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特許7529482面材の変形測定方法、変形測定装置および挙動評価方法
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  • 特許-面材の変形測定方法、変形測定装置および挙動評価方法 図1
  • 特許-面材の変形測定方法、変形測定装置および挙動評価方法 図2
  • 特許-面材の変形測定方法、変形測定装置および挙動評価方法 図3
  • 特許-面材の変形測定方法、変形測定装置および挙動評価方法 図4
  • 特許-面材の変形測定方法、変形測定装置および挙動評価方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】面材の変形測定方法、変形測定装置および挙動評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/16 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
G01B11/16 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020138260
(22)【出願日】2020-08-18
(65)【公開番号】P2022034465
(43)【公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-06-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2020年度日本建築学会大会学術講演梗概集、第575頁~第578頁、日本建築学会 発行日 令和2年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 慎
(72)【発明者】
【氏名】松尾 隆士
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-204468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強制的にねじり変形を加えて施工される曲面状の外装壁である面材の縁端部の変形を測定する方法であって、前記面材の縁端部の小口の測定対象位置にターゲットマーカを設置するとともに、前記ターゲットマーカから離れた位置に前記ターゲットマーカの移動を検出するためのモーションキャプチャ装置を設置するステップと、前記面材を面外方向に変形させた際の前記ターゲットマーカの移動を前記モーションキャプチャ装置で検出し、検出結果に基づいて、前記面材の縁端部の変形を測定するステップとを有することを特徴とする面材の変形測定方法。
【請求項2】
強制的にねじり変形を加えて施工される曲面状の外装壁である面材の縁端部の変形を測定する装置であって、前記面材の縁端部の小口の測定対象位置に設置されるターゲットマーカと、前記ターゲットマーカから離れた位置に設置されるとともに前記ターゲットマーカの移動を検出するモーションキャプチャ装置と、前記モーションキャプチャ装置による検出結果に基づいて、前記面材の縁端部の変形を測定する変形測定手段とを有することを特徴とする面材の変形測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の面材の変形測定方法を用いて、前記面材の挙動を評価する方法であって、
前記面材を面外方向に変形させた際の前記面材の縁端部の変形を測定するステップと、測定結果と、前記面材を模擬したモデルに対する数値解析によるシミュレーション結果とを比較するステップと、比較結果に基づいて、前記面材の挙動を評価するステップとを有することを特徴とする面材の挙動評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁面材などの面材の変形測定方法、変形測定装置および挙動評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、カーテンウォールユニットの性能試験方法として、接触式変位計を用いて静的な変位の測定および分析を行う方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
一方、カーテンウォールユニットを強制的に変形させ、ねじることで、曲面状の外装壁を形成する外装工法(コールドベント工法)が知られている。このコールドベント工法では、カーテンウォールユニットを構成するアルミ枠およびガラスに強制変形に伴う応力が発生するため、施工の際には、アルミ枠やガラスの変形性状と発生応力を予測・管理する必要がある。特に、複層ガラスの場合には、封着部に変形が生じるため、その変形性状について慎重に検討する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-128216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コールドベント工法においてはガラスの引き込み時にその縁端部の挙動を測定する必要がある。しかし、このガラスの縁端部は非常に狭い部分であることから接触式変位計の設置が難しいという問題があった。また、精度確保が難しく、変位計の設置を省略せざるを得ないことが多いという問題があった。このため、接触しない方法によって縁端部の挙動を精密に測定できる技術が求められていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、非接触で面材の縁端部の挙動を精密に測定することができる面材の変形測定方法、変形測定装置および挙動評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る面材の変形測定方法は、面材の縁端部の変形を測定する方法であって、面材の縁端部の小口の測定対象位置にターゲットマーカを設置するとともに、ターゲットマーカから離れた位置にターゲットマーカの移動を検出するためのモーションキャプチャ装置を設置するステップと、面材を面外方向に変形させた際のターゲットマーカの移動をモーションキャプチャ装置で検出し、検出結果に基づいて、面材の縁端部の変形を測定するステップとを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る面材の変形測定装置は、面材の縁端部の変形を測定する装置であって、面材の縁端部の小口の測定対象位置に設置されるターゲットマーカと、ターゲットマーカから離れた位置に設置されるとともにターゲットマーカの移動を検出するモーションキャプチャ装置と、モーションキャプチャ装置による検出結果に基づいて、面材の縁端部の変形を測定する変形測定手段とを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る面材の挙動評価方法は、上述した面材の変形測定方法を用いて、面材の挙動を評価する方法であって、面材を面外方向に変形させた際の面材の縁端部の変形を測定するステップと、測定結果と、面材を模擬したモデルに対する数値解析によるシミュレーション結果とを比較するステップと、比較結果に基づいて、面材の挙動を評価するステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る面材の変形測定方法によれば、面材の縁端部の変形を測定する方法であって、面材の縁端部の小口の測定対象位置にターゲットマーカを設置するとともに、ターゲットマーカから離れた位置にターゲットマーカの移動を検出するためのモーションキャプチャ装置を設置するステップと、面材を面外方向に変形させた際のターゲットマーカの移動をモーションキャプチャ装置で検出し、検出結果に基づいて、面材の縁端部の変形を測定するステップとを有するので、非接触で面材の縁端部の挙動を精密に測定することができるという効果を奏する。
【0011】
また、本発明に係る面材の変形測定装置によれば、面材の縁端部の変形を測定する装置であって、面材の縁端部の小口の測定対象位置に設置されるターゲットマーカと、ターゲットマーカから離れた位置に設置されるとともにターゲットマーカの移動を検出するモーションキャプチャ装置と、モーションキャプチャ装置による検出結果に基づいて、面材の縁端部の変形を測定する変形測定手段とを有するので、非接触で面材の縁端部の挙動を精密に測定することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る面材の挙動評価方法によれば、上述した面材の変形測定方法を用いて、面材の挙動を評価する方法であって、面材を面外方向に変形させた際の面材の縁端部の変形を測定するステップと、測定結果と、面材を模擬したモデルに対する数値解析によるシミュレーション結果とを比較するステップと、比較結果に基づいて、面材の挙動を評価するステップとを有するので、面材の縁端部の挙動を精密に評価することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明に係る面材の変形測定方法、変形測定装置および挙動評価方法の実施の形態に用いる試験体の要部断面図である。
図2図2は、加力試験時または加力シミュレーション時の試験体の概略斜視図である。
図3図3は、ガラス応力測定点の一例を示す正面図であり、(1)は外側ガラス面、(2)は内側ガラス面である。
図4図4は、ガラス主応力解析結果の一例を示す図であり、(1)は合わせガラス外側ガラス面、(2)は合わせガラス内側ガラス面、(3)は複層ガラス外側ガラス面、(4)は複層ガラス内側ガラス面である。
図5図5は、最大・最小主応力の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る面材の変形測定方法、変形測定装置および挙動評価方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
(面材の変形測定方法および変形測定装置)
まず、本発明に係る面材の変形測定方法および変形測定装置の実施の形態について、コールドベント工法におけるカーテンウォールユニットの実大試験体による施工実験に適用する場合を例にとり説明する。なお、この施工実験では、コールドベント工法の中で最も単純な変形性状となるSingle Corner Cold-Bending(隅角部一点を変形させる工法)を対象とするものとする。
【0016】
試験体には、インターロッキング方式の長方形板状のアルミカーテンウォールを用いた。このアルミカーテンウォールは、長方形枠状のアルミ枠と、アルミ枠に嵌め込まれるガラスと、ガラスの周縁部とアルミ枠の間の隙間を封着する封着材とにより構成される。本実施の形態では、ガラス寸法は幅1800mm×高さ2800mmとし、合わせガラス(HS10mm+PVB1.52mm+HS10mm)と複層ガラス(HS12mm+A16mm+HS12mm)の2種類を試験体とした。なお、HSは倍強度ガラス、PVBは中間膜、Aは空気層である。封着材はグレージングシールを有し、複層ガラスの場合は複層ガラスの構造を保つための封着シールをさらに有するものとした。
【0017】
図1に、試験体の一例として複層ガラスの試験体の縁端部の平断面を示す。この図に示すように、この試験体10は、アルミ枠12と、複層ガラス14と、封着材16とにより構成される。
【0018】
図2に示すように、この試験体10の短辺方向を水平方向(X軸方向)、長辺方向を鉛直方向(Y軸方向)にして鉄骨架台18上に設置し、下側の短辺(下枠)と左側の長辺(左枠)を鉄骨架台18に固定した。そして、試験体10の右上隅角部に加力プレートを取り付けて加力点とし、反力壁からチェーンブロックを用いて面外方向(Z軸方向)に加力を行った。加力点には、ロードセルおよび変位計を取付けた。
【0019】
ガラス表面に発生するひずみは3軸ひずみゲージを用いて計測した。外側ガラス面の変形は3Dスキャナで計測し、内側ガラス面の変形はモーションキャプチャ装置を利用した計測データから線形近似して算出した。外側ガラス表面には3Dスキャナの計測用のフィルムを張り付けた。図1に示すように、モーションキャプチャ用のターゲットマーカ20は内側ガラス面にグリッド状(グリッド間隔450mm)に設置した。複層ガラス封着部の変形については、ターゲットマーカ20を複層ガラス14の外側ガラスの縁端部の小口22と、内側ガラスの縁端部の小口22にそれぞれ取り付けることで封着部に生じる変位を測定した。
【0020】
また、試験体10の周囲に、本実施の形態の面材の変形測定装置を設置した。この変形測定装置は、試験体10に設置されるターゲットマーカ20と、モーションキャプチャ用の図示しないカメラ群と、データロガーと、モーションキャプチャ装置と、変形測定手段とを含んで構成される。カメラ群は、ターゲットマーカ20の画像を取得し、取得した画像は図外のデータロガーを介してモーションキャプチャ装置に送られる。モーションキャプチャ装置は、取得した画像に基づいてターゲットマーカ20の移動を検出する。変形測定手段は、この検出結果に基づいて、ターゲットマーカ20を設置した箇所の変形を測定し、測定結果を計測データとして出力する。このようにすれば、ガラスに接触せずに測定部位の変形状況を精密に測定することができる。
【0021】
上記の試験体10、ひずみゲージ、ターゲットマーカ20、カメラ群、モーションキャプチャ装置を設置した後、所定の加力ステップごと(例えば加力点のZ方向変位50mmごと)に試験体10に強制変形を与え、各ステップにおいて3Dスキャナによりガラス変形を測定した。ひずみゲージ、モーションキャプチャ装置による測定に関しては実験中連続測定を行った。
【0022】
なお、この実験によって、合わせガラスと複層ガラスの変形性状を比較した結果、上記の条件下では、ガラス面としての変形性状は合わせガラスと複層ガラスでほぼ同様なものとして扱えることがわかった。また、Z方向変位(面外方向変位)に比例して複層ガラス封着部のせん断変位が増加することがわかった。
【0023】
(面材の挙動評価方法)
次に、本発明に係る面材の挙動評価方法の実施の形態について説明する。
本実施の形態では、上記の非接触式のモーションキャプチャ装置を用いたガラスの非接触式変形測定方法と、有限要素解析などを用いた数値シミュレーションを利用して、ガラスの挙動を評価する。
【0024】
具体的には、まず、試験体の形状寸法等を設定し、試験体を模擬したシミュレーションモデルを作製する。続いて、このモデルに対する数値解析シミュレーションを実施する。このシミュレーション結果に基づいてコールドベント量を設定する。
【0025】
次に、設定したコールドベント量を用いて実大試験体の施工実験を実施する。この施工実験におけるガラス変形の測定に、上記の面材の変形測定方法、変形測定装置を使用する。より具体的には、試験体のガラス面と、ガラスの小口にターゲットマーカ20を設置し、その周囲にカメラ群を設置した後、加力試験を行い、ガラス引き込み時およびその後の変形を測定する。その後、変形測定結果と、シミュレーション結果とを比較し、この比較結果に基づいて、ガラスの挙動を評価する。このようにすれば、ガラスの縁端部の挙動を精密に評価することができる。
【0026】
上記の数値解析シミュレーションの実施例について説明する。
シミュレーションモデルは、アルミ枠とガラスとグレージングシールと複層ガラス封着シールを要素として構成し、左枠と下枠の2辺支持を境界条件として加力点を引き込む挙動を節点強制変位で再現した。図2に示すように、アルミ枠は線要素、ガラスはシェル要素、アルミとガラスをつなぐグレージングシールはバネ要素でモデル化した。複層ガラス封着シールはリンク要素として離れた節点同士の変位が同期するように設定した。そして汎用FEMプログラムを利用して、数値解析シミュレーションを行った。
【0027】
図3に、ガラス面に設定した応力測定点の位置と番号を示す。図4に、加力点をZ方向に200mm変位させた場合のガラスの主応力解析結果を示す。図5に、ガラスの最大・最小主応力をシミュレーションによる解析値と、上記の施工実験で測定したひずみから求めた測定値とで比較した結果を示す。なお、本実施例では、解析値と測定値とでガラス主応力の発生傾向が近似していることがわかる。また、いずれのガラスも解析値の方が上回っているため、設定したシミュレーションモデルは安全側といえる。このように、解析値と測定値とを比較することで、ガラスの縁端部の挙動を精密に評価することができる。
【0028】
上記の実施の形態においては、面材がカーテンウォールユニットの複層ガラスである場合を例にとり説明したが、本発明の面材はこれに限るものではなく、面状の材料であればいかなる材料でもよい。例えば、建物の外壁を構成する壁面状の外装材であってもよい。このようにしても上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0029】
以上説明したように、本発明に係る面材の変形測定方法によれば、面材の縁端部の変形を測定する方法であって、面材の縁端部の小口の測定対象位置にターゲットマーカを設置するとともに、ターゲットマーカから離れた位置にターゲットマーカの移動を検出するためのモーションキャプチャ装置を設置するステップと、面材を面外方向に変形させた際のターゲットマーカの移動をモーションキャプチャ装置で検出し、検出結果に基づいて、面材の縁端部の変形を測定するステップとを有するので、非接触で面材の縁端部の挙動を精密に測定することができる。
【0030】
また、本発明に係る面材の変形測定装置によれば、面材の縁端部の変形を測定する装置であって、面材の縁端部の小口の測定対象位置に設置されるターゲットマーカと、ターゲットマーカから離れた位置に設置されるとともにターゲットマーカの移動を検出するモーションキャプチャ装置と、モーションキャプチャ装置による検出結果に基づいて、面材の縁端部の変形を測定する変形測定手段とを有するので、非接触で面材の縁端部の挙動を精密に測定することができる。
【0031】
また、本発明に係る面材の挙動評価方法によれば、上述した面材の変形測定方法を用いて、面材の挙動を評価する方法であって、面材を面外方向に変形させた際の面材の縁端部の変形を測定するステップと、測定結果と、面材を模擬したモデルに対する数値解析によるシミュレーション結果とを比較するステップと、比較結果に基づいて、面材の挙動を評価するステップとを有するので、面材の縁端部の挙動を精密に評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明に係る面材の変形測定方法、変形測定装置および挙動評価方法は、カーテンウォールユニットなどの外壁面材の縁端部の挙動の測定に有用であり、特に、非接触で縁端部の挙動を精密に測定するのに適している。
【符号の説明】
【0033】
10 試験体
12 アルミ枠
14 複層ガラス(面材)
16 封着材
18 鉄骨架台
20 ターゲットマーカ
22 小口
図1
図2
図3
図4
図5