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特許7529438磁気共鳴イメージング装置及びその制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置及びその制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
A61B5/055 370
A61B5/055 380
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020087679
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021180765
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池川 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 将宏
(72)【発明者】
【氏名】永尾 尚子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 智宏
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/150783(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0037962(US,A1)
【文献】特開2017-113164(JP,A)
【文献】特開昭63-174640(JP,A)
【文献】国際公開第2010/150718(WO,A1)
【文献】米国特許第6195409(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査部位毎の撮像条件を記憶した記憶装置に格納された撮像条件に従い、被検者の所定の検査部位の撮像を行う撮像部と、
前記撮像部の動作を制御するとともに、撮像に関わる演算を行う演算部と、を備え、
前記演算部は、前記撮像部による撮像のFOV、前記FOVに対する、折り返し除去のために位相エンコード方向に拡大されたFOVの割合、位相エンコード方向の視野を周波数エンコード方向の視野よりも狭くした矩形視野における周波数エンコード方向の視野に対する位相エンコード方向の視野の割合、スライス数、及びスライス厚の少なくとも一つを含むスキャンパラメータを算出するスキャンパラメータ算出部を備え、前記撮像部が前記被検者の検査部位の広がりを計測するプリスキャンを実行する制御を行い、
前記スキャンパラメータ算出部は、前記プリスキャンで得た計測データを用いて、前記検査部位の広がりを算出し、算出した前記検査部位の広がりを用いて、位置決め画像用のスキャンパラメータを算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記演算部は、算出した前記検査部位の広がりを用いて、前記撮像部による位置決め用画像の撮像位置を補正することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
ユーザーからの指示を受け付け且つ前記演算部の処理結果を出力するユーザーインターフェース部をさらに備え、
前記ユーザーインターフェース部は、前記演算部が調整したスキャンパラメータを出力しユーザーに提示するとともにユーザーによるスキャンパラメータの変更を受け付けることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記演算部は、前記プリスキャンとして、アキシャル断面のプリスキャンを行い、前記スキャンパラメータ算出部は、前記検査部位の広がりとして前記アキシャル断面における前記検査部位の高さ及び幅を算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記スキャンパラメータ算出部は、前記プリスキャンで得た計測データから、前記検査部位のマスク画像を作成し、前記マスク画像から前記検査部位の広がりを算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記演算部は、前記プリスキャンとして、コロナル断面及びサジタル断面の少なくとも一方を行い、前記スキャンパラメータ算出部は、前記コロナル断面及びサジタル断面の少なくとも一方の画像を用いて、前記検査部位の広がりとして前記被検者の左右方向の幅及び/又は前後方向の厚みを算出することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
検査部位毎の撮像条件を記憶した記憶装置に格納された撮像条件に従い、被検者の所定の検査部位の撮像を行う撮像部と、を備えた磁気共鳴イメージング装置の動作を制御するプログラムであって、コンピュータに、
前記撮像部に前記被検者の検査部位の広がりを計測するプリスキャンを実行させるステップと、
前記プリスキャンで得た計測データを用いて、前記被検者のアキシャル面及びそれと直交する面について、前記検査部位の広がりを算出するステップと、
算出した前記検査部位の広がりを用いて、前記撮像部が前記検査部位を位置決め撮像する際のFOV、前記FOVに対する、折り返し除去のために位相エンコード方向に拡大されたFOVの割合、位相エンコード方向の視野を周波数エンコード方向の視野よりも狭くした矩形視野における周波数エンコード方向の視野に対する位相エンコード方向の視野の割合、スライス数、及びスライス厚の少なくとも一つを含むスキャンパラメータを算出するステップと、を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置及びその制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング(以下、MRIという)装置は、被検者、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生する核磁気共鳴(NMR)信号を計測し、その頭部、腹部、四肢等の形態や組織を2次元的に或いは3次元的に画像化する装置である。
【0003】
MRI装置を用いた検査では、通常、検査対象部位毎に、解剖学的に決まった断面を撮影するが、被検者の体型や寝台上での姿勢が検査毎に異なる。このため、同様の撮像シーケンスを実行する場合や解析処理を行う場合であっても、検査の都度、被検者の撮像位置を設定して調整したり、スキャンパラメータ調整のための画像を撮像するなど、ユーザの手動による煩雑な操作を要している。さらに、調整不良の場合は再撮像の可能性があり円滑な検査を阻害している。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、撮像した画像に対して折り返しアーチファクトの出現する領域を計算し、撮像時間延長を最小化する撮像視野(FOV)の拡大率、矩形視野の割合を自動算出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-113164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1は、位置決め用画像(スキャノグラム、スカウト画像)または専用のプリスキャン画像からスキャンパラメータの一部(矩形視野の割合)を自動演算するに限られている。従って、スキャンパラメータの演算精度は位置決め用画像または専用のプリスキャン画像の位置の精度に依存し、FOVに対して被検者のオフセットが大きい場合などは撮り直しを回避することができない。
【0007】
また、寝台を自動でガントリ内に移動し検査部位の位置で自動停止する機能など新たな技術開発に伴い、図12(a)に示すように被検者のセッティングされた位置と装置に事前に登録されている撮像位置の不一致による撮像の失敗と、それに伴う画像の撮り直しが増加する。
通常、MRI装置を用いた検査において、ユーザは診断のための画像生成・確認だけでなく被検者の体調・状態の監視等を行わねばならない。これに加えて、被検者撮像条件の設定や位置決め用画像の撮像失敗時の撮り直しの操作を行っていると検査効率が低下する不具合がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、画像撮像前にスキャンパラメータを最適化することにより、図12(b)に示すように被検者によらず画像中心で撮像することを可能にし、これによりユーザに対する手動操作による負担の軽減、および再撮像による検査時間の延長を防止し、検査効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は位置決め撮像及び本撮像に先立って、位置決め撮像の撮像位置を適切に設定するためのプリスキャンを自動で実行し、その計測データを用いて被検者の検査部位が存在する領域(検査部位の広がり)を検出する。検出した検査部位の広がりを用いることにより、その後の撮像位置を決定したり、撮像に用いるスキャンパラメータを算出することができる。
【0010】
すなわち、本発明のMRI装置は、検査部位毎の撮像条件を記憶した記憶装置に格納された撮像条件に従い、被検者の所定の検査部位の撮像を行う撮像部と、前記撮像部の動作を制御するとともに、撮像に関わる演算を行う演算部と、を備え、前記演算部は、前記撮像部が前記被検者の検査部位の広がりを計測するプリスキャンを実行する制御を行い、前記プリスキャンで得た計測データを用いて、前記検査部位の広がりを算出することを特徴とする。
【0011】
また本発明は、コンピュータに、MRI装置の撮像部に被検者の検査部位の広がりを計測するプリスキャンを実行させるステップと、プリスキャンで得た計測データを用いて、被検者のアキシャル面及びそれと直交する面について、検査部位の広がりを算出するステップと、算出した前記検査部位の広がりを用いて、前記撮像部が前記検査部位を撮像する際の撮像条件を算出するステップと、を実行させるプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被検者毎のオフセット量及び各種スキャンパラメータを算出し、演算結果を撮像に自動的反映させることにより、撮像位置の最適化による撮像時間延長の防止およびユーザの手動操作をなくすことで作業負担軽減する。前記の時間短縮および作業負担低減により検査効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】MRI装置の全体構成を示す図である。
図2】撮像部の一実施形態を示す構成図である。
図3】演算部の一実施形態を示す構成図である。
図4】実施形態のMRI装置の動作の流れを示すフローチャートである。
図5図4のステップのうち、ステップS402(プリスキャン撮像)の詳細を示すフローチャートである。
図6図4のステップのうち、ステップS403(マスク作成)の詳細を示すフローチャートである。
図7図6のステップでマスクの一例を示す図で、(a)は腹部AX断面画像のマスクの例、(b)は膝AX断面画像のマスクの例を示す。
図8】スキャンパラメータ(FOV)の算出を説明する図である。
図9】(a)及び(b)は、それぞれ、スキャンパラメータ(矩形視野及び折り返し除去)の算出を説明する図である。
図10】スキャンパラメータ(スライス数、スライス厚)の算出を説明する図である。
図11】UI部に表示される画面例を示す図である。
図12】従来の課題を説明する図で、(a)は位置決め撮像に失敗した場合、(b)は本発明を適用した場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係るMRI装置について、図面を参照して説明する。なお本発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のMRI装置は、主な構成として、被検者に核磁気共鳴を生じさせてNMR信号を収集する撮像部100と、撮像部100の動作を制御するとともに、撮像部100が収集したNMR信号を用いて画像再構成を含む種々の演算を行い演算部200と、撮像部100や演算部200の処理に必要なデータや処理結果などを記憶する記憶装置300と、ユーザーによる指令や条件設定を受け付けるユーザーインターフェース部(UI)部400とを備えている。
【0016】
撮像部100の構成は、一般的なMRI装置と同様であり、例えば、図2に示すように、被検者101が置かれる空間に均一な静磁場を発生する静磁場磁石111、静磁場磁石111が形成する静磁場空間に傾斜磁場を発生する傾斜磁場発生コイル113、静磁場空間内に置かれた被検者に対 し高周波磁場(RFパルス)を印加する高周波磁場コイル114、及び被検者から発生する核磁気共鳴信号(エコー信号)を受信する受信用高周波磁場コイル(受信コイル)115が備えられている。これらコイルはガントリ110内に配置され、被検者101は寝台112に寝かせられて静磁場空間内に配置される。通常は被検者101の検査部位の中心が静磁場中心と一致するように配置される。
【0017】
さらに、撮像部100には、これら高周波磁場コイル114を駆動する送信部116、傾斜磁場発生コイル113を駆動する傾斜磁場電源119 、受信コイル115が検出したエコー信号を受信する受信部117及び信号処理部118、及びパルスシーケンス部120が備えられている。パルスシーケンス部120は、高周波磁場、傾斜磁場、信号受信のタイミングや強度を記述したパルスシーケンスに従って、被検者の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を、送信部、傾斜磁場電源119 、および受信部117に送信する。
【0018】
演算部200は、撮像部100を制御する撮像制御部210、撮像部100の撮像によって得られたエコー信号を用いて画像の再構成を行う画像再構成部220、ガントリ110内に配置された被検者101の検査部位を検出し、その広がり、すなわち撮像空間において検査部位が占める領域の大きさを算出する検査部位検出部230、及び、検査部位検出部230が算出した検査部位の広がりをもとに、スキャンパラメータを算出するスキャンパラメータ算出部240を備えている。
【0019】
検査部位とは頭部、胸部、腹部、四肢部など検査対象となる部位であり、プロトコルでは、検査部位毎に、位置決め撮像(スキャノグラム)や本撮像に用いるパルスシーケンスの種類や撮像断面や撮像位置の情報が決められている。本実施形態では、さらに、検査部位の広がりを算出するためのプリスキャンとプリスキャン後の処理のフローが、検査部位毎にプリスキャンフローとして記憶装置300に格納されている。また記憶装置300には、撮像対象部位の特徴量が登録されている。撮像対象部位とは、検査の対象となる臓器や組織(例えば、血管、関節部、腰椎など)であり、その特徴量とは、例えば、楕円形、細長い形状などの形状の特徴、位置(所定の断面において左右あるいは上下のいずれかにどの程度偏って存在するかなど、輝度値(周辺組織に対し明るいのか暗いのかなど)であり、統計的なデータから抽出された量である。
【0020】
UI部400は、ディスプレイ及びタッチパネル、キーボード、マウス等の入力デバイスを備え、画像再構成部220が作成した画像や演算途中で得られる画像やGUIの表示を行うとともに、入力デバイスを介してユーザーによる入力を受け付け、演算部200に送る。
【0021】
演算部200は、CPUやGPU及びメモリを備えた計算機上に構築することでき、演算部200の各機能は、それぞれのプログラムをCPUにアップロードすることで実現される。但し機能の一部をASICやPFGAなどのハードウェアで実現することも可能である。
【0022】
演算部200を計算機上に構築した構成例を図3に示す。この構成例では、演算部200は、制御機能として、撮像制御部210の他に、プリスキャンフロー制御部212、解析制御部214を備えている。また演算機能として、画像再構成部220及びスキャンパラメータ算出部240の他に、検査部位検出部230の機能としてプリスキャン画像処理部231及び撮像位置算出部232を備えている。
【0023】
プリスキャンフロー制御部212は、ユーザーがUI部400のディスプレイに表示された被検者登録用の画面から検査部位を含む被検者情報を入力すると、UI部400が受け付けたユーザーによる入力指示に従って、記憶装置300に記憶されたプリスキャンフローから入力された検査部位に合致するプリスキャンフローを選択する。
【0024】
撮像制御部210は、プリスキャンフロー制御部212から送信された制御信号に従って、撮像部100における撮像処理を制御する。例えば、撮像部100が選択したプリスキャンを実行するように制御する。
【0025】
解析制御部214は、プリスキャンフロー制御部212から送信された制御信号に従って、検査部位検出部230が行う処理、すなわち撮像する断面及び検査部位毎に異なる解析処理を制御する。
【0026】
プリスキャン画像処理部231は、プリスキャンで得た計測データをもとにプリスキャン画像を作成し、所定の処理を行う。プリスキャン画像処理部231における処理の詳細は後述する。撮像位置算出部232は、プリスキャン画像処理部231によって処理されたプリスキャン画像を基に位置決め用画像またはプリスキャンフローに合致する断面の撮像位置を推定し、撮像制御部210へ制御信号を送信する。スキャンパラメータ演算部240は、プリスキャン画像処理部231から送信された処理画像と後述する方法により本撮像のスキャンパラメータを推定する。
【0027】
メモリ250は、上記各部の演算や処理における作業領域として作用し、作成された画像や、演算処理の途中過程を一時的に記憶するものである。またメモリ250あるいは記録装置300には、ユーザーがUI部400を介して入力した被検者の情報を登録する被検者情報登録部が設けられている。
【0028】
次に本実施形態のMRI装置の動作の流れを説明する。図4に全体のフローの一例を示す。
<ステップS401>
まず検査の最初に、操作者によってUI部400を用いて被検者情報の登録が行われる。その情報には、氏名、年齢、性別の他に検査部位や撮像対象部位などの情報が含まれており、メモリ250(被検者情報登録部)に保存される。検査部位の情報としては、頭部、腹部、肩などの情報が含まれ、撮像対象部位の情報としては、より具体的な組織や部位の情報が含まれる。
【0029】
<ステップS402>
次に、被検者ごとのオフセット量とスキャンパラメータを決定するために検査部位の広がりを検知するためのプリスキャン撮像を実行する。プリスキャン撮像開始は、一例として寝台送り完了後、または検査室ドア閉鎖後に自動実行する。
【0030】
撮像部100は、例えば、図5のフローに従ってプリスキャン撮像を行う。
まずメモリ250(被検者情報登録部)に登録された検査部位の情報を取得する(ステップS501)。検査部位の情報から、予め記憶装置300に保存している検査部位に対するプリスキャンフローのリストと照らし合わせ、対象のプリスキャンフローを取得する(ステップS502)。プリスキャンフローから撮像断面を取得する(ステップS503)。撮像断面は、例えば、アキシャル(AX)断面、サジタル(SAG)断面、コロナル(COR)断面から選ばれる1~3の断面であり、プリスキャンフローでは検査部位毎にどの撮像断面をどの順番で取得するかを予め設定されている。プリスキャンでは、この設定に従って、順次、撮像断面を取得する(ステップS504)。
【0031】
撮像部100は、取得した撮像断面を低解像度で高速かつ検査部位に対して広範囲の撮像視野の画像を撮像する。例えば、撮像マトリクスは周波数エンコード数を64、位相エンコード数を16、FOVは500 [mm]を用いる。撮像した断面を撮像済み断面に登録し(ステップS505)、プリスキャンフローに設定されている撮像断面のプリスキャンが完了するまで、各断面のプリスキャンを行う。
【0032】
<ステップS403>
プリスキャン画像処理部231は、プリスキャンで撮像した画像の解析処理を行う。AX断面の場合は、AX断面画像上の高輝度成分すなわち被検者の存在する領域を抽出したマスクを作成する。またSAG断面またはCOR断面の場合は、SAGまたはCOR断面の画像に対して低輝度成分であるアーチファクトやノイズを除去したマスクを作成する。
【0033】
マスク作成(プリスキャン画像処理部231による処理)の詳細を図6を用いて説明する。ここでは、一例として、最初にAX断面のマスクを作成する場合を説明する。
【0034】
[ステップS601]
AX断面の画像に対して、式(1)により、画像を2値化する。2値化に用いる閾値は、例えば、判別分析法で算出することができ、その際、断面および部位毎の特徴を踏まえ判別分析法で求めた閾値に対して標準偏差や補正係数等を加減算して調整してもよい。
【数1】
式中、S(x,y)はAX断面の画像の輝度信号強度、ThresholdはS(x,y)に対して判別分析法で求めた閾値、Mask1(x,y)は2値化したマスク画像である。xは画像の横座標(横方向の再構成マトリクスサイズ)、yは画像の縦座標(縦方向の再構成マトリクスサイズ)である。
【0035】
[ステップS602]
2値化したマスクに対して、アーチファクトを除去する処理を行う。プリスキャンで得た画像は少ない位相エンコード数で取得した画像(低解像度画像)であり、高周波データの欠損によって生じるトランケーションアーチファクトが生じる。このようなアーチファクトは、膨張処理と縮小処理を繰り返すモルフォロジー変換により除去することができる。具体的には、式(2)及び式(3)で表される画像の収縮と膨張とを繰り返しオープニング処理またはクロージング処理を行う。この処理は例えば、1回の収縮を行ったあとに1回の膨張を行う。
【0036】
【数2】
式(2)中、Mask2(x,y)は、モルフォロジー変換の収縮したマスクである。
【数3】
式(3)中、Mask3(x,y)は、モルフォロジー変換の膨張したマスクである。
【0037】
[ステップS603]
上述のように形成したマスクでは、体内の空気等の低輝度部分は背景と判断されマスク内から抜け落ちるため、それをマスクに含める処理を行う。具体的には、マスクに内包されたエッジ上のピクセルが近傍で連結性があり、閉じた領域を形成する場合、その領域の画素値を1とする。
【0038】
[ステップS604]
ステップS604において、プリスキャンフローから取得した撮像断面の情報を用いて、関節部など同一画像で両側や複数の対象を撮像する部位であるかを判断して、複数の断面画像がある場合はステップS605へ移行し、その他の場合はマスク作成を終了する。
【0039】
[ステップS605]
複数の断面がある場合(連結しない複数のマスクが形成された場合)は、各マスクに対応するそれぞれの断面画像について、画像内の輝度値の合計値をピクセル数で除した輝度平均値Saveを算出する(式(4))。
【数4】
【0040】
<ステップS404>
ステップS403(S601~S605)で作成したマスクに対して、検査部位に対応するマスクを特定する。
ステップS403で作成したマスクには、関節部以外でも、複数の断面画像のマスクが含まれる場合がある。例えば、腹部が検査部位の場合、図7(a)に示すようにAX断面に腹部と腕が映り込む可能性がある。また膝関節が検査部位の場合、図7(b)に示すようにAX断面に両足または片足が映り込む。本ステップでは、部位毎のマスクの特徴と、メモリ等に格納されている検査部位情報およびマスク画像の形状や輝度平均値とを照らし合わせ、検査部位に対応するマスクを特定する。
【0041】
例えば、腹部が検査部位の場合には、検査部位に対応するマスクは画像の中心付近に存在し、かつ楕円形状という特徴がある。そこで、この特徴と合致するマスクを腹部位置として選択する。また関節部では、受信コイルが装着されている部分が高輝度(高感度)部分であるので、上述した輝度平均値が最も高い断面画像のマスクを関節部のマスクとする。例えば脚部が検査部位の場合、検査部位情報として、検査対象の左右がユーザによって選択された場合、選択された片足のマスクを対象として選択する。左右いずれかが選択されていない場合、上記のステップS605で算出した輝度平均値が最も高いマスクを対象として選択する。また、両側が対象の場合または両側の輝度平均値に差がない場合、両側を対象として特定する。
【0042】
なお、SAG断面やCOR断面では、通常連続した領域としての一つのマスクが作成されるので、本ステップの処理は不要である。
【0043】
<ステップS405>
プリスキャン画像処理部231は、予め設定されたすべての撮像断面についてマスクを形成した後、特定したマスクの位置を撮像位置算出部232に送る。撮像位置算出部232は、マスクの位置情報を用いて、撮像対象部位を含むであろう位置を算出する。「撮像対象部位を含むであろう位置」とは、例えば、撮像対象部位が腰椎である場合、腹部及び腰部を検査部位としてプリスキャンを行い、そのAX断面やSAG断面のマスクが得られているが、この断面において腰椎(撮像対象)が含まれると推定される位置を意味する。
【0044】
撮像位置算出部232は、撮像対象部位の情報を用いて、経験的あるいは統計的に知られている解剖学的な位置から撮像位置に対する位置を推定する。例えば腰椎の場合、解剖学的に人体の正中かつ背面側に存在するため、体幹部の外形、すなわちマスク形状から、それが存在する位置を予測することができる。このような統計的なデータは予め記憶装置300に格納しておくことができ、撮像位置算出部232は、記憶装置300に格納された統計的データに基づき腰椎の存在する位置を推定する。これにより、位置予測の精度を向上することができる。腰椎以外の他の臓器や組織についても同様である。撮像位置は、特定したマスク(xy面)のxおよびyの最大座標、最小座標を求め各座標の中心を基準位置とし、これに対する撮像対象部位のオフセット量(撮像位置に対する推定した撮像対象部位の位置のずれ量)を算出する。算出したオフセット量は、プリスキャン後に実行される位置決め用画像撮像の位置補正に用いられる。
【0045】
<ステップS406>
スキャンパラメータ算出部240は、ステップS404で作成した検査対象部位のマスク画像と対象外のマスクから被検者の広がりを測定し、これをもとに、位置決め用画像撮像において、アーチファクトを防止しかつ撮像時間が最短となるのスキャンパラメータ(FOV、矩形視野の割合、位相過剰サンプリングの割合)を算出する。
【0046】
広がりの測定は、図8に示すように、マスク画像のx方向及びy方向の幅dx、dyを被検者の広がりとして求める。すなわち、式(3)において、Mask3(x,y)=1となる、xおよびyの最大座標、最小座標を求め、最大座標と最小座標からx方向およびy方向の距離dx、dyを求める。FOVは、図8に示すように、dxとdyのうちより大きい値を1.2倍した値とする(この例ではFOV=dy×1.2)。
【0047】
矩形視野の割合については、図9(a)に示すように、位相エンコード方向がx方向ならばx方向の距離dxの1.2倍(dx×1.2)とFOVとして設定した値(この例ではdy×1.2)とを比較してその倍率r(r=dx/dy)を求め、倍率rが1倍以下であれば、FOVを「矩形視野」に設定する。または、既に設定されていた値を更新する。
【0048】
折り返し除去の割合については、図9(b)に示すように、位相エンコード方向(この例ではx方向)に対して、FOVとして設定した値(この例ではdy×1.2)の領域外に対象外と判定されたマスクが存在する場合、対象外マスクを含む領域を折り返し除去の割合として設定する。または、既に設定されていた値を更新する。
【0049】
また折り返し除去のために拡大された計測FOVの割合(anti aliasing size)は、例えば式(5)で表される。
【数5】
式(5)中、Effzは有効磁場空間、Offzはオフセンタ量である。
【0050】
さらに、スキャンパラメータ算出部240は、被検者の広がり(サイズ)を用いて、本撮像のスキャンパラメータ(スライス数及びスライス厚)を求めることができる。具体的には、スライス数は、スライス方向に対応する距離、たとえばAX断面の場合(図10の右図)、COR方向またはSAG方向の距離から、スライス幅を除算し、端数を切り捨てた値とする。スライス方向の距離は、検査部位あるいは撮像対象部位によってデフォルトで設定されたスライス数及びスライス厚から算出される距離(重なりがない場合、距離=スライス数×スライス厚)に対し、被検者のサイズが標準的なサイズより大きいあるいは小さいかに基づき調整する。
【0051】
<ステップS407>
AX断面について、上述した処理(ステップS402~S406)を完了後、さらにSAG断面あるいはCOR断面がプリスキャンフローに設定されている場合には、ステップS402に戻り、次の断面(SAG断面あるいはCOR断面)について、ステップS403~S406の解析処理を行う。処理の内容は、AX断面と同様であるが、ステップS403のマスク作成(図6:S601~S605)については、関節部か否かを判断するステップS604及び輝度平均値を算出するステップS605は不要であり、ステップS601からステップS603の処理によってマスクを作成する。またAX断面では、閾値を用いた2値化処理及びモルフォロジー変換を用いたアーチファクト除去処理を行ったが、これらの処理に代えて、ガウシヤンフィルタやメディアンフィルタを用いたアーチファクト除去と被検者部分(感度範囲)を抽出してもよい。
【0052】
またSAG断面やCOR断面をプリスキャンする際に、AX断面の処理ステップS405で得た撮像位置を反映して、最初に設定された撮像位置を補正してもよい。これによりその後のステップで得られる被検者の広がりやそれをもとに算出するスキャンパラメータの精度を高めることができる。
【0053】
以上のプリスキャンの撮像からスキャンパラメータ算出までの処理(ステップS402~S406)を、プリスキャンフロー制御部212に設定されているすべてのプリスキャン断面について行う。ここまでをプリスキャンとして自動実行する。
【0054】
<ステップS408>
ステップS405で算出した撮像位置およびステップS406で算出したスキャンパラメータを反映して位置決め撮像および本撮像を撮像する。ただし、静磁場中心に対する撮像中心の位置ずれが大きく、その補正が必要な場合は、寝台移動もしくは励起位置を調整する。また、プリスキャンでエラーが発生した場合、直前までの処理結果を用いて位置決め撮像を実行する。
【0055】
本撮像に際しては、本撮像の位置や条件を設定するために、位置決め用画像の撮像によって得られた画像(スキャノグラム)をUI部400のディスプレイに表示する。この際、スキャノグラム上に、スライス位置を示すスタックや、呼吸動等の検出を行う位置(ナビゲーターエコーを収集する位置)などの情報を画像上に重畳した状態で表示する。また、プリスキャンで算出したスキャンパラメータ(スライス数やスライス厚)も併せて表示し、GUI上で確認および編集可能とする。
【0056】
なお以上の説明では、プリスキャンは位置決め撮像に先立って自動実行されるものとしたが、プリスキャンを実行するか否かをユーザーが選択可能にしてもよい。例えば、図11に示すように、検査フローを表示するGUI上に、本実施形態の機能(プリスキャンとスキャンパラメータ算出)の適用(ON)か非適用(OFF)の切り替えボタンを表示し、適用が選択されたときのみに、プリスキャンを実行するようにしてもよい。
【0057】
このように本実施形態によれば、被検者の体型や体勢によらず撮像位置のオフセット量を最適化するため、ユーザの意図しない位置での位置決め撮像、及びそれによる再撮像を防止することができ、検査精度を向上させることができる。また本実施形態によれば、撮像の際にユーザが被検者毎に変更するパラメータを自動算出し、また各種パラメータを算出された値に変更した状態でユーザ表示することができるため、自動的な撮像を行うことができる。
【符号の説明】
【0058】
100:撮像部、110:ガントリ、120:パルスシーケンス部
200:演算部、210:撮像制御部、220:画像再構成部、230:検査部位検出部、231:プリスキャン画像処理部、232:撮像位置算出部、240:スキャンパラメータ算出部、250:メモリ
300:記憶装置
400:UI部
図1
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