに含む。格納されたモデル30、38は、データベースの形態(例えば、ベイジアン信念ネットワーク内に実装されたデータベース)とすることもでき、または訓練を通じてニューラルネットの接続にロードすることもできる。プロセス部32、34、36のうちの1つまたは複数を、別個のプロセッサー、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ、フルカスタムハードウェアなどの個別のハードウェアブロックとして実装することができる。あるいは、プロセス部32、34、36のうちの1つまたは複数を、1つまたは複数のプロセッサー、デジタル信号プロセッサー(DSP)などで実行されるソフトウェアモジュールとして実装することもできる。任意の特定の実施態様において、プロセス部32、34、36のうちの2つ以上の機能を統合することができる。プロセス部32、34、36の機能について、各部32、34、36に入力される情報および各部32、34、36の出力として生成される情報を含めて以下で論じる。
【0034】
ベイズ更新プロセス部32は、検出部20を介して、受動センサー14から物体の検出の表示を受け取る。いくつかの態様では(
図1の検出部20とベイズ更新プロセス32との間の記述に括弧で示されているように)、ベイズ更新プロセス部32は、検出部20から、物体への方位に関する情報(すなわち、受動センサー14に対するその方向)も受け取ることができる。一般に、物体の検出を示すデータは、単なるバイナリインジケータ、すなわち、物体が検出された(1)かまたは物体が検出されなかった(0)かである。この時点では、検出された物体に関する詳細情報は利用できないかまたは擬似距離推定値の生成には不要である。例えば、物体のサイズ、形状、色、または特徴が検出表示に含まれる必要はない。また、物体の経時的な動きや、検出可能な特徴の増加率に関する情報も、検出された物体を近くの既知の物体に関連付ける情報も不要である。そのようなデータが利用可能な場合、システムはそれらを使用して、おそらくより高い正確度を達成できるが、その最も広い態様において、受動センサー14からの物体検出表示は単なるバイナリ表示である。
【0035】
ベイズ更新プロセス部32は、事前性能モデル30から、センサー検出の不確実性を記述する事前確率分布および周辺確率分布を検出された物体までの擬似距離の関数として受け取る。ベイズ更新プロセス部32は、センサー検出をセンサーの事前性能モデル30と組み合わせ、擬似距離推定値の1つまたは複数の事後確率分布を出力する(すなわち、いくつかの態様では、事前性能モデル30で異なる目標物タイプおよび条件が符号化されている場合、確率分布の集合を出力する)。一態様では、1つまたは複数の事後確率分布を生成する際に公知のベイズ推論法および方程式が用いられる。
【0036】
いくつかの態様では、ベイズ更新プロセス部32は、様々なソース16から、気象、降水量、雲量、視界、温度、および露点(霧を表す)などといった、現在の大気条件データも受け取ることができる。これらの態様では、事前性能モデル30の少なくともいくつかが大気条件情報も含む。すなわち、様々な大気条件での受動センサー14の性能が前もってモデル化または記録されており、この過去の性能データと現在の大気条件との比較により、擬似距離推定値のより正確な(1つまたは複数の)事後確率分布を得ることができる。
【0037】
いくつかの態様では、ベイズ更新プロセス部32は、様々なソース16から、ビークルの空間的および時間的位置の領域における既知のまたは可能性の高いビークル活動に関連する情報も受け取ることができる。これらの態様のいくつかでは、事前性能モデル30の少なくともいくつかが既知のまたは可能性の高いビークル活動に関連する情報も含む。すなわち、様々なレベルおよびタイプのビークル活動の存在下での受動センサー14の性能が前もってモデル化または記録されており、この過去の性能データと現在の既知のまたは可能性の高いビークル活動との比較、および受動センサー14の現在の空間的および時間的位置により、擬似距離推定値のより正確な事後確率分布を得ることができる。
【0038】
様々なソース16を表すブロックおよびそのベイズ更新プロセス部32への入力は、
図1および
図3に破線で描かれており、これらの入力が任意選択であり、本開示の最も広い定式化においては必須ではないことを示す。
【0039】
例えば、自律型航空機が、荷物の配達やその他の活動の過程で特定の空港の近くを定期的に飛行する場合がある。スカイダイビングスクールが週末にその空港から活動することがわかっている場合には、スカイダイビング活動中に利用される特定のサイズまたはタイプの航空機のセンサー検出能力をモデル化または測定することができ、少なくともいくつかの事前性能モデル30はその情報を含むことができる。この場合、擬似距離推定値の事後確率分布の集合を取得することができ、それらの一部は、スカイダイビング活動で通常使用される航空機のタイプに基づくものである。他の利用可能な情報、例えば受動センサー14の空間的および時間的位置(スカイダイビング活動の近く、週末など)、およびおそらくは大気条件などの他のデータ(スカイダイビング活動は雨天よりも晴天で行われる可能性が高いなど)に基づいて、スカイダイビングタイプの航空機の事前性能モデル30を使用して生成された事後確率分布をより可能性が高いと判断することができ、これを選択して擬似距離のより正確な推定値を得ることができる。ビークルの位置や天候などの追加情報を考慮しても、さほどの遅延は発生せず、検出された物体の正確な特性付けも不要であることに留意されたい。むしろ、追加情報は事前性能モデル30のうちのいくつかに符号化されているので、擬似距離推定値の事後確率分布の集合が、単一の確率分布と同程度(またはほぼ同程度)の速さで生成され、唯一の追加のステップは、現在の位置、条件、またはその他の情報に基づいて、集合の中から1つの分布を選択することだけである。
【0040】
擬似距離推定値の事後確率分布(またはそのような分布の集合)は推論プロセス部34に渡され、推論プロセス部34はそこから、検出された未知の物体までの擬似距離の推定値を導出する。この擬似距離と、いくつかの態様では(推論プロセス34と評価24との間の記述に括弧で示されているように)物体タイプの表示も、評価部24に出力される。一態様では、推論プロセス部34は、1つまたは複数の事後確率分布の中から、正しい確率が最も高い擬似距離推定値を選択することによって、擬似距離推定値を導出する。別の態様では、推論プロセス部34は、1つまたは複数の事後確率分布の中から最悪の場合の擬似距離推定値を選択する。一般に、最悪の場合の擬似距離は、最も短い擬似距離推定値になる。一態様(
図1には示されていない)では、推論プロセス部34はまた、例えばビークルの位置、現在の大気条件など、様々なソース16から少なくともいくつかの情報も受け取る。例えば、推論プロセス部34は、1つまたは複数の事後確率分布の中から、晴れた日の最も可能性の高い擬似距離推定値を出力することができるが、視界が悪いときには、最悪の場合の擬似距離推定値を出力することができる。
【0041】
いくつかの態様では、
図1の破線で示されるように、DAAシステム10に提供される擬似距離推定値を継続的に更新することができる。これらの態様では、推論プロセス部34はまた、擬似距離更新プロセス部36に、ベイズ更新プロセス部32への入力が経時的に変化するにつれて連続的に変化し得る、擬似距離推定値の1つまたは複数の事後確率分布も提供する。擬似距離更新プロセス部36は、(1つまたは複数の)事後確率分布に時間的状態推定器を適用する。そのような時間的状態推定器の一例がカルマンフィルターであり、カルマンフィルターは、過去の挙動に基づいて、不確実な情報にもかかわらず動的システムの挙動を予測するための公知のツールである。擬似距離更新プロセス部36は、DAAシステム10の評価部24に、更新された(すなわち経時的に進化する)擬似距離推定値と、いくつかの態様では(擬似距離更新プロセス36と評価24との間の記述に括弧で示されるように)追加的に更新された物体タイプ推定値も提供する。
【0042】
図2に、受動センサー14を有するビークルから検出された未知の物体までの擬似距離を推定する方法100を示す。物体の検出を示すデータが受動センサー14から受け取られる(ブロック102)。一態様では、データはバイナリ表示である。擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布が、センサー検出データを事前検出性能モデル30と組み合わせることによって確立される(ブロック104)。検出された未知の物体までの擬似距離の推定値が、擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布から導出される(ブロック106)。検出された未知の物体までの推定された擬似距離が、DAAシステム10の評価部24などに出力される(ブロック108)。いくつかの態様(
図2には示されていない)では、(例えば、ナビゲーションシステムからの)自機の位置データを擬似距離推定値と組み合わせて、ナビゲーション座標フレーム内の目標物体の位置(緯度、経度、高度など)の推定値を提供することができる。方法100は、例えばDAAシステム10で使用するために、検出された未知の物体までの擬似距離を提供することができる。
【0043】
一態様では、擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布から、検出された未知の物体までの擬似距離の推定値を導出することは、正しい可能性が高い擬似距離推定値を選択することを含む。これにより、効果的なDAA操作のために正確な推定値を提供することができる。
【0044】
別の態様では、擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布から、検出された未知の物体までの擬似距離の推定値を導出することは、最悪の場合の擬似距離推定値を選択することを含む。これにより、慎重を期して、物体が即座に回避される。
【0045】
一態様では、センサー検出データをセンサー14の事前性能モデル30と組み合わせることは、ベイズ法を使用して、センサー検出の不確実性を検出された物体までの擬似距離の関数として記述する事前確率分布とセンサー検出データを組み合わせることを含む。さらに、一態様では、擬似距離推定値の確率分布を確立することは、初期検出時に未知の物体までの擬似距離のベイズ事後確率分布を確立することを含む。これは、公知の数学的技法を利用して擬似距離推定値を生成する。
【0046】
一態様では、方法100は、現在の大気条件データを受け取ることをさらに含み、組み合わせることと導出することの一方または両方が、大気条件データを付加的に考慮することをさらに含む。一態様では、方法100は、ビークルの空間的および時間的位置の領域における既知のまたは可能性の高いビークル活動のデータベースにアクセスすることをさらに含み、組み合わせることと導出することの一方または両方が、ビークル活動を付加的に考慮することをさらに含む。追加の環境条件または活動を組み込むことにより、擬似距離推定値の正確度を高めることができる。
【0047】
一態様では、方法100は、時間的状態推定器を使用して、事前擬似距離推定値を擬似距離推定値の1つまたは複数の現在の確率分布と比較することにより、検出された未知の物体までの推定された擬似距離を更新することをさらに含む。一態様では、時間的状態推定器は、検出された物体までの距離の事前クロージャーモデル38をさらに受け取る。これにより、経時的にますます正確な擬似距離推定値を提供することができる。
【0048】
一態様では、擬似距離推定値の確率分布が、想定される検出物体タイプおよび環境条件について確立される。これにより、その中から選択すべき可能な擬似距離推定値の範囲が広がり、正確度を高めることができる。
【0049】
図3に、本開示の一態様による、
図1の擬似距離推定システム12を実現する装置を示す。受動センサー14および様々なソース16、ならびにDAAシステム10の物体検出部20および評価部24は、擬似距離推定システム12を文脈に置くために描かれている。これらの装置および機能部は、
図1に関して上述したように動作する。擬似距離推定システム12は、処理回路40と、メモリ42と、少なくとも事前性能モデル30とを含む。括弧で示されているように、擬似距離推定システム12はクロージャーモデル38をさらに含むことができる。処理回路40は、方法100を実施するように適合されている。特に、処理回路40は、受動センサーから物体の検出を示すデータを受け取り、センサー検出データを受動センサー14の事前検出尤度および事前性能モデル30と組み合わせることによって擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布を確立し、擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布から、検出された未知の物体までの擬似距離の推定値を導出し、検出された未知の物体までの推定された擬似距離を出力する、ように適合されている。これにより、DAAシステム10に、危険を評価し、回避手順を計画するための、本質的に瞬時の擬似距離推定値を提供することができる。
【0050】
一態様では、処理回路40は、擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布から、正しい可能性が高い擬似距離推定値を選択することによって検出された未知の物体までの擬似距離の推定値を導出するように適合されている。これにより、効果的なDAA操作のために、より正確な距離を提供することができる。
【0051】
別の態様では、処理回路40は、擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布から、最悪の場合の擬似距離推定値を選択することによって検出された未知の物体までの擬似距離の推定値を導出するように適合されている。これにより、慎重を期して、物体が即座に回避される。
【0052】
一態様では、処理回路40は、ベイズ法を使用して、センサー検出の不確実性を検出された物体までの擬似距離の関数として記述する事前確率分布とセンサー検出データを組み合わせることによってセンサー検出データをセンサーの事前性能モデル30と組み合わせるように適合されている。さらに、一態様では、処理回路40は、初期検出時に未知の物体までの擬似距離のベイズ事後確率分布を確立することによって擬似距離推定値の確率分布を確立するように適合されている。これは、公知の数学的技法を利用して擬似距離推定値を生成する。
【0053】
一態様では、処理回路40は、現在の大気条件データを受け取るようにさらに適合され、処理回路40は、大気条件データを付加的に考慮することによって組み合わせることと導出することの一方または両方を行うように適合されている。一態様では、処理回路40は、ビークルの空間的および時間的位置の領域における既知のまたは可能性の高いビークル活動のデータベースにアクセスするようにさらに適合され、処理回路は、ビークル活動を付加的に考慮することによって組み合わせることと導出することの一方または両方を行うように適合されている。追加の環境条件または活動を組み込むことにより、擬似距離推定値の正確度を高めることができる。
【0054】
一態様では、処理回路40は、時間的状態推定器を使用して事前擬似距離推定値を擬似距離推定値の1つまたは複数の現在の確率分布と比較することによって、検出された未知の物体までの推定された擬似距離を更新するようにさらに適合されている。一態様では、処理回路40は、検出された物体までの距離の事前クロージャーモデル38をさらに受け取る。これにより、経時的にますます正確な擬似距離推定値を提供することができる。
【0055】
一態様では、処理回路40は、想定される検出物体タイプおよび環境条件についての擬似距離推定値の確率分布を確立するように適合されている。これにより、その中から選択すべき可能な擬似距離推定値の範囲が広がり、正確度を高めることができる。
【0056】
処理回路40は、メモリ42に機械可読コンピュータープログラムとして格納された機械命令を実行するように動作する任意の1つまたは複数の順次の状態機械、例えば、(ディスクリートロジック、FPGA、ASICなどの)1つもしくは複数のハードウェアに実装される状態機械、適切なファームウェアを共に備えたプログラマブルロジック、マイクロプロセッサーやデジタル信号プロセッサー(DSP)などの、1つもしくは複数のプログラム内蔵式汎用プロセッサー、または以上の任意の組み合わせを含むことができる。メモリ42は処理回路40とは別個のものとして描かれているが、処理回路40がキャッシュメモリやレジスタファイルなどの内部メモリを含むことを当業者であれば理解する。当業者は、仮想化技術により、処理回路40によって名目上実行されるいくつかの機能を、実際には、おそらくはリモートに(例えば、いわゆる「クラウド」に)位置する他のハードウェアに実行させることができることもさらに理解する。そのような態様では、擬似距離推定システム12(または他のビークル電子機器)は、セルラーインターフェースやWLANインターフェースなどの1つまたは複数の無線通信インターフェース(図示されない)をさらに含むことができる。
【0057】
メモリ42は、磁気媒体(例えば、フロッピーディスク、ハードディスクドライブなど)、光媒体(例えば、CD‐ROM、DVD‐ROMなど)、ソリッドステートメディア(例えば、SRAM、DRAM、DDRAM、ROM、PROM、EPROM、フラッシュメモリ、ソリッドステートディスクなど)などを含むがこれらに限定されない当技術分野で公知のまたは開発され得る任意の非一時的な機械可読媒体を含むことができる。
【0058】
事前性能モデル30および、もしあれば、クロージャーモデル38は、1つもしくは複数のデータベースもしくは他のメモリ構造に格納することもでき、または当技術分野で公知のように、訓練操作によって1つもしくは複数のニューラルネットワークの接続にロードすることもできる。
【0059】
図3に示される態様では、少なくとも、
図1を参照して図示および説明したベイズ更新プロセス部32および推論プロセス部34は、メモリ42に格納され、処理回路40によって実行されるソフトウェアモジュールとして実装される。一態様では、カルマンフィルターなどの時間的状態推定器を実装して更新された擬似距離推定値を提供することができる擬似距離更新プロセス部36をメモリ42が追加的に格納し、処理回路40が追加的に実行する。
【0060】
本開示の態様は、先行技術の受動測距システムに優る多くの利点を提示する。態様は、物体の検出のバイナリ表示を受け取った後で本質的に即座に検出された物体までの擬似距離の推定値を提供するように動作する。経時的な複数のフレームからの物体データは不要である。異なるセンサー位置からの異なる物体ビューも不要である。近くに既知の物体も不要である。検出された物体の識別可能な特徴を解決する必要も、そのサイズ、形状などの早期の特徴付け/想定を行う必要もない。想定されるスペクトル特性からの偏差のモデルも不要である。本開示の態様は、一態様では、受動センサーからの検出表示と、ビークルの空間的および時間的位置と、センサーの事前性能モデルのみに基づいて、検出された未知の物体までの擬似距離推定値を提供する。他の態様では、大気条件や既知の活動などの追加情報により、擬似距離推定値の正確度を高めることができる。単一の受動センサーと電子回路さえあればよいので、本開示の態様による擬似距離推定システムは、軽航空機などの自律型ビークルの重量、抗力、複雑さ、および電力消費を最小限に抑える。これにより、先行技術の受動物体検出システムと比較して、使用できる有効搭載量の容量が節約され、自律型軽航空機の航続距離が延びる。生成される擬似距離推定値は、限られた正確度のものであることがわかっているが、DAAシステム10が状況を評価し、潜在的に早期回避手順を開始するための、物体までのLoS距離の早期の有用な大まかな推定値を提供するのに十分なほど正確である。
【0061】
さらに、本開示は、以下の各項目による実施形態を含む。
【0062】
項目1.受動センサーを有するビークルから検出された未知の物体までの擬似距離を推定する方法であって、
受動センサーから物体の検出を示すデータを受け取るステップと、
センサー検出データを受動センサーの事前検出尤度および事前性能モデルと組み合わせることによって擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布を確立するステップと、
擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布から、検出された未知の物体までの擬似距離の推定値を導出するステップと、
検出された未知の物体までの推定された擬似距離を出力するステップと、
を含む方法。
【0063】
項目2.擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布から、検出された未知の物体までの擬似距離の推定値を導出するステップが、正しい可能性が高い擬似距離推定値を選択するステップを含む、項目1に記載の方法。
【0064】
項目3.擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布から、検出された未知の物体までの擬似距離の推定値を導出するステップが、最悪の場合の擬似距離推定値を選択するステップを含む、項目1または2に記載の方法。
【0065】
項目4.センサー検出データをセンサーの事前性能モデルと組み合わせることが、ベイズ法を使用して、センサー検出の不確実性を検出された物体までの擬似距離の関数として記述する事前確率分布とセンサー検出データを組み合わせることを含む、項目1から3のいずれか一項に記載の方法。
【0066】
項目5.擬似距離推定値の確率分布を確立するステップが、初期検出時に未知の物体までの擬似距離のベイズ事後確率分布を確立するステップを含む、項目1から4のいずれか一項に記載の方法。
【0067】
項目6.現在の大気条件データを受け取るステップ
をさらに含み、組み合わせることと導出することの一方または両方が、大気条件データを付加的に考慮することをさらに含む、項目1から5のいずれか一項に記載の方法。
【0068】
項目7.ビークルの空間的および時間的位置の領域における既知のまたは可能性の高いビークル活動のデータベースにアクセスするステップ
をさらに含み、組み合わせることと導出することの一方または両方が、ビークル活動を付加的に考慮することをさらに含む、項目1から6のいずれか一項に記載の方法。
【0069】
項目8.時間的状態推定器を使用して事前擬似距離推定値を擬似距離推定値の1つまたは複数の現在の確率分布と比較することによって検出された未知の物体までの推定された擬似距離を更新するステップ
をさらに含む、項目1から7のいずれか一項に記載の方法。
【0070】
項目9.時間的状態推定器が検出された物体までの距離の事前クロージャーモデルをさらに受け取る、項目1から8のいずれか一項に記載の方法。
【0071】
項目10.擬似距離推定値の確率分布が想定される検出物体タイプおよび環境条件について確立される、項目1から9のいずれか一項に記載の方法。
【0072】
項目11.受動センサーを有するビークルから検出された未知の物体までの擬似距離を推定するように適合された擬似距離推定装置であって、
受動センサーの格納された事前性能モデルと、
メモリと、
メモリに動作可能に接続され、事前性能モデルを受け取るように動作する処理回路と、を含み、処理回路が、
受動センサーから物体の検出を示すデータを受け取り、
センサー検出データを受動センサーの事前検出尤度および事前性能モデルと組み合わせることによって擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布を確立し、
擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布から、検出された未知の物体までの擬似距離の推定値を導出し、
検出された未知の物体までの推定された擬似距離を出力する
ように適合された、擬似距離推定装置。
【0073】
項目12.処理回路が、擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布から、正しい可能性が高い擬似距離推定値を選択することによって検出された未知の物体までの擬似距離の推定値を導出するように適合された、項目11に記載の装置。
【0074】
項目13.処理回路が、擬似距離推定値の1つまたは複数の確率分布から、最悪の場合の擬似距離推定値を選択することによって検出された未知の物体までの擬似距離の推定値を導出するように適合された、項目11または12に記載の装置。
【0075】
項目14.処理回路が、ベイズ法を使用して、センサー検出の不確実性を検出された物体までの擬似距離の関数として記述する事前確率分布とセンサー検出データを組み合わせることによってセンサー検出データをセンサーの事前性能モデルと組み合わせるように適合された、項目11から13のいずれか一項に記載の装置。
【0076】
項目15.処理回路が、初期検出時に未知の物体までの擬似距離のベイズ事後確率分布を確立することによって擬似距離推定値の確率分布を確立するように適合された、項目11から14のいずれか一項に記載の装置。
【0077】
項目16.処理回路が、現在の大気条件データを受け取るようにさらに適合され、処理回路が、大気条件データを付加的に考慮することによって組み合わせることと導出することの一方または両方を行うように適合された、項目11から15のいずれか一項に記載の装置。
【0078】
項目17.処理回路が、ビークルの空間的および時間的位置の領域における既知のまたは可能性の高いビークル活動のデータベースにアクセスするようにさらに適合され、処理回路が、ビークル活動を付加的に考慮することによって組み合わせることと導出することの一方または両方を行うように適合された、項目11から16のいずれか一項に記載の装置。
【0079】
項目18.処理回路が、時間的状態推定器を使用して事前擬似距離推定値を擬似距離推定値の1つまたは複数の現在の確率分布と比較することによって、検出された未知の物体までの推定された擬似距離を更新するようにさらに適合された、項目11から17のいずれか一項に記載の装置。
【0080】
項目19.処理回路が、検出された物体までの距離の事前クロージャーモデルをさらに受け取る、項目11から18のいずれか一項に記載の装置。
【0081】
項目20.処理回路が、想定される検出物体タイプおよび環境条件についての擬似距離推定値の確率分布を確立するように適合された、項目11から19のいずれか一項に記載の装置。
【0082】
本明細書では本開示の態様が主に自律型航空機運行に関連して論じられているが、そうしたすべての態様がビークルの自立運行の多くの適用例に十分に適用可能であり、航空機に限定されないことを当業者は容易に理解するであろう。
【0083】
本開示は、当然ながら、本開示の本質的な特徴から逸脱することなく、本明細書に具体的に記載された方法以外の方法で実施することができる。本開示の態様は、あらゆる点で例示的であり、限定的ではないとみなされるべきであり、添付の特許請求の範囲の意味および均等範囲内にあるすべての変更は本開示に含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
10 検出および回避(DAA)システム
12 擬似距離推定システム
14 受動センサー
16 様々なソース
20 検出部
22 追跡部
24 評価部
26 警告部
28 回避部
30 事前性能モデル
32 ベイズ更新プロセス部
34 推論プロセス部
36 擬似距離更新プロセス部
38 クロージャーモデル
40 処理回路
42 メモリ