(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の劣化判定方法及びリチウムイオン二次電池の劣化判定装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20240730BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20240730BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/42 P
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2020116646
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2022-02-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 裕也
(72)【発明者】
【氏名】西 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 恒良
(72)【発明者】
【氏名】高橋 祐貴
【合議体】
【審判長】土居 仁士
【審判官】稲葉 崇
【審判官】丸山 高政
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-190979(JP,A)
【文献】特開2020-85653(JP,A)
【文献】特開2019-58051(JP,A)
【文献】特開2017-139109(JP,A)
【文献】特開2018-81796(JP,A)
【文献】特開2021-131344(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0259687(US,A1)
【文献】特開2008-298643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/38
H02J 7/00
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の自己放電容量を測定する工程と、
前記自己放電容量を放電時間で除することにより、前記リチウムイオン二次電池の負極側で消費される負極副反応電流を演算する工程と、
前記負極副反応電流に基づいて、前記負極に形成される被膜量を推定する工程と、
前記被膜量
と、被膜の形成により前記負極に生じるリチウムの析出に対する劣化耐性の大きさであるリチウム析出
耐性との関係を示すリチウム析出情報を予め記憶装置に登録する工程と、
前記リチウム析出情報を参照することにより、前記被膜量に基づいて、
前記リチウム析出
耐性を演算する工程と、
前記リチウム析出
耐性に基づいて前記リチウムイオン二次電池の劣化状態を判定する工程と、を備えるリチウムイオン二次電池の劣化判定方法。
【請求項2】
前記被膜量が多いほど、より小さな値を有した前記リチウム析出
耐性を演算するとともに、
前記リチウム析出
耐性が所定の劣化判定閾値以上である場合に、前記リチウムイオン二次電池の利用が可能であると判定する
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の劣化判定方法。
【請求項3】
所定の保存期間、所定の保存環境下で前記リチウムイオン二次電池を保存する工程を備え、
保存前後の容量変化を前記自己放電容量とし、前記保存期間を前記放電時間として、前記負極副反応電流を演算する
請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池の劣化判定方法。
【請求項4】
前記リチウムイオン二次電池に生ずる前記負極副反応電流及び該負極副反応電流に基づき成長する前記被膜量を経時的に予測して演算する工程と、
予測される将来時間の前記被膜量に基づいて前記将来時間における前記リチウム析出
耐性を演算する工程と、
前記将来時間の前記リチウム析出
耐性に基づき前記リチウムイオン二次電池が利用不可となる前記将来時間を特定することにより前記リチウムイオン二次電池の余寿命を推定する工程と、を備える
請求項1~請求項3の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池の劣化判定方法。
【請求項5】
前記リチウムイオン二次電池の使用環境に関する経時データを予め記憶装置に登録する工程を備え、
前記被膜量を経時的に予測して演算する工程は、前記経時データに基づいて前記負極副反応電流を補正する工程を含む請求項4に記載のリチウムイオン二次電池の劣化判定方法。
【請求項6】
前記リチウムイオン二次電池に生ずる前記負極副反応電流及び正極副反応電流を経時的に予測して演算する工程と、
予測される将来時間における前記負極副反応電流の積分値及び前記正極副反応電流の積分値に基づいて、前記将来時間における前記リチウムイオン二次電池の容量低下量を演算する工程と、
前記将来時間の前記容量低下量に基づき前記リチウムイオン二次電池が利用不可となる前記将来時間を特定することにより前記リチウムイオン二次電池の余寿命を推定する工程と、を備える
請求項1~請求項3の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池の劣化判定方法。
【請求項7】
前記リチウムイオン二次電池の抵抗を測定することにより該抵抗に基づいて前記リチウムイオン二次電池の劣化状態を判定する工程、及び前記リチウムイオン二次電池の満充電容量を測定することにより該満充電容量に基づいて前記リチウムイオン二次電池の劣化状態を判定する工程の少なくとも何れかを備える
請求項1~請求項6の何れか一項に記載のリチウムイオン二次電池の劣化判定方法。
【請求項8】
リチウムイオン二次電池の自己放電容量を測定する自己放電容量測定部と、
前記自己放電容量を放電時間で除することにより、前記リチウムイオン二次電池の負極側で消費される負極副反応電流を演算する負極副反応電流演算部と、
前記負極副反応電流に基づいて、前記負極に形成される被膜量を推定する負極被膜量推定部と、
前記被膜量とリチウム析出
耐性との関係を示すリチウム析出情報を予め登録する記憶装置と、
前記リチウム析出情報を参照することにより、前記被膜量に基づいて、被膜の形成により前記負極に生じ
るリチウムの析出に対する劣化耐性の大きさを前記リチウムイオン二次電池の
前記リチウム析出
耐性とするリチウム析出
耐性演算部と、
前記リチウム析出
耐性に基づいて前記リチウムイオン二次電池の劣化状態を判定する劣化状態判定部と、を備えるリチウムイオン二次電池の劣化判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の劣化判定方法及びリチウムイオン二次電池の劣化判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に示すように、回収された二次電池の抵抗及び容量を測定することにより、これらの抵抗及び容量に基づいて、その二次電池の劣化状態判定を行う方法が知られている。そして、このような構成を採用することで、容易に、その利用可否判定を行うことが可能になる。更に、劣化度合いが同程度のモジュールを組み合わせてパッケージ化することができる。そして、これにより、性能のバラツキを抑えて高い信頼性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術の構成では、簡素な構成にて、容易に劣化判定を行うことができる一方、その判定精度にはバラツキがある。このため、実際の運用においては、その劣化判定に用いる閾値の設定が難しく、これにより、過判定が生ずる可能性があることから、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、容易に、精度よく、リチウムイオン二次電池の劣化判定を行うことのできる劣化判定方法及び劣化判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するリチウムイオン二次電池の劣化判定方法は、リチウムイオン二次電池の自己放電容量を測定する工程と、前記自己放電容量を放電時間で除することにより、前記リチウムイオン二次電池の負極側で消費される負極副反応電流を演算する工程と、前記負極副反応電流に基づいて、前記負極に形成される被膜量を推定する工程と、前記被膜量に基づいて、被膜の形成により前記負極に生じたリチウムの析出による劣化の大きさを前記リチウムイオン二次電池のリチウム析出耐性として演算する工程と、前記リチウム析出耐性に基づいて前記リチウムイオン二次電池の劣化状態を判定する工程と、を備える。
【0007】
上記構成によれば、リチウムイオン二次電池の正極及び負極に生ずる劣化現象を切り分けて、その負極に形成される被膜量の推定により、劣化状態の指標となるリチウム析出耐性が演算される。更に、例えば、判定対象となるリチウムイオン二次電池の型式に合わせて、その被膜量に応じたリチウム析出耐性を演算することができる。そして、これにより、精度よく、そのリチウムイオン二次電池の劣化状態を判定することができる。また、自己放電容量の測定により、負極副反応電流が演算され、及び被膜量が推定される。そして、これにより、例えば、回収されたリチウムイオン二次電池について、使用状態や環境温度等、個体に紐付けられた使用履歴に関する情報がない場合であっても、容易に、その劣化判定を行うことができる。
【0008】
上記課題を解決するリチウムイオン二次電池の劣化判定方法は、前記被膜量が多いほど、より小さな値を有した前記リチウム析出耐性を演算するとともに、前記リチウム析出耐性が所定の劣化判定閾値以上である場合に、前記リチウムイオン二次電池の利用が可能であると判定することが好ましい。
【0009】
即ち、負極における被膜の形成は、電極界面の電荷移動量に応じた律速反応であり、この被膜の形成に伴うリチウムの析出によって、その負極側の劣化状態が進むことになる。従って、上記構成によれば、容易に、精度よく、リチウムイオン二次電池の劣化判定を行うことができる。
【0010】
上記課題を解決するリチウムイオン二次電池の劣化判定方法は、前記被膜量と前記リチウム析出耐性との関係を示すリチウム析出情報を予め記憶装置に登録する工程を備え、前記被膜量を前記リチウム析出情報に参照することにより前記リチウム析出耐性を演算することが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、演算負荷を抑えて速やかに、その被膜量に応じたリチウム析出耐性を演算することができる。更に、リチウムイオン二次電池の型式に合わせて、そのリチウム析出情報を切り替えることもできる。そして、これにより、容易に、より精度よく、リチウムイオン二次電池の劣化判定を行うことができる。
【0012】
上記課題を解決するリチウムイオン二次電池の劣化判定方法は、所定の保存期間、所定の保存環境下で前記リチウムイオン二次電池を保存する工程を備え、保存前後の容量変化を前記自己放電容量とし、前記保存期間を前記放電時間として、前記負極副反応電流を演算することが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、簡素な構成にて、容易に、精度よく、リチウムイオン二次電池の自己放電容量を測定し、及び負極副反応電流を演算することができる。そして、これにより、より精度よく、リチウムイオン二次電池の劣化判定を行うことができる。
【0014】
上記課題を解決するリチウムイオン二次電池の劣化判定方法は、前記リチウムイオン二次電池に生ずる前記負極副反応電流及び該負極副反応電流に基づき成長する前記被膜量を経時的に予測して演算する工程と、予測される将来時間の前記被膜量に基づいて前記将来時間における前記リチウム析出耐性を演算する工程と、前記将来時間の前記リチウム析出耐性に基づき前記リチウムイオン二次電池が利用不可となる前記将来時間を特定することにより前記リチウムイオン二次電池の余寿命を推定する工程と、を備えることが好ましい。
【0015】
即ち、負極における被膜の形成は、電極界面の電荷移動量に応じた律速反応であることから、負極の被膜量を初期条件として、将来時間における負極副反応電流及び被膜量を経時的に予測することができる。従って、上記構成によれば、精度よく、そのリチウムイオン二次電池の余寿命を推定することができる。そして、これにより、その余寿命を踏まえて、有効にリチウムイオン二次電池を利用することができる。
【0016】
上記課題を解決するリチウムイオン二次電池の劣化判定方法は、前記リチウムイオン二次電池の使用環境に関する経時データを予め記憶装置に登録する工程を備え、前記被膜量を経時的に予測して演算する工程は、前記経時データに基づいて前記負極副反応電流を補正する工程を含むことが好ましい。
【0017】
即ち、電極界面における電荷移動速度は、その使用環境となる電極電位及び温度に依存する。従って、上記構成によれば、精度よく、将来時間における負極副反応電流及び被膜量を予測することができる。そして、これにより、より精度よく、そのリチウムイオン二次電池の余寿命を推定することができる。
【0018】
上記課題を解決するリチウムイオン二次電池の劣化判定方法は、前記リチウムイオン二次電池に生ずる前記負極副反応電流及び正極副反応電流を経時的に予測して演算する工程と、予測される将来時間における前記負極副反応電流の積分値及び前記正極副反応電流の積分値に基づいて、前記将来時間における前記リチウムイオン二次電池の容量低下量を演算する工程と、前記将来時間の前記容量低下量に基づき前記リチウムイオン二次電池が利用不可となる前記将来時間を特定することにより前記リチウムイオン二次電池の余寿命を推定する工程と、を備えることが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、精度よく、そのリチウムイオン二次電池の余寿命を推定することができる。
上記課題を解決するリチウムイオン二次電池の劣化判定方法は、前記リチウムイオン二次電池の抵抗を測定することにより該抵抗に基づいて前記リチウムイオン二次電池の劣化状態を判定する工程、及び前記リチウムイオン二次電池の満充電容量を測定することにより該満充電容量に基づいて前記リチウムイオン二次電池の劣化状態を判定する工程の少なくとも何れかを備えることが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、より精度よく、リチウムイオン二次電池の劣化判定を行うことができる。特に、抵抗や満充電容量で劣化状態を判定した場合に生ずる過判定、詳しくは、その負極側の劣化状態に余裕がある場合であっても利用不可と判定される状況を回避することができる。そして、これにより、より有効に、そのリチウムイオン二次電池を利用することができる。
【0021】
上記課題を解決するリチウムイオン二次電池の劣化判定装置は、リチウムイオン二次電池の自己放電容量を測定する自己放電容量測定部と、前記自己放電容量を放電時間で除することにより、前記リチウムイオン二次電池の負極側で消費される負極副反応電流を演算する負極副反応電流演算部と、前記負極副反応電流に基づいて、前記負極に形成される被膜量を推定する負極被膜量推定部と、前記被膜量に基づいて、被膜の形成により前記負極に生じたリチウムの析出による劣化の大きさを前記リチウムイオン二次電池のリチウム析出耐性として演算するリチウム析出耐性演算部と、前記リチウム析出耐性に基づいて前記リチウムイオン二次電池の劣化状態を判定する劣化状態判定部と、を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、精度よく、リチウムイオン二次電池の劣化判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】リチウムイオン二次電池の劣化判定を行う際の処理手順を示すフローチャート。
【
図4】負極副反応電流と負極の被膜量との関係を示す説明図。
【
図5】負極の被膜量とリチウム析出
耐性との関係を示す説明図。
【
図6】負極副反応電流を演算する際の処理手順を示すフローチャート。
【
図7】回収されたリチウムイオン電池の保存、及び保存前後の容量変化を示す説明図。
【
図8】メモリに登録された余寿命推定の諸条件を示す説明図。
【
図9】負極副反応電流及び負極被膜量の予測に基づいたリチウムイオン二次電池の余寿命推定を行う際の処理手順を示すフローチャート。
【
図10】別例の余寿命推定の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、リチウムイオン二次電池の劣化判定方法及び劣化判定装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、リチウムイオン二次電池1は、図示しない電解質とともに、その正極3、負極4、及びセパレータ5が内側に封入されたセル10を構成要素とする。そして、例えば、車載電源等、その用途に応じて、このようなセル10を複数組み合わせてパッケージ化する構成が一般的となっている。
【0025】
尚、説明の便宜上、
図1中には、所謂一次元の電池モデルを記載するが、実際の構成としては、例えば、正極3及び負極4、及びセパレータ5は、シート状の外形を有して積層される。更に、この積層体を巻回することにより、正極3と負極4との間にセパレータ5を挟み込む状態で、その径方向において、正負の電極とセパレータ5とが交互に並ぶ電極体11が形成される。即ち、電極体11の形成には、二枚のセパレータ5が用いられる。また、多くの場合、電極体11は、その巻回された正極3、負極4、及びセパレータ5を径方向外側から押圧することで、扁平した外形を有するものとなっている。そして、リチウムイオン二次電池1は、このような電極体11を、電解質となる非水電解液や非水電解質ポリマー等とともに、そのセル10の外殻を構成するケース12内に収容する構成となっている。
【0026】
また、正極3及び負極4は、それぞれ、例えば、シート状の外形を有した正極集電体13及び負極集電体14に対し、活物質を含んだスラリーを塗布することにより形成される。具体的には、正極集電体13には、例えば、アルミニウム等が用いられ、正極活物質には、リチウム遷移金属酸化物が用いられる。また、負極集電体14には、例えば、銅等が用いられ、負極活物質には、炭素系材料が用いられる。更に、リチウムイオン二次電池1のケース12には、その外部に突出する正極端子15及び負極端子16が設けられている。そして、リチウムイオン二次電池1は、これらの正極端子15及び負極端子16に対して、それぞれ、その対応する正極集電体13及び負極集電体14が電気的に接続される構成となっている。
【0027】
(リチウムイオン二次電池の劣化判定装置及び劣化判定方法)
次に、リチウムイオン二次電池1の劣化判定装置、及び、その劣化判定方法について説明する。
【0028】
図2に示すように、例えば、車載電源等、使用済みのリチウムイオン二次電池1は、回収後、劣化判定装置21に接続される。そして、その劣化状態に基づいて、再利用可能であるか否かが判断される。
【0029】
詳述すると、劣化判定装置21は、リチウムイオン二次電池1に対する充放電を行う充放電部22を備えている。また、劣化判定装置21は、そのリチウムイオン二次電池1の電圧VBを測定する電圧測定部23、電流IBを測定する電流測定部24を備えている。更に、劣化判定装置21は、リチウムイオン二次電池1の環境温度TBを測定する温度センサ25を備えている。そして、劣化判定装置21は、リチウムイオン二次電池1の環境温度TBを管理する温度管理部26を備えている。
【0030】
また、本実施形態の劣化判定装置21において、充放電部22は、制御装置30によって、その作動が制御されている。具体的には、この制御装置30は、制御のための演算処理を実行する演算処理回路とともに、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリ31を備えたマイクロコンピュータとしての構成を有している。更に、電圧測定部23及び電流測定部24による検出データもまた、この制御装置30に入力される。そして、温度管理部26もまた、制御装置30によって、その作動が制御されている。
【0031】
即ち、この劣化判定装置21は、制御装置30が実行する制御用のプログラムに基づいて、リチウムイオン二次電池1の充放電状態及び環境温度TBを自在に設定することができる。そして、本実施形態の劣化判定装置21は、これにより、そのリチウムイオン二次電池1の充放電状態及び環境温度TBを調整しつつ、電圧測定部23及び電流測定部24の検出データに基づいて、このリチウムイオン二次電池1の各種状態量を測定することにより、その劣化状態を判定する構成になっている。
【0032】
さらに詳述すると、
図3のフローチャートに示すように、本実施形態の劣化判定装置21は、リチウムイオン二次電池1が回収されると(ステップ101)、先ず、その回収時の抵抗R及び満充電容量R1を測定する(ステップ102)。更に、これら回収時の抵抗R及び満充電容量Q1を、それぞれ、予め定められた劣化判定閾値Rth,Qthと比較する(ステップ103及びステップ104)。そして、劣化判定装置21は、回収時の抵抗Rが劣化判定閾値Rthを超える場合(R>Rth、ステップ103:NO)、又は、回収時の満充電容量Q1が劣化判定閾値Qthに満たない場合(Q1<Qth、ステップ104:NO)に、その劣化状態が、再利用できない末期状態にあると判定する(再利用不可、ステップ105)。
【0033】
また、本実施形態の劣化判定装置21は、上記ステップ103及びステップ104の各劣化判定条件を共に満たした場合(R≦Rth、且つQ1≧Qth、ステップ103:YES及びステップ104:YES)、続いて、そのリチウムイオン二次電池1の負極4に生ずる負極副反応電流I_neを測定する(ステップ106)。次に、劣化判定装置21は、この負極副反応電流I_neに基づいて、負極4に形成される被膜量X_neを推定する(ステップ107)。更に、劣化判定装置21は、この負極4の被膜量X_neに基づいて、その被膜の形成により負極4に生じるリチウムの析出に対する劣化耐性の大きさを、リチウムイオン二次電池1のリチウム析出耐性Zとして演算する(ステップ108)。そして、本実施形態の劣化判定装置21は、このリチウム析出耐性Zに基づいて、そのリチウムイオン二次電池1の劣化状態を判定する(ステップ109)。
【0034】
即ち、電極の被膜成長モデルを示す次の(1)式は、電極界面の電荷移動により生ずる副反応電流Iと、その積分値∫Idtとの関係を示す(2)式に変換することができる。
【0035】
【数1】
つまり、電極界面において被膜の形成に消費される単位時間あたりの電荷移動量が、その副反応電流Iに表される。更に、被膜の成長に伴い抵抗が増加することで、その電極界面の電荷移動量が徐々に減少する。そして、これにより、その膜厚xと成長速度(dx/dt)とが反比例の関係にあることを示す(1)式、及び、その副反応電流Iと電極の被膜量を示す積分値∫Idtとが反比例の関係にあることを示す(2)式が導かれる。
【0036】
図2及び
図4に示すように、本実施形態の劣化判定装置21においては、このような負極副反応電流I_neと負極4の被膜量X_neとの関係が、マップ33の形式で、予め、その制御装置30のメモリ31に登録されている。尚、
図4中、負極副反応電流I_neの単位は「μA」、負極4の被膜量X_neの単位は「Ah」である。そして、本実施形態の劣化判定装置21は、測定した負極副反応電流I_neを、このマップ33に参照することにより、そのリチウムイオン二次電池1における負極4の被膜量X_neを推定する。
【0037】
更に、
図2及び
図5に示すように、本実施形態の劣化判定装置21においては、その負極4の被膜量X_neとリチウム析出
耐性Zとの関係を示すリチウム析出情報もまた、マップ34の形式で、予め、その制御装置30のメモリ31に登録されている。具体的には、このマップ34には、負極4の被膜量X_neが増加するに従って、その値が徐々に減少するリチウム析出
耐性Zと被膜量X_neとの関係性が保持されている。即ち、負極4の被膜量X_neが増大することにより、この被膜に取り込まれるかたちで、その負極4側に析出するリチウム量が増加する。そして、本実施形態の劣化判定装置21は、推定した負極4の被膜量X_neを、このマップ34に参照することにより、そのリチウムイオン二次電池1のリチウム析出
耐性Zを演算する。
【0038】
図3~
図5に示すように、本実施形態の劣化判定装置21は、ステップ109において、その演算されたリチウム析出
耐性Zを、予め定められた劣化判定閾値Zthと比較する。そして、リチウム析出
耐性Zが劣化判定閾値Zth以上である場合(Z≧Zth、ステップ109:YES)に、そのリチウムイオン二次電池1は、再利用することのできる状態にあると判定し(ステップ110)、劣化判定閾値Zthに満たない場合(Z<Zth、ステップ109:NO)には、ステップ105において、再利用不可と判定する。
【0039】
さらに詳述すると、
図6のフローチャート、及び
図7に示すように、本実施形態の劣化判定装置21は、回収されたリチウムイオン二次電池1について、先ず、その回収時の満充電容量Q1を測定する(ステップ201)。
【0040】
具体的には、このステップ201における満充電容量Q1の測定は、先ず、リチウムイオン二次電池1を放電して、そのSOC(State of Charge)が「0%」、つまりは完全放電に対応する下限電圧Vminまで電圧VBを低下させる。次に、このリチウムイオン二次電池1を充電して、SOCが「100%」、つまりは満充電状態に対応する上限電圧Vmaxまで電圧VBを上昇させる。尚、例えば、下限電圧Vminは「3.0V」であり、上限電圧Vmaxは「4.1V」である。更に、完全放電状態から満充電状態までの充電量、つまり、そのリチウムイオン二次電池1を充電する間に流れた電流IBが測定される。そして、本実施形態の劣化判定装置21は、これにより測定された回収時の満充電容量Q1が、上記のような、その回収時の満充電容量Q1に基づいた劣化判定に用いられる(
図3参照、ステップ104)。
【0041】
次に、本実施形態の劣化判定装置21は、リチウムイオン二次電池1の電圧VBに基準電圧Vrefを設定して、この基準電圧Vrefにおける基準充電容量Q2を測定する(ステップ202)。具体的には、基準電圧Vrefは、下限電圧Vminから上限電圧Vmaxまでの任意の値、例えば「3.8V」に設定される。そして、この場合もまた、そのリチウムイオン二次電池1の電圧VBが、下限電圧Vminから基準電圧Vrefに至るまでの充電量に基づいて、その基準充電容量Q2が測定される。
【0042】
更に、本実施形態の劣化判定装置21は、この基準電圧Vrefに調整されたリチウムイオン二次電池1を、所定の保存期間t_st、所定の保存環境下でリチウムイオン二次電池1を保存する(ステップ203)。具体的には、例えば、所定の保存期間t_stは「数日程度」に設定される。また、所定の保存環境として、そのリチウムイオン二次電池1の環境温度TBが、所定温度T_st、例えば「70℃」程度で維持される。そして、劣化判定装置21は、このリチウムイオン二次電池1の保存後、その残存容量Q3を測定する(ステップ204)。
【0043】
尚、このステップ204における残存容量Q3の測定は、その電圧VBが下限電圧Vminとなるまで保存後のリチウムイオン二次電池1を放電し、この間に流れる電流IBを測定することにより行われる。そして、本実施形態の劣化判定装置21は、上記ステップ102で測定した保存前の基準充電容量Q2から、この保存後の残存容量Q3を減ずる、つまりは、保存前後の容量変化に基づいて、そのリチウムイオン二次電池1の自己放電容量Qsdを演算する(Qsd=Q2-Q3、ステップ205)。
【0044】
更に、劣化判定装置21は、このステップ205で演算した自己放電容量Qsdを、その放電時間となる保存期間t_stで除することにより、このリチウムイオン二次電池1の負極副反応電流I_neを演算する(I_ne=Qsd/t_st、ステップ206)。そして、本実施形態の劣化判定装置21は、このステップ206で演算した負極副反応電流I_neを用いることにより、上記のような、その負極4に生じた被膜量X_neの推定、及び、この被膜量X_neに基づく劣化判定閾値Zthの演算、並びに劣化判定を実行する構成になっている(
図3参照、ステップ106~ステップ109)。
【0045】
尚、保存後の満充電容量Q4を測定し(ステップ207)、この保存後の満充電容量Q4を回収時の満充電容量Q1から減ずることによりリチウムイオン二次電池1の容量低下量Qlossを演算することができる(Qloss=Q1-Q4、ステップ208)。この場合における保存後の満充電容量Q4もまた、そのリチウムイオン二次電池1の電圧VBが、下限電圧Vminから上限電圧Vmaxに至るまでの充電量に基づいて測定することができる。そして、その容量低下量Qlossを保存期間t_stで除した値を、上記ステップ206で演算した負極副反応電流I_neから減ずることにより、リチウムイオン二次電池1の正極副反応電流I_peを演算することができる(I_pe=I_ne-(Qloss/t_st)、ステップ209)。
【0046】
また、本実施形態の劣化判定装置21は、リチウムイオン二次電池1に生ずる負極副反応電流I_ne、及び、その負極副反応電流I_neに基づき成長する負極4の被膜量X_neを経時的に予測して演算する。更に、劣化判定装置21は、予測される将来時間tの被膜量X_neに基づいて、その将来時間tにおけるリチウム析出耐性Zを演算する。そして、本実施形態の劣化判定装置21は、この将来時間tのリチウム析出耐性Zに基づきリチウムイオン二次電池1が利用不可となる将来時間tを特定することにより、そのリチウムイオン二次電池1の余寿命Nを推定する。
【0047】
図8及び
図9のフローチャートに示すように、本実施形態の劣化判定装置21を用いてリチウムイオン二次電池1の余寿命Nを推定する際には、先ず、制御装置30のメモリ31に対し(
図2参照)、その余寿命推定の初期条件となる諸条件を登録する(ステップ301)。
【0048】
具体的には、その初期条件として予めメモリ31に登録される諸条件には、上記のように推定された負極4の被膜量X_ne(
図3及び
図4参照)、及びリチウムイオン二次電池1の使用環境情報D_evrが含まれる。
【0049】
本実施形態の劣化判定装置21においては、回収されたリチウムイオン二次電池1のリチウム析出耐性Zを演算する際に推定した被膜量X_neの値が、その予測開始時の初期値X_ne0として、制御装置30のメモリ31に登録される。更に、この初期値X_ne0とは独立に、その時間の経過とともに成長する将来時間tの被膜量X_neが、その予測の進行により随時更新されながら、制御装置30のメモリ31に保持される。尚、後述するように、本実施形態の劣化判定装置21においては、この将来時間tにおける被膜量X_neの更新演算に、その被膜量X_neの初期値X_ne0が用いられる。そして、本実施形態の劣化判定装置21は、この予測により演算される将来時間tの被膜量X_neに基づいて、その将来時間tのリチウム析出耐性Zを演算する。
【0050】
また、本実施形態の劣化判定装置21において、使用環境情報D_evrは、その将来の使用時において予測されるリチウムイオン二次電池1の電圧経時データD_vb、及び、同じく将来の使用時において予測されるリチウムイオン二次電池1の温度経時データD_tbを含んで構成される。尚、電圧経時データD_vbは、経過時間毎に、その負極電位V_neと正極電位V_peとが区分けされた状態で保持されている。そして、本実施形態の劣化判定装置21において、これらの電圧経時データD_vb及び温度経時データD_tbは、その経過時間とセル電圧との関係、及び経過時間との温度情報との関係を、それぞれ、マップの形式で保持するものとなっている。
【0051】
更に、メモリ31には、この使用環境情報D_evrに基づいて、その将来時間tの負極副反応電流I_neを補正するための補正マップM_neが登録される。即ち、この補正マップM_corには、実験やシミュレーション等により求められた負極電位V_ne及び環境温度TBと負極副反応電流I_neの補正値αとの関係が保持されている。そして、本実施形態の劣化判定装置21は、この補正マップM_corを参照し、将来時間tの負極電位V_ne及び環境温度TBに基づき負極副反応電流I_neを補正しつつ、その被膜量X_neの推定、及びリチウム析出耐性Zの演算を実行することで、将来時間tにおけるリチウムイオン二次電池1の劣化判定を実行する構成になっている。
【0052】
詳述すると、劣化判定装置21は、ステップ301において、その余寿命推定の初期条件となる諸条件を登録すると、先ず、その将来時間tを計測するための経時カウンタをセットする(t=0、ステップ302)。尚、この経時カウンタによる将来時間tの「1カウント」は、説明の便宜上、負極副反応電流I_neの単位時間(「1s(秒)」)とする。次に、劣化判定装置21は、そのメモリ31に登録された負極4の被膜量X_neに基づいて、リチウム析出
耐性Zを演算する(ステップ303)。尚、本実施形態の劣化判定装置21において、このリチウム析出
耐性Zの演算は、
図3のフローチャートに示す回収後の劣化状態判定時と同様、そのメモリ31に保持する上記マップ34を用いて行われる(
図5参照)。そして、本実施形態の劣化判定装置21は、このリチウム析出
耐性Zと劣化判定閾値Zthとの比較に基づいて、そのリチウムイオン二次電池1の劣化状態が、このリチウムイオン二次電池1を利用できない状態にあるか否かを判定する(ステップ304)。
【0053】
尚、本実施形態の劣化判定装置21において、この
図9のフローチャートに示す余寿命推定処理は、上記回収後の劣化状態判定において、再利用可能(
図3参照、ステップ110)と判定されたリチウムイオン二次電池1について行われる。このため、余寿命推定の開始直後(t=0)、このステップ304においては、そのリチウム析出
耐性Zが劣化判定閾値Zth以上であると判定される(Z≧Zth、ステップ304:NO)。
【0054】
このステップ304において、リチウムイオン二次電池1の利用が可能であると判定した場合、劣化判定装置21は、続いて、その経時カウンタをインクリメントする(t=t+1、ステップ305)。次に、劣化判定装置21は、メモリ31に登録された負極4の被膜量X_neに基づいて負極副反応電流I_neの値を演算する(ステップ306)。尚、本実施形態の劣化判定装置21において、この負極副反応電流I_neの演算は、そのメモリ31に保持する上記マップ33(
図4参照)を用いて行われる。更に、劣化判定装置21は、同じくメモリ31に登録された使用環境情報D_evr及び補正マップM_corに基づいて、将来時間tにおける負極副反応電流I_neの補正値αを演算する(ステップ307)。そして、この補正値αを用いて負極副反応電流I_neの補正演算を実行する(I_ne´=I_ne+α、ステップ308)。
【0055】
次に、劣化判定装置21は、将来時間tにおける負極副反応電流I_neの積分値∫Idt_neを演算する(ステップ309)。尚、本実施形態の劣化判定装置21は、上記ステップ306で演算した負極副反応電流I_neの値を、負極副反応電流推移データDI_neとして経時的に、そのメモリ31に保持する。そして、この負極副反応電流推移データD_neに基づいて、その負極副反応電流I_neの積分値∫Idt_neを演算する。
【0056】
更に、劣化判定装置21は、上記(1)(2)式に基づいて、ステップ309において演算された負極副反応電流I_neの積分値∫Idt_neを、ステップ301においてメモリ31に登録した被膜量X_neの初期値X_ne0に加算した値で、その負極4の被膜量X_neを更新する(X_ne=X_ne0+∫Idt_ne、ステップ310)。そして、このステップ301において更新された新たな被膜量X_neの値に基づいて、再び上記ステップ303及びステップ304の処理を実行する。
【0057】
即ち、本実施形態の劣化判定装置21は、上記ステップ304において、将来時間tにおけるリチウム析出耐性Zの値が劣化判定閾値Zthに満たない、つまりは、このリチウムイオン二次電池1が利用不可であると判定されるまで(Z<Zth、ステップ304:YES)、上記ステップ303~ステップ310の処理を繰り返し実行する。そして、これにより、そのリチウムイオン二次電池1が利用不可となる将来時間tを特定して(ステップ311)、このリチウムイオン二次電池1の余寿命Nに換算する構成になっている(ステップ312)。
【0058】
尚、余寿命Nの単位は、例えば「日」や「年」で表される。また、本実施形態の劣化判定装置21は、その推定された余寿命Nを予め定められた所定の出荷閾値Nthと比較する(ステップ313)。そして、その推定された余寿命Nは出荷閾値Nth以上である場合に、リチウムイオン二次電池1の出荷を許可し(ステップ314)、出荷閾値Nthに満たない場合には、このリチウムイオン二次電池1は出荷できないものと判定する構成となっている(出荷不可、ステップ315)。
【0059】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図2に示すように、本実施形態においては、劣化判定装置21を構成する制御装置30が、その自己放電容量測定部30a、負極副反応電流演算部30b、負極被膜量推定部30c、リチウム析出
耐性演算部30d、及び劣化状態判定部30eとして機能する。
【0060】
即ち、本実施形態の劣化判定装置21においては、制御装置30が実行するプログラムに基づいて、回収されたリチウムイオン二次電池1について、その保存前後の容量変化を測定することにより、このリチウムイオン二次電池1の自己放電容量Qsdが検出される。次に、この自己放電容量Qsdを、その放電時間となる保存期間t_stで除することにより、リチウムイオン二次電池1の負極4側で消費された負極副反応電流I_neが測定される。続いて、この負極副反応電流I_neに基づいて、その負極4に形成された被膜量X_neが推定される。更に、この被膜量X_neに基づいて、その被膜の形成により負極4に生じたリチウムの析出による劣化の大きさが、このリチウムイオン二次電池1のリチウム析出耐性Zとして演算される。そして、このリチウム析出耐性Zに基づいて、そのリチウムイオン二次電池1の劣化状態が判定される。
【0061】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)上記構成によれば、リチウムイオン二次電池1の正極3及び負極4に生ずる劣化現象を切り分けて、その負極4に形成される被膜量X_neの推定により、劣化状態の耐性となるリチウム析出耐性Zが演算される。更に、例えば、判定対象となるリチウムイオン二次電池1の型式に合わせて、その被膜量X_neに応じたリチウム析出耐性Zを演算することができる。そして、これにより、精度よく、そのリチウムイオン二次電池1の劣化状態を判定することができる。また、自己放電容量Qsdの測定により、負極副反応電流I_neが演算され、及び被膜量X_neが推定される。そして、これにより、例えば、回収されたリチウムイオン二次電池1について、使用状態や環境温度等、個体に紐付けられた使用履歴に関する情報がない場合であっても、容易に、その劣化判定を行うことができる。
【0062】
(2)劣化判定装置21は、負極4の被膜量X_neが多いほど、より小さな値を有したリチウム析出耐性Zを演算する。そして、このリチウム析出耐性Zが所定の劣化判定閾値Zth以上である場合に(Z≧Zth)、そのリチウムイオン二次電池1の利用が可能であると判定する。
【0063】
即ち、負極4における被膜の形成は、電極界面の電荷移動量に応じた律速反応であり、この被膜の形成に伴うリチウムの析出によって、その負極4側の劣化状態が進むことになる。従って、上記構成によれば、容易に、精度よく、リチウムイオン二次電池1の劣化判定を行うことができる。
【0064】
(3)記憶装置としてのメモリ31には、負極4の被膜量X_neとリチウム析出耐性Zとの関係を示すリチウム析出情報が、マップ34の形式で、予め登録されている。そして、劣化判定装置21は、推定した負極4の被膜量X_neを、そのマップ34に参照することによりリチウム析出耐性Zを演算する。
【0065】
上記構成によれば、演算負荷を抑えて速やかに、その被膜量X_neに応じたリチウム析出耐性Zを演算することができる。更に、リチウムイオン二次電池1の型式に合わせて、そのリチウム析出情報のマップ34を切り替えることもできる。そして、これにより、容易に、より精度よく、リチウムイオン二次電池1の劣化判定を行うことができる。
【0066】
(4)回収されたリチウムイオン二次電池1は、所定の保存期間t_st、所定温度T_stを維持する所定の保存環境下で保存される。そして、劣化判定装置21は、その保存前後の容量変化をリチウムイオン二次電池1の自己放電容量Qsdとし、その保存期間t_stを放電時間として、負極副反応電流I_neを演算する。
【0067】
上記構成によれば、簡素な構成にて、容易に、精度よく、リチウムイオン二次電池1の自己放電容量Qsdを測定し、及び負極副反応電流I_neを演算することができる。そして、これにより、より精度よく、リチウムイオン二次電池1の劣化判定を行うことができる。
【0068】
(5)劣化判定装置21は、リチウムイオン二次電池1に生ずる負極副反応電流I_ne、及び、その負極副反応電流I_neに基づき成長する負極4の被膜量X_neを経時的に予測して演算する。更に、劣化判定装置21は、予測される将来時間tの被膜量X_neに基づいて、その将来時間tにおけるリチウム析出耐性Zを演算する。そして、劣化判定装置21は、この将来時間tのリチウム析出耐性Zに基づきリチウムイオン二次電池1が利用不可となる将来時間tを特定することにより、そのリチウムイオン二次電池1の余寿命Nを推定する。
【0069】
即ち、負極4における被膜の形成は、電極界面の電荷移動量に応じた律速反応であることから、負極4の被膜量X_neを初期条件として、将来時間tにおける負極副反応電流I_ne及び被膜量X_neを経時的に予測することができる。従って、上記構成によれば、精度よく、そのリチウムイオン二次電池1の余寿命Nを推定することができる。そして、これにより、その余寿命Nを踏まえて、有効にリチウムイオン二次電池1を再利用することができる。
【0070】
(6)記憶装置としてのメモリ31には、予め、リチウムイオン二次電池1の使用環境に関する経時データとして、その将来の使用時において予測される電圧経時データD_vb及び温度経時データD_tbを含んだ使用環境情報D_evrが登録されている。そして、劣化判定装置21は、その使用環境情報D_evrに基づいて負極副反応電流I_neを補正しつつ、その将来時間tにおける負極4の被膜量X_neを予測する。
【0071】
即ち、電極界面における電荷移動速度は、その電極電位及び温度に依存する。従って、上記構成によれば、精度よく、将来時間tにおける負極副反応電流I_ne及び被膜量X_neを予測することができる。そして、これにより、より精度よく、そのリチウムイオン二次電池1の余寿命Nを推定することができる。
【0072】
(7)劣化判定装置21は、回収されたリチウムイオン二次電池1の抵抗R及び満充電容量Q1を測定する。更に、劣化判定装置21は、これらの抵抗R及び満充電容量Q1に基づいてリチウムイオン二次電池1の劣化状態を判定する。そして、これらの劣化判定条件を共に満たした場合に、その負極副反応電流I_neの測定による負極4に生じた被膜量X_neの推定、及び、この被膜量X_neに基づいたリチウム析出耐性Zの演算によるリチウムイオン二次電池1の劣化状態判定を実行する。
【0073】
上記構成によれば、より精度よく、リチウムイオン二次電池1の劣化判定を行うことができる。特に、抵抗R及び満充電容量Q1のみで劣化状態を判定した場合に生ずる過判定、詳しくは、その負極4側の劣化状態に余裕がある場合であっても再利用不可と判定される状況を回避することができる。そして、これにより、より有効に、そのリチウムイオン二次電池1を再利用することができる。
【0074】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0075】
・上記実施形態では、回収されたリチウムイオン二次電池1について、その抵抗R及び満充電容量Q1の測定による劣化状態判定を共に満たした場合(R≦Rth且つQ1≧Qth)に、負極副反応電流I_neの測定、被膜量X_neの推定、及びリチウム析出耐性Zの演算による劣化状態判定を実行することとした。しかし、これに限らず、抵抗Rの測定による劣化状態判定又は満充電容量Q1による劣化状態判定の何れか一方を、そのリチウム析出耐性Zに基づいた劣化状態判定に組み合わせた構成であってもよい。そして、その判定順についてもまた、例えば、リチウム析出耐性Zに基づく劣化状態判定を先に実行する等、任意に変更してもよい。
【0076】
・上記実施形態では、負極副反応電流I_neと負極4の被膜量X_neとの関係がマップ33の形式で、予め記憶装置としてのメモリ31に登録されることとしたが、計算式を用いて、その測定された負極副反応電流I_neに応じた被膜量X_neを求める構成としてもよい。
【0077】
・上記実施形態では、負極4の被膜量X_neとリチウム析出耐性Zとの関係が、マップ34の形式で、予め記憶装置としてのメモリ31に登録される。そして、マップ34には、負極4の被膜量X_neが増加するに従って、略直線状に、その値が徐々に減少するリチウム析出耐性Zと被膜量X_neとの関係性が保持されることとした。しかし、これに限らず、例えば、被膜量X_neの増加により、リチウム析出耐性Zの値がステップ状に低下するように、その負極4の被膜量X_neとリチウム析出耐性Zとの関係を規定するものであってもよい。
【0078】
・リチウムイオン二次電池1を保存する前の基準電圧Vrefは、下限電圧Vminと上限電圧Vmaxとの間で任意に変更してもよい。例えば、上限電圧Vmaxを保存前の基準電圧Vrefとしてもよい。これにより、その基準充電容量Q2を測定する工程を省略することができる(Vref=Vmax、Q2=Q1)。
【0079】
・リチウムイオン二次電池1を保存する際、その所定の保存期間t_st、及び所定の保存条件となる所定温度T_stは、任意に変更してもよい。そして、自己放電容量Qsdの測定が可能であれば、必ずしも、そのリチウムイオン二次電池1の保存を行わなくともよい。
【0080】
・上記実施形態では、余寿命推定の初期条件となる諸条件として、予め求めた負極4の被膜量X_neを、その記憶装置となるメモリ31に登録することとしたが、予め測定された負極副反応電流I_ne又はリチウム析出耐性Zを登録して、上記マップ33,34から、その対応する被膜量X_neを求める構成としてもよい。
【0081】
・また、経時カウンタによる将来時間tの「1カウント」に、「1h(時)」や「1d(日)」等、負極副反応電流I_neの単位時間(「1s(秒)」)よりも長い時間を設定して、その将来時間tにおける負極副反応電流I_ne及び被膜量X_neを予測する構成としてもよい。この場合、例えば、経時カウンタの1カウント毎に、その負極副反応電流I_neの区間積分値を求める。そして、その値を経時的に積算することで、将来時間tにおける負極4の被膜量X_neを求めることができる。
【0082】
・上記実施形態では、負極4の被膜量X_neから、将来時間tのリチウム析出耐性Zを予測することにより、そのリチウムイオン二次電池1の余寿命推定を行うこととした。
しかし、これに限らず、例えば、将来時間tにおける容量低下量Qlossを予測する。そして、この予測される容量低下量Qlossに基づいて、そのリチウムイオン二次電池1の余寿命推定を行う構成としてもよい。
【0083】
即ち、
図6及び
図7に示すように、負極副反応電流I_neの積分値∫Idt_neを求めることでリチウムイオン二次電池1の自己放電容量Qsd´を求めることができる(ステップ206参照)。そして、この負極副反応電流I_neの積分値∫Idt_neから正極副反応電流I_peの積分値∫Idt_peを減ずることにより、その容量低下量Qlossを求めることができる(ステップ209参照)。
【0084】
この点を踏まえ、
図10のフローチャートに示すように、将来時間tにおける負極副反応電流I_ne及びその被膜量X_neに対応する積分値∫Idt_neの予測演算(ステップ406及びステップ407)と併せて、将来時間tにおける正極副反応電流I_pe及びその積分値∫Idt_peの予測演算を実行する(ステップ408~ステップ411)。尚、ステップ411中、「∫Idt_pe0」は、上記ステップ401において登録した積分値∫Idt_peの初期値である。更に、その将来時間tにおける負極副反応電流I_neの積分値∫Idt_neから正極副反応電流I_peの積分値∫Idt_peを減ずることにより、将来時間tの容量低下量Qlossを演算する(Qloss=∫Idt_ne-∫Idt_pe、ステップ403)。そして、将来時間tの容量低下量Qlossを劣化判定閾値Qth_lossと比較することにより、その余寿命推定を実行する(ステップ404)。
【0085】
尚、
図10のフローチャートにおけるステップ402、ステップ405~ステップ407、及びステップ412以降の各処理は、それぞれ、
図9のフローチャートにおけるステップ302、ステップ305~ステップ310、及びステップ311以降の各処理と同一である。
【0086】
即ち、正極副反応電流I_peは、負極副反応電流I_neから容量低下量Qlossの微分値dQlossを減ずることにより求めることができる(I_pe=I_ne´-dQloss、ステップ408、
図6中、ステップ209参照)。尚、この例においては、負極副反応電流I_neと同様、正極副反応電流I_peについてもまた、その使用環境情報D_evrに基づいた補正演算が実行される(ステップ409)。更に、正極副反応電流I_peの積分値∫Idt_pe´が演算され(ステップ410)、その新たな値∫Idt_pe´でメモリ31に登録された∫Idt_peが更新される(ステップ411)。そして、ステップ404において、その初裏時間における容量低下量Qlossの値が劣化判定閾値Qth_lossを超えるまで(Qloss>Qth_loss、ステップ404:YES)、その経時カウンタをインクリメントしつつ(t=t+1、ステップ405)、上記ステップ403~ステップ411の処理を繰り返し実行される。
【0087】
このような構成を採用しても、上記実施形態と同様、精度よく、そのリチウムイオン二次電池1の余寿命Nを推定することができる。
【符号の説明】
【0088】
1…リチウムイオン二次電池
4…負極
21…劣化判定装置
Qsd…自己放電容量
t_st…保存期間(放電時間)
I_ne…負極副反応電流
X_ne…被膜量
Z…リチウム析出耐性