(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】非発酵ビールテイスト飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/06 20060101AFI20240730BHJP
A23L 2/56 20060101ALI20240730BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C12G3/06
A23L2/56
A23L2/00 B
(21)【出願番号】P 2020149309
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】野場 重都
(72)【発明者】
【氏名】本間 大樹
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-148021(JP,A)
【文献】特開2017-29040(JP,A)
【文献】国際公開第2016/146430(WO,A1)
【文献】特表2010-538636(JP,A)
【文献】特許第6811352(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00- 3/08
A23L 2/00- 2/84
C12C 1/00-13/10
C11B 9/00- 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物及び甘味料を含み、
甘味度が3.0~15.0であり、
前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が0.1μg/l以上である、非発酵ビールテイスト飲料。
【請求項2】
前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が200.0μg/l以下である、請求項1に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
【請求項3】
前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が0.5μg/l以上である、請求項1または2に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
【請求項4】
原料として麦芽を含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
【請求項5】
甘味度が10.0以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
【請求項6】
前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物は、添加された香料に由来するものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の非発酵ビールテイスト飲料。
【請求項7】
甘味料を含み、甘味度3.0~15.0の非発酵ビールテイスト飲料に、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を、その濃度が0.1μg/l以上になる量で添加する工程を包含する、非発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項8】
甘味料を含み、甘味度3.0~15.0の非発酵ビールテイスト飲料に、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を、その濃度が0.1μg/l以上になる量で添加する工程を包含する、非発酵ビールテイスト飲料のボディ感を強化し、飲用後に残る甘味を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非発酵ビールテイスト飲料に関し、特にボディ感が強化された非発酵ビールテイスト飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
非発酵ビールテイスト飲料は、ベースとなる飲用液体に、ビールに含まれる香気成分等を含んで構成されるビール香料やホップ香料を含有させることによりビールらしい風味及び味質に仕上げた飲料である。非発酵ビールテイスト飲料は、アルコール含量が1容量%以上であるアルコール飲料であってよく、アルコール含量が1容量%未満であるいわゆるノンアルコール飲料又は低アルコール飲料であってもよい。
【0003】
非発酵ビールテイスト飲料の製造には発酵工程を必要とせず、発酵装置を必要としない。そのため、非発酵ビールテイスト飲料は低コストで大量生産するのに適している。しかしながら、どのような成分をどれくらいの量で配合すればビールらしい香味を再現できるのかは未だ明確でなく、研究開発の途上である。
【0004】
特許文献1には、実施例1として、ビールに含まれる主要香気成分を分析し、その一つとして、2-アセチル-1-ピロリンを同定したことが記載されている。そして、2-アセチル-1-ピロリンは、ビール様飲料に添加した場合、ナッツ、ポップコーンの香気、ビールらしさを増強したことが記載されている。
【0005】
特許文献2には、2-アセチル-2-チアゾリンを含むビール様飲料用風味改善剤が記載されている。実施例1において、2-アセチル-1-ピロリンは、ビール様飲料に添加した場合、酸味低下、穀物香、ナッツの香気、ビールらしさを増強したことが記載されている。
【0006】
非特許文献1に関しては、まず、記載を抜粋し、その後、説明する。
第391頁、下から第15~13行、要約
「GC-MSの技術を使用して、淡色麦芽及び濃色麦芽中のパンのような芳香特性及び非常に低い風味閾値をする数種類の化合物を初めて同定した。」。
【0007】
第393頁、第6~17行、序文
「麦芽を焙燥するかまたは麦汁を煮沸する場合、・・・[中略]・・・今までにまだ知られていない焙煎したような、ポップコーンのような、パンのような芳香を有する化合物が生じる。パンのような芳香特性を有する香気物質は、ビールにとって中心的な重要性がある。この香気物質は麦芽中の芳香の主成分であるが、この香気物質は、加熱殺菌された、高温環境で貯蔵した及び劣化したビールにおける悪い芳香の原因となることがある。」
【0008】
第401頁、第12~24行、ビール中のパンのような芳香成分の特性決定
「パンのような悪い芳香成分は、特に、ビールに熱負荷をかけるかまたはビールを不適切に輸送しかつ貯蔵した場合に検出される。高すぎる温度及び長すぎる作用時間での加熱殺菌の場合に、特に際立った「オフフレーバー」の印象が感じられる。
図11は、典型的なパンのような悪い芳香を示す「過剰加熱殺菌された」ビールのガスクロマトグラムを示す。特性決定されたプロリン誘導体とほとんど同等の保持時間を示す、官能特性を有するいくつかのクロマトグラム部分が生じることが認められる。分取GC、キャピラリー-GC-NSD及びキャピラリー-GC-MSを用いて、4種の2-アセチルテトラヒドロピリジンを示準成分として特性決定することができた。」
【0009】
図1に、非特許文献1の
図11である、典型的なパンのような悪い芳香を示す「過剰加熱殺菌された」ビールのガスクロマトグラムを示す。尚、ここでいう加熱殺菌の条件は、80℃で0.5~20時間である(第393頁、下から第19~18行)。このように高温で長時間加熱した場合、ビールは熱劣化する。
【0010】
非特許文献1には、要するに、(1)麦芽を加熱した場合に、ポップコーンのような、パンのような芳香を有する化合物が生じること、(2)上記芳香は、熱負荷をかけたために劣化したビールに感じられる「オフフレーバー」、即ち、異臭であること、及び(3)上記オフフレーバーの分析結果を
図11のガスクロマトグラムに示すこと、が記載されている。
【0011】
ここに
図1として示すが、非特許文献1の
図11には、オフフレーバーの分析結果として、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及び2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジン等が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】WO2014/119065号
【文献】特開2016-86792号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】R. Tressl et al., "Bildung von Verbindungen mit brotigem Aromacharakter in Malz und Bier", EBC Congress 1981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
非発酵ビールテイスト飲料では、発酵過程で生成する成分の種類及び組成が完全には再現されず、発酵ビールテイスト飲料に比べて、ボディ感が弱くなる問題がある。ボディ感とは、飲用者に「濃厚感」又は「重厚感」を伴う飲用感覚を与える性質をいう。ボディ感は、「コク」、「深み」または「厚み」等とも表現される味質を含む飲用感覚である。
【0015】
飲食物のコクは、一般に、甘味を増大させることで強化することができる。非発酵ビールテイスト飲料の製造には、従来から、例えば、甘味料が使用され、そのことで、一定程度のボディ感が付与されている。但し、ボディ感の強弱等の飲用感覚は、味覚だけでなく、嗅覚及び触覚等他の官能の作用に依存して変化するものである。
【0016】
一方で、甘味料を使用して非発酵ビールテイスト飲料のボディ感を増強した場合、その甘味も強くなり、飲用後に甘味が残存するようになり、ビールに特有なキレ感に悪影響を与える問題がある。
【0017】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的とするところは、十分なボディ感を有しながら、飲料後に残る甘味が抑制された非発酵ビールテイスト飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物及び甘味料を含み、
甘味度が3.0~15.0であり、
前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が0.1μg/l以上である、非発酵ビールテイスト飲料を提供する。
【0019】
ある一形態においては、前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が200.0μg/l以下である。
【0020】
ある一形態においては、前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物の濃度が0.5μg/l以上である。
【0021】
ある一形態においては、前記非発酵ビールテイスト飲料は、原料として麦芽を含まない。
【0022】
ある一形態においては、前記非発酵ビールテイスト飲料は、甘味度が10.0以下である。
【0023】
ある一形態においては、前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物は、添加された香料に由来するものである。
【0024】
また、本発明は、甘味料を含み、甘味度3.0~15.0の非発酵ビールテイスト飲料に、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を、その濃度が0.1μg/l以上になる量で添加する工程を包含する、非発酵ビールテイスト飲料の製造方法を提供する。
【0025】
また、本発明は、甘味料を含み、甘味度3.0~15.0の非発酵ビールテイスト飲料に、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を、その濃度が0.1μg/l以上になる量で添加する工程を包含する、非発酵ビールテイスト飲料のボディ感を強化し、飲用後に残る甘味を抑制する方法を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、十分なボディ感を有しながら、飲料後に残る甘味が抑制された非発酵ビールテイスト飲料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】非特許文献1の
図11である、典型的なパンのような悪い芳香を示す「過剰加熱殺菌された」ビールのガスクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<甘味料>
本発明の非発酵ビールテイスト飲料に含まれる甘味料は、食品に甘味を付ける目的で使用される調味料である。甘味料には、天然甘味料及び人工甘味料が含まれる。甘味料の具体例には、例えば、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、ショ糖、オリゴ糖、砂糖、蜂蜜、メープルシロップ、アガベシロップ、パームシュガー、モラセス、水飴、ブドウ糖果糖液糖、ステビア、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、羅漢果抽出物、トレハロース、マルチトール、パラチノース、ソーマチン、グリセリン、クルクリン、モネリン、モナチン、エリトリトール、ヘルナンドゥルシン、アスパルテーム、ネオテーム、アラニン、グリシン、アドバンテーム、アセスルファムK、スクラロース及びサッカリンなどが挙げられる。ショ糖、ステビア、アセスルファムKは、非発酵ビールテイスト飲料等の飲料によく用いられ、本発明においても好ましく用いることができる。また、グリシンは、甘味を示すアミノ酸であるが、睡眠の質を高める効果や抗菌作用を有し、好ましく用いることができる。
【0029】
非発酵ビールテイスト飲料に甘味料を含ませることで、非発酵ビールテイスト飲料のコクが強化され、ボディ感が付与される。甘味料は、非発酵ビールテイスト飲料の甘味度が3.0~15.0になる量で含有させる。非発酵ビールテイスト飲料の甘味度が3.0未満であると、ボディ感が不十分になり、15.0を超えると飲用後に残る甘味が強くなる。非発酵ビールテイスト飲料の甘味度は、好ましくは4.0~10.0であり、より好ましくは5.0~8.0である。
【0030】
甘味度とは、甘味の強さを示す尺度である。スクロースが標準物質として使用され、任意の濃度のスクロースと同等の甘味強度を示す濃度の比率あるいは同条件で求めたスクロースの閾値との比率から判定される。飲料の甘味度は、当該飲料に含まれる各甘味物質の濃度(mg/l)と甘味度の積の総和として求められる。
【0031】
その際、スクロースの甘味度を1とし、各甘味物質の甘味度は、公知の値(前橋健二:甘味の基礎知識、日本醸造協会誌(2011)、第106巻 第12号、p818-825、マクマリー有機化学(第7版)988頁、精糖工業会「甘味料の総覧」砂糖のあれこれ、など)を使用することができる。甘味物質の甘味度の例を表1に示す。
【0032】
【0033】
<2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物>
本発明の非発酵ビールテイスト飲料に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物、即ち、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及び2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンは、香気成分である。それゆえ、これらを使用することで非発酵ビールテイスト飲料の味質は大きく変化しない。
【0034】
2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジンと2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンとは互変異性体である。従って、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジンを、甘味料を含む非発酵ビールテイスト飲料に添加した場合、該非発酵ビールテイスト飲料には、一般に、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及び2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンが両方とも含まれる。それらの存在比率は、周囲のpH環境等に依存して決定される。
【0035】
本明細書では、前記2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を、以下「ATHP」と記載することがある。ATHPは、香料として市販されているものを使用してよい。
【0036】
ATHPを非発酵ビールテイスト飲料に含ませることで、非発酵ビールテイスト飲料の飲用後に残る甘味が抑制され、ボディ感が強化される。ATHPの含有量は、対象とする甘味を抑制する非発酵ビールテイスト飲料の種類又は目標とする甘味レベルを考慮して適宜調節する。ATHPは、例えば、ATHPを含む香料を添加して非発酵ビールテイスト飲料に含ませることができる。
【0037】
一般には、ATHPは、非発酵ビールテイスト飲料のATHPの濃度が0.1~200μg/lになる量で、非発酵ビールテイスト飲料に含有させる。非発酵ビールテイスト飲料のATHPの濃度が0.1μg/l未満であると、飲用後に甘味を感じ易くなり、200μg/lを超えると、ATHP由来の香りが強くなり、全体の風味のバランスが悪くなる。飲用後甘味を抑制する効果は、ATHPの濃度を200μg/lを超えて増大させても大きく変化しない。また、ATHPの濃度が1ppmを超えて増大すると、非特許文献1に記載されている通り、加熱したパン様のオフフレーバーが感じられることがある。非発酵ビールテイスト飲料のATHP濃度は、好ましくは0.5~100μg/lであり、より好ましくは1.0~80μg/lであり、更に好ましくは4~50μg/lである。
【0038】
<非発酵ビールテイスト飲料>
ATHPを含ませる非発酵ビールテイスト飲料は、製造の過程に発酵を行っておらず、甘味料を含み、ビールを想起させる風味を示す飲料である。ATHPを含ませる非発酵ビールテイスト飲料の具体例には、例えば、アルコール飲料として、発泡酒、雑酒、リキュール類及びスピリッツ類が挙げられ、ノンアルコール飲料として、アルコール含有量が1.0体積%未満の低アルコール飲料及び炭酸飲料が挙げられる。ビールテイスト低アルコール飲料、及びビールテイスト炭酸飲料は、飲用時にアルコールによる刺激がないために、コク及びボディ感を感じにくい。そのため、これらは、ATHPを含有させる非発酵ビールテイスト飲料に適している。
【0039】
非発酵ビールテイスト飲料は、例えば、次の方法によって製造される。即ち、麦芽等のデンプン質原料を糖化して糖溶液を得る。糖溶液と、甘味料、香料、穀物エキス、食物繊維、苦味料、色素、ホップ等の副原料、及び要すればアルコールとを混合して調合液を得る。糖溶液に、各原料を混合する順番は特に限定されるものではない。次いで、調合液に炭酸ガスを添加する。炭酸ガスの添加は、常法により行うことができる。例えば、調合工程により得られた調合液、及び炭酸水を混合してよく、調合工程により得られた調合液に炭酸ガスを直接加えて溶け込ませてもよい。
【0040】
糖溶液は、必要に応じて麦芽等の粉砕物等と、必要に応じて、麦、米、コーンスターチ等のデンプン質原料に温水を加えて混合・加温し、主に麦芽の酵素を利用してデンプン質を好ましくは麦芽糖等に糖化させて製造する。麦芽の粉砕物、麦、米やコーンスターチ等のデンプン質等の原料は、従来のビールテイスト飲料を製造する場合に、通常用いられるものを、通常用いられる量で用いればよい。
【0041】
麦芽を含むデンプン質原料の糖溶液は、青臭い不快臭を示すことがある。そのため、固形デンプン質原料の全量に対する麦芽の使用比率が66質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましく、麦芽を原料として使用していないことが特に好ましい。なお、麦芽使用比率は、酒税法の規定に則り測定される。麦芽以外のデンプン質原料から糖溶液を調製する場合、デンプン質原料に温水を加えた後、アミラーゼを含む組成物を添加することが好ましい。
【0042】
麦芽を使用しないか、25質量%未満の麦芽使用比率を有する非発酵ビール様飲料の具体例として、低糖質発泡酒等の低糖質ビールテイスト飲料がある。例えば、非発酵低糖質ビールテイスト飲料を製造する等の場合には、糖溶液を使用せず、その代わりに原料水を使用して調合液を製造してもよい。
【0043】
非発酵ビールテイスト飲料にATHPを添加する場合、そのタイミングに制限はなく、非発酵ビールテイスト飲料の製造方法における適当な工程で添加することができる。ただし、添加する工程が前工程であればあるほど、該化合物群の各成分の濃度の消長が考えられるため、後工程で添加することが望ましい。ATHPは、例えば、製造された非発酵ビールテイスト飲料に添加してもよい。
【0044】
ATHPを含ませる非発酵ビールテイスト飲料は、麦芽などに由来するATHPを含むものであってよい。麦芽を含む市販の非発酵ビールテイスト飲料の該化合物群の濃度は例えば3.0~4.0μg/lである。一方、麦芽を含まない非発酵ビールテイスト飲料の該化合物群の濃度は、例えば0.5μg/l以下である。
【0045】
以下の実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0046】
<実施例1>
非発酵ビールテイスト飲料1(アサヒビール社製「スタイルフリーパーフェクト」(商品名)、アルコール度数:6%、甘味度:0、ATHP濃度:0.0μg/l)を準備した。非発酵ビールテイスト飲料1の甘味度及びATHP濃度の決定方法は次の通りである。
【0047】
<甘味料分析法>
ビールテイスト飲料を蒸留水を用いて20倍に希釈し、LC/MS/MSにて分析した。LC/MS/MS(AB-SCIEX社製3200QTRAP)を使用し、カラムはACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1×100mm(waters)を用いて分離した。移動相条件はA液:0.1%ギ酸水、B液:0.1%ギ酸アセトニトリルにて、(B%,t):(10%、8min)、(28%、11min)、(70%、18min)で、アセスルファムKのトラジションは162→82(コリジョンエナジー:-18V)、スクラロース395→359(コリジョンエナジー:-20(V))、アスパルテーム293→261(コリジョンエナジー:-16(V))の条件で分析した。標準品を添加して作成した検量線を使用して定量を行って、各甘味成分の濃度(mg/l)と公知の甘味度の値の積の総和として、甘味度を算出した。
【0048】
<ATHP分析法>
20gのビールテイスト飲料に50μLの内部標準溶液(4μg/mLのATHP安定同位体)及び、200μLのギ酸及び10mLの蒸留水を加え、OASIS MCX 500mg/6ml(Waters)へ負荷した。
5mLの1%ギ酸水で、カラムを洗浄後、5mLの2%アンモニア-メタノールで溶出し、溶出液を蒸留水で2倍希釈したのち、LC/MS/MSにて分析した。
【0049】
LC/MS/MS(AB-SCIEX社製5500QTRAP)を使用し、カラムはACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1×100mm(waters)を用いて分離した。移動相条件はA液:10mM炭酸水素アンモニウム、B液:アセトニトリルにて、(B%,t):(10%、1min)、(50%、6min)、ATHPのトラジションは126→84(コリジョンエナジー:23V)として分析した。定量は、標準品を添加して作成した検量線を使用して行った。
【0050】
非発酵ビールテイスト飲料1に対してアセスルファムK(キリン協和フーズ(株)製「サネット」、甘味度:200)及びATHPを添加して、これらの含有量を変化させた。添加後の飲料の甘味度は、添加したアセスルファムKの量を濃度(mg/l)に換算し、この濃度にアセスルファムKの甘味度である200を乗じた値を、非発酵ビールテイスト飲料1の甘味度に加えることで決定した。添加後の飲料のATHP濃度は、添加したATHPの量を濃度(μg/l)に換算し、この濃度を、非発酵ビールテイスト飲料1のATHP濃度に加えることで決定した。
【0051】
次いで、製造した非発酵ビールテイスト飲料の官能評価を行った。評価項目は、飲料後甘味の抑制、及びボディ感の強化とした。3名のビール類の専門評価者が各非発酵ビールテイスト飲料を試飲し、以下の評価基準に基づいて採点した。3名の評価者の官能評点の平均値を評価点とした。評価結果を表2及び表3に示す。
【0052】
評価基準:飲料後甘味の抑制
評点
1 :感じない(対照と差なし)
2 :やや効果を感じる
3 :効果を感じる
4 :やや強く効果を感じる
5 :強く効果を感じる
6 :とても強く効果を感じる
7 :非常に強く効果を感じる
【0053】
【0054】
表2の評価結果から、甘味度が3~15の試料において、ATHP濃度が0.1μg/l以上、特に0.5μg/l以上である場合に、飲料後甘味が抑制されることが理解される。
【0055】
評価基準:ボディ感の強化
評点
1 :非常に弱い
7 :非常に強い
【0056】
【0057】
表3の評価結果から、甘味度が3~15の試料において、ATHP濃度が0.1μg/l以上、特に0.5μg/l以上である場合に、ボディ感が強化されることが理解される。
【0058】
<実施例2>
甘味料として、アセスルファムKの代わりにステビア(守田化学工業(株)製「レバウディオJ-100」、甘味度:360)を使用すること以外は実施例1と同様にして、非発酵ビールテイスト飲料を製造し、甘味度及びATHP濃度を決定し、官能評価を行った。その結果を表4及び表5にそれぞれ示す。
【0059】
【0060】
表4の評価結果から、甘味度が3~15の試料において、ATHP濃度が0.1μg/l以上、特に0.5μg/l以上である場合に、飲料後甘味が抑制されることが理解される。
【0061】
【0062】
表5の評価結果から、甘味度が3~15の試料において、ATHP濃度が0.1μg/l以上、特に0.5μg/l以上である場合に、ボディ感が強化されることが理解される。
【0063】
<実施例3>
甘味料として、アセスルファムKの代わりにショ糖(甘味度:1)を使用すること以外は実施例1と同様にして、非発酵ビールテイスト飲料を製造し、甘味度及びATHP濃度を決定し、官能評価を行った。その結果を表6及び表7にそれぞれ示す。
【0064】
【0065】
表6の評価結果から、甘味度が3~15の試料において、ATHP濃度が0.1μg/l以上、特に0.5μg/l以上である場合に、飲料後甘味が抑制されることが理解される。
【0066】
【0067】
表7の評価結果から、甘味度が3~15の試料において、ATHP濃度が0.1μg/l以上、特に0.5μg/l以上である場合に、ボディ感が強化されることが理解される。
【0068】
<実施例4>
甘味料として、アセスルファムKの代わりにグリシン(味の素ヘルシーサプライ(株)製「AHSグリシンRC」、甘味度0.9)を使用すること以外は実施例1と同様にして、非発酵ビールテイスト飲料を製造し、甘味度及びATHP濃度を決定し、官能評価を行った。その結果を表8及び表9にそれぞれ示す。
【0069】
【0070】
表8の評価結果から、甘味度が3~15の試料において、ATHP濃度が0.1μg/l以上、特に0.5μg/l以上である場合に、飲料後甘味が抑制されることが理解される。
【0071】
【0072】
表11の評価結果から、甘味度が3~15の試料において、ATHP濃度が0.1μg/l以上、特に0.5μg/l以上である場合に、ボディ感が強化されることが理解される。
【0073】
<実施例4>
非発酵ビールテイスト飲料2(アサヒビール社製「ドライゼロ」(商品名)、アルコール度数:0.00%、甘味度:5.9、ATHP濃度:0.0μg/l)を準備した。非発酵ビールテイスト飲料1の代わりに非発酵ビールテイスト飲料2を使用すること以外は実施例1と同様にして、非発酵ビールテイスト飲料を製造し、甘味度及びATHP濃度を決定し、官能評価を行った。その結果を表10及び表11にそれぞれ示す。
【0074】
【0075】
表10の評価結果から、甘味度が7~15の試料において、ATHP濃度が0.1μg/l以上、特に0.5μg/l以上である場合に、飲料後甘味が抑制されることが理解される。
【0076】
【0077】
表11の評価結果から、甘味度が7~15の試料において、ATHP濃度が0.1μg/l以上、特に0.5μg/l以上である場合に、ボディ感が強化されることが理解される。