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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】フィブリノゲン測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/86 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
G01N33/86
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020098512
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021192009
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591258484
【氏名又は名称】株式会社エイアンドティー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中本 和哉
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-519635(JP,A)
【文献】特開平06-141895(JP,A)
【文献】特表平08-510908(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0238521(US,A1)
【文献】特開平06-094725(JP,A)
【文献】特開平05-219993(JP,A)
【文献】国際公開第2005/054839(WO,A1)
【文献】特表2013-536952(JP,A)
【文献】特許第7359538(JP,B2)
【文献】特許第7410652(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/49
G01N 33/86
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血漿フィブリノゲン濃度を算出する方法であって、
(i)磁性粒子を含有したフィブリノゲン定量乾燥試薬に検体を添加する工程、
(ii)検体の添加後に、試薬中の磁性粒子を運動させ、磁性粒子運動シグナルをモニタリングする工程、及び
(iii)前記工程(ii)でモニタリングされた磁性粒子運動シグナルについて、一定の時間間隔の磁性粒子運動シグナル比を複数算出する工程、
を含み、
前記の一定の時間間隔の磁性粒子運動シグナル比が一定の範囲内で一定時間保たれた区間の中の任意の点を起点とし、起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値に対して5~50%減衰した点の中の任意の点を終点とし、起点から終点までの時間を凝固時間とし、該凝固時間から全血フィブリノゲン濃度を算出し、
磁性粒子運動シグナルのピーク値から波形に基づくヘマトクリット値を算出し、前記の波形に基づくヘマトクリット値を用いて、前記の算出された全血フィブリノゲン濃度についてヘマトクリット補正を行い、検体についての血漿フィブリノゲン濃度を算出する、
前記血漿フィブリノゲン濃度を算出する方法。
【請求項2】
磁性粒子運動シグナル比の算出に用いる時間間隔が0.1秒~2秒から選択される一定の時間間隔である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
磁性粒子運動シグナル比の一定の範囲が1.0±0.2である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
磁性粒子運動シグナル比が一定の範囲内で保たれる時間区間が1.5秒間である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値に対して20~30%減衰した点の中の任意の点を終点とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
(i)トロンビン又はトロンビン活性を有するタンパク質、
(ii) 磁性粒子、
(iii) フィブリンモノマー会合阻害剤、
(iv) カルシウム塩、
(v) 乾燥試薬層溶解性向上剤、
(vi) 乾燥試薬層補強材、及び
(vii) pH緩衝剤
を含む、フィブリノゲン定量乾燥試薬を用いる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
血漿フィブリノゲン濃度を算出する方法であって、
(i)磁性粒子を含有したフィブリノゲン定量乾燥試薬に検体を添加する工程、
(ii)検体の添加後に、試薬中の磁性粒子を運動させ、磁性粒子運動シグナルをモニタリングする工程、及び
(iii)前記工程(ii)でモニタリングされた磁性粒子運動シグナルについて、一定の時間間隔の磁性粒子運動シグナル比を複数算出する工程、
を含み、
前記の一定の時間間隔の磁性粒子運動シグナル比が一定の範囲内で一定時間保たれた区間の中の任意の点を起点とし、起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値に対して5~50%減衰した点の中の任意の点を終点とし、起点から終点までの時間を凝固時間とし、該凝固時間から全血フィブリノゲン濃度を算出し、
磁性粒子運動シグナルのピーク値から波形に基づくヘマトクリット値を算出し、前記の波形に基づくヘマトクリット値を用いて、前記の算出された全血フィブリノゲン濃度についてヘマトクリット補正を行い、検体についての血漿フィブリノゲン濃度を算出する、
前記血漿フィブリノゲン濃度を算出する方法を実行するためのプログラムであって、
前記のプログラムは、フィブリノゲン定量測定装置に、程(ii)、及び、(iii)のみを行うよう指令を送るものであり、
前記フィブリノゲン定量測定装置に対し、
前記の一定の時間間隔の磁性粒子運動シグナル比が一定の範囲内で一定時間保たれた区間の中の任意の点を起点とし、起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値に対して5~50%減衰した点の中の任意の点を終点とし、起点から終点までの時間を凝固時間とし、該凝固時間から全血フィブリノゲン濃度を算出し、
磁性粒子運動シグナルのピーク値から波形に基づくヘマトクリット値を算出し、前記の波形に基づくヘマトクリット値を用いて、前記の算出された全血フィブリノゲン濃度についてヘマトクリット補正を行い、検体についての血漿フィブリノゲン濃度を算出する
よう指令を送る、前記プログラム。
【請求項8】
請求項7に記載のプログラムを記録した、情報記録媒体。
【請求項9】
請求項7に記載のプログラムが組込まれた、又は請求項8に記載の情報記録媒体が格納された、フィブリノゲン定量測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はフィブリノゲン測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブリノゲンは血液凝固カスケード及び止血において重要な役割を果たす。フィブリノゲンの定量は、プロトロンビン時間(PTともいう)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTTともいう)とともに、血液凝固能の異常・正常を調べる検査であり、臨床現場、特に臨床検査室で広く実施されている。
【0003】
ドライ試薬カードにサンプルを滴下し、簡便にフィブリノゲンを定量しうる技術としては、特許文献1に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬及び特許文献2に記載のフィブリノゲンの定量方法が挙げられる。特許文献1に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬は、血漿を希釈して使用するものである。特許文献2に記載の方法は、サンプルの調製が必要であり、全血検体であれば7.5~10倍希釈、血漿検体であれば15倍希釈してから、サンプルが試薬カードに滴下される。ところが、分娩室、手術室、ベッドサイド等で緊急でフィブリノゲンを分析する際には、希釈操作が必須となるシステムは使いにくい、という問題点があった。
【0004】
他方、無希釈検体を用いてフィブリノゲンを定量することのできる技術としては、特許文献3に記載の方法が挙げられる。特許文献3に記載の方法では、無希釈検体を用いることと関連して、すべてのフィブリノゲンをフィブリンモノマーに変換できるよう、大過剰のトロンビンが使用される。また、生じたフィブリンモノマーが会合する反応を抑制し、凝固時間を延長するために、フィブリンモノマー会合阻害剤(G-P-R-P-A-アミド)が使用されている。特許文献3に記載の方法は、液状試薬として、試薬類を精製水で予め溶解し、測定直前まで保温する必要がある。また、測定前にキャリブレーションが必要である。すなわち、特許文献3に記載の方法は、溶解試薬の保温やキャリブレーションが必要であり、緊急を要するフィブリノゲン定量に対応することは難しかった。なお、特許文献3に記載の技術はドライ試薬カード方式ではない。また、一般に、液状で反応させる試薬に適した組成と、ドライ試薬カードに適した組成とは異なる。
【0005】
近年、周術期医療及び周産期医療において、フィブリノゲン定量の重要性があらためて指摘されている。危機的大量出血では、血液中のフィブリノゲン濃度が大幅に低減する。そのため、患者の血液中フィブリノゲン濃度を調べ、濃度が150 mg/dL未満であれば、患者の生命維持のために、新鮮凍結血漿或いはフィブリノゲン濃縮製剤が投与される。また、新鮮凍結血漿或いはフィブリノゲン濃縮製剤を投与した後に、血液中フィブリノゲン濃度が正常範囲に戻ったか否か、を確認する必要がある。処置後に血液中のフィブリノゲン濃度が正常範囲に達していない場合には、患者の生命維持のためにさらなる処置が必要となるため、この測定には特に迅速性が求められる。
【0006】
すなわち、周術期医療及び周産期医療においては、フィブリノゲン定量がこのような目的に使用されるため、より迅速に、確度高く、血液中フィブリノゲン濃度を測定することのできるシステムが望まれていた。
【0007】
トロンビン試薬溶液を用いたフィブリノゲン定量方法で一般的に使用されているのは、Clauss VAによって見出されたトロンビン時間法(Clauss VA:Gerinnungsphysiologische schnellmethode zur bestimmung des fibrinogens, ActaHaematologica,17,237-246,1957)である。該トロンビン時間法は、過剰量のトロンビンによるフィブリノゲンのフィブリンへの変換速度が主としてフィブリノゲン濃度に依存することを利用したものである。
【0008】
該定量方法は、血漿を任意の緩衝液に希釈し、この希釈液を予備加温後、トロンビンを含む試薬溶液を加えて凝固時間を測定し、得られた凝固時間を予め作成された検量線でフィブリノゲン濃度に換算する方法である。該定量方法での凝固時間とは、トロンビン試薬溶液を添加してから終点までの時間を指す。該終点は、濁度上昇を検知する光学的測定あるいは粘度上昇を検知する物理学的測定で検出される。
【0009】
この定量方法およびこの定量方法に用いられるトロンビン試薬は広く世の中に受け入れられ、臨床検査室にて実施されている。しかしながら、凍結乾燥されたトロンビン試薬を使用時毎に精製水等で復元しなければならないこと(復元した溶液は長期の保存に耐えられない)、全血を遠心分離して血漿化しなくてはならないこと、血漿を希釈液で希釈しなくてはならないこと、血漿希釈液を予備加温しなければならないこと等、測定するまでに時間を要し、なおかつ工程が多いという点で、該定量方法は、周術期および周産期での使用に必ずしも適した定量方法とは言えなかった。
【0010】
前出のフィブリノゲン定量方法を改善したものとして、トロンビンを含有した乾燥試薬を用いてフィブリノゲンを定量する方法が挙げられる。その方法は、特開平06-094725号公報(特許第2776488号)、及び特開平06-141895号公報(特許第2980468号)に示されている。該定量法に用いられるトロンビンを含有した乾燥試薬は、トロンビン試薬溶液に磁性粒子を添加し、該混合液を反応スライドに一定量分注し、その後、凍結乾燥したものである。
【0011】
該乾燥試薬を用いた定量方法は、試料を試薬に添加後、所定の間隔で振動磁場と静止永久磁場の組合せをかけて、該乾燥試薬中に含有された磁性粒子を運動させ、該磁性粒子の運動シグナルを散乱光の変化量として捉え、その経時的変化から終点を検出するところに特徴がある。試料を添加してから該終点までの時間を凝固時間とし、得られた凝固時間を予め作成された検量線でフィブリノゲン濃度に換算する方法である。
【0012】
この方法が使用できる分析装置を例示すると、製品名CG02N(株式会社エイアンドティー販売)等が挙げられる。上記装置の場合は、0.5秒間隔で振動磁場と静止永久磁場の組合せがかけられ、同間隔で磁性粒子運動シグナルがモニターされる。
【0013】
上記装置を利用する場合、磁性粒子の運動シグナルの経時変化は、乾燥試薬中の粘度変化に逆対応(逆相関)する。終点は、磁性粒子の運動シグナルのピーク値に対して30%減衰した点として検出される。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、検体を添加してから直後に得られる磁性粒子運動シグナルのピーク値は、乾燥試薬中の構成成分が全部溶解した点、乾燥試薬の粘度が最小値となる点であると考えられる。ここで、運動シグナルのピーク値をXとし、それから任意の時間経過した時点のシグナル値をYとすると、シグナル強度の減衰が(X-Y)×100/X(%)となった時点の粘度上昇は、粘度の最小値に対してX/Y倍となった点に相当すると考えられる。即ち、磁性粒子の運動シグナルのピーク値に対して30%減衰した点は、粘度が検体を添加してからの粘度の最小値に対して1.43倍に上昇した点に相当すると考えられる。
【0014】
特開平06-141895号公報(特許第2980468号)では、上記技術を、トロンビン活性を有する蛋白及び磁性粒子を含有してなるフィブリノゲン定量乾燥試薬と検体を混合し、その凝固時間を測定することにより検体中のフィブリノゲンを定量する方法において、該乾燥試薬の粘度がその最小値に対して1.05倍~2.00倍に上昇した点を終点とし、検体を添加してから該終点までの時間を凝固時間とすることを特徴とするフィブリノゲンの定量方法と表現されている。
【0015】
この方法は、凍結乾燥されたトロンビン試薬を使用時毎に精製水等に復元しなくてもよく、希釈した検体を予備加温しなくても良いという点から有用な方法である。しかしながら、この定量方法は、血漿および全血検体を専用希釈液で希釈しなければならず、周術期医療および周産期医療で用いる定量方法としては必ずしも十分ではない点もあった。
【0016】
特開平06-094725号公報(特許第2776488号)に示されているトロンビンを含有した乾燥試薬でフィブリノゲンを定量した場合、無希釈血漿や無希釈全血を測定した時、得られる凝固時間が極端に短縮してしまい、血液中フィブリノゲン濃度に対応する凝固時間を検出することができない。そのため、血液中フィブリノゲン濃度に対応する凝固時間を得るためには、得られる凝固時間を延長させなければならなかった。
【0017】
本明細書においては、学術論文、特許出願および製造業者のマニュアルを含む多数の文書が引用されているが、これらの文書の開示は、本発明の特許性に関連するとはみなされない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開平06-094725号公報(特許第2776488号)
【文献】特開平06-141895号公報(特許第2980468号)
【文献】特開平05-219993号公報(特許第3469909号)
【非特許文献】
【0019】
【文献】Clauss VA:Gerinnungsphysiologische schnellmethode zur bestimmung des fibrinogens, Acta Haematologica, 17, 237-246, 1957.
【発明の概要】
【0020】
こうした問題に対処するために、本発明者らは、新規のフィブリノゲン定量乾燥試薬及びそれを用いた新規の定量できるフィブリノゲン定量法を開発した(PCT/JP2019/47592)。この方法は、新規のフィブリノゲン定量乾燥試薬に検体を添加した後、得られる磁性粒子運動シグナルを解析することにより起点(凝固反応開始点)を求め、これを利用してフィブリノゲンを定量するものである。
【0021】
PCT/JP2019/47592に記載の方法は全血フィブリノゲン濃度を直接算出することができるものである。しかしながら、全血フィブリノゲン濃度から血漿フィブリノゲン濃度を求めるためには、ヘマトクリット補正(Ht補正)を行う必要があった。ヘマトクリット補正とは、全血フィブリノゲン濃度を血漿フィブリノゲン濃度に換算する操作であり、次式により行うことができる。
[数1]
血漿フィブリノゲン濃度=全血フィブリノゲン濃度×100/(100-Ht値)
【0022】
上記の式のとおり、全血フィブリノゲン濃度から血漿フィブリノゲン濃度を算出するには、ヘマトクリット値(Ht値)が既知である必要がある。ところが、特許文献4に記載の方法は、ヘマトクリット値を直接算出するというものではなく、ヘマトクリット値は別の試薬及び測定装置により測定する必要があった。これは特許文献4に記載のフィブリノゲン測定試薬の他に、別途、ヘマトクリット測定試薬が必要であることを意味する。また、当該別途のヘマトクリット測定試薬に特化したヘマトクリット測定装置が必要となる。
【0023】
本開示は、上記の問題を少なくとも部分的に解決するために、血漿検体または全血検体の希釈操作を必要とせずに磁性粒子の運動量から血漿フィブリノゲン濃度を求める場合において、別途のヘマトクリット測定試薬及び/又はヘマトクリット測定装置を必要とすることなく、検体の血漿フィブリノゲン濃度を求めることができる方法及び装置を提供することを課題とする。
【0024】
本発明者らは、上記の問題に取り組み、無希釈のクエン酸加全血検体について磁性粒子を用いて全血フィブリノゲン濃度を求める際の、磁性粒子運動量の波形から検体のヘマトクリット値を求めることができるか鋭意検討した。そして、驚くべきことに、全血検体を測定試薬を含むカードに滴下した後の磁性粒子運動量の経時変化において、磁性粒子の運動量が最大となる点(すなわち波形のピーク点)における磁性粒子の運動量と、当該全血検体のヘマトクリット値との間に、一定の関係性があることを見出した。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、磁性粒子の運動量が最大となる点において、全血検体と試薬の混合物は、最も粘度が低い状態にあるといえる。そのため、磁性粒子の運動量が最大となる点における該混合物の粘度は、検体由来の粘度を最も反映しているものと考えられる。本発明者らは、前記の関係性に基づき、磁性粒子の運動量が最大となる点から全血検体のヘマトクリット値を求め、当該ヘマトクリット値を用いて全血フィブリノゲン濃度についてヘマトクリット補正を行うことにより、検体の血漿フィブリノゲン濃度を算出し、これを一実施形態として包含する本発明を完成させた。また、得られた血漿フィブリノゲン濃度を、従来のヘマトクリット値測定法及び従来法による血漿フィブリノゲン濃度測定法の結果と比較することにより、相関性が良好であることを確認し、本発明の有効性を検証した。
【0025】
本開示は、以下の実施形態を包含する。
[1] 血漿フィブリノゲン濃度を算出する方法であって、
(i)磁性粒子を含有したフィブリノゲン定量乾燥試薬に検体を添加する工程、
(ii)検体の添加後に、試薬中の磁性粒子を運動させ、磁性粒子運動シグナルをモニタリングする工程、及び
(iii)前記工程(ii)でモニタリングされた磁性粒子運動シグナルについて、一定の時間間隔の磁性粒子運動シグナル比を複数算出する工程、
を含み、
前記の一定の時間間隔の磁性粒子運動シグナル比が一定の範囲内で一定時間保たれた区間の中の任意の点を起点とし、起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値に対して5~50%減衰した点の中の任意の点を終点とし、起点から終点までの時間を凝固時間とし、該凝固時間から全血フィブリノゲン濃度を算出し、
磁性粒子運動シグナルのピーク値から波形に基づくヘマトクリット値を算出し、前記の波形に基づくヘマトクリット値を用いて、前記の算出された全血フィブリノゲン濃度についてヘマトクリット補正を行い、検体についての血漿フィブリノゲン濃度を算出する、
前記血漿フィブリノゲン濃度を算出する方法。
[2] 磁性粒子運動シグナル比の算出に用いる時間間隔が0.1秒~2秒から選択される一定の時間間隔である、実施形態1に記載の方法。
[3] 磁性粒子運動シグナル比の一定の範囲が1.0±0.2である、実施形態1に記載の方法。
[4] 磁性粒子運動シグナル比が一定の範囲内で保たれる時間区間が1.5秒間である、実施形態1~3のいずれかに記載の方法。
[5] 起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値に対して20~30%減衰した点の中の任意の点を終点とする、実施形態1~4のいずれかに記載の方法。
[6] (i)トロンビン又はトロンビン活性を有するタンパク質、
(ii) 磁性粒子、
(iii) フィブリンモノマー会合阻害剤、
(iv) カルシウム塩、
(v) 乾燥試薬層溶解性向上剤、
(vi) 乾燥試薬層補強材、及び
(vii) pH緩衝剤
を含む、フィブリノゲン定量乾燥試薬を用いる、実施形態1~5のいずれかに記載の方法。
[7] 実施形態1~6のいずれかに記載の方法を実行するための、プログラム。
[8] 実施形態7に記載のプログラムを記録した、情報記録媒体。
[9] 実施形態7に記載のプログラムが組込まれた、又は実施形態8に記載の情報記録媒体が格納された、フィブリノゲン定量測定装置。
【発明の効果】
【0026】
本開示により、別途のヘマトクリット値測定用試薬及び装置を必要とせず、血漿フィブリノゲン濃度を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】フィブリノゲン定量乾燥試薬に使用する代表的な反応スライドの例である。
図2図1の反応スライドの部分分解図である。
図3】予備的実験1における血漿中フィブリノゲン濃度と凝固時間の相関性試験の結果である。血漿中フィブリノゲン濃度と凝固時間の濃度直線性を示す。
図4】予備的実験3におけるClauss法(Clauss VAによって見出されたトロンビン時間法、出典:Gerinnungsphysiologische schnellmethode zur bestimmung des fibrinogens, Acta Haematologica,17,237-246,1957)で測定した結果と本開示の試薬で測定した結果との相関性試験の結果である(従来法との相関性)。
図5】予備的実験4における本開示の試薬で血漿を測定した結果と全血を測定した結果との相関性試験の結果である(検体種間相関性)。
図6】本開示の試薬で測定した時の磁性粒子運動シグナルの経時変化を示す(本開示のフィブリノゲン定量乾燥試薬)。
図7】従来技術の試薬組成に準じて作製した凍結乾燥試薬で測定した時の磁性粒子運動シグナルの経時変化を示す。
図8】血漿測定前、及び血漿測定後の、ドライ試薬カードの外観の写真である。
図9】予備的実験7における従来の定量法による検量線である(比較例2)。
図10】予備的実験7における本開示の定量法による検量線である(本開示)。
図11】予備的実験8におけるClauss法でのフィブリノゲン定量値と本開示の定量法でのフィブリノゲン定量値との相関性試験の結果である。すなわちClauss法との相関性 (血漿測定)を示す。
図12】予備的実験9における測定試料をクエン酸加血漿とした場合のフィブリノゲン定量値と測定試料をクエン酸加全血とした場合のフィブリノゲン定量値との相関性試験の結果である(検体種間相関性)。
図13】本開示の定量法に関し、磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期と磁性粒子運動シグナル比の算出周期と磁性粒子運動シグナル比の算出に用いる時間間隔とが同じである例を示す。
図14】本開示の定量法に関し、磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期と磁性粒子運動シグナル比の算出周期が同じであり、磁性粒子運動シグナル比の算出に用いる時間間隔が異なる例を示す。
図15】本開示の定量法に関し、磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期と磁性粒子運動シグナル比の算出周期と磁性粒子運動シグナル比の算出に用いる時間間隔とが全て異なる例を示す。
図16】本開示の定量法に関し、磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期が変化する例を示す。
図17】本開示の定量法に関し、磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期も磁性粒子運動シグナル比の算出周期も変化する例を示す。
図18】本開示の定量法に関し、磁性粒子運動シグナルの比を連続的に算出した後、断続的に算出する例を示す。
図19】本開示の定量法に関し、磁性粒子運動シグナルの比を断続的に算出した後、連続的に算出する例を示す。
図20】磁性粒子の運動量の経時変化を示すグラフである。(本図では)波形の変化量が一定の範囲内で推移した最初の点を凝固開始点とする(中空の丸印)。また磁性粒子の運動量が最大である点が波形ピーク点である(中空の三角印)。凝固終点を(本図では)波形ピーク点から運動量が30%低下した点とする(中空の四角印)。凝固時間を、凝固開始点から凝固終点までにかかった時間とする。
図21】本開示の血漿フィブリノゲン濃度算出の手法と、従来の血漿フィブリノゲン濃度決定法の違いを示すフローチャートである。図中、測定Ht値は、別途の測定試薬を用いて測定したヘマトクリット値を示す。また、波形Ht値は、波形ピーク値から算出したヘマトクリット値を示す。
図22】測定Ht値と波形ピーク値との相関グラフである。
図23】測定Ht値と波形Ht値の相関グラフである。
図24】従来法により測定した血漿フィブリノゲン濃度(従来法)と、本開示の方法により算出した血漿フィブリノゲン濃度(新手法)の相関グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本開示を説明する。
【0029】
ある実施形態において、本開示は、周産期および周術期での使用に耐えうるフィブリノゲン定量方法を提供する。この方法では、磁性粒子運動シグナルから、検体の全血フィブリノゲン濃度を定量することができるだけでなく、別途のヘマトクリット値測定試薬やヘマトクリット値測定装置を使用せずとも、磁性粒子運動シグナルの波形からヘマトクリット値を算出し、これを用いて全血フィブリノゲン濃度についてヘマトクリット補正を行い、血漿フィブリノゲン濃度を算出することができる。
【0030】
全血フィブリノゲン濃度定量方法
まず、全血フィブリノゲン濃度定量方法について説明する。全血フィブリノゲン濃度定量方法は、(i)磁性粒子を含有したフィブリノゲン定量乾燥試薬に検体を添加する工程、(ii)検体の添加後に、試薬中の磁性粒子を運動させ、磁性粒子運動シグナルをモニタリングする工程、及び(iii)前記工程(ii)でモニタリングされた磁性粒子運動シグナルについて、一定の時間間隔の磁性粒子運動シグナル比を算出する工程、を含む。一定の時間間隔の磁性粒子運動シグナル比は、複数算出することができる。このとき、前記の一定の時間間隔の磁性粒子運動シグナル比が一定の範囲内で一定時間保たれた区間の中の任意の点を起点とし、起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値に対して5~50%減衰した点の中の任意の点を終点とし、起点から終点までの時間を凝固時間とすることができる。工程(ii)及び(iii)は同時に行ってもよい。
【0031】
本明細書において、磁性粒子運動シグナルとは、工程(ii)において、検体の添加後に所定の間隔で振動磁場と静止永久磁場の組合せをかけて、試薬中に含有された磁性粒子を運動させ、光を当てた時の散乱光の変化量をいう(本明細書においてSnと表記することがある)。本明細書では、便宜上、試薬添加の時点に観測する磁性粒子運動シグナルをS0とする。
【0032】
本明細書において、磁性粒子運動シグナルをモニターする時刻とは、磁性粒子運動シグナルを測定する時間点をいう(本明細書においてmmnと表記することがある)。また図面において、磁性粒子運動シグナルをモニターする時刻を、黒塗の丸記号にて表記することがある。本明細書では、便宜上、磁性粒子運動シグナルをモニターする時刻として、試料添加の時点を、0秒とする(mm0)。なお、これは基準を設けるための単なる便宜に過ぎず、最終的に凝固時間が算出される限り、試料添加の時点を、例えば-5秒等と適当に設定してもよい。磁性粒子運動シグナルのモニタリングは連続的に行ってもよく、又は断続的に行ってもよい。
【0033】
本明細書において、磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期とは、磁性粒子運動シグナルのモニタリングを行う周期、すなわち磁性粒子運動シグナルのモニタリングを行う時間間隔をいう。例えば磁性粒子運動シグナルS0、S1、S2、S3、S4・・・をモニターする時刻をmm0、mm1、mm2、mm3、mm4、・・・とすると、磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期は、(mm1-mm0)、(mm2-mm1)、(mm3-mm2)、(mm4-mm3)、・・・と表すことができる。磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期は一定とすることができる。また、磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期を変化させてもよい。磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期を図面において矢印記号にて表記することがある(←→)。例えば磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期は、0.1秒~2秒から選択され得る。
【0034】
上記の工程(iii)において、工程(ii)のモニタリングされた磁性粒子運動シグナルについて、一定の時間間隔の磁性粒子運動シグナル比を算出することができる。本明細書において、磁性粒子運動シグナルの比を算出する時刻とは、磁性粒子運動シグナルの比を算出するタイミングのことをいう(本明細書においてmrnと表記することがある)。また図面において、磁性粒子運動シグナルの比を算出する時刻を、白抜きの丸記号にて表記することがある。測定装置で例示すると、試料添加時の磁性粒子運動シグナルが測定され(S0)、次いで第2の磁性粒子運動シグナル(S1)が測定された時点で、(S1/S0)という磁性粒子運動シグナルの比が算出可能となる。このような、磁性粒子運動シグナルの比が算出可能となった時点を、本明細書では、磁性粒子運動シグナルの比を算出する時刻という。実際には装置が計算処理を行うため若干の時間差があり、S1が測定された時点と、磁性粒子運動シグナルの比を算出する時刻mr1とは、厳密には異なる。しかしながら、本明細書では便宜上、磁性粒子運動シグナルの比が算出可能となった時点を、磁性粒子運動シグナルの比を算出する時刻とする。なお、これはS1が測定された時点で、すなわち磁性粒子運動シグナルの比が算出可能となった時点で、直ちに装置が磁性粒子運動シグナルの比を算出しなければならないことを意味するものではない。例えば装置は、S0、S1が測定された後、すなわち磁性粒子運動シグナルの比が算出可能となった後、当該測定シグナルを一時的にメモリに保持し、次いで所定時間後に、磁性粒子運動シグナルの比を算出してもよい。
【0035】
本明細書において、磁性粒子運動シグナルの比の算出周期とは、磁性粒子運動シグナルの比を算出する周期、すなわち、任意の第1の磁性粒子運動シグナルの比を算出する時刻と任意の第2の磁性粒子運動シグナルの比を算出する時刻との間の時間間隔をいう。例えば、磁性粒子運動シグナルをモニターする時刻を、mm0、mm1、mm2、mm3、mm4、・・・とし、磁性粒子運動シグナルの比を算出する時刻を、mr1、mr2、mr3、mr4・・・とし、mm1=mr1、mm2=mr2、mm3=mr3、mm4=mr4・・・とすると、磁性粒子運動シグナルの比の算出周期は、(mr2-mr1)、(mr3-mr2)、(mr4-mr3)・・・と表すことができる。図面において、磁性粒子運動シグナルの比の算出周期を、白抜きの太い矢印記号にて表記することがある。磁性粒子運動シグナルの比の算出周期は一定とすることができる。また、磁性粒子運動シグナルの比の算出周期を変化させてもよい。磁性粒子運動シグナルの比の算出周期は、0.1秒~2秒から選択され得る。
【0036】
磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期と、磁性粒子運動シグナルの比の算出周期とは、同一であってもよく、又は異なってもよい。例えば、限定するものではないが、磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期と、磁性粒子運動シグナルの比の算出周期とを、共に、0.5秒とし得る。例えば、限定するものではないが、磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期を0.1秒とし、磁性粒子運動シグナルの比の算出周期を0.5秒とし得る。
【0037】
本明細書において、磁性粒子運動シグナル比の算出に用いる時間間隔とは、S2/S1というシグナル比を算出する場合、S1をモニターした時刻からS2をモニターした時刻までの時間間隔をいう。例えば磁性粒子運動シグナルをモニターする時刻を、mm0、mm1、mm2、mm3、mm4、・・・とし、mm0でモニターされる磁性粒子運動シグナルをS0、mm1でモニターされる磁性粒子運動シグナルをS1、mm2でモニターされる磁性粒子運動シグナルをS2、mm3でモニターされる磁性粒子運動シグナルをS3、mm4でモニターされる磁性粒子運動シグナルをS4、・・・とし、磁性粒子運動シグナルの比を算出する時刻を、mr1、mr2、mr3、mr4、・・・とし、mm1=mr1、mm2=mr2、mm3=mr3、mm4=mr4とし、mr1で算出されるシグナル比がS1/S0、mr2で算出されるシグナル比がS2/S1、mr3で算出されるシグナル比がS3/S2、mr4で算出されるシグナル比がS4/S3とすると、磁性粒子運動シグナル比の算出に用いる時間間隔は、(mm1-mm0)、(mm2-mm1)、(mm3-mm2)、(mm4-mm3)等となる。図面において磁性粒子運動シグナル比の算出に用いる時間間隔を、黒塗の太矢印記号にて表記することがある。なお、S0とS1との間に、(S1/S0)というシグナル比の算出に用いられなかった、別のシグナルが存在してもかまわない。すなわち、測定点(測定シグナル)を、全て計算に用いる必要はない。磁性粒子運動シグナル比の算出に用いる時間間隔は一定とすることが好ましい。即ち、前出の例で説明すると、(mm1-mm0)=(mm2-mm1)=(mm3-mm2)=(mm4-mm3)・・・と表すことができる。磁性粒子運動シグナル比の算出に用いる時間間隔は、0.1秒~2秒から選択される一定の時間間隔、例えば0.5秒、1秒、1.5秒または2秒間隔であり、好ましくは1秒間隔であり得る。
【0038】
使用するフィブリノゲン定量試薬としては、高活性のトロンビンまたは高活性のトロンビン様タンパク、磁性粒子、ヘパリン中和剤、フィブリンモノマー会合阻害剤、カルシウム塩、アミノ酸またはその塩もしくは糖類を含有するフィブリノゲン定量乾燥試薬が挙げられる。
【0039】
フィブリノゲン定量乾燥試薬の調製方法を例示すれば、まず、フィブリンモノマー会合阻害剤、およびアミノ酸またはその塩もしくは糖類を含有した緩衝液を作製後、高活性のトロンビンまたは高活性のトロンビン様タンパクを該緩衝液に溶解し、次いで、該溶解液に磁性粒子を添加して最終溶液とした後、該最終溶液を任意の反応スライドに一定量分注し、凍結後、凍結乾燥する方法が採用できる。緩衝液はヘパリン中和剤及び/又は消泡剤をさらに含みうる。
【0040】
上記調製方法において使用する反応スライドは、フィブリノゲン測定時、フィブリノゲン定量乾燥試薬内の粘度上昇を磁性粒子の運動シグナルの減衰として光学的にモニターできる反応スライドであれば、特に限られるものではない。例示すると、図1および図2に示すような反応スライドが挙げられる。図1は、反応スライドを上方から見た図である。図1の点線で囲んだ部分が、フィブリノゲン定量乾燥試薬を調製するための最終溶液の分注口と試料添加口とからなる反応セル部である。反応セル部の構造の詳細の図2に示す。まず、白色のポリエステル板Cにまず、透明色のポリエステル板Bを貼合わせ、次に、貼り合わせた透明色のポリエステル板Bの上にさらに透明色のポリエステル板Aを貼り合わせて反応セル部を構成する。まず、界面活性剤水溶液を図1に示す分注口から充填し、吸引除去することにより、Dの部分を親水化する。その後、フィブリノゲン定量乾燥試薬用最終溶液を該分注口から注入することで、Dの部分に該最終溶液が充填される。この種の反応スライドを使用した場合、通常上記のフィブリノゲン定量乾燥試薬用最終溶液を20~30μL分注することができる。このような磁性粒子を用いたフィブリノゲンの定量方法については、例えば特許文献2を参照のこと。参照によりその全内容を本明細書に組み入れる。
【0041】
図1に示すような反応スライドのことを、本明細書においてドライ試薬カードということがある。すなわちフィブリノゲン定量乾燥試薬は、ドライ試薬カードに適用することができる。
【0042】
限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬の乾燥試薬層は、(i)検体滴下後すみやかに溶解するものでありうる。限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬の乾燥試薬層は、(ii)試薬間で、溶解速度に差がないか、又は実質的に差が無いものでありうる。限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬の乾燥試薬層は、(iii)耐衝撃性(衝撃耐性ともいう)を有するものでありうる。限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、(iv)乾燥試薬層が均一であるものでありうる。限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、(v)前記(i)~(iv)を満たすために添加する物質が反応に影響を及ぼさないか、又は実質的に反応に影響を及ぼさないものでありうる。限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、(i)~(v)の全てを満たすものでありうる。
【0043】
以下に述べるフィブリノゲン定量乾燥試薬中の各構成成分の含量は、特に断りがない限り、図1および図2に示した反応スライドに分注する最終溶液1mL当たりの重量および活性を示す。
【0044】
限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、
(i)トロンビン又はトロンビン活性を有するタンパク質、
(ii) 磁性粒子、
(iii) フィブリンモノマー会合阻害剤、
(iv) カルシウム塩、
(v) 乾燥試薬層溶解性向上剤、
(vi) 乾燥試薬層補強材、及び
(vii) pH調整剤(pH緩衝剤)
を必須成分として含むものでありうる。限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、さらに任意成分として、ヘパリン中和剤及び/又は消泡剤を含み得る。限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、無希釈の血漿又は全血検体を測定するためのものであり得る。
【0045】
本明細書において「無希釈の全血」とは、採血された後の全血サンプルに、さらに希釈緩衝液を添加するなどの希釈操作を行っていない、全血をいう。したがって採血時に、採血管に含まれるクエン酸などにより血液が希釈されたとしても(このような血液を一般的にクエン酸加全血という)、採血後の全血に対して特段の希釈操作が行われていなければ、それは本明細書にいう無希釈の全血に該当するものとする。したがって無希釈の全血には、希釈操作の行われていないクエン酸加全血や、ヘパリン加全血が包含される。また本明細書において「無希釈の血漿」とは、無希釈の全血を遠心して得られる上清であって、さらに希釈緩衝液を添加するなどの希釈操作を行っていない、血漿をいう。したがって無希釈の血漿には、希釈操作の行われていないクエン酸加血漿や、ヘパリン加血漿が包含される。なお本明細書において、無希釈と未希釈は同義とする。
【0046】
限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、トロンビン又はトロンビン活性を有するタンパク質を含み得る。本明細書において、トロンビン活性を有するタンパク質をトロンビン様タンパク質ということがある。本明細書において、トロンビン活性とは、(i)フィブリノゲンのフィブリンモノマーへの変換、及び(ii)カルシウムイオンの存在下での、第XIII因子の、XIIIaへの活性化、の両方の反応を進めることができる活性をいう。また、このような活性を有するタンパク質をトロンビン活性を有するタンパク質という。ただし、これはある単一のタンパク質が前記の(i)及び(ii)の反応の両方を進めなければならないことを意味するものではない。すなわち、トロンビン活性として、(i)フィブリノゲンのフィブリンモノマーへの変換反応を進める第1タンパク質と、(ii)第XIII因子のXIIIaへの活性化反応を進める第2タンパク質との混合物を使用することができる。第1タンパク質の例としては、ヘビトロンビン(ヘビ由来トロンビン様酵素)が挙げられる。第2タンパク質は、第XIII因子のAサブユニットのN末端から数えて37番目のアルギニンと38番目のグリシンの間を特異的に切断する作用を持つタンパク質が考えられる。トロンビン又はトロンビン活性を有するタンパク質としては、ウシトロンビン、ヒトトロンビン並びにそれらの組換え体が挙げられるが、これに限らない。ある実施形態において、トロンビン又はトロンビン活性を有するタンパク質は、ウシトロンビンであり得る。ウシトロンビンは凍結乾燥品として一般に市販され容易に入手できるものを使用しうる。また、トロンビン又はトロンビン活性を有するタンパク質としては、ヘビトロンビン(ヘビ由来トロンビン様酵素)と第XIII因子のAサブユニットのN末端から数えて37番目のアルギニンと38番目のグリシンの間を特異的に切断する作用を持つタンパク質との組み合わせが挙げられるが、これに限らない。フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるトロンビン又はトロンビン活性を有するタンパク質の活性は特に限定されないが、ウシトロンビン活性量としては、例えば100~500NIHU/1mL最終溶液の範囲で選べば良いが、150~400NIHU/1mL最終溶液の範囲が好適である。
【0047】
限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、磁性粒子を含み得る。フィブリノゲン定量乾燥試薬に用いる磁性粒子としては、公知のものを何ら制限なく使用することができる。磁性粒子としては、例えば、四三酸化鉄粒子、三二酸化鉄粒子、鉄粒子、コバルト粒子、ニッケル粒子、酸化クロム粒子等が挙げられるが、これに限らない。例えば、磁性粒子は四三酸化鉄の微粒子であり得る。例えば、得られる磁性粒子の運動シグナルの強度の点で四三酸化鉄の微粒子が好適に使用され得る。磁性粒子の粒子径は、特に限定されないが、平均粒子径0.05~5μm、0.1~3.0μm、例えば0.25~0.5μmとすることができるが、これに限らない。限定するものではないが、磁性粒子は、平均粒子径が0.1~3.0μmのものであり得る。本明細書において平均粒子径とは、特に断らない限り、レーザー回折・散乱法により決定した粒度分布における積算値50%での粒径(D50)をいう。フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有される磁性粒子の量は、特に限定されず、例えば4~40mg/1mL最終溶液の範囲が好適である。
【0048】
限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、任意成分として、ヘパリン中和剤を含み得る。ヘパリン中和剤としては、公知のものを何ら制限なく使用することができ、例えばポリブレン、硫酸プロタミン、およびヘパリナーゼ等が挙げられるがこれに限らない。例えばヘパリン中和剤としては、保存安定性の良さ、価格面からポリブレンを好適に使用することができる。フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるヘパリン中和剤の量としては、適宜設定すればよく、特に制限されない。例えばヘパリン中和剤としてポリブレンを用いる場合、フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるポリブレン量は、例えば50~300μg/1mL最終溶液の範囲が好適である。
【0049】
限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、フィブリンモノマー会合阻害剤を含み得る。フィブリノゲン定量乾燥試薬に用いる(含まれる)フィブリンモノマー会合阻害剤としては、公知のものを何ら制限なく使用することができる。フィブリンモノマー会合阻害剤としては、例えば、GPRP(グリシン-プロリン-アルギニン-プロリン)ペプチドおよびその誘導体、例えばGPRP-アミド、GHRP(グリシン-ヒスチジン-アルギニン-プロリン)ペプチドおよびその誘導体、例えばGHRP-アミド等が挙げられるが、これに限らない。別の実施形態では、フィブリンモノマー会合阻害剤はGPRPA(グリシン-プロリン-アルギニン-プロリン-アラニン)ペプチドおよびその誘導体、例えばGPRPA-アミドであり得る。限定するものではないが、フィブリンモノマー会合阻害剤としては、フィブリノゲンに対する親和性の面でGPRPペプチドおよびその誘導体が好適である。該ペプチドは、フィブリノゲンにトロンビンが反応し、フィブリンゲンのα鎖からフィブリノペプチドAの遊離によって露出されるknob ‘A’のアナログであり、該ペプチドがknob ‘A’の代わりにγ鎖に存在するhole ‘a’ に結合することにより、フィブリンモノマーの会合を阻害する(John WW:Mechanisms of fibrin polymerization and Clinical implications, Blood, 121(10), 1712-1719, 2013)。
【0050】
フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるフィブリンモノマー会合阻害剤の量としては、適宜設定すればよく、特に制限されない。フィブリンモノマー会合阻害剤としてGPRPアミドを用いる場合、フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるGPRPアミドの量としては、100~300μg/1mL最終溶液の範囲が好適である。
【0051】
限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、カルシウム塩を含み得る。該乾燥試薬に用いるカルシウム塩は、公知のものが何ら制限なく使用できる。例えば、無機酸とカルシウムとの塩として、塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、および炭酸カルシウム等が挙げられる。また、有機酸とカルシウムとの塩としては、乳酸カルシウムおよび酒石酸カルシウム等が挙げられる。限定するものではないが、カルシウム塩として、塩化カルシウムが好適である。フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるカルシウム塩の量は、適宜設定すればよく、特に制限されない。カルシウム塩として塩化カルシウム・2水和物を用いる場合、フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させる塩化カルシウム・2水和物量は、0.2~2mg/1mL最終溶液の範囲が好適である。
【0052】
限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、乾燥試薬層溶解性向上剤を含み得る。乾燥試薬層溶解性向上剤としては、アミノ酸またはその塩もしくは糖類が挙げられる。アミノ酸またはその塩もしくは糖類としては、中性アミノ酸若しくはその塩、酸性アミノ酸若しくはその塩、塩基性アミノ酸若しくはその塩、単糖類及び多糖類のいずれを使用しても良い。代表的な酸性アミノ酸若しくはその塩としては、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、アスパラギン酸、アスパラギン酸ナトリウム等が挙げられる。代表的な中性アミノ酸またはその塩としては、グリシン、グリシン塩酸塩、アラニン等が挙げられる。代表的な塩基性アミノ酸またはその塩としては、リジン、リジン塩酸塩、アルギニン等が挙げられる。さらに、単糖類としては、グルコース、フルクトース等が挙げられる。また、多糖類としては、ショ糖、乳糖、デキストリン等が挙げられる。そのうち、フィブリノゲン定量乾燥試薬に試料を添加した際の試薬の溶解性が良好な点、得られる磁性粒子の運動シグナルの再現性が良好な点、および耐衝撃性が良好な点から、グリシンが最も好ましい。すなわち、限定するものではないが、乾燥試薬層溶解性向上剤はグリシンであり得る。
【0053】
フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させる乾燥試薬層溶解性向上剤、例えばアミノ酸またはその塩もしくは糖類の量は、適宜設定すればよく、特に制限されない。乾燥試薬層溶解性向上剤としてグリシンを用いる場合、フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるグリシン量は、1.5重量%以上、1.6重量%以上、1.7重量%以上、1.8重量%以上、1.9重量%以上、2.0重量%以上、2.1重量%以上、2.2重量%以上、2.3重量%以上、2.4重量%以上、2.5重量%以上、2.6重量%以上、2.7重量%以上、2.8重量%以上、2.9重量%以上、3.0重量%以上、3.1重量%以上、3.2重量%以上、3.3重量%以上、3.4重量%以上、3.5重量%以上、3.6重量%以上、3.7重量%以上、3.8重量%以上、3.9重量%以上、4.0重量%以上、4.1重量%以上、4.2重量%以上、4.3重量%以上、4.4重量%以上、4.5重量%以上、4.6重量%以上、4.7重量%以上、4.8重量%以上、4.9重量%以上、例えば5.0重量%とすることができる。乾燥試薬層溶解性向上剤としてグリシンを用いる場合、フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるグリシン量は、5.0重量%以下、4.9重量%以下、4.8重量%以下、4.7重量%以下、4.6重量%以下、4.5重量%以下、4.4重量%以下、4.3重量%以下、4.2重量%以下、4.1重量%以下、4.0重量%以下、3.9重量%以下、3.8重量%以下、3.7重量%以下、3.6重量%以下、3.5重量%以下、3.4重量%以下、3.3重量%以下、3.2重量%以下、3.1重量%以下、3.0重量%以下、2.9重量%以下、2.8重量%以下、2.7重量%以下、2.6重量%以下、2.5重量%以下、2.4重量%以下、2.3重量%以下、2.2重量%以下、2.1重量%以下、2.0重量%以下、1.9重量%以下、1.8重量%以下、1.7重量%以下、1.6重量%以下、例えば1.5重量%とすることができる。本明細書において、フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるグリシン量は下限値と上限値とを、前記のいずれかの値に設定した、あらゆる組合せを包含する。例えばフィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるグリシン量は1.5~5.0重量%、2.0~5.0重量%、2.5~5.0重量%、3.0~5.0重量%、3.5~5.0重量%、4.0~5.0重量%、4.5~5.0重量%、1.5~4.5重量%、2.0~4.5重量%、2.5~4.5重量%、3.0~4.5重量%、3.5~4.5重量%、4.0~4.5重量%、1.5~4.0重量%、2.0~4.0重量%、2.5~4.0重量%、3.0~4.0重量%、3.5~4.0重量%、1.5~3.5重量%、2.0~3.5重量%、2.5~3.5重量%、3.0~3.5重量%、1.5~3.0重量%、2.0~3.0重量%、2.5~3.0重量%、1.5~2.5重量%、2.0~2.5重量%、又は1.5~2.0重量%とし得る。限定するものではないが、乾燥試薬層溶解性向上剤としてグリシンを用いる場合、フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるグリシン量は1.5~4.0重量%の範囲が好適である。限定するものではないが、乾燥試薬層溶解性向上剤としてグリシンを用いる場合、フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるグリシン量は2.0~3.0重量%の範囲が好適である。無希釈血漿を測定する場合は、乾燥試薬層溶解性向上剤としてグリシンを用いる場合、フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるグリシン量は、上記の範囲、例えば1.5%~4.0重量%とすることができる。無希釈全血を測定する場合は、乾燥試薬層溶解性向上剤としてグリシンを用いる場合、フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるグリシン量は、上記の範囲、例えば1.5重量%以上とすることができる。例えば無希釈全血を測定する場合において、乾燥試薬層溶解性向上剤としてグリシンを用いるとき、フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるグリシン量は、1.5~5.0重量%、1.5~4.5重量%、例えば1.5~4.0重量%とすることができる。無希釈血漿でも無希釈全血でも測定可能とする場合には、乾燥試薬層溶解性向上剤としてグリシンを用いる場合、フィブリノゲン定量乾燥試薬に含有させるグリシン量は、これらの範囲の種々の組み合わせでもよい。なお、本明細書において重量%は、特に断らない限り、最終溶液における濃度、すなわち終濃度である。
【0054】
限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、pH緩衝剤(pH調整剤ともいう)を含む。凍結乾燥に先立ち、トロンビン活性を有するタンパク、磁性粒子、ヘパリン中和剤、フィブリンモノマー会合阻害剤、カルシウム塩、乾燥試薬層溶解性向上剤を含有させる緩衝液は、pH=6.0~8.0の間で緩衝作用があるものであれば特に限定されない。ある実施形態においてpH調整剤(pH緩衝剤)は、試薬のpHをpH6.0~pH8.0、例えばpH約7.35やpH約7.5に調整するものであり得る。緩衝剤としては、例示すれば、40mM HEPES緩衝液(pH=7.35)または40mM Tris-HCl緩衝液(pH=7.5)等が好適なものとして挙げられる。
【0055】
限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、乾燥試薬層補強材を含む。乾燥試薬層補強材としては、ウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミンなどが挙げられるが、これに限らない。該定量乾燥試薬に含有させる乾燥試薬層補強材の量は、乾燥試薬層補強材としてウシ血清アルブミンを使用する場合、0.6~2.0mg/1mL最終溶液の範囲が好適である。
【0056】
限定するものではないが、フィブリノゲン定量乾燥試薬は、任意成分として、消泡剤を含み得る。消泡剤としては、ソルビタンモノラウレート、シリコーン系消泡剤、ポリプロピレングリコール系消泡剤が挙げられるが、これに限らない。該定量乾燥試薬に含有させる消泡剤の量は、消泡剤としてソルビタンモノラウレートを使用する場合、約0.001~約0.010重量%の範囲が好適である。
【0057】
上記の成分を含む緩衝液溶液の乾燥方法は、フィブリノゲン定量乾燥試薬の溶解性、得られる磁性粒子の運動シグナルの強度、再現性の点から凍結乾燥法が好ましい。風乾による乾燥では、試薬の溶解性が悪いため、磁性粒子の運動シグナルが弱く終点の検知が難しい。また、風乾試薬の場合、たとえ終点を見いだせたとしても終点から求められる凝固時間がフィブリノゲン濃度に対応しない場合も生じる。
【0058】
凍結および凍結乾燥法は特に限定されない。例示すると、フィブリノゲン定量乾燥試薬用最終溶液を図1に示した分注口から反応スライドに分注した後、該反応スライドを-40℃以下に保温したフリーザーに一昼夜保管して凍結する、または棚温を-40℃以下にした凍結乾燥機に該反応スライドをセットし、一昼夜保管して凍結する、あるいは、該反応スライドを液体窒素で瞬間凍結する等の一般的な凍結方法が使用できる。また、凍結した反応スライドの凍結乾燥法も特に限定されない。凍結乾燥法を例示すると、凍結した反応スライドを真空状態で-30℃から-20℃まで24時間で直線的に温度上昇させた後、次いで、-20℃から30℃まで20時間で直線的に温度上昇させ、最後に30℃で3時間保った後、乾燥空気で真空解除する方法が挙げられる。
【0059】
上記凍結乾燥後のフィブリノゲン定量乾燥試薬は、直ちに、除湿された環境下で、アルミフィルムで密封することが好ましい。該除湿された環境は特に制限されないが、22~27℃の室温で相対湿度を35%以下とした環境が好ましい。また、アルミフィルムの仕様は特に制限されないが、ポリエステルフィルム(厚さ12μm)、ポリエチレン樹脂(厚さ15μm)、アルミニウム箔(厚さ9μm)、ポリエチレン樹脂(厚さ20μm)、ポリエチレンフィルム(厚さ30μm)をACコート剤で接着させた5層構造のアルミフィルム(厚さ86μm)が望ましい。該アルミフィルムでフィブリノゲン定量乾燥試薬全体を包容し、熱溶着で密封する。フィブリノゲン定量乾燥試薬は、それを用いてフィブリノゲン定量するまで、密封された状態で冷蔵保存することが好ましい。
【0060】
フィブリノゲン定量乾燥試薬を用いてのフィブリノゲン定量は、検体を試薬に添加して試薬を溶解させた後、振動磁場と静止永久磁場の組合せをかけて試薬中に含有された磁性粒子を運動させ、該磁性粒子の運動シグナルを散乱光の変化量として捉え、その経時的変化から凝固点を検出し、起点(凝固反応開始点)から該凝固点までの時間を凝固時間として算出する装置を用いて行うことができる。得られる凝固時間は、検体中フィブリノゲン濃度に相関する。
【0061】
フィブリノゲン定量方法において、磁性粒子運動シグナル比の一定の範囲は、特に制限されない。例えば磁性粒子運動シグナル比の一定の範囲は1.0±0.05~1.0±0.2の範囲、例えば1.0±0.2、1.0±0.19、1.0±0.18、1.0±0.17、1.0±0.16、1.0±0.15、1.0±0.14、1.0±0.13、1.0±0.12、1.0±0.11、1.0±0.1、1.0±0.09、1.0±0.08、1.0±0.07、1.0±0.06、1.0±0.05とすることができる。限定するものではないが、磁性粒子運動シグナル比の一定の範囲は1.0±0.05~1.0±0.15の範囲が好適であるが、特に好適なのは、得られる凝固時間の再現性が良い点から、1.0±0.1である。別の言い方をすれば、磁性粒子運動シグナル比の一定の範囲は0.8~1.2の範囲、0.81~1.19の範囲、0.82~1.18の範囲、0.83~1.17の範囲、0.84~1.16の範囲、0.85~1.15の範囲、0.86~1.14の範囲、0.87~1.13の範囲、0.88~1.12の範囲、0.89~1.11の範囲、0.9~1.1の範囲、0.91~1.09の範囲、0.92~1.08の範囲、0.93~1.07の範囲、0.94~1.06の範囲、0.95~1.05の範囲等とすることができるが、特に好適なのは、得られる凝固時間の再現性が良い点から、0.9~1.1の範囲である。
【0062】
フィブリノゲン定量方法において、磁性粒子運動シグナル比が一定の範囲内で保たれる時間(区間)は、特に制限されない。例えば磁性粒子運動シグナル比が一定の範囲内で保たれる時間(区間)は、例えば1~5秒間、1~4秒間、1~3秒間、5秒間、4.5秒間、4秒間、3.5秒間、3秒間、2.5秒間、2秒間、1.5秒間、1秒間等とすることができるがこれに限らない。限定するものではないが、磁性粒子運動シグナル比が一定の範囲内で保たれる時間(区間)は1~3秒間が好適であるが、特に好適なのは、得られる凝固時間の再現性が良い点から、1.5秒間である。
【0063】
フィブリノゲン定量方法において、起点とは、一定の時間間隔の磁性粒子運動シグナル比を複数モニターし、その比が一定の範囲内に一定時間保たれた区間の中の任意の点を指す。一定の時間間隔の磁性粒子運動シグナル比は連続的に又は断続的にモニターしうる。限定するものではないが、起点を、一該比が一定の範囲内に一定時間保たれた区間の中の先頭とすることができる。限定するものではないが、起点を、一該比が一定の範囲内に一定時間保たれた区間の中の先頭の点以外の点、例えば該比が一定の範囲内に一定時間保たれた区間の内の第2の点、第3の点又は第4の点等とすることもできる。なお、本明細書において、起点とは、試料添加後のシグナルの初期的なばらつきを回避するために、本開示の方法により規定される便宜上の起点であり、例えば表中ではこれを凝固時間0(sec)の点として説明するが、これは実際にその時点からでなければ凝固反応が全く開始しないことを意味するものではない。
【0064】
フィブリノゲン定量方法に関し、ピーク値とは、特に断らない限り、起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値のことをいい、これは起点以降の磁性粒子運動シグナルのうちで最大のものである。これは従来技術から把握されるピーク値とは異なるものである。すなわち、特開平06-141895号公報(特許第2980468号)に示されている方法では、単純に、測定された全シグナル中のうちで最大のものがピーク値とされていた。しかしながら、本発明者らが、予備的実験1に記載の乾燥試薬を、特開平6-141895(特許2980468号)の定量方法に適用したところ、試料添加後の測定初期に磁性粒子運動シグナルが大きくばらつき、全測定シグナル中の最大値をピーク値としたのでは正しくフィブリノゲンを定量できない場合があった。そこで起点を規定し、起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値を正しく把握することにより、無希釈検体についてのフィブリノゲンをより正確に定量する。
【0065】
フィブリノゲン定量方法において、終点とは、上記方法で求めた起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値に対して5~50%減衰した点の中の任意の点を指す。例えば該起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値を100%とすると、磁性粒子運動シグナルがその70%に相当するシグナル値であれば、本明細書ではこれを30%減衰した点という。例えば終点は、該起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値に対して5~50%減衰した点、10~45%減衰した点、15~40%減衰した点、20~35%減衰した点、20~30%減衰した点、例えば20%減衰した点、25%減衰した点、30%減衰した点とすることができるが、これに限らない。特に好適なのは、得られる凝固時間の再現性が良い点から、磁性粒子運動シグナルのピーク値から30%減衰した点である。限定するものではないが、測定する血液が無希釈全血であるか無希釈血漿であるかに応じて、終点を定める条件を使い分けることができる。すなわち、例えば測定する血液が無希釈全血である場合は終点を該起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値に対して20%減衰した点とし、例えば測定する血液が無希釈血漿である場合は終点を該起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値に対して30%減衰した点とすることができる。使い分けるそれぞれの終点は、上記の該起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値に対して5~50%減衰した点から適宜選択し得る。なお、本明細書において、起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値とは、起点以降に測定された磁性粒子運動シグナルのうちで最大のシグナル(C)をいい、これには起点自身も含まれうる。すなわち、起点における磁性粒子運動シグナルが起点以降に測定された磁性粒子運動シグナルのうちで最大のシグナルであれば、それが起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値となる。
【0066】
本明細書にいう凝固時間とは、上記起点から上記終点までの時間を指す。すなわち本明細書に記載されるフィブリノゲン定量方法において凝固時間は上記起点から上記終点までの時間として算出される。得られる凝固時間は、フィブリノゲン濃度に相関している。本明細書に記載されるフィブリノゲン定量法を適用できる装置を例示すると、製品名CG02N(株式会社エイアンドティ―製)等が挙げられるが、使用可能な装置はこれに限らない。
【0067】
CG02Nは従来のフィブリノゲン定量方法(特開平06-141895号公報(特許第2980468号))に適した装置であり、検体をフィブリノゲン定量乾燥試薬に添加後、0.5秒間隔で振動磁場と静止永久磁場の組合せがかけられ、同間隔で磁性粒子運動シグナルがモニターされる。該装置を用いて本明細書に記載されるフィブリノゲン定量方法を行うには、これらに加え、例えば特定の実施形態では、1秒間隔の磁性粒子運動シグナル比を連続的に算出し、その比が1.0±0.1の範囲内で1.5秒間保たれた区間の先頭の点を起点として検出することができる。このとき、起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値から所定の値、例えば5~50%から選択される値、例えば30%減衰した点を終点とし、起点から終点までの時間を凝固時間として算出することができる。ただしこれは一例であってフィブリノゲン測定方法はこれに限らない。
【0068】
これらの演算処理を含めた一連の動作は、プログラム又はソフトウエアにより装置を制御して行ってもよい。プログラム又はソフトウエアは装置に組込まれたものでもよく、情報記録媒体に記録されたものでもよい。ある実施形態において本開示は、フィブリノゲン定量方法を実行するためのプログラム又はソフトウエアを提供する。ある実施形態において本開示は、該プログラム又はソフトウエアが記録された情報記録媒体を提供する。ある実施形態において本開示は、フィブリノゲン定量方法を実行するプログラム若しくはソフトウエアが組込まれた又は該情報記録媒体が格納された、フィブリノゲン定量測定装置を提供する。ある実施形態において、フィブリノゲン定量測定装置は、CG02N装置に本開示のプログラムを組み込んだものを包含する。
【0069】
表1に、本開示のフィブリノゲン定量方法を用いて任意の全血検体を測定した例を示す。該方法では、検体を添加した直後から0.5秒間隔で磁性粒子運動シグナルがモニターされる。すなわち、磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期は0.5秒である。そして、1秒間隔の磁性粒子運動シグナル比が連続して計算される。換言すれば磁性粒子運動シグナル比の算出に用いる時間間隔は1秒である。即ち、(モニター時間1.0秒の磁性粒子運動シグナル)/(モニター時間0秒の磁性粒子運動シグナル)、(モニター時間1.5秒の磁性粒子運動シグナル)/(モニター時間0.5秒の磁性粒子運動シグナル)、(モニター時間2.0秒の磁性粒子運動シグナル)/(モニター時間1.0秒の磁性粒子運動シグナル)・・・というように計算される。その比が1.0±0.1の範囲で1.5秒間保たれる区間は、モニター時間5.0~6.5秒の区間である。その先頭の点はモニター時間5.0秒の時であるので、その点を起点(凝固反応開始点:凝固時間0秒の点)とすることができる。起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値は、モニター時間7.0秒時の2726cである。起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値に対して30%低い磁性粒子運動シグナルは1908cと計算される。即ち、終点は磁性粒子運動シグナルが1908cとなる点であり、凝固時間は20.1秒と計算される。磁性粒子運動シグナル1908cは計算値であるため、それに対応するモニター時間及び1秒間隔での磁性粒子運動シグナルの比は表中に示されていない。すなわち、本開示の方法により得られる凝固時間は、実際の測定点(実際のモニター時間)のいずれかであることを要しない。
【0070】
【表1】
【0071】
なお、フィブリノゲン定量方法は上記に限らない。磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期と磁性粒子運動シグナル比の算出周期と磁性粒子シグナル比の算出に用いる時間間隔は、全て同一であってもよく(例えば図13参照)又は異なってもよい(例えば図14、15参照)。また、磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期は一定であってもよく(例えば図13、14、15参照)又は変化してもよい(例えば図16参照)。また、磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期及び磁性粒子運動シグナル比の算出周期は一定であってもよく(例えば図13、14、15参照)、又は変化してもよい(例えば図17参照)。また、磁性粒子運動シグナルの比の算出は、連続的に求めてもよく(例えば図13、14参照)、断続的に求めてもよく(例えば図15参照)、連続的に算出した後、断続的に算出してもよく(例えば図18参照)、又は、断続的に算出した後、連続的に算出してもよい(例えば図19参照)。磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期、磁性粒子運動シグナルの比の算出周期、及び磁性粒子運動シグナル比の算出に用いる時間間隔は種々の条件とし得る。ただし検量線を作成する条件と、検体を測定する条件とは同じ条件とすることが好ましい。本明細書の記載から明らかとなる他の種々の実施形態もまた本開示に包含される。
【0072】
該凝固時間を利用してのクエン酸加血漿中のフィブリノゲン定量法は特に限定されない。代表的な例を示すと、まず、フィブリノゲン濃度が既知で且つ濃度の異なる3種類のクエン酸加血漿を試料として上記の方法で測定し、それぞれのクエン酸加血漿に対応する凝固時間を得た後、それを基に検量線を予め作成しておく。次いで、任意のクエン酸加血漿を試料として上記の方法で測定し、凝固時間を得た後、前出の作成した検量線を使用して任意のクエン酸加血漿のフィブリノゲン濃度を見出す方法が挙げられる。該方法に使用される検量線はY軸をLN(フィブリノゲン濃度)とし、X軸をLN(凝固時間)とした直線回帰式が好適である。得られる直線回帰式は、一次式(Y=A×X+B)となり、任意のクエン酸加血漿のフィブリノゲン濃度は、一次式の傾き(A)と切片(B)に基づいて、下記の式で算出される。
【0073】
[数2]
任意のクエン酸加血漿中のフィブリノゲン濃度=eB ×(凝固時間)A
【0074】
本明細書に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬を用いてのフィブリノゲン定量に使用できる装置を例示すると、血液凝固分析装置CG02N((株)エイアンドティー製)等が挙げられる。尚、当装置は、起点(凝固反応開始点)以降で得られる磁性粒子の運動シグナルのピーク値に対して30%減衰した点を凝固点とし、起点(凝固反応開始点)から該凝固点までの時間を凝固時間として用いることができる。また、起点は、一定の時間間隔の磁性粒子運動シグナル比を連続的に算出し、その比が一定の範囲内で一定時間保たれた区間の先頭の点とすることができる。
【0075】
検体中フィブリノゲン濃度は、通常、クエン酸加血漿中のフィブリノゲン濃度として表現される。全血検体は血漿成分だけではなく血球成分が含まれているため、全血検体を試料としてフィブリノゲン定量する場合には、該検体のヘマトクリット値を考慮する必要がある。つまり、全血検体を試料とする場合は、全血測定で得られた凝固時間から換算されたフィブリノゲン濃度に対しヘマトクリット補正式で補正を行い、検体中フィブリノゲン濃度を算出する必要がある。また、クエン酸加全血の場合は、クエン酸ナトリウム溶液1容に対して全血9容を添加・混和して測定試料が得られるのに対して、ヘパリン加全血の場合は、ヘパリンナトリウムあるいはヘパリンリチウムの粉末に対して全血を添加・混和して測定試料が得られるので、適用するヘマトクリット補正式は、クエン酸加全血の場合とヘパリン加全血の場合とで異なる。具体的には、クエン酸加全血を試料とした場合の検体中フィブリノゲン濃度は、以下の補正式で算出される。
【0076】
[数3]
検体中フィブリノゲン濃度
=クエン酸加全血におけるフィブリノゲン濃度×(100/(100-ヘマトクリット値×0.9))
【0077】
また、ヘパリン加全血を試料とした場合の検体中フィブリノゲン濃度は、以下の補正式で算出される。
【0078】
[数4]
検体中フィブリノゲン濃度
=ヘパリン加全血におけるフィブリノゲン濃度×0.9×(100/(100-ヘマトクリット値))
【0079】
なお、クエン酸加全血を測定試料とし、クエン酸加全血を用いてヘマトクリット値を求めた場合の検体中フィブリノゲン濃度は、以下の補正式で算出される。
【0080】
[数5]
検体中フィブリノゲン濃度
=クエン酸加全血におけるフィブリノゲン濃度×(100/(100-ヘマトクリット値))
なお、実質的にフィブリノゲンを吸着しないフィルターやろ過材を用いて全血をろ過すれば、遠心分離機を用いることなく簡便に、フィブリノゲン定量に適した血漿を得ることができる。このように調製した血漿を用いると、上記の5つの段落及び本段落に開示した補正式による補正を行わずとも、正確かつ簡便なフィブリノゲン濃度定量を実現することが可能である。
【0081】
本明細書に記載の方法を用いてフィブリノゲンを定量した結果と従来のClauss法でのフィブリノゲンを定量した結果とは極めて良く一致する。さらに、再現性も好成績が得られ、無希釈全血を試料とした場合でも、信頼性のある定量を可能ならしめた。また無希釈血漿を試料とした場合でも、信頼性のある定量が可能である。
【0082】
以上により無希釈の全血検体について、全血フィブリノゲン濃度を定量することができる。
【0083】
次に、以下の手順で、無希釈のクエン酸加全血検体について磁性粒子の運動量が最大となる点(すなわち波形のピーク点)から検体のヘマトクリット値を求める。本明細書において、波形のピーク点から求めたヘマトクリット値を、便宜上、波形ヘマトクリット値(波形Ht値)、或いは、波形導出ヘマトクリット値(波形導出Ht値)という。また、本明細書において、従来の測定方法により測定したヘマトクリット値を、便宜上、測定ヘマトクリット値(測定Ht値)、或いは、実測定ヘマトクリット値(実測定Ht値)という。次いで、波形Ht値を用いて全血フィブリノゲン濃度についてヘマトクリット補正を行い、血漿フィブリノゲン濃度を算出することができる。このようなヘマトクリット補正を本明細書において波形ヘマトクリット補正ということがある。
【0084】
まず、無希釈のクエン酸加全血検体について磁性粒子の運動シグナルを測定する。そして、測定データから、凝固時間、測定Ht値(従来の方法を用いて検体を直接測定した値)、全血フィブリノゲン濃度、測定Ht値でヘマトクリット補正した血漿フィブリノゲン濃度(本明細書において、便宜上、従来法による血漿フィブリノゲン濃度、或いは血漿フィブリノゲン濃度(従来値)ということがある)、及び運動シグナルの凝固波形(特に波形ピーク値)を抽出する。
【0085】
次に、測定Ht値と波形ピーク値の相関グラフを作成する。次いで、この相関グラフから、相関関係と近似式を作成する。ある実施形態において近似式は一次回帰式であり得る。別の実施形態において近似式は非線形近似式であり得る。別の実施形態において近似式は指数関数又は対数関数を含み得る。近似式については、例えばデータのとり方とまとめ方―分析化学のための統計学とケモメトリックス(共立出版, 2004)(原著Jane C. Miller & James N. Miller, Statistics for Analytical Chemistry, 3rd edition)などの一般的な教材を参照のこと。次に、前記の近似式(例えば一次回帰式)を用いて、波形ピーク値からヘマトクリット値、すなわち波形Ht値を算出する。次いで、測定Ht値と波形Ht値との相関グラフを作成し、評価することができる。次いで、波形Ht値を用いて、全血フィブリノゲン濃度について波形Ht値によるヘマトクリット補正を行い、血漿フィブリノゲン濃度を算出する。便宜上、本願明細書において、全血フィブリノゲン濃度について波形Ht値で補正した血漿フィブリノゲン濃度を、本開示の方法による血漿フィブリノゲン濃度、或いは、本開示の血漿フィブリノゲン濃度(新手法)という。次いで、血漿フィブリノゲン濃度(従来値)と本開示の血漿フィブリノゲン濃度(新手法)とで相関グラフを作成し、本開示の方法の有効性を検証することができる。なお、本開示の方法の有効性は実施例において実証された。そのため、血漿フィブリノゲン濃度(従来値)と本開示の血漿フィブリノゲン濃度(新手法)との比較を測定毎に行う必要はない。ある試薬及び装置について、本開示の有効性が確認されたならば、従来法との比較は省略することができる。
【0086】
本開示の方法と従来法の違いを図21のフローチャートに示す。従来法では、全血フィブリノゲン濃度を決定した後、別途の測定試薬及び装置を用いてヘマトクリット値を測定する必要があった。そして測定Ht値を用いて前記決定された全血フィブリノゲン濃度についてヘマトクリット補正を行い、血漿フィブリノゲン濃度を算出していた。本開示の方法では、別途のヘマトクリット値測定試薬及び装置を必要としない。全血フィブリノゲン濃度を決定した後、磁性粒子の運動量から導出された波形ピーク値に基づく波形Ht値を用いて全血フィブリノゲン濃度について波形ヘマトクリット補正を行い、血漿フィブリノゲン濃度を算出することができる。
【0087】
本開示により、試薬の調製や検体の希釈操作を必要とすることなく、迅速、かつ正確にフィブリノゲンを定量することができる。また、本開示により、専用のヘマトクリット値測定試薬及びそれを用いたヘマトクリット値測定を別途行うことなく、磁性粒子の波形ピーク値から波形ヘマトクリット値を求め、これに基づく波形ヘマトクリット補正を全血フィブリノゲン濃度について行うことで、血漿フィブリノゲン濃度(新手法)を算出することができる。本開示は、周産期及び周術期での使用に耐えうるフィブリノゲン定量方法及び装置を提供する。すなわち限定するものではないが、本明細書に記載のフィブリノゲン定量方法及び装置は周産期の患者用であり得る。また限定するものではないが、本明細書に記載のフィブリノゲン定量方法及び装置は周術期の患者用であり得る。なお、本明細書において周産期とは、妊娠22週から出生後7日未満をいう。これは国際疾病分類第10版における周産期の定義に即したものである。また本明細書において周術期とは、手術に必要な3つの段階、術前、術中、術後を含む期間をいう。
【実施例
【0088】
本発明を一般的に説明に説明してきたが、以下の具体的な実施例を参照することによりさらに本発明を理解することができる。ここに示す実施例は説明及び例示のみを目的とするものであり、特許請求の範囲に記載されるものを含め、本発明を何ら限定するものではない。
【0089】
[予備的実験1 血漿中フィブリノゲン濃度と凝固時間の相関性]
10mM CaCl2・2H2O、2.0(wt/v)%グリシン、80μg/mLポリブレン、1.2mg/mLウシ血清アルブミン、0.005(wt/v)%ソルビタンモノラウレート、および150μg/mL GPRP-アミドを含有させた40mM HEPES緩衝液(pH 7.35)をウシトロンビン凍結乾燥品(オリエンタル酵母製)に添加し、溶解させて、300NIHU/mLのトロンビン活性を有する試薬液を得た。該試薬液35mLに対して、四三酸化鉄(製品名AAT-03;平均粒子径0.35μm;戸田工業製)0.47gを添加し、懸濁させて、最終溶液を得た。該最終溶液25μLを図1に示す反応スライドに分注した。該反応スライドを-40℃に保温したフリーザーに一昼夜保管して凍結した。次いで、凍結した反応スライドを凍結乾燥した。凍結乾燥の条件は、真空状態で-30℃から-20℃まで24時間で直線的に温度上昇させた後、-20℃から30℃まで20時間で直線的に温度上昇させ、最後に30℃で3時間保った後、乾燥空気で真空解除する方法により行った。凍結乾燥試薬は、直ちに除湿された環境下で、アルミフィルムに密封した。
【0090】
血漿中フィブリノゲン濃度と凝固時間との相関性を調べる方法は、以下のように行った。先ず、299mg/dLのフィブリノゲンを含有するヒト血漿と、フィブリノゲン欠乏血漿(Clinisys Associate社製)とを使用して48~299mg/dLまでのヒト血漿6種類の希釈系列を作製した。次いで、血液凝固分析装置CG02N((株)エイアンドティー製)に上記凍結乾燥試薬をセットし、希釈系列の検体を25μL添加して、各々の検体の凝固時間を求めた。最後に、Y軸をLN(フィブリノゲン濃度)とし、X軸をLN(凝固時間)としてデータをプロットし、作製したグラフに直線性が見られるか否かで相関性の有無を調べた。
【0091】
図3に血漿中フィブリノゲン濃度と凝固時間の相関図を示す。図3からわかる通り、得られる凝固時間と検体中フィブリノゲン濃度との間に極めて良好な相関性が認められた。
【0092】
[予備的実験2 得られる血漿中フィブリノゲン濃度の特異性と再現性]
フィブリノゲン定量乾燥試薬を予備的実験1の凍結乾燥試薬とし、フィブリノゲンを定量する装置として血液凝固分析装置CG02N((株)エイアンドティー製)を使用して、得られる血漿中フィブリノゲン濃度の特異性と再現性を調べた。
【0093】
CG02Nに上記試薬をセットし、フィブリノゲン濃度既知の血漿検体を25μL添加して、凝固時間を求めた。4種類の血漿検体についてそれぞれ5回行った。予備的実験1の結果から、当凍結乾燥試薬の検量線は、LN(フィブリノゲン濃度)=-0.7606×LN(凝固時間)+7.01であることから、以下の式で、得られた凝固時間をフィブリノゲン濃度に換算した。
【0094】
[数6]
任意のクエン酸加血漿中のフィブリノゲン濃度=e7.01×(凝固時間)-0.7606
【0095】
既知のフィブリノゲン濃度に対する回収率で特異性を、連続5回測定のCV値(変動係数)で再現性を評価した。
【0096】
結果を表2に示す。表2から、得られるフィブリノゲン濃度に特異性と再現性が見られることは明白である。
【0097】
【表2】
【0098】
[予備的実験3 Clauss法と本開示のフィブリノゲン定量乾燥試薬を用いた方法との相関性]
ヒト血漿51検体を用い、Clauss法で定量した結果と本明細書に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬でフィブリノゲンを定量した結果との相関性を調べた。Clauss法によるフィブリノゲンの定量は、試薬をデータファイ・フィブリノゲン(シスメックス製)とし、測定装置をKC4デルタ(商標)(Tcoag Ireland Ltd製)として、データファイ・フィブリノゲンの添付文書に示された方法により定量した。
【0099】
フィブリノゲンの定量は、使用するフィブリノゲン定量乾燥試薬として、予備的実験1の凍結乾燥試薬を使用し、フィブリノゲンを定量する装置として、血液凝固分析装置CG02N((株)エイアンドティー製)を使用して行った。
【0100】
CG02Nに凍結乾燥試薬をセットし、検体25μLを添加し、上記の方法を用いて各々の検体の凝固時間を求めた。そして、数5の式を用いて、得られた凝固時間をフィブリノゲン濃度に換算した。
【0101】
図4にClauss法によるフィブリノゲン定量値と本明細書に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬を用いたフィブリノゲン定量値との相関図を示す。図4から、本明細書に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬を用いたフィブリノゲン定量値とClauss法によるフィブリノゲン定量値とは良く一致しており、相関性が高いことは明白である。
【0102】
[予備的実験4 クエン酸加血漿検体及びクエン酸加全血検体の相関性]
クエン酸加全血51検体に対して、本明細書に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬でフィブリノゲン定量した結果と同一検体を遠心して得たクエン酸加血漿51検体に対して、本明細書に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬でフィブリノゲン定量した結果との相関性を調べた。また、本明細書に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬として以下の組成のものを用いた:
160μg/mL ポリブレン
2.5 (wt/v) % グリシン
10mM CaCl2・2H2O
1.2 mg/mL ウシ血清アルブミン
0.005(wt/v)% ソルビタンモノラウレート
200μg/mL GPRP-アミド
40mM HEPES緩衝液(pH 7.35)
333NIHU/mL ウシトロンビン
【0103】
用いた装置および手順は予備的実験3と同様であった。当凍結乾燥試薬の検量線は、LN(フィブリノゲン濃度)=-0.7636×LN(凝固時間)+7.22であることから、以下の式で、得られた凝固時間をフィブリノゲン濃度に換算した。
【0104】
[数7]
任意のクエン酸加血漿中のフィブリノゲン濃度=e7.22×(凝固時間)-0.7636
【0105】
測定試料をクエン酸加全血とした場合の検体中フィブリノゲン濃度は、以下の方法で求めた。まず、クエン酸加全血51検体のヘマトクリット値を血球計数装置MYTHIC22(J)((株)エイアンドティー販売)にてそれぞれ求めた。次いで、血液凝固分析装置CG02N((株)エイアンドティー製)に上記凍結乾燥試薬をセットし、全血測定モードにした後、クエン酸加全血を25μL添加して、各々の検体の凝固時間を求めた。
【0106】
数6の式を用いて、得られた凝固時間をフィブリノゲン濃度に換算した後、数4の式を用いて測定試料をクエン酸加全血とした場合の検体中フィブリノゲン濃度を求めた。
【0107】
測定試料をクエン酸加血漿とした場合の検体中のフィブリノゲン濃度は、以下の方法で求めた。まずクエン酸加全血51検体を4℃、3000rpm、15min遠心し、上清からクエン酸加血漿51検体を得た。次いで、CG02Nに上記凍結乾燥試薬をセットし、血漿測定モードにした後、クエン酸加血漿を25μL添加して、各々の検体の凝固時間を求めた。数6の式を用いて、得られた凝固時間をフィブリノゲン濃度に換算した。
【0108】
図5に本明細書に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬を使用して、クエン酸加血漿を測定試料とした場合のフィブリノゲン定量値とクエン酸加全血を測定試料とした場合のフィブリノゲン定量値との相関図を示した。図5から、本明細書に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬を使用した時、測定試料をクエン酸加全血とした場合のフィブリノゲン定量値は測定試料をクエン酸加血漿とした場合のフィブリノゲン定量値と良く一致しており、相関性が高いことは明白である。
【0109】
[予備的実験5 各種グリシン濃度での試薬の調製及び評価]
フィブリノゲン定量乾燥試薬中のグリシン含有量の効果を、クエン酸加血漿およびクエン酸加全血の凝固時間とその同時再現性で調べた。まず、予備的実験4と同様の試薬組成を使用し、ただし試薬組成のうち、グリシン濃度を0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、3.5%、4.0%、4.5%又は5.0%とした凍結乾燥試薬をそれぞれ作製した。次いで、CG02Nにて、フィブリノゲン濃度181mg/dLのクエン酸加血漿をそれぞれの凍結乾燥試薬を用いて5回連続で測定し、得られる凝固時間と5回連続測定のCV値を記録した。
【0110】
【表3】
【0111】
表3に示す通り、試薬液中のグリシン濃度が1.5%未満の試薬の場合は、試薬溶解性が不足して極端に延長した凝固時間となるが、試薬液中のグリシン濃度が1.5%以上の試薬の場合は、溶解性が向上して短縮した凝固時間が得られる。また、試薬液中のグリシン濃度が4.5%を超える試薬は、血液凝固分析装置CG02Nでの凝固時間が検出限界の5.0秒未満となった。このことは、検体中フィブリノゲン濃度が181mg/dLを超える検体についてはフィブリノゲン定量ができないことを意味する。即ち、試薬液中のグリシン濃度が4.5%を超える試薬の場合は、フィブリノゲン製剤を投与して検体中フィブリノゲン濃度が正常範囲(200~400mg/dL)に回復したことを確認することができなくなることから、血漿測定の場合は、試薬液中のグリシン濃度が、1.5%~4.0%の範囲が好適であることが明白である。
【0112】
次いで、CG02Nにて、フィブリノゲン濃度181mg/dLのクエン酸加全血をそれぞれの凍結乾燥試薬を用いて5回連続で測定し、得られる凝固時間と5回連続測定のCV値を記録した。
【0113】
【表4】
【0114】
表4に示す通り、試薬液中のグリシン濃度が1.5%未満の試薬の場合は、試薬溶解性が不足して極端に延長した凝固時間となるが、試薬液中のグリシン濃度が1.5%以上の試薬の場合は、溶解性が向上して短縮した凝固時間が得られる。この結果から、全血測定の場合は、試薬液中のグリシン濃度が、1.5%以上の範囲が好適であることが明白である。
【0115】
[比較例1 従来組成の凍結乾燥試薬との性能比較]
本明細書に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬と特許第3469909号に記載された試薬組成に準じて作製した凍結乾燥試薬との性能比較を行った。
【0116】
予備的実験1に示した調製法のうち、試薬液中のグリシン濃度を2.5%としたフィブリノゲン定量乾燥試薬を作製した。また、予備的実験1に示した調製法のうち、試薬液の組成を下記の組成に変更した凍結乾燥試薬を作成した。当該試薬液の組成は、特開平05-219993号公報(特許第3469909号)で報告されている試薬組成である。
比較例の試薬組成:
15μg/mL ポリブレン
10mM CaCl2・2H2O
1.0 (wt/v) % ウシ血清アルブミン
0.08 (wt/v) % ポリエチレングリコール6000
200μg/mL 凝集抑制剤(GPRP-アミド)
50mM Tris緩衝液(pH8.0)
50IU/mL ウシトロンビン
110mM NaCl
【0117】
CG02Nにて、フィブリノゲン濃度162mg/dLのクエン酸加血漿およびクエン酸加全血をそれぞれの試薬を用いて5回連続で測定し、得られる凝固時間とN=5回測定のCV値を記録した。また、測定時に得られる磁性粒子運動シグナルの経時変化も記録した。
【0118】
【表5】
【0119】
表5に示す通り、従来組成の凍結乾燥試薬より本明細書に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬の方が、得られる凝固時間が短く、それに伴い、得られる凝固時間の再現性も良好であることが明白である。
【0120】
また、この測定時に得られた磁性粒子運動シグナルの経時変化を図6図7に示す。図6は、本明細書に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬で測定した時の磁性粒子運動シグナルの経時変化を示したグラフであり、図6は、従来技術の試薬組成に準じて作製した凍結乾燥試薬で測定した時の磁性粒子運動シグナルの経時変化を示したグラフである。グラフの横軸は、検体を添加してからの経過時間を示し、グラフ中の数字「51」は25.5秒、「101」は50.5秒を指す。縦軸は、散乱光の変化量、すなわち、磁性粒子の運動シグナル(単位:カウント)を指す。本明細書に記載のフィブリノゲン定量乾燥試薬の方が、磁性粒子運動シグナルの経時変化が5回測定で揃っており、凝固反応の進行に伴う磁性粒子運動シグナルの減衰が大きいことが明白である。それに対して、従来組成の凍結乾燥試薬は、磁性粒子運動シグナルの経時変化が5回測定で大きくばらついており、凝固反応の進行に伴う磁性粒子運動シグナルの減衰がゆるやかである。このような試薬の場合、誤測定を引き起こす危険性がある。
【0121】
また、各試薬の血漿測定前後の写真を図8に示す。図8において、上が測定前の試薬であり、下が測定後の試薬である。従来組成の凍結乾燥試薬では、試薬溶解性が不十分なため、測定後、局所的に磁性粒子が集まり、永久磁石の磁場に由来する磁性粒子線が判別しにくくなっている。このことは、磁性粒子の運動が凝固反応の進行に伴う反応系内の粘度変化に必ずしも対応していない場合も発生することを意味している。これに対して、本明細書に記載の試薬(試薬液中グリシン濃度2.5%の試薬)では、試薬溶解性が向上しているため、永久磁石の磁場に由来する磁性粒子線が明確に判別できる。試薬液中グリシン濃度1.5%、2.0%、3.0%、3.5%及び4.0%の本開示試薬についても同様に、永久磁石の磁場に由来する磁性粒子線が明確に判別できた。なお、試薬液中グリシン濃度4.5%及び5.0%の試薬については、局所的な磁性粒子の集まりが見られるなど、測定後の外観は必ずしも良好ではなかった。
【0122】
[予備的実験6 本明細書に記載のフィブリノゲン定量方法を用いた凝固時間測定]
まず、予備的実験1に準じてフィブリノゲン定量乾燥試薬を以下の方法で作製した。
10mM CaCl2・2H2O、2.0(wt/v)%グリシン、160μg/mLポリブレン、1.2mg/mLウシ血清アルブミン、0.005(wt/v)%ソルビタンモノラウレート、および200μg/mL GPRPamideを含有させた40mM HEPES緩衝液(pH 7.35)をウシトロンビン凍結乾燥品(オリエンタル酵母製)に添加し、溶解させて、333NIHU/mLのトロンビン活性を有する試薬液を得た。該試薬液35mLに対して、四三酸化鉄(製品名AAT-03;平均粒子径0.35μm;戸田工業製)0.47gを添加し、懸濁させて、最終溶液を得た。該最終溶液25μLを図1に示す反応スライドに分注した。該反応スライドを-40℃に保温したフリーザーに一昼夜保管して凍結した。次いで、凍結した反応スライドを凍結乾燥した。凍結乾燥の条件は、真空状態で-30℃から-20℃まで24時間で直線的に温度上昇させた後、-20℃から30℃まで20時間で直線的に温度上昇させ、最後に30℃で3時間保った後、乾燥空気で真空解除する方法で行った。凍結乾燥試薬は、直ちに除湿された環境下で、アルミフィルムに密封した。
【0123】
上記のフィブリノゲン定量乾燥試薬を使用し、本明細書に記載のフィブリノゲン定量方法を用いて任意の全血検体を測定した。この方法では、検体を添加した直後から0.5秒間隔で磁性粒子運動シグナルをモニターした。すなわち、磁性粒子運動シグナルのモニタリング周期は0.5秒である。そして、1秒間隔の磁性粒子運動シグナル比を連続して計算した。換言すれば磁性粒子運動シグナル比の算出に用いる時間間隔は1秒である。即ち、(モニター時間1.0秒の磁性粒子運動シグナル)/(モニター時間0秒の磁性粒子運動シグナル)、(モニター時間1.5秒の磁性粒子運動シグナル)/(モニター時間0.5秒の磁性粒子運動シグナル)、(モニター時間2.0秒の磁性粒子運動シグナル)/(モニター時間1.0秒の磁性粒子運動シグナル)・・・というように計算を行った。その比が1.0±0.1の範囲で1.5秒間保たれる区間は、モニター時間5.0~6.5秒の区間であった。その先頭の点はモニター時間5.0秒の時であるので、その点を起点(凝固反応開始点:凝固時間0秒の点)とした。起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値は、モニター時間7.0秒時の2726cである。起点以降の磁性粒子運動シグナルのピーク値に対して30%低い磁性粒子運動シグナルは1908cと計算された。即ち、終点は磁性粒子運動シグナルが1908cとなる点であり、凝固時間は20.1秒と計算された。結果を表6に示す。
【0124】
【表6】
【0125】
[予備的実験7 無希釈全血を試料とし、フィブリノゲン定量乾燥試薬を使用したときの従来のフィブリノゲン定量方法(特許2980468号の定量法)と本明細書に記載のフィブリノゲン定量法(本開示)との比較]
フィブリノゲン定量乾燥試薬は上記のとおり調製した。
先ず、従来の定量法(特許2980468号の定量法)での検量線を算出した。検量線の算出は、以下のように行った。304mg/dLのフィブリノゲンを含有するヒト血漿と、フィブリノゲン欠乏血漿(Clinisys Associates社製)とを使用して37~304mg/dLまでのヒト血漿7種類の希釈系列を調製した。次いで、血液凝固分析装置CG02N(株式会社エイアンドティー販売)に上記フィブリノゲン定量乾燥試薬をセットし、希釈系列の検体を25μL添加して、各々の検体の凝固時間を求めた。最後に、Y軸をLN(フィブリノゲン濃度)とし、X軸をLN(凝固時間)としてデータをプロットし、回帰式を求めることで、従来の定量法での検量線を算出した。
【0126】
その結果、従来の定量法での検量線は、
[数8]
LN(フィブリノゲン濃度)=-0.8223×LN(凝固時間)+7.4718
となった(図9)。
【0127】
上記検量線式から、フィブリノゲン濃度換算式を以下の式とした。
[数9]
ある検体種中のフィブリノゲン濃度=e7.4718×(凝固時間)-0.8223
【0128】
次いで、本明細書に記載の定量法における検量線を算出した。検量線の算出は、以下のように行った。304mg/dLのフィブリノゲンを含有するヒト血漿と、フィブリノゲン欠乏血漿(Clinisys Associates社製)とを使用して37~304mg/dLまでのヒト血漿7種類の希釈系列を調製した。次いで、血液凝固分析装置CG02N(株式会社エイアンドティー製)に上記フィブリノゲン定量乾燥試薬をセットし、ただし本明細書に記載のソフトウエアを組み込み、希釈系列の検体を25μL添加して、各々の検体の凝固時間を求めた。最後に、Y軸をLN(フィブリノゲン濃度)とし、X軸をLN(凝固時間)としてデータをプロットし、回帰式を求めることで、本明細書に記載の定量法における検量線を算出した。
【0129】
その結果、本明細書に記載の定量法における検量線は、
[数10]
LN(フィブリノゲン濃度)=-0.7636×LN(凝固時間)+7.2234
となった(図10)。
【0130】
上記検量線式から、フィブリノゲン濃度換算式を以下の式とした。
[数11]
ある検体種中のフィブリノゲン濃度=e7.2234×(凝固時間)-0.7636
【0131】
健常人一人からクエン酸ナトリウム真空採血管(2mL仕様)7本を用いて採血し、クエン酸加全血14mLを得た。該採血管7本を4℃、3000rpm、15min遠心した。遠心した採血管7本のうち3本を残し、4本の採血管から上清(血漿)を1mLずつ分取し、PP容器に分注することにより、クエン酸加血漿Aを4mL得た。残した採血管3本のうち1本に対してクエン酸加血漿Aを2.80mL添加した後、密栓して転倒混和することで、クエン酸加全血Bを得た。また、残した採血管3本のうち1本に対してクエン酸加血漿Aを0.40mL添加した後、密栓して転倒混和することで、クエン酸加全血Cを得た。また、残した採血管3本のうち1本に対して0.56mL上清(血漿)を除去した後、密栓して転倒混和することで、クエン酸加全血Dを得た。
【0132】
クエン酸加全血B、クエン酸加全血C、およびクエン酸加全血Dのヘマトクリット値を血球計数装置MYTHIC22(J)(株式会社エイアンドティー販売)で測定した。その結果、クエン酸加全血Bは15%、クエン酸加全血Cは30%、クエン酸加全血Dは50%であった。
【0133】
まず、従来の定量法(特許2980468号)で、クエン酸加血漿A、クエン酸加全血B、クエン酸加全血C、クエン酸加全血Dのフィブリノゲン濃度を調べた。
【0134】
CG02Nに上記フィブリノゲン定量乾燥試薬をセットし、血漿測定モードにした後、クエン酸加血漿Aを25μL添加して、凝固時間を求めた。それを5回行った。得られた凝固時間を前出の換算式(ある検体種中のフィブリノゲン濃度=e7.4718×(凝固時間)-0.8223)を使用して、従来の定量法でのクエン酸加血漿Aのフィブリノゲン濃度を求めた。
【0135】
CG02Nに上記フィブリノゲン定量乾燥試薬をセットし、全血測定モードにした後、クエン酸加全血Bを25μL添加して、凝固時間を求めた。それを5回行った。得られた凝固時間を上記と同じ換算式でフィブリノゲン濃度に換算した。さらに、以下の式より、従来の定量法でのクエン酸加全血Bのフィブリノゲン濃度を求めた。
[数12]
従来の定量法でのクエン酸加全血Bのフィブリノゲン濃度
=換算したフィブリノゲン濃度×(100/(100-15))
【0136】
CG02Nに上記フィブリノゲン定量乾燥試薬をセットし、全血測定モードにした後、クエン酸加全血Cを25μL添加して、凝固時間を求めた。それを5回行った。得られた凝固時間を上記と同じ換算式でフィブリノゲン濃度に換算した。さらに、以下の式より、従来の定量法でのクエン酸加全血Cのフィブリノゲン濃度を求めた。
[数13]
従来の定量法でのクエン酸加全血Cのフィブリノゲン濃度
=換算したフィブリノゲン濃度×(100/(100-30))
【0137】
CG02Nに上記フィブリノゲン定量乾燥試薬をセットし、全血測定モードにした後、クエン酸加全血Dを25μL添加して、凝固時間を求めた。それを5回行った。得られた凝固時間を上記と同じ換算式でフィブリノゲン濃度に換算した。さらに、以下の式より、従来の定量法でのクエン酸加全血Dのフィブリノゲン濃度を求めた。
[数14]
従来の定量法でのクエン酸加全血Dのフィブリノゲン濃度
=換算したフィブリノゲン濃度×(100/(100-50))
【0138】
次いで、本明細書に記載の定量法で、クエン酸加血漿A、クエン酸加全血B、クエン酸加全血C、クエン酸加全血Dのフィブリノゲン濃度を調べた。
【0139】
CG02Nに上記フィブリノゲン定量乾燥試薬をセットし、ただし本明細書に記載のフィブリノゲン定量方法を実行するソフトウエアを組み込み、血漿測定モードにした後、クエン酸加血漿Aを25μL添加して、凝固時間を求めた。それを5回行った。得られた凝固時間を前出の換算式(ある検体種中のフィブリノゲン濃度=e7.2234×(凝固時間)-0.7636)を使用して、本明細書に記載の定量法でのクエン酸加血漿Aのフィブリノゲン濃度を求めた。
【0140】
CG02Nに上記フィブリノゲン定量乾燥試薬をセットし、ただし本明細書に記載のフィブリノゲン定量方法を実行するソフトウエアを組み込み、全血測定モードにした後、クエン酸加全血Bを25μL添加して、凝固時間を求めた。それを5回行った。得られた凝固時間を上記と同じ換算式でフィブリノゲン濃度に換算した。さらに、以下の式より、本明細書に記載の定量法でのクエン酸加全血Bのフィブリノゲン濃度を求めた。
[数15]
本明細書に記載の定量法でのクエン酸加全血Bのフィブリノゲン濃度
=換算したフィブリノゲン濃度×(100/(100-15))
【0141】
CG02Nに上記フィブリノゲン定量乾燥試薬をセットし、ただし本明細書に記載のフィブリノゲン定量方法を実行するソフトウエアを組み込み、全血測定モードにした後、クエン酸加全血Cを25μL添加して、凝固時間を求めた。それを5回行った。得られた凝固時間を上記と同じ換算式でフィブリノゲン濃度に換算した。さらに、以下の式より、本明細書に記載の定量法でのクエン酸加全血Cのフィブリノゲン濃度を求めた。
[数16]
本明細書に記載の定量法でのクエン酸加全血Cのフィブリノゲン濃度
=換算したフィブリノゲン濃度×(100/(100-30))
【0142】
CG02Nに上記フィブリノゲン定量乾燥試薬をセットし、ただし本明細書に記載のフィブリノゲン定量方法を実行するソフトウエアを組み込み、全血測定モードにした後、クエン酸加全血Dを25μL添加して、凝固時間を求めた。それを5回行った。得られた凝固時間を上記と同じ換算式でフィブリノゲン濃度に換算した。さらに、以下の式より、本明細書に記載の定量法でのクエン酸加全血Dのフィブリノゲン濃度を求めた。
[数17]
本明細書に記載の定量法でのクエン酸加全血Dのフィブリノゲン濃度
=換算したフィブリノゲン濃度×(100/(100-50))
【0143】
さらに、クエン酸加血漿AをClauss法で定量した。Clauss法でのフィブリノゲンの定量は、試薬をデータファイ・フィブリノゲン(シスメックス製)とし、測定装置をKC4デルタ(Tcoag Ireland Ltd製)として、データファイ・フィブリノゲンの添付文書に示された方法で定量した。5回測定し、その平均値224mg/dLをClauss法でのクエン酸加血漿Aのフィブリノゲン濃度とした。結果を以下に示す。
【0144】
【表7】
【0145】
【表8】
【0146】
表7に従来の定量法での測定結果、表8に本明細書に記載の定量法での測定結果を示す。特異性を、Clauss法で求めたクエン酸加血漿Aのフィブリノゲン濃度(224mg/dL)に対する回収率で評価した。ヘマトクリット値の高サンプルの方が粘度は高い。表7では、高粘度の全血Dについて、血漿Aと比較して全体的に値が高めである。すなわち、表7及び8の結果から、従来の定量法では、ヘマトクリット値が高い全血検体の場合、正確にフィブリノゲン濃度が定量できないが、本明細書に記載の定量法では、ヘマトクリット値が高い全血検体でも正確にフィブリノゲン濃度が定量できていることが明白である。
【0147】
[予備的実験8 Clauss法でのフィブリノゲン定量値と本明細書に記載の定量法によるフィブリノゲン定量値との相関性]
クエン酸加血漿104検体を用い、Clauss法でフィブリノゲンを定量した結果と本明細書に記載の定量法でフィブリノゲンを定量した結果との相関性を調べた。本明細書に記載の定量法でのフィブリノゲン定量は、以下の方法で行った。
【0148】
CG02Nに上記フィブリノゲン定量乾燥試薬をセットし、ただし本明細書に記載のフィブリノゲン定量方法を実行するソフトウエアを組み込み、血漿測定モードにした後、クエン酸加血漿を25μL添加して、凝固時間を求めた。得られた凝固時間を前出の換算式
(ある検体種中のフィブリノゲン濃度=e7.2234×(凝固時間)-0.7636
を使用して、フィブリノゲン濃度に換算し、本明細書に記載の定量法でのフィブリノゲン濃度とした。
【0149】
Clauss法でのフィブリノゲンの定量は、試薬をヒーモスアイエルFib・CXL(LSIメデイエンス製)とし、測定装置をSTACIA(LSIメデイエンス製)として実施した。ヒーモスアイエルFib・CXLの添付文書に示された方法で定量した。
【0150】
図11にClauss法でのフィブリノゲン定量値と本明細書に記載の定量法でのフィブリノゲン定量値との相関図を示した。図11より、本明細書に記載の定量法でのフィブリノゲン定量値はClauss法でのフィブリノゲン定量値と良く一致しており、相関性が高いことは明白である。
【0151】
[予備的実験9 本明細書に記載の方法を使用して、測定試料をクエン酸加血漿とした場合のフィブリノゲン定量値と測定試料をクエン酸加全血とした場合のフィブリノゲン定量値との相関性]
クエン酸加全血80検体に対して、本明細書に記載の定量法でフィブリノゲン定量した結果と同一検体を遠心して得たクエン酸加血漿80検体に対して、本明細書に記載の定量法でフィブリノゲン定量した結果との相関性を調べた。
【0152】
まず、クエン酸加全血80検体のヘマトクリット値を血球計数装置MYTHIC22(J)(株式会社エイアンドティー販売)にてそれぞれ求めた。次いで、CG02Nに上記フィブリノゲン定量乾燥試薬をセットし、ただし本明細書に記載のフィブリノゲン定量方法を実行するソフトウエアを組み込み、全血測定モードにした後、クエン酸加全血を25μL添加して、各々の検体の凝固時間を求めた。得られた凝固時間を前出の換算式
[数18]
(ある検体種中のフィブリノゲン濃度=e7.2234×(凝固時間)-0.7636
を使用して、フィブリノゲン濃度に換算した。
【0153】
最後に、以下の式により、測定試料をクエン酸加全血とした場合の検体中フィブリノゲン濃度を求めた。
[数19]
検体中フィブリノゲン濃度
=換算したフィブリノゲン濃度×(100/(100-ヘマトクリット値))
【0154】
上記の測定が終了したクエン酸加全血80検体を4℃,3000rpm,15min遠心し、上清を採取することで、クエン酸加血漿80検体を得た。次いで、CG02Nに上記フィブリノゲン定量乾燥試薬をセットし、ただし本明細書に記載のフィブリノゲン定量方法を実行するソフトウエアを組み込み、血漿測定モードにした後、クエン酸加血漿を25μL添加して、各々の検体の凝固時間を求めた。得られた凝固時間を前出の換算式
[数20]
(ある検体種中のフィブリノゲン濃度=e7.2234×(凝固時間)-0.7636
を使用して、フィブリノゲン濃度に換算した。換算したフィブリノゲン濃度を、測定試料をクエン酸加血漿とした場合の検体中フィブリノゲン濃度とした。
【0155】
図12に本明細書に記載の定量方法を使用して、測定試料をクエン酸加血漿とした場合のフィブリノゲン定量値と測定試料をクエン酸加全血とした場合のフィブリノゲン定量値との相関図を示した。図12より、本明細書に記載の方法を使用した時、測定試料をクエン酸加全血とした場合のフィブリノゲン定量値は測定試料をクエン酸加血漿とした場合のフィブリノゲン定量値と良く一致しており、相関性が高いことは明白である。
【0156】
[実施例1]
測定Ht値と波形ピーク値の相関性
測定Ht値と波形ピーク値とをプロットし、相関グラフを作成した(図22)。次に、相関グラフから、相関係数と一次回帰式を算出した。その結果、R=0.826と非常に強い相関関係が得られた。なお近似式は一次回帰式以外の式とすることもできる。
【0157】
測定Ht値と波形Ht値の相関性
次に、上記の一次回帰式を用いて、波形ピーク値から、波形ヘマトクリット値(波形Ht値)を算出した。次いで、測定Ht値と波形Ht値をプロットし、相関グラフを作成した(図23)。また、相関グラフから、相関係数と一次回帰式を算出した。その結果、R=0.764と強い相関関係が得られた。なお近似式は一次回帰式以外の式とすることもできる。
【0158】
本開示の方法による血漿フィブリノゲン濃度と従来法による血漿フィブリノゲン濃度の比較
次に、上記の波形Ht値を用いて、全血フィブリノゲン濃度について、波形Ht値での補正を行い、血漿フィブリノゲン濃度(新手法)を算出した。次いで、全血フィブリノゲン濃度について、血球計数装置MYTHIC22(J)(株式会社エイアンドティー)にて測定されたヘマトクリット値を用いてヘマトクリット補正を行うことで、血漿フィブリノゲン濃度(従来法)を測定した。次いで血漿フィブリノゲン濃度(従来法)と血漿フィブリノゲン濃度(新手法)で相関グラフを作成した(図24)。また、相関グラフから、相関係数と一次回帰式を算出した。その結果、R=0.927と非常に強い相関関係が得られた。なお近似式は一次回帰式以外の式とすることもできる。これは、クエン酸加全血検体を無希釈にて、磁性粒子を用いて測定することにより、別途の手段によるヘマトクリット値の入力無しに、血漿フィブリノゲン濃度を算出することができることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本開示により、別途の手段によるヘマトクリット値の入力無しに、血漿フィブリノゲン濃度を定量的に測定することができる。
【0160】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により、各個の文書が参照により組み入れられると具体的かつ個別に示されている場合と同様に、参照により本明細書に組み入れるものとする。
【符号の説明】
【0161】
A 透明樹脂板
B 透明樹脂板
C 白色樹脂板
D 試薬充填部
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