(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】防振機構
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20240730BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
F16F15/04 D
F16F15/02 C
(21)【出願番号】P 2020117097
(22)【出願日】2020-07-07
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-199904(JP,A)
【文献】特開2009-174677(JP,A)
【文献】特開平11-324407(JP,A)
【文献】特開2004-044748(JP,A)
【文献】特開2014-132201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00- 15/36
E04H 9/00- 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体に支持バネ要素を介して設置された振動体が加振された際に前記構造体へ作用する反力を低減させるための防振機構であって、
前記構造体と前記振動体との間に前記支持バネ要素と並列に設置されるとともに、前記振動体の固有振動数と同調するように互いに直列に配置された直列バネ及び第一慣性質量ダンパーを備え、
前記直列バネと並列に配置された第一減衰機構が設けられ、
前記第一慣性質量ダンパーと並列に配置された第二減衰機構が設けられて
おらず、
振動体の質量をM、支持バネ要素のバネ剛性をK、直列バネのバネ剛性をk
d
、第一慣性質量ダンパーの慣性質量をψ
d
、第一減衰機構の減衰係数をc
d1
とすると、下記式(1)を満たすことを特徴とする防振機構。
【数1】
【請求項2】
構造体に支持バネ要素を介して設置された振動体が加振された際に前記構造体へ作用する反力を低減させるための防振機構であって、
前記構造体と前記振動体との間に前記支持バネ要素と並列に設置されるとともに、前記振動体の固有振動数と同調するように互いに直列に配置された直列バネ及び第一慣性質量ダンパーを備え、
前記直列バネと並列に配置された第一減衰機構が設けられ、
前記第一慣性質量ダンパーと並列に配置された第二減衰機構が設けられて
おらず、
前記構造体と前記振動体との間に前記支持バネ要素と並列に設置された第二慣性質量ダンパーを備え、
振動体の質量をM、支持バネ要素のバネ剛性をK、直列バネのバネ剛性をk
d
、第一慣性質量ダンパーの慣性質量をψ
d
、第二慣性質量ダンパーの慣性質量をψ、第一減衰機構の減衰係数をc
d1
とすると、下記式(3)を満たすことを特徴とする防振機構。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
輪転機やプレス機など一定の振動数で大きな鉛直振動を生じる機器は、そのまま基礎に設置すると周辺に大きな振動障害を生じるため、基礎との間に空気バネなどのバネ要素を介して浮き基礎を設置することが多い。また、ライブホールのスタジオなどの施設では、大人数が曲に合わせて運動して床を加振するため、やはり周辺建物に振動障害を生じることが懸念され、防振対策が求められている。
このような振動障害を回避するための一般的な防振対策として、振動源となる人や機器を載せた床や基礎を構造体に一体化するのではなく、浮き床や浮き基礎として構造体に柔らかいバネ要素を介して支持する防振機構が採用されている。
【0003】
具体的な実施例として、振動台の浮き基礎を
図6に示し、浮き基礎や浮き床を適用した際の振動モデルを
図7に示す。
図6に示すように、外基礎11上に、空気ばね13を介して浮き基礎12を設置している。浮き基礎1に対して加振力Fが入力される場合に外基礎11に反力Rが作用する。
図7に示すように、防振機構100Aでは、構造体床11と、構造体床11と相対変位可能に設けられた質量Mの浮き床12との間に、バネ剛性Kの支持バネ要素13及び減衰係数Cの減衰機構14が設けられている。支持バネ要素13と減衰機構14とは、並列に配置されている。
【0004】
図7に示す振動モデルで、加振力に対する反力応答倍率を振動数伝達関数として
図8に示す。
図8に示すように、振動数1Hz(共振時)の反力の倍率は減衰定数が大きいほど低減するが、高振動数域では減衰定数が小さいほど小さくなる(防振性能が向上する)ため、減衰定数h=0.05程度に設定されることが多い。一般的に、共振振動数は防振対象振動数の1/2以下に設定されるため、共振振動数で大きな加振入力が生じる可能性は小さい。しかしながら、万一1Hzで加振された際には加振力の10倍もの反力が生じて、バネ要素が損傷したり浮き床が構造床に衝突したりする虞があった。
【0005】
そこで、下記の特許文献1では、防振性能を高めつつ、同時に共振域での応答低減も可能にしたものが提案されている。
【0006】
図9に、特許文献1の第一実施形態で開示された振動モデルを示す。
図9に示すように、防振機構100Bでは、構造体床11と、構造体床11と相対変位可能に設けられた質量Mの浮き床12との間に、バネ剛性Kの支持バネ要素13、バネ剛性k
dの直列バネ要素21、慣性質量ψ
dの慣性質量ダンパー22、及び減衰係数c
d1の減衰機構23または減衰係数c
d2の減衰機構24が設けられている。直列バネ要素21と慣性質量ダンパー22とは、直列に配置されるとともに、支持バネ要素13と並列に配置されている。直列バネ要素21と減衰機構23とは、並列に配置されている。慣性質量ダンパー22と減衰機構24とは、並列に配置されている。減衰機構23の減衰係数c
d1=0とされている。
【0007】
図10は、
図8のグラフに防振機構100Bを加えたものである。
図10に示すように、3Hz以上の高振動数域では減衰定数を増して共振域でのピークを同等にした場合(例えば減衰定数h=0.2)より優れた防振特性となるものの、3Hz以下では劣る結果となってしまうという課題があった。
【0008】
機械振動や音楽ライブなど、一定の振動数(リズム)で加振された反力が振動障害を引き起こし問題になることは多い。これらは迷惑施設として郊外に移転する場合もあったが、交通至便な都会に立地したいという要求もあり、共振問題を生じず効果的に対応できる方策が求められている。
【0009】
一方、慣性質量ダンパーをバネ要素と並列に配置して特定の振動数範囲で大幅に反力低減する方法が提案されている(下記の特許文献2参照)。
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載の防振機構においても、共振振動数での応答倍率が大きいという特徴は同じである。また、この場合についても減衰定数を増やせば共振時の応答倍率は低下するものの、特定の振動数範囲における反力低減効果は低下してしまう。
図7に示す振動モデルに対し、バネ要素と並列に慣性質量ψ=0.17Mを追加したときの振動モデルを
図11に示し、伝達関数(反力応答倍率)を
図12に示す。
図11に示す防振機構100Cでは、構造体床11と、構造体床11と相対変位可能に設けられた質量Mの浮き床12との間に、バネ剛性Kの支持バネ要素13、減衰係数Cの減衰機構14及び慣性質量ψの慣性質量ダンパー15が設けられている。支持バネ要素13と減衰機構14と慣性質量ダンパー15とは、並列に配置されている。防振機構100Cは、加振力に対する反力を2~4Hzで1/10程度と大幅に減衰する機構である。この振動モデルでは、減衰定数が増すにつれ共振時の応答倍率は低下するものの、2.5Hz近傍における反力応答倍率の大きな低減効果は小さくなってしまうことがわかる。このことは、共振時の応答倍率を低下させることと、2.5Hz近傍で反力応答倍率を大きく低下させることとはトレードオフの関係にあり、従来の防振技術では両立できないことを意味している。
【0011】
このようなことから、出願人は、減衰を小さくして高振動数域での防振性能を確保しつつ、共振点での過大な応答を抑制できる防振システムを考案した(下記の特許文献1)。
【0012】
図13に、特許文献1の第二実施形態で開示された振動モデルを示す。
図13に示すように、防振機構100Dでは、構造体床11と、構造体床11と相対変位可能に設けられた質量Mの浮き床12との間に、バネ剛性Kの支持バネ要素13と、慣性質量ψの慣性質量ダンパー25、バネ剛性k
dの直列バネ要素21と、慣性質量ψ
dの慣性質量ダンパー22、及び減衰係数c
d1の減衰機構23または減衰係数c
d2の減衰機構24が設けられている。直列バネ要素21と慣性質量ダンパー22とは、直列に配置されるとともに、支持バネ要素13と並列に配置されている。慣性質量ダンパー25は、支持バネ要素13と並列に配置されている。直列バネ要素21と減衰機構23とは、並列に配置されている。慣性質量ダンパー22と減衰機構24とは、並列に配置されている。減衰機構23の減衰係数c
d1=0とされている。
【0013】
また、慣性質量と直列ばねによりTMD(動吸振器)と同様の制振システムが構築できることは、特許文献2及び非特許文献1に開示されている。定点理論による振動諸元の最適値については、下記の非特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2019-199904号公報
【文献】特開2008-82541号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】磯田和彦、半澤徹也、田村和夫「回転慣性質量ダンパーを組合せた応答低減機構による1質点系振動モデルの応答特性に関する研究」、日本建築学会構造系論文集、第74巻、第642号、2009.8、p.1469-1476
【文献】磯田和彦、半澤徹也、田村和夫「慣性質量ダンパーを組み込んだ低層集中制震に関する基礎的研究」、日本建築学会構造系論文集、第78巻、第686号、2013.4、p.713-722
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
図14は、
図12のグラフに防振機構100Dを加えたものである。
図14に示すように、2.5Hz近傍では振動を遮断し優れた防振特性を発揮するものの、2.1Hz以下では共振域でのピークがより大きくなる減衰定数を付与した場合(h=0.1の線)よりも劣る結果となってしまい、タテノリ振動が問題とされる2.0~3.5Hzの範囲(2Hz近傍)で十分な性能が発揮できない懸念があった。また、歩行時の加振振動数は1.6Hz程度で、この振動数では共振域でのピークが同等のばねと減衰だけによる従来技術(h=0.2の線)よりも劣りほとんど防振効果が発揮されない特性となってしまうことから、共振振動数より大きい(2倍程度までの)範囲での防振特性を改善することが望まれている。
【0017】
また、上記の特許文献2及び非特許文献1に記載の防振機構は、浮き床の共振を防止しつつ共振振動数以上の振動数領域全般にわたり従来よりも大きな防振効果を発揮できるものではない。
【0018】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた振動数特性(振動体の共振を防止しつつ共振振動数以上の振動数領域全般にわたり大きな防振効果を得ること)を示す防振機構を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る防振機構は、構造体に支持バネ要素を介して設置された振動体が加振された際に前記構造体へ作用する反力を低減させるための防振機構であって、前記構造体と前記振動体との間に前記支持バネ要素と並列に設置されるとともに、前記振動体の固有振動数と同調するように互いに直列に配置された直列バネ及び第一慣性質量ダンパーを備え、前記直列バネと並列に配置された第一減衰機構が設けられ、前記第一慣性質量ダンパーと並列に配置された第二減衰機構が設けられていないことを特徴とする。
【0020】
このように構成された防振機構では、構造体と振動体との間に、互いに直列に配置された第一慣性質量ダンパー及び直列バネが支持バネ要素と並列に配置され、直列バネと並列に第一減衰機構が配置されている。第一慣性質量ダンパーと並列に第二減衰機構が配置されていない。これによって、共振振動数近傍で反力応答倍率(伝達関数)が低振動数側にシフトし、振動体の共振を防止しつつ共振振動数以上の振動数領域全般にわたり大きな防振効果を得ることができる。
【0021】
また、本発明に係る防振機構は、前記構造体と前記振動体との間に前記支持バネ要素と並列に設置された第二慣性質量ダンパーを備えることが好ましい。
【0022】
このように構成された防振機構では、構造体と振動体との間に、第二慣性質量ダンパーをさらに並列に設置することで、特定の振動数範囲で反力応答倍率(伝達関数)が大きく低下し、大幅に反力を低減することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る防振機構によれば、優れた振動数特性(浮き床の共振を防止しつつ共振振動数以上の振動数領域全般にわたり大きな防振効果を得ること)を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る防振機構の振動モデルの一例を示す図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る防振機構の振動モデル及び従来の振動モデルについて、反力(構造床に作用する反力の合計)の伝達関数を示したグラフである。
【
図3】本発明の第二実施形態に係る防振機構の振動モデルの一例を示す図である。
【
図4】本発明の第二実施形態に係る防振機構の振動モデル及び従来の振動モデルについて、反力(構造床に作用する反力の合計)の伝達関数を示したグラフである。
【
図5】本発明の第一実施形態及び第二実施形態に係る防振機構の慣性質量ダンパーを模式的に示した断面図である。
【
図7】
図6の防振機構の振動モデルを示す図である。
【
図8】
図7に示す振動モデルで、加振振動数と加振力に対する反力応答倍率との関係を示すグラフである。
【
図9】従来の防振機構の振動モデルを示す図である。
【
図11】従来の防振機構の振動モデルを示す図である。
【
図12】
図11に示す振動モデルで、加振振動数と加振力に対する反力応答倍率との関係を示すグラフである。
【
図13】従来の防振機構の振動モデルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態に係る防振機構について、
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は、本発明の第一実施形態に係る防振機構の振動モデルの一例を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る防振機構1Aは、構造体床(構造体)11と構造体床11と相対変位可能に設けられた質量Mの浮き床(振動体)12との間に設けられている。防振機構1Aは、バネ剛性Kの支持バネ要素13と、バネ剛性k
dの直列バネ要素(直列バネ)21と、慣性質量ψ
dの慣性質量ダンパー(第一慣性質量ダンパー)22と、減衰係数c
d1の第一減衰機構23と、を備えている。
【0026】
直列バネ要素21と慣性質量ダンパー22とは、直列に配置されている。直列バネ要素21及び慣性質量ダンパー22は、構造体床11と浮き床12との間で支持バネ要素13と並列に配置されている。直列バネ要素21と第一減衰機構23とは、並列に配置されている。慣性質量ダンパー22と並列に、第二減衰機構24が設けられていない。図面では、第二減衰機構24の減衰係数c
d2が0と示していているが、これは慣性質量ダンパー22と並列に第二減衰機構24が設けられていないことを示している。
なお、従来の
図7に示されている減衰機構14は、特に設けなくてもよい。
【0027】
一般的に、慣性質量ダンパーと並列に減衰付与する場合が多いが、本実施形態では、第一減衰機構23だけ設けている。
【0028】
浮き床12及び支持バネ要素13が既知の振動系でバネ剛性kdの直列バネ要素21を設定したとき、共振域における反力応答倍率を最小化する慣性質量ダンパー22の慣性質量ψd及び第一減衰機構23の減衰係数cd1の最適値を定式化することは煩雑なため、下記の式(1)の伝達関数(反力応答倍率)を表計算ソフトにより反復計算して求める。
【0029】
【0030】
以下、設計例について説明する。
浮き床12の質量M=1000ton、支持バネ要素13のバネ剛性K=39.5kN/mmの浮き床を対象とする。この系の固有振動数f1=1Hzとなる。
直列バネ要素21のバネ剛性kd=0.2K=7.9kN/mmとして、上記の方法で最適諸元を求めると、下記の式(2)となる。
【0031】
【0032】
一方、従来の
図7に示す振動モデルで、減衰定数h=0.2(設計例の諸元に対して減衰係数C=2513kN・s/m=25.13kN/kine)の大きな減衰を付与したとき、伝達関数は
図8に示す通りであり、共振点における最大応答倍率は2.73となる。
【0033】
図2は、本発明の第一実施形態に係る防振機構の振動モデル及び従来の
図7に示す振動モデルについて、反力(構造床に作用する反力の合計)の伝達関数を示したグラフである。横軸は加振振動数f(Hz)、縦軸は反力応答倍率R/Fを対数軸表示している。
図2に示されるように、防振機構1A(本発明)にすれば、共振振動数以上の高振動数域の応答倍率を増大させずに(従来技術における減衰定数の小さな振動系と同様に留めつつ)、共振域の応答倍率を(減衰定数の大きな振動系と同様に)小さくできることが分かる。防振機構1A(本発明)では、共振域での最大応答倍率がh=0.2の高減衰構造と同様で2.58倍とほぼ共振しない特性を持ちつつ、1.5Hz以上の高振動数範囲ではh=0.2より小さくなる特徴があり、防振性能を保持しながら共振特性を改善できている。
【0034】
このように構成された防振機構1Aでは、構造体床11と浮き床12との間に、互いに直列に配置された慣性質量ダンパー22及び直列バネ要素21が、支持バネ要素13と並列に配置され、直列バネ要素21と並列に第一減衰機構23が配置されている。慣性質量ダンパー22と並列に第二減衰機構24が配置されていない。これによって、共振振動数近傍で反力応答倍率(伝達関数)が低振動数側にシフトし、振動体の共振を防止しつつ共振振動数以上の振動数領域全般にわたり大きな防振効果を得ることができる。特許文献1にある従来技術では
図10の振動特性(反力応答倍率)となり、
図2の振動特性を持つ本願は共振振動数以上の振動数領域で従来以上の優れた防振効果をもつことがわかる。
【0035】
また、共振振動数に対する防振効果を発揮する最低振動数の比を従来よりも小さくできるため、防振対象振動数に対し設定する浮き床12の固有振動数(共振振動数)を高くすることが可能となり、浮き床12の沈下を抑えフカフカばねとなることを防止できる。
【0036】
また、慣性質量ダンパー22及び直列バネ要素21を直列に配置した同調型制振機構は線形要素のため、加振力の大小に関わらず安定した減衰特性を付与できる。よって、大地震時にも有効に機能することができる。
【0037】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態に係る防振機構について、主に
図3及び
図4を用いて説明する。
以下の実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と同一の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。
図3は、本発明の第二実施形態に係る防振機構の振動モデルの一例を示す図である。
図3に示すように、実施形態に係る防振機構1Bでは、第一実施形態に係る防振機構1Aに、慣性質量ψの慣性質量ダンパー(第二慣性質量ダンパー)25をさらに並列に設けられている。
【0038】
具体的には、防振機構1Bは、構造体床(構造体)11と構造体床11と相対変位可能に設けられた質量Mの浮き床(振動体)12との間に設けられている。防振機構1Bは、バネ剛性Kの支持バネ要素13と、慣性質量ψの慣性質量ダンパー(第二慣性質量ダンパー)25と、バネ剛性kdの直列バネ要素(直列バネ)21と、慣性質量ψdの慣性質量ダンパー(第一慣性質量ダンパー)22と、減衰係数cd1の第一減衰機構23と、を備えている。
【0039】
直列バネ要素21と慣性質量ダンパー22とは、直列に配置されている。構造体床11と浮き床12との間で、直列バネ要素21及び慣性質量ダンパー22と、支持バネ要素13と、慣性質量ダンパー25とは並列に配置されている。直列バネ要素21と第一減衰機構23とは、並列に配置されている。慣性質量ダンパー22と並列に、第二減衰機構24が設けられていない。図面では、第二減衰機構24の減衰係数c
d2が0と示していているが、これは慣性質量ダンパー22と並列に第二減衰機構24が設けられていないことを示している。
なお、従来の
図7に示されている減衰機構14は、特に設けなくてもよい。
【0040】
一般的に、慣性質量ダンパーと並列に減衰付与する場合が多いが、本実施形態では、第一減衰機構23だけ設けている。
【0041】
浮き床12及び支持バネ要素13が既知の振動系でバネ剛性kdの直列バネ要素21を設定したとき、共振域における反力応答倍率を最小化する慣性質量ダンパー22の慣性質量ψd及び第一減衰機構23の減衰係数cd1の最適値を定式化することは煩雑なため、下記の式(3)の伝達関数(反力応答倍率)を表計算ソフトにより反復計算して求める。
【0042】
【0043】
以下、設計例について説明する。
浮き床12の質量M=1000ton、支持バネ要素13のバネ剛性K=39.5kN/mmの浮き床を対象とする。この系の固有振動数f1=1Hzとなる。
加振力に対する反力を2~4Hzで1/10程度と大幅に減衰するように、支持バネ要素13と並列に設置された慣性質量ダンパー25の慣性質量ψ=0.2Mとする。また、直列バネ要素21と慣性質量ダンパー22とを直列に配置した同調型制振機構において、直列バネ要素21のバネ剛性kd=0.14K=5.53kN/mmとして、慣性質量ダンパー22の慣性質量ψd及び第一減衰機構23の減衰係数cd1の最適値を反復計算して求めると、下記の式(4)となる。
【0044】
【0045】
一方、従来の
図11に示す振動モデルで、減衰定数h=0.2(設計例の諸元に対して減衰係数C=2513kN・s/m=25.13kN/kine)の大きな減衰を付与したとき、伝達関数は
図12の一点鎖線に示す通りであり、共振点における最大応答倍率は2.56となる。
【0046】
図4は、本発明の第一実施形態に係る防振機構の振動モデル及び従来の
図11に示す振動モデルについて、反力(構造床に作用する反力の合計)の伝達関数を示したグラフである。横軸は加振振動数f(Hz)、縦軸は反力応答倍率R/Fを対数軸表示している。
図4に示されるように、防振機構1B(本発明)にすれば、高振動数域の応答倍率を増大させずに(減衰定数h=0.1~0.05と減衰の小さな振動系と同様に留めつつ)、共振域の応答倍率を(減衰定数h=0.2と減衰の大きな振動系と同様に)小さくできることが分かる。防振機構1B(本発明)では、共振域での最大応答倍率がh=0.2の高減衰構造と同様で2.73倍とほぼ共振しない特性を持ちつつ、1.2Hz以上の高振動数範囲ではh=0.05~0.1程度に小さくなる特徴があり、防振性能を保持しながら共振特性を改善できている。
【0047】
図5は、防振機構1Aの慣性質量ダンパー22及び防振機構1Aの慣性質量ダンパー22,25の一例を模式的に示した断面図である。
図5に示すように、軸O方向に延びるボールねじ101の一端部側(
図5に示す紙面左側)で、ボールナット102を回転自在に軸O方向への変位を拘束している。ボールねじ101の一端部(
図5に示す紙面右側の端部)では、軸O方向に変位自在に回転拘束されている。フライホイール(回転錘)103は、ボールナット102と一体化されている。ボールねじ101には、鋼球104が設けられている。なお、ボールねじ101とボールナット102との摩擦抵抗、ボールナット102の回転慣性モーメントはここでは無視する。
【0048】
ボールねじ101の軸O方向の変位xにより、回転慣性モーメントIθをもつフライホイール103をθ回転させたときの軸方向力(反力)Fとする。ボールねじ101のリード(ねじ山ピッチ)Ld、フライホイール103を円盤状として径D、質量mとするとx=θLd/(2π)から、下記の式(5)が成立する。
【0049】
【0050】
上記の式(5)より、反力Fはボールねじ101とボールナット102との相対加速度に比例し、慣性質量ψが軸O方向の慣性質量である。フライホイール103の形状寸法やボールねじ101のリードLdにもよるが、慣性質量ψはフライホイール103の質量mの数百倍~数千倍の値となり、小さなフライホイール103の質量で巨大な慣性質量ψを実現できる装置となる。
【0051】
このように構成された防振機構1Bでは、構造体床11と浮き床12との間に、互いに直列に配置された慣性質量ダンパー22及び直列バネ要素21が、支持バネ要素13と並列に配置され、直列バネ要素21と並列に第一減衰機構23が配置されている。慣性質量ダンパー22と並列に第二減衰機構24が配置されていない。これによって、共振振動数近傍で反力応答倍率(伝達関数)が低振動数側にシフトし、振動体の共振を防止しつつ共振振動数以上の振動数領域全般にわたり大きな防振効果を得ることができる。特許文献1にある従来技術では
図10の振動特性(反力応答倍率)となり、
図2の振動特性を持つ本願は共振振動数以上の振動数領域で従来以上の優れた防振効果をもつことがわかる。
【0052】
また、構造体床11と浮き床12との間に、慣性質量ダンパー25をさらに並列に設置することで、特定の振動数範囲で反力応答倍率(伝達関数)が大きく低下し、大幅に反力を低減することができる。
【0053】
なお、上述した実施の形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0054】
1A,1B…防振機構
11…構造体床(構造体)
12…浮き床(振動体)
13…支持バネ要素
21…直列バネ要素(直列バネ)
22…慣性質量ダンパー(第一慣性質量ダンパー)
23…第一減衰機構
24…第二減衰機構
25…慣性質量ダンパー(第二慣性質量ダンパー)