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特許7529460繊維用処理剤、繊維束、繊維製品、繊維中間基材及び複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】繊維用処理剤、繊維束、繊維製品、繊維中間基材及び複合材料
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/17 20060101AFI20240730BHJP
   D06M 15/507 20060101ALI20240730BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20240730BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
D06M13/17
D06M15/507
D06M15/53
C08J5/04 CEZ
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020120313
(22)【出願日】2020-07-14
(65)【公開番号】P2021063325
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019186792
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阪口 幸矢佳
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-200252(JP,A)
【文献】特開平11-236248(JP,A)
【文献】特開平04-209872(JP,A)
【文献】特開2007-092243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/17
D06M 15/507
D06M 15/53
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多環芳香族骨格及び炭素数2~4のオキシアルキレン基を有する化合物(A)を含有する繊維用処理剤であって、
前記多環芳香族骨格が、ナフトール、アントロール、スチレン化ナフトール及びスチレン化アントロールからなる群より選ばれる少なくとも1種の多環芳香族炭化水素骨格であり、
さらに、化合物(B)を含有する繊維用処理剤であって、
化合物(B)が、ポリエステル(B1)、エポキシ基を有する化合物(B3)、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(B4)、ポリアミド樹脂(B6)及びポリオレフィン樹脂(B7)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
化合物(B)の含有量が、繊維用処理剤の蒸発残分の重量に基づき20~80重量%である繊維用処理剤。
【請求項2】
さらに水を含有する請求項1に記載の繊維用処理剤。
【請求項3】
炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維及び鉱物繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維を請求項1又は2に記載の繊維用処理剤で処理してなる繊維束。
【請求項4】
請求項に記載の繊維束からなる繊維製品。
【請求項5】
請求項に記載の繊維束とマトリックス樹脂とを含む複合材料。
【請求項6】
炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維及び鉱物繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維からなる繊維中間基材を請求項1又は2に記載の繊維用処理剤で処理してなる繊維中間基材。
【請求項7】
請求項に記載の繊維中間基材とマトリックス樹脂とを含む複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維用処理剤、繊維束、繊維製品、繊維中間基材及び複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なマトリックス樹脂と炭素繊維等との複合材料が、スポーツ用具、レジャー用品及び航空機等の分野で広く利用されている。
マトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が古くから使用されてきたが、近年、耐熱性や加工時間短縮の面から熱可塑性樹脂も使用されている。しかしながら、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合、熱可塑性樹脂の炭素繊維間への含浸不良が起こったり、複合材料にボイドが多く発生し、複合材料の強度が低くなるという課題がある。
この課題に対して、例えば、炭素繊維束を一旦開繊し、開繊させた炭素繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させる方法(例えば特許文献1)等の対策がなされている。
【0003】
しかしながら、特許文献1のように開繊工程を経るだけでは粘度の高い熱可塑性樹脂の含浸性は十分ではない為、複合材料強度がまだ低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-29912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、マトリックス樹脂の浸透性が高く、強度の高い複合材料を作ることができる繊維用処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、多環芳香族骨格及び炭素数2~4のオキシアルキレン基を有する化合物(A)を含有する繊維用処理剤;炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維及び鉱物繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維を、前記繊維用処理剤で処理してなる繊維束;前記繊維束からなる繊維製品;前記繊維束とマトリックス樹脂とを含む複合材料;炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維及び鉱物繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維からなる繊維中間基材を前記繊維用処理剤で処理してなる繊維中間基材;前記繊維中間基材とマトリックス樹脂とを含む複合材料である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の繊維用処理剤は、マトリックス樹脂の浸透性が高く、強度の高い複合材料を作ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本発明の繊維用処理剤>
本発明の繊維用処理剤は、多環芳香族骨格及び炭素数2~4のオキシアルキレン基を有する化合物(A)を含有する。
【0009】
本発明の繊維用処理剤は、繊維を集束することができるので、繊維用集束剤(繊維用サイジング剤)として用いることができる。また、本発明の繊維用処理剤を繊維用集束剤として用いることで、化合物(A)が繊維表面をコーティングし、複合材料を製造する際、マトリックス樹脂を繊維-繊維間へ浸透しやすくすることができる。したがって、本発明の繊維用処理剤で集束された繊維束及びこの繊維束からなる繊維製品は、マトリックス樹脂の浸透性が高く、強度の高い複合材料を得ることができる。
また、本発明の繊維用処理剤又は他の繊維用集束剤でサイジングされた後の繊維中間基材(繊維束及び繊維製品)を本発明の繊維用処理剤で処理すれば、化合物(A)がサイジングされた繊維表面をコーティングし、マトリックス樹脂の浸透性を高くすることができ、強度の高い複合材料を製造することができる。
つまり、本発明の繊維用処理剤は、繊維用集束剤及び/又は繊維中間基材の繊維表面改質剤として用いることができる。
ここで、繊維中間基材とは、マトリックス樹脂を含浸させる前のものを意味し、繊維束{連続繊維束、短繊維束(チョップド糸等)}、繊維製品{繊維織物(繊維一方向織物、繊維二次元織物、繊維三次元織物、繊維の四次元以上の織物等)、繊維編み物、繊維不織布(フェルト、マット及びペーパー等)、チョップドファイバー、ミルドファイバー及び繊維布帛等}等が挙げられる。
【0010】
本発明の繊維用処理剤で未集束の繊維を処理した場合には、繊維束の集束性が高く、繊維束が取り扱いやすく、この繊維束から構成された繊維製品は繊維-繊維間へのマトリックス樹脂の浸透性が高く、複合材料における繊維とマトリックス樹脂との接着性が高く、強度の高い複合材料を得ることができる。
また、本発明の繊維用処理剤又は他の繊維用集束剤で集束された繊維束からなる繊維中間基材を本発明の繊維用処理剤で処理した場合には、繊維-繊維間へのマトリックス樹脂の浸透性が高く、複合材料における繊維とマトリックス樹脂との接着性が高く、強度の高い複合材料を得ることができる。
【0011】
化合物(A)において、多環芳香族骨格とは2環以上の芳香環が縮合した骨格を意味し、芳香環2~10環が縮合した骨格が含まれる。
化合物(A)としては、多環芳香族炭化水素又は多環複素芳香族化合物が有する水素原子の少なくとも1つが炭素数2~4のオキシアルキレン基を含む基で置換されている化合物が含まれる。
多環芳香族炭化水素としては、2環式芳香族炭化水素(ナフタレン及びアズレン等)、3環式芳香族炭化水素(フェナントレン、アントラセン、フルオレン、フェナレン、アセナフチレン及びアセナフテン等)、4環式芳香族炭化水素(テトラセン、トリフェニレン、ピレン、クリセン及びフルオランテン等)、5環式芳香族炭化水素(ピセン、ペリレン、ペンタフェン、ペンタセン、ベンゾピレン及びベンゾフルオランテン等)、6環以上の芳香族炭化水素(コランニュレン、コロネン及びオバレン等)等が挙げられる。
多環複素芳香族化合物としては、2環式複素芳香族化合物(インドール、イソインドール、プリン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、シンノリン、ベンゾチオフェン、ベンゾイミダゾール、ナフチリジン、インダゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾチアジアゾール、チエノチオフェン、プテリジン及びベンゾピラン等)、3環式芳香族炭化水素(アクリジン、キサンテン、カルバゾール、フェノチアジン、ベンゾジチオフェン及びジチエノチオフェン等)等が挙げられる。
これらの内、複合材料の強度の観点から、多環芳香族炭化水素が好ましく、さらに好ましくはナフタレン及びアントラセンである。
【0012】
炭素数2~4のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、1,2-又は1,3-オキシプロピレン基及び1,2-、1,3-、1,4-又は2,3-オキシブチレン基等が挙げられる。
これらの内、マトリックス樹脂の浸透性及び繊維用処理剤の取扱い性の観点から、オキシエチレン基及び1,2-又は1,3-オキシプロピレン基が好ましく、さらに好ましくはオキシエチレン基である。
【0013】
化合物(A)としては、マトリックス樹脂の浸透及び繊維用処理剤の取扱い性の観点から、多環芳香族炭化水素又は多環複素芳香族化合物が有する水素原子のうち少なくとも1つが、下記一般式(1)で表される基で置換されている化合物(A1)が好ましい。
-(CH-O(AO)-H (1)
一般式(1)において、nは0~2の整数であり、Aは炭素数2~4のアルキレン基を表し、AOは炭素数2~4のオキシアルキレン基を表し、mは1~100の整数であり、mが2以上の場合のAOは同一でも異なっていてもよい。
多環芳香族炭化水素又は多環複素芳香族化合物が有する水素原子のうち、上記一般式(1)で表される基で置換されている水素原子の数は、マトリックス樹脂の浸透性及び繊維用処理剤の取扱い性の観点から、1つが好ましい。
【0014】
一般式(1)において、nは0~2の整数であり、マトリックス樹脂の浸透性及び繊維用処理剤の取扱い性の観点から、0が好ましい。
一般式(1)において、Aは炭素数(以下において、Cと略記する)2~4のアルキレン基を表し、具体的には、エチレン基、1,2-又は1,3-プロピレン基、1,2-、1,3-又は1,4-ブチレン基等が挙げられる。
AOは炭素数2~4のアルキレンオキシ基を表し、具体的には、エチレンオキシ基、1,2-又は1,3-プロピレンオキシ基、1,2-、1,3-、1,4-又は2,3-ブチレンオキシ基等が挙げられる。
AOとしては、マトリックス樹脂の浸透性及び繊維用処理剤の取扱い性の観点から、エチレンオキシ基及び1,2-又は1,3-プロピレンオキシ基が好ましく、更に好ましくはエチレンオキシ基である。
mは1~100の整数であり、マトリックス樹脂の浸透性及び繊維用処理剤の取扱い性の観点から、2~100が好ましく、更に好ましくは3~50である。
【0015】
化合物(A)としては、マトリックス樹脂の浸透性及び繊維用処理剤の取扱い性の観点から、化合物(A1)が有する水素原子のうち少なくとも1つが、1-メチルベンジル基(-CH(CH)-Ph)で置換されている化合物であることが好ましい。
化合物(A1)が有する水素原子が1-メチルベンジル基で置換された化合物とする方法としては、公知の方法により、化合物(A1)にスチレンを付加させる方法、又は公知の方法により下記の多環芳香族骨格を有するアルコール類(スチレン化物を除く)にスチレンを付加させた後、AOを付加する方法等が挙げられる。
化合物(A1)が有する水素原子のうち、1-メチルベンジル基で置換されている水素原子の数は、マトリックス樹脂の浸透性及び繊維用処理剤の取扱い性の観点から、1~5つが好ましく、更に好ましくは1~4つである。
【0016】
本発明において、化合物(A)は、例えば、多環芳香族骨格及び水酸基を有する化合物に、公知の方法によりアルキレンオキサイド(以下において、AOと略記する)を付加することにより得られる。
多環芳香族骨格及び水酸基を有する化合物としては、多環芳香族炭化水素骨格を有するもの(ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、フェナントレンメタノール、アントラセンメタノール、アントロール、ヒドロキシテトラセン、ヒドロキシトリフェニレン、ヒドロキシピレン、ヒドロキシクリセン、ヒドロキシピセン、ヒドロキシペリレン、ヒドロキシペンタフェン、ヒドロキシペンタセン、ヒドロキシベンゾピレン、ヒドロキシコランニュレン、ヒドロキシコロネン、ヒドロキシオバレン、スチレン化ナフトール及びスチレン化アントロール等)、多環芳香族複素環骨格を有するもの(ヒドロキシキノリン、ヒドロキシイソキノリン、ヒドロキシキノキサリン、ヒドロキシアクリジン、ヒドロキシフェナントリジン等)等並びにこれらのスチレン化物等が挙げられる。
多環芳香族骨格及び水酸基を有する化合物としては、マトリックス樹脂の浸透性の観点から、ナフトール、アントロール、スチレン化ナフトール及びスチレン化アントロールからなる群より選ばれる少なくとも1種の多環芳香族炭化水素骨格を有するモノオールが好ましい。
なお、多環芳香族骨格及び水酸基を有する化合物がスチレン化物である場合、そのスチレン化度(多環芳香族骨格1モルに対するスチレンのモル数)は、マトリックス樹脂の浸透性の観点から、1~5が好ましく、更に好ましくは1~4である。
【0017】
AOとしては、C2~4のものが含まれ、具体的には、エチレンオキサイド(以下、EOと略記する)、1,2-プロピレンオキサイド(以下、POと略記する)、1,3-プロピレンオキサイド及び1,2-、1,3-又は1,4-ブチレンオキサイド(以下、BOと略記する)等が挙げられる。これらのAOは2種以上を併用してもよく、2種以上の併用の場合の結合様式は、ブロック付加、ランダム付加及びこれらの併用のいずれでもよい。
これらのうち、マトリックス樹脂の浸透性及び繊維用処理剤の取扱い性の観点から、EO及びPOが好ましく、さらに好ましくはEOである。
AOの付加モル数は、繊維用処理剤の取扱い性の観点から、2~100が好ましく、更に好ましくは3~50である。
【0018】
本発明の化合物(A)としては、マトリックス樹脂の浸透性及び複合材料の強度の観点から、ナフトールのAO付加物、アントロールAO付加物、スチレン化ナフトールAO付加物及びスチレン化アントロールAO付加物からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、更に好ましくはナフトールのEO付加物、アントロールEO付加物、スチレン化ナフトールEO付加物及びスチレン化アントロールEO付加物からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0019】
化合物(A)中のEO単位の重量割合(EO単位の数×44/数平均分子量)は、マトリックス樹脂の浸透性及び繊維用処理剤の取扱い性の観点から、5~95重量%が好ましく、更に好ましくは10~90重量%である。
【0020】
化合物(A)のHLBは、マトリックス樹脂の浸透性及び繊維用処理剤の取扱い性の観点から、1~19が好ましく、更に好ましくは2~18である。
HLBは親水性と親油性のバランスを示す指標であって、例えば「界面活性剤入門」〔2007年三洋化成工業株式会社発行、藤本武彦著〕142頁に記載されているグリフィン法によって、化合物の分子量の値と親水基部分の分子量の値との比率から以下の式で計算することができる。
HLB=20×化合物の親水基部分の分子量/化合物(A)の数平均分子量
化合物(A)のHLBは、例えば分子中のEO単位の含有量を多くすることにより大きくすることができる。
【0021】
化合物(A)の数平均分子量は、マトリックス樹脂の浸透性及び複合材料の強度の観点から、好ましくは190~20000であり、さらに好ましくは230~10000である。
なお、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPC)法により測定される。
化合物(A)の数平均分子量の測定に使用されるGPCの条件は、例えば以下の条件である。
機種 :HLC-8220GPC(東ソー株式会社製液体クロマトグラフ)
カラム:TSK gel Super H4000
+TSK gel Super H3000
+TSK gel Super H2000(いずれも東ソー株式会社製) カラム温度:40℃
検出器 :RI(Refractive Index)
溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :0.6ml/分
試料濃度 :0.25重量%
注入量 :10μl
標準 :ポリスチレン(東ソー株式会社製;TSK STANDARD
POLYSTYRENE
【0022】
繊維用処理剤は、複合材料の強度の観点から、さらに化合物(B)を含有していることが好ましい。
本発明の化合物(B)としては、ポリエステル(B1)、ポリウレタン(B2)、エポキシ基を有する化合物(B3)、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(B4)、ポリエーテル化合物(B5)、ポリアミド樹脂(B6)及びポリオレフィン樹脂(B7)からなる群より選ばれる少なくとも1種が含まれる。
化合物(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル及び/又はメタクリロイルを意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
また、(B2)、(B3)及び(B4)に該当する化合物の内、エステル結合を有する化合物は、(B1)に含まれないものとする。
また、(B3)及び(B4)に該当する化合物の内、ウレタン結合を有する化合物は、(B2)に含まれないものとする。
また、化合物(A)、(B1)~(B4)及び(B6)に該当する化合物の内、ポリエーテル基を有する化合物は、(B5)に含まれないものとする。
【0023】
前記のポリエステル(B1)としては、ジオールとジカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物との反応物、ラクトン開環重合物及びポリヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
ジオールとしては、C2~30の脂肪族アルカンジオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール及びネオペンチルグリコール等)、C2~30の脂肪族アルカンジオールへのC2~4のAO付加物、1級アルキルジアミン(C1~20のものが好ましく、具体的には、メチルジアミン、エチルジアミン、プロピルジアミン、オクチルジアミン及びドデシルジアミン等)のAO付加物、2価フェノール{C6~20のものが好ましく、具体的には、ビスフェノール(ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールAD、ビスフェノールS及びハロゲン化ビスフェノールA等)、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシビフェニル、オクタクロロ-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシテトラメチルビフェニル及び9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フロオレン等}のAO付加物等が挙げられる。ジオールはこれらを単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
前記C2~30の脂肪族アルカンジオール、1級アルキルジアミン又は2価フェノール1モルに対するAOの付加モル数は、2~100モルであることが好ましい。
AOとしては、C2~4のものが含まれ、具体的には、EO、PO、1,3-プロピレンオキサイド及びBO等が挙げられる。これらのAOは2種以上を併用してもよく、2種以上の併用の場合の結合様式は、ブロック付加、ランダム付加及びこれらの併用のいずれでもよい。
【0024】
ジカルボン酸としては、C2~24のジカルボン酸が挙げられ、具体的には、C2~24の飽和脂肪族ジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸及びセバシン酸等)、C2~24の不飽和脂肪族カルボン酸(マレイン酸及びフマル酸等)及びC2~24の芳香族ジカルボン酸(フタル酸、テレフタル酸及びイソフタル酸等)等が挙げられる。
また、カルボン酸無水物としては、C2~24のカルボン酸無水物(無水マレイン酸及び無水フタル酸等)等が挙げられる。
【0025】
ラクトン開環重合物としては、C3~12のモノラクトン(環中のエステル基数1個)等のラクトン(β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン及びε-カプロラクトン等)を、金属酸化物及び有機金属化合物等の触媒を用いて、開環重合させて得られたもの等が挙げられる。
ポリヒドロキシカルボン酸としては、ヒドロキシカルボン酸(グリコール酸及び乳酸等)を脱水縮合させて得られたもの等が挙げられる。
【0026】
ポリエステル(B1)の30℃での粘度は、複合材料の強度の観点から、10~1,000,000Pa・sが好ましく、さらに好ましくは20~500,000Pa・sである。
【0027】
本発明において、ポリエステル(B1)の粘度は複素粘度であり、例えば、粘弾性測定装置(例えば、レオメトリックサイエンティフィック社製のARES)にて測定できる。測定条件を以下に示す。
<ポリエステル(B1)の粘度の測定条件>
サンプル固定治具:直径25mm円盤
ギャップ間距離:0.25mm
歪み:1%
周波数:1Hz
温度:30℃
【0028】
ポリエステル(B1)は、ジオールとジカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物とを公知の方法でエステル化反応させる、ラクトンを公知の方法で開環重合させる、又はヒドロキシカルボン酸を公知の方法で脱水縮合することにより得ることができる。
【0029】
前記のポリウレタン(B2)としては、ポリオールと、有機ジイソシアネートと、必要により鎖伸長剤及び/又は架橋剤とから誘導されてなるものが挙げられる。
【0030】
上記ポリオールとしては、ポリエステルポリオール(ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリネオペンチルテレフタレートジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオール及びポリヘキサメチレンカーボネートジオール等);ポリエーテルポリオール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及びビスフェノール類のC2~4のAO付加物等)等が挙げられる。
ポリオールの化学式量又は数平均分子量としては、40~4000であることが好ましい。
【0031】
上記有機ジイソシアネートの具体例としては、C8~30の芳香族ジイソシアネート[2,4’-又は4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,3-又は1,4-フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等];C4~30の脂肪族ジイソシアネート[エチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リジンジイソシアネート等];C6~30の脂環式ジイソシアネート[イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等];及びこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0032】
ポリウレタン(B2)は、公知の方法により、ポリオールと、有機ジイソシアネートと、必要により鎖伸長剤及び/又は架橋剤とを反応させて得ることができる。
【0033】
ポリウレタン(B2)の重量平均分子量(以下においてMwと略記する)は、集束性の観点から、1,000~100,000が好ましく、更に好ましくは3,000~50,000である。
(B2)のMwはゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)法により、下記の測定条件で測定できる。
<(B2)のMwの測定条件>
装置:「HLC-8220GPC」[東ソー(株)製]
カラム:「Guardcolumn α」+「TSKgel α-M」[いずれも東ソー(株)製]
試料溶液:0.125重量%のジメチルホルムアミド溶液
溶液注入量:100μl
流量:1ml/分
測定温度:40℃
検出装置:屈折率検出器
基準物質:標準ポリスチレン
【0034】
ポリウレタン(B2)のウレタン基濃度は、(B2)の重量を基準として、集束性の観点から、0.1~20mmol/gが好ましく、更に好ましくは0.5~5mmol/gである。
【0035】
前記のエポキシ基を有する化合物(B3)としては、1分子中に1個又は2個以上のエポキシ基を有する化合物等が挙げられ、具体的には、グリシジルエーテル、ジグリシジルエステル、ジグリシジルアミン及び脂環式ジエポキシド等が挙げられる。
【0036】
グリシジルエーテルとしては、2価フェノールのジグリシジルエーテル、1価アルコールのグリシジルエーテル及び2価アルコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0037】
2価フェノールのジグリシジルエーテルとしては、C6~30の2価フェノールとエピクロルヒドリンとの縮合物(重縮合物を含む)で両末端がグリシジルエーテルであるもの等が挙げられる。C6~30の2価フェノールとしては、ビスフェノール(ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールAD、ビスフェノールS及びハロゲン化ビスフェノールA等)、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシビフェニル、オクタクロロ-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシテトラメチルビフェニル及び9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フロオレン等が挙げられる。
【0038】
1価アルコールのグリシジルエーテルとしては、C1~30の1価アルコールとエピクロルヒドリンとの縮合物で末端がグリシジルエーテルであるもの等が挙げられる。C1~30の1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、ドデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ステアリルアルコール、イコシルアルコール、ベヘニルアルコール、テトラコシルアルコール及びトリアコンチルアルコール等が挙げられる。
【0039】
2価アルコールのジグリシジルエーテルとしては、C2~100の2価アルコールとエピクロルヒドリンとの縮合物(重縮合物を含む)で両末端がグリシジルエーテルであるもの等が挙げられる。C2~100の2価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、数平均分子量(以下、Mnと略記する。)が106~1932のポリエチレングリコール、Mn=134~5818のポリプロピレングリコール、Mn=162~1818のポリテトラメチレンエーテルグリコール及びビスフェノールAの炭素数2~4のアルキレンオキサイド(1~21モル)付加物等が挙げられる。
【0040】
上記のジグリシジルエーテル(2価フェノールのジグリシジルエーテル及び2価アルコールのジグリシジルエーテル)について、ジグリシジルエーテルに含まれる2価フェノール単位又は2価アルコール単位と、エピクロルヒドリン単位とのモル比{(2価フェノール単位又は2価アルコール単位のモル数):(エピクロルヒドリン単位のモル数)}は、n:n+1である。nは1~10が好ましく、更に好ましくは1~8、特に好ましくは1~5である。ジグリシジルエーテルは、n=1~10の混合物(重縮合度の異なる混合物等)でもよい。
【0041】
ジグリシジルエステルとしては、炭素数8~20の芳香族ジカルボン酸のジグリシジルエステル及び炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸のジグリシジルエステル等が挙げられる。
【0042】
炭素数8~20の芳香族ジカルボン酸のジグリシジルエステルとしては、炭素数8~20の芳香族ジカルボン酸とエピクロルヒドリンとの縮合物(重縮合物を含む)であって、グリシジル基を2個有するもの等が挙げられる。
炭素数8~20の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フェニルマロン酸、ホモフタル酸、フェニルコハク酸、フェニルグルタル酸、フェニルアジピン酸、ビフェニルジカルボン酸及びナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0043】
炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸のジグリシジルエステルとしては、炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸とエピクロルヒドリンとの縮合物(重縮合物を含む)であって、グリシジル基を2個有するもの等が挙げられる。
炭素数2~20の脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンニ酸、テトラデカンニ酸、ヘキサデカンニ酸、オクタデカンニ酸及びイコサンニ酸等が挙げられる。
【0044】
ジグリシジルエステルにおいて、芳香族ジカルボン酸単位又は脂肪族ジカルボン酸単位と、エピクロルヒドリン単位とのモル比{(芳香族ジカルボン酸単位又は脂肪族ジカルボン酸単位のモル数):(エピクロルヒドリン単位のモル数)}は、n:n+1である。nは1~10が好ましく、更に好ましくは1~8、特に好ましくは1~5である。ジグリシジルエステルは、n=1~10の混合物でもよい。
【0045】
ジグリシジルアミンとしては、炭素数6~20で、2~4個の活性水素原子をもつ芳香族アミンとエピクロルヒドリンとの反応で得られるN-グリシジル化物(N,N-ジグリシジルアニリン及びN,N-ジグリシジルトルイジン等)等が挙げられる。
炭素数6~20で、2~4個の活性水素原子をもつ芳香族アミンとしては、アニリン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン及びトルイジン等が挙げられる。
活性水素原子とは、電気陰性度の大きな原子(酸素及び窒素等)に結合した反応性の高い水素原子を意味し、芳香族アミンの活性水素原子とは、窒素原子に結合した水素原子である。
【0046】
ジグリシジルアミンにおいて、芳香族アミン単位とエピクロルヒドリン単位とのモル比{(芳香族アミン単位のモル数):(エピクロルヒドリン単位のモル数)}は、n:n+1である。nは1~10が好ましく、更に好ましくは1~8、特に好ましくは1~5である。ジグリシジルアミンは、n=1~10の混合物でもよい。
【0047】
脂環式ジエポキシドとしては、炭素数6~50で、エポキシ基を2つ有する脂環式エポキシド[ビニルシクロヘキセンジオキシド、リモネンジオキシド、ジシクロペンタジエンジオキシド、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル、エチレングリコールビスエポキシジシクロペンチルエーテル、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート及びビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)ブチルアミン等]等が挙げられる。
これらのうち、成形体強度等の観点から、ジグリシジルエーテルが好ましく、更に好ましくは2価フェノールのジグリシジルエーテル、特に好ましくはビスフェノールのジグリシジルエーテル、最も好ましくはビスフェノールAのジグリシジルエーテル(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)である。
【0048】
エポキシ基を有する化合物(B3)としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製の商品名jER827、jER828、jER834、jER1001、jER1002、jER1003、jER1004、jER1007、jER1009、jER1010等、新日鉄住金化学株式会社製の商品名エポトートYD-128、エポトートYD-134、エポトートYD-011、エポトートYD-012、エポトートYD-013、エポトートYD-014、エポトートYD-017、エポトートYD-019、エポトートYD-020G等)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製の商品名jER806、jER807、jER4004P、jER4005P、jER4007P、jER4010P、新日鉄住金化学株式会社製の商品名エポトートYDF-170、エポトートYDF-2001、エポトートYDF-2004、エポトートYDF-2005RD、DIC社製の商品名EPICLON830、EPICLON835、EPICLONEXA-830CRP等)、アクリル、スチレン系エポキシ樹脂(日油株式会社製の商品名マープルーフG-0105SA、マープルーフG-0130SP、マープルーフG-0150M、マープルーフG-025SP、マープルーフG-1005S、マープルーフG-1005SA、マープルーフG-1010S、マープルーフG-2050M、マープルーフG-01100、マープルーフG-017581)、アミン型エポキシ樹脂(住友化学株式会社製の商品名スミエポキシELM120、スミエポキシELM100、スミエポキシELM434、スミエポキシELM434HV、DIC株式会社製の商品名エピクロン430-L、エピクロン430、新日鉄住金化学株式会社製の商品名エポトートYH434、エポトートYH434L、HUNTSMAN社製の商品名アラルダイトMY720、三菱ケミカル株式会社製の商品名jER604)等が市販されている。
【0049】
エポキシ基を有する化合物(B3)のエポキシ当量(g/eq)は、複合材料の強度の観点から、100~5000が好ましく、更に好ましくは150~4000である。
ここで、エポキシ当量とは、JIS K 7236に準拠して測定される値である。
【0050】
前記の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(B4)としては、前記エポキシ基を有する化合物(B3)のエポキシ基に(メタ)アクリル酸を公知の方法で反応させた(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレート変性熱可塑性樹脂等が挙げられる。
(メタ)アクリレート変性熱可塑性樹脂としては、アルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂{ポリウレタン、ポリエステル及びポリエーテル(ポリプロピレングリコール及びポリエチレングリコール等)等}の水酸基を(メタ)アクリル酸で変性した変性物が含まれ、ポリウレタン(ジ-/モノ-)(メタ)アクリレート、ポリエステル(ジ-/モノ-)(メタ)アクリレート及びポリエーテル(ジ-/モノ-)(メタ)アクリレート等が挙げられる。なお、(ジ-/モノ-)(メタ)アクリレートとは、ジ(メタ)アクリレート及び/又はモノ(メタ)アクリレートを意味する。
【0051】
(メタ)アクリロイル基を有する化合物(B4)において、(メタ)アクリロイル基当量(g/eq)は、複合材料の強度の観点から、100~5000が好ましく、更に好ましくは150~4000である。
ここで、(メタ)アクリル当量とは、(B4)の分子量を1分子中の(メタ)アクリロイル基の数で除した値を意味する。
【0052】
ポリエーテル化合物(B5)としては、炭素数1~20の活性水素基を有する化合物へのAO付加物であって、化合物(A)を除く化合物等が挙げられる。
活性水素基とは、電気陰性度の大きな原子(酸素及び窒素等)に結合した反応性の高い水素原子を有する基を意味し、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、チオール基及びリン酸等が挙げられる。
炭素数1~20の活性水素基を有する化合物としては、ポリエステル(B1)で例示した炭素数2~30の脂肪族アルカンジオール、1級アルキルアミン及び2価フェノール等が挙げられる。また、上記以外の化合物として、炭素数2~30の1価のアルコール(メタノール、エタノール、イコサノール、シクロヘキサノール及びオレイルアルコール等)、芳香環を1つ有するアルコール、芳香環を1つ有するアルコールのスチレン化物及び芳香環を2つ以上有するアルコール等を用いることができる。
ポリエーテル化合物(B5)の内、好ましいものとしては、2価フェノール(ビスフェノールA、ビスフェノールS等)のAO付加物、アルキル(炭素数9~15のアルキル基が好ましい)フェノールのAO付加物、芳香環を1つ有するアルコールのうちフェノール性の水酸基を有するもののスチレン化物(スチレン化フェノール及びスチレン化クレゾール等)のAO付加物、芳香環を2つ以上有するアルコールのうちフェノール性の水酸基を有するもの(スチレン化クミルフェノール等)のAO付加物、前記のアルキルフェノールのAO付加物の硫酸エステル塩、芳香環を1つ有するアルコールのうちフェノール性の水酸基を有するもののスチレン化物(スチレン化フェノール及びスチレン化クレゾール等)のAO付加物の硫酸エステル、芳香環を2つ以上有するアルコールのうちフェノール性の水酸基を有するもの(クミルフェノール及びスチレン化クミルフェノール等)のAO付加物の硫酸エステル及びこれらの混合物であり、更に好ましいのは、芳香環を1つ有するアルコールのうちフェノール性の水酸基を有するもののスチレン化物(スチレン化フェノール及びスチレン化クレゾール等)のAO付加物、芳香環を2つ以上有するアルコールのうちフェノール性の水酸基を有するもの(クミルフェノール及びスチレン化クミルフェノール等)のAO付加物、芳香環を1つ有するアルコールのうちフェノール性の水酸基を有するもののスチレン化物(スチレン化フェノール及びスチレン化クレゾール等)のAO付加物の硫酸エステル、芳香環を2つ以上有するアルコールのうちフェノール性の水酸基を有するもの(クミルフェノール及びスチレン化クミルフェノール等)のAO付加物の硫酸エステル及びこれらの混合物である。
【0053】
ポリエーテル化合物(B5)におけるAOの付加モル数は、水溶性、乳化性、開繊性及び集束性の観点から、10~100モルであることが好ましい。
ポリエーテル(B5)において、AOとしては、具体的には、EO、PO、1,3-プロピレンオキサイド及びBO等が挙げられる。これらのAOは2種以上を併用してもよく、2種以上の併用の場合の結合様式は、ブロック付加、ランダム付加及びこれらの併用のいずれでもよい。
【0054】
ポリエーテル(B5)において、AOとしては、乳化安定性の観点から、EO及びPOが好ましい。
EOとPOとの重量比率(EO/PO)としては、乳化安定性の観点から、30/70~100/0が好ましい。
【0055】
ポリエーテル化合物(B5)の数平均分子量は、集束性の観点から、1000~200000が好ましく、更に好ましくは2000~100000である。
【0056】
ポリアミド樹脂(B6)としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46及びナイロン610等の脂肪族ポリアミド、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド及びポリヘキサメチレンイソフタルアミド等の芳香族ポリアミド等が挙げられる。
サイジング剤とマトリックス樹脂との接着性を向上させるため、またポリアミド系樹脂の水性化を容易にするため、分子中にポリアルキレンオキサイド鎖や3級アミン成分等の親水基を導入したものが好ましい。
【0057】
分子中にポリアルキレンオキサイド鎖のような親水基を導入した変性ポリアミド樹脂は、公知の方法で製造できる。例えば、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等の一部又は全部をジアミンに変性した成分とポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等の一部又は全部をジカルボン酸に変性した成分を共重合することにより製造することができる。
【0058】
ポリオレフィン樹脂(B7)としては、オレフィン系モノマー(炭素数2~36のものが含まれ、具体的にはエチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン及びブタジエン等)の重合物が含まれるが、繊維用集束剤組成物とマトリックス樹脂との接着性を向上させる観点及びポリオレフィン樹脂を水性媒体との混合しやすくする観点から、オレフィン系モノマーと共重合可能なカルボキシル基を有するモノマーを共重合した変性ポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0059】
カルボキシル基を有するモノマーとしては、炭素数3~20のものが含まれ、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
変性ポリオレフィン樹脂は公知の方法により製造することができる。例えば、ポリオレフィン樹脂を過酸化物存在下において無水マレイン酸と高温で混練する等の方法により製造することができる。
【0061】
これらのうち、複合材料の強度の観点から、ポリエステル(B1)、ポリウレタン(B2)、エポキシ基を有する化合物(B3)、(メタ)アクリロイル基を有する化合物(B4)及びポリエーテル化合物(B5)が好ましく、更に好ましいのは、ポリエステル(B1)、ポリウレタン(B2)及びポリエーテル化合物(B5)である。
【0062】
化合物(A)と化合物(B)との重量比[(A)/(B)]は、マトリックス樹脂の浸透性、複合材料の強度及び集束性の観点から、95/5~5/95であることが好ましく、更に好ましくは90/10~10/90であり、特に好ましくは80/20~20/80である。
【0063】
本発明の繊維用処理剤は、化合物(A)及び化合物(B)以外にもその他の添加剤等を含有していても良い。
【0064】
その他の添加剤としては、平滑剤、防腐剤及び酸化防止剤等が挙げられる。
平滑剤としては、高級脂肪酸(脂肪酸の炭素数6~30)アルキル(アルキルの炭素数1~24)エステル(メチルステアレート、エチルステアレート、プロプルステアレート、ブチルステアレート、オクチルステアレート及びステアリルステアレート等)、高級脂肪酸(脂肪酸の炭素数6~30)(ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸等)、天然油脂(ヤシ油、牛脂、オリーブ油及びナタネ油等)及び流動パラフィン等が挙げられる。
防腐剤としては、安息香酸、サリチル酸、ソルビン酸、第4級アンモニウム塩及びイミダゾール等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール(2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール等)、チオジプロピオネート(ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート等)及びホスファイト(トリフェニルホスファイト等)等が挙げられる。
【0065】
本発明の繊維用処理剤における化合物(A)、化合物(B)及びその他の添加剤の含有量は、それぞれ下記の通りである。
化合物(A)の重量割合は、マトリックス樹脂の浸透性、複合材料の強度及び集束性の観点から、繊維用処理剤のJIS K0067(1992)に従う105℃で加熱したときの蒸発残分(以下の蒸発残分においても同じ)の重量に基づき、好ましくは3~95重量%、更に好ましくは5~90重量%、特に好ましくは10~80重量%である。
化合物(B)の重量割合は、マトリックス樹脂の浸透性、複合材料の強度及び集束性の観点から、繊維用処理剤の蒸発残分の重量に基づき、好ましくは3~95重量%、更に好ましくは5~90重量%、特に好ましくは10~80重量%である。
その他の添加剤としての平滑剤、防腐剤及び酸化防止剤の重量割合は、流動性及び経時安定性の観点から、繊維用処理剤の蒸発残分の重量に基づき、好ましくは0.01~20重量%、更に好ましくは0.05~15重量%、特に好ましくは0.1~10重量%である。
【0066】
本発明の繊維用処理剤を繊維用集束剤として用いる場合の化合物(A)、化合物(B)及びその他の添加剤の含有量は、それぞれ下記の通りである。
化合物(A)の重量割合は、マトリックス樹脂の浸透性、複合材料の強度及び集束性の観点から、繊維用処理剤の蒸発残分(以下の蒸発残分においても同じ)の重量に基づき、好ましくは5~95重量%、更に好ましくは10~90重量%、特に好ましくは20~80重量%である。
化合物(B)の重量割合は、マトリックス樹脂の浸透性、複合材料の強度及び集束性の観点から、繊維用処理剤の蒸発残分の重量に基づき、好ましくは5~95重量%、更に好ましくは10~90重量%、特に好ましくは20~80重量%である。
その他の添加剤としての平滑剤、防腐剤及び酸化防止剤の重量割合は、流動性及び経時安定性の観点から、繊維用処理剤の蒸発残分の重量に基づき、好ましくは0.01~20重量%、更に好ましくは0.05~15重量%、特に好ましくは0.1~10重量%である。
【0067】
本発明の繊維用処理剤を繊維中間基材の繊維表面改質剤として用いる場合の化合物(A)、化合物(B)及びその他の添加剤の含有量は、それぞれ下記の通りである。
化合物(A)の重量割合は、マトリックス樹脂の浸透性及び複合材料の強度の観点から、繊維用処理剤の蒸発残分(以下の蒸発残分においても同じ)の重量に基づき、好ましくは5~95重量%、更に好ましくは10~90重量%、特に好ましくは20~80重量%である。
化合物(B)の重量割合は、マトリックス樹脂の浸透性及び複合材料の強度の観点から、繊維用処理剤の蒸発残分の重量に基づき、好ましくは5~95重量%、更に好ましくは10~90重量%、特に好ましくは20~80重量%である。
その他の添加剤としての平滑剤、防腐剤及び酸化防止剤の重量割合は、流動性及び経時安定性の観点から、繊維用処理剤の蒸発残分の重量に基づき、好ましくは0.01~20重量%、更に好ましくは0.05~15重量%、特に好ましくは0.1~10重量%である。
【0068】
本発明の繊維用処理剤は、水性溶液状、水性エマルジョン状及び水性懸濁液となるように水性媒体を含有することが好ましい。
水性媒体を含有すると、繊維用処理剤が含有する固形分の繊維又は繊維中間基材への付着量を適量にすることが容易であるため、複合材料(成形体)の強度に優れる。
水性媒体としては、公知の水性媒体等を用いることができ、具体的には、水及び親水性有機溶媒{炭素数1~4の1価のアルコール(メタノール、エタノール及びイソプロパノール等)、炭素数3~6のケトン(アセトン、エチルメチルケトン及びメチルイソブチルケトン等)、炭素数2~6のグリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール及びトリエチレングリコール等)及びそのモノアルキル(炭素数1~2)エーテル、ジメチルホルムアミド並びに炭素数3~5の酢酸アルキルエステル(酢酸メチル及び酢酸エチル等)等}が挙げられる。
これらは2種以上を併用してもよい。これらのうち、安全性等の観点から、水並びに親水性有機溶媒及び水の混合溶媒が好ましく、更に好ましいのは水である。
【0069】
本発明の繊維用処理剤は、コスト等の観点から、流通時は高濃度であって、使用時(繊維及び/又は繊維中間基材の処理時)は低濃度であることが好ましい。すなわち、高濃度で流通することで輸送コスト及び保管コスト等を低下させ、低濃度で繊維又は繊維中間基材を処理することで、優れた成形体強度を与える繊維中間基材(繊維束及び繊維製品)を製造できる。
高濃度の場合の繊維用処理剤中の蒸発残分の重量割合は、保存安定性等の観点から、好ましくは20~90重量%、更に好ましくは30~80重量%である。
低濃度の場合の繊維用処理剤中の蒸発残分の重量割合は、繊維又は繊維中間基材への繊維用処理剤の付着量を適量にする観点等から、好ましくは0.5~15重量%、更に好ましくは1~10重量%である。
【0070】
本発明の繊維用処理剤は、化合物(A)と必要により、化合物(B)、水性媒体、及びその他の添加剤をいかなる順序で混合しても製造することができる。
【0071】
本発明の繊維用処理剤の製造に用いる混合装置、溶解装置及び乳化分散装置に制限はなく、撹拌羽根(羽根形状:カイ型及び三段パドル等)、ナウターミキサー、リボンミキサー、コニカルブレンダー、モルタルミキサー、万能混合機(万能混合攪拌機5DM-L、(株)三英製作所製等)及びヘンシェルミキサー等が使用できる。
【0072】
本発明の繊維用処理剤を適用できる繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維、鉱物繊維(スラッグ繊維を含む)及び岩石繊維等の公知の繊維(国際公開第2003/47830号に記載のもの等)等が挙げられ、成形体強度の観点から、好ましくは炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維及び鉱物繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維であり、さらに好ましくは炭素繊維である。これらの繊維は2種以上を併用してもよい。
【0073】
<本発明の繊維束>
本発明の繊維束は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、セラミック繊維、金属繊維及び鉱物繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維を、上記の繊維用処理剤で処理して得られる(繊維3,000~5万本程度を束ねた)繊維束である。
【0074】
本発明の繊維用処理剤を、繊維を集束させる目的で繊維用集束剤として使用する際の処理方法としては、スプレー法又は浸漬法等が挙げられる。
繊維を処理する際、繊維用処理剤が含有する蒸発残分の繊維への付着量(重量%)は、繊維の重量に基づいて、0.05~5重量%が好ましく、更に好ましくは0.2~2.5重量%である。この範囲であると、成形体強度が更に優れる。
【0075】
<本発明の繊維製品>
本発明の繊維製品は、前記本発明の繊維用処理剤で処理(集束)した繊維束からなるものであり、前記繊維束を加工して繊維製品としたものが含まれ、繊維織物(繊維一方向織物、繊維二次元織物、繊維三次元織物、繊維の四次元以上の織物等)、繊維編み物、繊維不織布(フェルト、マット及びペーパー等)、チョップドファイバー、ミルドファイバー及び繊維布帛等が含まれる。
【0076】
<本発明の繊維中間基材>
本発明の繊維中間基材は、前記本発明の繊維用処理剤で、マトリックス樹脂を含浸させる前の繊維中間基材[繊維束{連続繊維束、短繊維束(チョップド糸等)}、繊維製品{繊維織物(繊維一方向織物、繊維二次元織物、繊維三次元織物、繊維の四次元以上の織物等)、繊維編み物、繊維不織布(フェルト、マット及びペーパー等)、チョップドファイバー、ミルドファイバー及び繊維布帛等}等]を処理したものが含まれ、繊維用処理剤で処理する際の処理方法としては、スプレー法又は浸漬法等が挙げられる。
繊維中間基材を処理する際、繊維用処理剤が含有する蒸発残分の繊維中間基材への付着量(重量%)は、未処理の繊維中間基材の重量に基づいて、0.05~5重量%が好ましく、更に好ましくは0.2~2.5重量%である。この範囲であると、成形体強度が更に優れる。
【0077】
<本発明の複合材料>
本発明の複合材料は、上記本発明の繊維束とマトリックス樹脂とを含む複合材料、及び本発明の繊維中間基材とマトリックス樹脂とを含む複合材料である。なお、本発明の繊維製品とマトリックス樹脂とを含む複合材料は、本発明の繊維束とマトリックス樹脂とを含む複合材料に含まれる。
マトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が含まれる。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド及びポリフェニレンサルファイド等が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂である場合、複合材料には触媒を含有してもよい。触媒としては、公知のものを制限なく使用でき、例えば熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合は、特開2005-213337号公報に記載のもの等が挙げられる。
【0078】
マトリックス樹脂と繊維中間基材(繊維束及び繊維製品)との重量比(マトリックス樹脂/繊維中間基材)は、成形体強度の観点から、10/90~90/10が好ましく、さらに好ましくは20/80~70/30であり、特に好ましくは30/70~60/40である。
触媒を含有する場合、触媒の含有量は、マトリックス樹脂に対して0.01~10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.1~5重量%、特に好ましくは1~3重量%である。
【0079】
本発明の複合素材は、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合、本発明の繊維中間基材{例えば、繊維製品(織物、編み物、不織布等)等}に、熱溶融(溶融温度:60~400℃)した熱可塑性のマトリックス樹脂を含浸させて成形する方法、本発明の繊維中間基材(繊維束又はこれを切断したチョップドファイバー等)を、溶融した熱可塑性マトリックス樹脂に投入し、混練して、射出成形する方法等により得ることができる。
また、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、本発明の繊維中間基材に熱硬化性樹脂を含浸させて加熱成形し、常温で固化することで成形体とすることができる。硬化は完結している必要はないが、成形体が形状を維持できる程度に硬化していることが好ましい。成形後、更に加熱して完全に硬化させてもよい。
【実施例
【0080】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、部は重量部を示す。
【0081】
<製造例1>ナフトールEO4モル付加物(A-1)
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ボンベを備えた耐圧反応容器に、β-ナフトール「β-ナフトール」[三井化学ファイン(株)製]144部(1モル部)及び水酸化カリウム0.5部を投入し、窒素置換後密閉し、100℃に昇温し、1時間減圧下で脱水を行った。160℃に昇温し、EO176部(4モル部)を圧力が0.5MPaG以下になるように調整しながら3時間かけて滴下した後、160℃で3時間熟成した。次いで70℃に冷却後、吸着処理剤「キョーワード600」[協和化学工業(株)製]10部を投入し、70℃で1時間撹拌して処理した後、吸着処理剤をろ過してナフトールEO4モル付加物(A-1)を得た。{(A-1)の数平均分子量は320、HLB=11.0}
【0082】
<製造例2>ナフトールEO20モル付加物(A-2)
製造例1において、「EO176部(4モル部)」を「EO880部(20モル部)」に変更した以外は製造例1と同様にして、ナフトールEO20モル付加物(A-2)を得た。{(A-2)の数平均分子量は1020、HLB=17.2}
【0083】
<製造例3>ジスチレン化β-ナフトールEO10モル付加物(A-3)
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ボンベを備えた反応容器にβ-ナフトール144部(1モル部)及びルイス酸触媒「GalleonEarth」[水澤化学工業(株)]5部を仕込み、撹拌下、系内を窒素ガスで置換し90℃に昇温した。同温度にてスチレン208部(2モル部)を5時間かけて滴下し、さらに同温度にて5時間反応させた。生成物を50℃に冷却後、触媒を濾別して、β-ナフトールのジスチレン化物{ジスチレン化β-ナフトール}を得た。
次に、撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ボンベを備えた耐圧反応容器に、得られたジスチレン化β-ナフトール352部(1モル部)及び水酸化カリウム0.5部を投入し、窒素置換後密閉し、100℃に昇温し、1時間減圧下で脱水を行った。160℃に昇温し、EO440部(10モル部)を圧力が0.5MPaG以下になるように調整しながら3時間かけて滴下した後、160℃で3時間熟成した。次いで70℃に冷却後、吸着処理剤「キョーワード600」[協和化学工業(株)製]10部を投入し、70℃で1時間撹拌して処理した後、吸着処理剤をろ過してジスチレン化ナフトールEO10モル付加物(A-3)を得た。{(A-3)の数平均分子量は790、HLB=11.1}
【0084】
<製造例4>ジスチレン化β-ナフトールEO30モル付加物(A-4)
製造例3において、「EO440部(10モル部)」を「EO1320部(30モル部)」に変更した以外は製造例1と同様にして、ジスチレン化β-ナフトールEO30モル付加物(A-4)を得た。{(A-4)の数平均分子量は1670、HLB=15.8}
【0085】
<製造例5>ジスチレン化β-ナフトールEO60モル付加物(A-5)
製造例3において、「EO440部(10モル部)」を「EO2640部(60モル部)」に変更した以外は製造例1と同様にして、ジスチレン化β-ナフトールEO60モル付加物(A-5)を得た。{(A-5)の数平均分子量は2290、HLB=17.6}
【0086】
<製造例6>アントロールEO20モル付加物(A-6)
製造例1において、「β-ナフトール144部(1モル部)」を「9-アントロール[富士フイルム和光純薬(株)製]194部(1モル部)」に変更し、「EO176部(4モル部)」を「EO880部(20モル部)」に変更した以外は製造例1と同様にして、アントロールEO20モル付加物(A-6)を得た。{(A-6)の数平均分子量は1070、HLB=16.4}
【0087】
<製造例7>ジスチレン化アントロールEO80モル付加物(A-7)
製造例3において、「β-ナフトール144部(1モル部)」を「9-アントロール[富士フイルム和光純薬(株)製]194部(1モル部)」に変更し、「EO440部(10モル部)」を「EO3520部(80モル部)」に変更した以外は製造例1と同様にして、ジスチレン化アントロールEO80モル付加物(A-7)を得た。{(A-7)の数平均分子量は3920、HLB=18.0}
【0088】
<比較製造例1>フェノールEO4モル付加物(A’-2)
製造例1において、「β-ナフトール144部(1モル部)」を「フェノール94部(1モル部)」に変更した以外は製造例1と同様にして、フェノールEO4モル付加物(A’-2)を得た。{(A’-2)の数平均分子量は270、HLB=13.0}
【0089】
<製造例8>ポリエステル(B-1)の製造
テレフタル酸142重量部(0.86モル部)を163重量部(0.98モル部)、ポリエチレングリコール「PEG-1000」[三洋化成工業(株)製]263重量部(0.26モル部)をポリエチレングリコール「PEG-10000」[三洋化成工業(株)製]359重量部(0.04モル部)及びテトライソプロポキシチタネート1.8部を、ガラス反応容器中、窒素流通下225℃で-0.1MPaまで減圧し水を留去しながら10時間反応させ、ポリエステル樹脂(B-1)803重量部を得た。{(B-1)の複素粘度は800000Pa・s}
【0090】
<製造例9>ポリウレタン(B-3)の製造
撹拌装置及び温度制御装置付きの反応容器に、ポリプロピレングリコール(数平均分子量1750)のEO付加物(数平均分子量8000)「ニューポールPE-68」[三洋化成工業(株)製]8000重量部を投入し、窒素置換した。乾燥窒素雰囲気下80℃まで昇温し、トルエンジイソシアネート「コロネートT-80」[日本ポリウレタン工業(株)製]116重量部を投入した後、80℃で5時間熟成し、ポリウレタン(B-3)を得た。{(B-3)のMwは25000、ウレタン基濃度は0.16mmol/g}
【0091】
<製造例10>ポリエーテル化合物(B-6)の製造
製造例3において、「β-ナフトール144部(1モル部)」を「フェノール94部(1モル部)」に変更し、「スチレン208部(2モル部)」を「スチレン286部(2.75モル部)」に変更し、「EO440部(10モル部)」を「EO1320部(30モル部)」に変更した以外は製造例3と同様にして、スチレン化(2.75モル)フェノールEO30モル付加物であるポリエーテル化合物(B-6)を得た。{(B-6)の数平均分子量は1700、HLB=15.5}
【0092】
<実施例1~12及び比較例1~2>
表1に記載の重量部数の原料を配合し、本発明の繊維用処理剤(X-1)~(X-12)及び比較用の繊維用処理剤(X’-1)~(X’-2)を得た。
【0093】
【表1】
【0094】
なお、表1に記載した記号の原料の化学組成は以下の通りである。なお、表1における配合量(重量部)は、純分の量で記載した。
(A-1)~(A-7):製造例1~7で得たもの
(A’-1):ビスフェノールAのEO6モル付加物[商品名「ニューポール BPE-60」、三洋化成工業株式会社製]
(A’-2):比較製造例1で得たもの
(B-1):製造例8で得たもの
(B-2):ポリウレタン樹脂30重量%水溶液[商品名「パーマリン UA-150」、三洋化成工業株式会社製]
(B-3):製造例9で得たもの
(B-4):ビスフェノールA型エポキシ樹脂[商品名「JER1004」、三菱ケミカル株式会社製、エポキシ当量:950g/eq]
(B-5):ビスフェノールAジグリシジルエーテルのアクリル酸2モル付加物[商品名「エポキシエステル3000A」、共栄社化学株式会社製、(メタ)アクリロイル当量:242g/eq]
(B-6):製造例10で得たもの
(B-7):ポリアミド樹脂「UBESTA XPA」[宇部興産株式会社製]
(B-8):マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂「ユーメックス1001」[三洋化成工業株式会社製]
【0095】
<実施例13>繊維用処理剤(X-13)
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ボンベを備えた耐圧反応容器に、ポリアミド樹脂「UBESTA XPA」[宇部興産(株)製](B-7)160部、ポリエーテル化合物(B-6)40部及び水700部を仕込み、撹拌下180℃まで昇温した。180℃に保ちながらさらに1時間撹拌した後、内容物を室温まで冷却した。製造例7のジスチレン化アントロールEO80モル付加物(A-7)を50部仕込み、更に水を加えて濃度調節を行い、蒸発残分5重量%のエマルション状の繊維用処理剤を得た。
【0096】
<実施例14>繊維用処理剤(X-14)
撹拌機、加熱冷却装置及び滴下ボンベを備えた耐圧反応容器に、マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(B-8)150部、ポリエーテル化合物(B-6)40部、ジエタノールアミン10部及び水700部を仕込み、撹拌下180℃まで昇温した。180℃に保ちながらさらに1時間撹拌した後、内容物を室温まで冷却した。製造例1のナフトールEO4モル付加物(A-1)を50部仕込み、更に水を加えて濃度調節を行い、固形分5重量%のエマルション状の繊維用処理剤を得た。
【0097】
実施例と比較例の繊維用処理剤を用いて、以下の評価方法で、集束性、マトリックス樹脂の浸透性及び複合材料の強度を評価した。結果を表1に示す。
【0098】
〇繊維用集束剤としての使用
<炭素繊維束の作製>
実施例で得た繊維用処理剤(X-1)~(X-14)及び比較用の繊維用処理剤(X’-1)~(X’-2)を固形分濃度が1.5重量%となるように水に溶解又は分散させた液に未処理炭素繊維(繊度800tex、フィラメント数12,000本)を浸漬して繊維処理剤を含浸させ、180℃で3分間熱風乾燥させて炭素繊維束を作製した。繊維用処理剤が含有する蒸発残分の繊維への付着量(重量%)は、未処理炭素繊維の重量に基づいて1.5重量%であった。
【0099】
<集束性の評価>
上記で得られた炭素繊維束の集束性を、JIS L1096(2010) 8.21.1 A法(45°カンチレバー法)に準じて評価した。
数値(cm)が大きいほど集束性に優れることを意味し、14cm以上が好ましい。
【0100】
<織物の作製>
(1)実施例で得た繊維用処理剤(X-1)~(X-14)及び比較用の繊維用処理剤を固形分濃度が2重量%となるように水に溶解又は分散させた液に未処理炭素繊維(繊度800tex、フィラメント数12,000本)を浸漬して繊維用処理剤を含浸させ、180℃で3分間熱風乾燥させて炭素繊維束を作製した。繊維用処理剤が含有する蒸発残分の繊維への付着量(重量%)は、未処理炭素繊維の重量に基づいて2重量%であった。
(2)得られた炭素繊維束を織機(特開2003-253547号に開示されている織機)を用いて製織し、平織、目付け200g/mの織物を作成した。
【0101】
<マトリックス樹脂の浸透性>
得られた炭素繊維織物の両面をポリカーボネート樹脂フィルム「テクノロイC000」[住友化学(株)]で積層し270℃で2MPaの圧力で1分間圧縮することにより、厚さ250μmの炭素繊維複合材料(炭素繊維体積含有率50%)を得た。
得られた炭素繊維複合材料について、繊維方向に対して垂直方向にカットした箇所の断面を光学顕微鏡で確認した。
断面画像(倍率900倍)を紙にプリントアウトし、樹脂が含浸している部分と含浸していない部分を切り取り、それぞれの紙の重さを量って以下の式でマトリックス樹脂の浸透性を求めた。
マトリックス樹脂の浸透性(%)=(樹脂が含浸している部分の重さ)/[(樹脂が含浸している部分の重さ)+(樹脂が含浸していない部分の重さ)]×100
【0102】
<炭素繊維複合材料の曲げ弾性率及び曲げ強度>
得られた炭素繊維織物の両面をポリカーボネート樹脂フィルム「テクノロイC000」[住友化学(株)]で積層し270℃で2MPaの圧力で3分間圧縮することにより、厚さ250μmの炭素繊維複合材料(炭素繊維体積含有率50%)を得た。
得られた炭素繊維複合材料の曲げ弾性率及び曲げ強度をJIS K7074に準拠して測定した。
【0103】
〇繊維表面改質剤としての使用
下記の「繊維中間基材の製造」に従って繊維用処理剤で処理した繊維中間基材(繊維織物)を製造し、「得られた炭素繊維織物」に代えて「繊維用処理剤で処理した繊維中間基材(繊維織物)」を用いる以外は上記と同様にして、マトリックス樹脂の浸透性、曲げ弾性率及び曲げ強度を測定した。
<繊維中間基材の製造>
実施例で得た繊維用処理剤(X-1)~(X-14)及び比較用の繊維用処理剤(X’-1)~(X’-2)を蒸発残分が2重量%となるように水に溶解又は分散させた液に、炭素繊維織物[商品名「EC3C」、台湾プラスチック製]を浸し蒸発残分(付着量)が炭素繊維織物に対して2重量%となるようにニップロールを通過させて処理剤を含浸させ、200℃で3分間熱風乾燥させ、繊維用処理剤で処理した繊維中間基材(繊維織物)を得た。
【0104】
表1の結果から、本発明の繊維用処理剤は、炭素繊維の集束性に優れることがわかる。また、本発明の繊維用処理剤で処理した繊維束を用いて製造した繊維中間基材(織物)及び本発明の繊維用処理剤で処理した繊維中間基材(繊維織物)は、マトリックス樹脂が1分と短時間で85%以上浸透しており、ほぼ中心部まで浸透していることから、マトリックス樹脂の浸透性が高いことがわかる。さらに、本発明の繊維用処理剤で処理した繊維束又は繊維中間基材(繊維織物)を用いて製造した複合材料は、曲げ弾性率及び曲げ強度が高く、強度の高い複合材料を得ることができることがわかる。
一方、比較例1~2の繊維用処理剤を用いた場合、炭素繊維の集束性が劣っており、マトリックス樹脂の浸透性も低く、得られる複合材料の強度も低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の繊維用処理剤は、繊維を集束することができるので、繊維用集束剤(繊維用サイジング剤)として用いることができる。さらに、繊維中間基材[繊維束{連続繊維束、短繊維束(チョップド糸等)}、繊維製品{繊維織物(繊維一方向織物、繊維二次元織物、繊維三次元織物、繊維の四次元以上の織物等)、繊維編み物、繊維不織布(フェルト、マット及びペーパー等)、チョップドファイバー、ミルドファイバー及び繊維布帛等}等]にマトリックス樹脂が浸透しやすくするための繊維表面改質剤として用いることができる。