(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】電力変換装置、電力変換方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 21/00 20160101AFI20240730BHJP
H02P 6/18 20160101ALI20240730BHJP
【FI】
H02P21/00
H02P6/18
(21)【出願番号】P 2020127225
(22)【出願日】2020-07-28
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】猪又 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 明
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-085461(JP,A)
【文献】特開平10-243699(JP,A)
【文献】特開2018-023182(JP,A)
【文献】特開2019-129572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P6/00-6/34
21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機に生じるd軸磁束と、前記電動機のd軸インダクタンスと、前記電動機に流れるd軸電流とに基づいて前記電動機の磁石磁束を推定する磁石磁束推定部と、
前記電動機に生じるq軸磁束と、前記電動機に流れるq軸電流とに基づいて前記電動機のq軸インダクタンスを推定するq軸インダクタンス推定部と、
前記磁石磁束推定部による推定結果と、前記q軸インダクタンス推定部による推定結果とに基づいて前記電動機の駆動力を推定する駆動力推定部と、
前記駆動力推定部による推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正する駆動力補償部と、
前記電動機に印加されるd軸電圧及びq軸電圧と、前記d軸電圧及び前記q軸電圧の印加に応じて前記電動機に流れるd軸電流及びq軸電流とに基づいてdq座標系の角度誤差を推定する軸ずれ推定部と、を備え
、
前記磁石磁束推定部は、前記角度誤差に基づき補正されたdq座標系における前記d軸磁束、前記d軸インダクタンス及び前記d軸電流に基づいて前記磁石磁束を推定し、
前記q軸インダクタンス推定部は、前記角度誤差に基づき補正されたdq座標系における前記q軸磁束及び前記q軸電流に基づいて前記q軸インダクタンスを推定し、
前記駆動力推定部は、前記角度誤差に基づき補正されたdq座標系における前記d軸電流及び前記q軸電流と、前記磁石磁束推定部による推定結果と、前記q軸インダクタンス推定部による推定結果とに基づいて前記駆動力を推定する、電力変換装置。
【請求項2】
前記q軸インダクタンス推定部は、
前記q軸磁束と前記q軸電流とに基づいて、前記q軸インダクタンスと前記q軸電流との関係を表すq軸インダクタンスゲインを算出するゲイン算出部と、
前記q軸インダクタンスゲインのノイズ成分を低減させるフィルタと、
前記フィルタを通過したq軸インダクタンスゲインと前記q軸電流とに基づいて前記q軸インダクタンスを算出するインダクタンス算出部と、を有する、請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記d軸磁束及び前記q軸磁束を含む磁束ベクトルと、前記d軸電流及び前記q軸電流を含む電流ベクトルとの内積である無効力を、前記d軸電圧、前記q軸電圧、前記d軸電流、及び前記q軸電流に基づいて推定する無効力推定部を更に備え、
前記軸ずれ推定部は、前記無効力推定部による推定結果に基づいて前記角度誤差を算出する、請求項
1又は
2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記無効力推定部は、
前記d軸電圧、前記q軸電圧、前記d軸電流、前記q軸電流及び前記電動機の動作速度に基づいて前記無効力を推定する第1推定部と、
前記磁石磁束推定部による推定結果、前記d軸電流、前記q軸電流、前記d軸インダクタンス及び前記q軸インダクタンスに基づいて前記無効力を推定する第2推定部と、を有し、
前記軸ずれ推定部は、前記第1推定部による推定結果と前記第2推定部による推定結果とに基づいて前記角度誤差を算出する、請求項
3記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記電動機に印加されるd軸電圧及びq軸電圧と、前記d軸電圧及び前記q軸電圧の印加に応じて前記電動機に流れるd軸電流及びq軸電流と、前記電動機の動作速度とに基づいて前記d軸磁束及び前記q軸磁束を推定する磁束推定部を更に備え、
前記磁石磁束推定部は、前記磁束推定部により推定された前記d軸磁束に基づいて前記磁石磁束を推定し、
前記q軸インダクタンス推定部は、前記磁束推定部により推定された前記q軸磁束に基づいて前記q軸インダクタンスを推定し、
前記磁石磁束推定部は、前記電動機の動作速度が所定の速度閾値を下回っている場合に前記磁石磁束の推定を中断し、前記磁石磁束の推定結果を一定にする、請求項1~
4のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記軸ずれ推定部は、前記電動機の動作速度が所定の閾値を下回っている場合に前記角度誤差の推定を中断し、前記角度誤差を一定にする、請求項
5記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記q軸インダクタンス推定部は、前記駆動力推定部による推定結果が所定の力閾値を下回っている場合には、前記q軸インダクタンスの推定を中断し、前記q軸インダクタンスの推定結果を一定にする、請求項1~
6のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記d軸磁束と、前記d軸電流とに基づいて前記d軸インダクタンスを推定するd軸インダクタンス推定部と、
前記電動機の種別に基づいて、前記磁石磁束推定部に前記磁石磁束を推定させる第1推定モードと、前記d軸インダクタンス推定部に前記d軸インダクタンスを推定させる第2推定モードとのいずれか一方を選択するモード選択部と、を更に備え、
前記モード選択部が前記第1推定モードを選択している場合に、前記駆動力推定部は、前記磁石磁束推定部による推定結果と、前記q軸インダクタンス推定部による推定結果とに基づいて前記電動機の駆動力を推定し、
前記モード選択部が前記第2推定モードを選択している場合に、前記駆動力推定部は、前記d軸インダクタンス推定部による推定結果と、前記q軸インダクタンス推定部による推定結果とに基づいて前記電動機の駆動力を推定する、請求項1~
7のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記モード選択部は、前記電動機がリラクタンスモータである場合に、前記第2推定モードを選択する、請求項
8記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記d軸インダクタンス推定部は、
前記d軸磁束とd軸電流とに基づいて、前記d軸インダクタンスと前記d軸電流との関係を表すd軸インダクタンスゲインを算出するゲイン算出部と、
前記d軸インダクタンスゲインのノイズ成分を低減させるフィルタと、
前記フィルタを通過したd軸インダクタンスゲインと前記d軸電流とに基づいて前記d軸インダクタンスを算出するインダクタンス算出部と、を有する、請求項
9記載の電力変換装置。
【請求項11】
電動機に生じる磁束のベクトルと、前記電動機に流れる電流のベクトルとの内積である無効力を、前記電動機に印加される電圧と、前記電圧の印加に応じて前記電動機に流れる電流とに基づいて推定する無効力推定部と、
前記無効力推定部による推定結果に基づいてdq座標系の角度誤差を算出する軸ずれ推定部と、
前記軸ずれ推定部による推定結果に基づいて前記電動機の駆動力を推定する駆動力推定部と、
前記駆動力推定部による推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正する駆動力補償部と、を備える電力変換装置。
【請求項12】
電動機に生じるd軸磁束と、前記電動機に流れるd軸電流とに基づいて前記電動機のd軸インダクタンスを推定するd軸インダクタンス推定部と、
前記電動機に生じるq軸磁束と、前記電動機に流れるq軸電流とに基づいて前記電動機のq軸インダクタンスを推定するq軸インダクタンス推定部と、
前記d軸インダクタンス推定部による推定結果と、前記q軸インダクタンス推定部による推定結果とに基づいて前記電動機の駆動力を推定する駆動力推定部と、
前記駆動力推定部による推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正する駆動力補償部と、を備え
、
前記q軸インダクタンス推定部は、前記q軸インダクタンスの推定結果のノイズを低減させるフィルタ処理を行うように構成されており、
前記駆動力推定部は、前記d軸インダクタンス推定部による推定結果と、前記q軸インダクタンス推定部による前記フィルタ処理済みの推定結果とに基づいて前記電動機の駆動力を推定する、電力変換装置。
【請求項13】
前記q軸インダクタンス推定部は、
前記q軸磁束と前記q軸電流とに基づいて、前記q軸インダクタンスと前記q軸電流との関係を表すq軸インダクタンスゲインを算出するゲイン算出部と、
前記q軸インダクタンスゲインのノイズ成分を低減させるフィルタと、
前記フィルタを通過したq軸インダクタンスゲインと前記q軸電流とに基づいて前記q軸インダクタンスを算出するインダクタンス算出部と、を有する、請求項12記載の電力変換装置。
【請求項14】
電動機に生じるd軸磁束と、前記電動機のd軸インダクタンスと、前記電動機に流れるd軸電流とに基づいて前記電動機の磁石磁束を推定する磁石磁束推定部と、
前記電動機に生じるq軸磁束と、前記電動機に流れるq軸電流とに基づいて前記電動機のq軸インダクタンスを推定するq軸インダクタンス推定部と、
前記磁石磁束推定部による推定結果と、前記q軸インダクタンス推定部による推定結果とに基づいて前記電動機の駆動力を推定する駆動力推定部と、
前記駆動力推定部による推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正する駆動力補償部と、を備え、
前記q軸インダクタンス推定部は、前記q軸インダクタンスの推定結果のノイズを低減させるフィルタ処理を行うように構成されており、
前記駆動力推定部は、前記磁石磁束推定部による推定結果と、前記q軸インダクタンス推定部による前記フィルタ処理済みの推定結果とに基づいて前記電動機の駆動力を推定する、電力変換装置。
【請求項15】
前記q軸インダクタンス推定部は、
前記q軸磁束と前記q軸電流とに基づいて、前記q軸インダクタンスと前記q軸電流との関係を表すq軸インダクタンスゲインを算出するゲイン算出部と、
前記q軸インダクタンスゲインのノイズ成分を低減させるフィルタと、
前記フィルタを通過したq軸インダクタンスゲインと前記q軸電流とに基づいて前記q軸インダクタンスを算出するインダクタンス算出部と、を有する、請求項12記載の電力変換装置。
【請求項16】
電動機に生じるd軸磁束と、前記電動機のd軸インダクタンスと、前記電動機に流れるd軸電流とに基づいて前記電動機の磁石磁束を推定することと、
前記電動機に生じるq軸磁束と、前記電動機に流れるq軸電流とに基づいて前記電動機のq軸インダクタンスを推定することと、
前記磁石磁束の推定結果と、前記q軸インダクタンスの推定結果とに基づいて前記電動機の駆動力を推定することと、
前記駆動力の推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正することと、
前記電動機に印加されるd軸電圧及びq軸電圧と、前記d軸電圧及び前記q軸電圧の印加に応じて前記電動機に流れるd軸電流及びq軸電流とに基づいてdq座標系の角度誤差を推定することと、を含み、
前記角度誤差に基づき補正されたdq座標系における前記d軸磁束、前記d軸インダクタンス及び前記d軸電流に基づいて前記磁石磁束を推定し、
前記角度誤差に基づき補正されたdq座標系における前記q軸磁束及び前記q軸電流に基づいて前記q軸インダクタンスを推定し、
前記角度誤差に基づき補正されたdq座標系における前記d軸電流及び前記q軸電流と、前記磁石磁束の推定結果と、前記q軸インダクタンスの推定結果とに基づいて前記駆動力を推定する、電力変換方法。
【請求項17】
電動機に生じるd軸磁束と、前記電動機のd軸インダクタンスと、前記電動機に流れるd軸電流とに基づいて前記電動機の磁石磁束を推定することと、
前記電動機に生じるq軸磁束と、前記電動機に流れるq軸電流とに基づいて前記電動機のq軸インダクタンスを推定することと、
前記q軸インダクタンスの推定結果のノイズを低減させるフィルタ処理を行うことと、
前記磁石磁束の推定結果と、前記フィルタ処理済みの前記q軸インダクタンスの推定結果とに基づいて前記電動機の駆動力を推定することと、
前記駆動力の推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正することと、を含む電力変換方法。
【請求項18】
前記フィルタ処理を行うことは、
前記q軸磁束と前記q軸電流とに基づいて、前記q軸インダクタンスと前記q軸電流との関係を表すq軸インダクタンスゲインを算出することと、
前記q軸インダクタンスゲインのノイズ成分をフィルタにより低減させることと、
前記フィルタを通過したq軸インダクタンスゲインと前記q軸電流とに基づいて前記q軸インダクタンスを算出することと、を含む、請求項17記載の電力変換方法。
【請求項19】
電動機に生じるd軸磁束と、前記電動機のd軸インダクタンスと、前記電動機に流れるd軸電流とに基づいて前記電動機の磁石磁束を推定することと、
前記電動機に生じるq軸磁束と、前記電動機に流れるq軸電流とに基づいて前記電動機のq軸インダクタンスを推定することと、
前記磁石磁束の推定結果と、前記q軸インダクタンスの推定結果とに基づいて前記電動機の駆動力を推定することと、
前記駆動力の推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正することと、
前記電動機に印加されるd軸電圧及びq軸電圧と、前記d軸電圧及び前記q軸電圧の印加に応じて前記電動機に流れるd軸電流及びq軸電流とに基づいてdq座標系の角度誤差を推定することと、を含み、
前記角度誤差に基づき補正されたdq座標系における前記d軸磁束、前記d軸インダクタンス及び前記d軸電流に基づいて前記磁石磁束を推定し、
前記角度誤差に基づき補正されたdq座標系における前記q軸磁束及び前記q軸電流に基づいて前記q軸インダクタンスを推定し、
前記角度誤差に基づき補正されたdq座標系における前記d軸電流及び前記q軸電流と、前記磁石磁束の推定結果と、前記q軸インダクタンスの推定結果とに基づいて前記駆動力を推定する、電力変換方法を装置に実行させるプログラム。
【請求項20】
電動機に生じるd軸磁束と、前記電動機のd軸インダクタンスと、前記電動機に流れるd軸電流とに基づいて前記電動機の磁石磁束を推定することと、
前記電動機に生じるq軸磁束と、前記電動機に流れるq軸電流とに基づいて前記電動機のq軸インダクタンスを推定することと、
前記q軸インダクタンスの推定結果のノイズを低減させるフィルタ処理を行うことと、
前記磁石磁束の推定結果と、前記フィルタ処理済みの前記q軸インダクタンスの推定結果とに基づいて前記電動機の駆動力を推定することと、
前記駆動力の推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正することと、を含む電力変換方法を装置に実行させるプログラム。
【請求項21】
前記フィルタ処理を行うことは、
前記q軸磁束と前記q軸電流とに基づいて、前記q軸インダクタンスと前記q軸電流との関係を表すq軸インダクタンスゲインを算出することと、
前記q軸インダクタンスゲインのノイズ成分をフィルタにより低減させることと、
前記フィルタを通過したq軸インダクタンスゲインと前記q軸電流とに基づいて前記q軸インダクタンスを算出することと、を含む、請求項20記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置、電力変換方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、IPMモータの制御装置の内部信号から演算により得られる回転子磁極位置の推定信号と、回転子速度推定信号を用いて、IPMモータの電機子回転磁界と回転子速度を制御する制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、電動機の駆動力制御の精度向上に有効な電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
電力変換装置は、電動機に生じるd軸磁束と、電動機のd軸インダクタンスと、電動機に流れるd軸電流とに基づいて電動機の磁石磁束を推定する磁石磁束推定部と、電動機に生じるq軸磁束と、電動機に流れるq軸電流とに基づいて電動機のq軸インダクタンスを推定するq軸インダクタンス推定部と、磁石磁束推定部による推定結果と、q軸インダクタンス推定部による推定結果とに基づいて電動機の駆動力を推定する駆動力推定部と、駆動力推定部による推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正する駆動力補償部と、を備える。
【0006】
本開示の他の側面に係る電力変換方法は、電動機に生じるd軸磁束と、電動機のd軸インダクタンスと、電動機に流れるd軸電流とに基づいて電動機の磁石磁束を推定することと、電動機に生じるq軸磁束と、電動機に流れるq軸電流とに基づいて電動機のq軸インダクタンスを推定することと、磁石磁束の推定結果と、q軸インダクタンスの推定結果とに基づいて電動機の駆動力を推定することと、駆動力の推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正することと、を含む。
【0007】
本開示の更に他の側面に係るプログラムは、電動機に生じるd軸磁束と、電動機のd軸インダクタンスと、電動機に流れるd軸電流とに基づいて電動機の磁石磁束を推定することと、電動機に生じるq軸磁束と、電動機に流れるq軸電流とに基づいて電動機のq軸インダクタンスを推定することと、磁石磁束の推定結果と、q軸インダクタンスの推定結果とに基づいて電動機の駆動力を推定することと、駆動力の推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正することと、を含む電力変換方法を装置に実行させる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、電動機の駆動力制御の精度向上に有効な電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】電力変換装置の構成を例示する模式図である。
【
図2】駆動力推定部の構成を例示するブロック図である。
【
図3】q軸インダクタンス推定部の構成を例示するブロック図である。
【
図4】d軸インダクタンス推定部の構成を例示するブロック図である。
【
図5】軸ずれ推定部の構成を例示するブロック図である。
【
図7】制御回路のハードウェア構成を例示するブロック図である。
【
図8】モード選択手順を例示するフローチャートである。
【
図9】電力変換制御手順を例示するフローチャートである。
【
図10】SPMモードの補償切替手順を例示するフローチャートである。
【
図11】IPMモードの補償切替手順を例示するフローチャートである。
【
図12】RMモードの補償切替手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
〔電力変換装置〕
本実施形態に係る電力変換装置1は、モータ20(電動機)に駆動電力を供給する装置である。モータ20は、例えば同期電動機であり、駆動対象物を駆動する。モータ20による駆動対象物に特に制限は無いが、一例としてはポンプ等が挙げられる。同期電動機の具体例としては、永久磁石型の同期電動機、又はシンクロナスリラクタンスモータ等が挙げられる。永久磁石型の同期電動機の具体例としては、SPM(Surface Permanent Magnet)モータ、IPM(Interior Permanent Magnet)モータ等が挙げられる。
【0012】
図1に示すように、電力変換装置1は、電源90の電力(一次側電力)を駆動電力(二次側電力)に変換してモータ20に供給する。一次側電力は、交流電力であってもよく、直流電力であってもよい。二次側電力は交流電力である。一例として、一次側電力及び二次側電力は、いずれも三相交流電力である。例えば電力変換装置1は、電力変換回路10と、制御回路100とを有する。
【0013】
電力変換回路10は、一次側電力を二次側電力に変換してモータ20に供給する。電力変換回路10は、例えば電圧形インバータであり、電圧指令に従った駆動電圧をモータ20に印加する。例えば電力変換回路10は、コンバータ回路11と、平滑コンデンサ12と、インバータ回路13と、電流センサ14とを有する。
【0014】
コンバータ回路11は、例えばダイオードブリッジ回路又はPWMコンバータ回路であり、上記電源電力を直流電力に変換する。平滑コンデンサ12は、上記直流電力を平滑化する。インバータ回路13は、上記直流電力と上記駆動電力との間の電力変換を行う。例えばインバータ回路13は、複数のスイッチング素子15を有し、複数のスイッチング素子15のオン・オフを切り替えることによって上記電力変換を行う。スイッチング素子15は、例えばパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等であり、ゲート駆動信号に応じてオン・オフを切り替える。
【0015】
電流センサ14は、インバータ回路13とモータ20との間に流れる電流を検出する。例えば電流センサ14は、三相交流の全相(U相、V相及びW相)の電流を検出するように構成されていてもよいし、三相交流のいずれか2相の電流を検出するように構成されていてもよい。零相電流が生じない限り、U相、V相、及びW相の電流の合計はゼロなので、2相の電流を検出する場合にも全相の電流の情報が得られる。
【0016】
以上に示した電力変換回路10の構成はあくまで一例であり、モータ20に駆動電力を供給し得る限りにおいていかようにも変更可能である。例えば電力変換回路10は、電流形インバータであってもよい。電流形インバータは、電流指令に従った駆動電流をモータ20に出力する。電力変換回路10は、直流化を経ることなく電源電力と駆動電力との双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路であってもよい。電源電力が直流電力である場合に、電力変換回路10はコンバータ回路11を有していなくてもよい。
【0017】
制御回路100は、モータ20に駆動電力を供給するように電力変換回路10を制御する。例えば制御回路100は、モータ20が生じる駆動力(例えばトルク)を、駆動力指令(例えばトルク指令)に追従させるように、電力変換回路10により駆動電力を調節する。例えば電力変換回路10が電圧形インバータである場合、制御回路100は、駆動力指令に基づき電流指令を生成し、電流指令に基づき電圧指令を生成し、電圧指令に従った駆動電圧をモータ20に印加するように電力変換回路10を制御する。電力変換回路10が電流形インバータである場合、制御回路100は、駆動力指令に基づき電流指令を生成し、電流指令に従った駆動電流をモータ20に供給するように電力変換回路10を制御する。
【0018】
ここで、モータ20の設置環境においては、モータ20に供給される電流と、モータ20が生じる駆動力との関係が不安定となり、駆動力の精度が低下する場合がある。例えばモータ20が、地中深部においてオイルポンプを駆動する場合等においては、モータ20の発熱により駆動力が駆動力指令から大きく乖離してしまう場合がある。
【0019】
これに対し、制御回路100は、モータ20に生じるd軸磁束と、モータ20のd軸インダクタンスと、モータ20に流れるd軸電流とに基づいてモータ20の磁石磁束を推定することと、モータ20に生じるq軸磁束と、モータ20に流れるq軸電流とに基づいてモータ20のq軸インダクタンスを推定することと、磁石磁束の推定結果と、q軸インダクタンスの推定結果とに基づいてモータ20の駆動力を推定することと、駆動力の推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正することと、を実行するように構成されている。この構成によれば、モータ20の状態によって変動しやすい磁石磁束と、q軸インダクタンスとが、モータ20の現在の状態に基づいて推定され、推定結果に基づいて駆動力が推定され、駆動力の推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令が補正される。従って、モータ20の駆動力制御の精度向上に有効である。以下、電力変換回路10が電圧型インバータである場合の制御回路100の構成をより具体的に例示する。
【0020】
(制御回路の全体構成)
図1に示すように、制御回路100は、機能上の構成(以下、「機能ブロック」という。)として、電流指令生成部111と、電圧指令生成部112と、座標変換部113と、PWM制御部114と、電流情報取得部121と、軸位置推定部122と、駆動力推定部123と、駆動力補償部124と、軸ずれ推定部125とを有する。
【0021】
電流指令生成部111は、トルク指令T*に基づいて電流指令を生成する。トルク指令T*は、例えばモータ20の速度を目標速度に追従させるように制御回路100により生成される。電流指令生成部111は、電力変換装置1の上位コントローラからトルク指令T*を取得してもよい。
【0022】
例えば電流指令生成部111は、d軸電流指令Id*と、q軸電流指令Iq*とを生成する。d軸及びq軸は、dq座標系の座標軸である。dq座標系は、モータ20のロータと共に回転する座標系である。d軸は、モータ20のロータの磁極方向に沿った座標軸であり、q軸は、d軸に垂直な座標軸である。dq座標系の回転角度は、モータ20のステータに固定されたαβ座標系に対する電気角で表される。αβ座標系は、互いに垂直なα軸及びβ軸を有する。dq座標系の回転角度は、例えばα軸に対するd軸の角度である。
【0023】
電圧指令生成部112は、電流指令に基づいて電圧指令を生成する。例えば電圧指令生成部112は、d軸電流指令Id*及びq軸電流指令Iq*に基づいて、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*を生成する。例えば電圧指令生成部112は、d軸電流指令Id*とd軸電流Idとの偏差を縮小し、q軸電流指令Iq*とq軸電流Iqとの偏差を縮小するように、d軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*、d軸電流Id、及びq軸電流Iqに基づいてd軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*を算出する。後述するように、d軸電流Id及びq軸電流Iqは、電流センサ14の検出値に基づいて取得される。
【0024】
座標変換部113は、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*に対し、dq座標系からαβ座標系への座標変換と、2相から3相への変換とを施してu相電圧指令Vu*、v相電圧指令Vv*及びw相電圧指令Vw*を算出する。PWM制御部114は、u相電圧指令Vu*、v相電圧指令Vv*、及びw相電圧指令Vw*に従った駆動電圧をモータ20に印加するように、インバータ回路13の複数のスイッチング素子15のオン・オフを切り替える。
【0025】
電流情報取得部121は、電流センサ14による検出値を取得する。この検出値は、例えばu相電流Iu、v相電流Iv及びw相電流Iwを含む。電流情報取得部121は、u相電流Iu、v相電流Iv及びw相電流Iwに対し、3相から2相への変換と、αβ座標系からdq座標系への座標変換とを施して、上述のd軸電流Id及びq軸電流Iqを算出する。
【0026】
軸位置推定部122は、モータ20に印加された電圧と、モータ20に供給された電流との関係に基づいて、dq座標系の回転角度を推定する。電圧型インバータにおいては、モータ20に印加される電圧は実質的に電圧指令に一致するので、モータ20に印加された電圧に基づくことは、電圧指令に基づくことを含む。例えば軸位置推定部122は、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*と、d軸電流Id及びq軸電流Iqとの関係に基づいて、dq座標系の回転角度θeを推定する。
【0027】
軸位置推定部122は、高周波重畳方式によりdq座標系の回転角度θeを推定してもよいし、拡張誘起電圧オブザーバ方式によりdq座標系の回転角度θeを推定してもよい。高周波重畳方式は、電圧指令に重畳した高周波成分と、これに対応する電流の高周波成分との関係に基づき回転角度θeを推定する方式である。拡張誘起電圧オブザーバ方式は、電圧指令と電流との関係に基づき算出される誘起電圧ベクトルの方向に基づき回転角度θeを推定する方式である。回転角度θeは、座標変換部113及び電流情報取得部121における上記座標変換に用いられる。
【0028】
駆動力推定部123は、モータ20に印加された電圧と、モータ20に供給された電流と、dq座標系の回転角速度とに基づいてモータ20が発生するトルクを推定する。例えば駆動力推定部123は、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*と、d軸電流Id及びq軸電流Iqと、dq座標系の回転角速度ωeとに基づいて、トルクTPを推定する。回転角速度ωeは、例えば軸位置推定部122により推定された回転角度θeの微分により導出される。
【0029】
駆動力補償部124は、駆動力推定部123による推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正する。例えば駆動力補償部124は、駆動力推定部123により推定されたトルクTPとトルク指令T*との偏差を縮小するように、補正トルク指令T**を算出し、電流指令生成部111に出力する。電流指令生成部111は、補正トルク指令T**に基づいてd軸電流指令Id*及びq軸電流指令Iq*を生成する。駆動力補償部124がトルク指令T*を補正トルク指令T**に補正することによって、電流指令生成部111が生成する電流指令は、トルクTPをトルク指令T*に追従させるように補正される。
【0030】
軸ずれ推定部125は、モータ20に印加されるd軸電圧及びq軸電圧と、d軸電圧及びq軸電圧の印加に応じてモータ20に流れるd軸電流及びq軸電流とに基づいてdq座標系の角度誤差を推定する。角度誤差は、軸位置推定部122が算出する回転角度θeの誤差である。例えば軸ずれ推定部125は、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*と、d軸電流Id及びq軸電流Iqとに基づいて、dq座標系の角度誤差dθeを推定する。
【0031】
角度誤差dθeは、回転角度θeに加算され、回転角度θeと共に座標変換部113及び電流情報取得部121における上記座標変換に用いられる。角度誤差dθeが座標変換部113における座標変換に用いられることによって、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*は、角度誤差dθeに基づき補正されたdq座標系におけるd軸電圧及びq軸電圧を表すこととなる。以下、角度誤差dθeに基づき補正されたdq座標系を「補償後のdq座標系」という。
【0032】
角度誤差dθeが電流情報取得部121における座標変換に用いられることによって、補償後のdq座標系におけるq軸電流Iq及びd軸電流Idが算出されることとなる。このように、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*は、補償後のdq座標系におけるd軸電圧及びq軸電圧を表し、d軸電流Id及びq軸電流Iqは補償後のdq座標系におけるd軸電流及びq軸電流を表す。このため、これらに基づきトルクTPを推定する駆動力推定部123は、角度誤差dθeに更に基づいてトルクTPを推定することとなる。
【0033】
なお、実際の制御回路100においては、生成されたd軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*の出力遅れが生じる場合がある。この場合、実際にモータ20に印加されているd軸電圧及びq軸電圧と、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*との間にずれが生じる。このずれを補償するために、制御回路100は電圧補正部126を更に有してもよい。
【0034】
電圧補正部126は、回転角速度ωeに基づき上記遅れを補償する。例えば電圧補正部126は、回転角速度ωeと、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*とに基づいてd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqを算出する。上述したように、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*は、補償後のdq座標系におけるd軸電圧及びq軸電圧を表す。このため、電圧補正部126が算出するd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqも、補償後のdq座標系におけるd軸電圧及びq軸電圧を表す。
【0035】
制御回路100が電圧補正部126を有する場合、軸ずれ推定部125は、電圧補正部126が算出したd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqに基づいて角度誤差dθeを推定してもよい。また、駆動力推定部123は、電圧補正部126が算出したd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqに基づいてトルクTPを推定してもよい。
【0036】
(駆動力推定部)
続いて、駆動力推定部123の構成をより詳細に例示する。駆動力推定部123は、モータ20の磁石磁束の推定結果と、モータ20のq軸インダクタンスの推定結果とに基づいてトルクTPを推定する。例えば
図2に示すように、制御回路100は、磁束推定部131と、磁石磁束推定部132と、q軸インダクタンス推定部133とを更に有する。
【0037】
磁束推定部131は、モータ20に印加されるd軸電圧及びq軸電圧と、d軸電圧及びq軸電圧の印加に応じてモータ20に流れるd軸電流及びq軸電流と、モータ20の動作速度とに基づいて、モータ20に生じるd軸磁束及びq軸磁束を推定する。d軸磁束はd軸に沿う磁束であり、q軸磁束はq軸に沿う磁束である。例えば磁束推定部131は、電圧補正部126により算出されたd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqと、電流情報取得部121により算出されたd軸電流Id及びq軸電流Iqとに基づいて、次式によりd軸磁束Φd及びq軸磁束Φqを算出する。
Φd=(Vq-R・Iq)/ωe・・・(1)
Φq=-(Vd-R・Id)/ωe・・・(2)
R:モータ20の巻線抵抗
【0038】
上述したように、d軸電圧Vd及びq軸電圧Vqは、補償後のdq座標系におけるd軸電圧及びq軸電圧を表す。また、d軸電流Id及びq軸電流Iqは、補償後のdq座標系におけるd軸電流及びq軸電流を表す。従って、d軸磁束Φd及びq軸磁束Φqは、補償後のdq座標系におけるd軸磁束及びq軸磁束を表す。
【0039】
磁石磁束推定部132は、モータ20に生じるd軸磁束と、モータ20のd軸インダクタンスと、モータ20に流れるd軸電流とに基づいてモータ20の磁石磁束を推定する。d軸インダクタンスは、d軸電流の時間変化とd軸電圧との関係を表す。例えば磁石磁束推定部132は、磁束推定部131により推定されたd軸磁束Φdと、一定のd軸インダクタンスLdと、電流情報取得部121により算出されたd軸電流Idとに基づいて、次式により磁石磁束Φを推定する。
Φ=Φd-Ld・Id・・・(3)
【0040】
上述したように、d軸磁束Φdは、補償後のdq座標系におけるd軸磁束を表す。d軸電流Idは、補償後のdq座標系におけるd軸電流を表す。このため、磁石磁束推定部132は、補償後のdq座標系におけるd軸磁束、d軸インダクタンス及びd軸電流に基づいて磁石磁束Φを推定していることとなる。
【0041】
q軸インダクタンス推定部133は、モータ20に生じるq軸磁束と、モータ20に流れるq軸電流とに基づいてモータ20のq軸インダクタンスを推定する。q軸インダクタンスは、q軸電流の時間変化とq軸電圧との関係を表す。例えばq軸インダクタンス推定部133は、磁束推定部131により推定されたq軸磁束Φqと、電流情報取得部121により算出されたq軸電流Iqとに基づいて、次式によりq軸インダクタンスLqを推定する。
Lq=Φq/Iq・・・(4)
【0042】
上述したように、q軸磁束Φqは、補償後のdq座標系におけるq軸磁束を表す。q軸電流Iqは、補償後のdq座標系におけるq軸電流を表す。このため、q軸インダクタンス推定部133は、補償後のdq座標系におけるq軸磁束及びq軸電流に基づいてq軸インダクタンスLqを推定していることとなる。
【0043】
駆動力推定部123は、磁石磁束推定部132による推定結果と、q軸インダクタンス推定部133による推定結果とに基づいてトルクTPを推定する。例えば駆動力推定部123は、電流情報取得部121により算出されたd軸電流Id及びq軸電流Iqと、磁石磁束推定部132による推定結果と、q軸インダクタンス推定部133による推定結果とに基づいてトルクTPを推定する。
【0044】
上述したように、d軸電流Id及びq軸電流Iqは、補償後のdq座標系におけるd軸電流及びq軸電流を表す。磁石磁束推定部132により推定された磁石磁束Φは、補償後のdq座標系における磁石磁束を表す。q軸インダクタンス推定部133により推定されたq軸インダクタンスLqは、補償後のdq座標系におけるq軸インダクタンスを表す。従って、駆動力推定部123は、補償後のdq座標系におけるd軸電流、q軸電流、磁石磁束及びq軸インダクタンスに基づいてトルクTPを推定していることとなる。
【0045】
駆動力推定部123は、磁石磁束推定部132による推定結果とq軸インダクタンス推定部133による推定結果に基づかない第1の推定方式と、磁石磁束推定部132による推定結果とq軸インダクタンス推定部133による推定結果とに基づく第2の推定方式とを併用してトルクTPを推定するように構成されていてもよい。例えば駆動力推定部123は、第1推定部135と、第2推定部136と、合算部137とを有する。
【0046】
第1推定部135は、上記第1の推定方式により第1のトルク推定値を算出する。例えば第1推定部135は、次式により第1のトルク推定値TPHを算出する。
TPH=(Vd・Id+Vq・Iq-R・Id2-R・Iq2)/ωe・・・(5)
【0047】
第2推定部136は、上記第2の推定方式により第2のトルク推定値を算出する。例えば第2推定部136は、次式により第2のトルク推定値TPLを算出する。
TPL=Φ・Iq+(Ld-Lq)・Id・Iq・・・(6)
【0048】
合算部137は、トルク推定値TPHとトルク推定値TPLとに基づいてトルクTPを算出する。例えば合算部137は、トルク推定値TPHとトルク推定値TPLとの重み付き平均値をトルクTPとして算出する。
【0049】
回転角速度ωeがゼロに近付くと、回転角速度ωeを分母として算出されるトルク推定値TPHの精度が低下する。このため、合算部137は、回転角速度ωeがゼロに近付くのに応じて、トルク推定値TPHの重みを徐々に小さくし、トルク推定値TPLの重みを徐々に大きくしてもよい。
【0050】
なお、以上においては、d軸インダクタンスLdを定数とし、モータ20の状態に応じて磁石磁束Φをリアルタイムに推定し、これらに基づきトルクTPを算出する例を示した。このようなトルクTPの推定方式は、磁石磁束Φの変動に比較してd軸インダクタンスLdの変動が相対的に小さいモータに有効である。このようなモータ20の具体例としては、IPMモータが挙げられる。
【0051】
モータ20のタイプによっては、磁石磁束Φの変動に比較してd軸インダクタンスLdの変動が相対的に大きい場合もある。例えば永久磁石を有しないシンクロナスリラクタンスモータにおいては、磁石磁束Φがゼロで不変であるが、d軸インダクタンスLdの変動が大きい。これに対応し得るように、制御回路100は、d軸インダクタンス推定部134を更に有してもよい。
【0052】
d軸インダクタンス推定部134は、モータ20に生じるd軸磁束と、モータ20に流れるd軸電流とに基づいてd軸インダクタンスを推定する。例えばd軸インダクタンス推定部134は、磁束推定部131により推定されたd軸磁束Φdと、一定の磁石磁束Φ(例えばゼロ)と、電流情報取得部121により算出されたd軸電流Idとに基づいて、次式によりd軸インダクタンスLdを推定する。
Ld=(Φd-Φ)/Id・・・(7)
【0053】
上述したように、d軸磁束Φdは、補償後のdq座標系におけるd軸磁束を表す。d軸電流Idは、補償後のdq座標系におけるd軸電流を表す。このため、d軸インダクタンス推定部134は、補償後のdq座標系におけるd軸磁束、磁石磁束及びd軸電流に基づいてd軸インダクタンスLdを推定していることとなる。
【0054】
d軸インダクタンス推定部134を更に有する構成によれば、磁石磁束推定部132が推定した磁石磁束Φに基づいて駆動力推定部123にトルクTPを推定させる推定モードと、d軸インダクタンス推定部134が推定したd軸インダクタンスLdに基づいて駆動力推定部123にトルクTPを推定させる推定モードとの選択が可能となる。この選択を行うための構成については、別途後述する。
【0055】
d軸インダクタンス推定部134により推定されたd軸インダクタンスLdは、補償後のdq座標系におけるd軸インダクタンスを表す。このため、d軸インダクタンス推定部134が推定したd軸インダクタンスLdに基づきトルクTPを推定する場合も、駆動力推定部123は、補償後のdq座標系における情報(d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸インダクタンスLd、及びq軸インダクタンスLq)に基づいてトルクTPを推定することとなる。
【0056】
q軸インダクタンス推定部133は、q軸磁束Φqとq軸電流Iqとに基づき推定されるq軸インダクタンスLqに対し、更にフィルタ処理を施してq軸インダクタンスLqを推定するように構成されていてもよい。例えばq軸インダクタンス推定部133は、
図3に示すように、ゲイン算出部141と、フィルタ142と、インダクタンス算出部143とを有する。
【0057】
ゲイン算出部141は、q軸磁束とq軸電流とに基づいて、q軸インダクタンスとq軸電流との関係を表すq軸インダクタンスゲインを算出する。例えばゲイン算出部141は、式(4)により算出されるq軸インダクタンスLqと、電流情報取得部121により算出されたq軸電流Iqとに基づいて、次式によりq軸インダクタンスゲインKLqを算出する。
KLq=(Lq-Lq0)/(|Iq|-Iq1)・・・(8)
Lq0:定数
Iq1:定数
【0058】
式(4)に示されるように、q軸インダクタンスLqは、磁束推定部131により推定されたq軸磁束Φqと、電流情報取得部121により算出されたq軸電流Iqとに基づいて算出される。このため、式(8)によりq軸インダクタンスゲインKLqを算出することは、q軸磁束Φqとq軸電流Iqとに基づいてq軸インダクタンスゲインKLqを算出することの一例である。
【0059】
フィルタ142は、例えばローパス型のデジタルフィルタリング処理により、q軸インダクタンスゲインKLqのノイズ成分を低減させる。インダクタンス算出部143は、フィルタ142を通過したq軸インダクタンスゲインKLqとq軸電流Iqとに基づいてq軸インダクタンスLqを算出する。例えばインダクタンス算出部143は、次式によりq軸インダクタンスLqを算出する。
Lq=KLq(|Iq|-Iq1)+Lq0・・・(9)
【0060】
d軸インダクタンス推定部134は、d軸磁束Φdとd軸電流Idとに基づき推定されるd軸インダクタンスLdに対し、更にフィルタ処理を施してd軸インダクタンスLdを推定するように構成されていてもよい。例えばd軸インダクタンス推定部134は、
図4に示すように、ゲイン算出部151と、フィルタ152と、インダクタンス算出部153とを有する。
【0061】
ゲイン算出部151は、d軸磁束とd軸電流とに基づいて、d軸インダクタンスとd軸電流との関係を表すd軸インダクタンスゲインを算出する。例えばゲイン算出部151は、式(7)により算出されるd軸インダクタンスLdと、電流情報取得部121により算出されたd軸電流Idとに基づいて、次式によりd軸インダクタンスゲインKLdを算出する。
KLd=(Ld-Ld0)/(|Id|-Id1)・・・(10)
Ld0:定数
Id1:定数
【0062】
フィルタ152は、例えばローパス型のデジタルフィルタリング処理により、d軸インダクタンスゲインKLdのノイズ成分を低減させる。インダクタンス算出部153は、フィルタ152を通過したd軸インダクタンスゲインKLdとd軸電流Idとに基づいてd軸インダクタンスLdを算出する。例えばインダクタンス算出部153は、次式によりd軸インダクタンスLdを算出する。
Ld=KLd(|Id|-Id1)+Ld0・・・(11)
【0063】
(軸ずれ推定部)
続いて、軸ずれ推定部125の構成をより詳細に例示する。軸ずれ推定部125は、モータ20に生じる磁束のベクトルと、モータ20に流れる電流のベクトルとの内積(以下、「無効力」という。)に基づいてdq座標系の角度誤差を推定する。磁束のベクトル及び電流のベクトルは、αβ座標系で表されていてもよいし、UVWの3相の座標系で表されていてもよい。例えば制御回路100は、
図5に示すように、無効力推定部161を更に有する。
【0064】
無効力推定部161は、モータ20に印加される電圧(例えばd軸電圧及びq軸電圧)と、電圧の印加に応じてモータ20に流れる電流(例えばd軸電流及びq軸電流)とに基づいて無効力を推定する。例えば無効力推定部161は、電圧補正部126により算出されたd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqと、電流情報取得部121により算出されたd軸電流Id及びq軸電流Iqとに基づいて無効力を推定する。例えば無効力推定部161は、第1推定部162と、第2推定部163と、合算部164とを有する。
【0065】
第1推定部162は、d軸電圧、q軸電圧、d軸電流、q軸電流及びモータ20の動作速度に基づいて無効力を推定する。例えば第1推定部162は、電圧補正部126により算出されたd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqと、電流情報取得部121により算出されたd軸電流Id及びq軸電流Iqと、モータ20の回転角速度ωeとに基づいて、次式により第1の無効力推定値TQHを算出する。
TQH=(Vd・Id-Vd・Iq)/ωe・・・(12)
【0066】
第2推定部163は、磁石磁束推定部132による推定結果、d軸電流、q軸電流、d軸インダクタンス及びq軸インダクタンスに基づいて無効力を推定する。例えば第2推定部163は、磁石磁束推定部132により推定された磁石磁束Φと、電流情報取得部121により算出されたd軸電流Id及びq軸電流Iqと、一定のd軸インダクタンスLdと、q軸インダクタンス推定部133により推定されたq軸インダクタンスLqとに基づいて、次式により第2の無効力推定値TQLを算出する。
TQL=Φ・Id+Ld・Id2+Lq・Iq2・・・(13)
【0067】
合算部164は、無効力推定値TQHと無効力推定値TQLとに基づいて無効力TQを算出する。例えば合算部164は、無効力推定値TQHと無効力推定値TQLとの重み付き平均値を無効力TQとして算出する。回転角速度ωeがゼロに近付くと、回転角速度ωeを分母として算出される無効力推定値TQHの精度が低下する。このため、合算部164は、回転角速度ωeがゼロに近付くのに応じて、無効力推定値TQHの重みを徐々に小さくし、無効力推定値TQLの重みを徐々に大きくしてもよい。
【0068】
なお、制御回路100が上述のd軸インダクタンス推定部134を更に有する構成によれば、磁石磁束推定部132が推定した磁石磁束Φに基づいて無効力推定部161に無効力TQを推定させる推定モードと、d軸インダクタンス推定部134が推定したd軸インダクタンスLdに基づいて無効力推定部161に無効力TQを推定させる推定モードとの選択が可能となる。この選択を行うための構成については、別途後述する。
【0069】
軸ずれ推定部125は、無効力推定部161による推定結果に基づいて角度誤差dθeを算出する。例えば軸ずれ推定部125は、第1推定部162による推定結果と、第2推定部163による推定結果とに基づいて角度誤差dθeを算出する。例えば軸ずれ推定部125は、合算部164により算出された無効力TQと、第2推定部163により算出された無効力推定値TQLとの差に基づいて角度誤差dθeを算出する。軸ずれ推定部125は、第1推定部162により算出された無効力推定値TQHと、第2推定部163により算出された無効力推定値TQLとの差に基づいて角度誤差dθeを算出してもよい。
【0070】
軸ずれ推定部125は、トルクTPに更に基づいて角度誤差dθeを算出してもよい。例えば軸ずれ推定部125は、第1補償値算出部165と、第2補償値算出部166とを有する。第1補償値算出部165は、無効力推定値TQHと無効力推定値TQLとに基づいて角度誤差dkθを算出する。例えば第1補償値算出部165は、無効力TQと無効力推定値TQLとの差に比例演算、比例・積分演算等を施して角度誤差dkθを算出する。第2補償値算出部166は、トルクTPに比例する係数を角度誤差dkθに乗算して角度誤差dθeを算出する。
【0071】
(推定方式の切り替え)
制御回路100は、モータ20の種別と、モータ20の動作状態とに基づいて、トルクTPの推定モードを変更するように構成されていてもよい。例えば
図6に示すように、制御回路100は、設定記憶部171と、モード選択部172と、補償切替部173とを有する。設定記憶部171は、モータ20の種別の設定値を記憶する。この設定値は、例えばユーザインタフェースにより取得される。
【0072】
モード選択部172は、設定記憶部171が記憶するモータ20の種別に基づいて、トルクTPの推定モードを変更する。例えばモード選択部172は、モータ20の種別に基づいて、磁石磁束推定部132に磁石磁束を推定させる推定モード(第1推定モード)と、d軸インダクタンス推定部134にd軸インダクタンスを推定させる推定モード(第2推定モード)とのいずれか一方を選択する。例えばモード選択部172は、モータ20がSPMモータである場合にはSPMモード(第1推定モード)を選択し、モータ20がIPMモータである場合にはIPMモード(第1推定モード)を選択し、モータ20がシンクロナスリラクタンスモータ(RMモータ)である場合にはRMモードを選択する。
【0073】
SPMモードは、磁石磁束推定部132に磁石磁束を推定させ、軸ずれ推定部125に角度誤差を推定させ、q軸インダクタンス推定部133にはq軸インダクタンスを推定させず、d軸インダクタンス推定部134にはd軸インダクタンスを推定させないモードである。モード選択部172がSPMモードを選択している場合、駆動力推定部123は、磁石磁束推定部132が推定した磁石磁束と、軸ずれ推定部125が推定した角度誤差とに基づいてトルクTPを推定する。無効力推定部161は、磁石磁束推定部132が推定した磁石磁束と、軸ずれ推定部125が推定した角度誤差とに基づいて無効力TQを推定する。
【0074】
IPMモードは、磁石磁束推定部132に磁石磁束を推定させ、軸ずれ推定部125に角度誤差を推定させ、q軸インダクタンス推定部133にq軸インダクタンスを推定させ、d軸インダクタンス推定部134にはd軸インダクタンスを推定させないモードである。モード選択部172がIPMモードを選択している場合、駆動力推定部123は、磁石磁束推定部132が推定した磁石磁束と、軸ずれ推定部125が推定した角度誤差と、q軸インダクタンス推定部133が推定したq軸インダクタンスとに基づいてトルクTPを推定する。無効力推定部161は、磁石磁束推定部132が推定した磁石磁束と、軸ずれ推定部125が推定した角度誤差と、q軸インダクタンス推定部133が推定したq軸インダクタンスとに基づいて無効力TQを推定する。
【0075】
RMモードは、磁石磁束推定部132には磁石磁束を推定させず、軸ずれ推定部125に角度誤差を推定させ、q軸インダクタンス推定部133にq軸インダクタンスを推定させ、d軸インダクタンス推定部134にd軸インダクタンスを推定させるモードである。モード選択部172がRMモードを選択している場合、駆動力推定部123は、軸ずれ推定部125が推定した角度誤差と、q軸インダクタンス推定部133が推定したq軸インダクタンスと、d軸インダクタンス推定部134が推定したd軸インダクタンスとに基づいてトルクTPを推定する。無効力推定部161は、軸ずれ推定部125が推定した角度誤差と、q軸インダクタンス推定部133が推定したq軸インダクタンスと、d軸インダクタンス推定部134が推定したd軸インダクタンスとに基づいて無効力TQを推定する。
【0076】
補償切替部173は、モータ20の状態に基づいて、磁石磁束推定部132による磁石磁束推定、軸ずれ推定部125による角度誤差推定、q軸インダクタンス推定部133によるq軸インダクタンス推定、及びd軸インダクタンス推定部134によるd軸インダクタンス推定のそれぞれの有効・無効を切り替える。有効とは、推定が継続されることを意味する。無効とは、推定が中断し、推定結果が一定値に保たれることを意味する。例えば補償切替部173は、モータ20の回転角速度ωeが所定の速度閾値を下回っている場合に、磁石磁束推定部132による磁石磁束の推定を無効にする。
【0077】
モード選択部172がSPMモードを選択している場合、補償切替部173は、磁石磁束推定部132による磁石磁束推定と、軸ずれ推定部125による角度誤差推定との有効・無効を切り替える。補償切替部173は、モータ20の回転角速度ωeが所定の速度閾値を下回っている場合に、磁石磁束推定部132による磁石磁束の推定を無効にする。これにより、磁石磁束推定部132は磁石磁束の推定を中断し、磁石磁束を一定にする。補償切替部173は、モータ20の回転角速度ωeが所定の速度閾値を下回っている場合に、第1補償値算出部165による角度誤差dkθの推定を無効にする。これにより、軸ずれ推定部125は角度誤差dkθの推定を中断し、角度誤差を一定にする。
【0078】
モード選択部172がIPMモードを選択している場合、補償切替部173は、磁石磁束推定部132による磁石磁束推定と、軸ずれ推定部125による角度誤差推定と、q軸インダクタンス推定部133によるq軸インダクタンス推定との有効・無効を切り替える。補償切替部173は、モータ20の回転角速度ωeが所定の速度閾値を下回っている場合に、磁石磁束推定部132による磁石磁束の推定を無効にする。これにより、磁石磁束推定部132は磁石磁束の推定を中断し、磁石磁束を一定にする。補償切替部173は、モータ20の回転角速度ωeが所定の速度閾値を下回っている場合に、第1補償値算出部165による角度誤差dkθの推定を無効にする。これにより、軸ずれ推定部125は角度誤差dkθの推定を中断し、角度誤差dkθを一定にする。補償切替部173は、トルクTPが所定のトルク閾値(力閾値)を下回っている場合に、q軸インダクタンス推定部133によるq軸インダクタンスの推定を無効にする。これにより、q軸インダクタンス推定部133はq軸インダクタンスの推定を中断し、q軸インダクタンスを一定にする。
【0079】
モード選択部172がRMモードを選択している場合、補償切替部173は、軸ずれ推定部125による角度誤差推定と、q軸インダクタンス推定部133によるq軸インダクタンス推定と、d軸インダクタンス推定部134によるd軸インダクタンス推定との有効・無効を切り替える。補償切替部173は、モータ20の回転角速度ωeが所定の速度閾値を下回っている場合に、第1補償値算出部165による角度誤差dkθの推定を無効にする。これにより、軸ずれ推定部125は角度誤差dkθの推定を中断し、角度誤差dkθを一定にする。補償切替部173は、トルクTPが所定のトルク閾値(力閾値)を下回っている場合に、q軸インダクタンス推定部133によるq軸インダクタンスの推定を無効にする。これにより、q軸インダクタンス推定部133はq軸インダクタンスの推定を中断し、q軸インダクタンスを一定にする。
【0080】
以上、制御回路100の機能上の構成を例示したが、各機能ブロックは制御回路100の構成要素であるため、各機能ブロックが実行する処理内容は、制御回路100が実行する処理内容に相当する。
【0081】
図7は、制御回路100のハードウェア構成を例示する模式図である。
図7に示すように、制御回路100は、一つ又は複数のプロセッサ191と、メモリ192と、ストレージ193と、入出力ポート194と、スイッチング制御回路195とを含む。ストレージ193は、例えば不揮発性の半導体メモリ等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。ストレージ193は、モータ20に生じるd軸磁束と、モータ20のd軸インダクタンスと、モータ20に流れるd軸電流とに基づいてモータ20の磁石磁束を推定することと、モータ20に生じるq軸磁束と、モータ20に流れるq軸電流とに基づいてモータ20のq軸インダクタンスを推定することと、磁石磁束の推定結果と、q軸インダクタンスの推定結果とに基づいてモータ20の駆動力を推定することと、駆動力の推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正することと、を含む電力変換方法を電力変換装置1に実行させるプログラムを記憶している。例えばストレージ193は、上述した各機能ブロックを制御回路100に構成させるためのプログラムを記憶している。
【0082】
メモリ192は、ストレージ193の記憶媒体からロードしたプログラム及びプロセッサ191による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ191は、メモリ192と協働して上記プログラムを実行することで、制御回路100の各機能ブロックを構成する。入出力ポート194は、プロセッサ191からの指令に従って、電流センサ14との間で電気信号の入出力を行う。スイッチング制御回路195は、プロセッサ191からの指令に従って、インバータ回路13内の複数のスイッチング素子15のオン、オフを切り替えることにより、上記駆動電力をモータ20へ出力する。
【0083】
なお、制御回路100は、必ずしもプログラムにより各機能を構成するものに限られない。例えば制御回路100は、専用の論理回路又はこれを集積したASIC(Application Specific Integrated Circuit)により少なくとも一部の機能を構成してもよい。
【0084】
〔電力変換手順〕
続いて、電力変換方法の一例として、制御回路100が実行する電力変換回路10の制御手順を例示する。この手順は、モータ20に生じるd軸磁束と、モータ20のd軸インダクタンスと、モータ20に流れるd軸電流とに基づいてモータ20の磁石磁束を推定することと、 モータ20に生じるq軸磁束と、モータ20に流れるq軸電流とに基づいてモータ20のq軸インダクタンスを推定することと、磁石磁束の推定結果と、q軸インダクタンスの推定結果とに基づいてモータ20の駆動力を推定することと、駆動力の推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正することと、を含む。以下、推定モード選択手順と、電圧制御手順とに分けて、制御手順を詳細に例示する。
【0085】
(推定モード選択手順)
図8に示すように、制御回路100は、まずステップS01を実行する。ステップS01では、設定記憶部171が記憶するモータ20の種別がSPMモータであるか否かをモード選択部172が確認する。ステップS01においてモータ20の種別がSPMモータでないと判定した場合、制御回路100はステップS02を実行する。ステップS02では、設定記憶部171が記憶するモータ20の種別がIPMモータであるか否かをモード選択部172が確認する。ステップS02においてモータ20の種別がIPMモータでないと判定した場合、制御回路100はステップS03を実行する。ステップS03では、設定記憶部171が記憶するモータ20の種別がRMモータであるか否かをモード選択部172が確認する。
【0086】
ステップS01においてモータ20の種別がSPMモータであると判定した場合、制御回路100はステップS04を実行する。ステップS04では、モード選択部172がSPMモードを選択する。ステップS02においてモータ20の種別がIPMモータであると判定した場合、制御回路100はステップS05を実行する。ステップS05では、モード選択部172がIPMモードを選択する。ステップS03においてモータ20の種別がRMモータであると判定した場合、制御回路100はステップS06を実行する。ステップS06では、モード選択部172がRMモードを選択する。ステップS03においてモータ20の種別がRMモータでないと判定した場合、制御回路100は、ステップS04,S05,S06のいずれも実行しない。以上でモード選択手順が完了する。
【0087】
(電圧制御手順)
図9に示すように、制御回路100は、まずステップS11,S12,S13,S14,S15を実行する。ステップS11では、駆動力推定部123がトルクTPの推定値を初期値(例えばゼロ)に設定する。また、電圧指令生成部112がd軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*を初期値(例えばゼロ)に設定する。ステップS12では、電流情報取得部121が、電流センサ14による検出結果を取得し、d軸電流Id及びq軸電流Iqを算出する。また、軸位置推定部122が、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*と、d軸電流Id及びq軸電流Iqとの関係に基づいて、dq座標系の回転角度θeを推定する。また、電圧補正部126が、回転角速度ωeと、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*とに基づいてd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqを算出する。
【0088】
ステップS13では、補償切替部173が、モータ20の状態(例えば回転角速度ωe及びトルクTP)に基づいて、磁石磁束推定部132による磁石磁束推定、軸ずれ推定部125による角度誤差推定、q軸インダクタンス推定部133によるq軸インダクタンス推定、及びd軸インダクタンス推定部134によるd軸インダクタンス推定のそれぞれの有効・無効を切り替える。具体的な切替手順は、上記推定モードによって異なる。ステップS13の手順については、推定モードごとに後述する。
【0089】
ステップS14では、磁束推定部131が、電圧補正部126により算出されたd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqと、電流情報取得部121により算出されたd軸電流Id及びq軸電流Iqとに基づいて、d軸磁束Φd及びq軸磁束Φqを算出する。ステップS15では、磁石磁束推定が有効とされているか否かを磁石磁束推定部132が確認する。
【0090】
ステップS15において磁石磁束推定が有効であると判定した場合、制御回路100はステップS16を実行する。ステップS16では、磁石磁束推定部132が、磁束推定部131により推定されたd軸磁束Φdと、一定のd軸インダクタンスLdと、電流情報取得部121により算出されたd軸電流Idとに基づいて、磁石磁束Φを推定する。
【0091】
次に、制御回路100は、ステップS17を実行する。ステップS15において磁石磁束推定が有効とされていないと判定した場合、制御回路100は、ステップS16を実行することなくステップS17を実行する。ステップS17では、q軸インダクタンス推定が有効とされているか否かをq軸インダクタンス推定部133が確認する。
【0092】
ステップS17においてq軸インダクタンス推定が有効とされていると判定した場合、制御回路100はステップS18を実行する。ステップS18では、q軸インダクタンス推定部133が、磁束推定部131により推定されたq軸磁束Φqと、電流情報取得部121により算出されたq軸電流Iqとに基づいて、q軸インダクタンスLqを推定する。
【0093】
次に、制御回路100は、ステップS21を実行する。ステップS17においてq軸インダクタンス推定が有効とされていないと判定した場合、制御回路100は、ステップS18を実行することなくステップS21を実行する。ステップS21では、d軸インダクタンス推定が有効とされているか否かをd軸インダクタンス推定部134が確認する。
【0094】
ステップS21においてd軸インダクタンス推定が有効とされていると判定した場合、制御回路100はステップS22を実行する。ステップS22では、d軸インダクタンス推定部134が、磁束推定部131により推定されたd軸磁束Φdと、一定の磁石磁束Φ(例えばゼロ)と、電流情報取得部121により算出されたd軸電流Idとに基づいて、d軸インダクタンスLdを推定する。
【0095】
次に、制御回路100は、ステップS23を実行する。ステップS21においてd軸インダクタンス推定が有効とされていないと判定した場合、制御回路100は、ステップS22を実行することなくステップS23を実行する。ステップS23では、駆動力推定部123が、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧Vd、q軸電圧Vq、回転角速度ωe、磁石磁束Φ、q軸インダクタンスLq、及びd軸インダクタンスLdに基づいて、トルクTPを推定する。
【0096】
次に、制御回路100は、ステップS24,S25を実行する。ステップS24では、無効力推定部161が、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧Vd、q軸電圧Vq、回転角速度ωe、磁石磁束Φ、q軸インダクタンスLq、及びd軸インダクタンスLdに基づいて、無効力TQを推定する。ステップS25では、角度誤差推定が有効とされているか否かを軸ずれ推定部125が確認する。
【0097】
ステップS25において角度誤差推定が有効とされていると判定した場合、制御回路100はステップS26を実行する。ステップS26では、第1補償値算出部165が、合算部164により算出された無効力TQと、第2推定部163により算出された無効力推定値TQLとの差に基づいて角度誤差dkθを算出する。
【0098】
次に、制御回路100はステップS27を実行する。ステップS25において角度誤差推定が有効とされていないと判定した場合、制御回路100は、ステップS26を実行することなくステップS27を実行する。ステップS27では、第2補償値算出部166が、トルクTPに比例する係数を角度誤差dkθに乗算して角度誤差dθeを算出する。
【0099】
次に、制御回路100は、S31,S32,S33,S34,S35を実行する。ステップS31では、駆動力補償部124が、駆動力推定部123により推定されたトルクTPとトルク指令T*との偏差を縮小するように、補正トルク指令T**を算出する。
【0100】
ステップS32では、電流指令生成部111が、補正トルク指令T**に基づいてd軸電流指令Id*及びq軸電流指令Iq*を算出する。ステップS33では、電圧指令生成部112が、d軸電流指令Id*とd軸電流Idとの偏差を縮小し、q軸電流指令Iq*とq軸電流Iqとの偏差を縮小するように、d軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*、d軸電流Id、及びq軸電流Iqに基づいてd軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*を算出する。
【0101】
ステップS34では、座標変換部113が、d軸電圧指令Vd*及びq軸電圧指令Vq*に対し、dq座標系からαβ座標系への座標変換と、2相から3相への変換とを施してu相電圧指令Vu*、v相電圧指令Vv*及びw相電圧指令Vw*を算出する。ステップS35では、PWM制御部114が、u相電圧指令Vu*、v相電圧指令Vv*、及びw相電圧指令Vw*に従った駆動電圧をモータ20に印加するように、インバータ回路13の複数のスイッチング素子15のオン・オフを切り替える。例えばPWM制御部114が、u相電圧指令Vu*、v相電圧指令Vv*、及びw相電圧指令Vw*に従った電圧パルスを相ごとに算出し、当該相ごとの電圧パルスを発生させるように複数のスイッチング素子15のオン・オフを切り替える。その後、制御回路100は処理をステップS12に戻す。以後、ステップS12以降の手順が繰り返される。なお、制御回路100は、dq座標系又はαβ座標系における電圧パルスを算出し、当該電圧パルスを上記相ごとの電圧パルスに変換してもよい。
【0102】
図10は、SPMモードが選択されている場合に、ステップS13で実行される手順を例示するフローチャートである。
図10に示すように、制御回路100は、まずステップS41,S42を実行する。ステップS41では、補償切替部173が、磁石磁束推定部132による磁石磁束推定と、軸ずれ推定部125による角度誤差推定と、q軸インダクタンス推定部133によるq軸インダクタンス推定と、d軸インダクタンス推定部134によるd軸インダクタンス推定と、の全てを無効にする。ステップS42では、回転角速度ωeが所定の速度閾値ω1を超えているかを補償切替部173が確認する。
【0103】
ステップS42において回転角速度ωeが速度閾値ω1を超えていると判定した場合、制御回路100はステップS43を実行する。ステップS43では、補償切替部173が、磁石磁束推定部132による磁石磁束推定を有効化する。次に、制御回路100はステップS44を実行する。ステップS44では、トルクTPが所定のトルク閾値T1を超えているかを補償切替部173が確認する。
【0104】
ステップS44においてトルクTPがトルク閾値T1を超えていると判定した場合、制御回路100はステップS45を実行する。ステップS45では、モータ20が速度センサレス(速度センサを有しない)か否かを補償切替部173が確認する。
【0105】
ステップS45においてモータ20が速度センサレスであると判定した場合、制御回路100はステップS46を実行する。ステップS46では、補償切替部173が、軸ずれ推定部125による角度誤差推定を有効化する。
【0106】
ステップS42において回転角速度ωeが速度閾値ω1を超えていないと判定した場合、制御回路100は、ステップS43,S46のいずれも実行しない。このため、磁石磁束推定、角度誤差推定、q軸インダクタンス推定、及びd軸インダクタンス推定の全てが無効に維持される。
【0107】
ステップS44においてトルクTPがトルク閾値T1を超えていないと判定した場合、又はステップS45においてモータ20が速度センサレスでないと判定した場合、制御回路100はステップS46を実行しない。このため、磁石磁束推定のみが有効化される。以上でSPMモードが選択されている場合の補償切替手順が完了する。
【0108】
図11は、IPMモードが選択されている場合に、ステップS13で実行される手順を例示するフローチャートである。
図11に示すように、制御回路100は、まずステップS51,S52を実行する。ステップS51では、補償切替部173が、磁石磁束推定部132による磁石磁束推定と、軸ずれ推定部125による角度誤差推定と、q軸インダクタンス推定部133によるq軸インダクタンス推定と、d軸インダクタンス推定部134によるd軸インダクタンス推定と、の全てを無効にする。ステップS52では、回転角速度ωeが所定の速度閾値ω1を超えているかを補償切替部173が確認する。
【0109】
ステップS52において回転角速度ωeが速度閾値ω1を超えていると判定した場合、制御回路100はステップS53を実行する。ステップS53では、補償切替部173が、磁石磁束推定部132による磁石磁束推定を有効化する。
【0110】
次に、制御回路100は、ステップS54を実行する。ステップS54では、トルクTPが所定のトルク閾値T1を超えているか否かを補償切替部173が確認する。
【0111】
ステップS54においてトルクTPがトルク閾値T1を超えていると判定した場合、制御回路100はステップS55を実行する。ステップS55では、モータ20が速度センサレスか否かを補償切替部173が確認する。
【0112】
ステップS55においてモータ20が速度センサレスでないと判定した場合、制御回路100はステップS56を実行する。ステップS56では、補償切替部173が、q軸インダクタンス推定部133によるq軸インダクタンス推定を有効化する。これにより、磁石磁束推定とq軸インダクタンス推定とが有効化された状態となる。
【0113】
ステップS55においてモータ20が速度センサレスであると判定した場合、制御回路100はステップS57を実行する。ステップS57では、補償切替部173が、軸ずれ推定部125による角度誤差推定を有効化する。
【0114】
次に、制御回路100はステップS61を実行する。ステップS61では、トルクTPが上記トルク閾値T1より大きい所定のトルク閾値T2未満であるか否かを補償切替部173が確認する。
【0115】
ステップS61においてトルクTPがトルク閾値T2未満であると判定した場合、制御回路100はステップS62を実行する。ステップS62では、回転角速度ωeが上記速度閾値ω1より大きい所定の速度閾値ω2未満であるか否かを補償切替部173が確認する。
【0116】
ステップS61においてトルクTPがトルク閾値T2未満でないと判定した場合、又はステップS62において回転角速度ωeが速度閾値ω2未満でないと判定した場合、制御回路100はステップS63を実行する。ステップS63では、補償切替部173が、磁石磁束推定部132による磁石磁束推定を無効化する。その後、制御回路100は、処理を上述のステップS56に進める。これにより、磁石磁束推定の代わりにq軸インダクタンス推定が有効化され、角度誤差推定とq軸インダクタンス推定とが有効化された状態となる。
【0117】
ステップS52において回転角速度ωeが速度閾値ω1を超えていないと判定した場合、制御回路100は、ステップS53,S56,S57,S63を実行しない。このため、磁石磁束推定、角度誤差推定、q軸インダクタンス推定、及びd軸インダクタンス推定の全てが無効に維持される。
【0118】
ステップS54においてトルクTPがトルク閾値T1を超えていないと判定した場合、制御回路100は、ステップS56,S57,S63を実行しない。このため、磁石磁束推定のみが有効化される。以上でIPMモードが選択されている場合の補償切替手順が完了する。
【0119】
図12は、RMモードが選択されている場合に、ステップS13で実行される手順を例示するフローチャートである。
図12に示すように、制御回路100は、まずステップS71,S72を実行する。ステップS71では、補償切替部173が、磁石磁束推定部132による磁石磁束推定と、軸ずれ推定部125による角度誤差推定と、q軸インダクタンス推定部133によるq軸インダクタンス推定と、d軸インダクタンス推定部134によるd軸インダクタンス推定と、の全てを無効にする。ステップS72では、回転角速度ωeが所定の速度閾値ω1を超えているかを補償切替部173が確認する。
【0120】
ステップS72において回転角速度ωeが速度閾値ω1を超えていると判定した場合、制御回路100はステップS73を実行する。ステップS73では、補償切替部173が、d軸インダクタンス推定部134によるd軸インダクタンス推定を有効化する。
【0121】
次に、制御回路100は、ステップS74を実行する。ステップS74では、トルクTPが所定のトルク閾値T1を超えているか否かを補償切替部173が確認する。
【0122】
ステップS74においてトルクTPがトルク閾値T1を超えていると判定した場合、制御回路100はステップS75を実行する。ステップS75では、モータ20が速度センサレスか否かを補償切替部173が確認する。
【0123】
ステップS75においてモータ20が速度センサレスでないと判定した場合、制御回路100はステップS76を実行する。ステップS76では、補償切替部173が、q軸インダクタンス推定部133によるq軸インダクタンス推定を有効化する。これにより、d軸インダクタンス推定とq軸インダクタンス推定とが有効化された状態となる。
【0124】
ステップS75においてモータ20が速度センサレスであると判定した場合、制御回路100はステップS77を実行する。ステップS77では、補償切替部173が、軸ずれ推定部125による角度誤差推定を有効化する。
【0125】
次に、制御回路100は、ステップS81を実行する。ステップS81では、トルクTPが上記トルク閾値T1より大きい所定のトルク閾値T2未満であるか否かを補償切替部173が確認する。ステップS81においてトルクTPがトルク閾値T2未満であると判定した場合、制御回路100はステップS82を実行する。ステップS82では、回転角速度ωeが上記速度閾値ω1より大きい所定の速度閾値ω2未満であるか否かを補償切替部173が確認する。
【0126】
ステップS81においてトルクTPがトルク閾値T2未満でないと判定した場合、又はステップS82において回転角速度ωeが速度閾値ω2未満でないと判定した場合、制御回路100はステップS83を実行する。ステップS83では、補償切替部173が、d軸インダクタンス推定部134によるd軸インダクタンス推定を無効化する。その後、制御回路100は、処理を上述のステップS76に進める。これにより、d軸インダクタンス推定の代わりにq軸インダクタンス推定が有効化され、角度誤差推定とq軸インダクタンス推定とが有効化された状態となる。
【0127】
ステップS72において回転角速度ωeが速度閾値ω1を超えていないと判定した場合、制御回路100は、ステップS73,S76,S77,S83を実行しない。このため、磁石磁束推定、角度誤差推定、q軸インダクタンス推定、及びd軸インダクタンス推定の全てが無効に維持される。
【0128】
ステップS74においてトルクTPがトルク閾値T1を超えていないと判定した場合、制御回路100は、ステップS76,S77,S83を実行しない。このため、d軸インダクタンス推定のみが有効化される。以上でRMモードが選択されている場合の補償切替手順が完了する。
【0129】
いずれの補償切替手順においても、推定対象は常に2種類以下に抑えられている。
これにより、d軸側の方程式、及びq軸側の方程式の2種類の方程式に基づく容易な推定が可能となっている。
【0130】
〔本実施形態の効果〕
以上に説明したように、電力変換装置1は、モータ20に生じるd軸磁束と、モータ20のd軸インダクタンスと、モータ20に流れるd軸電流とに基づいてモータ20の磁石磁束を推定する磁石磁束推定部132と、モータ20に生じるq軸磁束と、モータ20に流れるq軸電流とに基づいてモータ20のq軸インダクタンスを推定するq軸インダクタンス推定部133と、磁石磁束推定部132による推定結果と、q軸インダクタンス推定部133による推定結果とに基づいてモータ20の駆動力を推定する駆動力推定部123と、駆動力推定部123による推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令を補正する駆動力補償部124と、を備える。
【0131】
この電力変換装置1によれば、モータ20の状態によって変動しやすい磁石磁束と、q軸インダクタンスとが、モータ20の現在の状態に基づいて推定され、推定結果に基づいて駆動力が推定され、駆動力の推定結果を駆動力指令に追従させるように電流指令が補正される。従って、モータ20の駆動力制御の精度向上に有効である。
【0132】
q軸インダクタンス推定部133は、q軸磁束とq軸電流とに基づいて、q軸インダクタンスとq軸電流との関係を表すq軸インダクタンスゲインを算出するゲイン算出部141と、q軸インダクタンスゲインのノイズ成分を低減させるフィルタ142と、フィルタ142を通過したq軸インダクタンスゲインとq軸電流とに基づいてq軸インダクタンスを算出するインダクタンス算出部143と、を有していてもよい。この場合、q軸インダクタンスの推定感度と、q軸インダクタンスの推定結果におけるノイズ低減との両立を図ることができる。従って、モータ20の駆動力制御の更なる精度向上に有効である。
【0133】
電力変換装置1は、モータ20に印加されるd軸電圧及びq軸電圧と、d軸電圧及びq軸電圧の印加に応じてモータ20に流れるd軸電流及びq軸電流とに基づいてdq座標系の角度誤差を推定する軸ずれ推定部125を更に備え、駆動力推定部123は、dq座標系の角度誤差に更に基づいてモータ20の駆動力を推定してもよい。この場合、モータ20の現在の状態に基づいてdq座標系の角度誤差が算出され、角度誤差に更に基づいてモータ20の駆動力が推定される。従って、モータ20の駆動力制御の更なる精度向上に有効である。
【0134】
磁石磁束推定部132は、角度誤差に基づき補正されたdq座標系におけるd軸磁束、d軸インダクタンス及びd軸電流に基づいて磁石磁束を推定し、q軸インダクタンス推定部133は、角度誤差に基づき補正されたdq座標系におけるq軸磁束及びq軸電流に基づいてq軸インダクタンスを推定し、駆動力推定部123は、角度誤差に基づき補正されたdq座標系におけるd軸電流及びq軸電流と、磁石磁束推定部132による推定結果と、q軸インダクタンス推定部133による推定結果とに基づいて駆動力を推定してもよい。この場合、角度誤差に基づいて、磁石磁束の推定精度と、q軸インダクタンスの推定精度と、駆動力の推定精度とがそれぞれ向上する。従って、モータ20の駆動力制御の更なる精度向上に有効である。
【0135】
電力変換装置1は、d軸磁束及びq軸磁束を含む磁束ベクトルと、d軸電流及びq軸電流を含む電流ベクトルとの内積である無効力を、d軸電圧、q軸電圧、d軸電流、及びq軸電流に基づいて推定する無効力推定部161を更に備え、軸ずれ推定部125は、無効力推定部161による推定結果に基づいて角度誤差を算出してもよい。電流位相と、駆動力との変曲点は、通常の力行運転における電流位相の範囲内に位置する場合がある。電流位相の範囲内に変曲点が含まれる場合、角度誤差がプラス方向及びマイナス方向のいずれに生じているかの判定が難しくなる。これに対し、電流位相と、無効力との関係における変曲点は、通常の力行運転における電流位相の範囲外に位置する傾向がある。このため、無効力に基づくことによって、駆動力に基づくよりも容易に角度誤差を算出することができる。
【0136】
無効力推定部161は、d軸電圧、q軸電圧、d軸電流、q軸電流及びモータ20の動作速度に基づいて無効力を推定する第1推定部162と、磁石磁束推定部132による推定結果、d軸電流、q軸電流、d軸インダクタンス及びq軸インダクタンスに基づいて無効力を推定する第2推定部163と、を有し、軸ずれ推定部125は、第1推定部162による推定結果と第2推定部163による推定結果とに基づいて角度誤差を算出してもよい。角度誤差は、第1推定部162による推定結果に影響を及ぼし難く、第2推定部163による推定結果に影響を及ぼしやすい。このため、第1推定部162による推定結果と第2推定部163による推定結果との差は、角度誤差に相関する傾向がある。従って、第1推定部162による推定結果と第2推定部163による推定結果との差に基づくことによって、容易に角度誤差を算出することができる。
【0137】
電力変換装置1は、モータ20に印加されるd軸電圧及びq軸電圧と、d軸電圧及びq軸電圧の印加に応じてモータ20に流れるd軸電流及びq軸電流と、モータ20の動作速度とに基づいてd軸磁束及びq軸磁束を推定する磁束推定部131を更に備え、磁石磁束推定部132は、磁束推定部131により推定されたd軸磁束に基づいて磁石磁束を推定し、q軸インダクタンス推定部133は、磁束推定部131により推定されたq軸磁束に基づいてq軸インダクタンスを推定し、磁石磁束推定部132は、モータ20の動作速度が所定の速度閾値を下回っている場合に磁石磁束の推定を中断し、磁石磁束の推定結果を一定にしてもよい。モータ20の速度が小さくなるにつれて、d軸磁束及びq軸磁束の推定精度は低下する傾向がある。これに対し、磁束推定部131は、モータ20の動作速度が所定の速度閾値を下回っている場合にd軸磁束及びq軸磁束の推定を中断し、d軸磁束及びq軸磁束の推定結果を一定に保つ。これにより、モータ20の動作速度の低下に伴う駆動力の推定精度の低下が抑制される。
【0138】
軸ずれ推定部125は、モータ20の動作速度が所定の閾値を下回っている場合に角度誤差の推定を中断し、角度誤差を一定にしてもよい。モータ20の速度が小さくなるにつれて、角度誤差の精度は低下する傾向がある。これに対し、軸ずれ推定部125は、モータ20の動作速度が所定の速度閾値を下回っている場合に角度誤差の推定を中断し、角度誤差(dkθ)を一定にする。これにより、モータ20の動作速度の低下に伴う駆動力の推定精度の低下が抑制される。
【0139】
q軸インダクタンス推定部133は、駆動力推定部123による推定結果が所定の力閾値を下回っている場合には、q軸インダクタンスの推定を中断し、q軸インダクタンスの推定結果を一定にしてもよい。q軸電流が小さくなるにつれて、q軸インダクタンスの推定精度は低下する傾向がある。これに対し、磁束推定部131は、q軸電流が所定の電流閾値を下回っている場合にq軸インダクタンスの推定を中断し、q軸インダクタンスの推定結果を一定にする。これにより、q軸電流の低下に伴う駆動力の推定精度の低下が抑制される。
【0140】
電力変換装置1は、d軸磁束と、d軸電流とに基づいてd軸インダクタンスを推定するd軸インダクタンス推定部134と、モータ20の種別に基づいて、磁石磁束推定部132に磁石磁束を推定させる第1推定モードと、d軸インダクタンス推定部134にd軸インダクタンスを推定させる第2推定モードとのいずれか一方を選択するモード選択部172と、を更に備え、モード選択部172が第1推定モードを選択している場合に、駆動力推定部123は、磁石磁束推定部132による推定結果と、q軸インダクタンス推定部133による推定結果とに基づいてモータ20の駆動力を推定し、モード選択部172が第2推定モードを選択している場合に、駆動力推定部123は、d軸インダクタンス推定部134による推定結果と、q軸インダクタンス推定部133による推定結果とに基づいてモータ20の駆動力を推定してもよい。モータ20の状態に応じた磁石磁束の変動の生じ易さは、モータ20の種別によって異なる。また、磁石磁束の変動が生じ易いモータ20においてはd軸インダクタンスの変動が生じ難く、磁石磁束の変動が生じ難いモータ20においてはd軸インダクタンスの変動が生じ易い傾向がある。従って、モータ20の種別に基づいて上記第1推定モードと第2推定モードとを切り替えることによって、モータ20の種別ごとに駆動力の推定精度を更に向上させることができる。
【0141】
モード選択部172は、モータ20がリラクタンスモータである場合に、第2推定モードを選択してもよい。この場合、第1推定モードと第2推定モードとの切替をより適切に行うことができる。
【0142】
d軸インダクタンス推定部134は、d軸磁束とd軸電流とに基づいて、d軸インダクタンスとd軸電流との関係を表すd軸インダクタンスゲインを算出するゲイン算出部151と、d軸インダクタンスゲインのノイズ成分を低減させるフィルタ152と、フィルタを通過したd軸インダクタンスゲインとd軸電流とに基づいてd軸インダクタンスを算出するインダクタンス算出部153と、を有していてもよい。この場合、d軸インダクタンスの推定感度と、d軸インダクタンスの推定結果におけるノイズ低減との両立を図ることができる。従って、モータ20の駆動力制御の更なる精度向上に有効である。
【0143】
以上、実施形態について説明したが、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0144】
1…電力変換装置、20…モータ(電動機)、123…駆動力推定部、124…駆動力補償部、125…軸ずれ推定部、131…磁束推定部、132…磁石磁束推定部、133…q軸インダクタンス推定部、134…d軸インダクタンス推定部、135,162…第1推定部、136,163…第2推定部、141,151…ゲイン算出部、142,152…フィルタ、143,153…インダクタンス算出部、161…無効力推定部、172…モード選択部。