(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】火災感知器
(51)【国際特許分類】
G08B 17/107 20060101AFI20240730BHJP
G01J 1/42 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G08B17/107 A
G01J1/42 C
(21)【出願番号】P 2020063150
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】内田 真道
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康弘
【審査官】横田 有光
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-160750(JP,A)
【文献】国際公開第2020/013139(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0005427(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B 17/00-17/12
G01J 1/00- 1/60
11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号を受光し、電気信号に変換して出力する受光素子と、
火災が発生したか否かを判断する制御部と、
を備えた火災感知器であって、
前記制御部は、
火災感知器の設置環境条件に応じたノイズ成分を含まない理想的な信号波形に相当する基準データ列を用いて火災が発生したか否かを判断するものであり、
火災の発生を示す信号成分および
前記ノイズ成分を含む第1の信号として、前記受光素子から出力された前記電気信号を受信し、
前記第1の信号をデジタルサンプリングすることで第1のデータ列を生成し、
前記基準データ列に対する前記第1のデータ列のバラツキを示す統計値を算出することで、前記ノイズ成分を定量的に評価し、
前記ノイズ成分の評価結果に応じて、あらかじめ設定された閾値を更新し、
前記第1のデータ列と変更後の閾値との比較から火災が発生したか否かを判断する
火災感知器。
【請求項2】
光信号を受光し、電気信号に変換して出力する受光素子と、
火災が発生したか否かを判断する制御部と、
を備えた火災感知器であって、
前記制御部は、
火災感知器の設置環境条件に応じたノイズ成分を含まない理想的な信号波形に相当する基準データ列を用いて火災が発生したか否かを判断するものであり、
火災の発生を示す信号成分および
前記ノイズ成分を含む第1の信号として、前記受光素子から出力された前記電気信号を受信し、
前記第1の信号をデジタルサンプリングすることで第1のデータ列を生成し、
前記第1のデータ列の遷移状態を示す複数の指標値を算出することで、前記第1のデータ列に対応する複数の指標データ列を生成し、
前記複数の指標データ列の中から、
前記基準データ列に最も近い指標データ列を選択し、
選択した指標データ列とあらかじめ設定された閾値との比較から火災が発生したか否かを判断する
火災感知器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境ノイズが火災検出精度に与える影響を抑制することのできる火災感知器に関する。
【背景技術】
【0002】
投光部から出射された光が、火災に起因して発生した煙の粒子によって散乱した散乱光を受光部内の受光素子によって受光することで、その受光量から火災が発生したか否かを判断する火災感知器がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
火災感知器に用いられる受光素子は、設置環境によって発生するノイズ(以下、環境ノイズと称す)を受ける。従って、受光素子による受光量を電圧に変換した信号には、環境ノイズが含まれてしまう。環境ノイズが含まれた信号波形を用いて火災判定を行うと、ピーク電圧が変動するため、火災検出精度の劣化要因となり、感知器誤作動の原因ともなる。
【0004】
そこで、特許文献1では、受光素子をシールドボックスで覆い、環境ノイズを遮ることで、火災検出精度の劣化を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1によれば、シールドボックスを設けることで、火災検出精度の劣化を抑制することができる。しかしながら、シールドボックスを必要とすることで、部品点数が増え、コストアップや、人件費がかかってしまうという課題がある。
【0007】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、シールドボックスを設けることなしに、環境ノイズが火災検出精度に与える影響を抑制することのできる火災感知器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る火災感知器は、光信号を受光し、電気信号に変換して出力する受光素子と、火災が発生したか否かを判断する制御部と、を備えた火災感知器であって、制御部は、火災感知器の設置環境条件に応じたノイズ成分を含まない理想的な信号波形に相当する基準データ列を用いて火災が発生したか否かを判断するものであり、火災の発生を示す信号成分およびノイズ成分を含む第1の信号として、受光素子から出力された電気信号を受信し、第1の信号をデジタルサンプリングすることで第1のデータ列を生成し、基準データ列に対する第1のデータ列のバラツキを示す統計値を算出することで、ノイズ成分を定量的に評価し、ノイズ成分の評価結果に応じて、あらかじめ設定された閾値を更新し、第1のデータ列と変更後の閾値との比較から火災が発生したか否かを判断するものである。
【0009】
また、本発明に係る火災感知器は、光信号を受光し、電気信号に変換して出力する受光素子と、火災が発生したか否かを判断する制御部と、を備えた火災感知器であって、制御部は、火災感知器の設置環境条件に応じたノイズ成分を含まない理想的な信号波形に相当する基準データ列を用いて火災が発生したか否かを判断するものであり、火災の発生を示す信号成分およびノイズ成分を含む第1の信号として、受光素子から出力された電気信号を受信し、第1の信号をデジタルサンプリングすることで第1のデータ列を生成し、第1のデータ列の遷移状態を示す複数の指標値を算出することで、第1のデータ列に対応する複数の指標データ列を生成し、複数の指標データ列の中から、基準データ列に最も近い指標データ列を選択し、選択した指標データ列とあらかじめ設定された閾値との比較から火災が発生したか否かを判断するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シールドボックスを設けることなしに、環境ノイズが火災検出精度に与える影響を抑制することのできる火災感知器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態1における火災感知器の機能ブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る受光素子によって受光された信号に関する説明図である。
【
図3】本発明の実施の形態1における広帯域通過フィルタ処理に関する説明図である。
【
図4】本発明の実施の形態1における狭帯域通過フィルタ処理に関する説明図である。
【
図5】本発明の実施の形態1における増幅部の内部機能を示した機能ブロック図である。
【
図6】本発明の実施の形態1における火災感知システムの機能ブロック図である。
【
図7】本発明の実施の形態2における増幅部および制御部の内部機能を示した機能ブロック図である。
【
図8】本発明の実施の形態2におけるデジタル信号処理に関する説明図である。
【
図9】本発明の実施の形態2におけるデジタルサンプリングされたデータ列を、直線補完によって結んだ波形を示した図である。
【
図10】本発明の実施の形態2に係るデジタルフィルタ処理部による、デジタルサンプリングされたデータに基づく演算結果を示した図である。
【
図11】本発明の実施の形態2に係るデジタルフィルタ処理部による
図10に示した演算結果をまとめた図である。
【
図12】本発明の実施の形態2に係るデジタルフィルタ処理部により、デジタルサンプリング結果のバラツキ状態を求めた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の火災感知器の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。なお、ここでの説明では、広帯域通過フィルタおよび低帯域通過フィルタのいずれも、ハイパスフィルタを用いて構成する場合について説明するが、ローパスフィルタあるいはバンドパスフィルタを用いて広帯域通過フィルタおよび低帯域通過フィルタを構成してもよい。
【0013】
本発明は、受光素子よって得られた信号波形に対して、ハードウェアとしてフィルタリング処理を行うことにより、あるいはソフトウェアとしてノイズ成分を推定するデジタル演算処理を行うことにより、シールドボックスを設けることなしに、環境ノイズが火災検出精度に与える影響を抑制することのできる火災感知器を得ることを技術的特徴とするものである。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における火災感知器の機能ブロック図である。本実施の形態1に係る火災感知器1は、発光素子11、受光素子12、増幅部20、制御部30、および発報部40を備えて構成されている。
【0015】
発光素子11は、火災により発生した煙を検出するために、信号成分として、あらかじめ決められた波長、光量の光を所定のタイミングで出射する。一方、受光素子12は、発光素子11が出射する光が、直接は入射しない位置に設けられている。そして、受光素子12は、発光素子11から出射され、煙の粒子により散乱した光を受光し、電気信号、具体的には電圧値として出力する。
【0016】
あらかじめ決められた波長、光量の光を出射する発光素子の一例としては、火災検出のために20kHzの光信号を発光するLEDを用いることができる。
【0017】
増幅部20は、受光素子12から出力された電圧値を増幅し、制御部30に対して出力する。
【0018】
制御部30は、煙感知を行う場合には、発光素子11から光を所定のタイミングで出射させるように制御する。そして、制御部30は、発光素子11から光を出射したことに伴って、受光素子12および増幅部20を介して受信した電圧値を電気信号として受け取り、煙検出を行うことで、火災が発生したか否かを判断する。
【0019】
さらに、制御部30は、火災が発生したと判断した場合には、火災が発生したことを、発報部40を介して外部に通報することが可能となっている。
【0020】
制御部30が受信する電気信号には、火災感知器1の設置環境によって発生するノイズ(以下、環境ノイズ)が含まれている。環境ノイズとは、例えば、火災感知器の設置位置に近い蛍光灯インバータから発せられる電気ノイズなどが挙げられる。従って、誤報あるいは未検出を防止するためには、環境ノイズが火災検出精度に与える影響を抑制することが重要となる。
【0021】
図2は、本発明の実施の形態1に係る受光素子12によって受光され、電気信号に変換されて出力された信号に関する説明図である。
図2(a)~
図2(c)は、以下の波形を示している。
図2(a):ノイズ信号が含まれておらず、本来受信したい信号波形S1
図2(b):環境ノイズにより発生するノイズ波形S2
図2(c):信号波形S1にノイズ波形S2が重畳した状態の信号波形
【0022】
なお、
図2(a)~
図2(c)に示した信号は、何れも横軸が周波数、縦軸が受光量に相当する電圧値とするものである。
【0023】
制御部30は、ノイズ環境の影響を受けない理想的な波形として、
図2(a)の信号波形S1を取得できた場合には、煙感知器内に煙が流入し、散乱光によりそのピークP1があらかじめ設定された火災判定用の閾値を超える場合を、火災が発生したものと判断することができる。
【0024】
ただし、信号波形S1にノイズ波形S2が重畳した状態の信号波形として
図2(c)の信号波形が得られる場合には、そのピークP2は、
図2(a)に示したピークP1よりも大きな値となる。
【0025】
従って、制御部30は、あらかじめ設定された閾値を用いた場合には、本来のピークP1よりも大きなピークP2との比較処理を行うことで、火災が発生したと誤検出してしまうおそれがある。
【0026】
一方、図示は省略するが、ノイズ波形がマイナス側(
図2(b)の横軸の下側)に出る場合、ピークP1が閾値を超える値となっていても、ノイズの影響により閾値以下となってしまい、火災が発生したにもかかわらず火災を検出することができず、発報しないおそれがある。このように、環境ノイズが発生する状態では、環境ノイズが火災検出精度に与える影響を抑制することが重要となる。
【0027】
そこで、本実施の形態1に係る火災感知器1は、増幅部20において、2種類のフィルタ処理を行い、フィルタ処理後の2つの信号から火災が発生したか否かを判断することで、環境ノイズが火災検出精度に与える影響を抑制している。
【0028】
環境ノイズが火災検出精度に与える影響を抑制するための具体的な手法を、
図3~
図5を用いて説明する。
【0029】
図3は、本発明の実施の形態1における広帯域通過フィルタ処理に関する説明図である。また、
図4は、本発明の実施の形態1における狭帯域通過フィルタ処理に関する説明図である。
図3(a)は、広帯域通過フィルタ処理を施すための入力信号であり、
図4(a)は、狭帯域通過フィルタ処理を施すための入力信号である。これらの入力信号は、いずれも、受光素子12から出力される、信号波形S1にノイズ波形S2が重畳した状態の信号である。
【0030】
図3(b)に示した広帯域通過フィルタ処理では、受光素子12で受光された光信号に含まれる、火災の発生を示す信号成分および信号成分の周波数より高い周波数の、火災感知器の設置環境におけるノイズ成分の両方を通過させるように設定された広帯域領域の周波数を通過させる処理が行われる。従って、広帯域通過フィルタは、信号成分の周波数より大きな帯域を通すフィルタに設定する。この結果、
図3(c)に示すように、信号波形S3が広帯域通過フィルタ処理後の信号として得られる。
【0031】
一方、
図4(b)に示した狭帯域通過フィルタ処理では、受光素子12で受光された光信号に含まれる、火災の発生を示す信号成分を通過させないように設定された狭帯域領域の周波数を通過させる処理が行われる。ここでは、
図3(b)と
図4(b)の違いが分かるように、
図4(b)の幅を極端に小さく図示しているが、実際には信号成分の周波数になるべく近く、かつ信号成分を通さないようなフィルタに設定する。この狭帯域処理により、発光素子11から出射される信号成分を取り除き、ノイズ成分のみを通過させることができる。
【0032】
この結果、
図4(c)に示すように、信号波形S4が狭帯域通過フィルタ処理後の信号として得られる。この信号波形S4は、狭帯域を通過できる周波数帯を有するノイズ信号に相当する。
【0033】
発光素子11から出射させる光に基づく電気信号の周波数より僅かに広い帯域を通すフィルタと、電気信号の周波数より僅かに狭い帯域を通すフィルタを採用することで、信号波形S4として、制御部30は、信号波形S1にノイズ波形S2が重畳した状態から、環境ノイズに相当する信号を抽出することが可能となる。
【0034】
図5は、本発明の実施の形態1における増幅部20の内部機能を示した機能ブロック図である。
図5に示した増幅部20は、アナログフィルタとして、広帯域通過フィルタ部21と狭帯域通過フィルタ部22とを備えて構成されている。
【0035】
広帯域通過フィルタ部21は、受光素子12から出力される信号に対して、増幅処理を施すとともに、
図3を用いて説明した広帯域通過フィルタ処理を実行する機能を備えている。一方、狭帯域通過フィルタ部22は、受光素子12から出力される信号に対して、増幅処理を施すとともに、
図4を用いて説明した狭帯域通過フィルタ処理を実行する機能を備えている。
【0036】
制御部30は、広帯域通過フィルタ処理が実行された後の信号波形S3を広帯域通過フィルタ部21から受信するとともに、狭帯域通過フィルタ処理が実行された後の信号波形S4を狭帯域通過フィルタ部22から受信する。
【0037】
制御部30は、信号波形S3および信号波形S4に基づいて、火災が発生したか否かを判断するための判断処理を実行する。判断処理の具体例としては、以下のような第1の判断処理および第2の判断処理を挙げることができる。
【0038】
<第1の判断処理>
ステップ1:制御部30は、信号波形S3のピーク値を求める。
ステップ2:制御部30は、信号波形S3において、ピーク値を示す周波数をピーク検出周波数として求める。
ステップ3:制御部30は、信号波形S3のピーク値から、信号波形S4におけるピーク検出周波数での値を減算した値を比較値として求める。
ステップ4:制御部30は、あらかじめ設定された閾値と比較値とを比較し、比較値が閾値よりも大きい場合には、火災が発生したと判断する。
【0039】
<第2の判断処理>
ステップ1:制御部30は、信号波形S4のピーク値を求める。
ステップ2:制御部30は、ピーク値の大きさに応じて、あらかじめ設定された閾値を変更する。
ステップ3:制御部30は、信号波形S3のピーク値を求める。
ステップ4:制御部30は、信号波形S3のピーク値と、変更後の閾値とを比較し、ピーク値が変更後の閾値よりも大きい場合には、火災が発生したと判断する。
【0040】
このようにして、制御部30は、信号波形S3および信号波形S4に基づいて、環境ノイズが火災検出精度に与える影響を考慮した上で、火災が発生したか否かを判断することができる。換言すると、本実施の形態1に係る火災感知器は、シールドボックスを設けることなしに、環境ノイズが火災検出精度に与える影響を抑制した火災検出を実現できる。
【0041】
さらに、広帯域通過フィルタ部21および狭帯域通過フィルタ部22の少なくともいずれか一方を、異なる広帯域幅および異なる狭帯域幅を有する2以上のフィルタとした構成を採用することも可能である。
【0042】
例えば、狭帯域通過フィルタ部22として、異なる帯域幅を有する複数の狭帯域通過フィルタを用いて、上述した第2の判断処理を実行することができる。この場合には、制御部30は、ステップ3で求めたピーク値の大きさに応じて、複数の狭帯域通過フィルタのうちのいずれか1つを選択する。ステップ3で求めたピーク値が急激に火災判定用の閾値を超えた場合、狭帯域通過フィルタを幅の狭いものに変更する。そして、制御部30は、ステップ4において、フィルタの変更前後のピーク値を比較することでノイズのピーク値を求め、急激なピーク値の上昇がノイズによるものか、火災によるものか判断することができる。
【0043】
この結果、環境条件により複数の狭帯域通過フィルタを使い分けることで、より正確な火災検出が可能になる。
【0044】
また、狭帯域通過フィルタ部22として、設置環境における複数のノイズ特性に対応づけられた異なる狭帯域幅を有する複数の狭帯域通過フィルタを用いて、上述した第1の判断処理あるいは第2の判断処理を実行することができる。この場合には、制御部30は、複数の狭帯域通過フィルタを通過したそれぞれの波形信号S4と、波形信号S3との比較に基づいて、1つの狭帯域通過フィルタを選択し、変更後の閾値を算出することができる。
【0045】
この結果、環境条件により複数の狭帯域通過フィルタを使い分けることで、より正確な火災検出が可能になる。
【0046】
さらに、広帯域通過フィルタ部21および狭帯域通過フィルタ部22を1組として、複数の組み合わせのフィルタを設けてもよい。信号波形S3と信号波形S4が同じ波形となったとき、信号波形S1とノイズ波形S2の選別が不備に終わった可能性がある。このような場合には、制御部30は、異なる組み合わせのフィルタに変更する。信号波形S3と信号波形S4が異なる波形となれば、制御部30は、フィルタリングが正しく行われたと判断し、判断処理を行う。
【0047】
この結果、環境条件により複数の広帯域通過フィルタおよび狭帯域通過フィルタの組み合わせを使い分けることで、より正確な火災検出が可能になる。
【0048】
また、設置環境条件として、火災感知器1の設置環境における温度を検出する温度センサをさらに備えることで、設置環境条件に応じた火災検出精度の向上を実現することができる。フィルタに用いられる後述の電気部品は、温度によって特性が変わるため、想定される温度に対応づけられた異なる広帯域通過フィルタと狭帯域通過フィルタの組み合わせによるフィルタを用いることが考えられる。
【0049】
制御部30は、温度センサにより検出された温度に応じて複数の広帯域通過フィルタと狭帯域通過フィルタの組み合わせのうちのいずれか1組を選択し、選択した広帯域通過フィルタと狭帯域通過フィルタを通過した信号波形S3、S4を用いて、上述した第1の判断処理あるいは第2の判断処理を実行することができる。
【0050】
この結果、温度センサの検出結果により特定される環境条件により複数の広帯域通過フィルタおよび狭帯域通過フィルタを使い分けることで、より正確な火災検出が可能になる。
【0051】
なお、実施の形態1では、広帯域通過フィルタ部21および狭帯域通過フィルタ部22は、抵抗およびコンデンサあるいはインダクタにより構成される一般的なハイパスフィルタを用いた場合として説明したが、ローパスフィルタやバンドパスフィルタ、あるいはこれらの組合せを活用することができる。また、これらの部材は、ASICに内蔵できるので、受光素子12に設けるシールドボックスより小さく、安価に実現することができる。
【0052】
また、以上の実施の形態1における説明では、火災感知器1内で、閾値と比較値とを比較し、火災が発生したか否かを判断する第1の判断処理および第2の判断処理について説明した。ただし、第1の判断処理あるいは第2の判断処理の考え方を火災感知器と火災受信機とが連動する火災感知システムに適用させることも可能である。そこで、火災感知器にアナログ式火災感知器を適用させる場合を例として、以下に説明する。
【0053】
図6は、本発明の実施の形態1における火災感知システムの機能ブロック図である。
図6に示した火災感知システム100は、アナログ式感知器50と火災受信機60とを備えて構成されている。
【0054】
アナログ式感知器50は、受光素子12、変換部13、増幅部20、および制御部30を有して構成されている。また、増幅部20は、広帯域通過フィルタ部21と狭帯域通過フィルタ部22とを含んでいる。一方、火災受信機60は、火災判定部61を有して構成されている。
【0055】
アナログ式感知器50に設けられた変換部13は、受光素子12から出力された電気信号を受信し、煙濃度に対応する信号に変換する。
【0056】
アナログ式感知器50内の増幅部20にある狭帯域通過フィルタ部22は、変換部13から受信した変換後の電気信号に含まれる、火災の発生を示す信号成分を通過させないように設定された狭帯域領域の周波数を通過させることで第1の信号を出力する。
【0057】
一方、アナログ式感知器50内の増幅部20にある広帯域通過フィルタ部21は、変換部13から受信した変換後の電気信号に含まれる、信号成分およびアナログ式感知器50の設置環境条件に応じたノイズ成分の両方を通過させるように設定された広帯域領域の周波数を通過させることで第2の信号を出力する。
【0058】
そして、アナログ式感知器50内の制御部30は、第2の信号のピーク値を求めるとともに、ピーク値を示す周波数をピーク検出周波数として求め、ピーク値から、ピーク検出周波数における第1の信号の値を減算した値を求め、火災受信機60へ送信する。火災受信機60内の火災判定部61は、制御部30から受信した値と、あらかじめ設定された閾値とを比較し、火災が発生したか否かを判断する。
【0059】
なお、増幅部20および制御部30の機能をアナログ式感知器50内に設ける代わりに、火災受信機60内に設けるとともに、火災受信機60内に設けた制御部30により火災判定部61の処理も実行する構成を採用することも可能である。
【0060】
この場合、火災受信機60は、アナログ式感知器50内の変換部13から受信した煙濃度に対応する信号に対して、上述したような第1の判断処理あるいは第2の判断処理を実行することで、火災が発生したか否かを判断することができる。
【0061】
より具体的には、火災受信機60に設けられた増幅部20内の狭帯域通過フィルタ部22は、変換部13から受信した変換後の電気信号に含まれる、火災の発生を示す信号成分を通過させないように設定された狭帯域領域の周波数を通過させることで第1の信号を出力する。
【0062】
一方、火災受信機60に設けられた増幅部20内の広帯域通過フィルタ部21は、変換部13から受信した変換後の電気信号に含まれる、信号成分およびアナログ式感知器の設置環境条件に応じたノイズ成分の両方を通過させるように設定された広帯域領域の周波数を通過させることで第2の信号を出力する。
【0063】
そして、火災受信機60内の制御部30は、第2の信号のピーク値を求めるとともに、ピーク値を示す周波数をピーク検出周波数として求め、ピーク値から、ピーク検出周波数における第1の信号の値を減算した値と、あらかじめ設定された閾値との比較から火災が発生したか否かを判断する。
【0064】
以上のように、実施の形態1によれば、広帯域通過フィルタ部を通過した信号および狭帯域通過フィルタ部を通過した信号を用いて火災が発生したか否かを判断できる構成を備えている。この結果、シールドボックスを設けることなしに、環境ノイズが火災検出精度に与える影響を抑制することのできる火災感知器および火災検知システムを実現できる。
【0065】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、増幅部20において、広帯域通過フィルタ処理および狭帯域通過フィルタ処理を実行することで、環境ノイズが火災検出精度に与える影響を抑制するアナログフィルタを適用する場合について説明した。これに対して、本実施の形態2では、制御部30内においてデジタルフィルタ処理を実行することで、環境ノイズが火災検出精度に与える影響を抑制するデジタルフィルタを適用する場合について、一例となる具体例を挙げて、以下に説明する。
【0066】
図7は、本発明の実施の形態2における増幅部20および制御部30の内部機能を示した機能ブロック図である。
図7に示した増幅部20は、広帯域通過フィルタ部21を備えて構成されている。また、
図7に示した制御部30は、デジタルフィルタ処理部31を備えて構成されている。なお、デジタルフィルタ処理部31に関しては、増幅部20と制御部30との間に、制御部30に組み込まない別の構成として設けることも可能である。
【0067】
制御部30は、広帯域通過フィルタ処理が実行された後の信号波形S3を広帯域通過フィルタ部21から受信する。すなわち、制御部30は、火災の発生を示す信号成分および火災感知器1の設置環境条件に応じたノイズ成分の両方を含む信号波形S3を受信し、信号波形S3に対してデジタルフィルタ処理部31によりデジタル信号処理を実行する。なお、本実施の形態2では、広帯域通過フィルタ部21は、必ずしも必要ではなく、広帯域通過フィルタ部21を有しないものとすることができる。
【0068】
図8は、本発明の実施の形態2におけるデジタル信号処理に関する説明図である。
図8において、横軸は時間、縦軸は信号強度をそれぞれ示しており、ノイズがない状態での平常時の信号波形S1、ノイズ波形S2、およびS1+S2の3種の時間波形とともに、それぞれの時間波形に関してデジタルサンプリングされる点が示されている。信号波形S1をデジタルサンプリングした点が●印、ノイズ波形S2をデジタルサンプリングした点が×印、そしてS1+S2をデジタルサンプリングした点が□印、としてそれぞれ示されている。
【0069】
図9は、本発明の実施の形態2におけるデジタルサンプリングされたデータ列を、直線補完によって結んだ波形の一例を示した図である。具体的には、信号波形S1のデータ列(基準データ列に相当)、およびS1+S2のデータ列(第1のデータ列に相当)を、直線補完によって結んだ波形を示している。制御部30内のデジタルフィルタ処理部31は、ノイズが乗っていない場合には、●印で示したデータ列を生成できるが、ノイズ環境下では、×印で示したデータ列を生成することとなる。
【0070】
さらに、デジタルフィルタ処理部31は、
図9に示したように、ノイズがない状態での信号波形S1が正弦波状に変化する際の半周期ごとに、枠を設定することができる。
図9では、枠1~枠3が設定され、各枠内で7点のデジタルサンプリングを行う場合が例示されている。
【0071】
デジタルフィルタ処理部31は、枠ごとに取得した7点のデータの遷移状態から、ノイズレベルを推測することができる。
図10は、本発明の実施の形態2に係るデジタルフィルタ処理部31による、デジタルサンプリングされたデータに基づく演算結果の一例を示した図である。
【0072】
図10において、枠1、枠2,枠3のそれぞれにおける7点のデジタルサンプリングデータの値が、取得時間の早い方からNo.1~No.7に対応して示されている。これらの値に基づいて、デジタルフィルタ処理部31は、デジタル信号処理を実行することで、
図10に示したような、平均値、中央値、移動平均値1、移動平均値2等の統計値を、指標値として得ることができる。なお、
図10では、種々の統計値とともに、ノイズがない状態での理想信号も図示されている。
【0073】
これらの指標値は、デジタルフィルタ処理部31により、以下のようにして算出された値を意味している。
平均値:それぞれのNoごとに、枠1~枠3の3つの値の平均値を求めたもの
中央値:それぞれのNoごとに、枠1~枠3の3つの値の中央値を求めたもの
移動平均値1:平均値の算出結果を用いて、連続する2つの平均値の移動平均値を求めたもの
移動平均値2:平均値の算出結果を用いて、連続する3つの平均値の移動平均値を求めたもの
【0074】
図11は、本発明の実施の形態2に係るデジタルフィルタ処理部31による
図10に示した演算結果をまとめた図である。制御部30は、第1のデータ列の遷移状態を示す複数の指標値を算出するデジタルフィルタ処理部31の演算結果に基づいて、第1のデータ列に対応する複数の指標データ列を生成する。
【0075】
そして、制御部30は、複数の指標値の中から、理想的な(ノイズがない)信号波形に相当する基準データ列に最も近い指標データ列を選択する。さらに、制御部30は、選択した指標データ列と、あらかじめ設定された閾値との比較から、火災が発生したか否かを判断することができる。なお、閾値としては、指標データ列のそれぞれについて、個別に適切な値を設定しておくことが可能である。この結果、環境条件により指標値および火災判定用の閾値を使い分けることで、より正確な火災検出が可能になる。
【0076】
また、
図12は、本発明の実施の形態2に係るデジタルフィルタ処理部31により、デジタルサンプリング結果のバラツキ状態を求めた結果を示す図である。
図12における横軸は、
図10におけるNo.1~No.7に対応しており、縦軸は、バラツキの指標値として求めた、枠1~枠3の3つの値の分散値に相当する。
【0077】
ノイズのない理想的な波形が得られた場合には、バラツキはないので、分散値は0となるが、ノイズの影響を受けて枠1~枠3の3つの値がばらつく場合には、
図12に示したような分散値が得られる。
【0078】
制御部30は、デジタルフィルタ処理部31の演算結果に基づいて、分散値の状態から、環境ノイズの影響度合を定量的に評価することができる。そこで、制御部30は、定量的な評価結果に基づいて、環境ノイズにあった閾値を選択することで閾値を更新し、火災が発生したか否かを判断することができる。この結果、環境条件により閾値を使い分けることで、より正確な火災検出が可能になる。このとき、バラツキの最大値を閾値に加算してもよいし、バラツキの値に応じた閾値のテーブルを用意してもよい。
【0079】
以上のように、実施の形態2によれば、増幅部を通過した信号に対してデジタルフィルタ処理(デジタル演算処理)を実施し、環境ノイズを定量的に評価した上で、火災が発生したか否かを判断できる構成を備えている。この結果、シールドボックスを設けることなしに、環境ノイズが火災検出精度に与える影響を抑制することのできる火災感知器を実現できる。
【0080】
なお、上述した実施の形態1、2では、発光素子が出射する光が直接は入射しない位置に受光素子が設けられており、発光素子から出射され、煙の粒子により散乱した光を受光素子で受信する構成を備えた火災感知器に関して説明した。しかしながら、本発明は、このような構成に限定されるものではない。
【0081】
分離型感知器のように、発光素子と受光素子とが対向して配置され、煙が発生することで受光素子による受光量が減少する構成を備えた火災感知器に対しても、同様の判断手法を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 火災感知器、11 発光素子、12 受光素子、13 変換部、20 増幅部、21 広帯域通過フィルタ部、22 狭帯域通過フィルタ部、30 制御部、31 デジタルフィルタ処理部、40 発報部、50 アナログ式感知器、60 火災受信機、100 火災感知システム。